[*]前 次[#] [0]戻 [4]履歴
[1]最新 [2]最初 ▼[3]コメント欄

パワプロ小説2
4/5頁 (47件)
34: 04/29 02:14 [sage]
『え? 来週の撮影キャンセル?! ちょ、ちょっと待ってよ! もう来月号の表紙決まっちゃって……』
「その日は野球の練習があるので」
 そう言い捨てると、彰は携帯の通話を切った。
 春の選抜甲子園予選秋季大会における、雲龍高校の敗戦から一週間。部内では、ちょっとした波乱が起きている。あかつき大附属相手に脅威の投球をした紅咲がどうしてあそこまで滅多打ちにあったのか、その原因の不明瞭さと、そのような投手を登板させた柊先輩への糾弾。そのどちらもが二年生の間で飛び交い、お世辞にも平穏とは言えない毎日だ。
 彰とてそれはひしひしと感じている。正直に言って居心地は悪いが、その程度のことで練習を拒否するわけにはいかない。全てはそう、彼女のために。
「ああ! 玲奈さん! どうして貴女はそんなにも美しいのだろう! 黒くしなやかな髪! 毅然とした顔立ちに真摯な瞳! 全てがオレの心を掴んで放さない! この想いを届ける為ならば! オレは泥にだってまみれてみせる!」
「なんかの台詞の練習かい、彰や」
「いや、湧き上がるリビドーを抑えられなかっただけだよ、ばあや」
 広いとは言え、自宅の庭でこんなミュージカルまがいのことをやっていれば目立つのは当然である。散歩中の祖母に不思議そうに尋ねられるが、わりと頻繁にある出来事なので特に何があるわけでもない。
「野球始めたて聞いたよ。ほんに彰は何でんようやるなぁ、ばあちゃん感心やわぁ」
 祖母は満面の笑顔のまま、庭にあるベンチに腰掛けた。これでもかというほど現代的な設備が整っているこの家において、この祖母だけは昭和の色が濃い服装と性格を残している。それが、彰は好きだった。
「なんでんよう出来る子やけど、無理したらだめやけんね」
「大丈夫だよばあや、オレはそんなヤワな人間じゃない」
 言って、素振りを再開する。合理的なスイングというやつは、少しプロ野球の試合を観て理解できた。先輩も褒めてくれていたから、あとはそれを続けることだけを考えればいい。
「強い子なのは分かっとるけど、ねぇ、ばあちゃん心配なんは」
 そこで言葉が区切られる。構わずに、彰はバットをビュンと鳴らして振った。
「彰やぁ、楽しいかえ?」
 そう問い掛けられて、彰はスイングを止めた。同時に祖母の顔を見る。心配そうに見つめ返してくる表情がそこにはあった。
「彰はなんでんやって、なんでん上手にできるけど、顔がわろうとらんのよ。楽器弾いても、運動やっとっても……ばあちゃんそれが心配じゃあ。彰なぁ、楽しないなら、やめてええんよ?」
「心配しないでよ」
 彰は気丈に振舞った。
「オレは好きでやってるから、ばあやは何も心配しないで、また、いつもみたいに上手にできたら褒めてよ。それだけで充分だから、ね?」
「ほんに、彰は強い子やなぁ」
 溜め息と共にそう言って、祖母は家の中へと引き上げていった。その背中を見送った後で、素振りをまた再開する。先ほどよりも、もっと無心に。
 楽しさなんて、必要ないだろう。上手くできれば、それでいい。実力さえあれば、それでいい。そうすれば誰もが認めてくれるし、褒めてくれる。玲奈さんに認めてもらうには、実力をつけなければ。
 ふっと、彰の脳裏に、ある一人の男の顔が浮かぶ。そいつの名前は、紅咲憂弥。彰もベンチから見ていた、あの名門あかつき大附属高校との練習試合において、まさかの完封勝利を演じた同学年の投手だ。
 よく怜奈さんの近くにいた彼は背丈も小さく、顔だって彰よりは悪い。恋敵にもならないと嘲笑していたが、練習試合での投球を見たとき、彰の全身を鳥肌が覆った。まさしく才能、いやその上をいく何かを、あの紅咲の全身から感じた。生まれて初めて、勝てない、という恐怖を覚えた。
 しかしその後の公式戦において、紅咲はあまりに拍子抜けな投球をし、一回戦敗退をする。それが一週間前のこと。
 あのあかつき大附属との試合は、まぐれだったのか。いやそんなはずはない。だがいずれにせよ、付け入る隙ができたことは確かだ。奴の不調の間に実力をつけ、見事その球を打ってみせよう。そうすれば、きっと怜奈さんの目はこちらに向くに違いない。
 とにかく練習を。
 目的の為に、例え苦しくても練習を。それが自分の目標なのだから。 今回はここまでです。うーん、良い感じで収拾がつかなくなってきそうな予感。

 30
 自分、9のストーリーしか頭の中に入ってないので、10は無理ですすいません。プロ野球編なんて面白く書ける自信がないですハイ。
 11の大学野球がギリギリです。それすら怪しいですが。
 ともかく、今やってるこのお話が完結しましたら、そのときに新たなお題を考えますね。では失礼します。

[*]前 次[#]
▲[6]上に [8]最新レス [7]ピク一覧

名前:
Eメール:
コメント:

sage
IDを表示
画像を投稿(たぬピク)
現在地を晒す