♪美香の読了報告総集編♪


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♪美香の読了報告総集編♪

1: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:52
文学板の「読了報告スレッド」↓
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/book/1058920850/l50

そろそろdat落ちをするので、ここにコピペしておきます。
いや、自意識過剰なのはわかっているけど、
せっかく書いたものだからだれかに読んでほしいということもあり……。
うざかったらごめんなさい。

2: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:54
03/07/31 23:58
「はじめての劇作 戯曲の書き方レッスン」(デヴィット・カーター/ブロンズ新社)1800円
「オイディプス王」や「ハムレット」を題材に、いかにおもしろい戯曲を書くかの講義。
なんでも日本の戯曲教室の教科書用に訳されたらしい。
ひとは何をおもしろいと感じるのか、そのおもしろさにマニュアルはあるのか。
ギリシア悲劇から山田太一までを一本の線で結びつけたいわたしには参考になった。

「話し言葉の日本語」(井上ひさし・平田オリザ/小学館)1500円
対談本。いま現在の日本の演劇情報を知る上で非常に勉強になった。
井上ひさしは語る。「自分は誰がなんと言おうと希望を芝居にこめたい」。
ふたりの作劇術の紹介もある。日本語を使って劇を作るということの意味。
何をこむつかしいことをとも思う。能書きはいらない、おもしろければいいのだ。

3: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:55
03/08/03 00:08
「人形の家」(イプセン/原千代海訳/岩波文庫)
「野鴨」(イプセン/原千代海訳/岩波文庫)
「ヘッダ・ガーブレル」(イプセン/原千代海訳/岩波文庫)

4: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:55
03/08/05 22:16
「ガラスの動物園」(テネシー・ウィリアムズ/小田島雄志訳/新潮文庫)
「欲望という名の電車」(テネシー・ウィリアムズ/小田島雄志訳/新潮文庫)
以上、二冊は再読。
わたしは再読(多読)にたえる作品を見つけるために濫読しているのかもしれない。

「三文オペラ」(ベルトルト・ブレヒト/千田是也訳/岩波文庫)
つまらない。しかしこれも「人生の一冊」にめぐり合うための試練。

5: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:56
03/08/06 08:31
「クミコハウス」(素樹文生/新潮文庫)
新潮文庫の新刊。甘ったれた青年の感傷的な旅日記。
前作「上海の西、デリーの東」を薄めた感じ。
まあ、眠れない夜に90分で読み飛ばすには悪くない。
読みにくい翻訳物を読んでいると、すらすら読める文章に癒される。
あ、インドのクミコさんは目撃したことがあります。

6: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:57
03/08/07 04:18
「オイディプス昇天」(山崎正和/福武書店)

これなんか知名度が低いかも。ギリシア悲劇のつながりがら昨日読了。
戯曲集。タイトルの作品はソフォクレスの「コロノスのオイディプス」を翻案したもの。
井上ひさしの「天保十二年のシェイクスピア」がオリジナルのシェイクスピア喜劇
よりも(現代日本の読者・観客には)おもしろくなってしまったのと同様、
この「オイディプス昇天」もなまじっかのギリシア悲劇よりもよほどおもしろい。
おそらく何の文学賞も取っていないし、さほど話題にもなっていないはず。
それなのにこんなに・・・ と思うと39さんの言うところの「私の一冊」的な
意味合いが出てきてなんだか嬉しい。再読リストに追加しておく。

「演劇って何だろう」週間はまだ続く。

7: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:58
03/08/09 02:47
「フェードル アンドロマック」(ラシーヌ/渡辺守章訳/岩波文庫)

8: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:58
03/08/09 17:16
「かもめ」(チェーホフ/小田島雄志訳/白水uブックス)
「ワーニャ伯父さん」(チェーホフ/小田島雄志訳/白水uブックス)

いずれも以前、新潮文庫で読んでいたので再読になる。「かもめ」は三回目。
=チェーホフを今まで読んだことがないわけじゃないわい、バカにすんな!

9: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 10:59
03/08/13 16:50
「三人姉妹」(チェーホフ/小田島雄志訳/白水uブックス)
「桜の園」(チェーホフ/小田島雄志訳/白水uブックス)

チェーホフは「かもめ」がやっぱりいちばんだと思います。
荒々しいところが、ハムレットを下敷きにしているところが、人が死ぬところが。

10: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 11:00
03/08/15 16:08
「二十歳の原点ノート」(高野悦子/新潮文庫)
「二十歳の原点序章」(高野悦子/新潮文庫)
「二十歳の原点」(高野悦子/新潮文庫)<これだけ再読>

うっかり生まれ変わろうなどと思ったりすることもある。
ずーっとむかしに「二十歳の原点」を読んで日記をつけ始めたことがある。
ブックオフで購入した、いまは絶版の前編を読んでみた。シリーズを通して。
感想。年をとったということかわたしも。
頭の悪い、といって男にもてもしない女の子が分裂病を発症して自殺するまでの日記。
痛ましい、けれども心に響くことはもうなかった。なんにも。

11: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 11:00
03/08/17 09:24
「ベスト・オブ・ベケット( ゴド−を待ちながら ) 1」(サミュエル・ベケット/安堂信也 高橋康也訳/白水社)

12: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 11:01
03/08/18 22:30
「ア−サ−・ミラ−全集1」(菅原卓訳/早川書房)
(内容)
「みんな我が子」
「セールスマンの死」
アーサー・ミラーはギリシア悲劇とイプセンを学んだらしいです。
どちらも完璧なドラマ。
「セールスマンの死」と「欲望という名の電車」はアメリカを代表する戯曲とのこと。
いやいやいやいや。世の中にはおもしろいものが山ほどある。

13: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 11:02
03/08/20 00:53
「ア−サ−・ミラ−全集2」(菅原卓訳/早川書房)
(内容)
「橋からのながめ」
「るつぼ」

「るつぼ」はすごい戯曲だね。世界レベルの傑作という感じがする。
遠藤周作「沈黙」の先行作品。かなり遠藤さんは影響を受けたのでは。
うねるようなドラマのなかに(研究家向けの)思想も(大衆向けの)見せ場も盛り込む。
これほどまでのドラマを作り上げられるひとがこの世にいるなんて。
アーサー・ミラーに影響を受けた日本人文学者は他に誰がいるのだろう。

14: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 11:03
03/08/23 10:10
「山頭火 風の中ゆく」(村上護/春陽堂)

山頭火研究の先駆者・村上護さんの書いた戯曲。
全国で公演されたらしいけど、うーん、失笑した。
研究者が勘違いして創作に手を出すと目も当てられないという典型。
ドラマというものをまったくわかっていない。
ただ山頭火の生涯を戯曲形式で紹介しただけ。
戯曲としてやってはいけない「説明的台詞」で満たされている。
役者さんも困っただろうなと同情する。
山頭火はテレビや戯曲にするとつまらなくなるのはどうしてか。

15: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 11:04
03/08/31 07:13

「ア−サ−・ミラ−全集3」(倉橋健訳/早川書房)
(内容)
「転落の後で」
「ヴィシーでの出来事」

「ア−サ−・ミラ−全集4」(倉橋健訳/早川書房)
(内容)
「代価」
「二つの月曜日の思い出」

「ア−サ−・ミラ−全集5」(倉橋健訳/早川書房)
(内容)
「世界の創造とその他の仕事」
「アメリカの時計」

「旧約聖書を知っていますか」(阿刀田高/新潮文庫)
「新約聖書を知っていますか」(阿刀田高/新潮文庫)

「世界の創造とその他の仕事」が旧約聖書を題材にしていたので、つい寄り道を。
阿刀田高の古典紹介シリーズは工藤伸一が好きそう。知ったかぶりのネタ本。

「代価」はあたかも現代日本の老人介護問題を描いているかのごとし。
アメリカのほうが何事も先をいっているのか。
「二つの月曜日の思い出」は泣いちゃった。
早川書房もアーサー・ミラーを文庫にすればいいのに。

16: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:15
03/09/07 03:09

「ア−サ−・ミラ−全集6」(倉橋健訳/早川書房)
(内容)「壊れたガラス」「大司教の天井」

「ア−サ−・ミラ−全集1」(倉橋健訳/早川書房)*再読
(内容)「みんな我が子」「セールスマンの死」

「ア−サ−・ミラ−全集2」(倉橋健訳/早川書房)*再読
(内容)「橋からのながめ」「るつぼ」
再読だけど、どちらも倉橋健さんの訳で読むのは初めて。やはり戯曲は新訳がいい。

「酔っぱらい読本・壱」(吉行淳之介編/講談社)

「週刊100人 No.14 ウイリアム・シェイクスピア」(デアゴスティーニ)

「文芸別冊 総特集 遠藤周作」(河出書房新社)

17: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:17
03/09/13 10:57
「ア−サ−・ミラ−全集4」(倉橋健訳/早川書房)*再読
(内容)「代価」「二つの月曜日の思い出」
→結局、アーサー・ミラー全集でおもしろいのは1、2、4巻です。

「現代演劇 no.15 特集アーサー・ミラー」(現代演劇研究会編/英潮社)
→アーサー・ミラーの総まとめとしてヨンダ。巻末の世界の演劇状況が秀逸。
世界中でいまもシェイクスピアが(それも頻繁に!)上演されていることを知る。

「酒とつまみ 第3号」(酒とつまみ社)
→酒とつまみに関する濃いぃ話が満載の小冊子。1号から愛読している。
少数の書店でしか売っていない。わたしは神保町の三省堂本店で購入。
http://www.saketsuma.com/

18: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:18
03/09/23 08:31
「悲劇の誕生」(ニーチェ/秋山秀夫訳/岩波文庫)
「ニーチェ入門」(竹田青嗣/ちくま新書)
「インド酔夢行」(田村隆一/集英社文庫)
「若きウェルテルの悩み」(ゲーテ/高橋義孝訳/新潮文庫)

19: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:18
03/10/07 13:42
「ファウスト(一)」(ゲーテ/高橋義孝訳/新潮文庫)
「ファウスト(二)」(ゲーテ/高橋義孝訳/新潮文庫)

「演劇とは何か」(鈴木忠志/岩波新書)
「劇的とは」(木下順二/岩波新書)

「女の平和」(アリストパネス/高津春繁訳/筑摩書房・世界古典文学全集)
「女の議会」(アリストパネース/高津春繁訳/岩波文庫)
「雲」(アリストパネース/高津春繁訳/岩波文庫)

「東京のBar」(枝川公一/プレジデント社)
「風呂で読む 啄木」(木股知史/世界思想社)*再読

20: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:19
03/10/09 06:43
「早春スケッチブック」(山田太一/新潮文庫)

以下感想。

人生の一冊に認定。
シナリオ本。
「想い出づくり」とならぶ山田太一の最高傑作。
シェイクスピアよりもチェーホフよりも寺山修司よりも山田太一はすごい。
その山田太一の「らしさ」がいちばん出ているのが本作では?
絶版なのでブックオフで見つけたら必ず買うこと!

以上、読了報告終了。

21: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:20
03/10/10 06:24
「頭痛 肩こり 樋口一葉」(井上ひさし/集英社)

戯曲。ブックオフ100円コーナーで購入したもの。
二ヶ月前に新宿でこの芝居を見たはずなんだけどすっかり忘れている。
井上ひさしをはじめてヨンダのは戯曲「天保十二年のシェイクスピア」で、
そのときはこんな天才が日本にいたのかと思ったけど、うーん、
これはそれほどでもないんだなぁ・・・
ところでみんなさんの読了レポを見ていると戯曲がほんとない。
いいですよ戯曲って。二時間なら二時間と時間を決めて集中して読む。
いいなって思ったセリフは音読したりして。
戯曲の良さは、その「まとまり」にある。小説みたいにだらだらしていない。
というのも戯曲という形式にものすごく制限を受けているから。
戯曲を読むとマラソンや水泳をしたような、あるいは長時間湯船につかったような爽快感があります。
つまり気持ちよく汗をかいたような、ということです。
戯曲はもっとも身体的な文学ジャンルだと思う。肉体と密接した文学。

22: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:21
03/10/13 07:15
「沿線地図」(山田太一/角川文庫)
→ここのところずっと海外の古典ばかり読んでいたので最初はあまりのぬるさに絶句。
でもおもしろいの、読んでいてあんなに笑うなんて。山田太一が好きなんてひとにいえない。

「岸辺のアルバム」(山田太一/角川文庫)
→小説。テレビで見たひといる? テレビドラマの古典、その原作本。
これもおもしろい、文学じゃないなんていわないで!
ギリシア悲劇やゲーテなんて読んでいたからか、おもしろいものを読むと罪悪感がある。
でも思うんです。ギリシア悲劇と当時の観客との関係は、現代ににおける
テレビドラマと視聴者の関係とそう変わらないのでは? 
ギリシア悲劇にいろいろな制限があったようにテレビドラマにもスポンサーやらの制限がある。

「終わりに見た街」(山田太一/中公文庫)
→宮部みゆき「蒲生邸事件」の山田太一バージョン。
平凡な家族四人が突然タイムスリップして大東亜戦争の真っ只中へ。
はたして歴史を知っている彼らは東京大空襲をとめられるのか?
良いのか悪いのか山田太一の小説は1時間で100ページ読める。

「街への挨拶」(山田太一/中公文庫)
エッセイ。なんでだろ。時折、つぼにはまったように大爆笑をしてしまった。
日常をなめるな、ありきたりを舐めるな、人生はお祭りなんかじゃないと静かに語る。
そのくせ露骨に寺山修司へのあてつけ(悪口)もある。
許せなかったんだろうな、寺山ごときが若者に受けている軽薄な時代が。
今じゃ寺山なんて恥ずかしくて口にできない時代になったけれども。

23: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:22
03/10/15 06:35
「飛ぶ夢をしばらくみない」(山田太一/新潮文庫)
→老婆と思っていたら、あらら。どんどん若返っていくではないか。
好色な主人公はたとえ少女が12、3歳と思われようがすることはする。変態め。

「異人たちとの夏」(山田太一/新潮文庫)
→映画を見たことある。トラウマになっている。この原作本でも涙ぽろぽろ。第一回山本周五郎賞。

「丘の上の向日葵」(山田太一/新潮文庫)*再読
→10年近く前に一度ヨンダことがあるけど、すっかり忘れている。
ある日、突然、美人からあなたの子どもがいるのといわれた既婚の中年男の動揺。
しかも息子は下半身不随だという。わたし、こういう読み物から読書の世界に入ったのですよ。
文学がどうだの、美観がどうだの、ぜーんぜんお構いなし。読んでおもしろいのがいいいじゃんと。

「遠くの声を捜して」(山田太一/新潮文庫)*再読
→これもおよそ10年ぶりの再読。女からの電波を受信しはじめた男の悲喜劇。
精神医学ではこういう患者さんは入院してもらうことになっていますが、あはは。
ベケット「ゴドーを待ちながら」のように最後の最後まで「女」は登場しない。

24: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:23
03/10/23 07:01
「路上のボールペン」(山田太一/新潮文庫)*再読
「いつもの雑踏いつもの場所で」(山田太一/新潮文庫)*再読
→どちらもエッセイ集。何回読み返したのだろう。ほとんど内容を覚えていた。

「君を見上げて」(山田太一/新潮文庫)
→のっぽ女とちび男の純情恋愛物語。「障害」がないと恋愛諸説は盛り上がらない。
たとえば戦争あるいは身分差もしくはトラウマ、そして本作は身長差にそれを求めた。

「冬の蜃気楼」(山田太一/新潮文庫)*再読
→呪われたように演技が下手な役者と新米助監督の奇妙な友情物語。
演技と素、虚構と現実、ウソとほんと。現実はそんな簡単に分類はできないと。

「恋の姿勢で」(山田太一/新潮文庫)
→ありきたりな恋愛への挑戦状。会うたびに設定をかえて演技する男女の物語。
今日は僕がやさぐれた探偵、君は弱みを握られた人妻という設定でデートしよう。
こんな感じに、毎回ちがうデートを楽しむ男女。
寺山修司よりも非日常というものを見通しているのは、日常をこれでもかと凝視しているゆえ。

25: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:23
03/10/23 07:03
「見えない暗闇」(山田太一/朝日文芸文庫)
→非常に図式的な小説。読後、思わず絵解きをして悦に入ってしまいそう。
日常と非日常、正常と異常、平静と狂気、貴重品とゴミ、公務員と暴力。
つまりは「きれいは穢(きた)ない、穢ないはきれい」(マクベス)。
山田太一さんの意欲作。なんでこれがなんの文学賞も取っていないのかふしぎ。

「見なれた町に風が吹く」(山田太一/中公文庫)
→平凡で退屈な日常を送るオールドミスがふとしたことから映画製作に加わることになり・・・
現実はとことん厳しいけど、ほんと厳しいんだけど、でもまあがんばろうよ!
という、いかにも山田太一らしい作風の小説です。決してワンパターンとは言わない。

「彌太郎さんの話」(山田太一/新潮社)*再読
→去年の三月に発売されてすぐ読んだはずなんだけどさっぱり覚えていなかった。
文句なしの傑作。上質のエンターテイメント。文庫化されたらまあ読んでみぃ。

以上にて山田太一全小説13作品を読了。

26: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:24
03/10/24 13:35
『親ができる「ほんの少しばかり」のこと』(山田太一/新潮文庫)
→太一パパの子育てエッセイ。なに読んでんだかアハハ。
こんなものを書くだけのことはあって太一娘は民放テレビ局のエリート社員。
遠藤周作の息子もテレビ局のプロデューサー。へへへ、成功者は子どもまで違いますね。

27: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:25
03/10/26 11:44
「言語表現法講義」(加藤典洋/岩波書店)

著者が大学で教えていた講義を書籍化したもの。
テーマは「どうすればいい文章を書けるか」。刺激的な良書です。
言葉というものに意識的に向き合う良い機会になった。
本書は著者が学生に課題をだし、提出された課題を添削するという形式で進められる。
けどね、なんだかなと思ったりもする。うまいと著者がほめる学生の文章なんて読むと。
いかにもな小論文の優秀作、模範解答例みたいで、チェッと舌打ちしたくなるのである。
たとえば「私について」書きなさいという課題。
「戦争について」でも「現代の若者について」でもそう。
なんで一言「うるせーバカ!」じゃいけないんだろう。
本書のような文章教室からは文学は生まれない。
「うるせーバカ!」から始まるのが文学なのではありませんか。
かつて中上健次はいった。
「いまの文学者にこれだけは書かなければならないというものをもったやつがどれだけいるか。
べつに書かなくても生きていけるやつらが文学者づらをして賞に一喜一憂しているだけだ」。
おんなじ。課題をだしてまで学生に文章を書かせる必要がどこにありますか。
書きたいことがないひとは、書かなくてもいいじゃない。いわんや「いい文章」をや。
添削というのもどうかなぁ。さっきの中上さんは若い頃にこうもいっている。
自分の小説を一字一句でも添削しようとするやつは殴りつけてやると。さすが。
さてさて、本書の最後で著者は言い訳のようにいっている。
今まで自分が書いてきたいい文章の書き方なんて忘れてください。
みなさんの書きたいという気持がいちばんです、と。
もちろん加藤典洋もわかっていたのである。
書く「技術」よりもはるかに書く「欲望」が大切なんだって。
安心してください。三日も経てばわたしは本書の内容を忘れるでしょうから。

28: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:26
03/10/30 04:11
「どん底」(ゴーリキイ/神西清訳/角川文庫)絶版
→戯曲。いわゆる名作古典。ロシアの浮浪者さんたちのおはなし。
どの文学作品も「ある時代における・ある国の」事情というものがあってはじめて
書かれるものだろうけれども、その中で古典として後世に残るものにはやはり
時代・地域に還元されない「何か」がある。その何かとは劇的ということではないか。

「イワーノフ」(チェーホフ/米川正夫訳/角川文庫)絶版
→チェーホフ最初の長編戯曲。文庫で旧仮名遣いは読みにくいったらありゃしない。
これも当時のロシアの事情が色濃く反映した戯曲らしい。
まあ、私たち(研究者ではない)フツーの読者はどの古典作品も今を基準にして
読むわけですが。最後に主人公が自殺して、へえ、強制終了かとあいまいに苦笑した。
かといって村上龍の「私は主人公を最後に殺したりはしない」という方針を支持しているわけではない。

「チェーホフの手帖」(チェーホフ/神西清訳/新潮文庫)絶版
→チェーホフは手帳に日々の思いを記入して、それを創作に活用していたらしい。
チェーホフ本人や研究者には重要だったかもしれませんけど日本の一読者が見てもさっぱり。

「チェーホフ短編集」(チェーホフ/原卓也訳/福武文庫)絶版
→宮本輝お薦めの短編「恋について」が入っていたので多少値は張ったけど古本屋で購入。
最近、知ったけどわたしの好きな三浦哲郎もチェーホフを愛読しているらしい。
感想は、ブンガクしてるなぁ。ありのままの人間と、あるべき人間とのあいだにあるブンガクねえ。
大まじめに恋愛について生きる意味について書いていますよ、照れちゃうな……。

「かもめ」(チェーホフ/小田島雄志訳/白水uブックス)*再読
→戯曲。もう何回読んだんだろう。今年に入って三回目か。読めば読むほど味が出る。
チェーホフの最高傑作。これがあるからチェーホフの他の作品も読もうという気になる。
この感動を誰かに伝えたい。なんてすばらしい戯曲なんだろう。
どの人物のどのセリフにも作者の目が行き届いている。劇的になるように! 
どの恋愛も成就することがない、それゆえのさみしさ美しさ青春ということ。
今までは気がつかなかったある脇役(マーシャ)に今回はやたら目がいった。

29: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:26
03/11/03 10:11
「完全版!! 銭道」(青木雄二/小学館)
→なに読んでんだかアハハと照れ笑いしたくなるけど、まあ、ちょっと前に
亡くなったことだし、コンビニ廉価版で安かったし、あほな大衆に受けている
のを見てみるのも悪くないと思ったから、なんてわたしはエラソーなのか(ごめん

「ザ・ロイヤル・ハント・オブ・ザ・サン」(ピーター・シェファー/伊丹十三訳/劇書房)
→戯曲。インカ帝国を滅ぼすために探検に出かけた男たちの物語。なんかいまいち。

「レイ・クーニー笑劇集」(小田島雄志・恒志訳/劇書房)
→戯曲。内容は「ラン・フォー・ユア・ライフ」と「パパ・アイ・ラブ・ユー」。
登場人物全員が必死になって動き回るファルス(笑劇)。すべては観客を笑わすために!
シェイクスピアの「間違いの喜劇」を100倍おもしろくした感じといえばいいのか。
こんな演劇も可能だったのかと新たな発見をした気分。シナリオ創作の勉強になる。
2500円と高いけどお薦め。失意落胆しているときに読むと肩がほぐれそう。再読候補。

「くたばれハムレット」(ポール・ラドニック/松岡和子訳/白水社)絶版
→戯曲。お芝居の舞台裏を演劇にしてしまうというのは古く「夏の夜の夢」から。
ハムレットを演じることになった役者の成長物語。
ほら幽霊がでてきて、それは主人公にしか見えなかったりして、幽霊に色々教えてもらって、
最後はお別れという――。ありがちとか言っちゃ悪いね。可もなく不可もなく。

「アマデウス」(ピーター・シェファー/江守徹訳/劇書房)*再読
→戯曲。モーツァルトのお話。初読のときはすんごい大傑作だと思ったけどなんだかな。
うまいんだけど、おもしろいんだけど、それだけで終わっているというのか、うーむ。
役者のひとりが甘いお菓子を舞台でぽりぽり食べるのでわたしもついついお菓子を口に(w
そういうことってありません? 本にでてくる食べ物がどうしても食べたくなってしまう。

30: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:28
03/11/04 21:02
「ナイチンゲールではなく」(テネシー・ウィリアムズ/村田元史訳/「テアトロ」11月号)
→戯曲。テネシー・ウィリアムズが27歳のときに書いた習作。当時、上演されることはなかったらしい。
刑務所でのおはなし。搾取にリンチとやりたい放題の所長。それに対するは刑務所のドン。
さて、所長のスパイかと思われていたジムが所長秘書との愛に目覚め、刑務所のドンと結託して――。
アメリカにありがちな三流映画のような……といったら失礼かな。読みとおせるぐらいの
おもしろさはあるけど、そこどまり。この著者がのちに「ガラスの動物園」「欲望という名の電車」を
書くとはとても信じられない。その飛躍には何があったのか。それを知りたい。

「週刊朝日百科 世界の文学42 テネシー・ウィリアムズ、アーサー・ミラーほか」
→アメリカの演劇史が盛りだくさんの写真とともにコンパクトに紹介されている。
読もうか迷っていた劇作家の情報があって、思っていたより役に立った。
喜志哲雄さんによると「ニール・サイモンの戯曲にはT.ウィリアムズやA.ミラー
ほどの文学性はない」。「エドワード・オールビーはアメリカ版の不条理劇」。
どちらも全集を買おうか迷っていたけど、とりあえずはやめることにする。

「カッコーの巣の上を」(デール・ワッサーマン/小田島雄志・若子訳/劇書房)
→戯曲。いいよ、これ。とってもいい。読んでいて不覚にも落涙。とってもいっぱい泣いた。
そうとうスレているはずなんだけどなわたし。えーと、おはなしの舞台は精神病院。
ドラマというものは何者かが現れ日常の均衡が壊れることからスタートするものですが、
ここに登場するのがなんとも愉快なマクマーフィさん。「人生はお祭り」を地で生きるナイスガイ。
管理としめつけが大好きなオールドミスの婦長さんはとーぜん彼が気に入らない。
さてさて、どんな葛藤が繰り広げられるかはぜひご一読を。1700円と高いけど決して後悔させません。
続けてこれが原作の映画「カッコーの巣の上で」を見たけど、こちらにはがっくし。
映像、苦手です。イメージを押しつけられる感じが窮屈で。せっかくの脳内上演をぶち壊された思い。
ひとからイメージを与えられるより、自分でイメージを作るほうが楽しくないですか?

31: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:42
03/11/09 10:07
「わが町」(ソーントン・ワイルダー/額田やえ子訳/劇書房)
→戯曲。ちょっと待ってよ、そりゃないって! もういいかげんにして!
戯曲を読むのは終わりにして早く「次」に行きたいというのに。
だって戯曲は半端じゃなく高いから……。なのに、なのに、なんでこんなにおもしろいの?
ええ、泣きましたよ。セリフの一言ひとことがなんて重いんだろう。
これを読んだら胸がいっぱいになって、その日は他の本を読む気にならなかった。
アメリカの古典劇。調べてみたらとっても有名らしいけどみなさん知っていました?
わたしは知らなかったけど。世界各地でプロアマ問わずに上演されているらしい。
カントリーの平凡な生活を、なんでここまで感動的に描けるのだろう。
ひとの人生を変えうるチカラを持った書物に久々に出会いました。1800円、高くない!

「ピアノ・レッスン」(オーガスト・ウィルソン/桑原文子訳/而立書房)
→戯曲。黒人もの。中上健次の「路地」じゃないけど、なんかキュークツ息苦しい。
先祖伝来の想い出がしまいこまれたふるいピアノがあります。
弟は売ろうといいます。姉は反対しますが、ピアノ(黒人の歴史)に触れることはありません。
最後に姉が今までさわることのなかったピアノをひきます。
自分の娘にピアノを教えるのです。だからピアノ・レッスン。だからなに? So what?
わたしがネタバレをするのはよほど入手困難な本か、よほどつまらないかのどちらかです。

32: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:43
03/11/09 10:07
「検察官」(ゴーゴリ/舟木裕訳/群像社)
→ご存知、名作戯曲の新訳! 国語便覧には必ず載っています。
名物にうまいもんなし、とは旅行好きの決り文句でありますが、はたして名作は?
へえ、これが名物なんだ、あの有名な、ふーん。一度食べたからもういいや。
名物を名作へ、食べるを読むへ変えれば、この「検察官」の感想になります。

「結婚」(ゴーゴリ/堀江新二訳/群像社)
→なにこれ、おもしろいじゃん。ぜったいつまらないと思っていたのに。
「検察官」の横に夫婦みたいに仲良く並んでいたから引き離すのがかわいそう。
それが買った理由。なのに、こりゃあ笑えるぜってえお客さん!
何より訳がいいんでせえ。登場人物がみーんなかわいらしい。チューしたいぐらい。
お見合いのおはなし。といっても女はひとりで男は五人。さあ、誰を選ぶのか。
あはは。「検察官」の次に読んだからこんなにおもしろく感じたのかもしれません。
また食べ物のはなしで恐縮ですが、まあ、「検察官」と食べ合わせが良かったということ。

33: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:44
03/11/09 19:45
「マーヴィンの部屋」(スコット・マクファーソン/松本永実子訳/而立書房)
→戯曲。しんみりと、じんわりと、来ます。ことばにできない感動が。
読み終わってスーパーに買い物に行きましたが、そこで来たのです。
その場で泣き出したくなるような、さみしさといとおしさがないまぜになったような。
そんな感動にすっかりやられてしまったわたしは涙を隠すのに骨をおりました。肉売場の前で。
寝たきりの父と障害者のおばの介護にあけくれるオールドミスの女性が主人公。
不運は重なるもの。白血病を宣告され、骨髄移植のために何年も会っていない妹と連絡を取る――。
読み終わってからずっと考えつづけた。なんなんだろうこのふしぎな感動は。
わかったのは、肝心なことを著者は語らせていないということ。
登場人物の誰もが言いたいことを言えないでいる。そのため逆説的に「間」が語っているのです。
何を? どうしたってことばにできないものを。それはおそらく愛なんだろうなチェッ。
登場人物が自分の思いをぶちまけることで葛藤を生みだすのが従来の演劇だとすれば、
本作は彼女らが思っていることを言えないでできてしまう「間」を見せようとする。
この「マーヴィンの部屋」は著者の第三作にして最終作品。33歳、エイズで死亡――。

34: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:45
03/11/19 02:15
「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」(トム・ストッパード/松岡和子訳/劇書房)
→戯曲。「ハムレット」に登場する脇役二人を主役にしてみたらどうなるか?
答え。つまらないからやめたほうがよかった。

「レティスとラベッジ」(ピーター・シェーファー/黒田絵美子訳/論創社)
→戯曲。日本版は黒柳徹子が主演! おもしろいおばさんのおはなし。
日常よりも演劇が、ほんとよりもうそが好きなおばさん。現代に英雄はいない。
ならどうすればいいか。英雄ごっこをしよう! 終わりなき日常に果敢に挑んだ黒柳徹子は!?

「エクウス」(ピーター・シェーファー/倉橋健訳/テアトロ)
→戯曲。どうしても読みたくてネット古書店で買ってしまった作品。
それほどでもないような。活字で読むより舞台で見たほうがいいというのか。
なぜって男女の役者が舞台上で全裸になるから。・・・じゃなくて見せ場の関係上(w
脱ぐというのは本当で、そのため韓国演劇では前衛演劇のさきがけになったらしい。
内容は、馬に異常な関心を持つこころの病んだ少年と精神科医の葛藤。
秘密を小出しにする技法があざといというのか、巧いというのか迷うところ。

「東京の秋」(山田太一/ラインブックス)
→シナリオ本。むかしはこんな文芸ちっくなものがテレビでやっていたのかと隔世の感。

「小説新人賞は、こうお獲り遊ばせ 下読み嬢の告白」(奈河静香/飛鳥新社)
→ブックオフ100円本。2時間で読めて5回笑えた。それがすべて。

「ロボット」(チャペック/千野栄一訳/岩波文庫)
→戯曲。SFの有名な古典らしい。人間そっくりのロボットを作り販売した会社。
みなさまの予想通りロボットたちが人間さまに反抗するわけで、さてどうなるか。
小学校のころの担任が「ロボットになるな!」と熱く語っていたのを思い出した。
著者によるとロボットの定義は自殺しようとしない、恋愛しない、感動しないの三つかな。
これを読んで失笑したあなたが好きだよわたしは。

「夫が多すぎて」(モーム/海保真夫訳/岩波文庫)
→戯曲。岩波文庫らしくない。だっておもしろいから(w 先が読めるけど。

35: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:47
03/11/20 07:10
「わが町」(ソーントン・ワイルダー/額田やえ子訳/劇書房)*再読
→人生を変えうる一冊なんて書いちゃって、再読してみたけれども、えーと。
そこまでではないような気もするのですが、これはいったいどういうことか。
再読して改めて魅力を再発見するタイプの本があればそうでないものもある。
ただたんにストーリーが目新しかっただけということなのかな、うーん。
ストーリーがわかっていても楽しめるというのは戯曲にとって重要なわけです。
「ハムレット」なんてみんな知っているのに観にいくわけだから。
戯曲というものは再読してみてはじめて持っているちからがわかるものなのかもしれない。

36: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:48
03/11/25 06:17
「三大悲劇集 血の婚礼 他二篇」(ガルーシア・ロルカ/牛島信明訳/岩波文庫)
→戯曲。著者はスペインの劇作家。ギリシア悲劇に影響を受けたらしい。
「血の婚礼」(夫も息子も宿敵に殺された母親。最後一人の息子まで殺される受苦を描く)
「イェルマ」(どうしても妊娠できない人妻。なんでどうしてと夫の首をしめて殺害)
「ベルナンダ・アルベの家」(ブス五姉妹。姉の婚約者を妹が奪う。のち首吊り自殺)
女の情念による悲劇を書いた。スペイン人は熱いね、いやあ。三つ目のみ傑作。

37: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:48
03/11/25 06:17
「嘘つき男・舞台は夢」(コルネイユ/岩瀬考・井村順一訳/岩波文庫)
→戯曲。フランス古典喜劇。ラシーヌとほぼ同時代のひと。
喜劇といっても、もちろん笑えやしない、古臭くて。
「舞台は夢」は考えさせられる。演劇ってなんだろう?
実際に起こったこと。あるいは起こらなかったこと。
それを舞台で繰り返すこと。それを演じること。見ること見られること。
ギリシア悲劇からシェイクスピア、時代を隔てて山田太一に野島伸司まで。
ひとは見たがる。何を? 何が楽しくて? 何のために?

「抜目のない未亡人」(ゴルドーニ/平川祐弘訳/岩波文庫)
→戯曲。スペイン、フランスときて今度はイタリアの劇作家でござーい♪
もてもて未亡人のおはなし。彼女にプロポーズするのは四人。
イギリス人、フランス人、スペイン人、同国のイタリア人。
いやはや、それぞれが各自(国)の流儀で口説こうとするわけです。
おフランスではこうなっているざーますよ、なんてさ。あはは。
シェイクスピア喜劇みたい。なぜってその未亡人は変装して男をテストするわけで。
さーて、どの男を選んだかは読んでのお楽しみ。え、楽しいか? ……。

「ヘッダ・ガーブラー」(イプセン/福田恒存訳/中央公論社)絶版
→戯曲。岩波文庫で一度読んだことがある。著者はご存知近代劇の父! 国はノルウェイ。
退屈な人妻のおはなし。ネエなぁにぃか、おもしろいこと、ないかなぁ? 
みのもんたに相談することはないけれども、昼ドラも退屈。
そんな主婦が150年前くらいのノルウェイにいてもふしぎはない。もちろん子どもなし。
自分の将来なんて先の先まで見えてしまう。夫は凡庸、平板な日常。
ヘッダは人生を生きたいのである! 福田恒存による詳細な解説がついている。
氏いわく「ヘッダはマクベス夫人ではない。女ハムレットである」。

38: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:49
03/11/25 06:19
「エロ本」(ノート=ウドム・テーパニット/白石昇訳/白石昇事務所)

→気鋭のタイ文学者であり、また2ちゃんねらーでもある白石昇氏の翻訳作品。
著者はタイの売れっ子芸人。映画も作るわ、本を書いたらバカ売れするわで、
まさに(そんな言葉があれば)タイドリームの体現者といってもよいおかた。
かといって日本によくあるタレント本かと思ったらこれがちょっと違うんだな。
終始一貫して疑問形なのである。日本のゲーノウジンのようにおれイズムを訴えたりはしない。
ちょっとわてはこう思うんだけど、はてどないでっしゃろと読者にツッコミを入れちゃう。
それがなんとも居心地が良い。新鮮である。あー、これがタイの感覚なんだなと思う。
タイといえば訳者の白石氏による詳細な(注)はこれだけでも一冊の本にできるレベル。
タイでいま流行っている俳優、歌手からタイ料理、お菓子、ビタミン剤まで写真つきで紹介。
タイの現在(いま)がこれ一冊でわかると言い切ってもいいくらい。
で、結局、この本は何なんだろう。どう定義したらいいのか。
タイのガイド? タレント本? エッセイ? 人生指南書? トンデモ本?
答えは、そのすべてであり、そのどれでもないのである。
確かなのはノート=ウドム・テーパニットという人間が紙面の裏で生きているということ。
有名人ゆえの苦悩をぼやいたり、シャワーのすばらしさを考えたり、お菓子をぽりぽり食べたり、
時にはまじめに幸福について考えちゃったりもするひとりのタイ人がいるのである。
感動するのも笑うのもすべては彼がいるからなのだ。タイという国に。
勝手に断定して申し訳ないが、著者はタイの寺山修司である。
なんとか読者を笑わせよう、怒らせよう、考えさせよう、とにかくサービス精神が旺盛!
私たち読者ができることは彼の手の上にのり踊ることである。
ふと思った。
手の上ではなく私はタイという精神的に豊かな国の上で踊っていたのではないか。
まあ、そんなことはどうでもいい。楽しく、笑いながら踊れたのだから。
このような傑作が日本で評価されていないのがふしぎで仕方がない。
最後に本書を日本に紹介してくださった白石昇氏に敬意を表したいです。

39: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:50
03/11/30 09:48
「本郷」(木下順二/講談社文芸文庫)
→エッセイのような小説のような本郷愛着の記。
しみじみと語る。本郷に育てられた自分を。
著者は文学板で話題になったのを見たことがないけれども戦後日本を代表する劇作家。
翻訳文ではない、日本人が書いた日本語を久しぶりにヨンダ気がします。

「ブラック・コメディー」(ピーター・シェーファー/倉橋健訳/劇書房)版元品切れ
→戯曲。これでピーター・シェーファーの代表作はほぼ読んだことになる。
ファルス(笑劇)。洗練されたどたばた喜劇。ビンボー絵描きの男が主人公。
大事な日、婚約者の父親と会う日、大金持ちが自分の絵を見に来る日、それは起こった!
突然の停電でみんなパニック! 舞台の闇を観客には明として見せる。
取り違えは喜劇のお約束。そのおかしいことといったら。

「地霊・パンドラの箱 ルル二部作」(F.ヴェデキント/岩淵達治訳/岩波文庫)
→戯曲。むしろオペラになったものが有名らしい。先ごろ、日本でも上演されたとのこと。
ドイツの劇作家。ブレヒトが心酔していたとか。ブレヒト嫌いなわたしはこの作品もだめ。
誰とでも寝る絶世の美女のおはなし。いかにもな男の妄想じゃんと突っ込んではいけない。
なぜなら天下の岩波文庫収録作品、よってこれは芸術だからである。
次々に男を変えることで経済的にも恵まれるが、ついには娼婦にまで身を落とし客の狂人に殺される。

「夕暮れて」(山田太一/大和書房)絶版
→テレビドラマのシナリオ本。20年前にNHKで放送されたらしい。
イプセンの「ヘッダ・ガーブラー」とおなじ系統。刺激をほしがる主婦のおはなし。
結局、不倫もしないで元のさやにしっかり収まるのはテレビだからNHKだから。
山田太一ドラマの特徴のひとつはそのセリフ。何気ない言葉でドラマを進めていく。
本音を言わない。欲望をださない。生活人としての仮面をつけた登場人物たち。

「カッコーの巣の上を」(デール・ワッサーマン/小田島雄志・若子訳/劇書房)*再読
→戯曲。再読しても感動したから名作に認定。もう一回、読みたいです。

40: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:53
03/12/04 07:53
「アルト=ハイデルベルク」(マイヤ=フェルスター/丸山匠訳/岩波文庫)
→戯曲。わたし岩波文庫きらいなんです。だってエラそうだし、いかにもな古典しか
文庫にしないし、翻訳がおかしいのが多いし、(注)がやたらあって読みにくいから。
しかーし、なのだ。この作品は例外。わんわん泣いてしまったじゃないか。
ぽたぽた落ちる涙で本が汚れてしまったじゃないか。どうしてくれる岩波文庫!?
恥ずかしいな。これ読んで泣くなんて。ジイさんバアさんに人気のあるドイツの古典作品。
それまで窮屈な生活を送っていた王子様が留学を機に青春を謳歌、別離、そして再会――。
シェイクスピア「ヘンリー四世」とそっくり。
これを舞台で見ていたらぜったいに泣かない。くさいなぁと鼻でせせら笑う。
わたしゃ、こんなんで泣くようなアホじゃぁないって、涙腺のゆるんだジイさんバアさんよ。
でも家でひとり読んでいるとね、ほんとね、泣けちゃうんですよ。
ありがとう。410円でこんなのが読めて。きらいじゃなくなったよ岩波文庫。

41: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 15:59
03/12/08 09:41
「マクベス」(シェイクスピア/木下順二訳/岩波文庫)
→福田恒存訳で三回、松岡和子訳で一回読んだことあり。舞台では二度、映画で一回。
「人生は3Gである」というのがわたしの考え。
つまり人生はゲームであり(リセットボタンまで存在する!)、
人生はギャンブルであり(何かに賭けたいのです!)、人生はギャグである(にゃは!)。
マクベスさんが最後にいう有名なセリフ(5の5)もおんなじでは?
ぜんぶ音読する。木下順二さんの訳は声に出したくなる。

42: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:00
03/12/08 09:42
「リチャード三世」(シェイクスピア/木下順二訳/岩波文庫)
→福田恒存訳、松岡和子訳で読んだことあり。映画はふたつ見た。
みなさんお上品な顔をしてシェイクスピアざまーすなんて言ってるけど、ちゃうねん!
ぜんぜんちゃう、ちゃうちゃう、ちがうって。
せむしでびっこの身体障害者がどーせおれはもてないからみんなぶっ殺したろか?
と最初に宣言して、そのとおりに殺戮をつづけるのがこのリチャード三世。
ぜひ本物の身体障害者にやってほしい、Z武くんなら最高なんだけど。
三度目に読んで気づいたのはマーガレットの存在感。この老女やばすぎ。
他人の不幸をざまーみろとせせら笑う。2ちゃんの阪神大震災コピペを思い出した。
ほら、あの、死者が増えるたびに大笑いをしたという不謹慎なあれ。
あ、これも音読した。マクベスの1.5倍くらいの長さだから疲れたさすがに。

「十二夜」(シェイクスピア/小田島雄志訳/白水uブックス)
→松岡和子訳で読んだことあり。映画、オペラ、ミュージカルで見た。どれも良かった。
「リチャード三世」とおなじ日に読んだけど、とても同一人物が書いたとは……。
ここに登場するシザーリオがシェイクスピア作品のなかでいちばん好きなんです。
男装しているから恋する男性に告白できない、逆に同性からは告白されるシザーリオ。
何かを演じているときにこそ(男装!)魅力がでる人間というのがいます。
シザーリオは演劇の本質を証明しているのでは? あるいは役者の本質を、あるいは人間の。

43: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:02
03/12/15 17:20
「シェイクスピア講演」(福原麟太郎/講談社学術文庫)絶版
→戦後まもないころ、著者が外務省の役人の前で講演をした記録。
海外にでるものはすべからくエゲレスのシェークスピヤくらいは知るべし、との理由で。
「マクベス」と「オイディプス王」の比較に、シェイクスピア劇とギリシア悲劇の違いを見る。
オイディプスは「父を殺し、母と寝る」という神託に決して逆らうことができなかった。
比してマクベスばどうか。最初の魔女の予言、「やがては国王となるおかた」。
オイディプスは呪われた自分を知る、それは全能の神の存在(神託)を認めることでもあった。
一方、マクベスは死に挑むとき、ひとつとして彼のこころに確かなるものはあったか?
オイディプスは英雄である、そしてマクベスこそがあなたでありわたしである。

「シェイクスピアの世界」(木下順二/岩波同時代ライブラリー)絶版
→著者が講義形式でシェイクスピアについて語る。
のちに木下順二の戯曲を読むつもりなので、シェイクスピアと創作がどのように
むすびついているのかを意識して読む。なぜ現代にシェイクスピアは現れないのか。
しかし内容はシェイクスピアの原文における詩形式の説明、
シェイクスピア批評の歴史など。ひとつおもしろいトリビア的なネタを入手。
「ハムレット」の第一フォリオ(シェイクスピア存命時に出版されたもの)は、
後年、ひとりの学生が古本屋のワゴンで投げ売りされていたものから発掘した。
ただ同然でそれを手に入れた学生は別の古本屋に転売。その古本屋が価値のわかるひとで、
高値で引き取ったらしい。しまいにはそれは博物館に収められ、
あとのシェイクスピア研究に欠かせぬものになったとのこと。
さあ、ヘエはいくつ? 
古本屋めぐりが楽しくなる逸話でした。

44: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:03
03/12/15 17:43
「審判」(バリー・コリンズ/青井陽治訳/劇書房)
→戯曲。ひとり芝居。役者の加藤健一さんが好んでやったらしい。
ものすごーく苦労をしてやっと新品を入手した思い入れが深い本なんだけど。
登場人物はひとり。客席にいる観客を判事とみなし訴える。
われわれ7人、敵兵に閉じ込められ放置された、食べ物とてなく水もなし、
期間にして70日、腹がへる、くじをした、あたったひとりを殺し、殺して……、
仲間の首をしめて、その肉体を食べた、人肉で腹を満たし、血でのどを潤した、
次々に、仕方がない、生きるためには、そうして二人が残った、二人だけ発見された、
自分のほか一名はあのとおり発狂している、だからわれより他に事実を述べるものはなし、
判事(観客諸兄諸姉)に問う、あなたたちにわれと彼を裁けますか?
そしてわれら生存者二人は神前の審判でどのように裁かれるのか。
なぜ裁かれなければならないのか、いったい何の罪で。
あなたたちも自分と同じ環境に置かれたら同じことをしたのではないか。
そういう話。実話を元にしているとのこと。実話では生存者二人は発狂、後に銃殺。
ここに宅間守のみならず、あらゆる犯罪者を見るのは是か非か。極論になるのか。
わたしは林マスミを裁けない。わたしが彼女だったらと思うと。
被害者あるいはその家族のみが真に裁きうるのではないか。
いや、真に? はたして……「あとは沈黙」(ハムレット)。

45: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:04
03/12/15 18:21
「快読シェイクスピア」(河合隼雄・松岡和子/新潮文庫)*再読
→ご存じ文化庁長官にしてカウンセラーの教祖・河合隼雄と松岡和子の対談本。
渋谷シアターコクーンで「ハムレット」(蜷川幸雄演出、藤原竜也主演)の
当日券を求める行列をしながらヨンダ。読んだのは三回目です。
これをおもしろいと書いたら文学板某住民に白痴のごとく扱われた、想い出深い一冊。
しかし退屈にして平穏な日常を送っている研究者が書いた本なんかよりよほどこちらの
ほうが刺激的では? ジュリエットに河合隼雄は診療室で対面した少女を見る。
エリザベス朝のシェイクスピアと現代(あなたが生きている!)をむすびつける。
……(こそっと)河合隼雄になんだかなー?と思う気持はわからなくもない。元信者として。
なんだかな。河合さん、権力にすりよって、心理療法士の国家資格化ねえ。

「ハムレット」(シェイクスピア/松岡和子訳/ちくま文庫)
→あらゆる翻訳で読み尽くし、舞台で四回、映画はすべて見たけれども、
原文で読んでいないがゆえに永遠にバカにされるという哀しい日本人・美香QNW。
福田恒存のことばを思い出す。ハムレットにはあらゆる評論がついてまわるけれども、
なぜこれほどまで民衆に愛されるかといえば、自然な流れを持った芝居だからである。
どこにもよどみがない、流暢である、実に自然にわれわれの目に耳に流れ込んでくる。
あらためてそれを実感する。わたしがはじめてハムレットを読んだのは福田恒存訳。
「どうしようもない悲劇」だと2ちゃん文学板に感想を書いたのを覚えている。
どうしようもない、どうにもならない悲劇。これ以外にはどうにも結末のつかない悲劇。
ハムレットもクローディアスもレイアティーズも、そしてポローニアスですらも、
めいめい各人「どうしようもない」事情を抱えている。
そして各人がまったく自由に行動しているように見えながら、
あらかじめ誰かのつくったレールに乗るがごとくの悲劇的な結末、
登場人物のほとんど全員が死を遂げるというあのクライマックスに流れていく。
それ以外には「どうにもならない」のである。
各人が自由に行為するがゆえの必然的な結果。
そこにハムレットの魅力を見出したのは福田恒存である。

46: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:05
03/12/22 10:04
「風浪・蛙昇天 木下順二戯曲選1」(岩波文庫)
→木下順二を知っていますか? 1914年生まれ。劇作家、思想家。
わたしから言わせるとつかみどころのない秀才、がり勉くん、勉強家。
自意識のくさみが感じられない、それは育ちが良いから、でもおもしろみがない。
いーっぱいお勉強をしてそこから戯曲を書くひと。
どこにも欠点がない、だから評価も受ける、日本を代表する劇作家だと。
風浪、蛙昇天どちらもおもしろくはない、かといって読み通せないほどつまらないわけでもない。
風浪は明治初期の不平士族のおはなし。蛙昇天は蛙の世界の共産主義思想について(w

「夕鶴・彦市ばなし 他二篇 木下順二戯曲選2」(岩波文庫)
→日本人の劇を書こうとしたひとです。たとえば夕鶴のような民話劇。
農村に古くから伝わる民話を劇にしたわけです。夕鶴はいわゆる鶴の恩返し。
日本にドラマは存在しうるのか。人間と人間の対決は神の下でしか生じないのではないか。
木下順二の戯曲が欧米の戯曲に比べて魅力がない、その原因は作者にあるのか。
それとも原因は作者が生きているこの国、日本にあるのか。
日本はドラマ(傑作戯曲)を生まない不毛な土壌なのか。

47: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:06
03/12/22 10:57
「オットーと呼ばれる日本人 他一篇 木下順二戯曲選3」(岩波文庫)
→表題作は退屈。大東亜戦争まえにロシアのスパイをしていた日本人のおはなし。
共産主義思想にとらわれながらも日本を良くしようと努力した男のドラマ。
共産主義? プッと鼻で笑われてしまう現代ですから、なんとも言いがたい。
こういう戯曲が意味を持っていた時代があったんですかねえ。わたしが生まれる前に(w
併載されていた「神と人とのあいだ」は木下順二戯曲のなかで一番のおもしろさ。
第一部と第二部に分かれている。第一部は複数の戦犯が東京裁判で裁かれる様をリアルに、
第二部は外地で戦犯として裁かれるある個人に視点をすえて、その対比の妙。
第一部はつまらないけど、この木下順二というひとは……。
この戯曲を書くためだけに東京裁判の記録を二年だか三年だか読みつづけたらしい。
(それでつまらないんだから、なんともすごいです。何をして食べているのだか)
第二部があって第一部が光るような仕組みになっている。

「子午線の祀り・沖縄 他一篇 木下順二戯曲選4」(岩波文庫)
→「子午線の祀り」は木下順二の最高傑作との世間的な評価があるらしい。
先ほど日本にドラマはあるのか!なんて大仰に嘆いてみたけど、
それに対する木下先生の答えがこれ。「平家物語」があるではないかと。
シェイクスピアは英国史劇を書いた。木下順二は平家物語を題材に取った。
ええ、「子午線の祀り」おもしろいですよ、劇的ですよ、それで、うーん……
……日本とは、なんて語るガラじゃわたしないけど、なんだろうね日本って。
「沖縄」は最低。寺山修司の戯曲以下。これほどのさげすみはないんです。

「夕鶴・彦市ばなし」(木下順二/新潮文庫)
→表題作のふたつは岩波文庫にも入っている。こちらは民話劇だけを集めたもの。
三年寝太郎にわらしべ長者、みなさんおなじみの彼らと会うことができます。
さて、こうして木下順二さんの戯曲をまとめて17本読んだわけだけど、うーん。
わたしは彼から何を盗み得たのか。なにもないような気がするな。
木下順二。無害なひとである。さあ、次は三島由紀夫。覚悟しておれ!

48: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:07
03/12/29 09:18
「近代能楽集」(三島由紀夫/新潮文庫)
→戯曲。いまさら、それもわたくしごときが、三島由紀夫の「み」も語れるとは
思っておりませんが、それでも世界の名作戯曲を読み漁っている、その道半ばで、
三島戯曲がどのようにわたくしの目に映ったかぐらいは書いてもいいと思うのです。
三島由紀夫というブランドの呪縛からできうるかぎり逃れ、彼の戯曲だけを作品群から
引っこ抜く。そして置く。並べてみる。どこへ? たとえば「わが町」の右隣へ。
「欲望という名の電車」のそばに。「るつぼ」「アマデウス」「かもめ」と比較してみる。
この三島戯曲の代表作「近代能楽集」を。それがただ同じ戯曲という理由だけで。
するとミシマは恥ずかしかった。島国ニッポンそのものだった。つまり小さいのだ。
そのくせボティービルで自らを大きく見せようとするのだからさらに恥ずかしい。
言葉でわざとらしく飾り立てる。
上にあげた名作戯曲は読んだ翌日にも再読したくなった。
この「近代能楽集」を再読することはないでしょう。

49: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:08
03/12/29 09:21
「鹿鳴館」(三島由紀夫/新潮文庫)
→戯曲。かつて(今も?)三島賞の選考委員をしていた宮本輝が三島由紀夫を
こう評していた。三島の作品はガラス細工。人間がまともに生活をして50歳を
過ぎたらば、あんなものはとても読めやしない。それを公の場で発表するのではなく、
テルニストHPという自分のファンクラブHPに書き込んでしまう、その卑怯さは
いかにも作家らしいとここでは置いておいて、注目したいのはその内容なのです。
ガラス細工。よくも見事に言い切ったと思う。この「鹿鳴館」という戯曲集を
読了したのは三日前。しかしいまそれについて何がしかの感想を書こうと思っても
何も思い出すことができない。そうガラス細工のようにきらびやかであったこと以外は。

「熱帯樹」(三島由紀夫/新潮文庫)
→戯曲。あひゃ。これおもしろい! 三島さんってコンプレックス過剰で、
しかもホモで変態のキチガイだと思っていたけど、やはり世界のミシマといわれる
だけのことはあったのかもしれない。なんて今頃遅い?w こむつかしい顔をして、
三島由紀夫にはひとかどの才能があった。なんて言っちゃダメかな? えらそう?
期待していなかったからかな。この戯曲集に入っている三つとも「いける」。
ギリシア悲劇を思わせる「熱帯樹」。精神年齢8歳の白痴青年がとってもかわいい「バラと海賊」。
劇が起こらないことを劇にした「シロアリの巣」。どれもいい。再読したいです。

上のレスの訂正)→ボディービル

50: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:09
04/01/02 08:37
「幽霊はここにいる・どれい狩り」(安部公房/新潮文庫)絶版
→戯曲。収録作品は三つ。最初の「征服」は安部公房のいわば習作。
次の「どれい狩り」にはびっくり。日本人にもこんなおもしろい戯曲が書けたのか。
レイ・クーニーの笑劇よりも笑える。戯曲を読んでこんなに笑ったのは初めて。
わたしが今まで読んだ中でいちばん笑えた戯曲。こんな天才が日本にいたとは。
舞台はある成金の家。妻に先立たれ、息子も交通事故死で傷心の主人。
しかし保険金がたくさん入って大金持ちになっている。
それを詐欺師たちが見逃すはずもない。主人にすすめるのは高額の動物療法。
まずはライオン。ライオンの目をじっと見詰めれば精気が伝わり元気になると。
それでも効かないということで、次に出してきたのは新生物「ウエー」。
どこから見ても人間だが、詐欺師たちは太平洋の孤島で発見された新生物だと言い張る。
そこに「ご主人、だまされちゃいけませんよ」と登場する娘、女子大学生。
亡くなった息子の家庭教師をするつもりで来たが詐欺師たちを見てあきれかえる。
さあ、詐欺師と彼女が繰り広げる笑いの世界をとくとごらんあれ! 大傑作です。
三つ目の戯曲「幽霊はここにいる」は、なぜか幽霊と会話ができる男が巻き起こす
騒動を描く。「どれい狩り」ほどおもしろくはない。一回も笑わなかったです。

51: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:09
04/01/02 08:38
「友達・棒になった男」(安部公房/新潮文庫)
→戯曲。収録作品は三つ。期待していたらどれも肩透かし。とほほ。
「友達」は大都会に住むふつーの独身男性のおはなし。
まあまあの会社に務め、ほどほどの婚約者がいる。
そこに登場するのは九人の大家族。九人そろって彼の部屋に乗り込む。
あなた孤独じゃないですか、かわいそうですね、大丈夫、私たちが一緒に住んであげるから。
友達、友達、安心ねと言いながら台所を食い散らかし、彼の給料は横取りする。
おもしろそうでしょ? 実際、おもしろく読み進めたら最後のほうでストーリーが破綻する。
安部公房ファンにはいかにも彼らしいとなるのだろうけど、わたしには「はあ?」。
ひとこと「残念」。
「棒になった男」はいわゆる前衛作品。だからもちろんつまらない。
前衛がおもしろかったらまずいのです。
つまらないのを読者(観客)があれこれ意味付けしながら鑑賞するのが前衛作品。
三つ目の戯曲「榎本武楊」も失敗作。自らの歴史観を伝えるために戯曲を
書くのはおやめなさい。戯曲は観客を楽しませるために書くものです。
なんて偉そう(w ごめんなさいです。

ちなみに安部公房の小説は「砂の女」「箱男」しか読んでいません。

52: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:10
04/01/02 09:10
「小林一茶」(井上ひさし/中公文庫)絶版
→戯曲。第十四回紀伊国屋演劇賞個人賞受賞作品にして、
第三十一回読売文学賞(戯曲部門)受賞作品だそうですよ、これ。
ワンパターン。まえに読んだ「頭痛肩こり樋口一葉」となんだか似ている。
まあ、戯曲の「型(かた)」なんてどれもつきつめれば同じかもしれないけど。
確実に(ご老人の)観客を楽しませるよう書かれているお芝居です、良くも悪くも。
以前、一回だけ井上ひさしのお芝居を観にいったことがある。観客は老人ばかり(w
それにしても、なんだかな。
お芝居なんてこんなものですと言われたら確かにそうだけど。
所詮は一夜の夢です、お客さんに笑ってもらえればいいんです、か。
井上ひさしの戯曲をはじめて読んだのは「天保十二年のシェイクスピア」。
それがあまりにもおもしろかったからこうして読んでいるわけですが……。

53: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:11
04/01/07 13:23
「野獣降臨(のけものきたりて)」(野田秀樹/新潮文庫)絶版
→戯曲。文学板のみなさんは野田秀樹という名前を聞いたことがありますか?
東大法学部在学中から劇団をはじめて、なんでも八十年代バブル期のカリスマだったとか。
当時のファンもいまこの戯曲を読み返したら、きっと赤面するはず。
全編、言葉遊びのみのお芝居。言葉のバブル。ストーリーらしいものはない。
へえ、へえ、こんな戯曲が受けた時代もあったんですね、こっぱずかしいですね(w
不景気の今、野外上演してほしいです。大阪の汚い公園で。ホームレスの前で。
解説の井上ひさしによると、野田秀樹はめったに現れない天才だそうです。

「瓶詰のナポレオン」(野田秀樹/新潮文庫)絶版
→戯曲。200ページ。一時間半でヨンダ。はにゃと思った。なんだこの感じは。
これも言葉遊びに終始する戯曲なのですが、ふしぎな魅力がある。
こういう雰囲気が一時代を作ったというのもわからなくもない気がしてくる。
テンポが良く、当時はかなりナウかったのではないか?
たとえば野田秀樹のお芝居を観ることが何かしら文化的なステータスであるかのような。
野田秀樹を全否定する気は失せる。ただやっぱりちょっと恥ずかしい。

54: 美香 5qBZxQnw:04/06/21 16:12
04/01/07 14:05
「日本の現代演劇」(扇田昭彦/岩波新書)絶版
「舞台は語る」(扇田昭彦/集英社新書)

→この二冊でやっと日本の戦後の演劇の流れがわかった。知りたかったのです。
このスレを読んでいるひとはトクしましたね。これからわたしが簡単に戦後演劇の
流れをまとめます。「1分でわかる日本現代演劇講座」♪
まず敗戦。こっぱみじんに日本という国はなぶりものにされたわけです。
これじゃいかん。欧米のすぐれた文化を一刻も早く日本に取り入れんと。
そんなかんなで盛り上がったのが「新劇」。これは戦前からあったもの。
欧米のありがたい戯曲を遅れた日本国民に見せて啓蒙してやろうという感じです。
シェイクスピアとかイプセンとか。だから新劇を観にいくというのは、
どこかお勉強をしにいくという雰囲気だったらしい。上から下にベクトルが向いている。
日本の創作劇もそんな感じ。三島由紀夫、安部公房、木下順二、福田恒存。おかたいでしょ(w
総じて新劇は「セリフ」を重視した。西欧風の言葉の劇を目指した。
それに対抗して「肉体」の重要性を主張する一派がでてくる。役者の肉体。
時は日米安保のころ。反権力とか、とにかく若者が政治闘争していたあのうざったい時代です。
唐十郎、清水邦夫、鈴木忠志、別役実、寺山修司。のちには商業演劇にいく世界の蜷川もそう。
この一派は「アングラ演劇」と呼ばれました。
学者とか文化人が加わっている新劇を否定するわけです。
けれどもいつまでも「なんと反対」とか若者が怒っているはずもない。
ぷ、そんなのだっせえのという時代がきます。それが「つかこうへい」。
当時は若者のあいだで爆発的なブームになったそうです。
毒のある笑いがつかこうへいの演劇の魅力だとか。
で、次に来るのはバブルの時代で、これが上に書いた野田秀樹の時代なわけです。
野田秀樹のお芝居をわたしなりに要約すると「無意味言語の過剰氾濫による祝祭」。
バブルも消えうせ、さあ来ましたぜ平成不況。底なしの不景気、デフレ地獄。
いまは「静かな演劇」の時代だそうです。平田オリザ、岩松了。
登場人物が声高に葛藤するのではなく、あえて日常的な行為や会話を舞台で見せる。
そこから「見えないもの・聞こえないもの」を暗示するという。
私見ですが、高いお金を払ってまで「静かな演劇」など観にいきたくはありませんが。
はい、お疲れさま(わたしとあなたへ)。こんな感じです、現代の演劇。

55: 名前は無いけど美香が好き!:04/06/21 21:36
sdf

56: 名前は無いけど美香が好き!:04/06/24 18:58
54はちょっぴりためになったな。

57: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:32
>>56
読んでくれるひとがいるなんて。ちょっぴりうれしい。サボらないで続けるか。

04/01/07 14:31
「稲妻」(ストリンドベルイ/山室静訳/筑摩書房「近代劇集」)
→戯曲。古本屋に「ストリンドベリ名作集」があったので買おうか迷う。
そこでこの「近代劇集」にひとつ入っていたのを思い出し、それを読んでから決めようと。
ストリンドベリはスウェーデンの劇作家・小説家。イプセンと比較されることが多い。
近代劇を築いたひととして有名らしい。この作品は晩年のもの。
孤独な老後を送る老人のまえに、5年前に離婚した元妻が現れる――。
かっちりと仕組まれた劇らしい劇。だけどこちらを揺り動かすまでの迫力はなし。
決めた。「ストリンドベリ名作集」は買わない。

「ふぞろいの林檎たちへ」(山田太一/岩波ブックレット)
→山田太一さんが(当時のバブル期のw)若者へ向けたメッセージ。
古本屋のまえのワゴンに50円と落書きされて落ちていたのを拾ったまで。
54ページ。自分をしっかり持ちましょうね、なんて校長先生の朝礼演説みたいだ(w
若者ねえ。おこる若者。わらう若者。自傷する若者。

58: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:33
04/01/17 09:06
「演技入門」(千田是也/岩波新書)絶版
→やたらむずかしい。いますよね、演劇人や映画人で何を勘違いしたのか、
わざと表現を難解にするお方。岩波新書なんだから、もっとわかりやすく書けと。
わたしが平明な表現になおします。こう言うております彼は。従来の演劇は良くない。
なぜなら余計なカタルシスを与えてしまい、革命(社会変革)に用いるべき
エネルギーを浪費させてしまうから。ならどういう演劇がいいのか。
観客を陶酔させてはならない、(劇場の外の)現実社会を批評させるように
仕向ける演劇が良いのである。無知蒙昧な大衆を演劇で教育しなければならない。
初版は1966年。そういう時代があったということです。
ちなみに著者が好んで演出したのはブレヒトや安部公房の戯曲です。

「演出のしかた」(倉橋健/晩成書房)
→良書。誰にでもわかる言葉で、いかに紙に書かれた戯曲を生き生きと舞台の
うえで再現すればいいかを教えてくれます。もっと早くこの本を読んでいたら、
今まで見た演劇が何倍もおもしろくなっていたのにとかなり悔しいです。
これまで読んだ演劇書のなかでいちばんためになったといっても言い過ぎにはならない。
さて、どのような演技が良いのか。役になりきる演技か、それとも役者自身の意識は
いつも平静で計画的に観客に提示する演技が良いのか。
役者はハムレットになるべきか、ハムレットをあやつるべきか。
答えはないと著者は言います。

59: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:34
04/01/17 09:07
「舞台と映像の音声訓練」(冨田浩太郎/未来社)
→もちろんこの年になって女優を目指すつもりなんてありませんです、はい。
ただブックオフに百円で落ちていたので、役者さんの舞台裏でも斜め読みしようかと。
しかし彼はやばい方法論を提唱しています(w
なんでも今まで誰にも話したことのないような心の傷をあえて人前で表現することで、
感情の緊張がほぐれて良い演技ができるようになるんだとか。東由多加かいな。
へたをすると精神病発症のきっかけにもなりかねないデンジャラスな訓練です。

「俳優タレント養成ガイド2003」(テアトロ)
→だからいまさら役者を目指すわけではないんです。
ブックオフにお年玉キャンペーンってありましたよね、千円分買うとブックカバーがもらえる。
あと百円だったんです。それで購入したのがこれというわけ。
役者(志望も)って楽しいんでしょうね。写真を見るとみんな生き生きしている。
しかしその大半が養成機関卒業とともに厳しい現実と向き合わなければならない。
映画学校とかと同じです。あちらは過去に映画を数本撮っただけの自称映画監督の
食い扶持になっているわけですが。若者に夢を売る商売には目を背けたくなる矛盾があります。
シナリオ学校しかり、小説教室しかり、漫画学校しかり……。

60: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:35
04/01/17 09:45
「快速船」(安部公房戯曲全集/新潮社)
→戯曲。新薬が発明されました! この薬を飲んでごらんなさい。
かならずあなたの夢がかないます、ええ芥川賞でも別荘でも王子様でも。
国民全員が飲んだらどうなるって? それは、それは、バランスというものがありまして、
各人の欲望の度合いによって調整されますけど、でもまあこの薬を飲まなければ
何も始まりません。「信念の魔術」系の自己啓発へのパロディーとも読めます。
創価学会のパロディーといったら、いささか語弊があるかも(w

「可愛い女」(安部公房戯曲全集/新潮社)
→戯曲。チェーホフに同名の小説があるけど、ちょっとだけ設定が似ている。
泥棒も警察も金貸しも裏ではグルになっているかもしれませんよ、観客のみなさん!
この演劇を観て家に帰ったらちゃんと社会批評するんですよ、いいですか。
当時、この戯曲を演出したのは>>58の千田是也さんです。そういうお芝居。

「巨人伝説」(安部公房戯曲全集/新潮社)
→戯曲。安部公房らしくない。戦争を忘れちゃいけないよという作品。
読みにくいわけでもないけど、そうおもしろいものでもないです。

「城塞」(安部公房戯曲全集/新潮社)
→戯曲。ある精神病患者がいる。何度も過去のあるシーンを再現しなければ
気がすまないというのが症状。過去の一点で時間をとめてしまった。
とりかえしのつかない一瞬、劇的なあの一瞬、悔やんでも悔やみきれないあのひと時。
その時間を再び動かすのはストリッパーである。刺激的な快作です。

「おまえにも罪がある」(安部公房戯曲全集/新潮社)
→戯曲。どこにでもいる平凡な男。あえて平凡につとめているきらいもある。
ところがどーだい、ある日、散歩から安アパートに戻ったら見知らぬひとの死体が転がっている。
さあ、どうしたものか。何しろ今日は恋人がはじめて部屋に来る日である。
笑劇(ファルス)の典型。「ブラック・コメディ」を思わせる傑作です。

「どれい狩り」(安部公房戯曲全集/新潮社)*再読
→戯曲。再読してもおもしろいから名作に認定。再演したらいいのに。

61: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:36
04/01/17 10:06
「現代文学の無視できない10人」(つかこうへい/集英社文庫)絶版
→インタビュー集。お相手は荻原健一、阿佐田哲也、小池一夫、島尾敏雄、
長嶋茂雄、高橋忠之、大竹しのぶ、井上ひさし、中上健次のみなさん。
つかこうへいが島尾敏雄の「死の棘」をげらげら笑いながら読んだと言っていたけど、
激しく同意いたします。あれを読んで深刻ぶるのはどこかうそ臭いです。
DV(家庭内暴力)常習者の井上ひさし先生のことばも重い。
いつものように中上健次は威勢のいいことを言っている。
サム・シェパード(アメリカの劇作家)は自分からぱくったのだの(w

62: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:37
04/01/20 14:10
「仄かな言葉」(白石昇/白石昇HP)
→短編小説。九州芸術祭文学賞次席作品。
著者、白石昇は「エロ本」の翻訳でその才能にうすうす気づいていたが、
この小説を読んでそれは確信へと変わった。
冒頭、白石は主人公の少女に「めくら」で「つんぼ」という障害を与える。
絶妙である。ここにきわどい「笑い」を感じないものは小説など読まないほうがいい。
少女がひとりいる。なんの物語も生まれはしない。
そこで身体障害を神のごとくプレゼントして強引に小説をおしすすめる。
そこを安易と受け取ってしまうものには、この小説がわからない。
つまりは現代がわかっていないということである。
テレビ局が大々的に「愛は地球を救う」などと偽善をばらまくこの日本を、
白石は嫌悪している、嘲笑している、うっかり感動してしまう自分をも。
その骨太な現代批評が、この小説の屋台骨となっているのである。
そして主人公の少女が世界を認知していく様のなんとみずみずしいことか。
世界はあらかじめ存在するのではない。欠損によって初めて世界が存在するようになる。
この描写を読んでわたしは白石昇の過去を恐ろしくて聞けなくなった。
どれほどの体験をしたら、世界がこのように見えるのだろうか。
本作は地方文学賞の選考委員ごときにはとうてい見通せない奥深さがある。
無料で読めることだし、ぜひご一読をおすすめする。
あなたも同感してくれることと思う。白石昇は天才であると。
――三日に一人、生まれるかどうかの。

(参考)白石昇HP
http://www.geocities.co.jp/Hollywood/2444/

63: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:39
04/01/25 10:07
「黄昏」(アーネスト・トンプソン/青井陽治訳/劇書房)
→戯曲。アメリカ産。覚えているかい、あの夏の日を。
毎年のように避暑地にきた老夫婦。だんなは79歳、おくさんは69歳。
このおじいさんが辛口で辛らつ。でもたっぷりあふれるユーモア。
長いこと不和が続いていた一人娘が遊びに来る。結婚するという。
相手には連れ子がいる。ませたガキ。でもおじいさんの魅力にくっぷく。
一ヶ月のあいだ、この子をあずかってくれと老夫婦は頼まれる。
夏。太陽。おじいさん教わる釣り。おばあさん手作りのクッキー。別れ。
おじいさんと一人娘の和解――。
漫画「クッキングパパ」の世界ですな。うるうるきちゃいます。

「小さき神の、作りし子ら」(マーク・メドフ/青井陽治訳/劇書房)
→戯曲。アメリカ産。障害者もの。この戯曲で乗り越えられるべきは聴覚障害。
聴覚障害者のための学校。男性教師と女生徒との禁断の恋。
健常者と障害者のありがちな愛。愛は障害を乗り越えられるのか。
こんなんで泣くわけにはいかないね。
ずいぶんわたしもすれっからしになってしまったようです。
著者は聴覚障害をもつ妻との体験からこれを書いたとのこと。
どうりで白石昇の小説よりリアリティーがある。

「ベント BENT」(マーティン・シャーマン/青井陽治訳/劇書房)
→戯曲。アメリカ産。いまパルコ劇場で椎名桔平が再演しています。
知っていましたか? ナチス政権下でおこなわれたことを。
なんでも優生遺伝子保護の考えから精神身体両障害者および同性愛者を
強制収容所送りにしたことを。この戯曲のバックグラウンドはそれ。
第一幕は戦時下でのホモの享楽的な愛について。うってかわって第二幕は、
殺風景な強制収容所で繰り広げられるホモの感動的な愛について。
愛、愛、愛、また愛か。どの戯曲もテーマは愛。小説も詩もあるのは愛ばかり。
……へい、おまえら愛しあってるかい?(自己崩壊)

64: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:40
04/01/25 10:40
「演劇ってなんだろう」(井上ひさし/筑摩書房)
→いろいろなテーマについての多様な演劇関係者の座談会を集めたのがこれ。
劇場について、女優について、演劇プロデューサーについて、などなど。
でもほんとなんだろうね演劇って。わたしが関心をもったきっかけはシェイクスピア。
その翻訳がきっかけで福田恒存。180度正反対の寺山修司、前衛演劇。
福田恒存訳の「オイディプス王・アンティゴネ」に魂を激震させられ、
ギリシア悲劇をぜんぶ読むなどという愚行を。ふとしたことからテネシー・ウィリアムズを
読んだらこれがおもしろい。シェイクスピアやギリシア悲劇がバカらしくなるくらいに。
つづいてアーサー・ミラー。ピーター・シェーファー。
劇書房の存在を知る。劇書房ベストプレイシリーズ。
木下順二、三島由紀夫、安部公房――。
演劇ってなんだろう。「演劇なんて、うんざりだ」(工藤伸二)。

「国文学 演劇 パフォーミング・アーツとして 1998年3月号/学燈社)
→いろんな学者さんが書いています。
論じられるものは手広く、シェイクスピアから現代日本の劇作家まで。
媒体の性質上、無名の学者さんが多いんだけど、みなさん文章がへただねえ。
こんなバカどもが大学では先生なんて呼ばれているんだから大笑い。
プロだったらもっと読者を乗せる文章を書こうよ。
何に乗せるかって? 感情に決まっている。
学者さんの事実報告だけの無味乾燥な文章にはうんざり。
うならせてみろ、笑わせてみろ、怒らせてみろ、わたしを。

65: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:40
04/01/25 11:27
「人と超人」(バーナード・ショー/「ベスト・オブ・ショー」白水社)品切れ
→戯曲。イギリス産。ご存知、「人と超人」。国語便覧には必ず載っている名作。
哲学的喜劇。名作中の名作にしてバーナード・ショーの代表作。
・……(口にしかけてやめる)……(ええい)だっけどね♪つまらないんだよ♪ほんとはね♪
第三幕に登場人物が見る「夢」があるんだけど、ここを読み通すのは地獄。悪夢。
でも腐っても名作。みなさん教養としてストーリーぐらいは知っていたいのでは?
よろしい、教えましょう。まず三角関係ありき。男、男、女、ね。
男1は女に熱愛。男2は女を恐れている。ラスト、女は男2と結婚しましたとさ。
つぎに哲学的なテーマ。人類の目的は「子孫を残すこと」、ただそれのみにある。
よって女はより優秀な遺伝子を求めて、いったんイイオトコを見つけたら
けだもののように獲物を手中におさめる、のだそうです。そうなのかな。どうでもいいや。

「ウォレン夫人の職業」(バーナード・ショー/「近代劇集」筑摩書房)
→戯曲。きっと「人と超人」だけでバーナード・ショーを嫌うひと、多いんだろうな。
これおもしろい。何がおもしろいって、バーナード・ショーの人間描写。
ああ、このひと人間が嫌いなんだなとびんびん伝わってくる。女が嫌い、男も嫌い。
人間なんてバカばっか。そのくせ偉そうで、いっちょまえに怒ったり泣いたり。
わかるよショーさん。わたしも人間なんて大嫌いだから。もちろん自分もふくめて。
さてさて、ウォレン夫人の職業は売春斡旋業。一人娘はその商売で得た金で
大学まで行かせてもらった。この母と娘の葛藤が、この戯曲の中心線であります。

66: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:42
04/01/25 11:58
「ピグマリオン」(バーナード・ショー/「ベスト・オブ・ショー」白水社)
→戯曲。大傑作。こんなおもしろい戯曲があったとは。世界は広い。
バーナード・ショーは天才です。「読んでみて」というぐらいしか、言葉がでてこない。
読んでいて何度笑ったことか。幾度、うまいなぁと舌を巻いたことか。
完全なるエンターテイメントにして、同時に深い内容もあわせもっている。
つまりはおもしろくて、考えさせられる。大衆も学者さんもみんなニコニコ大満足。
「マイ・フェア・レイディ」の原作だからストーリーはご存知だろうけど。
――独身でお金持ちのおじさんが道端で貧しい花売り娘をひろいました。
友人と賭けをしたのです。この小汚い田舎娘を半年で社交界デビューさせられるか。
一人前のレディにすることができるかどうか。
お得意の人間描写がもうたまらない。人間をバカにしきっていて最高。
でてくるひと、ひと、みんながほんと笑えるんです。おかしいんです。

バーナード・ショーの翻訳者を書き忘れている。
「人と超人」(喜志哲雄)。「ピグマリオン」(倉橋健)。
「ウォレン夫人の職業」(小津次郎)。みなさんおなじみの方です。

67: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:43
04/01/25 12:23
「令嬢ジュリー」(ストリンドベリ/板橋憲明訳)
→戯曲。スウェーデン産。演劇のパンフレット。
海外劇団の来日公演のときのパンフレットだからか、日本語訳がぜんぶ載っている。
ネタバレOK? いきます。
令嬢ジュリー(25)はおてんばで召使のヤン(30)をからかいます。
というのもヤンはちょっといい男。料理女(35)を内縁の妻にしている。
ジュリーは思うわけです。階層の低い人間ってなんておもしろいの。
本も読まない、芸術も知らない、そのくせ毎日それなりに楽しそうに生きている。
雑用をして、お酒を飲んで、女を抱いて、そればっかりの毎日のどこがいいのか。
そんな下僕のなかでヤンは恐れ多くも自分に気があるらしい。生意気。愛人もいるくせに。
と、からかうわけです。ヤンがちょっとでもその気になったら身分をわきまえよと平手打ち。
お祭りの日、父親がいないのを見計らってふたりは台所でビールを飲んでおります。
キター! 宴会をしていた下僕連中が台所に来る気配がします。
ふたりだけでお酒を飲んでいることを見られたらジュリーの名誉にかかわる問題だ。
とりあえず僕の部屋に、ええ、何もいたしませんからと召使のヤン。
ところがどうだ。でてきたふたりの様子はがらりと変わっている。
力関係が逆転しているのです。ふたりで海外に逃げようと令嬢ジュリー。
ホテルでも開きましょうよ。はあ? 金がないだろバカヤローとは召使ヤン。
責任を取りなさいよとヒステリーを起こす令嬢ジュリー。
うるせー、おれに命令するな、おれのまえであんな格好をしたこの売春婦めがと召使ヤン。
いや、売春婦でもあんなことはしねえぜお嬢さん、と卑しい下僕根性が丸出し。
心中しましょうと令嬢ジュリー。おれは生きていたいんだと召使ヤン。
父親が帰ってきた様子。令嬢ジュリー、パニック。どうしたらいいの、命令して。
ここで召使ヤンの取る態度が感動的です。納屋で死になさいとカミソリを持たせる。
令嬢ジュリーはひとり戸口よりでていきます。

恋愛を闘争(力関係)と見ているストリンドベリ先生。
でもこういう物語が可能になるのはそこに階級(差別)があるからなんです。
じゃあ、現代日本。周りを見回すと平坦極まりない。
突き出たところも、くぼんだところもない。
問う。現代人は真に愛しうるか。もっと侮蔑を、もっと差別を、差別用語復活を!
すべては芸術のために。

「真の芸術家は、妻を飢えさせ、子供を裸足で歩かせ、
自分の生活のために齢七十の母親を働かせても、自分の芸術のためでないとなれば、
自らは何もせぬものなのだ」(「人と超人」バーナード・ショー)

68: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:45
04/01/30 13:33
「父」(ストリンドベリ/毛利三彌訳/「ストリンドベリ名作集」白水社)絶版
→戯曲。だれストリンドベリって? まずこうくるでしょう。わかります。
完全に現代では埋もれてしまったスウェーデンの作家、ストリンドベリ(1849-1912)。
その名をはじめてわたしが目にしたのは山本周五郎の「青べか物語」。
山本周五郎や葛西善蔵が愛読していたらしい。というのもストリンドベリブーム
というのが、はるかむかし大正時代にあったそうで。どんな作家と聞かれたら、
うーん、現代では柳美里を思い浮かべてくれたら、だいたいあんなイメージ。
「鶏が先か卵か先か」になるけれども、意識的にか無意識的にか男女関係の修羅場
を自分で作ってしまう、その血みどろの体験から創作をするというタイプ。
書くものはおもしろいけど、間違っても一緒に暮らしたくない、そばによるなシッシッという(w
本作「父」は破綻した夫婦の物語。妻によって狂人にしたてあげられてしまう男の悲劇。

「ダマスカスへ 第一部」(ストリンドベリ/岩淵達治訳/「名作集」白水社)絶版
→戯曲。この作品を書くことによって著者は神の存在を信じられるようになったとのこと。
それは良かったですねえストリンドベリさん。でもですね、つまらないんですよ。
深遠なことを書こうとしている(あるいは書いている)のはわかるのだけど。
夢の中をただよっているような劇。男がいます、人妻を誘惑しました、旅に出ました、
生活に困窮しました、別れました、愛に開眼しました、再開しました、女の元亭主と和解しました。
――劇は終了しますた。

69: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:46
04/01/30 14:16
「罪また罪」(ストリンドベリ/石沢秀二訳/「名作集」白水社)絶版
→戯曲。「ダマスカスへ」のような催眠的な作品を書くかと思えば、
この「罪また罪」のような現代日本のテレビドラマの脚本にもなりうるような
(NHKあたり)作品も書くのだから、ストリンドベリというのはふしぎなひとだ。
大衆的で実におもしろい。三浦綾子の小説みたいな劇構造をもっている。
デビュー前の劇作家がいる。今日のお芝居は大成功間違いなしと言われている。
まだ籍は入れていないが内妻と子どもがいる。これで芝居があたれば……。
予想通り、劇は大ヒット。男は一夜にして有名人の大金持ちになる。
運の良い人間というものはいる。
こんな女がいたとは。男ははじめて会った親友(画家)の恋人と相思相愛になる。
親友を裏切るわけである。家族(内妻と子ども)も裏切ることになる。
大金と美女、両手に花の男はひとつのことを願う。子どもが死んでくれたら。
なんとそれまでかなってしまう。子どもは原因不明の死をとげる。
しかし酒場で女にうっかりもらした「子どもが死んでくれたら」という会話を
店員に聞かれていたことから警察から疑いをもたれる。
今度は一夜にしてすべてがパーに。劇の上演は打ち切り、収入はゼロ。
新聞では情婦とともに犯行かと書かれたので、新恋人との関係も気まずいものに。
女はモトカレとよりを戻そうとするしまつ。これで女もふいだ。
男は親友の絵がコンクールで優勝したことを知る。
親友は受賞を辞退するという。男が親友にわけを問うと――。
成功と没落というのはむかしからドラマ構造としてよく使われている。
「オイディプス王」しかり「マクベス」しかり。
いまテレビでやっている「白い巨塔」もそう。
教授へとのぼりつめるザイゼン先生に、患者を大切にするサトミ先生。
そのあいだを動き回る女もいる。
結論。ドラマに新しいものはないけれども、おもしろいものはある。

70: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:46
04/01/30 14:59
「死の舞踏」(ストリンドベリ/毛利三彌訳/「名作集」白水社)絶版
→戯曲。わたしがこのスレに長文を書くことをおもしろく思わない方がおられる
ようですが、わたしの目的はふたつあります。ひとつ、自分の頭の中を整理すること。
もうひとつは、やはりどこかしらで自分の発見した埋もれた名作を紹介したい、
他者と感動を共有したいという思いがあるのです。なぜそんなことを言うのか。
「死の舞踏」はまさにそういう作品だからです。
おなじ思いをもった編集者がいるようです。
ストリンドベリ作品の中で例外的にこの「死の舞踏」だけは現在、購入可能です。
http://www.honco.net/richiesta/books/010.html

「死の舞踏」というものが中世のダンスにあったそうで、
軽快で複雑なステップに夢中になっているうちに、骸骨の姿をした死神に導かれて、
墓場に連れて行かれてしまう、そういうダンスがこの戯曲のタイトルです。
それに名前負けしない、これはおそろしい戯曲です。
ほんまもんのキチガイはどえらいものを書くんだなぁと寒気すらします。
ドストエフスキー的な登場人物がわめきちらす地獄絵図です。
ストリンドベリは「一脚のテーブルと二、三脚の椅子さえあれば、
そこに人生のもっとも深刻な劇を展開させてみせる」と言ったそうですが……。
内容は延々と続く夫婦喧嘩――。
島尾敏雄「死の棘」の上をいく悪魔的な作品。
9・11自爆テロのあとにブロードウェイで上演されて、
ブロードウェイ復興のきっかけになった作品だと検索で知りました。
十分に現代的なドラマということです。
ただし当時の評論家に、こんなだらだらとつまらない戯曲はない、
と酷評されたことも付記しておきますね。

71: 美香 5qBZxQnw:04/06/25 10:47
04/01/30 15:39
「幽霊ソナタ」(ストリンドベリ/高橋康也訳/「名作集」白水社)絶版
→戯曲。とことんつまらん。さっぱりわからん。それにしても当たり外れの激しい作家だ。

「小さいエヨルフ」(イプセン/山室静訳/筑摩書房世界文学大系90「近代劇集」)
→戯曲。イプセンとストリンドベリというのは並べられて論じられることが多い。
だけど、いま見るとイプセンは残って、ストリンドベリは見事なまで消えた。
つまりイプセン作品は現在多種入手可能なのにストリンドベリはほとんど入手不可。
なぜか。イプセンのほうが教育的なせいかな。常識的というのか、学校演劇になるというのか。
ストリンドベリはやばすぎる。取り扱い不可、精神病患者措置入院といったおもむきがある。
ストリンドベリは創作をしなかったら間違いなく犯罪者になるタイプだから。
あ、「小さいエヨルフ」の感想か。ネタバレするからね。
あることろに地主の夫婦がいました。この夫婦には男の子がいます。7歳。
びっこのエヨルフくんです。旅行から帰宅した夫に妻はつめよります。
もっと私を愛して、あなたはエヨルフのことばっか、あんな子、いなければいいのに!
そういう論争をしているまさにそのときエヨルフくんは海で溺死します。
夫婦の争いは激しさを増し離婚直前までいきます。
ところが、なんてでしょうかね。ふたりは愛を取り戻します。
これからは二人で領地の貧しい子どもを養育していこう、と。
すばらしい偽善、もといボランティア精神、もとい普遍の愛ってやつですね。
あたしゃ感動して涙うるうるですよ。
子どもがいじめで自殺した夫婦が、いじめ撲滅のために各校を講演してまわるみたいで。
我が子を殺された夫婦が気持ちの悪い手記を書いて大もうけするみたいで。
イプセンよりストリンドベリのほうが好きです。

「令嬢ジュリー」(ストリンドベリ/千田是也訳/「名作集」白水社)*再読
→戯曲。>>67で読んだのを別の訳で再読。内容がここまでまったく違っているのは
めずらしい。ふたつの作品があるみたい。たぶんこっちが正しいんだろうな。
>>67のほうが差別的なきわどい調子がよくでていたけれども。

72: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 08:49
04/01/31 16:24
「酒とつまみ 第4号」(酒とつまみ社[仮])
→お酒の雑誌には有名な「サントリークォータリー」があるけど、
わたしはこっちのほうが好き。サントリーのほうはいかにもお金をかけて、
有名どころの作家にお酒にまつわるエッセイを書かせているから鼻につく。
一方、こちらはおそらく採算ぎりぎり、ほとんど趣味でだしている。
ライターにギャラさえ払っていないのでは?
だからほんとに書きたいことをみなさんハチャメチャに書いている、
お酒が好きで、お酒にまつわる話をすることも好きでたまらないのがよくわかる。
(参考)http://www.saketsuma.com/

「アジアの旅人」(下川裕治/講談社文庫)
→タイトルそのまま、アジアのエッセイ。レシートがはさまっていて、
去年の7月18日に新宿紀伊国屋書店本店で買ったらしい。
あー、そういえばあのとき妙にアジア熱が高まって、それをさますために
いろいろ旅行記を買ったなと思い出す。ときおりすべてをなげうって、
海外に出たくなる。国外逃亡。山頭火じゃないけど。
でも、まあ、そう簡単にはいかないわけで、こういうエッセイで仮想体験してごまかす。
著者にへんちくりんな詩心がないのが良かった。
恋人との別れが旅の理由で、とかなんとか、感傷を垂れ流す旅行エッセイは最低。
タイ行きたい。白石昇におごらせたい。現地妻を観察して報告したい。

「本の運命」(井上ひさし/文春文庫)
→本についてのエッセイ。おもしろすぎて2時間、休憩することもなく一気に読んだ。
このひと、本が好きなんだなとよくわかる。別な本で井上ひさしが言っていた。
「人生が楽しいとか幸せとか感じるときはない。どこまでもつまらないもんです。
ただ戯曲を書くための準備として、ある作家の全集なり資料なりを読み込んでいる
ときに贅沢だなと感じるくらい。その作家の小宇宙にただよっているときだけ」。
うろ覚えだけど。井上ひさしは「小林一茶」や「樋口一葉」などの評伝劇
を好んで書く劇作家。そのときの資料調べのことを贅沢な時間といっているわけです。
当然、一ヶ月の平均書籍代は4〜50万円。狸と狐について戯曲を書こうと思ったときは、
神保町の小宮山書店に電話して神田古本屋街から関係するすべての書物を集めて
もらったとのこと。確定申告のシーズンだけど、こういうのは必要経費でどこまで
落とせるものか。失敗談としては、明治時代の医学書を18万円で買ったらしい。
で、その半年後に復刻版がでてしまった(w その古書店は申し訳ないから、
10万円お返ししますと言ってきたそうです。現金ではなく、そこの古本10万円分。
こころあたたまる話です。

73: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 08:50
04/02/08 10:38
「カンディダ」(バーナード・ショー/鳴海四郎訳/「名作集」白水社)絶版
→べつのスレで以下のような指摘がありました。
>美香の書評読んでも全然おもしろくない
>何も読めてない何も理解してない
>自分は読んだぞということが言いたいだけ
>こんな人に読まれた本はかわいそう
考えさせられる。何をもって「読む」というのか。読んだことを書くことの意味は?
たとえばこの戯曲。率直にいってつまらないとわたしは思った。
これをおもしろく他者に紹介することはわたしにはできない。
せいぜいこう書くぐらいである。人妻の話であると。ロマンスであると。
牧師をしている堅実なだんなさん。熱烈に求愛する少年詩人。さあ、ご注文はどっち?
結局、人妻はだんなさんを選択する。元通りになってのではない。
少年はこの失恋を経て、オトナの男性に成長したのだから。
まあ、こういう話であると書くぐらいしかわたしにはできない。
無能とそしられたら黙ってうなずくほかない。わたしが悪いのかこの戯曲が悪いのか。

「悪魔の弟子」(バーナード・ショー/中川龍一訳/「名作集」白水社)
→戯曲。テレビドラマを見ていて思うことってありません?
この脚本家はぜったいに視聴者をバカにしている、おまえらこんなものを
見せときゃ満足するんだろうアホどもめ!という悪意があると。
皮肉屋のショーさんがその悪意を隠すことなく創作したのがこの作品。
通俗的な「仕掛け」を矢継ぎ早に出していく、どことなくバカにしながら。
まず遺産相続の場(リア王)。そこに十年ぶりに帰宅する放蕩息子の長男。
遺書が公開されると長男の独り占め(意外な展開)。時代はアメリカ独立戦争。
イギリス軍が攻めてくる。牧師の身代わりにイギリス軍に捕まえられる放蕩息子。
さて神につかえる牧師はどうするか。自分が本物の牧師だと名乗り出て処刑されるか。
と思いきや、自分の命が大事とさっそうと逃げ出してしまう牧師さん(観客笑う)。
さあ緊迫のクライマックス、放蕩息子がまさに処刑されようとしている。
牧師ははたして現れるのか(走れメロス)。あ、あれは牧師ではないか!
当時、この「悪魔の弟子」は大ヒットしたそうです。大衆なんてそんなもの?

74: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 08:51
04/02/08 11:19
「聖女ジョウン」(バーナード・ショー/中川龍一・小田島雄志訳/「名作集」白水社)
→戯曲。ノーベル文学賞受賞作品。イコール世界がおもしろいと認めた作品、か。
世界 vs わたし。とうてい勝ち目はない闘いである。がしかし、わたしは言いたい。
この戯曲のどこがおもしろいのか! だらだらと長いだけの評伝劇ではないか!
聖女ジャンヌ・ダルクが登場してイギリスを打ち破り最後は不幸にも火あぶりにされる、
その生涯を機械的に六場に分断しただけ、なんの興奮もなんの緊迫もなんのユーモアもない。
ではどんな戯曲がおもしろいのか? この戯曲と正反対のものである。
先を知りたいと目と手が異様なスピードで動く戯曲、
思わずセリフを音読してしまう戯曲、
計算式では割り出せない熱情がほとばしっている戯曲――。
たぶんこの作品がノーベル文学賞を受賞した背景に、日本人にはわからない
カトリックうんぬんの問題があるのだと思う。遠藤周作がノーベル文学賞を
受賞できなかった理由に、選考委員のひとりがぜったいに受賞させないと
いきまいていたという話を聞いたことがある。「沈黙」が気に入らないとかで。
この戯曲のテーマは教会は信仰に必要か否か。
たぶん「カトリックかプロテスタントか」の問題になるのだと思う。
日本人にゃわかりません。ごめんなさいです。
へたな感想文を書いてしまって、ノーベル文学賞の作品を貶めてしまって。

75: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 08:51
04/02/08 12:20
「デモクラシー万歳」(バーナード・ショー/升本匡彦訳/「名作集」白水社)
→戯曲。だめだよ、高いお金払って「バーナード・ショー名作集」なんて買っちゃ。
わたしの嫌いな矢口書店じゃ9000円なんて値をつけている。
あー、いま検索したらショック。小宮山書店が2000円で新しく出している。
ここなら送料もいらなかったのに……。悔しい。にっくきバーナード・ショーめ!
あ、この戯曲は政治劇。まあ、これほどつまらない戯曲を探すのが「六ケかしい」。

「分からぬもんですよ」(バーナド・ショー/市川又彦訳/岩波文庫)品切れ
→戯曲。人生なんて、分からぬもんですよ。ある日、偶然に、
18年間も会っていなかった父親とばったり出会ってしまうのだから。
不勉強なので、あやふやだけれども、喜劇にはふたつあるらしい。
ひとつは、登場人物そのものの個性がおもしろいもの、奇人変人がでてくるもの。
もうひとつは、状況がおもしろいもの、シチュエーションコメディというらしい。
もちろんこれは後者になる。そのなかでもかなり上質の部類に入ると思う。
ただし難は翻訳にあり。昭和15年の翻訳。思いっきり旧字体。
市川又彦ってだれ? 英文学の創始者? いくらなんでも中学生みたいな直訳をしないでほしい。
日本語として読めないところが多数ある。これを倉橋健さんの訳で読めたら……。
ところで「六ケかしい」。読めましたか? 
わたしはこの戯曲で四回目に出てきたところでようやくわかる。
「むつかしい」ですね(w

76: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 08:53
04/02/11 10:50
「蛙」(アリストパネス/高津春繁訳/「世界古典文学全集12」筑摩書房)
→戯曲。いわゆるギリシア喜劇。今まで読んだことのあるアリストパネス作品は
「雲」「女の議会」「女の平和」の三つのみ。どれもわたしにはおもしろさが
わからなかった。で、まあ今回(誤解だったけど)487さんに刺激されて、
これを読んでみたわけですが……。本文が31ページなのに、訳注が11ページもある
というのは勘弁してほしい。読了するのが苦痛極まりなかったです。
さて、ギリシア喜劇とはどういうものか。とことんバカバカしいんです。
当時のひと(2000年以上も昔)が487さんのように大笑いしたのも無理はないくらい。
たとえばこの「蛙」。まず神様が登場するわけです。
ディオニュソス神(バッカス)です。地獄に行きたいと言い出します。
今は亡きアイスキュロス(悲劇詩人)に会いたいというのがその理由。
で、いちど地獄に行ったことのあるヘラクレスさんの家を訪問します。
そこで地獄への行き方を教わったディオニュソスは従僕とともに向かう。
地獄のあまりの恐ろしさにうんこをもらしちゃったりもします、神様なのに(w
くだらないですねまったく。で、地獄ではなぜかアイスキュロスと
エウリピデス(これも悲劇詩人)が喧嘩をしている。
勝敗を決めてくれとディオニュソスは頼まれる。
ディオニュソスはそれぞれの悲劇詩人のことばを実際に天秤にかけてみます。
するとアイスキュロスのことばのほうが重い。アイスキュロスの勝ち。
ディオニュソスはアイスキュロスを地獄から地上へテイクアウトすることにしました。
これを大笑いしながら見たアテナイ人は町へ繰り出し、
一晩中、飲めや歌えやの大騒ぎをするわけです。

77: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 08:54
04/02/12 09:55
「蛇にピアス」(金原ひとみ/文藝春秋3月号)
→小説を読むってどういうことだろう。ここのところ戯曲ばかり読んでいたから、
久しぶりの小説だった。戯曲は、設計図や楽譜みたいなもの。それを手がかりに
大勢のひとが動き、大勢の観客を楽しませる、少なくともなんらかの刺激を与える。
一方で、小説はひとり自室で読むものである、基本的には。小説を、読む。
なんのために? それはもちろん感動したい。できたら泣くぐらいの感動を。
小説を、書く。なんのために? なんのためにひとは小説を書くのか?
なんのために彼女は小説を書いたのか? 村上龍や山田詠美になりたかったのか?
この小説にはわかったようなことが書かれている。これを読んだ識者もわかったような
ことを言うのでしょう。今朝、ニュースでこんな話を聞きました。酔っ払い運転で
他人の子どもを殺してしまった男性。服役が終わった後も罪を償いつづけるとのこと。
一生、酒は飲まないし、自分が殺してしまった子どものことを考えつづける。
酔払い運転なんてみんなやっています。その中でなぜ彼が事故を起こしてしまったのか。
わかりません。この「わからない」をわたしは文学で扱いたいと思います。
おなじ文藝春秋3月号に三浦哲郎「忍ぶ川」のグラビアがありました。
三浦哲郎さんも彼の「わからない」からスタートした文学者です。

「蹴りたい背中」(綿矢りさ/文藝春秋3月号)
→幸福な小説です。吉本ばなな「つぐみ」を思わせる上質の青春小説です。
だれもが経験する自意識の芽生えの時期を、彼女だけのスタイルで丁寧に
描き切っている。見事。一つひとつ言葉を選びながら、楽しみながらこの小説を
書き上げたというのがよくわかる。小説を書く喜びに満ちている。
彼女の人生に悲劇はないでしょう。このまま書きつづける、残る作家だと思います。
ひとりくらいそういう作家がいてもいいような気がします。

78: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 08:57
04/02/15 07:24
「テレーズ・デスケルウ」(モーリアック/遠藤周作訳/講談社文芸文庫)*再読
→こんなフランスの心理小説を5年ぶりに再読したのはやはり芥川賞ショックかも。
陰鬱でやりきれない心理小説。テレーズが夫を毒殺するにいたるまでの心理と
(その心理を反映した)風景の描写が詩的な緊張をもってつづく。
毒殺は未遂に終わる。夫が偽証をしてテレーズを救ったのは、ただスキャンダルを
おそれただけ。テレーズとは別居する。つまらない社会道徳にしばられる夫と、
生きることの退屈さを嘆くテレーズの対照は、イプセンの「ヘッダ・ガーブラー」のよう。
戯曲とはちがって、小説というのはこんなことができるのかと改めて小説の力を確認する

「私の愛した小説」(遠藤周作/新潮文庫)絶版*再読
→カトリック作家の遠藤周作が生涯目標とし、愛しつづけたのが上記の
「テレーズ・デスケルウ」。本著は晩年の遠藤がこの「テレーズ」をあらゆる
角度から論じきったもの。子どもが棒つきのキャンディーを舐めまわすかのごとく。
まずドストエフスキーとの比較。モーリアックはドストエフスキーから「無意識」
の扱い方を学んだ。ドストエフスキーの作中人物の行動は単純な心理学では説明
できない。深層心理学。またモーリアックはフロイトからも影響を受けた。
無意識を罪の母胎と見るフロイト。話は仏教の唯識思想にまで及ぶ。
仏教とユングの類似性。ユングの元型思想。
ユングは人間の無意識には全人類が共有する元型というものがあると考えた。
だからどの国の人も感動する名作(「戦争と平和」など)が生まれるのだと
遠藤は話を進める。物語の元型というものもあるのではないかと主張する。
たとえば「テレーズ」はラシーヌの「フェードル」の影響が強く見られる。
しかし「フェードル」も元を返せばギリシア悲劇「ヒッポリュトス」の
影響下で書かれたものである。そもそも新しい独創的な作品などあるのか?
後世にも残る名作というものはすべて人間の無意識の元型を刺激するものではないか?
このように「テレーズ」を基点として話はどこまでも発展していく。
5年前にこの本を図書館で借りて読んだときは、ものすごいことが書かれている
ということだけはおぼろげながらわかった。そして打ちのめされたのを覚えている。
いま再読してみて、まあ、ここで名前があがったひとの本ぐらいは一応読んでいる
自分に気づいてちょっと嬉しくなったけど、いくら本なんて読んだって不毛なものよ
と独語する、ぐれてしまった(死語?)自分も発見して苦笑いの心境です。

79: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 08:58
04/02/16 09:33
「不思議な世界」(山田太一編/ちくま文庫)
→毎日、おもしろい? わかっているって、つまらないことばかりわたしも。
ロマンスも冒険も幸福もわくわくもどきどきもすべて本の中、テレビの中だけ。
そんなときにシンクロニシティなんてことばを聞くとちょっとだけ胸が躍る、
ダンス・ダンス・ダンス。シンクロニシティとは意味のある偶然のこと。
ユング先生が提唱した概念。たとえば夢に見た知人と十年ぶりに会ったり。
この世以外の存在(神?)を思わず考えてしまうような、そんな出来事。
終わりなき日常(宮台真司!)を生き抜く庶民のささやかな知恵がシンクロニシティ。
そんな不思議な話を集めて一冊にしたのがこの本です。

81: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 09:00
04/02/21 13:30
「別冊新評 山頭火の世界」(新評社)絶版
「山頭火読本」(牧羊社)絶版
「句集 草木塔」(「山頭火大全」講談社)*再読

→山頭火をテーマにした戯曲、映画シナリオを読んだがどれもつまらない。
完全に山頭火に食われてしまっている。かなわぬ敵には近づくなという教訓。
しかし山頭火研究者にはろくなものがいない。いちど実物に会ったことがある
くらいで批評家面ができる世界なのである。どマイナーな世界。
山頭火を語ることで自分を語りたい、しろうとの自称研究家にはうんざり。
そんな中、対談で水上勉が上田都史(放哉・山頭火研究家)をこてんぱに
していたのは痛快だった。まったく文学者というのは業が深い=意地が悪い(w
いわく「山頭火さんには人間的な苦悩といったものが放哉さんよりふかく
感じられます」。こんな感じで放哉好きの上田都史を論破しつづけ、最後には
何も言えないようにしてしまう。「まったく水上さんの言うとおりです」と。
そして水上勉は「二河白道」を語る。
「二河白道」とは仏教の言葉。旅人が立ち止まっている。
というのも右に水(貪愛)、左には火(憎悪)で先に進めないからである。
その中間にぼんやりと白道が見えるだけ。危険極まりない道である。
かといってじっとしてもいられない。後ろからは赤鬼青鬼(道徳?)が追いかけてくる。
この白道は浄土に通じているという――。
水上勉は言う。山頭火は確かに「二河白道」を歩いたと。
同感。放哉は「個」を描いたに過ぎない。しかし山頭火は「個」を描くことから
「全」にいたっている。山頭火の俳句は全体に通じているのである。
「どうしようもない私が歩いてゐる」は「どうしようもないわたし」が
歩いているのではない。すべてが「どうしようもない」のである。
もう「わたし」は歩くほかない。「なんぼう考えてもおんなじことの落葉ふみあるく」。
山頭火は「個」(自由)を「全」(必然)をじっと見つめる。
「わたしと生れたことが秋ふかうなるわたし」。
「ここにかうしてわたしをおいてゐる冬夜」。

82: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 09:01
04/02/21 14:01
「古本夜話」(出久根達郎/ちくま文庫)
→古本エッセイ。著者は元・古書店主人。
初めて知ることがいっぱい。「へえ」の連続。へえへえへえへえへえ。
古本屋って値切られるのがいちばんいやなんだとさ。
なんでも古書価格はそこの主人の思想だとか。
思想か、ずいぶんおおきくでたもんだ。それにしてはけっこうな思想家が多いこと。
まだ新刊で買えるものを絶版と銘打って定価以上の値札をつけたり、
ブックオフ百円コーナーの常連をもっともらしく定価で売ったり。
基本的にわたしは古書店主人というものが嫌いである。
価格と結びついた浅薄な人名リストを脳内に溜め込んだだけのおっさんが、
どうしてどこもあんなに偉そうなのか。疑問である。
ブックオフ万歳! ちなみにわたしは以前、古本を毛嫌いしていた。
新刊で読めないならもうあきらめていた。そんなわたしを変えたのは工藤伸一。
彼がブックオフ町田店を薦めてくれたおかげで、わたしの読書人生は変わったのです。

83: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 09:03
04/02/24 09:20
「藝術とはなにか」(福田恆存/「評論集1」新潮社)
→芸術とはなにか? なんて語れる時代があったということです。赤面もせずに。
こんなふうにふざけていると561さんに怒られてしまうから、ちょっとまじめになろう。
芸術の起こりは古代人の呪術にあると福田さんは話をはじめます。
ギリシア悲劇の時代(役者は神を演じるために仮面をかぶった、その意味)、
イエスの誕生(民衆は神のまえで仮面をかぶる=素顔の誕生)、
中世の教会主導のキリスト教世界(教会が舞台・演劇となる、ゆえの不毛な芸術)、
ルネッサンスの人間賛歌、シェイクスピア(人間を主題とする芸術の発生)、
近代の自我意識(神前の仮面はなくなった、しかし素顔ではいられぬ、小説の誕生)、
現代の孤独感(いくら小説を読んでも孤独が増すだけ、いま必要とされる芸術とは?)。
――と、こう芸術の歴史をふりかえって、福田さんは主張します。
芸術とは、自らを自然(全体)の一部と感じせしめるものである。
芸術とは、カタルシスである。日常生活でかなえられぬ夢の残滓を嘔吐せよ。
芸術とは何かを問うことは、生きるとは何かと問うのと同義である。
しかし現代の芸術はどうだ、現代の小説はどうだと福田さんは問題提起する。
映画など芸術ではない。なぜなら受け手の自由がまったくない。
絵画も音楽も文学も、鑑賞者の能動的な努力があってはじめて成り立つものである。
映画はすべてを表現するがわが行なう、鑑賞者は何もしなくてもよい、それは芸術ではない。
それでは人間が孤独になるばかりではないか。
現代の小説も同様。そこに書かれているのはつまらぬ自我ばかり。
小説を書くがわが賞賛され、小説を読むがわは作家にあこがれるだけ、これでは救われない。
ふたたび福田恆存は主張する。芸術はナルシズムではない、カタルシスである。
芸術とは精神の運動である、芸術とは精神のエネルギーの消費である。
芸術がどうして必要か。生きるためである。
人間は負けるとわかっている賭けにもあえて賭ける。
そこに生の快楽があるからである、そこに生の秘密があるのである。
芸術とはそのようなものです。

84: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 09:04
04/02/25 10:25
「堅壘奪取」(福田恆存/「全集第八巻」文藝春秋)*再読
→戯曲。30分で読了。劇作家としての福田恆存が評論で大言壮語しているほどの才能は
見せていないのはもちろんだけど、それでもこの作品はなかなか味のある小品では?
小粒だけどぴりっと辛い! それは世界的な芸術作品ではないけれども。
まあ、退屈させないていどのレベルはもった会話劇かと……。
思想とかうんぬんするよりも、会話のテンポがスムーズで無理がない。
現代にも通じる皮肉があると思う。企業研修とかで叫んでそうじゃない?
信ずれば能はざるなり、信じればなんでもできる、己で限界を作るな、とか(w
うーん。これなんかよりよほどつまらない戯曲がたくさんあると思うけど。
戯曲というのはそこから作者の思想を探るよりも、
作者のつくった世界でたしかに息をして動いている人間を楽しむものだと思う。

85: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 09:06
04/02/26 12:42
「人間・この劇的なるもの」(福田恆存/中公文庫)*再読

→評論。演劇から人間を見る。読むのはたぶんもう五度目。常に発見がある。
563さんに自らの考えがないのを批判されたけど、わたしには福田さんの評論に
ついて物申すちからはない。理解するのでいっぱいいっぱい、眉間にしわしわ。
そのためこの読了報告はわたしが毎度、感銘するくだりを紹介するていどです。
人間は自由など求めていないと福田さんはいう。人間が真に必要としているのは宿命で、
自らが必然のうちにいるというこの感覚のなかにしか生きがいはない。
自由か宿命か、偶然か必然か。
この二項対立のうちに人間を演劇を見るところ、その鋭さ、
わたしが福田恆存の評論にひかれるゆえんである。
若い成功者は己の成果を自由な行動(努力)の結果と思う。よもや運などとは考えまい。
一方で、老いたみじめな失敗者はすべてが宿命だった、他にどうしようもなかったと思うもの。
遺伝のせい、あるいは社会が悪いから、問題を必然にするのはいともたやすい。
が、どちらも自己欺瞞であると福田さんは冷たく言い放つ。
では、人間は自由か宿命か。ことは偶然に起こるのか、すべては必然なのか。
舞台を見なさいとここで演劇を持ち出してくる福田さんの慧眼には感服する。
舞台上の役者。かれはセリフをすべて覚えている、芝居の結末を知っている(宿命)、
だけれども役者はひとつのセリフをそれを知らぬものとして言う(自由)、
他にも言えた数限りない候補の中からさもそのセリフをいま選んだかのように言う。
名役者におなりなさいと福田さんはいう、人生で良い演戯をなさいという。
なぜなら生きるというのは何かしらの役を演じることに他ならないのだから。
だれもが主役になれるわけではないし、また主役を望むものばかりではない。
脇役でもいい、自らの役を演じきりなさい、そこに生きがいがある、そこにしかない。
毎日、ものごとはなんの脈絡もなくすべてが偶然にあなたに襲いかかる。
そこで大根役者にならぬにはどうしたらいいのか、きちんと演戯するためには?
劇の終わりを意識しなさいと福田さんはいう、
死によって舞台が完結することに思いをはせなさいという。
さて、思う。わたしに与えられた役は何か。
文学界のジャンヌ・ダルクか、平凡極まりない主婦か。
くだらぬ役ならわたしは舞台から降りるつもりである。
配役に命をもって抗義する。たとえそれがよくある役を演じることになろうとも。

86: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 09:07
04/02/26 13:39
「龍を撫でた男」(福田恆存/「全集第八巻」文藝春秋)*再読
→読むのは三度目。個人的には劇作家・福田恆存の最高傑作。
安部公房も三島由紀夫も木下順二もこれにはかなわない。読売文学賞も取っている。
余談だけど、学生時代の山田太一がこれを見るためにわざわざ東京にきたらしい。
主人公は、どことなく福田さんを思わせる中年の精神科医。常識人を自認し誇る。
いささか神経衰弱気味の妻と、その弟(無職でアル中)と同居している。
元旦、妻の友達の女優(舞台のように人生を生きるが信条)と、
その兄の劇作家(躁鬱病ぎみ)が精神科医宅を訪れることから物語は始まる――。
常識人は精神科医ひとり、周りはみんな、まあキチガイ。
おもしろくならないはずがない。
精神科医の語ることばはまるで山田ドラマのセリフのよう。

「(浮気するのは)小説や芝居じゃはでな役だけど、実生活ではいつでも
貧乏くじときまっている。家庭をばかにしちゃいけませんよ……、
現実をなめちゃいけませんよ……、それがどんなにくづれかかっているように見えてもね」

「人生は冒険じゃない。人生はくりかえしですよ。
たえず変わったことをしていたんじゃ、しまいには発狂してしまうよりしかたがない」

衝撃のクライマックスなんだけど、ネタバレになるから書かない。
わたしがネタバレをするのはつまらないもの限定ですから。

87: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:50
04/03/05 10:32
「演劇入門」(福田恆存/玉川大学出版部)絶版*再読
→良書を読んだあとのパターンとして二種類ある。ひとつは、
他人にも読ませたくなる。感動の共有です。フィクションを読了したあと、
私たちはよくこのような行動にでる。さて、もうひとつは、その本のことを
だれにも教えたくない、自分だけのものにしておきたい、そういう意地汚い根性が
読書家というものには常につきまとうように思うのです。それがこの本なのです。
わずか244ページ。しかしそこには凝縮された内容がたっぷりつまっている。
演劇の発生から、戯曲読法、演技論、演出の役割、日本新劇史概略まで――。
わたしのほうも襟を正して、本来なら一日で読める分量ですが、四日かけて
じっくり吟味しながら本書を読了しました。自分しか知らない名著というのは
いいものです。以前、山田太一が「私の幸福論」(福田恆存)を隠れた名著と
愛読していたところ、これが文庫化されてひどく悔しい思いをしたことがあるといいます。
わたしもこの「演劇入門」が復刊されなどしたらそうとう悔しがるかと……。

88: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:51
04/03/05 10:56
「ウェストサイドワルツ」(アーネスト・トンプソン/江守徹訳/劇書房)品切れ
→最近、生きるのいやいやモード。こころに隙間風、ひゅーひゅー、吹き抜ける。
さむい。あったかいココアを、暖炉を、ハートウォーミングストーリーを……。
というわけで以前にこの著者の戯曲「黄昏」を読んでいたく癒されたので
今回もお世話になろうかと読んだのですが、うーん。とてつもなくつまらない。
劇書房の戯曲は「はずれ」がないと信じていたけどこれは例外。訳も変だぞ江守徹!

「いい酒、いい友、いい人生」(加藤康一/日本文芸社)絶版
→著者はワイドショーのコメンテーターなどで長年、芸能界の盛衰を見てきたひと。
石原裕次郎、鶴田浩二、三田佳子、美空ひばり、吉永小百合ら戦後芸能界を飾った
スターたちの知られざる素顔! と表紙でうたっております。
まあ、そういう有名人がどういうふうにお酒を飲んでいたかというエッセイです。
むかしの芸能人の無頼というものはすごいものがありますね。見習いたい!
もちろんわたしもお酒を飲みながら拝読いたしました。ブックオフ100円本なり。

「きょうからの無職生活 バイト生活向上委員会」(情報センター出版局)
「ビジュアル編集 税金がわかる」(富田健司/大泉書店)
→どちらもブックオフ100円本。感想? そんなこと聞くなよバカヤロー!

89: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:52
04/03/08 09:57
「別冊宝島53 精神病を知る本」(宝島社)
→テーマというものがある。自分が表現をしていこうと思っているとき、
その源にあるもの。ルーツ? スタート地点? 得意分野?
「山頭火」「シェイクスピア」「宮本輝」「ギリシア悲劇」「宮台真司」などの
固有名詞とともに、「精神病」への関心がつねにわたしのなかにはある。
ばらばらで一見すると、なんの関連性もないようだけど。
本書はアンチ精神病の立場からの発言。すなわち精神病などないのだというのです。
精神病は精神科医がつくりだす幻想、たとえば理解できない凶悪犯罪が起きる、
そこから生じる社会不安、これを抑えるために「精神病」という概念が生まれた、
「かれは精神病だから」と私たちの日常とは別次元の世界へ追いやってしまう、
そのために精神科医は生まれたのだと、未開社会の精神病的症状とその治癒を例示する。
狂気というのは正常というものが定義されてはじめて存在しうる、逆も言える。
そのときたかだかいち精神科医ごときにそんなものを任せてしまってよいのか、
と本書の主要執筆者は問題提起するわけです。
完全な正論、(しかしではなく)ゆえに机上の空論、知的自己満足。
何も生みださない、誰の役にも立たない。
一週間でいいから精神病のひとと一緒に暮らしてみなさい、
いちどでいいから自ら発狂の危機におびえてみなさい、そんなことは言えなくなるから。
精神病は怖いものです、精神科医は必要です、誰かがやらなければならないものです。
うちはだいだい精神病の家系だからしんじつそのことを考えます。
本書の問題提起に誠実に答えていた精神科医(写真を見るとほんとうに善良そう)が
チェーホフの「六号室」という小説を例にあげていた。
これほどまで「精神分裂病」を描ききった小説はないと。いつか再読したい。

90: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:53
04/03/08 10:29
「別冊宝島144 シナリオ入門」(宝島社)
→二部構成。一部が「シド・フィールドのシナリオ講座」。
なんでもアメリカの大学、映画学科でテキストとして使われている(当時)とか。
売れるアメリカ映画の秘密がつまっているとのこと。ほんとかいなと読む。
だってお金持ちになりたいもん、貧乏だけど純文学で自己満足なんていやだもん。
不純な動機で読了。あはは、うまい話はないってことよ、どれも聞いたようなことばかり。
ちょっと内容紹介。2時間の映画はシナリオにすると(英語で)120ページ。
(1〜30ページ)=状況設定、(30〜90ページ)=葛藤、(90〜120ページ)=解決。
いちばん書くのが難しいのは「葛藤」。重要なのは「葛藤」の中間(60ページ)に
転機となるミッドポイントを入れること。著者はこのようにシナリオを数式化する。
まさかぁと思うでしょ? このつぎに読んだ大ヒット映画「恋におちたシェイクスピア」
のシナリオ本で確かめたら本当にそうなっている。英語日本語対訳のシナリオ本。
30ページくらいでシェイクスピアとヴァイオラ(ヒロイン)がひかれあうと同時に、
登場人物が出尽くす。ミッドポイントの60ページ付近で、シェイクスピアと
ヴァイオラが結ばれる(肉体的に)んだから、まさしく公式どおり(w
本書の第二部は日本人シナリオライターの無頼自慢がメイン。
だから日本はだめなんだと読んですこしあきれてしまった……。

91: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:54
04/03/08 11:05
「恋をにおちたシェイクスピア」
(マーク・ノーマン&トム・ストッパード/藤田真利子訳/愛育社)
→映画シナリオ本。左ページに英語、右ページに日本語。
よくあれは大衆娯楽作品だからなどとヒット作をバカにする声を聞くけど、
本作品は老若男女、誰をも楽しませるエンターテイメントであるばかりでなく、
作品そのものがひとつのシェイクスピア論になっているところに脅威を覚える。
アメリカってすごいなぁ、天才っているんだなぁと脱帽するよりほかない。
わたしのようなシェイクスピアマニアをにやりとさせる心憎い部分があり、
またシナリオ技術的な面でおおいに見習うべき個所もありで、もう満腹です。
観客をどうやって楽しませるかという職人的秘術がこのシナリオにぎっしりつまっている。
泣かせるツボや笑わせるツボの押し方、キャラクター設定の仕方、
室内シーンと室外シーンの比率、ベッドシーンとアクションシーンの入れ方。
映画(ビデオなんだけどさ)で見たときには気づかなかったことばかり……。
ひとつ難点を。日本語訳は字幕を採録したものだと思うんですけど、
(字数の制限は知っています、が)日本語として意味が通じないところが多い。
映画で見たら画像の迫力で流せるから気にならないのだけど。
で、横の英語を見ると、あー、こういうことねとわかる。英語なんてほんと久しぶり。
そんなわけでちょこちょこ原文を参照しながら読みました。すると気づく。
英語ではぴしっと決まっているセリフが、横の日本語ではまったくだらしのない
ものになっていることがなんと多いことか。訳者の責任じゃない、どうしようもない。
今まで海外作品は翻訳に頼っていたけど、これではだめなんでしょうかね?
そんなことも思いました。

92: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:56
04/03/10 08:24
「ほんとうのハウンド警部」
(トム・ストッパード/喜志哲雄訳/白水社「現代世界演劇7」)絶版
→1968年初演のわりあい新しいイギリスの戯曲。
これを読もうと思ったのは以前に読んだ「はじめての劇作」という本で
お薦め作品になっていたから。「『ほんとうのハウンド警部』は、劇作家が
避けるべきすべてのことをおもしろおかしく(そしてかなり意図的に)描いた
作品として、ぜひ一読することをお勧めしたい」(P130)。
幕が上がると、舞台後方に観客席がある。そこに劇評家がふたり座っている。
そのまえで(もちろん観客のまえでもある)繰り広げられるのが、ふざけたお芝居。
いきなり登場人物が自己紹介をしながら登場したり(w
しかし出演する女優をものにしようと狙っている劇評家はこのお芝居を激賞する。
演技論で口角あわをとばす。さて、舞台のうえの芝居がいったん幕を閉じる。
休憩中に劇評家がそのお目当ての女優と話していると、あらら、お芝居が始まってしまう。
まえの芝居で役者だったものがちゃっかり劇評家の椅子に座っているではないか。
声高に演技論を語っていた劇評家がいざ舞台に立つと大根役者であるというアイロニー。
けっきょく劇評家はなにもできずにみじめに殺されてしまう――。
「不条理劇」と呼ばれる演劇です。
考えさせられる。私たちはテレビで見るニュースに劇評家よろしくいろいろと注文をつける。
代議士の謝罪を見たら芝居がかりすぎだの、浅田農産会長の自殺を見たら演技が下手だの。
が、果たしてどうか。いざ自分が舞台に立つ羽目に陥ったら……。
舞台に立ちたくても立てない役者志望に、強引に舞台に引っ張りあげられる一般人。
げに恐ろしきは演出者かな、神という名の。

93: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:57
04/03/10 08:54
「楡の木陰の欲望」(オニール/井上宗次訳/岩波文庫)品切れ
→1924年初演のアメリカ演劇の古典的作品。
オニールは「アメリカ演劇の父」とも呼ばれる。これを読んでわかる、
あー、確かにストリンドベリからテネシー・ウィリアムズへの橋渡しをしていると。
傑作。ひさびさに血が沸騰するような戯曲。物語の下敷きにしているのは、
ギリシア悲劇「ヒッポリュトス」。ギリシア悲劇的かつ近親相姦的な暗さがある。
中上健次の小説に非常によく似た雰囲気をもつ。中上はオニールなど読んでいないはずだけど。
じめーっとした女の子宮のなかで終始する残忍な欲望の劇です。
しかし読了後にその子宮から言葉にできない何かが生まれるのは確か。
この現象をカタルシスというのでしょうか。
カタルシスのない不条理劇よりこちらのほうが好きですわたしは。

いま気づいた。
ギリシア悲劇の「ヒッポリュトス」に「メディア」を混ぜたのが「楡の木陰の欲望」か。
このスレは私的備忘録的な意味合いもあるので、つけたして書いておきます。

ストリンドベリ「死の舞踏」を超えるかもしれない大傑作です。
比較的入手しやすい&薄い&登場人物が少ない=読みやすいので機会があればぜひどーぞ。

94: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:58
04/03/18 18:47
「奇妙な幕間狂言」(オニール/井上宗次・石田英二訳/岩波文庫)品切れ
→戯曲。旧仮名&旧字体&とにかく長いため、読むのに三日を要した。
まともに上演したら6時間以上かかるらしい。ハムレットで3時間ちょっとだから、
これがどれだけ長いかわかってくださるはずです。長くなったのには理由がある。
本作品はオニールのきわめて実験的な戯曲だからです。さて、問題をだします。
戯曲と小説のちがいは何か? 答え。心理描写があるかないか、です。
そこでオニールさんは考えます。なんで心理を扱った戯曲はないのかと。
おそらくフロイトなんかに影響を受けたのでしょう。
用いた方法は古臭くて「傍白」。シェイクスピア劇の登場人物がやっているあれ。
自分の考えていることを観客に向かってしゃべる、が、相手には聞こえないというお約束。
たとえば相手向かって「愛してる」とまず言う。それから観客のほうを向いて
「ほんとは大嫌い、早く死ね」などと言ったりする。
これを延々と続けていくわけです。はっきり言って心理小説ですよこれは。
内容はそこそこおもしろい。当時、アメリカでヒットしたのもわかる。
要約すると、女の一生かな。娘は女となり、妻となり、母となり、姑となるもの。
でもこの戯曲の主人公ニーナさんはそんなのいやだと主張するわけです。
暖かい家庭の妻でありながら夫以外の男と愛し合う女でありたい、
常に燃えるこころを持つ女でありながら息子から愛される母になりたい。
みんなあたしを愛して! と大声で叫び行動する女性の25年にわたる歴史です。

95: 美香 5qBZxQnw:04/06/28 23:59
04/03/18 19:02
「毛猿」(オニール/倉橋健訳/「ノーベル賞文学全集20」主婦の友社)絶版
→戯曲。ブルーカラーの悲哀ってやつですかね(薄ら笑い
主人公は屈強な船人夫。このころの船って石炭をたえずくべながら動かしていたらしい。
で、船人夫のヤンクは生粋の肉体労働者、知能はゼロ、まあ猿と変わらないと
タイトルは示唆しているのでしょうか(w でも本人は幸福なわけです。
バカは幸せですよいつの時代だって。ヤンクはこの船でいちばん偉いのは
自分だと誇っているわけです、自分がいなかったらこの船は動かないのだからと。
そんなヤンクの夢を壊すのが船会社社長のお嬢さん。
私的社会科見学とばかりにヤンクを見にきて卒倒するわけです、獣と叫びながら。
罪なことをしますねまったく。ヤンクは怒りにかられて金持ちを襲撃したり、
共産党系の団体に入ろうとしたりしますが何もかもうまくいかない。ダメなやつはダメ。
ラストシーンは動物園です。毛猿のオリのまえにたたずむヤンク。
どっちが人間でどっちが猿か、オリに入れられているははたしてどっちか。
おお友よと思ったのかはわかりませんがヤンクは毛猿をオリからだしてやります。
毛猿はヤンクを力任せにだきしめて殺してしまう。
あっはっは。楽しいですね、あはははは。笑いましょうよ。
タイトルの下に喜劇と書いてあるから、笑えばいいんですって。あはは、あはは、楽しいな。

「古代ギリシア・ローマ演劇」(ピエール・グリマル/小苅米ケン訳/白水社文庫クセジュ)絶版
→ギリシア悲劇、アリストパネスまではわかっているけど、それよりあと、
中心がローマに移ってからの演劇について知りたかったのでこれを読む。
プラウトゥス、テレンティウスやセネカ。だれもこのへんは読んでいなさそうだから、
いざ衰退スレとかで論争になったらここらあたりの名前をだしてびびらそうと(w
なんて不純な動機の読書でしょう。でもこれ薄いからすぐ読めるんじゃないかと。
結果。よくわかんない。入門書なら猿にもわからせるくらいの意気込みで書けよピエール!
フランス人は嫌いだどいつもこいつも。

96: 美香 5qBZxQnw:04/06/29 00:00
04/03/20 15:32
「喪服の似合うエレクトラ」
(オニール/菅泰男訳/「ノーベル賞文学全集20」主婦の友社)絶版
→アメリカ演劇の最高傑作と称される長編戯曲。
昨年、イギリス(かな?)で再演されてリバイバル賞を取ったとか。
打ちのめされた。今までわたしが読んだ戯曲の中でもっとも劇的な迫力をもつ。
上演すると7、8時間はかかるというが、その長さはまったく気にならなかった。
とにかくおもしろくて、先が知りたくて、異常な興奮状態で一気に読みきった。
興奮とわたしは書いた。それは神と対峙するかのような興奮であった。
オニールはいう。「単なる人間対人間の関係を描くことには興味がない。
私を常に刺激するものは、神と人間との関係以外のなにものでもないのだ」。
戯曲を読むのは、小説を読むよりもはるかに楽しいと本作品で確信した。
それが真に優れた戯曲であれば。
というのも小説を読むという行為は、その作者と始終向き合っているようなものである。
作者の主張、作者の視線、作者の分析――。息詰まる。窮屈である。
が、戯曲はどうか。それが真実の傑作であれば、そこに作者の主張などない。
シェイクスピアに主張したいことなどあったかと考えてみればよい。
優れた戯曲では、作者の思惑など気にせず人間が自由に動きまわる。
そうわたしたちが神のまえでそうしている、まさにそれと同じ、
いや、それ以上の躍動感をもって。
優れた戯曲を読み進むうちに、神と対峙しているような興奮を味わえるゆえんである。
この入手しにくい戯曲を読むことになったのはほんの偶然からである。
その偶然に感謝したい。

97: 美香 5qBZxQnw:04/06/29 00:01
04/03/20 17:08
「夜への長い旅路」(オニール/沼沢洽治訳/「近代劇集」筑摩書房)
→オニール自身の家族を題材にした長編戯曲。「喪服の似合うエレクトラ」ではなく、
こちらをオニールの(しいてはアメリカ演劇界の)最高傑作と推す人も少なくない。
息子への影響を考えて、生前は公開を許されなかったといういわくつきの家庭劇。
なぜ優れた劇に家庭劇が多いのか。ギリシア悲劇のたいがいが家族をテーマにしたものである。
答えはニュースを見ればすぐにわかる。親殺し、子殺し、配偶者殺害が
報道されない日などめずらしいくらいでは? というのも家族という「場」において、
もっとも多種にわたる(愛憎悲喜)、そして大量の感情が交錯するからである。
葛藤を描くのが劇である。優れた家庭劇が多いのも当然である。
本作品は家庭劇の最高傑作。愛情と憎悪がおなじコインの裏表だということが、
じつにうまく描かれている。そしてなんと痛々しいことか。
自らの傷、手術痕の縫い糸を無理やりこじあけ、内臓から何まですべて
あからさまにしてしまったような――そんな凄惨な劇です。
なんのために? 人間は美しいということを証明するために。
それでも、それだから、人間は美しい。オニールは「血と涙で」これを書いたという。
不幸に固執しつづけたオニールはストリンドベリの以下の人生観に共感を寄せていたという。
「私の幸福は他人を不幸にする。他人の幸福は私を不幸にする」。
(記憶で書いたから正確じゃないかもしれない。どこで読んだんだっけなと
今1時間かけてオニール関係のページを探したけれども見つからず。悔しいです)

98: 美香 5qBZxQnw:04/06/29 00:02
04/03/20 17:37
「ドラマトゥルギイ研究」(内村直也/白水社)絶版
→50年近くもまえに書かれたドラマ論。どうやったらおもしろいドラマを書けるのか。
これがスタート地点。では、おもしろいドラマはどのように書かれてきたのかと話を進める。
研究なんてたいそうなタイトルがついているけど、そんな大それたものではない。
「ドラマトゥルギイ随想」くらいがちょうどいいのではと皮肉りたくもなる。
この時代にしては実にわかりやすい文章なのは感心。だけど、べつに難しいことを
わかりやすく書いているわけではない。簡単なことをそのまま書いているだけ。
一言でいうなら「ぬるい」ってやつですかね。でも、まあ、この本にでてきた
戯曲ぐらいはたいがい読んでいる(少なくとも名前は知っている)自分に感動。そのくらい。

「演劇論講座5 戯曲論」(汐文社)絶版
→読んだのは木下順二の「戯曲論史1ギリシア悲劇シェイクスピアを中心として」だけ。
ほら大学の教授とかって本の一部しか読まないっていうじゃない。
テレビで上野千鶴子がそう言っていたのかな。それを真似してみた。
まあ、300円で買ったし、ほかの著者は聞いたことがない名前ばかりだし。
木下順二さんは難しいことをわかりやすく説明する名人! もしかしたら、
わかったような気にさせる名人なのかも。いざ自分で考えようとしたとたん、
わからなくなるから。まあ、それはおいて、テーマはプチ演劇史。
ギリシア悲劇の誕生からローマ劇の衰退、暗黒の中世から、ルネサンスのフランス古典劇、
エリザベス朝のシェイクスピアまで、すらすらすらーり説明してくれました。
なんかわかったような気になっちゃったもんね。あたまいいのかなあたし。

99: 美香 5qBZxQnw:04/06/29 00:04
04/03/23 09:11
「危機一髪」(ソートン・ワイルダー/水谷八也訳/新樹社)
→アメリカ産の戯曲。1942年初演。アメリカ演劇史ではオニールとウィリアムズ
のあいだで忘れ去られているという感じらしい。ワイルダーはいぜん「わが町」を
読んでいたく感動した記憶があるから楽しみにしていたのですが……。
実験的な作品。初演時のこと、三幕劇なのだが、第一幕が終わったころに大量の観客が帰り、
第二幕終了時にも同様、第三幕がはじまったころにはもうほとんど観客がいなかったらしい。
わたしからすると、この最後まで残っていた客が許せない、その自己欺瞞が。
あたくしはね、ちょっと知的ざーますから、この難解な演劇もわかるんでございますのよ、
おほほほほ。という感じに、この作品をおもしろいと感じることのできる自分はすごい、
と観客に自慰的満足を与える作品。バカな批評家気取りくらいです、こんなものにだまされるのは。
断固、わたしは帰ったほうの観客を支持します。さて、どんな戯曲なのか。
新約旧約聖書、ギリシア神話、時事ネタなど大量のアナロジー(あてこすり!)を用いている。
テーマもでっかく「人類救済」ときたもんだ! 人間を象徴するアントロバスなる男が
ノアの箱舟に乗ったり、なんやかんやします。……わたしにゃよくわからん。
で、この翻訳者の水谷さんはわかるらしい。わかる自分はすごいと言いたいのかどうかは
知らないけど、例によって大量の注釈。これは旧約聖書からの影響で、うんたらかんたら。
しまいにはこんな注釈までつける。「ここはおもしろい表現である」。
なんでたかが翻訳者に「ここで笑いなさい」と指示されなきゃならないの……。
ほんと参っちゃう。

100: 美香 5qBZxQnw:04/06/29 00:06
04/03/23 10:09
>>99名前を間違えた、正しくは「ソーントン・ワイルダー」。

「子供の時間」(リリアン・ヘルマン/小池美佐子訳/新水社)
→アメリカ産の戯曲。1934年初演。著者は女流劇作家、のちに回想録を出版。
ふつうの劇です。リアリズム演劇。ただテーマがちょっと(この時代には)特別。
同性愛、レズです。たぶんそのせいで当時、ヒットしたのだと思う。
現在まで残っている理由もそこらへんにあるのではないかな。まあ、最初に書いた
ひとの特権ですからそれはかまわない。戯曲としてはごくふつう。
ちょっとまとまりがないかなと思う程度。仲の良い女教師がふたりいます。
思春期特有の意地の悪い娘(生徒)に同性愛といううわさを立てられ自殺する。
その過程がそこそこ劇的に描かれています、退屈させない程度に。
実際にアイルランドで起こった事件を元にして書いたらしい。
だから著者がレズだとかいうわけではない。

「真夜中のパーティ」(マート・クローリィ/青井陽治訳/劇書房)
→アメリカ産の戯曲。1968年初演。ゲイ演劇の先駆けとなった記念碑的な作品。
ニューヨークには「性的逸脱を描く作品の上演を禁止する条例」(1927〜1967年)
というのがあったらしい。そのうえ当時はゲイというものは人非人の扱い。
だからこの劇の上演はとてもショッキングだったとのこと。
結果、大当たり。アメリカンドリーム! この劇に出たマイナーな役者さんは
全員メジャーになり、おなじメンバーで映画まで作られたらしい。
同性愛なんて飽食気味の現代の目からこの戯曲を見たらそれほどのものでもない。
ホモ7人が誕生日のパーティをしているところにヘテロがひとりまぎれこむ。
最後にはこのヘテロもホモに目覚めましたとさ(w 勝手にやってちょーだいな。
ホモか。大学時代のクラスコンパだったかな。話したこともない男がいきなり
わたしの横にきて、悪酔いしたのか泣きながら男に犯された過去を告白してくれた
のを思い出した。美少年だった。変なひとをひきつける電波がむかしからあるわたし……。
追記)ブックオフ百円本です。ありがとう、ブックオフ♪

「多酒彩々 グラスに映った160の人生」(サントリー不易研究所・編/たる出版)
→サントリーが公募した「楽しい酒・心に残る酒」のエッセイ、その優秀作を
160個集めたもの。素人の気取った(!)文章というのはダメね、ほんと。
なんであんな変に気取るんだろう。国語教育の弊害じゃないのかしらん。
しゃべるように書けばいいのに。
なーんて、最初に文句をつけてみたけどなかなか悪くないぞこの本。
そんなことが気になるのはしらふで読もうとするからなのだ。
ほどよく酔っ払ってから読むと、ほろりと来る。泣いちゃったよ恥ずかしいけど。
これもブックオフ百円本。百円で本が読めるんだから日本は文化大国です。


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