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パワプロ小説
37/40頁 (391件)
360: 06/03 20:07 ID:rE [sage]
「もともと、雲龍は武術奨励の学校じゃけえ、年功序列の考え方が根強いんじゃ。先輩の言うことに後輩は逆らったらいけん。そんな馬鹿げた雰囲気がまだ残っちょる、時代遅れじゃと、散々先輩に言ってはいるんじゃけどのう」
「幸崎先輩は、年功序列な考え方、お嫌いなんですか?」
「……嫌いと言うか、気にいらんのじゃ。ワシが一年の時、その時の三年生より実力のある、今の三年生は何人もおった。それが年功序列だなんて考えの所為でレギュラーになれず、結果として雲龍スタメンはベストな編成にならなかった。それで甲子園出場を逃した。馬鹿げた話じゃ本当に」
 グイっと一飲み、コップに残ったドリンクを喉に流し込む。どうみてもおっさんの晩酌の光景だったが、それを口に出すことは空気の読めないこと甚だしいので、玲奈はなんとか言葉を飲み下した。
「それでレギュラーを逃した連中が、今度は同じことをやり始める。負の連鎖じゃ、馬鹿馬鹿しい。……じゃから、ワシらの代からは年功序列なんてものをなくそうと、今、二年の間で話が出とる」
 初耳だった。
「来年からは実力主義でやるつもりじゃ。でなきゃ、惜しい才能を潰すことになるからのう。……アンタ、あの紅咲とかいうヤツの知り合いじゃったな」
 突然憂弥の名前が出てきて玲奈は戸惑ったが、悲しいけれど、その通りである。腐れ縁というものは仕方がない。
「えー、まぁ、その、一応……はい。っていうか保護者です」
「ガッハッハ! 初日にいきなりやらかしてくれたことはまだ憶えとるぞ! ええコンビじゃ! グラウンドでバットを凶器にした女子は初めて見たから新鮮じゃったわい!」
「あ、ああ、いやできれば忘れて頂きたいんですけど」
「ガッハッハ!」
 顎が外れるんじゃないかというぐらいの大口を開けて大笑いする。これぐらい思い切り笑えたらさぞかし楽しいのだろうなと思った。
 ひとしきり笑ったあとで、幸崎先輩は真面目な顔になる。
「紅咲、アイツは逸材じゃあ。ありゃ間違いなく高校トップレベルの投手になるじゃろて」
「はぁ……?」
 幸崎の褒めっぷりに、玲奈は露骨な疑問符を声に出した。確かに憂弥のレベルは高いのだろうけど、何もトップレベルとまでもてはやされるものではないと思うのだが。その様子を見て、やはり先輩は笑った。
「ガッハッハ! 見とれ、間違いない! 速球も速いし変化球もなかなか、度胸もよーく据わっちょる……なにより」
 そこで言葉を区切り、玲奈の顔をじっと見る。おちゃらけたような表情だったが、その中には相手に言い聞かせるような、自信に満ちた笑みがあった。
「眼の奥に修羅がおる。喉笛を食いちぎるような迫力がある。ありゃ努力では身につかん、天性の才能じゃ」
「はぁ、なるほど……」
 そう聞くとなんだか憂弥が凄い人間のように思えてくるが、それってつまり向こう見ずで無鉄砲な上に自分勝手で喧嘩っ早くて目つきが悪いっていう人格破綻者のことなんじゃなかろうか。言葉を選ぶだけでここまで美しく聞こえるものなのか、日本語とは不思議なものである。
「さて、ちっと喋りすぎたわい。付き合わせて悪かった。じゃけどもいい気分転換になったわい、あんがとさん!」
 言うだけ言って満足したらしく、幸崎先輩はその山のような巨体をのっしと立ち上がらせて、自分の打撃練習へと戻っていった。なんというか、こちらは片桐と違い、見た目の大きさどおりの突き抜けた性格である。ついでに言うと柊先輩とは正反対な性格。同じ二年生でも、やはり個性は様々。
 しかし悪い人たちではなさそうであるからして、玲奈はちょっと安心した。少しばかり、これから先の高校生活が楽しそうに思えてきたのである。
 玲奈は相変わらず外野組を見ている戸美子の方へと近付き、その横に並んだ。
「なんだか、凄い人だったね、幸崎先輩って」
「そうね、面白かった」
 痛快な金属音が響いた方を見やると、フリーバッティングで幸崎先輩が豪快な一発を打ったところだった。重量級打者のバッティングは迫力がある。
「良い人だしね」
 何せあのキワモノ中のキワモノである憂弥を褒めることが出来る人間なんて、そう簡単にいやしない。相当心が寛大な人しか、アレを受け入れることなんてできるわけがない。
 憂弥の大暴れに未だ不安は残るものの、ああいう先輩がいるなら大丈夫だろうと思う。
 なんとなく玲奈は、心が軽くなっていた。
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