[*]前 次[#] [0]戻 [4]履歴
[1]最新 [2]最初 ▼[3]コメント欄

パワプロ小説2
4/5頁 (47件)
31: 04/29 02:06 [sage]
 お久ぶりです。忘れたころにやってきます。
 頑張って書いたのですが、今回長いわりに中身ないです。だらだら読んで下さい。 06.それぞれの理由。 幼い頃から、何でもよくできた。そう、自分にはありとあらゆる才能が溢れていた。
 足も速ければ、勉強なんかしなくたって成績は良かった。何の練習もしていないのにお芝居や歌も上手かった。
 身長も高いし顔も良い。女の子にとてもモテた。遠巻きに溜め息をつかれ、何人もの女の子からアプローチを受けた。
 いつの間にか芸能界関係からも声がかかっていた。雑誌にも出た。そして家も裕福だったから、何でも揃った。欲しい服、格好良い靴、おしゃれな帽子、ギター。やりたいことは何でもやった、そして全てが上手に出来た。
 それに飽きはじめたのは、いつからだろう。
 何でもできる。だから周りの人から褒められる。凄いね、何でもできるんだね、上手だね。でもそれだけでしかない。自分の中に満足感が残ったことは、一度だってなかった。例えば砂漠の中で歩き、ようやくオアシスに辿り着けたような達成感を味わったことが、自分にはなかった。いつも隣には、望めばなんでも出てくる魔法の箱があったから。
 それを認めて、気付きたくないから、今まで通りに飾ることに必死になった。そんな達成感を得る必要もないぐらい、何でもできるからそれでいい人間であると、思い込みたかった。
 自由に憧れた。
 正直でいることに憧れた。
 素直であることを望んだ。
 でもできなかった。部屋で一人でいるとき、襲い掛かってくる孤独感に、いつも耐えていた。誰かが褒めてくれていないと不安で仕方が無かった。だから、それすら必要としない人間になりたかった。
 だから、彼女を見たとき、好きになってしまった。
 アクセサリーもつけず、化粧もせず、髪も染めず、飾らず、綺麗に見せようとせず。ただあるがままに自分のやりたいことに熱中している彼女は、とても美しかった。
 彼女の傍にいたい。そう望んだ。
 そして自分は、汗と泥にまみれる日々に飛び込んだ。「ラスト三本!」
「うぃーっす!」
 横一列に五人ずつがならび、外野のライトからレフトまでを全力疾走するダッシュトレーニング。外野手向けの、瞬発力を鍛える練習だ。この練習の肝は、ゴール直前に足をゆるめず、ゴールの少し向こう側まで走ること。
 五人組ずつがライトからレフトまで走り、レフトで人数がある程度たまったら、今度はライトに向けてまた走り出す。一度走ってから次の順番まで数十秒の間があるとは言え、全力疾走を何度も繰り返していると全身が疲れる。
 さて野球の才能というものは、いかに無駄のない動きでスムーズに動作を繋ぐことができるかである。例えばボールを投げるにしては、手首に腕と腰、足首までの筋肉をどう効率的に連鎖させることができるか、という具合だ。つまり才能とは技術面に関することが大きい。
 何が言いたいかというと、ただ途方もない反復練習でのみ培われる基礎体力というものばかりは、才能ではどうしようもないということだ。
「……オイ、そろそろ沢内はやめさせた方がいいんじゃね?」
「顔色悪いぞアイツ……」
 顔をしかめる二年生数名の視線の先には、乱れる呼吸を必死で整えようと悪戦苦闘する沢内彰の姿があった。
 彰の運動能力は申し分ない。短距離も早いし、長距離だってお手の物。陸上部にすら対抗できる足の速さと体力を持ち合わせている。
 とは言え、野球は全力でバットを振って、全力で走って、次もまた全力で走るという、短距離走を幾度も分けて走るような、全力の瞬発を繰り返すスポーツである。サッカーや陸上とは体力の使い方が違う。こればかりは才能ではどうしようもない。普通では身につかないような体力の使い方を、プレーと練習の中で身につけなければならないのだ。
 仕方のないことであるが、沢内彰にはこれが最初の関門となっていた。
「なぁ沢内、キツけりゃ休めよ。無理して身体壊したら元の子もねぇんだからさ」
「い、いえ……はぁ、大丈夫です、大丈夫ですか、ですから……はぁ、はぁ……あ、気にしないで下さい」
 この先輩たちには、彰ほどのスポーツの才能はない。しかし彼らは小学生の頃から野球に親しみ、野球の為の身体作りをしてきた人間だ。才能では持ち得ないものを、彼らは努力で身につけている。それが、彰を苦しめた。
 久しぶりに味わう「皆に負けている」という感覚。この野球部の中で、ここまでバテているのは、彰だけである。皆がふぅと息をついている横で、自分だけが膝に手を付き荒い息をあげている。才能が通じない環境に、彰は歯を食いしばった。
 なんて苦しいんだ。
 なんてつらいんだ。
 しかしいくら苦しかろうとここで辞めるわけにはいかない。彰には確固とした目標があるのだ。
 ちらりと、視線をベンチの向ける。そこには、玲奈さんが他のマネージャーらと共に道具磨きに勤しんでいた。ああ、雑巾を持っている姿すら美しく思える。いや実際に美しい。女神のような人だ。彼女に認められるためならば、例え泥まみれになろうと野球にしがみついてやる。
 彼、沢内彰を突き動かすのは憧れの小倉川玲奈への恋心のみ。
 呼吸を整えると、彰は次のダッシュのためにスタート位置へと駆けた。 いよいよ、甲子園予選秋季大会の幕が上がる。
 翌年春の選抜甲子園への出場校を決定するこの大会は、夏ほどの盛り上がりはないにせよ、球児たちにとっては夏と同じくらいの価値を持つ大事な大会だ。特に主力であった三年生が抜け、二年生の新人選手が目白押しの大会でもあるので、野球関連のメディアが大きく注目する大会でもある。
 そして雲龍高校野球部にとっては、今大会は特に意味のあるものであった。
「ん? なんじゃ、やっぱり一年生を使うんか」
「ええ、充分通用しますよ」
「しかし試合慣れしとらんじゃろ。淵田でよかったんじゃないか」
「すぐに分かります」
 オーダー表を確認して、宇田監督は訝しがった。何せ年功序列の色が強い雲龍高校において、一年生がスタメン入りするということはとても珍しいことだからだ。過去何年、なかったことだろう。
「ま、お前さんが言うなら止めやせん。どうしようと勝った負けたは勝負の常。その後が大事じゃからな」
「分かっています」
 宇田監督とは、雲龍高校野球部の、一応顧問の先生である。一応としたのは、本職が剣道や柔道、空手といった武道系の先生であり、野球部のもとには監督責任者が必要となる公式戦でしか顔を出さないからだ。よって、彼の野球に関する知識は少ない。雲龍野球部は、殆ど生徒主体の組織なのである。武道奨励の雲龍高校では仕方のないことであった。
「あ、すいません柊先輩! やっぱり、玲奈ちゃん体調悪いみたいで、今日は来れないそうです」
「分かった。じゃあすまないが、今日は一人分多く働いてくれ」
「了解です!」
 ぴしっと敬礼してみせる、一年生の女子マネージャー。誠也は胸中で笑った。今更マネージャーの一人や二人、来れないところで関係は無い。
 秋季大会、しかも予選とあれば、世間からの注目度はとても低い。よっぽど他校の研究に熱心な野球部や、記者でもない限り、話題性のない高校の試合など見にはこない。だからこそ、ここで紅咲を使う。
 もはやその実力は練習試合にて、あかつき大附属を相手に完封勝ちしたことで実証済みだ。これ以上に何を疑おうか。誠也の胸は期待に満ちている。
 さぁ試合が始まる。サイレンが待ち遠しい。
 ベンチ前に並ぶスタメンの中、一人だけ目に付く小柄な投手。まさか、この投手に凄まじい能力が秘められていることを、見抜ける者は誰一人としていまい。
 敵チームよ、しかと眼に焼きつけよ。高校野球には、猪狩守を超える投手がいるのだ。
 雲龍高校野球部は、お前達の想像もつかぬ化け物を手に入れた。
 この鳴り響くサイレンは、雲龍高校の伝説の序曲である。
 誠也の心の高笑い。こちらが後攻。雲龍高校が年功序列を廃して迎える記念すべき第一戦。
 意気込み充分で、皆が守備位置につく。
 そして、試合は始まり、しばらくして、終わった。
 結果は 9−4
 雲龍高校の大敗であった。
[*]前 次[#]
▲[6]上に [8]最新レス [7]ピク一覧

名前:
Eメール:
コメント:

sage
IDを表示
画像を投稿(たぬピク)
現在地を晒す