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パワプロ小説2
3/5頁 (47件)
29: 01/19 00:40 [sage]
「中学野球はな、奪三振の数で投手の価値を決めがちだ」
 千石監督の突然の言葉に、あかつき野球部員が静まり返る。
「アイツ……紅咲憂弥は中学の頃からあの投球スタイルだった。故に評価はされない、無名の投手だったよ」
 全員の視線が集るも少しも狼狽せず、落ち着いた様子で監督は語る。
「そもそも普通は、偶然だとしか思えんのだ。凡フライばかりを打たせることなど、常識外れの球威がなければできはしない。まさか、と信じなかった連中の中、わしは紅咲の本質を見抜き、スカウトに通った」
 その言葉を聞いて一番驚いたのは四条賢二だった。まさか自分が中学の頃に因縁の相手として敵視していた無名の、されど化け物のような投手を、監督が知っており、あまつさえスカウトに通っていたというのだ。
「……猪狩」
「……なんですか」
「正直に言おう。わしは、お前よりもあの紅咲が欲しかった」
 猪狩の手にぐぐっと力が加わる。苛立つものの、その理由をなんとなく理解しているからこそ、反論もせずに奥歯を噛み締めているのだ。
「結局断られ続け、どこの高校に行ったやも分からなかった。が、案外近くにいたもんだな。あれほどの逸材が噂にもならんとは、高校野球も目が曇ったものだ」
 どことなく疲れを隠しきれていないあかつきの部員らは、申し訳なさそうに帽子を脱いでいる。
「紅咲は地区予選を順調に投げ進んだが、全国大会には姿を現さなかった。その理由はわしも知らん」
 決して高飛車な態度を崩さない猪狩守でさえ、その表情は暗かった。
「ヤツが相手なら、こうなるのも仕方ない」
 監督はバサリとスコアブックを、力なくベンチの上に放り投げた。そこには、延長十四回表に雲龍が得点、その後逆転できずあかつきは敗北したことが記されていた。
 原因は猪狩守のスタミナ不足。疲れて球威が落ちたところを一発、雲龍の四番打者にホームランを打たれてしまった。
 いや、スタミナ不足と記すのは間違いだ。むしろスタミナならば紅咲よりも、この猪狩の方が勝っていただろう。しかし三振に討ち取ってばかりの猪狩と打たせて捕る紅咲では、イニングスあたりの投球数が違いすぎた。最終的には、猪狩の方が五十球も多く投げていたのである。
 勝敗を分けたのは、プライドと格好にこだわった猪狩と、ただ勝つためだけに効率を重視した紅咲の姿勢の違いである。
 あかつき大附属高校の課題は山積みであった。それに気付けたことが、今回の練習試合の一番の収穫だろう。名門野球部であると驕っていた自分達の態度こそが、腕を鈍らせていた。
「一から鍛え直しだ。明日からは、全員のメニューを増やす」
 キャプテン四条のその言葉に、異を唱える者はいなかった。 更新ここまで。
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