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パワプロ小説
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368: 06/21 02:38 [sage]
「は、ハハハ、心配することはないよ。オレがここまで惚れてしまった女性は君が初めてだ。決して浮気なんかしない。確かに、オレに言い寄ってくる女は多いさ。でもそんな奴ら、君の魅力に比べては塵に等しい。……君が望むなら、モデルの仕事だって蹴るよ」
 ああ、そういえば隣のクラスに雑誌や広告のモデルとして活躍しているマヂイケてる男子がいるとは聞いていたけど、それがこの沢内のことなのか。タレント養成所で演劇の練習もしているとかで、それならこの芝居がかった物言いにもいくらか納得がいく。
「いやあのー、あたしはべつに、つきあうつもりとか、まったくないんで」
「大丈夫!」
 ガシッと一際強く手を握られる。痛いっ! なんて叫べばちょっとは絵になっただろう。でも悲しいことに痛くなかった。多分、握力はこちらの方が強いのだと思う。悲しいことに。
「君に不利益になることは絶対にしないと誓おう! なんども言う! 玲奈さん、オレは、いや僕は、君が好きで好きでどうしようもないんだ!」
 いやいや、あたしはあなたのこと、なにもしりませんから、かんべんしてください。
「あー、ウゼーなこの変態野郎」
「へ?」
「ああいえちょっと、お、オホホ」
 つい本音と建前が入れ替わってしまった。それがきっかけで冷静さを取り戻す。
「あの、アタシは今、その、野球部でマネージャーやってて、そっちが忙しくて付き合うとかなんとか、そういうのに手を回してる暇がないんですよ。だからごめんなさい。他あたってくれないかな」
 精一杯の苦笑いで告げる。しかしまだ言葉は通じなかったようだ。
「そんな……っ! 言ってくれさえすれば、オレはどんな癖だろうと行動だろうと正すことができる! 君が望む男になれるよ! それでも駄目なのかい?!」
 だったら今すぐその三文役者みたいな大袈裟な芝居調をやめて背筋を伸ばして一般男子高校生に少しでも溶け込めるように努力しろついでにこっから出てけ。と思ったが流石に口には出せず。事は穏便に済ませなきゃならない。
「あの、アタシさ、野球やってる人たちが好きで、マネージャーやってるの。モデルとか、タレントとか、観るのはいいけど、付き合うってのは無理だから。ごめんね」
「え、そ……そんな……」
 この世の終わりのような顔をして、沢内はふらふらと教室を出て行った。こんな時まで絶望に打ちひしがれた主人公のような素振りで歩くとは、なかなかの役者である。気持ち悪いけど。
 沢田が出て行って数分して、玲奈以外の最初の登校者。女子二名。名前は憶えてないけど、とりあえず挨拶はした。もうちょっと沢内を追い返すのが遅く、彼女らに現場を見られていたら、きっと今日から素敵な噂を立てられていたに違いない。恐ろしいやら安心したやら、玲奈はホっと胸を撫で下ろした。あと十分もしたら、戸美子もやってくるだろう。彼女はああいった沢内のような有名生徒のプロフィールに敏感なので、あとで沢内の人物像を聞こうと思う。
「…………ぐぅ」
 朝から意味も無く疲れてしまったので、朝礼までの時間は睡眠に費やすことに決めた。
 机に突っ伏し、朝練連中のランニングの音を遠くに聞きながら、玲奈は全てを忘れて寝ることにした。


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