パワプロ小説


実況パワフルプロ野球関連 2ちゃんねる避難所 > パワプロ小説
全部1- 101- 201- 301- 最新50

パワプロ小説

1: 名無しさん@パワプラー:06/04/03 14:15 ID:9./go036
エロではない

2: 名無しさん@パワプラー:06/04/06 13:55 ID:xL1xUQqk
あかつき高 対 パワフル高
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
(実況)同点で迎えたパワフル高の攻撃9回裏2アウト満塁
投手猪狩守、打者は4番小波パワプロ
注目の対決です。
さあ猪狩第一球投げた!
  ガッッ
頭に押し出しデッドボール!!!!!!!!!!wwwwww
小波パワプロ、死にましたwwwwwwwwwww

パワフル高1−0で勝利!

 ハイ注目の対決あっさり終了


3: 名無しさん@パワプラー:06/04/08 09:35 ID:x7/jocXE
あっさり終わっちゃったわね

4: 名無しさん@パワプラー:06/04/10 12:36 ID:BZi6giOI
うん。

5: 職人:06/04/15 21:46 ID:nL5itYRA
タイトル:あかつき高校の授業に『カレン』という科目がある。

先生「じゃあ一時間目、カレン始めるぞー」
小波「げっ!!まだカレンの教科書返してもらってないぞ!!」
先生「何だ、教科書用意してないのか!!しょうがないから隣に見せてもらえ」
小波「はい、すいません・・・」
先生「今日は48ページの『カレンの行動第2章』をやるぞ、猪狩、立って読んでごらん」
猪狩「はい。カレンは攻撃力が高く、どう猛で1日に平均2トンの食料を消費します」
先生「はい、今の部分は期末テストに出すぞ。『トン』の所は『キロ』と間違いやすいから気をつけるんだぞ。簡単な覚え方を教えよう「豚だからトン」これを頭に入れておくこと。それじゃあ続きを読んで」
猪狩「好きなものは野球選手で、噛み付いてくる習性がある」
先生「そこもテストに出すぞ。その下の部分に特に小波、猪狩進と書き込んでおけ」
生徒「はーい」
先生「さて、カレンが来た時の最も効果的な防御方法を覚えているか?わかる人?」
澄香「はい」
先生「はい、四条」
澄香「横に逃げることです」
先生「そうだったな。わからなかった人は25ページの『カレンの対処法』を読み直すこと。ちなみに死んだふりは逆効果だが、なぜだかわかるか?矢部?」
矢部「え〜っと・・食べられてしまい本当に死ぬからでやんす」
先生「そうだな。カレンは『動かない物はエサとみなす』んだったな。それじゃあ今日の授業はこれで終わり。次の授業では『球界におけるカレンの被害』ついてやるから予習しておくこと。それから前にやった小テストを返すぞ」

矢部「小波君は何点だったでやんすか?オイラは68点でやんす」
小波「えへへ〜ほら、100点だったよ〜」
矢部「またでやんすか!?小波君は本当にカレンが得意でやんすね〜」






6: 名無しさん@パワプラー:06/05/01 01:16 ID:rgLJYUd2
   

7:    :06/05/29 17:38 ID:mci4WdbM


8: 名無しさん@パワプラー:06/05/29 17:39 ID:mci4WdbM
               

9: 名無しさん@パワプラー:06/05/29 17:41 ID:mci4WdbM
                                            

10: たも:06/08/09 22:06 ID:9OdmfGZs
小波「ねぇ矢部君なんで俺達っていつも一緒なの?」
矢部「ふふふ・・・今きずいたでやんすか?」
小波「えっ・・・」
矢部「おいら実は・・・」

11: TM−絵掘り―書ん:06/08/15 10:37 ID:Lplo2PAE
パワプロ「・・・・・・・はぁ」
矢部「どうしたでやんすか?」
パワプロ「実は車にね・・・・」
車「てめ〜、190Km投げれるからっていい気になるな!!」
パワプロ「って言われた。」
???「ちょっとまった〜!!」
パワプロ・矢部「!!!」
王監督「何のん気に練習サボってんのよ。」
パワプロ・矢部「はい?」
つづく

12: 職人:06/12/19 23:28 ID:MlBFq9PE
「いたずら前編」の巻

TV「阪神タイガース勝利しました!!」
小波「俺もいつかプロでプレイしたいなぁ・・・」
あおい「そのためにも練習しなきゃダメだよ。さっ、休憩ももう終わり、練習再開!」
TV「ここで臨時ニュースを申し上げます。パワフル野球アカデミーの小波太郎選手が詐欺を行っていたことが発覚しました。」
全員「ドテー!!」
TV「小波選手は定価780円のガンダーロボプラモを金色に着色し、同級生の矢部明雄選手に見せ、欲しがった矢部明雄選手に1000円で売った疑いが持たれています」
友沢「小波お前!!」
車「何してんだ!!お前!!」
小波「待ってくれよ!!」
渋井「こんな事が東日本野球アカデミー会長に知れ渡ったら、このパワフル野球アカデミーも廃校に追い込まるぞ!!」
小波「待ってくださいよ!!確かに俺は矢部君を騙して220円儲けましたけど、何でその程度のニュースで報道されなきゃいけないんですか!?」
あおい「・・・そう言えばそうね」
猪狩「確かに何かおかしいなぁ・・・」
TV「新しいニュースが入りました。先ほどの小波太郎選手の件で」
全員「えっ!?」
TV「ただいま、パワフル野球アカデミーの生徒が総員で小波選手の罪を追及している模様です。渋井灰斗さんからはパワフル野球アカデミーの廃校を心配する声があがっています。また、なぜこの程度のニュースを報道するのかを疑問視する声もあるようです」
出木「これって・・・さっきの会話の内容そのままじゃないですか!!」
あおい「僕達の話がそのままニュースで流れるなんて!!」
渋井「俺たちの生き恥が・・・リアルタイムで垂れ流しされていたのか!?」
猪狩「まずい!!このままじゃ、僕達の秘密が全て暴露される!!」
小波「秘密?秘密があるのは猪狩さんだけなんじゃないんですか?」
全員「うん、うん」
猪狩「『うん、うん』って・・・そんなあっさりと・・・」
TV「続いて、パワフル野球アカデミーのニュースです。自分達の話題が常にニュースになることを知り、パワフル野球アカデミーの生徒及び先生はパニックに包まれているようです。特に猪狩カイザースの猪狩守さんは、過去にレイプ・・・」
猪狩「わー!わー!わー!、わー!わー!わー!」
TV「大きい声では言えませんが、高校時代、同野球部マネージャーの四条澄香さんを部室で犯し・・・」
猪狩「うるせぃ!!消えやがれ!!(ブチッ)」






13: 職人:06/12/19 23:28 ID:MlBFq9PE
「いたずら後編」の巻き

猪狩「ふー、危なかった・・・・」
小波「そうか、TVの電源切れば良かったんだ」
友沢「バカだなぁ、この部屋のTVが消えても問題を解決したことにはならないだろ」
渋井「そうだ、これは猪狩だけの問題じゃねぇ。このままじゃ俺たちは犯罪者だ。
良くて世間の笑い者だ」
出木「こんなのいくらなんでもプライベートの侵害ですよ」
車「ちっくしょお!!テレビ局に殴りこんでやる!!」
あおい「車君!!おちついて!!」
友沢「それにしても、スポーツニュースで野球の事を取り上げるのならともかく、
何でこんなプライベートな所まで突っ込まれることになったんだろ・・・」
早賀「ちょっと待ってください。そんな事よりももっと基本的な事をみんな忘れてますよ」
あおい「基本的なこと?それは何なの?早賀くん?」
早賀「なんで僕たちの様子が、手に取るようにわかるですか?ここに第3者はいないのに」
猪狩「確かに・・・」
渋井「つまり俺達を盗撮か盗聴している奴がいるってことか」
出木「探しましょう!!」
渋井「みんなして探すんだ!!盗聴機とかかもしれねぇ、小さな機器も見逃すな!!」
全員「おー!!」
友沢「ロッカーでもないか」
あおい「トイレもないなぁ」
車「ここにもいねぇぞー」
猪狩「もうほとんど探したけど、特に何もなかっですよ」
渋井「絶対何かあるはずだ。グラウンドとかも探したのか?」
小波「探しましたよ。天井裏とかも調べましたし」
出木「どこか、落ち度があるんじゃないですか?」
渋井「そんなはずはねぇ、もう探す場所なんて・・・」
TV「へっくしょん!!」
全員「・・・・」
あおい「・・・誰か今くしゃみした?」
友沢「何かテレビから聞こえてきたような・・」
渋井「テレビ、今くしゃみしたのお前か?」
TV「してない、あっ!!」
全員「!!」
小波「そうか!!遂にわかったぞ!!」
TV[タタタタッ」
車「あっ!!TVが逃げた!!」
猪狩「逃がすもんかっ!!ソニックライジング!!!(ビュュュュュン)(ドカッ!!)」
TV「ぐえっ!!(バタッ)」
出木「気絶したようですね」
あおい「まさかTV自体が偽物だったなんて・・・ここからウソのニュースを自分で出してたのね」
渋井「なかなかやるな」
小波「きっと矢部君の仕業だよ。考えてみれば今まで矢部君はいないし」
友沢「そうだ。小波に騙された仕返しをしようと思ってこんな事をしたんだ。
それにこんな間抜けなミスをするのもあいつしかいない」
猪狩「小波、引っ張り出すから手伝ってくれ」
小波「はい」(ずるずる)
猪狩「あっ!!」
全員「みずきちゃん!!」

一方その頃矢部君は・・・・・・・
矢部「みずきちゃーん、ここから出して欲しいでやんすー(ドンドン)」

14: USA:07/02/22 12:26 ID:CS7QzpT.
Hi! Nice site!

15: Canada:07/02/22 12:26 ID:8dAGVzmM
Hi! Nice site!

16: sss:07/03/31 19:39 ID:HGlb9j2g
「恋のおまじない!!!」
「恋のおまじない!!」
「恋のおまじないっ!」
さっそくですがおまじないです
恋を語らず何を語る?という世の中ですが、
このコピペを必ず5つのレスに書き込んでください。
あなたの好きな人に10日以内に告白されます。
嘘だと思うなら無視してください。
ちなみにあなたの運勢が良かったら5日以内に告白&告白したらOKされます
効き目ぁるらしいですよ
なかったらごめんなさい
でも試してみてくださいね♪


17: 名無しさん@パワプラー:07/04/06 08:47 ID:nXcnMp8E
>>12>>13最高に面白かった
また作ってください


18: sss:07/04/10 13:14 ID:mQajE51o
「恋のおまじない!!!」
「恋のおまじない!!」
「恋のおまじないっ!」
さっそくですがおまじないです
恋を語らず何を語る?という世の中ですが、
このコピペを必ず5つのレスに書き込んでください。
あなたの好きな人に10日以内に告白されます。
嘘だと思うなら無視してください。
ちなみにあなたの運勢が良かったら5日以内に告白&告白したらOKされます
効き目ぁるらしいですよ
なかったらごめんなさい
でも試してみてくださいね♪


19: sss:07/04/10 13:14 ID:mQajE51o
「恋のおまじない!!!」
「恋のおまじない!!」
「恋のおまじないっ!」
さっそくですがおまじないです
恋を語らず何を語る?という世の中ですが、
このコピペを必ず5つのレスに書き込んでください。
あなたの好きな人に10日以内に告白されます。
嘘だと思うなら無視してください。
ちなみにあなたの運勢が良かったら5日以内に告白&告白したらOKされます
効き目ぁるらしいですよ
なかったらごめんなさい
でも試してみてくださいね♪


20: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:29 ID:V2EvfZyg
お邪魔します。

21: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:35 ID:V2EvfZyg
「まぁ、理由は何にせよ、あおいちゃんももう少し気を長く持ったほうがいいんじゃない? 爆発寸前だったでしょ? 今」
「まーね。だから八つ当たりしたい気で一杯だよ。ようし西条君、今日はボクのギザギザハートの詰まった全力投球が待っているから、覚悟してしっかり捕球するように!」
 勘弁してくれ。
 胸中で反論しながらも、口には出さない樹。どうせこの気温と湿気だ。全力投球なんてした日には、甲子園のマウンドでもない限り十数球でバテるだろう。まぁ思わず図らずの怒りに任せたワイルドピッチが何度も来れば、受けるこちらも堪ったものではないが。
「ほどほどにね」
 言いながら静かになったグラウンドに向かうと、はるかが逆方向へと歩こうとしていることに気付く。
「って、はるかちゃん? 練習始めるよ?」
 トイレだろうか。訝った樹には思慮が足りなかった。
「え? あの、道具を運ぶんじゃなかったんですか?」
 …………。
 ポンと、何故か視線を下へ逸らしたあおいちゃんから、肩を叩かれる。
 七瀬はるかは天然だった。


22: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:37 ID:V2EvfZyg
幾らほどの距離を走っただろうか。普段はテニスを軽く嗜む程度の足なので、全力で走った時間とそれによる距離を比例させて予測を立てることができない。しかしそれは感覚的な話であって、視覚からの情報を落ち着いて分析すれば、この距離程度を計算するのは簡単だった。
グラウンドから、一番近い校舎の影。距離にしてみれば百メートルもないだろう。
肩で息をしながら、乱れる呼吸を整えて、校舎の壁に寄りかかりながら胸に手をやる。
鼓動が早い。脈打つ音が耳にさえ響く。いやそれ以上に、頭の中が妙に霞んでいる。いまいち正常な思考が保てない。理由は突然の短距離無酸素運動然りだが、もう一つあることは明白だった。それは恐らく、この状況下で自分だけが陥る状態。
絡んだ視線が忘れられない。思わず顔が火照ってしまう。
「まさか……あの方が野球愛好会に入っていらしたなんて……」 
ひっそりと、いつも影から見ていた彼の声が、初めて大仰に聞こえた。感動に手が少し震えてしまう。
入学式で一目見た瞬間に高鳴った胸の鼓動。以来、彼を見かける度にそれは続いた。幾度となく足を運んだ彼のクラス。そこで目にした彼の気さくな笑顔や、楽しげな立ち振る舞い。今まで自分の知らなかった感情が、彼を見るたびに沸き上がる。
これを恋と形容したのは、いつの日からだったか。
「これでは迂闊に手が出せませんわ……嫌われでもしたら、私……」
恐らく、耐えられない。生まれて初めて恋焦がれた人物に嫌悪の表情を向けられるなどと、何にも勝る苦痛だろう。想像したくもない。
「命拾いしましたわね……七瀬はるか。あと、それと……」
緑色の女。ああ、名前を聞くのを忘れていた。

何はともあれ倉橋彩乃、野球愛好会員西条樹に恋する十六歳。花も恥らう乙女は純情である。

かくして、午後のひと嵐は去ったのであった。


23: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:38 ID:V2EvfZyg
3.一日の風景


 学校と言う場所は勉学に励み、知識見聞を深める為の場所だと聞いて頷かない者は、その場によほどの恨みを持つ者か、よほどの常識知らずにして見解違いか、ただ学校と言う場所を知らない者かのいずれかであろう。しかし、そのいずれにも属さないにも関わらず、むしろそうだと理解した上で学生の本分とやらである勉学に勤しまないのは、つまるところただ怠惰なだけということであろう。
 時計の針が昼前を指す、授業中の教室内。欠伸とともに募る眠気を堪えながら、樹は怠惰な時間を潰していた。
 机の上には、教科書に敷くようにして広げられた“野球ノート”が。席は一番後ろ且つ矢部君の隣なので、教師やその他女生徒に悟られることはまずない。ここ数日、皆の進歩したところや新たな要改善点などを密かに書き込むのが、樹の授業中の暇潰しとなっていた。
 流石に数学や英語の時間などにするほど無謀ではないが、現国などの、特に襲い来る眠気の多い授業ではまさに常習だ。教師には悪いが、ここは居眠りしないだけましと、寛大な心で構えてほしい。
 ところで最近気づいたことだが、やはり聡明なお嬢様方も、昼寝と言うものは嗜むらしい。寝息などは聞こえないが、机に突っ伏している方々は、周囲に何人も見受けられる。ひょっとするとクラスの半分近くがボイコット状態なのかも知れなかった。


24: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:39 ID:V2EvfZyg
 そしてそれを気にも留めない、初老の紳士たる男性教師。それが彼の許容の範囲内なのか、はたまた単純な興味の有無なのかは理解しかねたが、とりあえず樹にとっての不利益はないようである。
 まぁ、どうでもいい。
 隣で間抜けな居眠り面をして惰眠を貪っている矢部君を一瞥してから、樹は野球ノートにおける矢部君に関するページを開き、一度だけペンを走らせた。
 書き込まれたのは、「正」という字の三画目。
 通算三つ目の「正」の字が、あと少しで完成しそうである。そして唐突に思い立った遊び心でそのページの隅に矢部君の似顔絵を書いてみるが、あまり似なかったのですぐに消すことにした。
 きんこんかんこん。
 間延びした妙な脱力感に満ちた音が、授業終了の時報を告げるべく学校中に響き渡る。例外なくそれが響いたこの教室でも、教師を含む一同がさっさと片づけを始めた。勿論、樹もである。
 これで、午前の授業は終了だ。
 気が緩んだらしい、堪えきれなかった大きな欠伸とともに、樹は席を立った。

25: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:41 ID:V2EvfZyg



「コラそこぉ! だらだらしない!」
 怒りの剣幕で怒るあおいに驚いてか、のんびりベンチで雑談にふけっていた数名の男子会員は脱兎のごとく駆け出すと、そのまま外野ランニングへと走っていった。
「ったくもー、やる気あるのかしら」
「やる気を出せっていうのが、無理な話かも知れないね」
 素振りのバットを片手に毒づくあおいに、樹は諭すように言った。
「六月下旬、夏目前。世間の高校野球部は甲子園へのキップを賭けて県予選の真っ最中。なのに、野球部ですらない愛好会は、それに参加することもできない。結果の見込めない練習だからね。ああなるのも当然の話だと思うよ」
 言いながら予想した通りに、あおいは少し不機嫌そうな顔になる。
「それはそうだけどさ……来年までに出来上がっていれば地区大会でも結構イケると思うのに……もったいないよ」
 その言葉には苛立ちや怒りよりも、やるせなさや残念さが滲んでいるように思えた。いや、それは恐らく事実だろう。
 小学生の頃からリトル・リーグで投手として活躍し、頭角を現し、周囲の男子よりも頭一つ秀でた実力を持っていた野球好きの少女、早川あおい。中学校に上がっても変わらず投手を務め、キャプテンならずともチームを率いる存在であったことは確かだと言う。(これは勿論、はるかちゃんから聞いた話だ)
 しかし惜しむらくは、少女の文字を代表に、彼女が女性であったことだろう。
 男女平等が叫ばれて久しい今日ではあるが、やはりそれは無謀というものである。社会的立場云々は別としても、どう足掻いても女性は運動という分野において、同じ分の訓練をした男性に少なからず劣ってしまう。そもそも男性と女性では、身体的に殆ど別の生物だと言えるぐらいの違いがあるのだ。そしてその肉体における確定的な差異は、成熟期を迎える高校生という時期においてより決定的なものとなる。それをどう覆せというのだろう。

26: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:43 ID:V2EvfZyg
 早川あおいも例外なく、その壁に見事に衝突した人間であった。
 小学、中学校時代に女性選手として数々の実績を残した彼女を、高校野球における強豪校は認めなかった。ただひたすらに「女性選手であるから」というそれだけの理由で。
 その完膚なきまでに冷徹な事実を、また思い出してでもいるのだろう。外野を走る他会員達を見つめる目には、羨みさえも混じっているように見えた。多分、それもまた事実。
 傍観者の立場とは言え、やりきれない気持ちになる。
 見ちゃいられない。それが正直な気持ちだ。
 と。
「待つでやんすー! オイラのレアフィギュア返すでやんすー!!」
 その時ちょうど聞こえたのは、そんな矢部君の叫び声だった。振り返ってみると、無残にも犬に咥えられたフィギュアを追ってグラウンド中を疾走する矢部君の姿があった。
 犬のほうはガンダーと言い、先日グラウンド近くに住み着いたらしい野良犬で、矢部君が命名者だ。餌などやっている内に皆懐かれたらしく、今では愛好会のマスコットにもなっている、学園内でも知名ある犬だ。
 今までもちょっとした道具紛失事件に関わってはいたが、まさか矢部君秘蔵のお宝にまで目をつけるとは考えてもいなかった。それは矢部君自身も同じだろう。憔悴しきった表情からは、まさに飼い犬に手を噛まれたという心情が受け取れる。
「よっぽどガンダーにしてやられたと思ってるんだろうなぁ」
「いや、レアフィギュアって言ってたし……単にアレが大事なモノなんじゃないの?」
 あ、そういうことか。
 犬の身体は走ることに適しているため、体力など関係無しに人間よりも速い速度が出せる。これは生物としての構造上仕方のないことであって、人間が人間である限りどうしても超えられない壁であるのだ。現に人間の陸上選手よりも、そこらの野良犬の方がよっぽど速い。


27: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:44 ID:V2EvfZyg
 彼、矢部昭雄もまた例外なく、その壁に見事に衝突した人間であった。
 俊足巧打の外野手として名を――まぁこの上なく一部で――馳せた彼を、茶色い毛並みの瞬発型動物は軽々と突き放した。彼の命より大切――かどうかは定かではないが――な一物を奪い去って。
 その完膚なきまでな事実を、彼は認めようとしなかった。これでもかというくらいに犬の後方に喰らい付き、自らの体力の範疇をとっくに超えているだろう速度で走り続ける。彼は諦めない。何故ならその目にはまだ闘志が宿っているからだ。彼はまだ走る。目標を達成しない限り、彼が倒れることはないだろう。その物理的に不可能な事柄さえも信用させてしまうほどに、彼の意気は凄まじかった。現にその放たれる気に触れてか、外野を走っていた他会員達も思わずその足を止めて、固唾を呑んで一事の行方を見守っている。彼と、その前方を走る犬。その勝負はもはや体力という枠ではない。尽きず折れぬ精神の領域の戦いと表現すべきが、この聖戦に対する礼儀と言えるだろう。
 と、言葉を選ぶだけでここまでシリアス且つ重要なものに思えてくるのは、現代文学の妙である。
 結局のところ、ぜぇはぁと息も荒く今にも死にそうな形相の矢部君がかのマイ○ル・●ャク◆ンもびっくりなほどの顔面蒼白さで迫るのでそれを見たガンダーが仰天し更に逃げ続けるという無駄に完成されたループが出来上がっているだけであって、他会員達にしても固唾を呑んでというよりはただ呆れて見ているというのが適切だろう。
 内野で決しなかった勝負が外野外周にまで持ち込まれたのを確認した後で、樹は横を見やった。
 あおいは少し口元をほころばせてはいるものの、元気な表情というには程遠い。
 い、いい加減に、止まるでやんすー!! と、これは矢部君の声。
「投げ込み、しようか」
 なるべく明るい声で言葉をかける。
 振り返るあおいちゃんは、笑顔。
「うん!」
 作り笑顔だった。





28: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:47 ID:V2EvfZyg

 二条神谷は、焦っていた。
 逃げるべきか諦めるべきか。答えは考えずとも知れていた。せめてもの呼吸を挟む間も与えずに襲い来る、葛藤にも似た焦燥感を押し殺しながら走る。
 全身の緊張と思考の停滞を僅かに許しつつも、できるだけ俊敏さを継続させながら、背後という不可視の空間からの逃避を試みる。自分でも分かる程に普段の仏頂面は崩れていないのだから、傍から見れば冷静に何事かを見据えて走っているように映っただろう。
 だが外観など問題にならないほどに焦っているというのは、当人である自分が一番良く理解している。
 脳裏に描くものは、恐怖。それは背後の気配へと言うより、立ち止まった結果とその先に待っているであろう、自分を迎える悲惨な結末へ向けられたものだった。
 一秒が惜しい。一歩が惜しい。一呼吸が惜しい。少しでも気を抜けば、恐らくここまでの無酸素運動に限界を見出した脳が、身体の活動を停止してしまうだろう。
「(振り切らねば……喰われるか)」
 舌打ちして、ぼやく。後方から迫る追跡者達の速度は、未だ衰えることがない。むしろ速くなっているのではないかとまで錯覚する。


29: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:47 ID:V2EvfZyg
生粋且つ厳格たる二条家の人間として、猛き父の手ほどきの下、幼い頃から心身の鍛錬を積んだ自分の身体能力にここまでついてくるとは、なかなかに侮れない者達だ。貞淑貴嬢の寄せ集めのような生徒達と聞き及んでいたが、どうやら見解を間違えていたようである。
考えている場合か。
全ての弱音を一瞬で無理矢理にかき消して、神谷は最高速度を維持することに尽力した。そしてそのまま校舎近くの物陰に隠れると、引き離した者達の気配を探る。
破裂をも目前にした大きな心音。そして無理に抑えても漏れてしまう、酸素を求めて喘ぐ呼吸音。その喉に苛立ちを覚えながらも、緊張だけは決して解かない。全身はもういかなる運動さえも拒否するように脱力していたが、倒れこんでしまわぬように気力を保つ。
「あれ? こっちに来てなかったっけ?」
「ええーウソー! 二条君どこ行ったのー?」
「ああー、一緒に写真撮りたーい!!」
満身創痍のこちらを他所に聞こえてきた声は明るく、大きく、全く疲れを感じさせないものだった。
「(化け物か……)」
彼女達の動向を聴覚だけで探りながら、神谷は息をできるだけ殺して身体を潜めていた。未だに心臓はその拍動を落ち着けてはくれないが、一時の苦しみと数時に渡る苦痛とを選ぶのならば、答えは明白である。
その後数分間、彼女達がその場を立ち去るまで、神谷はただひたすらに隠れていた。
また今日も、愛好会の活動には遅れそうである。





30: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:49 ID:V2EvfZyg
自分で言うのもなんだが、中学時代にはなかなか名の知れたキャッチャーだったと思う。そりゃかの猪狩兄弟の名声とは比較にもならないけれど、一部では「あ、あのキャッチャーだ」程度に知れていた。つまりはまぁ、記憶にも残らないような捕手ではなかったということで、野球に対する打ち込みぶりは結構なものだったということだ。
朝練、部活、自主トレと。使える時間は大抵野球に費やしてきたし、食事云々にも結構気を遣っていた。継続は力なりという言葉は本当だと思う。とりあえず続けては来たから、凡才なりに上達はできたのだ。
「で?」
「俺は野球が好きだ」
「で?」
「野球馬鹿と言ってもいい」
「で?」
「野球しか能が無い」
「だから?」
「だから、つまりその」
「赤点取っても仕方がないと?」
「いやまぁ、そういう言い方も」
「で?」
「すいませんでした」
放課後の教室にて、樹は目の前に立つあおいに対して、深々と頭を地に付けた。すぐ隣の机の上には、二十一点と銘打たれた答案用紙が広げられている。筆跡や記名された名前など、どの要素から見てもそれが樹の物であることは疑いようがなかった。
一応と言い訳程度に言っておくと、樹は暗記と読み解きが得意な完全文系人間であって、数字の羅列を見ると頭痛と吐き気を催す種の人間でもあるのだ。
「だからって赤点取られてもねぇ……。追試いつ?」
「来週の今日」
ここ恋恋高校では定期テストにおける三十未満が赤点とされ、該当者には挽回の為の追試と、暫くの間は週一回の補習が課せられるのだ。全体統一した練習を重視するあおいが懸念しているのは、その欠員による穴だった。


31: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:50 ID:V2EvfZyg
「本当によく二十一点なんて取れるよね。ボクでさえ五十点だったっていうのに」
「もうーしわけない」
 小学生の頃から培った柔軟性を活かして、土下座の形のまま上半身を床へへばりつかせる。全身で詫びを表現するという意図もあるが、八割がギャグである。
「まぁ済んだことは仕方がないってしてもさ、一応キャプテンみたいな立場なんだから、その辺は自覚持ってよね」
 スルーされて、手厳しい一言。観客の失笑を誘った芸人は、きっとこんな気持ちなのだろう。
「しかしどう足掻こうと学習には個人差があるものだ。焦る必要はないだろう。他に遅れようとも、いずれそこを通過すればいい」
 落ち着いた物腰で丁寧に言ってくるのは、噂の美男子、二条神谷だ。今日は上級生達による襲撃を早めに回避できた為、あおいちゃんと合流してこの教室に立ち寄ったらしい。そこで、出来損ないの答案用紙を目の前にしてノートを広げる樹と会ったというわけだ。ちなみに矢部君は三十八点だったので、憂うことなしにグラウンドへ駆けて行っている。
「ああ、二条は優しいなぁ……」
「二条君は何点だったの?」
「いや、自分は、その……悪くはない、点だ」
「えー?! 九十二点だったんだすごーい!」
 前言撤回。
 なんだか目の前の答案が、よけい惨めに思えてきた。
「……そう落胆するな。……しかし、捕手であるお前を欠くとなると、我々投手陣が受ける練習への影響は如実だからな。次回は、是非ともの躍進を目指して欲しい」
 そう、二条は投手である。それも左投げの。つまりあおいちゃんとで両腕のエースというわけで、それだけでも投手陣はかなり高いレベルにあると言って良いだろう。試合すら出来ない状態というのが少し寂しいが。
「うーん、二条君の喋りって漢字多いよね。疲れない?」
「癖だからな。別段苦には思っていない」
 机の乱れが気になったのか、側の机と椅子の位置を片手で直しながら、二条は返答する。
「じゃ、私たちはもう行くから。早めに立ち直ってきなよー」
「そういうことだ。また後で会おう」
 手を振りながら、二人は教室を出て行く。登場人物の二人を欠いた舞台は、一気に物寂しくなった。残っている役者が役者ならば、その雰囲気の落ち込み具合も凄まじい。
「輝かないよなぁ、俺って」
 溜め息の混じった愚痴を一度。妙に重い身体を動かして、惨めな答案を片手にノートに向き直る。追試は来週だ。今からでも遅すぎるぐらいだが、せめてもの悪あがきはしておけねばなるまい。模範解答を読みながら、とりあえずの理解に努める。


32: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:53 ID:V2EvfZyg
「……」
 数式を眺め、様々な関連性を見落とさないように思考を巡らせる。
「……」
 どうにも理解できそうにないので、教科書を開く。
「……」
 少し、進んだ。
「……」
 五分。
 十分。
 十五分。
「……よし!」
 結論が出た。どうやら自分は思いのほか頭が悪かったらしい。
 結局一問しか解けないまま、机に突っ伏す。
 完全に脳の処理能力の限界を超えてしまったようだ。頭が痛い。ノートに頭を乗せたまま外を見やると、この辺りを巣にしているらしいスズメが何羽か飛んでいった。
 同時に、カキンという小気味良い音が聞こえる。ボールをバットで弾いた時の、清々しい単音だ。捕手である自分の居ない今日だ、フリーバッティングでもしているのだろう。そう言えば最近は守備練習しかしていなかったから、素振りの感覚を定着させるにはいい機会だ。
 嗚呼……。
「打ちたい……」
 無論、パチンコのことではない。
 しかしこれ以上野球に関することを考えていると流石に我慢が利かなくなるので、ここは欲望を遮断し、耳に栓をしたつもりでノートに向かうことにする。
 が、今度は五分も持たなかった。
「うわぁ、もしかして俺って頭悪い?」
 今更のように確認すべき事項でもないのだが、呟いてみる。教科書を見て進行しても問題は解けない。この状態で教科書を疑うか自身の能力を疑うかと言えば、間違いなく後者だろう。正直なところで、二十一点も取れたのが不思議なくらいだ。他の科目は七十、八十点代をマークしているというのに、何故なのだろう。
「誰か教えてくれる人でもいればなぁ……」
 そう考えていた時だった。教室後ろのドアが開かれる音がする。引き戸特有の、ガラガラという音だ。殆んど反射的に振り返ると、そこには、女の子がいた。
 まぁ全校における男子総数が八人などと言うと、廊下でさえ女子とすれ違う確率の方が圧倒的に高いわけだが、問題はそういったことではない。
 ドアを開けてこちらを見て、驚愕したような表情を浮かべる女の子。彼女には確かに見覚えがあった。
 一度見たら忘れないような、大きな印象を与える金髪に、それと同色の瞳。どことなく自己主張の激しいような雰囲気を持った、世間知らずな幼さを含んだ顔。
 そしてその背後に湧き上がった赤々しい薔薇の花々を見て、樹はやっと思い出していた。
 


33: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:58 ID:V2EvfZyg
(な、なんでですの?!)
 倉橋彩乃は、衝撃のあまり硬直していた。
 自分はただ、未来の生徒会長として相応しい模範的行動を示そうと、一年生全ての教室の戸締りの確認に歩き回っていただけなのだ。入学早々続けていた習慣なのであって、他意はない。そう、特に何か見返りを期待していたり、周囲の羨望を集めようとか偽善的な思考を持って望んでいたわけではないのだ。
 もし見返りがあるにしても、それは先生からの簡単な褒め言葉だったり、他生徒からの適当な賛美の噂程度のものだろう。
 故にこの状況に対しては、偶然としか説明がつかない。これは数百分の一の確率を偶然に拾い上げた結果なのであって、自分が何かをして得たものというわけではないだろう。きっとそうなのである。
 混乱する自分の目の前に在る光景は、一言で表すととても簡素に済む。
 ドアを開けた瞬間教室に男子が居た。以上。
 しかしその男子が誰であるのかとかそれは自分がどう想っている人物なのかとか彼の周囲の椅子机だけが妙に整頓されているとかそういったことを説明しようとすると、それは原稿用紙が最低数十枚は必要になりそうである。
(ど、どうして西条様がっ?!)
 とりあえず、自分の想い人がそこに居た。
 彼は特に表情を崩してはいない。こういった状況に慣れているというだけなのか、もしくは単に自分という存在に全く関与するつもりがないのか、それらは把握しかねたが、対する自分の顔がみるみる朱に染まっていっているというのは考えずとも理解できた。多分、彼の表情が少しばかり疑問を持ったものに変わったのは、そんなこちらの顔を見たからだろう。
 次の瞬間に自分がとった行動は、あまりにも稚拙でありふれた単純な行為だった。人間が、いや動物全てが未知既知を問わずして仰天したときに図らずしも本能的に取ってしまう行動。
 即ち逃避である。
 踏み込もうとしていた足がその踏み込みをバネにし、ドアを通過する際に縁に添えた手が羽ばたくように反動する。あまりにもはしたない行為ではあったが、こればかりは自律することができない。
 と、それは唐突な一言で制止された。
「ちょ、ちょっと待ったぁ!!」
 急速に思考が巡る。ここ一帯に居るのは恐らく自分と彼だけなのであって、不測の第三者に気を配らなければ、これはそのどちらかが発声したものだということは確定的と言えるだろう。そして自分が到底声など出せない心理下と状況下で、声が聞こえた。となれば、必然的に声を上げたのは自分以外の誰か、即ち後方に居る彼ということになる。
 などと、妙に冷静に分析し終えたところで、状況には何の変化も無い。
 彩乃は踏み止まり、確かめるように素早く振り向いた。


34: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 21:59 ID:V2EvfZyg
「あー倉橋、さん……だよね?」
「え、あ、はい。そうですわ」
 名前を呼ばれたことにかなり動揺してしまったが、何とか表面には出さずにいれた。返答すると、彼は続けてくる。
「えっと、君、確か前に入学試験成績次席って言ってたよね?」
 何故そのことを知っているのかと疑問に思いもしたが、そんなこと些細な問題でしかなかった。少なくとも、現在自分が彼と会話しようとしているという事実の方が、よっぽど重要である。彩乃は、躊躇わず返した。
「え、ええ、確かに、そうですわ」
「よかった、勉強できるんだ。じゃあ、その、お願いがあるんだけど……」
 物腰低い声で言ってくる。なんだろう、それは自分にできることなのか、できないとしても努力はしたい。というか彼の頼みならばどうにかしたい。ああ、私の手に負える範疇の事を言って下さい。と逆に願う。
「これ……」
 彼が背中から取り出したものは……。
 息を呑む。
「これの、解き方を教えて下さいお願いします倉橋さん」
 大袈裟な一礼とともに差し出されたのは、一冊のノート。
 そこに解かれている数式には、幾らか見覚えがある。そういえば、今回の定期考査試験範囲だった問題ではないだろうか。
「え? これの……」
「いやぁ恥ずかしい話で、実は赤点取っちゃってさぁ、来週追試なもんで、せめて悪あがきでもしておこうかと思って」
 そういえば、赤点者には追試があるという話を聞いた気がする。自分にはあまり関係のない話だと聞き流していたのかも知れない。
「というわけで、お願いします! あ、いや、何か用事とかあるんならいいんだけど」
 用事ならばある。この後家に帰ってピアノの稽古が待っているし、その後は夕食を母と共に準備する約束をしていた。優しくて大好きな母との約束を意図的に破ったことは過去の一度としてない、というか、破ろうと思ったことさえなかったのだが。
 今はそんなこと、どうでもよかった。
「い、いえ! よ、喜んでご教授致しますわ」
「ありがとう! 地獄で仏だよ……。じゃ、早速ここでつまづいてるんだけど……」
「あ。ここはaの要素を与えられていますから、判別式Dを0以上とおいて」
 もし神がこの世に存在するとしたならば、これほど感謝をした日はなかったと思う。
 恋する乙女倉橋彩乃。時に赤くなり、時に恥らいながら、樹の対追試勉強に付き添うのであった。






35: 名無しさん@パワプラー:07/08/21 22:01 ID:V2EvfZyg
とりあえずここまで。また暇ができたら投下します。
こちらノミの心臓なので叩きは勘弁してくだしあ

36: 名無しさん@パワプラー:07/08/23 11:14 ID:m4dH4ho6
以前『続けて下さい』と書き込んだ者です。
9の恋々は自分も好きなストーリーなので、続きを楽しみにしています。
彩乃嬢の出番が多いのもまた嬉しいです。頑張って下さい。

37: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 01:09 ID:.RsicclQ
4.強き乙女にトゲはあり


 野球というものに飽きが来ない理由は、他のスポーツにも共通して、日々自身が成長しているということを実感できるということと、状態状況が様々な場面で全く違ってくるということが挙げられるだろう。球を打ったり投げたりしたときの爽快感も、また一役買っている。
 スパン! と良い音を立ててミットに入り込む直球。その感触を左手に確かめながら、樹は軽く唸った。あおいちゃんのストレートを、荒々しいが力強い球と表現するならば、この二条の球は、速度から角度からを計算し尽くされた非常にスマートな球といったところだろう。強過ぎず弱過ぎず、最も抑えた力で出せる最速の球を常に放っている。思わず、その肩が精密機械ではないのかと疑ってしまうほどの正確さだ。
 はっきり言って、二条の投手としての型はほぼ完璧に近い。後は身体の、時間に依存した成長でしか伸びることはないだろうとさえ思える。技術面に関しては、もはやこちらが口出しすべきところはなかった。
 球速や変化球のレベルはそこそこだが、これ以上を望むというのは贅沢が過ぎだろう。
「流石だな、綺麗なフォームしてるよ」
 樹は、そう言いながら返球した。
「ありがとう。謙遜こそ美学と重んじたいところだが、賛辞を述べられると気分が良いな」
「女房役に遠慮することはないよ。いい投球だ。安心して付き合える」
 こんな二条でもしっかり成長している。最初に球を受けたときと比べても、徐々に球の質が変化しつつあるのは確かだ。自分の成長もさることながら、他人の成長というものも見ていて楽しい。
 そう思いながら、今一番、色々な面で成長して欲しい人間の方へと目を向ける。
「で、あおいちゃんは?」
「いや、まだ日課が終わらないらしい」
 二条の呟きを体現して、あおいちゃんはグラウンドの中心に、一人の女の子と睨み合って立っていた。頭に巻かれたハチマキが印象的な、あおいちゃん以上に活発そうな女の子である。
 二人は真正面から向き合って、お互いに睨み付けるような目つきで対峙していた。

38: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 01:11 ID:.RsicclQ
「部活でもない愛好会が、グラウンドを使わないで!」
「部活じゃなけりゃ使っちゃいけないなんて決まりはないでしょ!」
「じゃあせめて部活の邪魔にならないように隅で社会のゴミみたいに小さくなってなさい!」
「ゴミはそっちでしょ! こんな大声撒き散らして公害もいいとこだよ産業廃棄物も真っ青だね」
「何よ、所詮愛好会なんて○○で××××で◆◆のくせに!」
「ソフトボールだって似たようなもんじゃないの! ×××で○○○で××××××で!」
「――――!!」
「――――――!!」
 およそ女の子の口から漏れるとは思えないような暴言珍言が飛び出しあう。決して聞き慣れるものではないが、こうも毎日のように聞かされていれば、脳が自然と聴覚を遮断するようになるのも道理というものである。今では皆諦めたのか、止めようとする者さえいない。
 あおいの口喧嘩相手の名前は高松ゆかり。恋恋高校女子ソフトボール部の一年生(樹らと同級生だ)で、入部早々投手を務める、信頼と人望の厚い気丈な子である。
 突然現れた野球愛好会なるものにグラウンドの半分近くを占領されて少々気立っているようで、暫く前からこうして毎日のようにあおいと口喧嘩に華を咲かせているのだが、その終着駅は未だ見えることがない。
 途中からは互いの悪口雑言の言い合いになるのも、また見慣れた光景である。
「やっぱり止めたほうがいいのかな」
 誰にともなく呟くが、遠くに見えるソフトボール部の皆さんは、既に諦めモードとなっている。そんななか反応してくれたのは二条だった。
「いや、それに関しての必要性は感じないな。ある程度の感情の鬱積が解消できれば、事は言わずと決するだろう。……雌雄は決しないだろうがな」
 表情を滅多に崩さない二条にしては珍しい、苦笑を伴った笑み。
 それを他所に相も変わらず響くのは、女二人で充分に姦しい怒鳴り声。
 恋恋は、今日も平和です。



39: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 01:12 ID:.RsicclQ
そう思っていたのだが、本当の波乱は、あおいちゃんが引き上げてきてからだった。
「よし、今からあっちと勝負するから!」
向けられた指が示す先にいるのは、言わずもがな、女子ソフトボール部の皆さんである。例の高松さんがこちらに対して――あおいちゃんと同じように――指を向けている辺り、向こうでも同じような宣言がされたらしい。
勿論、互いの部員や会員の反応にも、大して差はない。皆が皆唖然として、言葉を失っている。二条も堅い表情を保ってはいるが、その面皮の下では驚きに混乱していることだろう。
暫く続く沈黙。それを破ったのは、非常に嫌味なことにあおいちゃん本人であった。
「さぁ皆準備して! 今からあのソフトボール部を打ち負かすんだよ!」
「ちょ、ちょっと待った!」
かろうじて正気に戻ることができた樹は、意識の浮上した勢いそのままに大声を上げた。続いて今皆が最も考えうる、というか、こんな呆然状態になるべくした原因でもある疑問を投げかけようと、
背筋を伸ばして手を挙げる。
「幾つか質問!」
「認める!」
「あっちはソフトボール部だよね?」
「そうだよ」
「俺たちは野球愛好会だよね?」
「そうだよ」
「相撲とカポエラが同じ土俵で戦えると思う?」
「そりゃ無理でしょ」
「でも今からあっちと勝負するんだよね?」
「そうだよ」
「それって野球? ソフトボール?」
「両者混合」
「で、どうやって?」
「やりながら考える」
樹は頭を抱えて座り込んだ。

40: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 01:13 ID:.RsicclQ
「つまりは部活対抗異種格闘技戦をやろうと」
「さっすが西条君、物分りが早くてボク助かるなぁ」
 暫く黙る。誰も口を挟もうとしないので、沈黙を保つことだけは容易だった。
「何の為に?」
「いやほらだって、グラウンド、一つしかないから」
 なるほど。ただでさえそこまで広くなく、一つしかないグラウンドを二つの部活で分けようというのだから、どちらに優先権があるのかどうか白黒つけようじゃないか。という話なのだろう。体育会系の人間が考え付きそうな、至極短絡的な発想である。女子だからと言って、それはそうそう変わるものではないようだ。
 溜め息を吐きつつ二条に顔を向けると、あちらは肩をすくめて見せる。既に決議されたことを無理矢理に転覆させるわけにもいくまいだのなんだのと、難しい言い回しすらその表情から伝わった。
 かくして――
「男子がいるからって、こっちも引けは取らないわよ」
「望むところだね。ボクたちも、全力でいくつもりだから」
「あの、高松さん? 本気なの?」
「先輩は口出し無用です。これは、アタシたちの戦いですから」
「いやあの、一応付き合わされる身だから、その……」
「さぁさっさとキャッチボール始めて! 今日こそあの低知能な愛好会を完全無欠に完膚なきまでに再起不能になるまで叩き潰すのよ! 隙あらば凶器の使用も許可するわ!」
「既にスポーツじゃない気がしてきたんだけど、あおいちゃん?」
「あー、よく考えたらこっちって人数一人足りないんだよね……よし、西条君!」
「……なに?」
「二条君にキャッチャーやってもらうから、キミはライトとセンター掛け持ちね」
「え、それなら二条に外野を任せた方が」
「人気者、美男子二条君がキャッチャー」
「……?」
「相手打者も緊張するってもんでしょ」
「……ずるいなぁ」
 ……かくして、恋恋高校ソフトボール部対野球愛好会の、グラウンド使用権を懸けた壮絶な戦いの幕が上がったのだった。



                       改行し忘れても挫けない。

41: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:07 ID:Q1EDbOxo
 ルールを簡潔に言ってしまうと――
 
 ボールは守備側に合わせて使用すること
 バットは打撃側の自由に使ってよい
 塁間は目算で、野球のものより少し距離が短い程度
 ピッチャーマウンドの位置は守備側に合わせる
 リード、盗塁はなし
 投手の変化球使用は可
 デッドボールや四球、ファールなど、共通ルールはそのまま
 イニングスは7回まで
 審判はソフトボール部に一任
 ――といったところである。

 そして現在、0対0で迎えた三回の裏、ソフトボール部の攻撃であるが、どうにも打ち慣れない野球の球に皆苦戦し、三振を大量に奪われる形となっていた。しかしそれは、決して彼女らが慣れていないという所為だけではない。そのことは、右中間にポツンと立たされた樹がよく分かっていた。
 流石、あおいちゃんだ。頭のキレる投球をしてる。
 後ろからだと、あおいの投球フォームは勿論、二条の構えるミットの動きやサインの様子なども確認できる。この二条がまた大したリードで、きちんと捕手の基本に則ってしっかりと配球を考えており、それは樹に正捕手としての自信をちょっと失わせる程だ。

42: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:08 ID:Q1EDbOxo
だが、基本というものが如何に高等な技術の集合体であるとは言えど、所詮は一通りのものでしかない。基本だけでは、いずれ捉えられる。しかしその基本を予測不能な大技に変貌させているのが、あおいの持つ大胆な発想と、勝負好きな性格故の強引な攻めなのだ。
例えばワンストライク・ツーボール。打ち気に逸る打者は、次に来るだろうストライク取りの甘い球を狙おうと、真ん中付近からアウトコース寄りのストレートに賭けてくる。落ち着いている打者は、よほど甘い球が来たとき以外は打ちまいと、見送る覚悟で臨んでくる。
二条はここで無難にイン・ローにストレートを要求。あおいはここでそれを拒否、真ん中高めに、ボール覚悟の全力投球を叩き込むのだ。
前者は真ん中コースに来たということで、つい空振り、もしくは球の底をかすってしまい内野フライ。後者は反応できずにツーストライク目を奪われるか、もしくは同じく内野フライ。実際の高校野球で通用するかと聞かれれば疑問は残るが、それでも普段の駆け引きになれていない、更には野球ボールのサイズに慣れていないソフトボール部の皆さんには、充分通用するものだった。
先の話で前者に該当するソフトボール部一番打者の方が、景気の良い内野フライを青空に打ち上げて、それを見送るように溜め息をつく。ボールが完全に捕球されたところで、それに悔やみの声が混じった。彼女はヘルメットを外し、肩を落としてベンチへと引き返していく。
「ごめんね高松さん、やっぱり私には荷が重かったわ」
「いえ、まだ三回です。まだ二順目ですから、次、頑張って下さい!!」
そう慰めはするものの、もどかしいことには変わらず。高松ゆかりは唇を噛み締めながら、マウンド上の女投手を睨んだ。前回では二人もランナーを出していながら、得点に結びつくヒットがなかった。やはり野球ボールが相手では決定打に欠ける。
「飛んでけーっ!!」
掛け声と共に放られる速球。もはや女の子が投げているとは欠片も思わせられない威力に満ちたそれは、打者の反応を待たずしてミットに飛び込んだ。

43: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:09 ID:Q1EDbOxo
「へっへーん、ツーストライクだね」
 高飛車な声と挑発染みた言葉が耳に障り、このまま走っていって殴ってやりたくもなる。
「早川あおい……!!」
 歯軋りをし、握り拳に血管が浮かぶゆかりを見て恐怖したのはソフトボール部の皆さんだけでなく、樹も同じだった。外野という離れた位置にいるため詳しい様子は窺えなかったが、それでもゆかり一人が憤怒に駆られているということは雰囲気で分かった。
(頼むから乱闘だけは勘弁ね……)




44: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:11 ID:Q1EDbOxo

「……っ!」
 シャープなスイングが、ボールをとらえる。
 投球フォームの違い、タイミングの違い、さらにはボールサイズの違い、様々な悪条件が重なる中、一番最初に綺麗なヒットを打ったのは二条だった。納得と言えば納得である。
 流石の高松ゆかりには、あおいの“二条くんにメロメロ”作戦は通用していないようだったが、その他のソフトボール部の女性らには効果覿面だったようである。かの美男子が打って走り出したともなると平常心はどこへやら、レフト前へのシングルヒットのはずが、エラーに次ぐエラーによりいつの間にか二条はサードまでやってきていた。ユニフォーム姿の二条に横に立たれている所為か、サードの方は緊張も度が過ぎているようにカチコチになっている。
「ふふーん、よしよし効いてる効いてる」
「……あのー、あおいちゃん?」
 樹は、隣で魔女のような薄ら笑いを浮かべるあおいに、恐る恐る問い掛けた。
「確かに反則でも何でもないけどさ、もうちょっとこう、スポーツマンシップっていうものを踏まえてさ、お互いにベストな状態でやんなきゃ意味が無い! ってぐらいのスポ根精神があってもいいんじゃないかと……」
「西条君」
「?」
「根性だけで甲子園いけるほど世の中甘くないんだよ」
「そりゃそうだけど……ってちょっと論点ずれてるって! 今はまだ公式戦でもないっていうかむしろ今世紀のどうでもいい試合ベスト3ぐらいに入る勢いの野球とは全く関係のない戦いだよ! だい○ひ○るもびっくりだよ! どーすんのコレ!」
「あり? 珍しく西条君が面白いこと言ってる」
「そういうことはどうでもいいの!」
 と、そんな夫婦漫才を繰り広げていると、ベンチに座っている他のメンバーがぞろぞろと立ち上がり始める。何だ何だと冷静になり、周囲を見やると、どうやら二条の次に打席に立った愛好会会員が三振、スリーアウトチェンジのようだった。





45: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:20 ID:Q1EDbOxo
 高校野球の、マウンドからホームベースまでの距離は約十八メートル。大してソフトボールは十五メートル程度。ボールの大きさや投球フォームの違いもさることながら、実はこの距離というものの違いが非常に厄介なのである。
 バッティングはタイミングが要だ。幾ら毎日何千本と素振りをしたところで、投手の投げる球にタイミングが合わなければ所詮は高々とフライになるのが関の山である。変化球による緩急というものは、実のところ、軌道の変化よりもこのタイミングをずらす為という意味合いが強い。
 と、通常ならばそうやって考えた上でタイミングだなんだという駆け引きが生まれるのだが。
「うわっ?!」
 普段練習に使っている球よりも二倍近く大きいソフトボールに対して豪快に三振をかまし、引き上げてくる愛好会会員。面目ないといった表情でごめんと言ってくるが、責めるわけにはいかない。
 いつもあおいや二条にマウンドから球を放られ、バッティング練習をしている会員達は、通常より三メートルも近くから投げられるボールに対してすっかりタイミングを狂わせてしまっていた。かくいう樹や二条、矢部といった野球経験者たちも、やはりこの独特の投法によるボールには一苦労しており、ヒットも今のところ二条の打った左安打と、矢部の打った内野安打のみという状況なのだ。エラーで他にも何人か出塁したが、得点には至っていない。
 経験すら裏目に出る、反射神経だけがモノを言う試合。もはや駆け引きではなく運の世界だった。
 迎える五回の裏、一死走者無し、四番右中間の西条に打席が回ってきた。
「……次は俺か……はぁ」
「西条君ドカンと一発でやんす!」
「打てなかったらおしおきだよ!」
「小細工を狙う場面ではない、塁に出ることを最優先だ」
 各々が声をかけてくれるが、ここまで二打席立ったがいずれも凡打に終わっている。正直言って、タイミングも球威も全く新鮮なこの大きなボールを打ち崩すことなど、樹には不可能に思えた。

46: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:21 ID:Q1EDbOxo
(セーフティバントは……無理だよな、ピッチャーが近過ぎる)
 何とか秘策を思いつけないものかと考えつつ、バッターボックスに入る。見えるのは、女の子とは思えない威圧感を纏った投手、同学年である高松ゆかり。
「それっ!」
 放られる一球目。野球ではありえない回転のボールは、独特のアンダースローから浮くように飛び上がる。ライズボールという、独特な投法ゆえのナチュラルな変化球だ。
 肘一杯をかすめるようにして、判定はストライク。息を吐き改めて前を見やると、投手はサディスティックな笑みを浮かべていた。格下をあざ笑うかのような、不真面目な笑いである。
(笑われても仕方ないか……目で追うのがやっとだ)
 二球目はアウトコース高めにボール。慣れない「上」への変化だが、三打席目に入ってようやく樹にも軌道が読めるようになってきた。ようやく駆け引きに応じられる程度にはなったのである。
(とは言っても、打てるかどうかは)
 三球目は高め一杯にストライク。浮いてボールゾーンに逃げる球かと思い見送ったのだが、裏をかかれたようだった。
(分からないよね……やっぱり、球がうまく見えないや)
 もはや勝負はもらったと、嘲笑の顔色を濃くする投手。
(球が見えにくい……そういうときは、確か、顎が上がってるんだっけ……)
 そこまできて、樹は一つのことを思い出した。
――試合中ってのはみんな緊張してな、顎が上がってしまうんだよ――
 そうだ。もしかしたらタイミング云々ではなく、慣れない相手を前にしてフォームが崩れていたのではないか。思い立ったと同時に樹はタイムを取り、バッターボックスから足を退いた。
――顎が上がると、肩も上がる。そうすると、勝手にアッパースイングになる。それじゃバットはボールに当たらない。当たっても打ち上げるだけだ――
 ボックス横でバットを構える。

47: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:22 ID:Q1EDbOxo
――バッティングってのは常に前傾姿勢でやるんだ。なるべく極端な形を意識してな。ボールを見下ろすようにして――
 小学生の頃、まだ少年野球団に入る前に、野球好きだった父からそう教えられた。
 興味が出て、何とかそれを自分のものにするために、参考になるようなプロ野球選手を探した。だがどの選手もそれほど極端な前傾姿勢などは取っておらず、小学生が見て参考にできるような選手はなかなかいなかった。半ば諦めかけて独学に努めようと思っていたとき、ふと目にしたのは、過去の名選手を扱った番組。その画面に映ったある一人の選手に、一瞬で目を奪われた。
 顎を肩に載せ、両手を高く掲げ、投手を睨みつけるように腰を据えるフォーム。それはまさしく、自分が求めていたものだった。それからはひたすら、新たに自分自身のフォームが確立されるまでは、ずっとその選手のフォームを真似していた。ボールを見下ろすスタイルは投げられるボールを見やすくし、同時にスムーズなダウンスイングを可能にし、樹は少年野球のチームで四番を任されるほどのバッティングをしていたのである。
 そうか。中学校に上がってからは自分なりのフォームで構えていたから、ずっと忘れていた。どんなに緊張していたとしても、否応にも前傾姿勢になってしまうあの構え。日本プロ野球界が誇るスラッガーの一人、生涯通算五六七本塁打を放った、あの門田博光の構えを。
 樹は深呼吸してから、顎を左肩に載せ、両腕を高く掲げた。マウンド上の高松ゆかりを見据え、ガニ股になって腰を落とす。一日に四〇〇本の素振りをしていた、懐かしい感覚が蘇ってくる。
 スイングした瞬間、バットが空気を切り裂いた。
 その振りの恐ろしさを一番強く感じ取ったのは、他ならぬ高松ゆかりだろう。投手ならば誰しも、威圧感と存在感溢れる打者を目の前にした時に、「どこに何を投げても打たれるのではないか」という恐怖を感じることがあるものだ。
「…………」
 ゆかりは、今まさにその恐怖に直面していた。タイムを解いて打席に入りなおす打者の目は、確かな自信に満ちている。そしてそれを具現化するが如く、ずっしりとした構えには迫力すら感じられた。明らかに、何かが違う。

48: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:25 ID:Q1EDbOxo
(緊張が解けたの……? 上ずっていた顎が、もう引かれてる。今までみたいに高めで攻めることは難しいわね……いや、それだけじゃない)
 手の内に少し汗が滲む。しかしゆかりは、今焦っているのは自分であるということには気付けなかった。目の前に立つ大きな存在に終始注目し、それに対峙することで精一杯だったのだ。
(ストライクなら、どこに投げても打たれる気がする……)
 背筋に言い知れぬ冷たさを感じたゆかりは、外野へと振り向いて叫ぶ。
「外野、バック! 下がって!」
 突然の号令にいささか戸惑うも、ゆかりの言葉を受けた外野陣は一斉に数メートル後ろへと下がった。そして三塁手である先輩が、少し近寄って不安そうに問い掛けてくる。彼女もまた、あの打者とゆかりの行動に違和感を覚えたようだった。もっとも、その違和感の正体が何なのか、彼女には理解できていないようだったが。
「高松さん、大丈夫?」
 ここでチームメイトに不安の種を撒くほど、ゆかりも馬鹿ではない。出来る限りの笑顔で応対する。
「何がですか? 大丈夫ですよ。ちょっと、そろそろ相手も球に慣れてきたんじゃないかと思っただけです」
 先輩がポジションにつきなおすのを確認してから、ゆかりは打者に向き直った。こちらに少しのやりとりがあったというのに、打者は一度もフォームを崩さず、じっと待っていたようだった。高い集中力である。
 ここはドロップボールでいくか? いや、ドロップはフォークボールと同じ変化。野球をやっている人間なら慣れているかも知れない。カーブもまた然りだ。ならばいつも通りにライズを放るべきか。いや、ライズこそ狙われて打たれるかも知れない。なら……
(難しいことはいい)
 頭を埋め尽くしかけた幾つもの思考に一言でケリをつけると、ゆかりはゆっくりと投球モーションに入った。
(投げて、後悔しない球ならなんでもいいわ!)
 もはや打者すら目に入れず、ただキャッチャーの構えるミット目掛けて全力で球を投げる。
 その渾身のストレートは、恐らくこの日で一番の球だった。
 指を離れた瞬間、その球に自分ごと乗っかって飛んでいくような感覚すら覚えた。見事キャッチャーミットに納まれば、パシィッと爽快な音をグラウンド中に響かせたことだろう。

49: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:25 ID:Q1EDbOxo
だが、その音がゆかりの耳に届くことはなかった。
代わりに響いたのは、爽快な金属音。そしてあのムカつく早川あおいを交えた、野球愛好会一同の歓声。それに少し遅れて、自分自身の溜め息が聞こえる。
後ろを振り返ると、後退守備を取っていた左翼手の遥か向こう側、グラウンドの周囲を囲む柵の一つを飛び越えて、白球はようやく自らの飛翔に満足したかのように落ちていった。
八月初旬の、空。本格的な夏の到来を告げるようにもくもくと空に浮かぶ入道雲の下、蝉の声がミンミンとうるさい。冷静さを取り戻した感覚が、自分の顎を伝う汗に気付く。それを拭ってから、ゆかりは帽子を取って、真上にある空を見上げた。ちょうどその時、今の打者がホームインしたようだった。吹き抜ける風が頬に触れ、熱のこもった汗を冷やしていく。
「……気持ち良い……」
そしてそのまま大の字になって倒れると、ゆかりの意識はひんやりとした深い谷の底へと落ちていった。





50: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:28 ID:Q1EDbOxo


 薄ら目を開けると、白い天上が目に映った。
「…………あっ! 気付いた?」
「んん……ん? って!? 早川っ……うぁ、頭が……」
 驚きながら上体を起こしてみるも、妙な頭痛で動くこともままならない。
「熱中症一歩手前だったってさ。暫く安静にしとかなきゃダメだよ」
 カーテンが揺れ、心地良い風が顔を撫でて行く。周囲を見やると、どうやら保健室のベッドに寝かされているらしかった。独特な消毒液のニオイが鼻をつく。ユニフォームの上着は脱がされており、着ているものはアンダーウェアとズボンだけだった。
「運んで……くれたの?」
「ボクじゃないけどね、ソフトボール部の皆さんが。皆心配してたから、後で顔出しといてよ。まだ、グラウンドにいるみたいだから」
「ああ、うん、分かった……」
 暫くの間、沈黙がその場を支配する。保健の先生も出払っているようで、第三者の救いの手は期待できそうになかった。何時間ほど気絶していたのか分からないが、真夏の陽は、まだ元気に照っている。聞こえる掛け声は、近くにコートのあるテニス部のものらしかった。
「……今日は、ごめんなさい」
「………………え?」
 思いもよらなかった言葉が聞こえたことに、一瞬何が起こったのかすら分からなくなってしまう。間の抜けた声で疑問符を表すと、神妙そうな顔で早川あおいは頭を下げてきた。

51: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:29 ID:Q1EDbOxo
「ボクが、勝手なこと言い出してみんなを巻き込んで、そのうえ高松さんがこんなことになっちゃって……。あはは、みんな呆れててさ……流石に、やりすぎちゃったよね、反省してます」
「え? ああいや、別にそんなことは……」
 頭を深く下げられ、気が動転してしまう。こんな状況は生まれて初めてだった。
「えっと、あの、いやだな……その、頭上げてよ……えっと、け、喧嘩したのはこっちも同じなんだからさ! 別に、あの、アンタが気に病む必要はないって!」
 こんなことを言うのも初めてだ。昔から気は強い方で、男子生徒ともしょっちゅう言い争っては喧嘩してきたが、それは一過性のもので、気が付けば元のように話すようになっていることが殆どだった。だから、謝られて、それを制止する体験なんて、本当に生まれて初めてなのだ。
「なんていうかほら、アタシも、結構、言い過ぎたところあったし、どっちが巻き込まれたか、なんてことはないんだしさ……そんな、謝らないでよ」
 肩に手を添えて頭を上げるように促す。早川は、唇を噛み締めていた。
「やっぱり、ボクがいけないのかな……」
「……え?」
「野球なんかやらないで、ソフトボール部に入ってれば……良かったのかな……」
 夕方の涼しい風が、カーテンを揺らしている。すうっと通り抜けていく風に煽られたかのように、早川の目からは涙がひとしずく、こぼれ落ちた。
「女の子は大人しく、ソフトボール部に入ってれば、よかったんだよね……そうだよね」
「早川……さん?」
 そういえば、忘れていた。彼女は、早川あおいは、女の子だったのだ。
 小中学校と、いつでも頼れる姉貴分の地位を保ち続けていたゆかりは、女の子同士の喧嘩の仲裁ならいつもこなしていたが、女の子を相手取って争ったことはなかった。いつも男子が相手。筋力も体格も上の人間と喧嘩していた。だから、分かっていても気付けなかった。こんなにも自分と張り合える彼女を、女の子として見つめられなかった。
 続けざまにこぼれる早川の涙に、時間を奪われる。

52: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:30 ID:Q1EDbOxo
「あはは、格好悪いよね……駄目もとで、もがいて、他人に……迷惑までかけて」
「……」
 早川あおいが、甲子園を目指して、共に入学した男子らと野球をやれる場を確保しようとしていたのは、ゆかりも知っていた。女性選手は高野連に登録できず、早川が他の高校から総弾きにされたこともまた、知っていた。
「駄目なのかな」
「…………」
「女の子が野球やっちゃ、駄目なのかな……」
「……アタシさ」
 ゆかりが口を開くと、はっとしたように早川が視線を向けてくる。迷惑がられたと思ったのだろう、慌てて涙を拭き、体裁を取り繕うのが可愛らしく、猫のようだった。その直後、ゆかりは言う。
「アタシも野球、やってたんだ……小学校の頃、軟式」
 瞬間、硬直する早川。子供をなだめるように優しく笑いながらその顔を見ると、え……? と声にもならない疑問を表情で表していた。

53: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:35 ID:Q1EDbOxo
「近所の少年野球団に入っててさ、学校終わるなり河川敷まで直行してた。そうそう、学校にユニフォーム持ってってたの。おやつのバナナを一本、ランドセルに入れて、放課後食べながら着替えてた」
 あっちこっちに視線を動かしながら懐かしい思い出を語るゆかりとは対照的に、早川はただじっとその横顔に見入っていた。
「学年の中でも足は速い方でさ、一番ピッチャー高松ゆかり、背番号1、打率も結構良かった。スタミナもあったわよ。マラソン大会ではいつも五番以内だったしね。体育でも男子よりも活躍するもんだから、ゴリ松とか呼ばれてたわ」
 楽しそうに、これでもかというぐらい己の武勇伝を語るゆかりだったが、そこで彼女の笑顔に、一つの陰りが宿る。
「でもさ、所詮は女の子だったんだよね」
 あおいは感じた。自分と全く同じ境遇に置かれた人間の、悲しい想いを。
「中学でも野球部に入って、一年経ったぐらいでかな、辞めたんだ。……分かるでしょ?」
 溜め息とも微笑みともつかない複雑な表情と共に向けられた、様々な感情の入り組んだ言葉を受けて、あおいはこくりと頷いた。外ではまだ、依然として練習を続けているらしいテニス部の、元気の良い掛け声が響いている。
「もうさ、中二に上がってから男子の成長の早いこと早いこと。身長はまだ勝ってたけど、体力ではもう無理だったな。周りはどんどん足が速くなってさ、アタシも粘ってたけど、時間の問題だって思ったわ」
 淡々の紡がれる言葉。その裏に込められた感情の全てを、あおいは自分に重ねて、受け止めていた。
「高校受験も近くなると、本当に、部活も何もしてない奴でも筋肉がついて、背も高くなって、羨ましかった。ああ、女のアタシじゃもう無理なんだって分かった。……だから、高校ではソフトボール部に入ろうと思って、女子ソフトの設備が充実してる恋々に入学した」
 そこで言葉を区切り、突然、ゆかりは耐え切れなくなったようにぷっと吹き出す。
「アハハハ、そしてソフトのユニフォーム着て、初めて入るグラウンドに一礼しようとしたら、野球しようとしてるお下げ髪の女の子がいたんだから、もうびっくりしたどころじゃなかったわ」
「あ、えっと……え、えへへ」
 数拍の間を置いてそれが自分の事だと気付いたあおいは、気恥ずかしく思って笑った。

54: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:36 ID:Q1EDbOxo
「本当のこと言うとさ」
「……?」
「羨ましいんだ、早川さん、あなたが」
「え……?」
 不意にチャイムが鳴る。放送の内容は、下校時刻十分前を知らせるものだった。改めて時計をみやると、既に六時半を過ぎようとしている。流石の真夏の太陽も、だいぶその勢いは落ちていた。
「中学でも野球、ずっとやってたんでしょ。その勇気とやる気。そして今、女の子であることを気にもせず支えてくれる仲間がいること。……本当に、いい環境じゃない。羨ましいよ。だから、そのまま野球、頑張って」
 言葉の最後に向けられた笑みは、今までのような微笑でなく、活発なゆかりらしい元気な笑顔だった。向けられた者を勇気付け励ます、心根の強い人間だけができる力強い笑み。
「グラウンドのことだけどさ」
 ゆかりが言う。
「曜日で分けて、メインで全般的に使う日と、端に寄って守備練習や体力づくりをする日で、交替で使わない? その方が、効率もいいと思うし」
「えっ……? いいの?」
 遠慮がちに言うあおい。こんな目に合わせておいて、おまけに励ましてもらった。もうその時点で、あおいは胸中でグラウンドの話など譲ろうかと考えていたというのに。
「当たり前じゃない。っていうか、そもそもこっちが権利なんて主張したのが間違いだったのよ。使うなら平等が一番だわ」
「!!」
「いや、それならあの、ボクたちが権利なんて言い出したのも」
「もう、謝り合いはなし!」
「あ、うん……」
 小さくなるあおいを見て、ゆかりはおかしくなって笑った。
「ハハ、ちょっと、いつもの気概はどうしたの。もう済んだことはいいんだから、元気出してよ!」
「あはは、うん、いろいろ……いろいろ、ありがとう」
 返事をするあおいの目からは涙はすっかり消え、笑い方もいつもの調子に戻っている。

55: 名無しさん@パワプラー:07/09/02 11:38 ID:Q1EDbOxo
 良かったと、ゆかりは胸中で安堵した。昔から泣いている同級生がいれば慰めていたが、いつも、それっぽい言葉で安心させてやるのが精一杯だった。涙一つ拭ってあげるのにここまで自分の過去を話し、相手の気持ちを考えたのは初めてだった。早川あおい、彼女と出会ってからというもの、初めてのことだらけだ。本当に不思議な女の子だなと、ゆかりは苦笑した。
「さて、そろそろ大丈夫そうだから、アタシは行こうかな……って、あれ?!」
 ぐっと身体に力を込めて立ち上がるも、やはり熱中症とやらは伊達ではなかったらしく、少しふらつく。床に向かって前のめりに倒れこみそうになったとき、あおいが、肩で受け止めてくれた。
「あっごめん! 重いでしょ、よっと」
 立ちくらみに打ち勝ち、床に足を降ろす。保健室独特の白い床の冷たい質感が、裸足に心地良かった。
「だ、大丈夫? 高松さん」
 心配そうに覗き込んでくるあおいに、再びの元気な笑顔を見せる。
「平気平気! あと、アタシのことは、ゆかり、でいいわよ」
「え、いやそんな」
「アタシも、あおいって呼ぶから。おあいこ」
 しばらく黙りあってから、どちらともなく、笑い出していた。数時間前は目くじらを立てて怒鳴りあい、無茶な試合にまで発展したというのに、今はどうだ。ぶつかり合って、お互いの弱さと強さを見せ合った二人は、いつの間にか無垢に笑い合える友人同士となっている。傍から見ては不思議な光景だろうが、何より当事者二人が一番不思議に思っているのだ。
「アハハ、なんか、自分で言うのもなんだけど、ちょっと感動しちゃったな」
「ハハハ、そうだね。ボクも、ちょっと感動しちゃった」
「ウウッ、オイラも感動したでやんす」
 その瞬間、凍りついたように時が止まった。

56: あい:07/09/03 17:12 ID:WYCmD4vU
「恋のおまじない!!!」
「恋のおまじない!!」
「恋のおまじないっ!」
さっそくですがおまじないです
恋を語らず何を語る?という世の中ですが、
このコピペを必ず5つのレスに書き込んでください。
あなたの好きな人に10日以内に告白されます。
嘘だと思うなら無視してください。
ちなみにあなたの運勢が良かったら5日以内に告白&告白したらOKされます
効き目ぁるらしいですよ
なかったらごめんなさい
でも試してみてくださいね♪


57: 名無しさん@パワプラー:07/09/09 14:08 ID:MlHPptEg
//mixi.jp/show_friend.pl?id=2477681

58: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:26 ID:0ae9l0js
つまらなかったらスルーしてください。
途中どんどん展開がおかしくなっていくかもしれませんが。
            夜空を見上げたら
 今や早川あおいの引退したキャットハンズの顔となっている青髪のその少女は、夜空に浮かぶ三日月を見上げながら憂鬱そうに何かを思い出す。
〜橘みずき 高校1年 四月下旬〜
みずき「う〜ん、うまくいかないな〜」
 川原で投げ込みをしながらみずきは不満そうに呟く。
自分の最大の武器である『スクリュー・ボール』
左手の変則サイドスローから放り込まれる天下一品のキレを持つ、いわゆる決め球である。
 しかし、大学の練習場を借りた今日、バッターボックスに立つ大学生にことごとく打ち返された。
みずき「このままじゃあ・・・って、何考えてるのよ。野球部にいるわけじゃないんだし、それにどうせ高校生になんか打ち返せっこないんだし」
 独り言で自分を励ましながら投げ込みを続ける。しかし、やはり何か足りない気がするのか時折首をひねりながら投げ続ける。そんな時だった。
???「変化量が足りねえんじゃねえの?」
ある一人の通りすがりの男がぼそっと呟いていた。
みずき「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。どういうことよ。」
みずきはとっさにその男を呼びとめた。外はもう真っ暗で人通りの少ない川原に声が響き、その男は足を止めて振り向いた。
よくみると高校生ぐらいの身長だった。その男はしかしまた振り向き歩き出そうとし、
???「気にすんな、独り言だよ」
 、と言い放つ。 普段のみずきなら、「あっそ。」と言ってそのまま終わりだったのだろう。しかし、現にヒントも掴めずがむしゃらに投げていたみずきの気にとまったのだろう。
みずき「だ、だから〜。どういうことって聞いてるのよ。」
 その大声に対して男は振り向きこっちに寄ってくる。自分より5cmは高いだろうその男は少し怒鳴る口調で言い放った。
???「初対面の通りすがりに対してずいぶんと失礼な奴だな。」
 ・・・そう言われてみずきは黙ってしまった。学校でも高飛車な振る舞いをしていたみずきにとってはこれほど人にものをはっきり言われるのは初めてだった。
 その様子を見た男は少し罪悪感を感じながら、しかし面倒くさそうにしゃべり始めた。
???「ん〜、キレは確かに絶品だよ。でもさ、そんだけ変化が小さければちょっとバットを軌道修正すれば楽に芯に当たるんだよ。実際ちょっとパワーのあるバッターなら楽にヒットにでいると思うぜ。」
 やはり自分の言うこといは逆らえないと覚えたみずきは再び高飛車にふるまいだした。
みずき「な、なによ。たかだか2〜3球見たあんたなんかに何がわかるのよ。」
 そういうとその男は振り返ってバッターボックスに立ち持っていたバッグから金属バットを取り出し構える。


59: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:27 ID:0ae9l0js
つまらなかったらスルーしてください。
途中どんどん展開がおかしくなっていくかもしれませんが。
            夜空を見上げたら
 今や早川あおいの引退したキャットハンズの顔となっている青髪のその少女は、夜空に浮かぶ三日月を見上げながら憂鬱そうに何かを思い出す。
〜橘みずき 高校1年 四月下旬〜
みずき「う〜ん、うまくいかないな〜」
 川原で投げ込みをしながらみずきは不満そうに呟く。
自分の最大の武器である『スクリュー・ボール』
左手の変則サイドスローから放り込まれる天下一品のキレを持つ、いわゆる決め球である。
 しかし、大学の練習場を借りた今日、バッターボックスに立つ大学生にことごとく打ち返された。
みずき「このままじゃあ・・・って、何考えてるのよ。野球部にいるわけじゃないんだし、それにどうせ高校生になんか打ち返せっこないんだし」
 独り言で自分を励ましながら投げ込みを続ける。しかし、やはり何か足りない気がするのか時折首をひねりながら投げ続ける。そんな時だった。
???「変化量が足りねえんじゃねえの?」
ある一人の通りすがりの男がぼそっと呟いていた。
みずき「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。どういうことよ。」
みずきはとっさにその男を呼びとめた。外はもう真っ暗で人通りの少ない川原に声が響き、その男は足を止めて振り向いた。
よくみると高校生ぐらいの身長だった。その男はしかしまた振り向き歩き出そうとし、
???「気にすんな、独り言だよ」
 、と言い放つ。 普段のみずきなら、「あっそ。」と言ってそのまま終わりだったのだろう。しかし、現にヒントも掴めずがむしゃらに投げていたみずきの気にとまったのだろう。
みずき「だ、だから〜。どういうことって聞いてるのよ。」
 その大声に対して男は振り向きこっちに寄ってくる。自分より5cmは高いだろうその男は少し怒鳴る口調で言い放った。
???「初対面の通りすがりに対してずいぶんと失礼な奴だな。」
 ・・・そう言われてみずきは黙ってしまった。学校でも高飛車な振る舞いをしていたみずきにとってはこれほど人にものをはっきり言われるのは初めてだった。
 その様子を見た男は少し罪悪感を感じながら、しかし面倒くさそうにしゃべり始めた。
???「ん〜、キレは確かに絶品だよ。でもさ、そんだけ変化が小さければちょっとバットを軌道修正すれば楽に芯に当たるんだよ。実際ちょっとパワーのあるバッターなら楽にヒットにでいると思うぜ。」
 やはり自分の言うこといは逆らえないと覚えたみずきは再び高飛車にふるまいだした。
みずき「な、なによ。たかだか2〜3球見たあんたなんかに何がわかるのよ。」
 そういうとその男は振り返ってバッターボックスに立ち持っていたバッグから金属バットを取り出し構える。


60: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:33 ID:0ae9l0js
↑二回書いてしまいました。すみません。続きです。
???「わかったよ。そこまで言うなら証拠を見せてやるよ。ストレートとスクリューが持ち球だろ。見た感じほかの球種はなさそうだしな。両方織り交ぜて投げてみろよ。」
 そう言ってバットで靴を2回たたき、砂をたたき落とし、バットを片手で1回、両手で一回振りホームベースで留めバットを担ぎ、バットの先端を投手に向けるという独特のフォームで構えた。
みずき「わかったわよ。 どうせ打てるわけないし、ね。」
そういって1球目を投げた。ど真ん中にストレートを放った。
完全に打ち返されるはずのコースだが、みずきは挑発の意味も込めて投げた。
しかし男のバットはぴくりとも動かなかった。
ボールは後ろのネットにあたり、みずきのほうへ転がっていく。
それをグラブで取って得意げに言い放つ。
みずき「へっへーん。やっぱり打てないじゃ・・」
???「次、2球目」
みずき「ふ、ふん。どうせうてないで・・っしょ。」
また同じコースに放っていった。どうせ強がりだろうと思ったのだろう。
しかし男のバットは完ぺきに打球をとらえる。そしてみずきの右横をライナー性のボールが通過していった。
みずき「ま、まぐれよまぐれ。それに今のはちょっと油断・・・」
???「じゃ、次の球放ってみろよ。」
そういうとどこから出してきたかボールを投げてよこす。
みずき「今度はこうはいかないわ・・よ。」
そう言ってど真ん中に先ほどよりやや遅い球が飛んでいく。
しかし今度は男の手前で急に変化する。 スクリューだ。
完ぺきに決まったと思った次の瞬間、
『カキィィン』という金属バットの音が川原に響く。
完全にホームラン性の当たりだった。
???「お、珍しく飛んだな〜。 お前、球も軽いんじゃねえの?」
そう言われてみずきはカチンときた。
みずき「うっさいわよ。このキザ男」
そういってポケットに入れておいたボールを男の顔面向けて思いっきり放る。
男の顔面に直撃すると思われたが、
???「やつあたりすんな。」
そういって男は後ろに飛ぶ。よけただけだと思ったが、しかしバットを出してきた。
『キィン』
そして打ち返されたボールはしたたかにみずきの顔面をとらえ、みずきはその場に倒れた。


61: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:34 ID:0ae9l0js
みずき「はっ、」
目を覚ますと見慣れない天井があった。
???「お、大丈夫か〜?」
その声を聞き、みずきは思い出した。
川原で会ったムカつく男のことを。そして自分が打たれたことを。
???「いや〜、すまんな。ちょっとキレちまって。うっかり当てちまったよ。」
するとあの打球はわざと狙ったのだろうか。
???「ご、ごめん。何でも言うこときくから許してくれ。」
するとみずきの口から言葉が出てきた。
みずき「あんたがここまで運んできてくれたの?」
???「ん、ああ、一応悪いことしたわけだし・・お前の家もわかんなかったからしかたないし近くのおれの家にな。」
みずき「ちょ、ちょっと〜。お前っていうのやめなさいよ。私にはみずきっていうかわいい名前がちゃんとあるんだから。」
・・・自分でも何を言っているのかわからなかったのだろう。ぽかんとした表情を浮かべる。 それは目の前の男も同じらしくしばらく沈黙していた。
そしてようやく男が口を開く。
???「ふぅ、悪かったな。みずき。」
いきなりの呼び捨て。普段ならば「呼び捨てにするな。」と怒るであろうが、しかしそうはしなかった。 そしてみずきも口を開く。
みずき「と、とりあいず運んでくれて、その・・・ありがと。」
???「あ、ああ。」
みずき「あ。」
突然みずきが起き上がろうとする。そう、もう夜中なのだ。夜中に高校生の男と女が二人きり。そういったことに無縁だったみずきもさすがに危ないと思ったのだろう。
 しかし男はみずきが行動に移そうとする前に言葉を発する。
???「起きないほうがいいぞ。結構強く打っているし起きると痛いだろ。」
そこまでは普通だったしかし、
???「それにお前を別に襲うわけでもないし
悪いけどもう終電もないから、もしなんなら泊って行ってもいいぞ。」
自分の考えを見抜かれたみずきとしてはこれほど驚いたことはなかっただろう。
しかしまあ、普通かと思い直す。
みずき「う、うん。あ、でもおじいちゃんに帰れないって連絡しないと、って川原にバッグおいてきちゃった。どうしよ。あの中なのに・・携帯。」
???「そうだ。これお前のバッグだろ。」
みずき「あ、うん。」
そしてバッグから携帯を取り出し電話をかける。


62: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:35 ID:0ae9l0js
だんだん私的な面に・・・
みずき「うん。OKよ。」
そういって携帯をバッグの中に入れる。
みずき「あ、そういえばあんたの名前聞いてなかったわね。」
みずきは突如尋ねてきた。
???「ああ、そういえばいっていなかったな。」
一呼吸おいて名乗りだす。
隆哉「俺、隆哉っていうんだ。」
みずき「ふーん。ま、いっか。そういえばご飯まだなのよね〜♪」
そういってこちらをちらちら見てくる。
隆哉「はぁ、作れってか?」
みずき「さっき何でも言うこときくって言ったでしょ。そしたら許したげる♪」
隆哉「う〜む、そう言われると困るんだよな。」
そういって台所へ向かう。
隆哉「なんか食べたいものある?」
みずき「う〜ん、そうねー、・・なんでもいいから食べられるものにして。」
隆哉「なんだよそれ。ひょとして料理できないとか思ってる?
あまり見くびるなよ。一人暮らししているんだから。」
そういっていろいろ作り出す。
20分後
隆哉「ほい、できた♪」
ご飯に味噌汁にサバの味噌煮に野菜サラダ。
いたって平凡な家庭料理だった。
みずき「ふぅん、やっぱこんなもんか。ま、いいや。 いっただっきま〜す♪」
味は・・・結構おいしかった。ただ、サバの味噌煮を除いて・・
隆哉「? あ、ごめん。サバ味噌嫌いだった?」
そう。サバ味噌はみずきの唯一苦手なものだった。しかし今日会ったばかりの他人に馬鹿にされるのは悔しかった。
みずき「そんなことないわよ。ちゃんと食べるわよ。」
少しためらいながらも口に運ぶ・・・・・・
みずき「・・あれ?お、おいしい。」
そう。そうしても食べられなかったサバ味噌が食べられたのだ。
隆哉「ほっ。よかった〜。これおれの得意料理だから。」
みずきは全部残らず食べた。
みずき「ごちそうさま〜♪」


63: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:36 ID:0ae9l0js
満足げにしているみずきに対して隆哉が口を開く。
隆哉「あ、そうだ。さっきお前が寝ていたベッド使っていいぜ。おれ床で寝るから。」
みずき「うん。ありがと。 あ、あとシャワー浴びさせて。」
隆哉は少し顔を赤らめて返事をする。
隆哉「あ、うん。いいよ。 あ、バスタオルそこだから。
それと、着替えどうする?」
みずき「一応服の代え持っているから大丈夫よ。 あ、制服と野球の練習着だけ洗濯してもらっていい?」
隆哉「あ、ああ。」
そして洗濯を始めようと服を取り出す。 その制服を見て隆哉は少し驚く。
隆哉「え、おまえ聖タチバナ通ってんの?」
みずき「うん。そうよ。」
聖タチバナと言えばこのあたりでは名が知れ渡っている、いわゆる有名進学校だ。
隆哉「相当あったまいいじゃん。」
みずき「まあね〜♪」
隆哉「あれ、でもあそこの野球部って・・・」
そういって何やらノートを取り出しぶつぶつ呟いてから
隆哉「やっぱり・・・人数足りなくて試合ができない廃部寸前の野球部じゃん。」
そのあと隆哉は小声で『もったいない』とつぶやいたがみずきの耳に届くことはなかった。
隆哉「ん、練習していたってことはお前野球部だよな。」
みずき「さっきからお前お前って・・・だから私はみずきって名前があるんだってば。」
隆哉「ああ、名前呼びだと落ち着かなくってさ。 それより話をそらすな。」
みずき「な、なによ話って。」
隆哉「おまえ、本当は野球部じゃねえんだろ?」
みずき「う、・・・うん。 なんでわかったのよ。」
隆哉「・・・・・」
みずき「な、なんで黙るのよ。教えなさいよ。」
隆哉はしばらく口を開こうとしなかったがしばらくして重い口をついに開く。
隆哉「・・・読心術」
みずき「へ、今何て?」
隆哉「信じられないかもしれないけど、人の心が何となくわかるんだ。
こう、近くにいるとそいつの感情が伝わってくる。 怒りや焦り、悲しみなんかがさ。」
つづけて話す。
隆哉「たとえば、さっきおまえに野球部だよなって聞いただろう。
その時突然お前のほうから動揺と焦りを感じたんだ。
そこまで感じれば後は大体答えは出てきてくれる。それでわかったんだ。」
みずき「へぇ〜。」
普通なら疑うだろうが核心をとらえたため疑いようがなかった。
みずき「あ、ちょっと上がるからさ。その・・・」
隆哉「あ、ごめん。」
そう言って扉のそばから離れる。
みずき「ふぅ、さっぱりした。」


64: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:39 ID:0ae9l0js
隆哉「あ、そろそろ電気消すぞ。電気代節約しないと厳しいから。」
みずき「うん。おやすみ・・」
そして部屋の電気が消える。暗闇の中、隆哉の声が響いた。
隆哉「それで、さっきの話の続きだけど・・・」
そして隆哉は語りだした。
隆哉「ま、大体想像はつくけどな。 『橘 みずき』」
みずき「ど、どうして私の苗字を?」
隆哉「いったろ心が読めるって・・続けるぞ。
苗字が橘ってことはどうやら偶然じゃないみたいだしな。
学校名との一致・・・」
みずき「たしかに、聖タチバナ学園は私のおじいちゃんが学長やっている学校よ。」
隆哉「ま、そりゃあそこに入るのが普通だよな。でも、おまえは本当は・・」
みずき「そう。おじいちゃんに強制的に入らされたの。
それで無理やり塾にも行かされて、まだ1年生なのに生徒会長までやらされて・・・」
隆哉「そんで、リトルからやっていて高校でやりたくてたまらなかった野球はできなかったってわけか。」
みずき「そう。でも、同じ生徒会の大京のお父さんの知り合いの紹介で大学の練習施設を使わせてもらって何とか練習だけはできた。」
なぜここまで赤の他人にしゃべってしまうのかわからなかった。
しかし、なぜだろう。いつの間にかこの男を信頼していたのである。
一方隆哉はしばらく考えて口を開いた。
隆哉「大方野球部に入るチャンスをうかがっているんだろ。
じゃあ、ちょっと協力してやるよ。」
みずき「え、本当?」
隆哉「ただし、おまえの協力は絶対に必要だし少し不本意な思いもするかもしれないが、
我慢しろよ。」
みずき「う〜ん」
選択肢はほかになかったしこれを逃したら本当にこんなチャンスは訪れないかもしれなかった。迷う理由はなかったが、もし嘘だったらという考えがよぎる。
いくら信頼しているとはいえ所詮赤の他人。少し返事に困った。
隆哉「あ〜、おれもう眠いし寝るよ。
俺朝遅いし俺起きたらもうお前いないだろ。だから、今日会った川原で明日待っている。もし協力してほしければ夜7時から9時の間に来てくれ。それじゃおやすみ。」


65: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:40 ID:0ae9l0js
みずき「え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ。」
隆哉「zzz」
もう寝ていた。たたき起こすわけにもいかないのでそのままみずきも寝ることにした。
そうして、ちょっと不思議な1日が終わりを告げた。
翌日、午前6時にみずきが起きた。隆哉はまだ寝ていた。しかし電車もあったので隆哉はそのままにしておいて学校に行くことにした。
いつ起きたのか。制服と練習着は乾いた状態でバッグのそばに置いてあった。
そして着替えて学校に向かう。
???「あ、みずきちゃん。おはよう。」
みずき「お、小波じゃん。おっはよ〜♪」
駅から自転車をこぐみずきの前に現われたのは小波だった。
数少ない(と言っても本当に3人しかいないが)野球部の1年である。
野球特待生という話だが・・・
???「ぎゃあああああああああああ・・・でやんす。」
『ドンガラガッシャーン』
小波「や、矢部君大丈夫?」
後ろから自転車で電信柱にド派手に突っ込んだのは同じく野球特待生の矢部である。
小波とは幼馴染らしいがどうにもこの男を見ている限り野球特待生といっても大したことがない気がする。
矢部「あ、おはようでやんす。
ブレーキがきかなくて大変な目にあったでやんす。
それにしてもこんなところで2人で登校とは・・・なかなか隅に置けないで・・」
『ドガッ、バキッ、メキッ』
みずき「行くわよ。小波」
小波「あ、うん(矢部君大丈夫かな?)」
小波はみずきに蹴る、殴るの暴行を受け道端で伸びている親友の心配をしながら学校へと歩いて行く。
しばらく歩いて行くと(実際みずきは自転車だが自転車をひいて歩いている)
比較的新しいきれいな校舎が目に入る。ここが聖タチバナ学園だ。
小波「ふぅ、やっと着いたよ。結構遠いんだよなーここ。」
???「あら、小波さん。おはようございますですわ。」
目の前に現れたのはクラス委員長でお嬢様の 三条院 麗奈である。
基本的にはまじめで誠実でおとなしい女の子だ。 この女の前以外では。
麗奈「む、橘 みずき。今日こそ決着ですわ。勝負ですわよ。」
みずき「お、麗奈。相変わらずしつこいな〜。勝ったことないんだからいい加減あきらめたら?」
麗奈「余計なお世話ですわ。さあ、勝負ですわ。」
みずき「う〜ん・・・面倒くさいからパ〜ス♪小波、あとよろしく。」
そういうとみずきは自転車をこいでいなくなってしまった。
麗奈「むき〜。逃げるとは卑怯ですわ。待ちなさ〜い。」
そういうと麗奈ちゃんもいなくなった。
小波「やれやれ、懲りないな〜二人とも。」
『キーン、コーン、カーン、コーン』
小波「おっと、やばい遅刻しちゃう。」


66: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:40 ID:0ae9l0js
〜放課後〜
小波「さ〜て、今日も終わったし部活に行くかな。」
矢部「あ、待つでやんす。おいらもいくでやんす。」
そして、グラウンドへ。さすがにお嬢様学校だけあって設備はそろっている。
しかし、肝心な部員は・・・
???「よーし。点呼始めるぞー。」
この人は野球部顧問で数学担当の大仙 清先生だ。
大仙「それじゃあ左から番号」
小波「1」
矢部「2」
???「3!」
大仙「それじゃあ練習を始めるぞ。」
矢部「相変わらずさみしい点呼でやんす。」
???「仕方がないではないですか。少数派野球部なのですから。」
このすさまじく独特な、とてつもなくドでかい頭の人は2年生キャプテンの太鼓 望先輩だ。野球部はこの3人だけしかいない。
小波「しかし先生、3人だけというのは無理がありますよ。」
大仙「何を言う。人数が少ないからこそいいんじゃないか。たくさん練習できるだろ。」
小波「そ、そうですけど・・」
矢部「しかし、これじゃあ試合もできないでやんす。」
小波「やっぱり野球は9人いないとだめですよ。部員集めましょうよ。」
大仙「これでいいんだ。この少数部隊がいいんじゃないか。」
矢部「でもこのままじゃ廃部になっちゃうでやんすよ。」
大仙「え?」
小波「もしそうなったら監督不行き届きで先生にも責任が・・」
大仙「な?」
太鼓「それでも少数部隊を貫き通しますよ。そうでしょう、先生。」
大仙「いやー、やっぱり野球は9人いないとな〜。」
太鼓「え?」
矢部「やったでやんす。」
小波「でも、どうやって集めましょう。」
太鼓「生徒会に頼み込んではどうでしょうか。」
小波「あ、そういえばみずきちゃんが、
『困ったことがあったら何でも生徒会に行ってね〜♪』
って言っていたような。」
矢部「そうでやんす。さっそく頼み込むでやんす。」
小波「よ〜し。」
太鼓「ま、待ってください。生徒会に頼み込むにはご要望会議でないと・・・」
小波「ご要望会議?」
太鼓「そうです。生徒会が定期的に開くわけですがそこでなければ要望は聞いてもらえません。」
小波「そっか〜。」
『ピーンポーンパーンポーン♪』
みずき「只今からご要望会議を行います。要望のある学生は・・・」
矢部「なんと、ジャストタイミングでやんす。」
小波「よ〜し、さっそく頼み込むぞ。」


67: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:41 ID:0ae9l0js
〜生徒会室〜
小波「ふー、ここが生徒会室か。」
生徒会役員A「あ、ただいまサッカー部が交渉中ですので少しお待ちください。」
小波「あ、はーい。(歯医者かよ)」
生徒会役員A「よろしければご要望会議について説明いたしましょうか?」
小波「うーん、要するに会長に要望を言って頼み込めばいいんでしょ?」
生徒会役員A「はい。しかし、会長はあまのじゃくですから・・・」
小波「必死に頼み込まないとだめってことか。」
『ガチャッ』
みずき「残念でした〜。また来てね〜♪」
サッカー部員A「ちくしょー。もう頼まねーからな。」
生徒会役員A「あ、却下されたようですね。」
小波「わあ、」
生徒会役員A「それではがんばってください。」
小波「よーし、気合い入れていくか。」

みずき「いらっしゃーい。」
小波「おねがいします。」
みずき「で、要望はなに?」
小波「とりあいず部員がほしくて。」
???「人事のことなら僕だな。ふーん、部員ね〜・・・
僕は反対だな。部員と言ったって調達するのは難しいんだよ」
こいつは生徒会の人事担当の宇津だ。金髪でいつもバラを持っているキザな奴だ。
宇津「みずきさんはどう思いますか?」
みずき「あー、許可でいいんじゃない。」
一同「ちょ、みずきさん?」
会計担当で関西弁の原と、外部関係および副会長の大京も同時に声を発した。
みずき「面倒くさいし行くとこあるからさっさと終わらせたいのよね。」
小波「やったー。(ちょっと不本意だけど・・)」
みずき「じゃあ、後日連絡するからよろしく。
あ、もうこんな時間、早くいかないと・・・」
宇津「あの、みずきさん。後ろの人の要望は・・」
みずき「ああ、全部許可しておいて〜。」
小波「(おいおい、そんなことでいいのか)」
みずき「じゃあ、わたし帰るから。」
そういって帰ってしまった。


68: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:42 ID:0ae9l0js
数十分後
みずき「ふう、時間ちょうどかな。」
そういって川原のグラウンドを見渡してみる。すると、昨日みずきが投げていた場所で隆哉は投げ込みをしていた。
隆哉「あらよっと。」
『ビュッ ギュウウウウン ガシィィ』
それはみずきが肉眼でとらえられないほどのスピードだった。150km/hは出ていたであろう。それに驚いているみずきに隆哉は声をかけた。
隆哉「お、来たか。ってことは・・」
しかしみずきは
みずき「一つ聞かせて・・・」
という。
隆哉「なんだ。」
みずき「どうして赤の他人の私に協力なんてするの?」
その言葉を聞き、隆哉は頭をかきながら答える
隆哉「うーん、本当に悪いことしたからさ。罪滅ぼしとでもいておこうかな。」
その言葉に嘘があったのはそのときのみずきにはわからなかった。
みずき「わかった。じゃあ協力して♪」
隆哉「わかったよ。じゃあ、おまえのアドレス教えてくんねえか?」
みずき「え、なんで?」
隆哉「ここにきて毎日ってわけにもいかないだろ。」
みずき「それもそうね。」
そういってアドレス交換を済ませる。
隆哉「じゃあ、もうそろそろ終電の時間だろ。」
みずき「うん。じゃあまったね〜。」
このときのみずきにはわからなかった。再会が予想外に早かったことを。


69: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:43 ID:0ae9l0js
〜5日後〜
担任「えー、突然だが編入生を紹介する。」
生徒「おーーーー!!」
クラス全体が騒ぎ出す。(注)この教室には小波・矢部・みずきの3人がいる。
矢部「きっとかわいい女の子でやんすよ。むはーーー」
小波「そ、それはどうだか・・・ みずきちゃん何か知っているんじゃないの?」
みずき「ん、何も聞いていないわよ。」
担任「えー、では静かに。 じゃあ、入ってきて。」
???「はい。」
次の瞬間男子生徒は一気にガッカリそうな顔をする。
男だったからだ。女子生徒は騒いでいた。みずきを除いて・・・
みずき「え、な、」
まるで煮え湯を飲まされたかのような表情をしていた。
隆哉「編入生の横山 隆哉です。南ナニワ川高校から来ました。よろしくお願いします。」
小波「ん、みずきちゃんどうかしたの?」
その声はみずきに聞こえていなかった。


70: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:47 ID:0ae9l0js
その日の放課後
『コン、コン』
小波「はーい。」
部室の戸を叩いたのは宇津だった。
宇津「部員を連れてきたぞ。」
小波&矢部「おー・・・」
???「ちょ、何でハンドボール部のはずのおれが」
???「お、おいおい、いくら足が速いからって俺は陸上部だぞ。」
隆哉「・・・・・・・・・・・・」
矢部「な、なんかすごいメンツでやんす。」
宇津「仕方がないだろ。こうでもしないと難しいんだから。じゃあ、僕は失敬するよ。」
小波「はぁ〜、とりあいず自己紹介してよ。」
金村「俺、、金村。ハンドボール部・・・だった。」
松田「俺は松田。陸上部だったけど無理やり。」
隆哉「なんか苗字嫌いだから隆哉でよろしく。(まさか編入して早々これとは・・・・」
小波「じゃあ、ちょっと外で軽く練習しようか。」
案の定素人だった。キャッチングセンスもバッティングセンスもほとんどなかった。
ただひとりを除いては。
小波「じゃあ、次隆哉。」
隆哉「うっし、こい。」
『カーン』
小波「あ、ごめん。」
いきなりミスして隆哉のはるか右にボールを打ってしまった。しかし・・・
『ダッダッダ ズザザー パシィ シュッ』
たとえプロが守備をやっても捕れないであろうボールをキャッチして見せたのだ・・・
矢部「す、すごいでやんす。まあ、でもおいらにはかなわないでやんす。」
隆哉「お、それじゃあ試してみる?」
矢部「望むところでやんす。」
小波「おーい、ふたりとも〜?」
隆哉「じゃあ、おれが投げるからお前が打って。3打席でヒット1本打てたらお前の勝ちな。」
矢部「楽勝でやんす。」
隆哉「じゃあ、だれかキャッチャーやって。」
小波「じゃあおれがやるよ。」
隆哉「じゃあいくぜー。」
1球目はワインドアップモーションからのオーバースローだ。
ボールはど真ん中、130km/hくらいだろうか。
矢部「もらったでやんす。」
しかしボールはまるで矢部のバットを滑るように逃げて行った。
矢部のバットが空を切る。 スライダーだ。 
隆哉「ワンストライク。じゃあ次いくぞ。」
二球目はアウトハイに大きく外れる130km/hくらいのボールだ。
矢部は当然のように見逃した。しかし、
『ククン、 スバーン』
ボールはアウトローぎりぎりいっぱいに入った。 今度はシンカーだ。
矢部「つ、次こそ打ってやるでやんす。」
隆哉「次だ。」
すると先ほどとは打って変わって今度はセットポジションからの投球だ。
隆哉「う、お、おおおおぉぉぉ」
サイドスローから放たれたそのボールは小波が瞬きをする間もなくミットに収まった。
スピードガンを見る
小波「ひゃ、159km/h?」
ほとんど160km/hだ。
隆哉「(こ、こいつ?三塁手のはずだぞ。)」
隆哉は159km/hの剛速球をとった小波を見つめている。小波の目にはで入らなかったが・・・・
矢部は口をパクパクさせている。このあともう2打席勝負したがすべて三振だった。
小波「隆哉くん、だったっけ?ポジションは?」
隆哉「経験浅いけど、遊撃手と捕手、あとは抑え専門の投手かな。」
ムカつくくらいの万能性だった。
小波「ほかのみんなは・・・まあ、素人みたいだしこれからポジション決めればいいか。今日はキャプテンいないから解散でいいや。」


71: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:48 ID:0ae9l0js
数分後・・・
隆哉「あーあ、疲れた。まあ、野球部に潜り込むまでは予定外だったけど結構順調だったかな〜。」
???「ちょっと、待ちなさいよ。」
後ろから声をかけてきたのはみずきだった。
隆哉「ん、みずきか。何か用?」
みずき「何か用?っじゃないわよ。 どういうことよ、突然編入学なんて」
隆哉「それはいずれわかるさ。それよりみずき、野球部の小波っているだろ。
そいつをちょっと・・・」
みずき「な、ふざけないでよ。そんなことできるわけ・・・」
隆哉「じゃあ矢部にするか?別にそれでもいいんだけどな。」
みずき「う、わかったわよ。」
隆哉「うーん、といっても・・・ちょっと下準備がいるな。
悪いけどさ。2年になるまで待ってくれないか?」
みずき「それは別にいいけど・・・」
隆哉「さて、次はお前だな。」
みずき「へ?」
隆哉「ちょっとさ、あの川原のグラウンドでやることあるからさ。おまえの変化球の改良。あれじゃ使い物になんねえよ。」
みずき「つ、使い物にならない?」
隆哉「俺だってあまりパワーはないほうなんだぜ。つまり、そのおれにホームラン性の当たりを打たれるってことはよっぽどってことだ。どんなにキレが良くても
球が軽いうえにあの変化量じゃどうしようもないだろ。」
この言葉に多少みずきはカチンときたが、しかし実際否定できなく、黙るしかなかった。
隆哉「・・・・・一つ勘違いするなよ。」
みずき「へ?」
隆哉「俺はおまえが野球部に入るのに協力するわけじゃねえぞ。
野球部に入らせて甲子園で優勝させてやるのが目的だからな。」
みずき「うん。」
隆哉「じゃあ、いくか。」


72: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:48 ID:0ae9l0js
川原 グラウンド
隆哉「さてと、とにかくキレはいいんだ。
あとは変化量を増やすか、速さを増して直球と見させるかのどっちかだけど、
お前の球速自体大したことはないからな。変化量で幻惑させるのが妥当だろ。
とはいっても・・・ただのスクリューじゃあな〜。
これしか球種がないんだし・・・ うーん、・・いや、こうでもない。」
しばらくぶつぶつ言っていたが、
隆哉「いっそ、オリジナル変化球作るってのはどうだ。」
みずき「オリジナル変化球?」
隆哉「そう。昔のヨネボール・ヨシボール・カミソリシュート、みたいな感じで。」
みずき「でも、そんなの簡単にできるわけが。」
隆哉「ほんの少し握りを変えたり、ちょっとリリースポイントを変えるだけで結構うまくいくもんなんだよな。例えば、俺が開発したシンカーのオリジナル見せてやるよ。
『クラウド・ムーン』って言うんだけどな。まあ、ただのかっこ付けだよ。」
そう言ってモーションに入る。オーバースローから投じられたそのボールはスローカーブ気味に落ちて行った。しかしみずきの手前で突然シンカー方向に、急激に変化したのだ。
この衝撃な球を放った隆哉はしかし、肩を押さえてしゃがみこんでいる。
みずき「ちょっと、どうしたのよ。」
隆哉「チッ、肩に負担をかけすぎたか。」
みずき「どういうこと?」
隆哉「ちょっと変化球の投げすぎで肩を壊してるんだ。
せいぜい1日にできる全力投球は20球程度になっているんだ。
さっき部活で投げたのが10球だったけど変化球中心で投げていたからちょっときつかったな。まあ、俺自身は投げれないけどお前にアドバイスはできるから。おれの言う通りやってみろよ。まず・・・・」

そういってリリースポイント・フォーム・握り・手首のスナップなど的確にアドバイスしていく。
隆哉「んで、自分の理想とするフォームはできたか?」
みずき「うん、ばっちり。じゃあ行くわよ。新変化球、『クレッセントムーン』」
隆哉めがけて今開発したばかりの変化球を三日月の見守る中投げる。
体を大きくひねった前よりも独特なフォームから投げた。
クロスファイヤーから投げたそれは実際の変化の2倍にも見えるとてつもない変化だった。
隆哉「!!! くっ」
『ばしぃ』
隆哉も何とかとるのが精いっぱいだった。
隆哉「ず、ずいぶんとまたすごいものを投げてきたな。」
みずき「ふっふーん♪これでもまだ思い通りにいっていないのよ。」
隆哉「むぐぅぅ」
隆哉は唸っていたが、なぜか重い口調で話し始めた。
隆哉「あいにくだがこれを捕れるキャッチャーは高校生レベルだといないと思うぞ。
確かに俺は捕っているが結構きついしそもそもキャッチャーよりショート守ったほうが
断然守備範囲が広い。(自分で言うのもなんだが)
だから野球部でキャッチャーやる時は正捕手が怪我したときくらいのつもりでいたからな。 つまり、おまえはこれからこれを捕れるキャッチャーを来年、遅くとも3年になるまでに見つけないと、厳しい。」
みずき「うーん、助っ人なしで甲子園に行けるようにするために部員集めはするつもりだったけど、トップレベルの捕手が最低一人いるってことね。」
隆哉「そういうこと、っとそろそろ時間だぞ。」
みずき「うん。じゃあまた明日ね〜。」
そういってご機嫌そうに去って行った。


73: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:50 ID:0ae9l0js
1年夏 甲子園県予選
大仙「よーし、何とかメンバーもそろったし出られるぞ。
(何とか小波がみずきに頼み込んでメンバーをそろえた)では、メンバーを発表する。」
1番 センター 矢部       矢部「やんす」
2番 ライト  金村       金村「はい。」
3番 ショート 横山       隆哉「・・・あ、俺か。ふぁーい。」
4番 サード 小波        小波「(お、俺が4番)はい。」
5番 セカンド 松田       松田「うっす。」
6番 ファースト 太田      太田「やるでごわす」(相撲部兼部)
7番 レフト 小松        小松「はーい」(帰宅部だが中学時代2年間経験あり)
8番 キャッチャー 相川     相川「おっす!」(ラグビー部兼部)
9番 ピッチャー 太鼓     太鼓「任せてください。」
小波「に、してもすごい顔ぶれだな。」
隆哉「まあ、全国探しても多分俺らくらいだな。」
大仙「じゃあ、みんながんばるぞ。」
一同「オー!」
・・・・・・・・・・・隆哉「くじ運悪!!」
相手は去年甲子園出場校。常連にもなっている恐怖高校
太鼓「も、申し訳ない。」
隆哉「ま、どっかでどうせあたるんだしいいんじゃね。」
小波「と、とにかくみんな頑張ろう。」
一同「・・・(シーン)」
先攻を取ってプレーボール・・・・・・・・・・・・・・
7回コールド 恐怖高校 12-4 ・・・
小波「完敗だったな。」
矢部「ショックでやんす。」
隆哉「・・(まさか、7回まで粘れるとはな。結構いい戦力あるな。)」
上位打線の打撃で1回、3回、5回と点を入れ3点、そして6回に6番太田のソロで4点を奪ったが、恐怖高校の打線に全く歯が立たず大量失点。
控え投手の不足が目立ち太鼓は4回1/3を12失点と大炎上。
のこりの1回2/3をなんとか隆哉が抑えるも時すでに遅し・・・
隆哉「まあ、次頑張ろうぜ。」
生徒会室
みずき「なによ。全然だめじゃない。」
大京「みずきさん、大学のほうへ行きますよ。」
みずき「うん。」


74: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:50 ID:0ae9l0js
この生徒会3人衆だが、意外と野球がうまいわけで・・・・
『カーン』、『カーン』、『カキィーン』
原「ふぃー。だいぶええ球飛んだなー。」大学生の球をことごとくヒットにする原に、
『グワガキィィーーーーン』
140km/h後半の速球を軽々スタンドに運ぶ大京、
『ビシュッ ズバーン』
MAX150km/hの伸びのある球を投げる宇津、そして、
『ビュッ ククン スパーン』
みずき「へっへーん♪」
クレッセントムーンをほぼ完成形に近付けたみずき。
大学コーチ「よーし、今日はここまで。」
4人「ありがとうございましたー。」
大学コーチ「それにしてもおしいね。高校生ならトップレベルなのに。」
みずき「はは、」
大学コーチ「おっと、余計な御世話だったかな。」
みずき「いえ、お世話になりました。」
・・・・帰り道
原「お、」
大京「バッティングセンターですね。このような所にあったとは、」
原「ちょっと打っていかへんか?」
宇津「おいおい、終電は大丈夫なのか?」
原「平気や平気。大京、おまえは?」
大京「私は失礼いたします。」
宇津「僕も失礼するよ。僕はバッティングは無縁なんでね。」
原「なんやー、つれへんな。みずきさんはどないします?」
みずき「うーん、わたしはちょっと寄って行こうかな。」
大京「で、ではわたしも」
宇津「みずきさんがいるのならよろこんで。」
原「ほな、いこか。」
『がらーーん・・・』
原「なんや、めっちゃすいてるな。」
大京「まあ、こんな時間ですから。」
みずき「んじゃ、わたしは120km/hくらいにしておこうかな〜。」
大京「私も普通のマシーンで」
宇津「僕は見学させてもらうよ。」
原「じゃあワイは一番速いとこで・・・・」
『カーーン、カーン、キィィン、カキィィン』
原「ええ音させとるやつおるな。」
???「うーん、おっちゃん、ちょっと頼みたいことあるんだけど・・・」
店員「またかい?まあ、べつに人が少ないからいいけどさ。」
???「どうも〜。」
そういうと店員は後ろのネットを下げる。何をするのかと思いきや、
キャッチャーミットをもって入っているではないか。
『バシィ、バシィ、ズドーン』
原「ここが一番速いはずやけど・・・」
『155km/h スライダー・フォーク・シンカー・シュートミックス』
原「・・・・・・・・・・・・・・・・」
原「ど、どこに来るかも、何が来るかもわからへんのに・・」
『ズドーン、バシィ』
みずき「原、終わったの?」
原「まだですけど、それより」
そういって指差すが、すでに終わっていた。
???「どうもありがとうございました。」
店員「ああ、それにしても相変わらずすごいな。」
???「お世辞でもうれしいですね。」
店員「いやいや、ん・・あ、すみません。」
???「あ、待っていました?すみませ・・・・ん?」
みずき「って、なんであんたがここにいるのよ。」
隆哉「べつにいいだろ。練習兼ねてやってるんだよ。家が近いんだし・・」
大京「どうかしましたか?」
宇津「何かあったのかい?」
原「い、いや、わいにもさっぱり何が何やら・・・」
宇津「ん、君は確か無理やり野球部に入れた編入生の」
隆哉「あ、生徒会の・・・」
みずき「話をそらすな。」
大京「それよりみずきさん、そろそろ電車が・・・」
みずき「え、ああ。まずいわね。 とにかく、明日ちゃんと話はきかせてもらうわよ。」
そういって生徒会の4人衆は去っていく。
店員「知りあいかい?」
隆哉「ええ、同じ学校の人です。」
店員「じゃあ、あの子は彼女かい?ずいぶんかわいい子だけど・・・」
隆哉「!!!ま、まさか、そ、そ、そんなはずが・・・」
店員「おや、図星かい?」
隆哉「ふぅ、ただの片思いですよ。 俺の・・・」
店員「まあ、がんばりなさい。」
隆哉「・・・・それじゃあ、」
まあ、この気持ちはみずきは知るよしもないわけだが・・・


75: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:50 ID:0ae9l0js
1年秋の県大会
隆哉「お、今回結構いいとこまでいけそうだな。」
組み合わせを見る限りかなり安パイだった。
そして
小波「やったー。地区大会の切符を手に入れたぞ。」
太鼓「こ、ここまでできるとは、感激です。」
秋の地区大会
隆哉「初戦は、・・・灰凶高校?たしかあの東西に分かれている乱れ切った学校か。」
矢部「それなら余裕でやんす。これなら春の甲子園も夢じゃないでやんす。」
隆哉「いや、確かあそこには・・・」
大仙「初戦の相手のビデオが手に入ったぞ。」
太鼓「さっそく見てみましょう。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
小波「な、何だこいつら・・・」
矢部「全然余裕じゃないでやんす。」
隆哉「灰凶高校・・・センターの御宝、キャッチャーの怒拳、そしてピッチャーの
哀樹兄弟のうち末っ子と長男を主軸とした、重量級打線と本格派投手を併せ持ったチーム、
実際甲子園出場はいつも学校が問題を起こして取り消しになるが・・・
レベルは甲子園大会でもベスト16はいくくらいだ。」
太鼓「みなさん、とにかくここまで来たのですから精一杯頑張りましょう。」
小波「そ、そうだ。とにかく頑張ろう。」
一同「オーーー!!」
メンバーは夏の甲子園大会と同じ、
・・・・・・・ゲームセット、4−2 灰凶高校の勝利。
矢部「おしかったでやんす。」
小波「くそー、あと2点だったのに・・・」
隆哉「(確かに負けたが、相手の得点は全部ソロ・・・
こっちの得点は打線のつながりで取ったからゲーム内容では完全に俺らのほうが上だ。
あともうひとつ、決定的な力が・・・ みずき・・あと少しだ・・」


76: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:51 ID:0ae9l0js
そのころ、
みずき「ふう、だいぶ人数もそろったし、来年の野球部は安泰ね〜。
あ、ここは・・ そう、確かここで隆哉にあったんだよね。
お、野球やってるじゃん。中学生かなー。2死満塁のピンチじゃん。」
『ビシュッ』
???「あ、しまった。暴投だ。」
みずき「あちゃー、最悪。ワイルドピッチで1点ね。」
『キュピーン、 バシィ。』
みずき「え、あの暴投に反応?しかも捕球した。・・・見つけた。」
・・・・・
???「助かったよ聖。おかげで最後の試合を勝利で飾れたよ。」
聖「む、私は当然のことをしたまでだ。」
???「そうか。しかし残念だな。高校でも一緒にやりたかったけど」
聖「仕方がない。このあたりは女子の野球部入部は基本的に認められていない高校ばかりだしな。」
???「そうか。残念だな。」
・・・・・
聖「む?」
みずき「話は聞いたわよ。あなた、野球部のある高校に行かないの?」
聖「聞いていたならわかるはずだ。野球は今日で最後だ。」
みずき「ねえ、聖タチバナで一緒に野球部に入らない?あなたの力が必要なのよ。」
聖「私の、力が?」


77: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:51 ID:0ae9l0js
2年 春
小波「早いなー。おれたちももう2年か。」
矢部「そうでやんすねー。下級生に上級生との上下関係というものをはっきり叩き込むでやんす。」
隆哉「生徒会長が下級生だった去年はどうなる?」
矢部「あいかわらずいやな性格でやんす。モテないでやんすよ。」
隆哉「大きなお世話だよ。」
大仙「静かにー。では新入部員を紹介するぞ。」
???「斉藤です。ポジションはピッチャーです。」
???「武藤です。ポジションは・・・」
小波「けっこうはいったな。」
矢部「これで助っ人部員がいなくても何とか試合ができそうでやんすね。」
小波「でも、いやでもあの子に目が行っちゃうよな。」
矢部「行っちゃうでやんす。」
???「・・・」
大仙「最後はすごいぞ。何と女野球選手の六道 聖君だ。
バッティングセンス・キャッチングセンスともに抜群だという。
一言挨拶してくれ。」
聖「・・・」
矢部「無口な女の子でやんす。」
小波「にしても女の子で野球って珍しいな。」
太鼓「なんでも、生徒会の特別推薦枠だそうですよ。」
小波「また生徒会か・・・」
矢部「でもおいらのほうが絶対強いでやんす。」
聖「そこのおまえ、そこまで言うなら勝負してみるか?」
矢部「望むところでやんす。」
・・・・・・・・・・
矢部「勝負はバッティングマシーンでやんす。ヒットを多く打ったほうの勝ちでやんす。」
聖「なんでもいいぞ。」
矢部「おいらからいくでやんす。」
『カーン、カーン』
小波「連続ヒット?」
矢部「ふふ、お次はカーブ打ちでやんす。」
『カーン』
小波「今度はセンター前?珍しく絶好調だね。矢部君。」
矢部「ざっとこんなものでやんす。次は聖の番でやんす。」
『カーン、キィン、キィン』
矢部「振り遅れているでやんすか?そんなことではカーブは打てないでやんす。」
『キィン』
矢部「当たっているでやんす。でも同じ方向にしか飛んでいないでやんす。」
隆哉「・・・これは・・六道の勝ちだな。」
矢部「なんででやんすか?」
隆哉「打球が全部ファーストベースに当たっている。」
矢部「なんと、でやんす。」
聖「そんなに珍しいことか?」
小波「狙っていたの?」
隆哉「ずいぶんと集中力のある奴だな。」
矢部「おいらの面目が立たないでやんす。」
小波「ずいぶんとすごい女の子だな。ん、どうかしたの?」
聖「!!!(こいつは、いや、他人の空似か。)いや、なんでもない。」
隆哉「(こいつがみずきの見つけたキャッチャーと見て間違いなさそうだな。
だが、確かに集中力があるがあの集中力ではまだ足りない。きついかな?)」


78: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:53 ID:0ae9l0js
練習終了後
聖「ふう、あ、みずき。」
みずき「聖?ごめんね。まだ結構時間がかかって・・」
聖「いや、いい。それより早くみずきと一緒に野球をやりたいぞ。」
みずき「うん。もうちょっとまってね。」
4月下旬
隆哉「ふぅ、練習終り。」
聖「おい、まだ30球だぞ。」
隆哉「んー、でも疲れるんだよね〜。あとは俺バッティングやってるから。」
小波「おい、そんな適当なことでいいのかよ。大会までもう日にちがないんだぞ。
太鼓さんだってこれが最後なんだぞ。」
太鼓「こ、小波君。私は別に・・・」
小波「それでも、しっかり練習しろよ。気分悪いよ。」
矢部「そうでやんす。自分が一番だって言っているみたいで気分悪いでやんす。」
隆哉「・・・・・俺、今日帰る。」
そういうと隆哉は走って部室に戻っていく。
小波「あ、おい、ちょっと待て。」
矢部「もう放っておくでやんす。あんなやつ。」
小波「そういうわけにもいかないよ。大事な仲間なんだから。」
そういって隆哉を追いかけていく。
小波は部室のドアを開けた。隆哉は・・いた。部室の隅にいた。
小波「なあ、隆哉君、さっきは言いすぎたかもしれない。でもやっぱり・・・」
そういいかけたところで小波の口は止まった。隆哉の様子がおかしい。
肩を抱えたまま震えている。
小波「た、たか・・」
隆哉「ぐ、うああぁぁ、か、肩が・・あがら、あがらねえ、
ちくしょう。どうなっていやが・・」
そういいながら無理やり肩を上げようとするが上がらない。
小波「た、大変だ。おい、無理に動かすな。誰か・・はやく先生を・・・」
そういって先生が駆けつけ、直ちに隆哉は病院へ車で送られていった。


79: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:54 ID:0ae9l0js
大仙「じゃあ、やることあるから、あとは一人で大丈夫だな。」
隆哉「は、はい。ありがとうござ・・ぅ、」
大仙「後でちゃんと報告しろよ。」
隆哉「は、はい。・・」
そういうと大仙先生は帰って行った。
隆哉「無責任な・・・ふぅ」
アナウンス「横山 隆哉様、第2治療室へお入りください。」
隆哉「あ、俺か。」
『ガチャッ』
???「ハーイ、ダイジョーブ博士デース。」
隆哉「(う、うさんくさ〜。)」
ダイジョーブ「オウ、アナタ大怪我シテマース。
野球選手ノヨウデスガコノママデハ一生野球出来マセーン。」
隆哉「(予感はあったが、やはりか・・・)」
ダイジョーブ「シカ―シ、ワタシハ天才デース。
アナタノ怪我ナオシテミセマース。」
隆哉「ほ、本当ですか。(嘘っぽいけどな)」
ダイジョーブ「シカ―シ、成功率ハワズカ10%デース。
モシ失敗スレバアナタノソノ右腕ゴト一生使エナクナリマース。
ソレデモヨロシイデスカ?」
隆哉「(く、こんな忌まわしい右腕・・もうどうでもいい。)
お、おねがいします。」
ダイジョーブ「ソレデハハジメマース。」
隆哉「そ、それでどんな治療を・・」
ダイジョーブ「マズ、アナタノ右腕ヲモギトッテ
ソノ後肩ノ修正ヲシマース。」
隆哉「え、ま、まさか冗談・・」
ダイジョーブ「冗談デハアリマセーン。」
隆哉「う、うわあ、に、逃げ・・・・・」
ダイジョーブ「ニガシマセーン、ゲドー君」
ゲドー「ギョー(ガシ)」
隆哉「く、いつの間に・・」
ダイジョーブ「モウニガシマセンヨ。(キラーン)」
隆哉「う、うわあああああぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
・・・・
ダイジョーブ「オウ、気絶シテマース。」
・・・・・・
看護婦「・・・ま・・さん、横山さん?」
隆哉「はー、はー、ゆ、夢?」
看護婦「第2治療室へお入りください。」
・・・・・・・
先生「??全く異常が見られないが・・どこがわるいのだね?」
隆哉「???????そんなばかな・・さっきまで肩が・・」
そういって肩をもちあげる。しかし、軽々持ち上がった。
先生「まったく。いたずらはやめてくれたまえ。暇じゃないんだから・・」
隆哉「??????????????????????????!」


80: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:55 ID:0ae9l0js
狐につままれたような顔をして帰ってきた隆哉を部員が迎え入れる。
以前から肩を壊していたことを大仙先生から告げられ、
大けがに追いやってしまったことを後悔している。少し顔も暗かった。
小波「だ、大丈夫だった?」
聖「や、野球は続けられるのか?」
隆哉「・・・・・・・六道、ちょっとボールとってくれないか?」
そういうと聖は隆哉にボールを渡す。
隆哉はゆっくり投球モーションに入る。その腕から投げられたボールは・・・・
すさまじい、そう、肩が完全に壊れるよりずっと球威もスピードもある球が飛んでいく。
小波「ぜ、全然平気じゃ・・・」
隆哉「あーーーー、もう、
何がどうなってやがるんだーーーーーーーーーーーーー!!!」
・・・・・・
大京「みずきさん、よかったですね。」
みずき「ふん、べつにどうでもよかったけどね。」
原「(素直じゃありまへんな。)」
宇津「(一番心配していたのにね。)」


81: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:55 ID:0ae9l0js
5月上旬
そのとき、ついにみずきが動いた。
みずき「今日はおじいちゃんが偵察に来る日、よし。」
学長「運動部か、どれどれ・・」
サッカー部員「いくぜ、ドライブシュートだ。」
学長「うむ、がんばっておるな。
次は野球部か」
大仙「いくぞーノック」
『スカッ』
学長「まあ、がんばっておればいいか。」
みずき「おじいちゃん。」
学長「おお、みずきか、どうした。」
みずき「実は私、野球部に入ろうと思うの。」
学長「な、なんじゃと。わしは認めんぞ。いいか、おまえは・・・」
みずき「(ちぇっ、わかってはいたけど正面からは無理か。
じゃあ、隆哉の考えたあの方法で)」
学長「おまえは塾に通って勉強をし、立派なタチバナの跡継ぎになるために・・」
みずき「すてきなお婿さんを探せっていうんでしょ。」
学長「わかっておるではないか。だったら」
みずき「だーかーらー、そこなのよ。」
学長「?」
小波「あ、みずきちゃんに学長、こんちゃー。」
みずき「(ふふ、きたきた)紹介するねおじいちゃん。私のフィアンセの小波君。」
小波「はは、フィアンセの小波で・・ってえぇ(むぐ)」
みずき「(いいから話あわせて。)」
小波「(で、でも。)」
みずき「(断ると後ろから隆哉の剛速球が頭を直撃するわよ。)」
小波が後ろをチラ見すると、なるほど。ボールを持った隆哉がこっちをにらみつけている。
どうやらグルだったようだ。
小波「(う、うん。)」
学長「そんなやつがタチバナの器とは到底思えん。」
みずき「小波君は将来プロ野球選手になれる素晴らしい人よ。
きっと私を支えてくれるわ。」
小波「(は、話が大ごとになっていく〜。)」
学長「ほほう、そこまでいうならいいじゃろう。」
みずき「お、おじいちゃん?」
学長「ただし、その言葉が嘘だった時は、わかっておるじゃろうな。
わしの決めた男と結婚するのじゃぞ。」
みずき「!!!!!」
学長「ふぉ、ふぉ、ふぉ、楽しみじゃ。」
小波「ちょっと、みずきちゃん?謝るなら今のうちだよ。」
みずき「無理よ。こうなったらおじいちゃんには二言目は通じない。
こうなったら意地でも小波君をプロ入りさせるわよ。
よろしくね。ダーリン?」
大京&原&宇津「おー。」
小波「うわ、生徒会の・・・いつの間に?」
矢部「面白いことになってきたでやんす。」


82: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:56 ID:0ae9l0js
小波「なあ、みずきちゃん。」
みずき「ん、」
小波「ん、じゃないだろ。これからどうするんだよ。」
みずき「んー、とりあいず私と小波君が甲子園いって、2人そろってプロ入りして
なんかそれっぽくって感じかな?」
小波「甲子園っていったってそう簡単には・・」
みずき「あーもう。うるさいわね。大京・原・宇津、力を見せてあげなさい。」
大京&原&宇津「はい、みずきさん。」
そして・・・・
矢部「す、すごいでやんす。」
みずき「へっへーん。これでも大学で練習していたからね。」
小波「これなら甲子園も本当に夢じゃないかも。」
みずき「あ、それからちょっと演技の練習するわよ。」
小波「演技?」
みずき「一応おじいちゃんの前では恋人同士って設定なんだから。ちょっと練習。
愛してるわよ。ダーリーン?」
小波「えっ」
みずき「ほら、はやくやる。」
小波「あ、愛してるよ。みずきちゃ〜ん。」
みずき「はい。OK」
小波「OKなんだ。」
みずき「さーて、あとはマネージャーね。」
隆哉「まあ、この展開にすればそろそろ噂を嗅ぎつけてくるんじゃないかな。
・・あのお嬢様が・・・・・」
麗奈「おーーっほっほっほ。」
一同「(うわ、本当に来たよ!!!期待を裏切らない人・・・)」
麗奈「聞いたわよ。みずき。小波さんがあなたの恋人だそうじゃない。
こんなどうしようもない人を選ぶなんてしょせん・・・」
みずき「あーら、麗奈は知らないんだ。小波君はかっこよくてとってもいい人よ。」
宇津「うむ。」
原「せやな。」
大京「右に同意。」
麗奈「な、なんですって。」
隆哉「(あと一押しだな。)」
みずき「あ、でも麗奈が野球部にきたら小波君取られちゃうかも。」
麗奈「(チーャンス。ここで小波さんを取ればみずきに勝ったことに)
わかりましたわ。わたくし野球部のマネージャーになりますわ。」
みずき「うまくいった。しめしめ。」
隆哉「ナーイス。」
目を合わせている二人を見て小波は
小波「うわー。策士だよ。この人たち。」


83: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:58 ID:0ae9l0js
〜数日後〜
小波「そういえばみずきちゃん生徒会はどうしたの?」
みずき「やめたよ。生徒会にいたら野球なんてできないし。」
小波「やめたって、ご要望会議とかはどうするの?」
みずき「確かに・・・」
そして・・・
生徒A「さーて。今日もゲームを進めるかな。これって帰宅部の特権だよな〜。」
みずき「あー、そこのきみ。」
生徒A「あ、みずきさん。なんですか。」
みずき「君、帰宅部だったよね。よし。今日から生徒会は君に任せた。」
生徒A「そ、そんな。こまりますよ。おれのプライベートな時間が・・・」
みずき「ほほーう。この私に文句があるっていうの?」
生徒A「ひ、ひぃ〜。やらせていただきます。」
みずき「よろしい。」
生徒A「あ〜〜。おれのバラ色の放課後ライフが〜。」
アナウンス「ピーン、ポーン、パーン、ポーン♪」
生徒A「今日から生徒会を務めさせていただきます。座子田と申します。
只今からご要望会議を開始いたします。」
みずき「真面目そうな人でよかったよ。」
小波「う、うん。(いいのかな〜?)」


84: 名無しさん@パワプラー:07/09/16 22:59 ID:0ae9l0js
6月下旬
みずき「そろそろ大会か〜。あ、隆哉はあそこで練習しているかな?」
そういって川原に向かう。
みずき「うーん、どこだろ。
・・・・・・・・あ、いたいた♪」
『ビュッ、ククッ ビュッ、ククッ』
みずき「ピッチング練習かな。!!!」
みずきが驚いたのはネットの近くに転がっている球の数だった。
100球、いや200球は転がっている。
みずき「そ、そんな。練習で100球は投げていたのに。」
投手であるみずきにはすぐにわかった。ここまで投げれば、肩・肘を再び壊すであろうことを。すぐに駆け寄っていく。
みずき「ちょ、なにしてるのよ。せっかく治った肩がまた・・・」
隆哉「こんな肩、壊れたほうがいい。」
みずき「!!!!な、なにいってるのよ。すぐに止め・・・」
隆哉「うるせえ。」
みずき「!!!」
その言葉にむかっと来たみずきは持ち合わせていた精神注入棒で隆哉の後頭部を殴る。
隆哉はその場に倒れた。
みずきは倒れた隆哉を隆哉の家まで送って行った。
みずき「さ、さすがに重いわね。ううー。」
隆哉はその場で目を覚ました。
隆哉「・・う、うーん・・・み、みずき?」
みずき「あ、起きた?」
隆哉「ああ。い、とにかくおろしてくれ。」
隆哉「ふぅ〜。さっきはすまんな。」
みずき「なにか、あったの?」
隆哉「おまえにはまだ話していなかったっけ?
ちょっと家まで来いよ。話してやるよ。」
そう言って家まで歩いて行く。
隆哉「少し長くなるかもしれないな。
そう。あれは5年前だったな。」


85: 名無しさん@パワプラー:07/09/17 10:23 ID:mgeY4w5M
隆哉 小学6年
???「ナイピッチ!」
そういって当時小学6年の隆哉に向かってきたのはキャッチャーの草野だった。
隆哉「ああ、サンキュー。」
草野「にしても、本当にいい変化球だな。」
隆哉「はは、これだけが取り柄だけどな。」
そんな平凡な生活の中で、ある事件が起きた。
草野にバットが直撃したのだ。草野はすぐに起きたが、バッターに入っていた控えキャッチャーの伊東はあきらかに笑っていた。
隆哉「き、きっさま〜〜〜。わざとやりやがったな。」
伊東「は?何キレてんだよ。」
草野「隆哉、もういいよ。どうせ平気だったんだから。」
その日はたまたま監督は見ていなかった。
隆哉はマウンド上で、完全にキレていた。
隆哉「う、おおおおおおおぉぉぉぉ。」
そういって次の球を放っていく。ボールは、すさまじい速度だが、キャッチャーのはるか頭上だ。
伊東「へへ、ただの失投・・・」
すると、ボールは信じられない変化でシンカー方向へ、急激に曲がる。
伊東「う、うわあああぁぁぁ」
『ボカッ』
右打者の伊東の顔面を直撃した。伊東は顔面を抑えてその場に転がる。
球速は120km/hは出ていたであろう。リトルでこの速さはありえない。
もちろん直撃した伊東はただでは済まなかった。
頭蓋骨損傷、左眼球損傷による左目の失明、鼻の骨折
練習の中なので隆哉が責任を問われることはなかったが責任を持ってリトルを去った。
隆哉「・・・その後、どうなったかは知らない。」
みずき「そんなことがあったんだ。」
隆哉「中学に入ってからも何度かキレて投げたことがある。当てはしなかったけどな。
でも、その結果、何人ものやつがボールを怖がって野球をやめていった。
そして俺はそのボールを封印するために自ら肩を壊した。
まあ、確かに投げれなくはなったけどな。正直代償はでかかった。
だから俺は、捕手、遊撃手とコンバートしてできるようにした。
でも、この前のよくわかんねえ事件で肩が治った。
また、キレて投げて、人の選手生命を奪うのが怖い。」
そのとき、みずきは初めて恐怖におびえる隆哉の少しもろい面を見た。
みずき「でもさ、わたしが打たれなければいいんでしょ。
宇津だっているし、隆哉に簡単に出番は回さないわよ。そうすれば、肩を壊さないですむでしょ。・・・・だからさ、そんな、肩を自分で壊すなんて・・・やめてよ。」
隆哉「(みずき・・・)ああ、わかった。そのかわり、間違っても俺に出番回すなよ。」
みずき「誰に言ってると思ってるのよ。」
隆哉「約束だぞ。」


86: 名無しさん@パワプラー:07/09/17 10:25 ID:mgeY4w5M
夏の甲子園大会予選
大仙「じゃあメンバー発表するぞ。
1番 セカンド   原          原「よっしゃぁ。」
2番 キャッチャー 六道         六道「うむ。」
3番 ショート   横山         隆哉「まかせとけ。」
4番 ライト    大京         大京「はい。」
5番 サード    小波         小波「(お、俺がスタメン)はい。」
6番 センター   矢部         矢部「やんす。」
7番 ファースト  田辺(新入部員)   田辺「が、がんばります。」
8番 レフト    小松(結局正式入部) 小松「はい。」
9番 ピッチャー  橘          みずき「まっかせといてよ。」
これでいくぞ。」
矢部「妥当なメンツでやんす。」
小波「なあ、なんで隆哉君がピッチャーやらないんだ?肩治ったんだろ?」
隆哉「う、うーーーむ・・・」
みずき「なによ。わたしじゃ不満?」
小波「い、いや、そんなことは。」
みずき「だったらいいでしょ。」
球場
矢部「一回戦の相手は・・・極亜久高校・・げっ、でやんす。」
小波「あのワルばかりの高校かよ・・・」
隆哉「ま、別にいいだろ。ルール無視すりゃ失格なんだし。怖がることねえだろ。」
???「よう。久しぶりじゃねえの。 隆哉・・・」
隆哉「な?い、伊東?」
伊東「そんなに驚くことかよ。同じ地区だったんだから。
それより。5年前の借りは返させてもらうぜ。」
小波「だ、誰?知り合い?」
隆哉「な、なんでもない。」
伊東「じゃあな。」


87: 名無しさん@パワプラー:07/09/17 10:26 ID:mgeY4w5M
試合開始
審判「プレーボール。」
まずは1番の原がセンター前、六道がライト前とあっという間の
ノーアウト1,3塁の大チャンス。
バッターは3番の隆哉・・
小波「たのむぞー。」
矢部「絶対打つでやんす。」
ウグイス嬢「極亜久高校、選手の交代をお知らせします。」
小波「も、もう?」
ウグイス嬢「ピッチャー、小林君に代わりまして、ピッチャー、伊東君。背番号1」
隆哉「な、何のつもりだ?伊東」
審判「プレイ」
キャッチャー「おい、伊東から伝言あずかってるぜ。
『今のはハンデだ』ってな。」
隆哉「・・・・」
隆哉の耳には入っていなかった。ピッチャーのモーションに集中し、キャッチャーの心を読んでいる隆哉の耳には。
隆哉「初球は、投手の判断か、ここは一球見るか?あいつの投球は見たことないから
まずは球筋を見極める。」
初球、その球は、150km/hは出ていた。しかし、ボールは隆哉の顔面に向かっていく。
隆哉「はぁ、借りを返すってこのことか。失投みたいに見せてはいるけど、
よけられるだろ。」
そういってやすやすよける。
その後3球目のスライダーを打ち左中間を破る2点タイムリーツーベースに。
4番大京は空振りの三振。
5番小波の打順に。
『ズドーン』
審判「ストラーイク」
小波「は、はやいけど、隆哉の球に比べれば・・・」
2球目『ビュッ』
『カキィィィーーーン』
そう。隆哉が打撃投手をしているチームにとっては剛速球はあまり意味がない。
打球はバックスクリーンへ。
その後は凡退。
しかし、初回4点を奪った。
その後みずきが順調に抑えていったが、5回、事件は起きた。


88: 名無しさん@パワプラー:07/09/17 10:26 ID:mgeY4w5M
ウグイス嬢「2番、セカンド、井上君」
伊東「(ちくしょう。こうなったら・・・)」
3塁ランナーの伊東・・
3球目、ホームスチールを行った。
聖「な、でも、普通にタッチできる。」
ボールを持って追いかける。
しかし、伊東はそれを強引に交わす。
聖「く、」
みずき「聖、こっち。」
ホームにカバーに入っていたみずきに送球する。
そのとき、隆哉は感じ取っていた。伊東の、その憎悪の心を。
隆哉「(な、やばい)みずき、避けろ。点を入れてもいい。」
しかし、遅かった。伊東はみずきに体当たりを仕掛けた。
伊東「こいつつぶせばあとはどうにでもなるって知ってんだよ。
てめえは肩を壊して後の控えは大体打てるんだから。」
みずきは容赦なく吹っ飛ばされる。
聖「な、みずき。」
みずきは気を失ったまま動かない。どうやら頭を打ったようだ。
みずきはベンチに下がる。
大仙「横山、おまえがピッチャーやってろ。」
隆哉「・・・」
そして隆哉はブルペンに上がる。
隆哉「あの野郎・・・・・そっちがその気なら。
・・・全員ぶっ潰す。」
キレた。
聖「な、隆哉せんぱ・・」
隆哉「六道。お前の要求したコースに絶対入れる。球種は俺に任せろ。
間違ってもそらすなよ。」
聖「あ、ああ。」
それが、悪魔の目覚めだとは知らなかった。
2死満塁。ランナー3人はすべてフォアボール。しかし、全員が何かを恐れていた。
隆哉「うるああああああああああああああぁぁぁぁ。」
ボールは、顔面へ向かっていく。
相手「ひ、ひぃぃぃぃ。」
しかし直前で曲がっていく。
伊東「ば、ばかな。あいつは肩を壊して・・・」
全員デッドボール寸前の球を投げられ続けた。
そして・・・
隆哉の打席。
隆哉「ぶっ潰す・・・」
伊東「ふ、ふざけやがって。」
隆哉の打球は、明らかに伊東を狙っていく。そして、ぎりぎりでそれて、信じられないそれ方ですべてファールに・・・
そして、11球目。隆哉の打球は、伊東の顔面を直撃する。
結局試合は極亜久高校が棄権して聖タチバナの勝利。
しかし、決して後味の良い勝利ではなかった。


89: 名無しさん@パワプラー:07/09/17 10:26 ID:mgeY4w5M
その夜、みずきは再び隆哉の家を訪れた。
隆哉は、部屋の隅でうずくまっている。
みずき「た、たか・・」
隆哉「ちっくしょーーーーーー。」
その悲痛な叫びは聞くに堪えられなかった。
隆哉「また、やっちまった。くそ、抑えたつもりが・・・
ちっくしょーーー。」
みずき「た、たか・・隆哉・・・」
隆哉「み、みずき・・・か?」
みずき「うん。」
隆哉「すまねえが、これ持って帰ってくれ。」
渡されたものは、退学届。
みずき「そ、そんな。」
隆哉「もう、思い出したくねえんだ。」
みずき「で、でも、そんな」
隆哉「いいから、放っておいてくれ。こんな落ちこぼれ。」
みずき「う、わかったわよ。この泣き虫。わからずや。大っきらい。」
そういって去っていく。
みずき「う、(くすん)なん・・で、こん・・な、すなおじゃ・・ない・・の?
たか・・やに・わたしのせいって・・いおうと・・しただけなのに・・・
約束、破って・・ごめんって・・・」
そして、2人はもう2度と会うことはなくなった。
その別れの夜を、三日月は見つめていた。


90: 名無しさん@パワプラー:07/09/17 10:29 ID:mgeY4w5M
そして、プロに入って数年。三日月を見るたびに思い出す別れの夜。
忘れたくても忘れられない。もういちど、隆哉に会いたかった。
そして、なんとなくテレビをつける。少しでも忘れようと。
テレビでは・・キャットハンズのニュースをやっていた。
テレビ「えー、キャットハンズの入団テストで、163km/hの速球を投げる本格派投手が
いたことが・・・・・」
みずき「へぇー、じゃあ入団してくるんだよね。」
テレビ「名前は、横山 隆哉選手と言って、投手のほかに遊撃手、捕手としても・・・」
みずき「!!!!!!!!!」
それは、まぎれもなく高校時代一緒だった隆哉の名前・・・
チャイム「ピンポーン」
みずき「だれよ。こんなときに・・」
ドアを開けると、立っていたのは隆哉だった。
みずき「あ、」
隆哉「入って、いいか?」
みずき「う、うん。」
しばらく沈黙していたが、隆哉が口を開く。
隆哉「まず、ごめん。」
みずき「え?」
隆哉「高校のことだよ。あのとき、やめていって・・・」
みずき「でも、なんでいまさら・・・」
隆哉「おまえのプロ入りを聞いて、真っ先におめでとうって言ってやりたかった。
でも、俺なんかが言えるわけがない。それで、おれもプロを目指した。同じ舞台に立つために。
投球感覚を取り戻すのにだいぶ時間がかかって・・それに、性格も・・・」
みずき「え、うそ。な、なんでそこまで・・。」
隆哉「お、おまえのことが・・好きで忘れられなかったんだ。」
みずき「!!!」
みずきの顔が赤くなる。
隆哉「俺、素直じゃなかったんだよな。
お前を野球部に入れる手助け、甲子園に連れていく手助けなんて大ウソ。
お前をプロにしてやりたかったんだ。」
みずき「なんでそこまで?」
少し半泣きの状態だ。見られるのが恥ずかしいのか・・顔を隠す。
隆哉「は、はじめて、あった時から、好きだったんだよ。
そうでもなけりゃあ気絶したお前を家に入れたりそこまで親切にしないよ。」
みずき「え、そ、それ、本当に・・?」
隆哉「う、うそなんかじゃない。本当のことだ。
それで、ここにきたんだ。
別にお前が俺のこと嫌いでもいい。これだけ、伝えたかった気持ちだから。
もし、いいなら、つ、つつ、つ・・・付き合ってくれ。」
みずき「う、ううううう。じゃ、じゃあさ、これだけ、約束ね。」
隆哉「な・・に?」
みずき「付き合ってあげるから・・その、け、結婚・・して。」
隆哉「!!!!!!!?」
今度は隆哉の顔が赤くなる。
みずき「結局、結婚相手なんて見つかんないでもう、この年でしょ。
だから、・・・わたしも、隆哉のこと、好き・・だから。」
隆哉「う、うん。約束だ。今度こそ。」
そう言って口づけを交わす。その、三日月の浮かぶ様子をながめて・・・・・

蛇足 えー、途中でめんどくさくなって無理やり終わらせました。
続編(というか退学届のあたりを書き換え)作っていますが、
個人的に時間もないので・・・・まあ、希望があれば載せますが・・・いまいちだと思うんで・・
一応終わりといったところで・・・

91: 名無しさん@パワプラー:07/09/18 17:10 ID:V.Bw.gJE
>>90
読破した。b
楽しめたけど、>>55の直後に台本小説が来た所為かちょっと萎えた。
文章練習してからまたチャレンジしてくだしあ

92: 名無しさん@パワプラー:07/09/19 17:33 ID:ACuOqEUc
>>91
読破お疲れ様です。
文才磨いて出直してきます。

93: 名無しさん@パワプラー:07/10/16 01:23 ID:9/jAsbW.
   | \
   |Д`) ダレモ イナイ…カキコムナラ イマノウチ?
   |⊂
   |

>>55の続きです。sage進行で。

94: 名無しさん@パワプラー:07/10/16 01:24 ID:9/jAsbW.
 人間が予想外の出来事に遭遇してしまったときに感じる、所謂“時間が止まる”という感覚には、科学的な根拠がある。人間は常に予測に次ぐ予測の中で生きており、その予測とは過去の経験や蓄積された知識から総合して成り立つもの。一つの行動をしているときに、ある程度次の行動への移行を視野に入れて予測いるからこそ、スムーズに行動できるのだ。しかしここでイレギュラー、つまりまったく“予測外”の事象が起こった場合……例えば、どう考えてもそこに居るのはおかしいだろうという人間が唐突に発言をしてきた場合など……脳はまず、その修正に動く。そして再び経験や知識を様々な引き出しから取り出して、総括し、次の行動への移行方法を立て直す。この処理を行う間、ほんのコンマ一秒にも満たないが、思考に空白が発生する。しかし凄まじいスピードで働く脳にとっては、その瞬間でさえ数秒の時に感じられてしまう。この一連の流れによって、人は“時間の停止”を、体感時間の中で感じてしまうのだ。
 要するにあおいとゆかりにとって、この展開は到底予想などできないものであって、イレギュラーにしてももはや反則の域にまで達していたわけである。
 この停止状態から抜け出すのに、二人はたっぷり数秒を要していた。チッチッチとマイペースに鳴る時計の針が、一層の滑稽さを提供している。
「やべ……くん?」
「うう、ぐすっ……オイラ号泣でやんす」
 未だ驚愕に囚われつつも、あおいは恐る恐る訊いた。
「どこから……いたの……?」


95: 名無しさん@パワプラー:07/10/16 01:25 ID:9/jAsbW.
「グラウンドについてのとこからでやんす。戻ってよく見てみるでやんすよ。セリフが一つ多いはずでやんすから」
「矢部君……それは踏み込んではいけない領域だよ」
「さ、西条君まで?!」
「いやごめん、聞くつもりはなかったんだけど……」
 未だ驚きの表情が晴れないあおいに、樹は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「もう練習は終わったよ。あおいちゃんがなかなか帰ってこないからさ、様子を見にきたんだ」
 そう言ってくる樹は既に制服に着替えており、水を被ったのか、髪が少し濡れている。気付いて自分の姿を見やると、あおいはまだユニフォームだった。
「え? うわっ! ぼ、ボクも着替えないと……!」
 急がないと更衣室が施錠されてしまう。そうなったら明日は季節はずれの冬服で登校するほかない。仮にも女の子としてみなりを気にするあおいにとって、それは避けたい事態であった。
 ゆかりとの和解も成ったことだし、何より先ほどの青春真っ盛り会話を聞かれていたとあっては居心地が悪い。あおいはゆかりに軽く会釈すると、逃げるようにその場を立ち去った。
「あ……アタシも着替えないと……」
 歩こうとして再びふらつくゆかり、もうそろそろ大丈夫かと思ったのだが、思いのほか立ちくらみのようなものが酷かった。すぐさま反応した樹がその肩を支え、ベッドへ座るように促す。
「程度は軽いとは言え脱水症状と熱中症を併発したんですよね? だったら、しっかり休んでおかなきゃ」
「え、いやでも、アタシはもうだいじょう……」
「馴染みの薄い症状だからね、よく熱中症は、身体を冷やしてある程度の水分さえ取れば大丈夫だと誤解されるんだ。でも、実際は代謝機能や平衡感覚、免疫能力とかが麻痺してて、二、三日は安静にしてなきゃいけない症状なんだよ。女の子なら尚更だ」
 反論しかけるゆかりを、樹が制す。そうとまで言われては言い返すこともできず、ゆかりは俯いて両手の指を絡めた。すっかり熱の引いた手だが、心なしか力が入らない。

96: 名無しさん@パワプラー:07/10/16 01:26 ID:9/jAsbW.
「高松さん!」
 保健室に駆け込んで来るや否やゆかりの元へと駆け寄る、ソフトボール部の方々。着替えはもう済ませているようだったが、ハードな練習をしていた証拠に、髪が薄っすらと汗で輝いている。
「先生に今日は車で送ってくれるように頼んでおいたから、まだ寝てていいわ。大丈夫? どこか痛かったり、気分悪かったりしない?」
「高松さんごめんなさい私たちが不甲斐ない所為で」
「水分取った? ほら、スポーツドリンク持ってきたから」
「え? ああ、ちょっと先輩……?!」
 たちまちゆかりは先輩方の波に埋もれ、姿が見えなくなってしまう。人気者もここまで来るとつらいものだ。樹は同時に、二条に対する哀れみも覚えていた。
「じゃ、矢部君、そろそろ行こう。すいません、お邪魔しました」
「失礼しましたでやんす」
 これ以上の長居はお邪魔だと察し、樹は保健室から出ようとする。
「あ、ちょっと!」
 突然声をかけられたもので何かと思い振り返ると、ゆかりがこちらを引きとめようと手を伸ばしていた。かと言って何の用か分かるはずもなく疑問符を表情に出すと、ゆかりは少し躊躇いながらも訊いてきた。
「アンタ、名前は?」
 すぐさま名乗り出る、矢部。
「オイラは矢部明雄でやんす! よく覚えておくでやんすよ! それからサインは早めに……」
「いや、お前じゃなくて」
 一言で斬り捨てられ、矢部は小さくなってしまう。
 ゆかりの視線は、じっと樹を見つめていた。
「ソフトで柵越えなんて打たれたの、生まれて初めてだからさ。打者の名前くらい知りたいんだ」
 打たれたことを恥と思わず、むしろ自分より強いものと戦えたことを誇りとする、一人前の投手の持ちえる自信。ひたむきな努力でのみ培えるその気概が、ゆかりの口元に微笑として現れていた。

97: 名無しさん@パワプラー:07/10/16 01:28 ID:9/jAsbW.
 樹はそれに、ちょっと気恥ずかしく思いながらも答える。
「西条樹。インパクトのない名前で申し訳ないんだけど」
「いいんじゃないの? シンプルで」
 あおいと怒鳴りあっている時の鬼の形相とは似ても似つかず、歳相応の女の子らしくクスクスと笑うゆかりに、樹はちょっと親しみを覚えた。怖いだけの女の子ではないと分かって安心したのだ。
「じゃ、俺たちはこれで」
 矢部君共々ペコリと頭を下げて、そそくさとその場を後にする。慣れたはずの消毒液の匂いがしばらく付きまとってきた。
 ――やってみると、あながちソフト対野球も悪くはなかったかな。
 喉元過ぎればなんとやら。試合前の脱力感も忘れ、とにかく和解が生まれてよかったよかったと、樹はすっかり日の沈んだ窓の外など眺めつつ思うのだった。





98: 名無しさん@パワプラー:07/10/16 01:29 ID:9/jAsbW.


「ゆかり! あんた本当に大丈夫なの?! 倒れたって聞いたわよ何で家に連絡も入れないの!!」
「あーあー悪かったってば。仕方ないだろ意識なかったんだから」
「明日は学校はお休み! 縄つけてでも病院連れてくからね!」
「はいはい分かったよもー」
 家に帰り着くなり炸裂する母のガミガミ声。こちらへの親心だとは分かりつつも、煩わしく感じてしまうのが子心というものである。ゆかりも母のことは大好きであるが、お喋りで怒鳴りっぽい上に声が大きいというのは勘弁してほしいところであった。
 パタンと後ろ手に扉を閉めて、ゆかりは自室に入ると同時に、ベッドに転がり込んだ。先輩や母の前では割と気丈に振舞っていたのだが、実は今は、とんでもなく身体がだるいのだ。おまけに少し吐き気もある。先輩からもらったスポーツドリンクを一気に半分ほど飲んで、ゆかりは枕に顔を埋めた。
(うう、気持ち悪……熱中症ってこんなに酷いんだ)
 水分さえ取って寝てれば大丈夫なのだろうと言う、樹に指摘されたことをそのまま誤って覚えていた自分が少し恥ずかしい。これからはもう少し、スポーツ医学についても本を読んでみるかと、ちらりと横目で本棚を見やる。
 可愛らしいピンクのレースで飾られた小さな本棚の、普通なら漫画や女の子向け雑誌が詰まっているだろう場所には、数年かけて買い続けている野球雑誌とソフトのルールブックなどがずらりと並んでいる。そしてその本棚の上には、使い古した野球少女時代のグローブがホコリも被らずに鎮座していた。
 プロ野球の選手になろうと、心から思っていたあの日々。そして性別の圧倒的差を突きつけられ、夢を諦めたあの日。
 自分がかつて諦めた夢を、今も追い続けている女の子がいた。彼女なら、多分やれると思う。才能はあると認めるし、何より、支えてくれる強い仲間たちがいた。投げる球を真正面から受け止めてくれる捕手、打たれた球を本気で追いかけてくれる野手、そして
 取られた点を取り返してくれる頼もしい打者が。
 あの打たれた瞬間、その瞬間にホームランだと分かった。音の具合や、見えたスイングの美しさ、そして何より、彼の目が輝いていたからだ。
「……西条……か」
 呟いて、襲ってきた心地良いまどろみに身を任せる。
 顔がほてったのは、きっとまだ症状が後を引いているからだろうと、ゆかりは思うことにした。


                   筆が遅いのは仕様です。

99: 名無しさん@パワプラー:07/10/16 02:06 ID:9/jAsbW.
5.少し大きな壁


 今日の投げ込みにおいて、あおいちゃんはあまり好調とは言えなかった。普段からやる気だの気合だのにこだわるところは伊達ではないらしく、事実気分の乗らない状況での彼女はいつもの半分ほどの力しか見せない。
 パスッと軽い音を立てて、数十球目の投球がミットに収まる。軽いだけならまだしもキレもないとなれば、投手としては最悪の投球だ。
「ダラダラしたって意味ないだろう? 二条と代わって、休んでなよ」
 返球し、外野陣に混じって黙々と外野ランニングを続ける投手一人を目で指しながら言うと、あおいちゃんはらしくもなく、素直に頷いた。
「あー、うん。ごめん。そうさせてもらうよ……なんか足手纏いみたいだね。アハハ……」
 いつもの作り笑顔の方がよっぽどましなほどの落胆した笑いである。見たくない顔だ。負けん気を強味にする人間の心理状態ではない。
 肩を落としながらトボトボと木陰に歩いていくあおいちゃんの背中を、心配しつつ見ていると、外野から二条が走り寄ってきた。
「随分気に負っている様子だった、そっとしておくのが良いだろう」
 言ってくるその目にも、やはり気遣いの色が強い。
「やっぱり一人だけ女の子ってなると、色々考え過ぎちゃうのかな」
「周囲に対する性別単位での劣等感、それを努力で埋め合わせようとする疲労、そしてそれが出来ないことに対する自責。彼女が己を責める要素など幾らでもある。我々に出来るのは見守ることと、折れそうになったときに柱となってやることぐらいだ」
 木陰に座り込むあおいちゃんの身体は、見ていて痛々しい程に疲労困憊しているのが分かる。
 そのあおいちゃんが先程投げていたボールを二条にトスしながら、距離を取っていく。
「努力ではどうにもならない、才能以前の問題、か」
「だが、彼女の努力は素晴らしい。それこそ他校に見劣らない程の練習量を、彼女はしっかりとこなしている。その光景は時に誰かの胸を打つ。努力の価値を、言葉にせず行動で他人に教えられる人間は偉大だ」
 その言葉に、樹は少しばかりの引っかかりを覚えた。特に何かを閃いたというわけではない。ただ、記憶のどこかで糸が突起に絡まったような、妙な感覚に陥っただけだ。
 そして、それを言葉にする。

100: 名無しさん@パワプラー:07/10/16 02:07 ID:9/jAsbW.
「そういえば、二条。お前は何で恋恋に入学しようとか思ったんだ? お前ぐらいの実力なら、他の高校に行けば幾らでもレギュラーなんて狙えるだろ?」
 これは暫く前から持っていたささやかな疑問。投手としての実力や肝の据え方は高校一流級と言っても過言ではない二条が、何故、野球部すらないこの高校に入学してきたのか。厳格且つ古風な家柄で、両親から散々反対をされつつも、それを強引に押し切ってまで入学しようとしていたのか。
 その疑問を解く何かが、先程の言葉に隠されているような気がする。直感的にそう感じた。
「ああ……そうだな」
 二条は俯いたように一言そう言うと、
「それにはまた、いつか答えよう」
 曖昧に話をまとめる。これ以上踏み入って詮索するのは自分の領分でないので、樹はそっかとだけ返した。
 愛好会発足から既に四ヶ月が経過しようとしている、八月も終わりに近付いた頃。夏休みというイベントと集中訓練を挟んで、会員たちの実力は、確実に向上していた。やはり中途半端な癖がついていなかったというのが、この向上の主な理由だろう。基礎さえ教え込めば、あとは体力と、経験の勝負だ。早く人数を揃えて、練習試合もしてみたいなと思う今日この頃である。
 しかしこの流れの通り、夏季の練習中に、一つ問題が見つかっていた。
 夏の暑さの中の練習に、あおいの体力がついていけないことがしばしばあったのだ。高校一年生の女の子の身体がどれほどデリケートなものなのか、樹も知らないわけではないので、気にかかったら休むように忠告していたのだが、気を遣われると無理をしたがるのが早川あおいの厄介なタチなのである。その所為でこの夏休みは、あおいはどのように言えば休んでくれるかという言い回しを考えさせられる日々でもあった。
「なぁ二条」
「何だ」
 自然と口からこぼれる、ふとした問いかけ。
「女の子って、難しいね」
「……同意だ」
 心なしか目線を伏せて頷く二条。自分の言葉の意味と、二条の受け取ったらしい意味、その二つに微妙なすれ違いを感じつつ、樹はあおいの歩いていった木陰を見やった。
 しょっぱく湿った風に吹かれる、あおいの髪と同じ、薄緑色に映えた木の葉たち。そのざわざわと鳴る様子が、樹には、感傷的に思えてならなかった。





続きを読む
掲示板に戻る 全部次100 最新50
名前: E-mail(省略可): ID非表示