【ラスト】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜


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【ラスト】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜

1: 見習い筆騎士('-'*)Fireemblemthany:06/04/09 11:18 ID:pZWC9svY
今日で執筆し始めて丁度一周年を迎えます。
長いようで短い期間でしたが、このスレッドでようやく最後を迎えられそうです。

1スレ目:http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1100605267/7-106
2スレ目:http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1123296562/l50
3スレ目:http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1136529217/l50

150: Chapter1−1:Prelude:07/07/09 23:30 ID:diVAuSm2
「えぇ?! ちょっと、待ってよ。 私がどうして部隊長なんか務めなきゃいけないのさ!」
レイサは驚いた。 ティトはあろうことか、彼女に新人部隊の部隊長の任に就いて欲しいとお願いしてきたのである。
新人は弱いし、何も知らないし。 おまけに今年は、戦後の人手不足を補う為に、見習い修行を免除するとのこと。
そんな者達を、自分のような盗賊が従えていけるわけがなかった。
「待ってよ! 私は天馬の乗り方も、槍の扱い方も知らない、ただの盗賊なんだよ?
教えられるのは瞬殺の技術ぐらいだし。 部隊長を任せられる人なんて、他にもいくらでもいるじゃない。 何で選りにも選って私なのよ。」
「これからの新人に必要なのは、天馬の乗り方や、槍の扱い方を教えられる人ではないのです。
もちろん、それも大切な事ですが。 イリアが生まれ変わるには、もっと他の事を、新人に学んで欲しいのです。」
ティトの真剣な目に、レイサも狼狽することをやめた。
自分より若い団長が、強い意志を持って自分に接している。 彼女も大変なのだ、自分も役に立てる事は頑張ろう。
それが、姉貴への償いになるなら。 出来の悪い妹を持って不幸せだったろう。
レイサはそう自分を落ち着かせる。
「・・・で、私に何ができるって言うのさ。」
「あなたは、よく人の事を見ています。」
「そりゃ、そうさ。 密偵なんて仕事は、人の表情一つとっても貴重な情報源だからね。」
盗賊なんだから当たり前じゃん、とは言えなかった。
ちょっとした隙を突いてモノをいただくカッパライだった自分にとって、人の視線一つも見逃すわけにはいかない大切な情報。
それが密偵、そして瞬殺剣を扱うことにも大切な事だったのは偶然だった。
「あなたは優しい人です。 そして、誰よりも強い人だと思います。
命の大切さ、脆さを、誰よりも知っている人だと思います。
だから、隊員たちに、あなたの知っている事をすべて教えてあげてください。
新人を、単なる傭兵の駒として終わらせてはいけない。 イリアを担っていける人物へ育てていって欲しいのです。」
(私が優しい?)
そう思ったが、レイサはそれを喉元でぐっと押し込んだ。
姉も言っていた。 自分では自分は分からない。 周りの評価したものが自分であるのだと。
自分が教えられること・・・。 心構えや・・・瞬殺剣ぐらいしかない。


151: Chapter1−1:Prelude:07/07/09 23:32 ID:diVAuSm2
「教えられることなんて・・・殆ど無いよ。 傭兵に命の大切さなんて教えても、意味無いんじゃないかな。
それに、散々人を殺してきた私が教えたところで説得力無いよ。 瞬殺剣でも教える?」
「傭兵だからこそ、命の大切さを知っておいて欲しいのです。 槍の扱い方などは、時をみて私達が教えますので。
命の大切さが分かれば、自分達が何の為に戦うのか、きっとわかります。
・・・分かってもらわなければ、イリアが生まれ変わる事は出来ないでしょう。
レイサさんは、いつまでもイリアが傭兵を生業として、血で血を洗っても良いと思いますか?」
「思わないね。 姉貴みたいな人間は出ないようになって欲しい。」
ティトはレイサの即答に黙ってうなずいた。
彼女もまた、かつて戦場で同胞を何人も殺した。 そのつど、自分がイリアを支えていくからとその者たちを弔った。
そしてベルン動乱。 大切な妹シャニーすら、自分は手がけそうになった。 二度とそんな思いはしたくないし、
これからの新人にも出来る限りさせたくない。 しかし、イリアが傭兵を生業とする限り、それは叶わない。
何の為に戦っているのか、新人のうちに明確にして欲しい。 そして、イリアを変えて行って欲しい。
一人では、そんな大業は為し得ない。 でも、一人ひとりの意識が変われば、それは無理ではないはず。
意識を作るには、新人の時期が一番肝心だ。 そこで槍の扱い方だの、天馬の乗り方だのだけを教えても意味は無い。 ティトはそう考えた。
「新人は、イリアを支えていく大事な人材。 傭兵だけで終らせてはいけないんです。
お願いです、力を貸してください。 レイサさんは、誰よりも命の大切さを知っています。 それを教えてあげてください。
そして、その大切な命をぶつけ合う傭兵という仕事を、彼女らに教えて欲しいのです。」
レイサは今までずっと独りで仕事をしてきた。 誰かを従えるなどという事は初めてだった。
自分も将としては新人だった。 それがいきなり、どの部隊長よりも責の重い新人部隊を任せられるとは。
本当なら逃げたいところだ。 だが・・・この新団長からは逃げられそうに無い。 逃げることが自分の専門なのに。
「分かったよ。 できる限りはやってみる。」
承諾を得られて、ティトの顔にも束の間の笑顔が宿る。
またユーノの時のように断られたらどうしようかと思っていたのだ。 とても嬉しい。
「ありがとうございます! じゃあ、もうすぐ正式に人事を発表するので、そのまま控えていてください。」
ティトは再び団長室へと戻っていった。 独りになったレイサは
腰の両側に挿している短剣ではなく、腰の後ろに挿していた短めの騎士剣を鞘から引き抜いてみる。
それは立派な銀製の剣だった。 イリア騎士を束ねるゼロットから、姉貴が賜ったもの。
「姉貴・・・。 姉貴は本当に良い部下を持ったね。 あいつなら、手伝ってやろうと思うよ。
姉貴みたいに命令口調じゃないしね。 でも、何かと気負っちゃう性格みたいだね。 助けてやらないと。」
春を迎えたイリアの空には、雲の隙間から眩しい太陽の光がこぼれていた。
今ここに、新生天馬騎士団が産声を上げた。 そして、イリアは大きな変化の時代へと突き進んでいく。


152: Chapter1−2:誓い:07/08/27 20:51 ID:i7Dph5Uk
 イリア傭兵騎士団。 民を養う為に他国に傭兵として参加し、その報酬を祖国へ惜しみなく送る。
常に死と隣り合わせ。 だが、逃げればイリアの民は残らず死に絶える。 国を背負って騎士達は戦場に立つ。
 そんな過酷な世界へ、まだ成人して1ヶ月も経たない少女が足を踏み入れようとしていた。
一年間の見習い修行を終えた彼女は、今度の叙任式で正式なイリア天馬騎士団の一員になる予定だ。
姉の戦う姿に憧れ、自らも同じ天馬騎士の道を志した。 彼女の名前はシャニー。
短く整えられた蒼髪を揺らしながら、彼女はある場所へ向かっていた。 そこは景色を一望できる小高い丘。
「おかあさん、おとうさん。 あたし、来週から一人前の天馬騎士として認められるんだよ。 一年間、あっという間だったなぁ。」
シャニーは、一面に様々な色の花を広げる丘に作られた両親の墓に花を手向けると、祈るように話しかける。
そして、見習い修行の事を一つ一つ思い出していた。 見習い騎士とは言え、彼女はベルン動乱を鎮めた、
更には第二次人竜戦役を未然に防いだ、英雄ロイと共に戦った八英雄の一人だった。
多くのものに助けられながら、彼女は見る見る頭角を現し、大きな功績を挙げていたのだった。
「早く叙任を受けて、人々を助けてあげたいよ。」
シャニーは両親に騎士の誓いを宣誓する。 それは、騎士団で決められたものでは無い、自分だけの誓い。
ベルンに攻め込まれ、騎士団と言う騎士団は壊滅してしまった。 人々は不安な生活を送っている。
天馬騎士団も、前団長シグーネ率いる精鋭部隊は、自分達エトルリア軍が壊滅させた。
自分の同胞をこの手でしとめることなど、出来はしなかった。 しなくてはいけないとシグーネの目が怒鳴っても。
幼い騎士には、団長のその命令はあまりにも過酷だった。
叙任を受けて、イリア騎士として自覚していた姉ティトと違い、彼女にはシグーネを攻撃することなど、できなかった。
 そして戦後、ティトがなんとかバラバラになっていた天馬騎士たちを集めて天馬騎士団を再建。
天馬騎士団は、世界でも数少ない女性のみで構成される騎士団で、その大半が天馬騎士で編成されている。
自分も早く叙任騎士として世界を巡り、人々を助けたい。 そう彼女は思っていた。
圧倒的に人手不足となった天馬騎士団、そして自分のベルン動乱での功績。
憧れの第一部隊 ―団長配下の精鋭部隊― に入れる事だって夢では無い。
自分が配属されるのはどの部隊だろう。
「よぉし、やる気になってきたぞ! さっそく帰って剣の稽古だ!」
彼女は両親の墓を後にすると、ダッシュで家のある村まで帰っていった。
何も知らない。 傭兵と言うものの大変さ、虚しさ、そして儚さを。 見習いでは分からなかった悲しさを。
それを知らない穢れなき『色』を持った少女が、イリアの寒空の下で懸命に咲く花達の中を、颯爽と駆けて行った。

 その途中でも、彼女は今までの事を思い出していた。 特にシグーネと師匠のこと。
名前で呼ばれた事はなかったが、一人カルラエ城の隅で棒切れを振り回す自分を、度々指導してくれていた。
一人では寂しくなって、姉のいるカルラエ城まで幾度となく足を運んだ。
だが、その都度関係者以外は立ち入り禁止と言われてしまい、姉に甘える事が叶わなかった。
姉の帰りを待ちながら、他の騎士が鍛錬する様子を見て、見よう見真似で棒切れを槍や剣に見立てて振り、練習したものだ。
いつか、自分があそこにいる騎士達と同じ立場になったときの為に。
憧れの天馬騎士に、一日も早くなりたくて。
「あんた・・・ユーノの末妹じゃないか。 何やってんだい? そんなとこで。」


153: Chapter1−2:誓い:07/08/27 20:52 ID:i7Dph5Uk
シグーネだった。 いきなり怖そうな天馬騎士に話しかけられて、シャニーは体を縮こまらせた。
だが、ユーノがやってくれるように頭を撫でてくれた為に、いつものような人懐っこい笑顔をシグーネに見せる。
「あたしね、おねえちゃんを待ってるの。」
「あぁそれは分かるよ。 でも、棒切れを振り回したりして何やっているんだい?」
「あたしね! おねえちゃんみたいな天馬騎士になるんだ。 だから、その練習。」
シグーネはそのまま黙ってみていた。 他の騎士がやっているのを見てやっているだけの割には筋が良い。
やはりユーノの妹。 もしかすると良い騎士になれるかも知れない。
しばらくして、シグーネは城へ歩いていき、そしてすぐ戻ってきた。
「あんた、マメだらけじゃないか。 ほら、籠手つけて槍は振るもんだよ。」
彼女は素手で棒切れを振るい、マメやササクレで赤く染まったシャニーの手に気付いていた。
それから彼女は、ユーノが迎えに来るまで一緒に練習してくれた。
「細っこい体だねぇ。 そんなんじゃ槍に潰れちまうね。」
「あうぅぅ・・・・・。」
シグーネにホンモノの鋼製の槍を持たされたシャニーはふらついていた。
すぐに取り上げられ、今度は剣を握らされる。 槍に比べれば軽いものの、やはり重い。
「ふんっ・・・ふんっ!」
「こら、そんな肩に力入れて振ってたら懐に入られるよ。 ・・・こいつは結構イジメ甲斐のあるタイプかもねえ。」
それから毎日、彼女に特訓してもらう事が日課となっていた。
ユーノにはあまり彼女に手をかけさせてはいけないと言われたが、シャニーはシグーネのことが好きだった。
城ではシグーネに、家では姉二人に槍術を習い、彼女はみるみる成長していった。
そしてその後、彼女も見習い天馬騎士として世界へ羽ばたき、ロイ率いるエトルリア軍で修行を積んだ。
他の天馬騎士では経験できないような、転戦に転戦を重ねた激戦。 彼女は実戦の中で才能を開花させる。
自分を受け入れてくれた傭兵団の仲間が良い人間ばかりであった事もそれを助けた。
シャニーはその傭兵団のリーダーに憧れた。 強くてかっこよかった。 彼の名はディーク。
手負いの虎と噂され、名前を聞くだけで兵が逃げ出すほどの実力を持った傭兵。
シャニーはディークを師と仰ぎ、剣を習った。 実践タイプだったディークには、活発なシャニーの扱い方も良く分かっていた。
「おい、剣はそんな風に扱うんじゃねーよ。 槍じゃねーんだから。」
「え?」
「もっと広く使うんだ。 攻撃の時は切っ先で、受けるときは根元で受けろ。 最初は怖いかもしれないがな。」
言われてもイマイチ納得できなさそうなシャニーに、ディークは剣を抜いた。
そして、彼女に向かって一気に切りかかった。 避けられないように、意表を突いて。
「うわっ?! な、何するのよ! 殺す気ぃ!?」
「そうだ。 分かってんじゃねーか。 もう少し根元で受けるようにしろ。 お前は力が無いから、先で受けるとそのまま剣を弾き飛ばされるぞ。」
ディークも、自分の事をかなり気遣ってくれていた。 本当に色々教わった。
戦いの心構え、傭兵としての心構え、剣の扱い方。 それだけじゃない。 自分の視野がかなり広がった気がする。
自分が激戦を生き残り、こうして修行を終えられたのも、ディークに助けてもらったからだ。
「お前は救いようもねぇバカだが、光るものをもっている。 他のヤツがもっていないぐらい眩く光るものがな。
皆が願っても手に入らないものを、お前は持っているんだ。 お前はそれをしっかり磨いて、皆の為に使え。
俺には剣しかねぇが、お前はそうじゃない。 これからお前が入っていく世界は、お前にとっちゃ過酷過ぎるかもしれねぇ。
だがな、それはお前が選んだ道だ。 そのなかでも、自分を、光るものを失うんじゃねーぞ。」
それが、師匠と別れるときに貰った最後の言葉だった。
シグーネからはイリア騎士の宿命を、ディークからは傭兵としての心構えやいろいろなものを学んだ。
そして二人から、優しさや人を育てることの大切さを学んだ。 そして、今自分は叙任騎士になろうとしている。
様々な事を吸収し、自分は強くなった。 騎士としてだけではなく、人としても。 もう一人前だ。
これからはもう誰かに甘えてちゃいけない。 自分を守ってくれる人はいない。
自分は、逆に民を守る側に立ったんだ。 恩返ししていかなくちゃ。
シャニーは自分に色々言い聞かせながら、村に帰って行った。
「いちにんまえ」と言う言葉に半場酔いしれながら。


154: 手強い名無しさん:07/08/28 00:00 ID:U5Srv1ho
アップしたならageればいいのに
もったいない

155: Chapter1−2:誓い:07/08/28 20:19 ID:brTI0f32
「おかえり、シャニー。」
彼女を出迎えてくれたのは、幼馴染のウッディだった。
「たっだいま! ウッディじゃ剣の稽古の相手にはできないぁ。 ねぇ、セラは何処?」
「さぁ。 それにしても・・・本当に騎士になっちゃうんだね。」
彼は残念そうにシャニーを見る。 やや凛々しくなったようにも見えるが
彼にとっては、シャニーは今でも幼馴染だった。 近くにいるのに、何か遠い人になってしまったようにも感じる。
「うん、昔からの憧れだもん! ウッディのほうはどうなのさ。」
「僕も、来週天馬騎士団に入隊するんだよ。」
幼馴染の意外な言葉に、シャニーはややオーバーリアクションとも取れるような声をあげた。
「えぇ!? ウッディ・・・オカマにでもなるの?」
無理も無い。 天馬騎士団は、女性のみで構成される世界でも珍しい騎士団だ。
稀に男の古代魔法使いや弓兵が入隊する事はあるが、彼にそれらの才能があるとは思えない。
ということは・・・天馬騎士になるのだろうか。
「シャニー。 戦いは騎士だけでやるものじゃないって習わなかったっけ?」
「え? えーと・・・。 じゃあ、あんた魔法使いにでもなったの?」
「君達騎士が深く傷ついたら、誰が治してくれるの?」
考え込むシャニーに、ウッディは呆れたように問いかける。
あまたの戦線を潜り抜けてきたと豪語していた彼女なのに、答えが出てこない。 やっぱホラだったのかと彼はシャニーを見つめた。
第一、彼にはシャニーがベルン動乱を鎮めた英雄の一人だなどと、到底信じられなかった。 こんなお調子者が。
「軍医でしょ? 僕は天馬騎士団の軍医見習いになったんだよ。」
シャニーは手を打って分かった事を彼に伝える。
そういえば、自分が騎士見習いの修行に出るときも、彼は両手に一杯の本を持って見送ってくれた覚えがある。
その時も彼は騎士見習いにはならず、軍医になるべく勉強をしている身だった。
軍医になる条件で、彼は奨学金まで貰っているから、勉強をやめるわけにはいかない。
シャニーにとっては、無理矢理勉強させられているかわいそうな奴だった。
「だから、これからずっと君と一緒さ。 ばっちし怪我してくれていいよ。 僕が直してあげるからさ。」
「バカ言わないでよ! そう簡単にケガなんて出来るわけないじゃん。 この白い柔肌が・・・!」
「はいはい・・・。」
シャニーの言葉を彼は軽くあしらうと、横で鉄製の剣を振るうシャニーを眺めていた。
剣を持っているときは・・・別人のようにウッディにはシャニーが映る
つい最近まで、棒切れでチャンバラゴッコしていたが、彼女が今もっているのは真剣だ。
(やはり、本当に騎士になってしまったんだ。)
ウッディは現実の前に天を仰いだ。


156: Chapter1−2:誓い:07/08/28 20:26 ID:brTI0f32
彼の前では天真爛漫な女の子だ。 だが、彼女はイリアの天馬騎士、女傭兵として世界を飛び回ることになる。
何か可哀相にも思える。 もし他の国に生まれていれば、今頃は普通に田畑を耕し、実りある生活を送っていただろう。
それが、毎日命を危険に晒す傭兵として、これからは生きていかねばならない。
不憫だと思った。 不公平だと思った。 どうして、イリアに生まれた彼女は
他の国に生まれた女の子と同じように、穏やかな生活を送れないのか。
(エリミーヌ様は、どうしてイリアにだけこのような過酷な試練をお与えになるのだろうか。)
しかし・・・嘆いてばかりはいられない。 自分には武の才が無い。
でも、彼女を助けたい。 その一心で、自分は軍医を目指した。
そして、今見習いではあるけれども、ようやく彼女を助けることが出来るようになった。
――これからはずっと一緒さ。 でも、できれば僕のところには来て欲しくない。 苦痛に顔を歪ませる君の顔は見たくない・・・。
「あ!」
目の前で金属が弾け飛ぶ音がして、ウッディはびっくりして現実に引き戻された。
見ると自分が座っている目の前に、先程シャニーが振っていた剣が刺さっている。
「だ、だいじょうぶだった!? ケガ無い??」
どうやらシャニーの手から剣がすっぽ抜けて飛んできたらしい。 ・・・血の気が引いた。
「・・・生きた心地がしない。 ん?」
シャニーの手に目をやってみる。 彼女の左手はマメだらけだった。 余程鍛錬しているのだろう。
普段は明るくて、陽気な彼女だが、一度集中すると人が変わった様に打ち込む頑張り屋でもあった。
単に周りが見えなくなるだけとも言うのだが・・・ウッディはそんな彼女を応援したかった。
そして、失いたくなかった。 大切な友達、幼馴染・・・。
「手を診せてみなよ。 沁みるけど我慢して。」
「あぅ!」
ウッディは持ち合わせていた手製の傷薬で彼女の手を治療する。
彼女が悲鳴を上げるのを楽しむかのように、彼は薬のついたガーゼを破れたマメに押し付けてやる。
「シャニー。 沁みるって事は、生きてる証拠だ。 命を粗末にするようなことだけはしないでくれ。 約束だぞ?」
「わ、わかってるよ。 あたしはあんたと違って、もう一人前なんだからね。」
いきなり彼にお説教をされたシャニーは、ウッディの優しさを知りながら、ぷいっと顔を背けた。 元気な証拠だ。
彼は無言で笑みを浮かべる。 こういう顔が見られるなら、彼はシャニーに嫌われても良かった。


157: Chapter1−2:誓い:07/08/31 00:58 ID:04b5b11U
「あ、こんなところにいた!」
二人の元に、元気な声が聞こえてきた。 彼らのもう一人の幼馴染、セラである。
彼女は手を振りながら、笑顔で寄って来るも、ちょっと距離を開けたところで立ち止まった。
「あ、セラじゃん。 どーしたのさ、そんなとこで。 こっち来なよ。」
シャニーが手招きするも、彼女は近寄ってこなかった。
セラは、いかにも悪意ある笑顔を作ってシャニーに話しかける。
「あんた達の邪魔しちゃ悪いし、いいよ、いいよ。 どうぞそのままごゆっくり〜。」
意識とは無関係に、シャニーの口からは反論が飛び出す。
「ち、違うもん! 別にあたしはウッディとは何の関係も・・・!」
セラは、来たと言わんばかりに焦るシャニーへ言い返す。
「私、別にあんたとウッディに何か関係あるとは一言も言って無いけど?」
シャニーは悪癖の早合点でまた赤っ恥をかいてしまった。
やっと治療を終えたウッディに八つ当たりして憂さを晴らす。
「もう! あんたがさっさと治療しないから誤解されたじゃない!」
「いてて! セラは、僕が君を治療する邪魔をしちゃいけないって気遣ってくれたんじゃないか。 だから丁寧に・・・。」
「あたしはそこまでヤワじゃないもん!」
「・・・さっきは柔肌云々言ってたくせに。」
「それは・・・。 あー! もう、あんた達って性格悪すぎだよ!」
シャニーは堪らず、下を向いて膨れ面を作った。
二人とももう十年以上の付き合いのある仲間だ。
シャニーをからかうと面白い事も、二人はよく知っていた。
いつもどおり彼女で遊ぶことが出来、二人は腹を抱えて笑ってしまう。
彼らには、シャニーが王族関係者で先のベルン動乱での功績から聖天馬騎士の称号を授かっている身とは到底思えなかった。
当のシャニーも、毎度のことなのにハメられてから気付いて地団駄踏むのだから、オモチャにされても仕方が無い。
「あはは! あー、おもしろ。」
「ふふふっ、腹がよじれるよ。」
笑いまくる二人を、シャニーは顔を真っ赤な顔を膨らせて睨んでいた。
でも、シャニーもどこか嬉しかった。 戦争が終って、故郷に帰るとき、仲間の安否が本当に気になった。
戦争中は、自分のことで精一杯だったが、戦争が終ると途端に、故郷の人々が心配になってきた。
亡くなってしまった人も当然いたが、自分の大切な親友達は生き残ってくれていた。
また幼い頃と同じように皆で笑っていられると思うと、これからの不安も多少なりと払拭できた。
知らないうちに、シャニーも笑っていた。 何でだろう。 自然に笑顔がもれる。
「それにしても、またあんたの笑顔を拝めるとはね。」
「何よ、神様でも見るみたいに。」


158: Chapter1−2:誓い:07/08/31 01:01 ID:04b5b11U
セラの言い草に、シャニーもおかしくてついつい声をあげて笑ってしまう。
「いやぁ、あんたのその抜け面に、昔は結構元気を貰っていたからね。 戦死してたら・・・どうしようかと思ったよ。」
抜け面と言われてまた怒ろうかと思ったが、セラのいつもと違う様子にそれをやめた。
彼女も彼女なりに、自分を心配してくれていたのだ。 自分だって、彼女のことを心配していたし。
ウッディに至っては何も出来ないヤツだから、故郷に帰るまでの間、ちゃんと何か食べているかすら心配だった。
「僕は・・・何もしてあげられなかったけど、毎日欠かさず二人の無事をエリミーヌ様にお祈りしていたよ。」
「あたしだって、みんなの事、心配だった。 みんな無事でよかったよ。」
シャニーの口から、自然とそんな言葉が漏れた。 無事でよかった。
今まで言われる側だったけれど、もうこれからは自分も一人前。 相手を気遣う必要も出てくる。
でも今の言葉は、必要に駆られて出てきたのではなかった。
こういった言葉は・・・意識して言う言葉ではないのかもしれない。 シャニーはそう思った。
みんな大切な仲間。 こいつらだけじゃない。 イリアに住む人みんなが無事であれば、どんなに嬉しいだろうか。
でも、イリアは傭兵の国。 みんなが無事という事はまずありえない。
ティトの部下の人たちや、シグーネが戦死してしまったことが、何よりの証拠だ。
だから彼女には、こうやってみんなで笑っていられる時間が、今までより凄く貴重に思えた。
他の二人にしてもそうだった。 極寒の傭兵国家イリアにおいては、ストイックな考えがどうしても先行する。
そんな中で、いつでも笑顔を振りまいていたシャニーは、大人にも仲間にも春の日差しのようだった。
だから失いたくなかった。 皆が皆、お互いを必要としていたのだ。
「ねぇ、セラ。 セラは何処に見習い修行に出ていたの?」
「私? 私はエトルリアの貴族の屋敷に行ってた。
アクレイアでちょっとした戦いがあったけど、騎士団はその争いには参加しなかったの。 だから運が良かったかも。」
アクレイアでの戦い・・・。 それはどう考えても、クーデター派とベルン南方軍の連合軍相手に
自分がロイ率いるリキア同盟軍に所属して戦った、王都奪還戦である。
一歩間違えば・・・親友と剣を交えていたかもしれない。 考えたくも無い。
もしそうなった時、自分は親友と戦えるのだろうか。 自分は姉のように強く無いから、逃げ出してしまうかもしれない。
しかしそれは、イリア騎士の誓いの中でもタブーとされることの一つ。
例え同胞同士が主を違え、戦場で戦うことになっても、最期まで主の命に背いてはならない・・・。


159: Chapter1−2:誓い:07/08/31 01:05 ID:04b5b11U
「ねぇ、セラ。 もし・・・、あたしと戦場で剣を交えることになったら、どうする?」
唐突な質問にも、セラはさらっと答えた。 自分も、聞きたいことだったから。
「・・・そのときは、あんたを殺すかもしれない。 イリア騎士の誓い・・・。 私たちは逆らうわけには行かない。」
「そう・・・だよね。」
沈み込むシャニー。 分かってはいても、やはり避けたい。
怖いのではない。 それでも、すくんで動けなくなってしまう。 姉を相手にしたときも、シグーネを相手にしたときもそうだった。
すくんだ自分を、二人ともイリア騎士として戦わせた。 その後は、同胞の天馬騎士を相手にしても、何とか戦うことが出来るようにはなった。
だが、それは同胞でも知らない人だったから。 家族も同然の人たちを殺せるだろうか・・・。
――出来ないでは済まされない。 イリア騎士なら当然に出来なくてはならない―― 姉の言葉が蘇った。
「あたしは・・・出来ないかもしれない。 あんたを戦場で見かけたら、逃げ出すかもしれない。
たとえ・・・ルールに反しても、あたしには・・・。 だって、あんたはあたしの・・・大切な・・・!」
泣きそうになるシャニーをセラが支える。
分かっている、そんな事は。 自分だってしたく無いし、ましてシャニーのような甘い性格なら、その選択は過酷過ぎる。
(あぁ、あんたはイリアに生まれてきちゃいけないヤツだったのかも知れないね。 もっと心を殺せる人間じゃないと・・・。)
セラは自分も泣きそうになるのをぐっと堪えた。
「ね、もし戦場であっても、できるだけ戦わずに済む方法を探そう?
あんたの姉さんとゼロット様も、そうやって戦闘を回避して番になったんじゃない。 あたし達にだって出来るよ。」
「うん・・・。 そうだね。 そろそろ暗くなってきたし・・・帰ろうか。」
シャニーとセラは肩を寄せ合いながら自宅へと帰って行く。
彼女らの背にのしかかる重荷は、あまりにも大きすぎて、重すぎて。
姉に憧れて天馬騎士を志した。 その道は、相手は勿論、自分の心すら殺さなければやっていけない厳しい世界。
ましてあんな性格だ。 自分の確固とした考えを持っている者ほど、自らの考えと相反するものを掟だからと割り切る事は難しい。
その考えが、現実と違えば違うほど、苦しむ。
「間違っているよな・・・。 誰もが間違っていると思っていても、肯定しなくちゃ生きていけないんだ・・・。
何とか・・・何とかなら無いのか。 僕は、またしても彼女らの力になってあげる事は出来ないのだろうか。
こんなに、こんなに大切な親友が、あんなに悩んでいるのに。 変えられないのか・・・この曲がった理を・・・!」
雪が降り始めていた。 その中を歩く二人の姿を、ウッディはずっと見つめている。
拳には力が入り、いつの間にか壁を殴りつけていた。
戦争が終って、どの国も新たな理を引いた。 イリアだけ、イリアだけ従来どおりでいいのか。
今までも一番曲がったものを理としてきたこの国が!
しかし、エリミーヌは見捨てたわけではなかった。
どこかの高僧が戦時中に残した言葉にこんなものがある。
― 神が人を救わないのは、神が人を信じているからだ ―
今、イリアの騎士団には、国を変える力を持った若者達が集結しようとしていた。
考え方や手法は違えど、目指すものは唯一つ。 それは・・・。


160: Chapter1−3:叙任:07/09/30 18:31 ID:3xzU7.ic
 翌日、三人は軍服に着替えて外で待ち合わせをすることにしていた。
シャニーは、新しくデザインされた軍服を着、剣を腰に差すと、
帰省してすぐに姉から貰った、叙任騎士の証でもある天馬騎士団の紋章が入ったマントを羽織る。
何か気が引き締まるものを感じる。 鏡に映る自分が、ちゃんとした騎士に見える。
もう、後戻りは出来ない。 もう、村一番のやんちゃ娘には戻れない。
これからはイリアを支える天馬騎士団の一員として、敵と、そして自分と戦っていかなくてはいけない。
 ふうっと深呼吸し、ふともう一度鏡を見ると、そこに母がいたような気がした。
責任感が強くて、いつもイリア騎士の誓いを幼い自分に言い聞かせてくれたらしい。
物心がつくかつかないかの自分を残して逝ってしまった両親だが、顔はうっすらと覚えている。
ユーノにもよく言われていた。 自分の目元が母親にそっくりであると。
明るかったけど、しっかりとした自分の考えを持って生きていたそうだ。
そんな母や姉と同じ道を、自分は歩んできて、これからも歩んでいくのだ。 もう、甘えてはいられない。 そう言い聞かせた。

――イリア騎士として何があっても、命を危険に晒しても、仕事を投げ出していけない。
そして、自分の考え、自分なりの誓いをしっかりと持ちなさい。 自分の拠り所となるものを、明確にするのよ。――

あのころは、うんうんと聞いているだけだったが、今になってようやく、母の言葉が分かる。
「あたしの誓い・・・それは、イリアのみんなが、戦わなくても幸せに暮らせるようにしたい・・・いや、してみせる!
でも、そのためにあたしが戦わなくちゃいけないんだよね・・・。 なーんかムジュンしてる気もするけど。
うーん、でも、おねえちゃんみたいに、自分が頑張ってみんなを助けるって言うのも悪くないかなー。」
彼女にとって、ユーノこそが憧れの対象であり、目指すものだった。
姉のやっている事は、どれも必ず正しい事で見習うべき事。 そう信じて疑わなかった。
だが・・・それをユーノはどう思うだろうか。

「お待たせ!」
シャニーが待ち合わせ場所に行くと、もう二人は自分の事を先に来て待っていた。
二人とも、昨日あったときのような平民服ではなく、自分と同じ軍服。 別人にでも会っている様な気がする。
「へぇ・・・。 馬子にも衣装って言うけど、本当だね。」
「なんだとぉ!」
ウッディは、シャニーは村の学問所でずっと寝ていたし、どうせ諺を使っても分からないだろうと思った。
だが、彼女には珍しく反論してきた。 彼は 「それほどでも!」 と返して欲しかったのだが。 面食らった。
「うわ、シャニーも諺知ってたんだ。 すごいじゃん。」
セラも便乗してからかいに入る。 朝っぱらから緊張感の無い連中である。
「知ってるよ! だって、見習い中にも傭兵団に人に言われたし!」
「・・・。」
(何処に行っても同じ事言われているのかよ・・・。)
そうとは言えず、セラもウッディも黙ってしまった。
シャニーも、ディークに言われた時は褒められたのだと思った事は黙っておいた。
 三人は皆が集まったので、叙任式に参加するべく、カルラエ城へと向かう。
今までは関係者以外立ち入り禁止だった城へ、関係者として堂々と入場することが出来るようになるのだ。
一度だけ、見習いの手続きをする為に入場した事はあったが、こうやって軍服を着て
武器を腰に差して入っていくのは初めてだ。 妙に緊張してきた。
手洗いに行っておけばよかったと周りをきょろきょろと振り向く。


161: Chapter1−3:叙任:07/09/30 18:35 ID:3xzU7.ic
「はーいはい、新人さんだね。 あんた達はこっちに来て、前から座っといて。」
到着すると、何か騎士というより盗賊のような格好をした人が
まるで客寄せでもするかのように声をあげて、自分達や、他に到着した新人達を席へとつかせている。
ウッディは自分達とは違う列に案内されていった。 自分達の周りに居るのはきっと天馬騎士ばかりなのだ。
それにしても・・・女ばかりの中に男が居ると、やはり目立つ。 皆もついついそっちを見てしまっていた。
シャニー達はその正体が分かっているせいで、彼には興味はわかず、先程の女性に視線を向けていた。
「なんだろ、あの人。」
どうみても盗賊風の格好に、天馬騎士団のマントを羽織っているだけのあの女性。
セラはついつい隣のシャニーに話しかける。 自分達は席の一番先頭列だというのに。
「さぁ、人手不足で盗賊にも手伝ってもらってるのかな。」
「そんなわけ無いでしょ。」
「だよね、あはは。」
「・・・お前達、静かにしてもらえないか?」
突然の声に、シャニー達は目線をその声の主の元へ向けた。
声の主は、セラの横にいた同じ新人の女性だった。
短く切り揃えられた、イリアには珍しい炎のような赤髪の間から、鋭い視線が真っ直ぐこちらを突き刺してきていた。
「ごめんなさい。」
シャニー達は謝るが、その声にその女性は返さなかった。 ―分かればいい― そんな様子が滲み出ている。
二人にとってはバツが悪いが、この場から立ち去るわけにも行かず、妙な緊張感が二人を包んだ。

 叙任式が始まると、まず団長が出てきた。 シャニーは出てきた女性を見て思わず声をあげそうになった。
そこには、自分の知るよりも格段に凛々しく見える、姉ティトの姿があったからである。
噂では、ユーノが団長の座に就くのではないのかと言われていたから、シャニー以外にも驚いた新人はいたようだ。
ティトは他の叙任騎士や部隊長と少々色の違う軍服を身にまとい、マントには、団長の証である
あの大きなブローチを止め具として用いていた。 自分の姉では無いような感じすら、彼女は漂わせていた。

「今日から、私たちと同じ夢を志す者として、貴女方を天馬騎士団に迎えることが出来て光栄に存じます。
一年の見習い修行に間に、きっと色々なご経験をなさったと思われます。
しかし、それらはこれから貴女方が踏み込もうとしている世界の、ほんの序に過ぎません。
これから色々辛いことがあるでしょう。 しかし、イリアを支える騎士として、誇りと勇気を持って、世界に向けて羽ばたいていってください。
そして、命を大事にしてください。 傭兵に出るという事は、必ずしも死ぬことを意味するのではありません。
生きて、イリアの発展に力を尽くしてください。 イリアは生まれ変わらなければならないのです。
私たちは、夢を共にするイリア騎士。 先輩も後輩もありません。 分からないことや意見があれば、どんどん発表してください。
イリアもまた、他の国同様、生まれ変わらなければならないのです。 そのためには、貴女方の若い力が必要なのです。」
 団長の祝辞が終ると、皆からはいっせいに拍手が送られた。
シャニーもまた、姉に睨まれながらも手を振りつつ、彼女へ拍手をした。
そのシャニーがふと横を向くと、先程の赤髪の天馬騎士は拍手をするどころか、舌打ちをしていた。
「・・・。 イリアも生まれ変わらなければならない・・・。 当たり前だ。 こんな腐った国・・・必ず・・・!」
シャニーはぎょっとした。 赤髪の女性の目線は真っ直ぐ団長や部隊長などの幹部に向けられ
凄まじい形相で睨みつけていたのだ。


162: Chapter1−3:叙任:07/09/30 18:47 ID:3xzU7.ic
(・・・こいつ、近寄らない方がいいタイプかもしれない。)
そう考えながら相手の目を見ていたら、相手に気付かれたようだ。 鋭い視線が今度は自分に注がれる。
「!」
シャニーは焦って視線を逸らした。 そして、もう一度そちらを見ると、彼女は自分のほうを見て笑みを浮かべていた。
(・・・やっぱり、何考えてるか分からない。 当たり障りの無い程度に接しておこう・・・。)
シャニーの勘が警告を発していた。
 先輩達のありがたい言葉やら何やらが続いて、シャニーはついつい居眠りをしそうになる。
こういう風にじっとしているのは苦手だ。 何度セラに足を踏まれて起こされただろう。
そのたびに壇上からティトが睨んでいるのが分かった。
そして、式も後半に差し掛かり、新人達がイリア騎士の誓いを皆で宣誓するところまで来た。
ティトが壇上へ上がり、新人の代表者― 新人でも一番見習い時に功績を挙げた者 ―もその団へ上がるはずだ。
シャニーは自分の名前が呼ばれるのをワクワクしながら聞いていた。
何と言っても自分はベルン動乱でずっとロイの傍で戦い、それを鎮めた英雄の一人と皆に賛辞されていたのだから。
姉の前で騎士宣誓をするのは少し恥ずかしいけど、姉に自分が一人前になったことを見せ付けることが出来るのだ。
昨日しっかり誓いを言う練習もしたし、準備は万端だ。
「新人代表・・・アルマさん。」
シャニーも、セラも顔が引きつった。 引きつったと言うより、頭が真っ白になった。
自分より功績を挙げたヤツがいる・・・? 自分より、上がいる?
あれだけ、あれだけ死ぬ気で戦ったのに、姉はまだ自分を認めてくれていないことになる。
 名前を呼ばれて立ち上がったのは、自分の横にいた、あの赤髪の子だった。
彼女は名前を呼ばれるときっと団長を見据え、そのまま静かに、しかし力強く壇上へと登っていく。
「あいつ・・・ベルンに修行に行って、動乱でエトルリア軍と直接戦って唯一生き残って帰ってきたヤツらしいよ・・・。」
後ろから声が聞こえる。 自分達と戦って、生き残って帰ってくる・・・。
見習いの身で、正規軍を相手に遜色ない戦い方をする。
(でも、でも自分だって、相手はベルン正規軍だった。 なのに、なんでおねえちゃんは・・・。)
シャニーの頭の中は、それがぐるぐる回っていた。
皆が壇上の代表― アルマ ―の後に続き、イリア騎士宣誓を行う。
傭兵として、決して雇い主を裏切らず、最期まで使命を全うする事。 例え戦場で同胞を見つけても、敵であるなら容赦しない事。
イリアの民を大事にする事・・・などがあった。 シャニーは二つ目の誓いは黙っておいた。 守ることも出来ない誓いなど・・・出来ない。
セラは、そんな親友の様子を見て、その気持ちが痛いほど伝わってくるのを感じた。
(昔から思ってたけど、コイツは自分の考えを曲げないなぁ・・・。 芯が強いというか、ガンコというか・・・。
前には団長とか居て、宣誓してなければばれそうだ。 それでも、コイツは言わなかった。 ・・・私より強いかも。)
セラはそう思いつつも、敢えて宣誓を行った。
(だからこそ・・・戦いを避ける方法を探さなくちゃいけないんだ。
シャニー、考えよう、その方法を。 仲間同士で殺しあわなくちゃいけないようなことがなくなるような方法を。)
 そして、騎士宣誓も最後の段階を迎えていた。 「イリア騎士として、自分のためではなく、国のために戦うこと。」


163: Chapter1−3:叙任:07/09/30 18:53 ID:3xzU7.ic
そのとき、誰もが予想だにしないことが起きた。
この場所に聞こえるはずのない高い音が突然響く。
壇上に居たアルマが、宣誓の書いてある紙の一部を破り捨てたのである。
「!?」
一同は騒然となる。 もちろん、ティトも目の前で起きた突然のハプニングに、動揺を隠せない。
「お騒がせして申し訳ありません。 しかし、守る気も無い誓いを宣誓するほど、私も卑屈ではありませんので。」
余計に講堂は騒然となった。 新人がイリア騎士の誓いを拒否するとは、前代未聞だ。
慌ててイドゥヴァがアルマのところへ駆け寄る。
「君、なんてことを言うの? 新人ならほら、早く宣誓しなさい!」
彼女はイドゥヴァを睨みつける。 自分よりはるかに若いアルマの目に、イドゥヴァ威圧感を感じて一歩引いた。
アルマは彼女の方から視線を外すと、ティトに一礼する。
「代わりに、私個人の騎士宣誓をします。
この腐った国を、他国に負けない強国にすることに、私の持てる力すべてを、命ある限り注ぎます。 以上です。」
彼女は再度、団長に一礼すると、静まり返る講堂の中を静かに歩いて、自分の席まで戻った。
ティトは、彼女が席につき終わるまでずっと彼女を見ていた。
「団長、お騒がせして申し訳ありません。」
「謝らないでください、イドゥヴァさん。 求めているものは・・・きっと同じです。」
それだけ言うと、ティトもまた席につく。 また、何事もなかったかのように式が続けられた。
シャニーはアルマのことが凄いと思った。 堂々と人前で、あれだけ型破りな行動に出ることが出来るなんて。
(あたしは・・・宣誓代表にならなくて良かったのかもしれない。)
もし、自分なら・・・あそこでアルマのように、誓いたくない誓いを誓わないと言ってしまえただろうか。
誓えば、その誓いに一生縛られることになる。 シャニーはこの時、初めて同世代で尊敬できる相手を見つけた。
しかし、周りはそうは見ていなかった。 規律に従えない愚か者。 そう感じ取った。
特に先輩騎士達は、生意気なあの赤髪に、敵意すら感じ取っていた。 自分達の世界を壊そうとしている人間が入ってきた・・・と。

 式が終わり、いよいよ団長から配属先が発表される。
普段なら掲示で済まされるのだが、今年は戦後の次の年度という事もあって、新人数は例年に比べて極端に少ない。
ならば、団長直々に指名していきたい。 皆戦争を生き残った実力者ぞろいなのだから、とティトは幹部達を説得していた。
新人達の顔を、一人ひとり覚えておきたい・・・。 シグーネのように。
皆がどんどん、配属先を言い渡されていく。 それなりに見習い時代功績のあった者は、即戦力として部隊に配属されていった。
そして、とうとう自分の番。 さぁ、何処の部隊に所属して、何処の方面で活躍することになるのだろうか。
シャニーが胸を躍らせていると、アルマがティトから配属先を書いた紙を持って帰ってきた。
彼女の手は震えていた。 紙が握り潰れるほどに。
そんな彼女に疑問を抱きながら、シャニーは自分の番が来たので、団長である姉の下に行く。
シャニーは姉に向かってニコニコしていたが、相手はいつものようには接してこない。 ・・・当然だ。
「頑張ってね、シャニーさん。」
シャニーさん・・・姉にさん付けで呼ばれてしまった。 ここでは、自分と姉は部下と上司の関係。
―― 特別扱いはしない ――姉の顔がそう自分に語りかけている。
分かってはいるが、妙に違和感を感じる。 姉が、何か遠い人になってしまったようにも感じた。
しかし、自分も一人前の叙勲騎士。 ここは姉を安心させる為にも、凛とした態度で臨まなければならない。
「はい、ありがとうございます。 団長。」
シャニーは笑顔でティトから紙を受け取り、ティトもそれに笑顔で返した。
必死に隠そうとしているが、シャニーへと他の人へとは、笑いかけ方が違った。
妹が、騎士としてしっかり成長している。 それがティトには嬉しかった。


164: Chapter1−3:叙任:07/09/30 18:55 ID:3xzU7.ic
シャニーは席へ戻ると、早速紙の中身を空けてみる。
(第一部隊かな? さすがにいきなりそれは無いよね〜。 ワクワク・・・。 ・・・ん?!)

――― 貴下へ、第十八部隊所属を命ずる

シャニーは目を疑った。 姉は、渡す紙を間違えたのではないのかとすら思った。
第十八部隊・・・それは、今年から創部された部隊で、
人手不足で見習いを免除された実践未経験者や、修行をしたというだけであまり実績の無いものが所属する
いわゆる『新人部隊』だったのである。 信じられなかった。
ベルン動乱であれだけの功績を残した自分が、世界を救った英雄の一人である自分が
まさか、他の槍をまともに扱ったことも無いような人たちと同レベルだと、姉に思われていただなんて・・・。
もしや、さっき宣誓しなかった事を姉に見抜かれてしまったのだろうか・・・。
ティトは固い人だから、そういうところにルーズな人にはかなり厳しい。
それでも・・・あんまりな仕打ちだと思った。

 式が終ってすぐに、シャニーは姉のところへ突撃して行った。
「ねぇ! おねえちゃん!」
振り向いてくれない。 忙しそうでもないのに、彼女は自分のほうを向いてはくれなかった。
「おねえちゃんってば!」
しつこく騒ぐが、ティトは見向きもせず、式の片づけをしていた。
我慢ならなくなったシャニーは、彼女の腰を引っ張り、無理矢理こちらを向かせた。
「どうしたの? シャニーさん。」
「なんで、なんであたしが新人部隊なのよ! おねえちゃん、あたしの実力を見くびりすぎてない?!」
シャニーから予想通りの質問が飛んできた。 その目は自分への怒りに満ちている。
「じゃあ、逆に問うけど、貴女は自分を買いかぶりすぎてない?」
「え・・・?」
自分を突き放すような姉の言葉。
「確かに、貴女はベルン動乱で大きな功績を挙げた。
エトルリアでもロイ様を助けた仲間として、史実に名を刻んだようね。
でも、今の貴女はそれだけ。 剣や槍を扱うことに長けているだけ。 本当にそれだけだわ。」
姉に予想だにしない強硬な態度を取られ、シャニーは縮こまってしまった。
精鋭部隊でやっていけるほどの剣と槍の腕は、姉も認めているのだ。
実力を認めていて何故・・・。 シャニーの頭にはそれしかなかった。
「今でも、貴女は私の事をなんて呼んだの?」
「え? あ・・・おねえちゃんって呼んだ。」
シャニーは言われて初めて気付く。 ここは騎士団。 そして、姉と自分は完全な上下関係にある。
相手は団長。 仕事中は姉ではないのだ。
「でしょ? 基本すら分かっていない貴女を、今実戦に出したらどうなる?」
「・・・。」
「貴女が今他国に行って売ることが出来るのは、イリアの恥だけよ。」
「な・・・っ!」
シャニーはついつい反論しようとした。 だが、よく考えてみた。
今の自分の言動を考えて見ると・・・姉の言う事は否定できない。 悔しかった。


165: 手強い名無しさん:07/12/30 17:58 ID:cw
何このハイクォリティーな小説

166: Chapter1−3:叙任:08/01/22 22:54 ID:3A
「分かったら、基礎を学んでいらっしゃい。 よろしい? シャニーさん。」
「はい・・・。 了解しました・・・。」
シャニーは胸に痞える悔しさをぐっと押し込めて、その場を後にした。
その様子を姉として見送るティト。 そこに突然現われる、一筋の黒い風。
「団長、いいのかい? 実の妹にそんな酷い事言って。」
「レイサさん。 良いんです。 あの子はあのぐらい言わないと、分からない子ですから。」
レイサは笑ってしまった。 彼女はは自分にそっくりだとも思う。
自分も、姉に完膚なきまでに言い負かされて、ようやく動いていた。 悔しさに身を震わせた覚えがある。
「あんた、誓いを言わなかったこと、怒っているのかい? あの赤髪の子も新人部隊に配属したんだろ?」
ティトにはすべて見えていた。 シャニーが誓いの一部を宣誓しなかったことも、アルマが配属先を見て体を震わせていたことも。
新人達の顔を少しでも多く覚えたくていろいろ見ていたのだ。
「いいえ、シャニーが宣誓をしないことぐらいは分かっていました。
あの子は、ああ見えて結構自分の考えを持っていて、なかなか曲げようとしないので。
でも、あの子達を新人部隊に配属したのは、もっと違う理由です。」
「へぇ、何さ?」
「私は以前言いましたよね? イリアは変わらなければならないと。 
なら、新人でも一番報酬を稼げそうな二人を、わざわざ新人部隊に配属した理由。 レイサさんなら、きっと分かってくれていると思いますが。」
ティトの言葉に、自分の任務の重さを再確認したレイサは、硬い空気を嫌って笑ってみせる。
この団長がこう言って、自分にこの任務を任せてくれたのだ。 きっといい結果を出してみせようと誓う。
「へ。 分かってるよ。 じっくり育ててやるさ。 だから、あんたももう少し肩の荷を降ろしなよ?」
レイサは短剣を回転させて遊びながら、ふらふらと廊下を出て行った。
その背に、期待の視線を浴びながら。 その視線の送る主は、顔を移し中庭を歩いていく妹を窓から見送った。
(シャニー・・・やはり貴女は成長しているわ。 昔の貴女なら、きっと悔しさに身を任せて反論してきたでしょうね。
シグーネさんの言っていた、イジメ甲斐のあるタイプって言う意味、ようやく分かったわ。 頑張るのよ。)
ティトは、シャニーの吸収力の高さを知っていた。 傭兵としてだけで、新人を終らせてはいけない。
その気持ちが、シャニーを新人部隊配属へと動かしていた。
もっと色々知って、様々なことを考えて欲しい。

 思わぬ洗礼を受けたシャニー。 中庭を歩き、新人部隊の集合場所に向かうその瞳には闘志が漲っていた。
絶対に、姉がケチの付けようも無いくらいに成長して、彼女の一番隊に入ってやると。
(何さ何さ。 礼儀ぐらい、ちょっとやれば身につくはずだもん。)
彼女はそう考えていた。 だが、彼女に足りないものはいくらでもあった。
それを持ち前の吸収力を生かして身につけて欲しいと姉が願っていることに気付かずに。
 集合場所には、思ったとおり、まだ槍を持つことすら不慣れなものが一杯集まって不安げな顔をしていた。
自分も一、二年前はこうだったと思うと、シャニーは何か照れくさい。
その集団から少し外れたところに、目立つ赤・・・。 アルマが居た。
シャニーは当たり障りの無いように接しておこうと思っていた。
にもかかわらず、やはり憧れるほどの心の強さを持ったアルマに、自然と話しかけていた。
「ねぇ、あなたってアルマさんって言うの?」
「・・・そうだが? 何か用か?」
やはりぶっきらぼうな返事しか返ってこない。
しかし、シャニーには相手の気持ちが分かっていた。 アルマも不満を隠せないで居るのだろう。
「あたし達が新人部隊とか、信じられないよね!」
「ああ。 ・・・お前はどうか知らないが、私がこんな素人と一緒の部隊だなんて。 あの団長は舐めすぎだ。」
予想は的中した。 やはり配属先のことで不満だったようである。
アルマの見習いの時の事を聞いた後、自分も同じことを話した。
最初こそあまり興味は無いと言った感じだったが、人懐っこい性格のシャニーに対し、少しは心を許してくれたようだ。
剣や槍も然ることながら、この誰とでもすぐ仲良くなれる性格は、本人には自覚は無いかもしれないが
シャニーにとって、かなり大きな武器となっていた。
「そうだったのか。 お前となら稽古のレベルも合わせられそうだな。」
「そうだね。 今度一緒に練習しようよ。 もちろん、こっちがレベルを合わせる側だけどね!」


167: Chapter1−3:叙任:08/01/22 22:59 ID:3A
暫くすると、向こうから人が歩いてきた。
それは、叙任式で自分達を先導してくれた人だった。
「お、集まってるね〜。」
その女性はニヤニヤしながら、まだ初々しい顔をしている隊員たちを眺める。
「(どいつもこいつも・・・可愛い顔しちゃって。 こんなのが戦場で互いを殺しあうのか・・・。) 私はレイサって言うんだ。
今日からあんた達と行動を共にすることになったからよろしく。」
いきなりさらっと挨拶をするレイサ。 皆は意表を突かれた感じで、焦って会釈する。
「どうしたのさ、あんた達。 挨拶終ったし、とりあえず解散していいよ?」
皆は顔を見合わせる。 ここに集まるようにといわれたのは、ここに自分達の上司となる第十八部隊部隊長が来るからだった。
しかし、その部隊長はまだ現われていない。 目の前に居るのは盗賊風の人だけ。
皆はそのまま隊列を崩さないようにして待機していた。
「ねぇ・・・? どーしたの、あんた達。」
「あたし達は部隊長がお見えになるのを待ってるんですけど。」
緊張する他の新人達。 シャニーはもうこういう雰囲気は慣れていたし、周りが不安がっているのが分かっていたから、レイサに対して発言した。
「え?! いや、私がこの部隊の部隊長だから。」
皆は思わず声をあげてしまう。 どんな風貌の天馬騎士が目の前に現われるかと思ってみれば。
これを聞いたアルマは舌打ちを残して去っていった。
どこまで舐めれば気がすむのか、あの団長。 そんな思いが背から伝わってくるのをシャニーは感じていた。
彼女も、ティトが基礎から学んで来いと言うから、どんな厳格で立派な天馬騎士が部隊長なのかと思ってみれば
目の前に現われたのは、どう見ても騎士ではない、陽気な女性。
彼女もまた、へそを曲げてしまった。 やはり、姉は自分の実力を見くびっている。
「まぁ仲良くやろうよ? ということで、解散、解散。」
「あ、あの、稽古は?」
新人の一人がレイサに声をかけるが、もう彼女は木の上だった。
「稽古?」
「ほら、私たち、まだ何も知らなくて。 槍の扱い方とか、天馬の乗り方とか。」
「あ、私ね、カッパライと逃げることが専門なの。
槍の扱い方なんかこれっぽっちも知らないし、天馬なんか触った事すらないよ。 だから私に聞いても無駄。」
戸惑う新人達。 無理も無い。 部隊長から色々教えてもらえると期待していたのに
部隊長も教えられる側だったのでは、自分達はどうしていいのだろうか。
それを尋ねると、彼女は木の上から顔で向こうのほうを向くように指示した。
そこには、精鋭部隊の訓練する様子があった。 自由自在に天馬を操り、槍が自分の体の一部かと思うようにきれいな動きをする。
「あれ見ればいいんじゃない? 精鋭部隊ならきっと参考になるよ。
いいかい? 誰かにやってもらおうとか、そんな甘えた考えは捨てなよ。 強くなりたきゃ自分でなんとかしな。」
それだけ言うと、彼女は頭に被っていたバンダナを目の上にかぶせて、木の上で寝転がってしまった。
全然頼りにならない・・・。 しかたなく、新人達は精鋭部隊の練習風景を眺めていた。
シャニーも仕方なく、アルマと一緒に練習しようと歩き出した、そのときだった。
「ちょっと、そこの蒼くて短い髪の子!」
木の上から突然呼び止められる。 何かと思って後ろを振り向こうとしたそのときだった。
「!!」


168: Chapter1−3:叙任:08/01/22 23:06 ID:3A
シャニーは強烈な殺意を感じた。
意識より先に騎士としての血が剣を引き抜き、牙をむいた短剣を喰い止める。
鋭い金属音に、他の新人たちが焦ってそちらを見る。 そこにあった光景は、にわかには信じがたかった。
部隊長が、新人の一人の背に、二つの短剣を食い込ませようとしていたのだ。
その新人はなんとか剣で受け止めていた。 何が起こったというのか。
「へぇ・・・私の瞬殺剣を回避するとは。 やっぱあんた、実力はホンモノのようだね。」
「いきなり何をするんですか?!」
「あんた、シャニーってんだろ? 新人部隊なんかに入れられて不満のようだけど、仲良くやろうね?
あんただって、仲間と殺し合いなんかしたくないんだろ? 誓いを宣誓しないほどに。」
「何故、それを・・・。」
シャニーは驚いた。 
(この人、何処で自分の事を見ていたのだろう。 確か壇上には彼女の姿はなかった。 なのに、何故・・・。)
おまけに、自分の実力を知って攻撃を仕掛けてきていたようだ。 自分が不満に思っていることまで。
「なら、この部隊でしか得られないものを得るんだね。
仲間同士が殺しあうイリアなんて・・・変えたいんだろ? 私だって変えたいし、仲良くやろう、ね?」
レイサは短剣をしまうと、彼女の肩をポンと叩いて、再び木の上に飛び上がっていった。
何か、心を見透かされているような、そんな気分に陥るシャニー。
盗賊が新人部隊の隊長だなどと聞いたときは、腹が立って仕方なかった彼女だが、侮れない。
きっと、自分を助けてくれる存在に違いない。 シャニーはそう直感する。
怒りや落胆はいつの間にかその感情の後ろに退いてしまっていた。
(それにしても・・・なんか悲しそうだったなぁ。)
「大丈夫だった?!」
「うん、全然へーきだよ。」
他の新人がシャニーの周りに集まってくる。 そして、自在に剣を操る彼女を讃える。
「ねぇ、結構武器の扱いには慣れてるの?」
「まぁね〜。」
皆が口々にシャニーに向かって話しかける。
彼女も話す事は大好きな人間だったので、そのまま会話を楽しむ。
いつの間にか、重い雰囲気が柔らかくなっていくのを誰もが感じていた。
レイサは木の上から感じていた。 彼女が団長の言うとおり、人の気持ちを明るくすることが出来る人間であることが。
そして、仲間と打ち解け、慕われる人間であることが。
他には無い、大切なものを持っている。 だが今は原石。 磨かなければただの石。
レイサにとって、そういったことを見抜くのは朝飯前だった。
その手解きぐらいしか出来ないが、これでいいのだ。 ティトもこのやり方で不服は無いだろう。
しかし、知ってもらわなければならない事は山とある。 彼女は知らなさ過ぎる。
成人としての、騎士としての心構えも、傭兵の厳しさも、姉の想いも。
(それが分からなきゃ、あんたはただの傭兵で終わるよ。 そうさせないために、私がいるんだけどね。)
レイサは、シャニーの周りで天馬と格闘する新人達を眺めていた。


169: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/01/26 10:11 ID:7g
 翌日からも、レイサからは本当に基本的な事柄しか教えられなかった。
天馬騎士として重要視されるであろう、槍術や騎乗術などは一切教えられなかった。
シャニーやアルマにとっては、あくびが出るほどに暇な時間。
学問で言えば、10桁の計算ができる者に、ひたすら一桁の計算を教えているようなものだ。
いつからかアルマは、レイサの指示を無視して、ひとり黙々と練習するようになっていた。
シャニーもそうしたかったのだが、横で他の隊員が必死な目で練習しているのを見ると、どうしてもそれを実行に移せなかった。
とてつもなく時間が長く感じる。
 ようやく部隊長からの練習から解放された。 後は精鋭部隊の鍛錬風景でも見て独学しろとのこと。
・・・無責任だ。 誰もがそう思った。
シャニーは配布された修練用の剣を取り出すと、一人で黙々と振った。
誰かとペアで稽古したほうが確実に良いのだが、さすがに槍を持つことすら素人の隊員たちと稽古をしても
その隊員に迷惑をかけるだけだろうと思っていた。 姉は・・・こんな部隊で何を学べというのだろうか。
「へぇ、昨日の受け方でそうかなとは思ってたけど、あんた剣使いなんだ。 騎士のクセに珍しいね。」
後ろからの不意の声に、シャニーは声のした方を振り向く。
そこにはレイサがニヤニヤしながらこちらを見ていた。 気配を感じさせることもなく、自分の背後に回りこんできた。
昨日のあの剣術といい、やはりかなりの実力者のようだ。
「どのようなご用件でしょうか、部隊長。」
「んー。 剣なら私でも少しは扱えるから、あんたの太刀筋を見てただけ。
あんた、それ我流? 結構いい太刀筋してるからさ。 ついつい見とれちゃってたのさ。」
シャニーは褒められてついつい口元が緩んだ。
そして、自分の剣はちゃんと師匠がいて、その人から学んだものだということを説明した。
(師匠、今何処で何をしているのだろう。 やっぱり戦場で剣を振るっているのかな。)
同じ傭兵なのに、自分はこんな戦場にも出してもらえない部隊で一人練習している。 何か師匠に申し訳が立たなかった。
「へぇ、ディークか。 聞いたこと無い名前だね。
あんたの剣は、人を護れるいい剣だ。 あんたの師匠も、きっと護りたいものがあったんだろうね。 強いだけじゃないよ、その剣は。」
「?」
レイサから放たれた言葉に、シャニーは戸惑った。
人を護れる剣? 護りたいもの? 確かに、ディークは強かったし、何度も助けてもらった。
でも、強い剣に人を護れるも護れないもあるのだろうか。 強ければ人を守れるではないか?
「でも、あんたが使っても、その剣術はモノにならないんじゃないの?」
その疑問を軽く吹き飛ばして余りある言葉。 いきなり自分の実力を馬鹿にされた。
いくら相手が部隊長とは言っても、今まで不満が溜まっていたせいか、怒りが爆発する。
何も教えてはくれ無いくせに、批判だけは一人前にする部隊長など。
「いくら部隊長でも、そこまで言われる筋合いはありません!」
「・・・あんた、人を殺せる剣技、知りたい?」
彼女の怒りを軽く別の方向へ流し、レイサは彼女に話を振った。
シャニーもどんな反応が返ってくるかと思っていたら、剣を教えてくれるという。
何も教えてくれない部隊長が、剣を教えてやるといったのだ。 興味本位で彼女についていった。
                                                              ・・・


170: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/01/26 10:29 ID:7g
「いいかい? 今教えたのが、私たちアサシンの使う闇の剣技、瞬殺術さ。」
シャニーはレイサから教えられた剣技に、寒気を感じていた。
この剣は、自分の知っている剣とは全く違う。 何が違うのかはよく分からないが。
戸惑うシャニーに、レイサはすぐに気付く。
「どうした? 強い剣を教えてやったんだよ? ちったあお礼ぐらい言ったらどうなのよ?」
「うん・・・。 でも、あたしの剣とは大分違うものだし・・・。」
「違わないよ、全然。 ま、同じ剣でも、あんたじゃなくて師匠が使ってれば、違うのだろうけどね。」
意味がサッパリつかめない。 シャニーには、レイサが何を考えているかよく分からなかった。
大抵の人は、大体考えている事が表情から予測できるし、話を聞いていれば何を求めているかも分かる。
だが、この人は飄々としていて、本当につかみどころが無い。 ・・・手強い。 シャニーはそう感じていた。
「あんたの剣は、傭兵として人を殺せる剣だ。 強いよ。 でも、ただそれだけじゃん。」
「・・・部隊長、何を言いたいんですか?」
「剣を振るのに、もう少し思慮を伴えって言ってるの。」
(自分が思慮の欠けた剣を振っている? そんなはずはない。)
速攻心の中でレイサの言葉を否定するシャニー。
自分はディークからその事を徹底的に叩き込まれた。 相手の隙を、急所を、周りの状況を良く考えて戦えと。
シャニーの表情に曇りが生じ、自分の言ったことが理解されていないことを察するレイサ。
「分からない? あんたは、何の為に剣を振っているの?」
「何の為って・・・。」
「それを考えて無いんなら、思慮が伴っているとは言わないよ。
思慮の伴わない剣なんて、私らの使う暗殺術と変わんないね。 人を殺せる。 ただ、それだけさ。 師匠が悲しむよ?」
そこまで言われて、シャニーはやっと分かった。
今の自分と変わらないもの。 だけど、使っている剣技がそれは違うと教えてくれるもの。
それは剣の使い道だった。 何の為に剣を振るい、何の為に血を流すのか。
「そりゃ、国の為です。」
「国のため? そのために、あんたは何をするのさ。 傭兵として人殺しをする? それだけ?」
シャニーは質問せずによく考えてみる。 この人に最後まで言わせたら何か悔しい。
馬鹿にされている。 なんとかぎゃふんと言わせてやら無いと。
自分が教わったのは、人を護ることができる剣。 でも、自分達の仕事は、傭兵に出て報酬を貰う事。
剣術も、その手段に過ぎない。 ・・・はずだった。 だが、よく考えてみる。
その報酬で何をするのか・・・。 勿論民を養う事。 目的は、民を助けることだ。 
(・・・!?)
彼女は何か閃いた。
「部隊長、分かったよ。 あたしは、手段と目的をとり間違えていたみたい。」
レイサはふぅっと笑って、シャニーの頭を撫でてやった。
「そうだよ。 私たちアサシンは、命令を受けて、ターゲットを殺す。 それだけだ。
でも、あんた達は違う。 傭兵に出て、報酬を貰って・・・更にその先がある。 あんた達の使命は、戦うことじゃない。」
シャニーは深くうなずいた。 自分達が傭兵に出るのは、それしか民を養う術が無いからだ。
戦う事は、その手段でしかない。 戦うこと自体が目的なのではない。
戦って、報酬を得て、民を養い、助ける。 その為に、自分は剣を振るわねばならないのだ。
民の為に、剣を振る。 戦いの為に剣を振るのではない。 シャニーはそれをはっきりと頭に焼き付けた。
ディークの『護りたかった』ものは結局彼女にはよく分からないままだが、
自分の『護らなければならないもの』は・・・イリアの民であると。
民を護る為に、剣を振るわなければならない。


171: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/11 22:43 ID:RM
「うん、ありがとう。 あたし、よく分かった。」
「ほー、そりゃ良かった。 剣を振らなければならなくなったとき、それは民を守るための剣なのか、よく考えなよ。」
剣を振って民を守る。 それだけに留まらない。 自分達は民の騎士なのだ。
常に民の事を考えて行動しなくてならない。
意外とあっさり分かったといってくれた部下に、少々本当に理解したのかと不安を抱いていると
その彼女から不意を疲れるような言葉をかけられた。
「でもさ、あたしは部隊長にも、誰かを守るためにその剣術を使って欲しいな。」
「なぁに一人前なこと言ってんのさ。 私はカッパライと逃げること専門の嫌われ者さ。」
「でも・・・なんかあの剣技使ってるとき、部隊長悲しそうだよ? ホントは使いたくないんじゃないの?」
レイサにとって、表情を隠さないシャニーほど考えてることを読みやすい相手もいない。
だがまさかその子に自分の心を読まれるなんて。
(この子は・・・気のせいか。 でも・・・。)
レイサは何か胸を刺された様な感触に陥った。
「それにさ、あたしは部隊長のこと、嫌いじゃないよ。 だって、色々教えてくれるもん。」
シャニーが人懐っこい笑顔を見せた。 さっきまで自分にお節介される筋合いは無いとか言っていたのに。
でも、レイサには何かグサッとくるものがあった。 自分の心へ何のためらいもなく入り込んでくる。
そして、自分の失ったものを再び呼び覚まそうと、心をノックしてくるのだ。 ・・・確信犯・・・だろうか。
自分は盗賊であり、アサシンである。 物を盗って人を悲しませ、人を闇のうちに葬って家族を泣かせる。
そんな自分を、嫌いじゃないといってくれる人物が、亡くなった姉以外に居る。 何か涙が溢れてきた。
「・・・ありがとう・・・。」
「うわ、ちょっと、泣かないでよ!」
自分を愛し、育ててくれた姉は既にこの世に居ない。
自分を愛してくれる者は居なくなった。 そう感じていた矢先だったのだ。
自分を愛してくれる人が居る事が、どんなに幸せな事なのか、失ってみて初めて気付いた。
「あんた、虹みたいな子だね。」
「? それほどでも〜。」
また唐突に訳の分からない事を言われて、とりあえずお決まりの台詞だけは言っておくシャニー。
(いいんだよ、分からなくても。)
レイサにとって、シャニーは虹だった。
雨上がりの混沌とした白の如く、失って、空っぽになって、色を失ってしまった者へ、新たな色を再びつけることが出来る者。
それがシャニーだった。 だからこそ、余計に思慮を伴わない剣を振るって欲しくなかった。
人を染めるという事は、もし染める色を間違えれば大変なことになるということでもある。
染める者が間違っていては・・・染められた側が正しい道を歩める事は無い。
傭兵というだけなら、それでもいい。 だが、自分は託されたのだ。 新人を傭兵としてだけで終わらすな、と。
だから、シャニーが正しく染められるように、自分は助けてやらなければならない。
それが、私なりのイリア民を『護る』ということだ。 レイサは決意する。
「よーし、じゃあみんなのところに戻ろうか。」
「うん、了解、部隊長。」
「部隊長とかさ、ガラじゃないから、名前で呼んでいいよ。」
「え、でも他の部隊ではみんなそう呼んでるし。」
シャニーには、この会話がどこかで聞き覚えのあるような気がして仕方がなかった。
「いいのいいの。 レイサさんでいいよ。 それよりさ、あんたみんなに天馬の乗り方教えてきて。」
「はーい。」
今まで見せてくれなかった天真爛漫な顔で、シャニーは駆けていった。
やっぱり若いって良い。 レイサはそう感じていた。 自分も昔はああいう風であったものだ。
シャニーが向こうで他の隊員のところに到着すると、空気が変わるのがこちらから見ても分かった。
「きっと良い色に染めてあげてよ。 私には何も教えてあげられないけどさ。 さて・・・、次はあの子だな。」


172: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/11 22:44 ID:RM
 レイサは向きを変え、部隊とは反対の方向へ歩き出した。
その行き先には、部隊とは離れ、独り黙々と手槍の練習をするアルマの姿があった。
「みんなと別行動するっていうのは、感心しないね。」
レイサが声をあげる前に、アルマは彼女の存在に気付いていたようだった。
だが、それでもそちらを振り向くこともなく、ひたすら手槍の練習をしている。
本当に無口な人間だった。 話しかけても返事どころか応答もしない。
「私は部隊長として聞いているんだよ? 部下なら答えなよ。」
そこまで言われてようやく手槍を握る手が緩んだかと思うと、アルマは鋭い横目で後ろを睨んだ。
「あんな子供遊びに付き合っていても、時間の無駄だからです。」
それだけ言うと、彼女は休めていた手を再び動かし、手槍を放る。
その槍は放物線を描いて、向こうの的の枠内でも中心付近へ見事に突き刺さっていた。
レベルが違うんだよ。 そう、彼女の背は主張していた。
「でもね、そんな事してると仲間から浮くよ?」
レイサの言葉に、アルマは再び手を止めて、今度は体も彼女の方を向けた。
「浮いたら、何か問題でも?」
レイサもさすがに言葉に詰まる。
(この子は一体どういう子なんだ。)
あっけにとられているレイサに追い討ちをかけるようにアルマは話しかけてきた。
「同胞とは言え、私たちは傭兵。 仲間同士で殺し合いをしなくてはいけない時だってある。
そのときに、下手な仲間意識なんて邪魔にしかなりませんよ。
私には、そんな下らない感情に付き合っていられるほど暇じゃないし、興味もありません。」
「新人のクセによく言うじゃないの。」
「これは、大変なご無礼をお許しください。」
感心するような、呆れるようなレイサにアルマは一礼する。 一筋縄では行きそうに無い。
こいつの心は読めない。 シャニーとは全くの正反対だ。 自分というものを絶対に見せてはこない。
心の表面が漆黒に塗られているかのようだ。
「じゃああんたは・・・共同生活を強いられる天馬騎士団に、何故入ったの?」
「もちろん、天馬騎士団のトップに立つ為です。 イリアを変える為にね。」
何と言う新人だ。 冗談で入隊当初に団長になりたいと宣言する者は居ても
団長になるために天馬騎士団に入隊したなどといった新人は初めてだった。
精鋭部隊の人間をも凌駕するほどの実力に、この性格。
間違いなく、権力の階段を彼女は上っていくだろう。
力のあるものが、人の上に立つ。 騎士団では当たり前のことだ。
シャニーも、同じ民を救うという目的を持っている。 だが、考え方が明らかに違う。
レイサには、ティトが何故、この全く正反対の性格の人間を新人部隊に仲良く入隊させたのか、分かった気がした。
(団長・・・あんたも良くやるね。 下手をすれば、どちらかが潰れてしまうかもしれないのに。
それを潰れさせないようにしろってことか、私の仕事というのは。)
レイサは予想以上の難題に息が詰まる。
「そうか、なら何も言わないよ。 でもね。」
レイサは背を向けて部隊の方へ帰る。 その途中で、背を向けたままアルマに話しかけた。
「親友は作っておいたほうがいいよ。 慢心と孤独は・・・隙を生むよ。
私はアサシンだ。 正直、あんたともう一人の経験者の子。 どっちが暗殺しやすいかって聞かれたら
間違いなくあんたを選ぶよ。」
「・・・。」
アルマは無言で再び手槍の練習をし始めた。
レイサは感じていた。 アルマは、シャニーと何処までも正反対だと。
シャニーを虹と例えるなら、アルマは何者にも染まらない、確固とした黒だと、彼女は思った。
そして、型破りだとは思いながらも、イリアを変えていくにはなくてはならない人物だとも感じていた。
染める者と、染まらない者。 光と闇。 どちらもなくてはならない、同じ志を持つこの二人をなんとか調和させる方法は無いか。
レイサは部隊で他の隊員に囲まれるシャニーを見ながら悩んでいた。
 しかし、そんな心配をする必要はなかった。 自分に無いものへ人は羨望の眼差しを送り、全部欲しいとささやくのだ。
そう、磁石の両極が引き合うように。


173: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/11 22:45 ID:RM
 その日も、基礎的な練習が繰り返されていた。
他の部隊から借り物の「講師」を招いて、天馬の乗り方と槍の扱い方を学ぶ。
しかし、やはり歴戦を生き抜いてきた二人にとってはぬるいことこの上ない稽古。 いや、稽古とも言えない。
アルマはもう当然のように皆のところを後にする。
「まぁ、あなた。 アブミをしないと危険よ? アブミの必要性は・・・。」
シャニーもまた、講師の話をうんざりして聞いていた。
この講師、きっと姉の回し者に違いない。 彼女と同じことを言う。
半分以上を聞き流す。 自分がしたい練習は、もっと実戦的な物だった。
「こら。 十を志す者が一をおろそかにするとは何事ぢゃ!」
ふいにシャニーは後ろから頭を何かでどつかれた。
焦って後ろを見てみると、そこには腰の曲がった婆が、杖を自分の頭に載せているのが分かった。
「げっ?! ニ、ニイメの婆さん!」
レイサが落ちそうになった体をなんとか翻し、慌てて木の上から降りてくる。 いつものように昼寝していたのだ。
降りてきて早々、シャニーと同じように杖で頭を殴られて説教される。
何か周りの隊員には、そんな二人が姉妹に見えて仕方がなかった。
「全くお前というヤツは! 昼間から寝腐りおって! わしが若い頃はね!」
「あー、分かったよ婆さん。 で、どうして邪魔しに来たのさ。」
「研究の合間の散歩じゃよ。 今年の若いのにイキの良いヤツはいるのかと思ってな。」
レイサは何とかニイメを追い返そうと必死である。
だが、ニイメはそんな彼女を無視するかのように、他の隊員の顔をまじまじと見つめて回る。
「・・・ねぇ、レイサさんとニイメのおばあちゃんって、どんな関係なの?」
シャニーが耳打ちする。 レイサはため息をつきながらそれに答えてやる。
「私がまだ、ただのカッパライだった頃ね・・・。」
「今も単なるカッパライだろうが。 おまけに部下を放り出して昼寝とは。 何処まで堕落してるんじゃ! わしの若い頃はね!」
聞こえないように言ったはずなのに、ニイメにはすっかりお見通しのようだった。
レイサはもう返す言葉も無いといったような感じでヘラヘラと笑ってみせる。
「・・・でさ、婆さんは古代魔法の大家だろ? なら、きっと色々古代魔法の書を持っていると思ってさ。 貰いに言ったのよ。
あれかなり高価だからさ。 考えただけでもヨダレが・・・おっと。」
レイサはニイメに睨みつけられた事に勘付き、この先を言うのを止めた。
「で、書庫漁ってたら婆さんに見つかって。 婆さん、気配消して忍び寄るの滅茶苦茶うまいんだもの。
婆さんこそアサシンでもやればいいんじゃないのっておもったさ。
そんで、後ろから突然闇の球に包まれたかと思うと、急に体が動かなくなっちまってさ。」
「バカモノ。 お前が盗賊のクセに鈍いだけじゃ。 イクリプスにも気付かん盗賊など聞いたことが無いわい。」


174: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/11 22:47 ID:RM
その後、気を失ったレイサを、ニイメは柱に縛りつけ素性をすべて吐かせた。
どうやら彼女は、傭兵で早くに親をなくした遺児のようだった。
―生きるために、奪うしかないじゃないか。 他に構っている余裕なんてあるものか―
ニイメには、今でもあのときのレイサの顔と言葉が頭に残っていた。 生きるために狂う人々。
ニイメは多くを見てきた。 そして、当時も少女盗賊がカルラエ付近を荒らしまわっていると噂になっていたから
彼女も警戒していたのである。 生きるために、人の物を奪い、容赦なく殺す。
あの頃のレイサにとっては当然のような生活だったようだ。
レイサはもう苦笑いして婆さんの無駄話を聞いているしかなかった。
自分でも、あの頃の自分は壊れていたとすら思えるほどに、人を殺して奪って、貪った。 生きるために。
「あの時、婆さんに会っていなかったら、今の私は無いかもね。」
「わしはあんたみたいに死ぬ気で生きてる人間は嫌いじゃないよ。 ただ、手段が気に食わなかっただけだね。」
捕まえたレイサに飯を食わせてやって、身の上話を聞いていると、話を聞きつけた騎士団の騎士がニイメの庵に駆け込んできた。
その時だった。 レイサがシグーネに始めてあったのは。
「ニイメのばばあよぅ、こそ泥が忍び込んだんだって?」
「おやおや、団長自らお出ましとは、よっぽど暇なんだね。」
ニイメはシグーネにレイサの事を話しているようだった。
シグーネの目線が時折こちらを鋭く見つめる。 食われるかと思うほどの鋭い目付きだった。
レイサにとって、睨まれこんなに戦慄を覚えるのは初めてだった。
暫くすると、彼女は縛り付けられている自分のほうへ向かってきた。
「あんたの親も・・・イリア騎士だったのかい。」
「知らないね。 親が何していようが関係ない。」
「あんたはどうなったら、盗賊から足を洗う?」
つっけんどんな反応ばかりをするレイサに、シグーネは唐突に質問を投げかけた。
いきなりそんな事を聞かれてレイサも面を食らってしまった。
相手は騎士だ。 今まで散々殺して生きてきた自分を、きっと処罰するに違いない。 そう思った。
「もちろん! 盗みなんかしなくても生きていけるように、イリアがなったらさ!」
そう怒鳴った自分の頬を、シグーネは力強くひっぱたいた。
「いいかい、あんた。 誰かが何とかしてくれるなんて思うんじゃないよ。 変えたきゃ自分で変えな。」
「それが出来たら苦労しない!」
「しようとして無いだけだね。」
シグーネはレイサの言葉を簡単に否定する。
「あんたは多くの罪も無いものを殺した。 でも、それはあたし達騎士も同じなんだよ。
よそに戦争に行って、全然知らない人を殺しまくる。 そうしなければ、金が手に入らないから。
陰気な商売だよ。 でもさ、あんたは自分のために人を殺してる。 あたし達は民を養う為に殺してる。
フン、カッコイイだろ? どーせ人殺しするんなら、自分のためじゃなくて人の為に力を使わない?」


175: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/12 22:27 ID:pA
「最初は笑ったよ。 人殺しが自分のやってることを棚に上げて何人殺しに説教するんだってね。
姉貴は頭おかしいかと思った。 でも、私は思ったんだ。 コイツについていけば、最低限の生活は保障されるんじゃないかってね。」
レイサは苦笑いしながら隊員たちに話す。
シャニーもずっと話を聞き入っていた。 民を養うということが、何を意味指すか。
自分はやっと、剣の使う目的を、自分だけの騎士の誓いを明確にしたところだった。
しかし、その目的を達成する為に、陰で何が起こっているのか、そして何を見つめなければならないのかをまだ知らなかった。
レイサはシグーネの妹分として、天馬騎士団に籍を置くことになった。
持ち前の身軽さを生かして情報を探ったり、時には独学した暗殺術を用いて暗殺依頼なども受けた。
情報を騎士団に運ぶ者として、様々な情報が流れ込んできた。
貧しい者、自分と同じように盗みを働く者・・・。
騎士団に入って、彼女は自分の為に生きていた自分を恥じた。
そして、きっといつか自分みたいな人間が出ないよう出来たらと願った。
 しかし、時は無情だった。 戦いの中に置かれることによって、戦いこそが日常になってしまった。
―戦死さえしなければ、少なくとも明日はあるしねぇ―
シグーネも、そう言っていた。 夢や希望・・・そんなものを考えている余裕はなかった。
民を養う為に戦いに赴き、心も体もずたぼろになって帰ってくる。 繰り返すうち、それが普通になった。
それを変えてやろうとは思わなくなっていった。 それこそが普通なのだから。
夢や希望に現を抜かせば、故郷で待つ民が苦しむ。
それでもなんとか、レイサは彼女なりに自分の力を人の為に使おうと努力していた。
強欲な商人を狙って盗みを働いては、貧しい生活を送る人間にばら撒いた。
盗みには変わらない。 人殺しには変わらない。
でも、これは民を養う為にやってるんだ。 正しいんだ。 そう言い聞かせて。
「生きるためなら何でもやる。 それがイリアさ。
だから、姉貴がベルン側についたのも、私は止めなかったよ。 民の為には仕方なかったからね。」
ベルン動乱時にイリアを占領したベルン三竜将の筆頭マードックは、イリア民に危害を加える事はなかった。
彼が徹底的に潰したのは、力を持った騎士団のみ。 力を持たない民には、彼は刃を向けなかった。
だから、ヘタに反乱を起こすより従っていた方が安全だった。 歪な平和がそこにはあった。
シャニーは、ここまで聞いて初めて分かった。
シグーネが独立国の尊厳より、民の安全を考えてやむを得ずベルンについていたということが。
見習いの時は、天馬騎士団団長のクセに、敵国に頭を下げて保身を図った許せない相手だと思った。
憧れの人のひとりだけだっただけに、裏切られたような気分になった事は今でも忘れられない。
だが・・・違ったのだ。 彼女はイリア騎士として最期まで誓いを守っていたのだった。

(・・・あたしは、何も知らないんだ・・・。 民を守るということも、その為にどうすればいいのかも。)


176: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/12 22:28 ID:pA
「おい、そこの坊主。」
しわがれたような声に、シャニーは我に返る。
よく見ると、またニイメが自分の頭を杖でこつこつ叩いていた。
「坊主って! あたしは女の子なの!」
「あんたみたいなガキに、男も女もあるかい。」
「・・・。 (この人、きついことでも平気でさらっと言ってくる。 レイサさんと似てるかも。)」
自分はもう成人した一人前の女性だと思っていた。
だが・・・目の前の女性は自分の5,6倍は生きている。 その人から見れば、きっと自分は子供なのだ。
体も・・・心も。 そして・・・イリアの守り手としても。
「分かったかい? 十を志すものほど、一を大切にしなきゃいけないんだよ。
一を粗末にして忘れてしまったら、あんたは九で終わるよ。 九も十も、そんなに変わらない。
でもね、決定的に違うものがあるんだよ。 わかるかい?」
シャニーには当然分からなかった。
十は一の積み重ね。 それは分かっている。 それでも、やはり目先の目標に囚われて先走りする傾向が、若いうちは見られる。
しかしそれではダメだった。 少なくともイリアでは。
どんな強い騎士でも、一を忘れ十をとりにいく・・・即ち、何故それをしなければならないかを考えずに
民の為戦い、功績を挙げる。 それでは、九までしかいけないのだった。
本人は十と考えていても、それは九でしかなかった。 一を明確にしていれば、簡単に気付くはずなのに。
黙り込むシャニーに、いや、新人全員にニイメは答えを言う。
「十に辿り着いた人間は、九で止まっている人間とは全く違うことをするだろうね。
いや、もしかしたら十一を探して悩むかもしれない。 知るという事は、新たな問題を提供してくれるんだよ。
だから私も研究が楽しくて仕方が無い。 問題を知れば、答えを出そうと必死になる。 答えが出れば、また違う問題が浮かんでくる。
現状で満足するってことがないのさ。」
「ま、そのお陰で婆さんはボケないのかもね。」
レイサの茶々にもさらっと流す。 彼女はニイメにとって可愛い女の孫同然だった
「ほう、お前にしてはいい事言うね。 満足したらそこで終わりさ。
考えることを止めるって事だからね。 ま、簡単な話だったじゃろ? お前さん達もよぉーく考えることじゃな。」
ニイメは杖を突いてまた散歩に出かけていった。
新人達は分かったよう分からないような・・・。 全然簡単な話じゃないと皆は感じていた。
シャニーにも、はっきりとした事は頭に浮かび上がってこなかった。 難しい話は頭痛がする。
しかし、一つだけ分かったことだけはあった。
今までの自分の十は、まさに民を養う為に、戦場で活躍することだった。
だがきっと、これは八か九なのだ。 自分はまだ一を明確にしていない。 そもそも一ってなんだろうか・・・。
それすらもよく分からない。 ならこれは一ではなく二なのか・・・?
彼女は、いかに自分が何も知らないかを思い知っていた。
ベルン動乱を生き抜き、功績を残した。 それですべてを知ったつもりになっていた。
だが、実際には何も知らない。
―今他国にいって売れるものは恥だけ―
何となく分かる気がした。 姉は自分の事をよく見てくれていたのだ。
しかし、十が分からない以上、今は十だと思うことを精一杯努力しようとも思った。
考える事を止めてはいけない。 だが、考えるばかりに黙してしまうことも、決して良い事とは思えない。
他の者も、それが分かっているようだった。


177: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/15 22:22 ID:MM
その一週間後。
「ねぇ、レイサさん。」
シャニーは昼休みにレイサを捕まえた。
彼女は木の上で短剣を使って果物の皮をむいていた。 手馴れたものである。
「なに?」
「あたし達のやってることって、正しいのかなぁ・・・。」
レイサは妹分が何かまた悩んでいることを感じ取った。
ニイメが説教をしに来てからずっと、彼女の振る剣に曇りが生じていたことが、レイサは分かっていた。
彼女はナイフをしまうと、木から飛び降りてきた。
「正しいことって?」
「ニイメさんに言われたこと・・・あれからずっと考えてたんだ。 でも、考えれば考えるほど、なにか怖くなって。」
シャニーの瞳に、いつもの輝きが無い。
よく食べて、よく笑って、よく寝るを信条とする彼女が、こんな風になるのは珍しいことだった。
「だってさ、あたし達は、イリアの人たちを養う為に戦う。
でも、他の国の人から見たら、あたし達って、よそから来た殺人鬼じゃないのかな・・・。」
「何が言いたいの?」
考える事は大事だった。 だが、考えることは、自分を追い詰める事ではない。
現実と夢は違う。 だからその両者の溝に悩む事は仕方が無い。
悩みがなければ、それ以上の発展も見込めない。
「あたし達が民の為にって言っているのは、しなくちゃいけないけど、正しいというわけではないんじゃないかな・・・。」
傭兵として他国に戦争をしに行く。 そのことが他国の人間にとってどう映るか。
それは言うに及ばない。 シャニーは何となく気付いていた。
民を養う為に。 それは動機ではあるが、自らを正当化する事は出来ないのではないか。
「シャニー。 イリアは他国に行って戦争をしなければ、皆飢えて凍え死んでしまうんだよ? 分かってる?」
「分かってるよ・・・。 でも、結局あたし達は誰かを犠牲にして生きながらえているってだけだよ。 それじゃ、盗賊と変わらないよ。」
シグーネも言っていた言葉を、こんなヒヨッコが言う。
しかし、レイサも今回は首を縦に振らない。 本当は振りたい。 だが、その前に考えさせることがある。
「それがどうした? 多かれ少なかれ、どこでもそうでしょ。 手段が違うだけさ。」
「?!」


178: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/15 22:23 ID:MM
「いいかい、シャニー。 他所から持ってきた正義やら正当性などに、力は無いんだよ。
私たちには、私たちの正義がある。 それを守ればいいだけさ。
その国の事を何も知らない人間が、どの面引っさげて他国を非難できるのさ?」
「・・・。」
シャニーには納得できなかった。 確かに他国とイリアでは考え方も違うし、そうなればルールも違ってくる。
他国の正義が、イリアの正義とは決していかないのだ。
だが、シャニーはベルン動乱で様々な国を回って色々勉強してきた。
イリアだけが、何かおかしいようにも感じてしまっていたのだ。
国の存亡をかけて、他国に良い様に使われる、そんなイリアが。
「・・・ま、でも考えることも大事かもしれないね。
イリアは他国に行って戦争をしなければ、皆飢えて凍え死んでしまう。
でも、他国から見れば、戦争を、死を運んでくる傭兵団でもある。 ・・・誰が悪い? 何が正義?」
レイサの質問にシャニーは答えられなかった。
どんなに考えても、答えが出てこなかった。 ・・・何か悔しい。
そんな妹分の肩を、ポンと叩きながら、レイサはその場を立ち去っていく。
「あんたはイリア騎士さ。 でも、それ以前にイリア民だ。 戦うことだけがすべてじゃないよ。 それだけじゃ・・・無責任かもね。」
“一”の重みが、そして見えにくさが、レイサの言葉から嫌というほど伝わってきた。
レイサもまた、彼女がその重みを知り、自力で見えるようになって欲しいと願い、あえて答えを言わなかった。
(言われたことを鵜呑みにして従っているだけじゃ・・・今のイリアの二の舞さ。
こいつがここで考えるのをやめるなら、その程度の人間だってことだし。
それにしても、あんたはいい姉貴を持ったもんだよ。 こんなに、考える時間をくれたんだからね。)
レイサは中庭を歩きながら、団長室の窓を見つめていた。
彼女はティトが哀れに思えていた。
あんなにイリアの事を想って、何とか良い方に向かおうとしているのに。
それなのに、今国は手段を選んでいられないほど貧しく、騎士団も再建された方が少ないという有様。
イリアの民の貧しさを救える数少ない騎士団の長として、彼女には大きな期待を寄せられている。
しかしそれは、重い責任を背負わされているということ。
変えたいと思っていることでしか、民を救えない。 きっと彼女は悩んでいるだろう。
そしてあんな性格だ。 誰にも悩みを告げずにいるのだろう。 この頃部屋に篭りっきりなことが多い。
仕事などで外出する事はあっても、姉貴が団長をしていた頃に見せていた慎ましい笑顔が、今の彼女には無い。
いつも仏頂面な彼女だから、その笑顔は力だった。
それは、妹シャニーの笑顔とはまた違う力を持っている。
何とか彼女の力になってやりたいと、レイサは考えていた。 溜め込んでいたら、いつか・・・。


179: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/17 20:00 ID:/M
 その日は、シャニー達は初めての夜勤だった。
いつ賊が暴れだすか分からない今の荒廃したイリアでは、騎士団は二十四時間体制を強いられていた。
「ふあぁぁぁ・・・。」
不謹慎にも声をあげて大きなあくびをするシャニー。
こんなときにもし敵が襲ってきたら危険だとは分かっていても、ベルン動乱で夜通しの番を経験していても、眠いものは、やはり眠い。
なんとかして目を覚ますべく剣を振る。
「216・・217・・・・218・・・・・・219・・・・・・・22・・・」
近くにいたレイサは嫌な予感がしてそちらを見る。 すると・・・やはり寝ていた。 立ったままで。
「ぐー。 あいたぁ!」
レイサはすかさず拳骨で起こす。 他の隊員たちも笑いを隠せなかった。
「まったく、どうしてイリアには剣を振りながら寝られる奴が多いんだろうね。 しっかりあんたの姉さんに言っといてやるからね。」
「うわぁ! おねえちゃんには言わないでよぉ。 後でくどくど言われちゃう。」
「ダメだよ! あんたには夜の良さが全く分かって無い!」
シャニーも他の面子も、レイサの様子がいつもと違うことに首をかしげた。
任務中に寝るとはどういうことだ、と叱るなら分かるが、夜のよさが分かっていない??
「あんたさ〜、考えてもみなよ。 深夜はみんなが寝てる。
真っ暗な闇でお宝が一人輝いてるんだよ? あー、こういう月がきれいな日は盗賊魂が騒ぐ!」
目を爛々とさせて宝を想像するレイサ。 なんだ、そんな事かと周りは散っていく。
未だに盗賊稼業から足を洗っていないのだろうか。 そんな事がティトに知れたら、それこそ大目玉だった。
賊討伐をする騎士団の部隊長が盗賊だなんて・・・。
しかし、冗談ごとではなかった。 毎夜毎夜、寒さに、賊に震えながら人々は暮らしている。
他の国では賊の討伐部隊などが定期的に出ている。
だがイリアの騎士団は、とにかく復興資金を稼ぐ為にひたすら傭兵に出向いていた。
民を養う為、といって外へ出て行って、結果民を守ることが出来ずに、彼らは震えている。 矛盾していると思った。
戦うだけでは無責任・・・そういう意味もあるのかもしれない。
シャニーは自分でも、この頃良く考えるようになったものだと感心していた。

ようやく夜勤が終わり、シャニーはふらふらと部屋に戻る。
暖かい暖炉の前で冷え切った体を癒す。 そして、さっき振っていた剣を磨こうと・・・剣が無い!
どうやら持ち場においてきてしまったようだ。
渋々彼女は寒い外に戻る。 すると、皆がいなくなった場所に一人の人影があるのを見つけた。
「あれ、アルマじゃん。 どーしたのさ。」
アルマだった。 シャニーは、剣を見つけると彼女と一緒に寮まで帰ることにした。
アルマも、断る道理がなかったためについていく。
「ねぇ、イリアの傭兵ってさ、他の国から見たらどう思われているのかな。」
シャニーはアルマに悩んでいることを打ち明けてみる。
しっかりとした独自の考えを持っているアルマなら、きっとこの質問に答えてくれると思ったのだ。


180: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/17 20:03 ID:/M
「簡単な話じゃないか。 良く思われて無いよ。 死肉を喰らうハイエナってね。」
「・・・。 やっぱりそうか・・・。 あたしさ、おねえちゃんに憧れて天馬騎士になったんだ。
そんでさ、イリアを守るんだーって、漠然としたこと考えてたけど・・・こんな他国に憎まれる仕事だったなんて。」
「・・・それがどうした?」
アルマの一言に、下を向いて歩いていたシャニーは目を大きく見開いて彼女を見つめた。
「だって、憎まれるって事は・・・正しいことをしているわけじゃないってことじゃない。
自分の国を守るために、他の国を犠牲にするなんておかしいよ。 犠牲は無いのが良いに決まってる。」
「だから、それがどうしたと聞いているんだが。」
シャニーは何もいえなくなってしまった。
―正しいことをしているわけじゃない ・・・それがどうした?―
アルマの目が真っ直ぐ自分を睨んでいた。
「正しいこと? いつも正しく居る必要なんて無いじゃないか。
私達は、しなくてはいけないことをしているだけ。 それが正しかろうと悪かろうと関係ないじゃない。 必要なのだから。」
「それは・・・そうだけどさ。」
「お前はベルン動乱で、正義正義の流れ中で修行していたから仕方ないかもしれない。
だけどね・・・私は正義なんて無いと思ってる。 第一、正義って何なのさ。」
シャニーはその質問にも答えられなかった。
アルマも答えられまいという顔をし、口元で笑った。 そして、唐突に質問を変えてきた。
「・・・お前は、エトルリアが何故こんな弱い国を征服しないのだと思う? あれだけイリアを見下した貴族が多いのに。」
「え? そりゃ・・・戦争をすれば世界の強弱バランスが崩れるから・・・?」
「違うね。 こんな国を占領したところで、何も旨みが無いからさ。
それどころか、戦争になったとき、自国の叙任騎士より安く戦力を調達できるんだから、奴らは重宝してる。
必要があれば、自国の軍には被害が出ないよう、イリア騎士を最前線に立たせて囮にするってことだってあるらしいし。」


181: Chapter1−4:虹色と暗黒:08/03/17 20:04 ID:/M
シャニーには身に覚えのある話だった。 事実、姉もエトルリアに雇われて
そういった形で使われて、自分達と西方三島で対峙するに至ったのだから。
あの時は幸い、こちらの将も、現地での姉の将も優れた人間だったのでそれは回避できたが。
「恵まれた国の言うことなんか、放っておけばいい。 皆自己中心なんだ。 ありもしない正義に・・・騙されるな。 そして、振り回されるな。」
アルマの言葉に、シャニーは何か体を槍で串刺しにされたような感覚に陥った。
彼女の言葉は、何となく分かる。 皆自分こそ正義。 そんなものに信憑性など無いのかもしれない。
それでも、イリアを評価するのは他国だ。 自国やその民が、他国から悪いように見られたり、言われたりはしたくない。
「でも・・・やっぱりあたしは、憎まれるより、凄い国だなって言われたいよ。」
何も言えないで居るシャニーにアルマは更に語りだす。 いつも無愛想な彼女が、まさかこんなに話すなんて。
「私は、こんな腐った国は変えたいと思ってる。 こんな、他国の脛をかじらなくては生きていけないような国。」
「あたしも、それは思ってるよ。」
アルマは、シャニーが自分に同意してくれたことを意外に思ったようだった。
今まで、自分の考えに賛同してくれたものなど、殆ど居なかった。 彼女は独りだったのだ。
「イリアを他国に負けない強国に育てて、今まで見下していたやつらに吠え面をかかせてやるんだ。
そのための傭兵稼業なら、私は他人に何と言われようが知ったことじゃない。」
シャニーは、やはり彼女の考えている事はスケールが大きいと思った。 だが、それは自分も望むことだった。
思っていても、他の人なら無理を諦めることを平気で言うし、誰も考えもしないようなことも、人目を気にせず涼しい顔でやってみせる。
ちょっと危険で同意できないところもあるが、シャニーはアルマの夢に賛同していた。
「あたしは、皆が戦わなくても良いようになって欲しい。」
しかし、シャニーのその言葉に、アルマは返してこなかった。
それどころか、鋭い目付きで睨まれてしまった。
シャニーには、その目が何を意味しているかすぐ分かった。
―なって欲しいではない、そうするんだ。 自らの手で―
「・・・夢見てるだけじゃダメだよね! 同じ事を夢見てるんだし、これから頑張っていこう?」
語らずとも、自分の意志を伝える。 シャニーはそれにある種の敬意を持っていたし
確固とした意志を持っているアルマに興味を持っていた。
シャニーアルマと話すことで、十を志す為の“一”を少しずつではあるが見つけられそうだと感じていた。
アルマも同じ夢を持ち、実力も確かで人懐っこいシャニーには、少しずつ心を開くようになっていた。


だが、この正反対の二人が交じり合うこと。
これが、後のイリアに大きな影響を与えていくことを、気づいていたものは居るのだろうか。


182: Chapter1−5:求めし者:08/03/18 22:04 ID:YQ
 やっと他の新人隊員たちも天馬の扱いに慣れてきたようで、練習の最中に落馬する事も稀になってきた。
それでも相変わらず、基本的な練習が続く毎日。 初陣を踏む事は、まだずっと先になりそうだ。
いい加減シャニーも、退屈な毎日に限界を感じていた。
そろそろ実践的な稽古をしないと、体が鈍ってしまいそうだ。
「ねぇ、レイサさん! そろそろ訓練のレベルを上げようよ。」
今までも何度もそう提案してきた。 だが、帰ってくる台詞は決まっていた。
「そんなにやりたかったら、アルマみたいに一人でやってきな。」
そんな事、出来るわけがなかった。
他の隊員が一生懸命やっている場所と離れて、自分ひとりだけ違う練習をするなんて。
そんな自分だけ浮くようなことが出来るはずが無いし、皆だって決して良くは思わない。
「シャニー、無理に私たちに合わせなくてもいいじゃない。 だって、貴女はもう実戦を経験しているんでしょ?」
気の利く仲間は、自分にそう進言してくれる。
仲間達からしても、無理に自分達に合わせさせるのも悪いし
何より一人だけ突出した者が居るとやり辛いのだ。 
皆シャニーにとっては大切な親友だし、皆もシャニーの事をいい親友だと思っている。
関係は悪くない。 しかし、実力差は、実戦経験者と未経験者では火を見るより明らかだった。
必然的に、未経験者は経験者に群がり、その技を盗もうとする。
相手の稽古の邪魔をしてはいけないと思いつつも、群がってしまう。
シャニーも、頼られているのだからと精一杯教えてしまう。 結果練習できずに一日が終ってしまう。
なぜ、部隊長が教えないのかという不満を出来るだけ見せないように振舞っていた。
互いに妙な気遣いを働かせていたのだ。
しかし、それは隊員たちの成長へ目に見えて現われていた。
精鋭部隊の人間達を眺めているより、目の前で稽古し、教えてくれるほうがやはり分かり易いのだ。
そうなれば、更にシャニーの周りには人が集まった。
「ねぇ、こんなときはどう動いてる?」
「オッケー、任せて任せて!」
シャニーも、人に者を教える楽しさや、人に頼られることの嬉しさを知っていた。
いつの間にか、シャニーは新人部隊のリーダ格になっていた。
互いを知るにつれて、前の妙な気遣いはなくなっていく。
リーダー格というより、集団のガキ大将? のような感じではあるが。
レイサはそれを木の上から笑みをこぼしてみていた。
本当に、思ったとおりに動いてくれる。 水さえやれば簡単に芽を出してくれるのだから、こんな簡単な事はなかった。
だが、こういう草は、ほうっておけば野生化して思わぬ群生へと発展することもある。
そうならないようにきっちり世話しなくてはいけなかった。

 夜番との交代時刻までの任務が終ると、シャニーはいつものように城から少し離れた小高い丘に向かった。
いつもここで、自分だけの練習をしていたのである。
いくら見習い時代に歴戦を戦ったとは言え、今は新人隊員として基礎的な訓練に明け暮れる日々。
実戦から離れることで、少しずつ腕が鈍ってくることが嫌なほど分かる。
それを食い止める為に、彼女は彼女なりに練習していた。
「あれ? あれは・・・?」
だが、今日はいつもと違った。 いつも誰もいないのに、誰かいるのである。


183: Chapter1−5:求めし者:08/03/18 22:10 ID:YQ
走って寄っていくと、そこには槍を持ったアルマが居た。
いつも部隊とは別行動ばかりして、皆に心開こうとしないアルマだったが
夢を共にするということもあってか、シャニーには僅かながらだが接していた。
それでも、このように自分を待っているという事は初めてだったので、シャニーは最初目を疑った。
「なんであんたがここに?」
「一緒に稽古をしようと思ってさ。 邪魔になるか?」
「まさか! あんたぐらいの腕の持ち主なら、存分に稽古できるよ!」
思っても居ない相手から、願っても無いような提案をされて、シャニーははしゃいでしまった。
アルマもそんな無邪気なシャニーを見て口元が緩む。
二人は、暮れ行く春の夕日を浴びて思う存分、互いの技を相手に見せ付ける。
最初は稽古のつもりだった二人なのだが、次第に熱が入っていき、とうとう終いには本気でやりだしてしまった。
暮れ行き闇に包まれていく中、正確無比で電光石火な剣と、闇夜を切り裂かんとばかりの強力な槍。
それら二つが空中を華麗に舞っていた。
卓越された武は、踊りにも似たような綺麗な打ちあいを見せる。 まるで演武を見ているかのようだ。
暫く稽古をした後、二人は互いに手を休める。
「やっぱり、あんた強いね。」
「ふ、そういうお前もたいした実力だな。」
互いに互いの実力を認め合う。 いや、稽古の途中から分かっていたかもしれない。
そうでもなければ、全力で相手の稽古に挑んだりできないから。
暫く二人は丘に寝そべって、空を眺めていた。 イリアに到来した短い春。
それが紅に燃え、闇と溶け合うその様子は、美しいの一言では片付けられない。
「お前さ、姉に憧れ天馬騎士になったって言ってたよね?」
突然口火を切るアルマ。 半分寝かかっていたシャニーは、はっと我に返る。
こういう気持ちのいい風が吹く丘で寝そべると、勝手に目が閉じてしまうのだった。
「え・・・あぁ、そうだよ。」
「じゃあ、もう目的は達成されたのか?」
「うーん・・・。 いや、今のあたしには、天馬騎士としてしたいことがあるよ。」
アルマはシャニーの言葉を聞いて、もっと知りたくなったようである。
体を上半身だけ起こすと、未だに寝そべるシャニーのほうへ顔を向けた。
「そのために、稽古もしっかりしている、と?」
「うん。 あたしは、困っているイリアの人を救ってあげたいから。 賊がいつ襲来しても大丈夫なようにしておかないとね。」
シャニーが騎士として今誓いにしていることは、困っている人を見かけたら、きっと助けてあげること。
もし、荒くれ者に襲われていたら、助けてあげたいし、いざ傭兵に出て行ったら、
少しでも名声を得て、報酬を多く貰わなければならない。
イリア傭兵は、ある程度ランク付けがあり、そのランクに応じて報酬の額が決まってきてしまうのだった。
稽古を必死にするのも、全ては民を救うため。 それは自分の両親が、命を賭してでも生涯誓い続けた誓でもあった。
「そうか・・・。 ふ、お前は純情でいいね。」
アルマは軽く笑った。 彼女は羨ましいのだが、シャニーはバカにされたと思ったようで膨れた。
こういうときだけは、余計に相手の内心を探ろうとする心が働いてしまう。
本当に馬鹿にされているときには、全然それが働かないのに。 本当におめでたいヤツである。
「だから、ド素人の新人部隊の連中にも、嫌な顔せずに武技を教えてるわけか。
同じイリア民として、助けてあげたいから。 それで自分の練習時間が削れて、こうして時間外に。 お人よしなヤツ。」


184: Chapter1−5:求めし者:08/03/29 19:01 ID:HU
「そんな大層なことして無いよ。 でも、あたしも見習いの頃、色々な人に教えてもらって、ここまで生きてこれたから。
自分も何か出来るなら、してあげたいとは思うよ。 あんたは違うの?」
シャニーの言葉に、アルマは即首を縦に振った。
全然違う。 生い立ちも、稽古に精を出す理由も、そして誓いも。
「私が稽古する理由は単純だよ。 力さ。 力が欲しいのよ。」
「ちから?」
「私はね、人を従えて歩きたいの。 力っていうのは、武技だけじゃない。 最終的に欲しいのは、人を動かす力、即ち権力よ。」
シャニーは、いきなり出た権力という言葉に、何か重いものを感じ取った。
面食らった様子の彼女の反応を楽しむかのように、アルマは更に続けた。
「権力を得るには、それ相応の力が必要だ。 だから、まず実力で他が認めざるを得ない状況を作らなくちゃいけない。
私が新人部隊を抜け出しているのは、あんなお遊びの稽古では、いつまでたっても上達しないから。」
かなり現実的な話を、いきなり持ちかけてくる。 力が欲しい、そう誰もが思うその願望。
しかし、シャニーには分からなかった。 人を従えて歩くというよりは、皆と仲良くやりたいし
力を求めるあまり、皆から浮いて仲間はずれになるなんていうのも嫌だった。
それならまだ、人の上に立てなくてもいいから、姉達のように皆から慕われる人間になりたかった。
「あたしには難しいかも・・・。 だって、権力なんか要らないし。」
シャニーは手で頭をかきむしる。 髪がボサボサになるが、妙にそうしたくなった。
難しい話をされると、ついついこういった不必要なことをあえてして、気を紛らわそうとするクセがあった。
「・・・私は最初に、イリアを強国に変えるといったよね?」
「うん。」
「そのとき、皆はどう反応した?」
「驚いたような・・・馬鹿にしたようなそんな顔してたね。」
アルマが、叙任式の日に壇上で団長であるティトに騎士宣誓を新人の代表として宣誓したあの時。
彼女は本来のイリア騎士の誓いを、信条と異なる為一部言わなかった。
その代わりに、彼女は宣誓した。 自分だけの誓いを。 それが、腐ったこのイリアを強国へ変える、というものだった。
そのときの一同の顔は十人十色だった。 新人達はとにかくあっけにとられていたし
先輩隊員や騎士団の幹部達は、驚いたような顔をしたあと、多くは蔑んだような苦笑いをしていた。
若気の至りか、と。 皆は本気にしていなかったのである。
「そう、力がなければそんなものさ。 でも、もし同じ言葉を、団長が言ったらどうなると思う?
皆ぺこぺこ頭下げて同意するよ。 考えの違う人間を動かすことが出来るのは、権力しかないのよ。」
例えその同意が心からのものでなくとも、相手が目上の人間ともなれば否定するものはまず居ない。
組織の幹部なんて、皆地位や名声、そして権力の欲しい人間ばかりだ。
ましてイリアでは、自分の価値は、名声や実力からなるランク付けで決まる。
名声を得るには、それなりの力を持った人間の集まる上位の部隊に配属されなければならない。
そうなれば、自然と団長に顔を覚えてもらわなければならなかった。
上司に気に入られようと必死になるに違いない。
アルマは、イリアを変えたかった。 団長として権力を、指揮を振るえば騎士団単位でイリアを動かせる。
そして、今や天馬騎士団はイリアでも三本の指に入る大きな騎士団だ。
それが動けば、当然他の騎士団も何かしら反応をとらざるを得ない状況を作ることが出来る。
「力の無い奴がいくら吼えても、戯言程度の認識。 力を持てば、権力を持てば、人は動かせる。
でもね、権力を得るには、実力だけじゃダメなんだ。 何が必要か、分かるか?」


185: Chapter1−5:求めし者:08/03/29 19:04 ID:HU
シャニーは今まで考えもしなかったことの連続に、頭がこんがらがっていた。
ただ漠然と、困った人を助けたい。 もっと剣や槍の扱い方をうまくなりたいと思っていた。
名声とか、権力とか、そんな事は頭にはなかった。
もっとも、入団したての新人が、そんな事まで頭の回ることのほうが珍しいのだが。
シャニーは答えが分からず、一生懸命首を横に振った。
しかし、一つだけは違うと思うこともあった。
「人を動かせるのって権力だけなのかな・・・。
だって、あたしは別に権力なんかもって無いけど、部隊のみんな、あたしの言うこと色々聞いてくれるよ?」
確かに、今の新人部隊の半分はシャニーが練習を仕切っているようなものだった。
そして、その中で色々指示を仲間にするが、皆嫌といった事は無い。
そんな嫌がるような要求をした覚えも無いが、権力も無い自分が人を動かしているのは事実だった。
権力を持ち、本来指示をするべきレイサは、それを木の上から黙って見ているだけなのである。
「それは、お前に皆が敵対していないからだろ?
権力があれば、敵対している人間だろうと何だろうと従えることが出来る。 そして、権力を得る為に必要なものは、実力と・・・そして、金だ。」
シャニーはごくりと固唾を飲み込んだ。 金・・・これまたとんでもないものが出てきたと彼女は思った。
イリアの者は、いや、どの国でも金ほど人々から重要視されるものは無い。
特にイリアは貧しい国柄から、やむを得ず金を得る為に傭兵をしているのだ。 命を危険に晒して。
どんなに敵対する者でも、金を積めば、大抵は首を縦に振る。 振らざるを得なくなる。
イリアで金を貰うという事は、それは即ち金を渡す側の命を貰うということでもあるのだから。
もし、金で動かない堅物が居たとしても、周りの動く者達を味方につけて、潰してしまえばよかった。
大抵の人間なら、金と名誉さえ与えておけば自分の言いなりになる。 アルマは既に知っていた。
それはイリア内だけでなく、見習い修行をした地、ベルンでも同じことがなされていたからである。
金で買えないものは無い。 人の心など、金で買えるし、力でどうにでも動かせる。
汚い表現かもしれないが、否定は出来まい。
もし、自分を汚い女というならば、そんな汚い手に引っかかる者が悪いのだ。 アルマはそう考えていた。
しかし、シャニーにはどうも納得のできない話だった。
金で人の心を買って味方につけ、権力を使って敵対する人を無理矢理動かす。
どう考えてもやり方が強引過ぎると思った。 もっと、皆が納得する方法があるのではないか。
シャニーはそう考えていた。 なぜなら、シャニーはそういった考えを持ち、実践する者を、
見習い時代にずっと見てきたし、その者に傭兵とは言え仕えていたのだから。
その人は、今や世界の英雄として名を馳せている。 同じくらいの年なのに、見習わなくてはと思った一人だった。
「あたしは、やっぱりそういうのは嫌だよ。 きっとどこかで無理が生じるし。」
アルマはシャニーが納得しないことを別段苦にもしてないようだった。
人に愛されたい、人を愛したいこんな性格だ。 自分の考えが分かってもらえるはずは無い。
それは分かっていた。 だが言っておきたかったのはそれではない。
それぐらいの覚悟がなければ、国を変えていくという事は出来ないということだった。
せっかく同じ夢を持つ者同士だ。 細部まで共感してもらえればそれ以上は無い。
だが、ここまで自分と正反対な人間に、そこまで求める事は不可能だった。
「なら、お前はお前なりのやり方で頑張ればいい。 私は私の考えを貫くし、理想を追求し続けるだけさ。」
アルマはそういって立ち上がると、天馬に乗ってそれで宙に舞い上がった。
「でも、夢が同じなんだから、出来る限り協力しよう?」
下から聞こえるシャニーの声に、彼女は口元で笑みを作って答え、その場を後にした。
いい稽古仲間が出来た、その嬉しさを胸に秘めて。
「無理が生じる、か。 すでに1000年前から世界は歪んだ方向へ流れているというのにな。 過ちは正すべきだ。 あるべき姿へ。」


186: Chapter1−5:求めし者:08/05/03 13:03 ID:PM
「えぇー!? もうあんた達初陣経験したの?!」
カルラエ城にある食堂の昼間。 その人が賑わうなか響き渡る若い声に、周りはギョッとした。
ティトはその声が誰だかすぐ分かり、穴があったら入りたい気分だった。
「団長の妹さんはホント元気ですね。」
イドゥヴァの言葉から蔑みを感じ、それに拍車をかける。 顔が真っ赤になるのが分かった。
自分のことでないにしても、妹がこういうことで有名人である事は自分にとって恥ずかしかった。
(もう少しお淑やかにしてよね・・・!)

シャニーのほうは、イリアの家庭料理である肉入りの唐辛子スープに舌を焼きつつ、幼馴染の連中と話していた。
そこで、第二部隊に配属されたセラが、先日配属後の初陣を踏んだことを聞かされたのである。
「シャニー・・・声デカイよ。」
ウッディがシャニーの口から飛んできたパンのかけらを拭き取りながら、彼女の口に手をやる。
彼女も言ってから気づいたらしい。 あ、という表情をして、回りをきょろきょろする。
当然周りの視線はこちら(というより自分)に注がれており、肩をすぼませた。
「・・・で、ホントなの?」
シャニーは確認するように、シチューをほおばるセラのほうを見つめなおす。
「うん、賊討伐任務だったよ。 それがさ、うちの部隊長がいい人でさ〜。」
シャニーは愕然とした。 同期の親友は、もう戦場へ出て戦っている。
それなのに、自分はいまだ初陣どころか、実戦的な話すら程遠いところに居る。
どんどん仲間から置いていかれている。 そんな気持ちが、彼女の心の中を駆け巡っていた。
「セラのところの部隊長って誰だっけ?」
「イドゥヴァって言う超ベテランの人。 “最初で心細いかもしれないけど
貴女達は私の後ろで援護をしてくれればいいって。 危ないから隊列を乱さずに私について来い”ってさ。
結構統率取れててカッコよかったなー。 あれ、シャニー?」
セラがウッディと話し込んでいる隙に、シャニーはいつの間にか居なくなってしまっていた。
昼休みの終るギリギリまで食堂で話し込むのが彼女らの日課であるのに。
「どうしたんだろ、アイツ。 食べすぎで腹でも痛くなったのかな。」
セラは茶化したが、ウッディには何となく分かっていた。
「シャニー・・・。」

食事を終えたイドゥヴァ達古参騎士は、昼休みが終ると食堂を出て、中庭を歩いていく。
「イドゥヴァさん、今年の新人はどんな感じですか? 結構な数が入隊されたようで。」
イドゥヴァの周りを他の古参騎士達が取り巻いている。 団長ではないにしろ
彼女は力を持った天馬騎士だった。 騎士としての腕だけではない、周りに影響を及ぼすことの出来る力を持っていた。
その影響力は、団長であるティトすらも無視できないほどのものだ。
「あまり質は良くないですね。 この前の初陣でも死者を出さないのに骨が折れましたよ。
あのレベルでは、いつ使い物になるまで成長するかわからない。 新人もいいお荷物ですね。」
戦力になる新人なら歓迎できるが、今年はそこまで戦力になる新人が居ない。
戦力になりそうな二人も、何を考えているのかよく分からないヒヨッコ団長が
あろうことかあのレイサに任せた新人部隊へ送り込んでしまった。
新人が弱いのは周知のことであるが、だからと言って戦死者を出せば、自分の手腕を問われることになる。
勢力拡大を目論む彼女にとっては、今自分の将としての評判を下げる事は、何が何でも避けたいことだった。
その為もあってか、彼女はティトに再三、シャニーやアルマを自分の部隊へ昇格させるように言い寄った。
だが、団長の首が縦に振られる事はなく、彼女はやきもきしていた。
とにかく、戦力になる新人が欲しかった。 特にあのアルマとか言うのは、新人のクセに権力が欲しいとか
なかなか侮れないとイドゥヴァは考えていた。
が、不安以上に、彼女にとっては利用し甲斐のある人間だった。
彼女は絶対権力の階段を登る。 どんな手段に打って出ても。
そいつを配下につけておけば、自分もまた、更なる高みを目指すことができる。
そう考え、イドゥヴァは度々アルマの元を訪れては、彼女の気を惹こうと色々画策していた。
今回も他の古参騎士と別れ、アルマの元を訪れようとしていた。
そのとき、彼女の目に、必死になってレイサに何かを訴える蒼髪の新人が飛び込んできた。
(あれは・・・団長の妹・・・シャニーではないですか。)


187: Chapter1−5:求めし者:08/05/03 13:23 ID:PM
「ねぇ! レイサさん、どうして分かってくれないのさ!
皆もう基礎は大分覚えてきてるじゃない。 もう少し実戦的な訓練をしないと、いつまで経っても強くなれないじゃん!」
いつも穏やかなシャニーが部隊長に詰め寄って、訓練レベルの向上を訴える姿に
周りの新人達もあっけにとられて休憩どころではない。
その様子を、アルマは稽古に行かず黙って見ていた。
「何度も同じこと言わせないで。 私にその事をあーだこーだ言っても分かんないんだよ。
団長に聞いてみたけど、そんな高度な話は新人には無理だって言ってたよ?」
(おねえちゃんめ・・・)
シャニーは姉の事を少々腹立たしく思いながら、レイサに反論する。
「おねえちゃんはあたし達を見くびりすぎなの!
それに第一、個人練習ばっかりじゃ、互いの信頼関係とか築けないし・・・!」
そこまでシャニーは言った口を、レイサは手で覆って無理矢理黙らせた。
そして、シャニーへ顔を近づけると、目線を合わせるように静かに彼女へ語りかけた。
「シャニー、下手な仲間意識は捨てた方がいいよ? いくら同胞とか、仲間でも、戦場で敵になる事はあるんだからね。」
それを聞いたシャニーは力任せにレイサの手を口から跳ね除け怒鳴った。
いつもの優しい性格からは想像もつかない形相に、周りはたじろいてしまう。
「見損なったよ! レイサさんだって、仲間同士で争うことがないようなイリアを創りたいって言ってたじゃない!
なのに、なんでなのさ! そんな理由で、こんな訓練ばかりさせてたの?! あんまりだよ!」
怒鳴られて、言い寄られても、レイサは表情を変える事はなかった。
レイサには、シャニーの性格が大体分かっていた。 だから、先程の台詞をシャニーに振れば
どんな反応が返ってくるかぐらいは想像がついていた。 ここまで怒るとは予想外だったが。
「あんた、何焦ってるんだい?」
「え?」
怒りに任せて感情を思い切りレイサにぶつけたのに、相手から冷静に自分を分析されてしまう。
シャニーは焦っていた。 自分だけ取り残されてしまう事に、焦り以上に恐怖を感じていた。
「正直ね、私がこの部隊であんた達に学んで欲しい事は、武術じゃないんだよ。 団長もそう言っていた。
武術以外で、騎士として、傭兵として、そしてイリア人として大切なことを学んで欲しいんだよ。」
「じゃあ! 早くそれを教えてよ!」
シャニーは今まで我慢していたせいもあってか、怒りが収まりきらない。
親友の初陣や、レイサの言い草も重なってとうとう爆発してしまったようだった。
「教えてあげるなんて誰が言った? 誰かがやってくれるなんて、そんな事考えるのはよしな。
自分で学ぶんだよ。 そんなものは。
前にも言ったよね? 新人部隊は考える期間だって。 自分で考えて、答えを出しなさいよ。
あんた、十を目指すための“一”は何か分かったのかい?」
「それは・・・。」
言葉に詰まるシャニーへ、レイサは頭に手をやって諭してやる。
「武術なんかは、正式な部隊へ配属されてから学んでも遅くない。
でもね、こういった考えるって事は、実戦に出だしたらなかなか出来ないことなんだよ。 時間は貴重だよ?」
レイサの言っている事は分かっている。 でも、どうしても納得できなかった。
頭では分かっていても、どうしても早く上の部隊に配属されたいという気持ちが先行してしまうのだった。
レイサの言うとおり、まだ、十の為の“一”も完全には理解できていなかった。
“一”の含んでいるものがあまりにも多すぎて、考えれば考えるほど悩んでしまった。
なぜ、同胞同士が殺しあわなくてはならないのか。 なぜ、自分達は民の為に闘わなければならないのか。
なぜ、正しくないと思っていることを、正義と言い聞かせてまでやらなければならないのか・・・・。
「なぜ」が多すぎて、考えているとどんどん深みにはまって、出られなくなってしまった。
シャニーもシャニーなりに苦しんでいた。 納得の行く答えの見出せない「なぜ」と戦っていた。


188: Chapter1−5:求めし者:08/05/03 13:28 ID:PM
でも時々、考える事は何か意味があるのかという気持ちにとり憑かれる事もあった。
こうやって考えている間にも、民は震え、飢えている。 ならば、早く傭兵に言って金を稼いだ方がどれだけ国に貢献できる事か。
だが、その気持ちは他ならぬ「なぜ」から出た、答えにならぬ答えによって打ち消されていた。
自分が変えたいと思っている手段で国に貢献しても、結局は自分や民に嘘をついていることになる。
それでは、自分は騎士の誓いを破ることになる。
イリアの民を助けたい。 傭兵によって金を稼ぐ事は、本当の意味でイリアの民を助けることにはならない。
これだけは、色々考える中で自分の確固とした意識に変わっていた。
それでも、自分の置かれた立場や、仲間の初陣などによる焦りから生じる葛藤に、彼女は苦しんでいた。
「でも・・・! やっぱり分かんないよ! 頭では分かってる・・・。 でも!」
「そんなにやりたけりゃ、好きにしな! その代わり、何があってもあんた自身で責任は取るんだよ。 私は知らないからね。
あんたは私や団長が、あんたに何を期待しているか、何を想っているか、全く分かっていない。
もう少し人の心が分かるヤツだと思っていたけど、見損なったね!」
頭を抱えて悩むシャニーへ、レイサは一言言い放つと向こうへ行ってしまった。
部隊長の居なくなった新人部隊は、どうすればいいのか分からなくて動揺する新人達が、シャニーの周りに集まっていた。
レイサを怒らせてしまった。 その罪悪感がシャニーを押しつぶしそうになるが
それを周りの仲間達が励ましてくれる。 それに加えてアルマも寄ってきた。
「お前があそこまで言うとは思わなかった。 でも、これでれんしゅう稽古ができるじゃないか。」
しかし、シャニーは下を向いていた。
分かっている。 レイサや姉が、自分に何を期待しているかぐらいは。
実戦に出る前にもっと色々学んで、人間として大きくなって欲しい・・・そうに決まっている。
そうでもなければ、人手不足なのにわざわざ新人部隊へ配属して、稼げる金を溝へ捨てるような真似はしないだろう。
それは分かっている。 だが、彼女の心はまだ未熟だった。
人の期待に応えるより、自分の焦りや葛藤が表に出てしまっていたのだった。
そして、レイサに突き放されて、うすうす気付いていたそれが嫌と言うほど自分を苦しめる。
いつも、やってから後悔する。 どうしていつも自分はこうなのだろう。 未熟な自分に嫌気が差した。
そんなシャニーを、横目に、アルマは他の新人達に向かって話しかけた。
「邪魔者は居なくなったんだ。 さ、早く稽古を始めようじゃないか。 強くなる為にね。
強くなって、早く上の部隊に行きたいヤツは・・・私と一緒に練習しようじゃないか。
もっとも、私の稽古についてくることが出来るならばの話だけど。」
皆は、どういう自信過剰なヤツだと思った。
だが、皆も早く上達したかったし、何よりアルマの実力については
一人で練習する様子を見ても明らかだった。
皆は新たな“部隊長”の指示に疑念を抱きながらも、力を求めついていった。
「シャニー、行こうよ。 シャニーは悪くないよ。」
シャニーも他の隊員に連れられ、アルマのあとを追った。
追えば追うほど遠のいていく答えを追い、自らの心の中で死に絶えた何かに気付かぬまま。

そのあと、レイサが部隊を見に来る事はなかった。
稽古中、誰もいない木の上を眺め、シャニーはポツリと独り言を漏らした。
「あたしは・・・なんてバカなんだろ。 なんて小さい人間なんだろ・・・。
皆あたしの事を気にかけて、期待してくれているのに・・・。 レイサさん、おねえちゃん、ごめんね。
あたしきっと、一を探し出して、十に辿り着いてみせるよ。 もっと・・・思慮を伴わせないとダメだよね。」
彼女は悔いていた。 親友が初陣を踏んだから、という短絡的な理由で早く初陣を踏みたいと考えた自分を。
そして、レイサの言葉を思い出していた。
―剣を振らなければならなくなったときは、それが民の為のなのか良く考えろ―
民の為に剣を振るう・・・シャニーにとっては、傭兵すらも民の為に振る剣ではないようにも思えていた。
だが、これを否定すれば今のイリアはたちまち凍り付いてしまう。
再び、彼女は考えることの深みにはまっていた。
それでも、彼女は稽古を怠る事もしなかった。 いつか、民の為に剣を振るうときが来た時のために。
ただこの手から滑り落ちていく、そんな気持ちを振り払いながら。


189: 手強い名無しさん:09/01/09 23:34 ID:sg
もう終わり

190: 手強い名無しさん:09/01/09 23:35 ID:sg
もう終わり

191: 手強い名無しさん:09/01/09 23:36 ID:sg
もう終わり 続きあるならどこにあるか教えて

192: 手強い名無しさん:09/01/22 22:15 ID:bA
この前、気づいたんですけど最終決戦前の
アゼリクスとセレナ達の会話がロックマンゼロ4の
ドクター・バイルのセリフと似ていました。
(ドクター・バイルが人間を憎んで、その心情を吐露する所が)

193: 手強い名無しさん:09/01/22 22:36 ID:UQ
こういう大作は色々研究しないとできないから自然と似たフレーズというのが出てくるもんだよ

194: 書いてた人:09/02/22 09:50 ID:hs
>>189-191
書くのを辞めて1年経ちそうですが、ようやく書く気力が戻ってきました。
なにせ半分ぐらいまで書いて、いよいよ物語が転換の時期を迎えるって時にPCが逝っちまいましたから。
年度末なので時間はあまりありませんが、またのんびり書いていこうと思います。

>>192-193
それは大いにあるかもしれません。
研究段階でその関係もかなり調べましたからね。
冒険ものだったのでお約束はかなり調べたもんです。

195: 手強い名無しさん:09/04/02 16:51 ID:HY
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196: アイマス信者:09/04/13 18:20 ID:JA
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197: アイマス信者:09/04/13 18:20 ID:JA
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198: きょぬーマニア:09/04/17 13:34 ID:HY
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199: magic:09/09/21 17:54 ID:CY
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