【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】
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【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】
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1:
見習い筆騎士('-'*)
◆
56J2s4XA
:05/08/06 11:49 ID:E1USl4sQ
ということで別スレ建てさせてもらいました。
1部の24章までは以下のURLよりご覧いただけます。
http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1100605267/7-106
何かご意見がございましたらその都度レスしていただけると幸いです。
まだ書き手としては本当に初心者なので、ご指摘は特にありがたくい頂戴したいと思います。
〜今までのあらすじ〜
ベルン動乱から4年、平和に向かって歩んでいたエレブ大陸で再びベルンが戦争を起こす。
その首謀者は女王ギネヴィア。兄ゼフィールの意志を継ぎ、世界を統合しようと企む。
その過程でロイの恋人シャニーがロイをかばって事実上戦死するが、竜族伝説の聖王ナーガの力によって復活を遂げる。
そしてエレブ大陸とどこかで繋がるという、別世界から来た神竜族クリスによって衝撃の事実を告げられる。
ギネヴィアは『ハーフ』と呼ばれる人間と竜族の混血の種族の一人に体を奪われている、と。その乗り移った目的はエレブ大陸の支配。
彼らは別世界では迫害され、こちらの世界に自分達の国を作ろうと乗り込んできたのであった。
ロイ達は大陸内で唯一ベルンの侵攻のないナバタの里から、エトルリア、イリアへと進軍していくのであった。
2:
24章:決別のノクターン・後編
:05/08/06 17:42 ID:E1USl4sQ
生家へと急ぐシャニー。あの会話が聞かれていたとなれば、アリスの身が危ない。
大好きな姉が、自らの命を投げ打ってまで、自分に託した皇女。絶対に守らなければ。
また守れなかった・・・。義兄だけでなく、幼い自分を自らの命を張って守り育ててくれた、大好きな姉までも・・・。今でも涙が止まらない。その涙は極寒の中で凍りついた。しかし、悩んでいる時間はない。姉の言葉を何度も思い出し、自分を戒めた。
あたしの家は、エデッサより南に行ったところの小さな村にある。代々天馬騎士の家系だったあたし達だけど、騎士だからと言って貴族というわけじゃない。とっても貧しくて、幼い頃はティトお姉ちゃんとスープに入っている具の多い少ないでよく喧嘩してたっけ。
「あー! お姉ちゃんのほうがお芋多くてずるい!」
「何言ってるのよ。あなたの肉のほうが大きいじゃないの!」
「ほらほら、二人とも喧嘩しないの。私の分も少し上げるから、ね?」
村には同じ天馬騎士を親に持つ子供がいっぱいいた。その一人がルシャナだった。お互い親を傭兵で亡くし、ティトお姉ちゃんが天馬騎士の修行に出てからは、寝食を共にしてどんな時もがんばってきた。
そのルシャナも、本当は自分の事を酷く憎んでいたんだ・・・。あたしはそんなルシャナの気持ちを全く考えていなかった。団員の気持ちも読み取れず、大切な人ひとりも守ることが出来ないなんて・・・。
でも、だからって落ち込んでいられない。アリスだけは・・・アリスだけは命に換えても守り通さなければ。義兄ちゃんにも、お姉ちゃんにも、そして、ルシャナにも合わせる顔がないよ。
村に着いた。吹雪の中誰も外にはいない。でも、あたしが傭兵に出てから全然様子は変わってなかった。
すごく懐かしい。自分の家の前に着くと、幼かった頃の日々の思い出が一気にこみ上げてきた。
「ねー、お姉ちゃん、遊ぼうよぅ。」
「私は練習で忙しいの。それよりあなた、学問所の宿題はやったの?まさかまたやらないで行くつもりじゃないでしょうね?」
「ぎくっ・・・。お姉ちゃん頭良いんだし、やってよぉ、ね??」
「自分でやらなければ意味がないでしょう?! どうしてそうあなたは勉強嫌いなの?」
「だってあたしはイリアNo.1の天馬騎士になるんだから勉強なんて出来なくたっていいもん。」
「あのねぇ・・・。頭悪い騎士は役に立たないのよ!」
「イリアNo.1になりたいなら頭もよくないとね。強いだけではナンバーワンにはなれないのよ?
シャニー。私も手伝うから一緒にやりましょう。ね?」
「うん! あたしがんばる! お姉ちゃん大好き!」
・・・いつでもユーノお姉ちゃんは優しかったな・・・。あれ以来あたしは欠かさず勉強した。
勉強していると、ユーノお姉ちゃんがなでてくれたから・・・。・・・!感傷に耽ってる場合じゃない。
シャニーは急いで家の中に入った。もう何年も帰ってきていない為か、中はホコリだらけでかび臭かった。
「アリス!? アリス!どこ?!」
「あ、シャニーお姉ちゃん。どーしたの?」
「・・・良かった・・・無事で。」
シャニーはアリスを抱き、そして頭をなでてやった。かつて、ユーノが自分にしてくれたように。
「ねぇお姉ちゃん。お母さんは? ルシャナは?」
「・・・。」
アリスの本当に純粋無垢な笑顔を見ると、また涙が溢れてきて止まらなくなった。シャニーはアリスにユーノの悲劇を伝える事が出来ず、ただ強く抱くことしか出来なかった。
どのくらいそうしていただろう。ブリザードが止んでいた。気持ちを整理してアリスに声をかける。
「よし、アリス。皆のところに帰るよ。あなたぐらいなら抱いても飛べるだろうから。」
アリスの手を引いて家を出ようとした途端、外で凄まじい爆音がした。
「な、なに?!」
シャニーは慌てて部屋に戻り、窓から様子を見る。すると、村の入り口に近い家々に火矢を撃ち込んでいるベルン兵の姿が見えた。その後ろにいるのは・・・マチルダだ!
「やっぱりあの会話がマチルダに聞かれてしまっていたか・・・。ちくしょー、どうすれば・・・。このままここにいても村の皆に迷惑をかけるだけだし・・・。」
村の入り口付近は地獄絵図になった。ベルン軍は逃げ惑う人々へ迷うことなく攻撃を加える。武器も持たない村人達は、その凶行の前に無残にも倒れていく。
「シャニー・フライヤー!出て来い! 貴様がここにいることは分かっている!」
とうとう自分達の家にも火が放たれた。自分達の思い出がいっぱいに詰まった家が、今業火に包まれている。シャニーは呆然としつつも、アリスを村の一番奥にある礼拝堂に隠れさせ、ベルン軍の前に出た。
3:
手強い名無しさん
:05/08/06 17:43 ID:E1USl4sQ
「ここにいる! だからこれ以上の村への攻撃をやめて!」
「ふふっ、やっぱりここにいましたね。あなたは騎士道に外れた不意打ちで我らの同志を殺しました。
よってあなたにはその罪を償ってもらいましょう。」
地面に突如出現した魔法陣から、凄まじい光が溢れる。そこから現れたのは、竜殿で対峙したときと同じ竜だった。
「ふふ、あなたにその竜を殺すことが出来ますか?」
竜は迷うことなくシャニーを襲ってきた。竜が暴れれば、それだけ村は壊滅する。今のシャニーにとっては全く相手にならない相手だ。シャニーは得意の剣技と魔法で一気に竜を撃破する。竜が倒れ、また村が瓦礫と化した。
「ここでこれ以上剣を交えたくない! 力を持たない民を攻撃するなんて、あなたこそ騎士の道に外れている!」
「ふふっ無力な劣悪種がどうなろうと私には関係ありませんわ。もっとも、実験対象が減りすぎては困りますから、これ以上の攻撃はしませんよ、安心してください。」
「こ、この・・・っ。」
「うふふ。それより、あなたが殺したその竜、もう一度良く見てみたら如何です?」
「なに?」
シャニーが倒れた竜に目を向ける。すると、見る見るうちに人の姿に戻っていくではないか。
先ほどの竜は、例の竜石によって無理やり竜化させられていた人間だったのである。そして、その竜化させられていた人の正体を見た時、シャニーは愕然とした。
「う、嘘だ・・・そんな・・・そんなっ。」
なんと、その正体はユーノだった。急所を狙われもはや虫の息、助かる余地はなかった。
「あはは。なんてあなたは愚かなのでしょう! 一番慕っていた姉をそうと気付かず、自分の手で殺すとはね! これは最高に皮肉が効いていますね! あなたには丁度良い罰ですよ! 」
マチルダは冷笑しながらワープ術で部下と共に消えた。
「お姉ちゃん! しっかりして! ごめんね、あたし、お姉ちゃんだと気付かずに・・・。」
「うぅ・・・。シャニー・・・。ありが・・とう・・・。」
「え・・・?」
「私を・・・止めてくれて・・ありが・・とう。もう・・・泣かない・・・の。」
ユーノは震える手でシャニーの涙をぬぐい、頭を撫でてやった。
「でもぉ! あたしのせいで、お姉ちゃんが・・・。ごめんね。あたし、守るどころか・・・お姉ちゃんを手にかけてしまうなんて・・・あたし・・・あたし・・・っ」
「いいえ・・・。あなたのおかげで・・・民への被害を・・・最低限に抑えられたわ・・・。
本当に・・・あなたには・・感謝しているの・・。その調子で・・アリスを・・イリアを・・・。」
シャニーを撫でていたユーノの手が地面に力なく落ちた。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん・・・っ。うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
シャニーが姉の死に泣き崩れていると、周りを村人達が取り囲んだ。
「てめぇのせいで俺の家族が・・・っ。どうしてくれるんだ!」
「そうだ! お前みたいな孤児が帰ってこなければ俺の嫁も死ぬことはなかった!」
「何が蒼髪の天使だい! あんたは蒼髪の悪魔だよ! あたしの息子を返しとくれよ!」
「お前のせいで俺の生活めちゃくちゃだ! この疫病神め! そうか・・・てめぇは疫病神に仕えている天使なんだな?! さっさとくたばれ!」
「そんな・・・皆酷いよ・・・。」
今まで自分に優しかった村人が、シャニーを罵倒する。そして、村人達は最後にこう言い放った。
「お前は村追放だ! もう二度と帰ってくるな! この悪魔!」
「・・・みんな・・・ごめんね・・・・。」
ユーノを弔ってから、アリスを連れて村を出る。ユーノの形見のサークレットを身に着けて。
「ねぇ、お姉ちゃん。何で泣いているの? 何で皆怖い顔をしているの? お母さんはどこにいるの?
ねぇねぇ、お姉ちゃん!」
シャニーはアリスを強く抱き、ロイ達と合流すべくエデッサに向かって羽ばたいた。
故郷から何もかも失って、シャニーはただ泣くしかなかった。何故姉がこのように泣き崩れているのか、まだ幼いアリスにはこのとき理解できなかった。
4:
25章:イリアを結ぶ絆
:05/08/07 15:11 ID:E1USl4sQ
エデッサはまだ吹雪の中であった。王都の到着したロイ達は、前の作戦通り一気にたたみかけた。
「視界が悪いから深追いはするな! 隊列を乱しては危険だ!」
流石の竜騎士も、飛竜に乗れなければ槍歩兵に毛が生えた程度の力しか出せない。ディークの、そしてルトガーの剣が一気に敵を切り崩していく。
「へっ、ちょろいもんだぜ。だが、この環境を得意とするイリア騎士団がこの程度の戦力に苦戦したという事は・・・。」
「ああ、それだけマチルダ将軍の実力が高いという事だ。みんな! 気を引き締めて一気に城まで攻めあがるぞ!」
「よし。目標、ベルン軍敵竜騎士。撃ちかた! はじめ!」
ダグラスの号令と共に放たれる魔道士達の魔法。詠唱の完了した者を横一列に並ばせて一気に放つ。
無数の魔法がベルン兵を襲う。これを避ける事は、至難の業であり、吹雪の中では不可能に近かった。
「ダグラス殿! 後衛の指揮は任せました。我々で城に攻め上がります!」
「うむ、頼んだ。我々も貴殿をフォローしようぞ。」
「ティトさん。事前に手に入れた情報では、騎士団は既に城へ攻撃を開始しているようだ。騎士団との接触は、我々がもっと城に近づいてからにしてくれ。」
「はい。」
そこへ空中から誰かが飛んでくるのがティトには見えた。あれは・・・シャニーだ。
「シャニー・・・お帰り。心配したのよ。全くあなた一人で行動するなんて無茶・・・。」
そこまで言ってティトは言葉を失った。シャニーはまるで抜け殻のように蒼白い顔をして、表情もなくなっていたからである。いつものあのシャニーの面影は全くなくなっていた。
「ただいま・・・。ごめんね。心配かけて。」
「シャニー! あぁ、よかった。無茶をしたら絶交だって約束したじゃないか。・・・心配させて・・・。」
「ロイ・・・。ロイ・・・。うわぁぁぁぁん!」
シャニーはアリスをおろし、ロイに泣きついた。そして、事の次第を全て話した。
「な、なんだって。それは・・・、辛い思いをしたね・・・。大丈夫、君には僕が付いてる。そんな顔しないで。ユーノ様だってそんな顔をすることは望んでいないよ。」
「もう・・・あたしは・・・ダメだよ。・・・疲れたよ・・・。」
そういって後衛陣の後ろにいる輸送隊の陣に下がっていった。
「・・・やはり、相当ショックを受けているね。シャニーは人に嫌われる事にとても弱い子なんだ。
なんとか力になってやらないと。」
ディークが武器の補給がてら輸送隊のテントに戻る。
そこにはシャニーがいた。
「ねぇ、お姉ちゃん!遊ぼうよぅ。アリス暇だよー。ねぇねぇ!」
アリスが揺さぶっているが、シャニーはうつむいたまま座り込んでいた。その姿は何か近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「おい、シャニー。何ボーっとしてやがる。さっさと出撃の用意をしろ。」
「うん・・・。」
返事はするものの、やはりうつむいたままだった。今までにないほど落ち込んでいた。
「お前が辛いのはわかるけどな。今お前ががんばらなかったら誰がイリアを導いていくんだ?」
「あたしの事なんか誰も・・・信用なんかしてないよ。表面的には信じてくれてるけどさ、本当のところは・・・。ルシャナも、故郷の村の人たちも・・・。騎士団の人たちだって・・・。」
「あのなぁ。気持ちはわからなくはないが、それはいくらなんでも考えすぎだろ。」
「ディークさんだって! あたしの事、本当は足手まといだっておも・・・!?」
ディークがシャニーをぶった。
「お前・・・っ。もういい! 好きにしろ!」
ディークは傍にあったバケツをおもいっきり蹴り飛ばしながら外へ出て行った。
・・・シャニー・・・。マチルダの術中にはまるなよ。お前がここで潰れたらイリアも潰れるぞ・・・。
その頃城の城門付近では熾烈な攻防戦が繰り広げられていた。ベルン軍有利と思われた戦いだったが
士気を取り戻した騎士団の予想以上の抵抗に、苦戦を強いられていた。
「いけ! 一気に切り崩せ! 勝利は我らが手中にあり!」
ラルクの怒声に一気に突撃するイリア騎士団。士気は最高潮に達する。その勢いに、ベルン軍は押されつつあった。
「将軍! わが軍が押され始めています!」
「何を慌てているのです。落ち着きなさい。」
「し、しかし、奴らは既に外城門を突破し、内城門の突破も時間の問題となりつつあります!」
5:
手強い名無しさん
:05/08/07 15:13 ID:E1USl4sQ
「落ち着きなさい。では、あの策に出ましょうか。実力も兵数もこちらが上回っているのですから、士気を下げてしまえばよいのです。」
「総員! 俺に続け! 一気に内城門を突破するぞ!」
ラルクが手にしたマルテを高く掲げ、一気に士気を高める。その前に突如飛来した天馬騎士がラルクに襲い掛かった。ラルクが槍で攻撃を弾く。
「先輩。お久しぶり。」
「ルシャナ・・・。お前、何で裏切ったんだ。俺と約束したじゃないか。もう少しの辛抱だからそれまでは協力して持ちこたえよう、と。」
「私は先輩ほど甘ちゃんじゃないのよ。どうせ老い先短い王族に仕えているより、ベルンに部隊長として仕えたほうがお金にもなるしね。忠義とかタブーとか、何だかんだ言っても儲かるほうにつくわよ。慈善奉仕で騎士やってるわけじゃないんだからね。」
「本気で・・・言っているのか? 嘘だ。お前がそんな事言うわけがない!あのお前が、誰よりも后妃を尊敬していたお前が、后妃を裏切って・・・ベルンに付くなど・・・。」
「あぁ(笑) 后妃様ならもうこの世にはいないよ。」
「何だと!? あぁ・・・手遅れだったか・・・おのれマチルダ・・・。」
「違うよ。シャニーだよ。あいつが后妃を殺したのさ。お姉ちゃんお姉ちゃんって煩かったあの能無しが、自分の手で殺したんだよ。」
「何を言っている・・・。そんなわけがないだろ! シャニーがユーノ后妃を手にかけるなど!!」
「嘘じゃないわ。その証拠に、あいつは村の追放を受けて帰る場所をなくしてる。蒼髪の悪魔と蔑まれてね。・・・いい気味だわ。」
「お前、やっぱりおかしいぞ。シャニーともあんなに仲が良かったじゃないか。それにお前は早くシャニーに帰ってきて欲しいといっていた。何があったんだ!」
「何もないわ。今までは我慢していただけ。だってそう思わない? あんな頼りにならない甘ちゃんで、おまけに肝心な時にいないママゴト団長なんて必要ないのよ。あんた達もそう思わない?」
ルシャナはかつての部下達に向かってそう言い放った。
「私はそんな風には思いません! 私は団長が大好きです。確かにちょっとドジで、よく一騎突撃して陛下にも叱られていたました。けど、私達が任務に失敗してしょげていても、笑顔で次こそ頑張ろうって慰めてくれました。部下の失敗は自分が責任追及されるはずなのに・・・。」
「私も団長は大好きです。入団当初、私は落ちこぼれで周りから実力的に置いてかれていました。
一人で居残りして練習していたら、一緒に練習しようって誘ってくれて。色々教えてもらいました。
覚えが悪い私に嫌な顔一つせず何度も教えてくれたし、上達した時はまるで自分のことのように喜んでくれていました。私は・・・あの笑顔が大好きです。あの笑顔が見たくて、一生懸命練習しています。
上達すれば笑顔で褒めてくれるから・・・。」
「そうさ! 俺達は何度あの笑顔に助けられてきたことか。お前だってそう言ってたじゃないか!」
「・・・それは・・・そうだけど。」
「分かっているならなぜそこまで・・・っ。」
「だけどっ、笑顔だけじゃ何も出来ないじゃない! 笑っていれば勝てるの? 国を守れるの? 無理じゃない! ヘラヘラ笑ってるだけなら誰だって出来る! 団長には皆を統率する力と相応の実力が必要なのよ! それが・・・あいつにあると思っているの?」
「それは違うわよ。ルシャナ。」
そこに現れたのはティトだった。騎士団のみなは信じられないという表情を見せた後、歓喜の声をあげた。
「ティトさん! お久しぶりです! また会うことができるなんて光栄です!」
「お久しぶり。変わりないようね、ラルク。私のかつての部下が裏切りを働いたと聞いて、いてもたってもいられなくてね。」
「師匠・・・。あなたと再会するとは思ってもいませんでしたよ。故郷を見捨てて自分だけ幸せになりに行った・・・薄情な騎士・・。」
ティトは怒ることもなく冷静に対応した。それはルシャナに起こっている事情を知っているからこそであった。
「確かに・・・私はエトルリアへ行ったわ。薄情なのかもしれないわね。でも、シャニーはフェレに残ることもなく、イリアに残っていたじゃない。」
「薄情だなんて! ティトさんだって、結婚なされる本当に寸前までイリアで復興に力を注いでいたじゃないですか!」
「ありがとう、ラルク。それにねルシャナ、団長に必要なものは、腕力でも、技術でもないわ。」
「じゃあ何なんですか!」
6:
手強い名無しさん
:05/08/07 15:13 ID:E1USl4sQ
「必要なものはどんな時でも動じない心の強さと、団員を気遣う優しさ、そして決断力よ。あの子はまだ精神的に幼いところがあって決断力はまだまだ甘いかもしれない。でも、どんな時でも明るく振舞っているわ。
あの子の笑顔は周りを笑顔に変える不思議な力がある。あれは私も見習いたいと思っているほどよ。」
「でも、肝心なときにいない団長なんて!」
ティトはルシャナが動揺し始めていることに気づいていた。
「その間、あの子は死ぬ思いで戦っていたわ。・・・いや死んだかもね。あの子は自分を犠牲にしてロイ様を守った。守る対象は違えど、あの子はゼロット義兄さんの遺言を忠実に守ったわ。」
「・・・。」
「あなたも副団長だったのならわかるでしょう。互いを信頼しあうことを忘れたら、どんなに強くても
負けてしまうということを。」
もはやルシャナは何も言えなくなっていた。
「あなたとシャニーは本当にいいコンビだと思うわよ。お互いの足りないものを補い合ってる。
よく思い出してみて。あなたが傭兵の修行に出るまで、そして騎士団の副団長になってから、どうやって生きてきたかを。」
孤児だった自分。その思い出にはあまりいいものはない。でも、辛かったという気持ちはない。
傍にはいつもあいつがいたっけ・・・。勉強も悪戯も、食べるときも寝るときも、何をするにもいつもあいつと一緒で・・・。副団長になってからもずっとあいつと一緒だったな。・・・思えば団長になることをあいつに推したのは私だっけ。あんたのマヌケは私がカバーするからって。今思えば、私の人生はあいつがいなかったらどうなっていただろう・・・。お互いを補い合ってきたからこそ、今まで生きてこれたんだ。やっぱりあたしには、あいつが必要なんだ・・・!
とうとう、マチルダによってルシャナにかけられていた心のプロテクトが崩れた。それは皆の想いが、そしてルシャナの信じる心が、マチルダに打ち勝ったことを示していた。
「私は・・・みんなごめん! 本当にごめん・・・私は・・・。」
「ルシャナ、話は後よ。その気持ちを行動で示しなさい。」
「はい・・・!師匠、私がんばります。」
ティトは騎士団の皆に事の事情を話した。騎士団の皆はルシャナを責めることをしなかった。ルシャナもまた、団員に信頼されていたのである。
「本当にどこまでも使えない体でしたねぇ。所詮劣悪種ですが、もうすこし役立ってもらわないと困りますよ。まったく。」
「貴様! よくもルシャナを!よくも后妃様を!おのれ許さん!!」
「勘違いしないでくださいよ(笑) 后妃を殺したのは私ではありません。シャニー公女がその手で殺したんですよ。私は后妃に何も危害を加えていませんよ。」
「それは違う! あなたがユーノ様に竜石を使わなければそうはならなかった。あなたはシャニーに手がけさせて彼女を絶望に陥れようとしたんだ!」
ロイもラルクに加わる。二人とも自分の恋人を弄ばれ、マチルダに対する怒りは測りきれない。
「ふふっ、おバカさん達ねぇ。戦いはココで決まるのですよ。」
そういってマチルダは頭を指した。
「もはやあなたの命運もここまでだ! シャニーたちの心の痛み、その身で味わえ!」
「ふ、地上で這い蹲ることしかできないあなたたちが、私に何ができるというのです?
あなたたちは私の魔法の前にひれ伏すことしかできないのですよ。ははは!」
ルシャナはこの場面こそ私の出番といわんばかりに前に出ようとした。しかしその彼女の方を誰かの腕が掴んで引き止めた。
「う、うわ。なんでこんなところに山賊が!?」
「あん!? 誰が山賊だ! 俺の名はディーク。シャニーの知り合いだ。あんたはあいつと戦う前にひとつ大きな仕事がある。」
「え?なんです?(あいつ山賊と知り合いだなんて、いったいどういう友人関係してんのよ・・・。)」
「あいつはお前やそのほかいろいろな奴に裏切られたと思い込んで酷く落ち込んでいる。
今のあいつをいつものように戻す事は、多分あんたしかできない。あいつを・・・頼む。」
「・・・私のせいであいつが・・・。わかりました。任せてください!」
(シャニー・・・ごめんね。)ルシャナは天馬も使わず、走って後衛の陣まで戻っていた。
「なんで天馬に乗っていかねぇんだよ・・・。にしても、なんで俺は山賊と間違えられるんだ。畜生。」
7:
手強い名無しさん
:05/08/08 12:06 ID:E1USl4sQ
マチルダが羽織っていたマントを脱ぎ捨てる。その隠れていた背中から現れたものは純白の翼であった。
「さて、お遊びもここまでにして、そろそろ本題と行きましょうか。」
マチルダは槍を片手に空へ舞い上がった。その姿はまるで本当に天使のようであった。
「くそ、空中で飛び回られたんじゃ手も足も出ない!」
ラルクやクレインが飛び道具で応戦するが、ひらりひらりとかわされてしまう。
「おほほほ、無駄な事ですわよ。そんな物が当たるほど、私は鈍くありませんの。」
「目標、敵将マチルダ。総員撃ちかたはじめ!」
エトルリア兵達は一斉に、マチルダに向かって風の高位魔法エイルカリバーを放った。翼を持つ者に特効を与えるエイルカリバーなら、大きなダメージを与える事ができるはず。
「ふふ、なんですの?そのか弱い魔力は。そんな有るのか無いのかわからないような魔力では
いくら特攻を持ってしても、私を撃ち落す事などできませんよ。」
どうやら全く効いている様子がない。
「なんと・・・敵ながらできるな。」
「なに感心してるんだい! ティト! アタイと一緒にやるよ。」
クリスとティトが空中に出る。空中戦には空中戦で挑むしかない。
「おや、クリスじゃないの。まだ無駄な抵抗をしているのね。そのうち実験対象としてどうせ死ぬんだから、死に急がなくてもいいのに。」
「マチルダ・・・別名冷血の堕天使。神竜の力を用いて世界を混沌へと導く悪魔。今日こそは散っていった仲間への弔いをさせてもらう!」
クリスは握る鎌に力がこもった。今まで何人の同志が、マチルダの前に倒れてきたことか。神竜でもマチルダの持つ風の超魔法の前には容易に翼を引きちぎられた。神竜の血同士の戦いだが、特効魔法の前に、魔法への高耐性も歯が立たない。
クリスがマチルダに突撃する。詠唱さえ防いでしまえば魔法は撃てない。ティトも背後に回り込もうと天馬を巧みに操る。しかし、マチルダはさせんと言わんばかりにクリスを槍で払いのける。
「無駄よ。あなたの攻撃は見切っているわ。」
クリスはいつも以上に大振りしている。マチルダは嘲笑うかのように避ける。しかし、それが逆に油断を招いたのか、背後から迫っていたティトへの反応が遅れた。
「くっ!」
流石に直撃は免れたがわき腹をかすめた。
「小賢しいハエめ! 私の前に跪きなさい!」
マチルダは距離を置こうとしたティトに向かってエイルカリバーを放った。エトルリア兵のそれと同じ魔法だが、その魔力の違いは威力となって決定的な違いを見せつけた。
「ぎゃぁっ」
天馬の翼を捉えたその魔法が、無残にもそれを切り刻む。天馬が墜落し、ティトは空中に投げ出された。
「うぐっ。」
しかし流石疾風の天馬騎士と謳われたティトだ。受身を取り、衝撃を最小限に食い止めた。
「ティトっ、大丈夫か!」
クレインがすかさず近寄り、妻の無事を確認する。
「ええ、私は大丈夫。ごめんなさい、やっぱり足手まといだったかしら・・・。」
「いや、そんなことないよ。怪我をすれば当然そこを庇った行動をとる。庇えばどこかの隙が大きくなる。君は良くやったよ。後は後ろに下がっていなよ。」
「ほほほ、下級魔法とは言え、私の魔法を喰らって生きているとは、流石とでも言っておきましょうか。
しかし、今度はそうは行きませんよ。我が秘奥義をお受けなさい!」
「いけない!」
クリスは近づこうとしたが、既にマチルダの周りには強力な旋風が吹き荒れ、容易には近寄れない。
8:
手強い名無しさん
:05/08/08 12:07 ID:E1USl4sQ
「クリス! あなたも両親の元へ送ってあげますよ! セイクリッド・ブレス!!」
クリスを無数のエアブレイドが襲った。切り刻まれ、打ち上げられる。
く・・・なんて魔力だい・・・。いくらアタイが神竜の中ではそこまで抵抗がないとは言え、受け流しきれないなんて・・・。これが・・・アタイの親を殺した魔法なのか・・・!
クリスはあまり魔力関係は得意ではなかった。だからシャニーのあの魔力に驚き、羨ましがったのである。
切り刻まれ上空高く打ち上げられた挙句、クリスは猛烈な下降気流―神の息吹―で地面に叩き付けられた。
「ぐあっ!」
地面が凄まじい衝撃と砂煙を伴ってえぐられ、クリスが叩き付けられた場所は特にへこんでいる。
周りにいたロイたちも、ベルン兵も息を飲んでその場を見守った。それほど酷烈だった。
「ふふっ、どう?私の秘奥義の切れ味は。流石にあなたでも悲鳴をあげるのねぇ。」
クリスはアレンに抱き抱えられながら立ち上がった。翼はもうズタズタだ。やはり魔法耐性に抜きん出ていない自分では、同志の二の舞を踏んでしまうのか・・・。
「クリス!これ以上は危険だ。いったん下がれ!」
「ダメだっ。まだ・・・まだやれる!」
クリスはアレンを振りほどく。激痛に悲鳴を上げる翼に鞭打って再び空中に出た。
「あらあら、そんなに両親の元に行きたいの。ごめんなさいね。それじゃ今度は手抜かないから安心しなさい。」
あれで手を抜いていたのか!? 少々驚きながらもクリスはマチルダに向かって突撃していった。
その頃ルシャナは後衛の陣に戻り、テントの前に到着していた。上がった息を整えつつ、傷つけてしまった親友にどう話しかければよいか、その第一声を模索していた。そして意を決して中に入った。
中には本当に自分の知っているあのシャニーかと思うほど、背中の醸し出す雰囲気が違うシャニーが座り込んでいた。相手は自分に気付いていない。こちらも声をかけられなくなってしまった。
「あっ。ルシャナぁ。ねぇお姉ちゃん遊んでくれないし、ルシャナ遊んでよぅ。」
しばらく続いた沈黙を打ち破ったのはアリスだった。
(うわっ、アリス様ぁ・・・こんな時に(涙))
シャニーが後ろを振り向いた。その抜け殻のような表情に、ルシャナは親友に負わせた心の傷が如何に大きいか再確認した。
「ルシャナ・・・? ・・・あたしを殺しにきたの? もうあたし疲れたよ・・・。好きにしていいよ。」
「・・・シャニー。ごめん・・・本当にごめん! だからそんな顔しないで!お願いだから・・・。」
「え・・・?」
ルシャナはシャニーに全て話した。信じてくれとは言えない。信じてくれていた親友をどういう経緯であれ裏切り、傷つけた自分が信じてくれだなんて・・・言えない。
「ごめん。謝ってすむ事じゃないけど、本当にごめん!」
「もういいよ・・・。頭上げてよ。操られていたならルシャナが悪いわけじゃないよ。
よかった・・・。ルシャナに嫌われて、あたしどうしようかと思ってた。」
「でも、私は心の奥底ではあんたを憎んで、妬んでたんだ。だからマチルダに付け入られて・・・。
幼い頃からずっと一緒だったあんたを、知らず知らずのうちに・・・。私は自分が怖いよ。」
「ううん。ルシャナは悪くない。あたしだってルシャナを羨ましく思ったり、妬んだりした事はあったよ。・・・誰にだってそういう気持ちはあるんだと思う。それより大事な親友に漬け込んだあのマチルダとか言う将軍が許せない・・・っ。」
「私を・・・あんたが羨ましく思う? なんでさ。団員からの人気も地位も実力も顔は・・・私のほうが綺麗だけど。」
「あんたねぇ・・・(汗) ルシャナはあたしなんかよりずっとしっかりしてた。考え方も大人びててさ。
それに頭だっていい。経理とか全部押し付けててごめん。」
「そんなのいいよ! あんたはあたしにはない凄いものをいっぱい持ってる。」
9:
手強い名無しさん
:05/08/08 12:08 ID:E1USl4sQ
「例えば・・・?」
「私とあんたは二人で一人前。それを師匠から教えられたよ。それを憎んで恨んで酷い事言っちゃって、挙句には殺そうとした。もうあんたと仲良くやっていけない。そう思った。」
「大好きなルシャナをあたしが嫌うわけ無いじゃない。」
「そう、そうやって優しく許してくれた。あんたの強い心や優しさ、そして笑顔はホントに皆にとって宝物だったんだ。私はあんたみたいな強い心が無かった。だから漬け込まれた。」
「そ、そういわれると照れちゃうなぁ・・・。」
「照れること無いよ。ガサツでドジでマヌケでイビキがうるさくて、掃除がヘタで頭悪くて胸も小さいけど、やっぱりあんたは団長に適任者だったんだよ(笑)」
「がーっ! やっぱルシャナなんかだいっ嫌いだぁ!!」
シャニーがルシャナを追い掛け回す。そして捕まえてポコポコと頭をたたく。
「うわー。ごめん、ごめんってば! ホントの事言って!」
「がおーっ。」
もう二人とも笑っていた。互いの絆は、断ち切ることの出来ない強固なものだと、互いに再確認していた。
「さ、二人でマチルダを倒しに行こう!」
その頃クリスは追い詰められていた。もう誰が見ても、クリスに勝ち目がないことは明らかであった。
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「あなたも分からず屋ですね。あなたではこの私を倒すことなど出来ないと、これほど教えて差し上ているのに。」
「うるさいっ。あんたは・・・このアタイが倒す!」
「クリス!ダメだ!戻って来い!」
もうヨロヨロだ。飛ぶスピードも落ち、魔法を使わずとも槍で簡単に弾き飛ばされた。それでもクリスはアレンの声を無視して向かっていった。しかし、やはり吹き飛ばされてしまう。
「ぐぅ・・・。」
「あなたと遊ぶ事も飽きました。そろそろ大人しくなってもらいましょうか。」
マチルダが詠唱に入った。今度あの超魔法を受けたらクリスでも無事ではない。
「くそっ、司祭さん! クリスにライブをかけてやってくれ!」
「ダメです・・・! いくら遠距離回復の杖を用いても、あんな高さで戦われたら届きません・・・。」
ロイもアレンもただ見守る事しかできないことがたまらなく歯がゆかった。
「さぁ、今度は手加減しませんよ。お受けなさい!神の慈悲!」
自分に向かってあの超魔法が迫った。しかし、なぜかもう動けない。倒せないのか。自分では倒せないのか・・・。父さん、母さん、すまないね。アタイもそろそろそっちにいけるみたいだ。
しかし、クリスに直撃することはなかった。目を開けると、そこには妹分がいた。
「シャニー! あんた・・・!」
「へっ クリス、この程度の魔法でボロボロにされるなんてどうしたのよ!」
「う、うるさいねぇ! あんただって物理に対してはゼリーなクセに!」
「くっ、ナーガ・・・何故貴様がここにいる?! それに・・・何故貴様は私の魔法を受けても飛べるのだ??」
「へへ・・・。このお守りが目に入らぬか!」
そういってシャニーはデルフィ神の守りを見せ付けた。
「・・・味なまねを。私の超魔法も、流石にずば抜けた魔法防御力に加え特効防御の前では、涼風のようなものですか。しかし・・・。」
シャニーはクリスに回復魔法を唱えている。しかし、翼の傷は深く、なかなか治らない。
「あなたの弱点はクリスが教えてくれましたよ! 私の槍に貫かれるがいい!」
シャニーに向かってマチルダが持っている槍で突撃してきた。高魔力に加え高いすばやさと技量を持ち合わせたマチルダ。その牙がシャニーに向いていた。
10:
手強い名無しさん
:05/08/08 12:08 ID:E1USl4sQ
「おっと、そうはさせないよ!」
突然飛んできた手槍に、マチルダはバランスを崩して一旦距離を置いた。
「あなたは・・・先ほどの役立たずですか。あなたなんて相手にもなりませんよ。死にたくなければ早く帰りなさい。劣悪種の相手をする気もありません。」
「よくも私を操ってくれたわね!そのうえ大親友を私の手で傷つけさせるなんて、絶対に許せない。」
「そうだよ! 口が悪くて料理が下手で寝相が悪くて、力ばっかで当てるのヘタでスタイルも私より悪いけど、あたしにとってどんな宝物にも換えられない大親友を、よくも・・・っ。」
「あんただって口悪いじゃない!」
「べー、さっきのお返しだもん。」
「ムカツクやつー。」
「じゃれ合いはあの世でやっていただけます? あなた方は揃って私に殺される運命ですよ。」
「クリス、さっき教えた技、やるよ。ルシャナも準備はいいよね!?」
「もちろん。いつでもいけるよ!」
「無駄な足掻きを。何をしようとあなた達では倒せませんよ。
さぁ、今度こそ死んでもらいます。お受けなさい!セイクリッド・ブレス!」
シャニーが結界を張った。マチルダもその魔法防御の高さには焦っていた。殆ど効いていないからだ。
だからまずは槍でシャニーを貫いてから他の二人を始末しようと考えはじめた。
しかし、自らの放った魔法とシャニーの張った結界がぶつかりあう事で生じた衝撃波で前を直視できない。
気付くと、もう前には3人ともいない。
「どこへ行った?! 小賢しい!」
マチルダがやっとシャニーの姿を確認する。すかさずそちらに槍で突撃しようとした。が、
「ふたりとも、いっくよー!」
「おk!」
「ほいきた!」
気が付くと3人に囲まれている。マチルダはやっと状況を理解した。
「し、しまった!!」
「喰らえ!伝家の宝刀!トライアングルアターーーック!!!」
三本の弾丸と化した三人がマチルダを貫いた。そして、クリスの鎌がマチルダの片翼を削ぎ落とした。
「ぎゃあああぁぁぁっ」
耳を覆いたくなるほどの悲鳴を上げ、マチルダが墜落していく。
11:
手強い名無しさん
:05/08/08 12:09 ID:E1USl4sQ
「シャニー。トドメ。あの技で〆てやろう!」
二人はまた二手に分かれ弧を描いて旋回し再びマチルダに向かって突撃する。
「私達を滅茶苦茶にした罪をあがなえ!喰らえ血刀の十文字!ブラッディ・クロス!」
落下するマチルダを何度も二人が高速で交差しながら切り刻む。そして、シャニーの振るった剣撃が
マチルダの残った片翼も切り落とした。悲痛な悲鳴を上げ、マチルダはそのまま地面に叩き付けられた。
「ぐ、ぐぁ・・・。」
マチルダはもはや虫の息だ。3人が止めを刺すために地表に降りてきた。その時だった。
マチルダの横の突然何物かがワープで飛んできた。それは・・・
「ふぉふぉふぉ、お前さんがた、久しぶりじゃのぉ。あーあぁ、マチルダ、お前も油断しすぎじゃわい。
ほれ、さっさと帰るぞえ。急がんとぽっくりいっちまうぞえ。ふぉふぉふぉ。」
「待ちな!アゼリクス! マチルダをドコへ連れて行くつもりだい!」
「おぉ、クリス。また親のところに行き損ねたな。可愛そうに・・・。まぁ次ぎ合う時は優しいわしが連れてってやるからの。」
そういうとアゼリクスはマチルダをつれれてワープしてしまった。どうやら助けに入ったらしい。
「話をはぐらかすんじゃないよ! ・・・あいつ、今度会うときは命がないとおもいな・・・。」
「ふぉふぉふぉ、首を洗って待っておるよ。」
どこからともなくアゼリクスの声がした。将を失って、ベルン兵も士気は極端に低下し、投降する者も出始めた。
「勝ったんだね・・・私達。」
「うんうん、あたし達が勝ったんだよ。イリアを守ったんだ!」
「ルシャナ!・・・おかえり。」
ラルクがルシャナを迎え、抱いた。
「先輩、ただいま!」
シャニーが騎士団の皆に勝利を伝える。いつもの笑顔で。
「みんなーっあたしたちは勝ったんだよ! イリアはもう大丈夫だよ!」
騎士団の皆は歓喜した。それは勝った事に対してだけではない。団長のあの笑顔を再び見ることが出来た。その喜びに対してもだった。自分達の大好きな団長の、最も見たかった笑顔。それは戦いに疲れた騎士団員にとって、何より疲れを取る魔法だった。
「父さん・・・母さん・・・仇はとったよ・・・。」
クリスも空を見上げ、独り言を言った。その目は涙に溢れている。
「クリス、お疲れ様。」
アレンがクリスを抱いた。もう自分は一人じゃない。仇撃ちもした。クリスは幸せだった。
ディークとルトガーはいつも騒がしさを嫌い、輸送対に戻った。
「へ、よくやってくれたぜあの連中。」
「だな・・・。ところで、誰も突っ込まないから聞いていいか・・・?」
「あ、なんだよ。」
「首を洗って待っているとは、使い方がおかしくないか・・・?」
「(汗)別にそんなのどうでもいいだろ・・・。」
ブリザードは止み、冬期のイリアには珍しく空には、日が出ていた。その日の光のまぶしさは
まるで勝利を祝うかのように彼らを照らしていた。
12:
26章:過ちと憎しみと
:05/08/08 17:09 ID:E1USl4sQ
戦いから1週間がたった。今日も会議室では、国王も后妃も失い、これからのイリアはどうして行くのか、という話で持ちきりだった。
「あたしは、后妃様から遺言を託された。だからその遺言どおり、アリスが大きくなるまで世話をする。
でも、あたしはイリアには残れない。」
「どうしてですか団長! せっかく帰ってきてくださったのに。何故です!?」
「あたしは陛下からも遺言も託されている。そう、ロイを助けなさい、と。だからあたしは復旧が終ったらロイ達とベルンへ向かう。政治の基盤復旧には1年ぐらいかかるかもしれないからその間はイリアに留まるけどね。」
「そうですか・・・。でも、1年間はいてくださるんですよね。」
「だね。ロイもイリアを放っておく事はできないって言ってくれてるし。ダグラス様も隣国の危機には
我々も出来るだけのことはすると言ってくださった。」
「それはよかった。私も頑張らないとね。私のせいで后妃様が亡くなったようなものだから・・・。」
「そんなことないってば。それよりも、ルシャナ、あなたにお願いがあるんだ。」
「え?」
「あたしがベルンに発ったら、騎士団の団長、あんたが継承してくれない?」
「え!? ・・・どうして。」
「だって、本国にいることが出来ない幽霊団長なんて必要ないじゃない。それにあたしはこの戦いが終ったら・・・ロイと結婚しようと思っているんだ。結婚したらもうイリアに留まることはできないからね。お願い。」
「え!?・・・そうか。あんたはロイ様のところに行っちゃうんだね。わかった。あんたに頼まれたら断るわけには行かないね。」
「ありがとう。それじゃ、今日の会議はこれくらいにしようか。もう遅いし。」
シャニーは寄り道しないで部屋に帰った。
「わぁ! アリスちゃん、だめだめ! そんなことしたら危ないよ!」
「ぶー。ロイお兄ちゃんダメばっかり!」
部屋ではアリスがロイをおもちゃにしていた。物心付いたばかりにやんちゃ時だ。
「ただいま、ロイ。」
「あ、おかえりシャニー。お疲れ様。この子なんとしてよ。どうしようもないやんちゃぶりでほとほと手を焼いているよ。」
「ふふ。ごめんね。ロイだって疲れているのに世話任せちゃって。」
シャニーは鎧やマントを外して普段着に着替えた。剣や鎧がなければ、どこにでもいる普通の少女である。
「なんかこうしていると、あたし達子持ちの家族みたいだね〜。」
「そうだね。でも、それも近いうちに現実になるんだね。生まれてくる日が待ち遠しいよ。」
ロイがシャニーのお腹に耳を当てた。何も音はしない。
「あれ・・・?」
「もう、なにしてるのさ(笑) まだまだ全然先なんだから動くわけないじゃない。」
「それにしても、妊娠に気付かず戦地に赴いていたなんて・・・君らしいね。」
「どういう意味!? まぁいいや。よし、今日は子守に疲れたロイのために特製の手料理作ってあげる。」
「へぇー。お姉ちゃん料理できるんだ。」
「バカにしないで。ディーク傭兵団の台所を担っていたのはあたしなんだから。ディークさんったら
“料理も修行のうちの一つだろ? 料理の出来ない女はモテないぞ”とか言ってさ。ぜーんぶあたしに押し付けていたんだもん。」
「ははは・・・。でも君の手料理かぁ。何ヶ月ぶりだろうね。楽しみにしているよ。」
シャニーはふんふん鼻唄を歌いながら包丁を握っている。
(シャニー。君には剣より包丁を握っていて欲しいよ。いつまでも・・・。)
「お姉ちゃん、あたしも包丁やるー。」
「だめ! あ、こら! 危ないってば。もう、どうしてそう落ち着きがないのよ!
お淑やかじゃないとモテないんだぞ?」
ロイはこの久しぶりの団らんに心からくつろいでいた。いつまでもずっと、この恋人との温かな生活が続けば、どんなに幸せだろうか。しかし、明日からは今度はイリアの復旧に尽力を注がねばならない。
王族を殆ど失ったイリアでシャニーとアリスは国民の注目の的になる。妊娠しているシャニーにあまりストレスをかけられない。自分がシャニーを助けていかなければ・・・。
13:
手強い名無しさん
:05/08/08 17:11 ID:E1USl4sQ
しばらくアリスの子守に四苦八苦していると、いい匂いが漂ってきた。
「できたよー。あたし特製のシチュー、たーんと召し上がれ♪」
「おいしい・・・。おいしいよ、すごく。こんなにおいしいものを食べたのは初めてだよ。」
「えへへ、そう? エトルリアの王宮の出だされたご馳走よりおいしい?」
「そんなの比べ物にならないよ。シャニーって意外と家庭的なんだね。」
「あー、あたしをバカにしたな! いいもん、どうせあたしはガサツな女ですよーだ、ぷんぷん。
もういいもん。ロイにはおかわりあげないもん!」
「わぁ、ごめんって。そんなつもり言ったわけじゃないって(涙)」
二人で笑いながら食べた。幸せな時間がゆったり流れる。シャニーは生きてて良かったと実感した。
「あ、これ、ママの味」
アリスがそう言った。そういった途端、シャニーがさじを止めた。
「うん、そうだよ。このシチューは、お姉ちゃんから作り方を教えてもらったんだもの・・・。
よかった。お姉ちゃんの教えたとおりに、あたしは作れているんだね・・・。」
「シャニー・・・。」
「ごめん。ちょっと席外すね。」
そう言ってシャニーは部屋を出て行った。ロイには見えてしまった。シャニーの目じりに光るものを。
気丈に明るく振舞っていても、やはりショックはまだ癒えていない。
自分も彼女の笑顔にどれだけ癒されてきたか。今度は彼女の心の傷を、自分が癒してやりたい。
それが、これから一生を共にする自分の最初の務めだとロイは思った。
深夜、ルシャナが部屋の窓から外を眺めていた。私が団長・・・。皆は何も異論を投じなかったけど
本当のところは嫌じゃないのかな・・・。経緯はどうであれ私は皆を裏切った身だし。
あいつは・・・それが分かっててあえて私を・・・。頑張るよ、私。あんたの期待に応えて、みんなの信頼を回復して、立派な騎士団に復旧するよ。
遅いしもう部屋に戻ろうろ思った時、どこからか聞きなれた歌声が聞こえてきた。
その歌声は聞きなれた中にも綺麗で、どこか寂しさを伴った何かひきつけられるような声だった。
ルシャナは足と耳の赴くまま、その歌声のところに歩いていった。
『この大空に 翼を広げ 飛んでゆきたいよ。悲しみのない 自由な空へ 翼はためかせ 行きたい』
それは、ユーノ后妃がよく歌っていた歌だった。ルシャナはその歌声の主を見つけた。
「シャニー!? どうしてこんなところにいるの?」
そこはシャニーの部屋からずいぶん離れた中庭の噴水のところだった。噴水の端に一人で座り、歌っていたのである。
「げっ。ルシャナ・・・! もしかして歌ってるの、聞いた?」
「‘げっ’って何よ、‘げっ’て!! 聞いたもなにも、声を頼りにここに来たのよ。」
「ぬぅ・・・せっかく聞かれないように皆とはなれたところで歌ってたのに・・・。」
「恥ずかしがり屋さんだなぁ(笑)」
「もう・・・。この歌を歌ってるとお姉ちゃんを思い出すんだ。あたしがお姉ちゃんの膝の上で寝てる時によく歌ってくれた。綺麗だったなぁ、お姉ちゃんの歌声・・・。」
「・・・。」
「いつも優しくて、いっぱい甘えさせてもらって・・・それに対してあたしは何もお姉ちゃんにしてあげられなかった。苦労かけるだけかけて、挙句最後には自分の手でお姉ちゃんを・・・。あたしにとってお姉ちゃんはお母さんと同じだった。どこまでも親不孝者だね。お姉ちゃんみたいにアリスや生まれてくる子供に慕われるようなお母さんになれるのかな・・・。」
「シャニー、ごめんね。私がしっかりしていれば、あなた達が到着するまで后妃様は生きておられたかもしれないのに。」
「いえ、ルシャナは悪くないよ。あたしが甘すぎたんだ。いっつもお姉ちゃんに甘えて自分に厳しくしてこなかった。それが・・・ツケとして廻ってきたんだ。義兄ちゃんを守れなかった。それだってあたしがもっと用心深くしていれば助かったかもしれない。」
「シャニー・・・自分をそんなに責めないで。シャニーは一生懸命やったんじゃない。」
14:
手強い名無しさん
:05/08/08 17:11 ID:E1USl4sQ
「いや・・・。これからは甘えるのではなくて、ロイと助け合って行こうと思う。自分を変えなくちゃダメだ・・・。今のままじゃ、ロイに頼るだけ頼って・・・今度はロイを・・・。ロイだけはもう何があっても失いたくない。今のあたしがうつむかないで前を向いていられるのは、ロイがいつも傍にいてくれるからなんだ。あ、ルシャナやラルク先輩だって大事だよ?もちろん。」
「ありがと。大丈夫、あんたならきっとやれるって。私達が保証するよ。」
「ルシャナ・・・。もうあたしはうつむいたりしない。例え翼があっても、悲しみのない場所なんかに飛んではいけないんだ。逃げちゃ・・・ダメなんだ。お姉ちゃんやお義兄ちゃん、それにあたしのせいでなくなっていった人たちの命を背負わなくちゃだめなんだ。この翼は、逃げる為じゃなくて、使命を全うするためにある・・・再確認したよ。」
「そうだね・・・。私もがんばるよ。あんたが私に託してくれたイリアを、間違いなく正しい方向へ・・・。
本当はあんたが一番心配していたんだね。」
「一番だなんて。皆祖国を思う気持ちは一緒だよ。それにね、あたしはもう、イリアをまとめて行く力なんてないよ。例えアリスが成人するまでという期限付きでもね。」
「何故?! 国民は王族の生き残りであるあんたに注目しているのに。」
「あたしは・・・国民の命を守る役割なのに、逆に失ってしまった。その証拠に故郷から追放令を受けてしまった。あたしは憎まれている。憎まれているのにまとめるなんて無理だよ。」
「そんな! あんたは一生懸命国のためにがんばったのに、そんなあんたを憎める資格なんてあるもんか!」
「・・・結果が全て、そういうことであろう。」
いきなり現れた鋼鉄の漢。それはダグラスだった。
「え、ダグラス様、何故このような場所に?」
「うら若い乙女の歌声が聞こえたものでな。娘を思い出してついつい足が動いてしまったのだよ。」
「結果が全てって酷いじゃないですか。シャニーはマチルダの術中にはまっただけなのに。」
「村人だってシャニー殿が悪いとは本当は思っていないだろう。」
「じゃあ、なんであんな酷い事を。」
「人は弱い生き物だ。やり場のない怒りを、誰かにぶつけずにはいられなかったのだろう。」
「そんな・・・酷すぎる!」
「そうだ、人は弱く、酷い生き物だ。そして脆く儚い。だから互いに支えあっていかなければならないのだ。君たちはそうやって生きてきたのであろう?」
「・・・。」
「そうですね・・・。ありがとうございます。ダグラス様。でも、あたしが村の人々が死ぬ手引きをしたようなものであることは事実。その悔しさを、あたしは忘れない・・・。」
「うむ、それでよい。過ちを悔い改め、忘れないことは大事だ。それがわかっているのならば、そなたはこれからも人をまとめていけるだろう。」
会話を終え、心配しているであろうロイの待つ部屋に戻る。その途中、星満点の夜空を仰いだ。
お姉ちゃん、お義兄ちゃん・・・ずっと見守っていてね。あたしは、あたしのできる限る精一杯がんばるから。アリスを、イリアを育てていくから・・・。だから・・・。あたしはもううつむかない。
もうあたしは昔の甘ったれじゃない。変わったあたしをずっと見守っていてね・・・。
15:
27章:闇を照らす光
:05/08/09 14:51 ID:E1USl4sQ
「母さん? 父さん? ねぇどこへ行くの?」
アタイの問いに答えることもなく、両親がすぅっと消える。待ってよ!・・・意識が遠のいていく。
「う、うん・・・?」
「クリス! あぁ・・・よかった。無事で。」
「あれ、アレン・・・なんでアタイはこんなところで寝ているんだい? ここはどこ?」
「君はあの戦いの後倒れたんだよ。応急措置が早かったから良かったものの、もし遅れていたら命に関わっていたらしい。・・・君なら大丈夫だと信じていた。」
「そうかい、それは情けないところを見せたね。」
「無事で何よりだ。・・・喉が渇いただろう。何か飲み物を取ってくる。」
そういってアレンは走って出て行った。クリスはマチルダとの戦いを思い出していた。
自分の両親を葬った憎い相手。仇をとったとは言えトドメをさせなかった悔しさは今でも昨日のように鮮明だった。
「よぅ、流石だな。あれだけ怪我だらけだったのにもう起きてやがる。」
「ディーク・・・。心配かけて悪かった。」
「あ?誰が心配するかよ(笑) どうせ殺しても死なないだろ。」
「なんだって!? どういう意味だ・・・・いたたた。」
「ははは、お前はちょっと怪我してたほうが大人しくていいぜ。」
「怪我が治ったら・・・覚えてろ・・・くぅ。」
「クリス。」
「なんだい。」
「俺に侘びを言うなら、アレンに言え。あいつはお前が寝ている間ずっとお前を看病していた。
寝る暇も訓練する時間も惜しんでな。」
「な・・・。」
「さぁて俺はルトガーと稽古でもしてくるわ。前の戦いじゃ全然役に立てなくて給金がやばいぜ畜生。」
窓の外を見ているとディークがルトガーと剣の練習を始めた。向こうを見るとシャニーが団員に何か指示している。あいつには笑顔が戻ってた。周りには常に団員がいっぱいいる。慕われているんだねぇ。 あいつの周りにいる団員達も笑顔だ。まるでオセロのようだ。あいつが来ると皆くるっと表情が笑顔になる。なんか心が和むねぇ。
「クリス、お待たせ。絞りたての栄養たっぷり野菜ジュースだ。」
「や、野菜ジュースて。それじゃ喉の渇きを癒せないだろ? 冷たい水が欲しいよ。」
「そうか、一日でも早く元気になれるかと思ったがすまん。もう一度行ってくる。」
「あぁ!いいよ。それより・・・。」
「うん?何だ?」
「ありがとう、寝る間も惜しんで看病してくれたんだって聞いたよ。本当に、ありがとう。」
「いや、当然の事だ。君は俺にとって大事な人だからな。」
「・・・。」 クリスが下を向いて黙り込んでしまった。
「ん? クリスどうした! まさかどこか傷でも開いたか?!」
アレンがクリスの肩を持って下から見上げた。クリスは泣いていた。男勝りのあのクリスが泣いていた。
「どうした?」
「いや・・・大切だって言われてうれしかっただけさ。アタイは今までずっと一人だったからね・・・。」
「そういえばマチルダは君に両親の元に送ってやると言っていたな。」
「アタイは孤児だったさ。アタイの両親も今のアタイが所属している組織に与していた。
その戦いの最中で、両親はマチルダに殺されたのさ。やっぱり卑屈な手段を使われてね。」
「・・・。そうだったのか。」
16:
手強い名無しさん
:05/08/09 14:53 ID:E1USl4sQ
「ああ・・・。だからアタイは誓った、大きくなったら復讐してやると。今までその事だけを考えて今まで鍛えてきた。リーダーの言った、平和の為に行動する事、という言葉も二の次になっていたかもしれない。いつの間にか、マチルダへの憎しみはハーフへの憎しみに変わっていた。」
「大きくなったら・・・? 両親が殺されたのは何百年も前なのか?」
「いや。竜族が長命なのは、竜石に自らのエーギルを封印して、少しずつ解放するからなんだ。
それをしなければ人間と同様、いやそれ以上に長生きは出来ないよ。あんたが仕えている主の奥さん、あのお方だって氷竜だけど、早死にしてしまっただろ?そういうことさ。」
「ちょっと待て。君は・・・君は自分の命を削ってまで復讐を・・・? 何ということだ。」
「いいんだよ。長生きし過ぎたっていいことなんてないさ。それより有意義な人生をギュッと圧縮したような短い人生のほうがアタイはいいよ。」
「クリス・・・。」
「あんたと一緒になれたし、このまま竜石を捨ててしまったって構わないとすら思っているよ。」
「そうか、俺も君と一緒ならこの先どうなろうと構わないと思う事もある。だが・・・。」
「だが?」
「だが俺はフェレに仕える騎士だ。主を守ることは命よりも大事だ。それはわかって欲しい。」
「あぁ、わかっているよ。今までどおりがんばっていこう。・・・この竜石を捨てるのは、戦争が終ってから、そう決めたよ。」
「ありがとう。戦が終れば必ず幸せにしてみせる。それまでは辛抱してくれ。」
二人はお互いを認め合った。種族の違いなどもはやどうでも良かった。種族にこだわるその心が差別を生み、ハーフの暴挙を引き起こす原因にもなった。だから、もっと広い視野でものを見てみよう。妙なしがらみに囚われないで生きていこう。クリスはそう誓った。
イリアの復旧はまだまだ始まったばかりでいつ終るかは分からない。しかし、主要な拠点を持たないロイたちにとっては、公女が自軍と密接な関係があるし、エトルリアより重要な拠点になりうる場所であった。ロイ達はイリアからリキアへは向かわず、直接ベルンへ向かう予定だ。ベルン軍に加え、祖国のかつての盟友の大半が敵となってしまっている以上、いくら神竜や英傑揃いでも正面からの戦いは勝ち目が薄い。そこで前のベルン動乱と同じように、封印の神殿を経由して王都へ向かう予定だ。しかし
王都にはアゼリクス、マチルダ両将軍が残り、リキアでは五大牙の長、グレゴリオが目を光らせる。
グレゴリオはエトルリアという大駒が利いているため、そこまで大きな行動には出られないにしても、一人でも厄介な将軍二人を相手にすることは非常に危険であった。しかし、ロイが封印の剣さえ手に入れれば、もはや敵う相手はいない。天にも届く力を手に入れられる。問題はファイアーエムブレムをどうやって手に入れるかであった。その宝珠は王都ベルンにある。入手は困難を極めるが、手に入れなければ勝利は厳しい。今回は神将器もないのである。
17:
手強い名無しさん
:05/08/09 14:54 ID:E1USl4sQ
ディーク達は互いに剣をぶつかり合わせる。いつも以上になぜか力が入る。
「おい、ルトガー。」
「なんだ・・・?」
「お前、この戦いが終ったらどうするつもりなんだ?」
「お前と同じだ・・・。」
「へっ。」
ディークは団員達と一緒にいるシャニーのほうを見る。向こうでは騎士団に新しく入ってきた新人達が
槍の練習をしていた。誰を見てもまだまだ下手で見ていらいられない。
「そんなんじゃダメダメ! もっと腰を入れて! こうやって体使って槍は使わないと!」
シャニーが団員の槍を取り上げて実演してみせる。するとロイが血相を変えて走り寄ってきた。
「シャニーっ! ダメだよ! 君は槍なんか持っちゃ。振り回すなんて持っての他だよ!
お腹に赤ちゃんがいること忘れてないかい!? ・・・気をつけてね。君の無茶は赤ちゃんにも響くよ。」
「あ゛!そうだった。 ごめん〜。」
「えー! 団長妊娠なさっていたんですか! 酷いですよ、私達に黙っているなんて。」
「そうだよ、水くさい。あんたは部屋に戻って書類に目を通しておいでよ。」
「えー。あたしは体動かす方が好きだもん。でも、いまはしょうがないか。あー、それでも
頭脳労働はなぁ・・・。ねぇルシャナ、お願い、手伝って?」
「はぁ・・・。しょうがない団長だ。」
「私が見ているから言ってらっしゃい。ルシャナ。」
そこに現れたのはティトだった。団員はあの伝説の団長に指導してもらえると知ってはしゃいでいる。それを見て二人とも部屋に戻っていった。
「元気だな、あいつら。」
「俺達はロイ達に剣を捧げた。例え傭兵でも・・・信じたもののために命をかける。
もう俺は復讐の為に・・・人を殺すだけの俺ではない・・・。これからは信じるもののために剣を振るう。そう決めた・・・。」
「へぇ、お前の口からそんなクサイ台詞が出るとは思ってもみなかったぜ。
俺も・・・まだ死ぬわけにはいかねぇ。あいつが幸せを手に入れるまではな。」
「ふっ、自分のことは後回しにしてか?」
「バカ言え(笑) 俺には女は似合わねぇよ。あれだ、人生独身のうちが華というだろ?」
「ふ・・・。お前は死なせない。お前を倒すのはこの俺だ。」
ベルンとの直接対決は死闘を避けられないだろう。しかし、死ぬわけにはいかない。
皆理由こそ違えど、この戦争で死ぬわけには行かなかった。その先の光を手に入れるために。
18:
手強い名無しさん
:05/08/09 18:24 ID:nC.ZLwuE
乙です。
意見としては(笑)や(涙)は流石に使わない方がいいと思う。メールやネットカキコじゃないんだし、
良い場面なのに萎えてしまう。会話の流れでキャラの表情掴めてるときもあるし、仮にも小説なのだから
きちんと台詞や地の文で描写すべきかと。
ストーリーはまだまだ先が長そうなので感想は保留。
意外性のある展開は面白いし、それをどう畳むのか…続き楽しみにしてます。
19:
手強い名無しさん
:05/08/09 22:53 ID:9sML7BIs
ご指摘ありがとうございます。
今度から気をつけてみます。
親族が亡くなってしまわれたので、少々更新が滞るかもしれませんがご了承願います。
20:
手強い名無しさん
:05/08/09 22:58 ID:9sML7BIs
一応キャラ紹介。1部では多分登場の機会はあまりないですけど
グレゴリオ(♂ ジェネラル)
五大牙の長。騎士道精神に溢れ、仲間には優しく時には厳格、敵には鬼神のように対峙する。
全ての攻撃を無効化する秘技を持つ。
21:
28章:忠義の果てに
:05/08/11 22:29 ID:9sML7BIs
半年が経った。エトルリア、イリアを奪われたベルンはそれ以上の侵略行動を見せず、まるでロイ達をベルンに招き入れるかのような沈黙を保っていた。リキアを支配するグレゴリオ大将軍はイリア、エトルリア双方ににらみを利かせていた。そのため復旧の終ったエトルリアも容易に手を出せずにいた。
一方ロイ達の駐留するイリアも、大方の復旧は終わり、後は政治基盤の確立のみが課題として残っていた。本当は王族直系のアリスが女王としてまとめていければそれが一番だが、アリスはまだ物心付いたばかりの子供。そして王族のアリス以外で唯一生き残っているシャニーもリキアへ嫁いでしまうとなれば、アリスが成人するまで一体誰が国をまとめていくのか、という難題が最後の最後まで解決しない事もいたしかたがなかった。
「私は、各騎士団の代表者が集まって、意見をだしあう事が一番だと思う。」
「リキアと同じか。しかし、それだと召集に時間がかかり、迅速な判断が出来ない可能性がある。」
団長代理のルシャナや他の自衛騎士団が集まって連日会談をしているが、なかなかまとまらない。
「俺は・・・俺は騎士団のえらい奴だけで政治を決めていてはいけないとも思う。力を持たない民が何を求めているのかを知るには、政治に民を導入する事も検討したほうが・・・。」
「ラルク、お前の言う事は尤もだが、それをやるとそれこそ意見が割れて身動き取れなくなってしまうぞ。・・・本当はシャニーに残ってもらうのが一番なんだが・・・。」
「あいつはダメだよ。あいつにはフェレに嫁いでしまうし、フェレも今占領されている。あいつは今度はフェレで頑張らないとダメなんだ。負担はかけられないよ。」
「やはりエトルリアに倣って官僚制を導入するのが一番か・・・。権力欲に官僚が燃えて政治腐敗を引き起こさなければ良いが・・・。」
やはり強力なリーダーシップを失うと、それを補うのには相当な時間がかかる。アリスが大きくなるまで、エトルリアの保護区になってしまうのが一番安全だが、それは独立国家として最も恥ずべき汚点。
リキアもかつて保護区になって辛酸をなめた経験がある。その経験を踏まえても、その選択肢は誰も頷かなかった。
ルシャナが団員の元へ戻る。そこにはティトのほかにシャニーもいた。
「ふぅ、会議も連日となると疲れるわー。」
「おかえりールシャナ。お疲れ様。」
「あんたさぁ、じっとしていなさいってば。そんな大きいお腹してたらみんなの邪魔でしょ。」
「だって、皆が心配なんだもん。あたしは応援役。がんばれー。」
「私はあなたが一番心配よ・・・。お願いだからうろうろしないでちょうだい。はぁ心配だわ。
あなたの事だから、“おいしいからー”とかそんな理由で赤ちゃんに焼き菓子とかあげたりするかもしれないし・・・。」
ティトが母親としての自覚に欠ける妹を不安げに見た。昔から自由奔放な妹だ。年相応に落ち着いたとは言っても、自分から見ればまだまだ子供。そんな妹のお腹にも赤ちゃんがいる。ティトにとっては自分のお腹に赤ちゃんがいたときよりも心配だった。
「なによー。そんな事するわけないじゃない! まったくそれを本気で考えて心配しているんだからお姉ちゃんにも困ったものよ。もう子供じゃないんだからね、ぷんぷん!」
「私から見れば十分子供です。お願いだから無茶苦茶なこと言ってロイ様を困らせないでね?
そろそろ剣術や魔術より、貴族としての礼儀作法とか勉強しなきゃいけないでしょ? さ、早く部屋に戻って勉強してきなさい。」
「うへぇ・・・勉強かぁ。」
シャニーがとぼとぼと部屋に戻っていく。先ほどまでの元気とのギャップが妙に笑える。
「ところで、ラルクとはまだ恋人止まりなの?」
「え!? 師匠がそういうこと聞いてくるのって珍しいですね。もう付き合い始めて5,6年経ちますね・・・。シャニーのあのお腹見てたら、私もそろそろ子供が欲しくなってきました。でも、今は国が大事な時期だから・・・。」
「あなたもそろそろ自分の幸せを考え始めたほうがいいわよ。いつ離れ離れになるか分からないのだから。」
「え、縁起でもない事を・・・。いやですよぉ、師匠。」
「でも事実よ。私達の両親だって、ある日突然いなくなってしまったわけだし。後悔してからでは遅いわよ。ラルクはそういう話苦手なんだからあなたからリードしないと。」
「そ、そうですね。分かりました、今から言ってきます。」
ルシャナは言い終わりもしないうちに走っていってしまった。素直なのはいいが早合点が玉に瑕だ。
ティトはふふっと笑みをこぼしながら自分の後輩を見送った。
平和に時が流れている。少なくともイリアは皆が光に向かって闇から抜け出した喜びでいっぱいだった。
22:
手強い名無しさん
:05/08/11 22:30 ID:9sML7BIs
そこらじゅうで笑い声が聞こえ、国民はロイとシャニーの間の子供を炎の天使と言って生まれる前から賞賛していた。皆が、この戦いをロイ達の勝利で終わり、エレブ大陸に再び平和が戻ると信じて疑わなかった。それが本当にそうなるのかは、今の時点では神のみぞ知る領域である。
その頃ベルン城では、二人の竜騎士がギネヴィアと相談をしていた。
「これだけ申し上げても分かっていただけないのですか、ギネヴィア様!」
「くどいですよ、ミレディ。決定に変更はありません。」
「しかし、他国民を虐げてまで自国の発展を望むなど、とてもギネヴィア様のお言葉とは思えません。
一体何があったというのです!」
「そうですよ。前の戦争の時は各国との共存を願い、和解の道をお選びになられたではありませんか。
前王を・・・祖国を裏切ってまで!」
「ツァイス、お止しなさい!陛下への無礼は許しません。・・・しかし、本当に何故突然方針をお変えになられたのですか。お願いです、もう一度、もう一度だけでも思いとどまって再考を・・・。」
「くどい、決定に変更はない。・・・あなた方は勘違いをしていませんか?
あなたたちは私の部下。その部下が私に説教などと、何か考え違いをしていませんか?」
「それは・・・差し出がましいことを申し、誠に申し訳ございません。しかし・・・。」
「しかし?」
「何故そのように突然お考えを変えられたのか、私には分かりません。どうかその理由それだけでもお答え願えませんでしょうか。」
「理由・・・? 簡単な事です。ベルンの発展の為ですよ。国が乱立しても、困るのは民です。
それならば余分な差別のなくなるように、国という境をなくしてしまったほうがいいではないですか。
無能な国は淘汰される。・・・当然の流れでしょう。民も喜びますよ。」
「な!? そんな!」
声を荒げ、今にも怒りが爆発しそうなツァイスを抑え、ミレディが返した。
「戦争をして一番悲しむのは、力を持たない民です。・・・先のイリア戦でも、無抵抗のイリア人を殺戮したとか。しかもマチルダ将軍直々の命令で。目的はシャニー公女をおびき出す為と言っていましたが・・・。民のことを考えているのに、なぜ無抵抗の民を殺す必要があるのですか!?」
「改革に犠牲はつき物です。それが分からない者には消えてもらうしかないでしょう。例えばロイ殿・・・。他の者は知りませんが、ロイ様だけは分かってくだされば幹部に取り入れて差し上げるのに・・・。」
「やはり・・・。」
「なんですか?」
「やはりディーク殿の仰っておられた言葉は本当だったのですね・・・。」
「?」
「私の主に化け、世界を混沌に導く悪魔・・・。私の主をどこへやった!」
「・・・ほう・・・知っていたのですか。・・・ならば語ることは何もない。この場で死んでもらおうか!」
「!?」
「お前達は劣悪種である人間でありながら、その働きは目を見張るものがあった。今まで存分に働いてくれて礼を言うぞ。不要な事を知らなければそのまま幸せに生きていけたものを。」
親衛隊が集まってくる。囲まれたら二人では手も足も出ない。二人とも逃げた。かつてロイ達が城から脱出した時のように。
立ちふさがるものは全て二人で片付ける。ベルンでも屈指の竜騎士の二人だ。流石に強い。
なんとか竜に乗り、城から脱出した。
「姉さん・・・。元気出してくれ。」
「えぇ・・・。」
どんな理由があれ、二人は祖国から追われる立場になった。今まで命をかけて守ってきた国から、そして主から突然破門を突きつけられたのである。ショックは大きかった。
「しかしこれからどうしようか。俺達は追われる身になった。」
「わからない・・・。」
「これからも何も、ここで死ぬのですよ。劣悪種共!」
突然の声。ギネヴィアが後ろから追ってきていたのである。その背中には・・・漆黒の翼。
「な!?」
二人は森の上を低空飛行して振り切ろうとした。しかし、相手も速い。飛竜を持ってしても追いつかれそうだった。
「ふふっ、驚きましたか。冥土の土産に教えてあげましょう。私の真の名はメリアレーゼ。メリアレーゼ・フェンリルだ。」
23:
手強い名無しさん
:05/08/11 22:30 ID:9sML7BIs
ギネヴィア・・・いやメリアレーゼが閃光に包まれる。そして、真の姿を現した。
純白のドレスに漆黒の翼は妙に妖気を漂わせる。ギネヴィア同様美しい女性だが、その目は狂気に満ちている。その姿はまさに堕天使と言ったところか。
「ははは、驚いたか劣悪種よ。貴様らには過ぎたおもちゃだが、私の必殺魔法を受けてみよ!」
メリアレーゼにエーギルが集まる。そのエーギルはたちまち邪念に満ちた凄まじい流れを作っていく。
体が重い。まるでその流れに吸い寄せられるようだ。それをツァイスは感じ取った。すぐ下は深い森。
この中に隠れれば追撃を防げるかもしれない。しかし、もう時間がない・・・。
「姉さん!」
そう言ってツァイスはミレディを飛流から突き落とした。
「!? ツァイス!」
「ははは、死を前に狂ったか。血のつながった姉を自らの手で突き落として殺すとは・・・。
まぁ賢明な判断ですね。私の魔法は非情なまでの苦を相手に与える。あなたは幸せ者ですよ・・・
なんせ私の魔法を喰らって死ねるのだから。さぁ!受けろ!我が最終奥義。究極の暗黒魔法
ダーク・マトリクス!」
その邪気と怨念を押し固めたようなエーギルの塊が、凄まじいスピードでツァイスを包んだ。
重い、とてつもなく重い。その怨念に押しつぶされる。
「ぐあ・・・。」
「どうですか、私の魔法は。その魔法は、冷遇され、差別されて惨めな最期を遂げた我が同志の怨念を
召喚したもの。どうあがこうと、その者達の苦しみと叫びに食われていくのだ。じっくり、時間をかけてな・・・我が同志の苦しみ、今こそ味わえ!」
「ね、姉さん・・・俺は・・・姉さん・・・後は・・・頼む・・・。」
下の森ではミレディが一部始終を見てしまった。木に引っかかり、たいした怪我もせずに済んでいたのである。ツァイスは姉を庇ったのであった。
「ツ、ツァイス・・・。」
目の前の光景が信じられない。弟を助けに行こうとしても体が動かなかった。
「ふっ、こんな雑魚ではあくびが出る。魔力の無駄だったが、まあ良い余興だ。」
メリアレーゼはそう言って城の方に飛んで帰って言った。
「ツァイス! どうして!?」
「ああでもしないと・・・二人とも死んでいた・・・。」
「だからってどうしてあんな無茶を!」
「姉さんなら、ギネヴィア様を取り戻せる・・・。後は・・・頼んだ・・・」
「ツァイス!!・・・あぁ・・・ツァイス・・・。」
祖国を追われ、たった一人の弟も失った。何故、何故こうなってしまったのか・・・。しかし、泣いている暇はなかった。ベルンからは討伐隊が出て自分を追い回してくる。その後ミレディは各地を逃走することになるが、その行方を知るものはいない。
ベルンの中でも、ギネヴィアのやり方に不満を漏らすものは多かった。しかし、不満を漏らせば即、処刑されていった。ベルン軍はハーフと、処刑を恐れやむなく従う人間だけとなった。極度の思想統制のなかで、現状に疑問を持つ心を失っていったのである。メリアレーゼの望む世界とは、ハーフが差別されない世界、というだけではなかった。疑問や迷いをはじめとする、感情そのものを捨てきり、自分への忠誠を絶対とする国。その兵器と呼んでも過言ではない臣民を持って世界を支配しようと目論んでいるのである。劣悪種は優越種である自分達が発展する為の道具であり、人として見ていなかった。
しかし・・・それだけではない。彼女の野望は留まる事を知らなかった。彼女は絶対的な忠誠を得る為に、絶対的な力が必要だと考えていた。メリアレーゼにとって人間は、数だけの無能な種族であった。しかし、竜族は同じ劣悪種でも違った。彼らの強力な力を求めたのである。その結果、マチルダやアゼリクスの研究に援助し、将として自分の配下に置いているのである。彼女の狙う力とは・・・それはわからない。
そして、マチルダやアゼリクスが竜石を研究する真の目的とは・・・全ては未だ降り積もるイリアの雪の如く、不安を募らせるのみで真相は見えなくなるばかりであった。
英雄達は、最後の戦いを迎えようとしていた。若者達が夢を希望をそして未来をかけて、大陸を覆わんとする闇に直接戦いを挑もうとしている。その結末が、どのようなものになるかも知らずに。いや、知っているのかもしれない。彼らは勝つ。勝たなければならない。勝たなければ世界はそこで終わる。エレブが終れば、エレブと繋がっている別世界も、いずれ崩壊する。
新エレブ暦1012年。
全世界の未来はこの一戦にかかっていた。
24:
29章:暗黒の女帝
:05/08/12 12:01 ID:E1USl4sQ
ロイは今後の作戦に頭を痛めていた。やはり、ファイアーエムブレムの入手方法であった。
進軍行程を見ても、封印の神殿を経由してベルン城へ乗り込むというのが一番スムーズである。しかし、ファイアーエムブレムはベルン城にある。ベルン戦で必要になるものが、ベルン城内にある・・・一体どうすれば・・・。ロイは考え込みながら部屋に戻ってきた。部屋ではシャニーが、生まれて1ヶ月もたたない娘に乳を与えていた。
「あ、おかえり。ロイ。」
「ただいま。あぁ、どうしようか・・・。」
「・・・ファイアーエムブレムのこと?」
「うん。あれがなければ今回はかなり勝ち目が薄い。しかし、それがあるのはベルン城。どうにかならないものか・・・。」
「ねえ、ロイ。」
「なんだい?」 ロイが娘を撫でながらシャニーを見る。
「クリスとも相談したんだけど・・・。あたし達二人で先にベルン城に忍び込んでファイアーエムブレムをとってくるって言うのはどうかな。夜ならきっとばれずに忍び込めるよ。」
「なっ。だめだよ! 君はまだ子供を産んで間もないんだから。それに、そんな単独行動をしたら危険だ。君にはそばにいて欲しい。クリスだってアレンが心配するだろう。彼らにだって子供がいる。もし彼らや君に何かあれば、子供達が可愛そうな思いをすることになるんだよ?」
「わかってるけど・・・。でも、そうでもしなければ手に入らないよ。それに・・・どのみちこの戦いに勝たなければあたし達は・・・。危険かもしれない、それはわかってる。でも、勝つためには誰かがやるしかない。その適任者はあたし達だよ。子供達に良い世界を残してあげる為にも、あたしはがんばる。ロイだって・・・分かっているんでしょ?それしか方法はないって事・・・。」
「・・・しかし・・・。」
「だーいじょうぶ! きっとうまくいくって! きっとうまくいく・・・信じて。
だからロイ達は、その間に封印の神殿を攻略して。ロイ達ならできるって! ね、そんな顔しないでさ。
ほら、笑って笑って。」
「うん。ありがとうなんだか気が楽になってきたよ。また君に助けられたね。」
「だってあたし達夫婦でしょ? まだ式は挙げてないけど・・・。 お互い助け合って当然じゃない。
それに・・・お姉ちゃんの悲劇あったとき、あたしがうつむかないで居られたのは、いつもそばにロイがいて、あたしを抱いてくれていたからなんだ・・・。だから、その恩返し!」
「そうだね。これからも助け合っていこう。君と一緒になれて本当に良かった・・・。」
二人が抱き合い、口づけしようとしたその時だった。
「あー。ここにいたー。ねぇお姉ちゃん遊ぼうよぅ!」
「・・・。」
「・・・。」
「あれぇ、二人ともどうしたの? 急に静かになっちゃって。うわー、セレナちゃんかわいいー。」
アリスだった。せっかくのいい雰囲気が台無しに・・・。
「あはは・・・ふぅ・・・。よし、じゃあ出発も近いし、今日は手料理でロイを励ましてあげる!」
「お、シャニーの料理か。今晩はご馳走だね。」
夫婦水入らずとはいかなくなったが、二人はこのひと時を大切にした。もう二度と、二人笑顔で夕食を取れることがないかもしれない。この幸せを戦後も続けられるように祈った。
アレンが部屋に帰ってきた。クリスが鎌の素振りをしている。
「おいおい、俺に部屋の中で素振りをするなと言ったのは君じゃないか。どうしたんだ、急に。」
「あ、おかえり。だって、今度が最後の戦いだろ? なんだか心配でね。」
「あの作戦がか?」
「ああ。いくらアタイたちでも敵の本拠地に乗り込むんだ。ちょっと間違えれば死ぬ。
アレン、アタイが死んだ時は・・・子供のこと・・・。」
「死ぬな。死ぬ事は許さないぞ。約束したはずだ。君を幸せにして見せると。だから戦が終るまでは辛抱してれと、そう言ったはずだ。・・・死ぬなよ。」
「わかってるさ、そんなこと! 死ぬわけには行かないよ。せっかく手に入れた幸せだもの。」
アレンは自分の妻と一緒に行ってやりたかった。しかし、自分には翼はないし、ロイを助けるという重大な使命が託されている。自分の役割をしっかりこなさなければ・・・。
「しかし、敵将はどういう奴なのだ。異端者という風にしか聞いていないのだが。」
「あぁ、後でロイ達も集めて話すよ。あいつは・・・危険な召喚術師だ。」
25:
手強い名無しさん
:05/08/12 12:02 ID:E1USl4sQ
今日もルトガーとディークは稽古をしている。お互い真剣な眼差しだ。この戦いで敗北すれば、世界は終る。いくら傭兵といっても自分達が世界の命運を握っている。そう考えるとおのずと力が入る。
ロイ達は家庭があり、子供もいる。そういった幸せを手に入れた者たちに負担はかけられない。
戦いは自分達のような独り者ががんばらなければ・・・そういった気持ちが強かった。
「おい、ルトガー。お前この頃しっかり寝ているか。」
「いや、この頃寝ずの番が多いな・・・。」
「しっかり寝ておかねぇと戦いで真価を発揮できねぇぞ。」
「わかっている・・・。しかし、俺はあいつに剣を捧げた・・・。その捧げた主に何かあっては、俺の気持ちが許さない・・・。」
「大丈夫だ。俺に、もうロイに任せろといったのはお前だぜ? 俺だって心配だが、今回もどうしてやることもできねぇよ。俺達ができる事は、ただ眼前の敵を斬り捨てるだけだ。」
「わかっている・・・。俺の全てをこの戦いにかける。」
「俺もだ。お前、この戦争が終ったらどうするんだ?」
「知らん・・・。」
「へっ、お前らしいな。 俺はどうするかな。しばらく傭兵を辞めてゆっくりするか。」
「それは許さん・・・。お前を倒すのはこの俺だ。次ぎ合う時は戦場だ・・・。」
「おいおい・・・。」
またお互い剣をぶつけ合い始めた。まるでお互いの気持ちを確かめ合うかのように。
双頭の戦神が闇を切り開く。その先の光を目指して。
26:
手強い名無しさん
:05/08/12 12:03 ID:E1USl4sQ
「あなた、いよいよですね。」
ティトがクレインに寄り添い、話しかけた。
「ああ、この戦いの終焉が、そのまま平和を導いてくれればよいが・・・。」
「どういうことですか?」
「別世界で差別されてこちらの世界に乗り込んできたと聞く。ということは、このまま首謀者を倒しても、同じ悲劇が繰り返される可能性もあるということだよ。」
「それは・・・そうですね。何か良い方法はないものでしょうか。」
「どうなんだろう・・・。戦いは悲しみと憎しみを生むだけだ。だから、私は会話による和平の実現を望んでいるんだよ。ロイ様にもその事は話した。ロイ様もそれが本当は一番だと仰っていた。
だけど・・・やはりここまできては難しいのだね。言葉による平和は限界があるということなのか・・・。
やはり改革には犠牲がつき物なのか・・・。」
「あなた・・・。私はあなたやロイ様の考えが間違えっているとは思いません。
しかし、こちらの想いを分かってくれない、聞く耳を持たない人もいます。その人達にどうやって気持ちを伝えるかが問題なんですよね・・・。でも、改革に犠牲がつき物だなんて・・・きっといい方法があります。それを考えていくのが、私達の役目だと思います・・・。」
「そうだね。まずはこの戦いに終止符を打つことが先決だね。私達もがんばろう。」
「みんな集まったかい?」
クリスが皆を集めた。
「クリス、ギネヴィア様にとり憑いているという敵将はどういった人なんだい?」
「ああ、あいつはアタイらの世界のハーフだけの国の女王さ。ハーフだけの国といっても、隔離する目的で無理やりそこに集められたといったほうが正しいかもしれないけど。」
「そんな・・・。君達の世界では酷い差別があるんだね・・・。」
「ああ。名前はメリアレーゼ・フェンリル。建国当初は統率力のある優しい賢者として有名だったよ。
人間族もハーフでなければ、といつも嘆いていたさ。」
「そんな大物が何故?」
「人間族が・・・『優良種の保存』を名目にハーフへの差別と虐待を激化した事から始まった。
ハーフを殺しても罪にならない、などの明らかにおかしい法案が法律化して行ったのさ。」
「な! そんな・・・酷すぎる。 竜族は何もしなかったのかい!?」
「竜族の長は見て見ぬ振りをしていた。世俗世界には関わってはいけないという考えが根付いていたからね・・・。しかし、それがあの悲劇を生んだ・・・。」
「悲劇?」
「ああ。メリアレーゼのたった一人の肉親。双子の妹を人間に殺されたのさ。その時から、メリアレーゼは狂って行ったと聞いている。」
「そんな・・・! じゃあ、メリアレーゼだけが悪いというわけじゃないんじゃない!」
「ああ、そうだよ。あの差別意識を何とかしなければ、悲劇は繰り返される。」
「だからといってこちらの世界を支配しようと考えていいわけではない。我々は我々の世界を守る義務がある。」
ダグラスが同情に浸る若者達をたしなめる。確かに別世界も救いたい、しかし、今は自分達の世界が危機なのである。順序を間違えてはいけない。
「そうですね。クリス、相手はどういった力の持ち主なんだい?」
「あいつは・・・人と・・・破滅の種族と恐れられる暗黒地竜族のハーフさ。かなり強力な力を持っている。特に奴の召喚術は危険だよ。」
「召喚術? 魔法とは違うの?」
「ああ、あんたの使う魔法は、周りのエーギルを集めて一気に放出するタイプだろ?召喚術というのは
異界から異形なるものを、その名の通り召喚して攻撃するのさ。」
「ふーん・・・よくわかんないけど、すごいんだね。」
「なんだいその言い方は・・・。まぁ、そう言う事。危険だよ。」
「じゃあ・・・君やシャニーはやはりかなり危険な賭けに出るということなのか・・・。やはり他の方法を探したほうが・・・。」
「いや、もうこの方法しかない。アタイたちもあんた達の出陣と共に出発する。夜を狙って侵入するからね。封印の神殿は任せた。」
「ああ、任せろ。封印の神殿前はかつて戦った経験がある。地形も頭に入っているし、何とか大丈夫だろう。」
27:
第一部 終章:運命の扉
:05/08/12 12:05 ID:E1USl4sQ
「ろ、ロイ様!!」
偵察に出ていた使者が戻ってきた。その慌てぶりは尋常でない。
「どうしたんだい、そんなに慌てて。まさか相手から動いてきたのか!?」
「いえ! しかし、封印の神殿に・・・リリーナ様の姿が!」
「な、何だって!?」
「はい、どうやら封印の神殿を守る将に囚われている模様です。そして・・・敵の将が・・・。」
「将が誰なの?」
「マードック将軍です・・・。」
「あ? お前、夢でも見たんじゃねぇのか!? マードックって行ったら前の戦争で戦死したはずじゃねぇか。」
「そうなんです。私もそう思ったのですが・・・。あれは間違いなくマードック将軍でした。」
「そんなバカな・・・。」
「アゼリクスだ・・・。あいつは蘇生の大魔法を持っている。人間ぐらいエーギルの少ない生物なら
簡単に蘇生してしまう。多分あいつが蘇生魔法を使ったんだよ・・・。」
「なんということだ・・・。しかし、リリーナが生きているとなれば急がなければ危険だ。」
「ロイ殿、我々をおびき寄せる罠かもしれないのだぞ。それでも行くのか?」
「ダグラス殿、例え罠だとわかっていても、僕達には時間がありません。それに、ここまできて引くわけには行きません。もはや・・・時間はありません。」
「うむ・・・そうか。では我々も貴殿に最期まで付き従おうぞ。」
「ありがとうございます。よし、皆いくぞ! 世界に光を取り戻す為に!」
今ここに、最後の戦いが始まった。行き先は勝利か敗北か、生か死か。
敵はベルン正規軍。その実力と兵量は大陸屈指のものだ。
勝機が決して高いとはいえない戦いに、彼らは挑む。若者達はそれぞれの想いを胸に。
28:
第一部 終章:運命の扉
:05/08/13 13:38 ID:E1USl4sQ
「それじゃ、あたし達も出発するね。ロイ・・・きっと無事でいてね!」
「ああ、君達もどうか気をつけて。無茶は禁物だよ!」
シャニーとクリスは飛び立っていった。危険な任務を他ならぬ妻に任せてしまっている。
心境は今でも苦しかったが、今は彼女達の無事を祈ることしかできない。それよりも彼女達が帰ってくるまでに封印の神殿を押さえなければ。
封印の剣・・・かつて人竜戦役を終結させた8人の英雄−八神将−の長、ハルトムートが用いた剣。
戦後、そのあまりの力に人々が溺れるぬ様、ハルトムートはこの剣を封印した。その封印を解く為に必要なものが、ベルン王家の至宝、ファイアーエムブレムなのである。そして、封印の剣が封印されている神殿が、今マードック将軍のいる封印の神殿である。封印の剣は使い手を選ぶと言い伝えられてきた。
前のベルン動乱では、ロイは剣に選ばれ、封印の剣を振るい、戦争を終結させた。
今回も封印の剣がなければ勝ち目は薄い戦いだ。絶対に入手しなければならない。
「よし、全軍。制圧目標は封印の神殿だ! 無駄な戦いは避け、一気に進軍する!
シャニーたちが帰ってくるまでに何としても制圧するんだ!」
ロイの掛け声と共に討伐軍が進軍を開始する。山間のそこまで広いといえない道で容赦なく竜騎士が襲い掛かってきた。その目は、かつて竜殿でギネヴィアと共に現れた親衛隊と同じ・・・そうまるで人形のような、輝きのないものだった。敵を殺す事しか考えていない。
「ロイっ!こいつらを相手にしていたらキリがねぇぞ。」
「わかってる! でも、この多さでは倒していかなければいずれ囲まれて身動きが取れなくなる。
ドラゴンキラーで一気に切り崩していこう。」
ディークもルトガーも、かつてこれほどの大群をこの無勢で相手にしたことはなかった。
二人の戦神は息の合った剣術でどんどん進路を切り開いていく。その目には、ベルン兵にはない輝きがあった。信じるもの、守るべきもののために戦う。だからこんなところでは負けられない。
傭兵とか、種族とか、そんなものは関係ない。皆の目指すものは同じなのだから。
「エトルリアの勇士達よ、今こそ諸君らの力を最大限に発揮する時だ! 存分に戦ってくれ!
目標、敵竜騎士! うちかたはじめ!」
ダグラス配下の魔道士と弓兵が竜騎士を狙う。竜騎士は高い機動性とパワー、そして装甲を兼ね備えた
最強のユニットの一つだ。しかし、魔法と弓にはからっきし弱いという弱点も併せ持っていた。
エトルリアも大陸をリードする大国だ。ベルンのこれ以上の凶行は見ていられない。
そして、国には残した二人の俊英がいる。たとえ自分が倒れても、その二人ならエトルリアに再び栄光をもたらしてくれるはず。だから自分は命を張って思う存分戦う事ができる。ダグラスはエトルリア兵の指揮だけでなく、率先して前に出た。
流石に特攻攻撃を受けては大陸最強たる竜騎士も手も足も出ない。あっという間に撃ち落されていく。
その様はまるでトンボとりでもしているかのようであった。
しかし、これだけ激しく攻撃しても、なかなか前に進む事はできない。竜騎士だけでなく、戦闘竜もちらほら見受けられる。あれはきっと、竜化した人間に違いない。
「おい、ルトガー。ドラゴンキラーは温存しろ。竜に使っていかないともたねぇぞ。」
「く・・・っ。一体どれだけ沸いて出てくるんだ・・・。」
本当に数が多い。しかもどの兵も殺気に満ちた操り人形だ。無心に突撃してくる。
空中ではティトが巧みに遊撃していた。全てが本隊に向かえばたちまち囲まれてしまう。少しでも戦力を分断させる為には遊撃は必須だった。引退していた身とは言え、実践経験豊富なティトは効果的に戦力分断を行っていた。
「私だって!私だって、愛する家族の為に戦う。もう悩みたくない、後悔したくないから・・・!」
今妹が決死の覚悟で敵の本拠地に乗り込んでいる。あの甘ったれが立派に成長している。自分だって負けられない。しかし、その気合が空回りした。後ろを取られたのである。天馬騎士や竜騎士にとって、
同じ飛行系に背後を取られるというのはとても不利な状況を意味していた。後ろから容赦なく手槍が飛んでくる。このままではいずれやられる。しかし、なかなか振り切れない。
「ティト! スピードを上げるんだ!」
下から声が聞こえたような気がした。その声に導かれるままスピードを上げ、少し距離が開いた。その隙を見計らっていたのか、背後についていた竜騎士の竜に矢が命中する。
「ティト、危ないよ。あまり無茶はしないでくれよ。」
夫だった。天馬と射手の関係。普通なら相容れない関係だが、このように協力すれば何も恐れるもののないほど強力な関係だった。
29:
第一部 終章:運命の扉
:05/08/13 13:38 ID:E1USl4sQ
「ありがとうございます。あなた。」
自分は一人じゃない。愛する夫や子供・・・守るべきものはいっぱいある。
そのためにも負けられない。
アレンは突撃したい気持ちを抑え、ロイの護衛に集中していた。
「ロイ様、私が護衛につきます。どうかご指示を。」
「ありがとう。でも、いつものように前に出ないのか?」
「その気持ちはありますが、私はクリスと約束したのです。彼女が帰ってくるまで、敵にはロイ様へ指一本触れさせない、と。」
「そうか、でもアレンが一緒なら心強いよ。僕達も前に出よう。将だからって後ろで見ているというのは性に合わないよ。」
「は、ロイ様なら・・・そう仰っていただけると信じておりました。しかし、ロイ様が倒れれば我が軍の負けです。私が出来るだけ前に出ますので、ロイ様はその後から・・・。」
「いや、僕も前に出る。皆目指すものは同じさ。僕だけ後ろからというのは・・・いやだ。それに、君にだって家族がいる。僕も家族がいる。お互い死ぬ事はできないんだ。だから、身分とか、そんなことはこの際考えないようにしようよ。ここではお互い戦友。それでいこう、ね?」
「ロイ様・・・。わかりました。ではいきましょう!」
二人もディークたちのいる前線に出て行った。身分など関係ない。目指すものが同じ同志なら一緒に戦ってこそ力になる。ロイ軍は次第に封印の神殿に近づく。最初は面食らった竜だが、ベルン動乱を鎮めた英雄の集まりだ。それに特効剣をあわせれば、怖いものはなかった。
盆地の村付近まで進軍したところで、ロイ達の進軍は一日目を終えた。
「・・・ロイ将軍。また相対する日が来るとはな・・・。ゼフィール陛下の仇、今こそ取らせてもらうぞ。例え容を変えようとも・・・。」
やはりマードックはアゼリクスから蘇生術を受けていた。アゼリクスを持ってしても、強い意志を持つ人間でなければ蘇生はできない。マードックのゼフィールへの忠誠心はそれに十分足りるものだった。
マードックはかつてのベルン軍事のトップであった。そのマードックがロイに対し、怨恨の炎を燃え滾らせる。その目はろうそくの火に映が、何か死をも恐れぬ妙な輝きを持っていた。
その頃、シャニー達は王都に向けて森の中を飛んでいた。昼間の空を飛んでいればたちまち見つかってしまう。
「ロイ達・・・大丈夫かなぁ・・・。」
「なんだい、シケた面してるねー。大丈夫だろ?ディーク達だって付いているんだし。」
「それはそうだけど・・・。今回はディークさん達を回復してあげられないし・・・心配だよ。」
「あー。あんたらしくないね。それよりアタイたちがうまくやらなきゃロイ達が生きていてもどうしようもないんだよ。そっちを心配したらどうなんだい。」
「それは大丈夫、あたし達ならいけるでしょ。」
「ずいぶんサッパリ言ってくれるじゃないか・・・。まぁ、あんたらしいと言えばそれまでか。」
ひたすら王都を急ぐ。侵入は深夜だが、それまでにある程度情報も仕入れておくことが出来ればしめたものである。
その夜、ベルン軍人がよく集まるという酒場に入ってみる。中は軍人ばかりだったが、シャニーもクリスもいつものエーギルの波動とは違うことに気づいた。この、人間でも竜族ない、それらが融合した何ともいえない波動・・・。これはハーフのものだ。ベルン軍はやはりハーフが殆どのようであった。
二人は適当に空いている席に座って会話に混じってみた。
「お? 女騎士とは珍しいな。ねぇ、この後予定空いてる?」
「バカ、本城決戦があるかもしれないというときに何を言っているんだ。これだからお前は・・・。」
「うひゃひゃ、だってよぉ・・・。」
「ごめん、予定いっぱいなんだ。でも、これだけの兵力なら討伐隊なんてちょろいでしょ?」
「がーん・・・。予定いっぱいか。やっぱカワイ子ちゃんは手が回るのが早いな。」
「なんだい、アタイには用なしかい?」
「あれ、お前も女だったのか。」
「なんだってぇ!?」
「ひぃ、女のヒステリックは犬もくわねぇよ・・・。」
シャニーが殴りかかろうとするクリスを抑えた。
「お前という奴は・・・。確かに我が軍の戦力を持ってすれば楽勝かもしれないな。」
「ところでよぅ、なんかイリアの国王が幽閉されてるって聞いたけど、何で早く殺しちまわねぇんだ?」
「!! それっどういうこと?」
30:
第一部 終章:運命の扉
:05/08/13 13:40 ID:E1USl4sQ
「な、なんだよ、急に。なんかよ、マチルダ将軍が捕まえたらしいんだ。今まで何の情報もなかったのに急に牢獄にいることが公表されてよ。」
「だから言っているだろう。戦力的に見れば楽勝かもしれないが、万が一という事がある。
そのときにそいつを人質として奴らに見せれば抵抗できなくなるだろ。少なくともイリア関係の奴らはな。ふふ、メリアレーゼ様も冷酷な人よ。」
「確かにこの頃変わっちまったよなぁ・・・。昔は美人で優しくて、おまけに辣腕で。あんな人にギュってされたら俺もう死んでもいいヤーと思っていたけど、この頃なんかなぁ・・・。」
「おい、親衛隊に聞かれたら処刑ものだぞ。お前たちも気をつけ・・・・ってあれ?」
もうそこに二人の姿はなかった。
「も、もしかして今のって親衛隊の連中じゃねぇのか? 見たことない顔だったし・・・。
うわぁ・・・どうしよう俺殺されちまうよぉ・・・がたがた・・・。」
シャニーはクリスを引っ張って外に出ていた。
「ねぇ! クリス。」
「言わないでも分かっているよ。国王を助けようって言いたいんだろ? 分かってるさ。でも、よっぽどうまくやらないと両方は難しいよ。宝珠と、国王と。」
「ありがとう! じゃあ行こう。」
死んだと思っていた国王が生きていた。思っても見ないうれしいハプニングだったが、それは同時に任務成功の足かせになる可能性すらもある。しかし、失敗するわけには行かない。自分達の一挙手一投足が世界の命運を担っている。シャニー達は命綱のない、先の見えない道を進んで行く。
真夜中、二つの影が躍るように空中を舞う。そのシルエットはまるで妖精のようだ。
空中から城の窓へ飛び込む。見張りの兵を光速の剣撃で沈めた。廊下の壁を伝い、慎重に進んでいく。
このときばかりはシャニーも真剣な眼差しだ。クリスはこんな顔も出来るのかと思いつつ付いていく。
ベルン城の中の配置は2,3度来ているからわかっている。あの窓から忍び込めば、牢獄はすぐのはずだ。
「なんかあたし達、盗賊みたいだね。」
シャニーが小声で話す。
「バカ、しっかり前見てな。」
夜のベルン城は不気味なほど静まり返っている。会合で来た時とは大違いだ。蝋燭もついていない。
何とか牢獄に着いた。見張りの兵が背を向けたところを一気に襲い掛かる。悲鳴を上げられないように首を一気に狙う。その様はまるで死神だ。
「へ、流石ゴキブリ剣士だね。」
「うるさいなぁ、こんな時にまで茶化さないでよ。」
「・・・あんたの手ばかり血に汚れさせて悪いね。アタイじゃそんな瞬殺できるほど技量がないからね。」
「うぅん、いいの。子供達のためにも、そんな事言ってられないよ。」
牢獄の中からゼロットを探す。そこには疲れきった表情のゼロットがいた。
「義兄ちゃん! 良かった無事で。助けに来たんだよ!」
「おお・・・シャニーか。すまない。私の居ない間にイリアを取り戻してくれたそうだな。
礼を言うぞ。」
「ううん、あたしの力じゃないよ。それにあたしはユーノお姉ちゃんまでも・・・。」
「積もる話は後だ。はやくファイアーエムブレムを手に入れてずらかるよ。」
クリスが鎌で牢獄の施錠を叩き壊す。敵の本拠地に長居するメリットはない。
「やはりファイアーエムブレムを探しているのか。ついてきなさい。」
「どういうこと?」
「あの戦いの後、私もそれを探していたのだ。その時に不手際でベルンの将に見つかってしまったのだ。」
「そうだったんだ・・・。あたし達と合流できなかったから、てっきり・・・。」
「だから言っただろう。そう簡単には死なぬと。さ、付いてくるのだ。」
ゼロットは宝物この前にシャニー達を誘った。
「この宝物庫の最深部に、ベルンの至宝ファイアーエムブレムはある。クリスとやら、外で見張っていてくれ。」
「あいよ。」
シャニーとゼロットが宝物庫に入っていった。
しばらくしてクリスはふと気づいた。何故、ゼロットは牢獄に囚われていたのに腰に剣をさしていたのだろう。それに、あの波動・・・ゼロット王という方はハーフなのか・・・?
何か嫌な予感がクリスの頭をよぎった。もしかしたら・・・!
クリスは焦って宝物庫の中へ入っていく。その中では信じられない光景が待っていた。
31:
手強い名無しさん
:05/08/13 19:03 ID:ujTgP1uU
乙です。
32:
見習い筆騎士('-'*)
◆
56J2s4XA
:05/08/13 20:36 ID:9sML7BIs
>>31
ま、まじですか(;´Д`)
当方聖魔は持ってないのでパクリとかそれ系の事は一切ないので一応断っておきます。
・・・それにしてもありきたりすぎるかなぁ(-_−;)
33:
手強い名無しさん
:05/08/13 21:39 ID:6YImn0iY
>>32
いや言うほど似てはいないですよ。
34:
第一部 終章:運命の扉
:05/08/14 12:47 ID:E1USl4sQ
「もっと奥だ。至宝だけに、最深部に安置されているのだ。」
「義兄ちゃん詳しいね。」
「うむ。情報を集めていざ侵入しようとしたところで捕らえられてしまったのだ。我ながら不覚だった。」
「そんなことないよ! たった一人で侵入しようだなんて、義兄ちゃんは凄いよ。」
二人はどんどん奥に入っていく。見たこともないような宝もいっぱいある。
「わぁー・・・。凄いなこの剣。欲しいなぁ。」
「こら、気を抜くな。ここは敵の本拠地。どこに敵の目があるのか分からないのだぞ。」
「おっと、そうだった。えへへ、あたしってやっぱりマヌケだなぁ。」
しばらくして二人は最深部と思しき場所に着いた。シャニーは宝珠を探した。
「あ・・・! あった、あったよ義兄ちゃ・・・」
シャニーはファイアーエムブレムを見つけ、義兄に見せようと振り返ろうとした、その時であった。
背中に、いや、翼に今までに感じた事のない激痛が走った。その激痛にシャニーは思わず悲鳴を上げる。
「ぎっぎゃぁぁぁぁぁっ。」
「ふふふ・・・。どうですか? ドラゴンキラーの味は。」
痙攣を起こす体に鞭打って後ろを振り向いた。そこにいたのは、間違いなくゼロットだった。
そのゼロットが、自分の翼に向けて剣で斬りかかっていた。
「ぐ・・・うぁ・・・。」
剣が翼に食い込んでいく。その激痛は体全体に痺れをも伴わせていた。体が痙攣する・・・。
ドラゴンキラーだ。今の自分は竜族。特効剣でしかも一番の弱点である翼に斬りつけられていた。
「ははは・・・。ゼロット国王がここにいるわけなんてないでしょう。なんせあの方はこの私が葬ったのですから。」
「何を・・・言っているの? ・・・義兄ちゃん・・・。」
「まだ言うか。どこまでも間抜けな奴だ。よくも私の翼を切り落としてくれましたね・・・!
これはっ あの時のっ恩返し!ですよ!」
ゼロットが体重を剣にかける。剣はどんどん翼に食い込んでいく。翼は真っ赤に染まり、下には血の池が出来る。その、今まで受けたどんな攻撃よりも激しい痛みに、シャニーは痙攣しながら彼女の声かと思うほど苦しそうな唸り声を上げる。
「まさか・・・あなたは・・・マチルダ・・・はぁ・・はぁ・・。」
「やっと気付いたのですか。そうですよ。ゼロット王なぞ、とっくの昔に私が殺しましたよ。
あなた達の居場所や神将器のありかなど、知っている事を吐かせようと拷問しましたが、何一つ奴は吐きませんでしたね。3ヶ月くらい奴は耐えていましたよ。もう最期は妻や子供の名前をバカの一つ覚えみたいに呼び続けて・・・愚かでしょう?」
「・・・何故あなたが・・・義兄ちゃんの体に・・・。」
「ははっ。前にも言ったでしょう。私は人の心を操る事ができる。ましてエーギルの抜けた抜け殻なら
そのまま入り込むことだって出来るのですよ。」
「ぐぅ・・・。許せない・・・。」
「そんなことを言える立場ですかねぇ。痛いでしょう? 苦しいでしょう? その苦悶の表情を見るのが私は大好きなんですよ。ほらほら。」
深く食い込んだ剣を左右に振ってやる。その度に悲鳴ともとれない呻き声を上げる。マチルダにとってこれが至福のひと時であった。
「ぐぁ・・・。・・・封印の剣がロイの手に渡れば・・・封印の剣に選ばれるほどの英雄に・・・剣が渡れば・・・あんた達なんて・・・うぁ・・・っ。」
「ははは。あなたは何も知らないのですね。剣に選ばれた? あの剣は、もともとハーフのために作られた剣なのですよ。竜族の暴走を止めるためにね。」
「ど・・・どういうこと?」
「そのままです。神竜王ナーガが同族の暴挙を止めるために、精霊の力を借りて作った剣なのですよ。
その剣を暴挙の元凶である人間族ではなく、当時中立派だったハーフに渡した、そういうことです。」
「じ、じゃあ・・・伝説の八神将の長・・・ハルトムートは・・・ハーフ・・・?」
「そうですよ。そしてその剣を持った彼は、人竜戦役を終結させた。」
「そんな・・・伝説の英雄が・・・ハーフだったなんて・・・。」
「そうです。だから、ロイとか言う青年が、剣に選ばれた特別な存在というわけではないのですよ。それを世間では英雄英雄と・・・笑わせる。あの剣のせいで、我々は・・・。」
「ロイは・・・英雄だよ。強さだけじゃない・・・。」
35:
第一部 終章:運命の扉
:05/08/14 12:47 ID:E1USl4sQ
「黙れ! あの剣のせいで、我々は迫害され始めたのだ。貴様たちにとっての英雄は、我々にとっては禁忌の存在だ。助けた人間達に迫害されるなど・・・。だから人間は嫌いなのだ!」
マチルダが怒りに任せて剣に力をこめる。
「ぎぃ・・・。なんで・・・迫害されるようになった・・・のさ。」
「我々の世界でも覇権を握っていたのは人間族だった。ハーフが英雄としてのし上げられると、自分達の肩身が狭くなる。・・・嫉妬に決まっている。人間ならやりそうなことだ。一部で始まった差別は一気に世界中に広まった。妖術を使うとか、恐ろしい剣を使って世界を滅ぼしたとか、そんな噂が流れた。
そしてそれが・・・危険種指定へ形を変え、迫害対象になっていった・・・。」
「・・・。」
「貴様に分かるか! この苦しみが! 我々にとって人間族は憎き敵。そして・・・その人間族を助けようとしたナーガの一族・・・竜族も同罪だ。」
クリスがやっと到着する。目の前の光景に一時唖然とするも、マチルダの背中に鋭い一撃を加えた。
マチルダは不意を付かれてうずくまっている。翼から剣を抜き取り、シャニーを抱える。
「やっぱりこういうことだったか・・・! シャニー逃げるよ!」
フラフラのシャニーをつれて逃げることは至難の業だ。しかし、何としてもファイアーエムブレムをロイ達の元へ届けてやらなければならない。
シャニーを背負い、あまり得意ではない回復魔法をかけてやりながら外を目指す。
やっと外へ出た。シャニーを連れては飛べないので馬屋を探す。
馬屋といっても飛竜ばかりである。しかし、その厳つい飛竜の中に、白い体見えた。
「あ・・・。あいつは・・・もしかしてあたしの・・・。」
馬屋の一番奥にいたものは、なんとシャニーのペガサスだった。竜殿で捕らえられた後、どうやら馬屋につながれていたらしい。隣にはゼロットのものと思しき馬もいる。何故殺さずに飼育していたのかはクリスはなんとなく分かった。メリアレーゼも、もともとは優しい賢者。特に動物は好きであった。
人間は憎くても、罪のない動物は殺せなかったのだろう。しかし逆を言えば、それだけ人間の事を酷く憎んでいるという事でもあった。メリアレーゼの中では生の価値は動物のほうが人間より高いのだろう。
しかし、そんなことを詮索している暇はない。急いでシャニーを天馬に乗せる。天馬も親の事を覚えていたのか、すぐに翼を下ろし、乗せてくれた。天馬は気高く、プライドが高い生き物なので自分の主以外は背に乗せることを許さない。
急いで外に出る。ここから脱出すれば後はロイ達と合流するだけ。だが、事はそううまく運ばない。
外は完全に包囲されていた。そしてその中央にいたのは・・・・メリアレーゼだった。
「飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのこと。たった二人で侵入してきた度胸は褒めてあげましょう。
しかし・・・ちょっと無謀すぎましたね。さぁ、ここで終わりです。劣悪種の英雄さん。」
メリアレーゼにエーギルが集中する。逃げ場はなかった。
「ナーガ神もここで終わりです! 喰らえ! 精霊の怨嗟!」
二人に向かってあの暗黒秘奥義が炸裂する。二人を包むその怨念の闇に押しつぶされそうになる。
これが・・・ハーフたちの叫び、苦しみ、そして怒りなのか・・・。
「くっ・・・。」
「ほう・・・。流石ナーガ神。それだけの怪我を負っている身でありながら、私の魔法を受けても
まだ元気とは・・・。いやはや惚れますよ。その力、是非欲しいものです。どうです? 我々については?」
「はぁはぁ・・・。断る・・・。」
「そうですか。残念ですね。ならば、この場で消えてもらいましょう。」
メリアレーゼがもう一度詠唱を始める。いくら抵抗力が高くても、これ以上攻撃を貰えば危険だ。
シャニーだけは・・・なんとしても自軍に帰さなければならない。
「シャニー! 合図と一緒にペガサスを駆ってロイ達のところに戻りな!」
「え?!」
「リーダー、今なら使っていいよね・・・。アレンにも見られていないし・・・あいつにこの姿は見せたくないさ。よし、飛べ!シャニー!」
シャニーを乗せたペガサスが飛び立つ。メリアレーゼも囲んでいた弓兵たちも、一斉にそちらに標準を向ける。しかしその時、クリスのいた場所から凄まじい閃光と衝撃波が放たれた。
次の瞬間現れたのは、金色の竜・・・神竜だった。
「クリス・・・?」
「早く行け! ここはアタイが引き受けた。間違いなくその宝珠をロイ達に届けてくれよ!」
シャニーを狙う矢をクリスが体を使って弾く。硬い鱗の前に矢は乾いた音を立てて落ちていく。
36:
第一部 終章:運命の扉
:05/08/14 12:48 ID:E1USl4sQ
「でも、一人なんて無茶だよ!」
「どのみちその宝珠がなければ勝ち目はないんだ。急ぎな。あんたはロイに必要な存在だ。
それに、本当にナーガ神の化身なら、アタイは守らないとね、命を張ってでも。」
「一緒に逃げようよ!」
「しつこいって言ってんだよ! さっさと行きな! アタイがしつこい奴は嫌いの分かってるだろ。
あんたはあんたの使命をしっかり果たしな。いいね!」
シャニーは姉貴分の真の姿に驚きつつも、ペガサスを駆り、ロイ達の居る方角を目指す。
姉を一人の残す事への罪悪感と、重大な使命と、背中の激痛を伴って。
「ふむ、とうとう化けの皮が剥がれましたか。しかし、並の神竜など相手にもならぬ。
皆のもの、出あえ! 出あえ! 特効剣で一気に切り崩せ!」
ドラゴンキラーを持った竜騎士達に囲まれる。これはエトルリア王宮での戦いと全く立場が逆だった。
堅い鱗も、特効剣の前では全く歯が立たない。クリスもブレスや尻尾、鋭い爪で応戦するが
自分達を滅ぼすためにある特殊な魔力のこもった魔剣の前に、どんどん体力を奪われていく。
「くそ・・・長く持たないか・・・。でも、まだまだ死ねないよ!」
クリスは負傷を覚悟で竜騎士たちを跳ね除けていく。彼女は時間稼ぎのためにここに残ったのだ。
死を覚悟して。アレンや息子は悲しむかもしれない。でも、今の自分がしなければならないことは
世界に平和をもたらす事。そのためには、シャニーを何としても生かして返さなければならない。
この際手段は選んでいられない。これが、自分の志した道なのだから。
「ふふふ、だいぶ弱ってきたようですね。これだけ特効剣でせめてまだ倒れないとは、流石に神竜といったところでしょうか。欲しい、実に欲しい力だ。 まずは元の状態に戻ってもらいますか。」
再びメリアレーゼが暗黒秘奥義をクリスに向けて放った。いくら神竜といってもやはり体が動かない。
凄まじい魔力と憎悪の念の前に、クリスはついに倒れてしまった。
「ぐ・・・ちくしょう・・・っ。」
「ふふ、私が血を引く暗黒竜族はあなたたち神竜族と世界を二分する力の持ち主だった。神竜族の長でさえ、暗黒竜族の力には手を焼き、死んだ原因もその暗黒竜族との直接対決で負った怪我が原因だ。あなたのような普通の神竜で敵うわけがない。」
クリスが人の容に戻る。その横には神竜石が転がっていた。クリスは神竜石から供給されるエーギルで何とか命の綱を保っている状態だ。
「ほう・・・これが神竜石・・・。美しい石ですね。これがあれば私はますます力を手に入れることが出来る。」
メリアレーゼがそう言いながら神竜石を拾おうとした。
「あんた達みたいな奴に使われるくらいなら・・・!」
クリスは近くにあった石を握った。
「まさか、あなたはそれで竜石を壊すつもりですか? ご冗談を。それが無くなれば今のあなたはたちまち死んでしまうのですよ。自殺するつもりですか?」
「へっ、どうで死ぬんだ。アタイの命があんた達に使われると考えると反吐が出るよ! それならいっそ、自分で竜石を壊す。アタイの家族や仲間の為にもね!」
「や、やめろ! せっかくの竜石を!」
はは・・・無様な姿だね。シャニー、しっかりやりなよ。じゃなきゃアタイが命張った意味ないだろ?
アレン・・・すまないね。やっぱりアタイはこういう生き方しか出来ないみたいだよ。息子を・・・クラウドを頼むよ・・・。
クリスが残った力を振り絞って竜石を砕いた。その途端、中に封印されていたエーギルが一気に外へ放出された。そのエーギルは凄まじい流れとなってまわりに居た殆どの者を吹き飛ばす。
そして、エーギル−クリスの命−は天空へ舞い上がり、夜空をオーロラのように彩った。
メリアレーゼは砕けた竜石と穏やかな顔で逝ったクリスを見下ろしていた。
「・・・愚かな。 他人の為に命を投げ出すとは・・・実に愚かなやつだ・・・。」
そういうと彼女は城に戻っていった。
オーロラは未だに輝き続けている。そして、その近くで新たに光りだした星生まれたばかりの星があった。もしかしたらクリス自身も星になったのだろうか。今頃きっと星となったクリスは両親に再会しているに違いない。はるか遠い天空の上で。
父さん、母さん、アタイはしっかり最期までがんばったよね。アレン、クラウド。アタイはずっと見守っててやるからね。アタイの分まで精一杯生きるんだぞ。
37:
第一部 終章:運命の扉 後編
:05/08/14 16:25 ID:E1USl4sQ
激痛に悶えながらも、シャニーは自軍のいる場所を急いだ。また自分は守られてしまった。他人の命を犠牲に生きながらえてしまった。どうして、どうしてなのだ。どうして皆あたしを命を張ってでも守ってくれるんだ。あたしは結局偽善者なのかも知れない。ナーガに誓った言葉も、偽善の塊だったに過ぎないのか・・・。・・・!悩んでいられない、今は自分に託された使命を全うする事だけを考えるんだ。
今あたしが倒れたら、今まで守ってきてくれた人たちの命を無駄にする事になる。そうだ、今のあたしは一人じゃない。皆があたしに力を貸してくれている。がんばれあたし!
とりあえずペガサスの背で翼の応急処置をする。魔力は翼の傷から流れ出てしまったのか、なかなか思うように引き出せない。回復魔法もままならない状況だ。マントを翼に巻き付け止血をする。処置をしていると、凄まじい風が後方から襲ってきた。どこかで嗅いだ事のあるような懐かしい匂いの風だ。
その後すぐ、空にオーロラが出た。そこは・・・ベルン城の付近だった。
「クリス何かあったのかな・・・。」
姉を心配し、戻りたい気持ちを抑えながら明けようとしている夜空を飛んで帰る。これだけ距離が離れればもう追ってこないだろう。激しく出血したため、意識がもうろうとする。眠い・・・。
この睡魔が何を指しているかは分かっていた。今寝たら、死んでしまう。皆の命を背負っているんだ。
こんなところで死んでたまるか!
ロイ達は再び進軍を開始した。封印の神殿を目指して。
「おい・・・ロイ。」
「なんだい、ディーク。そんな険しい顔をして。」
「昨日の深夜、ベルン城の方角で空が異様に明るく光っていた。オーロラの出る地域でもないし。
・・・シャニー達に何かあったかも知れないぞ。」
「そんな! でも・・・まだそんなことは分からない。無事を祈ろう。」
「そうだな。何か嫌な予感がするぜ・・・。こういう戦いはさっさと終わらせちまおうぜ。」
相変わらずベルン兵の攻撃は激しい。戦闘竜の数も増してきた。
「いくぜっ ルトガー!」
「ふっ。またつまらぬものを斬らねばならぬのか・・・。」
二人は敵軍に突撃していく。それにロイやアレン、ティトなども続く。
とにかく兵数が多い。こちらの兵数は圧倒的に少ない。一刻も早くシャニー達に帰ってきて欲しかった。
クレインの放った矢が正確に竜を射抜く。浮力を失って墜落していく。やはり竜騎士には弓だ。
次の竜騎士に狙いを定めた時、後ろから突然戦闘竜が襲ってきた。飛行系に強い弓兵だが隣接されればなす術がない。竜のブレスがクレインを狙った。
「くっ・・・。」
防御態勢をとったクレインの前にダグラスが立ちはだかった。ブレスが鎧で弾きつつ、斧で硬い鱗を叩き割る。空中からもティトが竜の周りを飛び回り幻惑し、ドラゴンキラーを突き刺す。
「あなた! 大丈夫ですか!?」
「ああ、ありがとう。」
「クレイン、気をつけるのだ。ちょっとした油断が命取りだぞ。」
「はい、申し訳ありません。」
皆が皆、お互いの弱点を補い合って少しずつではあるが進軍していく。
ディークが空を見上げると、空に白い物体が見えた。あれは・・・天馬だ。しかし、何故こんな所に。
その天馬は寄ってくる竜騎士に反撃もせずにこちらへ一直線に飛んでくる。まさか、あれは・・・。
「おい、ロイ。シャニーが帰ってきたぞ!」
「え?! よかった。」
しかし、天馬がどんどん近づいてくると、白より赤が目立つ気がしてきた。
「うぅ・・・。ロイ・・・。あたしはまだ死ねないよ。」
シャニーはもうろうとする意識の中でロイ軍を目指して飛んでいる。だが竜騎士達はそれを見逃さない。
弱っている天馬騎士がふらふらと自軍の陣営の上を飛んでいる。狙わないわけがない。竜騎士達はこぞって集中砲火を加える。シャニーは何とか避けているが、いつ喰らってもおかしくない。
ダグラス配下の魔道師や弓兵が竜騎士を狙い、シャニーを援護する。なんとか敵陣営を脱した。
だが、目の前に着地した天馬を見て仰天した。その天馬は真っ赤に染まっていたのである。天馬が着地したと同時に、騎乗していたシャニーが力なく転げ落ちた。背中は真っ赤だ。背中の翼が血を含みずっしりと重そうだ。
マチルダに斬りつけられた翼は半分以上切れこんでしまっている。顔面蒼白で唇も蒼い。急がなければ
死んでしまう。
「シャ、シャニー! 大丈夫か!!」
38:
第一部 終章:運命の扉 後編
:05/08/14 16:25 ID:E1USl4sQ
「ロイ・・・ただいま・・・。はい・・・。これ。」
シャニーがロイにファイアーエムブレムを託す。ロイが受け取ると、目を閉じてしまった。
「シャニー!!」
「輸送隊に連れて行け! 急げ! 一刻も早く僧侶に治療してもらうんだ。」
シャニーが運ばれていく。ロイは不安であったが安堵もしていた。恋人が無事に帰ってきた・・・。
しかし、クリスは? クリスの姿が見当たらない。シャニーも天馬で帰ってきている。もしや・・・。
アレンは下を向いて、唇を噛んでいた。アレンは・・・泣いていた。
「アレン・・。まだクリスが死んだとは・・・。」
「昨日の夜・・・ベルン城の方角でオーロラが出たとき、強い風が吹いてきたんです。その風は・・・クリスの匂いを伴っていました。クリスは・・・きっと星と風になったんです。最期まで命を張ってシャニー様をお守りした・・・そう信じます・・・。」
「・・・。」
「あいつが空から見てます。俺もあいつに叱られないように働いて見せます! ロイ様!行きましょう!」
アレンは突撃して行った。いつも戦場でも二人で突撃していたが今日は一人だ。しかし、アレンには隣にクリスがいるかのように思えていた。
例えこの世で一緒になれなくても、自分とあいつは繋がっている。いつでもあいつは見ている。クリスが誕生日プレゼントにくれた槍を手に、アレンは戦場を駆けた。
戦闘竜も倒し、封印の神殿が見えてきた。あの神殿に、封印の剣は収められている。
この山を抜ければ封印の神殿は目前だ。だが、この山を越える頃には日は沈んでしまっているだろう。
「全軍、進軍停止。本日はここで野営を張る。この森なら敵の竜騎士も攻撃できないはずだ。」
ロイの指令に進軍が止まる。この深い森なら竜騎士といえど進入は出来ない。まして戦闘竜では
見つけられないだろう。明日こそは封印の剣を入手してみせる。マードック将軍・・・かつてベルン動乱で相対した経験があった。強固な守りに強烈なパワー。誰もが認める強さの将である。その将が地獄のそこから蘇り、再び自分達に戦いを挑んでくる。幼馴染を人質にとって。
これから先はベルン親衛隊との戦いになる。これ以上に激戦となることは必至であった。
頼みのクリスも失っている。これ以上犠牲者は出す事はできない。
「お呼びでしょうか、ロイ様。」
「アレン・・・気持ちは落ち着いた?」
「ええ。・・・シャニー様がベルン城からクリスの形見をとってきてくれていました・・・。剣と・・・耳飾りです。」
アレンは耳につけている耳飾りをロイに見せた。
「そうか・・・。」
「例え一緒でなくても、俺とあいつはいつでも一緒です。だから・・・もう泣きません。昼は騎士であるにもかかわらず情けないところをお見せして、申し訳ありませんでした。」
「そんなこと! 謝る事じゃないよ。最愛の人を失ったんだ・・・その悲しみは分かるよ・・・。
それより、アレンにお願いがあるんだ。聞いてもらえるかな?」
「は、ロイ様のご所望ならば、なんなりと。」
「・・・子供達を連れてリキアに逃れてくれ。」
「な!? 俺は最期までロイ様と一緒に戦います。それが、騎士の勤めです!」
「相手は竜騎士が多い・・・。輸送隊が不意を付かれれば、子供達が危ない。あんな小さい子供達を離れた後衛に残して前線に出て行くなんて、これ以上は出来ない・・・。」
「ですが・・・!」
「お願いだ。確かリキアには前の戦争で我が軍に参戦してくれた双生魔道師と盗賊の子が興した孤児院があったはずだ。ベルンの支配も地方までは届いていないだろう。とりあえず、これより先は親衛隊との激戦になることは疑いようがない。そんな激戦地に、親の腿の上で寝ていることしかできない子供達を連れては行けない。頼む、このようなことを頼めるのは君しかいないんだ。」
「わかりました・・・。ロイ様。俺は信じています。ロイ様が勝利を手中にして我らを迎えに来てくださる事を。それまでは俺が命に換えてでも皆をお守りします。」
「ありがとう・・・。頼むよアレン。」
二人は互いの目を見つめあい、がっちりと握手をした。お互いの武運を祈って。
自分が幼い頃から仕えてくれている頼りになる熱血の騎士。性格的にも自分とよく合う所が多くて
相談しやすかった。今回も一番信頼できる配下に子供達を託した。これで・・・目の前の戦いに集中できる。目の前にはマードック将軍が手薬煉引いて自分を待ち受けている。
39:
見習い筆騎士('-'*)
◆
56J2s4XA
:05/08/14 16:38 ID:E1USl4sQ
予定としては次の更新で1部は終演を迎えます。
ちょっと被るところもあったけれど、ここまで書き進められたのも皆様の応援とご指摘のおかげです。
これからもよろしくお願いします。
では、また明日にでも。
40:
第一部 終章:運命の扉 後編
:05/08/15 15:15 ID:E1USl4sQ
ロイは輸送隊に向かった。外ではルトガーが相変わらず見張りをしてくれている。
「ルトガー、君も寝たほうがいいのではないかい?」
「ふっ、俺は傭兵だ。主を守るのが俺の務めだ。寝るわけにはいかん。」
「そうか。でも無理はしないでくれ。これ以上の犠牲者は出したくない。」
「そのぐらい心得ている。俺と話しているより・・・奥方のところへ行ってやれ。」
「うん、ありがとう。」
ロイが輸送隊のテントへ向かった。今でも思い出す。血に濡れた翼、ぐったりとした体に虚ろな目・・・。
またシャニーを生と死の狭間に追いやってしまった。他でもない自分の最愛の妻を。
彼女は無事でいてくれるだろうか。またナバタの里の時のように目を覚まさなかったら・・・。
そんなことが頭を駆け巡る。知らぬ間にロイは全力でかけてテントの中に駆け込んでいた。
しかし、その中では思わぬ事態を目にすることになった。
「おい! てめぇ、そんなにガツガツするんじゃねぇって! 喉に詰まったらどうするんだ。」
「だって!(ガツガツ) 血が足りないよ! こんなんじゃ(モグモグ)戦え(モグモグ)ないよ!(ガツガツ)」
「だぁ! 食べながら喋るな! うわっ。てめぇ今食ったもんが飛んできたぞ!」
「おかわり! 肉がいい!」
「ったく・・どういう食欲だ。怪我人ならもう少し大人しくしてろっつの。」
「・・・。」
ロイは唖然としてしまった。流石にまだ翼は包帯に包まれているが、ぴんぴんしていたのである。
「あ、ロイー。」
入り口にいるロイへシャニーが手を振る。その笑顔にロイも安堵した。
「シャニー、あんな大怪我したのによく無事で・・・。よかったよ。君にまで先立たれたらどうしようかと・・・。」
「何よー、その言い方。それじゃあたしがまるで死にそうだったみたいじゃない。」
シャニーが笑顔で返す。そりゃそう言いたくなるよ・・・あんな顔を見たら・・・。
「でも、元気になったからといって無理しちゃダメだよ? 明日からの戦いでは君は輸送隊で・・・。」
「いやだ。あたしも戦う。」
「な・・・。確かに戦力的に見ても君が居てくれるのは助かる。でも、そんな体で戦ったら今度こそ命が危ないよ。君に死なれたら、僕も子供達も悲しむよ。」
「俺だって・・・お前が死んだら悲しいぜ?」
シャニーが声のほうを見る。腸詰やハムを両手に抱えたディークだった。恥ずかしいのか顔は横に逸らしている。その格好がシャニーにとっては妙に可愛く見えた。
41:
第一部 終章:運命の扉 後編
:05/08/15 15:16 ID:E1USl4sQ
「あ、肉肉ー! ディークさん、早く早く!」
「肉肉うるせぇやつだ。ホントに餓鬼かお前は・・・。」
「だって! 明日の為に血を蓄えないと!」
「お前・・・本当に明日出陣するつもりなのか? その背中で。」
「うん。あたしはもう、守られているだけはイヤなんだ。クリスだって、あたしがもう少し気を許さずに警戒していたら死なずに済んだのかもしれない。肝心な時に何も出来ないのは、もうイヤなんだ。」
ロイもディークも、シャニーの目に、ある種の決意を感じ取っていた。こうなったら彼女を説得する事は難しい。長く付き合っているからこそ分かる事だった。
「シャニー・・・。わかった・・・。もう止めないよ。でも、絶対に無茶しないでくれ。お願いだから僕の傍にいてくれ。そうでもなければ、心配で戦えないよ。」
「うん。明日は後衛に徹するよ。ずっとロイの傍にいる。もう離れ離れになりたくないし。何かね、今度離れ離れになったら・・・もう二度と会えない気がするんだ。」
「どうしたんだい、シャニー。何か思い当たるものがあるのかい?」
「うぅん。・・・あたしらしくなかったかな。よーし食べるぞ! 肉、肉〜♪」
またシャニーがガツガツ食べ始めた。ロイはもう少しお淑やかにして欲しいとも思ったが、この元気さをいつまでも見ていたいという気持ちのほうが強かった。
「おまえなぁ・・・。もう少しお淑やかにしろって。そんなガサツだと娘もそうなっちまうぞ?
それにもう少し落ち着いて食べないと喉につめるぞ。・・・ったく。」
シャニーは聞いているのか聞いていないのか。ディークが持ってきた腸詰などをペロッと平らげ、皿の上に残ったパンの切れ端や腸詰や端などを両手でかき集めて一気に口に運び、飲み込んだ。しかしその途端、今まで元気だった顔が急に真っ青になってベッドに倒れこんでしまった。
「そーらみろ。言わんこっちゃねぇ。水か?」
シャニーはモゴモゴと何かをディークに伝えた。ディークが呆れ顔でロイに翻訳した。
「・・・食ったから寝るってよ。」
ロイとディークがテントの外に出た。外はもう静まり返っている。ベルンの山岳地帯特有の冷ややかな風と心地よい木の香りが二人を包む。
「はぁ〜! こういうおいしい空気はどれだけ吸っても飽きないよ。」
「まったくだ。この戦争が終ったら傭兵は辞めてこういうところに住み着くかな。」
「ディークは傭兵を辞めるのか。たまにはゆっくりとした生活を送るのもいいかもね。」
「あぁ。この半生、人斬りしかやってこなかったからな。もうそういったことから足を洗いてぇよ。」
「ディークすまない。こんな戦いに発展するとは思っても見なかった。今回もこんなに働いてもらって、どれだけの給金でお返しすればいいか。」
「へ、そういう話は終ってからしようぜ。それに・・・俺はこの戦いに参戦できて満足している。」
「え? どういうことだい?」
「お前には話しちまうか・・・。俺は最初、お前がベルンへ行く為の護衛として俺を雇った時、正直お前の護衛ができると言うことより、ベルンでシャニーに会えるかもしれないということに期待していた。」
「そうか・・・。ディークとシャニーは傭兵団で一緒だったんだっけ。」
「ああ、見習いの頃散々手を焼いたじゃじゃ馬だったからな。そんな奴が一国の重役になっていると聞いちゃ、どんなに変わっているかと期待してた。・・・まぁ結果は言わなくてもいいだろうが。」
「シャニーは変わったよ。大人になった。何だかんだ言ってもイリアを担っていくには十分な責任感と統率力を身につけていたよ。」
「あぁ。あいつもお前と同じだ。甘すぎるほどの理想と人ひきつける力。だが、まだまだ精神的には弱いところが多々ある。そういう時は一番潰れやすい時期だ。その時期を、見守ってやれた。だからこの戦いに参戦できて満足している。」
「やっぱりそうだったのか。ディークにとってシャニーは妹みたいなもの?」
「へ、さすがお前だな。知っていやがったか。そうだな・・・妹なのか・・・。いや娘かもしれないな。それとも・・・いや、なんでもねぇ。」
「娘か・・・。娘さんは必ず幸せにして見せます。どうかこれからも見守ってください。」
「へ・・・。頼むぜ。これからもあいつを・・・幸せにしてやってくれ。」
最後の戦いを前に、婿と父親(?)がお互いはがっちり握手をした。
42:
第一部 終章:運命の扉 後編
:05/08/15 15:16 ID:E1USl4sQ
翌朝、ロイ達はいよいよ封印の神殿を目指して出陣することになった。
「ロイ様。ロイ様から託された使命、この命に換えてでも全うして見せます。ロイ様もどうかご武運をお祈りしております。では。」
アレンが子供達を連れて戦場から脱出していった。間違いなく頼むよ・・・。ロイやシャニーは愛娘達に頬ずりして名残を惜しんだ。
「よし、子供達のためにも、この戦いには絶対に負けられない。いくぞ! 僕達の世界を取り戻しに!」
無駄な戦闘を避けるために、山間部の深い森林地帯を進んでいく。この森林地帯を抜ければ、一気に封印の神殿まで近づくことが出来る。
しかし、そううまくも行かない。相手もこの作戦を読んでいたようだ。理の遠距離魔法、サンダーストームが容赦なくロイ軍を襲う。森の中にいるため命中精度は悪いが、当ったらひとたまりもない。
ロイ達は隊列を崩さないように慎重に進軍した。だが、直撃を食らってしまうものも出てくる。
「ぬお・・・。ワシとしたことが不覚・・・。」
重い鎧を着込んでいるダグラスは避けられない。物理攻撃に対しては圧倒的に強い重騎士も、魔法の前では紙同然の抵抗力しかない。しかし、さすがエトルリア軍事トップの大軍将。ダグラスも魔法一撃で倒れるほど弱くはない。
「大丈夫ですか! 将軍!」
配下の賢者が焦って回復魔法をかける。
「うむ、すまない。鋼鉄製の鎧に雷魔法はこたえるわい。」
ロイにも雷の鉄槌が襲う。
「危ない!」
シャニーが庇う。物理に対してはからっきし弱くても、魔法への耐性には自信があった。
「シャニー!? ありがとう。 だけど無茶しちゃダメだってば・・・。」
「うー。シビれる・・・。大丈夫大丈夫。魔法なら任せなさいって。」
どうやら弾切れのようである。ここはチャンスとばかりに一気に進軍する。森を抜け、見えてきたのは・・・封印の神殿だ。あの中に世界を救う魔剣が収められている。ロイ達は急いだ。
神殿の周りを守る親衛隊たちが色めきだって寄ってくる。どの敵も歴戦の勇者ばかりだ。
ディークたちでも流石に無傷では倒せない。
「くっ・・・!」
ルトガーが剣を振り上げる。これでトドメだ・・・!?
愛用の必殺剣が鈍い音を発して弾け飛ぶ。それを相手は見逃さない。逆に一気に襲い掛かる。
ここまでか・・・! 後ろから凄まじい轟音を伴った投げ斧が飛んできて、敵に直撃した。
「ふぅ、間一髪って奴だな。おい、ルトガー、これ使え。」
ディークが剣をルトガーに投げる。それをがっしりと受け取り、他の敵も切り刻む。
「ディークすまない・・・。助かった。」
「へ、これでベルン城での借りはチャラだぜ?」
ロイもシャニーと共に相手を倒していく。シャニーがいるから、自分は怪我をしてでも相手を倒しにかかれる。信頼できる、背を任せられる人がいるということがどれだけありがたいことか。
「よし、もう少しだ。後は入り口の前の兵を倒せば・・・!」
「ロイ待って。怪我を治してからじゃないと危険だよ。」
魔力は完全には回復していないが、怪我の治療ぐらいならできる。クリスの分まで、自分は出来ることを精一杯やる。もう誰も、自分のせいで犠牲を出したくはない。
入り口を強行突破し、神殿の中に入った。その中ではマードックが玉座に座り、やっときたかという顔もちでロイ達を迎えた。
「ロイ将軍、待ちわびたぞ。この時をどれだけ待ち望んだ事か。」
「待ってくれマードック将軍。この戦いは無意味だ。剣を収めてください! 今はメリアレーゼを何とかしなければ世界が滅んでしまう。」
「・・・語ることは何もない。亡きゼフィール前国王の仇、今こそ取らせてもらう。私を倒さなければリリーナ候女は助けられないぞ。」
そういうとマードックはおもむろに懐から何かを取り出した。それは・・・竜石だ!
「ま、マードック将軍! 早まってはいけない! それを使えばあなたは・・・!」
「どうせ一度は死んだ身。何も恐れるものはない! いくぞ!」
マードックが竜石の力を解放する。やはり、あの竜石だ。エトルリアで見たときのように、凄まじい閃光と衝撃波に包まれる。・・・また、ハーフが作り出した凶器の犠牲者が増えた。
目の前にはとてつもなく巨大な竜が立ちふさがっている。今まで見た火竜ではない・・・見たこともない竜だ。クリスがいればその正体も分かっただろうが・・・。
43:
第一部 終章:運命の扉 後編
:05/08/15 15:17 ID:E1USl4sQ
「いくぞ! ロイ将軍!」
巨大な尻尾がロイに先制攻撃を仕掛ける。ロイは軽い身のこなしでそれを避け、剣で斬りかかる。ディークたちも隙を見計らいドラゴンキラーで斬りかかる。
「!?」
しかし、何か体に力が入らない。剣を握る力が奪われるような感覚に襲われる。特効剣で切りかかっても、カキーンと乾いた音が響く。マードックが人間の状態でも高い守備力を誇っていた。だからそのためか・・・いや違う。何か違う、特殊な力が働いている。何だこの呪縛感は。
「ははは、その程度か、雑魚共が。全く痛くも痒くもないぞ。この程度の将にゼフィール陛下が倒されてしまわれたなど・・・ありえない! 全力でかかって来い!」
マードックはもはや正気を失っていた。竜石に完全に意識までもがとらわれていた。残っているのはゼフィールへの忠誠心だけだ。その狂気のブレスがロイ軍を壊滅に追い込む。このままでは危ない。
「くそっロイ! お前は神殿の奥へ走れ!」
「え!?」
「いいから行け! このままじゃ勝ち目はない! 早く封印の剣を取って来い! それまでぐらいなら俺たちだけでも持ちこたえてみせる!」
「わかった!」
ディークがマードックの気を引く為に一気に詰め寄ってくる。
「私を止めて見せろ!」
マードックがディークに向かい鋭い爪で振りかぶる。その隙を見てロイは剣が安置されている神殿の奥へ向かって走っていく。うまくやれよ。
しかし、無茶な突撃をしたためとうとうマードックの強烈な尻尾攻撃の直撃を受けてしまう。ディークはまるで小石のように吹き飛ばされ、壁にたたきつけられる。壁が大きくへこむ。
「ぐあ・・・!」
ディークがぐったりとうなだれる。さすがの戦神も、今の一撃はこたえたようだ。
「ディークさん! 大丈夫!?」
シャニーが駆け寄りディークに回復魔法をかける。
「すまねぇ・・・!! シャニー後ろだ!」
シャニーが後ろを振り向くと、マードックが迫っていた。大きな口をあけて。
「!!」
シャニーが結界を張る準備をしようとしたその時、マードックが背中に鋭い一撃を喰らい、そちらの方向を見た。
「そいつには・・・俺の主には・・・指一本触れさせん。ディーク・・・早くしろ。」
「おう、すまねぇなルトガー。よし、ロイが帰ってくるまでは何としても持ちこたえるぜ!」
ロイは最深部に着いた。そこには・・・やはりあった。かつて人竜戦役で八神将の長、ハルトムートが竜族最後の切り札であった魔竜を鎮めるために用いた魔剣。そして、前のベルン動乱で自分が用いた魔剣。光導く剣、封印の剣が、前と変わらぬ形で納められていた。
ロイは柄にファイアーエムブレムを埋め込む。ロイのその瞬間、剣に力が宿る事を実感していた。
お願いだ・・・抜けてくれ・・・! 封印の剣は選ばれた英雄にしか扱えぬ魔剣と信じられてきた。
ロイが剣を台座から引き抜く。抜けた! その途端、ロイにはあの強力な力が注ぎ込まれた。
それと同時に、ハルトムートの記憶も流れ込んでくる。この前の時とは違う・・・。
自分の頭の中に、差別され、虐待を受けるハーフの記憶が流れ込んできた。これが・・・。聞いていたより酷い。記憶と同時に流れ込んできたものは、ハルトムートの悲しみだった。ロイにそれを正してくれと願っているのだろうか・・・。
しかしこれで、これで世界を救う事ができる。まずはこちらの世界を正していかねば・・・。
ロイは逸る心を抑えきれず、急いで戦場に戻った。
戦場では相変わらずマードックが大暴れしている。ディークとルトガーを中心に攻撃しているが被害が大きい。エトルリアの魔道師たちがその体力の無さ故にどんどん倒れていく。
「くそ、このままじゃ・・・。」
魔法も少しは効いている様だったが、どんどん魔道師が倒されて砲台が少なくなっていく。シャニーもその必殺魔法で応戦する。それなりに効いているようだが、やはり魔力が回復していない為か、いつもほどの精彩をかいていた。
「魔法に頼るか! 直接私と武器を交えよ!」
シャニーをブレスが渦を巻いて襲った。シャニーはいつものクセで飛んで避けようとした。しかし、翼は激痛で応え、体は中に舞い上がらなかった。反応がかなり遅れ、直撃こそ持ち前の身のこなしで何とか免れたが、そのブレスの勢いで吹き飛ばされた。
44:
第一部 終章:運命の扉 後編
:05/08/15 15:17 ID:E1USl4sQ
「うぐ・・・。」
「シャニー! お前は無茶をするな! 俺達の怪我の治療に専念していろ!」
その時だった。光をまとった青年が、魔剣を携えて戻ってきた。その顔はいつも以上に凛々しく見える。
「皆、待たせてすまない! いくぞ! マードック将軍!」
光の英雄が、怨恨に心を煮えたぎらせる闇の竜に向かっていく。先ほどまでの呪縛感が無い。これならいける・・・。さすが伝説の魔剣だ。竜の魔術をものともしない。一気に懐に近づき、斬りつける。
竜族を鎮める為に、竜族の長が作った剣のよるこの強烈な一撃に、マードックが一撃の下に倒された。
しかし、まだ死んではない。止めを刺すためにもう一度近づく。
「うぐぐ・・・見事だ。さすがロイ将軍・・・敵ながらあっぱれ・・・。」
「マードック将軍・・・。」
「私は蘇った時、ギネヴィア様が本物ではないと悟っていた・・・。それでも奴に従ったのは・・・
ゼフィール陛下の無念を晴らすには・・・それしか道が無かったからだ・・・。」
「そこまでゼフィール国王の事を・・・。」
「私では力不足だったか・・・。しかし、まだ終ってはないぞ! ロイ将軍! 我が最期、とくと見るがいい! さらばだ!」
「いけぇね! ロイ離れろ! そいつは自分のエーギル全てを使って爆発を起こすつもりだ!」
「マードック将軍! やめてくれ! そんなことをすればあなたも・・・!」
「どうせこの体は制限時間付だ。時間が来ればどの道死ぬことになる! 貴殿たちも道連れだ!」
言い終わるや否や、マードックの体が光に包まれていく。そして、その光は一気にまわりに向かってはじけ飛ぶ。轟音と衝撃波、そして閃光を伴ってマードックは塵と消えた。封印の神殿の天井は吹き飛びそこから閃光が真上に向かってはるか高くまで伸びていった。
神殿の中は瓦礫だらけとなった。しかし、皆無事だ。ロイが、封印の剣の力を借りて結界を張ったのである。シャニーには、この時のロイが本当の神様に見えた。
「終った・・・か。」
「ふぃ〜。さすが英雄だぜ。とんでもねぇことしてくれるな、おぅ、ロイ。」
「ふっ・・・。」
「ロイ! 凄いよ凄いよ!」
シャニーがロイに抱きついた。妻に抱きつかれ、先ほどの凛々しい顔は消えて、元の優しい顔に戻っていた。
「さぁ、リリーナを探そう。きっとこの神殿内にいるはずだ。」
ロイ達は休むまもなくリリーナを探し始めた。彼女も理の超魔法を扱おうことの出来る高位賢者だ。
幼馴染でもあるし、絶対に助け出したい。瓦礫と片付けつつ少しずつ神殿内を探していく。
まもなく小部屋からリリーナが発見された。怪我もなさそうである。
「ロイ! きっと助けに来てくれると信じていたわ!」
リリーナが人目も気にせずロイに抱きついた。ロイもよかったと言わんばかりにそれに応える。
幼馴染だからこれくらい普通なのかと思いつつも、ロイが自分以外の女性を抱いているシーンを目のあたりにして、シャニーは拗ねて顔を膨らせていた。ディークはそれをあやす。
その夜、封印の神殿付近でロイ達は野営を張った。ずっとリリーナがロイにくっついていてシャニーは近づきようが無い。いままで幽閉されていて寂しい想いをしたんだろう。今日一日ぐらいはしょうがないか・・・そう思ってシャニーはディークたちと一緒にいることにした。
しかし・・・これが・・・この判断が・・・まさかあのような惨事に発展するなどと誰も予想だにしていなかった。あの時私が、私が・・・。
ロイは久しぶりに再開したリリーナとワインを酌み交わしていた。
「よかったよ、本当に。君が暗殺されたと聞いたときはもう目の前が真っ暗になったよ。」
「部下が助けてくれたの。」
「そうか。オスティアにいて生き残っているのは君だけだろう・・・。何ということだ・・・。」
「しょうがわないわ・・・。皆一生懸命戦ったけど、だめだった。反乱軍の侵攻が予想以上に早くて・・・。」
「ベルンを押さえればリキアにいる軍だって投降するさ。 エトルリアが・・・セシリアさんがリキアには目を光らせてくれている。だから僕達は一刻も早くベルン城を攻略しなくちゃね。」
「そうね。ロイ。」
二人とも酔いがまわってきたのか、リリーナがロイに抱きつく。ロイもいやな気はしない。
「まったく・・・! ロイはサイテー。あたし以外の女の人とイチャつくなんてさぁ!」
「おいおい・・・、お前食いすぎだろ。昨日は昨日で食べまくってたし、太る