【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】


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【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】

1: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/06 11:49 ID:E1USl4sQ
ということで別スレ建てさせてもらいました。
1部の24章までは以下のURLよりご覧いただけます。
http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1100605267/7-106

何かご意見がございましたらその都度レスしていただけると幸いです。
まだ書き手としては本当に初心者なので、ご指摘は特にありがたくい頂戴したいと思います。

〜今までのあらすじ〜
ベルン動乱から4年、平和に向かって歩んでいたエレブ大陸で再びベルンが戦争を起こす。
その首謀者は女王ギネヴィア。兄ゼフィールの意志を継ぎ、世界を統合しようと企む。
その過程でロイの恋人シャニーがロイをかばって事実上戦死するが、竜族伝説の聖王ナーガの力によって復活を遂げる。
そしてエレブ大陸とどこかで繋がるという、別世界から来た神竜族クリスによって衝撃の事実を告げられる。
ギネヴィアは『ハーフ』と呼ばれる人間と竜族の混血の種族の一人に体を奪われている、と。その乗り移った目的はエレブ大陸の支配。
彼らは別世界では迫害され、こちらの世界に自分達の国を作ろうと乗り込んできたのであった。
ロイ達は大陸内で唯一ベルンの侵攻のないナバタの里から、エトルリア、イリアへと進軍していくのであった。


138: 手強い名無しさん:05/11/14 17:27 ID:E1USl4sQ
エトルリア終了・・・。
長い・・・長すぎる。
書いてて思うにやっとエトルリアかよ! って感じです。

こんな感じですが生暖かく見守ってもらえればと思います。
 

139: 第十五章:種族を超えて:05/11/20 23:45 ID:9sML7BIs
あたしを呼ぶ声がする・・・。この声は・・・母さん? いや・・・母さんはとっくに死んでるんだ。
じゃあ、この声は・・・? 声が次第に近くなってきて、あたしは目が覚めた。
「う・・・ん? ふあぁ〜 よく寝た。」
起きた部屋は見慣れない大きな部屋。しっかりとした石造りに様々な調度品が置かれている。・・・どこかのお城?
「やっと目を覚ましたか。」
その声にあたしは振り向いた。その先にはナーティが居た。シャツにズボンという服装の下に包帯が見える。こういう格好をしてれば、ナーティも案外普通の女性だ。
「あ、ナーティ、おはよ。」
「おはようではないだろう。全く・・・ほとほと手が焼ける主だ。」
ナーティはそういうと窓のほうを向いてしまった。相変わらず無愛想なヤツ・・・。そう思って外を眺めてみると、外には人が一杯居た。
そういえば自分にはリゲルに吹っ飛ばされた後の記憶がない・・・。あの後どうなっちゃったんだろうか・・・そう考えていると親父が飛び込んできた。
「セレナ! あぁ・・・無事でよかった・・・。」
アレンがセレナの包帯を取り替えながら言う。よく見ると全身怪我だらけだ。・・・ってそれを見た途端、体が痛くなってきた・・・。
「いたたたたっ、親父、もっと優しく巻いてよ!」
「無茶をするからこうなるんだ。」
親父はそういいながらきつく包帯を巻く。それにしてもここはどこなんだろう。あの戦いはどうなったんだろう。
「なぁ親父、ここはどこ? リゲルは、総督府はどうなったの?」
「お前は・・・記憶がないのか?」
アレンは驚いたように答えた。あれだけ大暴れして全く記憶がないとは信じられなかった。
「記憶がなくても仕方ないだろう。あの時セレナは完全に力の暴走を起こしていた。そうなればセレナはただの操り人形だ。本人の意志はその力によって封じられていたのだろう。」
「えぇ?! それ、どういうこと?」
セレナが驚いて聞いた。また自分は暴走していたのか・・・自分の知らぬ間に。アレン達はセレナに事の次第をすべて話してやった。
「そんな・・・。」
「信じられないかもしれないが、本当の話だ。でも、セレナとセレス様のおかげで我々はリゲルを倒すことが出来た。それに変わりはない。」
アレンが何とかセレナを励まそうとする。しかし、セレナはショックを受けていた。自分がそんな風になってしまうなんて・・・自分で自分が怖くなってきた。ナーティも続ける。
「そうだな・・・お前は強くなってはいる。しかし、まだまだ力不足だ。もっと努力をしないとな。そのためなら私も協力しよう。」
「うん・・・ありがとう。ところで、ここはどこ?」
「ここは旧エトルリア総督府の中だ。ベルン兵は皆投降した。今は市街戦で難民化した人たちが多く集まってきている。」
そうである。リゲルは市街地に向けて、容赦なくアーチによる遠距離砲を雨のように注いだ。町は当然火の海と化し、難民が続出した。今はパーシバルを中心にして統治機構の再建を目指していた。ハーフとの溝は深いが、反乱軍側に居たハーフなども皆を粘り強く説得していた。
その様子を見ていると、シーナやクラウドが飛び込んできた。
「姉ちゃん! よかった、元に戻ってる。」
「ホントだ。ったく世話の焼ける妹だぜ。あの時のセレナは天使というより悪魔に見えたぜ、マジで。」
兄妹達の言葉にやはり自分が暴走していたんだと改めて思った。天使というより悪魔・・・自分が何をしていたか覚えがないから怖かった。
「そんな顔をするな。自分の未熟さを悔やむなら、しっかり精進しろ。怪我を治してからな。」
そういうとナーティは外に出て行ってしまった。冷たいけど、本当の事だ。もっと強くならなくちゃ・・・剣も心も。そうじゃなきゃ・・・夢みたいに・・・。
「何だよあいつ。相変わらず冷たいヤツ。」
クラウドがナーティを罵った。セレナがこんな辛い思いをしている時ぐらい、もうちょっと温かい声をかけてやってもいいのに。
「そう言うな。ナーティ殿はセレナが眠っている間、食事もろくに取らずに、夜通し看病してくれていたんだ。あれがきっと、精一杯の温かい言葉なんだよ。」


140: 手強い名無しさん:05/11/20 23:45 ID:9sML7BIs
「え!? ・・・あいつが?」
アレンの言葉にセレナは驚いた。あいつが・・・あたしの事をそんなに心配してくれていたなんて思わなかった。厳しくて、冷たくて、いつも突き放すような態度のあいつが・・・。
「よし、もう大丈夫。寝てられないよ。」
そう言ってセレナが起き上がろうとする。みんなが自分を心配してくれている。もうこれ以上余計な心配はかけられない。
「姉ちゃん! ダメだよ、寝てなきゃ。」
無理をする姉をシーナが無理矢理寝かせつける。シーナには分かっていた。姉が無理をしていることが。自分が姉を助けてやると誓ったのに、また暴走させてしまった。シーナも責任を感じていた。そこへ、パーシバルとセレスが入ってきた。
「お目覚めか、姫。」
「あ、将軍。迷惑かけてごめんなさい。」
「何を言う。貴方のおかげで我らは勝利をすることが出来た。こちらこそ貴女に無理な負担をかけさせ、すまないと思っている。」
「あたし、まだまだ未熟なんだ。だから自分の力を制御できない・・・。もっと、もっと強くならないと。」
「そうだな・・・。世界中が、貴女の救いの手を待っている。その全ての声に応えるには、あなたまだまだ幼く、そして未熟だ。」
「うん・・・。あたし・・・自信がなくなってきたよ。」
「しかし、貴女には世界を救うだけの力があることは、今回の事で分かったはず。あとはその力を自由に制御できるように精進すればよろしいのだ。」
パーシバルはセレナを励ました。かつて、セレナの母、シャニーを対してそうしたように。セレスも何とか従兄妹を励まそうとした。
「そうですよ。僕もセレナの力には驚きました。それに・・・セレナには人をひきつける笑顔がある。そんなしょぼくれた顔を誰も期待してはいませんよ?」
皆が見たいのは、セレナの笑顔。セレナの笑顔はどんなに辛い時でも周りを明るくする。太陽のような・・・ひまわりのような、そんな存在だ。
「うん、ありがとう。あたしもっとがんばるよ。らしくなかったかな!」
そういいながらにこっと皆に笑顔を見せた。常に笑顔でいることは早々簡単に出来る事ではない。心の強さも、大切な武器だ。パーシバルは自分にも言い聞かせるように思っていた。
「さて、怪我が癒えたら、すぐにエトルリアを発つのだろう?」
パーシバルがセレナ達に聞く。世界中が救いを求めている。長居はしていられない。
「うん。すぐにでも出発したいけど・・・こんな体じゃ足手まといだよね。アリスの姉貴に治療してもらったら、すぐに出発するよ。」
「アリス様は今我々の手伝いをなさっていただいていてきっと疲れているだろう。あなたもゆっくり怪我を治すといい。」
アリスはパーシバル達と難民への対応をしていた。きっと祖国でも同じ事をすることになるに違いなかったから、ここで経験をつんでおこうと考えたようだ。更にパーシバルが続ける。
「旅に出るなら、セレスも一緒に連れて行ってはもらえないだろうか?」
この言葉にセレスは驚いた。今まで何も知らされていなかったからである。
「え!? しかし、それではパーシバル様が・・・。」
「お前はまだ若い。将来のエトルリアを担う為にも、世界を回って色々なものを見て勉強してくるのだ。それに・・・姫たちはフォルブレイズを必要としている。・・・お前を必要としているのだ。」
「セレスも来てくれるの! わぁ、凄い頼りになりそうだ! よろしくね。」
セレナがセレスに笑顔で声をかけた。セレスはこの笑顔に弱かった。嫌と言えなくなる・・・。
「パーシバル様がそこまで仰るなら仕方ないでしょう。僕も及ばずながら、力になろう。まぁ、そこの見習い騎士よりは活躍してみせるよ。」
セレスがクラウドのほうを見ながら言った。その途端やはり頭に血が上るクラウド。
「なんだとっ! お前こそ見てろ! 吠え面かかせてやる!」
そういうクラウドに拳骨をしながらアレンが言った。
「バカモノ! セレス様はリグレ侯爵家の正当な跡継ぎ様であらせられるぞ。そのような口の聞き方があるか! 申し訳ありません、セレス様。」
「いや、いいんですよ。そいつとは気が合うし、アレンさんも呼び捨てで構いません。僕のほうが年下ですし。」


141: 手強い名無しさん:05/11/20 23:46 ID:9sML7BIs
「しかし・・・。」
「親父、こいつがいいって言ってるんだからいいじゃねーか。俺もこいつに様なんかつけたくねーし。」
「クラウド!」
アレンがもう一発、クラウドに拳骨を食らわす。
「はは、僕もお前に様なんか付けて欲しくなよ。どちらが上か、早速模擬戦でもしようじゃないか。」
「望むところだ!」
二人は部屋を走り去って言った。そんな様子をパーシバルが見届ける。
「ふふ、セレスも同年代の友達がいなかったから寂しかったんですよ。さて、あまりここに長居しては姫の怪我に障る。我々も外に出ておきましょうか。」
一行がセレナを残し、部屋から出て行く。シーナは皆が言ったところを見計らい、姉に言った。
「ごめんね、姉ちゃん。」
「何が? まさかあんたあたしの分のご飯まで食べちゃったの?」
「あのねぇ・・・姉ちゃんじゃあるまいし。・・・戦場でまた姉ちゃんを暴走させちゃってゴメン。私が、双子の妹の私がもっと姉ちゃんを助けてあげれていれば、きっと・・・。」
そこまでシーナが言ったところでセレナはシーナの口を手で塞いだ。
「それは違うよ。あんたはバッチシがんばってたじゃん。これはあたしの問題だよ。どれだけあんたがフォローしてくれても、結局あたし自信が強くならなきゃ意味がない。あんたなんでも自分のせいにしすぎだよ。ほら言うじゃん、泣きっ面に蜂って。」
「はぁ?」
「知らないの? くよくよしてると蜂に刺されて余計にネガティブになるの。だからあんたももう少し肩の荷を降ろして物事考えなよ。ね?」
また姉がにこっと笑った。こうされるとどうも怒るに怒れない。
「間違っているようなあっているような・・・とにかく、私もがんばる。だから姉ちゃんもがんばって。」
「おう! 任せとけ!」
姉のその言葉を聞いて、シーナは安心したような不安なような複雑な気持ちで部屋を出た。
・・・肩の荷を降ろさなきゃいけないのは姉ちゃんだよ・・・。わかってるんだぞ・・無理してるの。本当は泣きたいはずなのに笑って・・・。もっと姉を助けてやらないと・・・。シーナは槍を持ってアレンの所へ駆けて行った。
翌朝、早速パーシバル達にエトルリアを任せ、一行は出発した。その一行に、早速ナーティが言った。
「さて、エトルリアを離れる前に、まだ一つやらねばならんことが残っている。」
「? やらなくちゃいけないこと?」
セレナがねむい目をこすりながら相槌を打つ。
「そうだ。エトルリアはエリミーヌ教団の本拠地があった場所だ。今は思想統制のためにベルンに禁止にされているが、一昔前はエトルリアの国教として有名だった。」
「ふーん、そうなんだ。」
「そうだ。そして、聖母エリミーヌは八神将の一人。そのエリミーヌが陣流戦役で用いた光の超魔法を封じた書が、エトルリアの象徴とも言われたに収められている。」
「至高の光・・・アーリアルですね。」
セレスが答える。かつて聖女エリミーヌが用いた神将器。それを手に入れなければ封印の剣を手に入れることはできない。避けては通れない道だった。
「へぇ、神将器って一種類だけじゃなかったんだね。」
セレナがはじめて知ったというような口調で言ったのを聞いて、セレスとシーナが二人とも反応をした。
「そんなことどこの学問所でも教えられることだろう。 西方の教育レベルはどうなっているんだ・・・。」
「姉ちゃん! 学問所で習ったじゃない。神将器は剣、槍、斧、弓、理、闇、光、それぞれに存在しそれよりさらに強力な力を持つ魔剣こそが封印の剣だって! 西方の教育レベルじゃなくて、姉ちゃんの頭が悪いだけだよ、セレスさん・・・。」
「なんだよ! 二人してうるさいなー! そんなこと知らなくたって生きていけるだろ!?」
「・・・セレナ、知らなければならないことは山ほどありますよ。最低限の知識は必要です。よし、暇を縫って僕がいろいろ教えてあげましょう。」
セレスが従兄妹にそう言ったとたん、セレナがうえッというような顔をした。
「えー、勉強かよぉ・・・。」
そんな会話をアレンが笑いながら聞いていた。そして、荷物を纏めながら行った。
「よし、じゃあそろそろ出発しようか。」


142: 第十六章:聖女エミリーヌと至高の光アーリアル:05/11/20 23:47 ID:9sML7BIs
エトルリアは混乱を極めていたが、パーシバルたちの努力により、その混乱も収束に向かっていた。一行は一路聖女の塔へ向かう。聖女の塔はエトルリアの象徴といわれるだけあって金などの希少鉱石などがふんだんに使われた豪華なつくりで有名だった。しかし、一行が見たものは、荒れ果てた塔だった。時は、無残にもその華やかさを奪ってしまっていたのである。
「・・・・っ、これが聖女の塔・・・? そんな、バカな・・・。」
アレンが走り寄る。荒廃し、草が伸び放題だった。ベルンの支配下では、エリミーヌ教の教えは禁忌だった。迫害され、教会は徹底的に破壊された。それでも、各地に信者が多いという。
セレナ達も初めて見るその塔に、何かとても悲しい気分になった。神が祭られている場所がこんなに閑散とした寂しい場所だなんて・・・。人と交わる事を推奨するエリミーヌ教団の聖地が、が孤独に泣いていた。
「・・・これがベルンのやり方だ。服従には恐怖を、抵抗には死を・・・。 さぁ、感傷にふけっている場合ではないぞ。早くアーリアルを手に入れよう。」
ナーティがそう言いながら先陣を切る。みなもそれに続いた。中には人っ子一人見当たらず、まさに廃墟というにふさわしかった。一気に最上階まで昇りつめ、祭壇を探す。
見つけた祭壇もかなり放置されていたのか、ツルが巻いている。それらを払いのけると、アリスが祈りだす。アーリアルは・・・エリミーヌはまだここにいるのだろうか・・・?
しばらくすると、綺麗でそして透明な声が聞こえてきた・・・聖女エリミーヌだ。
「私に話しかける者、あなたは何者ですか?」
その言葉にアリスが率先して返した。
「私達一行は、現状の歪んだ世界を正すべく、旅をしています。そして、そのために貴女の力が必要なのです。どうか、貴女のお力添えを。」
「貴方たちが、アトスの言っていた炎の天使の一行ですね。話は聞いています。わかりました。では・・・。」
「本当ですか! ありがとうございます。」
一行が安堵の顔を見せた。が、そう簡単には行かなかった。そのままエリミーヌが続ける。
「では、質問をさせてもらいましょう。貴方達は何のために戦っているのですか?」
その質問に、セレナが答えた。
「決まってる。今の差別や迫害が当然とされる世界を変えるため。世界中の人々が、笑って暮らせる世界を作るため。」
「そうですか。私も、アトスやハルトムート等と共に、世界を変えるために戦いました。しかし、その結果ハーフの差別が始まってしまった・・・。これが何を意味しているかわかりますか?」
その質問に、セレナはどう答えればいいかわからなかった。それを悟ったのか、エリミーヌは続けた。
「正義とは、何を持って正義というか・・・。貴方たちも正義のために戦ってるのでしょう。しかし、その正義も、相手に正しくその意志が伝わらなければ悲劇を生みます。人は一人では何もできないのです。人と交わり、考えを広めていくことが大事なのです。そして、広めるだけではまだ足りないのです。どういうことか、分かりますね?」
セレナが今度はエリミーヌの顔を見て、その澄んだ瞳で答えた。
「考えを広めるだけじゃなくて、それを正しく理解してもらう必要があるんだよね。」
「そうです。思想とは、形のない脆いもの。間違って理解されてしまえば例えどんな聖徳でもその場で死んでしまいます。まして貴方達の理想は、今の世界を否定するほどのものです。正しく理解してもらう為には障害が多く、困難を極めるでしょう。精霊となってしまった今では私達に為す術はありません。貴方達の手で世界を住みよい、美しい笑顔で満たされるように変えてください・・・。」
そうエリミーヌが言い終わると、その姿は光に溶けていき、一冊の魔道書になった。これが、至高の光―アーリアル―である。
「エレブに再び光があらんことを・・・。」
どこからかエリミーヌの声が聞こえ、皆は目を開けた。いつの間にかアリスの手にアーリアルが握られていた。
「ふぅ・・・。何か・・・聖女様、凄い悲しそうな目をしていたね。」
シーナが言った。慈悲深く、全てを見通すようなそんな透き通った目をした聖女だった。だが、どこか悲しげであった。特にアリスには直接聖女と対話したのだからその事も、その理由も痛いほど分かった。
「自分達の掲げた理想が・・・後世に正しく伝わっていないからじゃないかしら・・・。」
「私もそう思う。自分達が命をかけてまで成し遂げようとした事が、後世で正しく理解されず、逆に戦乱の火種となれば・・・これほど悲しい事はない。」
ナーティも続けた。このときアリスは思った。そういえば・・・エリミーヌ様のあの目と・・・ナーテ


143: 手強い名無しさん:05/11/20 23:47 ID:9sML7BIs
ィさんの目・・・どっちも悲しそうで・・・どこか似てる・・・。いえ、気のせいよね・・・。
「俺たちも、ロイ様の意志を今一度思い出し、正しく理解できているか確かめなければならないかもしれないな。」
アレンも主の意志を継ぐ思いでこのたびを続けているが、果たして自分は主の意志を正しく受け継げているのか・・・そう考えさせられた。
「さて、長居は無用だ。次の神将器をとりに行くとしようか。」
ナーティが足早に祭壇を後にする。それをアリスが小走りに追い、セレナ達が後に続く。
「ねぇ、ナーティさん。」
追いついたアリスがナーティに話しかける。
「うん? 何だ?」
「その・・・うまく言えないんですけど・・・ナーティさん、結構過去に辛い思いをしているみたいですね。」
「・・・何故そう思う?」
「いえ・・・何となく。エリミーヌ様と同じような悲しそうで透き通った目をなさっていますから・・・。」
「ふっ・・・私が聖女と同じか。面白い事を言うな。過去に何があろうと、私は私だ。」
「そ、そうですね・・・。でも・・・辛い事があったら、なんでも相談してくださいね。私達、仲間なんですから・・・。」
「ありがとう。その気持ちはありがたくいただいておく。」
二人で話しているとセレナ達が追いついてきた。アーリアルに若者達は興味深々だ。
「姉貴ー、独り占めしてないで見せてくれよぉ、おお! これがアーリアルかぁ! 使ったら眩しいんだろうな! なんてったって至高の光だもんな!」
クラウドが興奮気味に話す。セレスも魔道書を手にとってみる。
「バカは放って置いて・・・なるほど・・・凄まじい力を感じますね。僕には扱えそうにないですが・・・。」
「バカとは何だよバカとは!」
「言葉の通りです。」
「なんだとっ」
二人のいつもどおりのコントが始まった・・・。その向こうでは双子がアーリアルを手に取っている。
「へー。これがアーリアルかぁ。使ったら眩しいんだろうね!」
「うんうん。なんたって至高の光だもんね!」
それを聞いてセレスは閉口してしまう。クラウドも笑いながら言ってやる。
「なぁ、あの二人にもバカって言うのか?お前」
「ふ、ふん。お前の騒ぎっぷりがバカというだけの話だ。」
そんな若者達から離れ、ナーティは聖女の塔最上階からエトルリアの景色を望む。綺麗だ。この下で醜い差別が行われていたとは信じられない・・・見せかけの平和か・・・。結局、昔も今も変わらないと言うわけか。それにしても・・・私は私・・・か。ふ、自分の言った言葉ながら腹が立つな・・・。自らを貫き通せなかった私が言える台詞か・・・。
アレンも同じように景色を見ていた。エトルリア・・・クリスに愛を誓った場所だ・・・。戦乱が終ったら幸せにして見せるといった場所。そのクリスを幸せにしてやる事も出来ないまま、結婚も出来ないまま、彼女は死んだ・・・。クリス・・・今でもすまないと思っている。だが、俺は君の遺志を忘れてはいない。君も皆が平和に暮らせる世界を望んだ。俺は今そのために戦っている。俺が君のところに行くのは、俺たちの意志を貫き通した時だ。・・・もう少し待っていてくれ・・・。
「親父? どうしたんだよ。」
いつのまにかクラウドが横にいた。びっくりするアレン。
「うわ、・・・なんだお前か。いや、エトルリアは俺が母さんにプロポーズした場所なんだ。それを思い出していた。」
「へぇ・・・。」
今でも情景が浮かんでくる。あれは・・・シャニーを無理矢理手合わせにつき合わせたときだったか・・・。
「うおっ?!」
「だらしないなぁ・・・。何度やったってアレンじゃあたしにゃ敵わないって。あたしだって一応イリア王宮騎士団の団長で、蒼髪の天使って通り名を貰ってるんだから、やられてちゃ名が廃るよ。」
「俺とてフェレ騎士団の副団長だった男だ。負けたままではおれん! もう一度勝負だ!」
「えー! まだやるの!? もう何十回目だと思ってるのサー、疲れたよ〜。ぶーぶー。」
文句を言うシャニーにまた槍を振り向ける。近づく間もなく魔法で吹き飛ばされる、やっと近づいたかと思えば今度は剣で刻まれる。


144: 手強い名無しさん:05/11/20 23:49 ID:9sML7BIs
「ぬぉぉぉぉおっ、このままでは引き下がれん!」
「はぁ・・・。あたしだってロイとデートしたいのに・・・。」
そこにクリスが来て、シャニーの変わりに手合わせをしていたか・・・。
「まったく、あんたも飽きない男だね。」
二人で武術の稽古もしたし、寝食も共にした。あの戦乱の中で一番心を許した戦友だった。それが恋人に発展し・・・家族も持った・・・これからというところだった・・・。
「感傷に浸っている場合じゃないな。よし、クラウド、今日はこのままエトルリア郊外で野宿だ。そのときはたっぷり絞るから覚悟して置けよ!」
「えー!?」
そういうとアレンは塔を降りるべき歩き出した。俺はたくさんの人の意志を背負っている。その人たちのためにも、セレナ達を助けてフェレを復興する。クリス・・・俺はこの命尽きるまで、お前の分までがんばって見せるぞ。


145: 手強い名無しさん:05/11/20 23:50 ID:9sML7BIs
その夜、アクレイアから南東に位置する郊外で野宿することになった。周りは敵だらけなのだから警戒しなければならなかったが、皆はこの時ばかりは寛いでいた。まだエトルリア領内だからである。ベルン兵は皆投降し、一時的に戦乱は収束していた。
「ちょっと! クラウドとかさぁ、練習ばっかりしてないでご飯作るの手伝ってよ!」
セレナが包丁を握りながら怒鳴る。エプロンに包丁姿の時はやはり女の子に見えるものだなぁと、セレスも感心してしまう。
「姉ちゃん、私も手伝うよ。」
「え!?・・・あんたはいいよ、皿洗いとかお願い。」
妹の申し出をセレナは即座に断った。・・・妹に料理をさせたらこちらが死んでしまう・・・。
「ぶー、やらなきゃうまくならないじゃない! 私も手伝うからね!」
強引に姉から包丁を取り上げ、ニンジンを切ってみせる。・・・危なっかしい。
「あー!危ないって! って、こら!何でそんなに砂糖を入れるのよ!」
双子の元気な声が聞こえてくる。セレスもそれを見て助けてやりたくなった。パーシバルと一緒にいたころは、よく食事を作っていた。・・・ララムに作らせるととんでもない事になるからだ。
「セレナ、シーナ。僕も手伝いますよ。僕も料理はそれなりに経験していますから。」
「お、助かる!」
それ見ていたクラウドは練習をやめて直ぐに飛んできた。
「俺も手伝う!」
さっきまで見向きもしなかったのに、やたら向きになって手伝い始める。
「クラウド、どうしたんだ急に。」
不思議がるセレスにクラウドが顔を近づけていった。
「お前だけにカッコイイ思いはさせん!」
セレスは何となくクラウドの意図を把握したが、結果は正反対だった。
「わぁ、兄貴! そんな汚い手で野菜を触らないでよ!」
「す、すまん。」
セレナに邪険され、シーナもクラウドも追い出されてしまった。
「何だよ、俺がせっかく手伝ってやるって言ってるのに。」
「私だって料理の練習したいのに!」
セレスが妹と笑いながら料理をしている。クラウドには何かそれが許せなかった。許せなかったというより、何か悔しかった。そんな息子の思いを知ってか知らずか、アレンが寄ってきた。
「クラウド、稽古を途中で放り出すとは何事だ。セレナにカッコいいところを見せたければ、戦場で活躍して見せろ。」
そういわれて躍起になったクラウドはシーナもつれて練習に励む。騎乗する動物は違っても、同じ槍使いだ。互いに色々勉強するところはある。戦場でも、突っ込むクラウドをよくシーナは止めたりしていた。
一方料理のほうはアリスやナーティも加わっていた。
アリスはスープを煮込んでいる。孤児院でよくバアトルの手伝いをしていたから味付けに離れていた。イリアでよく食べられる、肉入りの辛味スープだ。
「ほう、なかなかいい包丁さばきだな。」
ナーティがセレナの包丁捌きを見て感心した。セレナも妹に苦手の掃除を任せ、料理を手伝う事が多かった。
「へへ! どんなもんだ。 ナーティは剣の腕は凄いけど、料理はからっきしだったりねー。」
そういってナーティをからかってみせる。料理ならこいつにだって負けないと思ったようだ。
「ふ、私も一人旅をしていたのだぞ? 傭兵で料理をこなせなかったらどう食い繋いでいくんだ。・・・貸してみろ。」
セレナはニヤリとした。包丁を渡し、後ろからエプロンをまきつけてやる。そして、正面からそれを見た。
「うはは! やっぱりナーティも女の人だね!」
セレナは前の侍女服を着ていたとき、意外と似合っていたのを覚えていたのだ。きつい性格だけど意外とこういう家庭的な服装が似合う。
「当たり前だ! それにお前にその台詞を言われたくなかったな。お前こそやはり少女だな。」
ナーティもやけにムキになって言い返した。それ以上に熱くなるセレナ。
「な! どーゆー意味よ!」
セレナがナーティの包丁捌きを見る。かなり手馴れているようだった。
「むー、ナーティもなかなかやるな・・・キャベツの千切りで勝負だ!」


146: 手強い名無しさん:05/11/20 23:51 ID:9sML7BIs
その後、夕飯にはおかずが隠れるほどのキャベツの千切りが皿に盛られることになる。更に、まだあっちのまな板の上にはたんまり千切りが積んであった。
「なぁ・・・今日はやたらキャベツな夕飯だな・・・。」
あのあと、二人ともやたらムキになって競争してしまったらしい。皆無言で山盛りのキャベツを頬張る。
「すまない・・・私としたことが、ついセレナの口車に乗ってしまった。」
「へぇ、ナーティさんが熱くなるなんて珍しいですね。」
アリスもキャベツを食べながら言う。千切りキャベツはかさばり、予想以上に腹が膨れた。
「ナーティって意外と熱くなるよ。シーナみたい。クールを装ってるけど、実は熱血女なのかも!」
セレナが笑いながら言う。・・・誰のせいでこうなったと思ってるんだとシーナは言いたげだった。こんなにキャベツを食べたのは久しぶりだが、もう暫くキャベツは食べたくないと皆は思った。

第十七章:勇者ローランと烈火の剣デュランダル

翌朝、一行は準備を終えると早速次の目的地を目指す。
「さぁて、昨日のキャベツのおかげでお腹もすっきりだ。 次はイリアかな?」
セレナが伸びをしながら次の目的地を模索する。エトルリアに隣接しているのはリキアとイリアである。
しかし、リキアはベルン五大牙の筆頭、グレゴリオ大将軍が駐留していると聞く。いきなりそんな名将を相手には出来ない。まずはイリアを攻略するべきだった。
「次に向かうはイリアだな。だが・・・その前に行くべき所がある。烈火の剣・・・別名デュランダルの眠るオスティア郊外だ。」
アレンはナーティの言葉に驚いた。確かに神将器を得るには最短ルートだが、オスティアはリキア一の都市で、グレゴリオが駐留する本拠地でもある。
「ナーティ殿。それは少々無理があるのでは?」
「無理も何も、神将器がなければ我々に勝ち目はないのだ。選択の余地はないだろう。それに、あそこなら人気も少ないから気付かれないだろう。問題はあそこに賊が巣食っていないかということだ。」
「ふむ・・・確かにあそこはベルン動乱時も賊が巣食っていた覚えがありますね・・・」
そんな二人の会話をセレナは屈伸をしながら聞いていた。
「ごちゃごちゃ言ってないで行こう。神将器が必要ならそれをとりに行くだけさ。邪魔するヤツは倒すのみサ。」
「そうだそうだ。邪魔するヤツはがつーんとやっつけちまおうぜ!」
クラウドもセレナに同調して、二人で歩みだす。性格が似ているためか、いつも二人は同じような考えだった。そんな二人にセレスは呆れながら付いていく。
「やれやれ・・・未開の野蛮人みたいな考えですね・・・。」


147: 手強い名無しさん:05/11/20 23:52 ID:9sML7BIs
「・・・差別を差別で返すのでは・・・何も生まぬ・・・。 差別されたからこそ、その苦しみを他の種族に与えてはならんのじゃ・・・。」
部下は黙って聞いていた。確かに人間族や竜族は憎い。だが、グレゴリオの言う事も否定しがたい事実だった。
「ふぅ・・年をとると愚痴っぽくなって困るわい。 ところで、反乱軍一行はしっかり進軍しておるかの。」
「は、情報によるとフォルブレイズとアーリアルを入手し、エトルリアを発ったようです。」
「ふむ・・・がんばるの。あいつら考え方には好感が持てる・・・。じゃが・・・ワシはメリアレーゼ様に忠誠を誓う騎士。敵には変わらぬ・・・。」
グレゴリオはそんな独り言を漏らしながら一路リキアへの帰路に着いた。

セレナ一行は、山間部からリキア領内に侵入していた。リキアは騎馬兵と重騎士の国。山間部までは深入りできないだろうと考えたのだ。
足元が悪い中、シーナは姉が何か考えながら歩いているのに気付いた。
「姉ちゃん・・・?どうかしたの?」
「え? いやぁちょっとさ・・・うわっ。」
セレナがつるに足を引っ掛けて転んだ。こんな山道で余所見をしながら歩いていれば、転ぶのも当然だ。
「大丈夫か? 全くおっちょこちょいだな。」
アレンが手を取って起き上がらせる。お尻が真っ黒だ。
「あはは、姉ちゃんらしいね。ところで、何を考えていたの?」
シーナが改めて聞きなおす。姉が黙り込んでいるなんて寝ているか考えているかのどちらかしかない。
「いや・・・リゲルのヤツが、母を奪ったって言ってたから・・・。」
「そのことで悩んでいるのか?」
ナーティが会話に入り込んでくる。きっとまた雑念を起こしているに違いない。将にとってそれは致命傷にもなりかねない。心の隙は戦場で露骨に表れる。
「うん・・・。やっぱり、リゲルも差別されて心が歪んじゃった人なのかな、と。」
「リゲルは幼いころ、人間によって母を殺されていたのだ。リゲル自身は至って普通の性格だったらしいが、その事実と、周りの教育によってその性格が豹変したらしい。」
「そんな! じゃあ、リゲルも・・・。」
セレナがやはりと言いたげな表情で返す。しかし、ナーティは冷たく言い放った。
「そうだ、ヤツも差別の被害者だ。だが、差別されからといって差別し返し、人道に反する行為を行ってよいというわけではない。」
「うん・・・。」
「ヤツは非道な圧制者であったことに変わりはなく、我々に同情する余地はない。これは戦争なんだ。そんな甘ったるい考えで世界を変えられると思っているのか!」
ナーティは何故かいつも以上に厳しい口調で叱った。セレナにはその理由が分かっていた。それだけ、世界を変えるという事は、心を鬼にして事実と向き合わねばならないということだった。
「そうだね・・・悪かったよ。リゲルみたいな人をこれ以上増やさない為にも、あたし達はがんばらないとね。」
そのセレナの言葉を聞き、ナーティも何時もの口調に戻った。と、言っても相変わらずだが。
「そうだ、それでいい。お前の考えは、お前だけのものではないのだ。お前の心の隙は、軍全体の隙になる。覚えておけ。」
アレンはどこかで聞いたような言葉だと思ってふと考えてみる。・・・そうだ、シャニー様がディーク殿に散々言われていた言葉だ。やはりセレナ様もシャニー様の子なんだなぁと何か歓心にも似た感情がこみ上げた。
そんな会話をしていると、目の前に大きな洞窟が広がっているのが見えてきた。アレンには見覚えのある場所だった。
「ねぇねぇ、洞窟ってあれの事かな。」
シーナが天馬で上空から見つけたらしい。一行もそれを暫くして見つけた。
「そうだな。あそこがデュランダルの眠る洞窟だ。さぁ、行こうか。」
アレンがそう言い、中に入ろうとしたそのときだった。
「待て!」
その声と同時にアレンの足元に手槍が突き刺さった。
「?! 何奴!」
どこかで聞いた覚えのある声だとセレナ達は思った。しかし、それが誰かを思い出そうとする必要はなかった。その前にその人物が現れたからである。


148: 手強い名無しさん:05/11/20 23:53 ID:9sML7BIs
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。


149: 手強い名無しさん:05/11/20 23:55 ID:9sML7BIs
あれ・・・またコピペミスってしまったようです>>148は、無視してくださいorz


150: 手強い名無しさん:05/11/20 23:56 ID:9sML7BIs
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。
「私こそこの前のようには行かぬ。今度こそ精霊術師をこちらに渡してもらう!」
周りにはミレディのほかにその仲間と思しき連中が結構な数いる。・・・よく見れば囲まれていた。
セレナ達は剣を抜き、応戦態勢をとる。だが、ここは山中。足場は悪く不利な状況だ。
「また来たか。主から見放された哀れな竜騎士よ。」
「黙れ! 私はギネヴィア様の遺志を継いでいる! 世界を悪魔に売るような堕天使に言われたくないわ! 皆の者! 精霊術師は生け捕りにせよ、他のもの生死は問わぬ。かかれ!」
そういい終わるや否や、ミレディは飛竜を操り、一気にセレナ達に接近してくる。しかし、セレナ達も負けてはない。西方で戦った時とは比べ物にならないぐらい皆成長していた。
「こいつはあたしに任せて! 西方での借りをきっちり返してやる!」
セレナがミレディに一騎打ちを挑む。自分は成長した。今度こそ絶対に勝ってみせる。他の者はミレディの配下を相手にする。アレンやナーティが次々と敵をなぎ倒していく。その姿はまさに戦神だった。シーナやクラウドもそれに負けじと二人で協力しながら一人ずつ片付けていく。地上と空中からの鋭い槍撃が相手を襲う。それに逃げ場はないといっても過言ではなった。
「へ、俺を相手にしようなんて10年早いぜ!」
クラウドが調子に乗って一気に突撃する。勢いに乗ったクラウドは確かに強いが、単に調子に乗っているときが一番危なかった。
「兄ちゃん! 後ろ!」
シーナが叫ぶ。後ろから狙われていた。騎士が後ろを取られれば、反撃はなかなか難しい。クラウドは相手の剣撃を受けてしまう。
「うぐっ。」
しかし、直ぐに体勢を整え、シーナと二人で片付ける。剣装備の敵には槍使い二人の攻撃は威力絶大だった。
「クラウド、無茶をしてはだめよ。」
アリスが後ろから回復魔法を飛ばしてくれた。もう少し前に出たいが、自分を相手は狙ってきている。アリスは一番後ろでセレスと共に後衛を守る。
「はは、バカは体力が違うね。戦いってのは頭でやるもんだぜ。いくぞ! フォルブレイズ!」
セレスがシーナやクラウドが捌き切れなくて囲まれ始めたところに、一気にフォルブレイズを放った。
その凄まじい、人知を超えた力に相手は為す術なく吹き飛ばされる。


151: 手強い名無しさん:05/11/20 23:56 ID:9sML7BIs
「うわっ!? おいこら! 俺たちにまで当ったらどうするんだ!」
目の前で起きた凄まじい爆発に、クラウドが慌てて怒鳴る。」
「いくらお前でもその中には突っ込まないだろうと思ったからさ。シーナはしっかり僕が魔法を撃つのを予想してたみたいだしね。」
シーナは上空に一時避難していた。・・・シーナ、俺にも教えてくれよ・・・。
しかし、魔法は詠唱を要する。その間に近づかれては詠唱どころではない。ましてこのような超魔法だ。詠唱は半端になく長い。
それを相手に狙われた。身軽な敵剣士が一気に後衛まで走り寄ってきたのである。前衛と違い、系装備でろくな武装もしてない後衛陣が、剣士相手に無傷でいられるはずがない。
「な、くそっ。」
セレスが必死に魔法を詠唱しようとするも、剣士に攻撃されてそれどころではない。とうとう避けきれず、剣が振り下ろされた。
「?!」
しかし、痛くない。セレスが良く見ると、クラウドが剣を鎧で受けていた。
「へっ、バカに助けられるとは、お前も同類ってことだな!」
「・・・ふん、あんなの避けていたからどうってことないよ。勝手に同類視しないでくれ。」
それを聞いてクラウドはやはり頭に血が上った。
「けっ、素直じゃないヤツ!」
急いで前線に戻るクラウドに、セレスが話しかけた。しかし、その声はクラウドに届いていない。
「・・・助かった、ありがとう。」
「セレスさん、クラウドに聞こえてないわよ。もっと大きな声で言わないと。」
アリスにそういわれ顔を赤くしながらセレスは答えた。
「べ、別に聞こえなくていいんです。あいつは褒めると調子に乗りますから!」
アリスはそんな反応を笑いながら見ていた。

一方セレナはミレディと一騎打ちを続けていた。セレナは繰り出される白銀の槍をかわし、一気に二刀流をお見舞いする。ミレディもそんなセレナの剣を槍で弾きながら距離を開ける。互いに一歩も引かない。
「ほう・・・たったあれだけの期間でこれほどまでに腕を上げるとは、流石と言ったところか。やはり見込み違いではなかったな。」
「あんただって! あたしにとっちゃいいライバルだ! あたしはあれ以来、あんたに勝つためにがんばってきたんだ!」
暫く剣と槍のぶつかる激しい大将戦が繰り広げられていた。ナーティは周りの敵を一掃すると、それを黙ってみていた。
「あいつ・・・なかなかやるではないか。私の教えた事をしっかり吸収している。」
アレンはそんなナーティを見て少し呆れた。何時ものように、セレナを助ける事もせずに傍観しているからである。
「ナーティ殿・・・。貴女は仮にも傭兵なのですから、セレナ様をお助けしていただきたい・・・。」
しかし、ナーティは黙ったままだった。そして、ミレディが槍を弾かれ、少しからだが外に開いた、その瞬間。
「今だ!セレナ。ツバメ返しだ!」
セレナはそのナーティのいきなりの声に慌てたが、直ぐに状況を把握し、ナーティがやっていたツバメ返しを見よう見まねでミレディにぶつけた。
「ぐはっ」
そのツバメ返しは、まだ全然形になっていなかった。だが、バランスを崩していたミレディにとっては十分な威力で彼女は飛竜から叩き落された。その彼女の喉元に、セレナが剣を当てた。
「・・・。私の負けか・・・。やはり、ナーガの化身相手に私一人では、荷が重すぎたか・・・。」
セレナが剣をのど元から離す。
「!? 敵に二度までも情けをかけられるとは・・・騎士として最大の恥だ・・・。」
ミレディが下を向いた。もはや戦意はない。
「なんで・・・世界を救おうとしているあたしたちの邪魔ばかりするのさ。」
しかし、セレナのその言葉を聞いた途端、上を向き、セレナを睨みつけながら逆上して言った。
「世界を救うだと!? ふざけるな! 貴様達が自らの行いを正義というなら、こちらも正義だ。世界を救おうとしているのは我々のほうだ!」
ミレディはすばやくセレナに足払いをすると、一気に飛流に飛び乗り、上空へ舞い上がった。
「いいか! 覚えておけ、自分達だけが正義と思うな! 次こそは必ずや精霊術師を我らが手中に収めてみせる! その時まで死ぬなよ!」
そう言い残すと、ミレディは南の空へ飛び去っていった。他の配下の者も、一人が飛竜になり、他の者がそれに乗って飛び去っていく。どうやら竜族と人間族の混成部隊だったようだ。


152: 手強い名無しさん:05/11/20 23:57 ID:9sML7BIs
「いったー・・・。へん、首を洗って待ってるぜ!」
セレナが起き上がりながら、空のかなたのミレディに叫ぶ。
「姉ちゃん・・・。首を洗って待っててどうするのよ・・・。」
「え? なんかあたし間違った事言った? あれでしょ、雨降って地固めればいいんでしょ?」
「??」
困惑するシーナ。姉の言うことはどこか間違っているような正しいような難しい言い方をするので困る時があった。
「だから! 雨降らしの神様が、地面をドロドロにして人々を困らそうと雨を降らした。それなのに逆に地面は固まっちゃった。
それと同じで、何かしようとしても返り討ちにあうって事じゃん。あたしたちもあいつらが邪魔しに来ても返り討ちにすればいいのさ。だから雨降って地固める。そんな事も知らないの?」
「おー、すげー。セレナ、お前頭いいな!」
それにクラウドも同調してしまう。クラウドに褒められたセレナは照れるといった表情をして得意がる。
シーナはどう反応すればいいか分からなくなった。しかし、セレスは黙ってはいない。
「用法、解釈、どちらとも誤りがありますね。今日の夜みっちり僕と勉強しましょうか、セレナ。それにクラウド!」
「何でお前俺に対してはそんな怒り口調なんだよ!」
そんな会話を割って、アレンが行った。
「・・・バカな事を言っていないで早く神将器をとりに行くぞ。クラウド、お前ももう少し勉強しなさい。」
アレンがクラウドに説教しながら洞窟に入っていく。クラウドは何とか父親を振りほどくと、ナーティの方に寄って言った。
「なぁ、また一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「あんた、さっきあの竜騎士に堕天使とか言われてたよな? どう言う事だ?」
その質問に、ナーティは暫く黙していたが、やがて目を瞑って答えた。
「・・・私は傭兵だ。どこかでそのような通り名をつけられたのだろう。見れば分かるだろう? 人情味のない、冷たい人間だという事が。そういうことではないか?」
クラウドはイマイチ納得できないというような表情をしている。もっと突っ込んだ話をし言うとした時、誰かに後ろから首根っこを鷲掴みにされた。
「いてててっ。」
「まったく、お前というヤツは! 父親の話もろくに聞けんのか!」
アレンだった。アレンはクラウドをそのまま引っ張っていく。ナーティはちょっとほっとしたような表情をしながらぽつりと独り言を言った。
「・・・クラウド・・・。 それにしても堕天使か。ふっ、私には相応しいかもしれないな。」
そんな独り言をセレナ達が聞いていたらしい。ナーティの傍に寄って行っていろいろ話しながら洞窟に入っていった。
「なんなんだ?」
クラウドが真っ先に声を上げる。中には大勢人が倒れていたのである。交戦したあとが残っている。
よく見るとこれは賊のようだ。
「こいつらは・・・我々が気にしていた、ここを根城にする盗賊団ではないだろうか?」
アレンが言う。ベルン動乱の時も、ここには盗賊団が巣食い、ロイ達の行く手を阻んだ。その生き残りが、またここを根城にしていたようだ。
「でも、誰がこんなことを。」
セレスが不思議がる。自分達の妨害をするあの竜騎士の連中が、自分達の助けになるようなことをするだろうか。
「多分先ほどの連中だろう。奴らの言っていたことを思い出せ。自分達も正義を貫いていると、奴らは言っていた。力の無い民を狙う盗賊団を、奴らは生かしてい置けなかったのだろう。ミレディ殿ならやりかねない事だ・・・。」
ナーティが言った。ナーティはやたらミレディについては詳しかった。クラウドがその理由を尋ねたところ、昔ベルンに傭兵としていたころ、話したことがあったそうだ。
セレナは、ナーティはもっといろいろ知っているのではないかと思っていた。しかし、クラウドと違い、怪しむことはしなかった。自分にとっては剣に師匠であり、よき人生の先輩だったからだ。冷たいけど信頼の置ける人物・・・姉貴だと、セレナは思っていた。


153: 手強い名無しさん:05/11/20 23:57 ID:9sML7BIs
何時ものように一行は祭壇を探す。しかし、アレンはふと思い出した。デュランダルの取り出し方は、オスティア候直系の者しか分からないはず・・・。一抹の不安を胸に、一行は祭壇までたどり着く。
「じゃあ、いつもどおりやるわよ。みんなもお祈りして。」
アリスが祈り始める。それを見た他の者も同じように祈る。この場にいる精霊にアリスが話しかけてみる。すると、何処からか声が聞こえてきた。
「オレを・・・オレを呼ぶのは誰だ・・・?」
ローランだった。次第に声は大きくなり、皆の心の中に、実態としてその姿を現した。勇者ローラン・・・大剣デュランダルを扱ったにしてはかなり小柄な人物だ。
「私はアリス。私達は、世界をあるべき姿に戻す為に、貴方の力を必要としています。どうか、その力をお貸しいただけませんか?」
アリスが早速交渉を開始する。デュランダルは、かつて自分の祖父も使ったことのある伝説の剣。その力を天まで届き、大地の理を正すほどだったという。今、その伝説の剣を扱った、伝説の勇者と対話しているのだ。
「お前達が・・・オレの子孫だな・・・。わかるぞ、半世紀前に来た男と同じような真っ直ぐな目をしているな。」
半世紀前に来た男・・・エリウッド爺様の事だ。そう、セレナもシーナも思った。両親の顔すら覚えのない双子にとって、祖父はもう全く分からない存在であった。
「あたし達は、今、世界中に笑顔が溢れるような、皆が幸せに生きていける世界を目指して旅をしてる。そのために、貴方の力が必要なんだ。お願い、デュランダルを扱う事をあたし達に許して。」
セレナがアリスに続き交渉する。自分にも、このローランの血が少なからず流れている。自分の遠い祖先と対話する事は、何か不思議な気分だった。
「・・・時とは無常なものだな。時は人を傲慢にする。最初は謙虚だった人々の世界を、欲と嫉妬に満ち、争いあう世界へと変えてしまう。無垢で穢れない子供の心を、そういった欲まみれの汚い大人の心へと変えてしまう・・・。」
セレナ達はそれを黙って聞いていた。ベルン動乱で両親が神将器を用い、世界を正して四半世紀も経たない内に、また争いは起こり、両親は倒れた。ローランは続けた。
「オレもこの小柄な体格を散々バカにされたこともあった。時は人を傲慢に変え、その傲慢になった人々の目は、自分と容を異なるものに向けられる。自分と異なるものを認められなくなるのだ。それは次第に差別へと進行し、埋められない溝へと発展する。」
自分と異なるものを恐怖し、認められなくなる。人間族がハーフを毛嫌いした理由はなんだろうか・・・。それは今の一行には分からなかった。だが、とにかく傲慢になった人間が、自分達と異なるハーフや竜族を認められなくなった時、戦争の火種がくすぶり始めたのだろう。そして、実際に竜族との確執は人竜戦役という形で、ハーフとのそれは今まさに現在進行形で行われていた。
「わかるか? 人間の心に卑しき心がある限り、それは時が増長させ争いに発展する。例えお前達が正したところで、また時が経てば同じような問題が発生する。」
「でも、間違っていると思うことは、今からでも改めればいい。皆に間違っている事を理解してもらえるように努力する。間違えたら・・・やり直せばいいと思う。」
シーナがローランに答えた。間違っていると知りつつも、それを見て見ぬ振りをしていては、歪はますます酷くなるばかり。そしてその歪は、ある時突然、大きな災いに姿を変える。・・・そうなってしまってからでは遅い。
「間違えたらやり直せばいい、か・・・。簡単に言ってくれるな。世界一般の認識を変えていくことは、並大抵の努力では為しえない事。・・・それでも、やるのか?」
「やるったらやるの! やるしか世界を正す方法はないんだから! 現にエトルリアは、人間とハーフが手を取り合う国に変わりつつある。あれだって、あたし達・・・皆でがんばった成果だと思ってる。」
セレナがローランに返す。そうだ、やるしかないのだ。例えどんな困難が立ちふさがっても、仲間と一緒に乗り越えていく。間違えたらそれを認めて正し、また歩む。これが大切だった。傲慢になった人間には、自らの過ちも、自らと異なるものも認められなかった。これが大きな災いを生む原因だった。
「そうか・・・わかった。では、お前達が本当にその遺志を達成できるほどの力があるか試してやろう。・・・剣を取れ。」
目を閉じて祈っていた一行が、風を感じた。気になって目を開けてみると・・・そこにはなんとローランがいるではないか! その手には大剣・・・デュランダルが握られている。
「うそっ!? 神将と戦えって言うわけ?!」
「いくぞっ、何かを達成しようとすれば、それにはそれに相応しい力が必要だ。お前達にそれがあるか試させてもらう!」


154: 手強い名無しさん:05/11/21 09:18 ID:gAExt6/c
おはようございます。。
見直してみたところ>>147-148の当りのつながりがおかしくなっていますね・・・
整理して>>155-156に再度うpします。。
分かりづらくなって申し訳ありませぬorz

155: 147:05/11/21 09:20 ID:gAExt6/c
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「・・・差別を差別で返すのでは・・・何も生まぬ・・・。 差別されたからこそ、その苦しみを他の種族に与えてはならんのじゃ・・・。」
部下は黙って聞いていた。確かに人間族や竜族は憎い。だが、グレゴリオの言う事も否定しがたい事実だった。
「ふぅ・・年をとると愚痴っぽくなって困るわい。 ところで、反乱軍一行はしっかり進軍しておるかの。」
「は、情報によるとフォルブレイズとアーリアルを入手し、エトルリアを発ったようです。」
「ふむ・・・がんばるの。あいつら考え方には好感が持てる・・・。じゃが・・・ワシはメリアレーゼ様に忠誠を誓う騎士。敵には変わらぬ・・・。」
グレゴリオはそんな独り言を漏らしながら一路リキアへの帰路に着いた。


156: 148:05/11/21 09:22 ID:gAExt6/c
セレナ一行は、山間部からリキア領内に侵入していた。リキアは騎馬兵と重騎士の国。山間部までは深入りできないだろうと考えたのだ。
足元が悪い中、シーナは姉が何か考えながら歩いているのに気付いた。
「姉ちゃん・・・?どうかしたの?」
「え? いやぁちょっとさ・・・うわっ。」
セレナがつるに足を引っ掛けて転んだ。こんな山道で余所見をしながら歩いていれば、転ぶのも当然だ。
「大丈夫か? 全くおっちょこちょいだな。」
アレンが手を取って起き上がらせる。お尻が真っ黒だ。
「あはは、姉ちゃんらしいね。ところで、何を考えていたの?」
シーナが改めて聞きなおす。姉が黙り込んでいるなんて寝ているか考えているかのどちらかしかない。
「いや・・・リゲルのヤツが、母を奪ったって言ってたから・・・。」
「そのことで悩んでいるのか?」
ナーティが会話に入り込んでくる。きっとまた雑念を起こしているに違いない。将にとってそれは致命傷にもなりかねない。心の隙は戦場で露骨に表れる。
「うん・・・。やっぱり、リゲルも差別されて心が歪んじゃった人なのかな、と。」
「リゲルは幼いころ、人間によって母を殺されていたのだ。リゲル自身は至って普通の性格だったらしいが、その事実と、周りの教育によってその性格が豹変したらしい。」
「そんな! じゃあ、リゲルも・・・。」
セレナがやはりと言いたげな表情で返す。しかし、ナーティは冷たく言い放った。
「そうだ、ヤツも差別の被害者だ。だが、差別されからといって差別し返し、人道に反する行為を行ってよいというわけではない。」
「うん・・・。」
「ヤツは非道な圧制者であったことに変わりはなく、我々に同情する余地はない。これは戦争なんだ。そんな甘ったるい考えで世界を変えられると思っているのか!」
ナーティは何故かいつも以上に厳しい口調で叱った。セレナにはその理由が分かっていた。それだけ、世界を変えるという事は、心を鬼にして事実と向き合わねばならないということだった。
「そうだね・・・悪かったよ。リゲルみたいな人をこれ以上増やさない為にも、あたし達はがんばらないとね。」
そのセレナの言葉を聞き、ナーティも何時もの口調に戻った。と、言っても相変わらずだが。
「そうだ、それでいい。お前の考えは、お前だけのものではないのだ。お前の心の隙は、軍全体の隙になる。覚えておけ。」
アレンはどこかで聞いたような言葉だと思ってふと考えてみる。・・・そうだ、シャニー様がディーク殿に散々言われていた言葉だ。やはりセレナ様もシャニー様の子なんだなぁと何か歓心にも似た感情がこみ上げた。
そんな会話をしていると、目の前に大きな洞窟が広がっているのが見えてきた。アレンには見覚えのある場所だった。
「ねぇねぇ、洞窟ってあれの事かな。」
シーナが天馬で上空から見つけたらしい。一行もそれを暫くして見つけた。
「そうだな。あそこがデュランダルの眠る洞窟だ。さぁ、行こうか。」
アレンがそう言い、中に入ろうとしたそのときだった。
「待て!」
その声と同時にアレンの足元に手槍が突き刺さった。
「?! 何奴!」
どこかで聞いた覚えのある声だとセレナ達は思った。しかし、それが誰かを思い出そうとする必要はなかった。その前にその人物が現れたからである。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。
「私こそこの前のようには行かぬ。今度こそ精霊術師をこちらに渡してもらう!」
周りにはミレディのほかにその仲間と思しき連中が結構な数いる。・・・よく見れば囲まれていた。
セレナ達は剣を抜き、応戦態勢をとる。だが、ここは山中。足場は悪く不利な状況だ。


157: 149:05/11/21 09:23 ID:gAExt6/c
「また来たか。主から見放された哀れな竜騎士よ。」
「黙れ! 私はギネヴィア様の遺志を継いでいる! 世界を悪魔に売るような堕天使に言われたくないわ! 皆の者! 精霊術師は生け捕りにせよ、他のもの生死は問わぬ。かかれ!」
そういい終わるや否や、ミレディは飛竜を操り、一気にセレナ達に接近してくる。しかし、セレナ達も負けてはない。西方で戦った時とは比べ物にならないぐらい皆成長していた。
「こいつはあたしに任せて! 西方での借りをきっちり返してやる!」
セレナがミレディに一騎打ちを挑む。自分は成長した。今度こそ絶対に勝ってみせる。他の者はミレディの配下を相手にする。アレンやナーティが次々と敵をなぎ倒していく。その姿はまさに戦神だった。シーナやクラウドもそれに負けじと二人で協力しながら一人ずつ片付けていく。地上と空中からの鋭い槍撃が相手を襲う。それに逃げ場はないといっても過言ではなった。
「へ、俺を相手にしようなんて10年早いぜ!」
クラウドが調子に乗って一気に突撃する。勢いに乗ったクラウドは確かに強いが、単に調子に乗っているときが一番危なかった。
「兄ちゃん! 後ろ!」
シーナが叫ぶ。後ろから狙われていた。騎士が後ろを取られれば、反撃はなかなか難しい。クラウドは相手の剣撃を受けてしまう。
「うぐっ。」
しかし、直ぐに体勢を整え、シーナと二人で片付ける。剣装備の敵には槍使い二人の攻撃は威力絶大だった。
「クラウド、無茶をしてはだめよ。」
アリスが後ろから回復魔法を飛ばしてくれた。もう少し前に出たいが、自分を相手は狙ってきている。アリスは一番後ろでセレスと共に後衛を守る。
「はは、バカは体力が違うね。戦いってのは頭でやるもんだぜ。いくぞ! フォルブレイズ!」
セレスがシーナやクラウドが捌き切れなくて囲まれ始めたところに、一気にフォルブレイズを放った。
その凄まじい、人知を超えた力に相手は為す術なく吹き飛ばされる。
「うわっ!? おいこら! 俺たちにまで当ったらどうするんだ!」
目の前で起きた凄まじい爆発に、クラウドが慌てて怒鳴る。」
「いくらお前でもその中には突っ込まないだろうと思ったからさ。シーナはしっかり僕が魔法を撃つのを予想してたみたいだしね。」
シーナは上空に一時避難していた。・・・シーナ、俺にも教えてくれよ・・・。
しかし、魔法は詠唱を要する。その間に近づかれては詠唱どころではない。ましてこのような超魔法だ。詠唱は半端になく長い。
それを相手に狙われた。身軽な敵剣士が一気に後衛まで走り寄ってきたのである。前衛と違い、系装備でろくな武装もしてない後衛陣が、剣士相手に無傷でいられるはずがない。
「な、くそっ。」
セレスが必死に魔法を詠唱しようとするも、剣士に攻撃されてそれどころではない。とうとう避けきれず、剣が振り下ろされた。
「?!」
しかし、痛くない。セレスが良く見ると、クラウドが剣を鎧で受けていた。
「へっ、バカに助けられるとは、お前も同類ってことだな!」
「・・・ふん、あんなの避けていたからどうってことないよ。勝手に同類視しないでくれ。」
それを聞いてクラウドはやはり頭に血が上った。
「けっ、素直じゃないヤツ!」
急いで前線に戻るクラウドに、セレスが話しかけた。しかし、その声はクラウドに届いていない。
「・・・助かった、ありがとう。」
「セレスさん、クラウドに聞こえてないわよ。もっと大きな声で言わないと。」
アリスにそういわれ顔を赤くしながらセレスは答えた。
「べ、別に聞こえなくていいんです。あいつは褒めると調子に乗りますから!」
アリスはそんな反応を笑いながら見ていた。


158: 150:05/11/21 09:25 ID:gAExt6/c
一方セレナはミレディと一騎打ちを続けていた。セレナは繰り出される白銀の槍をかわし、一気に二刀流をお見舞いする。ミレディもそんなセレナの剣を槍で弾きながら距離を開ける。互いに一歩も引かない。
「ほう・・・たったあれだけの期間でこれほどまでに腕を上げるとは、流石と言ったところか。やはり見込み違いではなかったな。」
「あんただって! あたしにとっちゃいいライバルだ! あたしはあれ以来、あんたに勝つためにがんばってきたんだ!」
暫く剣と槍のぶつかる激しい大将戦が繰り広げられていた。ナーティは周りの敵を一掃すると、それを黙ってみていた。
「あいつ・・・なかなかやるではないか。私の教えた事をしっかり吸収している。」
アレンはそんなナーティを見て少し呆れた。何時ものように、セレナを助ける事もせずに傍観しているからである。
「ナーティ殿・・・。貴女は仮にも傭兵なのですから、セレナ様をお助けしていただきたい・・・。」
しかし、ナーティは黙ったままだった。そして、ミレディが槍を弾かれ、少しからだが外に開いた、その瞬間。
「今だ!セレナ。ツバメ返しだ!」
セレナはそのナーティのいきなりの声に慌てたが、直ぐに状況を把握し、ナーティがやっていたツバメ返しを見よう見まねでミレディにぶつけた。
「ぐはっ」
そのツバメ返しは、まだ全然形になっていなかった。だが、バランスを崩していたミレディにとっては十分な威力で彼女は飛竜から叩き落された。その彼女の喉元に、セレナが剣を当てた。
「・・・。私の負けか・・・。やはり、ナーガの化身相手に私一人では、荷が重すぎたか・・・。」
セレナが剣をのど元から離す。
「!? 敵に二度までも情けをかけられるとは・・・騎士として最大の恥だ・・・。」
ミレディが下を向いた。もはや戦意はない。
「なんで・・・世界を救おうとしているあたしたちの邪魔ばかりするのさ。」
しかし、セレナのその言葉を聞いた途端、上を向き、セレナを睨みつけながら逆上して言った。
「世界を救うだと!? ふざけるな! 貴様達が自らの行いを正義というなら、こちらも正義だ。世界を救おうとしているのは我々のほうだ!」
ミレディはすばやくセレナに足払いをすると、一気に飛流に飛び乗り、上空へ舞い上がった。
「いいか! 覚えておけ、自分達だけが正義と思うな! 次こそは必ずや精霊術師を我らが手中に収めてみせる! その時まで死ぬなよ!」
そう言い残すと、ミレディは南の空へ飛び去っていった。他の配下の者も、一人が飛竜になり、他の者がそれに乗って飛び去っていく。どうやら竜族と人間族の混成部隊だったようだ。
「いったー・・・。へん、首を洗って待ってるぜ!」
セレナが起き上がりながら、空のかなたのミレディに叫ぶ。
「姉ちゃん・・・。首を洗って待っててどうするのよ・・・。」
「え? なんかあたし間違った事言った? あれでしょ、雨降って地固めればいいんでしょ?」
「??」
困惑するシーナ。姉の言うことはどこか間違っているような正しいような難しい言い方をするので困る時があった。
「だから! 雨降らしの神様が、地面をドロドロにして人々を困らそうと雨を降らした。それなのに逆に地面は固まっちゃった。
それと同じで、何かしようとしても返り討ちにあうって事じゃん。あたしたちもあいつらが邪魔しに来ても返り討ちにすればいいのさ。だから雨降って地固める。そんな事も知らないの?」
「おー、すげー。セレナ、お前頭いいな!」
それにクラウドも同調してしまう。クラウドに褒められたセレナは照れるといった表情をして得意がる。
シーナはどう反応すればいいか分からなくなった。しかし、セレスは黙ってはいない。
「用法、解釈、どちらとも誤りがありますね。今日の夜みっちり僕と勉強しましょうか、セレナ。それにクラウド!」
「何でお前俺に対してはそんな怒り口調なんだよ!」
そんな会話を割って、アレンが行った。
「・・・バカな事を言っていないで早く神将器をとりに行くぞ。クラウド、お前ももう少し勉強しなさい。」
アレンがクラウドに説教しながら洞窟に入っていく。クラウドは何とか父親を振りほどくと、ナーティの方に寄って言った。
「なぁ、また一つ聞いていいか?」


159: 151:05/11/21 09:26 ID:gAExt6/c
「なんだ?」
「あんた、さっきあの竜騎士に堕天使とか言われてたよな? どう言う事だ?」
その質問に、ナーティは暫く黙していたが、やがて目を瞑って答えた。
「・・・私は傭兵だ。どこかでそのような通り名をつけられたのだろう。見れば分かるだろう? 人情味のない、冷たい人間だという事が。そういうことではないか?」
クラウドはイマイチ納得できないというような表情をしている。もっと突っ込んだ話をし言うとした時、誰かに後ろから首根っこを鷲掴みにされた。
「いてててっ。」
「まったく、お前というヤツは! 父親の話もろくに聞けんのか!」
アレンだった。アレンはクラウドをそのまま引っ張っていく。ナーティはちょっとほっとしたような表情をしながらぽつりと独り言を言った。
「・・・クラウド・・・。 それにしても堕天使か。ふっ、私には相応しいかもしれないな。」
そんな独り言をセレナ達が聞いていたらしい。ナーティの傍に寄って行っていろいろ話しながら洞窟に入っていった。
「なんなんだ?」
クラウドが真っ先に声を上げる。中には大勢人が倒れていたのである。交戦したあとが残っている。
よく見るとこれは賊のようだ。
「こいつらは・・・我々が気にしていた、ここを根城にする盗賊団ではないだろうか?」
アレンが言う。ベルン動乱の時も、ここには盗賊団が巣食い、ロイ達の行く手を阻んだ。その生き残りが、またここを根城にしていたようだ。
「でも、誰がこんなことを。」
セレスが不思議がる。自分達の妨害をするあの竜騎士の連中が、自分達の助けになるようなことをするだろうか。
「多分先ほどの連中だろう。奴らの言っていたことを思い出せ。自分達も正義を貫いていると、奴らは言っていた。力の無い民を狙う盗賊団を、奴らは生かしてい置けなかったのだろう。ミレディ殿ならやりかねない事だ・・・。」
ナーティが言った。ナーティはやたらミレディについては詳しかった。クラウドがその理由を尋ねたところ、昔ベルンに傭兵としていたころ、話したことがあったそうだ。
セレナは、ナーティはもっといろいろ知っているのではないかと思っていた。しかし、クラウドと違い、怪しむことはしなかった。自分にとっては剣に師匠であり、よき人生の先輩だったからだ。冷たいけど信頼の置ける人物・・・姉貴だと、セレナは思っていた。
何時ものように一行は祭壇を探す。しかし、アレンはふと思い出した。デュランダルの取り出し方は、オスティア候直系の者しか分からないはず・・・。一抹の不安を胸に、一行は祭壇までたどり着く。
「じゃあ、いつもどおりやるわよ。みんなもお祈りして。」
アリスが祈り始める。それを見た他の者も同じように祈る。この場にいる精霊にアリスが話しかけてみる。すると、何処からか声が聞こえてきた。
「オレを・・・オレを呼ぶのは誰だ・・・?」
ローランだった。次第に声は大きくなり、皆の心の中に、実態としてその姿を現した。勇者ローラン・・・大剣デュランダルを扱ったにしてはかなり小柄な人物だ。
「私はアリス。私達は、世界をあるべき姿に戻す為に、貴方の力を必要としています。どうか、その力をお貸しいただけませんか?」
アリスが早速交渉を開始する。デュランダルは、かつて自分の祖父も使ったことのある伝説の剣。その力を天まで届き、大地の理を正すほどだったという。今、その伝説の剣を扱った、伝説の勇者と対話しているのだ。
「お前達が・・・オレの子孫だな・・・。わかるぞ、半世紀前に来た男と同じような真っ直ぐな目をしているな。」
半世紀前に来た男・・・エリウッド爺様の事だ。そう、セレナもシーナも思った。両親の顔すら覚えのない双子にとって、祖父はもう全く分からない存在であった。
「あたし達は、今、世界中に笑顔が溢れるような、皆が幸せに生きていける世界を目指して旅をしてる。そのために、貴方の力が必要なんだ。お願い、デュランダルを扱う事をあたし達に許して。」
セレナがアリスに続き交渉する。自分にも、このローランの血が少なからず流れている。自分の遠い祖先と対話する事は、何か不思議な気分だった。
「・・・時とは無常なものだな。時は人を傲慢にする。最初は謙虚だった人々の世界を、欲と嫉妬に満ち、争いあう世界へと変えてしまう。無垢で穢れない子供の心を、そういった欲まみれの汚い大人の心へと変えてしまう・・・。」
セレナ達はそれを黙って聞いていた。ベルン動乱で両親が神将器を用い、世界を正して四半世紀も経たない内に、また争いは起こり、両親は倒れた。ローランは続けた。


160: 152:05/11/21 09:27 ID:gAExt6/c
「オレもこの小柄な体格を散々バカにされたこともあった。時は人を傲慢に変え、その傲慢になった人々の目は、自分と容を異なるものに向けられる。自分と異なるものを認められなくなるのだ。それは次第に差別へと進行し、埋められない溝へと発展する。」
自分と異なるものを恐怖し、認められなくなる。人間族がハーフを毛嫌いした理由はなんだろうか・・・。それは今の一行には分からなかった。だが、とにかく傲慢になった人間が、自分達と異なるハーフや竜族を認められなくなった時、戦争の火種がくすぶり始めたのだろう。そして、実際に竜族との確執は人竜戦役という形で、ハーフとのそれは今まさに現在進行形で行われていた。
「わかるか? 人間の心に卑しき心がある限り、それは時が増長させ争いに発展する。例えお前達が正したところで、また時が経てば同じような問題が発生する。」
「でも、間違っていると思うことは、今からでも改めればいい。皆に間違っている事を理解してもらえるように努力する。間違えたら・・・やり直せばいいと思う。」
シーナがローランに答えた。間違っていると知りつつも、それを見て見ぬ振りをしていては、歪はますます酷くなるばかり。そしてその歪は、ある時突然、大きな災いに姿を変える。・・・そうなってしまってからでは遅い。
「間違えたらやり直せばいい、か・・・。簡単に言ってくれるな。世界一般の認識を変えていくことは、並大抵の努力では為しえない事。・・・それでも、やるのか?」
「やるったらやるの! やるしか世界を正す方法はないんだから! 現にエトルリアは、人間とハーフが手を取り合う国に変わりつつある。あれだって、あたし達・・・皆でがんばった成果だと思ってる。」
セレナがローランに返す。そうだ、やるしかないのだ。例えどんな困難が立ちふさがっても、仲間と一緒に乗り越えていく。間違えたらそれを認めて正し、また歩む。これが大切だった。傲慢になった人間には、自らの過ちも、自らと異なるものも認められなかった。これが大きな災いを生む原因だった。
「そうか・・・わかった。では、お前達が本当にその遺志を達成できるほどの力があるか試してやろう。・・・剣を取れ。」
目を閉じて祈っていた一行が、風を感じた。気になって目を開けてみると・・・そこにはなんとローランがいるではないか! その手には大剣・・・デュランダルが握られている。
「うそっ!? 神将と戦えって言うわけ?!」
「いくぞっ、何かを達成しようとすれば、それにはそれに相応しい力が必要だ。お前達にそれがあるか試させてもらう!」


161: 153,160の続きでし:05/11/21 09:29 ID:gAExt6/c
ローランが大剣を軽々と持ち上げ、セレナ達に迫ってくる。早い! あの小柄な体格で大剣を持っているとはとても思えないスピードだ。
「セレナ! 何をぐずぐずしている! 早く剣を抜け!」
ナーティがローランに走り寄りながらセレナに怒鳴った。ナーティもまさかローランが挑んでくるとか予想外だった様だ。
セレナは剣を抜いたが、ナーティとローランの攻防にしばし見とれてしまう。ナーティがローランの鋭く、重い一撃を避け、光速の剣撃を叩き込む。それをローランが軽くデュランダルで受け止める。お互い早くて目が付いていかない。二人の剣神がまさに牙を向き合っているという状況だった。
「セレナ! 何をボーっとしている! 認められなければならいのは、お前達なのだぞ! 私のような傭兵に任せてどうする!」
もう一度ナーティに怒鳴られてセレナはようやく我に返る。しかし、その際隙が出来たのか、とうとうナーティにローランの一撃が直撃する。
「ちっ・・・。」
大剣の前に軽々ナーティが吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられる。アリスが慌ててナーティに回復魔法を飛ばす。まさかナーティがやられてしまうなんて。
セレナ達が今度はローランに挑みかかる。しかし、まだ間合いが広かったそのときだった。
「いくぞ! うりゃぁ!」
ローランが大剣を地面に力任せに突き刺した。その途端、その場所から音を立ててセレナ達のほうへ向けて衝撃波を伴った地割れが迫ってきた。
「うわっ?!」
シーナ空中にいたから無事だった。セレナも焦ったが、何とか空中に逃げた。セレナのいた場所を凄まじいスピードで駆け抜けた地割れは、そのまま洞窟の壁に当たり、大きな音を立てて止まった。
「うひゃぁ・・・。」
セレナは後ろに出来た大きな穴を見ながら思わず声を上げた。しかし、ローランがそれを黙って見ている訳がない。脅威の跳躍力で一気に空中のセレナに飛び掛り、重い一撃を与える。
「うぎゃ!」
華奢なセレナは軽々と壁まですっ飛ばされ、叩きつけられる。・・・めちゃくちゃ強いぞこの人。
セレスがやっと詠唱の終ったフォルブレイズをローランに向けて放った。神将器ならきっとダメージを与える事ができるはず・・・。
しかし、よく見れば、ローランは結界を張って凌いでいるではないか! 魔法すら通用しないとは・・・。
「どうした、お前達の力はその程度か! その程度で世界を正すなどといっているのか。笑わせるな!」
ローランがまた突っ込んでくる。とりあえずこの突進を防がなければ。
「セレナ! シーナ! 我々三人で一気に決めるぞ。チャンスは一度きりだ! この前教えたあの技で一気に止めを刺すんだ。」
ナーティがセレナ達に指示を出した。これ以上戦いが長引けばこちらが持たない。短期決戦で一気に相手の動きを止めるしか術はない。
「わかった。クラウド、親父、それにセレスに姉貴。援護を頼むよ!」
セレナも丁度あの技を試してみたかった。それにそれしか方法がないというピンチでもあったから、セレナは直ぐにナーティの指示にうなずいた。自分が将とか、そんなの関係ない。良い案なら誰のものでも受け入れる。
クラウドやアレンがセレナの指示を受け、ローランに向かっていく。手槍で牽制しつつ、ローランの気を引く。そして、セレスもエイルカリバーなどで相手の動きを止める事に専念した。そして、彼らの攻撃に耐えかね、ローランがあの衝撃波で彼らを吹き飛ばそうと剣を突き刺した、その瞬間だった。
「シーナ! ナーティ! いっくよー!」
セレナが二人に合図をかけ、一気に飛び込んだ。
「トライアングルアターーーック!!!」
二人で交差するように放たれた無数の突きが十文字を形成し、トドメに三人同時にローランに強力な突きをお見舞いした。剣を地面に突き刺し、防御手段を失ったローランは、これの直撃を受けてしまった。流石の剣神も、この一撃の前に倒れてしまい、それと同時にその姿は消えた。その場には刺さったデュランダルだけが残った。ローランは・・・幻影だったのである。
「見事だ・・・。お前達はオレに勝った。俺はお前達の力を認める。その剣を持っていけ。世界を頼む・・・。俺たちが達成し得なかった事を実現させてくれ・・・。」
ローランの声が聞こえなくなると、洞窟にそれまでの静寂が戻った。セレナがデュランダルに近づき、それを地面から引き抜いてみる。


162: 手強い名無しさん:05/11/21 09:30 ID:gAExt6/c
「うわっ!? なんだこれ! すごく・・・重たい・・・・うがぁ〜。」
セレナがデュランダルのあまりの重さに倒れてしまった。剣が体の上に圧し掛かりジタバタもがいている。こんな剣をローランは振り回していたのか。
「ふぅ・・・ローランか・・・言い伝えのままの凄まじい力を持った勇者だったな・・・。」
ナーティもこの時ばかりは胸を撫で下ろしたような台詞をもらした。シーナはこのナーティの反応に改めて、危険な戦闘だった事を感じ取った。でも、自分達はそれに打ち勝った。しかも自分達の力で!
「すげー、さっきの技、何だよ。なぁなぁ、セレナ!」
クラウドがセレナを起き上がらせながら先ほどの三位一体攻撃について聞いていた。
「さっきの? あれね、あたしの母さんが使ってた必殺技なんだって。ナーティのヤツ、それを何かの文献で知ったらしくて、試したかったみたい。」
トライアングルアタック・・・代々天馬騎士の家系に受け継がれていた三位一体の空中殺法。その息の合った攻撃を繰り出すには、並大抵の技術では達成し得ない。だが、その技が達成された時、その攻撃から逃れる術はないという。必殺技の中の必殺技だった。
アレンはまさか、またこの華麗でかつ恐ろしい攻撃方法を見ることが出来るとは夢にも思っていなかった。それにしても文献で見て、それを一度で成功させるとは・・・アレンは再度ナーティの腕前に感心した。更に、それをこなして見せた双子にも、やはり成長を見た。ロイ様・・・我々はデュランダルをも手に入れました。今度はイリアに進軍して参ります。どうか、我々にご加護をおあたえください・・・。
「さて、手に入れるものは手に入れた。このままリキア内に留まるのはよくない。早速出発して、今度はイリアへ向かおう。」
アレンが先陣を切る。ここはリキア内。まだベルン五大牙の筆頭、グレゴリオ大将軍と戦うには状況が悪すぎる。それ以前に神将器は手に入れたのだからもう無理にリキアに攻め込む必要も無い。あくまで封印の剣を手に入れることが先決だ。まずはイリアを取り返してからその後の事を考える事になった。

一行はリキアを発って数日後、グレゴリオがベルンから帰還した。その元に兵士が慌てて飛び込んできた。
「大将軍! ご報告いたします!」
「なんじゃ、いきなり騒々しい。落ち着かんか。」
「はっ。 先日、オスティア郊外の神将器の眠る洞窟で、戦闘が起こった模様。どうも反乱軍とアルカディアの連中が戦闘を行ったようです。」
「なんじゃと! ・・・で、神将器は無事か?」
「いえ・・・その戦闘後から神将器の波動が消えました・・・。」
「そうか・・・。奴ら・・・精霊術師を狙っておるのか。」
「大将軍! 反乱軍の追跡はいかがいたしましょう。」
「・・・反乱軍は放っておけ。それより、アルカディアをしっかりマークせよ。反乱軍はリキアに攻め込まないようにしっかり守りを固めておくのじゃ。」
グレゴリオはそういい残すと、自分の部屋に戻っていった。そして、椅子に腰掛けると、その上にあった数個の石を手にとって眺めた。
「色々な形をしておるのぉ・・・。丸いもの、尖ったもの・・・人も同じじゃ。色々な考えを持った奴がいるから面白い。・・・今のように思想統制してはいかんのじゃ・・・。 さて、反乱軍・・・いや解放軍といったほうが良いかの。お前さん達の活躍を期待しておるぞ。ワシもお前さん達の手伝いをしてやるわい・・・。正義と思ってしている事が、全く逆の結果になるとは夢にも思っておらんじゃろう。まずはその過ちに自らで気づいてもらわねばな・・・。」
そのころセレナ達は、そんなグレゴリオの思惑など知る由も無く。エトルリアとリキアの国境沿いを、イリアに向けて歩んでいた。山々を抜ければ、そこは極寒と天馬の国イリアである。自分の故郷でもあるその国がどんな様子か、セレナは思いをはせていた。
それ以上にアリスは複雑な心境だった。自分の祖国にして自分が統治すべきだった国。今更帰って言ってみなが受け入れてくれるだろうか。それ以前に国がどうなっているのか・・・心配でならなかった。
そんな不安と気体が入り混じった複雑な心境を胸に、一行は針葉樹林を目指し、ひたすら歩んでいった。


163: 忠明:05/11/21 12:09 ID:gezKSf1Y
出会い系でさぁーメグリアイってとこ有名だけどやってみたらサクラばっか
だしまったく会えないんですけど・・・時間の無駄だった・・・
唯一今までちゃんと会えてアド交換とか電話できたのはここだけだった。みなさん
におすすめなので教えます。正直穴場でした。全て無料でしたので安心でした。アクセスの手順です。comの前の空白を詰めれば入れます。
http://www.koisonadx. com/?ko2u40-s2s11c
メグリアイなんてするもんじゃないですよ


164: 手強い名無しさん:05/11/22 12:31 ID:E1USl4sQ
どうでしょう。楽しんでいただけてますでしょうか?
なにぶん書き込みが自分だけなので、一人だけでがんばっているのか静観してくださっているのか不安でして。。
いろいろ手違いなど含め読みづらいところもありますがこれからもよろしくお願いします。

さて、一行はいよいよシャニーの故郷イリアへ向かうわけですが
実はまだ新しく登場するキャラの名前が思いついておりませぬ・・・。
ストーリーより名前を考えるのに時間がかかっている気がするほどです。

165: 手強い名無しさん:05/11/26 03:12 ID:JYzcc6/s
ぼちぼち読んでます
ゆっくりと書き続けてください

166: 手強い名無しさん:05/12/12 23:42 ID:hytvtGgw
更新マダー

167: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/15 14:11 ID:E1USl4sQ
すいませぬorz
ただいま師走事&入社前研修で結構忙しかったりします
それでも現在イリア編を誠意執筆中ですので、もう暫くお待ちくださいませm(_ _)m

168: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/20 10:39 ID:E1USl4sQ
なんか見ないうちに結構宣伝で荒らされてますね。
管理人に報告っと((φ(..。)カキカキ
現在イリア編の終盤を執筆中。年内にはアップできるかな?
どーせクリスマスも単騎突撃余裕ですし('A`)

169: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/24 21:05 ID:9sML7BIs
大変長らくお待たせしました。
クリスマス・イヴを半日以上費やして、ようやくイリア編完結までこぎつけました。
後は文書校正のみですので、あと少しだけお待ちください。

°・:,。\(^-^ )♪メリー・クリスマス♪( ^-^)/,。・:・°





結局ソロなんですけどね('A`)

170: 第十八章:天空の黒騎士:05/12/25 10:49 ID:E1USl4sQ
「うーん。」
エトルリアからイリアへ続く山々を抜ける一行。その道中、またセレナが小難しい顔をして何か考え込んでいた。
「どうしたんだよ、セレナ。頭でも痛いのか?」
クラウドが馬上からセレナを見下ろした。上から見ると頭を抱え込んでいるように見えた。
「違うよ! 兄貴は男だから分からないのかもね。」
「?? あぁ、わかった。お前、今日アレだろ?」
「アレ??」
セレナが殴る準備をしながら兄に返す。どうせ兄の事だ。分けのわからないことを言うに決まってる。
「そう、アレ。あれだ、一ヶ月に一度の女の日だろ?」
やっぱりか、と言わんばかりにセレナは飛び上がり、兄の頭に拳骨を食らわした。
「ワケの分からないこと言うと殴るよ!・・・まったく、デリカシーに欠けるんだから。」
「いってー! 殴ってから言うなよ! じゃあ何をそんな唸ってるんだよ。」
クラウドが頭をさすりながら聞いた。昔からセレナにはよく殴られる。別に変な事を言ってるつもりはないんだけど、何故かセレナは怒る。なんでかなー。
「この前のミレディって奴。あいつの言葉が妙に引っかかってさ・・・。ほら、あたし達が正義と言うなら、こっちだって正義だって言ってたじゃん。」
「あぁ。そりゃお前、自分から俺は悪人だと言うやつなんて早々いないだろ。皆自分が正しいと思っているからその行動に出るわけだしよ。」
「うん、それはそうなんだけど・・・。逆に言えば、あたし達のやってることも、他の人から見たら間違っているかもしれないって事になるよね。」
その言葉に、クラウドは珍しく真顔になって反論した。
「そんなことあるもんか! お前や俺たちがこんなに苦労しながら、苦しんでいる人たちを助けて回っているのに、それを間違ってると言える奴なんているもんか。」
「そうかなぁ・・・。」
「へぇ、クラウドにしちゃあまともな事言うじゃないか。」
セレスがからかい混じりにクラウドを褒める。当のクラウドはそれを真に受けて照れている。
その会話に、他の者も混じってくる。自分達のやっていることがもし間違っているとすれば・・・それは悲しい事だ。良かれと思ってやっているだけに。
「セレナ、正義と言うものは一つじゃない。幾通りにも方法はあるはず。だけど、最終的に求めているものは、皆同じではないのかな?」
アレンが何時ものように諭す。ロイ様も度々言っていた事で、今度はその姫様が悩んでいる。ここは自分がその悩みから解き放ってやらなければとアレンは思っていた。
「セレナ、悩んでも仕方ないわよ。私達は、私達が正しいと思うことを精一杯やればいいじゃない。」
「そうだよ。それで間違えたら、やり直せばいいじゃない。姉ちゃんだってそう言ってたじゃん。」
皆セレナを励ました。何が正しくて、何が間違っているのか。それは主観で判断せざるを得ない。だから人によって正義と言うものは変わってくる。自分が正しいと思った道を信じて貫くことこそ大事だ。
「そうだね・・・。なぁ、ナーティ、あんたはどう思う?」
「ん・・・? あぁ・・・すまない、聞いていなかった・・・。」
セレナが同じ質問をナーティにぶつけてみる。だが、どうも今日のナーティは何時もの精彩に欠ける気がした。
「・・・と言うわけで悩んでいるの。・・・って! ちょっと聞いてるの!?」
「ん・・・? すまない・・・ちょっと一人にしてもらえるか?」
何か山の方をぼうっと見ながら歩いていた。そして、終いには一行と少し距離を開けて、後ろから一人で歩き始めた。どうも変だ。
「ナーティさん、どうしたんだろうね。」
シーナが不思議そうに言った。あんな様子のナーティは今まで見たことがなかったからである。
「あれじゃないのか? ナーティこそ、一ヶ月に一度の・・・うぎゃ!」
クラウドはそこまで言った時、今度はセレナだけでなく、シーナからも拳骨を貰ってしまった。
「全く・・・わが息子として情けない・・・。とにかくセレナ。正義なんていうものは早々簡単に決め付けられる事じゃない。ナーティ殿も言っていただろう? 何が善で何が悪なのか、それを決める事は容易なことではないと。」
「うん。」


171: 手強い名無しさん:05/12/25 10:51 ID:E1USl4sQ
「だけど、気をつけるべきことは、大勢の意見が善とは限らないと言う事。今のハーフを見れば分かるだろう?」
「うん・・・そうだね。わかった。それを判断できるようにあたしはもっとがんばるよ。」
そんな会話をしながら山々を抜けていく。周りの景色が広葉樹から針葉樹へと徐々に変わっていき、空気もどこか冷たくなっていくのが分かった。
イリアは、元々は騎士団が混在し、その騎士団一つ一つが小国のように領地を持っていた。それが前のベルン動乱で荒廃したり、没落した事を機に、連合国家という形で一つの国へとまとまったのであった。
その中心人物は、イリアの聖騎士と誉れ高かったエデッサのゼロットと、その妻で伝説の天馬騎士とすら言われたユーノであった。彼らは国の基盤を作り、
辺境の弱小国、金のために人を殺しまくる民族、という色眼鏡を何とか払拭しようと努力していた。そして、ユーノの実妹に当るシャニーがその国の騎士団のリーダーとして王都を警備していた。
イリアの人々は、ゼロットやユーノを聖王と崇め、気さくで明るいシャニーの人柄を慕い、その将来を嘱望していた。
だが、三人とも、前のベルンの変で戦死し、国もハーフに乗っ取られてしまった。騎士団も散り散りになった。処刑されたもの、騎士の身分を剥奪されたものなど様々だった。
この地を収めるのは、ベルン五大牙唯一の女性騎士、ロイ達を苦しめたあのマチルダだった。マチルダのやり方は徹底しており、
王都でのハーフ以外の種族の立ち入りを禁じていた。そして、もし王都にハーフ以外がいることが知れれば、その理由に関係なく極刑を下すと言う過酷なものだ。

イリアは騎士団が領土と勝手に決めていただけだったので、元々国境の線引きがあいまいであった。だが、足元に雪が見え始めたところからしても、どうやらイリア領内に入ったようである。雪はイリアの象徴であり、悩みでもあった。
「うー、寒い! はっくしょん!」
厚着をする騎士ですら、イリアの空気の冷たさは鎧を貫いて直接肌に突き刺さる。クラウドはその寒さに思わずくしゃみをした。
この地に慣れない者にとって、最大の敵は雪と寒さであった。雪で視界を奪われ、寒さで体の自由を奪われる。そんな五里「雪」中の状況で、突然空中から天馬騎士の襲撃を受けるのである。セレナ達もその恐怖を直ぐに味わうことになる。
「確かに寒いね・・・ぶるぶる・・・あぁ・・・ここではズボン穿かないと死にそうだ・・・。」
セレナも震える。いくら母親が雪国の人間だったからと言って、自分が寒さに強いとは思えない。オーバーニーのロングブーツとショートズボンでは寒さが身にしみる・・・。
同じように軽装備のナーティも、このときばかりは震えているだろうと思ってセレナがナーティを見る。しかし当の本人は、どうも気が抜けたように空ばかり見ていた。
「ナーティ、あんたは寒くないの?」
セレナが外套を羽織ながら、ナーティのところへ駆け寄る。
「ん・・・? いや、別に・・・。」
「うそー。こんな寒いのに寒くないだなんて・・・やせ我慢しなくってもいいんだよ!」
そう言いながらナーティの背に外套をかけてやる。それでもナーティは相変わらずだ。一体空に何があるのやらと思い、セレナが空を見上げてみる。
空は灰色の雲で覆われ、今にも吹雪そうな寒空だった。一刻も早く宿を見つけないと。そう思っていた矢先だった。
その灰色一色の空に・・・黒色の飛行物体・・・それが・・・高速でこちらに接近してくる!
「ねぇ!ちょっと、アレ何?!」
セレナが声を上げる。その声にナーティもはっと我に返った。そして、直ぐに今度は意識を持って空を見上げた。
「! 多分敵だ。 武器を構えろ!」
その黒色の物体がすぐに自分達の上空に降りてきた。黒色の飛竜だ。このイリアに飛竜・・・間違いなくベルン兵だ。
「お前達、旅の者にしてはいささか武装が過ぎてはいないか?」
竜上の男が、一行に声をかける。どうやらまだ敵意はないらしい。
「私達は、傭兵として世界を回っているんです。突然空からあなたが飛来したもので、つい・・・。」
「そうか。俺はこのイリアを支配するマチルダ将軍の実子でレオンと言う者。イリア騎士団を纏めている。今も何か事件が起こっていないか警備中だったのだが、失礼した。しかしこの頃各地で物騒な事件が起きている。お前達も気をつけることだな。」
そう言い残すと、そのレオンと名乗る男は飛竜を駆り、あっという間に寒空に消えた。


172: 第19章:The Dark Knight:05/12/26 07:57 ID:gAExt6/c
「ねぇ! 今聞いた!? 敵の大将の息子だって!」
シーナが慌てる。一歩間違えば交戦していたかも知れなかった。まだ自分達の素性は知られてはいないのだろうか。
「見た見た! あの人超かっこよかったね! あー惚れちゃいそう!」
「・・・姉ちゃん・・・!」
姉の緊張感のない発言に怒るシーナ。妹が自分以外の男に現を抜かすことに何か悔しさを感じるクラウドと、それを見て呆れるアレン。反応は様々だったが一人、違う反応を示す者がいた。ナーティである。
「あの槍・・・・あれは・・・。」
「どうしました? ナーティ殿?」
アレンがそれに気付き、話しかけるがナーティは何もなかったように返した。
「いや・・・なんでもない。それより、宿を探すべきだな。この寒さの中で野宿は体に障る。」
「そうですね。確か後半日も歩けば、シャニー様の生家のある村に着くはずです。そこに泊めて貰いましょう。」
自分達の本当の母親の生まれ故郷・・・。そこにもうすぐ行く事ができる。セレナもシーナも感動に似た感情に襲われる。だがそれと同時に、本当に自分がイリア皇族の末裔であるかどうかも確かめる事になる。何か怖い気もした。
「あの村に行くのか・・・。致し方ないか。」
ナーティがまたポツリと独り言をもらす。そんなナーティとは対照的に、双子の足取りは今までより心持早くなった気がした。

そして、日没も近い夕暮れ時に、ようやくその村にたどり着く。いつもはへばって情けない声を上げるセレナも、今回ばかりはそうはいかなかった。
「ここが・・・あたしの母さんの故郷・・・。」
その村は未だ17年前の惨事を形に残していた。瓦礫と化した家々は残してあったのだ。
一行は村人に案内してもらい、村長の家に招かれた。今日は温かいベッドで休息を取ることが出来る。誰もがそう思った。だが、事実はその予想を大きく裏切るものだった。
「何!? 貴様達はあのシャニーの娘達だと言うのか!」
「そうだよ。あたし達はロイとシャニーの間の・・・。」
「出て行け! あいつはこの村から追放された人間だ。 むろんその一族も同罪だ! さっさとこの村から出て行け! 我々にこれ以上災いをもたらすな!」
村人から石を投げつけられ、一行は村から追い出されてしまう。一体何があったというのか。セレナ達は自分達が受け入れられない理由が全く分からなかった。
「やはり・・・こうなってしまったか。」
ナーティがため息混じりに頭を抱えながら言った。
「なぁ! ナーティ、あんた何か知ってるんだろ? 教えてくれよ!」
セレナがナーティに走り寄りながら強い口調で訊ねる。暫くナーティは黙っていたが、やっと重い口を開いた。
「・・・お前の母親は、この村で、自らの姉を殺したのだ。」
「えぇ!? そんな、何でそんなことを!」
「私にそんなことを聞いても分かるはずがなかろう。だが、ここの人々がお前の母親を禁忌の存在とする真の理由は・・・。」
「理由は?」
「・・・。」
「言えよ!」
セレナが沈黙するナーティの胸倉を掴んで怒鳴った。セレナは半泣き状態である。
「お前の母親をおびき出すために、ベルン軍がこの村を焼き払ったのだ。その際かなりの犠牲者が出たらしい。」
「そんな!」
「それだけではない。その人々の目の前で、お前の母親は翼の生えた姿をあらわにした。その姿が人々には、災いをもたらす、呪われた力を持った堕天使に映ったそうだ。」
「そんな・・・母さんは何も悪くないじゃないか!」
「そうだよ! 村人を守る為にがんばったのに、それで追放にされただなんて、お母さんが可愛そう過ぎる!」


173: 第19章:The Dark Knight:05/12/26 07:57 ID:gAExt6/c
先ほどまで黙って話を聞いていたシーナも、とうとう我慢できずにナーティに当ってしまった。
「・・・私に当っても仕方ないだろう。それに、同情で事実に対し盲目になってはいけない。」
「どう言う事?」
シーナが少し落ち着きを取り戻しながら聞いた。
「お前の母親は、民を守るべき立場であったにもかかわらず、逆に民に大きな犠牲を出した。その事実に何ら変わりはない。その理由が例えどんなものであろうと。」
「それは・・・そうだけど・・・。」
「冷たい事を言うようだが、どれだけ本人が頑張ろうと結果が全てだ。結果的に民に犠牲を出したのであれば、人々に忌み嫌われても仕方ないだろう。」
「でも! でもそれじゃあまりにもやるせなさすぎるよ!」
シーナが珍しく熱くなって言う。それほど、理不尽な事がまかり通っていたのである。
「そう思うなら、お前達がベルンを倒し、人々を闇から救ってやれば良いではないか。結果を出した者だけが、英雄と呼ばれる。お前達が結果を出せば、相対的に母を救うことにもなろう。」
ナーティの言葉に、アレンも続けた。
「セレナ、シーナ。シャニー様は蒼髪の天使という呼び名で、広くイリアで愛されていた人だ。ここのように嫌っている人間は決して多くない。それも、心の隅に置いておいて欲しい。」
それを聞いて、双子は一層決心を新たにする。
「あたし達が頑張って母さんの無念を晴らして上げなきゃね。がんばろう、ね!シーナ。」
「うん! 私、ベルンを倒す明確な理由がもう一つ出来たよ!」

野宿の準備を終えた一行に、ナーティが突然話を切り出した。
「皆、ちょっと聞いてもらいたい事がある。」
「どうしたんだよ。」
セレナ達が集まってくる。ナーティがこんな風に皆を呼び集める時は、何か事柄を伝える時しかない。しかもかなり重要な。
「お前達も、昼に見たあの漆黒の竜騎士を覚えていると思う。」
「あぁ! あのカッコイイ人ね。」
セレナの反応を鼻であしらいながらナーティが続けた。
「ふ・・・。そうだ、あの竜騎士だ。だが、問題はその竜騎士本人より持っていた槍だ。」
「槍? ・・・なんかそう言えば・・・凄く強そうな槍だったね。」
シーナが頭にあの時の情景を浮かべて思い出しながら言う。アレンがやはりと言うような口調でセレナ達に説明してやる。
「ナーティ殿も気付いておられましたか。セレナ、シーナ、あれはマルテと言う槍だ。別名を氷雪の槍と言い、かつて人竜戦役で騎士バリガンが用いた神将器だ。」
「マルテですって!? ベルン軍が所持しているのか・・・厄介ですね。」
セレスがあごに手を添えながら考え込むように言った。ただでさえマチルダ将軍という強敵が立ちはだかっているのに、更に神将器まで敵の手中にある。
「そう言う事だ。真っ向から戦って勝てる相手ではない。まずは町で情報収集をしたいところなのだが・・・。」
ナーティはそこまで言うと、腕組みしたまま黙り込んでしまう。
「そうだね。じゃあ、明日から早速・・・。」
そこまでセレナが言ったところで、セレスが止めた。
「それが、ダメなんですよ。王都にはハーフ以外は進入禁止なんです。もし中にハーフ以外のものがいることが知れれば、その場で斬首です。」
「ひぇ〜、おっかねぇなぁ。」
クラウドがぎょっとしたような表情を浮かべる。昔からマチルダは、冷血な智将として有名だった。
「じゃあ、私とクラウド兄ちゃんで王都の様子を探ってくれば良いんだね?」
シーナがクラウドの目を見ながら皆に言った。シーナとクラウドなら、同族には甘いハーフ相手に気付かれる事もなく、王都の詮索が出来る。
「そうだな・・・。危険な賭けだがやむを得まい。シーナとクラウドが王都を探っている間に、我々は人間たちの住む北のほうを当ってみよう。」
ナーティが、よく言ってくれたと言わんばかりに、シーナの顔を見ながら言った。アレンは、姫を自分の元から離れさせる事は極力避けたかったが、こうするより他は無かった。クラウドだけではなにをするかわからない。
「クラウド、シーナの言う事をよく聞いて、敵に気付かれないように行動するんだぞ?」


174: 手強い名無しさん:05/12/27 08:18 ID:gAExt6/c
アレンが息子に警告する。自分も若いころ、直情径行でよく突撃していた。だからこそ、息子の性格もよく分かっていた。今でもそうだと言われればそれまでだが。
「なんだよそれ! 俺のほうが年上なんだぞ?」
クラウドが怒ったように父親へ反論する。アレンの言葉を知らない人が聞いたら、きっとシーナが姉なのだと思うだろう。
「はははっ、兄貴よりシーナのほうが落ち着いて見えるもんね〜。」
セレナが笑いながら茶化す。お前にだけは言われたくなかったぜ・・・。クラウドは心の中でそう思った。
「でも、私達を人々は受け入れてくれるでしょうか・・・。 昼間のようになったら情報収集どころではないわ。」
アリスが心配そうに言った。自分はイリア王国の王女。イリアを統べていかねばならない立場だ。だが、自分達は必ずしも歓迎されるとは限らなかった。助けようと思っているのにその想いが伝わらず、一方的に拒否される・・・これほど悲しい事もない。
「イリアの民はゼロット王を聖王と崇めていた。アリスは亡きゼロット王の嫡子。お前が皆の前に姿を現せば、人々はきっと歓迎してくれるだろう。」
ナーティだけでなく、アレンも続けた。昔、ロイ達がイリアに駐留していたときの思い出を・・・。
「大丈夫。きっと、人々は助けを求めているはず。昼間の人々は特殊なんだ。英雄ロイ様と蒼髪の天使シャニー様の間の子と知れば、人々はきっと歓喜するだろう。昔は炎の天使と言って、皆がセレナ達の誕生に歓喜したものだ。」
・・・あの時の事が、アレンには昨日のように思い出された。
「よーし、じゃあ決定! 明日から二手に分かれて情報収集だ! 兄貴、シーナ、頼んだよ。」
セレナの掛け声に、ハーフ二人組みが手を上げて答える。
「おう! 任せとけ!」
「姉ちゃんもヘマしないでよ!」
イリアの寒空に、焚き火の赤と、一同の笑い声が響いていた。

一方、ここはイリアの王都エデッサ。あの漆黒の竜騎士レオンが、警備を終え、王城に帰還した。
「母上。レオン、只今帰還いたしました。」
レオンが兜を外しながら母親マチルダに帰還の報告をする。
「ご苦労様、レオン。劣悪種の様子はどうでしたか?」
「はい、ますます貧困にあえぎ、苦しんでいます。特に幼子を持った母親は栄養状態が悪い為か乳の出が悪く、死んでいく赤ん坊も多いと教会の神父から聞いています。」
「そうですか。では反乱を起こす力も残っていないようね。じゃあ、王都周辺の同族の暮らしはどうでしたか?」
マチルダは人間達の状況は軽く聞いただけだったようで、同族の暮らしのほうが気になるらしかった。
「・・・。同族たちは母上の統治のおかげで今年の冬もそのまま乗り越えられそうです。衣食住、全てに欠いている様子は見られません。」
その言葉を聞き、マチルダは笑顔を見せた。
「そうですか。それはよかった。この頃世間では物騒な事件が多くおきていますからね。西方のサンダースも、エトルリアのリゲルも、取るに足らない将ではありましたが・・・。ベルン五大牙が二人も倒されるとは・・・。」
母親のその様子に、レオンが怒ったような口調で進言した。
「母上。出すぎたことを申すようですが、もっと人間達の生活を保障してあげるべきではないでしょうか?」
それを聞いた途端、マチルダの笑顔は消えた。そして、レオンに近づきながら言った。
「それは、どう言う事ですか?」
「はい。我々の生活が成り立っているのも、人間達から搾取を繰り返しているからに他なりません。小麦にしろ、土地にしろ、絹糸にしろ・・・。このままではいずれ歪が限界に来ます。もっと共存できるシステムを・・・。」
そこまでレオンが言ったところで、マチルダはレオンの頬をぶった。
「劣悪種と共存ですって?! 貴方にはハーフとしての誇りというものがないのですか! 劣悪種は優良種のために存在しているのです。貴方はペットの犬と同じ穴倉に住み、同じ残飯を食べて生きろと言うのですか、それと同じです!」
マチルダが厳しい口調で息子を叱咤する。レオンは母親の人間への待遇がどうしても納得できなかった。
「しかし! 我々にも半分は人間の血が流れているのに、どうして同じ血の流れるものを虐げなければならないのですか!」


175: 手強い名無しさん:05/12/27 08:20 ID:gAExt6/c
「我々は血は同じでも、全くの別物。だから劣悪というのです。それに彼らは野蛮です。野心に溢れ、嫉妬し、憎しみ合い、そして殺しあう。そんな野蛮な種族は滅ぶべきなのです。」
「ですが! 他の種族を虐げてまで自分達が豊かになろうと言う考えが正しいとは、俺には思えない!」
「・・・何が言いたいのですか?」
「母上、考え直してください! このままでは我々は単なる圧政者です。人間だってイリアを形成する大事な臣民。その臣民から憎まれては、国は生きていけません!」
マチルダはとうとう息子の喉下に、腰に刺していたレイピアを突き当てた。
「人間は臣民などではない! 犬同然だ! ・・・まだこれでも寛大なほうですよ? 実験に使う以外には手を出していないのですから。本当なら! 人間など根絶やしにしてやりたいものなのに!」
マチルダは何時もの冷静さを欠いたように、怒鳴りながら息子に説教をする。
「貴方にも教えたでしょう! 我々がどんなに差別されてきたかを! それでもそのようなことがいえますか!?」
レオンは喉もとのレイピアを払いのけ、距離をとって母親に言い返した。
「俺は母上の考えは理解できない! 差別されからって仕返していたら、何もならないじゃないか!」
息子の逆上の仕方に、仕方なくマチルダもこの場は自分の感情を抑えた。
「・・・全く、聞き分けのない子。自分の息子だとは思えないわ・・・。レオン、貴方は私の命令に従えばいよいのです。息子とは言え、貴方と私は主従関係にある。口には気をつけなさい。」
レオンも何時もの冷静さを欠いていた事に気づき、下を向いてしまう。
「は・・・。申し訳ありません、母上。」
「少しは貴方の考えも頭に入れておきましょう。今日は下がっていいですよ。」
「はい・・・。」
レオンが軽く一礼し、部屋から出て行った。それを見て胸を撫で下ろすマチルダ。マチルダも心の底では怖かった。あちこちで反乱が起きている。このイリア内でも、その火種がないというわけではない。しかも、事もあろうにそれが自分の直属の部下であり・・・息子である。
「それにしても・・・血は争えませんね・・・。まさかあそこまで気が強い男だったとは・・・。あの父親も騎士道精神に溢れた強い騎士だった・・・。劣悪種に生まれていた事が惜しいくらいに・・・。」
翌朝、王都とその周辺から情報を収集するために、早速セレナ達は二手に分かれて出発した。
「兄貴大丈夫かなぁ。シーナが付いてるから大丈夫だとは思うんだけど・・・。」
セレナが兄を心配する。直情径行が激しく、思ったことは言わずにはいられない兄だ。王都でもし変な事を言えば、たちまちベルンに囚われてしまう。
「ふ、人の事より自分の心配したらどうだ? お前も十分危なっかしいぞ。」
「全く同感ですね。」
ナーティとセレスが、二人してセレナのほうを見る。セレナはばつが悪いと言った表情で言い返した。
「何だよ二人がかりで! ・・・ちぇ、とことん信用されてなくてあたし可愛そう。」
いじけるセレナをアリスが慰めながら撫でてやる。
「大丈夫よ。貴女は今までもしっかり頑張ってきたじゃない。今回も同じように頑張ればいいの。シーナもクラウドもきっとうまくやるわ。私達は、私達の使命をしっかり全うしましょ。」
「アリス様の仰るとおり。我々はこのまま東進してカルラエを目指しましょう。そこが人間の最大の居住区のようですし。」
アレンが馬を駆り、先陣を切る。雪がちらつく早朝。東の空は暗い。吹雪き出す前にカルラエに到着しなければ危ない。アリスにとってもセレナにとっても、そしてセレスにとってもイリアは第二の故郷。その故郷を救いたいと言う気持ちは素直に歩調に現れていた。
その日の夕刻、セレナ達はカルラエに到着する。かつて四半世紀前には天馬騎士団の本拠地があった地で、今でも天馬の産地として有名である。人々はやせた土地で小麦を栽培し、それを王都に重い年貢として納めながら、自らは雑穀を食べて生きていた。天馬は唯一の収入源で、軍用馬として調教しては、王都に納めていた。
セレナ達が見た光景は一面の小麦畑と、天馬の放牧場だった。とてものんびりした光景だったが、その裏では過酷な暮らしを余儀なくされていたのである。
「へぇ・・・思ったより酷そうじゃないね。」
セレナが一面の小麦畑を見ながら言う。人々は寒空の下、ひたすら麦を踏み、天馬を調教していた。何処にでもある田舎の風景に見えた。
「見た目には分からないかもしれないな。だが、それが落とし穴だ。見た目はキレイに見せているのだ。だが、その内側は・・・。」


176: 第二十章:新芽の如く:05/12/28 09:59 ID:gAExt6/c
ナーティがセレナに説く。表面を見ただけで酷いと分かるなら、人々もきっと反乱を起こすだろう。だが、ここには見せかけの平和が流れている。年貢さえ納めれば迫害はされなかった。だが、それは「殺されないで済む」だけであり、「希望を持って生きる」と言う人間としての生き様とは程遠いものだった。
ナーティの言葉に更に誰かが続けて言った。
「左様。見た目にはワシらが日々死と隣りあわせだと言う事は分からんじゃろう・・・。」
一同がその声に振り向く。そこには老人が立っていた。
「ゼロット様やユーノ様、それにシャニー団長がおった頃は、ここも活気に溢れておった。じゃが、前のベルンの変で皆倒れて以来、わしらはただ生かされておるだけの存在となった。」
一行はその話を黙って聞いていた。その間に雪が次第に激しくなってきていた。
「おぉ・・・寒いわい。旅の人たちも宿を探しておるのじゃろ? わしの家に来るといい。さ、こっちじゃ。」
その老人はセレナ達を温かく迎えてくれた。その老人はどうやらこの村の長老らしかった。
「ゼロット様はまさに聖王と呼ぶに相応しいお方じゃった・・・。」
長老は昔の事を思い出すように言う。そして、その言葉には、その聖王の再来を願う気持ちもこもっていることが伝わってくる。
「父のことをそこまで良く仰っていただけて光栄です。私も出来る限り努力いたします。」
アリスが父を思い出しながら、長老に礼を言った。仕事が忙しくてあまり一緒にいてくれなかった父だが、優しくて一緒にいるときは常に抱いてくれていた事を、アリスは覚えていた。
「! 今何と言った?! 父!? と言う事はお前さんは聖ゼロット王の・・・?!」
長老がさぞ驚いたような口調でアリスの顔を見る。そして、顔に触ってみる。
「おぉ・・・言われて見れば・・・そなたはユーノ后妃そっくりじゃ・・・。」
「はい。私は確かにゼロット王とユーノ后妃の間の子、アリスです。」
「ベルンの変で亡くなられたと思っておったが・・・神はわしらを見捨てたわけではなかったか・・・。」
長老は涙を流して天に拝んだ。その様子が、ベルンの支配の酷さを物語る。アリスは続いて、セレナも長老に紹介した。長老は更に驚いた。
「おお! そなたが・・・。この村、いや、イリアの民は例外なくロイ様とシャニー様を慕っていた。・・・そなたが“炎の天使”か・・・。似ている・・・シャニー様に瓜二つじゃな・・・。まるでシャニー様が目の前にいるようじゃ・・・。」
「貴方達は、母さんの事忌んでないの?」
セレナは長老の感涙を流す姿に驚いた。昨日の村とは対応が180度違ったからである。
「誰が忌むものか・・・。 あの子はわしらにとって天使の様な存在だった。戦争が終って荒廃したイリアを再建するときも、彼女の笑顔でどれだけ救われた者がいることか・・・。忌むべきは今のベルンじゃ。」
「そうですね。長老、我々はベルンを倒すべく、イリアまで来たのです。どうか、ここの人たちにも協力をお願いできないでしょうか?」
アレンが長老に協力を要請する。この人たちならきっと力になってくれる。アレンは確信していた。イリア民族は元々団結力の強い民族だ。普段は雪のようにしんしんと静かに暮らしているが、その団結力は雪崩の如く強い力を持っている。
「我々を導いてくださった恩人の子孫が頑張っているのに、それを見ているだけと言うわけには行きませぬ。勿論わしらも協力します。この村には騎士の身分を剥奪されたものも多く住んでおる。それにしても・・・シャニーの子が生きていたとなれば、ルシャナも喜ぶじゃろう。」
長老がそういった途端、今まで黙っていたナーティが突然声を上げた。
「何? 長老、ルシャナは生きているのか?」
「おぉ。お前さん、知り合いか?」
「いや・・・別に。シャニーのあとのイリア騎士団長だと聞いたことがあったから知っていただけだ。」
そういうとまたナーティは窓の外見ながらだんまりを決め込んでしまった。
「さて、今日の宿は確保できた事じゃし、皆に顔を見せに回ってはくれぬか? 皆光の無い闇の中で生きてきたゆえ、希望を失っておる。そなた達が行ってやれば歓喜する事じゃろう。」
長老は村人達を村の教会に集めた。そして、村人達にセレナ達を紹介する。最初は疑心暗鬼にどよめいていた。しかし、アリスやセレナがその親にそっくりな事が分かると、そのどよめきは一気に歓声に変わった。皆英雄の再来を心待ちにしていたのである。ある者にとっては、自分達の生活を豊かにしてくれた聖王ゼロットの子と、世界の英雄ロイの子。またある者にとっては、伝説のイリアの聖母の子と、イリアの心に春をもたらす熾天使の子・・・。その姿に重ね映す像は人それぞれ違っても、自分達を救ってくれる救世主が表れたという歓喜の気持ちに変わりはなかった。


177: 手強い名無しさん:05/12/28 10:00 ID:E1USl4sQ
「皆、あたし達もがんばる。だから皆もあたしたちに力を貸して!」
セレナのその声に、民衆が怒号にも似た大きな声で合点し返した。雪が深深と降り、冷えた教会が人々の熱気で沸きあがった。
ナーティは教会の外で、教会に巡回のベルン兵が近づかないか見張りをしていた。頭にも肩にも雪がしっかり積もっている。・・・寒くはないのだろうか。
そのナーティにも、教会の中の歓声は耳が痛くなるほど聞こえていた。
「・・・この歓喜のし様・・・やはりマチルダのやり方は酷いものがあるようだな・・・。」
ナーティは気付かないうちに、震えるほど握った拳に力が入っていた。その言葉に何者かが続けた。
「そうさ・・・。あいつの元では私らは生きていけない。・・・でも、私達では守れなかった。大事な・・・大事な祖国なのに・・・っ。」
ナーティは焦って振り向いた。自分とした事がボーっとしてしまっていた。振り向いた先にいたのは・・・赤毛の女性だった。
「貴女は・・・ルシャナか?」
ナーティが記憶をたどるようにしてその女性に問うた。
「あぁ・・・そうだけど。何であんた私の名を?」
「・・・書物を読んで知っていたからだ。イリア王国最後の騎士団長と・・・。」
その言葉を聞き、ルシャナはふうっと目を瞑りながら軽く笑った。そして、そのまま答えた。
「そうさ。私がイリア王国最後の騎士団長だった。・・・私がもっとしっかりしていればそうならずに済んだかもしれないけどね・・・。」
「そんな風に自分ばかりを責めても仕方なかろう。」
「でも事実さ・・・。ロイ様が倒されて、国内の士気が急激に下がった。私はそれを食い止める事ができなかった。・・・そしてあの夜を迎えた・・・。」
「エデッサ城の・・・陥落か?」
「あぁ・・・マチルダと他にもう一人、羽根の生えたやつが来て、そいつの放った魔法で微塵に砕け散ったさ・・・。あの夜の事は、いまだに忘れらない・・・。」
ルシャナは16年前の話をまるで昨日の事のように鮮明に話す。その顔には、苦労シワが多く刻まれていた。ナーティもそれに返す。
「・・・その後皆はどうなったのだ?」
「私みたいに騎士の身分を永遠に剥奪されて、帯剣禁止になった者も多いし、私の夫みたいに見せしめに処刑された者もいたよ・・・。」
「・・・ラルク騎馬隊総司令か?」
「ああ。よく知ってるね、あんた。その際マルテもベルン軍に没収された。それに・・・。」
「それに?」
「私は子供も奪われた。ラルクの子だから危険だって言ってね・・・。もうこの世にはいないだろうね。」
「・・・。」
沈黙するナーティに、積もった雪を手で払いのけながらルシャナは立ち上がり、最後に言った。
「でも、こうやってゼロット様やロイ様の子が世界を救おうと頑張ってるんだ。私もベルンに一矢報いたいし、協力するかな!」
「・・・ありがとう、感謝する。」
「ううん、いいんだよ。それに・・・私は親友と約束したんだ。生きてる限り、イリアを良くする為に頑張るってね。もうあいつもこの世にはないけどさ・・・。さて、寒いし私も教会に行くよ。」
そういいながらルシャナは教会の中に入っていた。その背からは、絶望に虐げられながらも、何か強いものが込みあがるのが分かるような気がした。
「・・・。しかし、まさか・・・あいつは・・・?」
ナーティが降りしきる雪の中、ポツリと独り言をもらした。


178: 手強い名無しさん:05/12/28 11:47 ID:OL1ZbSRA
乙です。
完結するまで感想は保留した方が良いのだろうか…
話の畳み方によっては物語が破綻する気がする。

179: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 12:31 ID:E1USl4sQ
いえいえ、どうぞ。
むしろ書き込んでいただいたほうが今後の課題解決に繋がるかもしれませんし。
物語が破綻するというのはこちらとしてもどういうことかちょっと興味がありますし。。

180: 手強い名無しさん:05/12/28 13:05 ID:OL1ZbSRA
疑問点(違和感かも)
セレナの目指している(と思われる)、「ハーフも人間も共存できる世界の実現」の必要性が全く感じられない。
@エレブ人に作中の「異世界からやってきたハーフ」を差別してきた歴史があるのかどうか(恨むのは筋違い)。
A生物学的に寿命、身体能力が人間より確実に「優良」であるハーフが人間社会で対等に共存できるのか。
 (更に、一方的な被害者であるエレブの人々が悪党集団のハーフを受け入れる理由が思いつかない)
Bハーフが暴虐の限りを尽くせば尽くすほど、同族である主人公達の作中における立場も悪くなりはしないのか。
(主人公側の「綺麗さ」を描こうとしてハーフを殊更悪辣に描いていないか。(完全懲悪モノなら問題は無いけどセレナの理想とのギャップ)。)
C十七年?も虐げられてきたエトルリアの人々がハーフとの差別?を簡単に「ある意味克服」できてしまう理由。
 (妻や恋人を不当に奪われ、家族を殺され奴隷にまでされた人類と加害者であるハーフの溝って)
D「私達ハーフはあちらの世界で人間に差別されています。セレナさん、悪い人間をやっつけてください」
 と言われたらセレナはハーフに味方するのか。人類と敵対できるのか。
 生まれも育った環境も恵まれたセレナの行動原理は純粋な正義感、貴族的な使命感のみ。
 一部の終わり方から推測して、主人公側の、仇とか遺志を継ぐとかの悲壮感は読むにあたって除外してる。

181: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 14:16 ID:E1USl4sQ
@
ハーフも人間と同じように何者からも迫害されずに生きたいという気持ちに変わりは無いはずです。
ハーフが乗り込んできた理由は、もう一つの大陸で迫害され生きる場所を失った為です。
何処の大陸であろうと、人間族は憎い。「人間族」と一括りにしてしまっているのです。
人間族もハーフも、自由に生きたいという考えが一致している以上、皆が(種族にかかわらず)共存できることが一番とセレナは考えたわけです。

A
それは大陸に住む人々の心の問題です。
ハーフは寿命が長い故に生殖能力が低いと言う竜族の特徴も持っていると言う設定です。
この小説で核になっている「心」の部分をどうやってこれから書いていくかは私の手腕が問われることになりそうですが。
補足部分については、もう一つの大陸が物語上で語られる様になると分かるかもしれません。

B
セレナ側でハーフなのは、シーナとクラウドの二人。
大抵の魔力の無い人間には、ハーフや竜族には分かる「エーギルの流れ」と言うものがわかりません。
ハーフからは種族の断定が出来ても、人間からはわからないのです。見た目は同じ容をしていますから。(ちょっと都合がいい気もしますけど。。)
>主人公側の「綺麗さ」を描こうとしてハーフを殊更悪辣に描いていないか
これは若干あるかもしれません。ところで、優良種、劣悪種を言うのは、ベルンのトップによるある種の思想統制のようなものです。
ハーフたちは、ベルンのトップ(メリアレーゼ)こそが、自分達を救ってくれる神だと信じて疑わないのです。
信仰は、時として人を盲目に変えます。これは現実でも何度か人間が体験している事です。
また、セレナ達が軍ではなく、あくまで傭兵団として行動をとっていることもいい意味で隠れ蓑になっているかもしれません。

C
これはエトルリアの雄、パーシバル将軍の統率力に期待するところでしょう。
すぐさまお互いの誤解を解くことは難しいことです。少しずつ、互いの距離を縮めて行く事になります。
まずはそれを妨げていたリゲル率いるベルン総督府を倒したことが、大きな大一歩に変わりはありません。
その後の発展を促す為にも、パーシバルのような周りを見る力を持ったリーダーが、皆を統べて行く必要があるのです。
それにはセレナ達がまず諸悪の根源を潰さなければなりません。
しかし、ここで潰すだけでは、迫害対象が人間→ハーフになるだけに終ってしまいます。ここをどうするかが彼らに課せられた使命ともいえます。

D
セレナはまだ、もう一つの大陸における悲惨な状況を知りません。
もし、それを知った時、彼女がどう思い、そして行動をとっていくのか。
そして、自らの理想を数々の矛盾を乗り越え達成できるのか・・・これはまさに物語の核とも言えます。
セレナの行動原理は、「種族が違うだけで差別されるのはおかしい」という気持ちと
両親が達成できなかった(ハーフを追い出すだけでなく、何とか分かり合おうとする)
志を継ごうとする気持ちです。
もし、セレナが大陸で迫害を受けていたら、使命感だけでなく、明らかな憎しみで戦うことになります。
両親を殺した憎い相手には変わりませんが・・・。
強力な憎悪感は正常な思考を麻痺させます。それはハーフの暴挙を見てもお分かりになると思います。
セレナは熱血漢・・・じゃなくて女ですから、自分が信じたものをひたすら貫こうとします。
ロイもそうでしたが、平和の為に犠牲が出ることはセレナにとってはタブーなのです。
だから、今はまだ世界をハーフの支配から開放する、という考えのみですが
彼女がもう一つの大陸の惨状を知った時、そのまま
こっち(エレブ)から追い出しちゃえばそれでいいじゃん、と言う考えには絶対至らないと言う事です。
ハーフもまた、犠牲者なのですから。
問題は、自分達の大陸で住む場所がなくなったから、他の大陸で元から住んでいる人々を追い出してまで
自分達の国を作ってしまおうとしたその考えです。
憎悪感に押しつぶされそうになりながらも、今の状況がおかしいと思っているものが、敵の中にもいます。
彼らのその激しい憎悪感を埋めるには・・・さて、どうしましょうか。

物語的には、まだ新大陸の名も出てきていないし、ミレディのいる謎の集団の黒幕も登場していません。
これからが盛り上がっていく・・・様にしたいです。個人的に。

だらだらと長くなってしまいましたが、違和感をある程度取り除くことが出来たなら幸いです。





182: 手強い名無しさん:05/12/28 15:07 ID:OL1ZbSRA
回答有難うございます。
自分が「破綻しそう」と思ったのはガンダムSEEDシリーズとあらゆる点で似てる気がしたからです。
主人公=キラ+ラクス&アークエンジェル
ハーフ=コーディネーター+ブルーコスモス的思想

あと、二次創作におけるメアリ・スー度がかなり高い気がしたので。

183: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 16:38 ID:E1USl4sQ
そうなんですか・・。
ガンダム系はよく知らないので、知り合いのガンダムファンに聞いてみることにします。

184: 第二十一章:天空の黒騎士弐:05/12/29 10:27 ID:E1USl4sQ
セレナ達が村人達と打ち解けあっているころ、クラウドとシーナは吹雪の中、ようやくエデッサに到着する。馬と天馬を用いても、イリアの奥地まではこれだけの時間を要する。
「うー、さぶっ。シーナ、お前よくこんな中を天馬で飛んでいられるな。」
「さ、寒くなんか、な、ないもん。 兄ちゃんが・・・弱いだ、だけだよ」
シーナが空中から下降してきて言う。唇は紫色だし、体中が震えている。やせ我慢をしている事は誰が見たって分かる。
「我慢するなよ。まったく、降りて来いよ。」
シーナは兄に言われるままに降りてきた。すると、クラウドがシーナを抱いた。それにシーナが反発する。
「うわっ、何するのよ!」
払いのけられたクラウドのほうが驚いた。
「何で嫌がるんだよ。寒いんだからくっついたほうがいいじゃねーか。」
「いいの! 私は別に寒くなんかないもんね!」
やたら元気に見せるようにして王都内を歩き出す。兄だと分かっていてもやっぱり異性。どうしても意識してしまう。当のクラウドのほうは、全くそういうものはないようだが。
「俺は寒いんだよー。あー、セレナがいれば押し競饅頭でもするのにさぁ・・・。」
「ホンット、兄ちゃんってデリカシーに欠けるよね! 早く宿探そうよ。」
吹雪いて来たためか、町の中に人影はちらほらとしか見えない。だが、その見る人はどの人も、温かそうな毛皮のコートにブーツを着込んでいる。この前追い出しを喰らった村の人間達より、かなり裕福そうである事が、見た目からも分かる。
「おい、そんな格好で寒くないのか? 若いって良いよなぁ。・・・ガクガク。」
見張りの巡回兵が、シーナたちを見つけて話しかけてくる。やはり同族には直ぐに心を許すようである。
「それがさぁ、俺たち傭兵として各地を回ってて・・・まさかこれほどまでに寒いとは。」
クラウドがまるで親友感覚で返す。見知らぬ人と話す際にはちょっと警戒してしまうシーナとは対照的に、クラウドは誰とでも友達感覚だった。
「ここの寒さは格別だからな。早く宿探さないと凍え死ぬぞ?」
巡回兵はそういい残して去っていった。シーナの震えが先ほどより一層酷くなる。吹雪の中、天馬で飛んでいた為に、冷えはクラウドより酷かった。
「おいおい、大丈夫かよ。・・・無理するなって。」
クラウドがもう一回シーナを包んで歩き出す。もう今度は抵抗できなかった。寒くて体が動かなかっただけでだと、シーナは自分に言い聞かせた。しかし、実際は違った。何となく、いつまでもこうしていたいと言う気持ちが、心の奥底にはあった。
「・・・デリカシーにかけるんだから。」
二人はようやく宿を見つけ出し、その中に入る。中は暖炉で火が赤々と燃え上がり、温かく保たれていた。まるで地獄から天国に上ったような感覚が二人を襲う。
そんな束の間の幸せもシーナの声で一気に吹き飛ぶ。
「えー!? 満席でシングルしか空いてない!?」
イリアは農作物が取れず、他の地域との取引が多い。宿も多くの商人が利用する。殊の外冬は、それら商人がもたらす食料によって、イリアは何とか生き延びる。そのため、宿は商人でいっぱいらしかった。
「・・・仕方ねぇよ。外で凍え死ぬよりはマシだ。」
クラウドがそのまま料金を支払い、部屋に入っていく。シーナも仕方なくその後を追う。
「今日は吹雪いてるし、もう遅いから情報収集は明日からにしようぜ。」
クラウドは外套を脱ぎ、それに付いた雪を払いながらシーナに言った。シーナもロングブーツを脱ぎ捨て、ベッドの上に寝転がっている。
「言っとくけど、ベッドは私のものだからね!」
「へいへい。お前さ、そうやって俺と二人きりでいるときみたいに振舞ってたほうが可愛いぜ? 外にいるとやたら堅苦しそうに振舞ってるけどよ。」
兄のその言葉にシーナはドキッとしてしまう。特にそれが、意識した相手だと尚更だ。
「やっぱりさっき抱きついてたのも下心があったんだな! 兄ちゃんてやっぱサイテー!」
「??」
クラウドは何故妹にサイテー呼ばわりされるのか分からなかった。思ったことを言ったまでなのに。・・・シーナは可愛いと言われるのが嫌いなのか?
「あー、わかった。悪かったよ。」
「・・・。」


185: 手強い名無しさん:05/12/29 10:27 ID:E1USl4sQ
「お前は可愛いんじゃないな。キレイなんだ。」
「!!・・・っ」
ベッドから飛び起きると、シーナは珍しくクラウドに拳骨を食らわした。
「バカ!」
シーナはそう言うとベッドに潜りこんでしまった。クラウドは何故拳骨までされるのかやはり理解できていないようだった。・・・俺なんか変な事言ったかなぁ。可愛い妹に可愛いって言って何が可笑しいのだろう・・・。
暫くそんな沈黙が続いた。クラウドはシーナに話しかけられず、ベッドも占領されて、仕方なく窓辺で暖炉の火に当たりながら外を見ていた。
セレナ達、しっかりやってるかなぁ・・・。まぁ親父達もいるし心配する事でもないか。きっと相手もおんなじこと考えてるだろうな。俺がヘマしてないかって・・・。俺って何でそう信用されてないんだろうなぁ・・・シーナにも殴られるし。はぁ・・・。
だが、俺だって親父に負けないぐらいの騎士になると誓ったんだ。そして、お袋の仇を取るんだ。ここの将軍が俺のお袋の両親・・・つまり俺のじいさんばあさんを殺したんだったな・・・。その仇、絶対にとってやるぜ。
暫く一人で色々考えていると、ふと声が聞こえてくることに気付いた。
「・・・兄ちゃん。」
シーナだった。まだ起きていたのか・・・?
「うん?」
「そんなところにいて寒くないの?」
「寒くないのって・・・。お前がベッド占領してるからここしか居場所ないじゃんか。なぁに、暖炉の前にいるから寒くはねぇよ。」
「・・・久しぶりに一緒に寝る?」
シーナのその言葉にクラウドは驚いた。何時もは寝相が悪いといって絶対に隣に寝させてくれないのに。
「お、いいのか? サンキュー。」
待ってましたと言わんばかりにベッドに飛び込んでくるクラウド。兄といい、姉といい、どうして二人とも遠慮がないのか。そう思いながらもシーナは話した。
「さっきはごめんね。」
「? 何が?」
「グーで殴ったでしょ?」
「あぁ、気にしてねぇよ。セレナのおかげで殴られ慣れてるよ。」
兄は優しかった。絶対に怒らないし。シーナはそんなクラウドが大好きだった。言葉には言いあらわせられないけど。いつもセレナには反抗するが、クラウドにはあまり反抗しなかった。やっぱり好きだから?でも、姉の事が嫌いと言う訳でもないし・・・むしろ姉の事も好きだった。
「ねぇねぇ。」
「うん?」
シーナのねぇねぇにいつもクラウドは、うん?で返していた。
「兄ちゃんは、好きな人とかいるの?」
「一杯いるぜ。セレナもお前も、アリスの姉貴も・・・西方の皆も好きだぜ。」
「・・・。そうじゃなくて! その・・・好きな女の人とか居るの?」
シーナはここまで聞いておきたかった。こんなこと、姉とか他の人がいるところで聞いたら茶化されてしまう。
「好きな女の子? うーん・・・。」
クラウドは暫く考えてみたが、該当する者はいなかった。というか、そんなこと今まで考えた事すらなかった。
シーナは自分と言って欲しくてたまらなかったが、やはり相手にその気はないようだった。でも、自分の気持ちも伝えておきたかった。身近な人であるだけに。
「私は・・・その・・・兄ちゃんの事好きだよ?」
シーナは勇気を振り絞っていってみた。シーナにとってクラウドは大好きな兄・・・いや大好きな人だった。さっき吹雪の中で抱かれたときのあの気持ちは、“兄に”抱かれたからではない・・・。そう思った。
「へ? そりゃ、俺だってお前の事大好きだぜ、可愛いもんな!」
クラウドはそのシーナの言葉を深読みせずに直ぐに笑顔で返した。クラウドにとって、シーナは妹だった。だから、その妹に好きだと言われる事も、あまり違和感がなかった。可愛いと言いながら頭を撫でてやる。


186: 手強い名無しさん:06/01/04 08:42 ID:gAExt6/c
しかし、その行動が逆にシーナを落胆させた。・・・やっぱりわかってもらえなかったか・・・。
異性として兄を見る自分と、妹として自分を見る兄。意識の差は大きかった。
「はぁ・・・やっぱり兄ちゃんは兄ちゃんだよ。」
「?? 何言ってんだ? シーナ、お前風に当りすぎて風邪でも引いたのか?」
そういいながら真剣な目で、シーナの額に手をやるクラウド。その真顔に、兄なりの優しさを汲み取ったが、やはりその、何というか期待と斜め上の方向の行動を取る兄に、呆れてしまう。
「そうみたい・・・。明日も早いし、もう寝るね。」
そう言うと、シーナは反対側を向いて頭から毛布を被ってしまった。・・・やっぱり兄ちゃんなんか嫌いだ。・・・兄ちゃんのバカ!

翌日から、二人は王都での情報収集をスタートした。
二人はまず王都の様子を観察してみる。北国だけあって氷雪で覆われているが、皆しっかりとした防寒具を羽織り、どの家もガッチリとしたレンガ造りであった。王都の生活水準はかなり高いようだ。それが、周りにある人間たちの村落との格差から余計に高く見える。
「こいつら良い生活していやがるな。」
クラウドがポツリと漏らす。この豊かさは、周りから搾取したものによって成り立っている。しかも封建領主と違い、彼らはただ奪うだけ。そして迫害までする。自分たちの生活が何によって成り立っているか考えもせずに。同族の蛮行に、クラウドはイライラがたまっていく。
「兄ちゃん、落ち着いてよ。そんなにカッカしても仕方ないよ。」
シーナが兄を嗜める。自分たちの目的はあくまで情報収集。どんな理由でアレ、ここで騒ぎを起こすわけには行かない。直情径行の激しい兄だ。綱で繋いででも見張っていなければと、兄を注意して見ていた。
しばらく町の様子を観察すると、今度は城の様子を見に行く。いくら同族には優しいといっても、そう簡単に近づけそうにはなかった。
「さぁ、どうしたものか・・・。」
「私の天馬で空中から観察しようよ。そうすればきっとうまく行くよ。」
シーナが天馬に跨りながら、兄に言った。確かに地上からでは警備が厳しいが、空中から眺めるのであれば、そこまで難しくないだろう。クラウドもそう思い、シーナの天馬に跨ろうとする。天馬はご主人以外で、しかも男のクラウドを乗せることを嫌がって暴れる。
太古の昔から、天馬乗りは女性だった。それは天馬が主人に恋をするからと言われていた。
「こらっ、セフィ、暴れないの! 私の兄ちゃんなんだから乗せてあげて!」
シーナの言葉に仕方なく羽を下ろす天馬。その目はクラウドのほうをじっと見ていた。まるで、“ご主人の命令だから仕方なく乗せてやるんだからな”と、言わんばかりに。
二人を乗せて天馬が宙に舞い上がる。クラウドにとっては初めての空中散歩だった。だから物珍しい、快適な空の旅になるはずだった。だが・・・ここはイリアの冬空だという事を忘れていた。
「ぶぇっくしゅん! うぅ・・・寒い!」
クラウドはあまりの寒さにくしゃみをしてしまう。ただでさえ上空の空気は冷たいのに、天馬はその風を切って空を飛ぶ。風に身を切られるような感覚に陥った。
「文句言わないの! 天馬騎士はいつもこんな風な寒空を飛ぶのよ。兄ちゃんも弱音を吐かないの!」
クラウドはようやく、昨日妹があんなに震えていた理由が分かった。そして、あんなになるまでずっと黙っていた妹の強さもその身で味わった。
しばらく飛んでいくと、城が見えてきた。中の様子を見ると、しっかり警備が行き届いている。兵がいたるところに配置されていたのである。
地上だけではなく、空中にも天馬騎士が飛び回り、死角が無い。これでは忍び込めそうに無い事は言うまでも無い。しかし、それではせっかく王都に忍び込んだ意味が無い。
二人は必死に忍び込めそうな外堀や警備の薄い場所を探す。そのことに夢中になっていたためか、二人は高速で近づいてくる物体に気づかなかった。接近してくる飛行兵への反応が遅れることは、飛行兵にとっては死を意味するといっても過言ではない。背後を取られれば挽回することは難しいのだ。
「おい、お前たち、ここで何をしている!?」
その声に二人は慌ててそちらを向く。そこにいたのは・・・。
「あー、お前はこの前の竜騎士!」
そこにいたのはレオンだった。レオンはクラウドの言い草に、二人を思い出した。
「何だ、あの時の傭兵か・・・。それがこんなところで何をしている? 返答によっては容赦せんぞ。」


187: 手強い名無しさん:06/01/04 08:42 ID:gAExt6/c
「私達、今エデッサに宿とって仕事探しているの。その合間にお城でも見物しようかと思って・・・。」
シーナが慌ててその場を取り繕う。その様子を見て、レオンは呆れた様に言った。
「やれやれ・・・傭兵がこんなご時世に観光気取りか。まったくおかしい世の中になったものだ。」
「そうだよな。俺もおかしいと思うぜ。」
クラウドのその言葉に、レオンが少し睨みながら訊ねた。
「・・・何がだ?」
シーナは慌てて兄の口を押さえようとしたが遅かった。彼は睨まれても動じることなく言い返した。
「こんな、差別と迫害が許される世界が、だよ。ここの統治者も何やってんだか。」
シーナはヒヤッとした。とうとう恐れていたことがおきてしまったのだ。相手はその統治者、マチルダの実子なのである。こんな発言が許されるわけがない。シーナは兄を殴った。
「いってー! 何するんだよ、シーナ。」
「バカね、劣悪種を差別して何が悪いのよ。おかしいのは兄ちゃんの頭よ! 竜騎士様。どうかお願いです。しっかり説教しておくので今回ばかりは・・・。」
「?? シーナ?」
シーナは何とかその場を取り繕うと必死だ。このままでは捕まってしまう。しかし、レオンから帰ってきた言葉は、シーナが予想していたものとは違った。
「・・・そうだな。俺もおかしいと思う。少しは骨のあるヤツもいるものだな。この頃は、保身を考えて傭兵と言う身分にすがっているだけのヤツが多いからな。」
「そう思っているのに、何でこんな酷い事をし続けているんだよ!」
クラウドが続けてレオンに言った。レオンは暫く目を瞑り考え込んでいたが、目を開けるとクラウドに言い返した。
「・・・俺だって変えたいと思っている。・・・だが・・・。」
レオンはまた目を瞑った。そして、横にいた部下に声をかけ、何か指図している。それが終ると、また二人に話しかけてきた。
「知り合いのよしみで案内人をつけてやる。王都の観光には都合がいいだろう。早く行け。ここにいると、不審な目で見られるぞ。」
そう言い残すと、レオンは漆黒の飛竜を駆り、城の方へと戻っていった。それを見届けると、案内人に抜擢された天馬騎士が愚痴るように言った。
「まったく・・・劣悪種の分際で私に指図だなんて・・・マチルダ様も何を考えていらっしゃるのかしら。」
その言葉にクラウドは何か引っかかるものを感じた。・・・劣悪種? あいつは人間?
「なぁ、姉ちゃん。あのレオンってヤツは人間なのかよ?」
「えぇ、そうよ。前の戦争での遺児らしいわ。どうやらマルテを扱う事のできる、選ばれた人間らしいわ。だけど、だからって劣悪種を自分の子として育てるなんて・・・。忠誠を誓うマチルダ様相手でも信じられないわ。私なら即殺してるわ。」
「へぇ・・・。 遺児を育てるなんて、実は根は優しい人なのか?・・・いや、でも俺の祖父母を殺したヤツだしな・・・。」
そんなクラウドに呆れながらシーナが教えてやる。
「兄ちゃんってホント人を良い様にしか見ないわね。神将器の力を使いたかったからに決まってるでしょ? つまり利用されてるだけ。」
「正解。あなたは少しは頭が切れるようね。まぁ、レオンはマチルダ様の事を本当の母親と信じ込んで、それ故に言いなりだけどね。劣悪種が優良種だと思い込んで同士を殺すなんて。あはは・・・流石劣悪種ね!」
その天馬騎士の言葉にクラウドは頭に血が上りそうになったが、何とか堪えて、その天馬騎士に言ってやった。
「俺らだって勝手に優良種だと思い込んで、勝手に劣悪種と決め込んだ相手を殺してるんだから変わりないぜ。」
「何?! それはメリアレーゼ様を侮辱しているのか!?」
シーナはまた雲行きが怪しくなってきたと思った。もう得るべき情報も得たし、これ以上王都に留まっていても危険が増すだけだ。・・・兄という危険要素と一緒に居る限り・・・。
「あ、急用を思い出しました。案内していただけるようでしたが残念です。それじゃあ!」
そう言うとシーナは天馬を全速力で飛ばした。相手は出だしに遅れて追いつけそうに無いと悟ったのか、途中まで追いかけてやめてしまった。スピードの乗った天馬に追いつくことは困難を極める事だ。



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