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パワプロ小説2
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6: 11/23 00:42
 再びカリカリという音が机に響き始める。
 静か過ぎて誰も喋ろうとしない、正しい勉強会の姿勢とは言えどもどこか居心地が悪い。そんな状態だ。
 一時間近くが経過したところで、玲奈はちょっと息が苦しくなって、みんなの表情へと目をやった。しかし誰も脇目を振らず教科書に向かっているので、話しかけることなんてできやしない。やっぱり勉強は一人でやるに限る。なまじ人がいると微妙な雰囲気になってしまう。
 だからつい「また誰か闖入者が来て場を和ませてくれたりしないものか」なんて思ってしまった。もしこれが原因だったのならば、玲奈は時間さえ超えて数分前の自分を殴り倒していることだろう。ちっぽけな人間程度の願いがそう簡単に神様に届くなんてことあるはずがない。それは分かっている。だけど、これはもはや人知を超えた力が働いているとしか思えなかった。
 店のドアが開き、カランカランという音と、店員の元気ないらっしゃいませが響く。たった今入店したばかりの人物が、細長い手足を躍らせるように、ゆっくりと歩く。その姿はさながらモデルようで、挙動一つの中に幾つもの優雅さが流れていた。
 ほんの少し、店内がざわつく。特に女性らの小さな声がいっそう強くなった。それは勉強に集中している玲奈たちにも聞き分けられるほど。
 なんだなんだ、芸能人でも来たのかと訝った玲奈が注目の的の方へと目をやると、直後に凍りついた。
 っていうか目が合ってる。
 なんでだ。
 なんでこんなところにヤツが。
 同時に目を上げたらしい戸美子が大袈裟にはしゃぎはじめる。
「っ……! れ、れなちゃん、アレ! アレが沢内君だよ! ね、ね! 格好良いでしょ?!」
 袖をひっぱられて力説されるが、もはや玲奈の耳にそんな言葉届いてはいなかった。いかにしてこの状況を切り抜けるか。どうやって事を穏便にすませるか。いや殺るか殺られるか。この変態野郎に対しての防衛手段を考えることで、玲奈の頭はいっぱいだった。
「奇遇だね、玲奈さん……会いたかった」
 こちらのテーブルへと来るなり甘ったるい声で囁かれる言葉。こんなことされたら、もうこれだけで、一般女子は嬉しさから失神しそうになることうけあいである。玲奈は、気持ち悪さから失神しそうになった。隣ではまさかの玲奈コールに驚き動揺する戸美子。ああ、もう終わったかなもしかして。
「隣を失礼」
 沢内はセミロングの髪をファサっとかきあげながら、玲奈の向かい側、片桐の隣へと座った。大き目のテーブルではあるが、流石に片側に男子三人は窮屈そうである。しかしそんなこと、玲奈のことしか眼に入っていない沢内には関係ない様子だった。
「まさかこんな喫茶店で再びお会いすることになるなんて、数奇な運命だね……」
「あの……なんか用ですか?」
 これ以上事態を大きくしたくないがために、玲奈は出来る限り下から物を言う。それを受けた沢内は、申し訳無さそうに頭を下げてきた。
「この前はすまない。君の気持ちも考えず、一人で突っ走ってしまった。本当にすまない。今日はそれを謝りたかっただけなんだ。……そして」
 すっと手が伸び、こちらの手を優しく握ろうとしてくる。驚異的な反射神経で、玲奈は手を引っ込めた。そんなあからさまな拒否すら全く樹にしない様子で、沢内は続ける。
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