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374: 06/21 02:43 [sage]
「沢内彰だ!」
「沢内彰です! よろしくお願いします!」
名前を呼ばれて一歩前進。声高らかに自己紹介をして、天下の美男子はペコリと頭を下げた。
顔を上げて、沢内は少し視線を動かす。
するとばっちり目が合ってしまった。
すかさずとんで来るウィンク一つ。放たれ飛来したハートマークを、玲奈は一瞬で見切りかわした。
「ん? あれってさっきお前が話してたヤツじゃね?」
斜め後ろからは、とても暢気な憂弥の声。
もう玲奈はなにがなんやら。せっかく部活が楽しくなりそうだと思いかけていたのに、一安心した矢先がこれかい。
「沢内、何か抱負。宣言しとけ」
キャプテンが茶化すように言葉を促す。するとそれに同調して、部員らも沢内の言葉を求めてはやし立てる。そしていつの間にか起こる沢内コール。天下の美男子にして雑誌モデルの入部に、全員浮かれているようだ。
照れたように視線を泳がせて遠慮していた沢内だったが、部員らの大歓声ついに観念したらしく、ぐいっとまた一歩前にでて、ゴホンと大袈裟に咳払いをした。途端に静まり返る一同。
沢内の口が開かれる。
「甲子園を目指し、そして……恋を成就させます!」
湧き立つ一同。恋の相手は誰か誰かと騒ぎ立てる周囲に、沢内は素敵な笑顔でそれは秘密ですと答えている。
もう玲奈は失神してしまいそうだった。どうやら自分は、かなり不幸の女神さまに好かれているらしい。でなければ、こうまで多くの逆境が人生十六年目にして訪れるはずがない。
「すっごい、玲奈ちゃん、沢内君が入部しちゃったよ! ねぇねぇ、雑誌の取材とか来るかなぁ?」
ミーハーな戸美子が、いつの間にか横に来てはしゃいでいる。
この物語には所謂「不正」の事件は、一つも無かったのに、それでも不幸な人が出てしまったのである。性格の悲喜劇というものです。人間生活の底には、いつも、この問題が流れています。
そんな、いつしか読んだ本の一節を脳裏に思い浮かべながら、玲奈の意識はどんどん遠くなっていった。
拝啓 ご両親さま
雲龍高校での三年間は、思った以上に、過酷なものとなりそうです。
敬具
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