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パワプロ小説2
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28: 01/19 00:39 [sage]
「…………」
「……もしもーし?」
 もはやポッカーンと口をあけて試合に見入っているだけの戸美子に話しかけるも、反応は返ってこない。今この子の頭の中は、あまりに色んなことが起きすぎて果たして何がどうなっているのか処理できない状態なのだろう。呆然としたアホ面からそう知れた。
 何せ、いつも普通に教室で居眠りしてテストで悪い点とってだるそうにご飯食べながら喋っていた憂弥が、あのあかつき大附属相手に唯の一つもヒットを許さずもう八回というイニングスを迎えているのだ。信じられない光景を目の前にして、いつも通りの思考ができる人間の方が珍しい。
 そんな中、玲奈はちょっと鼻が高いやら申し訳ないやらで、複雑な心境だった。ベンチで憂弥の投球を見やる、エースの淵田先輩、そしてその他の先輩方。その表情が戸美子と同じようなものになっている。
 はっきり言って、淵田先輩よりも憂弥の方が投手として上なのは、分かりきっていたことだ。実力主義を念頭に置くなら、憂弥をスタメン起用するのは当然だろう。
 しかしそれでは、淵田先輩が今まで積み上げてきた努力が水泡に帰してしまう。結果よりも努力を優先したい玲奈にとっては、柊先輩の判断は今でも気に喰わない。だからと言って、憂弥の努力を無視するわけでもないのだけれど。
 憂弥は、使える時間は全て野球の為に使ってきた。授業中のリストトレーニング然り、朝のランニング通学然り。そんな憂弥が、投手として高い実力を持つのは当たり前なのだ。
 才能と努力、その両方を併せ持ったからこそ、憂弥はここまで達した。それは評価してあげたいし、されるべきだと思う。だからと言って、努力だけの人間を排除するのはおかしな話だ。
 玲奈は淵田先輩の横顔が完全に諦めの表情をしているのを見て、なんだか胸が痛くなった。
 友人の台頭は素直に誇らしい。でもなぁ……。
 なんとなくやりきれない思いが残る。
 そう思っている最中にこの回もあかつきを抑え、憂弥が堂々とベンチへ戻ってくる。玲奈と目が合った憂弥がこれ見よがしにニヤっと笑って見せた。玲奈はとりあえず、あっかんべーとだけ返しておいた。


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