【3スレ目】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜


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【3スレ目】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜

1: 見習い筆騎士('-'*) ldOOTsV6:06/01/06 15:33 ID:E1USl4sQ
前のスレッドが容量オーバーで書き込めなくなったので
新しいスレッドを建てさせていただきました。
1部~2部イリア編序章は、以下のURLよりご覧いただけます。

1スレ目:http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1100605267/7-106
2スレ目:http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1123296562/l50

あらすじ
ロイ達が倒れ、世界が別世界から乗り込んできたハーフ(人と竜の混血種)に支配され早17.8年、ハーフ以外の種族は絶望の中にあった。
そんな中、ロイの子供セレナとシーナが立ち上がる。
彼女らは生まれ育った西方の仲間や傭兵ナーティ、伯母の子に当るアリスやセレスらと共に、神将器を集めながら進軍することになった。
そして、西方、エトルリアを開放し、一行はイリアで作戦を展開する・・・。


113: 手強い名無しさん:06/04/03 19:22 ID:E1USl4sQ
その合図を見た彼女は指笛で更に何かに合図する。 その合図で出てきたのは
大勢のアルカディア配下の兵士達だった。 完全に包囲されている。 その包囲網の外から男が叫ぶ。
「我々に必要なのはセレナ、貴様だ。 貴様が大人しく我々に従えば、邪神復活は阻止できる。」
「あたし・・・? 何故あたし?」
「貴様が知る必要は無い。 セレナを捕らえろ!」
クラウドやレオンが武器を取って、セレナと男の間に立つ。
「ふざけろ! セレナは渡さねぇからな!」
互いのにらみ合いが続く。しかし、その異様な均衡はまたあの王子によって破られた。
「あぁん? お前ら、まだこんなところをうろついていやがったのか。 これだからおのぼりさんは困るぜ。」
おのぼりさんと言う言葉に、クラウドが即反応した。
「誰がおのぼりさんだ!」
「おめぇだよ。 お・ま・え!」
「こ、このやろう・・・。」
カイザックににじり寄るクラウドは、例によってまた教皇達によって取り押さえられる。
「おのれ! 一度ならずに二度までも無礼な真似を! 今度こそ許さん!」
「教皇・・・。 放っておけっつーの。」
王子を見るや否や、氷銀色の髪の男はマントを翻し、背中を向けた。
「ち、今回は一旦退く。 しかしセレナ。 今度会う時は必ずや貴様を貰い受ける。
覚えておけ。 貴様達のやっている事は無駄どころか、マイナスにしか作用しない。
我々の計画を邪魔するな。 ・・・ミレディ、後は任せたぞ。」
「は、ニルス様仰せのままに。」
男はミレディの返事を聞き届けると、その場から風のように消えてしまった。
王子もまた、セレナに向かってウィンクをしながら、大勢の兵士や司祭に囲まれながら城下町へと帰っていった。
「なんだよあいつ! 偉そうなやつだ!」
「兄ちゃん・・・ホントに偉いんだよ、あの人。」
「カイザック王子かぁ・・・結構カッコ良かったね!」
「・・・ふぅ。」
兄や姉の反応に、シーナはため息をついた。 しかし、あの男の言葉が妙に気にかかった。
「あの人の言ってた事、当ってて胸が痛かったよ。」
「でもさ、あたし達だって頑張ってるのに。 無駄って事は無いよ!」
「そうだそうだ! ホントにエラソぶったヤツだ。」
未だに興奮し、話がかみ合わないクラウドを無視して、レオンがセレナの肩にポンと手を置く。
「確かに俺達も自分たちを信じて努力している。
しかし、何か見落としているのかもしれないし、まだ大事な事を知らないのかもしれない。」
アレンも騒ぐクラウドを拳骨で沈めながら、その会話に口を入れた。
「その通りだ。 我々は他の者の意見に耳を塞いではならない。
現に我々は失敗を犯している。 それはあの者の言うとおりだ。 あいつを探し出し、詳細を聞き出さねば。」
父親に殴られて、ようやく落ち着いたクラウドが頭をさする。
「いてて・・・。 でもよ、右も左も分からないのに、どうやって探すんだよ。」
「まずは城下町に行って見ない? カイザック王子も、後で城に来いと言っていたし。
至高の刻までまだ時間があるわ。暫く城下町を見て回りましょう? セレナ、遠足ではないからね?」
アリスがセレナの頭を撫でながら、城下町のほうを指差す。
それにセレナも顔中の笑顔で返す。その顔に迷いは無い。
自信を持って行動する事と、他人の言葉に耳を塞ぐ事は違う。 セレナにはそれが分かりつつあった。
「うん! 行こうぜ! あー、どんなところかなぁ。 早く見てぇ!」
「セレナ・・・もう少し女の子らしい言葉遣いをそろそろしてくれ・・・。」
姉を引っ張って走っていくセレナ。
それを追い、アレンがぼやきながら、神殿の建っている丘を降りていく。
こうして一行は、もう一つの大陸、アルヴァネスカでの活動を開始する事になった。


114: 手強い名無しさん:06/04/03 19:23 ID:E1USl4sQ
竜の国というだけあって、建物のスケールは大きい・・・というわけではなかった。
どの家々もエレブのそれと殆ど変わらない。
そして、街の中は多くの噴水をはじめとし、豊富な水をえている。
美しく、白を基調とした景観と合わさって、街は神秘的でかつ清楚であった。
だが、神殿らしきものは多く、その彫刻、装飾は非常に美しい。
その芸術や建築技術のレベルの高さは、もしかするとエレブよりはるかに上かもしれない。
店を覗いてみる。 セレスが珍しく、目を爛々とさせて店の品を物色する。
エルウインドにブリザー、ボルガノン・・・竜の国だけあって、魔法に関するものが豊富にある。
「見てください。 こんな魔道書、エレブでは見た事がないですよ。これも、あれも・・・うわぁ・・・興味深い!」
魔道書も、大陸間のレベルの違いが明らかだった。 こちらのほうが技術は進んでいる事は言うまでもない。
「うぅむ、エレブでは闇に属しているリザイアが、こちらでは光に・・・?
相反する属性に分類されているとは実に興味深い! これは学会で魔法類型の纏め直しを提唱しなければ・・・。」
クラウドとレオンは、いつも大人しいセレスの言動に、あっけにとられていた。
「あいつ・・・あー言うの見るといっつもあーなるよな・・・。」
「あぁ。 セレスはパント様の孫にして弟子だからな。 魔道関係になると目が無いのはなんとなくわかるんだが・・・。」
レオンはこの後に来る出来事を予想するかのように身構える。
「レオン! この前教えた、エレブの魔法体系について説明してみてください。」
「ほら来た。 クラウド、後は頼んだ!」
セレナ達のいるほうへ逃げ出すレオン。
「あ! ずるいぞお前!」
残されたクラウドも答えられるわけも無く、説教を喰らうハメに。 魔法のことになると人が変わる。
「全く、この前アレだけ細かく教えたのに。 あなたの頭の中は空っぽなんですか?」
「うっせぇ! 俺には魔法は使えないんだ。 なのになんで魔法の勉強なんかしなきゃなんねーんだよ。」
「魔法を知れば、その対応が楽になります。 知識は身を助けるんですよ!」

セレナ達は武器を見ていた。 こちらの大陸のほうがいい武器を置いている。
武器の質もさることながら、魔力をこめて作った強力な武器を置いている。 この大陸の技術力はどれほど高いのだろうか。
しかし、武器のレベルが高いと言う事は、決していいことではなかった。
結局武器は、人を殺める為の道具だ。 それのレベルが高いと言う事は、争いが多いということだった。
こうした精錬技術などの世界の産業を促進を促すのは、皮肉にも戦争による技術革新が大きな割合を占めていた。
その争いが何を意味しているか、彼女らにはすぐ分かった。
店の外は城下町の中央広場で、多くの人が行き交い、ゆったりとした時間を送っている。
セレナには分かった。 このエーギルの流れは・・・みな自分と同じ・・・竜族だ。人間やハーフの波動は感じない。
本当にここは竜の国なんだ。 膨大な時間の中をゆっくり歩む彼ら。
その言動には、誰からも落ち着いた印象を感じる。
この人たちは、もう何百年と生きているのだ。 時への価値観の違いは、その行動や話し方からも分かる。
人間が膨大と感じる、自らの一生分の時間。 それすらも竜族にとっては僅かな時間でしかない。
セレナも竜石を持っていれば、彼らと同じ時の歩みをしていた。
彼らがどんな風に考えて毎日生活しているのか、セレナには想像もできなかった。
毎日が希望に溢れていれば、それを長く享受できる事は幸せな事だ。
しかし、もし毎日に絶望していたら・・・考えただけでもゾッとした。
途方も無く長い時間、絶望に苛まれる・・・そんなのは嫌だ・・・。
ふと、広場の中心を見ると、どこかで見たような顔をした像が建っていた。
セレナがその像に近づいてまじまじと見てみる。 ・・・誰だったかなぁ、コイツ。
「おや、嬢ちゃん、カイザック王子の像に挨拶かい? 偉いねぇ。」
後ろを振り返ると老婆が立っていた。 あぁ、そうそうカイザックとか言うあの王子様だ。
「うぅん、別にそう言う訳じゃないよ。 この人誰なのかなぁって思って。」


115: 手強い名無しさん:06/04/03 19:23 ID:E1USl4sQ
「おや、竜族なのにカイザック王子を知らないなんて、変わった子ね。 カイザック王子は私らの期待の星なのに。」
その老婆はカイザック王子の像の前で拝みながらそう漏らす。
期待の星・・・? あまり王子とは見えないようなヤツだったけど・・・。
「ねぇねぇ、カイザック王子ってどんな人なの?」
「あのお方はナーガ王家の血を直系で受け継ぐ、ハスタール王国の正当なる後継者なのじゃ。」
「へぇ。・・・てナーガって!」
「そうじゃ。 我らが聖王ナーガの子孫じゃ。 今は頼りないが、きっと将来賢王になってくれると信じておる。」
「なーんだ、やっぱ頼りないのか。」
セレナがついを滑らしてしまった。 見た目どおりだなと思ったのだ。しかし
「こりゃ! カイザック様を侮辱するのは例え同族でも許さんぞえ!」
セレナは老婆に杖で頭を叩かれてしまう。 ・・・自分で言ったんじゃんか・・・。
しかし、平和に見えるこの国で、何故そこまで縋らなければならないのだろうか。 セレナには分からなかった。
「ねぇ、何故そんなに期待しているの?」
「ハーフがこの頃もう一つの大陸に侵略をかけてね。 いつ私らの国も攻め込まれるか分からないから。
でも、カイザック様は神のお告げを聞くことができる不思議な力を持っているの。
だから、それできっと私らを守ってくれる、そう信じているのよ。」
「へぇ、同じナーガの力でも、あたしにはそんな力ないよ。」
「何だって? ナーガの力?」
「あ! いや、なんでもないです。」
セレナは焦って否定する。 ついつい口が滑る。 よく無い癖だ。
「そうかい。 でもね、カイザック様の神のお告げが当ったためしが無いんだよ。 それが困り者でね。
この頃じゃ誰も信じなくなってるけど、私は信じてるよ。 この頃物騒だからね。」
「ふーん・・・。」
「元はと言えば人間族のせいさ。 あいつらが好き勝手やるから、こうなったんだよ。こっちは堪んないよ。」
「・・・本当に、人間だけのせいなのかな。」
「何か言ったかい?」
「いいえ、なんでも、ありがとうお婆ちゃん。」
セレナは急いで走り去った。 この大陸は、エレブよりもっと種族間の溝が大きそうだった。
竜族は人間が嫌いで、人間はハーフが嫌いで、ハーフはどっちも嫌い・・・。
考えているだけで悲しくなってきた。 どうして皆仲良く出来ないのか。
しかし、セレナ達はまだ知らなかった。 人間達のあまりにも酷い仕打ちを。

至高の刻が近づき、夕焼け色に暮れて来た。
一行は約束どおり王子と面会すべく、ハスタール城へと向かう。
やはり、街と同様綺麗な白を基調とした鉱石造りの美しい城だ。
それが夕日に映えて何とも荘厳な雰囲気を醸し出している。
「何? 王子と面会したいだと? こんな夕暮れ時に何を言っている。 ダメだ、帰れ。」
なんと心外な事に、門兵に追い返されてしまった。
王子自ら来いと言っていた旨を伝えるが、信用してもらえなかった。
「ちょっと・・・どうしろっていうのよ。」
城の外壁の周りをうろつく一行。 しかし、こういう時だけは、セレナも頭の回転がいい。
何かピンと来たのか。 彼女は城のお堀に目をやった。
「この堀の水路・・・城内に続いているね。」
姉の目を見てシーナは嫌な予感がした。 姉は素直で思った事はすぐ目に出てくる。
だから隠し事はヘタだった。 今回もまた何か妙な事を企んでいる。
「姉ちゃん・・・まさか。」
「この際手段は選んでられないよ。 ここを通って城内に侵入する。 皆は待ってて。 あたしとシーナで行って来る。」
「えぇ!? 私も??」
「当然でしょ。 妹なんだから。」
どうにも納得の出来ない理屈を振りかざされるも、今はケンカをしている時間も無い。
この場は大人しく姉に従っておくことにするシーナ。


116: 手強い名無しさん:06/04/03 19:23 ID:E1USl4sQ
「でも、王子のいる場所も分からないのに侵入するなんて無謀すぎます。 失敗すれば捕まってどうなるか。」
セレスが何時もの慎重論でセレナを引きとめようとする。
他にも何か作戦は無いか。 それを考えてからでも遅くは・・・日が暮れ始めている。
「どの道あたし達には、何処へ行けばいいかなんか分からないんだ。
王子にあって色々聞きださなきゃ、話は進展しないんだよ。 失敗した時は失敗した時考えればいい!」
「ちょっと、それはいくらなんでも・・・」
セレスが最後まで言い終わらないうちに、セレナは服を皮の鞄にしまって、きつく口を閉めた。
妹も男共に離れるように言ってから服を脱ぐと、堀の中に入っていった。
「二人とも・・・大丈夫かしら。」
「大丈夫、きっとあの二人ならうまく行きます。」
アリスの心配を即座にアレンが払拭する。あの二人ならきっとうまくやってくれる。
今までもそうやってベルンの拠点を潰してきた。
「それにしてもセレナのヤツ、ぺったんこだよなぁ・・・。」
心配するアリスたちをよそに、またクラウドが妙な事を言い出した。
周りが呆れたのはいうまでも無い。 アレンは怒りを通り越して情けなくなっていた。
「お前と言うヤツは・・・!」
「ど、何処見てるんですか! ぼ、僕は見てませんからね?」
「・・・下らん。」
「クラウド・・・最低よ。」
皆から白い目で見られて、クラウドもさすがに小さくなってしまった。
緊張した雰囲気を和らげようと彼なりに頑張ったのだが、やはり無理があったようだ。
「う、そんな目で見るなよぉ。 言ってみただけじゃないかよ。」
セレナ、シーナ、しっかりやれよ。 本当は俺も行ってやりたいが、鈍い俺じゃ足手まといだろう。
妹に盗賊みたいな真似をさせなきゃいけないなんて、俺は結局何もできねぇんだなぁ。
きっと無事に帰ってくるんだぞ。 事の成敗より、お前達自身のほうが心配だ・・・。
クラウドはもう向こうまで泳いで行ってしまって見えない妹達の身を案じた。

堀を水の流れに乗って進んでいくと、城門のところで堀と水路に分かれていた。
水路はそのまま城門の下を通って中に通じているようである。 セレナ達は水の中に潜り気付かれないようにする。
幸い夕焼け時で暗いせいか、気付かれなかった。 第一関門突破。
水路はそのまま城門から城の入り口まで続くメインロードの脇を流れ、そのまま中庭に続いていく。
セレナ達は中庭の誰も居ない茂み付近で水路から抜け出した。
二人は濡れた体をロクに拭きもしないで急いで服を着る。 幼い頃から見ている互いの体。
恥ずかしさなんて無かった。
「いいなぁ、シーナは。」
「何がよ。」
「いや、別に。 大は小を兼ねるって言うからさ。」
「??」
「さ、行こう。 こんなところでぐずぐずしてたら、いつ見張りの兵士が来るかわから無いよ。」
シーナは姉の言ったことわざの意味を理解できないまま、姉の後ろについていく。
盗賊さながらの潜入術だ。 いくら西方でのびのび育ったとは言え・・・姉ちゃん、一歩間違ってたら盗賊になってたね・・・。
日も暮れようとする時間ではあるが、今も兵士は多く巡回している。
中庭のよく剪定された庭園に隠れながら、少しずつどこかに城内へと潜入できる入り口が無いか探す。
兵士に見つかってしまえば即刻捕らえられてしまう。
しかし、セレナもシーナも隠れる事には慣れていた。
西方で幼い頃からかくれんぼなどで鍛えた・・・事もあるが、今までも何度も潜入をしていたからだ。
そのまま中庭を道順に進んでいくと、そこは行き止まりになっていた。
その行き止まりは、一面花畑になっていて、その中央には何かの銅像が立っている。
そして、その銅像の足元に・・・誰かいる!
セレナ達は焦って物陰に隠れた。 しかし、相手はこちらに気付いているのだろうか。
こちらに向かって何か手でジェスチャーをしている。 ・・・手招きしているのだ。
セレナ達は疑心を抱きながらも、自分達を手招きする者の方へ歩んで行った。


117: 手強い名無しさん:06/04/03 19:24 ID:E1USl4sQ
「よぉ! 遅かったな。 待ちくたびれたぜ。」
セレナ達を待ち受けていたのは、自分達を城に呼んだ本人、カイザックだった。
カイザックはセレナ達だと確認すると、ニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。
「どういうことよ! アンタが来いって行ったのに。 何で門番は入れてくれないのよ!」
「オレ様は入れてやれって言ったんだけどな。 皆オレ様の言う事なんか信じねぇからナァ・・・。 あはは。」
怒るセレナに、カイザックは笑いながら言い訳する。
カイザックの目は、嬉しそうな、それでいて悲しそうな不思議な感じだった。
「でも、よく私たちがここに来るって分かったね。」
シーナを見るや否や、カイザックは百万ゴールドの笑顔で笑いかけた。
「おぉ、美しい。 君、名前は?」
「え?ホント? 私はシーナ・・・って! 何言わせているのよ!」
「うーん、ナーガの旦那も罪なお方だぜ。 こんなカワイ子ちゃんが来るなんて言わなかったもんな。
そうと分かっていれば、城の外でお出迎えしたのに。」
シーナのほうを見ながらそう言うカイザックを、セレナが指で突っついた。
「ねぇ、アンタ。 こっちはどうでもいいわけ?」
「あ? ヤロウには用はねぇよ。」
「や、ヤロウですってぇ!? あたしは女だぞ! 正真正銘の女! エレブ一の美少女よ!」
激怒するセレナを見て、シーナは笑いを堪え切れなかった。 何処に行っても男と間違えられている。
女だといわれて、カイザックはもう一度セレナをまじまじと見る。
「おぉ、確かに。 顔立ちが整い過ぎていて分からなかったぜ。 うーん・・・美しい、どう今度、お茶でも。
(流石に胸元見ても気付かなかったとは言えねぇよな。 性格も女とは思えねぇし。)」
「・・・アンタが信用されない理由、何となく分かったよ。」
セレナは泣きたくなった。 こいつはとりあえず女の形をしていれば、誰にでもナンパをするようである。
そんな奴にすら、自分は女に見られなかった。 エレブ一の美少女が・・・。
「うひゃひゃ・・・まぁそう言うなって。 ここじゃいつ兵士が来るか分からねぇし、オレ様の部屋に行こうぜ。
お前達はそこの通気口を通って来いよ。 先に行って、オレ様の部屋のところに目印置いておいてやるから。」
カイザックはそのまま走り去って行った。
セレナが言われたほうを見ると、そこには人が一人這って通れる位の小さな穴があった。
「あいつ・・・あたし達はドロボーじゃないんだぞ・・・。 行くよ、シーナ。 ・・・シーナ?」
「あぁ・・・カイザック王子って結構カッコイイね・・・。」
「・・・。」
シーナはカイザックが走り去っていった方向を見て、自分の世界に入り込んでいる。
セレナはそんな妹の首根っこを掴んで引っ張っていく。 自分を男呼ばわりするヤツなんかの何処がカッコイイのよ!
まったく、世の中の男共の目は腐っているんだわ! ぷんぷん。
その怒りを妹の首にこめながら、セレナは通気口の中に妹を押し込んだ。
「まったく、あんなナンパヤロウ、用が済んだら斬り刻んでやる!」
二人は狭く、そしてホコリ臭い通気口をひたすら匍匐前進していく。
カイザックの用意してくれているはずの目印を目指して。
暫く進んでいくと、通気口を覆う網が外れ、ロウソクがおいてある場所があるのを見つけた。
きっとあれが、カイザックの部屋だ。 腕が疲れてきたが、それを見つけると俄然力が沸いてきた。
残りの道のりを一気に進み、通気口から飛び降りると、部屋の中に着地した。
二人は水路から上がった際、よく体を拭かなかったせいか、通気口に溜まっていたほこりを皆体に吸いつけてしまっていた。
「うわぁ・・・お前ら・・・雑巾みたいだな。」
「!? う、うわっ。 あ、アンタのせいじゃない!」
「まぁそう言うなって。 これしか方法はなかったんだからよ。
あーあ、シーナちゃん、せっかくの美しさが台無しだ。 さぁ、これで顔を拭きなよ。」
シーナにカイザックが絹のハンカチーフを渡す。


118: 手強い名無しさん:06/04/03 19:25 ID:E1USl4sQ
シーナは完全にカイザックのペース(ナンパ術)にはまっている様だった。
「・・・どこまでもアンタってムカつく。 あたしはどうでもいいのか・・・。」
「お前もシーナちゃんが使い終わったら貸してやるよ。」
「・・・。」
二人が体を拭き終わると、カイザックは本題を切り出した。
「それにしても・・・マジで来ちまったのか。」
「マジで来ちまったって・・・アンタが呼んだんでしょ?!」
カイザックは興奮するセレナを抑える。
「そうじゃねぇよ。 ナーガの旦那のお告げ通り、お前らがエレブから来ちまったって事よ。」
セレナは思い出した。
そういえば、街で老婆が言っていたっけ。 カイザック王子は予知夢を見ることが出来るって。
だけど、言う事が当ったためしが無いから皆信用していない、と。
「え! カイザック様って未来を見通せるの? 凄いじゃない!」
シーナがカイザックを持ち上げる。 しかし、持ち上げられたほうのカイザックは渋い顔をした。
「・・・そんな良いモノじゃねーよ・・・。 こんな能力、無いほうが良いぜ。」
「何か言った?」
「いや、なーんでもないさ。 それより、頼みがある。 オレ様もお前達と一緒に同行させてくれないか?」
カイザックの意外な言葉に、二人は耳を疑った。
一国の王子が、こんな会ってすぐの自分達に同行させろという。
「なんでさ。」
「オレ様がナーガの旦那から受けたお告げを、お前達にだけは特別に教えてやる。
・・・このまま何もせずに、世界を時の流れに任せていたら、世界は滅びる、ということだ。」
「・・・。」
セレナには思い当たる節があった。
エレブで起きたハーフの暴挙、そして、昼にアルカディアの頭目から聞いた暗黒邪神の話・・・。
やはり、このままにしておけば世界を滅びしてしまう。 二人はカイザックの予知夢を信じた。
そして、自分達の知っている事を彼に告げた。 彼も先程のヘラヘラした笑顔から一変
真剣な顔でその話を聞き入る。
「・・・そうか。 やはり今回の予知夢も当っていたのか・・・。 何とかしないとな。 ・・・メンドーだな。」
カイザックの真剣な表情と繰り出される台詞のギャップに、セレナは彼の性格が分からなくなった。
「今回もって? 街の人はアンタのお告げは当ったためしが無いって言ってたよ?」
「別にいいんじゃね? 民にとっては当っていないと思われたほうが。 余計な混乱は避けたいからな。」
セレナには分からなかった。 当っていないと“思われる”?
という事は、実際にはいつも当っているという事なのか。
「ねぇ、アンタのお告げの当る度合いはどの程度のなの?」
「ん? そりゃもちろん100%だぜ? なんたってオレ様だからな。」
「凄い! カイザック様って凄いね。 でも、何で皆には当っていないように見えるのかしら。 皆の目は節穴?」
シーナはカイザックのナンパ術に心を奪われたのか、何とかカイザックを持ち上げようと必死である。
しかし、カイザックはふっと薄く笑って答えた。
「シーナちゃん。 君だけさ、オレ様を認めてくれるのは。 皆が当っていないように見えるのは
民の眼前にその災厄が現れる前に、オレ様がそれを小さいうちに取り除いているからさ。」
カイザックは今までも度々予知夢を見ていた。
しかし、それを父である国王に行っても、当然信じてもらえるはずが無い。 他の者は今しか見えないのだから。
それゆえに、彼は自分自身で事件が起こることを未然に防いでいた。
だが、カイザックがそうやって未来を変えることによって、彼の予言は外れたことになる。
そうなれば、周りからは余計にカイザックの言う事が信じてもらえなくなっていく。 うそつき狼の如く。
そして、次第に彼は誰にも理解されなくなっていった。
未来を見抜くがゆえに、現在のみに生きる者には永遠に理解されない。 彼は孤独だった。
セレナは、自分と彼がある意味似ている気がした。
世界を何とかしたいと思っているのに、多くに理解されない。
・・・いや、自分はまだマシなのかもしれない。仲間がいるのだから。


119: 手強い名無しさん:06/04/03 19:25 ID:E1USl4sQ
「さぁて、オレ様の身の上話なんかもう止そーぜ? オレ様は一応ナーガ一族の末裔だ。
この世界を正しく導く義務がある。 とかいうと、なんだかエラソーなんだけどな。
とにかくだ! 神からお告げを受け、そのお告げ通り、ナーガの使いが現われた。
神の意思、そしてオレ様の意志。 面倒だが、オレ様は世界を救いたい、救わねばならない。 だから、お前らの仲間に加えてくれ。」
セレナも最初は、この男は軽くて信用ならないと思った。
しかし、話を聞いていると、どうもそうでも無いように思えた。 話し方は軽いけど・・・。
それに、同じような境遇にいるなら・・・助けてやりたい。
「わかった。 こっちだって戦力が増えるのはありがたいことだよ。 よろしく。」
セレナがカイザックに手を差し伸べた。 カイザックがそれを見て、笑顔で彼女に近づき・・・そして通過した。
彼は、後ろにいたシーナと握手を結んだ。
「いやぁ、シーナちゃんみたいな可愛い子と旅できるなんて、オレ様って幸せ者だなぁ。」
「あ、私も王子みたいなカッコいい人とご一緒できて嬉しいです!」
「・・・あんたら・・。」
セレナは何か行き場の無い怒りを感じた。無視されたからではない。
こいつは・・・あたしを女だと思ってない! どいつもこいつもあたしを男呼ばわりして!
「・・・ちょっと二人とも、さっさと城から出ようよ。」
セレナは二人を引き離すように、また通気口に方へ歩いていく。
「待ってよ姉ちゃん。 カイザック様、王子が城からいなくなったと知れたら、大騒ぎになっちゃうんじゃないの?」
シーナがセレナのマントを引っ張って止める。 いきなりマントを引っ張られたセレナは、首が絞まって転びそうになった。
何となく妹まで、自分の扱い方がずさんな気がした。
「まぁ・・・いいんじゃねぇか? 誰もオレ様のことなんざ期待しちゃいねーよ。 口先ではうまく言っててもな。
親父も俺はほら吹きで信用出来ねぇっつって、妹に男だったらといつも漏らしてるぐらいだからな。」
「酷い・・・。」
カイザックにとって、世間の期待は鬱陶しいものでしかなかった。
その期待は、口先だけのものであるからだ。 誰にも信じてもらえない。
何故理解されないかを分かっていても、やはりそれは心苦しいもの。
彼は長い間信じてもらえないが故に、相手を真に信じられなくなってしまっていた。
彼の話に二人が沈黙していると、部屋に誰かが入ってきた。
「話は聞かせてもらいましたよ。 カイ。」
「げ! おふく・・・母上。」
「誰も自分に期待していないなんて、そんな事を言ってはなりません。
理解されるチャンスがせっかく来たのでしょう。 ・・・がんばってきなさい。」
彼女は、カイザックの唯一の理解者であった。
彼女は息子の予知夢を信じ、事件を未然に防ぐ事に積極的に協力していた。
「母上、俺が旅に出ることを許してくれるのですか?」
「貴方が危険な目にあう事は、身を切られるより辛い事です。
しかし、貴方は聖王ナーガの末裔。 世界の行く末を見定め、正しい道へと導く義務があります。」
「はい。 それこそ私が望む道。 心得ています。」
セレナは、なんとなく竜族と人間族の間にある、溝の原因がわかった気がした。
人間を見下しているように聞こえたのだ。 竜族こそが、世界を導く種族であると、そんな感じが否めない。
他の種族は、導かれる存在である、と。
「貴方が不在の間は、私が何とかします。 安心しなさい。」
「ありがとうございます。 母上。・・・というわけだ、シーナちゃん。 よろしくな。 後、お前も。」
「・・・あたしはおまけか、おまけ・・・。」
あまりにもカイザックの妹と自分への対応が違う事に泣きそうになるセレナに、彼の母親が気付き、寄ってきた。
「貴女がカイの予知夢に出てきた、ナーガの天使ですね?」
「うん、多分。 うちの母さんが、ナーガ様から力を賜ったらしいから。」


120: 手強い名無しさん:06/04/03 19:25 ID:E1USl4sQ
「そうですか。 では、私は貴女に協力しましょう。 息子をよろしくお願いしますね。」
「何故? 何故こんな秘密裏にするの?」
セレナには不思議だった。 自分達が現われただけでも、王子の予知夢が当った事は証明できたはず。
それなのに、何故秘密裏にするのだろうか。
「・・・教皇がお前達を握りつぶそうとするに決まってる。 あの人間族の強欲ジジイがな。」
カイザックが蔑みの混じった声で答えた。
彼の母も、否定はしなかった。 言い方はやんわりとしていても。
「ハスタール王・・・うちの人が愚かなのよ。」
「なんで教皇が?」
「まぁ・・・オレ様が教会に関わっているからかな。」
「??」
「お前は知らなくてもいいことよ。」
この世界の宗教は、ナーガを崇めている。
それゆえに、ナーガの末裔であるハスタール王国の王子が代々、教会のトップに君臨しているのだ。
教皇はそれを支える役に過ぎず、ナンバー2に甘んじていた。
「ここに長居は無用です。 さぁ、行きなさい。 立派に戦ってきなさい! ・・・早く行って・・・。」
「母上・・・。 よし、シーナちゃんとお前、行くぞ。」
「あたしはセレナって名前が・・・!」
カイザックは騒ぐセレナの尻を蹴って通気口に押し込んだ。
そして、もう一度母のほうを見て一礼すると、自分も通気口をくぐって行った。
「・・・あぁ、カイ。 きっと生きて帰ってくるのですよ。」
母は泣きながらも、息子の活躍と、理解される事を願ってナーガに祈る。
我らが世の万象を統帥せしナーガ神よ。 我が愛息に彼の加護を与えた給へ・・・。
その様子を、窓の外にある木の上から見つめる鋭い視線があった。
その視線は、王子が部屋を出たことを確認すると、さっと姿を消す。
そして、月に照らされる夜空に翼をはためかせ、北の空へと消えていった。
何か大きな陰謀が、ここでもまた大きな渦を巻いてセレナ達を飲み込もうとしていた。


121: 第三十五章:ベルン三翼:06/04/03 19:26 ID:E1USl4sQ
「うひゃひゃ。 さぁて、シーナちゃん。 早速オレ様とシーナちゃんの最初の冒険の始まりってわけだ。」
通気口を出て、中庭に戻ったカイザック一行。 通気口から出ようとするシーナに、彼は手を差し伸べた。
「はい、何かわくわくします〜。」
「うーん、いい反応。 おい、お前もさっさと出ろよ。」
彼は手をシーナには優しく差し伸べたが、セレナは手をぐいぐい引っ張って通気口から引っ張り出した。
「うるさいわね! この尻軽男!」
カイザックはシーナの手をとり、セレナを無視して歩いていく。 何だあのナンパ野郎は・・・。
何であたしにはナンパしないのよ! 何この妹との待遇の違い! ムカツク・・・。
隙があったら斬り刻んでやる・・・。
カイザックはセレナの様子を見て笑いながら庭の隅へと移動する。 彼はセレナで遊んでいるようだった。
「よーし、オレ様が秘密の抜け道を教えてやろう。」
彼は隅まで移動すると、地面を覆っている鉄製の板をどかす。
セレナには大体見当がついた。 この光景は前にも経験した事がある。 間違いない。
「・・・あんた・・・王子ともあろう人間の隠し通路が、下水道なの?」
「しょーがねーだろ。 嫌ならお前は、また水路を泳いで帰れよ。 シーナちゃん、足元気をつけて。」
渋々彼の後を付いて行く。 もうちょっとあたしにも優しく接しなさいよ。
どうしてあたしは、何度も何度もこそ泥みたいな真似をしなくちゃならないんだ・・・。
出口まで到着すると、カイザックはまず自分が出て外の様子を確かめる。
誰もいないことを確認すると、彼は下にいたセレナに声をかけた。
「よし、出ていいぜ。」
「しっかし、よくこんな抜け道思い立ったね。」
「門限が厳しいからな。 城下町に夜遊びしに行く時によく使ってたんだ。」
「・・・あんたって王子って気がしないよ。」
「お前も女って気がしないけどな。」
「な!」
シーナは笑ってしまった。 この二人、ケンカばかりしているように見えるが、見ていると面白い。
セレナは本気で怒っているのだが、カイザックは彼女の反応を見て面白がっていた。
今まで、こんなに自分に絡んでくるような奴はいなかったから。 王子という身分上・・・。
外に出た三人は、残りの仲間のいるところまで戻った。
そして二人は、仲間にカイザックのことを説明した。
「・・・というわけで、仲間にしてやったカイザックよ。」
「してやったって、そりゃないでしょーよ? ・・・まぁいいや。
オレ様の名はカイザック。 カイって呼んでくれればいいぜ。 本当はオレ様のお供ってことにしたいが
今回はお忍び旅行だからなぁ。 様も付けなくていいぜ。」
「元から付けないわよ。」
即座に言い返すセレナに、クラウドが耳打ちする。
「おい、何だよコイツ。 すげーやなヤツじゃん。」
耳打ちしたはずなのに、カイには聞こえていたようだった。
「おい、そこのへっぽこ騎士。 仲良くしよーぜ? オレ様達オトモダチでしょ? うひゃひゃ・・・。」
「へ、へっぽこだと?!」
「おう、槍のヘタレ具合で分かるぜ。 お前の槍の扱い方がずさんってことがな。」
「んだとぉ!?」
怒り狂うクラウドをアレンが拳骨で鎮める。 そして膝を突いて彼は挨拶した。
「始めてお目にかかります。 私はエレブ大陸フェレ候セレナ様、シーナ様、両姫にお仕えする騎士、アレンと申します。
こちらは騎士見習いで、我が愚息クラウド。 以降お見知りおきを。」
アレンが他の騎士と同じように畏まって挨拶してくるが、カイはすぐに彼を立ち上がらせた。
「お、おう。 でもまぁ、今回はこーいうのやめようぜ? オレ様もお前達の仲間。 それでいいだろ?」
顔を真っ赤にするクラウドを見て、カイは嬉しそうだった。
セレナにクラウドか・・・面白そうな奴らだ。 こいつらはオレ様を仲間として受け入れてくれるかな。
とにかく、今ントコはオレ様のことを信じてくれているみたいだしな・・・。 親友になれる・・・かもな。


122: 手強い名無しさん:06/04/03 19:27 ID:E1USl4sQ
「あったり前だろ。 お前のお供だなんてまっぴらごめ・・・ふぎゃ!」
クラウドはまた父親に拳骨で撃墜された。
「まぁ、そちらから仲間にしてくれと懇願したらしいですし、僕達と同等の立場って言うのは当然ですね。
尤も、こんな軽い人が一国の王子というのは信じにくいのですが。」
セレスが珍しくクラウドに味方をした。 カイは彼を目を細めて睨んだ。
「痛い奴だな・・・てめぇは。 オレ様お前みたいなのが一番苦手だぜ。」
「お褒めの言葉、どうもありがとうございます、王子。」
「・・・。」
閉口するカイに、アリスが話しかけてみる。身なりや容姿は王子っぽく見える。
アリスはそういった上層階級の礼儀作法を、幼い頃学んでいたから、それを使って挨拶してみた。
「はじめまして。 カイさん。 私はエレブにあるイリア連合王国の王女、アリスと申します。」
「おぉ! こんな野蛮人だらけの集団に咲く、一輪の美しい華! アリス様ですね、覚えておきます!」
その反応を見て、シーナが顔を膨らせた。 ・・・さっきと言ってることが違う。
「・・・私も野蛮人の一括りなのね・・・。 さっきは美しいって言ってくれたのに。」
「いや! そんなこと無いって。今のは例えさ、例え。」
何とか弁解するカイにセレナがちょっとだけ期待して聞いてみた。
「じゃあ、あたしは?」
「へ? お前? ・・・うーん。」
「・・・。 うぅ・・・。」
セレナはアリスに泣きついた。アリスもどうやって慰めてやればいいか分からず、撫でてやる事しかできなかった。
セレナ・・・もう少しお淑やかにすれば、貴女も綺麗なんだからモテるはずなのに・・・。
「カイさんはお上手なのね。 ところで、貴方も不思議な力を持っているのね。 私も精霊術師って呼ばれているわ。」
「へぇ・・・召喚士か。 オレ様の能力なんて無いほうがいいぜ。 こんな力があるせいで、オレは・・・。」
「何か?」
「いや、なんでもないさ。 さぁて、可愛いシーナちゃんと、美しいアリス様と、その他大勢さん
早速冒険の旅に出発しよーぜ!」
早速歩き出すカイ。 それを一行は追いかける。 やはりセレナはご機嫌斜めのようだ。
自分だけ女の子として認めてくれていない。 ムカツク! あぁムカツク!
その様子を察したのか、一足先を行くカイに、レオンが寄って行った。
「さて、お前も俺達の仲間なら、荷物持ちを分担しろよな。」
レオンはカイに色々持たせた。 いきなり重い荷物を持たされてふらつくカイ。
「おいおいおい。 王子にこんなことさせて良いと思っているのかよ。」
「先程、自分でそういうのは止めようと言ったではないか。 それに、女の子にそんな重い荷物を持たせる気か?
その荷物は先程までセレナが運んでいたものだ。」
レオンが薄笑いを浮かべながら、カイのほうを見る。
カイも今回は弁解のしようがなくなったのか、大人しく荷物を肩に担いだ。
「・・・仕方ねぇなぁ。 しかし、こんな重いもんを運べるなんて、あいつやっぱり男なんじゃないのか?」
「なんですってぇ!?」
セレナの怒鳴り声と、カイの悲鳴が、夜の城下町に響いた。
レオンは、親友であるクラウドのところまで戻ると、笑い出した。
「ははは・・・。あの二人、よほど気が合うようだな。」
「どこがだよ! カイのやろう、セレナを泣かせたらただじゃ済まさないぞ。」
クラウドが本気になって怒っていた。 セレナといい、クラウドといい、
どうしてこうも簡単に頭に血が上るのか、レオンには理解できなかった。 どう見てもカイはからかっているだけなのに。
「おい、レオン。お前には負けないからな!」
「・・・何がだ? 槍術なら今でも負けている気はしないが。」
「そっちじゃねぇよ! って、槍も負けねぇからな!」
「・・・ふっ。」
レオンには、クラウドが何故本気になって怒るか察しが着いたようだ。
クラウド・・・お前には負けないぜ。 槍は勿論・・・そっちもな。


123: 手強い名無しさん:06/04/03 19:27 ID:E1USl4sQ
向こうではとうとうカイをセレナが捕まえて、馬乗りになってポコポコ殴っていた。
「うわ! 痛ぇって! この暴力女モドキ男!」
「きーッ! 言ったわねぇ!」
「うぎゃー。」
戯れる二人を尻目にかけ、セレスは呆れたように独り言をもらした。
「やれやれ・・・本当にこんなことで世界を救えるんですかね・・・。」

一行はハスタール王国を出る。 しかし、行く宛が分からない。
「ねぇ、姉ちゃん。 何処に向かっているの?」
「さぁ。」
姉はきょろきょろと周りを見渡している。 王国の外は鬱蒼とした木々が覆っている。
王国外は未開の地、といったところだった。
「さぁって! お前、お前が先頭切って歩くから、オレ様、何処にいくか分かってるもんだと思ったぞ。」
「分かるわけ無いじゃん。 あたし達、この大陸の事は何にも知らないんだよ。」
「あぁ・・・そっか。 お前達、おのぼりさんだっけ。」
カイが眼下に見るような素振りをする。それに反応したのはセレナだけではなかった。
クラウドが真っ赤になって反論する。 どうやらまだエトルリアでの一件を根に持っているようだ。
兄妹が二人声を合わせて怒鳴る。
「誰がおのぼりさんだ!」
「・・・毎回同じ反応って言うのもどうかとも思うが・・・まぁいいさ。
ここが今オレ様達のいる場所。 丁度王国領の北東らへんだな。 この橋を越えて、大陸本土へ向かおうぜ。」
カイの開いたアルヴァネスカの地図を見て、一行は驚きを隠せなかった。
エレブ大陸と殆ど同じ地形をしていたのである。 その地図を、エレブのものと見間違えるほどだった。
そして、今自分たちのいるところは、エレブで言うヴァロール島北東部だった。
「・・・もう一つの大陸・・・そういうことだったのですね・・・。」
セレスは驚きを通り越して感動しているようだ。
クラウドとレオンがまた身構えた。 また例の発作のようだ。
「この二つの大陸は、きっと双生児的に誕生し、次元の歪によって分離したのでしょう。」
「次元の歪・・・? なんじゃそりゃ。」
こういう難しいがクラウドは苦手だった。 すぐ頭がこんがらがってくる。
暫く考えると今度は頭痛がしてくるのだ。 セレスと一緒に居ると常に頭痛に悩まされる。
「いわば、一つの大陸の光と闇・・・。 それがアルヴァネスカとエレブなんですよ。
エレブ大陸が闇の大陸という異名で呼ばれる理由も・・・それでは無いですか?」
「なるほど・・・。 しかし、何故次元の歪が生じたんだ。」
クラウドとは違い、レオンは興味を示した。
学者とは、自分の理屈を人に聞いて貰いたいものである。 まして興味を持った人間相手なら際限は無い。
「それが僕も疑問なんです。 しかし学会に提出する価値がありそうです!」
セレナもクラウド同様、状況を飲み込めずにいた。
理屈で考えるという事があまり得意ではなかった。 考える前に体が動いてしまう。
「あー、なんかごちゃごちゃするなぁ。 スポンジケーキを輪切りにして、片方がエレブで、もう片方がアルヴァネスカ?
で、その輪切りにしたのが次元の歪ってこと?」
「・・・まぁそういうことですね。 そして、次元の歪に唯一整合性のある場所が、あの竜の門なんですよ。」
「せいごうせい・・・? ・・・わかんない。」
「あなたの理屈で言えば、唯一ケーキの断面がぴったり合う、と言ったところでしょうか。
普通次元の歪なんかに飛び込んだら、もう未来永劫、絶対に元の世界には戻れませんから。」
それを聞いてセレナは息を呑んだ。 自分達は知らなかったとは言え
もうエレブに帰れないかもしれない賭けに出ていたのだ。 ・・・今でも帰れる保証は無いけど。
「しかし、そんな場所は危険だから、普通は封印してあるはずです。 それが何故・・・。」
ここで詮索しても仕方が無い。 しかし、分かっていても考えたくなる。
それが学者の性だった。 何時ものようにあごに手をやるセレス。
「今回のハーフの暴挙と何か関わりがあるのではないかしら。」


124: 手強い名無しさん:06/04/03 19:27 ID:E1USl4sQ
アリスが閃いたような顔をするが、それをすぐにカイが否定した。
「アリス様、そりゃないぜ。 だって竜の門の封印は、40年位前にそっち側から開かれたんだぞ?
まぁ、それを開通させちまったのはこっち側のヤツなんだけどな。」
セレナはカイの方を見た。40年という年月を簡単に話す・・・。
そうか、コイツは神竜族なんだ。 そして、竜石も持っているんだ。
あたしも竜石を持ってたら、こいつみたいに長い時間を生きなきゃならなかったんだな・・・。
皆が死んでも、あたしだけ生き続ける。 セレナは母親に感謝した。 竜石を取り上げてくれて・・・。
「ん? どーしたんだよ。 妙に女の子らしい目つきしてこっちを見つめてよ。 ネコ被ったってダメだぜ?」
ボーっと考え込んでいたセレナは、カイのニヤニヤした顔で我に帰った。
「何よ! 女の子が女の子らしい顔して何が悪いのよ!」
「あ、お前女だっけ。」
「・・・!」
またじゃれ合う二人。しかし、そんな穏やかな時間も束の間だった。
「危ない!」
矢が足元に刺さったと思うと、突然集団に囲まれる。これは・・・アルカディアだ!
「セレナ。 このときを待っていた。今度こそ貴様を貰い受ける。」
ニルスがミレディと共に木陰から出てきた。 囲まれている。
どうやらここで待ち伏せされていたようだ。 しかし何故自分達の行く場所が・・・。
カイの目にニルスが留まった。 どこかで見た事がある顔だなぁ・・・。 ん、こいつは・・・。
「お前、どっかで見た事があると思ったら、竜の門を開いちまった異端者じゃねーか。
これ以上異端行為をするなよ。 いくら寛容なオレ様でも、二度目は命を保障してやれねぇぞ・・・。」
「黙れ! 我々の邪魔をするなら王子とて容赦はしない。 この際国やら種族という、下らん区分けに構っている暇は無いのだ。」
周りを囲んでいる兵達が一斉に武器を取る。
いきなり訪れたピンチだ。 セレナ達もあわてて武器を取り、クラウドたちはセレナを囲むように陣を執った。
「セレナを捕らえろ。 後の者の生死は問わん。 かかれ!」
「おいおい、マジかよ・・・。」
襲ってくる兵士をひらりとかわすと、カイは先ほどまでのヘラヘラした顔を一変させた。
「セレナ、お前も神竜だったな。だったら俺の横に来い。こいつらを一気に蹴散らす。
他のヤツは俺達が集中できるように守ってくれ。」
「どうするのさ。」
「お前、神竜、いやナーガの天使なら光魔法を扱えるだろ。
オレ様の強力な一撃と、お前のそれなりの一発で相手を一気に潰す。 数から考えても、こちらから攻めて行ったら分が悪い。 いくぞ!」
「何よ、それなりって・・・ぶつぶつ。」
口では文句を言っているが、考えには同意していた。 ここは魔法で一気に蹴散らすしかない。
集団で襲ってくる相手を、クラウドやレオン、アレンが体を張って凌ぐ。
アリスとセレスは回復に回っていた。相手はセレナを狙っている。 自分達が守らなければ。
クラウドが相手の槍を弾いて逆に突き飛ばす。 突き飛ばされた敵が相手の仲間とぶつかって隊列を崩した。
レオンはライバルの槍術を見てふっと笑う。 イリアで出会った頃に比べるとかなり成長していた。
相変わらず力任せな感じは拭いきれていないが。
「ほぉ、やるもんだな、クラウド。」
「へ、オレにケンカを売ろうなんて1マイル早いぜ。」
「マイルは距離です。 時間ではありませんよ。
頭のほうは全然成長していませんね。 この戦いが終ったら早速勉強としましょうか。」
「うへぇ・・・。」
セレスもクラウドに声をかける。彼もクラウドを心配していた。 大切な同年代の知り合いだから。
戦いが終ったら・・・すなわち死ぬな、ということ。 それは彼なりの思いやりだった。
一方守られている二人は気を集中する事に全力を注いでいた。
「ほぉ、お前、結構魔力あるな。」
「お前って呼び方止めてって言ってるでしょ!」


125: 手強い名無しさん:06/04/03 19:28 ID:E1USl4sQ
カイはしばらく考え込んでいた。 やり方はわかっていても、魔力不足でまともに扱えないあの魔法。
コイツと二人がかりなら・・・何とかできるかもしれない。
「おい、セレナ。 オレ様にお前のエーギルをありったけよこせ。」
「えぇ? エーギル渡したら、あたし死んじゃうじゃない!」
「バカ! ありったけっつーのは、魔法として使える範囲に決まってるだろ。」
「バカで悪かったわね! でも何でさ?」
「いいから早くしろっつーの。」
セレナはカイの自分の扱い方に不満を抱きつつも、仕方なく言われた通りにする。
カイの手を両手で握り、自分のエーギルを彼に注ぐ。
彼はエーギルを注がれると、何か温かいものが手先から体に伝わってくるのを感じた。
これが・・・こいつのエーギル、こいつの・・・命そのものか・・・。
そして、それと同時に体に魔力がみなぎってくるのが分かった。
・・・この魔力・・・こいつ、オレ様より高い魔力を持っているのか・・・?
どうやらナーガの天使というのは嘘ではないみたいだな。 なのになんで剣なんか持ってやがるんだ?
単なるバカか・・・・それとも・・・。
「よし、それなりの魔力をいただいたぜ。 このぐらいあればあれが使えそうだ。」
「それなり・・・あたしの魔力が、命がそれなり・・・。 何か悔しいぞ・・・。」
嘆くセレナを無視して、カイは気を集中させ始めた。彼の取り巻くエーギルの波動で、周りのチリや砂が螺旋を形作る。
それに仲間も、敵も、そしてニルスも驚いた。そしてカイの手に握られる光の聖槍。
「行くぜ! 光の超魔法。ライトニングスピア!」
カイは手にした聖槍を、敵めがけて渾身の力で投げ下ろした。
その槍は空気を裂き、風を切るほどのスピードで敵の隊列まで飛んでいく。
そして、敵の陣形の中で地面に突き刺さると、強烈な閃光を放ちながら大爆発を起こした。
その閃光に、衝撃に、一同は吹き飛ばされそうになった。
・・・
目を開けると、槍の突き刺さった場所には大きな穴が開いている。敵は、全滅していた。
未だに先程の衝撃音が、山々に響いて止まらなかった。 ・・・凄まじい威力だ。
「うひゃー。 オレ様、ここまで威力があるとは思わなかったぜ。」
カイは地面にあいた大きな穴を、驚いたように腰を引きながら眺める。 他の一行も唖然としていた。
いくらセレナのエーギルも使ったとは言え、この軽い性格の王子が、こんな魔法を使えるなんて・・・。
しかし、一番驚いたのはセレナだった。 ライトニングスピア・・・この魔法は確か・・・。

「バカな・・・。 その超魔法を何故貴様が扱える。」
ニルスがマントを脱ぎ捨てた。彼にとっては予想外だった。
カイはこんな超魔法を扱えるほどの魔力を持っていないと、高をくくっていたからである。
まさかセレナの魔力を使ってくるとは。
「そりゃ扱えるだろうよ。 この魔法は、ナーガ一族に伝わる秘伝の魔法だからなぁ。
ま、オレ様、魔法はあんまし得意じゃないから、一人じゃ扱えないみたいだけど。」
「・・・さっきと言ってることが違うじゃん。 あんたからはそれなりの魔力しか感じないし。」
セレナがまた顔を膨らせる。 エーギルの波動から考えても、どう見ても自分のほうが魔力は高いはずだ。
こいつは自分を女扱いしないわ、実力を見くびるわ。 ・・・あとで酷い目にあわせてくれる・・・。
「うひゃひゃ。 まぁそう言うなって。 嘘も方便って言うだろ?」
「?? 嘘も宝剣・・・? 嘘も必要ってことか・・・。」
「そうそう!」
二人のかみ合ってなさそうで微妙にかみ合う会話に、シーナは唖然としていた。
しかし、彼女は背後に気配を感じ、チラッと見てみる。 そして彼女は焦って皆に叫んだ。
「みんな!後ろ!」
シーナの声に皆も後ろを向く。背後には確かニルスがいたはずだ。
ニルスは大斧を握って、部下のミレディと共にこちらに向かってにじり寄ってきていた。


126: 手強い名無しさん:06/04/03 19:30 ID:E1USl4sQ
「わざわざ次元の狭間を潜り抜けてきてご苦労だったな。
だが、貴様らの歩みもここまでだ。 私が自ら相手をしてくれる。 力の違いを思い知れ!」
ニルスが突撃してくる。それに従うようにミレディも竜を駆って空中から攻めに出た。
「まさかここまで手こずるとは・・・。 
無駄な足掻きをしなければ死なずに済むものを。 そうすれば泣く者も出ないだろうに。」
空中から襲ってくるミレディを、シーナが同じく空中で迎撃する。
相手の槍をかわして、逆にほそみの槍で攻撃する。
しかし、やはり相手は竜騎士。ほそみの槍ではなかなか致命打を与えられない。
「ほう、西方にいたときに比べれば大分強くなったな。 さすがあいつの娘といったところか。
しかし、そのような蚊のような攻撃では、私を倒す事は出来ぬ!」
ミレディが重い鋼の槍で反撃する。 シーナは身軽さを生かして相手の槍を避けているが、相手も熟練した腕を持つ騎士だ。
とうとう槍の重さを利用して、シーナの軽い槍を弾き飛ばす。 槍を弾かれたシーナは相手の攻撃を避けるしかすべが無い。
そこへ、手槍が飛んでくる。 ミレディは一旦距離を開けた。
「大丈夫か、シーナ。」
レオンだった。 レオンはシーナに予備の槍を渡すと、ミレディに向かって突撃した。
「同じ竜騎士として、いつかお手合わせ願いたいと思っていた。 どちらが上か勝負だ・・・!」
純白の天馬と、漆黒の竜が息のあった攻撃をミレディに加える。
ミレディも長年使い慣れた槍で相手の攻撃を見事に受け流す。 熾烈かつ華麗な空中戦を展開していた。

一方地上でも息をつく暇も無い激しい戦いを繰り広げていた。
ニルスが大斧を振り回す。 そこまで筋肉質というわけでも、ガタイがいいというわけでも無いのに。
アレンとクラウドが何時ものように槍の連携攻撃で撃破しようとするが、
繰り出す槍全てを大斧で受け止められていた。 両手持ちの大斧ゆえに、動きは鈍そうに見えるが
彼は攻撃を見切ったかのように、槍を弾いていた。
セレナも光速の双剣でニルスに襲い掛かる。 切り刻む。 しかしそれも殆どを受けられる。
それなりにダメージを与えられているはずなのに、相手はそれを物ともせずに大斧を振り回した。
それをセレナは避けきれず、かろうじて剣で受けたが吹っ飛ばされてしまう。
斧を剣で受ける事は無理がありすぎた。
「ぐ・・・。 こいつ、滅茶苦茶強いな・・・。」
「無駄だ! 貴様らではこの私を倒す事は出来ん。」
セレナは体勢を整えると、今度は空中からの攻撃に切り替えた。
攻撃は確実に相手を捉えている。 しかし、相手の攻撃をどうしても避けられない。
こいつを攻撃していると、何か足元が凍りつくような感覚に襲われて、動きが鈍くなるような気がした。
切り刻んでは大斧で吹き飛ばされる、それを何とか剣で受ける。 それが続いた。
実力は相手のほうが上手かもしれない。 しかし、数で攻めれば何とかなるはずだ。
アレンたちが攻撃するタイミングを見計らって、彼女も突撃した。
「喰らえ! 必殺の剣!」
セレナは今では得意としている月光剣をニルスにお見舞いする。
避けられないなら、猛攻撃が最大の防御という信条を貫くしかない。
いくら守備を固めても、この月光剣の前にはそれも意味をなさない。
「ぐは・・・。」
うめき声を上げる相手を問答無用で切り刻む。
自分の剣の前に、立っていられるヤツなんていない! 彼女はトドメに、仰け反る二ルスに向かって
剣にありったけの魔力をこめて斬り付けた。 セレナは貰った、と思った。
・・・直後、とてつもなく大きな金属音がした。
前を見てみると、ニルスは間一髪でセレナの剣を受け止めていた。
「ははは・・・愚か者め。 貴様のそんな弱った魔力では、この私は倒せまい!」
彼は受け止めた剣で逆にカウンターを仕掛けた。 大斧で思い切り切り上げられてしまう。
「うっ!?」
自分の肩に温かいものが伝って、真っ赤に染まるのが分かる。 そして、その後に激痛が襲ってきて、セレナは膝を突いた。
超魔法を放つ為に、先程大量のエーギルを放出した。
その影響で、セレナの魔力は底をついていたのである。


127: 手強い名無しさん:06/04/03 19:30 ID:E1USl4sQ
膝を突いたセレナの喉元に、ニルスは斧の刃を当てて、他の者へ叫んだ。
「我々はこいつを殺すつもりは無い。 武器を捨てて大人しくしろ。 お前達がこれ以上抵抗すれば、こいつの命は無い。」
皆は自分達の将が倒され、止むを終えず武器を捨てた。 ・・・セレナのためだ。
皆が大人しくなった事を確認すると、ニルスは大斧を背負う。
そして、セレナを縛ろうとした。 そのときだった。 ニルスは何かに勘付き、あわてて一歩引いた。
その二人の間に剣が割り込んできたのだ。 その剣の根元を見ると・・・。
「貴様、何故こんなところにいる?」
ニルスが剣を割り込ませてきた相手を見て睨みつける。
彼がセレナから離れるのを見ると、睨みつけられた相手は剣を鞘にしまった。
「それはこちらの台詞だ、ニルス。 何故お前がここにいる。 それも・・・アルカディアの連中と共に。」
セレナは激痛に悶えながらも、その聞き覚えのある声のほうを見上げた。
そこにいたのは・・・長い銀髪の・・・ナーティだ!
「黙れ、私には私の考えがあるだけだ。 ・・・邪魔するつもりか?」
ミレディをはじめとするニルスの配下は、ナーティを見るや否やすぐさま去って行った。
「お前が何を考えているか、それは私には分からん。 だが、メリアレーゼ様に刃向かうなら・・・容赦はしない。」
ナーティは腕を組みながら、自分を睨みつけるニルスを、長い髪越しに睨み返す。
睨み合いの続く二人の元へ、何者かがワープしてきた。
「おや、ナーティ様、何故このような場所へ?」
「エレンか。 ・・・。 ニルスがアルカディアの連中に襲われていたのでな。」
ワープしてきたのはエレンだった。 ギネヴィアと同じく、ハーフに体を乗っ取られていた、元ギネヴィアの側近である。
今ではメリアレーゼの忠実な僕だった。
「まぁ何という事・・・。 ご無事で何より。」
ニルスはナーティとエレンを睨みつけながら怒鳴った。
「貴様らはメリアレーゼの元にいなければならないのではないのか? 何故私のいるところに集まってくる!」
怒鳴られたエレンは驚いたように返した。
「私は、メリアレーゼ様が皆様をお呼びでいらっしゃったので、それをご報告に上がっただけです。」
「メリアレーゼが? ・・・くっ、セレナよ。 またしてもお前を貰い損ねたか。
だが、私はお前を必ずや貰い受ける。 そのときを首を洗って待っていることだな!」
捨て台詞を吐きながらワープしようとするニルスに、ナーティが睨みながら警告する。
彼女には、ニルスが何をしようとしているか、大方見当がついたようだった。
「ニルスよ。 今回はお前が何者なのか、私は知らなかった事にしておこう。
だが、二度は無い。 今度おかしな真似をすれば、仲間とて容赦はしない。 覚えておけ・・・!」
ニルスとエレンがワープで消えてことを確認すると、セレナを囲むように仲間が走り寄ってきた。
ナーティがセレナに近寄ってきたからである。
相手は敵。 そして、セレナは先程の戦いのせいで弱っている。 セレナの命を狙っているに違いない。
しかし、彼女は剣を抜こうとはしなかった。
うずくまるセレナの手をどかし、怪我の様子を見る。 そして・・・。
「え・・・?」
彼女はセレナに回復魔法をかけ始めた。 やはり魔力の高さの違いか、アレだけ深かった傷が見る見るうちに塞がっていく。
何か温かい感じがする。 セレナは敵だと思っていたナーティに助けられ、気が動転してしまう。
「お前というヤツは・・・。 せっかく助かった命を大切にすればよいものを。」
怪我を治し終えると、ナーティはセレナを睨んだ。
その目は怒っているような、悲しそうな、そんな複雑な顔だった。 敵とは・・・思えない。
「う、うるさい! あたし達は、あたし達の理想を貫く。 あんたにどうこう言われる筋合いは無い!」
「理想か・・・。 お前は自分の理想のために何をアルヴァネスカに求めて来たのだ。」
いきなり核心を突くような質問をされて、セレナは一瞬と惑った。
「何をしにって・・・。」
「助かった命を危険に晒し、何が起こるか分からない時空の歪を越えてまで何をしにきたのだ。
人間が平和に暮らす事ができる場所など、エレブにもういくらでもあるでは無いか。」


128: 手強い名無しさん:06/04/03 19:31 ID:E1USl4sQ
セレナはそう言われて反論が出来なくなってしまう。
彼女は心の中で問うて見た。 何故、この大陸に来たのか・・・。 何がしたいのか・・・。
セレナだけではない。 皆がその問題を考えていた。
せっかくアルヴァネスカに来たのに、その目的、目標があやふやになってはいけなかった。
サカを発ってからは、全てが順調のよう思えた。
グレゴリオやアゼリクスの襲来など、確かに危機は何度かあった。
しかし、無事に目的を達成できそうだし、世界に大きな変化は今のところ見受けられない。
長い間同じような状況におかれれば、それが日常化していく。 セレナ達にとっては、旅こそが日常になっていた。
しかし、日常化するゆえに、目的は漠然とし、目指すべき道が霞んで見えなくなっていく。 ただ、前に歩むだけになっていた。
・・・目的はなんだったのだろう。 アルヴァネスカに来る事? 違う。 これはあくまで過程に過ぎない。
そうだ・・・あたし達は、もっといろいろ知る為に、ハーフの暴挙の原因に触れるために、ここまでやってきたのだ。
「エレブだけ平和になっても仕方が無いからに決まってるでしょ!」
目的を思い出したセレナは、すかさずナーティに言い放った。
「そう、私達はもっと色々知らなければならない。
エレブだけ何とかしても、根本を解決できなければまた悲劇は繰り返される。 そんなのはダメなんだ。」
シーナも姉に続いて反論する。 皆が、旅の目的を再確認していた。
旅が目的ではない。誰もが差別されずに、笑って暮らせる世界を作ることが、自分達の目的だ。
「ふっ、簡単に言ってくれるな。 お前達にそれが出来るのか?」
「そのために神将器を集めていたんじゃない! それをあんたたちが邪魔して・・・! 返せよ!」
怒るセレナを、ナーティは一層厳しい目つきで睨みつけると
彼女を突き放すように即答した。 人のせいにする事は簡単だ。 それが、人間の悪いクセだ。
「メリアレーゼ様にとっては、お前達が邪魔なのだ。 理想を盾に取り、幻想を追いかけるお前達がな。」
「幻想幻想って! バカにするな!」
「事実を言ったまでだ。 現にお前達は何も変えられていない。」
「・・・そんな・・・ことは・・・。」
言い返そうにも言葉が出なかった。 エレブをハーフの支配から救ったといっても
まだ根本を解決できていない。 上辺だけを変えても、それではいつか中のものが噴出してくる。
「神将器もファイアーエムブレムも、メリアレーゼ様の目指す世界には必要不可欠なもの。
どうしても必要なら自分で何とかしろ。 お前は諦めない事が信条なのだろう?」
そう意地悪く言われて、セレナはついカッとなった。
「くそ・・・! 絶対やってやる。 人間も、ハーフも、そして竜族も。 エレブも、アルヴァネスカも!
皆が皆、自分として堂々と生きる事ができる世界を取り戻してやる!」
セレナが目的を明らかにしたことを確認したかのように、ナーティは薄く笑った。
そして、蔑み混じりの声で彼女もまたワープで消えてしまった。
「ふ、お前の理想とやら、楽しみにしているぞ。 幻想ではない、理想をな・・・。」

「なんだぁ、あのエラソぶったヤツは。」
カイがナーティの消えた空を見上げる。 偉そうにしていいのはオレ様だけだっつーの。
「あいつは、俺たちを裏切ったハーフ側の人間だぜ。」
クラウドが怒ったように答える。 裏切った人間がまた、のこのことなんの悪びれも無く自分達の前に現れたのである。
しかし、シーナには引っかかることがあった。 彼女は・・・自分達を狙っているわけではなかった。
「ナーティさんは一体何を考えているんだろう。 弱った姉ちゃんに止めを刺すどころか・・・また助けてくれた。」
「うん・・・。 何をしに来たんだろう・・・。」
セレナも疑問だった。 しかし、彼女が現われていなければ、自分はニルスに捕まっていた。
自分はやはり、ナーティに助けられたのだった。 自分を裏切った、敵であるナーティに、二度までも・・・。
しかし、もっと引っかかる事があった。 何か引っかかる。 それを言葉に表現したのはアレンだった。
「しかし、おかしい話だな。 ニルスはベルンに対抗する組織のリーダーだと自分で言っていた。
だが、ナーティは、仲間とて容赦は無いと言った。」


129: 手強い名無しさん:06/04/03 19:31 ID:E1USl4sQ
「ベルンに対抗する組織のリーダーとベルンの幹部が仲間・・・? 確かにおかしい話だ・・・。」
レオンも考え込む。どう見ても敵対関係にある二人。 それなのに、何故ナーティは仲間と言ったのだ・・・。
一行は悩んだが、答えは出てこない。 皆で一行の知恵袋を見つめた。
「な、なんですか、みんなで僕を見つめて・・・。」
「ねぇ、セレス。 貴方なにか分からない? 貴方なら頭もいいし、分かるかと思ったのだけど。」
「そ、そんなお世辞を言っても・・・アリスさんにそう言われると・・・嬉しいですね。
僕の個人的見解ですが、ニルスは二つの顔を持っているのではないでしょうか。」
「二つの顔?」
「ふむ。 表向きはベルンに属し、裏ではアルカディアを統べている・・・。 という事か?」
イマイチ飲み込めていないセレナに、レオンが噛み砕いて教えてやる。セレスもそれにうなずいた。
「そういうことです。 それならばナーティや、エレンとか言うベルン側の人間が現われた途端、
アルカディアの連中が逃げ出したことも、ナーティが発した去り際の台詞も辻褄が合います。」
セレナは思い出した。 そういえば、ニルスがワープで逃げる際に、ナーティはニルスに向かって何か言っていたのを。
・・・お前が何者なのか、私は知らなかった事にしておこう・・・と。
「でもよぉ、ここで詮索しても仕方ないんじゃねーか?
今度あいつが現われた時、ぎゃふんといわせられるようにがんばろうぜ? 理想を幻想にしないようにな。」
分からない事だらけだった。 あのエレンとか言う司祭は、封印の神殿でメリアレーゼと共に現われていた。
さっきの三人は、ナーティとニルスはお互いを呼び捨てにしていたし、エレンはメリアレーゼ直々の命令を持ってきた・・・。
あの三人が・・・もしかすると・・・ベルン三翼?
セレナには他にも知りたいことがあった。 ナーティの事である。 あいつは・・・何を考えているんだ。
しかし、詮索している暇は無い。 自分達には目的が、夢がある。 立ち止まっている余裕は無い。
「そうだね。行こう! って・・・何処へ行こう。」
「何処へ行こうって! お前がずんずん歩いていくから、オレ様行き先が分かってるもんだと思ったぞ!」
「知ってるわけ無いじゃん! あたし達はこの大陸のこと何も知らないんだよ?」
シーナは、カイと姉のやり取りを、どこかで聞いた覚えがあるような気がして止まなかった。
事あるごとに、この二人はケンカをしているようにも見える。
「あー、オレ様が悪かったぜ。 お前達がおのぼりさんってことを忘れていたぜ。」
シーナは、カイのこの言葉の後に続く言葉が大体予想が付いていた。
「誰がおのぼりさんだ!」
やっぱり。 シーナはもう呆れてしまった。もうお決まりというか何と言うか・・・。
「うひゃひゃ・・・。 じゃあ、まずは人間族の国に行ってみるか。 またあの糞ジジイに会わなきゃならいのは面倒だが。
この大陸の現状を知るには、あそこに行くのが一番だぜ。 なぁ、クラウド。」
「あ?」
「へっ、なんでもねーよ。」
カイは笑いながら歩き出した。 ・・・なんだあのヤロウ。 ヘラヘラ笑いやがって・・・。
再び歩みだす一行を、道端の茂みから睨む視線があった。
その視線はまっすぐカイを見据え、機会を窺っているようにも見える。
シーナが周りの鬱蒼とした森を眺めている。 そのとき、その森の中の視線に気付いた。
相手は気付いていないようだったが、その視線の周りを見ると・・・何と、そこには!
「危ない! カイ様、避けて!」
シーナがありったけの声で叫ぶ。 カイはシーナの言葉を受けて魔法で障壁を形成する。
障壁を貼るや否や、乾いた音がして地面に何かが落ちた。
「ちっ!」
茂みから舌打ちが聞こえたかと思うと、がさがさと音を立てて、何者かが森の天辺から飛び出した。
そいつは背中の翼で風を切って、見る見るうちに北の空へと消えた。
「待て!」


130: 手強い名無しさん:06/04/03 19:32 ID:E1USl4sQ
セレナが追いかけようとするが、そのスピードたるや半端ではない。
自分でも追いつけそうに無いほどのスピードだった。 仕方なくカイのほうへ視線を戻す。
カイは地面に落ちた物体を拾い上げると、舌を巻いた。
「うひゃー。 こいつは竜殺しの矢じゃねーか・・・。 誰だよ、こんなことするヤツは。」
それは竜に特効効果のある矢だった。 こんなのが当っていたら、ヘタをすれば命が無かった。
自分の命を狙っている者がいる・・・。 昔から分かってはいたが、いざ狙われると恐ろしかった。
人生にそこまで希望があるわけではないが、やはり殺されると思うと怖い。
「・・・あたし達のせいかも。 あたし達をベルンが狙っているから。」
セレナが肩を落とす。 自分達のせいで、違う大陸の人にまで迷惑をかけている。
彼女はもうこれ以上、自分のせいで犠牲になる人は出て欲しくないと思っていた。
カイはセレナの表情から彼女の心中を察したのか、何時ものヘラヘラした顔を辞めて、真顔を彼女に近づけた。
「いいってことよ。 オレ様も、お前の仲間だ。 シーナちゃんが助けてくれたしな。」
カイに続いて、クラウドも妹の肩をポンポン叩いて励ます。
幼い頃からずっと一緒にいる。 こいつの考えている事はよく分かる。 その心中が悩みに渦巻いている事も。
「お前、なんでも自分のせいだと思いすぎだぞ? 俺たちは正しいことをしてるんだ。
それによ、こいつはきっと、殺しても死なないぜ? だからあんま気にすんな。 な?」
「おいおい・・・ どーゆー意味だ!」
「まんまの意味だぜ。」
「同意です。」
「セレス・・・てめぇまで。」
カイは二人を睨む。女性陣はいいヤツばかりだが、男共はオレ様のことをバカにしやがる。
これだから野郎は嫌いなんだ。オレ様が王になったら、女以外は部下にしないぞ・・・。
「刺客の標的が誰にしろ、我々は常に狙われてる。 気を抜かないことだ。」
アレンが若者達を嗜める。 彼自身にも言い聞かせるように。
自分がもっとしっかりしなければ。 いつ姫様達が狙われてもおかしくはない。 うかつだった。
ここは地理も習慣もよく分からない別大陸。 より気を引き締めてかからねば。
それにしても、今の刺客はどこに属する者なのだろうか。
背に翼という事は竜族だ。 竜族なのに、竜族の王位継承者の命を狙うなんて・・・。
不安は募るが、ここに留まっていても仕方が無い。
一行は憂慮しながらも、再び人間族の国へ向かって歩みだした。

「そういえば、貴方の使用武器は何なんですか? 僕は魔法ですが。」
セレスがアリスやシーナを侍らせるカイに話しかける。
カイは何も持っていないように見える。 詩人にも見えないし、魔力不足で超魔法も使えないという。何をするというのか。
「オレ様は何でも使えるぜ? お前ら人間は魔道書なんて厄介なものが必要かもしれないけどな。」
「何でもって・・・。 あんた専門武器は無いの? 器用貧乏ってヤツ?」
セレナがちょっとバカにしたように聞いてみた。
自分は剣が専門でそれに魔法がある。 彼は何でも使えるというが、逆に言えば得意なものが無いという事だ。
しかし、アレンは聞きなおすようにカイを見た。
「何でも? 貴殿は剣も槍も斧も弓も・・・魔法もすべて使えるのですか?」
「あぁ。そりゃ昔から武技についてはかなり気合入れて教え込まれたからな。
扱い方ならどれも心得ているぜ。 流石に、光と相反する闇は使えねぇけどな。」
アレンは感動をぬぐいきれなかった。 全ての攻撃方法を扱う・・・彼が噂のマスターナイト・・・。
騎士の中でも最高位の能力と統率力を誇るものの称号・・・。
噂には聞いていたが、まさか自分のこの目で見ることができるとは・・・。
「まぁでも、一番得意なのはこれかな!」
カイは剣を抜いて振ってみせる。 その動きは手馴れていて、風に舞うようだ。
セレナはそれ見て闘志が沸いてきた。 また自分にライバルとなるような存在が現われたのだ。
ナーティの剣は、風を切るような鋭い剣だった。 こいつは・・・風に踊るような、流れるような剣だ。
「すげー。 おいレオン、こいつの剣見えねぇぞ!」
クラウドがレオンの肩をバンバン叩く。レオンも最初は驚いたが、よーく見てみた。


131: 手強い名無しさん:06/04/03 19:32 ID:E1USl4sQ
剣が・・・見えない? いや・・・これは。
「・・・しっかり見ろ。 カイはホントに剣を握っていないだけじゃないか。」
彼は剣を振るポーズをしただけで、実際剣は握っていなかったのである。
しかも、よく見てみると・・・彼は剣どころか武器を何も持っていない。
武器になりそうなもので彼が持っているのは、小さい果物ナイフだけだった。
「貴方、それで戦うの? ちょっと危険じゃない?」
アリスが、彼の持っていた果物ナイフを指差した。
「アリスさん、冗談は止めて下さいよぉ〜。 これで敵を斬ったら、リンゴの皮を剥く道具がなくなっちまう。」
それを聞いて、一同はどう対応をとっていいか分からなくなってしまった。
その果物ナイフ以外に、武器と呼べるものを彼は何も持っていないのである。
「じ、じゃあ、あんた、武器は?」
彼はさも問題では無いといった口調で、セレナの鼻先を指でつついた。
「ねーよ。 考えても見ろよ。 俺は城から脱出した身。 武器を準備する余裕なんてなかったじゃんかよ。」
「だからって! あんたどうするのよ。 武器が無ければあんた何も出来ないじゃない。」
焦るセレナをカイは宥めるが、彼女の興奮は収まらない。 武器も無い人間を守りながら戦う余裕は無い。
戦力になるかと思って仲間に入れ込んだのに、武器を持っていないだなんて。
魔法が使えるといったって、さっきエーギルを送ったときの彼の魔力は、そこまで高くない。
魔法だけで戦っていけるほどじゃない。 なのに・・・ふざけてるのかコイツ・・・。
「まぁ大丈夫っしょ。 マーキュレイまで行けば、いい武器が置いてあるだろうし。
それまでは、へっぽこ騎士の使い古しの剣でも使っておくぜ。」
カイは馬上にいるクラウドが腰に差している剣を鞘ごと取り上げた。
安ぼったい剣だな・・・こりゃ鉄の剣か。 結構混ぜもんも入ってるみたいだし・・・どういう剣を使ってるんだか。
「お、おい! 勝手に取るなよ。」
「いいだろ? クラウド。 オレ様達、オトモダチだろ?」
「うわぁ、やめろ! 気持ち悪い!」
クラウドはカイに抱きつかれて悲鳴を上げた。
「まぁまぁ。 この剣もオレ様に使ってもらったほうが喜ぶってもんだぜ。
こんな手入れもしてくれないへっぽこ騎士に使われるよりはよ!」
手入れの行き届いていないその剣はなにかみすぼらしい。 カイは早速、剣を磨く。
そして今度は剣を握って素振りをしてみせる。剣は息を吹き返したかのように綺麗な弧を描く。
何処にでもある鉄の剣が、何か特別な宝剣のような輝きを放っているように見えた。
「ちくしょう・・・この貸しは高くつくからな。」
クラウドもそれを否定できず、捨て台詞を吐いた。 ・・・ちょっとは手入れしなきゃまずいかなぁ・・・。
「皆さん、曲芸をいつまでも眺めていないで、そろそろ人間の国へ参りましょう。」
セレスは見飽きたといわんばかりにさっさと歩き出してしまった。
他の一行もそれはそうだと思ったのか、無言でセレスのあとを追う。 地図さえ見れば行き先は分かる。
とりあえず本大陸に渡るまで程度は。
「相変わらず痛い奴だな。 オレ様の剣技を曲芸呼ばわりとは。 そりゃないぜ。」
カイもほかの面子に遅れて着いていく。

暫く一行は無言で進軍を図っていた。 常に何者に狙われている。
ハスタール王国と本大陸を結ぶ橋までもうすぐだ。 より気を引き締めなければ。橋の上では逃げ場は無い。
だが、カイは暇で仕方なかった。 暇をもてあました彼は、クラウドに構ってもらおうとするが邪険されてしまう。
オトモダチに邪険され、今度はセレナに抱きついて、構ってもらおうとする。 妹に抱きつくナンパ男に激怒するクラウド。
しかし、当のセレナは抱きつかれてもカイを殴らなかった。 彼女は考え事をしていてそれどころではなかったのだ。
「ねぇ、ライトニングスピアって光の超魔法なんだよね?」
「ん? あぁ、そうだぜ。 ライトニングスピアは、オーラ、ルーチェと並ぶ光の超魔法の一つだ。
んで、それこそが、オレ達ナーガ一族に代々伝えられている魔法なんだ。」


132: 手強い名無しさん:06/04/03 19:33 ID:E1USl4sQ
「へぇ。」
「三つの超魔法の中でも最上位の威力を持っている。・・・だがな
それ故に扱いがめちゃんこに難しくて、並大抵の魔力じゃ扱いきれないんだ。 オレ様ですら扱えないほどだからな。」
笑いながら、カイは何とかかこつけようとする。 しかし、それをセレスは許さなかった。
「貴方はもしかすると魔道の才能が無いのではないですか? 神竜という割には、そこまで強い魔力のにおいを漂わせていないし。」
「ぎょ・・・お前・・・ホント痛いヤツだな。 オレ様・・・久しぶりに殺意がわいてきたぜ。」
「あぁ、お許しください。 偉大なるナーガ様・・・の末裔様様。」
「・・・。」
セレスに完膚なきまでにやっつけられて、カイもとうとう閉口してしまう。
「あぁ・・・お前、そういえば竜だっけ。」
更にセレスに加勢するように話に乗ってくるレオンに、彼はもう泣きたくなった。
こいつら・・・。 ナーガの旦那ぁ、こいつら、本当に旦那の使いなのかよぉ・・・。
「カイ様って神竜だったんだっけ。 わぁ、すごい!」
「シーナちゃんまで! オレ様・・・しょんぼり。」
カイは腕で顔を覆ってなく振りをする。
竜族の国の王子なんだから竜に決まっているのに。 こいつらオレ様の事を何だと思っていたんだ。
「なぁなぁなぁ! 竜ならやっぱ、石っころ使って、あの馬鹿でかい怪物になれるのか? なぁなぁ!」
クラウドが興味津々と言った感じで、カイを見つめた。
「怪物ってなぁ・・・。 まぁ、なれるぜ? 何なら今から変身して
お前を頭からかじって、骨までしゃぶってやろうか? そうと決まったら、生じゃ不味いし、まずはブレスで狐色に・・・。」
カイはクラウドに竜石をちらつかせながら、舌なめずりして見せた。
アクアマリン色の透き通った石。 これが、カイの力を封じた命の石・・・。
シーナはその美しさに目が釘付けになった。 まるで宝石のような美しさだ。光物には目が無い。
「バカ、やめろ! オトモダチを食べるってどういうヤツだよ!」
「うひゃひゃ。 マジでビビッてやがる。 面白いヤツだな。 オレ様、お前みたいなやつは大好きだぜ。」
一行は緊張した雰囲気でのコントに思わず口元が緩んだ。
緊張感を保つ事も大事だが、やはり笑うことも大切だった。 笑顔は人を癒す。
だが、いつも笑って周りを照らしている側のセレナが、ただ一人黙って下を向いていた。
彼女はまだ何か考え込んでいたのだ。それは・・・ナーティのことだった。


133: 手強い名無しさん:06/04/03 19:35 ID:E1USl4sQ
何とか忘れようと、敵と思い込もうとしていたところに再び彼女が現れ助けられた。
彼女の真意が今でも全く分からなかった。 それだけではない。
ライトニングスピア・・・光の最高位超魔法。 これはナーティが封印の神殿で自分たちに使ってきた魔法だ。
あいつは完全にこの魔法を使いこなしていた。
あいつの本当の実力とは・・・一体どの程度なのか・・・見当がつかなくなった。

一行はハスタール王国領の最北端まで来た。
ハスタール王国は、ヴァロール島と同じく海に浮かぶ、島の上に建国されている国である。
エレブと違う所は、孤島であるか、そうであるかの違いであった。
ハスタールは本大陸と長い連絡橋で結ばれている。
その橋は、まるで天まで続く階かと思うほどに、長くそして美しいものだった。
「うわぁ・・・。」
セレナはその雄大さに思わず声をあげた。 こんな、まるで神が降臨して創造したかのような
そんな壮大な建造物が、今目の前にある。 こんな大規模な建造物はエレブには無い。
エレブで言う大規模な建造物なんて、城ぐらいだし、大橋と呼ばれるものも、せいぜい湖の上を渡る規模だった。
こんな、海を割るなんてことができるのか・・・。 セレスもこの建築技術の高さには舌を巻いた。
「なんて技術力なんでしょうか・・・。 エレブに帰る時は、是非この技術を持って帰りたいものです。」
それを見ていたカイは、胸を張る。 カイにとっては珍しかった。
人間が、こんなに技術を真っ直ぐな目で見るなんて。 エレブの人間は・・・粋なのか、それとも良いヤツなのか。
「はっはっは! どうだ、驚いたか田舎者共め!」
「な、何よ。 あんた、いきなり。」
「この橋はよぉ。 オレ様達竜族がぶっ建てたのよ。」
「へぇ・・・。 ってそうなの!? これも・・・竜族?」
この橋は、竜族が本大陸へ渡る為に造り上げた橋だった。
ハスタール王国内といい、この大橋といい、竜族の技術力は計り知れないものがあるようである。
どうやったら、海の中に橋を建てたりできるのか。 これは魔力によるものか・・・。
もしかすると、神話として伝わっていることも、竜族によるものかもしれなかった。 海を割ることすら出来てしまうのなら。
「うぉーすげー。 水平線まで続いてるぞ、この橋! 竜族ってすげーなぁ!」
クラウドが向こうを覗き見るように叫ぶ。 褒められてカイも鼻が高い。
「へ、竜族の頭脳を思い知ったか! うひゃひゃひゃ!」
その耳に付く、下品な笑い方にセレスやレオンが食いついた。
「何で貴方が威張るんですか。 貴方が建てたわけじゃないでしょう。」
「確かにな。 竜族全てが高い頭脳を持っているわけでは無いだろう。 なぁ、セレナ?」
「レオン! どういう意味よ!」
顔を膨らせながら上を向いて怒るセレナを、レオンは飛竜の上から笑っていた。 本当に予想通りのリアクションをとってくれる。
レオンに釣られて、シーナも笑う。
「姉ちゃん学問所のテストで、可をとったことすらないもんねー。 あいたぁ!」
「うるさい! あたしをバカにするとグーで殴るぞ!」
「もう殴ったじゃん! あぅ・・・。」
頭をさするシーナを気遣いながら、カイは鼻でセレナをあしらった。
「へ、そんな未開の野蛮人と一緒にするなよ。」
カイにその後、セレナから血の制裁が下った事は言うまでも無い。
何が未開の野蛮人だ・・・。 斬り刻まれなかっただけでもありがたく思え、この尻軽王子め!

束の間の感動を終えた一行は、本大陸へ向けて再び歩みだした。
その橋には人っ子一人歩いていなかった。 竜族も、人間も誰も歩いていない。
渡る前から、この橋は芸術的な美しさだと思ったがこれでは本当にそれが正しそうだった。
芸術品であって、橋としての使命を果たせてはいなかった。
「ねぇ、なんでこんなに誰もいないわけ?」
「そりゃそうさ。 誰が好き好んで他の種族の国へ行きたがるよ。」
セレナはこの大陸の、種族ごとの外殻が思った以上に厚いことを、カイの言葉から感じ取る。


134: 手強い名無しさん:06/04/03 19:35 ID:E1USl4sQ
あまり交流も無い、というのが現状なのだろう。
お互いをあまり良くは思っていない。 だから一層自分達の種族の殻にこもってしまう。
そうなれば相手のことが更に見えなくなる。 悪循環だ。
何故、お互いをよく思えない、理解できないのか。 それが自分達の知るべき事だと、彼女は思った。
「だったら、何でこんな橋をおっ建てたんだよ。 竜族は。」
クラウドから出て当然と思われるような質問が出た。
お互いに交流しないのであれば、橋をかけて行き来できるようにする必要性はないはずだ。
「ハスタールは、見ての通り孤島だ。 資源が圧倒的に本大陸に劣る。
神竜や飛竜なら、海上を飛んでいけばいいんだがな。 竜族はそれだけじゃない。火竜に氷竜に・・・。
翼を持たない種族もかなりある。 そいつらが本大陸に渡る為に必要だったのさ。」
カイが“おのぼりさん”たちにしっかりと説明してやる。
ならば、何故竜族は本大陸を手に入れようとしなかったのだろうか。 話は簡単である。
代々の竜族の王が、それを許さなかったから。 それは彼らが聖王と崇めるナーガの言葉故だった。
人間の世界に関与してはならない。 我々が関与すれば、必ず災いが生じる。
この言葉を信じ、彼らは人間の世界に根を下ろすことを良しとしなかった。 人間族の行いを見て見ぬ振りをしていた。
「おかしな話だな。 ならば、なぜ竜族すら誰も渡っていないのだ。」
レオンは周りを見渡すが、やはり人の姿は全く見当たらない。
橋の途中に設置してあるベンチが、悲しそうに空を向いている。
「人間はな、オレ様達竜族のことを化け物扱いして、あまり友好的じゃねーんだよ。」
セレナには分かっていた。 その意味が。
自分もエレブの行く先々で、耳や背中の翼に好奇の視線が注がれていた。
自分達とは違う生き物だと思われる事は仕方ないことだが、だからと言って弾き出されるのは堪らなかった。
幸い自分には、自分を理解してくれている仲間がいる。 変なヤツではあるが同族の知り合いも出来た。
もし、自分がエレブの本大陸で育っていたら、好奇の視線に耐えられずに、違う性格に育っていたかもしれない。
「どういうことだよ。」
「化け物に変身して、世界を滅ぼす種族ってな。 あいつらは、なんでも自分中心でしか考えられないのさ。
なんでも自分達が一番正しく、スタンダードなんだと思い込んでいやがる。 だからオレ様も、人間はあまり好きじゃねぇ。」
セレナはカイの言うことがよく分かっていた。 しかし、それこそが、今一番問題視するべきところだった。
世界を正そうとしている自分達が、同じようなことを考えていてはダメだ。
あたしは教わったんだ。 姉貴やあいつに。そして、自分は理解したんだ。
いいヤツは種族にかかわらずいるし、悪いヤツは人間だろうと竜だろうと、ハーフだろうと居るって言うのは。
「カイ。 種族で縛るのは良くないよ。 人間にだって良い人はいるし、竜族にだって悪い人はいる。
憎むべきは悪い心であって、人じゃない。」
アリスはその言葉に笑顔でうなずく。 自分が教えた事をしっかり覚えている。
カイは暫く目を点にしていたが、目を閉じて、鼻でふぅっと笑って見せた。
「へ・・・、そうかもな。 オレ様、一つ賢くなったかもしれないぜ。」
自分の言った事を同族が理解してくれて、セレナは嬉しかった。
しかし、そんなセレナを突き放すように、カイは言葉を続けた。
「・・・でもな。 それはあくまで建前だ。 現実、多くの人間が竜族に偏見を持っている以上、
人間と一括りにしても差し支えは無いんだよ。 現に、人間達はハーフを差別して隔離している。
人間全員が差別意識を持っていないにしろ、そんな酷い仕打ちに異論を唱えられないなら、例えそれに反対していても同罪だ。」
「カイ!」
「セレナ、そう熱くなるなよ。 オレ様だって分かってる。 お前の言っていることが正しくて
それを実現する為に、種族で縛られない世界を作る為に行動している事は。」
「分かっているなら・・・!」
興奮するセレナ。 しかし、カイは落ち着いていた。
他の面子は、カイの違う一面を目の当たりにして、軽いだけの存在ではないと感じていた。


135: 手強い名無しさん:06/04/03 19:36 ID:E1USl4sQ
「落ち着けって。 でもな、理解する事と、割り切る事の話は別だ。
お前もそういうことがあるだろ? 頭では分かっていても、認められないことが。」
「あるよ。 あんたが王子だと分かっていても、認めたくないし。」
「・・・まぁいいや。 あるんだろ? 差別ってのはそういうもんだ。
一度差別が始まれば、世論に乗っかってどんどんそれが常識化しちまうんだよ。
一度常識になっちまえば、それを疑ってかかること自体難しくなる。更にそれに異論を唱えれば
世間からはじき出される事は請け合いだ。」
人は自分と違うものを嫌う性質がある。
そして、ジョウシキにそぐわない行動をする者を、何とか排除しようとするのである。
チツジョを保つ為に。 だがそれは、自分と違うものを認められないゆえの短絡的な行動である事も多い。
「あんた・・・世間からはじき出されるのがいやなの?」
「・・・全く嫌というわけではないが・・・オレ様も正直、こんな世界はぶっ壊したいと思っている。
だから、お前達をお供にしてやったんでしょー?」
「いつお供になったのよ!」
「まぁそういうことにしておけって! オレ様の一番の右腕ってことにしてやるからよ!」
カイがセレナの肩を腕で包んでご機嫌をとろうとするが、セレナは膨れていた。
誰がこんな尻軽王子の右腕なもんですか。 でも・・・こいつも意外と考えてるんだな。
「しかし、何にしても人間の意識を変えないとな。
そのためにも、諸悪の根源であるあの糞ジジイを何とかしないと。 ・・・メンドーなことになりそうだ。」
カイはヘラヘラ笑っていたかと思うと、また真剣な表情で考え込み始めた。
多重人格なのか・・・? セレナにはどっちが彼の本当の姿なのか見当が付かない。
「糞ジジイって?」
「お前も見たろ、オレ様と一緒に居た、やたら偉そうに取り仕切る糞ジジイを。 あいつだよ。」
「あぁ、あたし達を捕らえようとしてたあの。」
「そう。 あいつはこの大陸の世界宗教の教皇なんだ。 あいつが好き勝手やって、他の人間もそれに言いなりだ。
あいつは神の御言葉を語って、人間を扇動しているといっても過言じゃない。
この橋の建設も、当初人間は反対していたんだが、やつの鶴の一声で一発決定さ。」
指導者によって、世界情勢は大きく変わる。 賢者が仕切れば、世界は住み良く平和に
愚者が仕切れば、世界は欲望と憎悪に満ちた暗黒の世となる。 アルヴァネスカはまさにそれを如術に現していた。
「でも、教皇はなぜ橋の建設を?」
「それは、教会のトップを狙う為。 ・・・まぁお前達のは関係ない話さ。
とにかく、人間の意識を変えるには、まずその意識を作り出す源を何とかしなきゃならんのよ。」
セレナとカイがお互いの理解を深めると、また歩む足を速め、一行に追いつく。
話し込むうちに、歩調が鈍り、他の面子と距離が開いてしまっていたのである。
その追いついたカイに、クラウドが早速質問をぶつけた。
どうやら声は聞こえていたらしい。
「おい、カイ。 人間は竜やハーフを毛嫌いしてるんだろ?
お前はともかく、セレナは竜だし、俺やシーナはハーフなんだぜ? 入国して大丈夫なのか?」
クラウドは不安だった。 ハーフが差別されている。 エレブで人間がされていたことを、今度は自分がされるかもしれない。
そんなところに自分達は向かっている。 大丈夫なのか。
「へぇ・・・。 お前、意外と頭回るじゃねーの。」
カイがクラウドに不気味な笑い顔を見せる。
クラウドはそれを見てより不安が募った。 カイは、一体何を考えているんだ・・・。 こいつ、意外と侮れないぞ。


136: 第三十六章:大陸を制するもの:06/04/08 20:35 ID:9sML7BIs
長い長い橋を数日かけて渡り終えた一行は、ようやく本大陸にたどり着いた。
そしてそれは、同時に人間のテリトリーに足を踏み入れたことも意味した。
この大陸でも、その多くを勢力圏に治める人間族。 彼らの国はマーキュレイと呼ばれている。
マーキュレイは統一国家であり、本大陸のほぼ全てを帝国領としていた。
マーキュレイは3つの地区に区分けされている。 西のイースレイ、北のノースレイ、そして帝都のある中央マーキュレイである。
地図で見ると、今自分達のいる中央マーキュレイは丁度オスティアにあたる場所であった。
どちらの大陸でも人が多く集まる部分が共通している。 やはり、人の集まりやすい条件が整っているのだろうか。
「ここが人間の国なのかぁ・・・。」
セレナはあたりをきょろきょろする。  こちらの大陸でも、やはり人は溢れていた。
数もさる事ながら、生命力、活気に満ちている。 オスティアと、エレブ大陸と殆ど変わらなかった。
こちらのほうが、技術が進んでいること以外は、自分達の大陸と見た感じでは変わったところは見受けられない。
綺麗に石畳に舗装整備された街路、整然とした街並み。
そこに溢れる人、笑顔・・・。 穏やかな日常が流れているように見えてきた。
「そこまで酷いようには見えないけど・・・。」
シーナも街の様子を丁寧に見てみるが、差別が行われていたり、酷い仕打ちを受けている様子は見受けられない。
皆笑顔で楽しそうである。 繁栄帝国の帝都に相応しい盛況さが、ここにはあった。
影の部分をすっぽり覆い隠して尚余りある、 見た目だけの平和がそこにはあった。
ちょっと見ただけでは見破るどころか、影を覆う手助けをしてしまうかもしれないほどの偽りの平和が。
「あー、そろそろ夕焼けが綺麗な時間だぜ。」
カイがノーテンキに背伸びをしながら西の空を仰ぐ。
そこには白色から紅に変わる、美しい陽があった。 セレスも一瞬見とれたが、すぐ我に返った。
「何を暢気なことを言っているんですか。 僕達は遊びに来たわけでは・・・。」
「わぁ、ホントだ。 キレイ〜。」
カイにつられて沈み行く太陽に見とれるセレナ。 将がこうでは、セレスもこれ以上強くいえない。
何時もは注意する側のシーナまでもが見とれていたので、彼はあっけらかんとしてしまった。
「なぁセレス君よぉ。 今日のところはもう日が暮れるし、宿で数日分の旅の疲れを癒そうぜ?」
「おー、俺も賛成!」
歓喜の声をあげるクラウド。 マーキュレイに着くまでの何日間、ずっと橋の上での野宿に加えて夜の見張りが続いた。
今日は暫くぶりのベッドが待っている。  そう思うと声をあげずにはいられなかった。
「そうね・・・。 セレス、今回のところはカイの言うことを聞いておきましょう?」
「おー、アリス様は話が分かるなぁ。 おい、セレナ行くぞ。」
いつまでも日を眺めているセレナの首根っこを捕まえて、カイが先頭を歩いていく。
彼はマーキュレイに度々訪れることがあったから、帝都のこともそれなりに知っていた。 
偽りの平和に覆い隠されている影の部分も・・・。 彼は宿に向かってずんずん歩いていく。
「それにしても、結局橋を渡る途中で誰とも会わなかったな。」
宿に着くと、自分の愛竜を厩に止めながらレオンが同じように愛馬を繋ぐクラウドに話しかける。
「あぁ、何か気味が悪かったぜ。」
「そりゃそうよ。 あの橋を渡る人間なんか・・・あの糞ジジイぐらいだ。」
突然後ろから声がしたので二人は後ろを向いた。 そこに立っていたのはカイだった。
「なんでだよ。」
「人間はオレ様達を恐れているからな。 聖典に、竜族は身の丈云十メートルという神の戦士に変身して
あだなす人間を、食い散らかすという文がある。 神の戦士というところは華麗にスルーしてやがるが
竜は人間を食い散らかす怪物だと思い込んでいる。 糞ジジイは経典から竜族を消すことで必死だからな。」
「なんで竜族を経典から消すのに、竜族の国へ行くんだよ。」
「まぁまぁ、そのうちわかるってことよ。 それより、早く宿に入ろうぜ、クラウドくん?」
「え? あぁ。」
カイが珍しく野郎のクラウドを連れて宿に向かっていく。
レオンはこのとき、何か嫌な予感がした。 カイは何かを企んでいる。 彼は急いでカイを追った。
皆を照らす陽が人に阻まれて影ができる。 それが夕日ゆえに長くなって、次第に街を闇に包んでいった。



137: 手強い名無しさん:06/04/08 20:35 ID:9sML7BIs
セレナは部屋を取ると、晴れやかな顔でそのまま部屋へ向かう。
それを追って、残りの面子も二階へと登っていく。
しかし、クラウドとシーナが二階へ上ろうとしたその時、カイが二人の首根っこを捕まえた。
「何だよ、痛ぇじゃねーか!」
「カイ様・・・何?」
カイは二人から手を離すと、壁にかかっている板を見てみろと言わんばかりに指差す。
クラウドは顔を近づけてみる。 何か書いてある。顔をしかめて覗き込んでみると・・・。
「純血種以外、当宿のご利用はお断りいたしますぅ??」
「そ。 だからお前たちは今日も野宿ってわけだ。 分かったらさっさと厩にでも行きな。」
カイは冷たく二人を突き放す。  純血種以外・・・すなわち半人半竜の血を引くクラウド達は施設を使うことすら叶わなかった。
納得できないクラウドは、二階へ上ろうとするカイを追いかけ、問い詰める。
「おい、待てよ。 何で俺達だけ野宿しなきゃならねーんだよ。」
「何でって、お前たちが混血種だからだろうが。
混血種と居るところを見つかったらオレ様まで厩行きだからな。 早く外へ行けよ。」
「てめぇ・・・!」
「オレ様に当たることじゃねーだろ? アルヴァネスカ・・・いや、マーキュレイはそう言う所だ。」
納得できないクラウドだが、カイにこれ以上当たってもどうしようもない。
兄とカイの様子を宿の入り口から不安そうに見ていたシーナも、堪らずに寄って来た。
ケンカをしている所を見ているのは我慢が出来ない。
「カイ様・・・。」
「おう、シーナちゃん。 オレ様もこんなことをしたくないんだがな。  ここはこういう国だ。
セレナ達にはよく言っておく。 オレ様を・・・信じてくれ。」
カイはシーナを見つめた。  その顔はいつもの顔ではなかった。  ハスタール城のとき見たような、真剣な、別人のような顔で。
「・・・分かりました。 兄ちゃん、行こう。」
シーナはカイを睨みつけるクラウドを引っ張って外に出た。 その二人の様子を、ずっとカイは眺めていた。
そして、扉が閉まる所を見届けると、彼は口を真一文字に結んで階段を上がっていった。
靴底が床を叩く音が、運命の扉を叩くノックの如く、セレナたちの部屋へと近づいていった。

「ひゃっほーぅ、久しぶりのベッドだぁ!」
皮鎧や剣を身に着けたまま、セレナがベッドの上で飛び跳ねる。
母の手のひらにも似た感覚。 肌に伝わる柔らかな感触にセレナは顔を押し付け頬ずりした。
ベッドの上で大の字になる従兄妹を、セレスがマントをたたみながら見ていた。
「ベッドには鎧をはずしてから寝てください! まったく、何度言ったら分かってくれるのやら。」
片づけが終わると今度は鞄から本を取り出して、セレナを叩き起こす。
「さぁ! せっかく机があるのですから、この前の続きから始めますよ! テキストの137ページを開いて!」
「えー!? 嫌だよ! なんで勉強なんかしなきゃいけないのよ!」
セレナは毛布に包まると、ベッドにしがみ付いてしまった。
せっかく冷たくて硬い地面でなくて、暖かくてやわらかいベッドがあると言うのに。
その横にある硬い机で、堅いヤツにあーだこーだと薀蓄を聞かされるなんて真っ平ごめんだ。
「何をしているんですか。 世界を救うとなれば、知識が必要です。 武器の種類、相性、魔法の相関!
戦う上で知っておかねばならない事を勉強しなくては、何が起こるかわからない今後を生き抜くことは出来ません!
さぁ! 早く! ベッドから! 起き上がりなさい! この!」
「いぃーやぁだ!」
セレスが何とか毛布をはがそうとするが、セレナもそうはさえまいと必死にしがみつく。
その様子を、アリスは笑ってみていた。 本当に仲がいい。
「姉貴! 笑ってないで、セレスに何とか言ってよ!」
「うふふ・・・。 セレスの授業は為になるし、一緒に受けましょう?」
アリスも毛布をはがすことに協力しだした。
こうなっては流石のセレナも敵うはずもない。 ベッドから引っ張り出されたセレナは机に縛り付けられた。
「うへぇ・・・悪夢だぁ!」
彼女のうめき声ともとれる悲鳴は、部屋の外で見張りをしているアレンにも聞こえるほどだった。


138: 手強い名無しさん:06/04/08 20:36 ID:9sML7BIs
セレナは暫くセレスのウンチクを、右の耳から入れて左の耳から出していた。
「・・・というわけで、炎は風の魔法に強いわけです。 ・・聞いているんですか!」
「聞いてるよ、ぶつぶつ。」
「全く、もう少し真剣に勉強してください。 シーナちゃんなら一生懸命にノートを取るのに。」
セレスが妹の名前を出して初めて、部屋に妹がいないことに気付いた。
最初はどうせ後から来るだろうと思っていたのだが、未だに部屋にいない。 妹だけでなく、アニキもいない。
あたりを見渡すセレナの首を、セレスが再び机の前に戻そうとする。 その時だった。 部屋にカイが入ってきた。
「おいおい、お前ら外まで声が丸聞こえだぞ。」
カイがセレナやセレスのほうを見て呆れ顔で笑った。
彼にも話の内容を聞いていたから、使っているテキストを覗き込んだ。
「なんだこりゃ。 こんなのガキが習うレベルじゃねーか。 セレナ・・・やっぱお前、田舎の無学者か。」
「う、うるさい! それよりさ、シーナ達知らない?」
カイは、自分から切り出そうとしていた話をセレナに先制され、言葉に詰まった。
しかし、セレナ達にマーキュレイの現状を知ってもらう為にも、ここでうまくやらなければシーナちゃんに悪い。
「シーナちゃんとクラウドは、今日も野宿だ。 二人とも厩にいるはずだ。」
予想だにしない彼らの居場所に、その場にいた皆は耳を疑った。
「厩?! 何でまたそんなところに。 それに、どうして二人だけ野宿なのさ。」
「そうですよ。 変な悪戯をしていないで、早く二人を部屋に招待してあげてください。」
二人には自分が悪戯をしているように思われているようだ。 だが、当然悪戯などではない。
事実を皆に分かってもらわなければ。 この大陸にまかり通っているジョウシキを。
「悪戯じゃねぇさ。 あいつらは、半竜人。 マーキュレイは、半竜人を受け付けない国。
そして、その国がこのアルヴァネスカを牛耳る最大勢力。 ・・・何を意味しているか分かるか?」
セレナは一つ一つ考えてみる。 シーナや兄貴はハーフ。
ハーフを受け入れない国にハーフがいたら追い出される。 ・・・居場所は無い。
「酷いよ。 こんなの酷い!」
頭で考え終わるや否や、セレナは怒鳴った。
自分の仲間が仲間はずれにされて、今日も寒い外で野宿だなんて。 彼女は机から立ち上がった。
「セレナ? 何処へ行くの。」
外へ出て行こうとするセレナを、アリスが彼女の腕を掴んで止める。
「姉貴、離してよ! 兄貴たちを迎えに行ってくる。 こんなの納得行かない。」
「待って、セレナ。 貴女の気持ちはよく分かるわ。 でも、今ここでそんな事をしても、騒ぎが起こるだけよ。」
姉に説得されて、力なく顔を下へ向けるセレナ。 ここで騒ぎを起こしたら、今後の旅に差支えが出る。
ここはぐっと気持ちを抑えなければ。 しかし、人間はエーギルの波長を読み取れないはずなのに何故半竜だと分かるのか。
後で少し厩に行って、二人と話をしようと思った。
レオンは嫌な予想が的中して、渋い顔をしていた。 ・・・いや、まだ大きな騒ぎが起こる前に
この大陸のことを少しでも分かった事は大きい。 カイに感謝しなければ。
「しかし、何故この大陸の人間達はハーフを毛嫌いするのだろうか。」
「さぁなぁ、分からねぇさ、人間の考える事は。
・・・でもな、差別とか、迫害ってーのは、根拠なんていらねーんだよ。 噂が噂を呼んで
それがいつの間にか事実として語られる。 そして、後世の人間はそれに疑いの目を向けることも無い。
都合がいいんだよ。 人間っつーのはよ。」
論理的な理由があるのなら・・・差別なんてどうにだってなるさ。
その部分を修正すればいいんだからな。 そうじゃないから・・・こんなことになってるんだ。
人間は・・・すぐ自分本位で考える。 ・・・おっと、オレ様も人間と一括りで考えちまったぜ。
カイの言葉に、セレナも反論できなかった。 人間と一括りにしていてはいけない。 けど・・・。
自分と種族が違う。 それだけなのだろうか。 それなら奴らも竜族と仲は悪いのだから、自分達だって差別対象になったはず。
しかし、実際に迫害されているのはその両者の混血である半竜人だけだ。
変な偏見を持って竜族を嫌ってはいるが、半竜達へのやり方とは明らかに違う。


139: 手強い名無しさん:06/04/08 20:36 ID:9sML7BIs
セレナには、何が人間族の理を曲げて、ジョウシキとして君臨しているか分からなかった。
それを知る為にも、今は騒ぎを起こすことが出来ない。 ここは・・・我慢だ。
「分かったよ。姉貴、カイ。 でも、やっぱり納得できたわけじゃない。 ちょっと、兄貴達と話をしてくる。」
セレナはアリスの手を振り払うと、部屋の扉を開け放った。
そして、勢いよく明けられた扉から、セレナが弾けるように飛び出して行った。
「あ、ちょっとセレナ!」
「納得できない、ねぇ・・・。 頭じゃ分かっていても、そうとは納得できない・・・。 やれやれだぜ。」
カイは外へ飛び出すセレナを止めなかった。
開け放たれた扉が少しずつ閉まる。 その裏から、外で見張りをしていたアレンが鼻を抑えてふらふらしながら出てきた。
「いたたた・・・。 何が起こったんだ・・・。」

一方厩では、追い出された二人が仕方なく、わらを下に敷いて寝転がっていた。
「何で俺達だけこんなところにいなきゃいけないんだよ。」
上半身を起こしながらクラウドは不満を漏らした。 無理も無い。
しかし、シーナは信じていた。 カイのあの目を。
「兄ちゃん、落ち着いてよ。 こっちの世界は、ハーフは差別されているって聞いていたし、当然かもしれないよ。」
「でもなぁ。 それを変える為に来たのに、それに甘んじるっていうのも納得できないな。」
「仕方ないよ。 今はカイ様を信じて、大人しくしていよ?」
「信じるっつったって、あいつの何を信じるんだよ。」
「カイ様はきっと、姉ちゃん達に差別の現状を知ってもらおうとしていたんじゃないかな。」
クラウドははっとした。 確かに、ここに来るまで、差別が行われていること自体分からなかった。
そして、あいつの言動が何時もに比べて更におかしかったような気もする。
「でも、あいつがそこまで考えて行動するようなヤツには見えないけどなぁ。」
「カイ様は頭いいの! それが分からないなんて、兄ちゃんの目は節穴なの?!」
「・・・お前、やけにあいつの肩を持つな・・・。」
クラウドも妹に宥められて、仕方なくまた寝転がる。
納得は行かないけど、今ここで騒ぎを起こしたら、何をしにこの大陸に来たのか分からなくなる。
不安だが、ここは妹の言うとおりにするしかなかった。
温かいベッドも、うまいメシも、今日はお預けだ。 妹を守る為にも、今日はここで寝ずの番になる。
積もる不満や不安に目を瞑るように、クラウドはそのまま寝転がり続けた。
壁の隙間から漏れる夕日が目にしみる。 ちょっと想像してみた。
日差しが眩しい外へ出れば、迫害されて酷い目にあわされる。
陽を避け、人目を避け・・・ひっそりと息を殺して暗闇に生きる・・・。 考えただけでも嫌だった。
しかしそれが、きっとこの大陸ではまかり通っている。 今の自分のように、ハーフは小屋に閉じこもっているのだろう。
エレブでは・・・する側だった自分達の種族。 自分達だけが日を浴びて生きることが出来た。
今度はされる側に回った。 こんなのはおかしい。 自分が味わってみて初めて覚えるこの感覚。
クラウドは、世界を変えたいと思っていた。 しかしながら、エレブにいたときにはこんな感覚は無かった。
頭の中で、どこかエレブの惨事が他人事であったのだ。 そう思うと、クラウドは自分にも腹が立った。
自分がされて見ないと分からない。 じゃあ、エレブで何のために戦っていたのだろうか。
俺は・・・単になる偽善者なのか。 自分は、ナーティの言っていたように、独りよがりの偽善者なのか。
目の前の現実から目を逸らそうと目を瞑ってみたが、今度は自分にハラが立って寝ていられなくなった。
目を開けてみると、そこには天馬の世話をするシーナがいた。
「なぁ、シーナ。 お前さ、エレブにいたときと、こっちでこうしてからと、どっちが世界をおかしく感じる?」
寝ていると思った兄から唐突な質問をされ、シーナは戸惑った。
同じことをシーナも感じていた。 される側になって初めて覚える感覚を。
「え・・・。 変わらない・・・と言ったら嘘になるかな。 こっちに来てからのほうが強く感じる。」
「やっぱりそうか。 俺ら・・・単なる偽善者だったのかもしれないな。 実際やられて初めて、強く感じるんじゃ・・・。」
「・・・。」


140: 手強い名無しさん:06/04/08 20:36 ID:9sML7BIs
シーナも閉口してしまった。 ナーティやニルスに自分達がやっている事は無駄だといわれていた。 その理由が分かった気がした。
自分達も所詮生き物。 自分に都合が悪くなってからでないと、事の重大さに気付かない。
結局自分の都合の良いようにならないからおかしいと感じる。
・・・世界の為だなんて大義を掲げているけれど、結局は自分の為。
これでは自分の種族の為にエレブを乗っ取った他のハーフと変わらない。 やっぱり自分もハーフの一括りなのか。
こんなんだから、ハーフは差別されるのかな。 でも! それなら他の種族だって自分勝手じゃない。
なのになんで私達だけ。 ・・・暴挙を起こしたハーフたちもきっとこんな気持ちだったんだろうな。
「・・・そうだね。 私達は単なる偽善者かもしれないね。 結局自分の都合の良い世界に変えたいだけなのかも。」
「あぁ。 悔しいが、昔ナーティの言ってたとおりになってるな。
正義なんて言葉は、偽善者が自分を正当化するための道具だってよ。 俺達は、偽善者か・・・畜生!!」
拳を地面に叩きつけて、クラウドが怒りを顕にする。
その怒りは理の捻じ曲がった世界に向かってのそれだけではない。
それは自分達こそが正しいと意気込み、世界の為と正義を掲げていた、偽善者である自分に向けて怒りだった。
「兄ちゃん・・・。」
シーナも兄にどういった言葉をかけてよいか分からず、黙ってしまった。
否定したい。 自分達は偽善者なんかではなく、本当に世界の為と思って行動しているんだ。
それを肯定したかった。 しかし、それができなかった。
どこかで言われたことがある。 ・・・そうだ、封印の神殿で、ブラミモンドに言われたあの言葉。
自分達が間違っているとも思わず、周りが悪いだなんて、何と高慢なんだ、という言葉。
そうかもしれない。 本当は自分達が間違っているのかもしれない。
「違う。 偽善者なんかじゃない。 惑わされないで。」
厩を包む沈黙を破るかのように、澄んだ声がその中に響いてきた。
それは二人にとって聞き覚えのある声だった。 どこか身近な声のような気もするし、シーナにとっては、懐かしい声にも聞こえた。
この声は・・・封印の神殿で見せられた、母さんの幻影の声と同じだ。
また、私達は騙されている? 自分達が正しいと肯定したいがばかりに、その意識が幻聴を作り出している?
シーナは意を決して、扉を開けようとした。 しかし、開ける前に、扉が勝手に開いた。
開いた扉の外にいたのはセレナだった。
彼女は外で二人の会話を聞いていたのだ。 中の雰囲気が重くて、中々入るタイミングをつかめなかったのだった。
仲間が悩んでいる。 自分は今まで仲間に色々助けられた。 自分も何とかして仲間の悩みを解消してあげたい。
でも、仲間の悩んでいる事は、自分も悩んでいることだった。
「セレナ。 お前、俺達と一緒に居るとあまり良く無いぞ。」
「そんなのどうでもいいって。 兄貴達は仲間じゃんか。 いや、家族だよ。」
セレナは暗い顔をする二人に何時もの笑顔を向ける。
二人は何か救われた気になった。 いつも、こいつの笑顔に励まされる。
陽も殆ど落ちて、小屋の中は暗い。気持ちまで暗くなってきそうだった。
だが、それをセレナの笑顔が食い止めた。 笑顔は沈んだ心への万能薬なのかもしれない。
「姉ちゃん・・・。 でも、私達のやってることが、本当に正しいのか、分からなくなってきたよ。」
シーナには不安だった。 偽善者の道具と化した正義が、世界を更に歪めてしまうのではないかと。
世界を良い方向へ変えたいと思っている自分が、世界を悪い方向へ歪めているとしたら、腰が砕けてしまう。
「本当に正しいかは、あたしにも分からないよ。 でも、あたし達は、あたし達の考えが正しいと思って行動してる。
自分の気持ちを信じることも大事なんじゃないかな。」
「でも! でも・・・信じた考えが間違っているとしたら、怖いよ。」
セレナは妹が焦っている事に気づいた。 セレナも思い出していた。 自分の師匠の言葉を。
理想・・・信じる・・・。そんなものは、独りよがりの戯言だ、というあの言葉を。


141: 手強い名無しさん:06/04/08 20:37 ID:9sML7BIs
しかし、今のセレナはその言葉に屈しなかった。
信じることを止めてしまえば、それは自分自身を否定するも同じだ。 自分の考えは、自分そのもの。
あいつは、自分を捨ててしまった者なのだ。
自分で考えず、従っているだけなら、それほど楽な事は無い。
全ては上が考えてくれる。悩むことも無い。悩みは、自分の考えと現実が互いに違う事によって発生する。
現実しか判断材料が無いのなら、悩みも発生しない。
しかし、セレナはそんな風にはなりたくなかった。 自分がナーティに誇れる部分だもの。
「あたしは、自分の信じた道を貫く。 シーナは、今の世界をどう思う?」
「私は、私だって今の世界はおかしいと思う。」
「でしょ? 今の世界を変える為に、あたし達は頑張っているんだ。
それに、間違っているかもしれないと思って諦めたら何も変わらないじゃない?」
姉が笑顔で自分達を諭してくれる。 笑顔の中にも、真剣さが篭っている事をひしひしと伝えながら。
「でも、変えた世界が今よりもっと酷くなったら・・・。」
シーナは自分を追い込んでしまっていた。 皆から無駄だと言われる。
妹が何を考えているか、セレナには分かっていた。 十数年一緒に育ってきた家族だもの。
セレナは師匠に言われた言葉を色々心に刻んでいた。
裏切ったナーティではあるが、あいつの言うことには学ぶべき部分が一杯ある。
「シーナ。 あたしは、自分で動いて失敗する事はしても、悩んで動かずに後悔はしたくないよ。」
「動かずに後悔・・・。」
「そうさ。 失敗したり、間違えたら、やり直せばいいじゃない。 今だってそうでしょ?」
今自分達がこの大陸にいるのは、何も知らずに神将器を集めて、失敗してしまったからだ。
もっと知るべき事があると、こっちの大陸へやってきた。 そして早速その一端を知ることが出来ている。
自分達が差別を受けて更に、差別はいけないことだと思うようになった。 これは成果といえる。
失敗しても、何度でも諦めずにやり直せばいい。 最初から何でも完璧にこなせる人間などいない。
物事をうまくこなす人間と、うまく出来ない人間の差はここにある。
誰でも、何度も失敗し壁にぶつかる。 そのとき、自分には無理だと諦めれば、そこで終わりだ。
ここで踏みとどまり、諦めずに試行錯誤を繰り返す人間だけが、壁の向こうを見ることが出来る。
そして、時は常に動いている。 自ら動けば、世界までも変えることを出来る。 悩めば、時は動くが世界は変わらない。
もしかしたら、悩んでいる間に自分にはどうしようも出来ないぐらいに世界が蝕まれてしまうかもしれない。
悩む時間を行動にあて、試行錯誤にまわせば、いつかきっとうまく行く。 セレナはそう考えていた。
シーナは姉に諭されて、何となく気が楽になった。 そして、今まで黙ってセレナの言葉を聞いていたクラウドも、重い口を開いた。
「そうだな・・・。 俺達は出来ることを精一杯やるしかないな。 悩んでいる暇は無い。
この瞬間も、エレブでもアルヴァネスカでも、時が歪んだ世界を動かしているんだからな。」
クラウドはすくっと立ち上がると、シーナに笑顔を向けた。 セレナが自分にしてくれたように。
「俺らしくなかったな! なぁ、シーナ! 悩む暇があったら動こうぜ!」
兄の顔を見て、シーナにもうなずく。 その顔には、笑顔が戻っていた。
「じゃあ、あたし一回部屋に戻るね。」
「おう、明日からもバリバリ頑張ろうぜ!」
クラウドは厩から出て行くセレナを見送ると、また座り込んだ。
「はぁ、あいつと話してると自然と元気になってくるぜ。」
「そうだね・・・。 私も少しは見習わないと。」
シーナはそう意気込むが、クラウドは笑って止めた。
「止せ止せ。 あいつに習ったら、お前まで女じゃなくなっちまうよ!」
「あはは・・・そうだね。 やめておくよ。 ・・・私は兄ちゃんに女としてみてもらいたいもん。」
「ん? 何か言ったか?」
「な、なんでも!」
シーナはあわてて否定したが、少し残念でもあった。 聞こえないように言ったものの、聞こえて欲しかった。
大きな声で言うのは恥ずかしいけど、兄に自分の気持ちをいい加減分かって欲しい。


142: 手強い名無しさん:06/04/08 20:37 ID:9sML7BIs
そういえば・・・この厩は、馬以外には自分と兄しかいない。
・・・二人っきりだ。 そう思うと急に胸が熱くなってきた。
目線が落ち着かない。 何とか興奮を鎮めようと、下を向いた。 ・・・ふぅ。
落ち着いたところに、兄の声が飛んできてビクッとなった。 もしや聞こえていた?
「シーナ、お前もハラ減ったのか? 急に元気がなくなったけど。」
「・・・違うよ。」
「そうか。 あぁ、ハラ減ったぁ。 セレナのヤツ、飯もついでに持ってきてくれればよかったのに。 気が利かないぜ!」
・・・兄ちゃんのバカ! カイ様の爪の垢でも煎じて飲めって言うのよ!

次の日、一行は厩の外で合流した。
「おはよ、シーナ。 昨日は良く眠れた?」
「うん。 しっかり寝たよ。 兄ちゃんがずっと見張りをしてくれたし。」
セレナは妹の元気な顔を見て安心した。 妹達は自分の気持ちを分かってくれていたのだから。
自分をいつも助けてくれる妹達を厩に残して、自分だけ暖かい部屋で美味しい夕飯を楽しめるわけがなかった。
いつもおかずを取り合う妹も、自分と一緒になってイビキをかく兄も、部屋には居なかったのだから。
「姉ちゃんはぐっすり眠れた?」
「あ、うん。 もちろんだよ。」
シーナは姉からいつもの快活な言葉が返ってこなかったことに疑問を感じた。
しかし、シーナも姉にこれ以上心配をかけたくなかったから、何も聞かなかった。
「シーナちゃん、昨日はごめんよ? 昨日はああするしかなかったんだ。 寒くなかったかい?」
カイがシーナを後ろから抱き包む。 シーナは改めて思った。 カイが最初からハーフ蔑視の現状を知らせる為にこうしたのだと。
「分かっているよ。 カイ様。」
心配するカイに、シーナは笑ってみせた。 昨日姉や兄が、心配する自分にいつもしてくれるように。
それを見たカイは、ふっと軽く笑い、一呼吸おいて他の面子に話しかけた。
「さぁて、腹ごしらえに市場にでも行こうぜ!」
言われるがままに、セレナ達はカイに付いて行った。
付いて行ったというより、この国、いやこの大陸のことを知っているのはカイだけなのだ。

夕焼け空で見た城下町。 朝日に映えるそれは、それよりいっそう人が溢れているように見えた。
アレンはこの光景を、かつてのエトルリアやオスティアに準えていた。
すると、その空に、ロイやかつての友などの笑顔が浮かんできた。
ここの栄華のように、再びフェレに、エレブに光を取り戻したい。
自分が失ったものを取り戻したい。 もう二度と戻らない仲間達のためにも。
ロイ様・・・ランス達・・・シャニー・・・ディークやルトガー・・・そして・・・最愛の妻クリス・・・。
「親父。 なにやってんだよー。 早く行こうよ!」
セレナに引っ張られて我に返ったアレンは、馬の手綱を引きなおした。
「ん、そうだな。 行こう!」
「あ、あぁ・・・。」
セレナはやけに意気込むアレンに首をかしげながら、後ろを付いて行った。
市場は人だけでなく物も溢れ、まさに大陸の覇者の国であることを体現していた。
しかし、こんな光に溢れた国にも、それを飲み込むほどの闇が大きな口を空けているのだ・・・。
セレナは露店で買ったりんごをかじりながら、周りを見渡す。
その横顔が、アレンにはシャニーに映った。 彼はまた空ろな目になっていた。
天真爛漫さもそっくりだった。 シャニー・・・。 最初は元気で顔中から幸せが溢れていた。 輝いていた。
そして、その笑顔に、自分もまた元気を分けてもらっていた。
それが・・・おかしくなってきたのは竜に転生してからだったか。
どんどん笑顔の中に哀しさが混じり始めて行った。 自分のせいで大勢犠牲を出した。 故郷の皆に嫌われている、と。
あんなに人を信頼して疑わなかったシャニーが、どんどん人を信用できなくなって、輝きが鈍くなっていった。
まるで、恒星が輝いて周りを照らし、そして次第に輝きを失っていくように。
彼女の師匠であったディークもそれを心配していた。 しかし、自分達はそれを食い止められなかった。


143: 手強い名無しさん:06/04/08 20:38 ID:9sML7BIs
セレナには、姫にはそんな哀れな思いはさせたくない。 輝きを失わせたくない。
恒星の場合は輝きを失ったら爆発を・・・。 イカンイカン! 何を考えているのだ。
爆発なんてしてしまえば、それこそ取り返しが付かない。 人としてセレナが壊れてしまう。
フェレを取り戻す事も大事だが、きっとロイ様も、それ以上に姫の事を自分に命じるだろう。
「やっぱり・・・平和に見えるね。」
セレナの声に、彼は再びはっと我に返った。 そこには燦々と輝くセレナの顔があった。
「あ、あぁ。」
「どうしたのさ、しっかりしなよ。」
セレナは3個目のりんごに手を出そうとしていた。
「こら、食べすぎですよ。 きっとアレンさんは、クラウドが昨日シーナに何かしなかったか不安なんですよ。」
セレスは、あえてクラウドが食いついてきそうな言葉を選んだ。 だが、答えが返ってこない。
「あれ、クラウドはどこだ。」
レオンが探す。 しかし、いつの間にか、クラウドは居なかった。 クラウドだけではない、シーナも居なかった。
こんな人の溢れる場所ではぐれてしまったら、見つけるのも一苦労である。
「二人ともどこへ行ったのかしら。」
この大陸を知らない人間達にとっては、単にはぐれてしまってしょうがない二人だ、と言う風にしか捉えられなかった。
しかし、カイだけは、この大陸の常を知っている彼だけは、目の色を変えていた。
「やばいぞ・・・。 おい! 手遅れにならないうちに二人を探せ!」
言い終わるや否や、カイは人ごみを押し分けて走り去っていった。
レオンも彼の様子に何かを感じ取り、セレナの食べようとしていたりんごを取り上げた。
「二人が危ない。 ・・・急ぐぞ!」
「あぁ! あたしのりんごー!」
他の面子も人ごみへと消えていった。

その頃クラウドとシーナは街で皆とはぐれてうろうろしていた。
「あっれぇ、皆何処行きやがったんだ。」
「もぅ! しっかりしてよ!」
しっかりも何も、全くこの国の地理を知らないのだからどうしようもない。
二人もまた、自らに降りかかろうとしている災難に気付いてはいなかった。 早く皆と合流しないと。
そんな二人に、ある集団が近づいていた。 そのボスと思しき人物が部下を引き連れて人ごみを裂いて歩く。
「お変わりはございませんか?」
「はい、ガンマー様。 今日も一日商売に精進する所存です。」
「うむ、よろしい。 貴方にナーガ神のご加護があらんことを。」
集団のボス・・・ガンマーは商人に声をかけながら、城下町を巡回する。 彼はナーガ教の異端審問官。
彼に異端と宣告されれば、それは事実上、世の中から抹殺されることを意味した。
しかし、人間が異端と宣言される事は、王家に刃向かわなければまず無いことだった。
彼が恐れられる理由は他にあったのだ。
彼は配下の神官たちを引き連れ道の真ん中を歩く。 それを見つけた街の人々は、街の隅に避けて跪いた。
その目は、穏やかそうに見えるが、何か無理に目を三角にしているようにも見える
ガンマー達が角を曲がったところで、その一行は、自分達を阻むように道の真ん中を歩く者と遭遇した。
その者達を退かそうと、焦って配下の神官が寄ってきた。
「おい、そこの騎士、道を空けろ。」
そこの騎士とはクラウドのことだった。 事情を知らない彼は、当然反論する。
「何だよ、その偉そうな態度はよぉ。」
口論を始める二人にもとへ、ガンマーが来た。
「お前は、ナーガ教の異端審問官ガンマーに逆らうつもりか。」
「なんだよ、そのイタンシンモンカンって。」


144: 手強い名無しさん:06/04/08 20:38 ID:9sML7BIs
この国にあって異端審問官を知らない者はいない。 逆らえば即刻捕らえられてしまう恐怖の神官なのだ。
それを知らないというだけで、相手は怪しんだ。 しかし、ガンマーは感じてしまったのだ。
ハーフ特有の、人間と竜族の魔力が混じった・・・この微妙なエーギルの匂いを。
彼は敬虔なナーガ教信者にして、高位の司祭である。 人間といってもかなりの高魔力を漂わす人物だ。
魔力を漂わす者には、他の者が発するエーギルの匂いが分かるのだ。
そして・・・彼はその魔力を用い、ハーフ狩りを行う神官。 彼が恐れられる真の理由はこれだった。
人々の目には、容赦ないハーフ狩りを行う、神の怒りを具体化したような存在に移っていた。
彼は即刻、配下に二人を囲むように命じると、周りに聞こえるような大声で二人に向かって死の宣言をした。
「お前達はハーフだな! 神聖なマーキュレイに、ハーフでありながら法を破って侵入した。
これは神に逆らうも同罪。 今この場で、お前達に異端を宣告する!」
どよめく野次馬達。 二人は何がおきたか分からなかった。
しかし、よく分からないまま、二人は配下の神官に捕らえられてしまった。
「おい、離せよ!」
「黙れ、異端者に発言する資格は無い!」

二人はそのまま城へ連れられていった。 そんなどよめき止まぬ広場に、遅れてセレナ達が飛び込んできた。
「ハーフがマーキュレイに乗り込むだなんて、何考えてるんだか。」
「また魔術でも使って王家の簒奪でも狙ったんじゃないか? 他大陸でそうやったように。」
街で噂話をする野次馬達の声を聞き、カイは唇を噛んだ。
「くそ・・・遅かったか。」
全速力で走っていったカイに、ようやくセレナ達は追いついた。
「はぁはぁ、カイ! どういう事よ!」
「奴らは異端審問官の巡回に引っかかったんだよ。 マーキュレイにハーフがいること自体問題なんだ。
きっと二人は、異端審問官の怒りを買って、異端宣告を喰らったに違いない。」
再び走り出すカイを追いかけながら、セレスが彼に尋ねる。
「異端宣告を受けると、どうなってしまうのですか?」
「人間でも、異端宣告なんかされたら、抹殺されたも同然だ。
ましてハーフなら、もう極刑も免れないだろう。 ナーガ神に逆らうも同然だからな。」
セレナは腑に落ちなかった。 何故、世界宗教による裁きの中にも、種族による格差があるのか。
神は自らの元にいるものへ、平等に救済の手を差し伸べてくれるのではないのか。 それが、神というものではないのか。
何故人間の国にいるだけで、神に背くことになるのか。 全く理解できない。
しかし、それを聞いている余裕は無い。 仲間が捕まって、殺されてしまうかもしれない。
一行は疾風の如く走り、マーキュレイ城を目指し、人を押し分けていった。


145: 第三十七章:異端者カイザック:06/04/08 20:39 ID:9sML7BIs
一方、ここはエレブのベルン城。
メリアレーゼと、、エレン、ニルス、そしてナーティ。
更に今や唯一の生き残りである、ベルン五大牙の筆頭グレゴリオが参加して、今後について議論を飛ばしていた。
静かな城内に、拳を机に打ち付ける音が響いた。
「何度も言わせるな! 邪神を復活させたところで、平和が訪れるわけが無い!」
「ニルス様、落ち着いてください。 先程も申しましたとおり、ロキの下に皆平等となるのです。」
エレンは一人興奮するニルスを何とか押さえ込もうとするが、彼は止まらなかった。
「黙れ! 何が平等だ。 そんなのは平等とは言わん。 そんな・・・そんな見せ掛けの平和は必要ない!」
ニルスには、既にこの施政の行き着く先が目に見えていた。
暗黒神の下の平等。 それは平等でも、平和ではない。 暗黒神に怯えながら、何の希望も無く生かされるだけ。
それが彼には許せなかった。 何といわれようと、認めるわけにはいかなかった。
「見せ掛けの平和・・・? フッ、今の世も十分見せかけの平和だと思うがな。」
ナーティは腕組みをしながら、顔の前に垂れた髪の間からニルスを睨む。
「だから、このままではいけないと私は前にも言ったはずだ。」
「しかし何も変わってはいない。 結局、何者も差別されない世界など、幻想に過ぎないということだ。」
ナーティは悲観的だった。 そんな彼女にニルスは苛立ちを隠しきれない。
「だからと言って、暗黒邪神に世を任せるなど、狂っているとしか思えん! メリアレーゼ、もう一度言う。 考え直せ!」
ニルスに詰め寄られ、メリアレーゼも視線を逸らす。
ニルスとて、最初から彼女に敵対していたわけではない。
神の舞を踊る一族として、大人になれば竜族の中でも政治にかかわる立場になるはずだったニルスは、よくメリアレーゼとも会っていた。
その頃のメリアレーゼは、自分と同じように、誰もが差別されない、済みよい世界こそが至高の世界であると説くハーフの女帝だった。
それが、あの事件の後、突然考え方が変わってしまった。 もはや誰にも受け入れられる平和など存在しないと。
そうであるならば、どの種族も覇権を握れないように、絶対的な力の下に支配されるしか無いと。
ニルスはその考えには反対だった。 何度も考え直すように説いてきた。
だが、そんな努力もむなしく、彼女の考えは変わらなかった。 そして今も・・・。
「狂ってなどいません。 理想を追いかける事は、素晴らしいことです。
しかし、それが実現不可能なのに、執拗に求める事は、それこそ狂っているとしか思えません。
世界を平和にする為には、種族にかかわらず、同じ王に支配されるしかないのです。」
「だがな!」
「あなたも知っているでしょう。 竜族は、何があっても見て見ぬふり。
それでいて、世界を導くべきは、竜族だと思い込んでいる節がある。 そして人間は、自分以外を認められない狭い心と
自分の野心の為なら形振り構わない、欲に満ちた汚い心の持ち主。
あなただって、人間に利用されて、姉を失ったのではないのですか?」
「ネルガルは・・・確かに・・・。 だが! 姉上は、姉上の意思で人間と生きることを望んだのだ。
それは人間の欲とは関係ない。 それに、姉が慕った人間は、良い人間だった。
種族で縛り、この種族はこうだと決め付けてはいけない!」
「詭弁だな。 その種族の大半がそんなのだから、そう言われるのだ。 火の無いところに煙は立たん。」
「ナーティ! 貴様も何故、そこまでメリアレーゼに従う? 自分の同族を迫害していた彼女を。」
「私は、メリアレーゼ様が世界を救ってくださると信じているからだ。」
ニルスは顔をしかめながら、ナーティを睨みつける。
「本当にそうかな? 貴様は恐れているだけではないのか? 奴らのことで。」
「・・・。」
重い雰囲気の漂う部屋。 会議といっても、通し会議だった。 メリアレーゼの意志が変わる事は無い。
そんな重い均衡を破ったのは、グレゴリオだった。
「メリアレーゼ様、ワシは民が苦しまないのであれば、どんな施政でもかまいませぬ。
じゃが、ロキを召喚してしまえば、必ずや民は不安と恐怖に駆られることでしょう。」
メリアレーゼは、自分の腹心に反対され、少々残念そうにしたが、すぐ言い返した。


146: 手強い名無しさん:06/04/08 20:39 ID:9sML7BIs
「グレゴリオ・・・。 しかし、今でも民は苦しんでいます。 今がおかしいなら、変えなければなりません。
もし、それがだめなら、他の策を考えるまでです。」
「暗黒神を召喚してからでは遅い!」
「まぁまぁ、ニルス様、多数決を取ってみても、メリアレーゼ様の案は正しいと言うことです。」
賛成がメリアレーゼ含め3人、反対がニルスとグレゴリオの2人。 これは・・・多数の暴力だ。
ニルスは椅子から立ち上がると、何時ものようにマントを翻し去っていった。 靴底で床を叩き、高い音を立てながら。
「ニルス様をご説得し、我らベルン三翼でメリアレーゼ様をお助けしましょう。」
エレンがその場を取り繕うが、重い空気は払拭できなかった。 それを嫌うかのように
ナーティもまた、何かを思い出したの様に、突然会議室に後にした。
「・・・エレン。」
メリアレーゼはエレンを呼びつけると、意外なことを命じた。
「ナーティを付けなさい。 奴は何を考えているか今でも分からないところがあります。
怪しい素振りをしたら、すぐに知らせなさい。」
「は、仰せのままに!」
主の命を受け、エレンもワープで消えた。 部屋に一人残ったグレゴリオのところまで、メリアレーゼは歩み寄った。
「お前は慎重だな。」
「は、じっくり考えてからでも遅くは無い事柄ですので。」
「この瞬間でも、同族が苦しんでいてもか?」
グレゴリオはしばらく黙っていたが、自分の考えをしっかりと出した。
彼は例え、主の意に背いても、主の為ならば、自分の身はいとはない。
「もし、焦って十分な思慮を伴わない行動を起こせば、それは今より酷い結果を生むかもしれませぬ。
じっくり腰をすえて考えて、リスクを計算してから行動を起こしたほうが、民の為にもなるとワシは信じております。」
これは、実質上メリアレーゼの行動を批判するものだった。
しかし、これも主の為。 メリアレーゼほどの賢者が、焦ってしまうなど、あってはならない・・・。
「・・・お前の言う事は尤もだ。 でも、もう我々ハーフには後が無いのだ。
人間がいつ、今より非道事をし始めるか分から無いのだからな。 奴らほど信用できない種族も無い。 考えている余裕は・・・ない。」
「・・・。」
グレゴリオにも分かっていた。 彼女がそんな決断を下すまで、どんなに考え抜いたか。
だがしかし、彼女はたった一人で考えていた。 これだけ大勢の仲間を従えながら、誰に相談することも無く。
今でも、直属の部下であるナーティに監視をつけた。 信用できていないのだ。
メリアレーゼは哀れな人だった。 誰も信じられなかった。 ナーティも・・・あやつも同じようなもんじゃ。
ヤツの心は死んでおる。 今のあいつは、メリアレーゼ様の操り人形。
ヤツの心を蘇らせることが出来るのは・・・あいつらだけだ。
黙り込むグレゴリオに、メリアレーゼは違う話題を振った。
「ところで、アゼリクスはどうしているのですか? 会議にも出席しないとは。」
「わかりませぬ。 奴は何を考えているのかよくわかりません。 ナーティより、ヤツを監視するべきかと思われます。」
メリアレーゼは黙ってうなずくと、部屋を出て行った。
独りになったグレゴリオは、頭を抱えて机にひじを突いた。
「メリアレーゼ様・・・このままでは・・・。」

風を切ってセレナ達は走る。 目指すはマーキュレイ城。
城下町の中央に聳え立つそれは、街のどこからも見ることが出来るほど高く、そして美しい。
それは朝日を浴びて一層際立っていた。
仲間を助ける為に。 しかし、いくら仲間だからと言っても、異端宣告された者を引き渡してくれるとは到底思えない。
その予想は無残にも的中してしまった。 しかも、最悪の状態で。
城の前に辿り着いた一行は、目の前の光景に息を呑んだ。 そして、それを信じられなかった。


147: 手強い名無しさん:06/04/08 20:40 ID:9sML7BIs
そこには、処刑台にかけられた二人が、野次馬に晒されていたのである。
「皆の者! よく聞け! この者達は、劣悪な半竜人でありながら、この神聖たるマーキュレイを汚した。」
「それに留まらず、ガンマー大司教の御前を乱した。 この罪は、たとえ大司教のご慈悲を持ってしても、相殺できるものでなく。」
「それどころか、 ナーガ神の教えを記した、
ナーガ聖典に照らし合わせても、自らの命を差し出す以外にこの罪を購う事は不可能である。」
「よって、これよりこの罪深きものに、ナーガ神の代弁者、ここにおわすガンマー大司教に神に代わって裁きを下して頂く!」
配下の神官たちが、順に二人の罪状を高らかに宣言する。 その中央には、ガンマーが厳かな風貌で椅子に鎮座していた。
「兄ちゃん・・・私達どうなっちゃうのかな・・・。 怖いよ・・・。」
「・・・。」
「兄ちゃん! ・・・。」
シーナは死を目の前にした恐怖に泣いてしまった。 クラウドも慰める言葉が無い。
上を見上げれば、そこには巨大な刃。 もうすぐ、あれが自分の首に落ちてくる。
クラウドは周りを見渡した。 野次馬どもは自分達に向かって口々に騒いでいる。 それが罵倒である事が嫌でも分かる。
そしてガンマーのほうを見れば・・・そこには彼と共に・・・教皇がいたのだ!
教皇は目を細めて民に手を振っていた。 まるで英雄を気取るかのように。
シーナとて、どうなってしまうか分からなかったわけではない。
しかし、兄にそれを聞いて否定して欲しかった。
その兄も、何時もの威勢が無い。 いつもなら泣くなよと励ましてくれる兄が・・・。
しばらく二人を見せ物にすると、ガンマーは皆を鎮め、静かに椅子を立った。
「では、これより裁きを下す。」
彼は一歩ずつ処刑台に近づき、そして、刃を落とす綱を握った。 彼の手は震えていた。
「願わくば、この異端者たちにもナーガ神のご慈悲を・・・。 さらばだ・・・!」
シーナは血の気が一気に引いていくのを感じた。 そして、もう目を空けていられず、強く目を瞑った。
兄ちゃん・・・姉ちゃん・・・皆助けて!
クラウドは覚悟を決めた。 これがマーキュレイ・・・。 ハーフが反乱を起こした理由・・・分かったぜ・・・。
もう、遅いけどな・・・。 死にたかねぇ! でも・・・もう。
「ちょっと待った!」
静まり返った城前広場に、透き通った声がこだました。 その声にガンマーは胸を撫で下ろしながら、綱から手を離す。
誰もがその声のしたほうを見つめた。 そこにいたのは・・・シーナにはその人が天使に見えた。
シーナには天使に見えたその人が、教皇には悪魔に見えた。 天使と悪魔は紙一重・・・。
「(ちっ、なんとバッドタイミングだ) こ、これはこれはカイザック最高師範。 どのようなご用件でしょう。」
セレナ達はカイに任せ、人ごみの後ろから様子を見ていた。 この場面で公の場に出て行けるのはカイだけだった。
セレナもアレンも、皆二人を心配していた。 皆が皆、飛び出して行きたいぐらいに。
でも、ここで我慢しなければ、二人は確実に殺されてしまう。 皆はつばが音を立てるほどに、息を呑んで見守る。
「そいつらは、オレ様の大切な僕だ。 返してくれ。」
「これはカイザック様のお言葉とは思えません。 この者共は半竜人にしてここで罪を犯しました。」
カイはわざと教皇をにらみつけ、怒鳴りつけた。 わざと野次馬にも聞こえるように。
「ぐだぐだ御託を並べるんじゃねぇ! てめぇは、ナーガ教の最高師範のこのオレ様、カイザック様に逆らおうってーのか?」
「滅相もございません! ですがしか・・」
「だったら、あいつらを開放して、オレ様に返せ。 あれはオレ様の物だ!」
カイに押されて、仕方なく教皇もクラウドたちを処刑台から引き摺り下ろす。
教会のナンバー1と、ナンバー2が怒鳴りあっている。 野次馬はシーナたちより、そっちを見ものとばかりにどよめく。


148: 手強い名無しさん:06/04/08 20:40 ID:9sML7BIs
「・・・仰せのままに。」
シーナとクラウドは、教皇指示の司祭によって、カイの元へ戻された。
シーナはカイに抱きつくように後ろへ隠れた。 もう死ぬかと思った。 今でも生きた心地がしない。
「ところで、この異端宣告したの誰だ?」
カイのその問いに、ガンマーが答えようとした。
「はい、教皇に指・・・」
それを、教皇が遮ってカイに申告した。
「は、ここにいるガンマー司祭が、独断で行いました!」
ガンマーは目を見開いて驚いた。 自分は城に帰った後、教皇と二人の対処に関して協議を行っていた。
そして、国外追放で済まそうとする彼の意見を教皇が砕いて、極刑処分を下したのだ。
しかし、自分より位の上の者の言う事が絶対であった。 逆らう事は、どんな場面でも許されない。
「ガンマー・・・お前が? ・・・もうすこし、半竜人にも慈悲の手を差し伸べてやれ。」
カイには、ガンマーがそんなことをする司祭には思えなかった。 人間の中でもまぁまぁフェアな考えを持った司祭だったからだ。
しかし、今は証拠が無い。 ヘタに騒ぎを起こせば怪しまれる。 これ以上カイも追及しなかった。
未だに納得できないといった表情をするガンマーの肩をポンと叩き、笑顔でその場を立ち去った。
それを、教皇は睨みつけながら見送り、姿が見えなくなると、城の中に姿を消した。
「おのれ! あの目障りな王子さえいなくなれば・・・。 おい、クレリア! いるか!」
教皇の呼び声と共に、後ろから突然女性が現われた。
その碧色の瞳は、どこかで見覚えが・・・ハスタール城で、そしてハスタール領内でカイを狙った、あの狂気の瞳だった。
「おお、アサシンクレリア! 奴らの暗殺は未だ成功しておらぬのか!」
「申し訳ございません。 ですか・・・。」
「なんじゃ?」
顔を近づける教皇に、クレリアは申し訳なさそうに視線を逸らした。
「お言葉ですが、私には、カイザック王子暗殺が、世界を正しい道に導く方法とは思えません。」
教皇は更に顔を近づけ、更に眉間にしわを寄せて耳打ちするかのように、彼女にささやいた。
「お前には金をたんまり渡してあるだろう。 人殺しを仕事にするお前に、正しい道も何もあるまい。」
「そうですが・・・。」
教皇は動揺する彼女を恫喝するかのように、突然大声で話し出した。
「ならば! 渡した金の分働いてもらわなければ困るな!」
何も言えなくなったクレリアに、今度は先程の恫喝が嘘のようなささやきで彼女の弱みをつついた。
大声による威嚇と、ささやきによる慈悲を巧みに彼は使い分けていた。
こういうところは、流石に聖職者というべきか。
「お前は幼い弟妹を抱えて金に困っているそうではないか。 だから、このワシが仕事を与えたのだ。
せっかく救いの手を差し伸べているのだ。 何もそれを拒む必要もあるまい。」
「・・・。」
「さ、行け。 今度こそあのナンパ男を仕留めて来い! わしも温厚な性格だが、そう何度も失敗を許すほど甘くは無いぞ?」
クレリアは、城を追い出されたも同様に城を後にした。
一旦城の近くの木陰に身を移すと、弓の手入れを始めた。 暗殺なんて陰気な仕事、本当はしたくない。
でも、自分に秀でた芸はこれしかない。 故郷では弟妹が腹をすかせて待っている。
「私には・・・これしか道が無いんだよね。」
軽く手入れを終えると、彼女は背の翼を広げ、空へと消えた。
「やっと行ったか。 金は十二分に与えたのに何が不満なのだか。
さて、お前達も行くぞ。 今度こそ、あの半竜共をこの世から消し去ってくれる。」
「お待ちください。 カイ様も寛大な処置をせよと仰っておりました。 これ以上の処罰は必要ないのでは。」
教皇にガンマーが食い下がるが、彼は止まらなかった。
「黙れ! あんな軽い男が最高位など、認めん! お前はワシより下位。 おとなしくわしの命令に従っておればよい!
お前も敬虔なナーガ教信者なら、命令に背くことがナーガ神に背くも同然である事ぐらい、心得ておろう!」
「・・・。」
「分かったらぐずぐずするな! すぐに先程の半竜共の波動を追うのだ!」


149: 手強い名無しさん:06/04/08 20:41 ID:9sML7BIs
城下町の外れまで来たカイは、ようやく解放された二人、クラウドとシーナの自由を奪っている縄を解いた。
そこで他の面子と待ち合わせをしていたのである。
「あーん、 カイ様! 怖かったよ!」
自由になるや否や、シーナはカイに抱きついた。 あそこにカイが来るのが後数分でも遅ければ、自分達は死んでいたのだ。
姉や父、友の顔を見ると、もう泣かずにはおられなかった。
アレンが血相を変えて二人に走り寄る。 守るべき姫と、自分の息子。 どちらも失う事は死ぬことより辛い人間だ。
顔を手で包み、両者の無事を確認する。 泣きそうになるのをぐっと堪えながら。
「危なかったな、シーナちゃん。 オレ様もうかつだったぜ。」
「カイ・・・。 助かった、礼を言うぜ。 親父、心配をかけた。」
「この・・・親不孝者が・・・。」
クラウドも今回ばかりはカイに礼を言わざるを得なかった。
恥ずかしいし、何か悔しい気もするが、命の恩人だ。 顔を背けながらだが、しっかり礼を言う。
「なぁに、いいってことよ。 オレ様達、オトモダチだろ?」
「・・・そうだな!」
「シーナ! 兄貴! おかえり!」
セレナも二人を歓迎する。 大切な大切な仲間が帰ってきた。
自分を支えてきてくれた二人が帰ってきてくれた。 セレナは嬉しくて仕方なかった。
しかし、それ以外の何かが、言葉に表せない、胸を焼き焦がすほどの何かが込みあがるのも感じていた。
「しかし、驚きましたよ。 まさかカイが、世界宗教のトップだったなんて。」
セレスもカイを認める。 本当に今回は、カイのお手柄だった。
「あれ、オレ様、前にも言った覚えが・・・まぁいいか。 ま、そういうことよ。
これからは、カイ師範と呼びたまえ! うひゃひゃひゃ!」
調子に乗るカイを無視して、セレナは前から疑問に思っていたことを彼にぶつけてみた。
「ねぇ、なんで種族間で宗教上の裁きまで変わってくるの?」
その疑問に、今まで笑っていたカイも静かになった。
そして、静かに理由を答え始めた。 この大陸の闇の部分の確信をつくかもしれない、その答えを。
「この大陸は、ナーガを神として崇めている。
そして、ナーガの言葉は聖典として、宗教上のルールを決める規律となっている。
その一説に、竜族は世俗世界にかかわってはいけない、というものがある。」
「あぁ、それは我らエレブにも伝わっています。」
アレンは思い出した。 かつてロイとナバタの里に行った時聞いた、竜の長老も、そのようなことを言っていた。
「そうか。 最初はそれもあまり重要視されなかったんだが・・・教皇があいつに代わってから
この一説はハーフ蔑視の大きな根拠として持ち上げられた。
半竜人は、掟を破った竜と人の子。 人であって人ではない。 悪しき心を受け継いだ悪魔の種族と解釈したんだ。」
カイの告白に、一同は発する言葉も無かった。 セレナには、先程から胸で痞えている感情が、何か分かってきた。
皆が真剣に話を聴くのを見て、カイは更に告白を続けた。
「教皇は、神の代弁者。 世界中が信じる宗教の教皇の言葉は、当然神の言葉として皆に受け取られる。
それまでも半竜人への差別は酷かったが、宗教に・・・神による根拠が示されて以来、それは一気に加速、激化した。
神の言いつけを破ったものに、救済は必要ない。 それが、同じ罪を犯しても半竜人だけ罪の重い理由だ。」
ここまで聞いて、セレナは完全に理解した。 自分の気持ちを。
この気持ちは、紛れもなく怒りだ。 教皇への真っ直ぐな怒りだ。
そして、それを信じて疑わない世界への怒り。 更に、それを変えられず、仲間を助けられなかった自分への怒り。
絶対に許せない。 こんな事がまかり通る世界は、絶対に変えてやる。
「決めた。 あたしは、教皇を倒す。 諸悪の根源を断つ。 それが、あたし達の求めた世界を作る第一歩だ!」


150: 手強い名無しさん:06/04/08 20:41 ID:9sML7BIs
セレナの考えに皆異論はなかったが、しかしそれが難題である事もまた、皆異論はなかった。
教皇・・・人間を敵に回すとなれば、当然世界を敵にまわすことになる。
「しかし、どうするつもりなんですか?」
「教皇を倒す。 そのために、あちこち回って皆に考えを説いて回るさ。
教皇一人を抑えても、世界に根付いた意識を変えなければ、何もなら無いもの。
異端扱いされようが、あたしが生きている限り、絶対に諦めない。 理想は絶対にかなえて見せる。」
カイは、セレナの言い放った言葉に体が固まった。
真っ直ぐで、余計なものを纏っていないセレナの言葉が、自分の心を串刺しにしてくる。
今自分に一番足りないものを、彼女が使って自分の心の窓を蹴破らんとばかりに叩いてくる。
裏切られても、絶望しても尚立ち上がる・・・オレ様も、もう逃げていられない。
「それにしても、カイが教会のトップでありながら、何故教皇が好き勝手やっているの?」
アリスが先程からずっと疑問に持っていたことをとうとう口にした。
カイはそれを聞いて苦い顔をする。 しかし、もう逃げているわけには行かない。 こいつらなら、きっと分かってくれる。
「オレ様がロクに教会に顔を出さなかったからだ。
皆に信じてもらえなくて、ぐれてたんだよ。 だが結局・・・それは逃げてただけなんだよ。
オレ様が逃げたせいで、世界で苦しむものが出てくる。 それが・・・今回よぉーく分かった。
もうオレ様は逃げない。 本気で、世界を変えたい。」
カイの真剣な眼差しに、セレナは彼の気持ちは本当なんだと信じた。
「じゃあ!」
「あぁ、これからもよろしくな。 おかしいと思う事は、主張しなくちゃな。」
その途端だった。 突然の足音と共に、周りを兵士達が取り囲んだ。
何処からともなく現れたその兵士達に、一行は面食らってしまった。 その軍を指揮しているのは・・・教皇だ!
「カイザック師範、聞かせていただきましたぞ! いくらナーガ教の最高師範といえ
マーキュレイ帝国の簒奪を企む人物を放っておけませぬ! 今ここで、このワシ自らが、貴方に異端宣告を下します!
皆の者! 最高師範といえど容赦するな! 国家に刃向かうものを討ち果たせ!」
兵士達が教皇の命令で一行に襲い掛かる。 クラウドとシーナが、先程のお返しといわんばかりに率先して反撃する。
「さっきはよくもあんな目にあわせてくれたな! これでも喰らいなさい!」
シーナの怒りの槍が、敵の急所を突く。 槍をぶんぶん振り回し、相手を近づけさせない。
「何時ものセレナちゃんとは思えませんね・・・。 なんかおっかない・・・。」
「なんか言った!?」
「いえ、何も。 エルファイア!」
セレスは恐ろしくなってシーナのほうから眼を背けた。 自分の知っているシーナとは違う。
「おいおい・・・随分タイミング良いじゃねーかよ。 教皇様よぉ。」
カイも朝武器屋で買った銀の剣で舞うように相手を攻撃する。 流れるような剣技に相手はどんどん倒れていく。
「なーんだ。 あんた、魔法なんかより全然そっちのほうがいいじゃない。」
セレナも剣のライバルが繰り出すその技を目で追っていた。
綺麗な弧が何回も宙を舞う。 彼は切っ先で綺麗に相手を攻撃していたのだ。
自分以外にこんな器用なヤツが身近にいたなんて。 あたしも負けてられない。
双剣から得意の剣技を繰り出し、せめて来る兵士達を鎮める。 教皇も焦り始めた。
余剰も考えて用意した兵が、ことごとく倒されていく。 こやつら、戦いなれておる・・・。
退却を考え始めたそのとき、突然目の前に騎士が現われ、自分に槍を突きつけた。 アレンだった。
「我々は、無駄な騒ぎは起こしたくない。 ここは、お互いのために兵を引いていただけませんか?」
「ぐぐ・・・。」
リーダが万事休すの危機に陥り、兵士達も身動きが取れなくなった。
セレナとシーナが走り寄ってきて、教皇の前に立った。
「ハーフを差別しないように、世界に宣言して!」
「何じゃ、お前はいきなり。 そんなこと誰がするものか。」
セレナの要求を一言で拒否する教皇。 しかし、彼女は引かなかった。
「ハーフだろうが、人間だろうが、竜だろうが、皆価値は同じだよ。 神の前でだって平等だよ。
神って言うのは、皆平等に救済の手を差し伸べるものじゃないの?
皆生きてるってだけで価値がある。 平和に、幸せに生きる権利があるんだ。 あんたのやってる事はおかしいよ!」


151: 手強い名無しさん:06/04/08 20:42 ID:9sML7BIs
「黙れ! 貴様ら異端者に何が分かるものか。」
シーナは怒りを抑えて話そうとした。 しかし、やはり口調に現われてしまう。
自分を迫害していた相手を恨むなと言うのも酷である。
「分からないから聞いているんでしょ? 何故ハーフを差別するの?」
「・・・決まっておろう。 貴様ら半竜人は、掟を破った悪しき竜の末裔。 悪魔の種族だからじゃ。」
教皇はシーナをにらみつけた。 シーナは、彼が自分をハーフと知っていて、怯えにも近い感情を、その目から感じ取る。
何故ここまで・・・。 神の掟を破ったから、という理由だけでは無い気がする。
「人間の世界に関わってはいけないという戒めは、苦しんでいる者を見過ごし、人を愛するなと言うことなのですか?」
後ろからの声に、教皇は目を見開いて驚いた。
その声の主はアリスだった。 彼女も精霊術師と呼ばれてはいるが、元は神の教えを説くプリースト。
先程から教皇の言っている事が疑問でならなかった。 そして、聖典の解釈も。
「なんじゃと・・・?」
「神は、全ての命あるものへ平等に救いの手を、愛を差し伸べてくださる。 我々を導いてくださる存在。
神御自らが、率先して差別を行うように仰せられるはずがありません。
先程言ったように、神御自らが、人を愛する事を否定するのであれば、そんなのは神ではありません! 魔王です!
そして、その魔王の代弁者である貴方こそ悪魔です!」
「・・・。」
教皇も、アリスの気迫に言葉が詰まった。
自分が忘れかけていた、いや思い起こしたくないことを、彼女の言葉によって思い出してしまった。
双子も目を点にした。 姉が、いつも優しくてお淑やかな姉が、こんなに声を荒げるなんて。
「ワシだって・・・最初から半竜人を憎んでいたわけではない・・・。だが・・・。」
「じゃあなんで!」
「・・・だがな! 半竜がのさばる事で、我ら人間の世界が脅かされる危険がある以上、その存在を許しておくわけにはいかんのだ!」
突然教皇が急に後ろへステップした。 アレンは逃さんとばかりに槍を突き出そうとしたが
その途端、アレンは右のわき腹に激痛を覚えた。
「ぐっ・・・!?」
セレナとシーナが、父親が手で庇ったわき腹を見る。 そこにはなんと矢が刺さっていた。
アレンを気遣う双子の前に、誰かが現われた。 はっとして前を見る。
そこには、弓を持った碧色の髪の女性が、自分達と教皇の間に立ち、こちらを睨んで立っていた。
彼女は足元に何かをたたきつける。 すると、その途端、そこから目も開けていられないほどの眩しい光が発せられた。
光が収まると、そこから教皇の姿が消えてきた。 残っていたのは先程の女性だけ。
「何者だ!」
アレンに回復魔法をかけるアリスを庇うように、皆がその女性ににじり寄る。
「死に行くお前達に、名乗る名前は無い! 悪いがお前達には死んでもらう!」
彼女は背に弓を背負うと、腰の両側に下げていた鞘から短剣を抜いた。
あれは・・・短剣・・・いや、キルソードだ!
「皆・・・気をつけろ! 見るところ敵は・・・一撃で敵を仕留める技を持つアサシンだ。
相手に背をとられない様に、細心の注意を払うんだ!」
怪我を治療してもらったアレンは、即座に新たな敵の情報を皆に知らせる。
相手は一撃必殺を狙って、風神のごときスピードで襲ってくる。
アサシンだけが持つ瞬殺の技術。 その前では、どんな強靭な体力も、鉄壁の守備力も意味を成さない。
相手の急所を的確に狙い、息の根を止める。 そのプロの業を回避する事は難しい。
ただ相手に隙を見せないこと以外に方法は無い。
皆警戒して一箇所に固まる。 これでは相手も流石に背面を取れないだろう。
アレンの熟練した経験がはじき出した最良の策だ。 しかし、それ以上に彼は何か妙な感じを受けた。
このアサシン・・・殺意を感じられない・・・とまでは行かないが・・・どこか本気で無いように思える。
長年騎士をしていると、相手が本気か否かは表情ですぐ分かる。 この娘、何か迷いながら剣を振っている。


152: 手強い名無しさん:06/04/08 20:42 ID:9sML7BIs
それは、相手の剣を槍で受けると更によく分かった。 絶対に手を抜いている。 ・・・先程の矢も、もしや。
それにこの娘・・・誰かに似ているような気が・・・。
アレンは逆に相手の隙を見て、槍の柄で短剣を弾き飛ばした。 剣を弾かれ焦る相手。
そこをすかさず、クラウドが父を真似て、弾こうとしたが、ダメだった。
やはり熟練した技と、見よう見まねのそれではワケが違った。 彼は手痛い反撃を受けてしまう。
「ぐあ!」
「クラウド、しっかりしなさい!」
レオンは相手が弓を使ってこないことをいい事に、竜に乗ったままタックルをかましてみた。
飛ばされたもう片方の剣を探すことに必死になっていたクレリアは、彼への反応が遅れ、竜に轢かれてしまう。
「あいたぁ!」
竜に吹き飛ばされ、頭を抑えながら上半身を起こすクレリア。 しかし、右手が動かない。
「?!」
よく見ると、カイに剣を踏まれていた。 短剣の刃の上に体重を乗せられては、テコの関係上引き抜く事は難しかった。
「よぉ、お前、見たところ飛竜族だな? どうして、あんな人間の糞ジジイの言う事聞いてるんだよ?」
カイが同族ということもあって、友好的な口調で聞いてみる。
だが、相手は友好的とは行かないようだ。 剣から手を離すと、カイと距離を空けた。
「うるさい! お前さえいなければ、平和なんだ!
ナーガ神だの、その使いだの、私は信じないね! 世界の理を曲げても平然としてる神なんてね!」
彼女は先程と同じように、地面に何かを叩き付けてた。 視界が遮られ、再び視界が開ける頃には、もう彼女はいなかった。
カイは彼女が置いていった剣を拾うと、ため息をついた。
「やれやれ・・・オレ様の逃げてきた事に対する代償は、やはり大きいな。」


153: 第三十八章:半竜族の国:06/04/08 22:02 ID:9sML7BIs
「さぁて、これからどうするかな。 オレ様達も今じゃ異端者だぜ。 もう安住の地は無い。」
カイは背伸びをし、他人事のように暢気に話す。 自分まで暗くなっては他にも響く。
いまだにシーナやクラウドは何時もの明るさを取り戻していない。
そんな兄妹の様子をセレナは心配して気にかけていた。
「大丈夫? 二人とも。」
「姉ちゃん・・・私、人間のこと、嫌いになっちゃいそうだよ。」
「シーナ?!」
「だって・・・街の人皆で、お前は悪魔だって罵られたし、もう少しで殺されそうになった。 ハーフというだけで。
人間には悪い人もいる、というわけじゃなくて、人間でも、良い人はいると言った方がいい気がしてきたよ。」
「シーナ・・・。」
泣きそうになるシーナに加えるように、クラウドも口を入れた。
「俺も・・・自分に流れる人間の血が嫌になってきた。
いや、それだけじゃない。 竜に流れる血もだ。 逃げているだけの、神と言いながら何もしない竜も嫌いだ。」
皆の心がばらばらになりかけていた。 カイも、セレナも・・・竜が嫌い・・・つまり自分が嫌いと言われ、閉口してしまう。
しかし、ここまで来て、こんなことで終りたくない。 重い雰囲気に光をもたらしたのは、アリスだった。
「皆、どうしたの?! そんな暗い顔をして。」
「どうしたのって・・・。 アリス姉ちゃん。」
「こうなる事は分かっていたことでしょう? アルヴァネスカは、ハーフが差別される世界。
それは、ハーフがエレブに逃げてくるほどに。 その様子を見るために、この大陸に来たのではないの?」
アリスにいきなり分かりきった事を言われ、クラウドも戸惑った。
「そんなこと分かってるぜ、姉貴。」
「本当に? 何故、ハーフが逃げてきたのか、よく考えてみて。 これはエレブにも言える事よ。」
「そりゃ、人間がハーフを差別するからだろ? 姉貴も見ただろ? 俺達もう少しで殺されるところだったんだぞ!」
興奮気味に話すクラウド。 無理も無い。
自分は何も悪いことをしていないのに異端と勝手に決め付けられ、ハーフと言うだけで処刑されそうになったのだから。
「落ち着いて、クラウド。 何故、人間が差別するの?」
「何故って・・・。 そんなの!」
頭に血が上ってまともな会話が出来なくなっているクラウド。
それに変わって、シーナが答える。また、道を踏み外しそうになった。
「世界宗教が・・・教会法が、ハーフ差別を合法としているからだね。」
「そうね・・・。 そして、その教会法は誰によって作られているの?」
「あの教皇・・・。」
「そう。 この世界の意識を変える為には、まず教会法を変えなくてはならない。 その為には、まず教皇を何とかしないとね。」
「そうだけど・・・寄って集ってハーフを苛める人間って汚いよ。 例え扇動されているとしても。」
その言葉に、セレナが反応した。 前も妹は、同じ事を言っていた。
そのときはうまく説得できたと思っていたが、今回のことでまた傷が開いてしまったようだった。
「シーナ! それは人間だけじゃないよ。 ハーフだって竜族だって同じじゃない。
ハーフはメリアレーゼの命令で人間を迫害していた。 竜族だって、神の考えと疑うこともなく
見て見ぬ振りをしていた。 何も行動を起こさないなら、竜族だって同罪だよ。」
「姉ちゃん・・・。」
「だから、人間と言う一括りで責めないで。 前も言ったじゃない。 責めるべきは、悪い人じゃなくて悪い心なんだって。」
シーナは思い出した。 かつて、アリスやセレナにそう言われた事があった。
エレブのハーフは人間を差別していた。 でも、サカにいたハーフは、エレブの人間を憎んでいないと言っていた。
それはつまり、悪い心を持った人間は憎んでも、そうでない人間は憎んではいないと言うこと。


154: 手強い名無しさん:06/04/08 22:03 ID:9sML7BIs
現に、自分だって父やアリス、セレスやレオンの事は憎んでいなかった。 同じ人間でも。
カイやセレナにも、怒りはなかった。 それは、自分を理解してくれるから。
自分達は何も悪いことをしていない。 なのに、自分達を理解してくれない人々が、自分達を差別する。
皆に理解してもらいたい! シーナは、種族括りで考えてしまう自分の視野の狭さを恥じた。
しかしそれは、誰でも同じことだった。 そうでもなければ、差別など起こり得るはずは無いのだから。
「竜族の悪い心を持っていたカイは改心した。 あたしだって、自分の力不足で、多くの死を無駄にしてしまった。
過ちは、正さなきゃいけないんだ。 今の教会法は間違ってる。 神の御名を名乗って差別を正当化するなんて。
それを正す為にも、教皇を倒す。 だからシーナ、兄貴。 あたし達を信じて。 諦めちゃだめだよ!」
過ちは、正さなくてはいけない。 諦めてはいけない。 シーナもクラウドも、それは分かっていた。
しかし、いつの間にかそれを、人間への怒りに転嫁してしまっていた。 自分達を差別する人間が悪いのだと。
しかし、この問題は人間だけの問題ではなかった。 その蛮行を許した竜族、間違った世論を跳ね返そうとしなかった半竜族。
どの種族にも、何かしらの落ち度があったのだ。 どの種族が悪い、とは言えなかった。
唯一つ言える事は、種族に関わらず、悪い心を持った者が居り、それこそが罰せられるべきであると言うこと。
アリスやセレナは、それを分かって欲しかったし、自分にも言い聞かせたのだった。
「そうだな、俺、ちょっと前しか見えてなかったような気もする。」
兄の言葉に、セレナも口元が緩む。 しかし、クラウドは続けた。
「でも、この大陸の人間が憎い事は変わらない。」
「兄貴!」
「あぁ、分かってるさ。 人間に憎しみを抱かせるようなことを、神を名乗って世の理とする教皇が許せねぇ。」
クラウドはきっぱり言い切った。 悪いのは一部の世界を動かしている奴らだ。
教皇は悪さをするし、カイはそれを見て見ぬ振りをしていた。
一つ一つの歪みは小さくても、積み重なれば大きな歪になると言うことが、痛いほどに分かった。
「正義という言葉は、偽善者が自分を正当化する道具・・・か。 確かにそうかもしれないな・・・。」
レオンも考えが変わり始めていた。 自分は騎士としての行いを、しっかりと果たしていると思っていた。
しかし、同族の蛮行をとめることが自分には出来ない。 このままでは自分も偽善者だ。 それでは悔しい。
自分には仲間がいる。 なんとしても、世界を変えて、誤解を解きたいと思った。
「よぉし、そうと決まれば、早速教皇のところへ殴り込みだ!」
「ちょっと! 待ってください!」
セレナとクラウドが先陣を切る。 だが、後ろからの引き止める声に、二人はつんのめりそうになった。
「いきなり大声出して、危ないじゃない!」
「カイがいくら教会のトップと言っても、僕達は異端宣告されているんですよ?
異端者が街中を歩き回っていることが知れれば、今度こそ捕らえられて処刑モノですよ。」
セレナもクラウドも、あ、と言う感じで口を空けた。
今マーキュレイの城下町に戻れば、当然兵士が色めきだって襲ってくるだろう。 教皇もこのまま手を引くとは到底考えられない。
「んー・・・。 ところで、マーキュレイにハーフがいるだけで罪なら、ハーフはどこにいるの?」
セレナはひとまずマーキュレイに戻ることを諦め、ハーフ蔑視の現状をもっと見たいと思った。
差別される側にハーフは、一体どういった生活を送っているのだろう。
エレブでハーフがしていたより、アルヴァネスカで人間がしている迫害はかなり酷いものがある。
「半竜族は、半ば強制的にマーキュレイの東に集められ、そこに国を作っているぜ。」
マーキュレイの東・・・セレナはぴんと来た。 エレブで大陸の東と言えば、ベルンだ。
そして、人間に迫害され、そこに追い詰められた。 それ以上逃げ場が無い・・・だからエレブに逃げてきたわけか。
・・・でも、どうやって。
「よし、まずはそこに行こう!」
セレナがカイに拳を頭上に掲げて合図をする。 カイも笑って答える。


155: 手強い名無しさん:06/04/08 22:03 ID:9sML7BIs
これが、生まれ変わったオレ様の最初に仕事だ。 こいつらなら信じれる。 人間もいるが、もう少し、人間を信じてみようか。
「よぉし、じゃあ目指すはブレーグランドだ! 東へ向けて進軍だ!」
一行はマーキュレイを後にし、一路ハーフの国、ブレーグランドへ向けて歩みだした。
この大陸でも、また世界を敵に回してしまった。
エレブではハーフから異端視され、こちらでは人間から異端視され・・・。
自分達を理解してくれるものが少ない事は悲しい。 だが、自分達には仲間がいる。 理想を共有する、信じられる仲間が。
周りにどんなに異端視されようとも、自分が間違っていないのなら、絶対に諦めない。
セレナは意志を確かめるかのように、一歩一歩力強く歩んで行った。
例え一歩一歩は小さくとも、歩み続ければ必ず目的地に辿り着く。
世界の変化も、例え一回一回は目に見えなくても、努力し続ければ必ず成果は見えてくる。 だから諦めない。
ブレーグランドへ行く途中、何度も何度も教皇配下と思われる騎士団や刺客の襲撃を受けた。
夜も交代で寝ずの番が張られた。 日が出るとすぐに進軍し、間違いなく日中に交戦し、夜も休む暇なく番をする。
皆体力を消耗していった。 予想以上に、教皇は執拗に自分達を狙ってくる。
他の異端者とは明らかに扱いが違う。 カイはそう思った。・・・まぁ当たり前か。 くそ、あの糞ジジイめ・・・。
「ふぅ・・・毎日、毎日こう刺客を送り込まれたんじゃ、流石に疲れちゃうよ。」
シーナが天馬の上で、天馬にもたれかかって目を瞑る。
「確かに・・・僕もこう連戦続きでは、魔力が回復し切りませんよ・・・。」
セレスやアリスにとっては深刻だった。 魔法使いが魔力切れを起こしたら、それこそ何も出来ない。
どんな高位の魔道師でも、魔力が切れたら何も出来ない。
「教皇のやろう・・・そんなに俺達が憎らしいのかっつーの。 なぁ、レオン!」
「あぁ、全くだ。 あまり連戦が続くと、武器が持たないかもしれない。 相手もこちらが消耗することを狙っているに違いない。」
レオンが自分の槍を竜上で磨く。 丁寧に扱っているが、穂先のヘタレ具合を見るに、そろそろこの鋼の槍も限界だ。
他の面子の武器もそろそろガタが来ていた。
マーキュレイで少しは補給したが、このまま続けばいくら武器があっても足りない。
レオンが自分の顔を槍の穂先に自分の顔を映してると、下でカイがいい剣を持っていることに気付いた。
「おい、カイ。 お前、いい剣持ってるじゃないか。」
「ん? あぁ、こいつはあのアサシンが落としていった奴だよ。 キルソードってところだな。」
「いい剣じゃないか。 そういや、あのアサシン、あれから姿を見せてないな。」
レオンはカイに言われてやっと思い出した。
マーキュレイを出る前に、教皇を庇ったあのアサシンだ。 いい腕は持っていそうだったが、どうも気迫にかけていた。
「キルソード!? しかも2本? そりゃあたしの為にあるようなものじゃん! ちょうだい!」
「あ、あぁ、ほらよ。」
カイは気の篭らない声で返事をし、セレナに剣を渡した。
セレナは剣をかざすと、陽の光に刃を照らしてみる。 やはりいい剣だ。 こういう良い剣は良い剣士が使わないとね。
セレナはご機嫌顔を見てレオンは口許が緩んだが、下を再度みてそれも消えた。 壊れた蓄音機が静かなのだから。
レオンがその理由を聞く前に、彼の最も親しいオトモダチがその異変に声をかける。
「おい、カイ、どうしたんだよ。」
「あ? いや別に。」
「どーせまたカワイ娘ちゃんでも想像してたんだろ。」
レオンも違いないと笑ってしまった。 しかし、アリスは違った。
先程から、剣を眺めて何か考えているのをずっと見ていたのだ。
「カイさん、あのアサシンに何か思い当たることでもあるの?」
「あぁ、アリス様。 いや、なーんも。 だがな・・・。」
「うん?」


156: 手強い名無しさん:06/04/08 22:04 ID:9sML7BIs
「あいつの言葉が今でもグサッと来てな。 お前さえいなければ、世界は平和なんだってな。
確かに、オレ様が今まで逃げてたせいで、治安が乱れていたって言うのは認めてる。
でも、言われてみると堪えるもんだぜ。 しかも同族にな。」
アリスはカイの悩みを最後までじっくり聞くと、しっかり説く。 自分も神の教えを広めるプリースト。
人を諭して気を楽にしてあげることも、大切な仕事のうちだ。
「でも、貴方は気付いたのでしょう? 逃げてはいけないと。 そして、そのために行動している。
もう今までの貴方では無いわ。 これからの行動で、皆に認めてもらえば良いじゃない。」
「・・・さすがアリス様だぜ。 だけどな、オレ様さえいなければ、アリス様達もここまで教皇に狙われたりはしないんだよ。」
シーナや、剣をしまったセレナも寄ってきた。
「どういうことなの? カイ様。」
「教皇は、オレ様を狙っているのさ。 理由は一つ。 俺を殺して、教会のトップに君臨する為。
あいつは今、俺に次いで教会のナンバー2だ。 俺を異端者にしても、下位の自分では説得力が無い。
最高師範の位に就くには、俺を殺すしかないってワケだ。」
カイがまるで他人事のようにさらっと話す。
セレナは腹が立った。 教皇は、何処まで汚い男なんだと。 しかし、怒鳴らずそのまま話を聞いていた。
「あいつは教会を乗っ取って、その絶大な権力を持って世界の王になろうと企んでいるんだ。
あいつの好きにはさせん。 あいつが王になれば、それこそ半竜族は絶滅させられちまう。
それは何としても避けなければ。 アルヴァネスカを奴の好きにさせてたまるか。」
セレナはカイの拳に力が篭っている事が分かった。 彼女には分かった。 彼もまたハラが立っている事が。
それは教皇に対してだけではない。 今まで逃げてきた自分に対してのものだった。
逃げてきた自分への決別の為にも、教皇を倒し、現行教会法をぶっ潰す。
そして、誰もが平等に救済を受けられるアルヴァネスカを作る。 それがオレ様の課せられた使命だ。
そう思っていると、彼の前に突然目の前に手が出てきた。
「?」
「あたし達も手伝うよ。 アルヴァネスカを良い世界にすること。 一緒に頑張ろう?」
カイはその手を笑顔で握り締めた。 オレ様はもう一人じゃない。 オレ様を理解してくれる仲間がいる。
「あぁ、頼むぜ! オレ様達、仲間、親友だもんな!」
「おう!」
セレナも笑顔で返す。 カイがはじめて、自分達を親友と呼んだ。
今までオトモダチとは言っていたが、親友ではなかった。 どこかで信じていなかった。
でも、もうオトモダチではなかった。 お互いを理解しあった親友だった。

「では、アルヴァネスカを良い世界にする為に、お前は私と共に来てもらおうか?」
それは突然だった。 急に空が暗くなったかと思うと、突然目の前に人が飛び降りてきたのである。
周りにも同じようにたくさんの兵士達が飛び降りてくる・・・。 セレナは目の前に下りてきた二人に、思わず声をあげた。
「お、お前達・・・アルカディア!」
目の前に飛び降りてきたのは、ニルスとミレディだった。 周りの兵士はその配下だろう。
「誰がお前達なんかに! セレナは渡さないぞ!」
クラウドがレオンらと共にセレナの前に出て武器を取る。
ニルスも背にかけていた銀製の大剣を引き出すと、それを両手で構える。
「ははは・・・。 お前達も異端者というわけだ。 世界を平和にすると抜かす連中が異端者とはな。
教会のトップまでもが教会から異端宣告されて追われる身とは、何と気の利いたお芝居なんだ。」
ニルスは笑いながらこちらを見つめる。
カイも言い返す言葉も無かった。 部下から異端宣告されるとは・・・。
「へーへー。 確かにその通りですよっと。 くそ。」
「お前達も、私も、暗黒邪神の復活を阻止したいという意志は同じだ。
だから早くセレナをこちらに渡せ。 こちらとて不要な争いは避けたい。 時間が無いからな。」
ニルスの甘言を、クラウドたちは聞く耳を持たなかった。
この前だって、アリスやセレナの命を狙ってきた。 他の者の生死は問わないとすらこいつは言っていた。


157: 手強い名無しさん:06/04/08 22:04 ID:9sML7BIs
用がなくなったら殺すに決まっている。 そんな奴の言う事を信用できるはずが無い。
「黙れ! 誰が渡すか!」
「ならば力ずくで奪うのみ! 行くぞ!」
ニルスの掛け声と共に、周りを囲んでいた兵士達が一斉に襲い掛かってきた。
彼は真っ直ぐセレナに向かってくる。 相手の大剣をこちらの剣で受けていたら持たない。
相手の剣を避け、すぐに反撃する。 相手も相当な剣の使い手だ。 かなりの鍛錬をしてきたのだろう。
この前は大斧、そして今回は大剣。 しかもあれはどう見ても銀製だ。 あのような扱いづらい武器を軽々と扱っている。
セレナにカイも加勢し、二人でニルスを押さえにかかる。 この前は武器を持っていなかったから何も出来なかったが
今回は違う。 自分の風のように流暢に踊る剣と、彼女の月の弧を思わせるような太刀筋の双剣が
分厚い氷をも砕くような剛剣で押すニルスに挑む。 彼は二人の剣を見事に大剣で受けていた。
「無駄な抵抗は止せ! お前達が私に勝つ事などできはなしない!」

ミレディは配下を指揮し、他の面子を襲う。 地上では、アレンやクラウドが敵を蹴散らしている。
兵数が多く、さすがに無傷ではいられない。 だがクラウドは父親の技をしっかりと盗んでいた。
相手の剣を槍の柄で受け流すと、すかさず槍で突き飛ばす。
アレンはセレスやアリスを守りながら、クラウドを指揮し自らも敵を退ける。
若い獅子と、老成した猛虎が、兵士達の首筋を噛み切っていく。 アリスとセレスも守られているだけではない。
アリスは傷つく二人を癒し、セレスも従姉弟を助けながら、魔法で相手の陣形を崩す。
彼のフィンブルが敵を凍らせ、大きな氷の壁となり相手の進路を阻んだ。
日々勉学に励み、魔法研究を怠らない彼の努力の結晶が、今大きな氷の塊となって現われていた。

一方空中では、ミレディとシーナとレオンが互角の戦いを繰り広げていた。
ミレディの槍を、シーナは蝶が舞うかのごとくひらりとかわし、彼女を幻惑する。
私の槍が当らない・・・。 く、流石天馬乗りの子は天馬乗りというわけか・・・。
しかし、天馬騎士ならば当ればこちらのものだ。 彼女は重い鋼の槍をその重さに任せて振り回す。
シーナは、相手から攻撃を受けないが、これでは相手に攻撃する事も出来ない。
軽い細身の槍は機動力を低下させないが、その分リーチは短く、軽いので打ち負けてしまう。
こう着状態の二人。 その背後から、レオンが同じく鋼の槍で一気に相手の背を狙う。
飛行系が自分の背後を取られる事は、何にも変えがたいほど不利な状況に追い込まれることだった。
背後からの執拗な攻撃に、少しずつミレディは傷ついていく。
「小賢しい!」
ミレディがレオンを払いのけようと、後ろに向かって手槍を投げようとしたそのときだった。
前から音速をも超えるかと言うスピードで誰かが通過し、風を切っていった。
その直後、彼女は腹部に激痛を覚え、飛竜から墜落した。
その途中・・・よく見るとわき腹に細身の槍が刺さっていた。
シーナが持ち前のスピードと小回りを利かして、一気に懐に突撃してきたのであった。
飛竜に庇われて地面にたたきつけられはしなかったが、もう戦えそうに無い。 二人の息はバッチリだった。
どんなに一人の能力が高くても、息のあった攻撃の前には為す術がなかった。
「く・・・ギネヴィア様・・・。」

一方ニルスのほうは、周りをあらかた片付けたアレンたちも加勢して、数人がかりとなっていた。
彼は攻撃も防御も全て剣で行っている。
皆は焦っていた。 自分達の攻撃を殆ど見切られている。 だが、その均衡は突然破られる。
セレナが隙を突いて得意の月光剣を繰り出した。 ニルスは見切ったといわんばかりに剣でそれを受ける。
そのときだった。 ニルスの大剣が音を立ててはじけ飛んだ。
何百回という打ち合いに、剣がとうとう疲労して折れてしまったのである。
銀は硬く、殺傷力が高いが、鉄と違い柔軟性に欠ける。 受けには向いていなかった。
武器を失っても、ニルスはあわてる事も無く剣を捨てた。
「少しはやるようだな! だが、真の戦いはこれからだ!」
彼は手をこちらに広げると、その先のエーギルを集めた。
「本物の氷魔法を見せてやろう。 ラストブレス!」


158: 手強い名無しさん:06/04/08 22:04 ID:9sML7BIs
彼から放たれた極寒の風。 それは体に貼り付き、全てを凍りつかせる破滅魔法の一つだった。
アレン達は言うに及ばず、神竜の二人も例外ではない。 足元から次第に凍り付いていく。 体温を奪って余りある死の風。
「く、なんて魔法だ・・・。」
「ははは・・・私にこの魔法を使わすとはな!」
どんどん体が動かなくなっていく。 意識まで飛びそうだ。
吹雪の向こうで不敵な笑顔を漏らすニルスの顔が、次第にぼやけてくる。
このままではやられてしまう・・・。 セレスはぼやける頭で何とか、考えた。
この氷を何とかしなければ・・・。 彼は、凍りつく口元で何とか魔法を読み上げた。
「メ・・・メティオ!」
「?!」
皆は一瞬読み上げた魔法の名に、耳を疑った。
メティオは遠くの敵を攻撃する為の火炎魔法で、広範囲に爆発が及ぶ破壊魔法だった。
それを・・・何と彼は自分に放ったのだ。 セレスを中心に爆発が起こり、ニルスも吹雪も皆吹き飛ばされた。
燃え上がる爆風で体を覆っていた氷が解けるというより吹っ飛ばされた。
当然衝撃と火炎で皆負傷してしまったが、悪魔の氷から逃れられた。
「く、味な真似を!」
ニルスがもう一度魔法を撃とうと詠唱を始める。
「アリスさん! 僕と二人で魔法障壁を!」
セレスの合図にアリスもマジックシールドを張る。
そこへ、ニルスの放った死の風が再び襲ってきた。 マジックシールドに跳ね返される吹雪。
アリスにマジックシールドを任せると、セレスは障壁の中から、吹雪へ向かって再び魔法を放った。
「魔法なら僕も負けませんよ! ボルガノン!」
火炎の魔法と氷の魔法がぶつかり合い、真っ白な湯気が上がる。
その湯気が視界を遮り、何が起きたのか分からなくなってしまった。 ニルスが湯気の中で相手の様子を見ようとしたその時だった。
突然、左右からセレナとカイが現われて、すれ違いざまに自分を剣で突き刺して行った。
「がっ!?」
二人が空中から交差するように相手を襲ったのだった。
流石の彼も防御手段の無いところに被弾し、膝をついた。
「バ、バカな・・・。 この私が、負けるなど・・・。」
セレナが膝を突くニルスににじり寄り、止めを刺そうとした。
しかし、再び空が暗くなったかと思うと、視界からニルスが消えた。
「今回は私の負けだ。 だが、私は諦めない。 首を洗って待っていろ!」
彼はミレディの飛竜に助けられ、事なきを得ていた。
捨て台詞をはきながら、南の空へ消えていく。 何故自分が必要とされるのか。 セレナは聞きたかったのに。
「へ、それはこちらの台詞だぜ。 なぁ、セレス! お前の魔法はやっぱすげーな!」
クラウドが親友の肩をバンバン叩きながら笑う。
叩かれたほうのセレスは前へよろける。 服を調えると、ツンと向こうを向いた。
「毎日の勉強の成果です。 まったく、僕がいないと何も出来ないんですから!」
「ちぇ、つまんねぇ奴。」
セレナやシーナもセレスに感謝する。 今回は彼がいなかったらどうなっていたことか。
魔法も、その後の戦術も。 やはり皆の知恵袋だった。
「ありがとう、セレス。」
「べ、別に感謝などされる事じゃないですよ。 シーナちゃん達は、な・・・仲間なんですし。」
「さんきゅーセレス!」
「わぁ、抱きつかないでください! 服が汚れる!」
焦ってセレナを引き離そうとするが、セレナは抱きついたままだった。 彼の顔は紅潮している。
カイはこんなやり取りがほほえましくて仕方がなかった。
今まで、自分はこんなに温かい仲間がいなかった。 彼は今がとても幸せだった。
今までの無味乾燥とした人生には、もう二度と戻りたくないと感じていた。
母上・・・私は旅に出て本当によかった。 もし城にいたら、私は本当に生きている意味が無いところでした。


159: 手強い名無しさん:06/04/08 22:04 ID:9sML7BIs
そうやって空を眺めると、向こう何か見えてきた。
「お? おい、見えてきたぞ。 ブレーグランドだ。」
カイの指差すほうに、街並みが見えてきた。 そこが一行の目指した半竜族の国、ブレーグランドだった。
一行は募る不安をお互いに拭い合いながら、半竜族の国、エレブを乗っ取ったハーフの親玉、メリアレーゼの故郷へと入っていった。

第三十九章:狭間の者
街の様子を見た一行は目を疑った。 国というより・・・スラムと言ったほうが正しいかもしれない。
マーキュレイを見た後だと尚更そう思えた。 皆掘っ立て小屋に住み、ぼろきれ同然のシャツ一枚で生活している。
文明と言うには悲しすぎる様子だった。 更に、彼らは自分達を見た途端、逃げ出していってしまった。
「おい! 何で逃げ出すんだよ!」
クラウドは逃げていった同族を見て走って追いかける。
何故、同族からも逃げられなければならないんだ。 セレナは兄を追いかけようとしたが、それをカイが止めた。
「ちょっと、離してよ。」
「オレ様達が行くと、余計にあいつらは逃げるぜ。 半竜族は、人間も竜も嫌いだからな。」
彼らは迫害する人間も、それを見て見ぬ振りする竜族も嫌いだった。
どちらの血も自分に流れているのに、どちらからも受け入れられない。 彼らは自分に流れる血そのものを嫌っていた。
「私も行ってくる!」
シーナは疾風のごときスピードで駆けていった。 兄だけでは心配だ。
他の面子は、それを追いかけることも出来ず、ただ、二人の帰りを待つしか出来なかった。
自分達はハーフを助けたいと思っているのに、相手から一方的に拒絶される悲しみ。 イリアのときと同じだ。
でも、相手も最初はそうだったのだろう。 受け入れてもらいたいのに、一方的に拒絶される。
長年の積み重ねが、彼らをこういう風に変えてしまったのだった。

「おい! 待てよ! どうして逃げるんだよ!」
逃げるハーフをクラウドが袋小路に追い詰めた。 相手は栄養状態も悪いらしく、体力が無い。
「うるさい! どうせ、また半竜狩りをしに来たんだろう!」
「半竜狩り?」
「人間が、『優良種の保存』を名目に、半竜を殺しに来たんだろう?!」
その男は興奮していた。 だが、クラウドには身に覚えが無い。 それどころか、自分は同族だ。
「おい、よく見てみろよ。 俺もハーフだぞ。」
興奮していたその男は、クラウドにそういわれ、彼のエーギルの波動を辿ってみる。
おお・・・これは間違いなく同士のもの。 しかし、騙されんぞ。
「だが、お前は人間と共にいただろう。 俺達をおびき寄せる為のおとりだろ。」
マーキュレイの手先のような事を扱いにされ、クラウドはカチンと来た。
「ふざけろ! あんなゲス共と一緒にするな! さっきのは俺の仲間だ!」
真剣に怒るクラウドに、その男も少しテンションが下がった。
しかし、そんな事は信用できない。 半竜を人間が受け入れるわけが・・・ない!
「騙されないぞ! ハーフのお前が人間の仲間? そんなことありえないだろう! ほらを吹くな!」
そのとき、後ろから声がした。 怒鳴りあう二人の男にとっては、何か癒されるような気分になる。 そんな優しい声。
「本当だよ。 私達、あの人たちとずっと旅をしているんだもん。」
シーナだった。 その男はシーナを見るとエーギルを確認する。 やはり同士のものだ。
「そんなバカな・・・。 半竜が、迫害されている半竜が、人間の仲間など・・・あろうはずも・・・。」
「信じて。 だって、貴方を殺すのなら、もうとっくに兄が貴方を殺しているはずでしょう?」
男は黙ってしまった。 こんなことが・・・あるわけがない。 半竜と人間が一緒に旅をするなど。
だが、目の前にはそのありえないはずの存在が二人もいる。 ・・・一体どういうことなんだ。
「俺は、同族のこの悲惨な状況を救いたいんだ。 だから協力してくれ。 頼む!」
クラウドに真顔で見つめられた男はこれ以上強く出れない。
その目が真剣そのもので、嘘を言っている様には決して見えなかったからだ。
その傍らには、心配そうに、そして同族に拒否されて悲しい顔をするシーナの顔・・・。


160: 第三十九章:狭間の者:06/04/08 22:05 ID:9sML7BIs
「・・・わかった。 同族のよしみだ。 お前達を信じよう。」
「ありがとう! 皆に会って。 皆良い人ばかりだから。」
男はまだ疑心暗鬼だが、シーナ達に連れられて、セレナ達の元へ行った。
セレナ達は、今までの経緯を軽く話した。 自分達がエレブと言う、アルヴァネスカと対を為す大陸から来たこと。
自分達はどの種族も差別されずに、平和に生きる事が出来る世界を作ろうと旅をしていること。
そのために、ハーフ差別を推進する教会に君臨する教皇を倒そうとしていること。
男は信じられないと言った様子で聞いていたが、クラウドのような真剣な眼差しで話をするセレナ達の言う事が、嘘とは思えなかった。
「そうか。 世の中には変わった者もいるのだな。 よし、俺はお前達を信じる。 俺の名前はシュッツ。 皆に会ってくれ。」
男はそういうと、一行を連れて広場まで行く。 もし、こいつらの言っている事が嘘だったら・・・。
仲間を危険に晒す事になるかもしれない。 しかし、こいつらの眼が嘘を言っている様には思えない。
彼の心の中では、今でも激しい葛藤が渦巻いていた。 自分達を理解してくれているかもしれない者を拒絶するわけには行かない。
セレナ達を見たほかの半竜たちも、最初は男と同じように逃げようとしたが、シュッツが走りより、白髪の男に話しかけている。
それは次第に口論へ発展した。 時折こちらを指差して怒鳴っている。 暫くして口論は止み、シュッツが戻ってきた。
「来いよ。 長老を説得してきた。 まだ完全には信じて無いが、きっと分かってくれるはずだ。」
皆は長老の元まで歩み寄った。
「お前達か。 世界を救うとか言っている変わりもんは。」
「そうです。」
「経緯はシュッツから聞いた。 では問おう、世界を変えるとは、具体的になにをなさるのか?」
「この世の理を曲げているナーガ教を変える。 その為に、その権力を掌握している教皇を倒す。」
セレナの理想を、長老は笑った。 セレナもあまり良い気分がしない。 何処に行っても笑われる。
「そう簡単に言ってくれるが、果たしてできるかな? 教皇を敵に回すと言うのは、すなわち世界を敵に回すということ。
最高師範がもっとしっかりしてくれていれば、あのような男が権力を握ることもなかったのに。
世の中は腐っとる。 権力に溺れるものもいれば、権力を扱いきれずに放棄するものもいる。」
反論しようとするセレナをカイが抑えた。 昔の彼なら、きっとセレナと同じように反論していただろう。
誰もオレ様のことを信じなったじゃないか、と。
「あんたの言うとおりだ。 面目ない。 だが、今までの分も俺はしっかりやって見せる。」
「・・・? もしや、お前さんが・・・カイザック・・・最高師範?」
「あぁ、そうさ。 神を語りながら、民の前から逃げていた、愚かなナーガ教最高師範さ。 いくらでも罵ってくれ。」
長老はカイの言葉に驚いた。 長い間生きてきたが、その姿を見ることも叶わなかった。 その存在が今目の前に居る。
「そちらは? 人間のようだが。」
アレン達は自分達がエレブから来たこと。 あちらのハーフの暴挙などを説明する。
こちらに敵意の無いことを何とか分かってもらえたようだ。 しかし、それでも長老の顔は曇っている。
「私達の目的は、先程セレナ様が仰ったとおりです。 そのために、今もこうしてここまで来たのです。」
アレンもまた、セレナの掲げる理想を頭の中で整理する。 世界を超えた莫大な規模の理想だ。
一個一個目的を明確にしなければ、道を誤ったときに修正できなくなる。
「ふむ。 そちらの大陸には、我が同族が迷惑をかけ、申し訳ないと思っている。 しかしな・・・。」
「しかし?」
「エレブのせいで、私らが迫害され始めたことも、ご理解いただきたい。
あの時、ハルトムート共が余計なことをしなければ、ワシらもこんな惨めな人生を歩まずに済んだかもしれない。」
セレナは、そんな長老に憤りを覚えた。 だが、仕方ないのかもしれない。 英雄と呼ばれても、それが元で迫害が始まった。
彼さえエレブを救わなければ、今でも陽の下で堂々と暮らせていたかもしれない。


161: 手強い名無しさん:06/04/08 22:06 ID:9sML7BIs
「余計な事じゃないよ! 長老さん、間違えちゃダメだよ。
ハルトムートのした事は正しいよ。 間違っているのは、正しい事をしたのにそれを批判したヤツらだよ!」
「だが、正しい事が必ずしも歓迎されるとは限らん。 実際、そのせいで現状がある。 違うか?」
「違う! 正しい事をしたのに、それが正しく評価されない世界の仕組みがおかしいんだ。
一部の者の利の為に、大勢の者が泣き、正しい事をしようとするものが潰される。 これの何処が正しいんだ!
あたしは、こんな世界は絶対に間違っていると思う。 幸せを皆で共有できて、正しいことが正しい事と認識される世界。
自分が自分として堂々と生きれる世界。 あたしはこれを目指してるんだ。」
セレナの理想を、長老はまた大きな声をあげて笑った。
「お前さんの理想は、もはやそれを超えて狂気だな。 お前さんの言っていることは正しいよ?
しかし、現実を見なさい。 たった一人で正しいと主張しても、白い目で見られるのがオチだ。
現に私達とて、手を拱いて、迫害を甘んじて受けていたわけではない。 自分達の正当性を主張してきた。
だが、そのたびに、人間は私達への仕打ちを激化してきたんだよ。 奴らとは、共存できるとは思えないね。」
まだ理解してもらえない。 これだけ熱心に話しても、まだ納得してもらえない。 何故。
セレナの横で、自分の言葉を噛み砕いて話してくれる人物が居た。 シーナである。
「長老様。 確かに、人間は私達を迫害している。 けど、それは神の言葉と信じているから。
きっかけを作ったのは、ある一人の男よ。 たった一人の声で、世論が変わってしまったなんて。
世論もそうだし、自分もやらなければ取り残される。 きっとそんな感じで広がっていったのよ。
人間って、孤立するのを極端に嫌うから。」
レオンもシーナに加わる。 彼の彼女の言葉に耳が痛かった。
ベルン兵だから。 上の命令だから。 そんな簡単な理由で、同族を傷つけていた。
孤立を嫌い、自分のために、他の何もしていない他の者を傷つける。 人間は・・・自分勝手だ。
「ふむ、そうだな。 権力とは恐ろしいものだ。 どんなものでも溺れさせてしまう。
そして、愚者が権力を振るえば、理は曲がり、世界は混沌とした地獄に成り果てる。 今の両大陸のように。」
シーナはレオンから視線を戻すと、更に続けた。
「だから、世界を変えるには、まず間違った事を正義とする教皇を何とかする。
世界を敵に回したって、間違っている事は、間違っているって主張しないと、何処までも歪んでいくよ。
諦めたら、そこで終わりだよ。 ハルトムートのせいにするのは・・・逃げてるだけ。」
「私らが逃げていると言うのか・・・?」
「うん。 批判する対象をすり変えて、自分達は悪くないって言ってる。
根本を変えようとしないで、変えてはならない部分を変えようとしている。
悪い事を正しい事に摩り替える為に、正しい事を悪い事と決め付けようとしている。 ・・・それじゃ人間と変わらないよ。」
長老も、同族の心の篭った主張に目を閉じて考えてみる。
逃げている・・・か。 ハルトムートは、エレブとアルヴァスネカ、そして、人も、竜も、ハーフも
皆が平和に生きる事のできる世界を目指し、戦った。
全てを活かそうとする者と、いがみ合い、自分達の利ばかりを追求する者・・・。
確かに逃げていたのかもしれん。 彼を批判すれば、自分達を肯定する事にもなったのだから。
「・・・たまには、狂気に触れてみるのも良いかもしれん。 よかろう、私達は、あなた方に協力しよう。
この街の一番奥に、我らが賢王・・・と言っても、今ではただの圧制者だが、メリアレーゼの館がある。
そこに行ってみるがよい。 私達も、悪しき心と戦う。」
「ありがとう! 皆、行こう!」
やっと分かってもらえた。 自分達の想いを。 セレナは嬉しかった。 久しぶりの理解者だった。
そして同時に一層決心を固めた。 自分達を信じてくれる人たちのためにも、諦められない。
去り行くカイに、長老が声をかけた。
「最高師範。 変わってしまった理を変える事は難しい。
だが、過去を悔い改めたのなら、今からでも遅くは無い。 私達も、逃げずに戦う。 貴方も、どうか世界に光をもたらして下され。」
「分かっている。 世界を正しい方向へと導くこと。
それが聖王ナーガの末裔たる私の使命であり、望む道。 貴方達も諦めず、私を助けてくれ。」


162: 手強い名無しさん:06/04/08 22:06 ID:9sML7BIs
セレナはカイが何時もと違った凛々しい顔つきに驚いた。何か彼の周りに、彼とは違うものを感じたような・・・。
なんだかんだ言って、やっぱりカイもしっかりした所あるじゃない。 あっけにとられるセレナの肩に手をやり、カイが歩き出した。
「ほら、行くぞ。 出発の音頭を取った奴が何ボーっとしてやがる。」
「あ、うん・・・。」
外に出たカイはふぅっと深呼吸すると、セレナのほうを向いてニヤニヤと何時もの顔をする。
「どーよ? オレ様の迫真の演技は! あの演技の前では、さすがの長老でも舌を巻くってもんだぜ。」
「・・・あはは・・・。 やっぱり、アンタってヤツは・・・。」
苦笑いするセレナの肩を腕で押しながら、カイはメリアレーゼの館に急いだ。
待ってろよ。 オレ様、もう使命から逃げたりしないぜ。 ナーガの旦那から授かったこの能力も
全ては、使命を果たすためにある。 力を持たないものの為に、力を持ったオレ様達が頑張らねばな。

第四十章:もう一つの扉
一行は、街の奥にある、ひときわ大きい館の前まで辿り着いた。
長い間手入れをされず、薄汚れたそれではあるが、周りのみすぼらしい家々に比べれば十分立派だった。
館に入ってみる。 中には誰もいない。
調度品と思しき重厚な甲冑が埃まみれになりながら、かぶとの隙間に蜘蛛の巣を張り、主の帰りをずっと待っていた。 
かつてもここは、ブレーグランドの女帝メリアレーゼが施政の指揮を振るった場所。
多くのものが仕え、仕事に追われていたであろうその場所が、今は瓦礫や紙くずの転がる、廃墟同然になっていた。
時は無情なものである。
一行は色々な部屋を探索するものの、あまり資料となりそうなものはなかった。
それでも、彼らはメリアレーゼの部屋を探し出した。 玉座が、今も鎮座していたからである。
「ここで・・・あいつは何を考えていたんだろうな・・・。」
暴挙を起こす前は、メリアレーゼも大陸屈指の賢者であった。
そんな賢者が陣頭に立つブレーグランドは、人間から迫害されながらも、なんとか国として成り立っていたと言う。
毎日毎日、人間の迫害に耐えながら、彼女は同族の未来を想い、様々な施政を敷いていたのだろう。
耐え忍んできたのだろう。 セレナは玉座から見える国の様子を眺めながら、彼女の心中を察していた。
「姉ちゃん! そんな埃まみれの椅子に座ったらダメだよ!」
「ん? あ、やば。」
妹の声で我に返ったセレナは急いでお尻を払う。 椅子を見てみると、埃は全く無い。
どうやらお尻に全部吸いつけてしまった様だ。 妹に払ってもらう。
「ふぅ、よかった。 あまり汚れてなかったよ。」
「そっか、よかった。 汚すと姉貴がうるさいんだよね。」
そんな会話をしていると、向こうから何か親父の叫ぶ声がする。
双子が声のほうに言ってみると、親父が何かを見つけたようだった。
「これは・・・多分メリアレーゼの日記だ。」
よく見てみると、それはメリアレーゼが毎日の国の様子を書きとめた日記だった。
その中身は、予想通り、苦悩と期待に満ちた賢者メリアレーゼの気持ちそのものだった。
                  ・
                  ・
                  ・
・・・今日、『優良種の保存』法がマーキュレイ議会にて可決されてしまった。
我々ハーフを毛嫌いするあの男が教会を牛耳っている以上、当然の結果かもしれない。
こんな法が可決され、カイザック最高師範も当てにならない今、
共存の道は絶たれてしまったのかもしれない。 だが、諦めるわけにはいかない。
私が諦めれば、私を慕ってくれているブレーグランドの民に申し訳が立たない。
もう一度、マーキュレイに行き、教皇と話し合うしか無い。 これ以上、世界の理を歪めてはならない。
どの種族も、神に祝福され、神の下では平等なはず。 神の遺志を歪めて解釈してはならないのに。
一種族の利益の為だけに、神を名乗ってはならないのに。 どうして彼はそれがわからないのだろうか。
                  ・
                  ・
                  ・
・・・マーキュレイに乗り込むも、『優良種の保存』法に基づいて、私の同士が殺されてしまった。



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