【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】


FIRE EMBLEM@2ch2掲示板 > 【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】
全部1- 101- 最新50

【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】

1: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/06 11:49 ID:E1USl4sQ
ということで別スレ建てさせてもらいました。
1部の24章までは以下のURLよりご覧いただけます。
http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1100605267/7-106

何かご意見がございましたらその都度レスしていただけると幸いです。
まだ書き手としては本当に初心者なので、ご指摘は特にありがたくい頂戴したいと思います。

〜今までのあらすじ〜
ベルン動乱から4年、平和に向かって歩んでいたエレブ大陸で再びベルンが戦争を起こす。
その首謀者は女王ギネヴィア。兄ゼフィールの意志を継ぎ、世界を統合しようと企む。
その過程でロイの恋人シャニーがロイをかばって事実上戦死するが、竜族伝説の聖王ナーガの力によって復活を遂げる。
そしてエレブ大陸とどこかで繋がるという、別世界から来た神竜族クリスによって衝撃の事実を告げられる。
ギネヴィアは『ハーフ』と呼ばれる人間と竜族の混血の種族の一人に体を奪われている、と。その乗り移った目的はエレブ大陸の支配。
彼らは別世界では迫害され、こちらの世界に自分達の国を作ろうと乗り込んできたのであった。
ロイ達は大陸内で唯一ベルンの侵攻のないナバタの里から、エトルリア、イリアへと進軍していくのであった。


2: 24章:決別のノクターン・後編:05/08/06 17:42 ID:E1USl4sQ
生家へと急ぐシャニー。あの会話が聞かれていたとなれば、アリスの身が危ない。
大好きな姉が、自らの命を投げ打ってまで、自分に託した皇女。絶対に守らなければ。
また守れなかった・・・。義兄だけでなく、幼い自分を自らの命を張って守り育ててくれた、大好きな姉までも・・・。今でも涙が止まらない。その涙は極寒の中で凍りついた。しかし、悩んでいる時間はない。姉の言葉を何度も思い出し、自分を戒めた。

あたしの家は、エデッサより南に行ったところの小さな村にある。代々天馬騎士の家系だったあたし達だけど、騎士だからと言って貴族というわけじゃない。とっても貧しくて、幼い頃はティトお姉ちゃんとスープに入っている具の多い少ないでよく喧嘩してたっけ。
「あー! お姉ちゃんのほうがお芋多くてずるい!」
「何言ってるのよ。あなたの肉のほうが大きいじゃないの!」
「ほらほら、二人とも喧嘩しないの。私の分も少し上げるから、ね?」
村には同じ天馬騎士を親に持つ子供がいっぱいいた。その一人がルシャナだった。お互い親を傭兵で亡くし、ティトお姉ちゃんが天馬騎士の修行に出てからは、寝食を共にしてどんな時もがんばってきた。
そのルシャナも、本当は自分の事を酷く憎んでいたんだ・・・。あたしはそんなルシャナの気持ちを全く考えていなかった。団員の気持ちも読み取れず、大切な人ひとりも守ることが出来ないなんて・・・。
でも、だからって落ち込んでいられない。アリスだけは・・・アリスだけは命に換えても守り通さなければ。義兄ちゃんにも、お姉ちゃんにも、そして、ルシャナにも合わせる顔がないよ。
村に着いた。吹雪の中誰も外にはいない。でも、あたしが傭兵に出てから全然様子は変わってなかった。
すごく懐かしい。自分の家の前に着くと、幼かった頃の日々の思い出が一気にこみ上げてきた。
「ねー、お姉ちゃん、遊ぼうよぅ。」
「私は練習で忙しいの。それよりあなた、学問所の宿題はやったの?まさかまたやらないで行くつもりじゃないでしょうね?」
「ぎくっ・・・。お姉ちゃん頭良いんだし、やってよぉ、ね??」
「自分でやらなければ意味がないでしょう?! どうしてそうあなたは勉強嫌いなの?」
「だってあたしはイリアNo.1の天馬騎士になるんだから勉強なんて出来なくたっていいもん。」
「あのねぇ・・・。頭悪い騎士は役に立たないのよ!」
「イリアNo.1になりたいなら頭もよくないとね。強いだけではナンバーワンにはなれないのよ?
シャニー。私も手伝うから一緒にやりましょう。ね?」
「うん! あたしがんばる! お姉ちゃん大好き!」
・・・いつでもユーノお姉ちゃんは優しかったな・・・。あれ以来あたしは欠かさず勉強した。
勉強していると、ユーノお姉ちゃんがなでてくれたから・・・。・・・!感傷に耽ってる場合じゃない。
シャニーは急いで家の中に入った。もう何年も帰ってきていない為か、中はホコリだらけでかび臭かった。
「アリス!? アリス!どこ?!」
「あ、シャニーお姉ちゃん。どーしたの?」
「・・・良かった・・・無事で。」
シャニーはアリスを抱き、そして頭をなでてやった。かつて、ユーノが自分にしてくれたように。
「ねぇお姉ちゃん。お母さんは? ルシャナは?」
「・・・。」
アリスの本当に純粋無垢な笑顔を見ると、また涙が溢れてきて止まらなくなった。シャニーはアリスにユーノの悲劇を伝える事が出来ず、ただ強く抱くことしか出来なかった。
どのくらいそうしていただろう。ブリザードが止んでいた。気持ちを整理してアリスに声をかける。
「よし、アリス。皆のところに帰るよ。あなたぐらいなら抱いても飛べるだろうから。」
アリスの手を引いて家を出ようとした途端、外で凄まじい爆音がした。
「な、なに?!」
シャニーは慌てて部屋に戻り、窓から様子を見る。すると、村の入り口に近い家々に火矢を撃ち込んでいるベルン兵の姿が見えた。その後ろにいるのは・・・マチルダだ!
「やっぱりあの会話がマチルダに聞かれてしまっていたか・・・。ちくしょー、どうすれば・・・。このままここにいても村の皆に迷惑をかけるだけだし・・・。」
村の入り口付近は地獄絵図になった。ベルン軍は逃げ惑う人々へ迷うことなく攻撃を加える。武器も持たない村人達は、その凶行の前に無残にも倒れていく。
「シャニー・フライヤー!出て来い! 貴様がここにいることは分かっている!」
とうとう自分達の家にも火が放たれた。自分達の思い出がいっぱいに詰まった家が、今業火に包まれている。シャニーは呆然としつつも、アリスを村の一番奥にある礼拝堂に隠れさせ、ベルン軍の前に出た。


3: 手強い名無しさん:05/08/06 17:43 ID:E1USl4sQ
「ここにいる! だからこれ以上の村への攻撃をやめて!」
「ふふっ、やっぱりここにいましたね。あなたは騎士道に外れた不意打ちで我らの同志を殺しました。
よってあなたにはその罪を償ってもらいましょう。」
地面に突如出現した魔法陣から、凄まじい光が溢れる。そこから現れたのは、竜殿で対峙したときと同じ竜だった。
「ふふ、あなたにその竜を殺すことが出来ますか?」
竜は迷うことなくシャニーを襲ってきた。竜が暴れれば、それだけ村は壊滅する。今のシャニーにとっては全く相手にならない相手だ。シャニーは得意の剣技と魔法で一気に竜を撃破する。竜が倒れ、また村が瓦礫と化した。
「ここでこれ以上剣を交えたくない! 力を持たない民を攻撃するなんて、あなたこそ騎士の道に外れている!」
「ふふっ無力な劣悪種がどうなろうと私には関係ありませんわ。もっとも、実験対象が減りすぎては困りますから、これ以上の攻撃はしませんよ、安心してください。」
「こ、この・・・っ。」
「うふふ。それより、あなたが殺したその竜、もう一度良く見てみたら如何です?」
「なに?」
シャニーが倒れた竜に目を向ける。すると、見る見るうちに人の姿に戻っていくではないか。
先ほどの竜は、例の竜石によって無理やり竜化させられていた人間だったのである。そして、その竜化させられていた人の正体を見た時、シャニーは愕然とした。
「う、嘘だ・・・そんな・・・そんなっ。」
なんと、その正体はユーノだった。急所を狙われもはや虫の息、助かる余地はなかった。
「あはは。なんてあなたは愚かなのでしょう! 一番慕っていた姉をそうと気付かず、自分の手で殺すとはね! これは最高に皮肉が効いていますね! あなたには丁度良い罰ですよ! 」
マチルダは冷笑しながらワープ術で部下と共に消えた。
「お姉ちゃん! しっかりして! ごめんね、あたし、お姉ちゃんだと気付かずに・・・。」
「うぅ・・・。シャニー・・・。ありが・・とう・・・。」
「え・・・?」
「私を・・・止めてくれて・・ありが・・とう。もう・・・泣かない・・・の。」
ユーノは震える手でシャニーの涙をぬぐい、頭を撫でてやった。
「でもぉ! あたしのせいで、お姉ちゃんが・・・。ごめんね。あたし、守るどころか・・・お姉ちゃんを手にかけてしまうなんて・・・あたし・・・あたし・・・っ」
「いいえ・・・。あなたのおかげで・・・民への被害を・・・最低限に抑えられたわ・・・。
本当に・・・あなたには・・感謝しているの・・。その調子で・・アリスを・・イリアを・・・。」
シャニーを撫でていたユーノの手が地面に力なく落ちた。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん・・・っ。うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」

シャニーが姉の死に泣き崩れていると、周りを村人達が取り囲んだ。
「てめぇのせいで俺の家族が・・・っ。どうしてくれるんだ!」
「そうだ! お前みたいな孤児が帰ってこなければ俺の嫁も死ぬことはなかった!」
「何が蒼髪の天使だい! あんたは蒼髪の悪魔だよ! あたしの息子を返しとくれよ!」
「お前のせいで俺の生活めちゃくちゃだ! この疫病神め! そうか・・・てめぇは疫病神に仕えている天使なんだな?! さっさとくたばれ!」
「そんな・・・皆酷いよ・・・。」
今まで自分に優しかった村人が、シャニーを罵倒する。そして、村人達は最後にこう言い放った。
「お前は村追放だ! もう二度と帰ってくるな! この悪魔!」
「・・・みんな・・・ごめんね・・・・。」
ユーノを弔ってから、アリスを連れて村を出る。ユーノの形見のサークレットを身に着けて。
「ねぇ、お姉ちゃん。何で泣いているの? 何で皆怖い顔をしているの? お母さんはどこにいるの?
ねぇねぇ、お姉ちゃん!」
シャニーはアリスを強く抱き、ロイ達と合流すべくエデッサに向かって羽ばたいた。
故郷から何もかも失って、シャニーはただ泣くしかなかった。何故姉がこのように泣き崩れているのか、まだ幼いアリスにはこのとき理解できなかった。


4: 25章:イリアを結ぶ絆:05/08/07 15:11 ID:E1USl4sQ
エデッサはまだ吹雪の中であった。王都の到着したロイ達は、前の作戦通り一気にたたみかけた。
「視界が悪いから深追いはするな! 隊列を乱しては危険だ!」
流石の竜騎士も、飛竜に乗れなければ槍歩兵に毛が生えた程度の力しか出せない。ディークの、そしてルトガーの剣が一気に敵を切り崩していく。
「へっ、ちょろいもんだぜ。だが、この環境を得意とするイリア騎士団がこの程度の戦力に苦戦したという事は・・・。」
「ああ、それだけマチルダ将軍の実力が高いという事だ。みんな! 気を引き締めて一気に城まで攻めあがるぞ!」
「よし。目標、ベルン軍敵竜騎士。撃ちかた! はじめ!」
ダグラスの号令と共に放たれる魔道士達の魔法。詠唱の完了した者を横一列に並ばせて一気に放つ。
無数の魔法がベルン兵を襲う。これを避ける事は、至難の業であり、吹雪の中では不可能に近かった。
「ダグラス殿! 後衛の指揮は任せました。我々で城に攻め上がります!」
「うむ、頼んだ。我々も貴殿をフォローしようぞ。」
「ティトさん。事前に手に入れた情報では、騎士団は既に城へ攻撃を開始しているようだ。騎士団との接触は、我々がもっと城に近づいてからにしてくれ。」
「はい。」
そこへ空中から誰かが飛んでくるのがティトには見えた。あれは・・・シャニーだ。
「シャニー・・・お帰り。心配したのよ。全くあなた一人で行動するなんて無茶・・・。」
そこまで言ってティトは言葉を失った。シャニーはまるで抜け殻のように蒼白い顔をして、表情もなくなっていたからである。いつものあのシャニーの面影は全くなくなっていた。
「ただいま・・・。ごめんね。心配かけて。」
「シャニー! あぁ、よかった。無茶をしたら絶交だって約束したじゃないか。・・・心配させて・・・。」
「ロイ・・・。ロイ・・・。うわぁぁぁぁん!」
シャニーはアリスをおろし、ロイに泣きついた。そして、事の次第を全て話した。
「な、なんだって。それは・・・、辛い思いをしたね・・・。大丈夫、君には僕が付いてる。そんな顔しないで。ユーノ様だってそんな顔をすることは望んでいないよ。」
「もう・・・あたしは・・・ダメだよ。・・・疲れたよ・・・。」
そういって後衛陣の後ろにいる輸送隊の陣に下がっていった。
「・・・やはり、相当ショックを受けているね。シャニーは人に嫌われる事にとても弱い子なんだ。
なんとか力になってやらないと。」
ディークが武器の補給がてら輸送隊のテントに戻る。
そこにはシャニーがいた。
「ねぇ、お姉ちゃん!遊ぼうよぅ。アリス暇だよー。ねぇねぇ!」
アリスが揺さぶっているが、シャニーはうつむいたまま座り込んでいた。その姿は何か近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「おい、シャニー。何ボーっとしてやがる。さっさと出撃の用意をしろ。」
「うん・・・。」
返事はするものの、やはりうつむいたままだった。今までにないほど落ち込んでいた。
「お前が辛いのはわかるけどな。今お前ががんばらなかったら誰がイリアを導いていくんだ?」
「あたしの事なんか誰も・・・信用なんかしてないよ。表面的には信じてくれてるけどさ、本当のところは・・・。ルシャナも、故郷の村の人たちも・・・。騎士団の人たちだって・・・。」
「あのなぁ。気持ちはわからなくはないが、それはいくらなんでも考えすぎだろ。」
「ディークさんだって! あたしの事、本当は足手まといだっておも・・・!?」
ディークがシャニーをぶった。
「お前・・・っ。もういい! 好きにしろ!」
ディークは傍にあったバケツをおもいっきり蹴り飛ばしながら外へ出て行った。
・・・シャニー・・・。マチルダの術中にはまるなよ。お前がここで潰れたらイリアも潰れるぞ・・・。

その頃城の城門付近では熾烈な攻防戦が繰り広げられていた。ベルン軍有利と思われた戦いだったが
士気を取り戻した騎士団の予想以上の抵抗に、苦戦を強いられていた。
「いけ! 一気に切り崩せ! 勝利は我らが手中にあり!」
ラルクの怒声に一気に突撃するイリア騎士団。士気は最高潮に達する。その勢いに、ベルン軍は押されつつあった。
「将軍! わが軍が押され始めています!」
「何を慌てているのです。落ち着きなさい。」
「し、しかし、奴らは既に外城門を突破し、内城門の突破も時間の問題となりつつあります!」

5: 手強い名無しさん:05/08/07 15:13 ID:E1USl4sQ
「落ち着きなさい。では、あの策に出ましょうか。実力も兵数もこちらが上回っているのですから、士気を下げてしまえばよいのです。」
「総員! 俺に続け! 一気に内城門を突破するぞ!」
ラルクが手にしたマルテを高く掲げ、一気に士気を高める。その前に突如飛来した天馬騎士がラルクに襲い掛かった。ラルクが槍で攻撃を弾く。
「先輩。お久しぶり。」
「ルシャナ・・・。お前、何で裏切ったんだ。俺と約束したじゃないか。もう少しの辛抱だからそれまでは協力して持ちこたえよう、と。」
「私は先輩ほど甘ちゃんじゃないのよ。どうせ老い先短い王族に仕えているより、ベルンに部隊長として仕えたほうがお金にもなるしね。忠義とかタブーとか、何だかんだ言っても儲かるほうにつくわよ。慈善奉仕で騎士やってるわけじゃないんだからね。」
「本気で・・・言っているのか? 嘘だ。お前がそんな事言うわけがない!あのお前が、誰よりも后妃を尊敬していたお前が、后妃を裏切って・・・ベルンに付くなど・・・。」
「あぁ(笑) 后妃様ならもうこの世にはいないよ。」
「何だと!? あぁ・・・手遅れだったか・・・おのれマチルダ・・・。」
「違うよ。シャニーだよ。あいつが后妃を殺したのさ。お姉ちゃんお姉ちゃんって煩かったあの能無しが、自分の手で殺したんだよ。」
「何を言っている・・・。そんなわけがないだろ! シャニーがユーノ后妃を手にかけるなど!!」
「嘘じゃないわ。その証拠に、あいつは村の追放を受けて帰る場所をなくしてる。蒼髪の悪魔と蔑まれてね。・・・いい気味だわ。」
「お前、やっぱりおかしいぞ。シャニーともあんなに仲が良かったじゃないか。それにお前は早くシャニーに帰ってきて欲しいといっていた。何があったんだ!」
「何もないわ。今までは我慢していただけ。だってそう思わない? あんな頼りにならない甘ちゃんで、おまけに肝心な時にいないママゴト団長なんて必要ないのよ。あんた達もそう思わない?」
ルシャナはかつての部下達に向かってそう言い放った。
「私はそんな風には思いません! 私は団長が大好きです。確かにちょっとドジで、よく一騎突撃して陛下にも叱られていたました。けど、私達が任務に失敗してしょげていても、笑顔で次こそ頑張ろうって慰めてくれました。部下の失敗は自分が責任追及されるはずなのに・・・。」
「私も団長は大好きです。入団当初、私は落ちこぼれで周りから実力的に置いてかれていました。
一人で居残りして練習していたら、一緒に練習しようって誘ってくれて。色々教えてもらいました。
覚えが悪い私に嫌な顔一つせず何度も教えてくれたし、上達した時はまるで自分のことのように喜んでくれていました。私は・・・あの笑顔が大好きです。あの笑顔が見たくて、一生懸命練習しています。
上達すれば笑顔で褒めてくれるから・・・。」
「そうさ! 俺達は何度あの笑顔に助けられてきたことか。お前だってそう言ってたじゃないか!」
「・・・それは・・・そうだけど。」
「分かっているならなぜそこまで・・・っ。」
「だけどっ、笑顔だけじゃ何も出来ないじゃない! 笑っていれば勝てるの? 国を守れるの? 無理じゃない! ヘラヘラ笑ってるだけなら誰だって出来る! 団長には皆を統率する力と相応の実力が必要なのよ! それが・・・あいつにあると思っているの?」
「それは違うわよ。ルシャナ。」
そこに現れたのはティトだった。騎士団のみなは信じられないという表情を見せた後、歓喜の声をあげた。
「ティトさん! お久しぶりです! また会うことができるなんて光栄です!」
「お久しぶり。変わりないようね、ラルク。私のかつての部下が裏切りを働いたと聞いて、いてもたってもいられなくてね。」
「師匠・・・。あなたと再会するとは思ってもいませんでしたよ。故郷を見捨てて自分だけ幸せになりに行った・・・薄情な騎士・・。」
ティトは怒ることもなく冷静に対応した。それはルシャナに起こっている事情を知っているからこそであった。
「確かに・・・私はエトルリアへ行ったわ。薄情なのかもしれないわね。でも、シャニーはフェレに残ることもなく、イリアに残っていたじゃない。」
「薄情だなんて! ティトさんだって、結婚なされる本当に寸前までイリアで復興に力を注いでいたじゃないですか!」
「ありがとう、ラルク。それにねルシャナ、団長に必要なものは、腕力でも、技術でもないわ。」
「じゃあ何なんですか!」

6: 手強い名無しさん:05/08/07 15:13 ID:E1USl4sQ
「必要なものはどんな時でも動じない心の強さと、団員を気遣う優しさ、そして決断力よ。あの子はまだ精神的に幼いところがあって決断力はまだまだ甘いかもしれない。でも、どんな時でも明るく振舞っているわ。
あの子の笑顔は周りを笑顔に変える不思議な力がある。あれは私も見習いたいと思っているほどよ。」
「でも、肝心なときにいない団長なんて!」
ティトはルシャナが動揺し始めていることに気づいていた。
「その間、あの子は死ぬ思いで戦っていたわ。・・・いや死んだかもね。あの子は自分を犠牲にしてロイ様を守った。守る対象は違えど、あの子はゼロット義兄さんの遺言を忠実に守ったわ。」
「・・・。」
「あなたも副団長だったのならわかるでしょう。互いを信頼しあうことを忘れたら、どんなに強くても
負けてしまうということを。」
もはやルシャナは何も言えなくなっていた。
「あなたとシャニーは本当にいいコンビだと思うわよ。お互いの足りないものを補い合ってる。
よく思い出してみて。あなたが傭兵の修行に出るまで、そして騎士団の副団長になってから、どうやって生きてきたかを。」
孤児だった自分。その思い出にはあまりいいものはない。でも、辛かったという気持ちはない。
傍にはいつもあいつがいたっけ・・・。勉強も悪戯も、食べるときも寝るときも、何をするにもいつもあいつと一緒で・・・。副団長になってからもずっとあいつと一緒だったな。・・・思えば団長になることをあいつに推したのは私だっけ。あんたのマヌケは私がカバーするからって。今思えば、私の人生はあいつがいなかったらどうなっていただろう・・・。お互いを補い合ってきたからこそ、今まで生きてこれたんだ。やっぱりあたしには、あいつが必要なんだ・・・!
とうとう、マチルダによってルシャナにかけられていた心のプロテクトが崩れた。それは皆の想いが、そしてルシャナの信じる心が、マチルダに打ち勝ったことを示していた。
「私は・・・みんなごめん! 本当にごめん・・・私は・・・。」
「ルシャナ、話は後よ。その気持ちを行動で示しなさい。」
「はい・・・!師匠、私がんばります。」
ティトは騎士団の皆に事の事情を話した。騎士団の皆はルシャナを責めることをしなかった。ルシャナもまた、団員に信頼されていたのである。

「本当にどこまでも使えない体でしたねぇ。所詮劣悪種ですが、もうすこし役立ってもらわないと困りますよ。まったく。」
「貴様! よくもルシャナを!よくも后妃様を!おのれ許さん!!」
「勘違いしないでくださいよ(笑) 后妃を殺したのは私ではありません。シャニー公女がその手で殺したんですよ。私は后妃に何も危害を加えていませんよ。」
「それは違う! あなたがユーノ様に竜石を使わなければそうはならなかった。あなたはシャニーに手がけさせて彼女を絶望に陥れようとしたんだ!」
ロイもラルクに加わる。二人とも自分の恋人を弄ばれ、マチルダに対する怒りは測りきれない。
「ふふっ、おバカさん達ねぇ。戦いはココで決まるのですよ。」
そういってマチルダは頭を指した。
「もはやあなたの命運もここまでだ! シャニーたちの心の痛み、その身で味わえ!」
「ふ、地上で這い蹲ることしかできないあなたたちが、私に何ができるというのです?
あなたたちは私の魔法の前にひれ伏すことしかできないのですよ。ははは!」
ルシャナはこの場面こそ私の出番といわんばかりに前に出ようとした。しかしその彼女の方を誰かの腕が掴んで引き止めた。
「う、うわ。なんでこんなところに山賊が!?」
「あん!? 誰が山賊だ! 俺の名はディーク。シャニーの知り合いだ。あんたはあいつと戦う前にひとつ大きな仕事がある。」
「え?なんです?(あいつ山賊と知り合いだなんて、いったいどういう友人関係してんのよ・・・。)」
「あいつはお前やそのほかいろいろな奴に裏切られたと思い込んで酷く落ち込んでいる。
今のあいつをいつものように戻す事は、多分あんたしかできない。あいつを・・・頼む。」
「・・・私のせいであいつが・・・。わかりました。任せてください!」
(シャニー・・・ごめんね。)ルシャナは天馬も使わず、走って後衛の陣まで戻っていた。
「なんで天馬に乗っていかねぇんだよ・・・。にしても、なんで俺は山賊と間違えられるんだ。畜生。」


7: 手強い名無しさん:05/08/08 12:06 ID:E1USl4sQ
マチルダが羽織っていたマントを脱ぎ捨てる。その隠れていた背中から現れたものは純白の翼であった。
「さて、お遊びもここまでにして、そろそろ本題と行きましょうか。」
マチルダは槍を片手に空へ舞い上がった。その姿はまるで本当に天使のようであった。
「くそ、空中で飛び回られたんじゃ手も足も出ない!」
ラルクやクレインが飛び道具で応戦するが、ひらりひらりとかわされてしまう。
「おほほほ、無駄な事ですわよ。そんな物が当たるほど、私は鈍くありませんの。」
「目標、敵将マチルダ。総員撃ちかたはじめ!」
エトルリア兵達は一斉に、マチルダに向かって風の高位魔法エイルカリバーを放った。翼を持つ者に特効を与えるエイルカリバーなら、大きなダメージを与える事ができるはず。
「ふふ、なんですの?そのか弱い魔力は。そんな有るのか無いのかわからないような魔力では
いくら特攻を持ってしても、私を撃ち落す事などできませんよ。」
どうやら全く効いている様子がない。
「なんと・・・敵ながらできるな。」
「なに感心してるんだい! ティト! アタイと一緒にやるよ。」
クリスとティトが空中に出る。空中戦には空中戦で挑むしかない。
「おや、クリスじゃないの。まだ無駄な抵抗をしているのね。そのうち実験対象としてどうせ死ぬんだから、死に急がなくてもいいのに。」
「マチルダ・・・別名冷血の堕天使。神竜の力を用いて世界を混沌へと導く悪魔。今日こそは散っていった仲間への弔いをさせてもらう!」
クリスは握る鎌に力がこもった。今まで何人の同志が、マチルダの前に倒れてきたことか。神竜でもマチルダの持つ風の超魔法の前には容易に翼を引きちぎられた。神竜の血同士の戦いだが、特効魔法の前に、魔法への高耐性も歯が立たない。
クリスがマチルダに突撃する。詠唱さえ防いでしまえば魔法は撃てない。ティトも背後に回り込もうと天馬を巧みに操る。しかし、マチルダはさせんと言わんばかりにクリスを槍で払いのける。
「無駄よ。あなたの攻撃は見切っているわ。」
クリスはいつも以上に大振りしている。マチルダは嘲笑うかのように避ける。しかし、それが逆に油断を招いたのか、背後から迫っていたティトへの反応が遅れた。
「くっ!」
流石に直撃は免れたがわき腹をかすめた。
「小賢しいハエめ! 私の前に跪きなさい!」
マチルダは距離を置こうとしたティトに向かってエイルカリバーを放った。エトルリア兵のそれと同じ魔法だが、その魔力の違いは威力となって決定的な違いを見せつけた。
「ぎゃぁっ」
天馬の翼を捉えたその魔法が、無残にもそれを切り刻む。天馬が墜落し、ティトは空中に投げ出された。
「うぐっ。」
しかし流石疾風の天馬騎士と謳われたティトだ。受身を取り、衝撃を最小限に食い止めた。
「ティトっ、大丈夫か!」
クレインがすかさず近寄り、妻の無事を確認する。
「ええ、私は大丈夫。ごめんなさい、やっぱり足手まといだったかしら・・・。」
「いや、そんなことないよ。怪我をすれば当然そこを庇った行動をとる。庇えばどこかの隙が大きくなる。君は良くやったよ。後は後ろに下がっていなよ。」
「ほほほ、下級魔法とは言え、私の魔法を喰らって生きているとは、流石とでも言っておきましょうか。
しかし、今度はそうは行きませんよ。我が秘奥義をお受けなさい!」
「いけない!」
クリスは近づこうとしたが、既にマチルダの周りには強力な旋風が吹き荒れ、容易には近寄れない。


8: 手強い名無しさん:05/08/08 12:07 ID:E1USl4sQ
「クリス! あなたも両親の元へ送ってあげますよ! セイクリッド・ブレス!!」
クリスを無数のエアブレイドが襲った。切り刻まれ、打ち上げられる。
く・・・なんて魔力だい・・・。いくらアタイが神竜の中ではそこまで抵抗がないとは言え、受け流しきれないなんて・・・。これが・・・アタイの親を殺した魔法なのか・・・!
クリスはあまり魔力関係は得意ではなかった。だからシャニーのあの魔力に驚き、羨ましがったのである。
切り刻まれ上空高く打ち上げられた挙句、クリスは猛烈な下降気流―神の息吹―で地面に叩き付けられた。
「ぐあっ!」

地面が凄まじい衝撃と砂煙を伴ってえぐられ、クリスが叩き付けられた場所は特にへこんでいる。
周りにいたロイたちも、ベルン兵も息を飲んでその場を見守った。それほど酷烈だった。
「ふふっ、どう?私の秘奥義の切れ味は。流石にあなたでも悲鳴をあげるのねぇ。」
クリスはアレンに抱き抱えられながら立ち上がった。翼はもうズタズタだ。やはり魔法耐性に抜きん出ていない自分では、同志の二の舞を踏んでしまうのか・・・。
「クリス!これ以上は危険だ。いったん下がれ!」
「ダメだっ。まだ・・・まだやれる!」
クリスはアレンを振りほどく。激痛に悲鳴を上げる翼に鞭打って再び空中に出た。
「あらあら、そんなに両親の元に行きたいの。ごめんなさいね。それじゃ今度は手抜かないから安心しなさい。」
あれで手を抜いていたのか!? 少々驚きながらもクリスはマチルダに向かって突撃していった。

その頃ルシャナは後衛の陣に戻り、テントの前に到着していた。上がった息を整えつつ、傷つけてしまった親友にどう話しかければよいか、その第一声を模索していた。そして意を決して中に入った。
中には本当に自分の知っているあのシャニーかと思うほど、背中の醸し出す雰囲気が違うシャニーが座り込んでいた。相手は自分に気付いていない。こちらも声をかけられなくなってしまった。
「あっ。ルシャナぁ。ねぇお姉ちゃん遊んでくれないし、ルシャナ遊んでよぅ。」
しばらく続いた沈黙を打ち破ったのはアリスだった。
(うわっ、アリス様ぁ・・・こんな時に(涙))
シャニーが後ろを振り向いた。その抜け殻のような表情に、ルシャナは親友に負わせた心の傷が如何に大きいか再確認した。
「ルシャナ・・・? ・・・あたしを殺しにきたの? もうあたし疲れたよ・・・。好きにしていいよ。」
「・・・シャニー。ごめん・・・本当にごめん! だからそんな顔しないで!お願いだから・・・。」
「え・・・?」
ルシャナはシャニーに全て話した。信じてくれとは言えない。信じてくれていた親友をどういう経緯であれ裏切り、傷つけた自分が信じてくれだなんて・・・言えない。
「ごめん。謝ってすむ事じゃないけど、本当にごめん!」
「もういいよ・・・。頭上げてよ。操られていたならルシャナが悪いわけじゃないよ。
よかった・・・。ルシャナに嫌われて、あたしどうしようかと思ってた。」
「でも、私は心の奥底ではあんたを憎んで、妬んでたんだ。だからマチルダに付け入られて・・・。
幼い頃からずっと一緒だったあんたを、知らず知らずのうちに・・・。私は自分が怖いよ。」
「ううん。ルシャナは悪くない。あたしだってルシャナを羨ましく思ったり、妬んだりした事はあったよ。・・・誰にだってそういう気持ちはあるんだと思う。それより大事な親友に漬け込んだあのマチルダとか言う将軍が許せない・・・っ。」
「私を・・・あんたが羨ましく思う? なんでさ。団員からの人気も地位も実力も顔は・・・私のほうが綺麗だけど。」
「あんたねぇ・・・(汗) ルシャナはあたしなんかよりずっとしっかりしてた。考え方も大人びててさ。
それに頭だっていい。経理とか全部押し付けててごめん。」
「そんなのいいよ! あんたはあたしにはない凄いものをいっぱい持ってる。」


9: 手強い名無しさん:05/08/08 12:08 ID:E1USl4sQ
「例えば・・・?」
「私とあんたは二人で一人前。それを師匠から教えられたよ。それを憎んで恨んで酷い事言っちゃって、挙句には殺そうとした。もうあんたと仲良くやっていけない。そう思った。」
「大好きなルシャナをあたしが嫌うわけ無いじゃない。」
「そう、そうやって優しく許してくれた。あんたの強い心や優しさ、そして笑顔はホントに皆にとって宝物だったんだ。私はあんたみたいな強い心が無かった。だから漬け込まれた。」
「そ、そういわれると照れちゃうなぁ・・・。」
「照れること無いよ。ガサツでドジでマヌケでイビキがうるさくて、掃除がヘタで頭悪くて胸も小さいけど、やっぱりあんたは団長に適任者だったんだよ(笑)」
「がーっ! やっぱルシャナなんかだいっ嫌いだぁ!!」
シャニーがルシャナを追い掛け回す。そして捕まえてポコポコと頭をたたく。
「うわー。ごめん、ごめんってば! ホントの事言って!」
「がおーっ。」
もう二人とも笑っていた。互いの絆は、断ち切ることの出来ない強固なものだと、互いに再確認していた。
「さ、二人でマチルダを倒しに行こう!」

その頃クリスは追い詰められていた。もう誰が見ても、クリスに勝ち目がないことは明らかであった。
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
「あなたも分からず屋ですね。あなたではこの私を倒すことなど出来ないと、これほど教えて差し上ているのに。」
「うるさいっ。あんたは・・・このアタイが倒す!」
「クリス!ダメだ!戻って来い!」
もうヨロヨロだ。飛ぶスピードも落ち、魔法を使わずとも槍で簡単に弾き飛ばされた。それでもクリスはアレンの声を無視して向かっていった。しかし、やはり吹き飛ばされてしまう。
「ぐぅ・・・。」
「あなたと遊ぶ事も飽きました。そろそろ大人しくなってもらいましょうか。」
マチルダが詠唱に入った。今度あの超魔法を受けたらクリスでも無事ではない。
「くそっ、司祭さん! クリスにライブをかけてやってくれ!」
「ダメです・・・! いくら遠距離回復の杖を用いても、あんな高さで戦われたら届きません・・・。」
ロイもアレンもただ見守る事しかできないことがたまらなく歯がゆかった。
「さぁ、今度は手加減しませんよ。お受けなさい!神の慈悲!」
自分に向かってあの超魔法が迫った。しかし、なぜかもう動けない。倒せないのか。自分では倒せないのか・・・。父さん、母さん、すまないね。アタイもそろそろそっちにいけるみたいだ。
しかし、クリスに直撃することはなかった。目を開けると、そこには妹分がいた。
「シャニー! あんた・・・!」
「へっ クリス、この程度の魔法でボロボロにされるなんてどうしたのよ!」
「う、うるさいねぇ! あんただって物理に対してはゼリーなクセに!」
「くっ、ナーガ・・・何故貴様がここにいる?! それに・・・何故貴様は私の魔法を受けても飛べるのだ??」
「へへ・・・。このお守りが目に入らぬか!」
そういってシャニーはデルフィ神の守りを見せ付けた。
「・・・味なまねを。私の超魔法も、流石にずば抜けた魔法防御力に加え特効防御の前では、涼風のようなものですか。しかし・・・。」
シャニーはクリスに回復魔法を唱えている。しかし、翼の傷は深く、なかなか治らない。
「あなたの弱点はクリスが教えてくれましたよ! 私の槍に貫かれるがいい!」
シャニーに向かってマチルダが持っている槍で突撃してきた。高魔力に加え高いすばやさと技量を持ち合わせたマチルダ。その牙がシャニーに向いていた。


10: 手強い名無しさん:05/08/08 12:08 ID:E1USl4sQ
「おっと、そうはさせないよ!」
突然飛んできた手槍に、マチルダはバランスを崩して一旦距離を置いた。
「あなたは・・・先ほどの役立たずですか。あなたなんて相手にもなりませんよ。死にたくなければ早く帰りなさい。劣悪種の相手をする気もありません。」
「よくも私を操ってくれたわね!そのうえ大親友を私の手で傷つけさせるなんて、絶対に許せない。」
「そうだよ! 口が悪くて料理が下手で寝相が悪くて、力ばっかで当てるのヘタでスタイルも私より悪いけど、あたしにとってどんな宝物にも換えられない大親友を、よくも・・・っ。」
「あんただって口悪いじゃない!」
「べー、さっきのお返しだもん。」
「ムカツクやつー。」
「じゃれ合いはあの世でやっていただけます? あなた方は揃って私に殺される運命ですよ。」
「クリス、さっき教えた技、やるよ。ルシャナも準備はいいよね!?」
「もちろん。いつでもいけるよ!」
「無駄な足掻きを。何をしようとあなた達では倒せませんよ。
さぁ、今度こそ死んでもらいます。お受けなさい!セイクリッド・ブレス!」
シャニーが結界を張った。マチルダもその魔法防御の高さには焦っていた。殆ど効いていないからだ。
だからまずは槍でシャニーを貫いてから他の二人を始末しようと考えはじめた。
しかし、自らの放った魔法とシャニーの張った結界がぶつかりあう事で生じた衝撃波で前を直視できない。
気付くと、もう前には3人ともいない。
「どこへ行った?! 小賢しい!」
マチルダがやっとシャニーの姿を確認する。すかさずそちらに槍で突撃しようとした。が、
「ふたりとも、いっくよー!」
「おk!」
「ほいきた!」
気が付くと3人に囲まれている。マチルダはやっと状況を理解した。
「し、しまった!!」
「喰らえ!伝家の宝刀!トライアングルアターーーック!!!」
三本の弾丸と化した三人がマチルダを貫いた。そして、クリスの鎌がマチルダの片翼を削ぎ落とした。
「ぎゃあああぁぁぁっ」
耳を覆いたくなるほどの悲鳴を上げ、マチルダが墜落していく。


11: 手強い名無しさん:05/08/08 12:09 ID:E1USl4sQ
「シャニー。トドメ。あの技で〆てやろう!」
二人はまた二手に分かれ弧を描いて旋回し再びマチルダに向かって突撃する。
「私達を滅茶苦茶にした罪をあがなえ!喰らえ血刀の十文字!ブラッディ・クロス!」
落下するマチルダを何度も二人が高速で交差しながら切り刻む。そして、シャニーの振るった剣撃が
マチルダの残った片翼も切り落とした。悲痛な悲鳴を上げ、マチルダはそのまま地面に叩き付けられた。
「ぐ、ぐぁ・・・。」
マチルダはもはや虫の息だ。3人が止めを刺すために地表に降りてきた。その時だった。
マチルダの横の突然何物かがワープで飛んできた。それは・・・
「ふぉふぉふぉ、お前さんがた、久しぶりじゃのぉ。あーあぁ、マチルダ、お前も油断しすぎじゃわい。
ほれ、さっさと帰るぞえ。急がんとぽっくりいっちまうぞえ。ふぉふぉふぉ。」
「待ちな!アゼリクス! マチルダをドコへ連れて行くつもりだい!」
「おぉ、クリス。また親のところに行き損ねたな。可愛そうに・・・。まぁ次ぎ合う時は優しいわしが連れてってやるからの。」
そういうとアゼリクスはマチルダをつれれてワープしてしまった。どうやら助けに入ったらしい。
「話をはぐらかすんじゃないよ! ・・・あいつ、今度会うときは命がないとおもいな・・・。」
「ふぉふぉふぉ、首を洗って待っておるよ。」
どこからともなくアゼリクスの声がした。将を失って、ベルン兵も士気は極端に低下し、投降する者も出始めた。
「勝ったんだね・・・私達。」
「うんうん、あたし達が勝ったんだよ。イリアを守ったんだ!」
「ルシャナ!・・・おかえり。」
ラルクがルシャナを迎え、抱いた。
「先輩、ただいま!」
シャニーが騎士団の皆に勝利を伝える。いつもの笑顔で。
「みんなーっあたしたちは勝ったんだよ! イリアはもう大丈夫だよ!」
騎士団の皆は歓喜した。それは勝った事に対してだけではない。団長のあの笑顔を再び見ることが出来た。その喜びに対してもだった。自分達の大好きな団長の、最も見たかった笑顔。それは戦いに疲れた騎士団員にとって、何より疲れを取る魔法だった。
「父さん・・・母さん・・・仇はとったよ・・・。」
クリスも空を見上げ、独り言を言った。その目は涙に溢れている。
「クリス、お疲れ様。」
アレンがクリスを抱いた。もう自分は一人じゃない。仇撃ちもした。クリスは幸せだった。
ディークとルトガーはいつも騒がしさを嫌い、輸送対に戻った。
「へ、よくやってくれたぜあの連中。」
「だな・・・。ところで、誰も突っ込まないから聞いていいか・・・?」
「あ、なんだよ。」
「首を洗って待っているとは、使い方がおかしくないか・・・?」
「(汗)別にそんなのどうでもいいだろ・・・。」

ブリザードは止み、冬期のイリアには珍しく空には、日が出ていた。その日の光のまぶしさは
まるで勝利を祝うかのように彼らを照らしていた。


12: 26章:過ちと憎しみと:05/08/08 17:09 ID:E1USl4sQ
戦いから1週間がたった。今日も会議室では、国王も后妃も失い、これからのイリアはどうして行くのか、という話で持ちきりだった。
「あたしは、后妃様から遺言を託された。だからその遺言どおり、アリスが大きくなるまで世話をする。
でも、あたしはイリアには残れない。」
「どうしてですか団長! せっかく帰ってきてくださったのに。何故です!?」
「あたしは陛下からも遺言も託されている。そう、ロイを助けなさい、と。だからあたしは復旧が終ったらロイ達とベルンへ向かう。政治の基盤復旧には1年ぐらいかかるかもしれないからその間はイリアに留まるけどね。」
「そうですか・・・。でも、1年間はいてくださるんですよね。」
「だね。ロイもイリアを放っておく事はできないって言ってくれてるし。ダグラス様も隣国の危機には
我々も出来るだけのことはすると言ってくださった。」
「それはよかった。私も頑張らないとね。私のせいで后妃様が亡くなったようなものだから・・・。」
「そんなことないってば。それよりも、ルシャナ、あなたにお願いがあるんだ。」
「え?」
「あたしがベルンに発ったら、騎士団の団長、あんたが継承してくれない?」
「え!? ・・・どうして。」
「だって、本国にいることが出来ない幽霊団長なんて必要ないじゃない。それにあたしはこの戦いが終ったら・・・ロイと結婚しようと思っているんだ。結婚したらもうイリアに留まることはできないからね。お願い。」
「え!?・・・そうか。あんたはロイ様のところに行っちゃうんだね。わかった。あんたに頼まれたら断るわけには行かないね。」
「ありがとう。それじゃ、今日の会議はこれくらいにしようか。もう遅いし。」

シャニーは寄り道しないで部屋に帰った。
「わぁ! アリスちゃん、だめだめ! そんなことしたら危ないよ!」
「ぶー。ロイお兄ちゃんダメばっかり!」
部屋ではアリスがロイをおもちゃにしていた。物心付いたばかりにやんちゃ時だ。
「ただいま、ロイ。」
「あ、おかえりシャニー。お疲れ様。この子なんとしてよ。どうしようもないやんちゃぶりでほとほと手を焼いているよ。」
「ふふ。ごめんね。ロイだって疲れているのに世話任せちゃって。」
シャニーは鎧やマントを外して普段着に着替えた。剣や鎧がなければ、どこにでもいる普通の少女である。
「なんかこうしていると、あたし達子持ちの家族みたいだね〜。」
「そうだね。でも、それも近いうちに現実になるんだね。生まれてくる日が待ち遠しいよ。」
ロイがシャニーのお腹に耳を当てた。何も音はしない。
「あれ・・・?」
「もう、なにしてるのさ(笑) まだまだ全然先なんだから動くわけないじゃない。」
「それにしても、妊娠に気付かず戦地に赴いていたなんて・・・君らしいね。」
「どういう意味!? まぁいいや。よし、今日は子守に疲れたロイのために特製の手料理作ってあげる。」
「へぇー。お姉ちゃん料理できるんだ。」
「バカにしないで。ディーク傭兵団の台所を担っていたのはあたしなんだから。ディークさんったら
“料理も修行のうちの一つだろ? 料理の出来ない女はモテないぞ”とか言ってさ。ぜーんぶあたしに押し付けていたんだもん。」
「ははは・・・。でも君の手料理かぁ。何ヶ月ぶりだろうね。楽しみにしているよ。」
シャニーはふんふん鼻唄を歌いながら包丁を握っている。
(シャニー。君には剣より包丁を握っていて欲しいよ。いつまでも・・・。)
「お姉ちゃん、あたしも包丁やるー。」
「だめ! あ、こら! 危ないってば。もう、どうしてそう落ち着きがないのよ!
お淑やかじゃないとモテないんだぞ?」
ロイはこの久しぶりの団らんに心からくつろいでいた。いつまでもずっと、この恋人との温かな生活が続けば、どんなに幸せだろうか。しかし、明日からは今度はイリアの復旧に尽力を注がねばならない。
王族を殆ど失ったイリアでシャニーとアリスは国民の注目の的になる。妊娠しているシャニーにあまりストレスをかけられない。自分がシャニーを助けていかなければ・・・。


13: 手強い名無しさん:05/08/08 17:11 ID:E1USl4sQ
しばらくアリスの子守に四苦八苦していると、いい匂いが漂ってきた。
「できたよー。あたし特製のシチュー、たーんと召し上がれ♪」
「おいしい・・・。おいしいよ、すごく。こんなにおいしいものを食べたのは初めてだよ。」
「えへへ、そう? エトルリアの王宮の出だされたご馳走よりおいしい?」
「そんなの比べ物にならないよ。シャニーって意外と家庭的なんだね。」
「あー、あたしをバカにしたな! いいもん、どうせあたしはガサツな女ですよーだ、ぷんぷん。
もういいもん。ロイにはおかわりあげないもん!」
「わぁ、ごめんって。そんなつもり言ったわけじゃないって(涙)」
二人で笑いながら食べた。幸せな時間がゆったり流れる。シャニーは生きてて良かったと実感した。
「あ、これ、ママの味」
アリスがそう言った。そういった途端、シャニーがさじを止めた。
「うん、そうだよ。このシチューは、お姉ちゃんから作り方を教えてもらったんだもの・・・。
よかった。お姉ちゃんの教えたとおりに、あたしは作れているんだね・・・。」
「シャニー・・・。」
「ごめん。ちょっと席外すね。」
そう言ってシャニーは部屋を出て行った。ロイには見えてしまった。シャニーの目じりに光るものを。
気丈に明るく振舞っていても、やはりショックはまだ癒えていない。
自分も彼女の笑顔にどれだけ癒されてきたか。今度は彼女の心の傷を、自分が癒してやりたい。
それが、これから一生を共にする自分の最初の務めだとロイは思った。

深夜、ルシャナが部屋の窓から外を眺めていた。私が団長・・・。皆は何も異論を投じなかったけど
本当のところは嫌じゃないのかな・・・。経緯はどうであれ私は皆を裏切った身だし。
あいつは・・・それが分かっててあえて私を・・・。頑張るよ、私。あんたの期待に応えて、みんなの信頼を回復して、立派な騎士団に復旧するよ。
遅いしもう部屋に戻ろうろ思った時、どこからか聞きなれた歌声が聞こえてきた。
その歌声は聞きなれた中にも綺麗で、どこか寂しさを伴った何かひきつけられるような声だった。
ルシャナは足と耳の赴くまま、その歌声のところに歩いていった。
『この大空に 翼を広げ 飛んでゆきたいよ。悲しみのない 自由な空へ 翼はためかせ 行きたい』
それは、ユーノ后妃がよく歌っていた歌だった。ルシャナはその歌声の主を見つけた。
「シャニー!? どうしてこんなところにいるの?」
そこはシャニーの部屋からずいぶん離れた中庭の噴水のところだった。噴水の端に一人で座り、歌っていたのである。
「げっ。ルシャナ・・・! もしかして歌ってるの、聞いた?」
「‘げっ’って何よ、‘げっ’て!! 聞いたもなにも、声を頼りにここに来たのよ。」
「ぬぅ・・・せっかく聞かれないように皆とはなれたところで歌ってたのに・・・。」
「恥ずかしがり屋さんだなぁ(笑)」
「もう・・・。この歌を歌ってるとお姉ちゃんを思い出すんだ。あたしがお姉ちゃんの膝の上で寝てる時によく歌ってくれた。綺麗だったなぁ、お姉ちゃんの歌声・・・。」
「・・・。」
「いつも優しくて、いっぱい甘えさせてもらって・・・それに対してあたしは何もお姉ちゃんにしてあげられなかった。苦労かけるだけかけて、挙句最後には自分の手でお姉ちゃんを・・・。あたしにとってお姉ちゃんはお母さんと同じだった。どこまでも親不孝者だね。お姉ちゃんみたいにアリスや生まれてくる子供に慕われるようなお母さんになれるのかな・・・。」
「シャニー、ごめんね。私がしっかりしていれば、あなた達が到着するまで后妃様は生きておられたかもしれないのに。」
「いえ、ルシャナは悪くないよ。あたしが甘すぎたんだ。いっつもお姉ちゃんに甘えて自分に厳しくしてこなかった。それが・・・ツケとして廻ってきたんだ。義兄ちゃんを守れなかった。それだってあたしがもっと用心深くしていれば助かったかもしれない。」
「シャニー・・・自分をそんなに責めないで。シャニーは一生懸命やったんじゃない。」


14: 手強い名無しさん:05/08/08 17:11 ID:E1USl4sQ
「いや・・・。これからは甘えるのではなくて、ロイと助け合って行こうと思う。自分を変えなくちゃダメだ・・・。今のままじゃ、ロイに頼るだけ頼って・・・今度はロイを・・・。ロイだけはもう何があっても失いたくない。今のあたしがうつむかないで前を向いていられるのは、ロイがいつも傍にいてくれるからなんだ。あ、ルシャナやラルク先輩だって大事だよ?もちろん。」
「ありがと。大丈夫、あんたならきっとやれるって。私達が保証するよ。」
「ルシャナ・・・。もうあたしはうつむいたりしない。例え翼があっても、悲しみのない場所なんかに飛んではいけないんだ。逃げちゃ・・・ダメなんだ。お姉ちゃんやお義兄ちゃん、それにあたしのせいでなくなっていった人たちの命を背負わなくちゃだめなんだ。この翼は、逃げる為じゃなくて、使命を全うするためにある・・・再確認したよ。」
「そうだね・・・。私もがんばるよ。あんたが私に託してくれたイリアを、間違いなく正しい方向へ・・・。
本当はあんたが一番心配していたんだね。」
「一番だなんて。皆祖国を思う気持ちは一緒だよ。それにね、あたしはもう、イリアをまとめて行く力なんてないよ。例えアリスが成人するまでという期限付きでもね。」
「何故?! 国民は王族の生き残りであるあんたに注目しているのに。」
「あたしは・・・国民の命を守る役割なのに、逆に失ってしまった。その証拠に故郷から追放令を受けてしまった。あたしは憎まれている。憎まれているのにまとめるなんて無理だよ。」
「そんな! あんたは一生懸命国のためにがんばったのに、そんなあんたを憎める資格なんてあるもんか!」
「・・・結果が全て、そういうことであろう。」
いきなり現れた鋼鉄の漢。それはダグラスだった。
「え、ダグラス様、何故このような場所に?」
「うら若い乙女の歌声が聞こえたものでな。娘を思い出してついつい足が動いてしまったのだよ。」
「結果が全てって酷いじゃないですか。シャニーはマチルダの術中にはまっただけなのに。」
「村人だってシャニー殿が悪いとは本当は思っていないだろう。」
「じゃあ、なんであんな酷い事を。」
「人は弱い生き物だ。やり場のない怒りを、誰かにぶつけずにはいられなかったのだろう。」
「そんな・・・酷すぎる!」
「そうだ、人は弱く、酷い生き物だ。そして脆く儚い。だから互いに支えあっていかなければならないのだ。君たちはそうやって生きてきたのであろう?」
「・・・。」
「そうですね・・・。ありがとうございます。ダグラス様。でも、あたしが村の人々が死ぬ手引きをしたようなものであることは事実。その悔しさを、あたしは忘れない・・・。」
「うむ、それでよい。過ちを悔い改め、忘れないことは大事だ。それがわかっているのならば、そなたはこれからも人をまとめていけるだろう。」

会話を終え、心配しているであろうロイの待つ部屋に戻る。その途中、星満点の夜空を仰いだ。
お姉ちゃん、お義兄ちゃん・・・ずっと見守っていてね。あたしは、あたしのできる限る精一杯がんばるから。アリスを、イリアを育てていくから・・・。だから・・・。あたしはもううつむかない。
もうあたしは昔の甘ったれじゃない。変わったあたしをずっと見守っていてね・・・。



15: 27章:闇を照らす光:05/08/09 14:51 ID:E1USl4sQ
「母さん? 父さん? ねぇどこへ行くの?」
アタイの問いに答えることもなく、両親がすぅっと消える。待ってよ!・・・意識が遠のいていく。
「う、うん・・・?」
「クリス! あぁ・・・よかった。無事で。」
「あれ、アレン・・・なんでアタイはこんなところで寝ているんだい? ここはどこ?」
「君はあの戦いの後倒れたんだよ。応急措置が早かったから良かったものの、もし遅れていたら命に関わっていたらしい。・・・君なら大丈夫だと信じていた。」
「そうかい、それは情けないところを見せたね。」
「無事で何よりだ。・・・喉が渇いただろう。何か飲み物を取ってくる。」
そういってアレンは走って出て行った。クリスはマチルダとの戦いを思い出していた。
自分の両親を葬った憎い相手。仇をとったとは言えトドメをさせなかった悔しさは今でも昨日のように鮮明だった。
「よぅ、流石だな。あれだけ怪我だらけだったのにもう起きてやがる。」
「ディーク・・・。心配かけて悪かった。」
「あ?誰が心配するかよ(笑) どうせ殺しても死なないだろ。」
「なんだって!? どういう意味だ・・・・いたたた。」
「ははは、お前はちょっと怪我してたほうが大人しくていいぜ。」
「怪我が治ったら・・・覚えてろ・・・くぅ。」
「クリス。」
「なんだい。」
「俺に侘びを言うなら、アレンに言え。あいつはお前が寝ている間ずっとお前を看病していた。
寝る暇も訓練する時間も惜しんでな。」
「な・・・。」
「さぁて俺はルトガーと稽古でもしてくるわ。前の戦いじゃ全然役に立てなくて給金がやばいぜ畜生。」
窓の外を見ているとディークがルトガーと剣の練習を始めた。向こうを見るとシャニーが団員に何か指示している。あいつには笑顔が戻ってた。周りには常に団員がいっぱいいる。慕われているんだねぇ。 あいつの周りにいる団員達も笑顔だ。まるでオセロのようだ。あいつが来ると皆くるっと表情が笑顔になる。なんか心が和むねぇ。
「クリス、お待たせ。絞りたての栄養たっぷり野菜ジュースだ。」
「や、野菜ジュースて。それじゃ喉の渇きを癒せないだろ? 冷たい水が欲しいよ。」
「そうか、一日でも早く元気になれるかと思ったがすまん。もう一度行ってくる。」
「あぁ!いいよ。それより・・・。」
「うん?何だ?」
「ありがとう、寝る間も惜しんで看病してくれたんだって聞いたよ。本当に、ありがとう。」
「いや、当然の事だ。君は俺にとって大事な人だからな。」
「・・・。」 クリスが下を向いて黙り込んでしまった。
「ん? クリスどうした! まさかどこか傷でも開いたか?!」
アレンがクリスの肩を持って下から見上げた。クリスは泣いていた。男勝りのあのクリスが泣いていた。
「どうした?」
「いや・・・大切だって言われてうれしかっただけさ。アタイは今までずっと一人だったからね・・・。」
「そういえばマチルダは君に両親の元に送ってやると言っていたな。」
「アタイは孤児だったさ。アタイの両親も今のアタイが所属している組織に与していた。
その戦いの最中で、両親はマチルダに殺されたのさ。やっぱり卑屈な手段を使われてね。」
「・・・。そうだったのか。」


16: 手強い名無しさん:05/08/09 14:53 ID:E1USl4sQ
「ああ・・・。だからアタイは誓った、大きくなったら復讐してやると。今までその事だけを考えて今まで鍛えてきた。リーダーの言った、平和の為に行動する事、という言葉も二の次になっていたかもしれない。いつの間にか、マチルダへの憎しみはハーフへの憎しみに変わっていた。」
「大きくなったら・・・? 両親が殺されたのは何百年も前なのか?」
「いや。竜族が長命なのは、竜石に自らのエーギルを封印して、少しずつ解放するからなんだ。
それをしなければ人間と同様、いやそれ以上に長生きは出来ないよ。あんたが仕えている主の奥さん、あのお方だって氷竜だけど、早死にしてしまっただろ?そういうことさ。」
「ちょっと待て。君は・・・君は自分の命を削ってまで復讐を・・・? 何ということだ。」
「いいんだよ。長生きし過ぎたっていいことなんてないさ。それより有意義な人生をギュッと圧縮したような短い人生のほうがアタイはいいよ。」
「クリス・・・。」
「あんたと一緒になれたし、このまま竜石を捨ててしまったって構わないとすら思っているよ。」
「そうか、俺も君と一緒ならこの先どうなろうと構わないと思う事もある。だが・・・。」
「だが?」
「だが俺はフェレに仕える騎士だ。主を守ることは命よりも大事だ。それはわかって欲しい。」
「あぁ、わかっているよ。今までどおりがんばっていこう。・・・この竜石を捨てるのは、戦争が終ってから、そう決めたよ。」
「ありがとう。戦が終れば必ず幸せにしてみせる。それまでは辛抱してくれ。」
二人はお互いを認め合った。種族の違いなどもはやどうでも良かった。種族にこだわるその心が差別を生み、ハーフの暴挙を引き起こす原因にもなった。だから、もっと広い視野でものを見てみよう。妙なしがらみに囚われないで生きていこう。クリスはそう誓った。

イリアの復旧はまだまだ始まったばかりでいつ終るかは分からない。しかし、主要な拠点を持たないロイたちにとっては、公女が自軍と密接な関係があるし、エトルリアより重要な拠点になりうる場所であった。ロイ達はイリアからリキアへは向かわず、直接ベルンへ向かう予定だ。ベルン軍に加え、祖国のかつての盟友の大半が敵となってしまっている以上、いくら神竜や英傑揃いでも正面からの戦いは勝ち目が薄い。そこで前のベルン動乱と同じように、封印の神殿を経由して王都へ向かう予定だ。しかし
王都にはアゼリクス、マチルダ両将軍が残り、リキアでは五大牙の長、グレゴリオが目を光らせる。
グレゴリオはエトルリアという大駒が利いているため、そこまで大きな行動には出られないにしても、一人でも厄介な将軍二人を相手にすることは非常に危険であった。しかし、ロイが封印の剣さえ手に入れれば、もはや敵う相手はいない。天にも届く力を手に入れられる。問題はファイアーエムブレムをどうやって手に入れるかであった。その宝珠は王都ベルンにある。入手は困難を極めるが、手に入れなければ勝利は厳しい。今回は神将器もないのである。


17: 手強い名無しさん:05/08/09 14:54 ID:E1USl4sQ
ディーク達は互いに剣をぶつかり合わせる。いつも以上になぜか力が入る。
「おい、ルトガー。」
「なんだ・・・?」
「お前、この戦いが終ったらどうするつもりなんだ?」
「お前と同じだ・・・。」
「へっ。」
ディークは団員達と一緒にいるシャニーのほうを見る。向こうでは騎士団に新しく入ってきた新人達が
槍の練習をしていた。誰を見てもまだまだ下手で見ていらいられない。
「そんなんじゃダメダメ! もっと腰を入れて! こうやって体使って槍は使わないと!」
シャニーが団員の槍を取り上げて実演してみせる。するとロイが血相を変えて走り寄ってきた。
「シャニーっ! ダメだよ! 君は槍なんか持っちゃ。振り回すなんて持っての他だよ!
お腹に赤ちゃんがいること忘れてないかい!? ・・・気をつけてね。君の無茶は赤ちゃんにも響くよ。」
「あ゛!そうだった。 ごめん〜。」
「えー! 団長妊娠なさっていたんですか! 酷いですよ、私達に黙っているなんて。」
「そうだよ、水くさい。あんたは部屋に戻って書類に目を通しておいでよ。」
「えー。あたしは体動かす方が好きだもん。でも、いまはしょうがないか。あー、それでも
頭脳労働はなぁ・・・。ねぇルシャナ、お願い、手伝って?」
「はぁ・・・。しょうがない団長だ。」
「私が見ているから言ってらっしゃい。ルシャナ。」
そこに現れたのはティトだった。団員はあの伝説の団長に指導してもらえると知ってはしゃいでいる。それを見て二人とも部屋に戻っていった。
「元気だな、あいつら。」
「俺達はロイ達に剣を捧げた。例え傭兵でも・・・信じたもののために命をかける。
もう俺は復讐の為に・・・人を殺すだけの俺ではない・・・。これからは信じるもののために剣を振るう。そう決めた・・・。」
「へぇ、お前の口からそんなクサイ台詞が出るとは思ってもみなかったぜ。
俺も・・・まだ死ぬわけにはいかねぇ。あいつが幸せを手に入れるまではな。」
「ふっ、自分のことは後回しにしてか?」
「バカ言え(笑) 俺には女は似合わねぇよ。あれだ、人生独身のうちが華というだろ?」
「ふ・・・。お前は死なせない。お前を倒すのはこの俺だ。」
ベルンとの直接対決は死闘を避けられないだろう。しかし、死ぬわけにはいかない。
皆理由こそ違えど、この戦争で死ぬわけには行かなかった。その先の光を手に入れるために。


18: 手強い名無しさん:05/08/09 18:24 ID:nC.ZLwuE
乙です。
意見としては(笑)や(涙)は流石に使わない方がいいと思う。メールやネットカキコじゃないんだし、
良い場面なのに萎えてしまう。会話の流れでキャラの表情掴めてるときもあるし、仮にも小説なのだから
きちんと台詞や地の文で描写すべきかと。
ストーリーはまだまだ先が長そうなので感想は保留。
意外性のある展開は面白いし、それをどう畳むのか…続き楽しみにしてます。




19: 手強い名無しさん:05/08/09 22:53 ID:9sML7BIs
ご指摘ありがとうございます。
今度から気をつけてみます。
親族が亡くなってしまわれたので、少々更新が滞るかもしれませんがご了承願います。

20: 手強い名無しさん:05/08/09 22:58 ID:9sML7BIs
一応キャラ紹介。1部では多分登場の機会はあまりないですけど

グレゴリオ(♂ ジェネラル)
五大牙の長。騎士道精神に溢れ、仲間には優しく時には厳格、敵には鬼神のように対峙する。
全ての攻撃を無効化する秘技を持つ。

21: 28章:忠義の果てに:05/08/11 22:29 ID:9sML7BIs
半年が経った。エトルリア、イリアを奪われたベルンはそれ以上の侵略行動を見せず、まるでロイ達をベルンに招き入れるかのような沈黙を保っていた。リキアを支配するグレゴリオ大将軍はイリア、エトルリア双方ににらみを利かせていた。そのため復旧の終ったエトルリアも容易に手を出せずにいた。
一方ロイ達の駐留するイリアも、大方の復旧は終わり、後は政治基盤の確立のみが課題として残っていた。本当は王族直系のアリスが女王としてまとめていければそれが一番だが、アリスはまだ物心付いたばかりの子供。そして王族のアリス以外で唯一生き残っているシャニーもリキアへ嫁いでしまうとなれば、アリスが成人するまで一体誰が国をまとめていくのか、という難題が最後の最後まで解決しない事もいたしかたがなかった。
「私は、各騎士団の代表者が集まって、意見をだしあう事が一番だと思う。」
「リキアと同じか。しかし、それだと召集に時間がかかり、迅速な判断が出来ない可能性がある。」
団長代理のルシャナや他の自衛騎士団が集まって連日会談をしているが、なかなかまとまらない。
「俺は・・・俺は騎士団のえらい奴だけで政治を決めていてはいけないとも思う。力を持たない民が何を求めているのかを知るには、政治に民を導入する事も検討したほうが・・・。」
「ラルク、お前の言う事は尤もだが、それをやるとそれこそ意見が割れて身動き取れなくなってしまうぞ。・・・本当はシャニーに残ってもらうのが一番なんだが・・・。」
「あいつはダメだよ。あいつにはフェレに嫁いでしまうし、フェレも今占領されている。あいつは今度はフェレで頑張らないとダメなんだ。負担はかけられないよ。」
「やはりエトルリアに倣って官僚制を導入するのが一番か・・・。権力欲に官僚が燃えて政治腐敗を引き起こさなければ良いが・・・。」
やはり強力なリーダーシップを失うと、それを補うのには相当な時間がかかる。アリスが大きくなるまで、エトルリアの保護区になってしまうのが一番安全だが、それは独立国家として最も恥ずべき汚点。
リキアもかつて保護区になって辛酸をなめた経験がある。その経験を踏まえても、その選択肢は誰も頷かなかった。
ルシャナが団員の元へ戻る。そこにはティトのほかにシャニーもいた。
「ふぅ、会議も連日となると疲れるわー。」
「おかえりールシャナ。お疲れ様。」
「あんたさぁ、じっとしていなさいってば。そんな大きいお腹してたらみんなの邪魔でしょ。」
「だって、皆が心配なんだもん。あたしは応援役。がんばれー。」
「私はあなたが一番心配よ・・・。お願いだからうろうろしないでちょうだい。はぁ心配だわ。
あなたの事だから、“おいしいからー”とかそんな理由で赤ちゃんに焼き菓子とかあげたりするかもしれないし・・・。」
ティトが母親としての自覚に欠ける妹を不安げに見た。昔から自由奔放な妹だ。年相応に落ち着いたとは言っても、自分から見ればまだまだ子供。そんな妹のお腹にも赤ちゃんがいる。ティトにとっては自分のお腹に赤ちゃんがいたときよりも心配だった。
「なによー。そんな事するわけないじゃない! まったくそれを本気で考えて心配しているんだからお姉ちゃんにも困ったものよ。もう子供じゃないんだからね、ぷんぷん!」
「私から見れば十分子供です。お願いだから無茶苦茶なこと言ってロイ様を困らせないでね?
そろそろ剣術や魔術より、貴族としての礼儀作法とか勉強しなきゃいけないでしょ? さ、早く部屋に戻って勉強してきなさい。」
「うへぇ・・・勉強かぁ。」
シャニーがとぼとぼと部屋に戻っていく。先ほどまでの元気とのギャップが妙に笑える。
「ところで、ラルクとはまだ恋人止まりなの?」
「え!? 師匠がそういうこと聞いてくるのって珍しいですね。もう付き合い始めて5,6年経ちますね・・・。シャニーのあのお腹見てたら、私もそろそろ子供が欲しくなってきました。でも、今は国が大事な時期だから・・・。」
「あなたもそろそろ自分の幸せを考え始めたほうがいいわよ。いつ離れ離れになるか分からないのだから。」
「え、縁起でもない事を・・・。いやですよぉ、師匠。」
「でも事実よ。私達の両親だって、ある日突然いなくなってしまったわけだし。後悔してからでは遅いわよ。ラルクはそういう話苦手なんだからあなたからリードしないと。」
「そ、そうですね。分かりました、今から言ってきます。」
ルシャナは言い終わりもしないうちに走っていってしまった。素直なのはいいが早合点が玉に瑕だ。
ティトはふふっと笑みをこぼしながら自分の後輩を見送った。
平和に時が流れている。少なくともイリアは皆が光に向かって闇から抜け出した喜びでいっぱいだった。


22: 手強い名無しさん:05/08/11 22:30 ID:9sML7BIs
そこらじゅうで笑い声が聞こえ、国民はロイとシャニーの間の子供を炎の天使と言って生まれる前から賞賛していた。皆が、この戦いをロイ達の勝利で終わり、エレブ大陸に再び平和が戻ると信じて疑わなかった。それが本当にそうなるのかは、今の時点では神のみぞ知る領域である。

その頃ベルン城では、二人の竜騎士がギネヴィアと相談をしていた。
「これだけ申し上げても分かっていただけないのですか、ギネヴィア様!」
「くどいですよ、ミレディ。決定に変更はありません。」
「しかし、他国民を虐げてまで自国の発展を望むなど、とてもギネヴィア様のお言葉とは思えません。
一体何があったというのです!」
「そうですよ。前の戦争の時は各国との共存を願い、和解の道をお選びになられたではありませんか。
前王を・・・祖国を裏切ってまで!」
「ツァイス、お止しなさい!陛下への無礼は許しません。・・・しかし、本当に何故突然方針をお変えになられたのですか。お願いです、もう一度、もう一度だけでも思いとどまって再考を・・・。」
「くどい、決定に変更はない。・・・あなた方は勘違いをしていませんか?
あなたたちは私の部下。その部下が私に説教などと、何か考え違いをしていませんか?」
「それは・・・差し出がましいことを申し、誠に申し訳ございません。しかし・・・。」
「しかし?」
「何故そのように突然お考えを変えられたのか、私には分かりません。どうかその理由それだけでもお答え願えませんでしょうか。」
「理由・・・? 簡単な事です。ベルンの発展の為ですよ。国が乱立しても、困るのは民です。
それならば余分な差別のなくなるように、国という境をなくしてしまったほうがいいではないですか。
無能な国は淘汰される。・・・当然の流れでしょう。民も喜びますよ。」
「な!? そんな!」
声を荒げ、今にも怒りが爆発しそうなツァイスを抑え、ミレディが返した。
「戦争をして一番悲しむのは、力を持たない民です。・・・先のイリア戦でも、無抵抗のイリア人を殺戮したとか。しかもマチルダ将軍直々の命令で。目的はシャニー公女をおびき出す為と言っていましたが・・・。民のことを考えているのに、なぜ無抵抗の民を殺す必要があるのですか!?」
「改革に犠牲はつき物です。それが分からない者には消えてもらうしかないでしょう。例えばロイ殿・・・。他の者は知りませんが、ロイ様だけは分かってくだされば幹部に取り入れて差し上げるのに・・・。」
「やはり・・・。」
「なんですか?」
「やはりディーク殿の仰っておられた言葉は本当だったのですね・・・。」
「?」
「私の主に化け、世界を混沌に導く悪魔・・・。私の主をどこへやった!」
「・・・ほう・・・知っていたのですか。・・・ならば語ることは何もない。この場で死んでもらおうか!」
「!?」
「お前達は劣悪種である人間でありながら、その働きは目を見張るものがあった。今まで存分に働いてくれて礼を言うぞ。不要な事を知らなければそのまま幸せに生きていけたものを。」
親衛隊が集まってくる。囲まれたら二人では手も足も出ない。二人とも逃げた。かつてロイ達が城から脱出した時のように。
立ちふさがるものは全て二人で片付ける。ベルンでも屈指の竜騎士の二人だ。流石に強い。
なんとか竜に乗り、城から脱出した。
「姉さん・・・。元気出してくれ。」
「えぇ・・・。」
どんな理由があれ、二人は祖国から追われる立場になった。今まで命をかけて守ってきた国から、そして主から突然破門を突きつけられたのである。ショックは大きかった。
「しかしこれからどうしようか。俺達は追われる身になった。」
「わからない・・・。」
「これからも何も、ここで死ぬのですよ。劣悪種共!」
突然の声。ギネヴィアが後ろから追ってきていたのである。その背中には・・・漆黒の翼。
「な!?」
二人は森の上を低空飛行して振り切ろうとした。しかし、相手も速い。飛竜を持ってしても追いつかれそうだった。
「ふふっ、驚きましたか。冥土の土産に教えてあげましょう。私の真の名はメリアレーゼ。メリアレーゼ・フェンリルだ。」


23: 手強い名無しさん:05/08/11 22:30 ID:9sML7BIs
ギネヴィア・・・いやメリアレーゼが閃光に包まれる。そして、真の姿を現した。
純白のドレスに漆黒の翼は妙に妖気を漂わせる。ギネヴィア同様美しい女性だが、その目は狂気に満ちている。その姿はまさに堕天使と言ったところか。
「ははは、驚いたか劣悪種よ。貴様らには過ぎたおもちゃだが、私の必殺魔法を受けてみよ!」
メリアレーゼにエーギルが集まる。そのエーギルはたちまち邪念に満ちた凄まじい流れを作っていく。
体が重い。まるでその流れに吸い寄せられるようだ。それをツァイスは感じ取った。すぐ下は深い森。
この中に隠れれば追撃を防げるかもしれない。しかし、もう時間がない・・・。
「姉さん!」
そう言ってツァイスはミレディを飛流から突き落とした。
「!? ツァイス!」
「ははは、死を前に狂ったか。血のつながった姉を自らの手で突き落として殺すとは・・・。
まぁ賢明な判断ですね。私の魔法は非情なまでの苦を相手に与える。あなたは幸せ者ですよ・・・
なんせ私の魔法を喰らって死ねるのだから。さぁ!受けろ!我が最終奥義。究極の暗黒魔法
ダーク・マトリクス!」
その邪気と怨念を押し固めたようなエーギルの塊が、凄まじいスピードでツァイスを包んだ。
重い、とてつもなく重い。その怨念に押しつぶされる。
「ぐあ・・・。」
「どうですか、私の魔法は。その魔法は、冷遇され、差別されて惨めな最期を遂げた我が同志の怨念を
召喚したもの。どうあがこうと、その者達の苦しみと叫びに食われていくのだ。じっくり、時間をかけてな・・・我が同志の苦しみ、今こそ味わえ!」
「ね、姉さん・・・俺は・・・姉さん・・・後は・・・頼む・・・。」
下の森ではミレディが一部始終を見てしまった。木に引っかかり、たいした怪我もせずに済んでいたのである。ツァイスは姉を庇ったのであった。
「ツ、ツァイス・・・。」
目の前の光景が信じられない。弟を助けに行こうとしても体が動かなかった。
「ふっ、こんな雑魚ではあくびが出る。魔力の無駄だったが、まあ良い余興だ。」
メリアレーゼはそう言って城の方に飛んで帰って言った。

「ツァイス! どうして!?」
「ああでもしないと・・・二人とも死んでいた・・・。」
「だからってどうしてあんな無茶を!」
「姉さんなら、ギネヴィア様を取り戻せる・・・。後は・・・頼んだ・・・」
「ツァイス!!・・・あぁ・・・ツァイス・・・。」
祖国を追われ、たった一人の弟も失った。何故、何故こうなってしまったのか・・・。しかし、泣いている暇はなかった。ベルンからは討伐隊が出て自分を追い回してくる。その後ミレディは各地を逃走することになるが、その行方を知るものはいない。
ベルンの中でも、ギネヴィアのやり方に不満を漏らすものは多かった。しかし、不満を漏らせば即、処刑されていった。ベルン軍はハーフと、処刑を恐れやむなく従う人間だけとなった。極度の思想統制のなかで、現状に疑問を持つ心を失っていったのである。メリアレーゼの望む世界とは、ハーフが差別されない世界、というだけではなかった。疑問や迷いをはじめとする、感情そのものを捨てきり、自分への忠誠を絶対とする国。その兵器と呼んでも過言ではない臣民を持って世界を支配しようと目論んでいるのである。劣悪種は優越種である自分達が発展する為の道具であり、人として見ていなかった。
しかし・・・それだけではない。彼女の野望は留まる事を知らなかった。彼女は絶対的な忠誠を得る為に、絶対的な力が必要だと考えていた。メリアレーゼにとって人間は、数だけの無能な種族であった。しかし、竜族は同じ劣悪種でも違った。彼らの強力な力を求めたのである。その結果、マチルダやアゼリクスの研究に援助し、将として自分の配下に置いているのである。彼女の狙う力とは・・・それはわからない。
そして、マチルダやアゼリクスが竜石を研究する真の目的とは・・・全ては未だ降り積もるイリアの雪の如く、不安を募らせるのみで真相は見えなくなるばかりであった。
英雄達は、最後の戦いを迎えようとしていた。若者達が夢を希望をそして未来をかけて、大陸を覆わんとする闇に直接戦いを挑もうとしている。その結末が、どのようなものになるかも知らずに。いや、知っているのかもしれない。彼らは勝つ。勝たなければならない。勝たなければ世界はそこで終わる。エレブが終れば、エレブと繋がっている別世界も、いずれ崩壊する。
新エレブ暦1012年。
全世界の未来はこの一戦にかかっていた。


24: 29章:暗黒の女帝:05/08/12 12:01 ID:E1USl4sQ
ロイは今後の作戦に頭を痛めていた。やはり、ファイアーエムブレムの入手方法であった。
進軍行程を見ても、封印の神殿を経由してベルン城へ乗り込むというのが一番スムーズである。しかし、ファイアーエムブレムはベルン城にある。ベルン戦で必要になるものが、ベルン城内にある・・・一体どうすれば・・・。ロイは考え込みながら部屋に戻ってきた。部屋ではシャニーが、生まれて1ヶ月もたたない娘に乳を与えていた。
「あ、おかえり。ロイ。」
「ただいま。あぁ、どうしようか・・・。」
「・・・ファイアーエムブレムのこと?」
「うん。あれがなければ今回はかなり勝ち目が薄い。しかし、それがあるのはベルン城。どうにかならないものか・・・。」
「ねえ、ロイ。」
「なんだい?」 ロイが娘を撫でながらシャニーを見る。
「クリスとも相談したんだけど・・・。あたし達二人で先にベルン城に忍び込んでファイアーエムブレムをとってくるって言うのはどうかな。夜ならきっとばれずに忍び込めるよ。」
「なっ。だめだよ! 君はまだ子供を産んで間もないんだから。それに、そんな単独行動をしたら危険だ。君にはそばにいて欲しい。クリスだってアレンが心配するだろう。彼らにだって子供がいる。もし彼らや君に何かあれば、子供達が可愛そうな思いをすることになるんだよ?」
「わかってるけど・・・。でも、そうでもしなければ手に入らないよ。それに・・・どのみちこの戦いに勝たなければあたし達は・・・。危険かもしれない、それはわかってる。でも、勝つためには誰かがやるしかない。その適任者はあたし達だよ。子供達に良い世界を残してあげる為にも、あたしはがんばる。ロイだって・・・分かっているんでしょ?それしか方法はないって事・・・。」
「・・・しかし・・・。」
「だーいじょうぶ! きっとうまくいくって! きっとうまくいく・・・信じて。
だからロイ達は、その間に封印の神殿を攻略して。ロイ達ならできるって! ね、そんな顔しないでさ。
ほら、笑って笑って。」
「うん。ありがとうなんだか気が楽になってきたよ。また君に助けられたね。」
「だってあたし達夫婦でしょ? まだ式は挙げてないけど・・・。 お互い助け合って当然じゃない。
それに・・・お姉ちゃんの悲劇あったとき、あたしがうつむかないで居られたのは、いつもそばにロイがいて、あたしを抱いてくれていたからなんだ・・・。だから、その恩返し!」
「そうだね。これからも助け合っていこう。君と一緒になれて本当に良かった・・・。」
二人が抱き合い、口づけしようとしたその時だった。
「あー。ここにいたー。ねぇお姉ちゃん遊ぼうよぅ!」
「・・・。」
「・・・。」
「あれぇ、二人ともどうしたの? 急に静かになっちゃって。うわー、セレナちゃんかわいいー。」
アリスだった。せっかくのいい雰囲気が台無しに・・・。
「あはは・・・ふぅ・・・。よし、じゃあ出発も近いし、今日は手料理でロイを励ましてあげる!」
「お、シャニーの料理か。今晩はご馳走だね。」
夫婦水入らずとはいかなくなったが、二人はこのひと時を大切にした。もう二度と、二人笑顔で夕食を取れることがないかもしれない。この幸せを戦後も続けられるように祈った。

アレンが部屋に帰ってきた。クリスが鎌の素振りをしている。
「おいおい、俺に部屋の中で素振りをするなと言ったのは君じゃないか。どうしたんだ、急に。」
「あ、おかえり。だって、今度が最後の戦いだろ? なんだか心配でね。」
「あの作戦がか?」
「ああ。いくらアタイたちでも敵の本拠地に乗り込むんだ。ちょっと間違えれば死ぬ。
アレン、アタイが死んだ時は・・・子供のこと・・・。」
「死ぬな。死ぬ事は許さないぞ。約束したはずだ。君を幸せにして見せると。だから戦が終るまでは辛抱してれと、そう言ったはずだ。・・・死ぬなよ。」
「わかってるさ、そんなこと! 死ぬわけには行かないよ。せっかく手に入れた幸せだもの。」
アレンは自分の妻と一緒に行ってやりたかった。しかし、自分には翼はないし、ロイを助けるという重大な使命が託されている。自分の役割をしっかりこなさなければ・・・。
「しかし、敵将はどういう奴なのだ。異端者という風にしか聞いていないのだが。」
「あぁ、後でロイ達も集めて話すよ。あいつは・・・危険な召喚術師だ。」


25: 手強い名無しさん:05/08/12 12:02 ID:E1USl4sQ
今日もルトガーとディークは稽古をしている。お互い真剣な眼差しだ。この戦いで敗北すれば、世界は終る。いくら傭兵といっても自分達が世界の命運を握っている。そう考えるとおのずと力が入る。
ロイ達は家庭があり、子供もいる。そういった幸せを手に入れた者たちに負担はかけられない。
戦いは自分達のような独り者ががんばらなければ・・・そういった気持ちが強かった。
「おい、ルトガー。お前この頃しっかり寝ているか。」
「いや、この頃寝ずの番が多いな・・・。」
「しっかり寝ておかねぇと戦いで真価を発揮できねぇぞ。」
「わかっている・・・。しかし、俺はあいつに剣を捧げた・・・。その捧げた主に何かあっては、俺の気持ちが許さない・・・。」
「大丈夫だ。俺に、もうロイに任せろといったのはお前だぜ? 俺だって心配だが、今回もどうしてやることもできねぇよ。俺達ができる事は、ただ眼前の敵を斬り捨てるだけだ。」
「わかっている・・・。俺の全てをこの戦いにかける。」
「俺もだ。お前、この戦争が終ったらどうするんだ?」
「知らん・・・。」
「へっ、お前らしいな。 俺はどうするかな。しばらく傭兵を辞めてゆっくりするか。」
「それは許さん・・・。お前を倒すのはこの俺だ。次ぎ合う時は戦場だ・・・。」
「おいおい・・・。」
またお互い剣をぶつけ合い始めた。まるでお互いの気持ちを確かめ合うかのように。
双頭の戦神が闇を切り開く。その先の光を目指して。


26: 手強い名無しさん:05/08/12 12:03 ID:E1USl4sQ
「あなた、いよいよですね。」
ティトがクレインに寄り添い、話しかけた。
「ああ、この戦いの終焉が、そのまま平和を導いてくれればよいが・・・。」
「どういうことですか?」
「別世界で差別されてこちらの世界に乗り込んできたと聞く。ということは、このまま首謀者を倒しても、同じ悲劇が繰り返される可能性もあるということだよ。」
「それは・・・そうですね。何か良い方法はないものでしょうか。」
「どうなんだろう・・・。戦いは悲しみと憎しみを生むだけだ。だから、私は会話による和平の実現を望んでいるんだよ。ロイ様にもその事は話した。ロイ様もそれが本当は一番だと仰っていた。
だけど・・・やはりここまできては難しいのだね。言葉による平和は限界があるということなのか・・・。
やはり改革には犠牲がつき物なのか・・・。」
「あなた・・・。私はあなたやロイ様の考えが間違えっているとは思いません。
しかし、こちらの想いを分かってくれない、聞く耳を持たない人もいます。その人達にどうやって気持ちを伝えるかが問題なんですよね・・・。でも、改革に犠牲がつき物だなんて・・・きっといい方法があります。それを考えていくのが、私達の役目だと思います・・・。」
「そうだね。まずはこの戦いに終止符を打つことが先決だね。私達もがんばろう。」

「みんな集まったかい?」
クリスが皆を集めた。
「クリス、ギネヴィア様にとり憑いているという敵将はどういった人なんだい?」
「ああ、あいつはアタイらの世界のハーフだけの国の女王さ。ハーフだけの国といっても、隔離する目的で無理やりそこに集められたといったほうが正しいかもしれないけど。」
「そんな・・・。君達の世界では酷い差別があるんだね・・・。」
「ああ。名前はメリアレーゼ・フェンリル。建国当初は統率力のある優しい賢者として有名だったよ。
人間族もハーフでなければ、といつも嘆いていたさ。」
「そんな大物が何故?」
「人間族が・・・『優良種の保存』を名目にハーフへの差別と虐待を激化した事から始まった。
ハーフを殺しても罪にならない、などの明らかにおかしい法案が法律化して行ったのさ。」
「な! そんな・・・酷すぎる。 竜族は何もしなかったのかい!?」
「竜族の長は見て見ぬ振りをしていた。世俗世界には関わってはいけないという考えが根付いていたからね・・・。しかし、それがあの悲劇を生んだ・・・。」
「悲劇?」
「ああ。メリアレーゼのたった一人の肉親。双子の妹を人間に殺されたのさ。その時から、メリアレーゼは狂って行ったと聞いている。」
「そんな・・・! じゃあ、メリアレーゼだけが悪いというわけじゃないんじゃない!」
「ああ、そうだよ。あの差別意識を何とかしなければ、悲劇は繰り返される。」
「だからといってこちらの世界を支配しようと考えていいわけではない。我々は我々の世界を守る義務がある。」
ダグラスが同情に浸る若者達をたしなめる。確かに別世界も救いたい、しかし、今は自分達の世界が危機なのである。順序を間違えてはいけない。
「そうですね。クリス、相手はどういった力の持ち主なんだい?」
「あいつは・・・人と・・・破滅の種族と恐れられる暗黒地竜族のハーフさ。かなり強力な力を持っている。特に奴の召喚術は危険だよ。」
「召喚術? 魔法とは違うの?」
「ああ、あんたの使う魔法は、周りのエーギルを集めて一気に放出するタイプだろ?召喚術というのは
異界から異形なるものを、その名の通り召喚して攻撃するのさ。」
「ふーん・・・よくわかんないけど、すごいんだね。」
「なんだいその言い方は・・・。まぁ、そう言う事。危険だよ。」
「じゃあ・・・君やシャニーはやはりかなり危険な賭けに出るということなのか・・・。やはり他の方法を探したほうが・・・。」
「いや、もうこの方法しかない。アタイたちもあんた達の出陣と共に出発する。夜を狙って侵入するからね。封印の神殿は任せた。」
「ああ、任せろ。封印の神殿前はかつて戦った経験がある。地形も頭に入っているし、何とか大丈夫だろう。」


27: 第一部 終章:運命の扉:05/08/12 12:05 ID:E1USl4sQ
「ろ、ロイ様!!」
偵察に出ていた使者が戻ってきた。その慌てぶりは尋常でない。
「どうしたんだい、そんなに慌てて。まさか相手から動いてきたのか!?」
「いえ! しかし、封印の神殿に・・・リリーナ様の姿が!」
「な、何だって!?」
「はい、どうやら封印の神殿を守る将に囚われている模様です。そして・・・敵の将が・・・。」
「将が誰なの?」
「マードック将軍です・・・。」
「あ? お前、夢でも見たんじゃねぇのか!? マードックって行ったら前の戦争で戦死したはずじゃねぇか。」
「そうなんです。私もそう思ったのですが・・・。あれは間違いなくマードック将軍でした。」
「そんなバカな・・・。」
「アゼリクスだ・・・。あいつは蘇生の大魔法を持っている。人間ぐらいエーギルの少ない生物なら
簡単に蘇生してしまう。多分あいつが蘇生魔法を使ったんだよ・・・。」
「なんということだ・・・。しかし、リリーナが生きているとなれば急がなければ危険だ。」
「ロイ殿、我々をおびき寄せる罠かもしれないのだぞ。それでも行くのか?」
「ダグラス殿、例え罠だとわかっていても、僕達には時間がありません。それに、ここまできて引くわけには行きません。もはや・・・時間はありません。」
「うむ・・・そうか。では我々も貴殿に最期まで付き従おうぞ。」
「ありがとうございます。よし、皆いくぞ! 世界に光を取り戻す為に!」
今ここに、最後の戦いが始まった。行き先は勝利か敗北か、生か死か。
敵はベルン正規軍。その実力と兵量は大陸屈指のものだ。
勝機が決して高いとはいえない戦いに、彼らは挑む。若者達はそれぞれの想いを胸に。


28: 第一部 終章:運命の扉:05/08/13 13:38 ID:E1USl4sQ
「それじゃ、あたし達も出発するね。ロイ・・・きっと無事でいてね!」
「ああ、君達もどうか気をつけて。無茶は禁物だよ!」
シャニーとクリスは飛び立っていった。危険な任務を他ならぬ妻に任せてしまっている。
心境は今でも苦しかったが、今は彼女達の無事を祈ることしかできない。それよりも彼女達が帰ってくるまでに封印の神殿を押さえなければ。
封印の剣・・・かつて人竜戦役を終結させた8人の英雄−八神将−の長、ハルトムートが用いた剣。
戦後、そのあまりの力に人々が溺れるぬ様、ハルトムートはこの剣を封印した。その封印を解く為に必要なものが、ベルン王家の至宝、ファイアーエムブレムなのである。そして、封印の剣が封印されている神殿が、今マードック将軍のいる封印の神殿である。封印の剣は使い手を選ぶと言い伝えられてきた。
前のベルン動乱では、ロイは剣に選ばれ、封印の剣を振るい、戦争を終結させた。
今回も封印の剣がなければ勝ち目は薄い戦いだ。絶対に入手しなければならない。
「よし、全軍。制圧目標は封印の神殿だ! 無駄な戦いは避け、一気に進軍する!
シャニーたちが帰ってくるまでに何としても制圧するんだ!」
ロイの掛け声と共に討伐軍が進軍を開始する。山間のそこまで広いといえない道で容赦なく竜騎士が襲い掛かってきた。その目は、かつて竜殿でギネヴィアと共に現れた親衛隊と同じ・・・そうまるで人形のような、輝きのないものだった。敵を殺す事しか考えていない。
「ロイっ!こいつらを相手にしていたらキリがねぇぞ。」
「わかってる! でも、この多さでは倒していかなければいずれ囲まれて身動きが取れなくなる。
ドラゴンキラーで一気に切り崩していこう。」
ディークもルトガーも、かつてこれほどの大群をこの無勢で相手にしたことはなかった。
二人の戦神は息の合った剣術でどんどん進路を切り開いていく。その目には、ベルン兵にはない輝きがあった。信じるもの、守るべきもののために戦う。だからこんなところでは負けられない。
傭兵とか、種族とか、そんなものは関係ない。皆の目指すものは同じなのだから。
「エトルリアの勇士達よ、今こそ諸君らの力を最大限に発揮する時だ! 存分に戦ってくれ!
目標、敵竜騎士! うちかたはじめ!」
ダグラス配下の魔道士と弓兵が竜騎士を狙う。竜騎士は高い機動性とパワー、そして装甲を兼ね備えた
最強のユニットの一つだ。しかし、魔法と弓にはからっきし弱いという弱点も併せ持っていた。
エトルリアも大陸をリードする大国だ。ベルンのこれ以上の凶行は見ていられない。
そして、国には残した二人の俊英がいる。たとえ自分が倒れても、その二人ならエトルリアに再び栄光をもたらしてくれるはず。だから自分は命を張って思う存分戦う事ができる。ダグラスはエトルリア兵の指揮だけでなく、率先して前に出た。
流石に特攻攻撃を受けては大陸最強たる竜騎士も手も足も出ない。あっという間に撃ち落されていく。
その様はまるでトンボとりでもしているかのようであった。
しかし、これだけ激しく攻撃しても、なかなか前に進む事はできない。竜騎士だけでなく、戦闘竜もちらほら見受けられる。あれはきっと、竜化した人間に違いない。
「おい、ルトガー。ドラゴンキラーは温存しろ。竜に使っていかないともたねぇぞ。」
「く・・・っ。一体どれだけ沸いて出てくるんだ・・・。」
本当に数が多い。しかもどの兵も殺気に満ちた操り人形だ。無心に突撃してくる。
空中ではティトが巧みに遊撃していた。全てが本隊に向かえばたちまち囲まれてしまう。少しでも戦力を分断させる為には遊撃は必須だった。引退していた身とは言え、実践経験豊富なティトは効果的に戦力分断を行っていた。
「私だって!私だって、愛する家族の為に戦う。もう悩みたくない、後悔したくないから・・・!」
今妹が決死の覚悟で敵の本拠地に乗り込んでいる。あの甘ったれが立派に成長している。自分だって負けられない。しかし、その気合が空回りした。後ろを取られたのである。天馬騎士や竜騎士にとって、
同じ飛行系に背後を取られるというのはとても不利な状況を意味していた。後ろから容赦なく手槍が飛んでくる。このままではいずれやられる。しかし、なかなか振り切れない。
「ティト! スピードを上げるんだ!」
下から声が聞こえたような気がした。その声に導かれるままスピードを上げ、少し距離が開いた。その隙を見計らっていたのか、背後についていた竜騎士の竜に矢が命中する。
「ティト、危ないよ。あまり無茶はしないでくれよ。」
夫だった。天馬と射手の関係。普通なら相容れない関係だが、このように協力すれば何も恐れるもののないほど強力な関係だった。


29: 第一部 終章:運命の扉:05/08/13 13:38 ID:E1USl4sQ
「ありがとうございます。あなた。」
自分は一人じゃない。愛する夫や子供・・・守るべきものはいっぱいある。
そのためにも負けられない。
アレンは突撃したい気持ちを抑え、ロイの護衛に集中していた。
「ロイ様、私が護衛につきます。どうかご指示を。」
「ありがとう。でも、いつものように前に出ないのか?」
「その気持ちはありますが、私はクリスと約束したのです。彼女が帰ってくるまで、敵にはロイ様へ指一本触れさせない、と。」
「そうか、でもアレンが一緒なら心強いよ。僕達も前に出よう。将だからって後ろで見ているというのは性に合わないよ。」
「は、ロイ様なら・・・そう仰っていただけると信じておりました。しかし、ロイ様が倒れれば我が軍の負けです。私が出来るだけ前に出ますので、ロイ様はその後から・・・。」
「いや、僕も前に出る。皆目指すものは同じさ。僕だけ後ろからというのは・・・いやだ。それに、君にだって家族がいる。僕も家族がいる。お互い死ぬ事はできないんだ。だから、身分とか、そんなことはこの際考えないようにしようよ。ここではお互い戦友。それでいこう、ね?」
「ロイ様・・・。わかりました。ではいきましょう!」
二人もディークたちのいる前線に出て行った。身分など関係ない。目指すものが同じ同志なら一緒に戦ってこそ力になる。ロイ軍は次第に封印の神殿に近づく。最初は面食らった竜だが、ベルン動乱を鎮めた英雄の集まりだ。それに特効剣をあわせれば、怖いものはなかった。
盆地の村付近まで進軍したところで、ロイ達の進軍は一日目を終えた。
「・・・ロイ将軍。また相対する日が来るとはな・・・。ゼフィール陛下の仇、今こそ取らせてもらうぞ。例え容を変えようとも・・・。」
やはりマードックはアゼリクスから蘇生術を受けていた。アゼリクスを持ってしても、強い意志を持つ人間でなければ蘇生はできない。マードックのゼフィールへの忠誠心はそれに十分足りるものだった。
マードックはかつてのベルン軍事のトップであった。そのマードックがロイに対し、怨恨の炎を燃え滾らせる。その目はろうそくの火に映が、何か死をも恐れぬ妙な輝きを持っていた。

その頃、シャニー達は王都に向けて森の中を飛んでいた。昼間の空を飛んでいればたちまち見つかってしまう。
「ロイ達・・・大丈夫かなぁ・・・。」
「なんだい、シケた面してるねー。大丈夫だろ?ディーク達だって付いているんだし。」
「それはそうだけど・・・。今回はディークさん達を回復してあげられないし・・・心配だよ。」
「あー。あんたらしくないね。それよりアタイたちがうまくやらなきゃロイ達が生きていてもどうしようもないんだよ。そっちを心配したらどうなんだい。」
「それは大丈夫、あたし達ならいけるでしょ。」
「ずいぶんサッパリ言ってくれるじゃないか・・・。まぁ、あんたらしいと言えばそれまでか。」
ひたすら王都を急ぐ。侵入は深夜だが、それまでにある程度情報も仕入れておくことが出来ればしめたものである。
その夜、ベルン軍人がよく集まるという酒場に入ってみる。中は軍人ばかりだったが、シャニーもクリスもいつものエーギルの波動とは違うことに気づいた。この、人間でも竜族ない、それらが融合した何ともいえない波動・・・。これはハーフのものだ。ベルン軍はやはりハーフが殆どのようであった。
二人は適当に空いている席に座って会話に混じってみた。
「お? 女騎士とは珍しいな。ねぇ、この後予定空いてる?」
「バカ、本城決戦があるかもしれないというときに何を言っているんだ。これだからお前は・・・。」
「うひゃひゃ、だってよぉ・・・。」
「ごめん、予定いっぱいなんだ。でも、これだけの兵力なら討伐隊なんてちょろいでしょ?」
「がーん・・・。予定いっぱいか。やっぱカワイ子ちゃんは手が回るのが早いな。」
「なんだい、アタイには用なしかい?」
「あれ、お前も女だったのか。」
「なんだってぇ!?」
「ひぃ、女のヒステリックは犬もくわねぇよ・・・。」
シャニーが殴りかかろうとするクリスを抑えた。
「お前という奴は・・・。確かに我が軍の戦力を持ってすれば楽勝かもしれないな。」
「ところでよぅ、なんかイリアの国王が幽閉されてるって聞いたけど、何で早く殺しちまわねぇんだ?」
「!! それっどういうこと?」


30: 第一部 終章:運命の扉:05/08/13 13:40 ID:E1USl4sQ
「な、なんだよ、急に。なんかよ、マチルダ将軍が捕まえたらしいんだ。今まで何の情報もなかったのに急に牢獄にいることが公表されてよ。」
「だから言っているだろう。戦力的に見れば楽勝かもしれないが、万が一という事がある。
そのときにそいつを人質として奴らに見せれば抵抗できなくなるだろ。少なくともイリア関係の奴らはな。ふふ、メリアレーゼ様も冷酷な人よ。」
「確かにこの頃変わっちまったよなぁ・・・。昔は美人で優しくて、おまけに辣腕で。あんな人にギュってされたら俺もう死んでもいいヤーと思っていたけど、この頃なんかなぁ・・・。」
「おい、親衛隊に聞かれたら処刑ものだぞ。お前たちも気をつけ・・・・ってあれ?」
もうそこに二人の姿はなかった。
「も、もしかして今のって親衛隊の連中じゃねぇのか? 見たことない顔だったし・・・。
うわぁ・・・どうしよう俺殺されちまうよぉ・・・がたがた・・・。」

シャニーはクリスを引っ張って外に出ていた。
「ねぇ! クリス。」
「言わないでも分かっているよ。国王を助けようって言いたいんだろ? 分かってるさ。でも、よっぽどうまくやらないと両方は難しいよ。宝珠と、国王と。」
「ありがとう! じゃあ行こう。」
死んだと思っていた国王が生きていた。思っても見ないうれしいハプニングだったが、それは同時に任務成功の足かせになる可能性すらもある。しかし、失敗するわけには行かない。自分達の一挙手一投足が世界の命運を担っている。シャニー達は命綱のない、先の見えない道を進んで行く。
真夜中、二つの影が躍るように空中を舞う。そのシルエットはまるで妖精のようだ。
空中から城の窓へ飛び込む。見張りの兵を光速の剣撃で沈めた。廊下の壁を伝い、慎重に進んでいく。
このときばかりはシャニーも真剣な眼差しだ。クリスはこんな顔も出来るのかと思いつつ付いていく。
ベルン城の中の配置は2,3度来ているからわかっている。あの窓から忍び込めば、牢獄はすぐのはずだ。
「なんかあたし達、盗賊みたいだね。」
シャニーが小声で話す。
「バカ、しっかり前見てな。」
夜のベルン城は不気味なほど静まり返っている。会合で来た時とは大違いだ。蝋燭もついていない。
何とか牢獄に着いた。見張りの兵が背を向けたところを一気に襲い掛かる。悲鳴を上げられないように首を一気に狙う。その様はまるで死神だ。
「へ、流石ゴキブリ剣士だね。」
「うるさいなぁ、こんな時にまで茶化さないでよ。」
「・・・あんたの手ばかり血に汚れさせて悪いね。アタイじゃそんな瞬殺できるほど技量がないからね。」
「うぅん、いいの。子供達のためにも、そんな事言ってられないよ。」
牢獄の中からゼロットを探す。そこには疲れきった表情のゼロットがいた。
「義兄ちゃん! 良かった無事で。助けに来たんだよ!」
「おお・・・シャニーか。すまない。私の居ない間にイリアを取り戻してくれたそうだな。
礼を言うぞ。」
「ううん、あたしの力じゃないよ。それにあたしはユーノお姉ちゃんまでも・・・。」
「積もる話は後だ。はやくファイアーエムブレムを手に入れてずらかるよ。」
クリスが鎌で牢獄の施錠を叩き壊す。敵の本拠地に長居するメリットはない。
「やはりファイアーエムブレムを探しているのか。ついてきなさい。」
「どういうこと?」
「あの戦いの後、私もそれを探していたのだ。その時に不手際でベルンの将に見つかってしまったのだ。」
「そうだったんだ・・・。あたし達と合流できなかったから、てっきり・・・。」
「だから言っただろう。そう簡単には死なぬと。さ、付いてくるのだ。」
ゼロットは宝物この前にシャニー達を誘った。
「この宝物庫の最深部に、ベルンの至宝ファイアーエムブレムはある。クリスとやら、外で見張っていてくれ。」
「あいよ。」
シャニーとゼロットが宝物庫に入っていった。
しばらくしてクリスはふと気づいた。何故、ゼロットは牢獄に囚われていたのに腰に剣をさしていたのだろう。それに、あの波動・・・ゼロット王という方はハーフなのか・・・?
何か嫌な予感がクリスの頭をよぎった。もしかしたら・・・!
クリスは焦って宝物庫の中へ入っていく。その中では信じられない光景が待っていた。



31: 手強い名無しさん:05/08/13 19:03 ID:ujTgP1uU
乙です。

32: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/13 20:36 ID:9sML7BIs
>>31
ま、まじですか(;´Д`)
当方聖魔は持ってないのでパクリとかそれ系の事は一切ないので一応断っておきます。
・・・それにしてもありきたりすぎるかなぁ(-_−;)

33: 手強い名無しさん:05/08/13 21:39 ID:6YImn0iY
>>32
いや言うほど似てはいないですよ。

34: 第一部 終章:運命の扉:05/08/14 12:47 ID:E1USl4sQ
「もっと奥だ。至宝だけに、最深部に安置されているのだ。」
「義兄ちゃん詳しいね。」
「うむ。情報を集めていざ侵入しようとしたところで捕らえられてしまったのだ。我ながら不覚だった。」
「そんなことないよ! たった一人で侵入しようだなんて、義兄ちゃんは凄いよ。」
二人はどんどん奥に入っていく。見たこともないような宝もいっぱいある。
「わぁー・・・。凄いなこの剣。欲しいなぁ。」
「こら、気を抜くな。ここは敵の本拠地。どこに敵の目があるのか分からないのだぞ。」
「おっと、そうだった。えへへ、あたしってやっぱりマヌケだなぁ。」
しばらくして二人は最深部と思しき場所に着いた。シャニーは宝珠を探した。
「あ・・・! あった、あったよ義兄ちゃ・・・」
シャニーはファイアーエムブレムを見つけ、義兄に見せようと振り返ろうとした、その時であった。
背中に、いや、翼に今までに感じた事のない激痛が走った。その激痛にシャニーは思わず悲鳴を上げる。
「ぎっぎゃぁぁぁぁぁっ。」
「ふふふ・・・。どうですか? ドラゴンキラーの味は。」
痙攣を起こす体に鞭打って後ろを振り向いた。そこにいたのは、間違いなくゼロットだった。
そのゼロットが、自分の翼に向けて剣で斬りかかっていた。
「ぐ・・・うぁ・・・。」
剣が翼に食い込んでいく。その激痛は体全体に痺れをも伴わせていた。体が痙攣する・・・。
ドラゴンキラーだ。今の自分は竜族。特効剣でしかも一番の弱点である翼に斬りつけられていた。
「ははは・・・。ゼロット国王がここにいるわけなんてないでしょう。なんせあの方はこの私が葬ったのですから。」
「何を・・・言っているの? ・・・義兄ちゃん・・・。」
「まだ言うか。どこまでも間抜けな奴だ。よくも私の翼を切り落としてくれましたね・・・!
これはっ あの時のっ恩返し!ですよ!」
ゼロットが体重を剣にかける。剣はどんどん翼に食い込んでいく。翼は真っ赤に染まり、下には血の池が出来る。その、今まで受けたどんな攻撃よりも激しい痛みに、シャニーは痙攣しながら彼女の声かと思うほど苦しそうな唸り声を上げる。
「まさか・・・あなたは・・・マチルダ・・・はぁ・・はぁ・・。」
「やっと気付いたのですか。そうですよ。ゼロット王なぞ、とっくの昔に私が殺しましたよ。
あなた達の居場所や神将器のありかなど、知っている事を吐かせようと拷問しましたが、何一つ奴は吐きませんでしたね。3ヶ月くらい奴は耐えていましたよ。もう最期は妻や子供の名前をバカの一つ覚えみたいに呼び続けて・・・愚かでしょう?」
「・・・何故あなたが・・・義兄ちゃんの体に・・・。」
「ははっ。前にも言ったでしょう。私は人の心を操る事ができる。ましてエーギルの抜けた抜け殻なら
そのまま入り込むことだって出来るのですよ。」
「ぐぅ・・・。許せない・・・。」
「そんなことを言える立場ですかねぇ。痛いでしょう? 苦しいでしょう? その苦悶の表情を見るのが私は大好きなんですよ。ほらほら。」
深く食い込んだ剣を左右に振ってやる。その度に悲鳴ともとれない呻き声を上げる。マチルダにとってこれが至福のひと時であった。
「ぐぁ・・・。・・・封印の剣がロイの手に渡れば・・・封印の剣に選ばれるほどの英雄に・・・剣が渡れば・・・あんた達なんて・・・うぁ・・・っ。」
「ははは。あなたは何も知らないのですね。剣に選ばれた? あの剣は、もともとハーフのために作られた剣なのですよ。竜族の暴走を止めるためにね。」
「ど・・・どういうこと?」
「そのままです。神竜王ナーガが同族の暴挙を止めるために、精霊の力を借りて作った剣なのですよ。
その剣を暴挙の元凶である人間族ではなく、当時中立派だったハーフに渡した、そういうことです。」
「じ、じゃあ・・・伝説の八神将の長・・・ハルトムートは・・・ハーフ・・・?」
「そうですよ。そしてその剣を持った彼は、人竜戦役を終結させた。」
「そんな・・・伝説の英雄が・・・ハーフだったなんて・・・。」
「そうです。だから、ロイとか言う青年が、剣に選ばれた特別な存在というわけではないのですよ。それを世間では英雄英雄と・・・笑わせる。あの剣のせいで、我々は・・・。」
「ロイは・・・英雄だよ。強さだけじゃない・・・。」


35: 第一部 終章:運命の扉:05/08/14 12:47 ID:E1USl4sQ
「黙れ! あの剣のせいで、我々は迫害され始めたのだ。貴様たちにとっての英雄は、我々にとっては禁忌の存在だ。助けた人間達に迫害されるなど・・・。だから人間は嫌いなのだ!」
マチルダが怒りに任せて剣に力をこめる。
「ぎぃ・・・。なんで・・・迫害されるようになった・・・のさ。」
「我々の世界でも覇権を握っていたのは人間族だった。ハーフが英雄としてのし上げられると、自分達の肩身が狭くなる。・・・嫉妬に決まっている。人間ならやりそうなことだ。一部で始まった差別は一気に世界中に広まった。妖術を使うとか、恐ろしい剣を使って世界を滅ぼしたとか、そんな噂が流れた。
そしてそれが・・・危険種指定へ形を変え、迫害対象になっていった・・・。」
「・・・。」
「貴様に分かるか! この苦しみが! 我々にとって人間族は憎き敵。そして・・・その人間族を助けようとしたナーガの一族・・・竜族も同罪だ。」
クリスがやっと到着する。目の前の光景に一時唖然とするも、マチルダの背中に鋭い一撃を加えた。
マチルダは不意を付かれてうずくまっている。翼から剣を抜き取り、シャニーを抱える。
「やっぱりこういうことだったか・・・! シャニー逃げるよ!」
フラフラのシャニーをつれて逃げることは至難の業だ。しかし、何としてもファイアーエムブレムをロイ達の元へ届けてやらなければならない。
シャニーを背負い、あまり得意ではない回復魔法をかけてやりながら外を目指す。
やっと外へ出た。シャニーを連れては飛べないので馬屋を探す。
馬屋といっても飛竜ばかりである。しかし、その厳つい飛竜の中に、白い体見えた。
「あ・・・。あいつは・・・もしかしてあたしの・・・。」
馬屋の一番奥にいたものは、なんとシャニーのペガサスだった。竜殿で捕らえられた後、どうやら馬屋につながれていたらしい。隣にはゼロットのものと思しき馬もいる。何故殺さずに飼育していたのかはクリスはなんとなく分かった。メリアレーゼも、もともとは優しい賢者。特に動物は好きであった。
人間は憎くても、罪のない動物は殺せなかったのだろう。しかし逆を言えば、それだけ人間の事を酷く憎んでいるという事でもあった。メリアレーゼの中では生の価値は動物のほうが人間より高いのだろう。
しかし、そんなことを詮索している暇はない。急いでシャニーを天馬に乗せる。天馬も親の事を覚えていたのか、すぐに翼を下ろし、乗せてくれた。天馬は気高く、プライドが高い生き物なので自分の主以外は背に乗せることを許さない。

急いで外に出る。ここから脱出すれば後はロイ達と合流するだけ。だが、事はそううまく運ばない。
外は完全に包囲されていた。そしてその中央にいたのは・・・・メリアレーゼだった。
「飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのこと。たった二人で侵入してきた度胸は褒めてあげましょう。
しかし・・・ちょっと無謀すぎましたね。さぁ、ここで終わりです。劣悪種の英雄さん。」
メリアレーゼにエーギルが集中する。逃げ場はなかった。
「ナーガ神もここで終わりです! 喰らえ! 精霊の怨嗟!」
二人に向かってあの暗黒秘奥義が炸裂する。二人を包むその怨念の闇に押しつぶされそうになる。
これが・・・ハーフたちの叫び、苦しみ、そして怒りなのか・・・。
「くっ・・・。」
「ほう・・・。流石ナーガ神。それだけの怪我を負っている身でありながら、私の魔法を受けても
まだ元気とは・・・。いやはや惚れますよ。その力、是非欲しいものです。どうです? 我々については?」
「はぁはぁ・・・。断る・・・。」
「そうですか。残念ですね。ならば、この場で消えてもらいましょう。」
メリアレーゼがもう一度詠唱を始める。いくら抵抗力が高くても、これ以上攻撃を貰えば危険だ。
シャニーだけは・・・なんとしても自軍に帰さなければならない。
「シャニー! 合図と一緒にペガサスを駆ってロイ達のところに戻りな!」
「え?!」
「リーダー、今なら使っていいよね・・・。アレンにも見られていないし・・・あいつにこの姿は見せたくないさ。よし、飛べ!シャニー!」
シャニーを乗せたペガサスが飛び立つ。メリアレーゼも囲んでいた弓兵たちも、一斉にそちらに標準を向ける。しかしその時、クリスのいた場所から凄まじい閃光と衝撃波が放たれた。
次の瞬間現れたのは、金色の竜・・・神竜だった。
「クリス・・・?」
「早く行け! ここはアタイが引き受けた。間違いなくその宝珠をロイ達に届けてくれよ!」
シャニーを狙う矢をクリスが体を使って弾く。硬い鱗の前に矢は乾いた音を立てて落ちていく。


36: 第一部 終章:運命の扉:05/08/14 12:48 ID:E1USl4sQ
「でも、一人なんて無茶だよ!」
「どのみちその宝珠がなければ勝ち目はないんだ。急ぎな。あんたはロイに必要な存在だ。
それに、本当にナーガ神の化身なら、アタイは守らないとね、命を張ってでも。」
「一緒に逃げようよ!」
「しつこいって言ってんだよ! さっさと行きな! アタイがしつこい奴は嫌いの分かってるだろ。
あんたはあんたの使命をしっかり果たしな。いいね!」
シャニーは姉貴分の真の姿に驚きつつも、ペガサスを駆り、ロイ達の居る方角を目指す。
姉を一人の残す事への罪悪感と、重大な使命と、背中の激痛を伴って。
「ふむ、とうとう化けの皮が剥がれましたか。しかし、並の神竜など相手にもならぬ。
皆のもの、出あえ! 出あえ! 特効剣で一気に切り崩せ!」
ドラゴンキラーを持った竜騎士達に囲まれる。これはエトルリア王宮での戦いと全く立場が逆だった。
堅い鱗も、特効剣の前では全く歯が立たない。クリスもブレスや尻尾、鋭い爪で応戦するが
自分達を滅ぼすためにある特殊な魔力のこもった魔剣の前に、どんどん体力を奪われていく。
「くそ・・・長く持たないか・・・。でも、まだまだ死ねないよ!」
クリスは負傷を覚悟で竜騎士たちを跳ね除けていく。彼女は時間稼ぎのためにここに残ったのだ。
死を覚悟して。アレンや息子は悲しむかもしれない。でも、今の自分がしなければならないことは
世界に平和をもたらす事。そのためには、シャニーを何としても生かして返さなければならない。
この際手段は選んでいられない。これが、自分の志した道なのだから。
「ふふふ、だいぶ弱ってきたようですね。これだけ特効剣でせめてまだ倒れないとは、流石に神竜といったところでしょうか。欲しい、実に欲しい力だ。 まずは元の状態に戻ってもらいますか。」
再びメリアレーゼが暗黒秘奥義をクリスに向けて放った。いくら神竜といってもやはり体が動かない。
凄まじい魔力と憎悪の念の前に、クリスはついに倒れてしまった。
「ぐ・・・ちくしょう・・・っ。」
「ふふ、私が血を引く暗黒竜族はあなたたち神竜族と世界を二分する力の持ち主だった。神竜族の長でさえ、暗黒竜族の力には手を焼き、死んだ原因もその暗黒竜族との直接対決で負った怪我が原因だ。あなたのような普通の神竜で敵うわけがない。」
クリスが人の容に戻る。その横には神竜石が転がっていた。クリスは神竜石から供給されるエーギルで何とか命の綱を保っている状態だ。
「ほう・・・これが神竜石・・・。美しい石ですね。これがあれば私はますます力を手に入れることが出来る。」
メリアレーゼがそう言いながら神竜石を拾おうとした。
「あんた達みたいな奴に使われるくらいなら・・・!」
クリスは近くにあった石を握った。
「まさか、あなたはそれで竜石を壊すつもりですか? ご冗談を。それが無くなれば今のあなたはたちまち死んでしまうのですよ。自殺するつもりですか?」
「へっ、どうで死ぬんだ。アタイの命があんた達に使われると考えると反吐が出るよ! それならいっそ、自分で竜石を壊す。アタイの家族や仲間の為にもね!」
「や、やめろ! せっかくの竜石を!」
はは・・・無様な姿だね。シャニー、しっかりやりなよ。じゃなきゃアタイが命張った意味ないだろ?
アレン・・・すまないね。やっぱりアタイはこういう生き方しか出来ないみたいだよ。息子を・・・クラウドを頼むよ・・・。
クリスが残った力を振り絞って竜石を砕いた。その途端、中に封印されていたエーギルが一気に外へ放出された。そのエーギルは凄まじい流れとなってまわりに居た殆どの者を吹き飛ばす。
そして、エーギル−クリスの命−は天空へ舞い上がり、夜空をオーロラのように彩った。
メリアレーゼは砕けた竜石と穏やかな顔で逝ったクリスを見下ろしていた。
「・・・愚かな。 他人の為に命を投げ出すとは・・・実に愚かなやつだ・・・。」
そういうと彼女は城に戻っていった。
オーロラは未だに輝き続けている。そして、その近くで新たに光りだした星生まれたばかりの星があった。もしかしたらクリス自身も星になったのだろうか。今頃きっと星となったクリスは両親に再会しているに違いない。はるか遠い天空の上で。
父さん、母さん、アタイはしっかり最期までがんばったよね。アレン、クラウド。アタイはずっと見守っててやるからね。アタイの分まで精一杯生きるんだぞ。


37: 第一部 終章:運命の扉 後編:05/08/14 16:25 ID:E1USl4sQ
激痛に悶えながらも、シャニーは自軍のいる場所を急いだ。また自分は守られてしまった。他人の命を犠牲に生きながらえてしまった。どうして、どうしてなのだ。どうして皆あたしを命を張ってでも守ってくれるんだ。あたしは結局偽善者なのかも知れない。ナーガに誓った言葉も、偽善の塊だったに過ぎないのか・・・。・・・!悩んでいられない、今は自分に託された使命を全うする事だけを考えるんだ。
今あたしが倒れたら、今まで守ってきてくれた人たちの命を無駄にする事になる。そうだ、今のあたしは一人じゃない。皆があたしに力を貸してくれている。がんばれあたし!
とりあえずペガサスの背で翼の応急処置をする。魔力は翼の傷から流れ出てしまったのか、なかなか思うように引き出せない。回復魔法もままならない状況だ。マントを翼に巻き付け止血をする。処置をしていると、凄まじい風が後方から襲ってきた。どこかで嗅いだ事のあるような懐かしい匂いの風だ。
その後すぐ、空にオーロラが出た。そこは・・・ベルン城の付近だった。
「クリス何かあったのかな・・・。」
姉を心配し、戻りたい気持ちを抑えながら明けようとしている夜空を飛んで帰る。これだけ距離が離れればもう追ってこないだろう。激しく出血したため、意識がもうろうとする。眠い・・・。
この睡魔が何を指しているかは分かっていた。今寝たら、死んでしまう。皆の命を背負っているんだ。
こんなところで死んでたまるか!

ロイ達は再び進軍を開始した。封印の神殿を目指して。
「おい・・・ロイ。」
「なんだい、ディーク。そんな険しい顔をして。」
「昨日の深夜、ベルン城の方角で空が異様に明るく光っていた。オーロラの出る地域でもないし。
・・・シャニー達に何かあったかも知れないぞ。」
「そんな! でも・・・まだそんなことは分からない。無事を祈ろう。」
「そうだな。何か嫌な予感がするぜ・・・。こういう戦いはさっさと終わらせちまおうぜ。」
相変わらずベルン兵の攻撃は激しい。戦闘竜の数も増してきた。
「いくぜっ ルトガー!」
「ふっ。またつまらぬものを斬らねばならぬのか・・・。」
二人は敵軍に突撃していく。それにロイやアレン、ティトなども続く。
とにかく兵数が多い。こちらの兵数は圧倒的に少ない。一刻も早くシャニー達に帰ってきて欲しかった。
クレインの放った矢が正確に竜を射抜く。浮力を失って墜落していく。やはり竜騎士には弓だ。
次の竜騎士に狙いを定めた時、後ろから突然戦闘竜が襲ってきた。飛行系に強い弓兵だが隣接されればなす術がない。竜のブレスがクレインを狙った。
「くっ・・・。」
防御態勢をとったクレインの前にダグラスが立ちはだかった。ブレスが鎧で弾きつつ、斧で硬い鱗を叩き割る。空中からもティトが竜の周りを飛び回り幻惑し、ドラゴンキラーを突き刺す。
「あなた! 大丈夫ですか!?」
「ああ、ありがとう。」
「クレイン、気をつけるのだ。ちょっとした油断が命取りだぞ。」
「はい、申し訳ありません。」
皆が皆、お互いの弱点を補い合って少しずつではあるが進軍していく。
ディークが空を見上げると、空に白い物体が見えた。あれは・・・天馬だ。しかし、何故こんな所に。
その天馬は寄ってくる竜騎士に反撃もせずにこちらへ一直線に飛んでくる。まさか、あれは・・・。
「おい、ロイ。シャニーが帰ってきたぞ!」
「え?! よかった。」
しかし、天馬がどんどん近づいてくると、白より赤が目立つ気がしてきた。
「うぅ・・・。ロイ・・・。あたしはまだ死ねないよ。」
シャニーはもうろうとする意識の中でロイ軍を目指して飛んでいる。だが竜騎士達はそれを見逃さない。
弱っている天馬騎士がふらふらと自軍の陣営の上を飛んでいる。狙わないわけがない。竜騎士達はこぞって集中砲火を加える。シャニーは何とか避けているが、いつ喰らってもおかしくない。
ダグラス配下の魔道師や弓兵が竜騎士を狙い、シャニーを援護する。なんとか敵陣営を脱した。
だが、目の前に着地した天馬を見て仰天した。その天馬は真っ赤に染まっていたのである。天馬が着地したと同時に、騎乗していたシャニーが力なく転げ落ちた。背中は真っ赤だ。背中の翼が血を含みずっしりと重そうだ。
マチルダに斬りつけられた翼は半分以上切れこんでしまっている。顔面蒼白で唇も蒼い。急がなければ
死んでしまう。
「シャ、シャニー! 大丈夫か!!」


38: 第一部 終章:運命の扉 後編:05/08/14 16:25 ID:E1USl4sQ
「ロイ・・・ただいま・・・。はい・・・。これ。」
シャニーがロイにファイアーエムブレムを託す。ロイが受け取ると、目を閉じてしまった。
「シャニー!!」
「輸送隊に連れて行け! 急げ! 一刻も早く僧侶に治療してもらうんだ。」
シャニーが運ばれていく。ロイは不安であったが安堵もしていた。恋人が無事に帰ってきた・・・。
しかし、クリスは? クリスの姿が見当たらない。シャニーも天馬で帰ってきている。もしや・・・。
アレンは下を向いて、唇を噛んでいた。アレンは・・・泣いていた。
「アレン・・。まだクリスが死んだとは・・・。」
「昨日の夜・・・ベルン城の方角でオーロラが出たとき、強い風が吹いてきたんです。その風は・・・クリスの匂いを伴っていました。クリスは・・・きっと星と風になったんです。最期まで命を張ってシャニー様をお守りした・・・そう信じます・・・。」
「・・・。」
「あいつが空から見てます。俺もあいつに叱られないように働いて見せます! ロイ様!行きましょう!」
アレンは突撃して行った。いつも戦場でも二人で突撃していたが今日は一人だ。しかし、アレンには隣にクリスがいるかのように思えていた。
例えこの世で一緒になれなくても、自分とあいつは繋がっている。いつでもあいつは見ている。クリスが誕生日プレゼントにくれた槍を手に、アレンは戦場を駆けた。
戦闘竜も倒し、封印の神殿が見えてきた。あの神殿に、封印の剣は収められている。
この山を抜ければ封印の神殿は目前だ。だが、この山を越える頃には日は沈んでしまっているだろう。
「全軍、進軍停止。本日はここで野営を張る。この森なら敵の竜騎士も攻撃できないはずだ。」
ロイの指令に進軍が止まる。この深い森なら竜騎士といえど進入は出来ない。まして戦闘竜では
見つけられないだろう。明日こそは封印の剣を入手してみせる。マードック将軍・・・かつてベルン動乱で相対した経験があった。強固な守りに強烈なパワー。誰もが認める強さの将である。その将が地獄のそこから蘇り、再び自分達に戦いを挑んでくる。幼馴染を人質にとって。
これから先はベルン親衛隊との戦いになる。これ以上に激戦となることは必至であった。
頼みのクリスも失っている。これ以上犠牲者は出す事はできない。

「お呼びでしょうか、ロイ様。」
「アレン・・・気持ちは落ち着いた?」
「ええ。・・・シャニー様がベルン城からクリスの形見をとってきてくれていました・・・。剣と・・・耳飾りです。」
アレンは耳につけている耳飾りをロイに見せた。
「そうか・・・。」
「例え一緒でなくても、俺とあいつはいつでも一緒です。だから・・・もう泣きません。昼は騎士であるにもかかわらず情けないところをお見せして、申し訳ありませんでした。」
「そんなこと! 謝る事じゃないよ。最愛の人を失ったんだ・・・その悲しみは分かるよ・・・。
それより、アレンにお願いがあるんだ。聞いてもらえるかな?」
「は、ロイ様のご所望ならば、なんなりと。」
「・・・子供達を連れてリキアに逃れてくれ。」
「な!? 俺は最期までロイ様と一緒に戦います。それが、騎士の勤めです!」
「相手は竜騎士が多い・・・。輸送隊が不意を付かれれば、子供達が危ない。あんな小さい子供達を離れた後衛に残して前線に出て行くなんて、これ以上は出来ない・・・。」
「ですが・・・!」
「お願いだ。確かリキアには前の戦争で我が軍に参戦してくれた双生魔道師と盗賊の子が興した孤児院があったはずだ。ベルンの支配も地方までは届いていないだろう。とりあえず、これより先は親衛隊との激戦になることは疑いようがない。そんな激戦地に、親の腿の上で寝ていることしかできない子供達を連れては行けない。頼む、このようなことを頼めるのは君しかいないんだ。」
「わかりました・・・。ロイ様。俺は信じています。ロイ様が勝利を手中にして我らを迎えに来てくださる事を。それまでは俺が命に換えてでも皆をお守りします。」
「ありがとう・・・。頼むよアレン。」
二人は互いの目を見つめあい、がっちりと握手をした。お互いの武運を祈って。
自分が幼い頃から仕えてくれている頼りになる熱血の騎士。性格的にも自分とよく合う所が多くて
相談しやすかった。今回も一番信頼できる配下に子供達を託した。これで・・・目の前の戦いに集中できる。目の前にはマードック将軍が手薬煉引いて自分を待ち受けている。


39: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/14 16:38 ID:E1USl4sQ
予定としては次の更新で1部は終演を迎えます。
ちょっと被るところもあったけれど、ここまで書き進められたのも皆様の応援とご指摘のおかげです。
これからもよろしくお願いします。
では、また明日にでも。

40: 第一部 終章:運命の扉 後編:05/08/15 15:15 ID:E1USl4sQ
ロイは輸送隊に向かった。外ではルトガーが相変わらず見張りをしてくれている。
「ルトガー、君も寝たほうがいいのではないかい?」
「ふっ、俺は傭兵だ。主を守るのが俺の務めだ。寝るわけにはいかん。」
「そうか。でも無理はしないでくれ。これ以上の犠牲者は出したくない。」
「そのぐらい心得ている。俺と話しているより・・・奥方のところへ行ってやれ。」
「うん、ありがとう。」
ロイが輸送隊のテントへ向かった。今でも思い出す。血に濡れた翼、ぐったりとした体に虚ろな目・・・。
またシャニーを生と死の狭間に追いやってしまった。他でもない自分の最愛の妻を。
彼女は無事でいてくれるだろうか。またナバタの里の時のように目を覚まさなかったら・・・。
そんなことが頭を駆け巡る。知らぬ間にロイは全力でかけてテントの中に駆け込んでいた。
しかし、その中では思わぬ事態を目にすることになった。
「おい! てめぇ、そんなにガツガツするんじゃねぇって! 喉に詰まったらどうするんだ。」
「だって!(ガツガツ) 血が足りないよ! こんなんじゃ(モグモグ)戦え(モグモグ)ないよ!(ガツガツ)」
「だぁ! 食べながら喋るな! うわっ。てめぇ今食ったもんが飛んできたぞ!」
「おかわり! 肉がいい!」
「ったく・・どういう食欲だ。怪我人ならもう少し大人しくしてろっつの。」
「・・・。」
ロイは唖然としてしまった。流石にまだ翼は包帯に包まれているが、ぴんぴんしていたのである。
「あ、ロイー。」
入り口にいるロイへシャニーが手を振る。その笑顔にロイも安堵した。
「シャニー、あんな大怪我したのによく無事で・・・。よかったよ。君にまで先立たれたらどうしようかと・・・。」
「何よー、その言い方。それじゃあたしがまるで死にそうだったみたいじゃない。」
シャニーが笑顔で返す。そりゃそう言いたくなるよ・・・あんな顔を見たら・・・。
「でも、元気になったからといって無理しちゃダメだよ? 明日からの戦いでは君は輸送隊で・・・。」
「いやだ。あたしも戦う。」
「な・・・。確かに戦力的に見ても君が居てくれるのは助かる。でも、そんな体で戦ったら今度こそ命が危ないよ。君に死なれたら、僕も子供達も悲しむよ。」
「俺だって・・・お前が死んだら悲しいぜ?」
シャニーが声のほうを見る。腸詰やハムを両手に抱えたディークだった。恥ずかしいのか顔は横に逸らしている。その格好がシャニーにとっては妙に可愛く見えた。


41: 第一部 終章:運命の扉 後編:05/08/15 15:16 ID:E1USl4sQ
「あ、肉肉ー! ディークさん、早く早く!」
「肉肉うるせぇやつだ。ホントに餓鬼かお前は・・・。」
「だって! 明日の為に血を蓄えないと!」
「お前・・・本当に明日出陣するつもりなのか? その背中で。」
「うん。あたしはもう、守られているだけはイヤなんだ。クリスだって、あたしがもう少し気を許さずに警戒していたら死なずに済んだのかもしれない。肝心な時に何も出来ないのは、もうイヤなんだ。」
ロイもディークも、シャニーの目に、ある種の決意を感じ取っていた。こうなったら彼女を説得する事は難しい。長く付き合っているからこそ分かる事だった。
「シャニー・・・。わかった・・・。もう止めないよ。でも、絶対に無茶しないでくれ。お願いだから僕の傍にいてくれ。そうでもなければ、心配で戦えないよ。」
「うん。明日は後衛に徹するよ。ずっとロイの傍にいる。もう離れ離れになりたくないし。何かね、今度離れ離れになったら・・・もう二度と会えない気がするんだ。」
「どうしたんだい、シャニー。何か思い当たるものがあるのかい?」
「うぅん。・・・あたしらしくなかったかな。よーし食べるぞ! 肉、肉〜♪」
またシャニーがガツガツ食べ始めた。ロイはもう少しお淑やかにして欲しいとも思ったが、この元気さをいつまでも見ていたいという気持ちのほうが強かった。
「おまえなぁ・・・。もう少しお淑やかにしろって。そんなガサツだと娘もそうなっちまうぞ?
それにもう少し落ち着いて食べないと喉につめるぞ。・・・ったく。」
シャニーは聞いているのか聞いていないのか。ディークが持ってきた腸詰などをペロッと平らげ、皿の上に残ったパンの切れ端や腸詰や端などを両手でかき集めて一気に口に運び、飲み込んだ。しかしその途端、今まで元気だった顔が急に真っ青になってベッドに倒れこんでしまった。
「そーらみろ。言わんこっちゃねぇ。水か?」
シャニーはモゴモゴと何かをディークに伝えた。ディークが呆れ顔でロイに翻訳した。
「・・・食ったから寝るってよ。」

ロイとディークがテントの外に出た。外はもう静まり返っている。ベルンの山岳地帯特有の冷ややかな風と心地よい木の香りが二人を包む。
「はぁ〜! こういうおいしい空気はどれだけ吸っても飽きないよ。」
「まったくだ。この戦争が終ったら傭兵は辞めてこういうところに住み着くかな。」
「ディークは傭兵を辞めるのか。たまにはゆっくりとした生活を送るのもいいかもね。」
「あぁ。この半生、人斬りしかやってこなかったからな。もうそういったことから足を洗いてぇよ。」
「ディークすまない。こんな戦いに発展するとは思っても見なかった。今回もこんなに働いてもらって、どれだけの給金でお返しすればいいか。」
「へ、そういう話は終ってからしようぜ。それに・・・俺はこの戦いに参戦できて満足している。」
「え? どういうことだい?」
「お前には話しちまうか・・・。俺は最初、お前がベルンへ行く為の護衛として俺を雇った時、正直お前の護衛ができると言うことより、ベルンでシャニーに会えるかもしれないということに期待していた。」
「そうか・・・。ディークとシャニーは傭兵団で一緒だったんだっけ。」
「ああ、見習いの頃散々手を焼いたじゃじゃ馬だったからな。そんな奴が一国の重役になっていると聞いちゃ、どんなに変わっているかと期待してた。・・・まぁ結果は言わなくてもいいだろうが。」
「シャニーは変わったよ。大人になった。何だかんだ言ってもイリアを担っていくには十分な責任感と統率力を身につけていたよ。」
「あぁ。あいつもお前と同じだ。甘すぎるほどの理想と人ひきつける力。だが、まだまだ精神的には弱いところが多々ある。そういう時は一番潰れやすい時期だ。その時期を、見守ってやれた。だからこの戦いに参戦できて満足している。」
「やっぱりそうだったのか。ディークにとってシャニーは妹みたいなもの?」
「へ、さすがお前だな。知っていやがったか。そうだな・・・妹なのか・・・。いや娘かもしれないな。それとも・・・いや、なんでもねぇ。」
「娘か・・・。娘さんは必ず幸せにして見せます。どうかこれからも見守ってください。」
「へ・・・。頼むぜ。これからもあいつを・・・幸せにしてやってくれ。」
最後の戦いを前に、婿と父親(?)がお互いはがっちり握手をした。


42: 第一部 終章:運命の扉 後編:05/08/15 15:16 ID:E1USl4sQ
翌朝、ロイ達はいよいよ封印の神殿を目指して出陣することになった。
「ロイ様。ロイ様から託された使命、この命に換えてでも全うして見せます。ロイ様もどうかご武運をお祈りしております。では。」
アレンが子供達を連れて戦場から脱出していった。間違いなく頼むよ・・・。ロイやシャニーは愛娘達に頬ずりして名残を惜しんだ。
「よし、子供達のためにも、この戦いには絶対に負けられない。いくぞ! 僕達の世界を取り戻しに!」
無駄な戦闘を避けるために、山間部の深い森林地帯を進んでいく。この森林地帯を抜ければ、一気に封印の神殿まで近づくことが出来る。
しかし、そううまくも行かない。相手もこの作戦を読んでいたようだ。理の遠距離魔法、サンダーストームが容赦なくロイ軍を襲う。森の中にいるため命中精度は悪いが、当ったらひとたまりもない。
ロイ達は隊列を崩さないように慎重に進軍した。だが、直撃を食らってしまうものも出てくる。
「ぬお・・・。ワシとしたことが不覚・・・。」
重い鎧を着込んでいるダグラスは避けられない。物理攻撃に対しては圧倒的に強い重騎士も、魔法の前では紙同然の抵抗力しかない。しかし、さすがエトルリア軍事トップの大軍将。ダグラスも魔法一撃で倒れるほど弱くはない。
「大丈夫ですか! 将軍!」
配下の賢者が焦って回復魔法をかける。
「うむ、すまない。鋼鉄製の鎧に雷魔法はこたえるわい。」
ロイにも雷の鉄槌が襲う。
「危ない!」
シャニーが庇う。物理に対してはからっきし弱くても、魔法への耐性には自信があった。
「シャニー!? ありがとう。 だけど無茶しちゃダメだってば・・・。」
「うー。シビれる・・・。大丈夫大丈夫。魔法なら任せなさいって。」
どうやら弾切れのようである。ここはチャンスとばかりに一気に進軍する。森を抜け、見えてきたのは・・・封印の神殿だ。あの中に世界を救う魔剣が収められている。ロイ達は急いだ。
神殿の周りを守る親衛隊たちが色めきだって寄ってくる。どの敵も歴戦の勇者ばかりだ。
ディークたちでも流石に無傷では倒せない。
「くっ・・・!」
ルトガーが剣を振り上げる。これでトドメだ・・・!?
愛用の必殺剣が鈍い音を発して弾け飛ぶ。それを相手は見逃さない。逆に一気に襲い掛かる。
ここまでか・・・! 後ろから凄まじい轟音を伴った投げ斧が飛んできて、敵に直撃した。
「ふぅ、間一髪って奴だな。おい、ルトガー、これ使え。」
ディークが剣をルトガーに投げる。それをがっしりと受け取り、他の敵も切り刻む。
「ディークすまない・・・。助かった。」
「へ、これでベルン城での借りはチャラだぜ?」
ロイもシャニーと共に相手を倒していく。シャニーがいるから、自分は怪我をしてでも相手を倒しにかかれる。信頼できる、背を任せられる人がいるということがどれだけありがたいことか。
「よし、もう少しだ。後は入り口の前の兵を倒せば・・・!」
「ロイ待って。怪我を治してからじゃないと危険だよ。」
魔力は完全には回復していないが、怪我の治療ぐらいならできる。クリスの分まで、自分は出来ることを精一杯やる。もう誰も、自分のせいで犠牲を出したくはない。
入り口を強行突破し、神殿の中に入った。その中ではマードックが玉座に座り、やっときたかという顔もちでロイ達を迎えた。
「ロイ将軍、待ちわびたぞ。この時をどれだけ待ち望んだ事か。」
「待ってくれマードック将軍。この戦いは無意味だ。剣を収めてください! 今はメリアレーゼを何とかしなければ世界が滅んでしまう。」
「・・・語ることは何もない。亡きゼフィール前国王の仇、今こそ取らせてもらう。私を倒さなければリリーナ候女は助けられないぞ。」
そういうとマードックはおもむろに懐から何かを取り出した。それは・・・竜石だ!
「ま、マードック将軍! 早まってはいけない! それを使えばあなたは・・・!」
「どうせ一度は死んだ身。何も恐れるものはない! いくぞ!」
マードックが竜石の力を解放する。やはり、あの竜石だ。エトルリアで見たときのように、凄まじい閃光と衝撃波に包まれる。・・・また、ハーフが作り出した凶器の犠牲者が増えた。
目の前にはとてつもなく巨大な竜が立ちふさがっている。今まで見た火竜ではない・・・見たこともない竜だ。クリスがいればその正体も分かっただろうが・・・。


43: 第一部 終章:運命の扉 後編:05/08/15 15:17 ID:E1USl4sQ
「いくぞ! ロイ将軍!」
巨大な尻尾がロイに先制攻撃を仕掛ける。ロイは軽い身のこなしでそれを避け、剣で斬りかかる。ディークたちも隙を見計らいドラゴンキラーで斬りかかる。
「!?」
しかし、何か体に力が入らない。剣を握る力が奪われるような感覚に襲われる。特効剣で切りかかっても、カキーンと乾いた音が響く。マードックが人間の状態でも高い守備力を誇っていた。だからそのためか・・・いや違う。何か違う、特殊な力が働いている。何だこの呪縛感は。
「ははは、その程度か、雑魚共が。全く痛くも痒くもないぞ。この程度の将にゼフィール陛下が倒されてしまわれたなど・・・ありえない! 全力でかかって来い!」
マードックはもはや正気を失っていた。竜石に完全に意識までもがとらわれていた。残っているのはゼフィールへの忠誠心だけだ。その狂気のブレスがロイ軍を壊滅に追い込む。このままでは危ない。
「くそっロイ! お前は神殿の奥へ走れ!」
「え!?」
「いいから行け! このままじゃ勝ち目はない! 早く封印の剣を取って来い! それまでぐらいなら俺たちだけでも持ちこたえてみせる!」
「わかった!」
ディークがマードックの気を引く為に一気に詰め寄ってくる。
「私を止めて見せろ!」
マードックがディークに向かい鋭い爪で振りかぶる。その隙を見てロイは剣が安置されている神殿の奥へ向かって走っていく。うまくやれよ。
しかし、無茶な突撃をしたためとうとうマードックの強烈な尻尾攻撃の直撃を受けてしまう。ディークはまるで小石のように吹き飛ばされ、壁にたたきつけられる。壁が大きくへこむ。
「ぐあ・・・!」
ディークがぐったりとうなだれる。さすがの戦神も、今の一撃はこたえたようだ。
「ディークさん! 大丈夫!?」
シャニーが駆け寄りディークに回復魔法をかける。
「すまねぇ・・・!! シャニー後ろだ!」
シャニーが後ろを振り向くと、マードックが迫っていた。大きな口をあけて。
「!!」
シャニーが結界を張る準備をしようとしたその時、マードックが背中に鋭い一撃を喰らい、そちらの方向を見た。
「そいつには・・・俺の主には・・・指一本触れさせん。ディーク・・・早くしろ。」
「おう、すまねぇなルトガー。よし、ロイが帰ってくるまでは何としても持ちこたえるぜ!」

ロイは最深部に着いた。そこには・・・やはりあった。かつて人竜戦役で八神将の長、ハルトムートが竜族最後の切り札であった魔竜を鎮めるために用いた魔剣。そして、前のベルン動乱で自分が用いた魔剣。光導く剣、封印の剣が、前と変わらぬ形で納められていた。
ロイは柄にファイアーエムブレムを埋め込む。ロイのその瞬間、剣に力が宿る事を実感していた。
お願いだ・・・抜けてくれ・・・! 封印の剣は選ばれた英雄にしか扱えぬ魔剣と信じられてきた。
ロイが剣を台座から引き抜く。抜けた! その途端、ロイにはあの強力な力が注ぎ込まれた。
それと同時に、ハルトムートの記憶も流れ込んでくる。この前の時とは違う・・・。
自分の頭の中に、差別され、虐待を受けるハーフの記憶が流れ込んできた。これが・・・。聞いていたより酷い。記憶と同時に流れ込んできたものは、ハルトムートの悲しみだった。ロイにそれを正してくれと願っているのだろうか・・・。
しかしこれで、これで世界を救う事ができる。まずはこちらの世界を正していかねば・・・。
ロイは逸る心を抑えきれず、急いで戦場に戻った。

戦場では相変わらずマードックが大暴れしている。ディークとルトガーを中心に攻撃しているが被害が大きい。エトルリアの魔道師たちがその体力の無さ故にどんどん倒れていく。
「くそ、このままじゃ・・・。」
魔法も少しは効いている様だったが、どんどん魔道師が倒されて砲台が少なくなっていく。シャニーもその必殺魔法で応戦する。それなりに効いているようだが、やはり魔力が回復していない為か、いつもほどの精彩をかいていた。
「魔法に頼るか! 直接私と武器を交えよ!」
シャニーをブレスが渦を巻いて襲った。シャニーはいつものクセで飛んで避けようとした。しかし、翼は激痛で応え、体は中に舞い上がらなかった。反応がかなり遅れ、直撃こそ持ち前の身のこなしで何とか免れたが、そのブレスの勢いで吹き飛ばされた。


44: 第一部 終章:運命の扉 後編:05/08/15 15:17 ID:E1USl4sQ
「うぐ・・・。」
「シャニー! お前は無茶をするな! 俺達の怪我の治療に専念していろ!」
その時だった。光をまとった青年が、魔剣を携えて戻ってきた。その顔はいつも以上に凛々しく見える。
「皆、待たせてすまない! いくぞ! マードック将軍!」
光の英雄が、怨恨に心を煮えたぎらせる闇の竜に向かっていく。先ほどまでの呪縛感が無い。これならいける・・・。さすが伝説の魔剣だ。竜の魔術をものともしない。一気に懐に近づき、斬りつける。
竜族を鎮める為に、竜族の長が作った剣のよるこの強烈な一撃に、マードックが一撃の下に倒された。
しかし、まだ死んではない。止めを刺すためにもう一度近づく。
「うぐぐ・・・見事だ。さすがロイ将軍・・・敵ながらあっぱれ・・・。」
「マードック将軍・・・。」
「私は蘇った時、ギネヴィア様が本物ではないと悟っていた・・・。それでも奴に従ったのは・・・
ゼフィール陛下の無念を晴らすには・・・それしか道が無かったからだ・・・。」
「そこまでゼフィール国王の事を・・・。」
「私では力不足だったか・・・。しかし、まだ終ってはないぞ! ロイ将軍! 我が最期、とくと見るがいい! さらばだ!」
「いけぇね! ロイ離れろ! そいつは自分のエーギル全てを使って爆発を起こすつもりだ!」
「マードック将軍! やめてくれ! そんなことをすればあなたも・・・!」
「どうせこの体は制限時間付だ。時間が来ればどの道死ぬことになる! 貴殿たちも道連れだ!」
言い終わるや否や、マードックの体が光に包まれていく。そして、その光は一気にまわりに向かってはじけ飛ぶ。轟音と衝撃波、そして閃光を伴ってマードックは塵と消えた。封印の神殿の天井は吹き飛びそこから閃光が真上に向かってはるか高くまで伸びていった。

神殿の中は瓦礫だらけとなった。しかし、皆無事だ。ロイが、封印の剣の力を借りて結界を張ったのである。シャニーには、この時のロイが本当の神様に見えた。
「終った・・・か。」
「ふぃ〜。さすが英雄だぜ。とんでもねぇことしてくれるな、おぅ、ロイ。」
「ふっ・・・。」
「ロイ! 凄いよ凄いよ!」
シャニーがロイに抱きついた。妻に抱きつかれ、先ほどの凛々しい顔は消えて、元の優しい顔に戻っていた。
「さぁ、リリーナを探そう。きっとこの神殿内にいるはずだ。」
ロイ達は休むまもなくリリーナを探し始めた。彼女も理の超魔法を扱おうことの出来る高位賢者だ。
幼馴染でもあるし、絶対に助け出したい。瓦礫と片付けつつ少しずつ神殿内を探していく。
まもなく小部屋からリリーナが発見された。怪我もなさそうである。
「ロイ! きっと助けに来てくれると信じていたわ!」
リリーナが人目も気にせずロイに抱きついた。ロイもよかったと言わんばかりにそれに応える。
幼馴染だからこれくらい普通なのかと思いつつも、ロイが自分以外の女性を抱いているシーンを目のあたりにして、シャニーは拗ねて顔を膨らせていた。ディークはそれをあやす。
その夜、封印の神殿付近でロイ達は野営を張った。ずっとリリーナがロイにくっついていてシャニーは近づきようが無い。いままで幽閉されていて寂しい想いをしたんだろう。今日一日ぐらいはしょうがないか・・・そう思ってシャニーはディークたちと一緒にいることにした。
しかし・・・これが・・・この判断が・・・まさかあのような惨事に発展するなどと誰も予想だにしていなかった。あの時私が、私が・・・。
ロイは久しぶりに再開したリリーナとワインを酌み交わしていた。
「よかったよ、本当に。君が暗殺されたと聞いたときはもう目の前が真っ暗になったよ。」
「部下が助けてくれたの。」
「そうか。オスティアにいて生き残っているのは君だけだろう・・・。何ということだ・・・。」
「しょうがわないわ・・・。皆一生懸命戦ったけど、だめだった。反乱軍の侵攻が予想以上に早くて・・・。」
「ベルンを押さえればリキアにいる軍だって投降するさ。 エトルリアが・・・セシリアさんがリキアには目を光らせてくれている。だから僕達は一刻も早くベルン城を攻略しなくちゃね。」
「そうね。ロイ。」
二人とも酔いがまわってきたのか、リリーナがロイに抱きつく。ロイもいやな気はしない。

「まったく・・・! ロイはサイテー。あたし以外の女の人とイチャつくなんてさぁ!」
「おいおい・・・、お前食いすぎだろ。昨日は昨日で食べまくってたし、太るぞお前。」
「うるさい! 一生独身のディークさんにあたしの気持ちなんかわかるもんかぁ!」


45: 第一部 終章:運命の扉 後編:05/08/15 15:18 ID:E1USl4sQ
シャニーは骨付き肉へ無心に喰らいつく。もうやけ食いだ。
「うるせぇ! 独身のうちが華なんだ!」
「ふっ・・・。」
「ルトガー、てめぇ今俺を見下しただろ! ちくしょう・・・どいつもこいつも・・・。」
酔い泣きしているディークを尻目に、ルトガーが話しかける。
「ロイのことだ。お前が考えているほど妙な行動はとっていないだろう・・・。そろそろ一緒に行って話してきたらどうだ? これから先お前もリリーナと話す機会も増えるだろう。」
「そうだね、いってくる。」
シャニーが口の周りを綺麗に拭いてからロイの元へ向かった。やっぱりロイのことだし、あたしの考えすぎだったかな。そう思いながらロイの元へ行くと、その気持ちを逆なでするような光景が・・・。
「!!」
ロイとリリーナが抱き合っていた。頭に血が上るのが分かった。しかし、リリーナの手に何かが握られているの。あれは・・・・!! そんな竜石だ! ロイが危ない!
「ロイ!」
叫んだが遅かった。リリーナが竜石へ魔力を込めて、ロイに押し付けた。
「!?」
凄まじい閃光と共にロイの姿が見る見る変わっていく・・・。姿を現したのは・・・巨大な氷竜だ・・・。
「う・・・そ・・・、うそ・・・。」
人としての意識を失ったロイは野営地に向かって極寒のブレスを一気に吹きかけた。
一瞬にして凍りつく。みな野営をして戦闘準備などしていない。あたりは極寒の氷に閉ざされてしまった。
「ふぉふぉふぉ、本当によく騙されるのぉ。どうじゃわしの迫真の演技は。にょほほほほ!」
アゼリクスの不気味な声が響く。アゼリクスがリリーナに化けていたのであった。先ほどまでの笑い声も何も聞こえない。
ディークたちがよろけながら向かってきた。
「くっ・・・何が・・・起こったんだ・・・。」
目の前には巨大な氷竜とただ立ち尽くすシャニーがいた。
「何があったんだ!!」
「ロイが・・・ロイが・・・。」
シャニーはそれしか言えなくなっていた。ディークはことを理解したのか、唖然とした。
そちらへ向かってまた極寒のブレスが放たれる。
「シャニー・・・!」
ディークがシャニーを庇った。ディークはそのブレスの前に庇ったその姿のままで凍りつく。
「ディークさん!・・・うそだ・・・うそだー!!!」
「ふぉふぉふぉ、劣悪種どもよ。絶望したか? 恐怖に慄いたか? がははは!」
アゼリクスはそう言うとワープで消えていった。
今生きているのはディークに庇われた自分とロイだけ。そのロイも人としての意識を失い、あらゆるものを凍てつかせる恐怖の邪竜に成り果ててしまっている。・・・もうどうすることもできなかった。
「そんな・・・そんな・・・。こんなことって・・・。嘘だよね・・・嘘・・・ははは・・・。」
目の前の現実を信じられなくてただ呆然と立ち尽くすシャニー。
そのシャニーへも、ロイがブレスを喰らわせようと大きな口を開いていた。

翌日、ベルンは討伐隊の全滅を世界に宣言。その後今までの沈黙が嘘かのように各国へ侵略を開始。
世界中がまた、ベルンの軍事力を前に闇に包まれた瞬間だった。
あのベルンの変から2年強。ロイ達の戦いはここに幕を閉じた。若者達がその未来を、世界を守るために戦った戦いは討伐隊の全滅という形で・・・。
しかし、本当に全滅したのかは分かっていない。野営地はその形そのまま残っているが、人の姿は全く残っていなかったのである。まるで神隠しにあったかのように、人だけが消えていた。氷竜化したロイも見つからず終いだった。ただ、一ついえる事は、彼らは最期の最期まで夢を捨てずに戦ったという事である。しかし、その夢がかなわぬまま、非業の死を遂げていった・・・。
彼らの求めた光は、もう二度と手に戻らないのか・・・。


46: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/15 15:21 ID:E1USl4sQ
如何でしたか?
お楽しみいただけたでしょうか。
以上で1部は終演です。ありがとうございました。
ぜひ感想をお聞かせください。レスでもトリップ専用メッセンジャーをお使いになられても結構です。
また、2部に移る前に、できるだけわからないところはなくしておきたいと思いますので
何か疑問に思われたところは何なりと書き込んでください。
よろしくお願いします。m(_ _)m

47: 手強い名無しさん:05/08/15 17:18 ID:nuLlYSBE
乙です。
少し前の展開が聖魔と似てるっていうひとがいたけど聖魔未プレイの俺にはわからない…
しかしこの引き方は明らかに聖戦の系譜そのものかなぁ。

感想(あくまで一個人として)

二次創作の利点は読み手が登場するキャラクターの個性や背景をよく理解しているし、登場キャラに対する
好感度も最初から高い。書き手はそれに甘えて物語を作ることになる。あぐらをかいている。
その上で書き手独自のオリジナル要素をスパイスに加えてストーリーを構築する、させてもらってる。と思う。

ここで書き手の完全なオリキャラやゲームの設定、流れを越えたオリジナル超展開の度合いが問題になる。
「面白ければ」大概は許されるが、二次創作において読み手のほとんどはゲームに登場するキャラの活躍する話を
期待しているはず。FEの同人誌やアンソロを買って、FEに登場しないキャラの話を展開されても困るわけで。
ラーメンを注文したのに、カレーが出てこられるのも困る。まぁ、2chは「タダ」だから、出されたものは美味しく頂くひとが
殆どだと思うけど。俺は美味しく頂いた。この作品は面白いと思う。でも「ラーメン」とはやや離れているかな。

自分は二次創作において極端なオリジナル要素はかなりグレーゾーンだと個人的には思ってる。劇薬であり諸刃の剣。
肉を切って骨を断たねばならず、骨を断てたとしても何らかの負債を負う。
自分も未熟ながらSSを書いたりしてるけど上記の理由から完全オリキャラは使ったことがない。モブは使う。
原作では死なないはずのキャラ殺しも、使い方次第とはいえ、その発想すら無い。
まぁこの辺りは作者の好みだし、書き手のスタンスの差であって、結果は読み手の判断すること。

個人的にはユーノをシャニーが殺してしまった辺り。これが二次創作「封印の剣」に止めを刺し、完全にオリジナル「双竜の剣」
として読まざるを得なくなった最大のポイントかな。意外性のある「面白い」展開と言える一方で、原作キャラ、しかも女性で姉で
萌えキャラを殺したことで「二次創作」として作品を見るのを完全に放棄することになった。

偉そうなことをほざいたが、結局は職人の信念の赴くまま、堂々と道を往けばいい。
全ての人間を満足させる作品を作るなど、プロであっても絶対に不可能だから、一人でも支持してくれる人間がいれば
それは立派な作品。だから自分も好きに書いて、楽しんでる。レスや感想つけてくれるひとがいたらもっと楽しい。
実力向上のための意見批判感想叩きすべてあり難い。orzになることも多いが職人など唯我独尊かつMでなければやってられん。

第二部楽しみにしてます。


48: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/15 22:44 ID:9sML7BIs
鋭いご指摘感謝です。
>流れを越えたオリジナル超展開の度合いが問題になる
>二次創作「封印の剣」に止めを刺し、完全にオリジナル「双竜の剣」
として読まざるを得なくなった。

やはりそうですよね。死なせてしまうということはそのキャラのファンの方にとっては非常に面白くない展開だったかもしれません。
このバランスのとり方というのは非常に難しいですね。

>自分は二次創作において極端なオリジナル要素はかなりグレーゾーンだと個人的には思ってる。
>ラーメンを注文したのに、カレーが出てこられるのも困る

うーん・・・。やはり発想が飛びすぎていましたか。
封印の剣の二次創作というより、完全なオリジナルとして書き始めたほうがよかったかもしれませんね。
特にキャラが死んでいくシーンと言うのは原作の設定と180度設定が違いますしね。
そういう意味では第二部のほうがある意味読みやすいのかもしれません。殆どオリキャラで構成されていますし
しかし、それが逆に『読み手のほとんどはゲームに登場するキャラの活躍する話を
期待しているはず。』
という部分と相反するので皆様のご期待に添えるか少し不安ではありますが・・・。

>しかしこの引き方は明らかに聖戦の系譜そのものかなぁ

ご名答です。章題でもお分かりになられると思いますが、あそこの部分は聖戦の系譜を意識して描きました。
同じような展開になりつつ、それを如何に違う展開のように描くか、ということにチャレンジしてみたのですが
結果は私の文章力不足でいとも簡単に見破られましたねorz  修行します。

>だから自分も好きに書いて、楽しんでる。レスや感想つけてくれるひとがいたらもっと楽しい。
実力向上のための意見批判感想叩きすべてあり難い。

同感です。特に私はまだまだ未熟者ですから、どんどんご指摘を受けて修行していきたいと思っています。
ありがとうございました。これからもご指摘宜しくお願いします。

メールくれた方へ
ミレディは結局どうなったのか?という質問を受けましたが答えは・・・

どうなんでしょうか。それは言えません。しかし行方知れずというだけで戦死したとは描かれていませんね・・・。



49: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/15 23:03 ID:9sML7BIs
追記です。
問題箇所をかわき茶屋様のサイトの方で確認してきました。
すると、確かに・・・似ているかもしれませんね。
やっぱりありきたりすぎたかな・・・orz
ちなみに告白しますと、私は烈火以降の作品はプレイしておりません。
というか、できません。就活に走り回り、車の保険代を払ったらもうゲームを買うお金がorz
キューブももうスマブラ以降、新作を何も購入していないという有様。
だからもしかしたら妙に被ったり、設定と違うような場所が出てくるかもしれませんがご了承ください。。

50: sage:05/08/16 00:35 ID:pQOqOuMc
いつも楽しく読ませて頂いています。
一つだけ気になった所があるのですが、シャニーが大量に食べ物を食べるシーンがカリオストロ(ルパン)のとあるシーンとだぶって見えました。それ以外は先を読もうと思わせるものがあるのでとても良い作品だと思います。


51: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/16 01:24 ID:gAExt6/c
"o(-_-;*) ウゥム…
頭の中にそういうシーンがぱっと浮かんでそのままそれを用いたのですが・・・。
「思い浮かんだ」ではなくて「思い出した」だったのかもしれんませんね。
カリオストロの城は確かテレビで見たことがある気がするし・・・。
多分そうです、ごめんなさい。こう考えると結構ぱくっちゃってるのかなぁ。。
まぁでも、いい表現は盗んでいきたいとも考えていますし、今も他の方のSSを読んではいい表現だと思ったらメモしてます。
他の方はそういうことはしないのでしょうか。それともそういうことはタブーだったり??

52: 手強い名無しさん:05/08/16 13:45 ID:aMO8pBgg
絵のトレスなんてよくあるし
文章なんて自分の知識以上のことは書けないから色々参考にするのは別にいいと思う。
まぁ丸パクリとか露骨にパクリと感じさせる文章は困るが。パロディならいいけど。
自分の気づかないうちに表現なり展開が似すぎることなんてよくあるぞ。
書いた後に「これ何のシーンだったっけ?」などと必死で思い出すこともザラだorz



53: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/17 17:01 ID:E1USl4sQ
>>52
ありがとうございます。
皆様もやはりそうなんですね。

それでは第二部に入って行きたいと思います。
最初のほうは ? と思う部分があるかもしれませんが、読んでいけばわかるようになっています。(多分


54: 第二部:序章:蒔かれた希望:05/08/17 17:03 ID:E1USl4sQ
あの夜から16年経った・・・17年か。・・・まぁいい。そんなことは私にはどうでもいいことだ。
討伐軍が全滅してから、ベルンは今までの静けさがまるで嘘のように各地に侵略を再開した。抵抗する者は皆殺し。世界の英雄ロイがやられたという話はすぐに世界中へ広まり、士気は一気に下がったのだろう。主要な都市は瞬く間に占領された。ロイの腹心がリキアに逃れたらしいが、その後の消息は不明。リキアにはグレゴリオ大将軍がいたし、ベルンとも隣接している。大方見つかって皆殺しだ。もう光など戻ってはこないだろう。
そもそも、光とは一体なんだ? 人が支配できる世界が光ならば、それは随分自分勝手な光だな・・・。
私は誰かと? ・・・ふ、しがない傭兵だ。気にするな・・・。私も昔はベルンのやり方はおかしいと思っていたが、もはやどうでもいい。人が支配しようと、ハーフが支配しようと結果は変わらない。それを逆転させようと戦争を起こすほうがよっぽど愚かだ。・・・まぁ、私は戦争がなければ無職で困るわけだが・・・。
今は今で世界は落ち着いている。ベルンの事実上の一国支配だ。旧名になるが、エトルリア、リキア、イリア、ベルン、西方、この5箇所をベルン五大牙が長を勤め支配している。前の戦争までは優位だった人間族の階級が一番低い。世界をハーフが牛耳っているわけだな。私か? 私も・・・人間族だ。
しかし傭兵に種族は関係ない。腕の立つ傭兵ならどこでも受け入れてくれる。
私は今の世界のままで十分だ。種族間の覇権をかけた争いにはもう興味はない。正直うんざりだ。
互いの正義は、その種族だけの正義に過ぎない。そんなママゴトには金を払われても付き合うつもりはない。
私か? 私はこれから少々用事があって西方三島へ向かうところだ。君はエトルリアか。
では、ここでお別れだな。さらばだ。道中の安全を祈っている。
その傭兵は、長い髪をたくし上げながら、船に乗って大海原へ旅立っていった。

「よーし、終った終った。シーナ! 早く遊びに行こうぜ!」
蒼髪の少女が鞄を投げ捨てるや否や外に走り出した。それを橙色の髪を揺らしてもう一人の少女が追う。
「ダメだよ姉ちゃん。学問所の宿題やってないじゃん。」
「いいっていいって! そんなの帰ってきてからやればさ〜。」
「そんな事言っていっつもやらないで寝るくせに。母さんにまた叱られるよ?」
「な、うるさいなー。遊びに行かないなら置いてくぞ!」
「わぁ、待ってよ。」
ここは西方三島の自治区。ベルンの支配に抵抗して人間が自治している世界でも数少ない地区だ。
自治区のリーダー、エキドナが開設したこの孤児院で二人は育った。孤児院の中でもリーダー的存在のガキ大将だ。
「こらぁぁぁぁっ。お前達! 勉強しねぇと夕飯抜きにするぞ!」
バアトルがいつものように二人を怒鳴る。しかし、エプロン姿に持つものがフライパンでは威圧感はない。
「いいもーん! 山で適当に果物漁るからー。」
「このっ バカモンがぁ!」
威勢のいい怒鳴り声も彼女達には通用しない。そのまま走って孤児院から出て行ってしまった。


55: 手強い名無しさん:05/08/17 17:04 ID:E1USl4sQ
「どうしたんだい、バアトル。」
「おぅ、エキドナか。お前の娘達は本当にけしからん。もっと気合を入れて躾しなくてはいかんぞ。」
「そうだねぇ。ま、でもいいんじゃないの? 元気だけが取り柄なんだし。・・・ところで、なんか焦げ臭いねぇ・・・。」
「む・・・!! しまった! 火にかけたままだ! ぬぅ、あいつらに関わるとろくなことがない!」
バアトルが焦って厨房に戻っていった。ここは平和に時が流れている。大陸本土では人間は奴隷階級だった。西方ではエキドナたちの活躍で何とか自治区を守っている。ここを支配している五大牙の一人
闘将ガルバス・サンダースも人間との小競り合いよりも鉱山の守りと運営に力を注いでいた。元はエトルリアに所有権のあったエブラクム鉱山だが、今はベルンの支配下にあり、働き手として人間が容赦なく送られてくる。エキドナはそういう人間を助けてやりたかったが、自治区の保持だけでも手一杯だった。
「エキドナさん、何かお手伝いできることはありませんか?」
「あぁ、アリス。そうだねぇ。男どもの仕事は終りそうか見てきてくれるかい?」
「はい。」
エキドナはアリスに彼女がイリア王国の皇女であることは告げてはいたが、アリスは戦争が起きることを嫌い、国を取り返そうとは考えていなかった。
そして、あの二人には何も伝えず、アレンとエキドナの子として育てていた。
身分がばれれば、たちまちベルンにつかまって殺されてしまう。ユーノ后妃が命を懸けても持った皇女を失うわけには行かない。あの子たちには幸せに生きてもらわないと。

「アレンさーん。エキドナさんがそろそろ仕事を終えて帰って来いって言ってますよ。」
「おお、そうか。それじゃ、皆にも伝えておくよ。クラウド先に帰っていなさい。」
「分かったよ、親父。」
クラウドがアリスと共に帰っていく。アレンは実子クラウドにだけは、真実を教えてあった。だからもしもの時は二人でアリスたちを守らなければならない、と。
「エキドナ、エキドナ。」
「なんだいゴンザレス。今度は何を見つけたんだい。」
「そら・・・そらとんでた。」
「何がだい? 綺麗な鳥でも見つけたかい?」
「ちがう。りゅうにのったやつもいた。そらとんでるひともいた。とりじゃない。」
「なんだって・・・? そりゃおかしいね。西方軍には竜騎士なんていないはずだし、人が飛ぶ??」
「神竜族かもしれないな。」
アレンが帰ったきた。両手にはさっきの二人を連れている。
「神竜族?? どちらにしろ怪しいねぇ。警備を強化しといたほうがよさそうだね。」
「親父! 離せよ〜。 まだ日も高いし、遊んでたっていいじゃん!」
「ダメだ。今日は何か外で不穏な動きがある。危ないから孤児院の中で遊んでいなさい。」
「ちぇぇ〜。」
「ちぇーじゃないだろ? ちゃんと宿題やってから遊んでるんだろうね?」
「げ・・・母さん・・・、逃げろ!」
「わぁ、待ってよ姉ちゃん!」
「待ちな! 宿題やってなかったらぶっ飛ばすからね!」
「全く・・・セレナ様もシーナ様も・・・。」
「ところでアレン、あんたいつまで黙ってるつもりなんだい? あいつらももう16だし、そろそろ言ってもいい頃じゃないか?」
「だが・・・セレナ様はあの性格だ・・・。言ったらきっと突撃していくだろう・・・。俺はロイ様から守るように託されている。命を大事に生きていただきたい・・・。」
「だねぇ・・・。でも、いつまでも隠しているのもどうかと思うよ?」
「うむ・・・。」
二人はこれからも変わらない戦争のない世界を望んでいた。アレンは主の仇を取りたい気持ちもあったが、亡き主の言いつけを忠実に守っていた。“子供達を頼む”



56: 手強い名無しさん:05/08/18 11:36 ID:E1USl4sQ
俺は戦場を離脱した後、セレナ様達を連れてリキアの孤児院へ向かった。しかし、地方への侵攻は予想以上に早く、俺は世界を転々とした。見つかってはなす術がないからだ。そして、最後に俺は西方に流れ着いた。そこにはかつて戦場で共に戦ったエキドナ殿が、激戦の末に自治区を勝ち得ていた。
俺が事情を話すとエキドナ殿は快く了承してくれた。そして、まだ生まれたばかりの我が子クラウドと
・・・ロイ様達の愛娘、セレナ様とシーナ様も、俺とエキドナ殿の子として育ててきた。
セレナ様達がロイ様の嫡子である事は俺とエキドナ殿、そしてクラウドとアリス様しか知らない。
だから、今日竜騎士達がこのあたりを飛んでいたというのは、我々の情報がベルンにかぎつけられた可能性があるということだった。エキドナ殿たちに迷惑はかけられない。ここを出て行くのも時間の問題だ。その際、もうセレナ様達にことを全て告白しておこうと思った。これ以上は隠し切れない・・・。
「ねぇー、シーナ。あんた頭良いんだし教えてよ。減るものじゃないのだしさぁ。」
「だーめ! 自分でやらなきゃ意味ないじゃない。 そんなんだからテストで赤点とるんだぞ?」
「どうせ学者になるわけでもないんだし、別に勉強なんて出来なくてもいいじゃん。」
二人の凸凹な会話が聞こえてくる。いつまでもこんな平和な生活が続いてくれれば・・・。
アレンの心中は複雑だった。そんなアレンをよそに二人はにぎやかだ。
「それでも最低限の知識はないと生きていけないじゃん。姉ちゃんだって剣術の事になると真剣になれるんだから勉強だってしっかりやりなよ。」
「もー。いじわる。ねぇ、親父〜。これどうやって解くの?ねぇねぇ〜。」
「その言葉遣いも直せって母さんに言われてたじゃん。そんなんだから男の子と間違えられるんだよ?」
「うるさいなー! この魅惑の美少女のどこが男に見えるのか言ってみろよ!」
「はぁ・・・。もういいや、勉強しよ・・・。」
セレナは妹が答えを教えてくれないので仕方なく自分で解き始めた。しかし、どうも集中力が続かない。
すぐにそのまま寝転がってしまう。勉強は母さんの説教の次に嫌いだった。
「やり始めて10分も経ってないじゃん。言っとくけど答えは教えないからね!」
「いいもん、アンタが寝てからノート覗いてやるから。」
セレナはそういいながらふとアレンのほうを見た。すると、いつもの優しい顔ではなかった。何か思いつめたような、そんな顔・・・。
「親父・・・じゃなくて父上、お風呂が沸いたそうなのでお入りになられたらいかがです?」
クラウドが部屋に入ってくる。同じ16とは思えないほど大人びている。シーナもクラウドは兄として慕っていた。姉は・・・姉というか友達というか・・・何といっても双子だし。
「ああ、そうだな。クラウド、一緒に風呂でもどうだ。」
「いいですね。一緒に入りましょう。」
「お、あたしも入るー。」
「姉ちゃん・・・・。恥ずかしくないの・・・?」
「セレナは俺達が入った後にシーナと入りなさい。」
アレンはクラウドを連れて風呂へ向かっていった。セレナはそのまま部屋の中で剣の素振りを始める。
「わぁ! 危ないじゃん! 部屋の中ではやるなって散々怒られてるのに! 宿題しなよ!!」
「だって暇なんだもん。勉強なんていう頭脳労働はあたしには向いてないって。」
セレナが白い歯をニカっと見せて笑う。姉の笑顔を見ているとなんか幸せな気分になれるが・・・この頭の悪さはどうにかならないものかと妹はいつも思っていた。
「・・・こんなバカ姉を持って私は不幸せだ・・・。」


57: 手強い名無しさん:05/08/18 11:38 ID:E1USl4sQ
風呂ではクラウドがアレンの背中を流していた。幾多の戦場を渡り歩いてきた背中には、妙に重いものを感じる。特に今日の親父・・・じゃなくて父上の背には何か重いものを感じる気がする。
「ふぅ、ありがとう。お前も大きくなったものだな。 今日は俺もお前の背を流してやろう。」
「え?! サンキュー親父・・・じゃなかった・・・。」
「ははっ、気にするな。家族だけでいるときは畏まる必要なんてないさ。背中を見せてみろ。」
クラウドが背中を見せる。その背には穢れなき白い翼。その翼を見るたびに、アレンはクリスを思い出していた。見ろよ、クリス。お前の命はしっかり芽吹いて根を下ろしているぞ。
「うわっ くすぐったいって。翼は自分でやるよ。くすぐったくてたまらない。」
元騎士である自分を見習って騎士となる道を選んだ息子。だが、もう戦場に出す事はさせない。
その気持ちだけで十分だ。練習には付き合ってやるが、戦場に出ることは許さないぞ・・・。
二人とも体を洗い、鉄製の樽桶に張った湯の中に体を入れる。湯加減に融通の聞かない為、一気に飛び込むとやけどをすることもある。昔は二人で入っても窮屈に感じなかったが、息子は成長し、肩がお互いぶつかる。・・・あれからもうこんなに時は過ぎたのか・・・。
「クラウド、俺は今悩んでいるんだ。」
「なんか黙り込んでいると思ったら・・・やっぱり。で、何を?」
「セレナ様達に、真実を言うべきか否かだ。今日竜騎士が徘徊していたという話は聞いているな?」
「はい。もしかしたら我々の居場所が察知され可能性があると。」
「そうだ。エキドナ様方に迷惑はかけられん。だからまた出て行かなければならん。しかし、俺とエキドナ様の子供という話にしてある故、もうこれ以上は黙っておく事が難しいのだ・・・。」
「そうですか・・・。もうそろそろ告白しておくべきかもしれませんね。オレもこれ以上兄弟として接していくには限界がありますし・・・。」
「そうだな・・・。機を見計らって話して見ることにしようか。」

次の日、セレナ達がいつも通り学問所から帰ってくる。
「ほーら、言った通りじゃない。また先生に叱られて。姉ちゃんが授業中に椅子に座ってた覚えがないよ。」
今日も宿題を忘れ、教室の後ろで立たされていたのである。セレナが一生懸命になるのは体育の時だけであった。早弁に居眠りは日常茶飯事・・・要するに問題児だ。
「うー・・・。あんたが寝た後にノート見ようと思ったけど、そのまま寝てしまった・・・。」
「食べたらすぐ寝る姉ちゃんがあたしより長く起きていられるわけないじゃん。」
「今日こそは見てやるぞ!」
「はぁ・・・。そんな事に意気込むくらいなら最初からちゃんと宿題やればいいのに。」
シーナが呆れ顔でやけに意気込む姉を見る。こんなバカ姉貴でもどうしても真似できないところがあった。姉の所には不思議と人が集まってくる。自分が常に姉といるのも姉妹だからというだけではないような気がした。そして武術でも勝ったことがなかった。こっちが有利な槍で攻めてもいっつも負けていた。自分で最強って言っている時点で痛いけど・・・。そして、何より前向きだ。どんな事も決して諦めない。・・・猪突猛進で直情径行があるのが玉に瑕だけど、あまり気の強くなくて慎重すぎるきらいのある自分と丁度釣り合っている様な気もした。要するに私達はいいコンビなんだ。何だかんだ言っても私は姉ちゃんが大好き。
帰ってから二人はいつものように山に出かける。今日は二人で武術の稽古だ。
「母さーん、稽古に行って来るねー!」
「あいよ、気をつけて行ってくるんだよ。鉱山には近づいちゃダメだからね。」
「は〜い。」
「こりゃぁぁぁ! 先に宿題をやっていかぬかぁー!」
「げ、カミナリオヤジだ! 行くよ、シーナ!」
二人は弾けるように走って逃げていった。バアトルにとっては孫みたいなものだ。
「ったく、最近の若いモンは・・・。」


58: 第二部:1章:鳥篭の平和:05/08/18 11:39 ID:E1USl4sQ
二人はいつも遊んだり稽古したりする山に出かけた。その山からはエブラクム鉱山を見ることが出来る。自治区最端の場所だった。シーナが穂に布を巻いた木の槍を持って宙に舞う。彼女はペガサスナイト。
ナイトといっても叙勲はおろか、見習いの修行もしてない潜りだ。ペガサスライダーといったほうがいいかもしれない。
「はぁ、もうこんなおもちゃみたいな剣じゃなくて真剣で稽古したいよ。」
セレナがやはり布を巻いた木刀で素振りをする。
「何言ってるのさ。真剣なんか当ったら痛いじゃ済まないよ。その木刀だって十分痛いのに。」
「あんたの受けが下手なだけじゃん。 槍や鎧で受ければ何ともないじゃん。」
「簡単に言わないでよ。特に姉ちゃんの場合は2回も受けなきゃいけないんだからさ。」
「んー。じゃあ避ければいい。あたしみたいに。」
姉がまた罪のない笑顔で笑う。私は姉ちゃんみたいにカサカサ動けないよ。
「・・・。まぁいいや、始めよう。今日こそは負けないんだから!」
シーナが空中へ舞い、急降下してくる。いくら木の槍でも、直撃すれば体に穴が開く。しかし、まだまだ未熟な槍術。左に持った剣で槍を払い、すかさず右に持った剣で斬る・・・というより叩く。そう、セレナは二刀流剣士だ。剣士といってもろくな修行を積んでいない我流剣術だし、華奢な体では剣に振られる。お互いまだまだ未熟すぎる。エキドナがレジスタンスに加入させない理由もうなずける。
天馬騎士はろくな防具をつけていない。天馬は最高速度には長けているが、飛竜のようにパワーはないのであまり重いものは乗せられないからである。付けられる防具といえば皮製の肩当てと胸当て、そして脛あて程度だ。無防備な腹部に剣撃が直撃した。
「ぐえっ・・・いたたた・・・げほげほ。」
「よーし、今日もあたしの勝ちっと。夕飯のおかずゲット〜♪」
「うぅー、悔しいーっ。 もう一度!」
何度やっても勝てなかった。血のせいにはしたくはないが、やはり姉は強い・・・何といっても神竜だし・・・。双子なのに姉は生粋の竜族。私は混血児。なーんか不公平だ。でも、世間的に見ると私のほうが血統的に優れているんだって。やっぱりなーんか不公平。
「またまたあたしの勝ち。シーナ、これ以上やるとシーナの夕飯なくなっちゃうよ?」
「うー・・・降参だよ。」
姉がまた満面の笑顔でこちらに向かってくる。そしてさっき木刀があたった場所に回復魔法をかけてくれた。勉強嫌いな姉ちゃんだから魔法のバラエティーは少ないけど、やっぱ魔法が使えるっていいな。
私は人の血が濃いから混血でも魔法なんて使えない。・・・やっぱり不公平だ!!
しばらくそのまま二人は寝転がっていた。今日もいい天気。悩みなんか一気に吹き飛んだ。姉ちゃんなんかヨダレを垂らして寝ている。姉ちゃんは悩みがなさそうでいいよなぁ・・・。
でも、寝ているのかと思った姉ちゃんから、意外な言葉が発せられた。


59: 手強い名無しさん:05/08/18 11:40 ID:E1USl4sQ
「ねぇ、シーナ。あたし達って本当に姉妹なのかな。」
「え?!」
「だって、父さんも母さんも翼なんてないし、流れるエーギルの波動は人間そのものだよ。」
「え・・・?」
「どっちかが薄い混血なら、あんたが混血って言うのも納得できるけど、それだとあたしが説明できない。・・・あたしとクラウドって実は捨て子なんじゃないかな・・・。」
「そ、そんなことないよ。姉ちゃんは姉ちゃんだよ。へその緒だって一緒にあったじゃない。」
「そうだよね。どうしたのかなーあたし。なんかさ、皆と容姿が違うから、あたしはおかしいのかなって思っちゃうよ。翼だなんてさ。要らないよ、こんなの。あたしは皆と同じでいい。」
「皆気にしていないよ、そんなの。だって皆姉ちゃんの周りにいっぱい集まってくるじゃん。皆姉ちゃんが大好きなんだよ。私だって、お姉ちゃんの笑顔が大好きだモン。」
「ふーむ・・・。だよね、甘い香りのする花には皆寄ってくるってわけだ。」
「なんか意味が違う気もするけど・・・。まぁそういうこと? それにしても姉ちゃんにも悩み事なんてあったんだね。悩み事なさそうで羨ましかったのに。」
「どういう意味よ! よく言うでしょ、美人薄命って。」
「は?」
「だから! 美人は悩み事が多いから早死にしやすいってことでしょ。はぁ、あたしは早死にしちゃうのか・・・。」
「・・・意味違うし・・・おまけに美人・・・? 言わせておこう・・・。」
セレナが妄想に浸っているのを尻目にシーナは鉱山のほうをふと見た。山のすぐ横にある鉱山は中をある程度見渡す事ができる。
鉱山では人々が奴隷のように扱われていると聞いているが、その話は本当であった。皆ボロ布を着せられ、鞭を打たれながら仕事をしている。女子供もいるではないか・・・。自治区の境界をはさんで、これほど境遇が違うのか。まさにその境界は、天国と地獄を分けているようにも思えた。シーナは自分が如何に幸せであるかを再確認すると同時に、彼らを助けてあげられないものかと思っていた。
「あたし達、幸せなんだね・・・。」
セレナもいつの間にか横にいる。この境界から外へ出ない限り、自分達は安全だった。その外では地獄絵図が繰り広げられている。助けてあげたい、でも外に出れば自分達も彼らの二の舞になってしまう。
二人とも親に似て正義感が強かった。特にセレナはこういう苦しめられている人を見ると、そのまっすぐさも相まって放っては置けなかった。しかし、自分達だけではどうすることも出来ない。
二人は惨状を見ていることしかできない自分達の不甲斐なさにただただ黙していた。
そんなとき、シーナが何かを見つけた。
「ねぇ、誰かこっちに歩いてくるよ?」
「な、ベルン兵かな?? でも・・・それならこの境界より中には入れないはずだし・・・。」


60: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/18 12:17 ID:E1USl4sQ
キャラクター紹介です。
これまでの文脈で大体つかんでいただけたら、こちらの狙い通りなんですが・・・。
今度分かっていないとはナシをつかみづらいかもしれませんので、念入りに紹介しておきます('-'*)

セレナ(♀ 魔法剣士)
一応、本編の主人公・・・的な存在。まぁ2部は全員が主人公のようなものかも・・・。
ロイとシャニーの子供。シーナとは双子の関係。
容姿はまさにシャニーに瓜二つ。性格も似たようなものでさらにロイのまっすぐな所も加わった感じ。
口調も肝っ玉母さんや周りのガタイのいい連中のおかげでかなり威勢のいいものに・・・。
勉強嫌いで頭も悪く、使う言葉も違った解釈ばかり・・・。
・・・簡単に言えば手が付けられない程のおてんば娘。

シーナ(♀ ペガサスナイト)
セレナの妹。だが姉とはあまり思っていない。
姉と違い慎重派で物事も一呼吸置いてから行動に移すタイプ。
だが、親譲りの正義感は姉ともども健在で、心の中は人一倍熱かったりする。
よく考えもせずに突撃する姉のブレーキ役。一言多い事が玉に瑕。
容姿は橙色のポニーテイル。本人は気に入っているが唯一の問題は姉に引っ張られること。
ここまで正反対な双子も珍しい。エキドナ曰く「足して2で割れば丁度いい」極端さ。

クラウド(♂ 魔法騎士)
アレンとクリスの一人息子。アレンを尊敬し、自らも騎士になる道を選ぶ。
容姿はアレン似。特に目元はそっくり。
親が両方とも真っ直ぐな性格であるため、その正確はきわめて素直。
ただ、アレンを反面教師として育ったのか、一呼吸置く冷静さも兼ね備える。
自分達の出生の秘密や、何をすべきかなどを知っている数少ない人物。
セレナ達にも、身分を知りながら兄弟として接する。

アレン(♂ パラディン)
1部より引き続き登場。あの戦争の後、赤子を連れて世界を転々としながら
なき主に遺言を忠実に守り通す紅蓮の騎士。
この頃は主の遺言を守るという使命と、主の仇を取りたいという願いの間の葛藤に苦んでいる。
その為か熱い心をしまいこんでしまっているため、仏頂面で黙り込んでいる事も多い。

アリス(♀ 魔道師)
ユーノとゼロットの娘。真実を知りつつも、
世界を戦争に導く事になると考えイリア奪還をできずにいる悲劇の皇女。
優しい性格で色々なものと交信することの出来る不思議な力を持つ。
セレナ達のお姉さん的存在でもあり、可愛がる光景をしばしば見かける。
その光景はかつてのユーノのようであり、アリスも何か思う所があるのかもしれない。

謎の傭兵(?? ??)
最初に出てきた傭兵。セレナ達の居る西方三島へ向かったようだが・・・?

61: 手強い名無しさん:05/09/06 18:31 ID:E1USl4sQ
ちょいと修行に出ます。
色々探して研究してきます。
今のままでは需要なさそうだしorz

62: 手強い名無しさん:05/09/06 21:20 ID:FLiPsqkE
>>61
えー実はコソーリ楽しみにしてますた
修行から戻られて再開されるの待ってます

63: 手強い名無しさん:05/09/09 13:35 ID:EP.TjolY
変な事言いますが
ロイって俺口調じゃありませんでしたっけ?


64: 手強い名無しさん:05/09/09 14:30 ID:3U7M01Bw
>>63
かわき茶で支援会話なりなんなり見直してこい。

65: 手強い名無しさん:05/09/09 19:59 ID:0kksb10k
 ■エイベックス抗議緊急集会のお知らせ■
     〜全2ちゃんねらーよ団結せよ!!〜

日時 9月10日(土)15:00〜
場所 東京都港区南青山3丁目1番30号 エイベックス本社前
    地図 http://www.avex.co.jp/j_site/info/03_map.html

※注意
暴力行為等の違法行為は禁止

正式な2chキャラのモナーを勝手にパクリ、そのうえ商品登録まで
しようとしているエイベックスをわれわれは絶対に許しません!
そして、この事件の張本人「わた」を絶対にゆるせません!
のま猫など明らかにパクリにしか思えないキャラをわれわれは
簡単に認めてしまっていいのでしょうか?もちろん言い訳がありません!
われわれは正当な2ちゃんねらーとして、わたとエイベックスを許しません!
今こそ立ち上がれ!AAはわれわれが守る!2chに平和を取り戻せ!!


今僕達はいろんな板に宣伝をしています!
皆さんに本当にモナーを、AAを守る気があるのでしたら、
ご協力お願いします!!

[大規模OFF]エイベックソの前で集会!!!!
http://off3.2ch.net/test/read.cgi/offmatrix/1125984173/
■エイベックス抗議緊急集会のお知らせ■
http://off3.2ch.net/test/read.cgi/offevent/1125983160/l50

66: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/09/17 13:07 ID:E1USl4sQ
かなり間が空きましたが一応再開します。
最萌トーナメントを見て、やはりシャニーはマイナーキャラなんだなーと再確認・・・。
でも、そんなマイナーキャラへの愛を貫いてこそ真のファンだと言い聞かせる俺ガイル。
こんなマイナーなキャラの(と言うより、こんな稚作な)小説でも待ってくださる方がおられるのは結構感激だったり。
大学も始まるので更新間隔は夏休みのときより長くなると思いますけど、なんとか書ききりたいと思います。
4年だけど単位があと6足りないんだよー。・・。(ノД`)。・・。
二部はもう一つの大陸も出てきたりして一部より長くなる予定・・・。
長いけどダレて平坦な内容にならないよう少しずつ更新していきます。

67: 手強い名無しさん:05/09/17 18:13 ID:E1USl4sQ
自分達の居るところへ何者かが歩いてくる。さらにその後ろから数人が歩いてくる。追われているのだろうか。次第に彼らは近づいてきて、容姿を確認できるほどになった。
「あ! あの追いかけられてる人、きっと鉱山で働いている人だよ!」
その人はボロ布をはおり、ヒゲも髪も伸び放題だった。その後ろに居るのは・・・やっぱりベルン兵だ。
斧を持って追いかけてきている。どうやら脱走してきたようだ。
「シーナ! あの人助けてやろうぜ!」
セレナが剣を構えて向かっていこうとする。セレナも前々から鉱山の人たちを助けてあげたいと思っていた。今は目の前で助けを求めている人がいる。放っては置けない。
「ダメだよ! これ以上先はベルンの統治下だし、自治区外で事を起こしたらタダじゃ済まないよ!
それに、私達だけで何が出来るというのさ。武器もおもちゃなのに。」
シーナが慌てて姉を引き止める。自治区外はベルンが全ての統治権を握っている。そんなところで人間の味方をするようなことがあれば、極刑を免れないし、自治区にも悪い影響を及ぼす。自分だって助けたいが、今後のことを考えると容易に手出しできない。
「くそー・・・。指をくわえて見ている事しかできないのかよぉ・・・。」
「自治区に入ってしまえばこちらのものだよ。相手も手出し出来ないはず。」
その考えは間違っているという事がすぐに分かった。追われている人が自治区領内に入ったところで、すかさずセレナが助けに入った。しかし、
「おい、そこの小僧。その人間をこちらに引き渡せ。」
ベルン兵が領内に侵入し、そのままその人を渡すように要求してきたのである。
「冗談じゃない! あたし達の自治区の中であんた達が命令できると立場とでも思っているのか?!」
「それは我々の“所有物”だ。自治区などは関係ない。それとも貴様は、人の物が自分の家の中にあったら、自分の物だといってそのままネコババするのか?」
「なっ、物だなんて。れっきとした人間じゃない! 何考えているのよ!」
シーナも反論する。しかし、それに対する反応は、セレナに対するものとは大きく違っていた。
「む・・・?同士か。 何故劣悪種と一緒に居る? それに何を言っている。人間ほど劣悪な生物は人として考慮する必要などないではないか。・・・そうか、劣悪種に拉致されてそのまま洗脳されてしまったのだな。・・・可愛そうに。今助けてやるから待ってろ。」
そういうとベルン兵たちは斧を構えた。その視線はセレナと脱走した人に向けられている。
「シーナ! このおっさんを連れて母さんたちのところへ逃げろ。天馬なら相手も手を出せないだろ?」
「でも、姉ちゃんは?」
「こいつらをぶちのめす。何が物だ! ふざけるな!」
「バ、バカ言わないでよ! 姉ちゃん一人で何が出来るのさ!」
「いいから行けってば。ヤバくなったら適当に逃げるからさ。」
「無理だけはしないでよ。って言っても無駄だろうけど・・・。すぐ母さんたち呼んでくるからね!」
シーナが脱走人を連れて逃げようとする。ベルン兵がそちらに向かって斧を振りかざした。しかし、そこへセレナが光の槍を打ち込んだ。
「ぐお・・・小僧! お前達! 子供だからと言って容赦するな! 抵抗には死を!」
「小僧小僧って! あたしは女なんだからね! それに、自治区で先制攻撃したのはあんた達でしょ?」
「黙れ! 劣悪種と蛮族である竜族が住む自治区など、我々の手にかかればいつでも葬り去れる!
お前達の子守をする暇がないから、今は放置しているだけだ! うぬぼれるな!」
ベルン兵が手斧を投げる。今までも西方軍は力で住民達を従えてきた。服従には絶望を、抵抗には死を。
それがベルンのやり方であった。この斧に何人の人間がなす術もなく殺されてきた事か。しかし、セレナはひらっと避ける。さすがに斧は剣では弾けない。
「そんなの当るもんか! 自治区の中ではあたし達がルールだ! この中で攻撃してきた事を後悔させてやる!」
セレナが空中に舞う。そして、木刀に巻いていた布を取り払った。母さんには叱られてしまうが、布を巻いていてはタダでさえ威力のない木刀が余計にナマクラになってしまう。相手は木刀もちの子供と油断したのか、二人いたベルン兵の一人が、鋭い空中からの一撃でダウンしてしまった。急所を突かれたのだ。木刀と言っても振り回せばそれなりに衝撃がある。まして装甲の薄い斧戦士ならば、当たり所によっては十分な破壊力だ。
「ぐぅ・・・翼とは・・・相手は蛮族だ。魔術もあるから気をつけろ・・・。」
「よくも同士を! 貴様生かしてはおかん!」


68: 二章:喪失と後悔と:05/09/17 18:19 ID:E1USl4sQ
もう一人が襲い掛かってきた。鉄製の斧を渾身の力で振り下ろしてくる。あんなのが当ったら痛いではすまない。セレナは必死に避ける。受けていては体が持たない。しかし、斧はその威力ゆえに生み出される隙も特大クラスに大きい。周りに剣をメインに使う人がいなかったら殆ど我流だけど、剣先の器用さなら誰にも負けない。セレナは相手が見せた隙を逃さない。相手の喉めがけて木刀を突き上げた。
「がはっ」
喉が潰れたのか、相手はそれ以上声を上げなかった。そして畳み掛けるように反対の手に持っていた剣で相手のみぞおちを打った。巨体がなす術もなく音を立てて倒れる。
「ふぅ、見掛け倒しなヤツ・・・。って」
向こうを見ると援軍らしき人影が数人見える。まずい、これ以上ここにいると自治区にベルン兵を呼び込んでしまう事になる。セレナは急いで逃げた。

「・・・で、脱走してきた人を助けたのかい? よくやったね。」
エキドナが帰ってきたシーナから話を聞いていた。
「うん、だって、あのままじゃ皆殺しだったよ。・・・姉ちゃん大丈夫かな。」
「んー。ま、あいつなら大丈夫だろ。」
「しかし大丈夫ですか? いくら自治区内とは言え、ベルン兵に攻撃したとなると・・・。」
「クラウド、その時はその時さ。目の前で困っている人を見つけたのに放って逃げてくるような腰抜けはあたしの娘じゃないね。」
シーナは先ほどのベルン兵の言葉を思い出していた。人間は物。自分達の所有物・・・。そんなことを平気で口に出来る人たちと、自分は同じ血が流れている。・・・寒気がした。
「ただいま! シーナ達無事?」
セレナが飛んで帰ってきた。木刀の先端には血がついている。
「あんた! 翼をベルン兵に見られたね!? それに木刀もあれだけ布を巻いて振れって言ったのに!
余計な戦闘をしてたね!」
「わぁ、悪かったよ。でも、あの時はそうするしか・・・。」
「・・・たく、怪我は無かったかい? ホントあんたは無茶苦茶するんだから。」
「だーいじょうぶだって。ほら、あたしは蝶のように舞い、蜂のように刺す凄腕の・・・。」
「はいはい・・・。」
「寝言を言ってる暇があったら宿題をやりな。」
またか、と言わんばかりの母や妹の対応に、セレナはもの悲しさを覚える。
「はぁ・・・あたしって孤独。・・・ん、孤高の女剣士か・・・うーん!熱い!」
「どうした? せれな。おまえ、びょうきか?」
ゴンザレスの心配を、セレナは違う意味で捉え、やはりもの悲しさを覚えてしまった。
「セレナ、大丈夫か? 全く無茶をして。いくら剣術に自信があっても単独行動は危険だ。」
アレンが血相を変えて寄ってきた。怪我が無いか慎重に確認する。
「親父! 大丈夫だってば。うわ、どこ触ってんのよ!」
怪我が無い事を確認すると、しっかりとセレナの瞳を見つめた。やはり・・・親に似て澄んだ瞳だ。
「な、何だよ、親父。」
急に見つめられて妙に照れるセレナをよそにアレンは言った。
「・・・命を大事に生きてくれ・・・。お前に死なれたら、俺は・・・。」
セレナは何かドキッとした。親父がこんなことを言うのは初めてだった。大概の事は笑って許してくれた親父が、こんなことを言うなんて・・・。
「わ、わかったよ。でも、やっぱり困ってる人を見捨てるなんて、あたしにはできないよ。」
「戦う必要はなかったはずだ。時間さえ稼げば。闇雲に突撃することだけが助けることではないぞ。」
セレナは自分のしたことが間違っていないはずなのに、と思いつつ、部屋に戻った。
部屋にはシーナのほかにアリスもいた。
「おかえり、セレナ。怪我は無い? 無茶しちゃダメよ?」
「あ、姉貴。ぜーぜん、ピンピンしてるよ。あんなのあたしの敵じゃないよ。それなのに皆心配しすぎだよ。」
「心配するに決まってるじゃん! 猪張りに姉ちゃん周り見えてないし。下手に突撃したら死んじゃうよ。」
「周りが見えてないとは失礼な! 大体猪ってなによ! 気高い天馬と言ってよ!」
「はぁ! バッカじゃないの?! 周りが見えてたら最初から剣なんて交えないでしょ!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。困っている人を助けたいと言う気持ちは大切だけど、もっとやり方を考えないとね。あなたがどんなに強くても万が一ってこともあるし。あなたにもしものことがあれば皆悲しむわよ?」


69: 手強い名無しさん:05/09/17 18:19 ID:E1USl4sQ
「うん・・・。」
「それにね、もっと周りの自分のことを大切に想ってくれる人を大切にしなさい。その人がいなくなってから、後悔しても・・・遅いのよ。」
「アリス姉ちゃん、どういうこと?」
「私はね、小さい頃凄いおてんばだったの。自分の都合ばっかりで動いてて、皆に迷惑をかけたわ。」
「へぇ、姉貴にもそんな若い時代が・・・。いて!」
「今でも十分若いでしょ! ・・・でね、何時もは母様に遊んでもらってたんだけど、仕事の関係で母様も忙しくてね、叔母様に遊んでいただいていたわ。私は母様や叔母様が大好きだった。でも、母様が仕事で忙しくて遊んでもらえない時、意地悪!とか言ってたわ。」
「子供だったんだし仕方ないじゃん?」
「いえ・・・私は母様の苦労も考えずに、感情の赴くままに・・・。叔母様にも同じような事をしていたわ。二人ともいやな顔一つせず遊んでくれたのに・・・私は・・・結局何も恩返ししてあげられないまま、二人とも戦死してしまった。」
「・・・。」
「あなた達には、私と同じ過ちを繰り返して欲しくない。自分を大切に想ってくれる人を大事にしてあげて。つまり・・・あなた達の周りの人皆を愛してあげて。あなた達が嫌いで説教をしているわけではないのよ、皆。」
「説教は嫌いだけど・・・なんとなく分かったよ。」
アリスはセレナやシーナの頭を撫でてやった。かつて自分の母、ユーノが自分にしてくれたように。
今の自分が母や叔母に出来る精一杯の恩返しは、この二人の成長を見届ける事だった。
「ふふ、いい子達ね。・・・あなた達が無事でいられるようにお守りをあげるわ。受け取って。」
そういうとアリスはセレナには古びた剣を、シーナにはお守りを渡した。
「おぉ、これって真剣!? しかも・・・銀製じゃん! うわーすげー!」
「使っちゃダメよ、それはあくまでお守り。多分刃こぼれしてるから使い物にならないけどね。
それは、私の叔母の形見なの。シーナにあげたお守りもそうよ。」
「え!? お姉ちゃん、そんな大事なものを貰っちゃって・・・いいの?」
シーナが慌てて聞いた。先ほど叔母のことが大好きだと言っていたから尚更だった。自分が大好きな人の形見・・・そんな言葉では表しきれないほど大事なものを・・・。

「いいの。受け取って。・・・あなた達が持っていたほうが、きっと叔母様も喜ぶわ・・・。」
「え? なんか言った?」
「いえ・・・なんでもないわ。さて、宿題宿題! エキドナさんの命令で今日は私が見張ってるからね!」
そう言うとアリスは部屋の入り口に仁王立ちになって二人が部屋から逃げられないようにした。
「げぇー・・・勉強なんかしたくないよぉー」
セレナの悲痛な叫びが夜の冷え切った荒野に響いた。
母様、父様、叔母様・・・私も皆から慕われるようになってみせる。そして、いつかイリアに平和が訪れるように・・・皆が幸せに暮らせるようになるようにしたいと思う。・・・けど、戦争はイヤ。戦争が私から何もかもを奪った。今度は私が奪う立場になると思うと・・・戦争なんて出来ないよ・・・。
どうしたらよいのだろう・・・。

数日後、今日は学問所が休みなので双子達は揃って孤児院の雑務を手伝っていた。
「あー、もう! そんな汚い手で窓拭きしたら意味ないじゃん! キレイにしてるのか汚してるのかどっちなのよ!」
「もぅ・・・シーナはいちいちうるさいなぁ。いいじゃん、手も同時に洗えてさ。」
「バッかじゃないの!? もういいよ、姉ちゃんは外で掃き掃除でもしててよ。」
「へいへい。」
妹に邪険され、しぶしぶ掃除をやる羽目になった。炊事は得意だが掃除は苦手だった。妹はその逆・・・妹の料理は殺人料理だ。ホント、あたし達は足して二で割れば丁度いいのに。
適当に掃除を済ませ、先日もらった剣を鞘から抜いてみた。どこのかは分からないけど、天馬の紋章の入った柄に細身の刀身。剣の切っ先だけが綺麗に刃こぼれしていた。二刀流のあたしにとっては一本だけじゃ意味がない。でも、綺麗な銀製の剣だ。振ってみたくなる。欲望に忠実・・・じゃなくて!素直なあたしはすぐに振ってみた。重いなー。何だかんだ言ってまだまだ力不足か。
でも、あたしも剣の道を志した身。いつか必ず名刀と呼ばれる剣を使いこなして見せるぞ!
そう思いながらぶんぶん振っていると、妹がわなわなしながら寄ってきた。
「バカ姉! 何やってんのさ! 掃除してるの?!散らかしてるの!? どっちなの!」


70: 手強い名無しさん:05/09/17 18:21 ID:E1USl4sQ
セレナが下を見ると、剣に夢中になって、掃き集めた葉っぱなどを踏み散らかしてしまっていた。
「あ、いけね。ちりとりで捨てるの忘れてたや。」
「もう・・・しっかりしてよ。」
そういいながら二人で掃除を始めた、その時だった。男達が慌てて走り抜けていった。中には血まみれの者もいる。何があったのだろうか。猪でも出たのだろうか。
「どうしたの? みんな。」
「あぁ、嬢ちゃん、嬢ちゃんたちは孤児院に隠れてな。ベルンの奴らが境界線を侵して攻めてきやがったんだ。俺らが追っ払うから、それまで中で大人しくしてるんだ。」
ベルンだ! きっとこの前の仕返しをしに来たに違いない。
「よーし、シーナ。ここは一丁、あたし達もがんばろう!」
「うん、今回は皆も戦うんだもんね。私達だけ隠れてるなんて出来ないよ。」
二人は出撃準備をしているアレンのところに向かった。
「親父! あたし達もベルンをやっつけるの手伝うよ。元はと言えばあたし達の責任だし。」
「うん。皆が戦ってるのに私達だけお留守番なんてなんかイヤだよ。」
「何をバカな事を。戦いを甘く見てはいけない。お前たちはダメだ。俺たちが居ない間、自治区を山賊が襲わないようにしっかり見張っててくれ。」
「でも、あたし達だってそろそろ・・・。」
「勘違いしてもらっては困る。お前たちを戦場に出すつもりは毛頭ない。お前たちは女の子らしく、自分の幸せを探すんだ。いいな。」
「えー。でもあたし達だって十分戦力に・・・」
「くどい! お前たちは戦場に関わるな! 命を大事に生きろと言ったはずだ!」
親父が自分達に向かって始めて怒鳴った・・・。ボーイッシュなセレナも、この時ばかりはびくっと体が反応した。親父の目つきは真剣だ。
「わかったよ・・・。」
ちょっと不貞腐れながらも今の親父に逆らえないと思い、セレナ達はしぶしぶアリスたちのいる孤児院に戻った。 
「何さー。今日の親父。あたし達だって十分戦力になるじゃん。ねぇ?」
「うん・・・でも、お父さん何時もああいうよね。私達は戦場に関わるなって。」
「へ、あたしは剣士。あんたは天馬騎士を志してるんだ。親父が怖くて戦場に行けるか!」
「もしかして姉ちゃん、行くつもりなの??」
「おうさ!・・・と言いたいところだけど、今日はやめとくよ。いつか親父を説得してやる。」
石ころを蹴りながらセレナが孤児院に入っていった。

「じゃあ、エキドナ殿。我々も出撃するとしよう。敵数がどのくらいか分からないがとりあえず孤児院は死守しなければならない。」
「あぁ、あたし達の自治区を侵す奴は誰だろうと容赦しないよ。叩き潰してやる。」
「申し訳ない。セレナ様達がベルンに手を出したそうで。」
「いや、あの子らのやったことは間違ってないよ。おかしいのはベルンだよ。さ、行くかね。」
二人が出発しようとしたところにクラウドが走ってきた。
「父上、どうか俺も戦線に加えてください。」
「何を言っている。お前はセレナ様達をしっかり見張っていてくれ。どうも不安だ。」
「いえ、俺も騎士を志した者。皆が戦っているのに自分だけ安全な場所にいるなど出来ません。」
「・・・前にも言ったはずだ。戦場に出ることは許さないと。お前に俺と同じ苦しみは味わって欲しくない。」
「俺は父上に憧れただけじゃない。大事な人を守りたいんだ。もう、後ろから見ているだけなんて俺には我慢できない!」
興奮気味に話すクラウドをアレンがなだめようとする。
「落ち着け。では問うが、そう考えて戦場に出て、お前が万が一戦死した場合、お前のことを大事に考えている人間はどういう思いをするのだ?」
「そ、それは。でも、そう簡単に死なな・・・。」
「その考えが命取りだ。賊ならともかく、今回の相手はベルンだ。生半可な戦術では通用しない。
いいか、お前はセレナ様達の用心棒をするんだ。」
クラウドは下を向いてしまった。アレンはすぐに出発しようと馬をまたがった。が、クラウドからアレンが予想だにしない言葉が発せられた。
「親父は・・・臆病だ。」


71: 手強い名無しさん:05/09/17 18:21 ID:E1USl4sQ
「何・・・?」
「失う事ばかりを気にしている! 特にこの頃はそうだ。俺が憧れた昔の親父はどこへ行ったんだ!」
「・・・。」
「昔の親父はこんなんじゃなかった! 何事にもまっすぐで、どんな困難にも正面からぶつかって行った。俺は・・・そんな親父が大好きだった。俺もいつかこんな熱い男になってやろうと思っていた。」
「クラウド・・・。」
「今の親父は変わってしまった! 何事にもまず先に不安が立って、尻込みしてる!
どうしてなんだ! 俺だって皆を助けたい気持ちは同じなのに、どうして分かってくれないんだ!」
「お前に俺の気持ちがわかってたまるか!」
アレンもつい熱くなってしまった。しかし、クラウドも引かない。こういうところはやはり似ている。
「分かってたまるか! こんな親父は親父じゃねぇ! 怖がるなんて親父には合わない!」
「・・・お前は俺にどうして欲しいのだ。」
「皆の自治区を守りたい気持ちは皆同じだ。俺たちだけ外すなんておかしいだろ? 俺たちだってもう子供じゃないんだ。もう親父の後ろで見ているだけはいやなんだ! これからは、親父の右腕として働いていきたいんだ。」
アレンは息子を見つめた。自分とそっくりな眼差し。自分の若い頃そっくりだ。特に考え方。クリス、俺はどうすればいい。息子を戦場は出したくない。・・・失いたくないんだ・・・。
そんなアレンにクラウドは繰り返した。
「俺だって大切なものを守りたい。親父が俺やセレナ様達を大切に思うように、俺だって親父や皆が大切だ。俺だってもう子供じゃない。皆の為に働きたいんだ! 親父だって昔言ってたじゃないか。万が一の時は親父と俺でセレナ様達を守らなければならないと。今がその時だろ?」
アレンはクリスを失い、そして君主のロイも失った。最愛の妻と仕えるべき主、そして国。大切なものの大半を失ってしまった。これ以上何も失いたくない。その気持ちが、アレンの熱い気持ちに蓋をしてしまっていた。考え込むアレンにクリスの囁きが聞こえたような気がした。
「なーにボケーっとしてるんだい。あんたらしくもない。悩む事何ざないさ。悪い奴らはさっさと倒しちまいな。悩んでたって何も始まらないだろ?」
アレンははっとした。悩んでいても何も始まらない。そんな当たり前のことを忘れていた。自分釜も手やらねばと言う気持ちが先に出て、息子の気持ちを考える事すら忘れていた。自分が騎士を志した理由を考えてみる・・・。ふ・・・クラウドはやはり俺の息子だな。
「クラウド・・・。」
「親父・・・?」
「騎士の道は辛く、厳しいぞ? 今までのように甘くはない。・・・それでも騎士を目指すのか?」
「おぅ! 当たり前だ。俺も親父のような強い騎士になって皆を守りたいんだ。そのためなら・・・なんだってするさ。」
「わかった・・・。では俺について来い。ただし、お前は戦場を経験するのは初めてだ。お前は俺の傍で俺のサポートに回ってくれ。」
「よっしゃ! サンキュー、親父。やっとわかってくれ・・・。」
「騎士ならその言葉遣いは直すべきだな。帰ったらみっちり騎士の行いや言葉遣いを教え込んでやる。
だから・・・絶対に俺の傍を離れるな。死ぬな。わかったか?」
「承知いたしました! 父上。」
アレンの顔に笑顔が戻った。少しは胸につかえていたものが取れたようだ。二人は先に発ったエキドナたちを追って馬を走らせていった。
「ったく、アタイをあまり心配させるんじゃないよ。あんたのそんな顔を見てるとこっちが不安になるよ。」
クリスもきっとそう思っているに違いない。
孤児院にはセレナたち二人と数人の斧戦士が残る程度しか戦力となる人間は残っていなかった。
ベルンは境界線を越えてくるのだから北さえ守れば大丈夫・・・その考えが間違いである事に気付くには、そう時間はかからなかった。この孤児院を狙っている者は、ベルン以外にも存在したのである。


72: 第三章:開かれた運命:05/09/22 22:37 ID:9sML7BIs
「えー! クラウドだけ親父が連れて行った!? 何よそれー。ぶーぶー。」
孤児院ではセレナが騒いでいた。自分達には残れと言った親父がクラウドだけには同行を許した。
自分だって、クラウドには負けないぐらいの自信はあったからなおさら不満だった。
「仕方ないよ。誰かは孤児院に残らないと小さい子が危険だし。」
「ちぇっ。」
仕方なく二人は小さい子供世話をする。西方は長らく賊が支配していただけに、親を賊に殺された孤児も少なくなかった。そういった孤児をエキドナが集め、この孤児院で育てていたのである。将来、自分が老いたあとの西方を育てて行ってくれる人間が出てきてくれることを信じて。
「アリス姉ちゃん、お腹すいたよー。」
アリスは子供達にも人気だった。子供達にとってエキドナは親分、アリスが母親のような感覚なのだろうか。
「はいはい。今日の食事の当番は・・・シーナね。シーナ、お昼ご飯の用意をお願いね。」
「シ、シーナにご飯作らせるの!? ダメだよ。子供達死んじゃうって!」
「姉ちゃん、どう意味よ!」
「あんた自覚ないわけ? あんたの料理って殺人料理なんだよ??」
「殺人料理って酷い! 私だって一生懸命作ってるのに。」
「・・・なんでじゃあ砂糖たっぷりの甘いカレーとか作るのさ。」
「え? だって、皆と同じ作り方じゃ面白くないじゃない。」
「・・・それがダメなんだって。いいよ、あたしが作るからさ。」
セレナが厨房に向かった。シーナは自分の創作料理を姉にバカにされてムスッとしている。
「あのね、シーナ。別に皆と同じ作り方でもいいのよ。」
「うーん。だって辛いカレーがあるなら甘いカレーがあっても・・・。」
そんな会話をしていると外で騒ぐ声が聞こえる。しかも尋常ではない悲鳴も聞こえる。これは外で戦いが起こっているようだ。ベルン兵はエキドナたちが食い止めているはずなのに、何故ここで。
窓の外をシーナが見た。そこには竜騎士と複数の兵士達がこちら側の斧戦士たちをあっという間に片付けている様子がはっきりと見えた。
「ねぇ、何が起こったの??」
セレナが走って戻ってきた。厨房にも聞こえていたらしい。
「お姉ちゃん、大変。ベルンが攻めてきてるんだよ! すぐ外に!」
「そんなバカな! 母さんたちが・・・負けた?! とりあえず子供達を奥に隠れされてあたし達で迎え撃とう。」
「セレナ、無茶はダメよ。私達も逃げましょう。」
アリスがセレナを止めるが、セレナは聞かない。
「こんなところに隠れてたって見つかるよ。それにあたし達は孤児院を守れって言われてるんだ。皆がやられてるのに、あたし達だけ隠れてるなんて出来るもんか!」
「でも、私達木製の武器しか持ってないんだよ? こんな子供だましの武器じゃムリだよ!」
「やるったらたるの! 悩んでたってどうしようもないでしょ。 行くよ。シーナ!」
「・・・了解。アリス姉ちゃん、子供達をお願いね。」
シーナも覚悟を決めた。姉だけに苦しい思いをさせるわけには行かない。アリスに子供達を託し、外に出ようとした。その時
「わかりました。私も行きます。貴方達だけに危険な目には合わせられません。」
アリスとてイリアの皇女。目の前で殺される人たちを黙ってみているなんてことは出来なかった。ファイアーの書を手に取り、アリスも立ち上がった。
「姉貴・・・。よし、行くぞ! ここを死守するんだ!」
3人は孤児院の外に出た。そこには、先ほどの竜騎士達がまるで待っていたかのようにこちらを向いて立っていた。リーダーと思しきその竜騎士の女性が、こちらに向かってきた。
「精霊術師をこちらに引き渡してもらおうか。」
その竜騎士は3人に向かってこう言い放った。精霊術師なんて聞いたことも無い。セレナは一体この人は何を行っているんだ、と言う眼差しで竜騎士を睨み返す。
「精霊術師とは、この世界の魔法を司る精霊達と会話が出来る能力を持つものの事だ。ここにいるだろう。大人しく引き渡してもらおうか。」
セレナたちにはやっと分かった。それはアリスのことだ。アリスは目に見えない何かと交信をすることがきる不思議な力を持っている。この竜騎士達は、アリスを狙ってきているのだ。双子はアリスの前に立って武器を抜いた。
「大人しくすれば命まではとらない。抵抗すれば容赦はしない。早く引き渡してもらおう。」
竜騎士は三度目の警告を発した。しかし、その警告を無視して武器を持った二人が突撃してきた。
「姉貴! こいつら姉貴を狙ってる。早く逃げろ!」
竜騎士の近くにいた部下と思われるものの一人が竜騎士に向かって声をかける。
「ミレディ様! 精霊術師はあの紫髪のようです!」
竜騎士がすばやく指示を出す。部下達がセレナたちに突撃してきた

73: 手強い名無しさん:05/09/22 22:38 ID:9sML7BIs
相手は真剣。こちらは木製武器。とても分がいい戦いとはいえない。しかし、ここで自分達が引けば、姉がどうなってしまうか分からない。三人とも必死で戦う。やはり人間と神竜では根本的な実力差があるのか、セレナは得意の剣術と強力な魔法で何とか相手を倒していく。シーナも負けてはいない。相手が剣である事も手伝ってか、空中からの一撃離脱で相手をかく乱する。空中を舞う二人相手に隊列の乱れた敵に、アリスがファイアーを打ち込んでいく。粗磨きとは言え、流石英雄の子供達だ。ベルン兵に全く引けを取らない。しかしやはり、まだまだ未熟だ。真剣がシーナをかすめた。初めて味わう激痛だった。
「うぐっ。」
セレナもシーナも真っ赤な鮮血を見て動揺してしまった。今まで何度も手合わせしてたけど、木製の武器じゃよほど当たり所が悪くなければ流血なんてしなかった。今目の前で、妹から鮮血が流れている。
助けてやらなければ、でも頭が動揺していて目の前の敵を相手するので精一杯だ。
「セレナ! シーナに回復魔法をかけてあげて!」
そこに姉の的確な指示が飛んできて、セレナは我に返った。一度空中に逃げ、シーナに回復魔法をかけてやった。戦場で我を失う事は、死をも意味した。常に冷静でいることが大切だった。
「ほら、しっかりしなよ。」
態勢を取り戻した3人は何とか部下達を一掃することに成功した。残るはあの竜騎士だけだ。


74: 手強い名無しさん:05/09/22 22:39 ID:9sML7BIs
3人が竜騎士に詰め寄る。こいつさえ倒せば、当面の危機は去る。
「・・・子供ながらその勇気は褒めてやろう。だが、私は今までの者達のように半端な力で倒せぬ。
最後に警告する。精霊術師をこちらに引き渡せ。無駄な争いはこちらも望まない。」
竜騎士がまたセレナたちに警告を送った。
「ウルサイ! ベルンがのこのここちらに攻めてきておいて今更何を言うんだ! みんなの仇だ!」
セレナが竜騎士の突撃する。ベルンは憎い敵。そんな奴の言う事など信用できない。それに姉を渡せとは、一体どうするともりなのか。そんな得体の知れない要求を呑むわけには行かなかった。
「・・・聞く耳もたずか。ならば止むを得まい。子供を手にかけるのは気が進まないが、我らの計画を邪魔するものは死あるのみだ。許せよ。」
そういうと竜騎士は手にしていた槍を構えた。空中から突撃してくる二人を槍で一気に弾き飛ばした。
「うあ!」
天馬から放り出されたシーナはそのまま地面に叩きつけられてしまう。実力が違いすぎる。
「つ・・・っ、シーナをよくも! 許せない! どりゃぁぁ!」
空中で態勢を取り戻したセレナが竜騎士に再び突撃する。それに対し竜騎士は、まるで見切ったかのように振り下ろされる木刀を槍で弾き飛ばした。そして瞬く間も無く再び槍をセレナに向けた。
「くっ!」
セレナはとっさにもう片方の木刀で防御しようとした。なんとか受けたが、その瞬間木刀が音を立てて折れて弾けとんだ。無防備になったセレナをもう一度槍が襲った。正確無比に繰り出された槍がセレナを襲う。セレナは間一髪で避けて直撃は免れたが大きな怪我を作り、吹っ飛ばされてしまった。
「ぐあっ! ・・・くそっ。」
セレナが自分に回復魔法をかけようとしたその時には、喉に槍の穂が当てられていた。自分が負ける。そんなこと認めたくない。しかし、相手は強すぎる。もう終わりだ。
「私の槍を避けるとは・・・私の部下として欲しいぐらいの実力だな。子供にしてはいい動きだ。
だが・・・我々の邪魔をした罪、その身であがなって貰おうか。」
セレナは覚悟を決めて下を向いた。しかし、その時腰にささっている剣に目が行った。これは、アリスから貰った形見の剣だ。まだ・・・勝機はある。
竜騎士が止めを刺すために振りかぶった。セレナは腰の剣を引き抜き、思い切り振った。
竜騎士は少々慌てたのか、一度距離を置いた。
「まだやるつもりなのか。その根性といい、身のこなしといい、やはり私の部下に欲しいところだな。」
「うるさい! ベルンに姉貴は渡さないぞ。」
「そんな刃こぼれした剣で何が出来る。・・・それに私は・・・ベルンの兵ではない。」
「何だと・・・! 竜に乗ってるくせにそんなこと信用できるか!」
「さぁあまり手こずらすな。そろそろ終わりにしようか。」
竜騎士が槍を構えなおし、空中に出た。実力差は明白だ。おまけに武器の相性も悪いし、もう刃こぼれした古い剣だ。勝ち目は絶望的に薄かった。
空中から鋭く降下してくる飛竜。槍はまっすぐ、セレナの胸目指して飛んできていた。
セレナは必死に避けた。しかし、攻撃までは出来ない。避ける事で精一杯だ。
「なかなかやるな。私の槍をここまで見切るとは。敵にしておくのが実に惜しい。だが・・・避けているばかりでは私を倒せないぞ。」
セレナはすでに息が上がっていた。そろそろ体も限界に近い。魔法を撃とうにもすぐに相手に攻撃されてそれどころではない。妹も足をひねった様で立てずにいるようであった。
また竜騎士が襲ってくる。セレナは避ける。しかし、とうとう避けきれず、飛竜に体当たりを食らって吹っ飛ばされてしまった。その衝撃でセレナは孤児院の壁に叩きつけられた。
「ぐはっ」
「さて、年貢の納め時だ。覚悟してもらおうか。」
「ちくしょう・・・! ごめん母さん・・・親父・・・。」
今度こそ覚悟を決めて目を瞑った。アリスの悲鳴が聞こえる・・・。

75: 手強い名無しさん:05/09/24 14:23 ID:E1USl4sQ
その時だった、竜騎士に向かってサンダーが飛んできた。竜騎士は不意の加勢に驚き後ろに引いた。
「子供相手に本気を出すとは、貴女も落ちぶれたものだな。特別指名手配犯・・・ミレディ殿?」
セレナはつぶっていた目を開けてみた。目の前に広がっていた光景に驚いた。自分達を襲っていた竜騎士は自分から離れ、自分とは違う何かを見ている。その視点の先には・・・見知らぬ傭兵風の銀髪の女性。
「!! 貴様は・・・っ。・・・世界を売って保身を企むような者に落ちぶれたなどと言われたくないわ!」
「ふっ・・・何のことやら。私は賞金稼ぎ。目の前に高額な賞金首が居るとなれば黙っておけないな。」
「くっ、まさかこんなところで出会うことになるとは・・・。まぁいい。精霊術師ともども始末してくれる。」
「それは面白い。まともに戦える相手は久しぶりだな。」
銀髪の女性が剣を鞘から抜いた。竜騎士も上空へ舞い上がった。お互い発しているオーラが違う。いきなり始まった目の前の決闘に、セレナはただただ見入るだけだった。
普通に考えて空中から攻撃できる上に槍を使っている竜騎士に圧倒的な分がある。案の定、竜騎士が空中から一撃離脱の作戦を取っていた。剣士のほうは翻弄されているようで、避けているばかりだった。
「姉ちゃん・・・あのお姉さんもベルンにやられちゃうのかな。私達を助けてくれたのに。」
「うん。怪我も治したし、あたしも加勢してくる。」
「ダメだよ。姉ちゃんじゃまたやられちゃうよ。」
「ちくしょー。あたしじゃ敵わないのか・・・。ん・・・?」
セレナはもう一度剣士のほうを見た。・・・口元が笑っている?
「どうしたミレディ殿。さっきからかすりもしないではないか。やはり老いぼれたか?」
「黙れ! その胸貫いて無駄口を叩けぬようにしてくれる!」
「ふっ・・・。」
竜騎士が再び空中から急降下してくる。剣士は向けられた槍を今度は避けようとせず、向かってくる飛竜に対し閃光の一撃を加えた。そしてバランスを崩した竜騎士の背中に一太刀を浴びせた。あれは・・・同じ剣士を志しているセレナには分かった。あれは・・・対空攻撃「ツバメ返し」だ。
「ぐはっ」
竜騎士がバランスを崩して飛竜から放り出された。なんとか受身を取ったが、その喉には剣が当てられている。見事な腕だ。セレナは見入ってしまっていた。
「さぁ、どうしようか。ミレディ殿。」
「くっ、貴様のような悪魔に情けをかけられたくないわ。さっさと斬れ。」
「ふっ、素直でないな。」
その剣士は剣を鞘にしまってしまった。竜騎士も驚いたような表情だった。
「ねぇねぇ、なんで賞金首を目の前にして剣をしまっちゃうのあの人。バカじゃないの?」
「お姉ちゃん、失礼だよ。助けてもらったのに。」
セレナは興奮気味だった。自分より強い剣士を目のあたりにして、その技に惚れてしまっていた。
「な、貴様などに情けをかけられたくないといっておろう!」
「・・・飛竜が主人を心配している。」
剣士にそういわれ、竜騎士は自分の飛竜を見た。すると飛竜は自分をじっと見つめている。
「今回は見逃しておく。だが・・・、今度は容赦しない。」
竜騎士はばつが悪いと思ったのか、飛竜にまたがり上空に舞い上がった。
「精霊術師よ、次ぎ会うときは必ず貴様を貰い受ける。覚悟しておくのだな!」
竜騎士はそういうと南のほうへ飛び去って言った。
「へーんだ。首を洗って待ってるぜ!」
「お姉ちゃん・・・。待っててどうするのよ。あぁ、お姉ちゃんなら待つ側か。」
シーナはセレナの何時もの妙な言葉遣いに対しなぜか納得してしまった。
「剣士さん、助けていただいてありがとうございます。このご恩をどうやってお返しすれば。」
アリスがその剣士に対しお礼を言っていた。まだ若いアリスよりちょっと年上ぐらいだろうか。
「礼には及ばん。それにしても・・・お前が噂の精霊術師なのか。ほぅ・・・。」
剣士がアリスをまじまじと見た。
「こらっ、姉貴に手を出したら容赦しないぞ!」
セレナが剣士に食って掛かった。どうもライバル心を覚えたようだった。


76: 手強い名無しさん:05/09/24 14:24 ID:E1USl4sQ
「セレナ! 命の恩人になんて口の聞き方をするの! まったく、ホント威勢だけはいいんだから。」
「・・・お前はセレナという名前なのか。確かに威勢だけだな。」
「な、なんだと! そりゃ・・・あんたにちょっとばかり剣の腕は劣るけど。」
「ちょっとばかり、か。お前の剣術など、ママゴトに毛が生えた程度だ。そんな程度であの竜騎士に向かっていった度胸だけは一流だがな。」
「な・・・このやろう、バカにしやがって!」
「ふっ、事実を言ったまでだ。死にたくなければ大人しくチャンバラゴッコに留めておけ。」
「こいつー! シーナ! あんたも何か言いなよ!」
「・・・剣士さんの言うとおりだと思うけど・・・。」
「!? お前の名前はシーナなのか!? もしやお前たちは・・・あの英雄ロイの遺児か?」
「は? 何言ってるんだ? あんた。」
アリスが焦って剣士を双子から離し、真相を話した。
「ふむ・・・まさか生きていたとはな。」
「でも、何故そのことを知っていらっしゃるのですか? この事はごく一部の人間しか知らないはず。」
「そんなことは無い。大陸では英雄ロイが残した遺児と英雄の再来を重ねて英雄像を作っている。
表立って名前も出てこないから死んでしまっていると思われていたが、まさか生きているとはな。」
「そうなんですか・・・。でも、あの二人は何も知らないんです。西方の村娘として育ってきましたから。だから、あの子達の前でそのことは口に出さないでください。」
「わかった。しかし妙だな。ここは人間の自治区と聞いて立ち寄ったのだが、何故このような女子供しかいない?」
「皆ベルンが境界線を越えて侵略してきているのでそれを食い止めに行っているのです。西方軍には竜騎士がいないと思われていたので、皆前線に出てしまっていたのです。」
「ふむ。サンダースが人間相手に軍を送るとは考えられないが・・・。」
「え?」
「いや、なんでもない。奴に雇われたこともあるからな。性格もおおよそは把握しているのだ。」
「でも、さっきの竜騎士には驚きました。まさか西方軍が竜騎士を配備していたなんて。」
「・・・先ほどの竜騎士は、ベルン軍所属ではない。むしろベルンから追われている身の人間だ。」
「え、竜騎士なのに?」
「あの人は、元々ベルン女王ギネヴィアの側近中の側近だった。だが、今ではそのギネヴィアを裏切り、各地でベルンの作戦の邪魔をしている。どうやらそういった組織があるようだ。」

「一体何があったのでしょう・・・。」
「さぁな。それは本人にしか分からん事だ。それより、今はベルンの侵攻を止めないといけないのではないのか? 人手が足りないなら力になるぞ。私は賞金稼ぎだ。金さえ用意してもらえればいくらでも働いて見せるぞ。」
剣士の意外な言葉にアリスは驚いたが、ベルンは強敵。こんな凄腕の剣資産がいれば心強いと思った。
「私ではよく分かりませんが、お願いします。お金のことは私達のリーダーに言ってください。でも、良いんですか? 立ち寄っただけの自治区の為なんかに。」
「言っただろう。私は賞金稼ぎだと。仕事を探して放浪していたのだ。こんないい仕事は無い。」
「そういってもらえると助かります。あの・・・ところで、お名前は?」
「私はナーティだ。ナーティ・アグリアス。よろしく。」
「はい、よろしくお願いします。でも、ナーティさんって変わった人ですね。」
「そんなことはない。」
「だって、賞金稼ぎなのに賞金首を見逃すだなんて。」
「ふっ、気分的なものだ。飛竜が心配していたからな。斬る気が失せただけだ。」
「ナーティさんって優しい人なんですね。」
「優しい・・・か。ふっ、世間ではそれを一般に甘いというんだ。優しいわけではない。」
「そうなんでしょうか・・・?」
「雑談はこのぐらいにしてそろそろ戦場を教えてくれ。あと、さっきの子供には縄をくくりつけてでも下手な行動に出られないようにしておけ。」
「わかりました。ホントあの子たちには困ります。威勢だけで腕が伴わないから・・・。」
「いい輝きを放っているが磨き方が足りないな、あいつは。」
ナーティは独り言のようにつぶやき、戦場になっている北の境界線へ向かっていった。


77: 第四章:明かされる真実:05/09/26 12:42 ID:E1USl4sQ
その夜、セレナは不機嫌なまま床に就いた。親達にはこっぴどく叱られるわ、ナーティに自分の剣術をママゴト扱いにされるわで散々だったからだ。しかも親達はナーティを歓迎しているようだった。
どうもむしゃくしゃして寝ていられなかった。夜風に当って頭を冷やそうと部屋を出た。親達が何か話をしている。自分達を早く寝かせつけておいて何か企んでいるとは思っていたが、その予想は的中したようであった。何かうまいものでも食べているのか?
「今日は本当に助かったよ。何と礼をしていいやら。あんたみたいな凄腕の剣士が、主も持たずに放浪しているなんて信じられないね。」
「主従関係を結べば、当然主の利権のために動かねばならない。それが例え道理に反していようとも。私はそれが嫌だった。傭兵なら、主も仕事も選べる。」
「へー、なかなかカッコイイ事言うじゃないか。若い女なのにしっかりしてるもんだ。それに比べてうちの男供と来たら。まったく情けない。」
エキドナに睨み付けられてガタイのいい男共が縮こまった。
「セレナ様たちを助けていただき、誠にありがとうございます。言葉に換えられない位感謝しております。」
(え?様? 親父の奴、なんであたし達に様なんかつけてるんだ? あれも騎士のオコナイって奴?)
「・・・貴殿が噂に聞いていた紅蓮の騎士アレン殿か。噂に違わぬ立派な働きだった。流石ベルン動乱を生き抜いた騎士と言った所か。」
「俺はそんな言われるほどの事はしていません。・・・できなかったから、主を失った今でも、こうやって生き恥を晒しているのです。」
「そんなことを言って良いのか? 貴殿はしっかり主の言いつけを守っているそうではないか。しかし、主の国を取り戻そうとは思わないのか? アリス殿、貴女もだ。」
(主?国を取り戻す?? 一体何を言ってるんだ?)
セレナは全く話をつかめず、頭がこんがらがってきていた。
「・・・国を取り戻そうとすれば、また戦争が勃きます。そうなって苦しむのは、力の無い人々です。」
アリスが重い口を開いた。取り戻す気がないわけではない。しかし、そのために生じる民の苦しみを考えると、とても出来なかった。アレンも加える。
「セレナ様達には、戦場に関わって欲しくないのです。お二方の両親を奪った戦場には。・・・お二方には女性らしく、自分の幸せを考えていってもらいたいのです。」
(親を奪った・・・? 親父は一体何を言っているんだ??)
「だがそういつまでも隠し切れことでもあるまい。それにもし真実に気が付いた時にはどうするつもりなのだ?」
「そのときは・・・そのときです。」
さっきから話がどうも読めない。真実とか、隠し切るとか。親父達は何か重大な何かを自分達に隠しているようだった。こういうことは絶対に知りたい性質のセレナは迷わず親達のところへ出て行った。
「ん? ! セレナ。どうした。もう寝なさいと言ったはずだ。まだ傷も完全には癒えていないだろう。」
「そんなことはどうでもいいよ。親父、あたしに何か隠し事してるだろ?」
「何も。わかったら早く寝なさい。明日は学問所もあるんだろう?」
「そうだよ。寝坊したら承知しないからね。ケツひっぱたくから覚悟しなよ。」
アレンもエキドナも誤魔化す事に必死だ。ナーティはやれやれといった様子で見ていた。
「誤魔化すなよ! 何か隠し事しているんだろ? さっきから話は聞いていたんだぞ?」
「何も隠してはいない。寝ぼけていたのではないのか?」
「うるさい事言ってると明日の朝飯抜きにするよ?! ごちゃごちゃ言ってないで寝な!」
しばらく両親とセレナのにらみ合いが続いた。こうなったらセレナは引かない。
「どうしたの?皆こんな時間に集まって・・・ふぁぁ・・・」
騒ぎでシーナも起きて来てしまった。アレンたちのとっては状況がますます悪くなってしまった。
「・・・アレン殿、先ほど言っていた“そのとき”が今ではないのか?」
ナーティが沈黙を破ってアレンに話しかけた。
「ナ、ナーティ殿!」
「もうこいつも16なら、子供ではない。そろそろ話しておくべき時期ではないのか?」
「確かにそうかもしれない・・・。」
そう言うとアレンはセレナの前に跪いた。びっくりしたのはセレナ達だ。
「な、何やってるんだよ、親父。やっぱ黙ってうまい酒でも飲んでたのか?」
「セレナ様、シーナ様、今までのご無礼、どうかお許しください。」
二人とも自分の父親から発せられた言葉を聞いて、何か気が遠くなるようなそんな信じられないといった感情しか頭にあがってこなかった。





78: 手強い名無しさん:05/09/26 20:13 ID:9sML7BIs
「な、何を言っているの? お父さん。」
シーナが口を開いた。シーナはまるで夢でも見ているのではないかと思っていた。
「お二方とも、よく今から私の話を聞いてください。信じられないかもしれませんが、お二方の本当の両親は私達ではありません。」
「親父・・・? 酔ってるのか?」
「セレナ様、これは本当なのです。あなた方お二人の本当の両親は、リキアはフェレの侯爵、ロイ様とイリア連合王国の王女シャニー様なのです。」
「・・・ふっ、世界を救えなかった炎の英雄と、使命を全うできなかった蒼髪の堕天使か。」
「ナーティ殿! いくら貴女でも、我が主の悪口は許すことは出来ない。前言を撤回していただきたい!」
アレンが本気になって怒った。その目つきやナーティの台詞からしても、どうやら冗談ごとではないようだ。
「親父・・・本当なのかよ。あたし達は親父の事もじゃないのか?・・・捨て子なのか?」
「今まで事実を隠してきた事には申し訳ないと思っています。しかし、捨て子などという事は決してありません。先の戦争で私は主、つまり貴女の父上、ロイ様からあなた方を守るように使命を受け、戦場から脱出したのです。戦争が終ったら迎えに来てくださるという約束を信じて・・・。」
「それで・・・あたし達の本当の両親はどうなったんだ?」
「姉ちゃん・・・学問所で習ったじゃない。第二次ベルン動乱は討伐対の全滅に終わり、英雄ロイの死亡と共に幕を閉じた、って・・・。つまり・・・。」
セレナはもう頭の中がゴチャゴチャになっていた。一気に新しく、そして信じられないような事が明らかになっていく。
「そうです。申し上げにくい事ですが、お二方とも戦死なされたと聞いております。私は主の最後を見届ける事のできなかった愚かな騎士です。しかし、ロイ様やお二人への忠誠の心は決してゆるぎないものだと自負しております。どうかこれからは貴女方に仕える騎士として、息子のクラウド共々何卒よろしくお願いします。」
「親父・・・。」
「・・・私達の親はもうこの世にはいないんだね。」

「そうだな、お前たちの両親は戦死したと聞く。・・・残念だがもう会うことはできないだろう。」
ナーティが念を押すかのように二人にそういった。本物の親が居るとなれば、会いたいと思うことは自然の流れだった。
「でも、私達がそんな高貴な血を引いているなんて信じられないよ。特に姉ちゃんは。」
「どういう意味よ! トンビがタカを産むって言うでしょ!」
「また始まった・・・。意味違うよそれ。きっと。」
「むぅ・・・。でも、一度も見たことが無い親なんか・・・親じゃないよ。親父は親父。母さんは母さんだよ。だって育ててくれたのは二人なんだし、そうだろ?」
「そうですが、しかし・・・。」
「セレナの言うとおりだな。育てたのはアレン殿、貴方がただ。今までどおり接していれば良いのではないか?」
「そうだよ、お父さん。私達にとっての親はお父さん達だよ。・・・本当の両親がいないなら尚更・・・。」
「そういうわけには参りません。真実をお知りになられた以上は、主と騎士という関係で接していただきたい。私はお二人に剣を捧げた身です。今までどおりというわけには参りません。」
昨日まで親子の関係だけだったものが、なにか妙な関係が加わって、セレナにはちょっと嫌な感じだった。親父より自分達が上? 親父が自分達に膝を突く? 嫌だった。でも、それ以上に湧き上がっていた感情は怒りだった。
「親父、あたしは今までどおり親父だと思って接するからね。・・・ただ、今回だけは主として問うよ。」
「は、セレナ様、何なりと。」
「どうして今まで黙ってたんだよ! 今までの話が全て本当なら、ベルンはあたしにとって両親の仇じゃないか!」
「・・・セレナ様はその性格です。言えば考えもなしにベルンに突っ込んで行ったでしょう。お言葉ながら今のセレナ様のお力ではベルンに太刀打ちできるわけもありません。」


79: 手強い名無しさん:05/09/26 20:14 ID:9sML7BIs
アレンの言葉にナーティも続けた。それはかなり辛口だが否定できなかった。
「そうだな。この際だからはっきり言おう。お前の剣術など剣術ではない。構えから振り方まで全てが我流だ。形になっていないのだ。そんなチャンバラゴッコの延長で戦場を生き抜けるとでも思っているのか?下手な気は起こすな。子供大人しく、村で遊んでいたほうがいい。」
「な、こいつ! 出合った時からいちいち人をバカにしやがって!」
「事実を言ったまでだ。今のお前では戦場に出ても死にに行くようなものだ。せっかく助かった命なのだから、犬死するような粗末な扱いをするなといっているのだ。」
「・・・なら腕を上げればいい。あたしだって英雄の子供なら、親がなし得なかったモノを実現させる義務ってモンがある。どの道今のベルンのやり方はおかしい! 親の仇なら、一層ベルンが攻めてこないところで自分だけ平和に暮らすなんて出来ないよ!」
「私もそう思う! ベルンは言ってた。人は道具だって。そんなのおかしいよ。種族が違うだけで優れているとか、劣っているとか。そんなの絶対におかしいもん。」
「憎しみで戦うつもりか? お前たちの親が命をかけて守ろうとしたものを、お前は憎しみで踏み荒らすつもりなのか?」
この質問に、セレナは戸惑ってしまう。
「どういうことだよ・・・。」
「お前たちの親が何の為に戦っていたか。それは、ベルンの暴挙を止めるためだけではない。種族を超えた平和を目指して戦っていたのだ。それをお前は、ベルンへの憎しみ、恨みに置き換えて戦おうとしている。親達が目指した理想を、お前は恨みという小さな考えと同一視したのだ。それが・・・子供の民を纏めるべき者の義務なのか?」
「それは・・・悪かったよ。でも、さっきも言ったけど、やっぱりベルンのやり方はおかしいよ!平和に見えてるけど、こんなの見せかけの平和じゃん! この状況がいいなんて、親父もあんたもどうかしてるよ! 戦争さえなければ平和なの?!」
セレナの目は真剣だった。そして、その言葉はどこかで聴いた覚えのあるものだった。
「戦争を起こせば、苦しむのは力をもたない民です。セレナ様。」
「でも、ベルンは私と同じハーフがメインで構成されているんでしょ? 自分達の種族が支配する為に他の種族を奴隷扱いにするなんておかしいよ。」
シーナもセレナに加勢した。確かに今の自分達ではベルンに敵わない。でも、こんな状況がいいなんてとても思えなかった。
「そうだよ! 元を正さなければ表に見えない苦しみはいつまで経っても続くじゃない! 表面だけよく見せても、そんなのは平和じゃないよ。あたしの親達はその・・・真の平和って奴を求めていたんでしょ?」
「そうです、セレナ様。しかし・・・。」
「状況はあの時より悪くなっている。英雄と呼ばれたお前の親がなし得なかったことを、剣術もロクに知らないお前が実現できると思っているのか?」
「なんだってする! 自分の正体を知ってしまった以上、もうここでぬくぬく暮らしているなんて出来ないよ!」
「・・・やはり予想通りになってしまったか・・・。」
アレンが顔を手で抑えながら嘆いた。こうなったらもう止められない。しかし自分は彼女らに仕える騎士だ。彼女らの考えには反対は出来ない。
「よく言ったね、あんた達。それでこそあたしの娘だよ。悪さをする奴はガツーンとぶっ飛ばしてやりな。言ったからには弱音を吐くんじゃないよ!?」
エキドナがセレナ達の意見に賛同した。アレンは慌てた。止めてくれると思っていたからである。
「エ、エキドナ殿! 本気で言っているのですか? セレナ様達は戦闘に関しては素人同然・・・。」
「そこに立派な師匠が二人もいるじゃないか。シーナはアレンさん、あんたが教えてやればいいし。
セレナはそこに凄腕の剣士さんがいるじゃない。」
「母さん! わかった。あたし達強くなるよ。きっと父さんや本当の母さんがやろうとしたことを実現してみせる。」
「わかりました。もうこうなれば俺も腹をくくりましょう。俺だって今の状況が良いとは思えない。セレナ様達には無事でいて欲しい。しかし、ロイ様が何を意図して俺にセレナ様達を託されたのか、今一度考えてみた。俺はセレナ様に言われて目が覚めた・・・。」


80: 手強い名無しさん:05/09/26 20:15 ID:9sML7BIs
皆、ベルンとの対決を決意した。親、主がなし得なかった夢を自分達が実現させよう。一種族だけの平和なんて平和じゃない。皆が平和に暮らせる世界の実現を目指して。
「足手まといだ。断る。」
その言葉が、団結を図ろうとしていた皆に冷たく突き刺さった。
「素人がちょっと手解きを受けただけで生き残れたら苦労しない。訓練と戦場はワケが違うのだ。
アレン殿とてその程度は知っているだろう? 」
そういうとナーティは母屋から出て行ってしまった。
「ま、待てよ!ナーティ!」
「やれやれ、あの人結構な頑固頭だね。説得できるかな、あいつ。」
エキドナがナーティを追い、走って出て行くセレナを見守った。



81: 手強い名無しさん:05/09/26 20:16 ID:9sML7BIs
「待てよ! あんた。どうしてそんなにあたしのことをのけ者扱いするんだよ!」
西方は荒野が広がる。その夜は息が白くなるほど冷え込む。そのせいで回りは霧だらけだ。視界は殆どない。そんな中でナーティが歩いていった方向をたよりに走っていく。
するといきなり喉元に剣を当てられた。
「うわっ!?」
「ふん、これからベルンを相手にしようとしている人間がずいぶん無警戒なのものだな。」
「ナーティ・・。脅かすなよ。それより、何でだよ。質問に答えろよ!」
「さっき言ったとおりだ。命が惜しければ戦場には出ないことだ。特にお前のような性格の人間は、何も考えなしに突っ込んで死ぬのがオチだ。生兵法は怪我の元だ。お前の場合は怪我ではすまないかもしれないがな。」
「でも、あたしだって皆が平和に暮らせる世界を実現したいんだよ! この瞬間にも、きっと大勢の人が苦しんでる。それを見てみぬ振りして自分だけのんびり暮らすなんて出来ないんだ!」
「・・・この親にしてこの娘、か。」
そう言うとナーティは空を見上げた。その目はどこか悲しそうにも見える。
「私も・・・若い頃はベルンのやり方はおかしいと思っていた。だから何とか変えてやろうと。だが、所詮個人では何も変えられない。いや・・・力が足りなかった。人は力のあるもの、流れの優位なほうへ傾く。どんなに正しい事を考え、実行しようとしても、力がなければ潰されてしまうのだ。」
「あんた・・・。」
「今のお前はまさにそうだ。圧倒的に力不足だ。このまま兵を挙げても異端視されてまず潰されてしまうだろう。お前の敵はベルンだけではない。世間の冷たい視線に耐える必要もあるのだ。それができるのか?」
「やってみせる! 何だってする!」
「ならば・・・、お前の目指している真の平和とは何だ?」
「そんなの・・・、皆が平和に暮らせる世界に決まってるじゃないか。」
「ふ・・・理想だな。事実平和に見えても差別は起きている。結局平和と言うのは、一種族だけにとっての平和であって、他種族から見れば不満だらけであることも多い。今のこの大陸はまさにそうだ。
お前の両親が目指した平和も、もしかしたら人間にとっての平和だったかもしれないのだぞ? そんな勝手の良い平和はないな。」
「違う! どの種族も平和に暮らせる世界。それが真の平和だ。両親だってそれを目指してたに決まってる。じゃなかったら、英雄なんて言われないじゃん。」
「お前にそれを実現できるのか?・・・英雄と呼ばれた親ですら達成できなかった事を。」
「だからやってやるって言ってるだろ! ムリだとか、そんなのやってみなくちゃわからないじゃないか! あんただって昔はそう思ってたはずなのに、どうしてそんな風になっちまったんだよ。」
「さぁな・・・。わかった。そこまで言うのなら私も協力しよう。しかし、この旅は想像を絶するほど過酷な旅となる。お前にそれが耐えられるか?」
「やるったらやるんだよ! 力がないならつければいい! だからナーティ、お願いだ、あたしに剣を教えてくれよ。こう見えてもあんたの剣術には惚れてるんだぞ・・・。」
セレナが照れながらナーティに剣の指導をお願いした。
「ふ、わかった。私に剣の教えを請うたことを後悔させてやろう・・・。しかし、まず当面の目標を聞かせてくれ。まずお前は平和の実現の為に何をする?」
「決まってる! この西方にある鉱山で無理やり働かされている人たちを救い出す! 青の人たちは大陸から無理やり連れてこられて死ぬまで働かせれているんだ。ほっとけない。」
「承知した。ではもう寝ろ。明日から訓練に入る。今日は明日に備えて寝るのだ。」
そういうとナーティは長い銀髪を揺らしながら霧の中に消えていった。あいつは・・・夢を途中で諦めて絶望してしまった人間なんだな。だからあたしに二の舞を踏ませないように酷い言葉を使ってでも止めようとしたんだ。
でも、親達が命をかけて達成しようとした事を、あたし達が必ず実現させる。絶対に諦めたりしない。諦めたらそこで終わりだ。本当の父さん、母さん、見ててよ。あたし達が世界を変えてみせる。今は弱いし、頼りないかもしれないけど、強くなっていつかきっと・・・!

82: 手強い名無しさん:05/09/26 23:47 ID:EoPfZptE
見習い筆騎士('-'*) さん。どうも乙です
前の小説スレで小説(ルトガーの物語)を書いている人ですけど・・・
進行停滞中です。そのうちはじめると思いますので期待していてください

83: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/09/27 09:23 ID:gAExt6/c
お久しぶりです。
期待してます!でも焦らないで。
モチベーションの維持って結構大変ですしね。

84: 手強い名無しさん:05/10/04 11:19 ID:E1USl4sQ
次の日から訓練が始まった。昨日までと全く生活が変わってしまう。
「お父さん、これからよろしくお願いします。」
「ではシーナ様、ここでは狭いですし、場所を移して練習しましょう。」
アレンとシーナが向こうに騎乗しながら向かっていった。親として接するシーナと、主として接するアレンの対応の違いが妙に笑える。
「何を笑っているのだ? 早く行くぞ。」
ナーティが人気のいないところまでセレナを連れて行く。
「なぁ、あんたって人間なんだろ? なのに剣技だけじゃなくて魔法まで使ってたよな?」
「使えるに越したことはないだろう。こんな時代だ。人間がハーフに雇われるにはそれなりの実力がなければダメだからな。傭兵にも勉強が必要な時代というわけだ。」
勉強と聞いてセレナがおえっというような表情をする。そんな顔を見てナーティが珍しく笑った。
「お前は本当に勉強嫌いなのだな。」
人気のない山の中腹まで来た。どうやらここで練習するらしい。
「ところで、お前は剣もなくどうやって剣技の練習をするつもりなのだ?」
「あ・・・。あー! しまった。」
そういえば昨日の戦闘で木刀を失っていた。それをすっかり忘れてしまっていた。
「やれやれ、しっかりしろ、フェレ候女!」
そういうとナーティが剣を渡す。鉄製の細身の剣だ。
「どうせこんなことだろうと思って買っておいた。時間がない、早く構えろ。とりあえず基礎だけでも叩き込んでやる。」
「さんきゅ。よし、んじゃ早速。お願いします!」

その頃シーナもアレンから槍術の手解きを受けていた。まだまだペガサスを乗りこなす事も危うい。
「シーナ様、槍を扱う時は、しっかり突く相手を見て突かなければ危険です。」
「こう? んー、こうかな。えい!」
「流石です、シーナ様。その調子で頑張りましょう。」
「ホント! よーし、えい!やぁ!」
褒められて嬉しかったのか、一層練習に励むシーナ。しかし、槍を振ることに気をとられすぎ、とうとうバランスを崩してペガサスから落ちてしまう。
「きゃぁ・・・いったー・・。」
「だ、大丈夫ですか!シーナ様。お怪我はございませんか!?」
「大丈夫だよ。うーん、ペガサスを乗り回すって難しいなぁ。私のお母さんはイリア随一の天馬騎士だったんでしょ?凄いなぁ・・・。」
「はい。シャニー様は蒼髪の天使と呼ばれた天の騎士でした。ですからきっと、シーナ様もお強くなられます。最初は誰でも危なっかしいものです。見習い時代のシャニー様は見ていてヒヤヒヤしたと、ロイ様も仰っておられました。」
「そうなんだ・・・。うん、頑張るよ私。お母さんに負けないぐらい強くなって見せる。」
「ええ、私も及ばずながらシーナ様をお助けいたします。」
「ねえ・・・お父さん。その・・・様付けるのやめてよ。なんか嫌だよ。」
「しかし・・・。」
「だって、本当のお父さんじゃないって言うけど、私にとっては大事なお父さんだもん。お父さんにホンモノもニセモノもないよ。今までどおりに接してよ。じゃないと・・・嫌いになっちゃう。」
「な・・・。わかりました。じゃあ・・・練習を続けようか、シーナ。」
「おっけ!」
「おやじ・・・じゃなくて父上! 俺も練習に参加させてください!」
クラウドが馬に乗って寄ってきた。手には槍。
「よかろう。お前ももう少し頼もしくならないとシーナ様・・・じゃなくて・・・シーナを守れないからな。」
「ん?うわ、シーナいたのか! ・・・じゃなくてシーナ様、いらっしゃったのですか?」
「もう! 二人ともなんでそんな風に畏まるのよ! 兄ちゃんも今までどおりに接してくれないと嫌いになっちゃうぞ!」
「え、でも。こうしないと親父が怒るんだよぉ・・・。」
「いいの。お父さんにも同じように言った。でも、やっぱ二人ってホントの親子なんだね。そっくりだもん。顔だけじゃなくて、行動も。」
アレンとクラウドは顔を見合わせた。そして笑った。


85: 手強い名無しさん:05/10/04 11:19 ID:E1USl4sQ
「よし、その調子だ。もっと力を入れて振り下ろせ! 今度は振り下ろしのあとの隙がありすぎる!
もっとコンパクトに振らなければ懐に入られるぞ!」
そういうとナーティはセレナの懐に入ってみぞおちを剣の柄で突いた。
「うげ!・・・くぅー! ちくしょう!」
「そんな華奢な体格で二刀流など無理がある。ただでさえ二刀流なんていうものは剣技の中でもかなりの支流であるのに。」
「だからやりがいがあるんだろ! それに体格的な問題は技術でカバーしてやる! あたしの母さんだってそうやってたに決まってる。それがあたしに出来ないはずがないよ。」
「ふっ、どこまで自信満々なんだか。よし、雑談はこれまでだ、いくぞ!」
それから数日たった。性格的には正反対に見えるのだが、どうも気が合うのか、ナーティの挑発にセレナが乗っているだけなのか。いつも二人で練習していた。
「なかなか上達が早いではないか。まぁ、これから世界を救おうとしているのならこれ位でも足りないぐらいだが。」
ナーティに褒められ、セレナも何時もの調子でついついその調子に乗ってしまう。
「へっ、あたしは世界一の剣士を目指してるんだ。当然だろ?」
「その実力で世界一を目指すとは面白い奴だな、お前は。お前など何人で束になろうと私の敵ではないぞ?」
「うるせ! いつか絶対ぶっ倒してやるからな!」
「ふ・・・その言葉、覚えて置けよ・・・。さて、もう教える事は教えた。後はお前がどう実践で生かすかだ。最初は私の指示に従え。自分の考えで行動する事は、実戦に慣れてからでも遅くはない。」
そういうと、ナーティは剣を鞘に収め、孤児院のほうに向かって歩き出した。
「え! これだけ!? なぁ、ツバメ返しとか流星剣とかそういった剣技は教えてくれないのかよ!」
セレナが焦ってナーティの後を追う。まさかこれだけで実戦に出ろというのか。
「剣技など自分で編み出せ。人に教えてもらうようなものではない。自分で考えて、編み出して、更にどの状況でも柔軟に使いこなせるようならなければならない。人に教え込まれたものでは応用が効かない。」
「だけどさ、こんな基礎だけで実戦に出ろっていうのかよ!」
「この前も言った筈だ。訓練と実戦ではワケが違うと。どれだけ訓練上でうまく剣を扱えても、実戦でそれを発揮できなければ意味がない。今日の訓練は、最低限の基礎をお前に教えただけで、残りはお前の技量を測ったに過ぎん。技は実戦の中で磨いていけ。お前ならできる。」
最後の言葉は、実質ナーティがセレナを認めてくれたようなものであった。だが、まだまだ弱いからフォローが必要になるだろう。どこまで手助けしてよいか見定める為に、訓練と称して技量を測ったのであった。
「わかった。でも、あんたって凄いな。あれだけ剣を交えただけであたしの実力を見切っちゃうなんて。
流石あたしのライバルなだけはある。」
「ライバル・・・か。ふっ、お前の成長を楽しみにしている。」
「よーし、練習のし過ぎでお腹がすいた! 帰ってメシだメシ!」
「お前は・・・本当に女か。もう少し女らしく振舞ったらどうだ。口調もな。」
「こんな可愛い子が女じゃないわけないでしょー? 口調なんかあんただって女らしくないじゃん。」
「・・・お前はあらゆる面で母親にそっくりだな・・・。」
「そうなの? というか、なんであんたがあたしの母さんの事知ってるのさ。」
「興味があっただけだ。」
「ふーん・・・。あんたもあたしの母さんのファンなわけだ。まぁいいや。知ってることあったらなんでも教えてよ。あたし母さんのこと何も知らないからさ。」
「・・・例えそれが知らなかったほうが良かったと思うことでもか?」
「な、なんだよ、それ。そんなこと言われると余計に気になるじゃない。」
「ふ、まぁいい。まずは帰ろうか。」
「もったいぶるなよ・・・。よし帰ってメシメシ!」
セレナが走り出す。その後姿をナーティがじっと見ていた。
「おい、セレナ!」
ナーティがセレナを呼び止めた。セレナは後ろを振り返ってナーティが来るのを待つ。
ナーティがしばらくじっとセレナを見て、言った。
「お前は母親と似て向こう見ずなところがある。無茶だけは・・・するなよ。」
「!?」
突然の忠告にびっくりした。あいつも自分を心配してくれている。冷たいし、口も悪い奴かと思ってたけど、いいところもあるじゃん。そう思いながら、セレナはナーティの後ろを着いていった。
そしていよいよ、セレナ達は世界を救うべく、立ち上がる。一度は消えかけた光が、今不死鳥の如く蘇りつつあった。


86: 第5章:闘将サンダース:05/10/06 09:28 ID:gAExt6/c
そのころベルン西方軍では、鉱山の産出量低下に関する報告が行われていた。
「以上です、全体から見れば今月の産出量は先月の90%です。」
その報告に、やたら図体のデカイ男が激怒した。
「あぁん!? 管理の奴らはナニをやってやがるんだ。劣悪種共が油を売らねぇ様にしっかり絞れと言ってあったはずだろ! クソっ、このままじゃメリアレーゼ様に合わす顔がねぇ・・・。」
「それもそうなのですがサンダース様、アルカディアの連中はいかがいたしましょう。最近この西方にも攻め入って、先日には人間共と混同した我が軍の一部の兵が境界線を突破するという事態にもなっています。」
「ちっ、鬱陶しいネズミ共め・・・。ん、そうか、今月の産出量の低下の原因はアルカディアの連中に妨害されたからという事にしておこう。」
「はぁ・・・承知しました。」
「鉱山の連中し知らせろ。今度脱走兵を出したらお前たちの首をはねるとな。それともっと大陸から劣悪種を集めろ。働きが悪くなったらすぐ廃棄して構わん。」
「しかし、あまり増やすと今度は暴動に発展する可能性も・・・。」
「がはは! 気にするな! 俺様の力にこの斧がありゃ、劣悪種なんぞどれだけの束でかかってこようが虫けら同然だ。」
そういうとサンダースは手にした巨大な斧を易々と振り回した。・・・神将器の一つアルマーズ・・・。
かつて数度、ここで労働させられている人間達が暴動を起こしたことがあった。しかしそれも全て、このサンダースに封じられてきた。神将器もただの殺戮の道具として扱われ、血塗られた呪いの斧といっても過言ではなかった。

その頃自治区では出陣前の作戦が練られていた。
「我々には、真っ向から対抗できるほどの戦力はありません。少数で敵本拠地に潜入し、一気に敵将を討つ、この方法しか、我々には残されていません。」
アレンが状況を説明する。言葉以上に状況は難題だらけだ。
「そうだ。だからお前たちは敵がいたからといってちょろちょろするんじゃないぞ。気付かれないようにする事が一番大切だ。」
ナーティもセレナたちに釘を刺す。自分達とベルンの戦力は比べることすら気がひけるほど歴然だ。
「わかってるよ。」
「よし、なら俺とナーティ殿で先陣を切る。守備の手薄なところから侵入する。」
「大丈夫なのかな、相手は大群なんでしょ?しかもベルンでも特別強い人がいるとか。」
シーナが不安そうに言う。自分達は素人に毛が生えた程度の実力しかない。それで通用するのか。
「中に入ってしまえば大丈夫だ。大部隊ゆえに驕るのが人というもの。それに各所に兵が配備されているかもしれないが、内部なら倒しながらでも対処できる。」
「ホントですか? 俺達まだ全然経験もない素人同然なんですよ?」
クラウドも不安を隠せない。辺境とは言えいきなり正規軍相手というのは流石に荷が重い気もする。
「相手は斧戦士が大多数だ。狭い場内の通路で振り回すなんていうのは不可能だ。地の利はこちらにある。当然、余計な戦闘を回避するためにも、侵入は夜からになる。」
父親に説得されてクラウドもなんとなくいける気がした。経験豊富な親父だからこそ言える台詞に納得せざるを得なかった。俺も親父ぐらいに、いや親父以上になりたいもんだ。
「潜入は簡単だ。だが、問題は敵将だ。ベルン五大牙の一人でガルバス・サンダースという狂戦士だ。もとは盗賊団の頭目だったんだが、ギネヴィアに引き抜かれたらしい。」
「なんだ、賊かよ。」
セレナが下手な心配をして損をしたというような表情をする。賊なら今までもかなり退治してきた。
「その油断が命取りだと何度言わせたら分かる。お前は戦場へ死にに行くのか! 人の話を最後まで聞け!」
ナーティが何時ものようにきつい口調でセレナを叱る。
「ナーティ殿、何もそこまできつく言わなくても・・・。」
「こいつはこれから世界を救おうとしている者なんだぞ。それがこんな危機感の無いような奴ではこちらも危なっかしくて命を預けられん。」
「・・・わかったよ。あたしが悪かった。」
「わかればいい。私も言い過ぎた。だが、サンダースは他のベルン兵とは実力的に見ても格差だ。それに奴は神将器の一つ、アルマーズを持っている。一筋縄でいく相手ではない。」


87: 手強い名無しさん:05/10/06 09:29 ID:gAExt6/c
「確かに・・・神将器を扱えるほどの腕の持ち主となれば賊といえども油断できない相手ですね。」
「そうだ。だが、こいつを倒さなければ西方を開放することは出来ん。それにセレナ、お前の父親が用いた魔剣、あれを復活させる為にも、神将器は必要不可欠なのだ。」
「魔剣・・・? なんかすげー強そうな・・・。」
「お姉ちゃん、学問所で習ったでしょ? 英雄のみが使える竜封じの剣、あれだよ。」
シーナが付け加える。学問所で聞いたときは他人事だったが、まさか自分達の親が実際使っていたとはそのとき夢にも思わなかった。
「あぁ!それそれ! ふう・・・ふう・・瘋癲(フウテン)の剣!」
それを聞いて一同が萎えたのは言うまでもない。
「瘋癲て! お姉ちゃん・・・英雄に失礼だよ、それはいくらなんでも・・・。」
「あれ? あたしなんか間違えた?」
「封印の剣だ! ・・・まったく、お前は学問所で一体何をしているのだ!」
ナーティが呆れたように言う。まさかここまで頭が悪いとは・・・。
「え? 体育に弁当だろ、それから・・・武術・・・。」
「もういい、聞いた私がバカだった。とりあえず、その魔剣がなければベルンを倒すことは難しい。だが、封印の剣は何者かによってその力の根源ごと封印されている。それを復活させるには、神将器に宿る力を借りねばならない。」
夢のような話がだんだん現実味を増してくる。ナーティの目つきの真剣さにそれが現れていた。
「でも、仮に封印の剣を復活させられたとしても、誰が使うの? 私だって一応剣は扱えるけど、そんな魔剣を使いこなせるほど得意ではないし。」
シーナがそう言った。親が使っていたからといって自分達が使えるとは限らない。
「大丈夫だよ、シーナ。シーナのお父上様はその魔剣を振るい、世界に光をもたらした。その血を受け継ぐお前たちなら、きっと扱えるって。信じようぜ。」
「そうそう! そんなこと心配したって始まらないって! 大丈夫、瘋癲でも封印でも剣ならこのあたしがバシバシ使いこなしてみせるって!」
クラウドとセレナがシーナを励ます。確かに心配したところで始まらない。行動を起こさなければ何事も変わらない。
「まったく・・・その自信はどこから沸いて出てくるのか・・・。まぁいい。決行は今夜だ。」
作戦会議を終了し、皆準備に取り掛かる。立ち去ろうとする双子にアレンが声をかける。
「セレナ、シーナ。」
「何だよ、親父。」
「お前たちはフェレ候ロイ様の正当なる後継者。これを身につけて行動するんだ。」
アレンが渡したものは、フェレ家の家紋が入ったマントだった。
「キレイな風呂敷だな。で、これをどうするの?」
「お姉ちゃん・・・マントでしょ、これ。なんでそう頭悪いのさ!」
「わぁ、怒るなって、言ってみただけじゃん。さんきゅー親父。」
さっそくセレナが身につけてみる。今までTシャツにデニム製のパンツしか着た事のなかった田舎娘だったのが、何か貴族にでもなったような気分になった。 
「ふ、馬子にも衣装か?」
そう言ってナーティが去ろうとするところに、クラウドが話しかけた。
「ナーティさん、あんたって傭兵なのになんでそんないろいろ知ってるんだ? 魔剣のことや神将器のこと、それに敵の情報まで。」
「別に。敵の情報を仕入れておくぐらい当たり前だろう? それに神将器のことなどちょっと知識があれば直ぐ触れることが出来る情報だ。こんな辺境では目新しい情報かもしれないがな。」
「じゃあもうひとつ問うけど、なんでこんな報酬の少ない、というか出るかも分からないような雇い主と契約したんだ? 下手すれば死ぬかもしれないのに。」
どうもクラウドはナーティのことを怪しんでいるようだった。
「ふ、セレナとか言ったか。ああいう威勢だけの若造をいじめるのが私の趣味でね。それに、あいつはバカだがどこか人をひきつける何かを持っている。それに私も惹かれたと言う訳さ。」
これだけ言うとナーティは去って言った。
「・・・若い娘をいじめる年上の女性・・・か。なんか嫁と姑みたいだな。どっちにしろ変わった人だ。」



88: 手強い名無しさん:05/10/06 22:19 ID:9sML7BIs
そう言えばキャラ紹介まだでした。
完全オリジナルも自由度は広いけど、手を広げすぎると読み手を限定してしまうかもしれませんね。
色々ご意見募集しておりますです。
さぁどこまで手を広げていこうかな・・・。

ナーティ・アグリアス(♀:剣士)
序章に出てきた傭兵はこの人でした。
自称25歳。女性に年を尋ねることはご法度なので真相は謎。
いわゆるツンデレなのか、ただの意地悪姉さんなのか、それともアレなのか。やっぱり謎な人。
謎は多いけど確かな事は、常に冷静沈着で剣の腕前は超一流ということ。

バルガス・サンダース(♂:狂戦士)
基本的に自分の都合しか考えていない強欲な狂戦士でベルン五大牙の一人、『闘将』
もとは別大陸の盗賊団の頭目だったが、その斧を使わせれば右に出るものはいないと言われた歴戦の戦士だった為、引抜を受けた。
性格は自己中に加え豪快で「攻撃が最大の防御」信条とし、相手の反撃を受ける前に叩き潰す作戦を得意とする。
やや自信過剰な面があり、そこが最大の弱点になっている。

89: 手強い名無しさん:05/10/11 12:48 ID:E1USl4sQ
出撃へ向けて準備をしているセレナの元に、ナーティが寄ってきた。
「鼻歌を歌いながら剣の手入れとは、出撃を前に緊張はないようだな。」
「あ、ナーティ。どう?これ、キレイな剣でしょ。これ、あたしの母さんが前の戦争で使ってた剣なんだって。あたしもこんな立派な剣を華麗に振る日が来るのかなぁ。」
「ん・・・。これは・・・イリア王家の家紋が入っているな。それは間違いなくお前の母親の剣のようだ。しかし、その剣を振るのは今ではないのか?」
「え?」
「刃こぼれしているから大陸に渡ったらすぐ修理してもらえ。お前の母親の剣だ。自分が達成できなかったことを娘が志しているなら、使ってやればきっと喜ぶだろう。」
「そうだね。そうするよ。いやー、やっぱナーティはいいよな。あたしあんたみたいな姉が欲しかったんだよ。よ、姉貴。」
「姉貴か・・・。ふっ、おだてても何も出んぞ。」
ナーティは照れたのかその場を離れ、アリスの元に向かった。
「精霊術士、気持ちの整理はついたか?」
「あ、ナーティさん。・・・えぇ、なんとか。戦争で苦しむのは民。でも、ベルンを倒さなければ、いつまでは民は苦しめられる。民を苦しめる悪を倒すために私たちが民を苦しめる。そう思うととても割り切れないけど、もう迷っていることはできない。・・・私も戦います。イリアの皇女として恥無きようがんばります。」
「そうか。よく決心したな。だが、あなたはベルンを悪と言った。そう簡単にベルンを悪と決め付けてよいのか?」
「え? だって、民を苦しめて横暴を働いている以上は。」
「そうだ、その面から見れば悪かもしれない。だが、ハーフの者から見ればギネヴァイは自分達を優遇してくれる英雄だと映るかもしれない。」
「そうですね。ある種族にとっては英雄でも、他の種族から見れば憎い敵・・・。どうして種族同士でいがみ合うのでしょうか。皆仲良く暮らしていけたらそれが最良なのに。」
「そうだ。だから善悪の判断は難しい。我々は何が正しいのか、何が最善なのかを常に模索しながら旅をしていかなければならない。それを怠れば、支配する種族を変えるだけの意味のない戦争になってしまう。」
「えぇ。不可避な問題であるならば、それを如何に意味のあるものにするか。これが重要なんですよね。わかっています。」
「貴女が今は亡きユーノ后妃に似て聡明な方でよかった。私では反発するだろうから、セレナ達が暴走しないように監視してくれ。」
それを聞いてアリスは微笑みながらうなずいた。
「えぇ、私にとってあの子達は可愛い妹ですから。それにしてもナーティさんもセレナをかなり気にかけてますね。」
「別に。私も昔、ハメを外して周りに迷惑をかけたことが良くあった。あいつは立場的にも、やるべき事の大きさ的にも、迷惑をかける程度では済まないからな。」
「へぇ、ナーティさんでもそんな時代があったんですね。そのクールさからはとても想像できませんよ。」
「おいおい、これでもまだ若いのだぞ。年寄り扱いはやめてくれ。」
二人は笑いながら暫く話していた。

その夜、昼間の作戦通りに侵入が決行された。この日も西方の夜は霧に包まれ視界はすこぶる悪い。これならベルン兵の視界をかいくぐって侵入する事も容易い。
「よし、潜入する。手はずどおり、アリス様とクラウドは収容されている人たちの救出に向かってくれ。
俺とナーティ殿、そしてセレナ様、シーナ様でサンダース討伐に向かう。」
「了解、任せてくれ親父。きっとうまくやってみせる。アリス様行きましょう。」
鉱山に到着した。高い壁で覆われ、その天辺には鉄条網。収容されている人たちが逃げ出せないような強固なつくりになっている。外にもそれなりに兵が巡回している。当然侵入もそう簡単には成功しそうにない。そう、地上からは。
「さて、セレナ、シーナ、そしてクラウド、お前たちの出番だ。我々を連れて飛んでくれ。霧の出ているうちに早く中に侵入してしまいたい。」
そう、神竜と天馬騎士。空を舞うことの出来る者達の前ではこの高い壁もまったくの無力だった。
それどころか視界をさえぎってくれる分、侵入には都合よく働いてくれる。


90: 手強い名無しさん:05/10/11 12:49 ID:E1USl4sQ
内部でも兵が巡回している。兵が羽音に気付き上を見上げた。だが、霧が立ち込め何も見えない。
視界を広げる為に持っていたカンテラを上に掲げてみる。その次の瞬間、風を切る音と共に銀色の何かが自分の前を通過した。まるで風に体を射抜かれたように一瞬であった。その途端体に激痛が走り、今度は目の前に蒼色の何かが通過した。更に体を激痛が襲い、そのベルン兵はなす術もなく倒れてしまった。
セレナがナーティを持って空中から急降下したのであった。ナーティが空中から飛び掛り、その後セレナがトドメを刺した。それはベルン兵が悲鳴を上げることも出来ないほど、ほんの一瞬の出来事だった。
「どうだ! あたしの空中殺法は! うーん、決まった・・・。」
「下らん事を言ってないで行くぞ。気を抜くなといったはずだ。」
ナーティがセレナの耳を引っ張って連れていく。どう見ても主と傭兵の関係には見えない。
施設への入り口を探し当てたが、やはりそこにも守備の兵がいる。しかも二人だ。
二人の兵に向かって、アレンが手槍を投じる。その槍はこの視界の悪い中でも正確にベルン兵を捉える。まるでベルン兵に吸い寄せられるように、ベルン兵の喉めがけ直線に飛んで行った。
ベルン兵はうなり声を小さくあげただけで倒れてしまった。さすがベテラン騎士のなせる業と言う所だ。仲間の異変に気付いたもう一人の兵が辺りを見回す。上空に天馬の影が見える。撃ち落そうと手斧を構えるベルン兵にすかさずセレナの双剣が襲う。そして今度はセレナに気をとられているうちに背後からクラウドが襲い掛かる。一人相手に3人がかりだ。だが、まだまだ未熟な新米兵士では致し方なかった。
「よっしゃ、親父、見てたか?」
「あぁ、だがまだまだだ。気を抜くな。よし、潜入しよう。」
一行は施設内に入っていく。中は薄暗く通路は狭い。暫く行くと、明かりと声が聞こえた。
「おらおら! 油を売ってる暇があったらとっとと持ち場に戻れ! この豚が!」
曲がり角から様子を伺う。するとそこでは、労働者達が連行されている。襤褸切れを着てふらついた男性を、斧の柄でいたぶりながら連行するベルン兵の姿があった。
「貴様らの仲間が逃げ出して以来、サンダース様のご機嫌が悪くなってしまった。ただでさえ気性の荒い人なのに、俺たちにまで八つ当たりが来るんだぞ。どうしてくれるんだぁ?あぁん?!」
とうとう殴る蹴るの暴行に発展した。男性はタダ成されるがままうずくまっている。他の労働者も助ける事もなく連行されていく。日常茶飯事なのか。
だが、成されるがままではいないセレナがこれを影から見ているだけのはずがない。
ベルン兵に向かって神の裁き、ディヴァインを撃ちこむ。
「ぐあ!?」
「お前らやめろ!」
突然出てきた子供に戸惑うベルン兵。魔法を受けたベルン兵は一撃で動けなくなってしまっている。
「バカ。こんな状況で騒ぎを起こしたらまずいのだぞ・・・。」
しかしもう遅い、ベルン兵や連行されていた労働者達に気付かれてしまった。
「何だ、お前たちは! 侵入者だ!」
ベルン兵が仲間を呼ぶ、まずいこのままでは兵が集結して囲まれてしまう。ナーティが何とか兵の口をふさごうと剣を抜いたとき、思わぬ事態が起こった。
「おぉ! 助けだ!・・・あ・・・その紋章は・・・英雄ロイのフェレの紋章!おい皆!英雄様が我々を助けに来てくださったぞ!」
セレナやシーナの羽織っているマントを見て労働者達がいっせいに騒いだ。あの伝説の英雄の子孫である事は間違いない。今まで虐げられてきた自分達に救いの手を差し伸べてくれるに違いない。
「クラウド、人々を安全な場所へ・・・」
アレンが騒ぎを落ち着かせるために、何とかしようとするも、彼らの勢いは止まらなかった。一気に暴徒と化した労働者達が一気にベルン兵達の下へなだれ込んでいく。どうすることもできない。
「ちょっと! あんたたち落ち着いてよ!」
セレナの声も届かない。彼らは集団化して正しい判断などできない。そこは一気に修羅場と化してしまった。怒号と悲鳴が渦巻く。
「・・・。どうしよう。皆殺されちゃうよ!」
シーナが焦る。どれだけの数で攻めようと、丸腰の労働者達がベルン兵に敵うはずがない。
「・・・セレナ。判断を誤ったな。」
ナーティが冷たく言い放った。セレナにも分かっていた。自分の取った行動が浅はかであった事が。
「・・・くそっ。あたしのせいで・・・。」
「だが、もはや悩んでいても仕方がない。今我々が執るべき最良の方法は?」
「最良の方法・・・?」


91: 第6章:西方開放:05/10/11 12:50 ID:E1USl4sQ
「そうだ。我々は既にベルン兵にその存在を気付かれてしまっている。労働者達も暴徒化してしまって我々では手をつけられない。しかし彼らも数だけで所詮丸腰だ。労働者を一人でも多く助けるには?」
「敵将も倒して・・・労働者も助けて・・・。あぁ、どうすればいんだ!」
「セレナ、落ち着くんだ。きっと何か良い方法があるはずだ」
アレンが少しでもセレナの気を紛らわそうとセレナに話しかける。だが、悩んでいる間にも事態は刻一刻と深刻化している。悩んでいる時間はない。ナーティが暫くの沈黙を破っていった。
「我々の今なすべきことは、敵将を一刻も早く倒すことだ。将を失えば兵は投降せざるを得ない。労働者には我々が敵将を倒す間の時間稼ぎをしてもらう。兵まで一緒に相手にする戦力は我々にはないからな。」
「え! それって労働者の人たちを囮にするってこと!?」
シーナがびっくりして問う。自分達の為にほかの人を犠牲にするなんて。
「そんな! 労働者達を見殺しにするって言うのかよ。ナーティ! 見損なったぞ。」
セレナも反論する。他人を犠牲にして自分が何かをするというのは大嫌いだ。
「そんなことを言っている場合か? 最低限の犠牲で戦を勝利に終らせるか、欲張って全滅するか、どっちがいいのだ。」
「だ、だけど、勝利の為なら犠牲が出ても良いなんて・・・!」
「二兎を追うものは一兎をも得ず、だ。将たるもの、如何に犠牲を最低限に抑え、勝利を手中にするかを考えなければダメだ。この状況で犠牲を出さないというのは不可能だ。」
「不可能かなんてやってみなくちゃわからないだろ!?」
「取り返しのつくことなら試してみても構わんだろう。だが、もしここで我々が全滅するような事があっては、ここの労働者は皆殺しだ。囮として使うのではない。犠牲を最低限に抑えるためにはこれしかないのだ。」
「・・・うぅ。これしか方法はないのか・・・。」
シーナも頭では分かっていた。自分達の実力では、敵将だけでも辛いのに労働者を救う為にベルン兵まで一緒に相手へ回すことは不可能だと。だが・・・犠牲は出したくない。
「くそっ。・・・わかった。・・・全軍、今からサンダース討伐に向かう。」
「お姉ちゃん!」
「そうだ、それでいい。お前の判断は、お前だけのものではない。仲間全員の命がかかっているのだ。一つの事にこだわって損害を大きくしては元も子もない。もっと広い視野でものを見るのだ。」
「了解。俺たちはいつでもセレナの指示に従う。だから落ち着いて判断しなさい。」
アレンたちもセレナの考えに同意した。
一行は侵入前に調べておいた、サンダースのいる部屋に向かう。ベルン兵の大半は暴動の鎮圧の為に持ち場を離れている。こんなチャンスは二度とない。一気に部屋までたどり着く。

一方サンダースはメリアレーゼと交信していた。
「と、いうわけでして、アルカディアの連中のせいで生産が落ち込んでおりまして・・・。」
何時もは威勢の良いサンダースもメリアレーゼの前ではどうも頭が上がらない。
「で、言い訳はそれだけですか? ベルン五大牙の一人ともあろう者が雑魚集団に翻弄されるとは、やはり私の見込み違いでしたか。」
「も、申し訳ございません!」
「いいですか? 今回は許します。だが二度は無い。覚えておきなさい!」
交信を終え、部下のところに戻るや否や、腹癒せに部下を殴り飛ばした。何時もの事だ。
「ちっ、劣悪種共め。どうせ死ぬ運命なんだから俺等のために働けってんだ。」
机に戻り、乱暴に盛ってある果物をむさぼる。そこへ兵が血まみれになって部屋へ入ってきた。
「サ、サンダース様! 大変です、暴動が起きました!」
「なにぃ!? 劣悪種共め! 何処まで俺の面に泥塗ったら気が済みやがるんだ!」
「今回は収容していた劣悪種共の殆どが暴動に参加し、我が軍が押されています。」
「ちっ、味なまねしやがって! よし、俺が行ってやる、見せしめにぶっ殺しまくってやるぜ。」
「それが今回はそれだけでなく・・・。」
そこまで言うとその兵が倒れてしまった。後ろには銀髪の女性。
「ちょっと失礼するよ。 サンダースとかいう賊将に会いに来たんだが、どなたかな?」
「誰だてめぇは!」
「今から死ぬお前が知る必要は無い・・・。セレナ、行くぞ。」
「よし、皆!一気に行くぞ!」
皆が一斉に走り出す。アレンとクラウドが一気に周りにいた数名の雑兵に襲い掛かる。


92: 第6章:西方開放:05/10/11 12:50 ID:E1USl4sQ
アレンの熟練した剣捌きの前には、賊同然の斧戦士達では手も足も出ない。クラウドも親譲りの技を駆使して戦っていく。一撃の大きい斧を避け、剣で攻撃していく。その剣は、母親の剣だ。かつて母さんも同じように戦った。俺も母さんに負けないように頑張ってみせる。斧がかすめ、血が流れた。激痛が体を走るが、怯んではいられない。すかさず反撃し、一人ずつ片付けていく。
「大丈夫?クラウド。ムリは禁物よ!」
後ろからアリスがライブをかけてくれる。信頼できる仲間がいる。だから俺は敵を倒すことに集中する。
セレナとシーナ、そしてナーティはサンダースに歩み寄る。
「そうか・・・貴様らが劣悪種共の暴動を手解きしたんだな・・・。ぐはははっ、丁度良いぜ。劣悪種共々始末してくれるわ。」
そういうとサンダースはアルマーズを振り上げ、一気に地面に叩き付けた。
「おらぁ! 砕け散れやぁ!」
斧を叩き付けた場所から、凄まじい衝撃波が発せられた。その衝撃波は地を割き、猛烈な勢いでセレナ達の元へ向かってくる。
「うわ」
セレナは横に避けた。そのまま衝撃波は猛進し、壁にぶち当たった。大きな衝撃音とともに壁が砕け散り、大きな穴が開いた。
「うはー・・・。すげーパワー・・・。」
「がはは! 小僧!驚いたか! 今日の俺はとてつもなく不機嫌だ。いつもなら女子供は軽くもむだけで済ませてやるが、今日は最期まで付き合ってもらうぜぇ!」
「ふっ、セレナ、お前の実力を見せてやれ。」
そういうとナーティは後ろに下がってしまった。一体何を考えているのか。
「な! おいナーティ。何やってんだよ。早く剣を抜けよ!」
「お前は前言ったな。西方を開放すると。目の前にいる男が、西方を苦しめている張本人だ。賊なら大したこと無いのだろう? さっさと倒すがいい。」
「んな無茶苦茶な・・・。」
「お姉ちゃん! 前!」
セレナがナーティのほうを見ている間に、サンダースが恐ろしい形相で向かってきていた
「どらぁぁぁ! くたばれ小僧!」
セレナが避ける。セレナがいた場所に斧が突き刺さり、大きな穴をあける。
「ほらほらどうした! どんどんいくぞ小僧! どりゃぁぁ!」
部屋中穴だらけになっていく。サンダースの猛攻にセレナもシーナも手も足も出ない。それに気付いたアレンが加勢しようとする。だが、それをナーティが止めた。
「ナーティ殿!何を傍観して居られるのか! セレナ達を助けなければ!」
「ダメだ。これは二人にとっての試練だ。いやしくもあの二人はこの軍の将だ。強くなってもらわねばならん。それに・・・あいつらならきっとできる。」
「ちくしょう・・・このままじゃやられちゃう。ナーティ!何やってんのさ!」
「お前は誰かに頼らなければ何も出来ないのか? 世界を救うという事は、誰かに助けを求める事なのか?」
「・・・くっそー。シーナ! こうなったらこっちから攻めに出るぞ!」
「がはは! とうとう覚悟を決めたか! 直ぐ楽にしてやるぜぃ!」
突撃してくるシーナに向かって斧を構えるサンダース。そして、斬りかかるシーナに向け、渾身の力で斧を振り下ろした。シーナは避けきれず、斧の柄で吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「うぎゃ! くぅ・・・柄に当っただけでこんな衝撃なんて・・・。」
「大丈夫か? しっかりしろ。」
ナーティが回復魔法をかけてくれた。相手は強い。でも、こっちだって・・・負けない。
「うおぉぉぉぉ! 目が! 目が!」
シーナの剣が、どうやらサンダースの目に当ったらしい。顔を抑えている。
「貴様らぁ! ただじゃ済まさん! その首叩き落してくれるわぁ!」
狂気に満ちた声を上げ、サンダースが再び襲い掛かってくる。標的はセレナだ。
「よくも妹を!」
「うるせぇ! 貴様らも劣悪種と同じ様に、この斧で切り刻んでハイエナの餌にしてやる!」
「あんたのせいで数え切れないほどの人が無意味な死を迎えた・・・。あたしたち自治区の人だって何人殺されたか!」


93: 第6章:西方開放:05/10/11 12:51 ID:E1USl4sQ
「無意味だと!? お前たち劣悪種は、俺達の為に死ぬまで働いてこそ価値があるもんだぜ。働かない奴は即廃棄だ。使えない道具はタダのゴミでしかないからな!」
サンダースのその命を何とも思わない台詞に、セレナの怒りは頂点に達した。
「ふざけるな! 同じ人間に優劣なんてあるもんか! あたしから言わせれば、そうやって人の苦しみを何とも思えない心の持ち主こそが、劣悪だ!」
「餓鬼が知った風な口を聞くんじゃねぇ! 妙な言いがかりをつけて迫害しだしたのは人間共だろうが! そしてそれを見て見ぬ振りをした竜族。
貴様らのやったことを棚に上げてどの面ひっ下げてそんな台詞を吐くんだ!?」
「何の事だが分からないけど、あたしは違う! 皆がいがみ合わないで済む平和な世界を作るんだ! 見て見ぬ振りなんてするもんか!」
「お前みたいな餓鬼っちょ一人に何が出来る! 狂言に付き合っているほど寛大ではない。そろそろ終わりだ! てめぇもミンチにしてやるわ!」
サンダースが斧を地面に打ちつけ突撃してくる。セレナも衝撃波をかわしつつ剣を構える。
シーナは姉の顔を見てびっくりした。何時ものあの穏やかな顔でなかった。きりっとして、何処か怖いぐらい鋭い目つきをしている。あんな顔を見たのは初めてだ。
サンダースの斧を避け、懐に入る。そして双剣で一気に切り刻む。ナーティに教えられた事を思い出しつつ、自分の技を駆使していく。
「ぐぉっ、ちょこざいな! 小僧、手間取らせるな!」
いくら刻んでも倒れる兆しが無い。それだけ相手は打たれ強く、こちらは非力だ。それでも諦めず、どんどん攻撃していく。アレンはその瞳に、かつてのシャニーを重ねていた。
「セレナ! ただ闇雲に攻撃するだけではダメだ! 相手の急所を狙うんだ!」
アレンが声をかける。シーナも怪我を癒し、加勢する。サンダースも大分弱ってきたのか、動きに敏捷さがなくなってきている。
「餓鬼共が! ふざけるな!」
サンダースが斧を大きく振り回し、二人を跳ね除けようとする。だが、目が潰れて視界が狭くなっている分そのとき大きな隙が出来た。
セレナはそれを見逃さない。すかさず懐にもぐりこみ、閃光の如く切り上げ、そして残った片方の剣で一気に胸を突いた。
「ぐ、ぐぉわ・・・。こ、この俺様が・・・こんな餓鬼に・・・やられるのか・・・? 歴戦の勇者たるこの俺が・・・こんな劣悪種に・・・!」
サンダースが為す術無く地面に倒れこむ。巨体が地面に沈み、周りは一気に静かになる。
「やった・・・あたし達が・・・勝ったんだ! やったよシーナ!」
「うんうん! 私達、ベルンに勝ったんだ! 早く皆を助けないと!」
「よし、将を倒した。我々は制圧したも同然だ。兵に投降を呼びかけろ。」
走っていく双子。ナーティが去ろうとする時、サンダースが苦しそうに声を上げた。
「何故だ・・・俺は何故・・・あんな小僧に・・・。」
「お前は確かに力では勝っていたかもしれない。だが、セレナの言うとおり、心で劣っていた。人を思いやる心、認める心。それがお前には欠けていた。だから神将器がお前を嫌い、真の力を発揮しなかったのだ。」
「真の力を発揮しなかっただと・・・? 心で劣るだぁ・・? ふざけるなぁ!」
無言でナーティは剣を抜いた。そして、サンダースに向ける。
「や、やめろ・・・! 命だけは・・・!」 
「ふ、今まで散々蛮行を行ってきて何を言う。自分の愚かさを呪うがいい。」
「う、うわー!」

その頃メリアレーゼは、一部始終をベルン城から魔力を用いて投影し見ていた。
「ほう・・・あいつもなかなか派手にやってくれますね。まぁ、五大牙にも去ってもらうつもりでしたし、殺す手間が省けたというものでしょうか。・・・誰が支配したところで結果は変わらないのですよ・・。 それにしてもあの小娘、もしやとは思うが・・・。興味がありますね。暫く野放しにして置きましょうか・・・。どの道封印の剣を復活させる事など不可能ですからね。」
メリアレーゼの目指すものとは一体。見られているとも知らず、セレナたちは勝利を宣言し、労働者達に歓喜の声で迎えられているのであった。


94: 第7章:生の意味、課せられた使命:05/10/12 23:52 ID:9sML7BIs
鉱山を制圧し、難民と化した多くの鉱山労働者を引き連れて、セレナたちが自治区に帰ってきた。
「母さん! ただいま! やったよ! ベルンを追い払えたよ!」
「ほー! よくやったじゃないか。あんた達。流石あたしの娘達だよ。」
エキドナに走りより、抱きつく双子。それを受け止めて撫でてやるエキドナ。何処からどう見ても親子だった。
「それでね!それでね! 敵将も兵もみーんなあたしがこらしめてやったんだよ!」
「違うでしょ! 私だって頑張ったもん。」
「わかってるさ。二人ともよく頑張った。悪さする奴は必ずいつか滅びるんだよ。」
親子の会話を見届けると、ナーティはアレンの元に向かった。
「さすが英雄ロイの子供達だな。私が思っていた以上によくやる。」
「ええ、ロイ様もきっと喜んでおられるでしょう。姫様方が自分のなし得なかったことを実現させようと立ち上がり、一つの成果を出したわけですし。」
「そうだな。だが、まだまだ序の口だ。これから大陸に渡れば、そこはベルンの支配下だ。どこにいても狙われる危険性がある。・・・真の戦いはこれからだ。」
「ですね。私も一層鍛錬に励み、姫様方をお助けしなければ。・・・ナーティ殿、頼りにしています。私では限界があります、ですから、どうか姫様方に色々教えて差し上げてください。」
「ふ、こんな年下の傭兵にそんなことを頼むとはな。だが、私もどうもあの二人は放っておけないからな。出来る限りの事はしよう。」

自治区には多くの難民が流れ込んできている。朝からその対応で大忙しだ。
「お、俺たちを受け入れてくれるのか? しかも奴隷身分でなく??」
「当たり前サ。ここはベルンの支配の無いあたしたちの自治区さ。種族も何も、縛るものは何もないよ。」
今まで奴隷として鉱山でこき扱われてきた人たちは歓喜の声を上げた。ここはエレブに残された最後の理想郷だった。差別も無く、皆が手を取り合って生きていく。それが実現されている大陸唯一の場所だ。
人々の声を聞き、大陸での差別が如何にひどいかを、セレナは感じていた。そして、それと同時に必ずいつかは大陸中にここのような真の平和をもたらす事を決心した。思いついたら直ぐ行動するのがセレナの信条だ。その足でそのままナーティの元へ行った。
「なぁ! 大陸に出るにはどうすればいいんだ?」
「気の早い奴だ。大陸に出てからの計画もまだ立てていないというのに。」
「だけどさ。もうあたし達の存在も本格的に気付かれているし、いつまでもここにいたら自治区を巻き込んじゃうかもしれないよ。それに、こうやって祝杯を挙げている間にも、大陸では多くの人が苦しんでる。放っておけないよ。」
「・・・やはりお前はロイの子か。わかった。大陸に出るにはやはり船しかあるまい。この時勢に客船を扱っている者がいるとは思えないが。」
「船か・・・やっぱそうだよね。よし、心当たりがあるからそこ行ってみる!」
セレナはそういい終わるや否や走り去っていった。その背中にロイ達の面影を残して。
「ガハハハ! そりゃひどい生活だったな! 今日からはワシのうまい料理をたらふく食わせてやるぞい!」
新しく増えた住人と芋焼酎を飲みながら話すバアトルの元にセレナが走り寄ってきた。
「バアトルのおっちゃん!」
「む! 勉強もしないダメ娘か! 今日という今日はワシ直々の秘奥義を仕込んでくれるわ!」
「げ! 逃げろ!・・・じゃなくて、ギース船長ってどこにいる?」
「む、なんだワシに教えを請いに来たのではないのか。あの男なら海岸にいるんじゃないか?」
「そっか、さんきゅー。」
「こりゃ! 遊んでばかり居らんとちゃんと稽古せねばならんぞ! ワシの若い頃は・・・」
バアトルがそういい終わる頃にはもうセレナはいない。
「おやっさん・・・もうあの子いませんよ?」
「闘技場で30人抜きなんていうのもザラで・・・む!? まったく最近の若いモンはなっとらん! ワシの若い頃はな・・・」

海岸ではギースが海岸線を眺めていた。ベルンの支配下では船を出す事は叶わなかった。ハーフ以外には渡航許可が下りないからだ。よくても下級労働者にしかなれない人間と、船を用いた貿易を行うハーフでは貧富の差が広まる。更に差別が生まれる・・・悪循環だ。
「やっと、俺も海に戻ることが出来るかもしれないのだな。俺達の海を独り占めしやがるとは、ベルンの野郎・・・っ。俺も出来る事ならベルンに一矢報いたいところだが、この年じゃな・・・。くそっ年はとりたくないぜ、全く。」


95: 手強い名無しさん:05/10/12 23:54 ID:9sML7BIs
そこにセレナが走り寄ってきた。西方の男達はみんなセレナにとっては友達だった。
「おーっす、船長!」
「ん・・・? げ、セレナか。船長はやめろって言ってるだろ。俺はもう船乗りじゃねーんだよ。」
「げって何よ。まるで化け物見るみたいに!」 
「お前と一緒にいるとロクな事がないからな。」
「ぶー。それよりさ、船長って船持ってるよね? それであたし達を大陸まで運んでよ!」
「よく言ってくれたじゃねーか。いよいよお前達大陸に乗り込むつもりなんだな。よし、その仕事引き受けた!」
「ありがとう! 二つ返事で了承してくれるなんてさすが海の男! 惚れちゃいそう。」
「へ、お世辞も程ほどにしておけよ。そうと決まれば船の手入れをしねぇとな。」
さっきまで沈んだような顔をしていたギースの顔の元気さが戻る。船乗りが船に乗れない、これほど船乗りにとって苦しい事はない。戦いには出られなくても、俺は俺なりのやり方で一矢報いてやるぜ。
「それにしてもさぁ、なんで海賊辞めて商船の船長なんてやりだしたの?」
「逆だ! 俺だって好きで海賊をやってたわけじゃねぇ。 戦争で商売をやってられなくなって、仲間を食わせていけなくなったからだ・・・。」
「船長は元々船長だったんだ。」
「ああ。やっと戦争が終って、やっと船に乗ることが出来た。散っていった海の兄弟達の為にも、今まで以上に働いたさ。それが・・・またこんな時代になっちまって。ベルンの野郎・・・っ。」
デッキブラシを握る手に力が篭っているのがセレナからも分かる。
「だが、今度は賊には手を染めない。エキドナ達がいるからな。俺は俺のやり方でエキドナたちを助ける。例え法に反していても、俺が正しいと思うことをやる。時代の流れに身を任せて、節操無く強いほうに棚引いてちゃ、兄弟達に合わす顔がねぇからな。」
「船長カッコイイね。あたしも見習わなくちゃ。」
「お前は今のままでも十分だ。親父そっくりだぜ、お前は。お前の親父には随分世話になったからな。今度は俺がお前を助けてやるって言うのも悪かねぇよ。」
「へへ、あたしのお父さんって凄い人だったんだねー。ってうわっ。」
長らく使っていなかったせいで船体はコケだらけだ。滑りやすくなっていたために、セレナが転び、尻餅をついたその下から妙な鈍い音が聞こえた。
「おいおい大丈夫か・・・って! うわー!俺の船が! やっぱお前と一緒にいるとロクな事がないぜ!」
ちょうど腐っていた部分に尻餅をついたため、大きな穴が船体に開いてしまった。ギースは顔を腕で覆って泣いている。
「うわ・・・ご、ごめんなさい!」
「い、いいって事よ・・・。どうせ腐ってたんなら渡航できねぇしな・・・。修理道具とって来る。」
暫く穴をセレナが眺めていると、向こうから泣き声が聞こえた。やはりショックが大きかったようだ。

その頃シーナはクラウド達と祝勝会に出ていた。祝勝会といっても小さなパーティだが。
「でも、今でも信じられないよ。あんな大男の懐にお姉ちゃんがもぐりこんで、そのあとズバーって!」
「だな! 確かにあの時のセレナはかっこよかった。くーっ、俺の見せ場がなかったぜ。」
「私だって。サンダースにぶっ飛ばされたぐらいしか記憶に無いよ。あーあ、もっと強くならないとなぁ。このままじゃ足手まといだよ。」
「そんなこと無いわよ。シーナはいい仕事してたわ。私もまだまだライブへたっぴだから練習しないと。」
アリスが寄ってくる。あの時アリスはずっとシーナを見ていた。何とか状況を打開しようとしていた事は痛いほど分かっていた。
「え、お姉ちゃん、私そんなに活躍したっけ。」
「もちろん。セレナが懐に入り込めたのも、あなたがサンダースの目を潰したからよ。あの怪我がなければ暫くこう着状態は続いていたでしょうね。」
「という事はシーナのおかげだったんだ。すごいなお前。という事は活躍できてないのは俺だけかよ・・・。」
「でも、やっぱお姉ちゃんは強いよ。私とは比べ物にならない。・・・昨日はなんか怖かったけど。」
「どういうことだ?」
「お姉ちゃん、最後のほう、何時もと顔つきが違ってた。なんか・・・凄い怖い顔。まるで別人みたいだった。」
「へー。あいつ、すっとぼけた顔してるから、戦場に出てるときぐらいまともな顔しててもいいんじゃね?」
クラウドが笑いながら茶化す。アリスがたしなめつつ、言った。


96: 手強い名無しさん:05/10/12 23:56 ID:9sML7BIs
「クラウド、言いすぎよ。・・・あの子は叔母様から神竜の血、ロイ様から氷竜の血をそれぞれ受け継いでいるわ。何かあると竜族としての性格が表に出るのかもしれないわね。」
「二重人格かよ・・・。表はすっとぼけてるけど、裏の性格は全てを焼き尽くす獰猛な性格・・・おっかねー・・・。」
「・・・否定は出来んな。」
そこに現れたのナーティだった。アレンも一緒だ。
「ナーティさん! この子達に変な事を吹き込まないでください!」
「いや、事実だ。あいつは竜石を持っていないが、生粋の竜族だ。しかも・・・あいつは親からナーガの力を受け継いでいる。器にあわぬ力を持っているとなれば、いつ力が暴走してもおかしくはない。
今のセレナはまだまだ未熟だ。暴走した力を制御する事はできないだろう。」
「・・・。」
「本当のことを言えば、サンダースと対峙していた時、力の暴走が少々始まっていた。顔つきが変わっていたとはまさにこれだ。」
「力が暴走するとどうなるの?」
「器に合わぬ力だ。器、すなわち体が持つはずがない。・・・最悪死ぬ事になる。あいつには・・・経験をつんで力を制御できるようになってもらわねばならん。」
「そんな! 死んじゃうなんて・・・。でも、何でお姉ちゃんは竜石を持っていないんだろう。」
「シャニー様も、力の暴走を経験していらした。それを娘に引き起こさせない為に、竜石を預かっていたのだ。 もっとも、お二人とも既に他界していて竜石の所在など今となっては分からないが。」
アレンが説明する。子供を連れて戦場を離れる際、シャニーがセレナの握っていた竜石を取り上げたところは、今も鮮明に覚えていた。
「それもあるが、きっと人間として生きて欲しかったのだろう。竜族は竜石を使うと寿命が半端になく長くなる。・・・時を共有できる者が傍にいないというのは辛い事だ。」
「そうなんだ・・・。でもお姉ちゃんも暴走してたんでしょ?」
「ナーガの力を受け継ぐとなれば、その力が竜の状態で暴走されればこんな大陸などあっという間に消し炭になってしまう。・・・それに比べれば被害は小さい。」
「ナーガってそんな強い竜なのか・・・。セレナってバカに見えて意外とすげーんだな。」
「こらっ、クラウド! いくらセレナ様がいいと仰っても、主を罵倒するとは何事だ!」
「わぁ! 親父悪かったよ!」
アレンの説教が横から聞こえる。だがシーナは、殆どそれが聞こえていなかった。あんな明るくて優しい姉に、そんな怖い一面が隠れていたなんて。あの時の顔をもう一度思い出してみた。・・・鋭い眼光に血走った目。怖い。何時もの姉が姉であるだけに更に怖かった。でも、逆にかわいそうにも思えてきた。姉は皆と同じである事を望んでいた。でも実際は容姿もちょっと違うし、更に竜の中でも特別な存在だったなんて。姉は何も言わないけど、きっと悩んでいるに違いない。双子の姉妹である私が出来る事は、出来るだけ自分が頑張って姉ちゃんが力を暴走させるような状況まで追い詰めないこと。お姉ちゃんは皆を統率する力がある。だから私はそんな姉を影から支える。双子で生まれてきたのは、きっとそのためなんだ。お姉ちゃんだけじゃ危なっかしくて見てられないしね。私には私の得意な部分がある。お姉ちゃんと苦手なところを補いながら頑張ろう。
そう考えていると後ろから急に頭を小突かれた。びっくりして後ろを見てみる。
「どーしたの? シーナ。」
姉が何時もの笑顔でこっちを見ていた。なんかさっきから怖い顔ばかり想像していたせいでなぜかホッとした。
「姉ちゃん・・・よかった。」
「?」
「あ、なんでもない。いつもどおり元気でよかったって意味。」
「変なヤツ。そうそう! ギース船長が船を出してくれるって! これで大陸に渡れるよ。 あー、大陸ってどんなとこなんだろうなぁ〜。早く行ってみたいなぁ。」
「姉ちゃん・・・遠足に行くんじゃないんだよ? はぁ、やっぱ姉ちゃんってバカだ。ちょっとぐらい怖い顔してた方がいいかも・・・。」
「なんだよ! 言ってみただけじゃんか! まったく、可愛くない妹!」
セレナはシーナに出来る限りの怖い顔(といってもちっとも怖くないが)を見せてあっちへ行ってしまった。
わかってるよ姉ちゃん。私だってお母さんやお父さんの故郷を見てみたいもん。早く大陸に渡って苦しんでる人を助けてあげて、そして天国にいるお父さん達を安心させてあげよう。でも、姉ちゃんも無理しないでね。お姉ちゃん死んじゃったら、私嫌だよ。皆だって悲しむ。
私、姉ちゃんの為にもがんばるよ。姉ちゃんの笑顔大好きだもん。だから・・・うーん、うまく言えないや、とにかく頑張ろう!


97: 第8章:恍惚の魔貴族リゲル:05/10/13 16:31 ID:E1USl4sQ
夜、セレナ達は早速大陸に渡った後の事を協議していた。
「なぁなぁ! 大陸はどんなトコなんだ? あー、早く行ってみたい!」
「俺も俺も。物心ついた頃からずっと西方育ちだったからなぁ。早く外を見てみたいぜ。」
セレナとクラウドが踊るような口調で言った。同じエレブ大陸といっても、西方は大陸と海を隔てた辺境である。情報も殆ど入ってこず、僻地として知られている。昔から西方に住んでいた人々はベルン動乱を気に大陸に移り住み、今西方にいるのはエキドナの同志やその子供達、更には賊から足を洗った人間などだ。そして、今は鉱山から流れてきた難民もいる。中には故郷に帰らず、ここに居つくものいるようだ。彼らからもたらされる断片的な情報を聞いて、セレナ達は探究心をくすぐられていた。
「まったく、遠足に行くのではないのだぞ。もう少し自覚してくれ、二人とも。特にクラウド。」
アレンが優しい口調で二人を叱る。厳しいナーティとは正反対だ。
「あ、ごめん親父。ついついセレナに乗っちまったや。なーんかセレナとは気が合うんだよなぁ」
「あったり前じゃん。あたし達きょうだいじゃん。」
「・・・そろそろ話を元に戻そうか。で、大陸に渡ったらどうするつもりなのだ。」
ナーティが口を開いた。今は雑談をしている暇はない。
「あ、そうそう。大陸に渡って一番近い国って何処?」
「エトルリアだ。エトルリアはかつてはエレブ一の栄華を極めていた大国だ。今では見る影もないがな。だが、相変わらず商業の中心で多くの人が集まる。」
「俺の集めた情報によると、ベルンに対抗する組織がエトルリアにはあるらしい。かつてはエトルリア王国の騎士軍将だったパーシバルと言う人がリーダーらしい。」
「じゃあ、その人たちと協力できれば勝てる可能性もあるね。」
「過剰な期待はしないほうがいい。最悪、我々だけでも戦う姿勢で臨むべきだ。・・・安易な期待は隙を生む。」
「とりあえず、エトルリアに行く事が先決でしょう。あそこは人も多いし、よほどの事をしなければベルンに見つかる事もないはずです。」
「そうですね。限られた情報だけで作戦を立てることも危険ですし。」
「セレナ、シーナ、お前達はどう思う?」
「え? あたし達?」
いきなり父に意見を聞かれ戸惑ってしまう。
「しっかりしなさい。あくまでこの軍の将はお前達なんだぞ。俺たちがどんなに考えても、最終的にはお前達が判断を下していかなければ。」
父に諭されて、二人は改めて自分達の責任の大きさを実感した。もうこの前のまでのように子供でいるわけには行かない。
「そ、そうだね。」
「そうだ、そして瞬時に最良の方法を決断する力を身につけなければならん。この前のような悲劇を生まない為にもな。」
「うん・・・。やっぱりあたしも、とりあえず大陸に渡って情報を仕入れるべきだと思う。どっちにしろここに長く留まる事はよくないし。」
「よし、話はまとまった。ギース殿の船が直り次第、大陸に渡ろう。」
解散していく面々。いよいよこの住み慣れた故郷を離れ、本格的な行軍がスタートする。
「それにしても尻餅で船に穴を開けるなんて、お前相当重いんだな。」
「ちっ違うよ! たまたま尻餅ついたところが腐ってて・・・。」
「・・・お姉ちゃん、食べたら寝るだもんねー。あー、オデブは嫌だねー。」
「シーナまで! デブとは何よ! これ以上やせたら骨と皮だけになっちゃうじゃない!」
「ぎゃはは、特に胸は今でも皮だけだもんなー。」
「っ!!! 兄貴! もう絶対に許さない! 待てこら!」
3人は新たな戦いを前にしても元気だ。緊張感がないとも言い換えられるが・・・。
「まったく、クラウドは騎士失格だ。」
「ふ、いいではないか。仲が良くて。傍に信頼できる仲間がいるという事は何にも換え難い武器だ。」
「それは確かにそうなのですが、けじめという物をしっかりつけなければ。姫様達が将である自覚に欠けるのも、主人と騎士という線引きが出来ていないからですし。」
「・・・まぁ大陸に出れば嫌でも自覚せざるを得ないだろう。虐げられていた者達があいつらをロイの子供と知れば、当然期待する。まだまだ未熟だ。この時期はそういった目に見えぬものによって一番潰れやすい。我々の為すべき事は、無駄に線引きすることではなく、そういった視線から彼女らを守ってやることだと私は思う。もちろん、いつまでも手助けしていてはダメだが。」


98: 手強い名無しさん:05/10/13 16:31 ID:E1USl4sQ
その頃、エトルリアではベルンの重鎮でベルン五大牙の筆頭グレゴリオ大将軍がエトルリアに来ていた。
「ふう、エトルリアの女にも飽きた。私を満足させる美女は居らんのか。たっぷり可愛がってやるのに。くっくっく。美しいものは常に渇望しているのだ。」
「リゲル様、報告いたします。リキアからグレゴリオ大将軍がご到着為されました。」
「何?・・・あの老いぼれ、今度は何を説教しに来たのやら。よし、わかった。すぐに行く。」
「それが、もうここに・・・。」
兵の後ろから巨体が現れた。老兵だがかなり立派な体格だ。
「老いぼれで悪かったな、リゲルよ。口は災い元だぞ。」
「グ、グレゴリオ大将軍! も、もうこちらにいらしていたのですか。事前に仰っていただければこちらからお迎えに上がったものを・・・。」
「ふ、下手な取り繕いは止せ。・・・それにしても相変わらずだな、お前の女好きは。民の為に仕事をしているかと思えば、昼間から女を侍らして何をして居るか。」
「お、女好きとはあんまりです。どうしたら民の為になるか考えるのに疲れ果て、こうして彼女らに癒してもらっているのです。」
「・・・鎖で縛り付けてか?? まったく、お前の趣味を疑うわい。」
「い、いえ、その女は劣悪種の女でして、縛りつけて見せしめにしようとしていたのありまして、決して趣味などでは。」
「・・・そんなことをして何になる。人間も竜族も、そして我々ハーフも、民には変わらぬ。迫害して何になる。我々が迫害されていた時お前はどう思った。」
そういいながらグレゴリオは女性を繋いでいる鎖を外し、街に返すよう配下に指示を出す。
「ですが、メリアレーゼ様は劣悪種の迫害を推奨しておられます。劣悪な種族は淘汰されるべきと。」
「・・・だが気をつけろ。既に情報も入っているかと思うが、先日西方のサンダースが倒された。首謀者は分からん。世間に広まれば暴動に発展する可能性もある。お前も油断して寝首を狩られないようにするのだぞ。」
忠告を残してゴレゴリオはリキアに帰っていった。メリアレーゼの真意を彼は知っていたが、リゲルには伝えなかった。いや、伝えられなかったのだ。そんなハーフの中からでも反対が出るようなとんでもない考えを、メリアレーゼが起草しているとは・・・。
「ち、あの老いぼれめ。偉そうに。もしその反乱軍が私のところに攻めてきたら、必ず仕留めてやるわ。そうすればこの私があの老いぼれの変わり大将軍の座につく。・・・そうなったら覚えておれよ。今まで散々コケにした償いをさせてくれるわ。美しい私にこそ、大将軍の座は相応しいのだ!」
「リゲル様、警備を強化なさいますか?」
「構わん。こんな大軍と強力な遠距離兵器で武装した我々をそう簡単に攻められるものか。」
「しかし、元からエトルリアに巣食うゲリラ集団と協力されたら危ないのでは。サンダース様を倒してしまったほどの実力の持ち主ですし。」
兵がそういうや否や、リゲルをその兵を壁に思い切り押し付け、首の横に剣を突き立てた。
「くっくっく・・・。貴様、格下の分際で将たるこの私に意見するのか・・・? 実に面白い奴だ。サンダース? あんな醜い賊の成り上がりと一緒にするな。私は美しいもの以外に興味はない。醜いお前達は黙って私の指示に従えばよいのだ!さっさと消えうせろ! 」
兵は血相を変えて出て行った。他の兵も焦って部屋から出て行く。
「ふ、二つ纏めて潰せれば私の評価も大きく上がるというものだ。兵の損失など、また補えばよいわ。醜いものならいくらでも代わりが利くからな。」
リゲルは剣をしまい、再び侍らしていた女の元へ戻る。
「さぁ、我が美しいコレクションたち、待たせたね。宴の続きをしようか。くっくっく・・・。」
「リゲル様―。早く早く!」
女達も必死だ。リゲルに嫌われたり、飽きられたりすれば即刻「廃棄」されてしまう。廃棄とはすなわち死を意味していた。だが、人間でもリゲルに気に入られさえすればコレクションに入れてもらえる為、人間の女性は必死になって媚びた。コレクションになればまともな食にありつける、迫害されなくなる・・・。目を覆いたくなるような悲惨な光景だ。
リゲルは民の為に色々画策するという事はしていなかった。毎日毎日、自らの「コレクション」と戯れ、快楽に溺れる日々。当然エトルリア地方の風紀はあれ、人間達は貧民街を形成していた。
かつては繁栄の限りに沸いていたエトルリアも、今では無法地帯となり、その栄華は見る影もなかった。


99: 手強い名無しさん:05/10/14 17:07 ID:E1USl4sQ
いよいよセレナ達は出発の時を迎えた。
「じゃあ、母さん、皆、行ってくるからね。」
「頑張って来るんだよ! 途中で投げ出して帰ってきたら承知なしないからね!」
エキドナが一行を励ます。厳しいたびになる。娘達と会えるのも最後かもしれない。そう思うと居ても立ってもいられず、気付かないうちに娘達を抱きしめていた。
「おい、じゃあ出航するぞ!」
一行が船に乗り込み、ギースが船の帆を揚げる。帆は海風をしっかり受け、どんどん船は岸から離れていく。母さんが手を振っている。双子は母の姿が見えなくなるまでずっと手を振り返していた。
「・・・母さん達、見えなくなっちゃったね・・・。」
「うん・・・。」
「どうした、もうホームシックか? 先が思いやられるな。」
ナーティの言葉にセレナがムキになって反論する。
「そ、そんなことないぞ! へん、勉強勉強とうるさい母さんから離れられてせいぜいだよ。」
「ふっ・・・。」
住み慣れた故郷を離れ、全くの未知、そして敵だらけの世界に突入していく。期待も大きいが、やはり不安も大きい。じっとしていられない。
「ナーティ! 剣の稽古しようぜ!」
そういってナーティを甲板まで引っ張っていく。甲板ではギースが鼻唄を歌いながら舵を握っていた。
「うーん、やっぱり海はいいぜ。」
「貴方も変わった人だ。こんな時勢で渡航すればベルンに殺されるかもしれないのに。」
「へ、海の男が山でくすぶってちゃ、男が廃るってもんだぜ。・・・それにな。」
「ん?」
「俺はあいつの親父に借りがある。あいつを助けてベルンに一矢報いることが出来りゃ、その借りもチャラってワケよ。」
「そうか。・・・感謝する。」
「おーい! ナーティ何やってるんだよ! 早く稽古しようぜ!」
向こうからセレナの声が聞こえる。二人ともそちらを見る。
「おやおや、おてんば姫様がお呼びだぜ。早く行ってやんな。」
「そうだな。」
「なぁ。」
「ん?」
「俺の分も・・・頼んだぜ。アレンにもそう伝えておいてくれ」
「承知した。」
そう言うとナーティは騒ぐセレナのほうに向かって言った。
暫く二人で稽古していた。前に比べると別人のようにセレナの剣捌きは上達している。成長が目で見て分かる。教える側のナーティにとってもこれなら教え甲斐がある。
「それにしてもこの前のサンダースとの戦いはどうだったよ? 一瞬の隙を突いて懐に入って、後は無駄な動きなく華麗にズバッと・・・。うーん我ながら素晴らしい!」
「まぁお前にしては上出来だったな。だが・・・」
「そうだろ?そうだろ? ふ、あんたを追い越す日もそう遠くないな。あの戦いは100点満点だったよ。」
「だが、私から見れば0点だな。」
「えー!? なんでさ。」
「相手はアルマーズしか持っていなかった。要するに近接攻撃しか出来なかったわけだ。お前には魔法があったのに突っ込むことしか考えていなかった。状況を正確に判断する冷静さに欠けていたわけだ。
結果だけ見れば勝ったからよいが、あの戦い方ではこの先通用しないぞ。」
「ちぇー。学問所だけじゃなくて武術も0点かよ・・・。なんか虚しい・・・。」
「お前は学問所でいつも赤点なのか?」
「あったり前じゃん! こればっか!」
そういうとセレナは手で輪を作って見せた。それを見て呆れるナーティ。
「・・・ふぅ。そんなことを自慢げに言われてもな。勉強をしないと後々苦労するぞ。」
「あー! 親父とかと同じ事言ったな! あたしは一流の剣士になるんだから良いの!」
「やれやれ・・・。」
稽古を続ける元気な二人を見て、アリスが微笑みながら降板の後ろのほうに向かった。そこにはシーナとクラウドがいた。


100: 手強い名無しさん:05/10/14 17:07 ID:E1USl4sQ
「どうしたの? そんなところで。」
「あー、お姉ちゃん大変。クラウドが!」
シーナの焦りようにアリスがびっくりして駆け寄る。そこにはうずくまるクラウドがいた。まさかベルンに見つかり攻撃でも受けたのか。ぐったりして、うなり声を上げるが動かない。その場が一気に緊張に包まれる。ありが空に何もいないこと確認する。・・・海鳥以外にこれと言って何も見当たらない。
「大丈夫!? クラウド!」
「うぅ・・・死にそうだ・・・。」
やはり怪我をしているようだ。しかも表情からするとかなり重症だ。何が起こったのか詮索している余裕はない。何処を負傷したか見る為にうずくまっているクラウドを横にする。
「うぅ・・・姉さん、動かさないでくれぇ・・・。」
「何処怪我したの。教えて、直ぐ直すから。」
そうアリスが言った途端、シーナが顔をしかめた。
「お姉ちゃん・・・?何言ってるの?」
「だって、怪我したんでしょ? 早くライブをかけてあげないと。」
「うぅ・・・気持ち悪い・・・おえ・・。」
「わぁ! 兄ちゃん海にやってよ!海に!」
クラウドは怪我をしていたわけではなく、船酔いしていたのであった。それを見て気が抜けるアリス。
「うぅ・・・何でこんな揺れるんだよぉ・・・。くそ、このおんぼろ海賊船め・・・。」
「あぁん!? 何が海賊船だ! 海に突き落としたろうか?!」
「うへぇ・・・それはカンベン・・・。あの二人、よく酔いもせず稽古なんてやってられるよなぁ。」
「お姉ちゃん達が異常なんだよ・・・。それにしても、海賊船じゃなかったんだね。帆にドクロマークがないし、大砲もないからおかしいなぁとは思ってたけど。」
「シーナちゃん、あんたまで・・・。何で俺はそう海賊に間違えられるんだ! ちくしょう・・・おろおろ。」
男泣きするギースを見ながら、アリスは下に下りて言った。そこにはアレンがいた。アレンは大陸側の海をじっと見て動かなかった。
「アレンさん・・・?」
「あ、これはアリス様。なにぶん狭い船内ですが、少しの間の辛抱ですので何卒・・・。」
「狭くて悪かったな!」
どこかからギースの怒鳴る声がしたが、アリスは気にせず返した。
「そのようなこと。それよりどうしたのです?」
「いえ、何十年被りに大陸に戻りますので、感傷にふけってしまっていました。」
「アレンさんが私達を守り育ててくれたのですものね。今更ながらですけど感謝しています。」
「とんでもございません! 私は騎士として、主の言いつけを守っているだけ。そのようなお言葉は身に余るものです。しかし、やっとこれでロイ様の無念を晴らせそうです。」
「そうですね・・・。早く大陸に戻って、苦しんでいる人たちを救ってあげましょう。まだまだ未熟な私達ですけど、どうか色々ご教授くださいね。」
「は、私の出来ることならば何でもいたしましょう。」
アレンにとっては十何年ぶりかの大陸だ。必ず主の無念を晴らし、祖国の土を生きて踏む。そして、必ずフェレを復興してみせる。それが生き残った自分の使命。そう自分に言い聞かせながら、アレンは海をじっと見つめていた。
アリスも話をやめ、海を眺める。自分の故郷とは言え、一度も土を踏んだこともなければ見た事もないイリア。程度じゃ分からないが、きっと民は苦しめられているに違いない。イリア王家の末裔である自分には、それを救う義務がある。もう迷っていることは出来ない。動き出した運命の歯車が、着実に一行を未来に誘っていく。その動きに流されていくのか、自らの意思で動かし、そして運命を変えていくのか、今はそれが問題である。イリアやリキア・・・いや世界中を変える為には、自分達が動くしかない。

「ところで傭兵さんよ、下ろすところはナバタ砂丘で良いんだな?」
「ああ。ナバタの里の神将器の一つが収められているはず。ナバタの巫女に話をすればきっと貸してもらえるはずだ。」
「あいよ! 面舵10度ヨーソロー。」
小さな船が夕焼けに燃える大海原を風任せに進んでいく。それはまさに、これからの一行の姿と重なるものであった。主流と運命に流されまいと、必死にもがき、正しい道を模索するその姿と。


101: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/10/30 19:41 ID:E1USl4sQ
お久しぶりです。
もう11月なんですね。執筆しはじめて7ヶ月・・・。時の流れが速いこと速いこと( ´∀`)
そして最終更新から早2週間以上と。モチベーションがががあq2うぇxrctyふじこ;。「@
この頃音楽サイトのオリジナル曲を聴きながら書くことがマイブーム(?)になりつつあります。
そこで、次を書く時は時々(特にボスクラスとの戦闘とかね、「あくまで」FEだし)執筆した時に用いた曲をメル欄に書いてみることにします。
それを聞きながら読めば臨場感もアップ・・・・するかな(-_−;)
この頃は会話以外の背景描写などに力を入れてみようとも思っているけど、それがなかなか難しい・・・。

102: 第九章:未知の地エレブ:05/10/30 21:46 ID:9sML7BIs
「メッセヨ、メッセヨ。」
「嫌だ! 放してよ!」
「ワレニ アダナスモノ、スベテ ソノ チカラヲ モッテ、メッセヨ。」
「嫌だ!私の体から出て行け!」
自分の意思に反して体が動く。剣を持つ手が震え、眼前に見える人達に足が勝手に向かっていく。
そして、やはり自分の意志とは正反対に手が勝手に剣を振り、今まで笑っていた人を斬り殺す。
「やめて!」
その言葉は口から発せられない。口から発せられるものは魔法の詠唱のみ。
「だめ! そんなことしたらみんなが・・・!」
「ワレニ アダナスモノ、スベテ ソノ チカラヲ モッテ、メッセヨ。」
自分が発した魔法が、真っ赤な火の玉になって人々に降り注ぐ。それらは大きな爆発を伴い、人々を塵に変える。
体が向きを変え、今度は自分の家族や知り合いに向かって同じように魔法を詠唱しだす。
「ワレニ アダナスモノ、スベテ ソノ チカラヲ モッテ、メッセヨ。」
「ダメー!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・セレナははっと目が覚めた。またあの夢だ。気付くと汗をびっしょりとかいている。これじゃ寝られない。・・・いや、またあんな夢を見ると思うと寝られない。でも、起きているとなぜか夢を実現しそうで怖い。寝ることも、起きている事も怖かった。
「・・・一体何なんだ。」
涼む為に部屋を出て甲板へ出た。外は星空がきれいで海風が心地よい。セレナは甲板の縁に立ち、涼みながら先ほどの夢を思い出していた。罪も無い人々を無差別に殺していく・・・。今思い出しても寒気がする。しかもそれを実行しているのが自分・・・。心当たりがあるから尚更怖い。
「母さん・・・。母さんも、こんな怖い夢に怯えながら、戦っていたのか・・・? こんな力、私に受け継いで本当に良かったのか・・・? なぁ・・・母さん。」
星空を見ながら、見たこともない母に尋ねていた。悩みなんてなさそうだとよく言われるが、そんなことはない。夢と、それを現実にしてしまいそうな力。それに悩まされていた。
「・・・お前は、その力をどう思っているのだ?」
突然の声にセレナは後ろを振り向いた。そこにはナーティが腕組みをして立っていた。長い銀髪が海風になびき、鋭い目つきと相まって近寄りがたい印象を与えている。
「どうって・・・。 あたしは、こんな力要らないよ。 こんな、破滅に導くような力。」
セレナの言葉を聞き、ナーティは鋭い目つきを更に細め、更に問うた。
「本当にそう思っているのか? その力が無ければ、お前がサンダースに勝つことは出来なかった。」
「そんなのわかってるよ! でも・・・あたしは、皆と同じように生まれたかった。それなのに・・・どうしてあたしだけ・・・。」
「容姿が違う事を気にしているのか?」
「それもそうだけど、それだけじゃない。他の人には無い強力な力とかさ。」
「容姿はお前が神竜だからだ。気にする事ではない。寧ろそのことでお前を咎める者がいるならば、その者こそ、咎められるべき存在だ。」
「咎められた事なんてないけど・・・やっぱ気になるよ。」
「自分に非がないと思うなら、堂々としていれば良い。容姿や生まれ、種族や身分。そういった自分の力ではどうにもならない事で非難する。・・・これは人の醜い部分だ。こういった者がいるから、差別は起こり、悲劇は繰り返される。」
「ナーティ・・・。」
「お前が旅に出たのは何の為だった? そういった悲劇の連鎖を断ち切る為ではなかったのか? 
「そうだよ・・・。あたしは、世界を救うために旅に出たんだ。」
「そのためには力が必要だ。お前が母親から受け継いだその力は、お前の為にあるのではない。力を持たない全ての者の為にあるのだ。それはお前が必要とする、しないという意思は関係ない。必要だからその力は備わっているのだ。力は自分の為ではなく、人々の為に使え。」
「でも、あたしは怖いんだ。いつ、力の暴走と止められなくて、夢が現実になるか・・・。」
セレナはナーティに、この頃見るあの悪夢の内容を話した。あのおぞましい、破壊の悪夢を。
「母さんも、こんな夢を見ながら、世界中を回ったのかな。」
「さぁな・・・。しかしそれは、きっと力を制御できない不安から来るものだろう。サンダースと戦っていた時も、力が暴走しかけていたな?」
「うん。体の中から、いつも以上に力が湧いて来て、頭の中がサンダースを、目の前の敵を斬り殺す事しか考えられなくなっていった。で、気付いたらサンダースは倒れてた。」


103: 手強い名無しさん:05/10/30 21:46 ID:9sML7BIs
「力を正しく使うも、悪に使うもお前次第だ。お前はもっと経験をつんで、その力を、自分の意思でコントロールできるようにならなければならない。」
「うん。」
「だから、悩むな。悩む暇があったら行動しろ。悩んでも何も変わらん。動いて反省する事はあっても・・・悩んで後悔する事だけは・・・するな。」
「あぁ、わかったよ。また、あんたに悩み事を聞いてもらったや。シーナとかにもめったに悩みなんていわないのに、どうしてあんたにはこう簡単に喋っちゃうかなぁ・・・。」
話しているうちに、船は漆黒の夜を抜け、暁の空に向かっていた。遠くには何か大きなものが見える。
「あーあ、結局寝られなかったや。ん・・・あれはなんだろ。」
「あれが・・・本土だ。昼ごろには上陸できるだろう。お前達の旅も、いよいよ本番というわけだ。」
「あれが噂に聞いたエレブ大陸! どんなところだろうなぁ! 早く見てぇ!」
先ほどまでの沈んだ顔はあっと今に消え去り、元の好奇心旺盛な少女の顔に戻っていた。今まで噂でしか聞いたことのなかった本土。その本土を、父さんや母さんが回ったように、自分達も回ることになる。
一体どんなところだろう。そう考えると、不安なんて消し飛んだ。
「ふっ・・・切り替えの早いヤツだ。さて・・・巫女をどう説得するかな・・・。」

皆が起きてきた。クラウドは寝癖でボサボサになった頭を掻きながら歯を磨いている。
「ふぁ〜あ、くそぅ・・・酔って昨日も寝られなかったぜ・・・。でも、このオンボロ海賊船とも今日でオサラバできるんだな。久しぶりに熟睡できそうだぜ・・・。」
そう言った途端、背後からギースが現れ、鼻唄を歌うクラウドの首を腕で締め上げる。
「てめぇ。狭いだのオンボロだの、ぐだぐだ文句ばかり言いやがって! やっぱりここで突き落としてやる!」
「ひゃめて・・・ゆるひて・・・もふいいましぇん・・・ぐえぇぇ・・。」
「クラウド、ギース殿に失礼だぞ。船を出して頂けただけでも感謝しなければ。それに、大陸ではもっと寝られなくなるぞ。」
「げほげほ・・・。えー! どういうことだよ、親父!」
「大陸はベルンが統治している。つまり回りは敵だらけということだ。我々はセレナ達を守らなければならない。だから、夜通しの番が必要だ。当然、番はお前にも手伝ってもらうからな。」
「とほほ・・・。海賊にはのされるし、俺の大切な睡眠時間も奪われるし、俺かわいそう。」
「あぁん? 誰が海賊だ! やっぱりてめぇはこうしてやる!」
「ぐ、ぐぇぇ・・・。」

「本土かぁ、一体どんな敵が待ち受けているんだろう。私達で敵うのかな。」
シーナが髪を結いながら言った。未熟な自分達が、強国相手に単身乗り込んでいく。どんな状況も自分達だけで解決しなければならない。それが果たして出来るのだろうか。
「今の大陸は、ハーフが牛耳っている。我々人間は、傭兵としてでなければまともに旅も出来ない。だから、シーナ。お前の出番は増えるだろう。」
ナーティが同じように濡れた髪を束ねながら寄ってくる。・・・いつの間に風呂に入ったのだろうか。
「どうして?」
「行けば分かる・・・。奴らは同族意識が強い。混血のお前なら、街中でも怪しまれる事はないだろう。」
「そっか。私頑張るよ。ということは、私達って傭兵団として各地を回るって事だね。」
「そう言う事だ。シーナをリーダーということにして、お前達は騎士見習いということにでもしておけば、よほどの事がない限り大丈夫だろう。」
「シーナが団長!? ・・・。」
セレナが横目でシーナを見る。自分やクラウドが見習いで、しかも親父を差し置いて妹が団長なんて・・・。
「な、何よ、姉ちゃん。建前は、でしょ?建前。」
「まったく・・・。自分がリーダーをやりたいというような顔だな。実際のリーダーはお前達だということを忘れるなよ。」
「わ、わかってるよ! あたしだってそこまで子供じゃないもんね!」
「やれやれ、どうだか。」
ナーティにからかわれてセレナが膨れ面をしている。アレンがそれをじっと見ていた。
「親父、どうしたんだよ。」
やっとギースから開放されたクラウドが父親の顔を見て不思議がる。
「ん・・・。いや。セレナ様のあの顔を見ていると、やはりシャニー様にそっくりだな、と。容姿も、性格も・・・。目元はロイ様似か・・・?」
「親父・・・。まだ後悔しているのか?」


104: 手強い名無しさん:05/10/30 21:46 ID:9sML7BIs
「・・・いや。俺は決心したのだ。この戦いで必ず勝利を収め、生きて祖国に帰る。そして姫様方とフェレを復興すると。それが、生き残った俺の果たすべき義務だ。もう後戻りは出来ない。クラウド、お前にも辛い思いをさせるかもしれないが、これがお前の父の生き様だ。・・・容赦してくれ。」
「辛いだなんて!・・・そりゃ、大好きな寝る事が出来なくなったり、色々あるけど・・・。俺は親父のその生き様に憧れて、騎士になることを望んだんだ。その選択に後悔はしてないぜ。」
アレンは息子に、かつての自分の姿を重ね合わせていた。そして、クリスを思い出す・・・。
「・・・そうか。よし、見っとも無い姿を見せていては天国の母さんにも申し訳が立たないだろう。上陸まで槍の稽古だ。さ、早く用意しろ。」
アレンはそういうと走っていってしまった。それを後ろから追うクラウド。
「親父・・・こんな船の上で稽古なんてやったらまた酔っちまうよ・・・。うっ、考えただけで吐き気が・・・。ちくしょう! 今度船に乗るときは豪華な客船がいいぜ・・・。」

船内で服を畳み、上陸の用意をするアリスの元に、シーナが寄ってきた。
「お姉ちゃん、私も手伝うよ。」
「あら、ありがとう。それにしても本土かぁ・・・何年ぶりかしら。」
「そっか。お姉ちゃんはイリアで暮らしていたんだもんね。早く帰りたい?」
「ええ・・・。」
アリスは服を畳む手を止め、何か思いふけるように下を向きながら相槌を打った。
その目は、何か思いつめたような何時もの優しい顔ではなかった。
「どうしたの?」
「うん・・・? いえ、なんでもないわ。もちろん早く帰りたいわね。 苦しんでいる民を救って、私の母や叔母、そしてたくさんの者達が守ろうとした祖国を一刻も早く取り返したい。そして、誰もが差別される事のない住みよい国を再建したい。それが・・・皆の願いだから。」
しかし、アリスの考えている事はそれだけではなかった。シーナには言わなかったがアリスは今でも覚えていた。自分を母様達の生家から叔母が連れ出す際、叔母は涙に濡れていた事を。それが何故か今でも分からなかった。イリアに行けば、それが分かるかもしれない。そう考えていた。
「うんうん。私のお母さんの故郷でもあるんだよね、イリアって。早く行ってみたい。」
「そのためにも、まずエトルリアを何とかしないとね。回りは敵だらけ。気を引き締めていきましょう。」
そんな会話をしていると、セレナが部屋に飛び込んできた。
「ねぇ! そろそろ上陸できるから用意しろってさ・・・ってもう準備してるのか。流石だね。」
「いつまでものんびり昼寝してるのは姉ちゃんだけだよ。はやく顔洗って準備しなよ。涎のあとがついてるぞ。」
「うわ、いけね・・・。気持ちいいとついつい。」
セレナが口元を拭きながら準備を始める。父から貰った家紋入りのマントはしっかり畳んであるが、それ以外はシワだらけだ。
「セレナ、しっかり畳んでおかなければダメよ。・・・よし、私が準備しておいてあげるから、あなた達は甲板に出て大陸を見てくると良いわ。」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
二人とも跳ねる様に出て行った。元気一杯だ。
「ふふ、あの子達は元気ね。・・・母様、父様、それに叔母様。私は必ず祖国に帰ります。そして、皆が目指した真のイリアを創っていきます。だから、私やあの子達を見守っていてください。」
アリスは親子で映った映し絵の入ったペンダントを握りしめながら、天空のかなたにいる自分を大切にしてくれた人々に向かって祈りを捧げた。
甲板に出た双子は目の前に広がる陸を眺めていた。そこはエレブ大陸でもナバタ砂丘と呼ばれる、ナバタ砂漠に続く海岸線だった。
「いよいよだね、姉ちゃん。」
「あぁ、あたし達も、父さんや母さんのように世界を救っていくんだ。これが、最初の一歩なんだ。」
セレナ達はこうして、大きな一歩を踏み出す事になった。ロイ達がベルンの変の後、クリス達に助けられてナバタの里に流れ着き、そして進軍を開始してから18年。今度はその子供達が、自分達と同じ志を胸に再びナバタ砂漠を訪れる。世界を、いや世界を超え、全ての種族が平和に暮らせる秩序を作る為に。


105: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/10/30 21:50 ID:9sML7BIs
ド━━━━━━(゚ロ゚;)━━━━━━ン

私としたことが、設定ミスを二つも犯していることに気が付きましたorz

アリスはキャラ紹介で魔道師となっていますが、プリーストでした。。
二つ目の訂正は、クレインとティトの子は女の子という風なっていたのですが、元の設定では男の子です。ごめんなさいm(_ _)m

106: 第十章:理想郷:05/10/31 15:08 ID:E1USl4sQ
一行を乗せた船が無事に海岸へ到着した。
「よし、着いたぜ。」
「ギース殿、感謝します。必ずこの恩をお返しすべく、我々は世界を救済に回ります。」
アレンがギースに頭を下げる。そして、しっかり握手を交わした。
「礼なんていいってことよ。俺にはこのぐらいしか出来ねぇからな。こっちも嬉しいぜ。」
「しかし、このあと貴殿はどう為されるつもりなのだ?」
「どうって。そりゃまた船で西方に戻るぜ。戻ってエキドナたちを助けないとな。・・・俺も今回の航海で決めた。例えベルンが禁止していようが、俺は商船として航海を続ける。そして、西方の貧しい連中に物資を届けてやるんだ。今まで俺は何をビビッてたんだろうな。正しいと思うなら、堂々としていればいいんだよな。・・・例え法に反しようとも。」
「くー、やっぱ船長はカッコイイな。」
「へ、セレナ。お前の親父への借りは返したぜ。今度はお前が親に恩を返す番だ。」
「わかってる。絶対に世界を救って見せる。だから船長は西方をよろしくね。」
「おう、じゃ、がんばれよ!」
ギースは一行を海岸に残し、再び船で旅立っていった。一行はその姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「行っちゃったね、ギースさん。」
「あぁ、あたしも船長みたいにカッコよくなるぞ。」
双子が改めて気合を入れなおし、歩みだす。
「例え法に反しようとも、正しいと思うなら堂々としていれば良い、か・・・。お前達もそう思っているかもしれないが、それには必要なものがある。何か分かるな?」
ナーティがそんな双子に警告する。何が大切で何を必要とするのか。それを明確にしなければ大義を掲げても骨抜きになってしまう。それではベルンだけではなく、周りのジョウシキを壊していかねばならない、いわゆる異端視される者にとっては目的が曖昧になりかねない。
「ああ。前、あんたに教えられた。あたしたちは、正しい事を主張する為にも、もっと力をつけて強くならなければいけないんだ。」
「うん。そしてその力は腕力だけじゃないんだよね。」
「そうだ。強い心も、大切な“力”だ。真実を見抜く心。どんな事にも動じない心。そして、万が一誤った判断を下した時にそれを認め、改めようとする心。そういった心の強さも、騎士として大切な“力”だ。・・・お前達はわかっているようだな。」
「当たり前だよ。もうあたしは決意したんだ。もう誰も、あたしの浅はかの考えで犠牲になる人を出さないって。犠牲を出さなくても勝てる方法はあるはず。・・・あたしはそれを頑張って考えるよ。」
「ふっ・・・。」
アレンはこの考えに、かつてのロイの言葉を思い出していた。犠牲を出しての勝利は勝利じゃない。だから、犠牲を出さなくて済む方法を考えるのだ、と。・・・やはり姫様方は、ロイ様の娘だ。
「ところで、姉ちゃん。姉ちゃんどこに行くつもりなの? エトルリアって北上しなきゃいけないんでしょ? なんで南下してるの?」
シーナがとうとう不思議がってずんずん前に進む姉に聞いた。エトルリアは、上陸地点からは北上した位置になるはず。なのに姉はどんどん南へ南へ歩いていたのである。
「え? あたしはあんたが歩き出したからそれにそっちが正しいのかと・・・。」
「えー!? 私も姉ちゃんについてきただけだよ??」
慌てる双子、周りは砂、砂、砂。何処を見ても青い空と黄金色の砂ばかり。一回迷えば復帰は難しい。
それでなくても二人はこの大陸に上陸してまだ1時間も経過していない、いわゆる「おのぼりさん」であるのに。
「お父さん、それにナーティさん! どうして教えてくれなかったのよ。」
「え、えっと。シーナ達が自信満々にずんずん進んでいるから予め進路を調べておいたのかと・・・。」
「・・・やれやれ。」
いきなり大ピンチの一行。とりあえず歩む事をやめて地図を確認しながら、進むべき進路を模索する。
「だーっ! 熱い! 熱すぎる! どうしてこんなに熱いんだよ! あぁ・・・焼きセレナになりそう!」
蒸し暑い事には西方育ちで慣れているセレナだが、砂漠の暑さは西方の暑さとは違うものだ。眩し過ぎる太陽の光が、カラカラに乾いた空を経て何の障害もなく大地に降り注ぎ、金色の砂がその光を跳ね返す。こんなところに立っていたら直ぐに体中の水という水が、跳ね返りの熱とともに空気中へ奪われそうだ。焼きセレナというより干しセレナである。
「砂漠なんだから仕方ないよ・・・。早く正しい道を探さないと・・・。」


107: 第十章:理想郷:05/10/31 15:09 ID:E1USl4sQ
「うへぇ、船酔いの次は脱水症状のピンチかよ。俺こんなところで干物になりたくないぞ。」
「あづいー・・・。」
「ウルサイ事言わないの! ・・・あぁ、怒鳴ったらまた熱くなったわ・・・。」
そんな一行とは別に、ナバタの里を目指す二人の大男がいた。
「ねぇ、僕達迷子になったのかな、ラミス。」
「そうかもしれないね、ベリル。」
二人の大男は肩を寄せ合いながら更に話を続ける。二人はナバタ砂漠に住む山賊。力は強いが頭は弱い。今までもナバタ砂漠を渡る旅人を襲っては生計を立ててきた。そして、二人はこの前襲った行商人の持っていた古びた宝の地図をあてに、ナバタの里を目指していた。
「でも、隠れ里にあるという、とっておきのお宝は何としても手に入れたいね。ラミス。」
「だけど、このまま迷子になってミイラになっちゃうのはゴメンだよね、ベリル。」
「でも、お宝は何としても手に入れたいよね。ラミス。」
「ところで、あそこのいる人たちは行商キャラバンかな。ベリル。」
「だけど、みんな武器を持ってるね。ラミス。」
「じゃあ、行商キャラバンじゃなくて傭兵団だね。ベリル。」
「相手のほうが人数は多いし、僕達二人だけじゃ危ないね。ラミス。」
「でもあの人たち、北を指差してるし、きっと隠れ里に行くんだよね。ベリル。」
「あの人たちもお宝を狙ってるんだね、ラミス。」
「先を越されたら、僕達お宝を手に入れられなくなるね。ベリル。」
「じゃあ、あの人たちやっつけちゃおうか、ラミス。」
「でも、相手のほうが人数多いし、強そうな人もいるよ。ベリル。」
「じゃあ、仲間を連れてこようか、ラミス。」
「でも、仲間を連れてきたら、僕達の分け前が少なくなるよね。ベリル。」
「じゃあ、お宝を諦めるかい?ラミス。」
「あの人たちの後ろをついていくというのはどうだろう、ベリル。」
「それは名案だ。ラミス。」
ベリルと呼ばれている大男が、もう片方の男へ更に肩を寄せて言った。
「それで彼らが隠れ里に着いたら、僕達が宝物庫に先回りして、中身をいただいちゃえば良いんだよね。」
「そうさ、行こう。」
二人はセレナ達一行を岩陰に隠れながら尾行していくことに決めた。

「セレナ、地図をしっかり見ながら進むんだ。これ以上迷っていると、水が底をつく。」
アレンがセレナに警告する。遠足気分で好きに歩かれては命を落とす。
「わかってるよ。」
時刻は14時を回り、太陽の光は最高潮にギラギラと輝いている。汗をかいてもすぐに蒸発していってしまう。太陽光と、地面からの跳ね返りの光のダブルパンチで意識がもうろうとしてくる。
だんだんセレナ達も無口になってくる。こう熱くては、口も開くこともできない。
暫く進むと、それに加えて砂嵐まで巻き上がり始めた。
「うわ、目に砂が・・・! うへぇ口の中もじゃりじゃり・・・。」
「口を覆っておけ。・・・そろそろナバタの里が近くなってきた証拠だ。」
ナーティが布で口を押さえながら話す。ナバタの里は、かつて人竜戦役の時人と竜が手を携えて創ったいわば理想郷である。里人は、外部からの侵入を拒む為にナーガ神がこの砂嵐を引き起こしているのだと信じていた。実際、この砂嵐は季節関係なく吹き荒れ、外部の目から差と完全に隔離していた。
前の第一次ベルン動乱でその存在が明らかになって以降は、興味本位で訪れる冒険家が増えたが、それでもやはりこの砂嵐の前に立ち往生をせざるを得なかった。砂嵐の前に現れる幻影に惑わされ、いつの間にか砂漠をぐるぐる回ってしまうのだ。
「ここからは俺が先頭を行こう。」
アレンが先頭に出る。かつてロイと共にナバタの里に来た事があった。うろ覚えではあるが、里への正しい道は知っていた。しばらくすると、木々が見え、その向こうに巨大な建造物が見えてきた。
「ねぇ! あれは何?」
「あれが、ナバタの里だろう。」
里に近づくに連れ自然と砂嵐は収まり、視界がくっきりしてくる。そこには、オアシスや民家が並んでいた。・・・大陸最後の理想郷、ナバタの里である。
一行と二人(?)はその厳かな創りの里に入っていった。



108: 手強い名無しさん:05/11/01 13:02 ID:E1USl4sQ
里に入ったセレナ達は驚いた。こんな砂漠の中に、こんな集落があるとは。いや、それだけではない。
外は砂嵐が吹きすさぶ過酷な環境であったにもかかわらず、中は豊富な水をたたえる美しい光景が広がっていたのである。清浄で、静寂そして神秘的・・・まさに理想郷と呼ばれるに相応しい光景だ。
「す、すげー・・・。」
何時もは騒がしいセレナも、只々見入る事しかできない。しかし、このナバタの里が理想郷といわれる真の理由は、見た目の美しさだけではない。セレナ達はそれを知る事になる。
「・・・さてアレン殿、我々が長老と巫女に会って来よう。 セレナ、お前達は里の様子を見てくるが良い。この里が理想郷と言われる所以を知ることができるだろう。」
アレンとナーティは里の奥へと入っていた。ナバタの里は、外部からの来客をあまり良しとしない。それは、ここが種族を超えた共存の為の最後の砦であったからだった。
「よし、じゃ、見に行こうか。」
セレナ達が集落のほうへ歩いていく。そこにはさまざまな種族のものが住んでいる。人間、竜族、そして・・・ハーフ。しかし、彼らは大陸の他の地域と違い、いがみ合う事も、蔑むこともしていない。それは、彼らは皆キョウダイだからだ。大切な仲間だからであった。
「おや、またお客さんか。20年来誰も来なかったのに。騒がしいもんだな。」
村人の一人がセレナ達を見つけて物珍しそうに話しかける。どうやら自分達の前にも誰か来ていたらしい。
「こんにちは。突然の来訪をお許しください。それにしてもここは・・・皆がすごく仲が良いのですね。」
アリスが挨拶がてら村人に言う。ひどい差別が他の地域では繰り返されているのに。そこには笑顔が溢れ、ゆったりと時が流れていた。
「ああ。ここの人らは皆キョウダイだからな。人間も、竜族も、ハーフもみんな仲間だ。・・・むしろあんた達大陸の民のように、なんで種族が違うというだけでいがみ合うのかが俺には分からないね。」
そこに他の者も加わってきた。そのエーギルの波動は間違いなくハーフのものだ。
「そうだぜ。第一、ハーフっていうのは人間の血も竜族の血も混ざってる。自分と同じ血が半分は流れているのに、どうして差別なんか出来るのかねぇ。俺も同族だと思うと心が痛いよ。」
「あたしもそう思う。みんな大切な存在のはずなのに、どうして優劣が決められなきゃいけないんだ。こう思ってる。だから、世界を変えようと旅に出たんだ。あたしの父さんや母さんもそのために戦って命を落とした。あたし達はその意思を告ぐ。」
その言葉を聴き、村人達がセレナ達の顔をまじまじと覗く。そして言った。
「もしかして、あんたはロイ様の・・・?」
「そうだけど。」
「おお、英雄の再来か・・・? ロイ様には我々の巫女を救っていただいた。今までよそ者扱いしてすまなかった。しっかりおもてなししなければな。」
ロイの子孫と聞いて、村人達はセレナ達を歓迎する。こんな秘境にも、父さんの名は通っている。今更ながらに父さんは偉大な人だと、セレナ達は思った。
「ありがとう! じゃあ、村を一緒に回ってよ。」
セレナ達は村人と一緒に村の様子を見て回る。キレイな水を満々とたたえ、人々からは笑顔と笑い声が溢れていた。そして、そんな幸せな時間がゆったりと、ゆったりと流れる。まるで、他の地域に取り残されたように、そこは他の地域とは全く違う雰囲気を醸し出していた。
「元々この大陸も、ここのような場所で満たされていたんじゃ。皆が手と手を取り合って、嬉しい事も、悲しい事も分かち合う。それが・・・たった200.300年で変わってしまった。種族間でいがみ合い、欲に溺れた者同士による醜い争いが絶えない大陸に・・・。悲しい事じゃ。」
もう何歳になるのだろうか。ヨボヨボで足元も危うい。そんな老人がアレンに支えられながらセレナ達に近寄ってきた。
「じいさん・・・たった200年って・・・。」
「200年なんぞわしらにとっちゃたいしたことはないじゃろ。お姉ちゃんも竜族ならそのぐらいわかるだろうに。」
「あたしは竜石なんか持ってないもん。」
「なんと。・・・まぁ外であまりに長い時間を生きても辛いだけじゃ。時を共有できるものもおらんしの。」
「セレナ、失礼だぞ。このお方はこのナバタの里の長老様なんだ。この里の創設当時から生きていらっしゃる。」
「そうなんだ。ごめんなさい。じゃあ、お願いがあるの。ここに眠っているはずの神将器、それをあたし達に貸して頂きたいの。」


109: 手強い名無しさん:05/11/01 13:02 ID:E1USl4sQ
「フォルブレイズか・・・。あれはアトス様が平和の為に用いた。そなた達は何の為に神将器を?・・・人には過ぎた力。一歩誤れば平和どころか世界を暗転させる力を、そなた達は何に使うつもりなのじゃ?」
セレナ達は自分達の意思を長老に伝える。その理想をも超えた考えを。
「あたしたちは、この大陸を覆っている闇を吹き飛ばす。いや、大陸を超えて真の平和を目指す。種族間の差別とか、ベルンの暴挙。そういったものを止める。」
「私も同じ。・・・私はここを見て確信しました。真の平和って言うのは、一種族の為のものだけじゃない。みんなが笑って生きていける。そんな世界を私達は目指したい。そう思っています。」
双子の瞳をじっと見つめる。このまっすぐ物事を見つめる眼差しは・・・かつてのロイ・・・いやハルトムートそっくりだ。
「そうじゃな。じゃが、そなた達の考えは理想に過ぎん。それを理想止まりでなく、実現する為にはさまざまな壁が存在する事じゃろう。それに絶望したりするこもあるじゃろうて。」
「間違っていると思ったら、例え法に反していても貫く。・・・あたしはそう教えられたんだ。」
「それでも、お前さんがたでは心もとないのぉ。まだまだ弱々しいし。」
「私達は確かにまだ弱いかもしれません。でも、これから各地を回り、色々情報を集めながら、私達はがんばっていくつもりです。もう、これ以上大切な人たちを失いたくないから。もう、これ以上無意味な死を迎える人を増やしたくないから・・・。」
セレナやシーナに、アリスも続けた。
「例え私達一人ひとりの力は小さくても、集まればとても大きな力になります。かつてお母様から言われました。人々を照らす光というものは、たくさん集まってこそ。人もそれは同じ。一人では出来なくても、たくさん集まって協力すれば、できないことはない、と。私達には仲間がいます。まだまだ少ないですが、信頼できる仲間です。世界を回り、私達の考えを解いていけば、きっと共鳴してくれる人はいるはずです。」
長老は目を瞑り、じっとみなの声を聞いていた。身動き一つせず、息をしているかも分からないほどに。
「じいちゃん・・・? 寝てるの?」
「そうか。ではそなた達にフォルブレイズを貸し与えよう。フォルブレイズは水の神殿に・・・。」
そこまで長老が言った時、紫苑のような美しい紫の挑発を揺らし、巫女が走りよってきた。そばにはナーティもいる。
「どうした、ソフィーヤ。お前が走るとは珍しいの。」
「長老様・・・水の神殿に・・・賊が・・・。」
「な、なんだって!? セレナ、急ごう。フォルブレイズが危ない!」
クラウドがセレナより先に声をあげ、走っていった。セレナもそれを追う。
「アレン、ナーティ! 何をやってるんだよ! 急がないと!」
「あぁ、よし、ナーティ殿、急ごうか。あの仕掛けがある限る賊が取り出せるはずないが。」
「そうだな。ソフィーヤ殿、我々が賊を退ける。それまで貴女はここで待っていてくれ。」
「わかり・・・ました・・・。」
アレンに続き、ナーティが走り去ろうとしたところに、ソフィーヤがいつも以上に小さい声で言った。
「・・・さん、・・・ィさん。」
「ん?」
ナーティが立ち止まり、ソフィーヤが彼女に寄って話す。
「私は・・・何が正しくて・・・何が間違っているか・・・よくは・・・わかりません。でも・・・あなたのしていることは・・・正しいとは・・・思えません・・・。」
「・・・。」
ナーティは無言まま目をつぶった。そして首を横に振り、走り去っていった。
「ソフィーヤ、人見知りの激しいお前さんがあんな傭兵にお前から話しかけるとは珍しいの。知り合いか何かの?」
「いえ・・・そんなことは・・・ないです。」
「ふむ・・・。それにしてもあの傭兵、どこかで見た事があるような、ないような・・・。」
「いえ・・・多分・・・気のせいだと・・・思います。私も・・・初めて・・・会った人ですし・・・。」
「ふーむ。この頃ワシも物忘れが激しいからのぉ。そろそろ歳かもしれないわい。死ぬまでに・・・あの娘らが世界を変えてくれると良いが。死ぬ前に、世界中から笑顔が溢れる世界を見てみたいものよ。」
「・・・。」
長老とソフィーヤは走り去っていく一行を見送った。


110: 第十一章:大賢者アトスと「業火の理」:05/11/01 22:01 ID:9sML7BIs
その頃水の神殿では、先ほどの賊二名が、必死にフォルブレイズの入った祭壇の扉をこじ開けようとしていた。
「おかしいね、ラミス。開かないよ。」
「呪文でも言うのかな、ベリル。」
「でも、そんなの知らないよね、ラミス。」
「うん。知らないよ。ベリル。」
「やっぱり、ぶっ壊すしかないのかな。ラミス。」
「手荒な事は嫌いだけど、仕方ないよね、ベリル。」
そう言いながら二人は、手にした巨大な戦斧を扉めがけて渾身の力で振り下ろす。しかし、扉は何か不思議な力に守られてビクともしない。
「お宝が僕達を嫌ってるのかな、ラミス。」
「僕達は閉じ込められてるお宝を助けてあげようと思ってるのに、酷いよね、ベリル。」
「善良な僕達の心を踏み躙るなんて、酷すぎるよね、ラミス。」
そんな会話をしていると、向こうから数名の駆ける足音が聞こえてきた。どうやら自分達が付いてきた傭兵団がこちらに向かっているようだった。焦る二人。
「ねぇねぇ、さっきの人たちがお宝を奪いに来たよ。ベリル。」
「あんな盗賊たちに奪われたら、お宝もかわいそうだよね、ラミス。」
「でも、このままじゃ僕達も危ないよね、ベリル。」
「じゃあ、このままお宝を諦めるかい、ラミス。」
「突然床がなくなったりしてずぶ濡れになったりしたんだ。そんな苦労をした僕達を、お宝が見捨てるわけないよ。戦おう、ベリル。」
「そうだね、正義の味方がやられるわけないもんね。ラミス。」

「おい、あまり急ぐな! ここには特別な仕掛けがあって一定期間ごとに床が・・・。」
アレンが叫んだ時にはもう遅かった。先を突っ走っていたクラウドとセレナの足元の床が突然、まるで水に溶けるかのように消えてしまう。
「うわっ?!」
その直後大きな水しぶきが上がり、クラウドが水面に浮かんできた。
「うへぇ・・・なんでこうなるんだよぉ・・・。」
セレナが空中から水面に降りてくる。セレナは落ちる間一髪に背中の翼を使って飛び上がったので水に落ちなかった。
「兄貴、大丈夫? 何で飛ばなかったのさ。」
「バカヤロウ! こんな鎧してて飛べるか! なぁ、岸まで連れてってくれよ。鎧が邪魔で泳げない。」
セレナが仕方なく兄を岸まで連れて行く。やっとの事で岸に上がったクラウドはすっかり水に濡れて服も鎧も重そうだ。
「まったく、何も考えずに突っ走るからだ。」
「親父に言われたくねぇよ・・・。」
「何か言ったか!? ・・・とにかく、ここはこういう仕掛けがあるから気をつけて進め。」
沈む床に翻弄されながらも、一行はようやく祭壇のある中央部までたどり着く。そこには大柄の男が二人、ハンマー片手に未だに扉をこじ開けようと奮闘していた。
「やっと着いたか・・・。」
「クラウド、一体何回落ちたら気がすむのだ。」
「うるせー! 1回も5回も変わんないだろ!? 親父だって1回落ちたくせに・・・。」
「・・・。」
「親子喧嘩は後にしたらどうだ? それよりあの賊どもを何とかしなければ。」
そういってナーティが前に出る。セレナも双剣を抜いて賊に向かっていく。
「ベリル、盗賊たちが来ちゃったよ!」
「しかたないね、やっつけちゃおうか、ラミス。」
「うん、そうだね。正義は必ず勝つんだもんね。」
「何こいつら・・・。大男同士が肩を寄せ合って・・・気持ち悪い。」
セレナがそう言ってちょっと引く。だが、逆に賊二人組みから攻めてきた。二人は細かい事は考えず、セレナ達を斧で叩き割る事しか考えていない。しかし、その一撃は驚異的で床に穴を開けるほどだ。
武器の相性的にはこちらのほうが優位であるはずなのだが、二人の息のあったコンビネーションの前になかなか決定打を出せずにいる。
「ちくしょう、なんだこいつら・・・。」
「よし、ベリル。僕達の必殺技を見せてやろう。」
「わかったよ、ラミス。」


111: 手強い名無しさん:05/11/01 22:01 ID:9sML7BIs
そういうと二人は巨体をものともせず、高く飛び上がった。
「いくよ! ベリルとラミスのラブラブダイナマイト!」
二人が斧を振り回しながら急降下してくる。それは真っ直ぐセレナを襲う。身軽なセレナならこのぐらい容易にかわせる・・・。セレナも相手の軌道を見て避ける体勢に入る。しかし
「ベリル、右だよ。」
「わかったよ、ラミス。」
二人は息の合った連携を店、セレナの回避を許さない。直撃は免れたが、衝撃でセレナは吹き飛ばされる。
「うわっ」
吹き飛ばされたセレナは何とか空中で態勢を取り戻す。回避したはずが、腕から少し血が出ていた。
「ふむ、あの二人なかなかやるようだな。」
ナーティは何時ものように静観している。アレンは慌てた。
「ナーティ殿! 今回も見ているだけなのですか! 今回は相手も強い。しっかり働いてください。」
ナーティは聞いているのかいないのか、剣は抜いたがまたセレナのほうを見て話しかけた。
「セレナ、これで分かっただろう。お前のように単独行動ばかりしていては強い相手には勝てないと。これからは皆と力を合わせることだな。」
言い終わると、やっと前に出た。そして、剣を構える。
「セレナ、私に続け。シーナ、お前は空中から遊撃するんだ。」
セレナがナーティに続こうとした。しかし、早い! セレナが気付いた時には既にナーティは賊の懐にもぐりこんでいた。そして、一気に斬り上げる。更にもう一人の賊の攻撃をひらりと避け、数発剣撃をお見舞いしている。・・・強い。
セレナも負けじと賊に飛び掛る。そして、シーナが空中から手槍で遊撃し、賊の的を絞らせない。
「この人たち強いよ、ベリル。」
「うーん、よし、じゃあもう一回必殺技だ。」
賊二人組みがまた先ほどの必殺技を繰り出す為に空中へ飛び上がった。
「セレナ、お前達は下がっていろ。」
ナーティがセレナ達を後ろに下げ、賊の落下地点に入る。そして、手を振り上げた。
「ねぇ! あれ何やってるの? あんなところにいたら・・・!」
シーナが慌てた。あんなところにいたら、二人の斧の直撃を受けてしまう。そうなれば一撃で昇天だ。
しかし、次の瞬間、セレナはナーティの周りの水のエーギルがざわめいている事に気づいた。
「出でよ! 蒼冷なる白銀の使徒、フィンブル!」
ナーティから、いや、ナーティの周りの水から発せられた鋭利な氷の槍が凄まじいスピードで賊を襲う。
その威力に、賊二人を為す術もなくその巨体を吹き飛ばされた。
「やっぱりお宝に見放されたのかな・・・、ラミス。」
「そんな・・・。正義の味方がやられるなんて・・・あんまりだよ、ベリル。」
賊がそのまま動かなくなった。セレナはただ驚くばかりであった。
「よし、賊は片付いた。巫女を呼びに行くとするか。」
そういうとナーティは元来た道を歩き出す。それをシーナやクラウドが追いかける。
「すごい! 剣技も魔法も凄い強い! やっぱりナーティさんってカッコイイね。」
「・・・そんなことはない。」
「照れちゃってー。」
懐くシーナを先に行かせ、クラウドがまたナーティに疑惑の目を向ける。
「なぁ、ナーティさんよ。」
「何だ?」
「さっきあんた、魔道書無しに魔法撃ってたよな。熟練の賢者でも難しいことを、傭兵のあんたがそう軽々しくやってのけるなんて。・・・あんた、本当に人間か?」
「ふっ、お前は私を怪しんでいるのか? 怪しいなら監視していればよかろう。案外、ぽろっと尻尾を出すかもしれないぞ。」
「仲間を怪しみたくはねぇけど、あんたはその・・・凄腕過ぎるからよ。」
「・・・ここは八神将の一人が祭られている。エーギルもその分豊富だ。その為だ。」
「・・・。」
「それより早く鼻水を拭け。主を守る騎士がそれでは見っとも無いぞ。」
慌てて鼻水を拭くクラウド。それ見てナーティは笑いながらソフィーヤの元へ向かった。
「・・・ちっ、話し逸らすなっつーの。 ・・・それにしても、さっきの戦い、なんかあいつが将みたいだったな。傭兵がセレナ達を指揮するなんて・・・。セレナ、しっかりしろよまったく。突っ込んでるだけじゃダメだろ・・・。」


112: 手強い名無しさん:05/11/03 12:45 ID:E1USl4sQ
暫くして、シーナたちがソフィーヤを連れて戻ってきた。
「フォルブレイズかぁ・・・一体どんな魔道書なんだろうな! 早くみたい!」
セレナがわくわくしながら言う。
「別名『業火の理』。天まで昇るその灼熱は、竜のブレスをも焦がし、各地の火山を共鳴させたと言う。」
ナーティが続けた。伝説上の話ではあるが、それほどの力を秘めた魔道書であることを示している。
「そうです・・・。では・・・扉を・・・開けます。」
ソフィーヤが扉に手をかざし、ゆっくりと目を閉じる。すると、今まで賊たちが、その自慢の腕力をもってしてもびくともしなかった扉が、ゆっくり音を立てずに水にすべるかのように滑らかに開いていった。
セレナ達はその腕力ではない、不思議な力にただ見ているだけしか出来なかった。
「すげー・・・。なぁ、巫女さん、どうやって開けたの? ねぇねぇ!」
「姉ちゃん、巫女さん困ってるよ。やめてあげなよ。」
「・・・アトス様に・・・話しかけたのです・・・。神将器を・・・必要と・・・している・・・人が・・・いると・・・。」
「へ? アトス様って!・・・誰だっけ。」
お約束とも言えるセレナの言葉に、一同は愕然とする。これから世界を救おうという人間が八神将の名前すら知らないとは。
「姉ちゃん・・・学問所を1年生からやり直したら・・・?」
「アトス様は・・・人竜戦役で・・・人々を光に導いた・・・大賢者様です・・・。」
「人竜戦役なんて1000年以上前の話でしょ? どうしてそんな人と話せるのさ。」
セレナがシーナの耳を引っ張りながらソフィーヤに訊ねた。
「アトス様は・・・生きておられます・・・そう・・・フォルブレイズの魔道書の中に・・・。」
「えぇ?! 閉じ込められちゃってるの!?」
何と言うことだ。アトスはフォルブレイズの魔道書の中に閉じ込められてしまったのだろうか。使い手の魂を封印してしまう、恐ろしい力を持った魔道書・・・。確かに人には過ぎた力かもしれない。
「いいえ・・・。アトス様は・・・精霊として・・・フォルブレイズの魔道書を・・・守っておられるのです・・・。だから・・・アトス様に・・認めてもらえなければ・・・フォルブレイズの・・・魔道書を・・・扱う事は・・・叶いません・・・。」
「なるほど。ところで、ソフィーヤ殿。そのフォルブレイズの書は何処にあるのですか?」
アレンが尋ねた。扉の中には礼拝堂はあるものの、魔道書と思われるものは一切見当たらない。
「はい・・・。フォルブレイズの魔道書は・・・先日こちらにいらした旅の人が・・・持って行かれました・・・。」
「な、なんだって?! じゃあ、もしかしたら今頃盗賊の手に・・・。」
セレナが焦る。自分達より先に来ていたという客人が既にフォルブレイズを持ち出してしまっていたのである。消息は当然分からない。・・・いきなりピンチの連続だ。
「だが、アトス様がお認めになられたほどの人物なら、よほどの事がない限り心配はいらんだろう。問題は今何処にフォルブレイズがあるか、だ。我々には何としてもフォルブレイズが必要なのだ。」
ナーティがセレナを諭す。セレナも落ち着きを取り戻し、ソフィーヤに訊ねる。
「じゃあ、どうやったらアトス様とお話できるの?」
「アトス様が・・・認めてくだされば・・・精霊術師を媒体に・・・対話する事ができます・・・。貴女方が・・・認めていただかなければ・・・いけません。だから・・・私は・・・お手伝いできません。」
アトスに認められ、交信可能な巫女、ソフィーヤに助けてもらっては、自分達が認められたことにはならない。自分達の力で、アトスに求めてもらう必要があった。精霊術師・・・目に見えない力と対話する事のできる不思議な力を持つ者。ソフィーヤが巫女と呼ばれる所以であった。
「あ、そういえば、アリスお姉ちゃんもあの竜騎士に精霊術師って言われてなかったっけ?」
そういえばそうである。西方でアリスたちを襲った謎の集団。そのリーダーと思しき竜騎士がしきりに言っていた。精霊術師を渡せ、と。そして狙っていたのがアリスであった。
「確かに・・・耳を澄まして木とかとお話しすることはあるけど、そんな精霊と放すなんて下事もないし、やり方だってわからないわ。」
「しかし、貴女しかできそうな者はいないのだ。・・・やってもらわねば困る。」
ナーティに言われ、アリスがソフィーヤに話しかけてみる。
「あの、巫女様、どうすれば精霊と対話が出来るのでしょう?」
「特別な事は・・・しなくても良いのです・・・。ただ・・・アトス様を心で見て、心で話しかければ・・・。」
アリスは言われたように祭壇のまで祈りを捧げる。そして、いつも木に話しかけるように、アトスに話しかけてみる。・・・お願い、私達の祈りを聞いて・・・!
暫くすると、アリスは目の前に人が降り立ったように思えた。アリスはそのまま心で祈り続ける。


113: 手強い名無しさん:05/11/03 12:47 ID:E1USl4sQ
「皆さん・・・。アトス様が・・・あの方に降臨なさっております・・・。あのお方に触れて、一緒に心で対話なさってください・・・。」
一行はアリスの周りに寄り添うようにして集まり、一緒に祈りを捧げだす。
そして次第に声が聞こえてきた・・・。
「お前さん達か、このわしを呼ぶのは。」
「あたしはセレナ。フェレ候ロイの娘です。こっちは妹でシーナって言います。」
「フェレ・・・そうかお前達はエリウッドの子孫か。」
「はい、エリウッドはあたし達の祖父に当るそうです。」
「ふむ、ところで、お前達は何の為にわしを呼び出したのじゃ?」
「フォルブレイズの在り処を教えていただきたいのです。あたし達にはそれが必要なんです。」
「この大陸に起きたこと、そして起きようとしている事、わしには皆分かっておるよ。お前さん達がここに来る事も・・・。」
「え!? じゃあ、この先この大陸はどうなってしまうの?」
「ほほほ・・・。人というものは、先が見えない人生を歩むからこそ楽しいもの。全て歩んだ先が分かってしまっては絶望しか残らん。・・・絶望に打ちひしがれ、諦めてしまうだろう。そうなったら生きてはいけんよ。お前さん達は、自分の力で、自分の意志で歩かなきゃならん。希望と言う言葉を考えて見なさい。薄い望み、残りは絶望。希望を信じられるのは、先が見えないからじゃ。」
「わかったよ・・・。じゃあ、フォルブレイズは何処にあるの?」
「ほっほっほ。そう急かすでない。どんなに焦っても、時に流れは一定じゃて。時の流れに背こうともいつかは流れに飲まれてしまうものじゃ。」
「あー! いいから教えてよ!」
セレナの短気がとうとう表に出てくる。アリスが心の中でセレナを拳骨して沈める。
「私達には、何としてもその魔道書が必要なのです。お願いです、どうか在り処をお教えください。」
「ふむ。しかし、お前達は本当に世界を救えるのか? お前達も人だ。いつかは絶望し、諦めてしまうのではないか?」
「そんなことはない! あたし達は決心したんだ。 皆が平和に暮らせる世界を作ろうと。あたしには仲間がいる。みんなと助け合えば、怖いものなんてないよ。」
「ほっほっほ、軽々しく言ってくれるのぉ、セレナよ。お前の母親も、ナーガ様から認められるほど、心のキレイな者じゃった。だが、実際どうじゃ。仲間の裏切り、大切な者との決別・・・さまざまな絶望の前に、とうとうその志を果たせぬまま行方知れずとなってしまった。お前も・・・同じ道を歩むかもしれないぞ?」
「あたしは・・・あたしは母さんとは違う。でも、今の状況が正しいとは思えない。行動を起こさなきゃ、何も変わらないよ。行動して反省する事があっても、何もしないで後悔するのは嫌だ。あたしはあたしの考えを元に行動してる。そしてあたしは決心したんだ。世界を変えてやるって。種族を超えた平和を大陸に取り戻したいって。」
セレナとアトスの対話は続く。自分達の想いを少しでも正確にアトスに伝えたい。そして認めてもらわなければならない。
「だからと言って力に頼るか? 力による平和は、結局何処かで歪みを生み、やがてその歪みが大きな亀裂へと発展していく・・・まさに今の大陸の如く。」
「それは・・・。必要以上に力に頼ることはなしないよ。あたしだって出来れば無駄な戦闘は避けたいし、人を殺したくない。でも、話し合って分かってくれないのなら、それに訴えるしかないよ。」
「・・・変化に犠牲はつき物と? そのための犠牲は致し方ないと?」
「そういう意味じゃないよ。 ベルンによって多くの罪も無い人々が無意味な死を遂げてきた。そして、ベルンを・・・いや、ハーフを憎んで更に種族間の憎しみは増していく。
そんな悪循環を断ち切るには、ベルンを止めなきゃいけないんだ。そのために出る犠牲は計り知れない。その犠牲を最小限に食い止める為にも、早く戦争を終らせなきゃいけないんだ。・・・結局力にとよる事になっちゃうね・・・。」
セレナは次第に、自分の言っている事が矛盾に満ちている事に気付いていった。しかし、自分の言っている事が間違っているとも思えなかった。
「・・・わかった。お前さん達も分かったろう。お前さん達の理想は、多くの矛盾を抱えていると。その矛盾を乗り越えてこそ、真の平和は実現される。矛盾に矛盾を重ねた儚いもの。それがお前さん達の求めるものじゃ。その矛盾に押しつぶされないよう、しっかり心を磨くのじゃぞ。」


114: 手強い名無しさん:05/11/03 12:49 ID:E1USl4sQ
「え、じゃあ!」
「うむ、フォルブレイズの書は、生前の弟子、パントの孫が持っていったわい。彼はエトルリアに戻っておる。
忘れるでないぞ。お前の武器は仲間と強い意志じゃ。物理的な武器は、ただの人殺しの道具でしかないと言う事を肝に銘じておくのじゃ。例えそれが神将器と言えどもな。」
そういい終わると、アトスは消えていき、セレナも意識が遠のいていく。目覚めた時には元の場所にいた。
「よし、進路は決まった。目指すはエトルリアだ。パント様の孫と言う人と何としてもコンタクトをとろう。明日朝一番に出発だ!」
シーナは意志を明確にした姉を見て、何か何時もより凛々しく感じた。今日一晩はナバタの里に泊めさせて貰い、明日からエトルリアへ向け出発する事になった。

その夜、シーナは何か眠れなくて目が覚めた。横では姉と兄が同じような寝相で同じように涎を垂らして寝ていた。
「もう・・・どこまで気が合ってるんだか。見てるこっちが恥ずかしいよ。」
そう言いながら、シーナは宿の外に出て、集落の中央にある噴水のところで水の調べを聴こうと歩き出した。しかし近づくと、誰かがそこにいる事がわかった。
(誰だろう・・・。こんな遅い時間にまだ起きてる人がいるなんて。)
シーナは木の陰に隠れて様子を見る。それはナーティとソフィーヤだった。何か話し込んでいる。シーナはもう少し近づき
何を話しているのか聞くことに決めた。盗み聞きは良くないけど、やっぱり気になる。
「・・・そうなんですか・・・。悲しい事ですね・・・。」
「ふっ・・・。私の力不足が招いた事だ。この責任は取らねばならぬ。」
「しかし・・・。」
「ん?」
「昼にも言いましたが・・・貴女のやろうとしていることが・・・とても正しい事とは・・・。」
「・・・もう何も言わないでくれ。私には・・・いや世界にはもうこの手しか残っていない。どんなに綺麗事を言っても、力で力を支配する限り、悲劇は繰り返される。理想は結局・・・理想でしかない。」
「だからと言って・・・そこまで思いつめた考えをすることは・・・無いと思います・・・。あなたの考えていることに・・・私は・・・賛同できません・・・。世界が・・・正しい方向に向かうとは・・・思えないし・・・貴女もそれでは余りに辛すぎます・・・。」
「私が辛い・・・? ふ、私は大切なものは全て失った。もうこれ以上失うものはない。怖いものなど・・・何もない。」
シーナは二人の会話の意を全く汲み取れず、ただ聞いているしかなかった。しかし、何か重い雰囲気が流れている事は確かだった。
「貴女は・・・まだ・・全てを失ったわけでは・・・ありません・・・。最も大切なものが・・・まだ・・・残っています・・・。」
「ほう、それは何か聞きたいものだな。」
そこまで二人が話を進めた時、シーナが足元の木の枝を踏みつけて音を立ててしまう。二人はすぐに勘付き、ナーティが茂みに剣を突っ込んだ。
「・・・何者だ。」
「い、いやぁ・・・ナーティさん嫌だなぁ・・・ははは。盗み聞きなんてしてないよ?私。あはは・・・。」
喉元に剣を当てられ、流石にシーナも腰が抜けてしまう。
「子供は早く寝ろ。明日からの作戦に支障が出る。」
剣を鞘に収めながらナーティは言った。
「さて、ソフィーヤ殿、我々も解散するとするか。今日は本当に助かった。ありがとう。」
ナーティはシーナを連れて宿に戻っていく。ソフィーヤはその二人の姿をずっと見ていた。
「ねぇねぇ、さっき巫女様と何をお話していたの?」
「ちょっとした世間話だ。お前が気にするほどの事ではない。」
「ふーん。それにしてもナーティさんは憧れちゃうなぁ。」
「私に? ・・・止めておけ。私のようになったらお終いだ。」
「えー。だって、いつも冷静で、剣も魔法も強くて、おまけにいつでも私達を守ってくれるし。私もナーティさんみたいな凄腕の騎士になりたいよ。」
「・・・お前達を守るのはそれが傭兵としての私の務めだから。逆に言えば、私は力でしかものを訴える手段の無い、これからの世界には不必要な人間だ。・・・お前達の理想とする世界には。」
「そんなこと無いよ。ナーティさんは優しい人だよ。西方でも竜騎士を賞金首と知って逃がしたり。それにナーティさんの目、優しそうだもん。」
「私の目が・・・? 希望を捨てた私の目が、優しい?・・・笑わせるな。」


115: 第十二章:いざエトルリアへ:05/11/03 12:50 ID:E1USl4sQ
そういうとナーティは宿とは反対の方向に歩いていってしまった。シーナはその姿を何故か追うことが出来なかった。哀愁に満ちたその背中を。
「ナーティさん・・・。悲しそうで、鋭い目つきだけど、時々しているよ、優しそうな目つき。私はそれが大好きなんだ。だから、そんな悲しい顔しないでよ。・・・一体ナーティさんの過去に何があったんだろう・・・。」
床に戻った後も、シーナはそれが気になって眠れなかった。

翌朝、一行は里を発ち、一路エトルリアを目指し北進を始めた。ナバタ砂漠を抜けて暫くすればすぐエトルリアの領土内に入る。一行は再び灼熱の砂嵐の砂漠を踏破せざるを得なかった。
「うー。熱い・・・。 干物になっちまう・・・。」
皮鎧の上から更に騎士用の厚い鎧を装備する騎士にとっては、砂漠では蒸されるような気分に陥る。まだまだ騎士としての経験の浅いクラウドにはそれが我慢できなかった。
「クラウド、文句が多いぞ。そんなことで根を上げていては騎士は務まらないぞ。 それそろしっかりしてくれ。戦場でお前の世話まではしていられないぞ。」
「な、言ったな! 見てろ、いつか親父を抜いてやるからな!」
クラウドがアレンに挑発され、向きになって歩き出す。アレンはそんな姿を微笑みながら見ていた。 一方の双子はと言うと、疲れ知らずで元気だ。
暫くすると砂嵐は止んだ。地形も砂だけの金色の世界から、草の緑色が少しずつ目立ち始めてきた。
どうやらナバタ砂漠を抜けたようだ。
もう少し歩けば、エトルリアの国境。ここがまず最難関だ。 国境警備隊に見つかれば、たちまち投獄、極刑である。だが、傭兵団を装っているし、ハーフのシーナがうまく言ってくれれば心配は無かった。
「よし、次、検問所に入れ。」
ベルンのエトルリア駐留軍、すなわちリゲル配下の兵達がセレナ達を取り囲んだ。
「お前がこの傭兵団のリーダーか? 随分若いリーダーだな。」
ベルン兵がシーナに話しかける。その話し方は柔らかい。同族同士だからか。
「うん。実際働くのは劣悪種だからね。 私は管理役。」
「はっ、なかなか強かな娘だな。 よし、通れ。道中の安全を祈っている。」
思った以上にすんなり通過できてしまった。警戒レベルは最低といったところか。
「なんだよ。案外うまく行くもんだな。正直期待はずれだぜ。」
「クラウド・・・。お前と言うやつは。 気を抜くなとあれほど言っているだろう。我々は一刻も早くセレス様に合わなければならないのだ。」
「わぁ、親父。怒るなって。」
いつもどおりの家族の様子にセレナは笑ってしまった。しかし、妹の顔色は優れなかった。
「シーナ・・・? どうかしたの?」
「あ、姉ちゃん。 いやさ、演じて放った言葉でもあまりいい気がしないなぁってね。」
「劣悪種云々ってヤツ?」
「うん。 自分の大切な家族を劣悪呼ばわりするのは、何か嫌だよ。」
「気にするなって! あんたはそう思ってないならいいじゃない。 ほら笑いなよ。」
姉が何時もの笑顔で私を抱きしめる。悩みやすい私をいつも励ましてくれる姉。
こういう時だけは、こんな姉を持って幸せだと思えた。そこにナーティやアリスも話しに加わってくる。
「そうよ。考えすぎよ、シーナ。 もう少し気を楽に持って、ね?」
「気になるなら一層、世界を変えるために努力する事だ。 皆がお前と同じように、差別する事に違和感を覚えるようにな。」
同じ励まし方でも、ここまで違うものなのか。セレナは妹の肩を抱きながらそう思っていた。そして、まだ見ぬ自分の従兄妹、セレスの顔を想像していた。
「ねぇ、シーナ。セレスってあたしの名前に似てるよね。どんな顔してるんだろ。カッコイイといいなぁ。」
「従兄妹だから似てるのかな。・・・それより姉ちゃん、何変な事考えてるのよ。ナンパでもする気なの?」
「冗談じゃない。従兄妹だよ? 親族相手にナンパしてどうするのさ。 男はカッコいいほうが良いに決まってるでしょ。」
「姉ちゃんが言うと冗談に聞こえないんだよなぁ・・・。」
「何だと?! もう一回言ってみろよ!」
セレナがシーナのポニーテールを後ろから引っ張る。それをクラウドがずっと見ていた。それにアレンが気付き、話しかける。」
「どうした、クラウド。」
「いやぁ、すぐそばにこんなカッコイイ兄がいるのに、セレナは一度もナンパしに来た事ないなぁって思っただけだよ。」
「やれやれ、お前と言うヤツは。」


116: 手強い名無しさん:05/11/04 17:20 ID:E1USl4sQ
一行はエトルリアの市街地近くの村で山賊退治をし、そのお礼にとその晩止めてもらう事になった。
そして、この先のことについて話し合っていた。
「そのセレスって人に会おうにも、どこにいるのわからないんじゃ探しようが無いよ。」
セレナが困ったと言うような顔で言う。確かにエトルリアはエレブ大陸一の大国。一口にエトルリアと言っても、南はミスル半島から、北はイリアとの国境レーミーと、非常その範囲は広い。セレスがエトルリアにいる、と言われてもその具体的な地方が分からなければ探し出す事は困難を極める。
「セレスはクレイン卿とその妃ティト殿のご子息。つまり、リグレ侯爵家の人間だ。アクレイアにいる可能性が高いと俺は思っている。」
アレンが具体的な進路を説明しながら言った。ティトはアレンにとっては戦友だった。そのティトも前の変で戦死したと言う。そのご子息がエトルリアにいる。自分が守ってやらねばと、何故か妙に気合が入る。
「しかし、いまやアクレイアはハーフの牛耳る商業地域だ。かつての貴族達は没落し、その貴族街には新たにハーフの貴族達が住むという。リグレ侯爵家も当然例に漏れないだろう。」
ナーティが何時ものようにさらっと冷たい現実を言い放つ。静まり返る一同。そこに村人がスープを運んできた。
「今日は賊どもから我々を助けていただき、ありがとうございます。」
「いいよ、そんなの。あたしたちの力は、力を持たない人全ての為にあるんだもの。助けて当然だよ。」
セレナが村人に返す。その言葉に村人は涙を流して喜んだ。
「あぁ・・・神よ、聖女エリミーヌよ。貴女の御慈悲に感謝いたします・・・。 貴女方が英雄ロイ様の姫様がであると言う事に、疑いを持つものは我々にはおりませぬ。どうか我々の出来る事なら何でも仰ってくださいませ・・・。」
このリアクションにはセレナは驚かざるを得なかった。自分は本当のことを言ったまでなのに、どうしてこんなに感動してくれるんだろう。
「そんな、泣かないでよ。当然の事をしたまでだってば。オーバーリアクションだよ。」
「それだけ、ベルンの支配が酷かったという事だろう。」
アレンがセレナを諭す。右も左も、そして上も下も、全てが闇。その中にたった一点、自分達を救ってくれる光。感涙もやむをえない状況だ。
「そうだ。ここはまだ地方だからよいものの、王都の風紀は乱れに乱れている。これもあのリゲルとか言う総督のせいだが。」
それにナーティが付け加えた。リゲルも成り上がり貴族の一人だ。
「リゲル? それに風紀が乱れているって?」
「リゲルはベルン五大牙の一人でエトルリア地方を支配している。風紀がひどいと言うのは、実際行ってみれば分かる。」
流石に傭兵として世界を回っているだけあって、ナーティは各地のことについてよく知っている。知りすぎているような気もするが。
「ところで、セレスという名前の人について心当たりはありませんか?」
アリスが村人に聞いてみる。分からないのなら地元の人の聞く他に情報収集源はない。一か八かで聞いてみる。すると、思わぬ答えが返ってきた。
「おぉ、セレス様ですか。あのお方は今やパーシバル様の右腕として活躍なさっておられます。まだまだお若いのに、ご両親に似てしっかりなさったお方で・・・。我々の期待の星なのです。」
どうもセレスもセレナ達同様、ベルンと敵対しているようだ。そして、その組織はパーシバルを中心にしたあの対抗組織だったのである。同じことを考えるとは、流石自分の母と血を分けた叔母の子だと、セレナは思い、期待した。
「ということは、セレス様もパーシバル様と一緒にアクレイアのおられると言う事ですね?」
「ええ。アクレイアのどこかに組織のアジトを持っておられるはずです。」
そうと決まれば話は早い。明日朝一番にアクレイアへ発てば、夕方ごろには到着できる。アクレイアで情報を収集すれば、そこを拠点としているならばすぐに見つかるだろう。
「かぁー! このスープうめぇ! おばさん、おかわり!」
不安要素が消えて安心したのか、セレナとクラウドは何時ものような明るい顔に戻った。
「こらっ、クラウド。お前はどうしていつもそうなんだ! もう少し落ち着かないとだな・・・!」
「セレナ、お前もだ! 将としての自覚があるのか? おい、聞いているのか!」
アレンとナーティがそれぞれクラウドとセレナの首根っこを捕まえて説教をする。もう見慣れた光景だ。アリスはそんな周りの様子に微笑む。こんな和やかな空気がいつまでも続けばどんなに幸せだろうか。
「いててっ、兄貴が親父に怒られるのは仕方ないとして、どうしてあたしがあんたに怒られなきゃいけないんだよ!」


117: 手強い名無しさん:05/11/04 17:21 ID:E1USl4sQ
一方、ここは王都アクレイア。一人の若者の周りに、古着をまとった大勢の男達が集まっている。
「セレス様。いつまで我々はこんな苦境に立たされていなければならのですか?」
「もう限界です。我々スラム街の人間を集結させ、一気にハーフどもを追い出しましょうよ!」
「そうだ。そうだ。一刻も早く我らのエトルリアを取り戻そうぜ。」
その若者の名はセレス。今は無きリグレ公クレインの息子。皆口々にセレスに向かって叫ぶ。その男達をなだめながら、セレスは言った。
「皆さん、落ち着いてください。僕としても一刻も早く我々のエトルリアを取り戻したい。しかし、戦争をして奪い返すのでは意味がないのです。パーシバル様ともよく話し合い、なんとか和解の道を模索しているところです。」
「セレス様、和解ってできるのか? 相手がその気なら、こちらもそれ相応の手段を用いないと・・・。」
「確かに、話し合いだけでは難しいかもしれません。しかし、ハーフと戦争をするだけでは、後々まで禍根を残しかねません。
大丈夫です。きっとうまく行く方法があるはず。もう少しの辛抱です。がんばりましょう。」
セレスはスラム街の最奥にあるアジトに入っていった。その中にはパーシバルとララム、そして
パントがいた。
「あ、セレスちゃ〜ん。おかえり。」
「おぉ、セレス、遅かったな。」
「爺上、只今戻りました。・・・ララムさん、“ちゃん”は止めてくださいと何度言ったらわかるんです。」
セレスがちょっと拗ねたように言う。いつまでたっても子ども扱いだ。
「だって、可愛いんだもん。ねぇ、パント様。」
ララムももういい年だが性格は相変わらずだ。年相応に落ち着いたとは言え・・・。
「ははは。いいじゃないか、セレス。いい母親代わりがいて。」
「まっ、パント様。私はそこまでまだ年をとっていませんよ! こう見えてもまだピチピチの・・・。」
ララムの声が狭いアジトに響き渡る。アジトの中は洗っていない食器やら書類やらが乱雑に積み上げられている。土壁に土間だけのつくりで中は暗く、そしてホコリ臭い。炊事場はララムが料理でもしたのか、何か焦げた物が不気味に煙を上げていた。
「セレス・・・遅かったな。近況はどうだ?」
今まで沈黙を保っていたパーシバルがとうとう口を開いた。苦労は絶えず、年以上に老けて見える。が、それでも昔のままの面影は残している。かつてのエトルリアの最高指揮官。今では落ち武者とハーフに蔑まれているが、その姿は今でも体も意志も健在だった。
「パーシバル様。遅くなりました。状況は相変わらずです。ハーフ達の傍若無人な行いはますます酷くなっています。特にリゲル総督の女狩りはエスカレートするばかりで・・・。
この頃では旅人の金を巻き上げる為に新たな賭博場も開設したとか。・・・悪化の一方です。」
セレスがアクレイアの状況を淡々と話す。どれも良いものは無く、日に日にその度は増していく。
「そうか・・・。では、同志達はどうだ。」
「はい、皆口々に一揆を企てようと団結しています。・・・皆そろそろ限界のようです。僕だってこれ以上は見ていられない・・・。」
「うむ・・・致し方ないか・・・。ミルディン王子がご覧になられたらいたく悲しまれる事だろう・・・。
これも全て、私に力が無かった為だ。あの時もっと私がベルンの侵攻を抑えることが出来たならば・・・。」
パーシバルのその言葉を聞くや否や、今まで和やかな顔をしていたパントが突然、厳しい口調でパーシバルを叱った。
「パーシバル、過去の事を後悔していても始まらぬ。過去は変えられぬ。だが、この先はお前の行動一つでどんな風にも変えて行ける。生き残った我らがするべきことは、後悔ではない。・・・わかっているのだろう?」
「はい、パント様。心得ております。しかし、単なる殺し合いで勝利しても、それは真の勝利ではないでしょう。互いに手を取り合ってこそ、真の勝利・・・。ミルディン様のお言葉です。」
「そう。だから戦いは虚しい。だが、まずはこの悪循環を断ち切らねばならん。順序をとり間違えてはならぬ。」
「は・・・。」


118: 手強い名無しさん:05/11/04 17:22 ID:E1USl4sQ
パーシバルは再び考え込んでしまう。主の遺言と反する現状。だがそれを打開する為には主の意志と反することをしなければならない。もはや迷わないと誓った自分が・・・情けない。
そんなパーシバルを見て、パンとはいつもどおりの穏やかな顔に戻る。
「そう悩むもんじゃないよ。時が来ればきっとうまくいくよ。」
パントは多くは語らず、また魔道書を覗き始めた。・・・パントには分かっていたのである。セレナ達がここアクレイアの向かっている事が。数日前、寝ているときにアトスが話しかけてきたのであった。
「数日後に、お前達の元に炎の天使たちがやってくる。それまでは平静を装うのじゃ・・・。ワシは精霊。世の中の事に首を突っ込むことは禁忌なのじゃが、どうしても見ておれなくての・・・。パントよ。お前なら信頼できる。若輩者たちをうまく先導してやってくれ。」
確かに警戒レベルが上がっているなら今の戦力で突っ込んでも自滅行為だ。今は情報を収集し、ベルンの動きを探ったほうが得策だと、パーシバルも思った。
「はーいはい。悩んでないで、ね。パーシバル様。ほら、私特製のララムシチューを召し上がれ!」
そういってララムは真っ黒に煤けた鍋を厨房から運んできた。吹き上がる湯気が不気味である。
それを見た途端、パーシバルは別部屋に移っていった。
「ラ、ララムさんの料理!? い、要らないよ。爺上、どうしてララムさんに料理なんかさせたんです!?」
「ん? たまにはいいかなってね。」
「たまにはって・・・無責任な・・・。」
「なーに言ってるの。セレスちゃんも食べないとパーシバル様みたいにかっこよくなれないぞ?」
「・・・ララムさんの料理を食べるぐらいなら死んだほうがマシです。」
「あー、言ったわね!? 可愛くないヤツ! 乙女心を傷つけたらどうなるか教え込んであげるわ!」
そういうとスプーンにたっぷりと白と黒の混ざったシチューを盛り、セレスの口に押し込む。
「うわ・・・!? おえ・・。やめて・・・。」
涙目で懇願するセレス。それを見て更に頭に血が上るララム。それをパントは笑いながら傍観していた。
「ははは、和むねぇ。・・・さて、アトス様。炎の天使とやら、お待ちしておりますよ。我々とてこのまま手をこまねいている訳にも参りません。私も孫達と、アトス様のように、平和の為にこの力を用いて見せます。」
やっとララムから逃れたセレスは別部屋に逃げ込んだ。そこにはパーシバルが外を見ながらコーヒーを飲んでいた。
「ふぅ・・・ララムさんの料理はホント一級品ですよ・・・殺人道具として。」
「ふっ・・・。ところでセレス。お前は何の為にこの組織に与した?」
「え、それはもちろん、現状のハーフが支配する差別と困窮の世界に終止符を打つためです。そのために、僕は爺上から、いえアトス様からフォルブレイズを継承しました。」
「ふむ。では、その力を何に用いるつもりだ? ハーフをその焔で焼き殺し、憎しみを増長させるか?」
「それは・・・。わかっています。僕達の求めるものは、矛盾だらけであると言う事を。でも、世界を変えていくためには、もはやこれしかないのです。種族間の関係を歪めるだけ歪めた人間族が勝手な事を、とハーフの人たちは思っているかもしれません。しかし、その誤解は僕達の考えを知ってもらえれば解けるはずです。」
「お前は・・・両親に似て、考えがしっかりした子だな。」
「パーシバル様がお悩みになられるのは立場上仕方ない事だと思います。しかし、アトス様はこう仰っておられました。“人間は悩み多き生き物。悩む事で後悔もし、成長もする。悩む事は決して悪い事ではない。逃げるのでなければ。」
「・・・。」
「パーシバル様は逃げておられるのではないはずです。だから、悩んででも、最善の方法を考え出してください。僕達はそれに従いますから。」
「そうか、ありがとう。私も私なりの最善の方法を考えてきた。そして行き着いた結論は
やはり、ベルンの総督府を叩き、ハーフの支配を終らせる事だった。まずは現状を変えなければならぬ。それは分かっていた。
しかし、ミルディン王子や、ゼフィール全ベルン国王の言葉を思い出すと、これでいいのか、と悩んでしまうのだ。」
「・・・。」


119: 手強い名無しさん:05/11/04 17:23 ID:E1USl4sQ
「叱られるような事を平気でするからだろう!? まったく、お前は将としての自覚に欠ける。第一・・・」
シーナはそんな姉を見て呆れながらも、こんな性格の正反対な二人がどうしてあんなに気が合うのか不思議でならなかった。
「普通あそこまで性格違ったら離れ離れでいる気がするんだけどなぁ・・・。蓼食う虫も好き好きってやつかなぁ。」

「しかし、やはり順序を取り違えてはいけない。まずは目の前にある問題を解決しなければ。先々の事にとらわれて目先の問題に二の足を踏んでいては、またあの時のようになってしまう・・・。」
「あの時?」
「いや、セレス、お前は知らなくてもよい。よし、武器などの物資を調達してくれ。時を見て反乱を起こす。」
「わかりました。では、早速手配をしてきます。」
セレスはマントを翻しながら走っていった。
ミルディン様・・・ダグラス様・・・セシリア・・・私は今度こそ、やり遂げてみせる。今度こそ皆の死を無駄にはしない・・・。

その頃、エトルリア駐留のベルン総督府では、いつもどおり、リゲルが快楽におぼれていた。
「くっくっく、私に優雅なひと時をもたらしてくれる者はおらんのか?」
リゲルは手にしたレイピアの先を手で曲げながら剣奴隷達のほうを見た。どの剣奴隷も傷だらけで動けなかった。騎士剣を扱わせればベルンでも右に出るものはいないと言う。毎日模擬戦や、遊女を侍らせての賭博などの遊興に明け暮れていた。植民地の統治などは二の次、いや三の次ぐらいの片手間でしか行っていない。風紀は乱れて当然だった。
「流石でございます、リゲル様。ところで、街の風紀回復の件についてはお考えいただけましたでしょうか。」
「風紀? ふっ、分かりきった事を申すな。アクレイアの風紀が乱れている原因は、スラム街の劣悪種共だろう。劣悪種・・・あぁ、美しい私にはその呼び名すら汚らわしい、ゴミ以下の存在。どうしてあんな醜い種族が現存しているのだろう。・・・お前はそう考えた事はないかね?くっくっく・・・。」
「は、はぁ・・・。」
「そうだ・・・いい事を考え付いた。劣悪種などこのアクレイアから一掃してしまえばよいのではないか・・・。私もその血の宴に出陣する。
出撃は三日後の天馬の刻。それまでに出陣の準備をしておけ。・・・くっくっく・・・。久々に優雅なひと時を過ごせそうだ・・・。」


120: 手強い名無しさん:05/11/04 17:23 ID:E1USl4sQ
「了解いたしました。遠距離砲はいかがいたしましょう。」
「あんなもの必要ない。その代わり弓兵部隊を大量に投入しろ。火矢攻めにしてくれる。
劣悪種の鮮血と業火。二つの赤が、私の美しさをこれ以上ないほどに彩ってくれるだろう・・・くっくっく・・・ふはははははっ。」
そう言うとリゲルは遊女を侍らせ、外に出て行く。
「リゲル様。これから出陣と言う時にどこへ行かれるのですか。作戦は・・・。」
「ちょっとバカラ賭博の様子でも見てくる。ふふふ、あそこの収入が我々の貴重な臨時軍用費なのだ・・・。」

「ふー、やっと着いた・・・。」
セレナががっくりとうな垂れながら言う。アクレイアの城門は豪華絢爛なエトルリア文化をふんだんに取り入れた豪華なつくりで、旅人の心を動かす。
しかし、セレナにとってはやっと宿にありつけると言う思いが強く、それどころではなかった。歩兵の行軍は辛いものである。
「やれやれ、お姉ちゃん、情けないね。」
「あんたはペガサスに乗ってるんだからいいわよね! こっちはもうヘトヘトだよ・・・。」
「よかろう、ではもうすぐ日の入りであるし、宿を探すとするか。」
ナーティが座り込むセレナを引き摺りながら城下町に入っていく。アレンは未だに城門を眺めていた。そんな父親にクラウドが声をかける。
「親父・・・? どうしたんだよ。この門すげー豪華なつくりだな。」
「あぁ・・・しかし、俺が昔来た時より・・・なんか絢爛さに欠けると言うか・・・。きっと管理されていないのだろうな。
昔は所々に宝石も散りばめられていたのだが、ものの見事に外されている。きっと生活に困ったスラムの人々が盗って行ったのだろう。」
「許せねー話だな。大切な文化物に手を出すとは・・・。いや、文化物に手を出さないと生きていけない人々を出す今の統治機構がおかしいんだな。」
クラウドが改めてベルンに敵意を燃やす。だが・・・間違えるなよ。ハーフの支配する前にもそういった困窮者はいた。ハーフだからという理由ではないと言う事を・・・。だが、確かに今のハーフの政治は酷い物がある。何としても現行の総督府を倒し、困窮した人たちにも光を・・・。それが我が主ロイ様の願いだった。ロイ様、見ていてください。このアレン、息子のクラウド共々、ロイ様の志を見事に達成して見せます。
アレンは門から目を離し、紅の夕日に沈むアクレイアの街に消えていった。


121: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/11/04 17:37 ID:E1USl4sQ
うお・・・。やってはいけない過ちを・・・。
>>119の上三行は、>>116の最終行に繋げて読んでください。。
ワードから切り取った時に何かミスを犯したようです。。
秋のアレルギーは辛いよ、ママン。

遅れましたがキャラ紹介です。
リゲル(♂:ロードナイト)
はい、敵将にしてロードナイトです。こんな設定もアリかと・・・。
性格は読んでいただければ分かるように、自己中にしてナルシスト。そして危険なほど野心家。
ナーシェンとは違うのだよ! ナーシェンとは!!
ちなみに元ネタは某格ゲーの四天王・・・。

セレス(♂:賢者)
第二部に入ってから気付いた・・・。セレナと名前が似すぎている!
しかし今更ながらに名前も変える事も出来ず、・・・あ、名前を変えちゃったことにすれば・・・あべしっ。
そう考えると悲劇の公子・・・。
性格は親共々生真面目だった為かきわめて真面目。キツイ言葉もさらっと言えてしまう。
見事なツンデレさを醸し出し(?)ます。 セレナやクラウドとは正反対の性格で、きっと二人を見たら説教せずに入られないでしょう。

122: 第十三章:繁栄の光と闇:05/11/07 16:28 ID:E1USl4sQ
宿に入ったセレナやクラウドは、早速ベッドに飛び込む。繁栄を極めるエトルリアだけあって、宿の設備も質が高い。
「わーい。久々にフカフカのベッドで寝られるぞ! こんな乙女が野宿なんて耐えられないよ。」
「うおー、このベッドふかふかじゃん。すげー。」
二人とも大はしゃぎだ。特にさっきまでへたれこんでいたセレナの元気は何処から沸いてくるのやら。
「こらっ、二人とも見っとも無いぞ! ベッドで飛び跳ねるなって母さんにも散々言われてたじゃない!」
そんな二人をシーナがたしなめる。一体どちらが姉なのやら。
そんな三人を呆れつつも元気で何よりとアレンは笑いながら、休む間もなくアクレイアの地図を広げだした。
「この人数ですし、明日からの作戦は人数を分けてやってみましょうか。」
アクレイアは広い。全員でまとまって動くより、分かれたほうが広域の情報を探せるとアレンは考えたのである。

「名案だな。よかろう。では、私はセレナとシーナで総督府を探る。アクレイアは何度も来ているから土地鑑はある。」
「では、俺とクラウド、そしてアリス様で対抗組織について調べて見ます。」
ベッドの上で跳ね回っていたクラウドだが、父親のその言葉を聞いた途端、はしゃぐのをやめて父親に耳打ちした。
「おい、いいのかよ。セレナ達をあの傭兵に任せちゃってよ。」
「うん? ナーティ殿は我々の大切な仲間だ。我々はエトルリアの地理に疎い。土地鑑のある人が居たほうが、総督府を探るにも都合がいいだろう。」
クラウドはまだナーティを怪しんでいた。親父をはじめ、皆あいつを信用しすぎている。絶対裏に何かある。クラウドはそう思っていた。だが、今は詮索していられない。目の前の問題を一個ずつ片付けていかなければならなかった。

翌朝、早速二班に分かれてアクレイアを探索する事になった。アレン達は情報収集のために、商業地域へ足を運んだ。
そこは、人に溢れ、活気に満ちていた。笑い声、威勢のいい客引き・・・そしてそれに勝るとも劣らない物量。
まさに大陸一と呼ぶに相応しいほどの繁栄振りだ。西方と言う辺境しか知らなかったクラウドは、その人の多さに圧倒され、周りをきょろきょろしている。
「うわー・・・、何この人。すげぇ・・。」
「ははは。そんなに周りをきょろきょろして、おのぼりさん候だな。」
息子の様子に、久々にアレンから笑顔がこぼれた。そういえば自分が騎士としてロイ様に仕え、初めてエトルリアに来た時、息子と同じ事をしていたか。それをランスに嘲笑されていたな・・・。
「それにしても、本当に人が多いですね。それにみんな幸せそう・・・。」
アリスも幼いころはイリアに住んでいたが、物心がはっきりつくころには既に西方に移っていた。イリアもその城下町は人が多かったが、やはりエトルリアには敵わない。
それ以上に、ここの人たちは幸せそうだった。大陸中が闇に包まれているはずなのに。
「ここにいる奴らはみんなハーフみたいだぜ、姉貴。俺と同じエーギルの波長をしてる。」
そうである。この商業地域、言ってしまえばエトルリアの「表の世界」の住人は皆ハーフなのである。ハーフの者達にとっては今の世界は闇どころか光なのかもしれない。
クラウドが早速、情報収集のために武器屋に入り、主人に声をかけてみる。
「なぁ、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
「ん、騎士かい。どう? この槍。綺麗な槍だろ? 銀製の良い槍だよ? どう、買わない?」
「おぉ!これが銀の槍かぁ。すげー、カッコイイな! ・・・って違うだろ。話を聞けよ!」
「ははは、血の気の多い兄さんだね。で、何なんだい?」
「総督府にあだなす反乱軍が居るって聞いたんだが、そいつらってどこにいるんだ?」
「お、兄ちゃんも志願兵なのか。だったら尚更良い武器が必要だな! さ、この槍、お安く14000Gでどう?」
「だーかーら! 俺は槍が欲しいわけじゃないの! 居場所が知りたいんだよ! おまけに足元見やがって! 銀の槍の国定価格は1200だろ。」
「あはは、知ってたか。おのぼりさんっぽかったから買ってくれると思ったが・・・。じゃあ、槍を買ってくれたら教えてやるぜ。」


123: 第十三章:繁栄の光と闇:05/11/07 16:28 ID:E1USl4sQ
「誰がおのぼりさんだ!」
クラウドがそう言った途端。主人とアリスがクラウドを指差した。それに釣られてアレンも息子を指差してしまう。
「お前ら・・・。って親父まで! ちくしょう、覚えてろよ・・・。で、どうする。」
「まだ子の子は見習い騎士なので、銀の槍など持たせてはすぐに折ってしまうだろう。そっちの鉄の槍をいただけるかな、ご主人。」
アレンが主人に声をかけた。だが、その反応はクラウド相手のときと全く違うものだった。
「ん、あんた人間か。人間に売るものはないよ。さっさと帰りな。」
やはり人間相手には厳しいものがある。アレンとアリスはクラウドに槍を買って情報を仕入れるよう耳打ちし、店を出て行く。
「いいか、絶対に熱くなってはいけないぞ。我々の目的をしっかり頭に入れておくんだ。」
「わかってるけど・・・やっぱムカつくな。」
クラウドは再び店主の元へ戻り、槍を購入する代わりに情報を聞き出す。
「へへ、毎度あり。で、ゲリラ勢力の居場所だったか? お兄ちゃんが聞きたいのは。」
「ああ、約束どおり槍を買ったんだ。さっさと教えてくれよ。」
「詳しい居場所は知らねぇけどよ。奴らはきっとスラム街をアジトにしてるぜ。ゲリラ集団は人間族の集団だし、アクレイアで人間族が居るのはスラム街だけだ。」
「そうか・・・。わかった。」
「にしてもリゲル総督もなんで居場所が分かってるのに叩かねぇのかねぇ。自治らしい自治を何もしてくれないから、人間共も好き勝手やりやがるのに。」
クラウドは、好き勝手やっているのはそっちだろとでも言ってやりたかったが、父親に釘を刺されていたために我慢して外に出た。外では二人がハーフに絡まれていた。
「おいおいおい、劣悪種が表を出歩くんじゃねーよ。邪気が移っちまう。」
「騎士か・・・。こいつらゲリラ勢力の人間じゃねーか?」
周りにいたハーフ達が集まりだし、アレンたちを囲んでいた。騒ぎを起こせば総督府に捕まってしまう。二人だけではどうすることも出来ない。
「おい、やめろ。そいつらは俺の傭兵団の連れだ。」
間一髪クラウドが間に入り、騒ぎを鎮圧する。
「やれやれ。クラウド、助かった。ありがとう。」
アレンが安堵したように言う。やはり、周りは全て敵であるといっても過言ではないようだ。気をつけなければ。
「親父が謝る事ねぇよ。 それにしても、やっぱりこの世界はどうかしてるな。リゲルとか言う総督・・・ぶっとばしてやる。」
三人は仕入れた情報を元に、スラム街を目指した。

一方、セレナ達三人も繁華街に出ていた。セレナもシーナも、クラウド同様周りをきょろきょろしている。
「お前達・・・。やめてくれ。田舎者候で見ているこっちが恥ずかしい。」
ナーティが呆れたように二人を見る。二人とも物珍しそうに、商店の商品などにくまなく目をやっている。
「だって、こんなに人や物で溢れている場所に来たのなんて初めてなんだもん。流石に大陸一の繁栄地域だけはあるね。」
「ふっ、上辺だけの繁栄だ・・・。その内部を知れば、そんな事は言えなくなるだろう。」
「ナーティさん、それはどういうこと?」
「それを今から調べるのだろう? 自分の目で見れば如何に酷いか分かる。」
それを聞いてセレナが何かひらめいた様に言った。
「あ、それ知ってる! 飛んで火にいる夏のムシってやつでしょ!」
「・・・。」
「はぁ? また姉ちゃんの間違いウンチクか・・・。」
呆れる二人にセレナは得意げに続けた。
「だから、火の熱さを知る為には、実際飛び込んで見ないと分からないって事でしょ? それと同じで、現状の酷さは体験してみないと分からないってことじゃないの?」
シーナは顔を抑えて笑うのを必死になって押さえている。ナーティは最初か呆れて物も言えないといった顔をしていたが、やっと口を開く。
「・・・ふ。 まぁ、あながち間違ってもいないかもしれないな。」


124: 手強い名無しさん:05/11/07 16:29 ID:E1USl4sQ
「え? ナーティさんそれってどういうこと・・・?」
シーナが不思議がって聞いた。姉のことをまた叱るかと思ったが、ナーティの口から出たのは違うものだったからだ。
「ふ。行けば分かる。」
そう言うと、着いて来いといわんばかりに、ナーティは早足で歩き出した。
着いた先は総督府に近い、なにやら大きな建物。人が多く出入りしている。
「ナーティさん、ここは何?」
「ここはいわゆるカフェだ。飲み物や軽い食事を取りながら一服する為の場所。だが・・・それは真の目的を隠す為のカムフラジュ・・・。」
「あー、そういえばお腹すいてきたな。なぁ、ナーティ。軽く一服していこうよ!」
セレナの一言にシーナがまた怒る。セレナはまた妹が怖い顔をするので取り繕おうと必死である。シーナもナーティが姉を叱ってくれるだろうと思っていたが、そうはならなかった。
「そうだな・・・。じゃあ、ケーキでも食べながら一服するか。ここのケーキはおいしいぞ。」
「ちょっと、ナーティさん。いいの? 私達は総督府を調べなきゃいけないのに、そんな油売ってて。」
「腹が減っては戦は出来ぬ、だろう? それに・・・まんざら寄り道と言うわけでもない・・・。」
「え・・・。ナーティさんがそう言うなら私も何も言わないよ。・・・姉ちゃんうるさい!」
「わーい、ケーキだケーキ。」
三人はカフェの中に入っていった。中はやはり人が多い。
三人は奥のほうに座り、コーヒーとケーキでくつろぐ。
「うは、このケーキサイコー。」
セレナが嬉しそうにケーキをほおばる。西方でもこんな焼き菓子はめったに食べた事はなかった。
「お前は食べる時は本当に幸せそうな顔をする奴だな。」
このときばかりは、ナーティも何時もの厳しい顔つきは消え、笑ってしまった。
「でも、こんな風にくつろいでて良いのかな。 お父さん達はきっと今頃必死に情報を探してるのに。」
「大丈夫だ。もう少しすればわかる・・・。」
ナーティがもったいぶって教えてくれない事が、シーナをよけに不安にさせた。この人って凄腕だけど何考えているか分からない時があるのが怖い。・・・姉ちゃんと同じで。
しばらくすると、たくさんの女性親衛隊に囲まれ、煌びやかな軍服をまとった長身の男がカフェの中を通っていった。
「うわー。今の男の人かっこよかったね。ナーティも見とれてるところを見ると・・・タイプなの?ねぇねぇ。」
「あれが・・・このエトルリアを支配する総督府のリーダー。リゲルだ。」
流石にセレナも驚いた。自分達が倒すべき相手が今真横を通って行ったのである。
「うそっ!? でも・・・街中で騒ぎを起こすわけにも行かないし・・・ねぇ、後を追いかけようよ。」
「お前にしては妥当な判断だな。よし、そうすることにしようか。」
ナーティが歩き出す。シーナもそれに続く。セレナはシーナやナーティの食べ残したケーキを口に目一杯つめてその後を追った。
一方リゲルはそのままカフェを素通りし、奥にある扉を抜けていった。一行もそれを追って中に入る。そこはカフェとはまるで雰囲気の違う場所であった。
「うわ、何、ここ。」
シーナが思わず声を上げる。カフェの明るい雰囲気とは正反対に、光を嫌うような暗い雰囲気だ。
「ここは賭博場だ。リゲルは無類のギャンブル好きでな。だが・・・賭博場の本当の狙いはそれではない。」
「ふごふご、ほれ、ごーしゅーほと??」
後ろからやっと追いついてきたセレナが話しかける。口はまだケーキで一杯のようで何を喋っているのか分からない。
「姉ちゃん・・・卑しすぎ。」
「お前というヤツは・・・早く口の周りを拭け! クリームだらけで見っとも無い。」
セレナが口の周りを拭き終わったのを見届けると、ナーティは言った。
「お前達の持ち金全てを私にかけろ。今からリゲルと勝負してくる。」
その言葉に双子は驚いた。
「持ち金全部賭けちゃったら、もし負けたときどうするのさ?!」
「そうだよ。せめて半分は残しておかないと・・・。」
「大丈夫だ。私を信じろ。」
いつも冷静沈着なナーティが言うんだから大丈夫か。そう思い、二人は全額をナーティに賭けた。


125: 手強い名無しさん:05/11/07 16:29 ID:E1USl4sQ
「貴公子殿、次はこの私がお相手いたしましょう。」
ナーティはそう言いながらリゲルに向かって貴族風の挨拶をして見せた。こんなことまで勉強しないといけないのか。セレナはそう思っていた。
「ほう・・・貴様、傭兵風情の割には礼儀を心得ているようだな。面白い、たっぷり可愛がってやろう。くっくっく・・・。」
二人は数人の女性親衛隊と共にバカラ賭博を始めた。セレナ達はルールも分からないのでナーティがかっているのか負けているのか全く分からなかった。
数分後、リゲルはニヤッと不気味な笑顔を見せ、後ろのほうにいたガタイのいい男共に目で合図した。
「ふふふ・・・また私の勝ちか。美しい私には勝利が似合う・・・はっはっは。おい、お前達、後の事は任せた。私は総督府に戻る。」
リゲルは高笑いしながら金色のマントを翻しながら颯爽と去っていった。暫くしてナーティが戻ってきた。
「なぁなぁ、あんた負けちゃったのかよ、どうするんだ。」
「すまない。私としたことが・・・。」
そう言いあっていると先ほどのガタイのいい男達が寄ってきた。
「さて、お前達はここの賭博場に借金が出来ちまったわけだな。さ、追加分の10000Gを払ってもらおうか?」
なんとナーティは、双子の賭け分だけではなく、更に借金をして賭博を行っていたのである。
「そんなお金もうないよ! ナーティ、どうするのさ!」
「すまない・・・。」
そんな様子を見て、男達が笑いながら言った。
「金がないのかぁ・・・だったらその分稼いで貰おうかね!」
男達はセレナ達をつかむと、賭博場の奥から暗い地下道へと連れて行く。そしてその地下通路の先は、何と牢獄だった。三人は牢獄に投じられてしまった。
「おい! 出せよ!」
「暫くしたら出してもらえるぜ。十分リゲル様のために奉仕するんだな。がはは。」
男達はそう言いながらまた地下道に入っていった。どうやら賭けに負けた人間はここに送られる仕組みらしい。
「ねぇ、これって姉ちゃんが言ってたみたいじゃない・・・。飛んで火に入る夏の虫・・・。」
「な? だから言っただろ? あたしの言う事は正しいのだ。」
セレナが得意げ言う。シーナはそんなのんきな姉に怒鳴りつつ、心配そうにナーティに尋ねる。
「何喜んでるのよ! ・・・どうするの、ナーティさん。」
「ふう・・・。演技も疲れるものだな。」
ナーティがやれやれと言った様な素振りを見せながら、牢に投じられた時についたホコリを落としている。
「演技って・・・。 まさか、ナーティさん、わざと負けたの?」
「ああ。これで・・・自由に総督府の中を調べる事ができる。」
「自由? 何言ってんだよ。あたしたち囚われの身じゃないか。」
「ここは・・・総督府の中だ。こうして賭けに負けたものに強制労働をさせるのだ。賭博場での収入に加え、こうして労働力も確保しているというわけだ。」
「なるほど・・・。でも、そんなにうまく行くのかな。」
シーナはやはり慎重だ。確かに囚われの身で総督府の中を自由に歩き回る事などできるものなのだろうか。
「大丈夫だ。リゲルのことだ、女には心を許す傾向がある。うまく事を運べば相手の隙をつくことも容易だ。今回は情報を収集する事だけに集中するのだ。
この少人数だし、リゲルを倒そうとは思ってはいけない。わかった、特にセレナ。」
「何であたしを名指しで言うのさ! 全く信用されてないんだから。」
セレナがまた膨れ面をしてみせる。ナーティにはそれがたまらなく可愛く見えるようだ。
暫くすると、先ほどの男達とは違い、正装をした総督兵が牢の扉を開けた。
「お前達、外に出ろ。リゲル様がお呼びだ。」
そういって総督兵たちがセレナ達を連行する。中は意外と警戒感が無い様で、兵も疎らだ。
「セレナ、シーナ。中のつくりを良く覚えておけ。後で再び侵入した時に迷わない為にな。」


126: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/11/09 00:49 ID:gAExt6/c
こんばんわ。どうも横書きでは読みにくいと言う人は
ttp://nagumo-hij.hp.infoseek.co.jp/novel/mado/mado.html

このフリーウェアを使うと縦書きに変換できます。
もしよければ使ってみてください。
今日はそれだけです。。

127: 手強い名無しさん:05/11/11 15:01 ID:E1USl4sQ
三人はひときわ豪華で大きな扉の前まで連れてこられた。
「さぁ、この中にリゲル様はいらっしゃる。しっかり働いて来いよ!」
総督兵がそのまま三人を部屋に押し込む。中には無数の女達と賭博場で見たあの長身の男・・・リゲルが居た。
「リゲル様、先ほどの者どもを連れてまいりました。」
リゲルは周りにまとわりつく女どもから目を放し、セレナ達のほうを見た。
「ご苦労・・・。くっくっく・・・また私のコレクションが増えそうだな。三人とも美しいではないか・・・。」
リゲルはそう言いながらセレナ達に近づき、まじまじと顔を見る。
「な、なんだよ。」
「おう・・・威勢のいい少女だ。劣悪種でなければ・・・私のコレクションでも5本の指に入るところだったのにな。実に惜しい・・・ふっふっふっ。」
そういうとリゲルは、セレナとナーティを部下に命じて部屋から外に出す。その間に、リゲルはシーナの顔に手を伸ばした。
「優良種でありなおかつ美しい・・・。お前は私のコレクションに相応しい!」
その手を払いのけようとするシーナに、すれ違いざまにナーティが耳打ちした。
「いいか、どんな事があってもリゲルを怒らせるな。我々は情報を収集する為に潜入しているのだ。・・・シーナ、お前なら大丈夫だ。がんばってくれ。」
立ち止まるナーティに総督兵が鞭を打ちながら部屋の外に出す。シーナは自分ひとりだけ離されて、リゲルの元に残された事に不安を感じたが、同時に自分に課せられた任務をどうにかうまく遂行しようと考えた。

外に出された二人に、総督兵が何かを持って寄ってきた。
「おい、これに着替えろ。リゲル様の命令だ。それを着てそこら辺を掃除でもしてろ。」
渡されたのは侍女服と雑巾だった。
「げぇ・・・何だよこの服。 あの男、気持ち悪いし趣味も悪いのかよ・・・。」
「腰元か・・・。私の趣味には合わぬ服装だが・・・今回ばかりは止むを得まい。」
仕方なく着替える二人。それを見届けると総督兵たちは去っていった。 一体自分達は何をしにここに来ているのかわからなくなりそうだった。
「シーナ、大丈夫かなぁ・・・。 あいつって意外と気が小さいんだよね。」
「大丈夫だろう。リゲルも気に入っていたようだし。・・・さて、これである程度は自由に館内で身動きが取れるな。奇襲に使えそうな出入り口や、館内のつくりを今のうちに覚えるぞ。」
「うん、こんなところさっさとおさらばしたいしね。」
二人は掃除をする振りをしながら、館のあちこちを探索して回ることにした。

一方、アレン達はアクレイアでもスラブ街と呼ばれる貧困層、つまり人間族が集まる地域に来ていた。先ほどの商業地域とは違いひっそりとしている。
それに下水やゴミ処理施設が整備されていないのか、悪臭が漂っていた。まさに繁栄世界の裏の闇を浮き彫りにしている。
住民達は襤褸切れを羽織り、芋つるを煮て食事を取っていた。しかしその水も何処で汲んできたものだろうか、結構濁っている。衛生状況は最悪だ。
「ここは・・・酷いな。 さっきの場所とえらい違いじゃないか。」
クラウドは目の前の現実に驚きながら、そんな言葉を漏らした。もはやそれしか言う事のできない悲惨な状況だ・・・。
「ああ・・・。俺が昔来たときにも貧困街はあったが、こんなに酷くはなかった。国もある程度貧困者を援助しているようだったし・・・。今のここは・・・まさに地獄を具体化したような場所だ・・・。」
アレンも変わり果ててしまったエトルリアにただ驚くしかなかった。あのころも貧民街は酷いところだと思ったが、そんなレベルとはワケが違った。
「酷い・・・。イリアも・・・こんな事になっているのでしょうか・・・。」
惨状を目の当たりにし、アリスは祖国を考えてしまった。祖国も統治体制が崩壊しているはず。そうなれば弱者救済、ことのほか人間族への救済は皆無のはず・・・。更にイリアはその一年の大半が雪と氷に閉ざされる極寒の国。冬にここのような生活をしていたら・・・。
「わかりません。しかし、エトルリアを救った後、すぐにでもイリアへ向かいましょう! まずは目の前の問題を解決しましょう。」
アレンに励まされ、下を向いていたアリスが前を向く。俯いてはいられない。
しかし、一行は別の不可思議な現象に気づく。・・・女性の姿が見当たらない。何処を見ても男と子供だけしか居ないのである。
不思議に思った一行は、人だかりが出来ているのを見つけ、その真ん中に居る若者に聞く事にした。
「青年、ちょっとお尋ねしたい。」
アレンがその青年に話しかける。青年は少し警戒したのか、一歩距離を置いた。


128: 手強い名無しさん:05/11/11 15:02 ID:E1USl4sQ
「なんでしょうか?」
「何故ここには女性が居ないのですか? 先ほどから全く見かけないのですが。」
その青年はアレンたちを総督兵だと思ったらしい。旅の者と分かった途端、接し方も、回りの視線も変わった。
「女性達は・・・皆リゲルという総督のところに身を売りに言っているのです・・・。 貧困層の人たちは今日食べるパンにも困っているのです。それで仕方なく・・・酷い事です。」
リゲルは女性であれば、人間といっても寛大だった。だから女性達は僅かな現金を得る為に、リゲルの元に身を売りに行っていたのである。リゲルの周りにいた無数の女性の多くは、スラムの女性達だったのだ。
「何ということだ・・・。 しかも、風紀を向上すべき統治者自らがそんなことをしているとは・・・。」
アレンはただ驚くしかなかった。そしてそれと同時に怒りもこみ上げてきた。
「ひでぇヤツだな。そのリゲルってヤツは。 あーっ 余計にぶっ飛ばしたくなってきたぜ!」
「ええ、全くです。ただ、全てを力で解決しようとするのはいただけませんが。」
その青年は熱くなるクラウドを鼻で軽くあしらった。
「なんだよ、お前。むかつくヤツだな。」
「ムカついていただいて結構です。僕達はできるだけ争いによって犠牲が出ないように総督府を倒そうとしているのです。」
「くーっ! ムカツク!」
頭から湯気が出そうなほど熱くなっているクラウドをアリスがなだめながら聞いた。
「え、じゃあ、ベルンに対抗してる秘密組織って言うのは・・・。」
「そうです、僕達の事です。」
それを聞いてアリスは泣きつくクラウドを放り出して更にお願いした。
「お願いです。リーダーのパーシバルという方に会わせてください!」
アリスたちが事情を話すと、青年は快く了承してくれた。
「そうですか、それは僕達にとっても朗報です。さ、リーダーはこの奥におられます。」
一行は青年に案内され、スラム街の一番奥の家についた。中からは黒い煙が上がっている。
「こちらです・・・って! わぁ、またララムさんがなんか作ってるな!」
青年は家の中に走りこんでいった。一行もそれを追う。ララム・・・聞いた覚えがあるな・・・。確かダグラス様の養女様だったか・・・。その方もおられるのか。アレンはそう思いながら家の中に入った。
「遅かったな、セレス。」
「パーシバル様! どうしてララムさんに料理をさせるんです!」
「私は関与していない・・・。パント様が怖いもの見たさに作らせているんだろう・・・。」
その二人の会話を聞いて、アリスはびっくりした。アトス様が仰っていた、パント様の孫・・・セレスが今目の前に居たのである。
「貴方がセレスなのね! あぁ、神に感謝します。」
一行はパーシバルとセレスに事の全てを話した。最初は信じられないと言う様な顔をしていたが、暫くしてパーシバルが口を開いた。
「そうか・・・ロイ様の姫様達が・・・。姫がおられるということは結局あの後二人は結ばれたわけか。今頃天国で仲良くしているだろう・・・。」
「いえ・・・。お二人は、あの戦争が終ったら一緒になろうと約束しておられたようです。それが・・・あんなことになって。結局お二人は結ばれる事もないまま・・・。」
アレンが泣き出しそうになりながら語った。ベルンを後もう一歩というところまで・・・幸せをつかむまであと一歩というところまで迫っていた二人を襲った悲劇。それを救えなかった自分・・・。そう思うとアレンには今でもたまらなく辛かった。
「・・・。しかし、その姫様方ががんばっておられるなら、この大陸もきっと救われるだろう。我々も、貴殿らのお役に立ちたい。」
「感謝いたします。我々で力を合わせ、エトルリアにかつての栄光を取り戻しましょう!」
アレンとパーシバルはがっちりと握手した。パーシバルはこのとき、待っていた時が来た。この時を逃せば、二度はないと自分に言い聞かせていた。その様子を見てパントはいつもどおり穏やかな顔をしていた。
「アトス様・・・。炎の天使の使いが来ました・・・。時は満ちました。今こそ我々は立ち上がります。どうか見守っていてください。」
クラウドとアリスは、奥へ走っていったセレスを追って扉を開けた。するとその途端真っ黒な煙がもうもうと立ち込めた。
「うわっ、なんだ?!」
「おい、閉めろ! 何であけるんだ! ララムさん! もう止めてくださいってば! 普通の料理はこんなに煙は出ませんよ!」


129: 手強い名無しさん:05/11/11 15:03 ID:E1USl4sQ
暫くしてセレスが部屋から出てきた。顔は煤だらけである。
「ははは、お前何だよその顔!」
クラウドがセレスの真っ黒になった顔を見て笑い出す。セレスは怒ったように反論する。
「人の顔を見て笑い出すとは失礼な人ですね。先ほどから荒い人だと思っていましたが、やはり野蛮人でしたか。」
「なっ、何だとこのやろう! くそぅ、さっきから俺の事バカにしやがって! 何処が野蛮なんだよ!」
「全部です。」
「何をぅ!? 姉貴、何とか言ってやってくれよ!」
クラウドがアリスに助け舟を求める。
「セレスさん。無理を承知でお願いがあるのだけれど、フォルブレイズの書を・・・。」
「先ほども言いましたが、これは私がアトス様から直々に継承を許されたものなのです。まだ僕は貴女達を認めたわけではありませんから。」
そういうと外に出て行ってしまった。確かに従兄妹は見当たらないし、いくら盟友といっても出会ったばかりに人間に、はいそうですかと渡せるほどの物ではない。アリスは何とかあの子に信用してもらわなければと思っていた。
「かー、なんだよ。あの石頭! すかした喋り方しやがって! まるでどこかの女傭兵みたいだ!」
クラウドはまだ興奮が収まっていなかった。そこへパントが寄ってきた
「お若いの、どうもうちの孫が悪いね。あの子は不器用なところがあってね、ああ見えてもきっと君のことを親友だと思ったんじゃないかな。知り合い以外には気を許さない子だから。まぁ、仲良くしてやってよ。」
そういわれてやっと興奮の収まるクラウド。親友かぁ・・・西方では同年代の男の親友は少なかったからなぁ・・・。そう思いながら、クラウドは父親の元へ戻った。

そのころセレナは、家政婦姿で怪しまれない事を良い事に、屋敷内を徘徊していた。
「うわー、これすげー。ねぇねぇ、ナーティ。この像全部金で出来てるよ!」
駆け寄って金製と思われる像を触ったり、それに顔を映したりしてみる。
「やれやれ・・・。好奇心旺盛なのはいいがもう少しわきまえてくれよ。私達がここに居る目的を思い出せ。」
ナーティはセレナの首根っこを引っ張って像から降ろす。しかし、あまり威圧感はない。何時も格好ではないからだ。傭兵の服に細い騎士剣・・・ではなく、侍女服にホウキだ。どうも笑えてしまう。
「ぷぷっ。」
セレナは今までは我慢していたが、とうとう堪えられずに声が漏れてしまった。
「なんだ、いきなり。」
「だってさ、ナーティのその格好・・・。意外と似合ってて・・・あははっ。」
「う、うるさい! 私とて趣味で着ているわけではないのだ。言ってくれるな・・・。」
そうやって話を弾ませていると、向こうから怒鳴り声が聞こえた。
「おい! 劣悪種共! しっかり働け! さもないとお前らの連れがどうなっても知らないぞ!」
そうだった。シーナは半人質状態なのだ。行動を慎まないと・・・。ナーティはセレナを連れ、そのまま館の中のつくりや情報を仕入れようと再び動き出した。暫く歩いていくと、城の外に出られる場所を発見した。そこにはずらっと大きな機器が並んでいる。
「うわー・・・これはなんだ・・・?」
「それはアーチ発射台だ。噂には聞いていたが・・・これほどまでに並んでいると壮観だな。」
「アーチ台?」
「そうだ。遠くの敵に対して攻撃の出来る投擲台だ。お前には大きい弓といったほうが分かりやすいだろう。」
「なるほど・・・。」
「外から攻めてくる者はこのアーチの一斉掃射で一気に壊滅へと追い込まれ、そこへ歩兵が突撃されて息の根を止められるのだ。」
「ふーん・・・。だから容易には攻撃を仕掛けられなかったんだね。」
「そうだ。だから中に侵入する経路を予め探しておく必要があったのだ。・・・よし、他の場所も探してみるぞ。」

そんな日が三日ぐらい続いた。今日もセレナ達は雑用、シーナはリゲルの相手である。
リゲルはシーナを気に入ったようで、ずっと傍に置いて放さなかった。いわゆる「コレクション」の仲間入りを果たしたようである。
「くっくっく・・・。お前ほどの美形はそうそうはおらぬ。まだ幼さも残す容姿、雪のように白い肌、そして細く美しい肢体・・・フッフッフッ、私の求めていた美しさをお前は持っている・・・。」


130: 手強い名無しさん:05/11/11 15:04 ID:E1USl4sQ
リゲルがシーナの顔を手で撫でながら言う。シーナは心の中では逃げ出したい気分だったが、何とか情報を手に入れようと抵抗しなかった。
それに・・・周りの女性達から聞いた。この女性達は生計を立てるために嫌な思いをしながらリゲルにつかえているのである。それに比べれば・・・。
「私もリゲル様は最高にお美しいと思います。」
「くっくっくっ、そうだろう。我々は優良種の中でも特に美しいのだ・・・。お前と一緒に来た連中も、表面は美しいが、中に流れる血は劣悪種のもの。内も外も綺麗でなければ美しいとは言わんのだよ。」
「そうですね・・・。」
「ところで、お前は劣悪種をどう思う?」
姉達の事を汚く言うのは本当に心が痛む。・・・しかし、ここでホンネを言ってしまっては今までの苦労が台無しだし、周りの女性達を救うことも出来ない。
「醜くて・・・野蛮で・・・邪魔な存在だと思います。」
「そうだろう、そうだろう。ふふふ・・・お前は姿形だけでなく、考え方も美しいようだ。そうだ、今日の天馬の刻、私は劣悪種を一掃する為、スラムを襲撃する。お前も一緒に見物に来ないか?」
「えっ!?襲撃?!」
「そうだ。アクレイアの風紀が乱れているのは、醜くて野蛮で邪魔な劣悪種のせいだと私は考えた。だから、このアクレイアから根絶やしにすれば、アクレイアはもっと住みよくなる。」
「そうですね! 私もお供させてください!」
「くっくっく・・・お前ならそう言うと思っていたよ。じゃあ、私の美しいコレクションたち、私はその作戦を練るから、今日の宴はお開きとしようか。」
リゲルはソファーから立ち上がると、マントを翻し、隣の作戦室に入っていった。
その夜、牢獄に戻ったシーナはセレナ達に牢獄越しに先ほどリゲルが言っていた事を伝える。セレナ達の牢獄に方には、他の人間の女性も多く囚われていた。・・・スラム街の女性達である。女性達はセレナ達の正体を知っていたから、口々にセレナ達に救いを求める。セレナもこれ以上この人たちの泣き顔は見たくなかった。牢獄に囚われてから三日経つが、牢獄に戻ってくる女性達は皆泣き崩れていた。シーナも泣くまいと堪えていても、姉の顔を見るとやはり泣き出してしまう。セレナは妹を泣かせるリゲルが許せなかった。
「なぁ、ナーティ、情報もある程度収集したし、そろそろ親父たちと合流して一気にリゲルを倒そうよ。」
「そうだな・・・。アレン殿たちはきっとスラムへ出向いているはず。リゲルに狙われる前に対抗組織とコンタクトが取れていればよいが・・・。」
「姉ちゃん、悩んでる暇はないよ。急いで脱出してリゲルの蛮行を止めないと!」
三人の意志は同じだった。一刻も早く脱出して、アレンや対抗組織と合流する。そして総督府を倒す。しかし、その意志を、目の前の鉄格子が阻む。
「くそぅ・・・こいつをどうにかしないと・・・。」
「セレナ、お前のあの必殺魔法、あれと私の魔法で一気に鉄格子を吹き飛ばす。少々手荒だが致し方ない。鉄格子を破ったら一気に地下通路まで走れ。」
「わかった。」
二人は鉄格子めがけて気を集中し、大気中のエーギルを集める。巡回していた総督兵がそのエーギルの異常な流れに気付き寄ってきた。
「おい、お前達何をやっている!」
その総督兵を巻き込んで、二人は溜め込んだエーギルを一気に魔法として放出した。
「ホーリーランス!」
光の槍が無数に二人から放たれる。その槍は一気に鉄格子を突き破り、寄ってきたベルン塀を壁にたたきつけた。砂煙が上がり、視界が開けたときに壁を見ると大きな穴が開いていた。
「よし、総督兵が駆けつける前に一気に脱出するぞ。他の者達はここに残っていてくれ。必ず助けに戻ってくる!」
三人は電光石火の勢いでもと来た地下通路を通り、賭博場からカフェを抜けて一気に外に飛び出した。そして夜の光と闇に紛れてわからなくなった。

同刻、アレン達は着々と反乱の為の準備をしていた。武器に消費物資に・・・色々大変だ。戦は補給が絶たれては勝てない。
だから今のうちに用意する。更に総督府に気付かれないようにする必要もあった。念の入れように過剰という言葉はない。
「ん? パーシバル殿、この剣は・・・?」
「ああ、その剣はドラゴンキラーだ。相手がベルンということもあるし、18年前のように改造竜石を総督府が所有しているという事も考えられる。アレン殿も一本は携帯しておくといい。」


131: 第十四章:歪んだ正義:05/11/11 15:08 ID:E1USl4sQ
そうだ・・・。18年前、エトルリア軍を半壊に追い込んだあの改造竜石。もしあれを使われたら厳しい戦いとなる。いや、街中で使われようものならハーフの者達にだって命の危険が迫る。特効剣で一気に切り崩す事以外に解決法はない。
こんな準備の間にも、アリスはなんとかセレスに心を開いてもらおうと必死だった。
「やっぱりセレスは魔道師なのね。私も光魔法の練習をしているのだけど、なかなかうまくいかなくて。」
「ええ、僕の祖父は伝説の八神将の一人、大賢者アトス様の唯一の弟子でしたから。僕もその祖父を師と仰ぎ、基本的なことから学んできました。」
「そうね、貴方のお爺様はかつて魔道軍将をお勤めになられたほどらしいですしね。」
「はい。そして僕も、とうとう理の神将器を扱う事をアトス様から許されたのです。アリス様はプリーストなのですから、攻撃より味方の援護に徹したほうがよいのでは? 僕も癒しの杖の研究をしていますが、思うように出来なくて・・・。」
そこへクラウドが話しに入ってくる。
「へぇ、お前も杖が使えるのかよ。なぁなぁ、俺さっき怪我しちゃったから使って見せてくれよ!」
セレスにクラウドが腕を見せる。先ほど武具を移動させる際に擦り傷を作ったようで、赤くなっていた。セレスはそれを手ではたいた。
「いってー! 何しやがるこのやろう!」
「まったく、杖も無限に使えるわけじゃないんです。騎士ともあろう人間がそんな擦り傷で騒がないでください。」
「いちいちむかつくヤツだな。・・・ははーん、お前、本当は使えないんだろ?」
「な、何を言うんです。僕は破壊も癒しも扱う賢者なのですよ? 仕方ない、見ててください。」
セレスが自信満々にクラウドの腕にライブの杖をかざす。そして、気を集中し、その気を杖に送った。その瞬間だった。
「!? うぎゃっ。」
クラウドが悲鳴を上げて倒れこんでしまった。・・・どうやら失敗したようだ。
「何!? こんなはずは・・・。」
「いってぇ! 何だよ、やっぱお前使えないんじゃん!」
それにしてもこの二人、面白いように性格が正反対だ。アリスは二人の会話を聞いていると、まるでコンとでも見ているかのような感覚に襲われた。そんな騒ぐ二人の元にパントが寄ってきた。
「やれやれ、セレス。世の中にはお前より腕の立つ魔道師などいくらでも居る。余計な自信は捨てること。自信を持つことは悪くないが、過剰な自信を自信とは言わぬ。それは驕り、慢心というのだ。」
「はい・・・。申し訳ありません。」
「魔法を破壊に使うも、癒しに使うも、それは使い手次第。両立できてこその魔法だ。お前は破壊魔法は一級品だが、癒しはまだまだ素人。精進しなきゃいかんよ。」
「はい。クラウド・・・その・・・すまなかった。」
「へへっ、いいってことよ。それよりさぁ、フォルブレイズって見てみてぇなぁ! なぁなぁ、見せてくれよ!」
「ダメです。これは見世物じゃないんです。まったく、謝ったのがバカらしくなってくる・・・。」
「何だよ、ちぇ、連れないヤツ。」
そんな会話をしていると、なにやら突然あわただしくなってきた。向こうでは爆発するような音もする。一体何が起きたというのか。その方向に向かうと、血まみれの男が寄ってきた。
「皆さん、一体どうしたんです!?」
「ああ、セレス様、大変です! 総督府の奴らがここに攻めてきてやがる!」
「な、なんだって・・・?!」
まだ準備も万端でなく、皆調達などに出かけている為戦力も整っていない。総督兵たちが好き勝手に暴れている。そこにパーシバルが走ってくる。
「セレス、住民を奥に避難させろ。この状態で戦っても勝ち目はない。一旦退くのだ。」
後退する事は悔しかったが、今出て行って犬死しては元も子もない。かつて大国の軍の頂点に居たパーシバルにとっても、後退という選択は身を切る思いだった。
「撃て撃て! 全てを紅に染めつくすのだ! がははっ。」
リゲルは配下に命じて火矢をスラム街に撃ち続けた。簡素なつくりの家々は瞬く間に火に包まれる。逃げ惑う人々。
「くっくっく・・・このアクレイアに醜悪な存在は必要ない・・・。今日この場で全てを焼き払い、アクレイアに平和をもたらす。」
レイピアを鞘から抜き、逃げ惑う人々に向かって馬を走らせていく。その目は狂気に満ちている。しかも、その心に罪悪感はない。これこそが正義と思い込んでいるのだ。



132: 手強い名無しさん:05/11/11 15:08 ID:E1USl4sQ
「はっはっは・・・。何処まで逃げるつもりだね! 今日の私は何時もと違って紳士的ではないのだよ・・・私のコレクションが逃げ出してしまったからね・・・。」
とうとう追いつき、逃げている人の背中にレイピアの鋭い突きをお見舞いする。半裸同然のスラムの人々は為すすべなく倒された。スラム街は血の赤と、火の紅で真っ赤に染まった。繁栄を誇るエトルリア内での流血・・・しかもそれが統治者による住民への攻撃・・・あってはならないことだった。
「はっはっは・・・美しい・・・。この鮮血と業火の赤が、私の勝利を美しく飾る・・・。劣悪で醜いものは地獄に落ちるのだ!」

攻撃は1時間足らずで終った。リゲル達が去った後には、おびただしい血の海と、真っ黒になった町並みが、赤く怨恨の炎をくすぶらせるという、同じエトルリア内とは思えない惨状が残った。
「くそっ、遅かったか!」
その瓦礫の山に、ようやくセレナ達が到着した。総督府から脱出してスラム街を目指したが、アクレイアの中央から一番隅まで歩くには時間がかかりすぎた。火の手が上がったのを見て急いだが、手遅れだった。
「酷い・・・。これみんな、総督府の・・・リゲルの仕業だよね。」
シーナも許せなかった。これが、心の美しいもののすることか、「優良な」種族のやる仕業か。シーナのリゲルに対する怒りは頂点に達していた。
「・・・悔やんでも仕方あるまい。皆が生き残っているか探すしかない。」
三人は瓦礫の山と化した街を歩く。暫くすると人影が見えてきた。どうやら生存者が居るようだ。
「ちくしょう! 俺たちは見てるだけで結局何も出来ないのかよ! 俺たちは何の為に西方を出てエトルリアまで来たんだ! ・・・ちくしょう!」
「クラウド、落ち着いてください。あの状態で戦っても勝ち目はありません。相手は準備万端なのですから。・・・街は失いましたが、殆どの者はうまく逃げ切ったようです。」
「でもよう・・! なぁ、パーシバル将軍、あんたもこのまま手をこまねいて見てるってワケじゃないんだろ?!」
「勿論だ・・・。この借りは必ずや返す・・・!」
アレンは熱くなる息子を押さえながらふと総督府側を見た。すると、なにやら人影が見える。思わず剣に手が行くが、次第にその輪郭が明らかになってくると、アレンは安どの表情を浮かべた。
「セレナ、シーナ、無事だったか!」
「親父! これは一体どう言う事!? ここは街なんでしょ?!」
アレンはセレナ達と互いの情報を交換し合った。そして、反撃を開始する事に決めた。
「そうか・・・姫様方があのロイ様の・・・。」
パーシバルがセレナ達に寄ってきて顔を見る。・・・似ている・・・。顔つきも、後姿も、物事を真っ直ぐ見る眼差しも・・・。
「あなたがパーシバル様?」
「いかにも。これから我々は総督府を倒す為に攻撃を仕掛ける・・・そのお力是非お貸し願いたい。」
「もちろん! あたし達だってもうこれ以上あの総督を許しておけないし、ねぇ、みんな!」
セレナが仲間のほうを見る。皆既に覚悟を決めているようだ。
「おう! リゲルとか言う野郎! ぶっとばしてやる。 なぁ!セレス!?」
「今回ばかりは君と意見が同じようですね。僕もリゲルは許して置けません。」
皆士気は最高潮だ。中央で虐げられ、隅で何とか暮らしていたがそれすら否定され、帰るところも失った。もはやこの上状況を打開する為には総督府を倒すしかない。全てを力で解決するのはあまり好ましい事ではない。しかし、もはやこれしかなかった。
「我々も・・・貴方達に協力します! 私達も・・・ここの住人ですから・・・。」
そこに現れたのは・・・このエーギルの波動は・・・なんとハーフだ。セレナ達は最初は驚いたが、すぐにここの住人である事に気づいた。
結構な人数が居るのである。それは商売に失敗したり、リゲルに捨てられた女性なども含まれていた。
「私達ハーフを・・・人間達を蔑視するハーフを、ここの人たちは受けて入れてくれました。」
「あぁ、俺たちは考え間違いをしていたんだ。今のベルンの思想は間違ってる。同族として恥ずかしいよ・・・。」
「皆思想統制されてるんだ。俺も子供のころから人間は劣悪だと教えれてきた。だが・・・それが間違っている事にようやく気付いた。中に流れてる血なんて関係ない。問題なのは劣悪な心なのだと。」
セレナ達はハーフの中にも現状が間違っていると思っているものが他にも居る事に勇気付けられた。そして、いつかはこの考えが世界に浸透するように願った。そのためにも、自分達は前進あるのみだ。
「ありがとう! よぉーし、一気に進撃してエトルリアに光を取り戻そう!」


133: 手強い名無しさん:05/11/11 15:09 ID:E1USl4sQ
セレナが皆に掛け声をかける。皆は声を張り上げ、最高潮の士気を更に高めあった。進軍の作戦を練る為に一時解散する。その時セレナはセレスに話しかけた。
「よっ、従兄妹!」
「ふむ・・・君がセレナか。元気な子だな。よろしく。」
そこへシーナとナーティも寄ってくる。
「セレスさん、私はセレナの妹のシーナです。よろしくお願いします。」
「よろしく。・・こっちの方はお淑やかだね。」
それを聞いた途端、セレナが怒る。その様子を見てセレスもナーティも笑ってしまった。
「ふっ・・・。私はナーティという傭兵だ。以後お見知りおきを。貴方がティト殿のご子息か・・・。」
「こちらこそよろしく。僕の母上の名は確かにティトですが、貴女は私の母上をご存知なのですか?」
「いや、『疾風の天馬騎士』と謳われた傭兵の鏡だからな。 私の尊敬する人物だ。」
「母上の事をそう言って貰えると光栄です。さ、皆さんも早く奥へ。パーシバル様がお待ちです。」
皆で作戦を練ることになった。しかし、作戦も何も、選択肢は一つしかなかった。街中での本戦を避けて、深夜に総督府へ少数で潜入し、一気に潰す。これしかなかった。その侵入が勘付かれないようにする為にも、街中で騒ぎを起こす必要があった。
そこで、対抗組織の人間がまず街中で反乱を起こし、注意がそっちに向かっている間に、セレナ達が一気に総督府を制圧してしまうという作戦に出ることになった。
しかし、やはり問題はリゲルだった。性格が狂気的な上に、ロードナイトと言うクラスに就いているということはかなりの腕前という事だ。歩兵は分が悪い・・・がこの戦いをものにしなければ、エトルリアは・・・いや世界は終る。セレナ達のとってこの宵が、まず訪れた峠だった。

深夜でも商業地域には静寂という言葉は存在しない。いつでも活気に溢れ、騒がしい。しかし、今日の夜は何か違った。活気によって騒がしいのではなく、怒号と悲鳴によって空が裂けんばかりの騒がしさが商業地域を襲っていた。
「暴動だ! 劣悪種共が暴動を起こしたぞ!」
逃げ惑う商人や、武器を持って反撃するものまで、商業地域は一気に混乱に陥った。その混乱は瞬く間に周辺に広がっていく。とうとう火が放たれる家まで現れる。商人の家に押し入り、小麦の詰まった樽を打ち壊す。それに乗じて火事場泥棒まで現れる。警備をしていた総督兵達だけでは全く収拾がつかない。
そんなときも、リゲルはコレクションたちと戯れていた。まるで他人事のように。
「リ、リゲル様!」
「なんだ、こんな深夜に騒がしい・・・。」
「街中で暴動が起き、収集の着かない状態となっております!」
「何・・・? 劣悪種共は根絶やしにしたはずだろう。それなのに何故だ。」
リゲルは不思議がった。先ほどの戦いでスラム街―劣悪種の巣窟―は叩き潰したはず。それなのに何故だ。
「わかりません・・・暴動は周りへ周りへと徐々に波状しております。どうかご指示を!」
「やむを得ん・・・。総督府の総力を持って鎮圧に当れ。私は遠距離砲の指揮を取る。」
「リゲル様!? 街中に向けてアーチ台をお使いになられるのですか? それだと住民にも被害が出て賛同できま・・・うぐっ。」
ルゲルはその兵に向かって容赦なくレイピアで突いた。レイピアを抜き取り、血を振り払いながら他の兵に言った。
「貴様達は私の僕だ。僕が主人に意見するなど言語道断・・・。お前達は美しい私に従っておればいいのだ、散れ!」
兵達は焦って走り出す。そして、リゲル自身も部屋を出て、大声で叫んだ。
「全軍、戦闘配備に就け! 騎馬隊は暴徒の鎮圧の為に出撃せよ! アーチ部隊はすぐさま主砲の発射準備に取り掛かれ!」
リゲル自身も騎馬兵だが、彼は前線に出ようとはしなかった。前線に出れば遠距離砲の巻き添えを食らう危険性があったからだ。
「フッフッフ・・・。これからの英雄は何も戦場で前に出ている必要はない・・・。安全な作戦室で参謀と作戦を練り、それを部下に伝える・・・これこそが美しい戦い方だ。」

街中では徐々に反乱軍が勢力を広め、総督府に近づきつつあった。
「諸君、私はセレナ殿たちと共に、一気に総督府に侵入する。諸君らは街中で総督兵の勢力を抑えていてくれ。ただし、武器を持たない住民へは絶対に攻撃するな!」


134: 手強い名無しさん:05/11/11 15:09 ID:E1USl4sQ
パーシバルが皆に叫ぶ。そして、次第にあの地下牢へと続くカフェに近づいてきた。セレナ達は一気に地下牢を経て総督府内に侵入するつもりだ。中の構造はバッチリ頭に入っている。警戒レベルも統治レベルも最悪のアクレイアだ。街中で警備していた総督兵だけでは全く歯が立たない。
しばらくして、総督府の騎馬兵隊の第一陣が到着した。反乱軍と壮絶な衝突を引き起こす。こんな密集地帯では安易に魔法は使えない。セレナ達も最前線で一緒に戦う。セレナはナーティもすばやい身のこなしと巧みな剣撃で総督兵を切りきり舞いさせている。シーナは得意の空中遊撃で騎馬兵隊の隊列をうまく乱していく。隊列の乱れた部隊の中で弓兵が弓を構えることなど出来なかった。アレンが渾身の力を槍にこめて一気に突き抜く。その槍は総督兵が構えた槍をへし折り、胸元へと突き刺さった。一撃の元に倒れる総督兵。磨き抜かれた槍術は総督兵のそれとは比べ物にならなかった。
それに負けじとクラウドも総督兵と互角の戦いを見せる。傷は増えてしまうがこれぐらいでギャーギャー言ってられない。そう思っていると後ろからリブローが飛んできた。セレスだ。
「まったく、君だけですよ、ボロボロなのは。しっかりしてくださいよ!」
「うっせ! 俺だってがんばってるんだぜ?!」
二人の会話にはとげがあるように見えた。しかし、それも相手をよく知っての事。一緒になって余り時間は経っていないが、二人はお互いの事をよく理解していた。
戦況は反乱軍有利だった。しかし、相手も数が多い。騎馬兵隊も二陣、三陣とどんどん送り込まれてくる。彼らの武器も、賭博などで住民や旅人から搾り上げた金のおかげで質がよいものばかりだ。しかし、数だけではなかった。こんな密集地域では騎馬兵はうまく機能できないのである。
街中という狭いところでは圧倒的に歩兵が有利だった。
そのまま反乱軍有利で進むかと思われたその時、突然闇夜から真っ赤な火の玉が飛んできた。
「いかん! 下がれ!」
パーシバルの声で一回引く反乱軍。先ほどいた場所に大きな日のついた塊が振ってきて、大きな穴を開けた。
「I? なにこれ!」
セレナが声を上げた。いきなり空からとんでもないものが降ってきたのである。驚くのもワケがない。
「これが・・・アーチだ。まさか市内に向けて撃ってくるとは・・・リゲルは正気か・・・?」
ナーティもこれには流石に驚かずに入られなかった。いくらリゲルでも、同族に被害が出るような戦い方はしないだろうと読んでいたのである。その読みが見事に外れてしまった。
アーチ弾はどんどん放たれてくる。もうこうなっては戦う何処炉ではなかった。無差別に攻撃を仕掛けている・・・というより、アーチにそこまで正確な精度は期待できなかった。総督兵もかなりの数が巻き添えになっている。
「全軍、守りを固めろ! シーナ殿! あなたもあまり上空を飛ばないほうがいい。狙い撃ちにされる。」
パーシバルに指摘され、シーナはペガサスに命じ低空飛行を始める。アーチ弾がまるで流星群の如く降り注ぐ。その火の玉が町を火の海に変えていく。リゲルは平原での戦法をそのまま城下町で行ってしまっていたのである。被害は大きくなるばかりであった。
しかし、暫くしてぴたりとアーチ弾が止んだ。その場に居た全員が、敵味方問わず上空を見上げた。
「しめた、相手はタマ切れだ。次の充填までしばし時間があるだろう。一気に進軍するぞ!」
アーチによる爆撃の少しの合間を縫って進軍し、やっとの事で、反乱軍の最前線がカフェを通過した。
「諸君、では我々は敵将を討伐に向かう。諸君らの善戦を期待する!」
パーシバル率いる精鋭部隊が一気にカフェ何になだれ込む。当然中には人はいない。カフェも奥の賭博場もそのまま騎乗したままで突っ切り、一気に総督府の中に潜入する。
そして、中にいたわずかな総督兵を疾風の如きスピードで沈めながら作戦本部たる遠距離部隊を狙う。
アーチ発射地点では、リゲルが指揮を振るっていた。
「はっはっは! 撃て!撃て! 劣悪種共を見殺しにしろ! 戦いに犠牲はつき物だ!」
その狂気の目がアーチの着弾点に注がれる。そこでは小さな赤い塊が一気に爆発して広がる様があった。
「くっくっく・・・いいぞ!いいぞ! 美しい! 最高だ! はははは!」

そこへ総督兵が血相を変えて走りこんでくる。
「た、大変です! リゲル様!」
その慌てように、リゲルも何かと後ろを振り向いた。
「総督府内に侵入者が・・・がはっ。」
そこまで言うとその総督兵は倒れてしまった。後ろには黒い騎士・・・。
「き、貴様は・・・!」
「覚えていたか、リゲル・・・。今日こそは今までの借りを返させて頂く!」
パーシバルだった。周りにはセレスやシレナ達もいる。


135: 手強い名無しさん:05/11/11 15:09 ID:E1USl4sQ
「お前がリゲルか! この野郎、散々住民を苦しめやがって! 同族として許して置けねぇ!」
「そうよ! それに昨日までの借りをたっぷりと返してあげるわ!」
クラウドとシーナが前に出る。同じ血が流れるものとしてリゲルは許しておけなかった。
「なんだ・・・? 私を裏切った薄汚い豚と、醜い下賎な輩か。貴様たちには用はない、皆のもの、こやつらを討ち果たせ!」
今までアーチ台を操作していた総督兵たちが一斉に弓に持ち替える。
セレナやナーティはその弓兵たちに向かっていく。二人で協力しながら遠距離攻撃をする敵を片付けていく。光速の二刀流でセレナがまた一人、弓兵を斬り倒す。
「へへっ、どんなもんだ!」
そこへ背後から他の弓兵が狙った。剣士であるセレナは、騎士と違いそこまで装甲の厚い鎧は着ていない。身のこなしが遅くなるからだ。しかしそれは防御力は紙であることも意味していた。矢など当ればかなりのダメージを受ける。
「危ない!」
ナーティが駆け寄ってきて、放たれた矢を件で叩き落とす。そして次の矢を番えようとするその弓兵に神速の如きスピードで近づき、一気に斬り倒した。セレナはその闘気に一瞬ヒヤッとした。
「まったく! 気を抜くなといっているだろう! しっかりしろ!」
「ありがとう・・・。また助けられちゃったね。しっかりしないとダメだねあたし。」
「わかったらグズグスするな。」
ナーティはそういうとまた他の敵に向かっていった。あいつ・・・いつもあたしを心配してくれているんだなぁ・・・。あたしが将なのに・・・情けない! がんばらないと!
その間にパーシバルやクラウドにシーナ、それにセレスはリゲルと対決していた。
「貴様ら醜き劣悪種が束になったところで私には敵わん。美しいものは敗北を知らぬのだ!」
リゲルが一気に間合いをつめてクラウドの襲い掛かる。相手はレイピア。レイピアというのは騎士や重騎士に対して特に威力を発揮する突くタイプの細剣で、素早く攻撃することが出来る。クラウドは槍でレイピアの射程に入らないように何とか応戦しているが、なかなか攻撃をあてることも出来ない。
「くっくっく・・・貴様の生兵法では私には勝てぬぞ! 喰らえ!」
とうとうリゲルのレイピアがクラウドのわき腹を貫いた。
「うがっ。」
鎧をしていた為に致命傷には至らなかったが、かなりのダメージを受けてしまう。アリスがすぐさま回復魔法を飛ばす。
クラウドに追撃を入れようとしたリゲルに手槍が飛んできた。リゲルは避けきれずに顔をかすめた。
「兄ちゃん! 大丈夫?!」
シーナだった。重い手槍の扱いにも大分慣れた。今では立派に天馬騎士としてその仕事を果たしている。
「貴様ぁ! この美しい私の顔に傷を着けおって! 許さん! 降りて来い!」
リゲルがシーナに向けて手槍を投げ返そうとした。しかし、その槍を何か光速の風刃が弾いた。エイルカリバーだ。
「僕の従兄妹には指一本触れさせませんよ!」
セレスだ。そのときを見計らい、パーシバルが一気に銀の槍で突っ込む。リゲルは避けきれず直撃を受けてしまう。
「うお・・・っ」
「忘れるな・・・貴様の相手はこの私だ。 エトルリアを蹂躙した罪・・・その身であがなってもらう!」
「くっ・・・ちょこざいな!」
アレンとパーシバルという熟練の騎士二人がリゲルに襲い掛かり、クラウドやシーナ、そしてセレスにアリスがそれを支援する。いくらリゲルがベルン五大牙の一人といえど、歴戦の勇者二人と更に若い力の前に少しずつ押され始める。
とうとうシーナが背中からリゲルを捉えた。それに反撃しようとするリゲルをクラウドが抑える。
「おのれ! 雑魚共めが!」
リゲルがクラウドに向かってレイピアを向ける。この至近距離では避けられない・・・! しかし、次の瞬間、漆黒の剣がリゲルのレイピアを弾き飛ばした。
「!?」
そしてそのまま銀の剣を振り上げ、一気に切り倒した。 パーシバルだ。
「そんな・・・この私が・・・世界で一番強く美しいこの私が・・・こんな劣悪種に・・・!」
パーシバルは静かに剣を鞘に収め、倒れたりゲルに近づく。周りの総督兵を倒し終えたセレナ達も集まってきた。


136: 手強い名無しさん:05/11/11 15:10 ID:E1USl4sQ
「優良か・・・劣悪か・・・。それは流れる血で判断できるものではない・・・。劣悪なるもの、それは悪しき醜い心だ。 お前の心は醜い・・・。」
パーシバルの台詞に、リゲルは逆上した。
「劣悪なものは悪しき心だと!? 私が醜いだと!? ふざけるな! 私の母上を・・・抵抗もしなかった我が母を殺した人間が! 軽々しく語るな!」
「それが・・・お前が人間を恨み蔑む理由か・・・。」
ナーティが訊ねる。そうだった。リゲルは幼いころ、人間によってその母を虐殺されていたのである。弄るだけ弄って最後には殺してしまった。まるで人とは扱わないかのように。その日からリゲルはおかしくなっていた。美しい母様を殺した人間は醜い生き物であると言い聞かせ少年時代を過ごした。その環境が彼を狂気的な人へ変えてしまったのである。
「そうだ! 貴様らこそ醜い心の持ち主だ! 劣悪種と呼ぶに相応しいのだ! お前達は私と道連れにしてくれる!」
そう言うとリゲルは懐から何かを取り出した・・・。
「!? いかん! 皆離れろ!」
ナーティが皆に叫んだ。次の瞬間、凄まじい閃光と衝撃波がリゲルから発せられ、目を開けて散られなくなった。アレンやパーシバルにはわかった。これは・・・改造竜石! 
案の定、目の前には大きな翼竜が現れた。その目は狂気に満ちている。
「な・・・っなにこれ・・・。」
あっけにとられるセレナ達。セレナ達は竜を見るのは始めたの事だった。その大きさに仰天しながらも、なんとか倒す方法を模索する。
「消えろ! 消えろ! 貴様ら劣悪種は滅びる運命にあるのだ!」
翼竜と化したリゲルは空中からブレスを放ってくる。先ほどの衝撃で総督府は天井が吹き飛び、まるで闘技場の如く何もない空間になっていた。
「くそっ、空中に居られたのではドラゴンキラーも役に立たないではないか!」
アレンが歯軋りした。せっかくのドラゴンキラーも空中に相手が居るのでは届かない。
その間にも、容赦なくリゲルはブレスを吐きまくる。狭い足場では避けることもままならない。
セレナとシーナが空中に舞い出た。二人なら空中攻撃をすることが出来る。
当為の二刀流ドラゴンキラーで一気に・・・。セレナはそう考えていた。しかし、相手とは実力が違いすぎた。リゲルに翼で体当たりを喰らい、空中から地面へ叩きつけられてしまった。
「うあっ!?」
「セレナ!」
アレンが走り寄る。体を強く打ったためか、体が動かない。パーシバルも手槍で反撃するが、硬い鱗の前に全くはがたたない。
「そうか! フォルブレイズだ! セレス、フォルブレイズを撃て!」
パーシバルがセレスに叫ぶ。しかし、この狭い足場で絶えずブレスが吹きすさぶのでは、フォルブレイズのような高位で詠唱に時間のかかる魔法など撃てるはずもない。
「劣悪な心を持つ貴様らこそが劣悪種だ! 劣悪種をこの世から排除することの何がおかしい! 貴様らは滅んでしかるべき種族なのだ! フッフッフ・・・燃え尽きろ!」
その圧倒的な力の前に、どんどん消耗していく。このままでは皆が危ない・・・。そんな時、セレナは自分の奥からあの声が聞こえてくるのを感じた・・・まずい!
「・・・? セレナ? どうした?」
セレスを抱いていたアレンがセレナの異変に気付く。・・・何かをつぶやいている。その声は次第に大きくなり、皆に聞こえるほどになってきた。
「ワレニ アダナスモノ、スベテ ソノ チカラヲ モッテ、メッセヨ。」
「! まずい、アレン殿! セレナから離れるんだ!」
ナーティが叫び、アレンをセレナから離れさせる。その途端、セレナが起き上がり、翼を広げたかと思うと一気に空中まで飛び上がった。さっきまで身動きが取れなかったはずなのに。
「セレナ!? 一体どうしたんだ! そんな状態で行ったら危険だ!」
アレンが呼び止める。しかし、本人には全く聞こえていないらしい。光の槍の魔法を放ちながらどんどんリゲルに近寄っていく。
「まずい・・・セレナが力の暴走を起こしている・・・しかも完全に。今のあいつは、意思に反して体が勝手に動いている状態だ。何を言っても通じない・・・。」
「そんな!」
皆はただ見ているしかなかった。性格が豹変している・・・。


137: 手強い名無しさん:05/11/11 15:10 ID:E1USl4sQ
「あはははっ。 私に歯向かう者は皆塵に変えてくれる! 消え失せろ!」
詠唱もせずに魔法を連射する。それに怯んだリゲルに目にも留まらぬスピードで剣撃をお見舞いする。持っているのはただの鉄の剣のはず。鉄の剣で竜相手にダメージを与えられるはずがないのだが、リゲルは反撃はおろか、仰け反ってしまっている。
「ぐわっ、何だ・・・この小娘の力は・・・! 体が・・・動かぬ・・・。 うがっ・・」
リゲルが悲痛なうめき声を上げる。そんなリゲルの反応を楽しむかのように、セレナは攻撃を休めるどころか逆に激化させる。
「ぎゃはははは! もがけ!苦しめ! 全てのものは私の前にひれ伏すのだ! 逆らうものは微塵に砕けろ!」
鉄の剣が、リゲルの硬い鱗を突き破った。一気に崩れ落ちるリゲル。だが、それでも攻撃を止めようとはしない。
「あははははっ!」
見かねたナーティがセレナに近寄る。そして、何とか大人しくさせようとした。
「セレナ、落ち着け!」
セレナはそちらを鋭く睨んだ。シーナはその目を見てゾクっとした。鋭く光る眼光に、血走った目、そしてどこか輝きのない瞳・・・今の姉は自分の知る姉ではなかった。
「私に命令するのか? 面白い。」
セレナが今度はナーティに刃を向けた。ナーティは避けているが攻撃は出来なかった。
「どうしたどうした! ぎゃはははは!」
「やむを得ぬ・・・。」
ナーティは仕方なく剣を抜き、セレナに向かって突撃した。その際、セレナから強烈な一撃を貰ってしまう
「くっ・・・。」
気が薄れそうになるほど強烈な力。こんな小娘の何処からこのような力が沸いてくるのか・・・。そう思いながらも、ナーティはセレナの翼を切りつけ、怯ませた。
「ぎゃああ!」
間髪居れずにみぞおちを殴りつけて気絶させた。・・・やっと静かになる・・・。
「はぁはぁ・・・この・・・手間をかけさせて・・・。」
ナーティも倒れこんでしまった。一堂があっけに取られていると、後ろから何かうごめく音が・・・。リゲルが起き上がったのである。
「ぬおおおぉぉぉっ、死ねん! 貴様らを道連れにしなくては死ねん!」
「今だ!」
セレスが魔道書を広げ、詠唱を始めた。周りのエーギルの流れが一気に変わり、渦巻いた。地響きまでもが起こりだした。
「受けろ! 炎の超魔法! 業火の理! フォルブレイズ!」
リゲルの足元が地響きを起こしなら真っ二つに割れいく。そして、その地割れから、凄まじい勢いで炎とマグマが噴出した。その熱風が、竜化したリゲルを軽々と持ち上げる。そして、その灼熱にどんどん焼かれていった。
「うお・・・・! ・・・私は・・・敗れるのか・・・! 母上・・・。」
地響きと熱風が止むと、リゲルはそのまま力なく倒れこみ、人の姿に戻って行った。
「私は・・・一体何の為に・・・生まれてきたのだ・・・。母上と楽しく過ごしたかった・・・それを・・・人間が・・・!」
リゲルを前にパーシバルが膝を突きながら言った。
「人間にも・・・確かに悪しき心を持つものは居る・・・しかし、それはハーフとて同じこと。お前も元はそうではなかったにしろ、住民の命を顧みない統治を行った心悪しき者だ。一部だけを見て・・・全体憎んではならんのだ・・・。私はハーフだからと言って憎むようなことはしない。騎士の誇りにかけて誓おう。」
それを聞いたリゲルは、何か悟ったように答えた。
「くっくっく・・・私は・・・母の愛が欲しかった・・・。それを人間に奪われた・・・その事実に変わりはないのだよ・・・。だが・・・、貴様のような偽善者が一人ぐらい居ても・・・いいかもしれぬな・・・。」
そういうとリゲルは静かに目を瞑って逝った。ここに、やっとエトルリアの平和は取り戻された。いや、こここそが平和へのスタートラインなのだ。これからやらねばならぬことが山のようにある。感慨を催している暇はない。ミルディン様・・・私は必ずや、王国を再建して見せます。パーシバルの背に何か強いものを、セレスは感じ取っていた。


138: 手強い名無しさん:05/11/14 17:27 ID:E1USl4sQ
エトルリア終了・・・。
長い・・・長すぎる。
書いてて思うにやっとエトルリアかよ! って感じです。

こんな感じですが生暖かく見守ってもらえればと思います。
 

139: 第十五章:種族を超えて:05/11/20 23:45 ID:9sML7BIs
あたしを呼ぶ声がする・・・。この声は・・・母さん? いや・・・母さんはとっくに死んでるんだ。
じゃあ、この声は・・・? 声が次第に近くなってきて、あたしは目が覚めた。
「う・・・ん? ふあぁ〜 よく寝た。」
起きた部屋は見慣れない大きな部屋。しっかりとした石造りに様々な調度品が置かれている。・・・どこかのお城?
「やっと目を覚ましたか。」
その声にあたしは振り向いた。その先にはナーティが居た。シャツにズボンという服装の下に包帯が見える。こういう格好をしてれば、ナーティも案外普通の女性だ。
「あ、ナーティ、おはよ。」
「おはようではないだろう。全く・・・ほとほと手が焼ける主だ。」
ナーティはそういうと窓のほうを向いてしまった。相変わらず無愛想なヤツ・・・。そう思って外を眺めてみると、外には人が一杯居た。
そういえば自分にはリゲルに吹っ飛ばされた後の記憶がない・・・。あの後どうなっちゃったんだろうか・・・そう考えていると親父が飛び込んできた。
「セレナ! あぁ・・・無事でよかった・・・。」
アレンがセレナの包帯を取り替えながら言う。よく見ると全身怪我だらけだ。・・・ってそれを見た途端、体が痛くなってきた・・・。
「いたたたたっ、親父、もっと優しく巻いてよ!」
「無茶をするからこうなるんだ。」
親父はそういいながらきつく包帯を巻く。それにしてもここはどこなんだろう。あの戦いはどうなったんだろう。
「なぁ親父、ここはどこ? リゲルは、総督府はどうなったの?」
「お前は・・・記憶がないのか?」
アレンは驚いたように答えた。あれだけ大暴れして全く記憶がないとは信じられなかった。
「記憶がなくても仕方ないだろう。あの時セレナは完全に力の暴走を起こしていた。そうなればセレナはただの操り人形だ。本人の意志はその力によって封じられていたのだろう。」
「えぇ?! それ、どういうこと?」
セレナが驚いて聞いた。また自分は暴走していたのか・・・自分の知らぬ間に。アレン達はセレナに事の次第をすべて話してやった。
「そんな・・・。」
「信じられないかもしれないが、本当の話だ。でも、セレナとセレス様のおかげで我々はリゲルを倒すことが出来た。それに変わりはない。」
アレンが何とかセレナを励まそうとする。しかし、セレナはショックを受けていた。自分がそんな風になってしまうなんて・・・自分で自分が怖くなってきた。ナーティも続ける。
「そうだな・・・お前は強くなってはいる。しかし、まだまだ力不足だ。もっと努力をしないとな。そのためなら私も協力しよう。」
「うん・・・ありがとう。ところで、ここはどこ?」
「ここは旧エトルリア総督府の中だ。ベルン兵は皆投降した。今は市街戦で難民化した人たちが多く集まってきている。」
そうである。リゲルは市街地に向けて、容赦なくアーチによる遠距離砲を雨のように注いだ。町は当然火の海と化し、難民が続出した。今はパーシバルを中心にして統治機構の再建を目指していた。ハーフとの溝は深いが、反乱軍側に居たハーフなども皆を粘り強く説得していた。
その様子を見ていると、シーナやクラウドが飛び込んできた。
「姉ちゃん! よかった、元に戻ってる。」
「ホントだ。ったく世話の焼ける妹だぜ。あの時のセレナは天使というより悪魔に見えたぜ、マジで。」
兄妹達の言葉にやはり自分が暴走していたんだと改めて思った。天使というより悪魔・・・自分が何をしていたか覚えがないから怖かった。
「そんな顔をするな。自分の未熟さを悔やむなら、しっかり精進しろ。怪我を治してからな。」
そういうとナーティは外に出て行ってしまった。冷たいけど、本当の事だ。もっと強くならなくちゃ・・・剣も心も。そうじゃなきゃ・・・夢みたいに・・・。
「何だよあいつ。相変わらず冷たいヤツ。」
クラウドがナーティを罵った。セレナがこんな辛い思いをしている時ぐらい、もうちょっと温かい声をかけてやってもいいのに。
「そう言うな。ナーティ殿はセレナが眠っている間、食事もろくに取らずに、夜通し看病してくれていたんだ。あれがきっと、精一杯の温かい言葉なんだよ。」


140: 手強い名無しさん:05/11/20 23:45 ID:9sML7BIs
「え!? ・・・あいつが?」
アレンの言葉にセレナは驚いた。あいつが・・・あたしの事をそんなに心配してくれていたなんて思わなかった。厳しくて、冷たくて、いつも突き放すような態度のあいつが・・・。
「よし、もう大丈夫。寝てられないよ。」
そう言ってセレナが起き上がろうとする。みんなが自分を心配してくれている。もうこれ以上余計な心配はかけられない。
「姉ちゃん! ダメだよ、寝てなきゃ。」
無理をする姉をシーナが無理矢理寝かせつける。シーナには分かっていた。姉が無理をしていることが。自分が姉を助けてやると誓ったのに、また暴走させてしまった。シーナも責任を感じていた。そこへ、パーシバルとセレスが入ってきた。
「お目覚めか、姫。」
「あ、将軍。迷惑かけてごめんなさい。」
「何を言う。貴方のおかげで我らは勝利をすることが出来た。こちらこそ貴女に無理な負担をかけさせ、すまないと思っている。」
「あたし、まだまだ未熟なんだ。だから自分の力を制御できない・・・。もっと、もっと強くならないと。」
「そうだな・・・。世界中が、貴女の救いの手を待っている。その全ての声に応えるには、あなたまだまだ幼く、そして未熟だ。」
「うん・・・。あたし・・・自信がなくなってきたよ。」
「しかし、貴女には世界を救うだけの力があることは、今回の事で分かったはず。あとはその力を自由に制御できるように精進すればよろしいのだ。」
パーシバルはセレナを励ました。かつて、セレナの母、シャニーを対してそうしたように。セレスも何とか従兄妹を励まそうとした。
「そうですよ。僕もセレナの力には驚きました。それに・・・セレナには人をひきつける笑顔がある。そんなしょぼくれた顔を誰も期待してはいませんよ?」
皆が見たいのは、セレナの笑顔。セレナの笑顔はどんなに辛い時でも周りを明るくする。太陽のような・・・ひまわりのような、そんな存在だ。
「うん、ありがとう。あたしもっとがんばるよ。らしくなかったかな!」
そういいながらにこっと皆に笑顔を見せた。常に笑顔でいることは早々簡単に出来る事ではない。心の強さも、大切な武器だ。パーシバルは自分にも言い聞かせるように思っていた。
「さて、怪我が癒えたら、すぐにエトルリアを発つのだろう?」
パーシバルがセレナ達に聞く。世界中が救いを求めている。長居はしていられない。
「うん。すぐにでも出発したいけど・・・こんな体じゃ足手まといだよね。アリスの姉貴に治療してもらったら、すぐに出発するよ。」
「アリス様は今我々の手伝いをなさっていただいていてきっと疲れているだろう。あなたもゆっくり怪我を治すといい。」
アリスはパーシバル達と難民への対応をしていた。きっと祖国でも同じ事をすることになるに違いなかったから、ここで経験をつんでおこうと考えたようだ。更にパーシバルが続ける。
「旅に出るなら、セレスも一緒に連れて行ってはもらえないだろうか?」
この言葉にセレスは驚いた。今まで何も知らされていなかったからである。
「え!? しかし、それではパーシバル様が・・・。」
「お前はまだ若い。将来のエトルリアを担う為にも、世界を回って色々なものを見て勉強してくるのだ。それに・・・姫たちはフォルブレイズを必要としている。・・・お前を必要としているのだ。」
「セレスも来てくれるの! わぁ、凄い頼りになりそうだ! よろしくね。」
セレナがセレスに笑顔で声をかけた。セレスはこの笑顔に弱かった。嫌と言えなくなる・・・。
「パーシバル様がそこまで仰るなら仕方ないでしょう。僕も及ばずながら、力になろう。まぁ、そこの見習い騎士よりは活躍してみせるよ。」
セレスがクラウドのほうを見ながら言った。その途端やはり頭に血が上るクラウド。
「なんだとっ! お前こそ見てろ! 吠え面かかせてやる!」
そういうクラウドに拳骨をしながらアレンが言った。
「バカモノ! セレス様はリグレ侯爵家の正当な跡継ぎ様であらせられるぞ。そのような口の聞き方があるか! 申し訳ありません、セレス様。」
「いや、いいんですよ。そいつとは気が合うし、アレンさんも呼び捨てで構いません。僕のほうが年下ですし。」


141: 手強い名無しさん:05/11/20 23:46 ID:9sML7BIs
「しかし・・・。」
「親父、こいつがいいって言ってるんだからいいじゃねーか。俺もこいつに様なんかつけたくねーし。」
「クラウド!」
アレンがもう一発、クラウドに拳骨を食らわす。
「はは、僕もお前に様なんか付けて欲しくなよ。どちらが上か、早速模擬戦でもしようじゃないか。」
「望むところだ!」
二人は部屋を走り去って言った。そんな様子をパーシバルが見届ける。
「ふふ、セレスも同年代の友達がいなかったから寂しかったんですよ。さて、あまりここに長居しては姫の怪我に障る。我々も外に出ておきましょうか。」
一行がセレナを残し、部屋から出て行く。シーナは皆が言ったところを見計らい、姉に言った。
「ごめんね、姉ちゃん。」
「何が? まさかあんたあたしの分のご飯まで食べちゃったの?」
「あのねぇ・・・姉ちゃんじゃあるまいし。・・・戦場でまた姉ちゃんを暴走させちゃってゴメン。私が、双子の妹の私がもっと姉ちゃんを助けてあげれていれば、きっと・・・。」
そこまでシーナが言ったところでセレナはシーナの口を手で塞いだ。
「それは違うよ。あんたはバッチシがんばってたじゃん。これはあたしの問題だよ。どれだけあんたがフォローしてくれても、結局あたし自信が強くならなきゃ意味がない。あんたなんでも自分のせいにしすぎだよ。ほら言うじゃん、泣きっ面に蜂って。」
「はぁ?」
「知らないの? くよくよしてると蜂に刺されて余計にネガティブになるの。だからあんたももう少し肩の荷を降ろして物事考えなよ。ね?」
また姉がにこっと笑った。こうされるとどうも怒るに怒れない。
「間違っているようなあっているような・・・とにかく、私もがんばる。だから姉ちゃんもがんばって。」
「おう! 任せとけ!」
姉のその言葉を聞いて、シーナは安心したような不安なような複雑な気持ちで部屋を出た。
・・・肩の荷を降ろさなきゃいけないのは姉ちゃんだよ・・・。わかってるんだぞ・・無理してるの。本当は泣きたいはずなのに笑って・・・。もっと姉を助けてやらないと・・・。シーナは槍を持ってアレンの所へ駆けて行った。
翌朝、早速パーシバル達にエトルリアを任せ、一行は出発した。その一行に、早速ナーティが言った。
「さて、エトルリアを離れる前に、まだ一つやらねばならんことが残っている。」
「? やらなくちゃいけないこと?」
セレナがねむい目をこすりながら相槌を打つ。
「そうだ。エトルリアはエリミーヌ教団の本拠地があった場所だ。今は思想統制のためにベルンに禁止にされているが、一昔前はエトルリアの国教として有名だった。」
「ふーん、そうなんだ。」
「そうだ。そして、聖母エリミーヌは八神将の一人。そのエリミーヌが陣流戦役で用いた光の超魔法を封じた書が、エトルリアの象徴とも言われたに収められている。」
「至高の光・・・アーリアルですね。」
セレスが答える。かつて聖女エリミーヌが用いた神将器。それを手に入れなければ封印の剣を手に入れることはできない。避けては通れない道だった。
「へぇ、神将器って一種類だけじゃなかったんだね。」
セレナがはじめて知ったというような口調で言ったのを聞いて、セレスとシーナが二人とも反応をした。
「そんなことどこの学問所でも教えられることだろう。 西方の教育レベルはどうなっているんだ・・・。」
「姉ちゃん! 学問所で習ったじゃない。神将器は剣、槍、斧、弓、理、闇、光、それぞれに存在しそれよりさらに強力な力を持つ魔剣こそが封印の剣だって! 西方の教育レベルじゃなくて、姉ちゃんの頭が悪いだけだよ、セレスさん・・・。」
「なんだよ! 二人してうるさいなー! そんなこと知らなくたって生きていけるだろ!?」
「・・・セレナ、知らなければならないことは山ほどありますよ。最低限の知識は必要です。よし、暇を縫って僕がいろいろ教えてあげましょう。」
セレスが従兄妹にそう言ったとたん、セレナがうえッというような顔をした。
「えー、勉強かよぉ・・・。」
そんな会話をアレンが笑いながら聞いていた。そして、荷物を纏めながら行った。
「よし、じゃあそろそろ出発しようか。」


142: 第十六章:聖女エミリーヌと至高の光アーリアル:05/11/20 23:47 ID:9sML7BIs
エトルリアは混乱を極めていたが、パーシバルたちの努力により、その混乱も収束に向かっていた。一行は一路聖女の塔へ向かう。聖女の塔はエトルリアの象徴といわれるだけあって金などの希少鉱石などがふんだんに使われた豪華なつくりで有名だった。しかし、一行が見たものは、荒れ果てた塔だった。時は、無残にもその華やかさを奪ってしまっていたのである。
「・・・・っ、これが聖女の塔・・・? そんな、バカな・・・。」
アレンが走り寄る。荒廃し、草が伸び放題だった。ベルンの支配下では、エリミーヌ教の教えは禁忌だった。迫害され、教会は徹底的に破壊された。それでも、各地に信者が多いという。
セレナ達も初めて見るその塔に、何かとても悲しい気分になった。神が祭られている場所がこんなに閑散とした寂しい場所だなんて・・・。人と交わる事を推奨するエリミーヌ教団の聖地が、が孤独に泣いていた。
「・・・これがベルンのやり方だ。服従には恐怖を、抵抗には死を・・・。 さぁ、感傷にふけっている場合ではないぞ。早くアーリアルを手に入れよう。」
ナーティがそう言いながら先陣を切る。みなもそれに続いた。中には人っ子一人見当たらず、まさに廃墟というにふさわしかった。一気に最上階まで昇りつめ、祭壇を探す。
見つけた祭壇もかなり放置されていたのか、ツルが巻いている。それらを払いのけると、アリスが祈りだす。アーリアルは・・・エリミーヌはまだここにいるのだろうか・・・?
しばらくすると、綺麗でそして透明な声が聞こえてきた・・・聖女エリミーヌだ。
「私に話しかける者、あなたは何者ですか?」
その言葉にアリスが率先して返した。
「私達一行は、現状の歪んだ世界を正すべく、旅をしています。そして、そのために貴女の力が必要なのです。どうか、貴女のお力添えを。」
「貴方たちが、アトスの言っていた炎の天使の一行ですね。話は聞いています。わかりました。では・・・。」
「本当ですか! ありがとうございます。」
一行が安堵の顔を見せた。が、そう簡単には行かなかった。そのままエリミーヌが続ける。
「では、質問をさせてもらいましょう。貴方達は何のために戦っているのですか?」
その質問に、セレナが答えた。
「決まってる。今の差別や迫害が当然とされる世界を変えるため。世界中の人々が、笑って暮らせる世界を作るため。」
「そうですか。私も、アトスやハルトムート等と共に、世界を変えるために戦いました。しかし、その結果ハーフの差別が始まってしまった・・・。これが何を意味しているかわかりますか?」
その質問に、セレナはどう答えればいいかわからなかった。それを悟ったのか、エリミーヌは続けた。
「正義とは、何を持って正義というか・・・。貴方たちも正義のために戦ってるのでしょう。しかし、その正義も、相手に正しくその意志が伝わらなければ悲劇を生みます。人は一人では何もできないのです。人と交わり、考えを広めていくことが大事なのです。そして、広めるだけではまだ足りないのです。どういうことか、分かりますね?」
セレナが今度はエリミーヌの顔を見て、その澄んだ瞳で答えた。
「考えを広めるだけじゃなくて、それを正しく理解してもらう必要があるんだよね。」
「そうです。思想とは、形のない脆いもの。間違って理解されてしまえば例えどんな聖徳でもその場で死んでしまいます。まして貴方達の理想は、今の世界を否定するほどのものです。正しく理解してもらう為には障害が多く、困難を極めるでしょう。精霊となってしまった今では私達に為す術はありません。貴方達の手で世界を住みよい、美しい笑顔で満たされるように変えてください・・・。」
そうエリミーヌが言い終わると、その姿は光に溶けていき、一冊の魔道書になった。これが、至高の光―アーリアル―である。
「エレブに再び光があらんことを・・・。」
どこからかエリミーヌの声が聞こえ、皆は目を開けた。いつの間にかアリスの手にアーリアルが握られていた。
「ふぅ・・・。何か・・・聖女様、凄い悲しそうな目をしていたね。」
シーナが言った。慈悲深く、全てを見通すようなそんな透き通った目をした聖女だった。だが、どこか悲しげであった。特にアリスには直接聖女と対話したのだからその事も、その理由も痛いほど分かった。
「自分達の掲げた理想が・・・後世に正しく伝わっていないからじゃないかしら・・・。」
「私もそう思う。自分達が命をかけてまで成し遂げようとした事が、後世で正しく理解されず、逆に戦乱の火種となれば・・・これほど悲しい事はない。」
ナーティも続けた。このときアリスは思った。そういえば・・・エリミーヌ様のあの目と・・・ナーテ


143: 手強い名無しさん:05/11/20 23:47 ID:9sML7BIs
ィさんの目・・・どっちも悲しそうで・・・どこか似てる・・・。いえ、気のせいよね・・・。
「俺たちも、ロイ様の意志を今一度思い出し、正しく理解できているか確かめなければならないかもしれないな。」
アレンも主の意志を継ぐ思いでこのたびを続けているが、果たして自分は主の意志を正しく受け継げているのか・・・そう考えさせられた。
「さて、長居は無用だ。次の神将器をとりに行くとしようか。」
ナーティが足早に祭壇を後にする。それをアリスが小走りに追い、セレナ達が後に続く。
「ねぇ、ナーティさん。」
追いついたアリスがナーティに話しかける。
「うん? 何だ?」
「その・・・うまく言えないんですけど・・・ナーティさん、結構過去に辛い思いをしているみたいですね。」
「・・・何故そう思う?」
「いえ・・・何となく。エリミーヌ様と同じような悲しそうで透き通った目をなさっていますから・・・。」
「ふっ・・・私が聖女と同じか。面白い事を言うな。過去に何があろうと、私は私だ。」
「そ、そうですね・・・。でも・・・辛い事があったら、なんでも相談してくださいね。私達、仲間なんですから・・・。」
「ありがとう。その気持ちはありがたくいただいておく。」
二人で話しているとセレナ達が追いついてきた。アーリアルに若者達は興味深々だ。
「姉貴ー、独り占めしてないで見せてくれよぉ、おお! これがアーリアルかぁ! 使ったら眩しいんだろうな! なんてったって至高の光だもんな!」
クラウドが興奮気味に話す。セレスも魔道書を手にとってみる。
「バカは放って置いて・・・なるほど・・・凄まじい力を感じますね。僕には扱えそうにないですが・・・。」
「バカとは何だよバカとは!」
「言葉の通りです。」
「なんだとっ」
二人のいつもどおりのコントが始まった・・・。その向こうでは双子がアーリアルを手に取っている。
「へー。これがアーリアルかぁ。使ったら眩しいんだろうね!」
「うんうん。なんたって至高の光だもんね!」
それを聞いてセレスは閉口してしまう。クラウドも笑いながら言ってやる。
「なぁ、あの二人にもバカって言うのか?お前」
「ふ、ふん。お前の騒ぎっぷりがバカというだけの話だ。」
そんな若者達から離れ、ナーティは聖女の塔最上階からエトルリアの景色を望む。綺麗だ。この下で醜い差別が行われていたとは信じられない・・・見せかけの平和か・・・。結局、昔も今も変わらないと言うわけか。それにしても・・・私は私・・・か。ふ、自分の言った言葉ながら腹が立つな・・・。自らを貫き通せなかった私が言える台詞か・・・。
アレンも同じように景色を見ていた。エトルリア・・・クリスに愛を誓った場所だ・・・。戦乱が終ったら幸せにして見せるといった場所。そのクリスを幸せにしてやる事も出来ないまま、結婚も出来ないまま、彼女は死んだ・・・。クリス・・・今でもすまないと思っている。だが、俺は君の遺志を忘れてはいない。君も皆が平和に暮らせる世界を望んだ。俺は今そのために戦っている。俺が君のところに行くのは、俺たちの意志を貫き通した時だ。・・・もう少し待っていてくれ・・・。
「親父? どうしたんだよ。」
いつのまにかクラウドが横にいた。びっくりするアレン。
「うわ、・・・なんだお前か。いや、エトルリアは俺が母さんにプロポーズした場所なんだ。それを思い出していた。」
「へぇ・・・。」
今でも情景が浮かんでくる。あれは・・・シャニーを無理矢理手合わせにつき合わせたときだったか・・・。
「うおっ?!」
「だらしないなぁ・・・。何度やったってアレンじゃあたしにゃ敵わないって。あたしだって一応イリア王宮騎士団の団長で、蒼髪の天使って通り名を貰ってるんだから、やられてちゃ名が廃るよ。」
「俺とてフェレ騎士団の副団長だった男だ。負けたままではおれん! もう一度勝負だ!」
「えー! まだやるの!? もう何十回目だと思ってるのサー、疲れたよ〜。ぶーぶー。」
文句を言うシャニーにまた槍を振り向ける。近づく間もなく魔法で吹き飛ばされる、やっと近づいたかと思えば今度は剣で刻まれる。


144: 手強い名無しさん:05/11/20 23:49 ID:9sML7BIs
「ぬぉぉぉぉおっ、このままでは引き下がれん!」
「はぁ・・・。あたしだってロイとデートしたいのに・・・。」
そこにクリスが来て、シャニーの変わりに手合わせをしていたか・・・。
「まったく、あんたも飽きない男だね。」
二人で武術の稽古もしたし、寝食も共にした。あの戦乱の中で一番心を許した戦友だった。それが恋人に発展し・・・家族も持った・・・これからというところだった・・・。
「感傷に浸っている場合じゃないな。よし、クラウド、今日はこのままエトルリア郊外で野宿だ。そのときはたっぷり絞るから覚悟して置けよ!」
「えー!?」
そういうとアレンは塔を降りるべき歩き出した。俺はたくさんの人の意志を背負っている。その人たちのためにも、セレナ達を助けてフェレを復興する。クリス・・・俺はこの命尽きるまで、お前の分までがんばって見せるぞ。


145: 手強い名無しさん:05/11/20 23:50 ID:9sML7BIs
その夜、アクレイアから南東に位置する郊外で野宿することになった。周りは敵だらけなのだから警戒しなければならなかったが、皆はこの時ばかりは寛いでいた。まだエトルリア領内だからである。ベルン兵は皆投降し、一時的に戦乱は収束していた。
「ちょっと! クラウドとかさぁ、練習ばっかりしてないでご飯作るの手伝ってよ!」
セレナが包丁を握りながら怒鳴る。エプロンに包丁姿の時はやはり女の子に見えるものだなぁと、セレスも感心してしまう。
「姉ちゃん、私も手伝うよ。」
「え!?・・・あんたはいいよ、皿洗いとかお願い。」
妹の申し出をセレナは即座に断った。・・・妹に料理をさせたらこちらが死んでしまう・・・。
「ぶー、やらなきゃうまくならないじゃない! 私も手伝うからね!」
強引に姉から包丁を取り上げ、ニンジンを切ってみせる。・・・危なっかしい。
「あー!危ないって! って、こら!何でそんなに砂糖を入れるのよ!」
双子の元気な声が聞こえてくる。セレスもそれを見て助けてやりたくなった。パーシバルと一緒にいたころは、よく食事を作っていた。・・・ララムに作らせるととんでもない事になるからだ。
「セレナ、シーナ。僕も手伝いますよ。僕も料理はそれなりに経験していますから。」
「お、助かる!」
それ見ていたクラウドは練習をやめて直ぐに飛んできた。
「俺も手伝う!」
さっきまで見向きもしなかったのに、やたら向きになって手伝い始める。
「クラウド、どうしたんだ急に。」
不思議がるセレスにクラウドが顔を近づけていった。
「お前だけにカッコイイ思いはさせん!」
セレスは何となくクラウドの意図を把握したが、結果は正反対だった。
「わぁ、兄貴! そんな汚い手で野菜を触らないでよ!」
「す、すまん。」
セレナに邪険され、シーナもクラウドも追い出されてしまった。
「何だよ、俺がせっかく手伝ってやるって言ってるのに。」
「私だって料理の練習したいのに!」
セレスが妹と笑いながら料理をしている。クラウドには何かそれが許せなかった。許せなかったというより、何か悔しかった。そんな息子の思いを知ってか知らずか、アレンが寄ってきた。
「クラウド、稽古を途中で放り出すとは何事だ。セレナにカッコいいところを見せたければ、戦場で活躍して見せろ。」
そういわれて躍起になったクラウドはシーナもつれて練習に励む。騎乗する動物は違っても、同じ槍使いだ。互いに色々勉強するところはある。戦場でも、突っ込むクラウドをよくシーナは止めたりしていた。
一方料理のほうはアリスやナーティも加わっていた。
アリスはスープを煮込んでいる。孤児院でよくバアトルの手伝いをしていたから味付けに離れていた。イリアでよく食べられる、肉入りの辛味スープだ。
「ほう、なかなかいい包丁さばきだな。」
ナーティがセレナの包丁捌きを見て感心した。セレナも妹に苦手の掃除を任せ、料理を手伝う事が多かった。
「へへ! どんなもんだ。 ナーティは剣の腕は凄いけど、料理はからっきしだったりねー。」
そういってナーティをからかってみせる。料理ならこいつにだって負けないと思ったようだ。
「ふ、私も一人旅をしていたのだぞ? 傭兵で料理をこなせなかったらどう食い繋いでいくんだ。・・・貸してみろ。」
セレナはニヤリとした。包丁を渡し、後ろからエプロンをまきつけてやる。そして、正面からそれを見た。
「うはは! やっぱりナーティも女の人だね!」
セレナは前の侍女服を着ていたとき、意外と似合っていたのを覚えていたのだ。きつい性格だけど意外とこういう家庭的な服装が似合う。
「当たり前だ! それにお前にその台詞を言われたくなかったな。お前こそやはり少女だな。」
ナーティもやけにムキになって言い返した。それ以上に熱くなるセレナ。
「な! どーゆー意味よ!」
セレナがナーティの包丁捌きを見る。かなり手馴れているようだった。
「むー、ナーティもなかなかやるな・・・キャベツの千切りで勝負だ!」


146: 手強い名無しさん:05/11/20 23:51 ID:9sML7BIs
その後、夕飯にはおかずが隠れるほどのキャベツの千切りが皿に盛られることになる。更に、まだあっちのまな板の上にはたんまり千切りが積んであった。
「なぁ・・・今日はやたらキャベツな夕飯だな・・・。」
あのあと、二人ともやたらムキになって競争してしまったらしい。皆無言で山盛りのキャベツを頬張る。
「すまない・・・私としたことが、ついセレナの口車に乗ってしまった。」
「へぇ、ナーティさんが熱くなるなんて珍しいですね。」
アリスもキャベツを食べながら言う。千切りキャベツはかさばり、予想以上に腹が膨れた。
「ナーティって意外と熱くなるよ。シーナみたい。クールを装ってるけど、実は熱血女なのかも!」
セレナが笑いながら言う。・・・誰のせいでこうなったと思ってるんだとシーナは言いたげだった。こんなにキャベツを食べたのは久しぶりだが、もう暫くキャベツは食べたくないと皆は思った。

第十七章:勇者ローランと烈火の剣デュランダル

翌朝、一行は準備を終えると早速次の目的地を目指す。
「さぁて、昨日のキャベツのおかげでお腹もすっきりだ。 次はイリアかな?」
セレナが伸びをしながら次の目的地を模索する。エトルリアに隣接しているのはリキアとイリアである。
しかし、リキアはベルン五大牙の筆頭、グレゴリオ大将軍が駐留していると聞く。いきなりそんな名将を相手には出来ない。まずはイリアを攻略するべきだった。
「次に向かうはイリアだな。だが・・・その前に行くべき所がある。烈火の剣・・・別名デュランダルの眠るオスティア郊外だ。」
アレンはナーティの言葉に驚いた。確かに神将器を得るには最短ルートだが、オスティアはリキア一の都市で、グレゴリオが駐留する本拠地でもある。
「ナーティ殿。それは少々無理があるのでは?」
「無理も何も、神将器がなければ我々に勝ち目はないのだ。選択の余地はないだろう。それに、あそこなら人気も少ないから気付かれないだろう。問題はあそこに賊が巣食っていないかということだ。」
「ふむ・・・確かにあそこはベルン動乱時も賊が巣食っていた覚えがありますね・・・」
そんな二人の会話をセレナは屈伸をしながら聞いていた。
「ごちゃごちゃ言ってないで行こう。神将器が必要ならそれをとりに行くだけさ。邪魔するヤツは倒すのみサ。」
「そうだそうだ。邪魔するヤツはがつーんとやっつけちまおうぜ!」
クラウドもセレナに同調して、二人で歩みだす。性格が似ているためか、いつも二人は同じような考えだった。そんな二人にセレスは呆れながら付いていく。
「やれやれ・・・未開の野蛮人みたいな考えですね・・・。」


147: 手強い名無しさん:05/11/20 23:52 ID:9sML7BIs
「・・・差別を差別で返すのでは・・・何も生まぬ・・・。 差別されたからこそ、その苦しみを他の種族に与えてはならんのじゃ・・・。」
部下は黙って聞いていた。確かに人間族や竜族は憎い。だが、グレゴリオの言う事も否定しがたい事実だった。
「ふぅ・・年をとると愚痴っぽくなって困るわい。 ところで、反乱軍一行はしっかり進軍しておるかの。」
「は、情報によるとフォルブレイズとアーリアルを入手し、エトルリアを発ったようです。」
「ふむ・・・がんばるの。あいつら考え方には好感が持てる・・・。じゃが・・・ワシはメリアレーゼ様に忠誠を誓う騎士。敵には変わらぬ・・・。」
グレゴリオはそんな独り言を漏らしながら一路リキアへの帰路に着いた。

セレナ一行は、山間部からリキア領内に侵入していた。リキアは騎馬兵と重騎士の国。山間部までは深入りできないだろうと考えたのだ。
足元が悪い中、シーナは姉が何か考えながら歩いているのに気付いた。
「姉ちゃん・・・?どうかしたの?」
「え? いやぁちょっとさ・・・うわっ。」
セレナがつるに足を引っ掛けて転んだ。こんな山道で余所見をしながら歩いていれば、転ぶのも当然だ。
「大丈夫か? 全くおっちょこちょいだな。」
アレンが手を取って起き上がらせる。お尻が真っ黒だ。
「あはは、姉ちゃんらしいね。ところで、何を考えていたの?」
シーナが改めて聞きなおす。姉が黙り込んでいるなんて寝ているか考えているかのどちらかしかない。
「いや・・・リゲルのヤツが、母を奪ったって言ってたから・・・。」
「そのことで悩んでいるのか?」
ナーティが会話に入り込んでくる。きっとまた雑念を起こしているに違いない。将にとってそれは致命傷にもなりかねない。心の隙は戦場で露骨に表れる。
「うん・・・。やっぱり、リゲルも差別されて心が歪んじゃった人なのかな、と。」
「リゲルは幼いころ、人間によって母を殺されていたのだ。リゲル自身は至って普通の性格だったらしいが、その事実と、周りの教育によってその性格が豹変したらしい。」
「そんな! じゃあ、リゲルも・・・。」
セレナがやはりと言いたげな表情で返す。しかし、ナーティは冷たく言い放った。
「そうだ、ヤツも差別の被害者だ。だが、差別されからといって差別し返し、人道に反する行為を行ってよいというわけではない。」
「うん・・・。」
「ヤツは非道な圧制者であったことに変わりはなく、我々に同情する余地はない。これは戦争なんだ。そんな甘ったるい考えで世界を変えられると思っているのか!」
ナーティは何故かいつも以上に厳しい口調で叱った。セレナにはその理由が分かっていた。それだけ、世界を変えるという事は、心を鬼にして事実と向き合わねばならないということだった。
「そうだね・・・悪かったよ。リゲルみたいな人をこれ以上増やさない為にも、あたし達はがんばらないとね。」
そのセレナの言葉を聞き、ナーティも何時もの口調に戻った。と、言っても相変わらずだが。
「そうだ、それでいい。お前の考えは、お前だけのものではないのだ。お前の心の隙は、軍全体の隙になる。覚えておけ。」
アレンはどこかで聞いたような言葉だと思ってふと考えてみる。・・・そうだ、シャニー様がディーク殿に散々言われていた言葉だ。やはりセレナ様もシャニー様の子なんだなぁと何か歓心にも似た感情がこみ上げた。
そんな会話をしていると、目の前に大きな洞窟が広がっているのが見えてきた。アレンには見覚えのある場所だった。
「ねぇねぇ、洞窟ってあれの事かな。」
シーナが天馬で上空から見つけたらしい。一行もそれを暫くして見つけた。
「そうだな。あそこがデュランダルの眠る洞窟だ。さぁ、行こうか。」
アレンがそう言い、中に入ろうとしたそのときだった。
「待て!」
その声と同時にアレンの足元に手槍が突き刺さった。
「?! 何奴!」
どこかで聞いた覚えのある声だとセレナ達は思った。しかし、それが誰かを思い出そうとする必要はなかった。その前にその人物が現れたからである。


148: 手強い名無しさん:05/11/20 23:53 ID:9sML7BIs
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。


149: 手強い名無しさん:05/11/20 23:55 ID:9sML7BIs
あれ・・・またコピペミスってしまったようです>>148は、無視してくださいorz


150: 手強い名無しさん:05/11/20 23:56 ID:9sML7BIs
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。
「私こそこの前のようには行かぬ。今度こそ精霊術師をこちらに渡してもらう!」
周りにはミレディのほかにその仲間と思しき連中が結構な数いる。・・・よく見れば囲まれていた。
セレナ達は剣を抜き、応戦態勢をとる。だが、ここは山中。足場は悪く不利な状況だ。
「また来たか。主から見放された哀れな竜騎士よ。」
「黙れ! 私はギネヴィア様の遺志を継いでいる! 世界を悪魔に売るような堕天使に言われたくないわ! 皆の者! 精霊術師は生け捕りにせよ、他のもの生死は問わぬ。かかれ!」
そういい終わるや否や、ミレディは飛竜を操り、一気にセレナ達に接近してくる。しかし、セレナ達も負けてはない。西方で戦った時とは比べ物にならないぐらい皆成長していた。
「こいつはあたしに任せて! 西方での借りをきっちり返してやる!」
セレナがミレディに一騎打ちを挑む。自分は成長した。今度こそ絶対に勝ってみせる。他の者はミレディの配下を相手にする。アレンやナーティが次々と敵をなぎ倒していく。その姿はまさに戦神だった。シーナやクラウドもそれに負けじと二人で協力しながら一人ずつ片付けていく。地上と空中からの鋭い槍撃が相手を襲う。それに逃げ場はないといっても過言ではなった。
「へ、俺を相手にしようなんて10年早いぜ!」
クラウドが調子に乗って一気に突撃する。勢いに乗ったクラウドは確かに強いが、単に調子に乗っているときが一番危なかった。
「兄ちゃん! 後ろ!」
シーナが叫ぶ。後ろから狙われていた。騎士が後ろを取られれば、反撃はなかなか難しい。クラウドは相手の剣撃を受けてしまう。
「うぐっ。」
しかし、直ぐに体勢を整え、シーナと二人で片付ける。剣装備の敵には槍使い二人の攻撃は威力絶大だった。
「クラウド、無茶をしてはだめよ。」
アリスが後ろから回復魔法を飛ばしてくれた。もう少し前に出たいが、自分を相手は狙ってきている。アリスは一番後ろでセレスと共に後衛を守る。
「はは、バカは体力が違うね。戦いってのは頭でやるもんだぜ。いくぞ! フォルブレイズ!」
セレスがシーナやクラウドが捌き切れなくて囲まれ始めたところに、一気にフォルブレイズを放った。
その凄まじい、人知を超えた力に相手は為す術なく吹き飛ばされる。


151: 手強い名無しさん:05/11/20 23:56 ID:9sML7BIs
「うわっ!? おいこら! 俺たちにまで当ったらどうするんだ!」
目の前で起きた凄まじい爆発に、クラウドが慌てて怒鳴る。」
「いくらお前でもその中には突っ込まないだろうと思ったからさ。シーナはしっかり僕が魔法を撃つのを予想してたみたいだしね。」
シーナは上空に一時避難していた。・・・シーナ、俺にも教えてくれよ・・・。
しかし、魔法は詠唱を要する。その間に近づかれては詠唱どころではない。ましてこのような超魔法だ。詠唱は半端になく長い。
それを相手に狙われた。身軽な敵剣士が一気に後衛まで走り寄ってきたのである。前衛と違い、系装備でろくな武装もしてない後衛陣が、剣士相手に無傷でいられるはずがない。
「な、くそっ。」
セレスが必死に魔法を詠唱しようとするも、剣士に攻撃されてそれどころではない。とうとう避けきれず、剣が振り下ろされた。
「?!」
しかし、痛くない。セレスが良く見ると、クラウドが剣を鎧で受けていた。
「へっ、バカに助けられるとは、お前も同類ってことだな!」
「・・・ふん、あんなの避けていたからどうってことないよ。勝手に同類視しないでくれ。」
それを聞いてクラウドはやはり頭に血が上った。
「けっ、素直じゃないヤツ!」
急いで前線に戻るクラウドに、セレスが話しかけた。しかし、その声はクラウドに届いていない。
「・・・助かった、ありがとう。」
「セレスさん、クラウドに聞こえてないわよ。もっと大きな声で言わないと。」
アリスにそういわれ顔を赤くしながらセレスは答えた。
「べ、別に聞こえなくていいんです。あいつは褒めると調子に乗りますから!」
アリスはそんな反応を笑いながら見ていた。

一方セレナはミレディと一騎打ちを続けていた。セレナは繰り出される白銀の槍をかわし、一気に二刀流をお見舞いする。ミレディもそんなセレナの剣を槍で弾きながら距離を開ける。互いに一歩も引かない。
「ほう・・・たったあれだけの期間でこれほどまでに腕を上げるとは、流石と言ったところか。やはり見込み違いではなかったな。」
「あんただって! あたしにとっちゃいいライバルだ! あたしはあれ以来、あんたに勝つためにがんばってきたんだ!」
暫く剣と槍のぶつかる激しい大将戦が繰り広げられていた。ナーティは周りの敵を一掃すると、それを黙ってみていた。
「あいつ・・・なかなかやるではないか。私の教えた事をしっかり吸収している。」
アレンはそんなナーティを見て少し呆れた。何時ものように、セレナを助ける事もせずに傍観しているからである。
「ナーティ殿・・・。貴女は仮にも傭兵なのですから、セレナ様をお助けしていただきたい・・・。」
しかし、ナーティは黙ったままだった。そして、ミレディが槍を弾かれ、少しからだが外に開いた、その瞬間。
「今だ!セレナ。ツバメ返しだ!」
セレナはそのナーティのいきなりの声に慌てたが、直ぐに状況を把握し、ナーティがやっていたツバメ返しを見よう見まねでミレディにぶつけた。
「ぐはっ」
そのツバメ返しは、まだ全然形になっていなかった。だが、バランスを崩していたミレディにとっては十分な威力で彼女は飛竜から叩き落された。その彼女の喉元に、セレナが剣を当てた。
「・・・。私の負けか・・・。やはり、ナーガの化身相手に私一人では、荷が重すぎたか・・・。」
セレナが剣をのど元から離す。
「!? 敵に二度までも情けをかけられるとは・・・騎士として最大の恥だ・・・。」
ミレディが下を向いた。もはや戦意はない。
「なんで・・・世界を救おうとしているあたしたちの邪魔ばかりするのさ。」
しかし、セレナのその言葉を聞いた途端、上を向き、セレナを睨みつけながら逆上して言った。
「世界を救うだと!? ふざけるな! 貴様達が自らの行いを正義というなら、こちらも正義だ。世界を救おうとしているのは我々のほうだ!」
ミレディはすばやくセレナに足払いをすると、一気に飛流に飛び乗り、上空へ舞い上がった。
「いいか! 覚えておけ、自分達だけが正義と思うな! 次こそは必ずや精霊術師を我らが手中に収めてみせる! その時まで死ぬなよ!」
そう言い残すと、ミレディは南の空へ飛び去っていった。他の配下の者も、一人が飛竜になり、他の者がそれに乗って飛び去っていく。どうやら竜族と人間族の混成部隊だったようだ。


152: 手強い名無しさん:05/11/20 23:57 ID:9sML7BIs
「いったー・・・。へん、首を洗って待ってるぜ!」
セレナが起き上がりながら、空のかなたのミレディに叫ぶ。
「姉ちゃん・・・。首を洗って待っててどうするのよ・・・。」
「え? なんかあたし間違った事言った? あれでしょ、雨降って地固めればいいんでしょ?」
「??」
困惑するシーナ。姉の言うことはどこか間違っているような正しいような難しい言い方をするので困る時があった。
「だから! 雨降らしの神様が、地面をドロドロにして人々を困らそうと雨を降らした。それなのに逆に地面は固まっちゃった。
それと同じで、何かしようとしても返り討ちにあうって事じゃん。あたしたちもあいつらが邪魔しに来ても返り討ちにすればいいのさ。だから雨降って地固める。そんな事も知らないの?」
「おー、すげー。セレナ、お前頭いいな!」
それにクラウドも同調してしまう。クラウドに褒められたセレナは照れるといった表情をして得意がる。
シーナはどう反応すればいいか分からなくなった。しかし、セレスは黙ってはいない。
「用法、解釈、どちらとも誤りがありますね。今日の夜みっちり僕と勉強しましょうか、セレナ。それにクラウド!」
「何でお前俺に対してはそんな怒り口調なんだよ!」
そんな会話を割って、アレンが行った。
「・・・バカな事を言っていないで早く神将器をとりに行くぞ。クラウド、お前ももう少し勉強しなさい。」
アレンがクラウドに説教しながら洞窟に入っていく。クラウドは何とか父親を振りほどくと、ナーティの方に寄って言った。
「なぁ、また一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「あんた、さっきあの竜騎士に堕天使とか言われてたよな? どう言う事だ?」
その質問に、ナーティは暫く黙していたが、やがて目を瞑って答えた。
「・・・私は傭兵だ。どこかでそのような通り名をつけられたのだろう。見れば分かるだろう? 人情味のない、冷たい人間だという事が。そういうことではないか?」
クラウドはイマイチ納得できないというような表情をしている。もっと突っ込んだ話をし言うとした時、誰かに後ろから首根っこを鷲掴みにされた。
「いてててっ。」
「まったく、お前というヤツは! 父親の話もろくに聞けんのか!」
アレンだった。アレンはクラウドをそのまま引っ張っていく。ナーティはちょっとほっとしたような表情をしながらぽつりと独り言を言った。
「・・・クラウド・・・。 それにしても堕天使か。ふっ、私には相応しいかもしれないな。」
そんな独り言をセレナ達が聞いていたらしい。ナーティの傍に寄って行っていろいろ話しながら洞窟に入っていった。
「なんなんだ?」
クラウドが真っ先に声を上げる。中には大勢人が倒れていたのである。交戦したあとが残っている。
よく見るとこれは賊のようだ。
「こいつらは・・・我々が気にしていた、ここを根城にする盗賊団ではないだろうか?」
アレンが言う。ベルン動乱の時も、ここには盗賊団が巣食い、ロイ達の行く手を阻んだ。その生き残りが、またここを根城にしていたようだ。
「でも、誰がこんなことを。」
セレスが不思議がる。自分達の妨害をするあの竜騎士の連中が、自分達の助けになるようなことをするだろうか。
「多分先ほどの連中だろう。奴らの言っていたことを思い出せ。自分達も正義を貫いていると、奴らは言っていた。力の無い民を狙う盗賊団を、奴らは生かしてい置けなかったのだろう。ミレディ殿ならやりかねない事だ・・・。」
ナーティが言った。ナーティはやたらミレディについては詳しかった。クラウドがその理由を尋ねたところ、昔ベルンに傭兵としていたころ、話したことがあったそうだ。
セレナは、ナーティはもっといろいろ知っているのではないかと思っていた。しかし、クラウドと違い、怪しむことはしなかった。自分にとっては剣に師匠であり、よき人生の先輩だったからだ。冷たいけど信頼の置ける人物・・・姉貴だと、セレナは思っていた。


153: 手強い名無しさん:05/11/20 23:57 ID:9sML7BIs
何時ものように一行は祭壇を探す。しかし、アレンはふと思い出した。デュランダルの取り出し方は、オスティア候直系の者しか分からないはず・・・。一抹の不安を胸に、一行は祭壇までたどり着く。
「じゃあ、いつもどおりやるわよ。みんなもお祈りして。」
アリスが祈り始める。それを見た他の者も同じように祈る。この場にいる精霊にアリスが話しかけてみる。すると、何処からか声が聞こえてきた。
「オレを・・・オレを呼ぶのは誰だ・・・?」
ローランだった。次第に声は大きくなり、皆の心の中に、実態としてその姿を現した。勇者ローラン・・・大剣デュランダルを扱ったにしてはかなり小柄な人物だ。
「私はアリス。私達は、世界をあるべき姿に戻す為に、貴方の力を必要としています。どうか、その力をお貸しいただけませんか?」
アリスが早速交渉を開始する。デュランダルは、かつて自分の祖父も使ったことのある伝説の剣。その力を天まで届き、大地の理を正すほどだったという。今、その伝説の剣を扱った、伝説の勇者と対話しているのだ。
「お前達が・・・オレの子孫だな・・・。わかるぞ、半世紀前に来た男と同じような真っ直ぐな目をしているな。」
半世紀前に来た男・・・エリウッド爺様の事だ。そう、セレナもシーナも思った。両親の顔すら覚えのない双子にとって、祖父はもう全く分からない存在であった。
「あたし達は、今、世界中に笑顔が溢れるような、皆が幸せに生きていける世界を目指して旅をしてる。そのために、貴方の力が必要なんだ。お願い、デュランダルを扱う事をあたし達に許して。」
セレナがアリスに続き交渉する。自分にも、このローランの血が少なからず流れている。自分の遠い祖先と対話する事は、何か不思議な気分だった。
「・・・時とは無常なものだな。時は人を傲慢にする。最初は謙虚だった人々の世界を、欲と嫉妬に満ち、争いあう世界へと変えてしまう。無垢で穢れない子供の心を、そういった欲まみれの汚い大人の心へと変えてしまう・・・。」
セレナ達はそれを黙って聞いていた。ベルン動乱で両親が神将器を用い、世界を正して四半世紀も経たない内に、また争いは起こり、両親は倒れた。ローランは続けた。
「オレもこの小柄な体格を散々バカにされたこともあった。時は人を傲慢に変え、その傲慢になった人々の目は、自分と容を異なるものに向けられる。自分と異なるものを認められなくなるのだ。それは次第に差別へと進行し、埋められない溝へと発展する。」
自分と異なるものを恐怖し、認められなくなる。人間族がハーフを毛嫌いした理由はなんだろうか・・・。それは今の一行には分からなかった。だが、とにかく傲慢になった人間が、自分達と異なるハーフや竜族を認められなくなった時、戦争の火種がくすぶり始めたのだろう。そして、実際に竜族との確執は人竜戦役という形で、ハーフとのそれは今まさに現在進行形で行われていた。
「わかるか? 人間の心に卑しき心がある限り、それは時が増長させ争いに発展する。例えお前達が正したところで、また時が経てば同じような問題が発生する。」
「でも、間違っていると思うことは、今からでも改めればいい。皆に間違っている事を理解してもらえるように努力する。間違えたら・・・やり直せばいいと思う。」
シーナがローランに答えた。間違っていると知りつつも、それを見て見ぬ振りをしていては、歪はますます酷くなるばかり。そしてその歪は、ある時突然、大きな災いに姿を変える。・・・そうなってしまってからでは遅い。
「間違えたらやり直せばいい、か・・・。簡単に言ってくれるな。世界一般の認識を変えていくことは、並大抵の努力では為しえない事。・・・それでも、やるのか?」
「やるったらやるの! やるしか世界を正す方法はないんだから! 現にエトルリアは、人間とハーフが手を取り合う国に変わりつつある。あれだって、あたし達・・・皆でがんばった成果だと思ってる。」
セレナがローランに返す。そうだ、やるしかないのだ。例えどんな困難が立ちふさがっても、仲間と一緒に乗り越えていく。間違えたらそれを認めて正し、また歩む。これが大切だった。傲慢になった人間には、自らの過ちも、自らと異なるものも認められなかった。これが大きな災いを生む原因だった。
「そうか・・・わかった。では、お前達が本当にその遺志を達成できるほどの力があるか試してやろう。・・・剣を取れ。」
目を閉じて祈っていた一行が、風を感じた。気になって目を開けてみると・・・そこにはなんとローランがいるではないか! その手には大剣・・・デュランダルが握られている。
「うそっ!? 神将と戦えって言うわけ?!」
「いくぞっ、何かを達成しようとすれば、それにはそれに相応しい力が必要だ。お前達にそれがあるか試させてもらう!」


154: 手強い名無しさん:05/11/21 09:18 ID:gAExt6/c
おはようございます。。
見直してみたところ>>147-148の当りのつながりがおかしくなっていますね・・・
整理して>>155-156に再度うpします。。
分かりづらくなって申し訳ありませぬorz

155: 147:05/11/21 09:20 ID:gAExt6/c
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「・・・差別を差別で返すのでは・・・何も生まぬ・・・。 差別されたからこそ、その苦しみを他の種族に与えてはならんのじゃ・・・。」
部下は黙って聞いていた。確かに人間族や竜族は憎い。だが、グレゴリオの言う事も否定しがたい事実だった。
「ふぅ・・年をとると愚痴っぽくなって困るわい。 ところで、反乱軍一行はしっかり進軍しておるかの。」
「は、情報によるとフォルブレイズとアーリアルを入手し、エトルリアを発ったようです。」
「ふむ・・・がんばるの。あいつら考え方には好感が持てる・・・。じゃが・・・ワシはメリアレーゼ様に忠誠を誓う騎士。敵には変わらぬ・・・。」
グレゴリオはそんな独り言を漏らしながら一路リキアへの帰路に着いた。


156: 148:05/11/21 09:22 ID:gAExt6/c
セレナ一行は、山間部からリキア領内に侵入していた。リキアは騎馬兵と重騎士の国。山間部までは深入りできないだろうと考えたのだ。
足元が悪い中、シーナは姉が何か考えながら歩いているのに気付いた。
「姉ちゃん・・・?どうかしたの?」
「え? いやぁちょっとさ・・・うわっ。」
セレナがつるに足を引っ掛けて転んだ。こんな山道で余所見をしながら歩いていれば、転ぶのも当然だ。
「大丈夫か? 全くおっちょこちょいだな。」
アレンが手を取って起き上がらせる。お尻が真っ黒だ。
「あはは、姉ちゃんらしいね。ところで、何を考えていたの?」
シーナが改めて聞きなおす。姉が黙り込んでいるなんて寝ているか考えているかのどちらかしかない。
「いや・・・リゲルのヤツが、母を奪ったって言ってたから・・・。」
「そのことで悩んでいるのか?」
ナーティが会話に入り込んでくる。きっとまた雑念を起こしているに違いない。将にとってそれは致命傷にもなりかねない。心の隙は戦場で露骨に表れる。
「うん・・・。やっぱり、リゲルも差別されて心が歪んじゃった人なのかな、と。」
「リゲルは幼いころ、人間によって母を殺されていたのだ。リゲル自身は至って普通の性格だったらしいが、その事実と、周りの教育によってその性格が豹変したらしい。」
「そんな! じゃあ、リゲルも・・・。」
セレナがやはりと言いたげな表情で返す。しかし、ナーティは冷たく言い放った。
「そうだ、ヤツも差別の被害者だ。だが、差別されからといって差別し返し、人道に反する行為を行ってよいというわけではない。」
「うん・・・。」
「ヤツは非道な圧制者であったことに変わりはなく、我々に同情する余地はない。これは戦争なんだ。そんな甘ったるい考えで世界を変えられると思っているのか!」
ナーティは何故かいつも以上に厳しい口調で叱った。セレナにはその理由が分かっていた。それだけ、世界を変えるという事は、心を鬼にして事実と向き合わねばならないということだった。
「そうだね・・・悪かったよ。リゲルみたいな人をこれ以上増やさない為にも、あたし達はがんばらないとね。」
そのセレナの言葉を聞き、ナーティも何時もの口調に戻った。と、言っても相変わらずだが。
「そうだ、それでいい。お前の考えは、お前だけのものではないのだ。お前の心の隙は、軍全体の隙になる。覚えておけ。」
アレンはどこかで聞いたような言葉だと思ってふと考えてみる。・・・そうだ、シャニー様がディーク殿に散々言われていた言葉だ。やはりセレナ様もシャニー様の子なんだなぁと何か歓心にも似た感情がこみ上げた。
そんな会話をしていると、目の前に大きな洞窟が広がっているのが見えてきた。アレンには見覚えのある場所だった。
「ねぇねぇ、洞窟ってあれの事かな。」
シーナが天馬で上空から見つけたらしい。一行もそれを暫くして見つけた。
「そうだな。あそこがデュランダルの眠る洞窟だ。さぁ、行こうか。」
アレンがそう言い、中に入ろうとしたそのときだった。
「待て!」
その声と同時にアレンの足元に手槍が突き刺さった。
「?! 何奴!」
どこかで聞いた覚えのある声だとセレナ達は思った。しかし、それが誰かを思い出そうとする必要はなかった。その前にその人物が現れたからである。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。
「私こそこの前のようには行かぬ。今度こそ精霊術師をこちらに渡してもらう!」
周りにはミレディのほかにその仲間と思しき連中が結構な数いる。・・・よく見れば囲まれていた。
セレナ達は剣を抜き、応戦態勢をとる。だが、ここは山中。足場は悪く不利な状況だ。


157: 149:05/11/21 09:23 ID:gAExt6/c
「また来たか。主から見放された哀れな竜騎士よ。」
「黙れ! 私はギネヴィア様の遺志を継いでいる! 世界を悪魔に売るような堕天使に言われたくないわ! 皆の者! 精霊術師は生け捕りにせよ、他のもの生死は問わぬ。かかれ!」
そういい終わるや否や、ミレディは飛竜を操り、一気にセレナ達に接近してくる。しかし、セレナ達も負けてはない。西方で戦った時とは比べ物にならないぐらい皆成長していた。
「こいつはあたしに任せて! 西方での借りをきっちり返してやる!」
セレナがミレディに一騎打ちを挑む。自分は成長した。今度こそ絶対に勝ってみせる。他の者はミレディの配下を相手にする。アレンやナーティが次々と敵をなぎ倒していく。その姿はまさに戦神だった。シーナやクラウドもそれに負けじと二人で協力しながら一人ずつ片付けていく。地上と空中からの鋭い槍撃が相手を襲う。それに逃げ場はないといっても過言ではなった。
「へ、俺を相手にしようなんて10年早いぜ!」
クラウドが調子に乗って一気に突撃する。勢いに乗ったクラウドは確かに強いが、単に調子に乗っているときが一番危なかった。
「兄ちゃん! 後ろ!」
シーナが叫ぶ。後ろから狙われていた。騎士が後ろを取られれば、反撃はなかなか難しい。クラウドは相手の剣撃を受けてしまう。
「うぐっ。」
しかし、直ぐに体勢を整え、シーナと二人で片付ける。剣装備の敵には槍使い二人の攻撃は威力絶大だった。
「クラウド、無茶をしてはだめよ。」
アリスが後ろから回復魔法を飛ばしてくれた。もう少し前に出たいが、自分を相手は狙ってきている。アリスは一番後ろでセレスと共に後衛を守る。
「はは、バカは体力が違うね。戦いってのは頭でやるもんだぜ。いくぞ! フォルブレイズ!」
セレスがシーナやクラウドが捌き切れなくて囲まれ始めたところに、一気にフォルブレイズを放った。
その凄まじい、人知を超えた力に相手は為す術なく吹き飛ばされる。
「うわっ!? おいこら! 俺たちにまで当ったらどうするんだ!」
目の前で起きた凄まじい爆発に、クラウドが慌てて怒鳴る。」
「いくらお前でもその中には突っ込まないだろうと思ったからさ。シーナはしっかり僕が魔法を撃つのを予想してたみたいだしね。」
シーナは上空に一時避難していた。・・・シーナ、俺にも教えてくれよ・・・。
しかし、魔法は詠唱を要する。その間に近づかれては詠唱どころではない。ましてこのような超魔法だ。詠唱は半端になく長い。
それを相手に狙われた。身軽な敵剣士が一気に後衛まで走り寄ってきたのである。前衛と違い、系装備でろくな武装もしてない後衛陣が、剣士相手に無傷でいられるはずがない。
「な、くそっ。」
セレスが必死に魔法を詠唱しようとするも、剣士に攻撃されてそれどころではない。とうとう避けきれず、剣が振り下ろされた。
「?!」
しかし、痛くない。セレスが良く見ると、クラウドが剣を鎧で受けていた。
「へっ、バカに助けられるとは、お前も同類ってことだな!」
「・・・ふん、あんなの避けていたからどうってことないよ。勝手に同類視しないでくれ。」
それを聞いてクラウドはやはり頭に血が上った。
「けっ、素直じゃないヤツ!」
急いで前線に戻るクラウドに、セレスが話しかけた。しかし、その声はクラウドに届いていない。
「・・・助かった、ありがとう。」
「セレスさん、クラウドに聞こえてないわよ。もっと大きな声で言わないと。」
アリスにそういわれ顔を赤くしながらセレスは答えた。
「べ、別に聞こえなくていいんです。あいつは褒めると調子に乗りますから!」
アリスはそんな反応を笑いながら見ていた。


158: 150:05/11/21 09:25 ID:gAExt6/c
一方セレナはミレディと一騎打ちを続けていた。セレナは繰り出される白銀の槍をかわし、一気に二刀流をお見舞いする。ミレディもそんなセレナの剣を槍で弾きながら距離を開ける。互いに一歩も引かない。
「ほう・・・たったあれだけの期間でこれほどまでに腕を上げるとは、流石と言ったところか。やはり見込み違いではなかったな。」
「あんただって! あたしにとっちゃいいライバルだ! あたしはあれ以来、あんたに勝つためにがんばってきたんだ!」
暫く剣と槍のぶつかる激しい大将戦が繰り広げられていた。ナーティは周りの敵を一掃すると、それを黙ってみていた。
「あいつ・・・なかなかやるではないか。私の教えた事をしっかり吸収している。」
アレンはそんなナーティを見て少し呆れた。何時ものように、セレナを助ける事もせずに傍観しているからである。
「ナーティ殿・・・。貴女は仮にも傭兵なのですから、セレナ様をお助けしていただきたい・・・。」
しかし、ナーティは黙ったままだった。そして、ミレディが槍を弾かれ、少しからだが外に開いた、その瞬間。
「今だ!セレナ。ツバメ返しだ!」
セレナはそのナーティのいきなりの声に慌てたが、直ぐに状況を把握し、ナーティがやっていたツバメ返しを見よう見まねでミレディにぶつけた。
「ぐはっ」
そのツバメ返しは、まだ全然形になっていなかった。だが、バランスを崩していたミレディにとっては十分な威力で彼女は飛竜から叩き落された。その彼女の喉元に、セレナが剣を当てた。
「・・・。私の負けか・・・。やはり、ナーガの化身相手に私一人では、荷が重すぎたか・・・。」
セレナが剣をのど元から離す。
「!? 敵に二度までも情けをかけられるとは・・・騎士として最大の恥だ・・・。」
ミレディが下を向いた。もはや戦意はない。
「なんで・・・世界を救おうとしているあたしたちの邪魔ばかりするのさ。」
しかし、セレナのその言葉を聞いた途端、上を向き、セレナを睨みつけながら逆上して言った。
「世界を救うだと!? ふざけるな! 貴様達が自らの行いを正義というなら、こちらも正義だ。世界を救おうとしているのは我々のほうだ!」
ミレディはすばやくセレナに足払いをすると、一気に飛流に飛び乗り、上空へ舞い上がった。
「いいか! 覚えておけ、自分達だけが正義と思うな! 次こそは必ずや精霊術師を我らが手中に収めてみせる! その時まで死ぬなよ!」
そう言い残すと、ミレディは南の空へ飛び去っていった。他の配下の者も、一人が飛竜になり、他の者がそれに乗って飛び去っていく。どうやら竜族と人間族の混成部隊だったようだ。
「いったー・・・。へん、首を洗って待ってるぜ!」
セレナが起き上がりながら、空のかなたのミレディに叫ぶ。
「姉ちゃん・・・。首を洗って待っててどうするのよ・・・。」
「え? なんかあたし間違った事言った? あれでしょ、雨降って地固めればいいんでしょ?」
「??」
困惑するシーナ。姉の言うことはどこか間違っているような正しいような難しい言い方をするので困る時があった。
「だから! 雨降らしの神様が、地面をドロドロにして人々を困らそうと雨を降らした。それなのに逆に地面は固まっちゃった。
それと同じで、何かしようとしても返り討ちにあうって事じゃん。あたしたちもあいつらが邪魔しに来ても返り討ちにすればいいのさ。だから雨降って地固める。そんな事も知らないの?」
「おー、すげー。セレナ、お前頭いいな!」
それにクラウドも同調してしまう。クラウドに褒められたセレナは照れるといった表情をして得意がる。
シーナはどう反応すればいいか分からなくなった。しかし、セレスは黙ってはいない。
「用法、解釈、どちらとも誤りがありますね。今日の夜みっちり僕と勉強しましょうか、セレナ。それにクラウド!」
「何でお前俺に対してはそんな怒り口調なんだよ!」
そんな会話を割って、アレンが行った。
「・・・バカな事を言っていないで早く神将器をとりに行くぞ。クラウド、お前ももう少し勉強しなさい。」
アレンがクラウドに説教しながら洞窟に入っていく。クラウドは何とか父親を振りほどくと、ナーティの方に寄って言った。
「なぁ、また一つ聞いていいか?」


159: 151:05/11/21 09:26 ID:gAExt6/c
「なんだ?」
「あんた、さっきあの竜騎士に堕天使とか言われてたよな? どう言う事だ?」
その質問に、ナーティは暫く黙していたが、やがて目を瞑って答えた。
「・・・私は傭兵だ。どこかでそのような通り名をつけられたのだろう。見れば分かるだろう? 人情味のない、冷たい人間だという事が。そういうことではないか?」
クラウドはイマイチ納得できないというような表情をしている。もっと突っ込んだ話をし言うとした時、誰かに後ろから首根っこを鷲掴みにされた。
「いてててっ。」
「まったく、お前というヤツは! 父親の話もろくに聞けんのか!」
アレンだった。アレンはクラウドをそのまま引っ張っていく。ナーティはちょっとほっとしたような表情をしながらぽつりと独り言を言った。
「・・・クラウド・・・。 それにしても堕天使か。ふっ、私には相応しいかもしれないな。」
そんな独り言をセレナ達が聞いていたらしい。ナーティの傍に寄って行っていろいろ話しながら洞窟に入っていった。
「なんなんだ?」
クラウドが真っ先に声を上げる。中には大勢人が倒れていたのである。交戦したあとが残っている。
よく見るとこれは賊のようだ。
「こいつらは・・・我々が気にしていた、ここを根城にする盗賊団ではないだろうか?」
アレンが言う。ベルン動乱の時も、ここには盗賊団が巣食い、ロイ達の行く手を阻んだ。その生き残りが、またここを根城にしていたようだ。
「でも、誰がこんなことを。」
セレスが不思議がる。自分達の妨害をするあの竜騎士の連中が、自分達の助けになるようなことをするだろうか。
「多分先ほどの連中だろう。奴らの言っていたことを思い出せ。自分達も正義を貫いていると、奴らは言っていた。力の無い民を狙う盗賊団を、奴らは生かしてい置けなかったのだろう。ミレディ殿ならやりかねない事だ・・・。」
ナーティが言った。ナーティはやたらミレディについては詳しかった。クラウドがその理由を尋ねたところ、昔ベルンに傭兵としていたころ、話したことがあったそうだ。
セレナは、ナーティはもっといろいろ知っているのではないかと思っていた。しかし、クラウドと違い、怪しむことはしなかった。自分にとっては剣に師匠であり、よき人生の先輩だったからだ。冷たいけど信頼の置ける人物・・・姉貴だと、セレナは思っていた。
何時ものように一行は祭壇を探す。しかし、アレンはふと思い出した。デュランダルの取り出し方は、オスティア候直系の者しか分からないはず・・・。一抹の不安を胸に、一行は祭壇までたどり着く。
「じゃあ、いつもどおりやるわよ。みんなもお祈りして。」
アリスが祈り始める。それを見た他の者も同じように祈る。この場にいる精霊にアリスが話しかけてみる。すると、何処からか声が聞こえてきた。
「オレを・・・オレを呼ぶのは誰だ・・・?」
ローランだった。次第に声は大きくなり、皆の心の中に、実態としてその姿を現した。勇者ローラン・・・大剣デュランダルを扱ったにしてはかなり小柄な人物だ。
「私はアリス。私達は、世界をあるべき姿に戻す為に、貴方の力を必要としています。どうか、その力をお貸しいただけませんか?」
アリスが早速交渉を開始する。デュランダルは、かつて自分の祖父も使ったことのある伝説の剣。その力を天まで届き、大地の理を正すほどだったという。今、その伝説の剣を扱った、伝説の勇者と対話しているのだ。
「お前達が・・・オレの子孫だな・・・。わかるぞ、半世紀前に来た男と同じような真っ直ぐな目をしているな。」
半世紀前に来た男・・・エリウッド爺様の事だ。そう、セレナもシーナも思った。両親の顔すら覚えのない双子にとって、祖父はもう全く分からない存在であった。
「あたし達は、今、世界中に笑顔が溢れるような、皆が幸せに生きていける世界を目指して旅をしてる。そのために、貴方の力が必要なんだ。お願い、デュランダルを扱う事をあたし達に許して。」
セレナがアリスに続き交渉する。自分にも、このローランの血が少なからず流れている。自分の遠い祖先と対話する事は、何か不思議な気分だった。
「・・・時とは無常なものだな。時は人を傲慢にする。最初は謙虚だった人々の世界を、欲と嫉妬に満ち、争いあう世界へと変えてしまう。無垢で穢れない子供の心を、そういった欲まみれの汚い大人の心へと変えてしまう・・・。」
セレナ達はそれを黙って聞いていた。ベルン動乱で両親が神将器を用い、世界を正して四半世紀も経たない内に、また争いは起こり、両親は倒れた。ローランは続けた。


160: 152:05/11/21 09:27 ID:gAExt6/c
「オレもこの小柄な体格を散々バカにされたこともあった。時は人を傲慢に変え、その傲慢になった人々の目は、自分と容を異なるものに向けられる。自分と異なるものを認められなくなるのだ。それは次第に差別へと進行し、埋められない溝へと発展する。」
自分と異なるものを恐怖し、認められなくなる。人間族がハーフを毛嫌いした理由はなんだろうか・・・。それは今の一行には分からなかった。だが、とにかく傲慢になった人間が、自分達と異なるハーフや竜族を認められなくなった時、戦争の火種がくすぶり始めたのだろう。そして、実際に竜族との確執は人竜戦役という形で、ハーフとのそれは今まさに現在進行形で行われていた。
「わかるか? 人間の心に卑しき心がある限り、それは時が増長させ争いに発展する。例えお前達が正したところで、また時が経てば同じような問題が発生する。」
「でも、間違っていると思うことは、今からでも改めればいい。皆に間違っている事を理解してもらえるように努力する。間違えたら・・・やり直せばいいと思う。」
シーナがローランに答えた。間違っていると知りつつも、それを見て見ぬ振りをしていては、歪はますます酷くなるばかり。そしてその歪は、ある時突然、大きな災いに姿を変える。・・・そうなってしまってからでは遅い。
「間違えたらやり直せばいい、か・・・。簡単に言ってくれるな。世界一般の認識を変えていくことは、並大抵の努力では為しえない事。・・・それでも、やるのか?」
「やるったらやるの! やるしか世界を正す方法はないんだから! 現にエトルリアは、人間とハーフが手を取り合う国に変わりつつある。あれだって、あたし達・・・皆でがんばった成果だと思ってる。」
セレナがローランに返す。そうだ、やるしかないのだ。例えどんな困難が立ちふさがっても、仲間と一緒に乗り越えていく。間違えたらそれを認めて正し、また歩む。これが大切だった。傲慢になった人間には、自らの過ちも、自らと異なるものも認められなかった。これが大きな災いを生む原因だった。
「そうか・・・わかった。では、お前達が本当にその遺志を達成できるほどの力があるか試してやろう。・・・剣を取れ。」
目を閉じて祈っていた一行が、風を感じた。気になって目を開けてみると・・・そこにはなんとローランがいるではないか! その手には大剣・・・デュランダルが握られている。
「うそっ!? 神将と戦えって言うわけ?!」
「いくぞっ、何かを達成しようとすれば、それにはそれに相応しい力が必要だ。お前達にそれがあるか試させてもらう!」


161: 153,160の続きでし:05/11/21 09:29 ID:gAExt6/c
ローランが大剣を軽々と持ち上げ、セレナ達に迫ってくる。早い! あの小柄な体格で大剣を持っているとはとても思えないスピードだ。
「セレナ! 何をぐずぐずしている! 早く剣を抜け!」
ナーティがローランに走り寄りながらセレナに怒鳴った。ナーティもまさかローランが挑んでくるとか予想外だった様だ。
セレナは剣を抜いたが、ナーティとローランの攻防にしばし見とれてしまう。ナーティがローランの鋭く、重い一撃を避け、光速の剣撃を叩き込む。それをローランが軽くデュランダルで受け止める。お互い早くて目が付いていかない。二人の剣神がまさに牙を向き合っているという状況だった。
「セレナ! 何をボーっとしている! 認められなければならいのは、お前達なのだぞ! 私のような傭兵に任せてどうする!」
もう一度ナーティに怒鳴られてセレナはようやく我に返る。しかし、その際隙が出来たのか、とうとうナーティにローランの一撃が直撃する。
「ちっ・・・。」
大剣の前に軽々ナーティが吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられる。アリスが慌ててナーティに回復魔法を飛ばす。まさかナーティがやられてしまうなんて。
セレナ達が今度はローランに挑みかかる。しかし、まだ間合いが広かったそのときだった。
「いくぞ! うりゃぁ!」
ローランが大剣を地面に力任せに突き刺した。その途端、その場所から音を立ててセレナ達のほうへ向けて衝撃波を伴った地割れが迫ってきた。
「うわっ?!」
シーナ空中にいたから無事だった。セレナも焦ったが、何とか空中に逃げた。セレナのいた場所を凄まじいスピードで駆け抜けた地割れは、そのまま洞窟の壁に当たり、大きな音を立てて止まった。
「うひゃぁ・・・。」
セレナは後ろに出来た大きな穴を見ながら思わず声を上げた。しかし、ローランがそれを黙って見ている訳がない。脅威の跳躍力で一気に空中のセレナに飛び掛り、重い一撃を与える。
「うぎゃ!」
華奢なセレナは軽々と壁まですっ飛ばされ、叩きつけられる。・・・めちゃくちゃ強いぞこの人。
セレスがやっと詠唱の終ったフォルブレイズをローランに向けて放った。神将器ならきっとダメージを与える事ができるはず・・・。
しかし、よく見れば、ローランは結界を張って凌いでいるではないか! 魔法すら通用しないとは・・・。
「どうした、お前達の力はその程度か! その程度で世界を正すなどといっているのか。笑わせるな!」
ローランがまた突っ込んでくる。とりあえずこの突進を防がなければ。
「セレナ! シーナ! 我々三人で一気に決めるぞ。チャンスは一度きりだ! この前教えたあの技で一気に止めを刺すんだ。」
ナーティがセレナ達に指示を出した。これ以上戦いが長引けばこちらが持たない。短期決戦で一気に相手の動きを止めるしか術はない。
「わかった。クラウド、親父、それにセレスに姉貴。援護を頼むよ!」
セレナも丁度あの技を試してみたかった。それにそれしか方法がないというピンチでもあったから、セレナは直ぐにナーティの指示にうなずいた。自分が将とか、そんなの関係ない。良い案なら誰のものでも受け入れる。
クラウドやアレンがセレナの指示を受け、ローランに向かっていく。手槍で牽制しつつ、ローランの気を引く。そして、セレスもエイルカリバーなどで相手の動きを止める事に専念した。そして、彼らの攻撃に耐えかね、ローランがあの衝撃波で彼らを吹き飛ばそうと剣を突き刺した、その瞬間だった。
「シーナ! ナーティ! いっくよー!」
セレナが二人に合図をかけ、一気に飛び込んだ。
「トライアングルアターーーック!!!」
二人で交差するように放たれた無数の突きが十文字を形成し、トドメに三人同時にローランに強力な突きをお見舞いした。剣を地面に突き刺し、防御手段を失ったローランは、これの直撃を受けてしまった。流石の剣神も、この一撃の前に倒れてしまい、それと同時にその姿は消えた。その場には刺さったデュランダルだけが残った。ローランは・・・幻影だったのである。
「見事だ・・・。お前達はオレに勝った。俺はお前達の力を認める。その剣を持っていけ。世界を頼む・・・。俺たちが達成し得なかった事を実現させてくれ・・・。」
ローランの声が聞こえなくなると、洞窟にそれまでの静寂が戻った。セレナがデュランダルに近づき、それを地面から引き抜いてみる。


162: 手強い名無しさん:05/11/21 09:30 ID:gAExt6/c
「うわっ!? なんだこれ! すごく・・・重たい・・・・うがぁ〜。」
セレナがデュランダルのあまりの重さに倒れてしまった。剣が体の上に圧し掛かりジタバタもがいている。こんな剣をローランは振り回していたのか。
「ふぅ・・・ローランか・・・言い伝えのままの凄まじい力を持った勇者だったな・・・。」
ナーティもこの時ばかりは胸を撫で下ろしたような台詞をもらした。シーナはこのナーティの反応に改めて、危険な戦闘だった事を感じ取った。でも、自分達はそれに打ち勝った。しかも自分達の力で!
「すげー、さっきの技、何だよ。なぁなぁ、セレナ!」
クラウドがセレナを起き上がらせながら先ほどの三位一体攻撃について聞いていた。
「さっきの? あれね、あたしの母さんが使ってた必殺技なんだって。ナーティのヤツ、それを何かの文献で知ったらしくて、試したかったみたい。」
トライアングルアタック・・・代々天馬騎士の家系に受け継がれていた三位一体の空中殺法。その息の合った攻撃を繰り出すには、並大抵の技術では達成し得ない。だが、その技が達成された時、その攻撃から逃れる術はないという。必殺技の中の必殺技だった。
アレンはまさか、またこの華麗でかつ恐ろしい攻撃方法を見ることが出来るとは夢にも思っていなかった。それにしても文献で見て、それを一度で成功させるとは・・・アレンは再度ナーティの腕前に感心した。更に、それをこなして見せた双子にも、やはり成長を見た。ロイ様・・・我々はデュランダルをも手に入れました。今度はイリアに進軍して参ります。どうか、我々にご加護をおあたえください・・・。
「さて、手に入れるものは手に入れた。このままリキア内に留まるのはよくない。早速出発して、今度はイリアへ向かおう。」
アレンが先陣を切る。ここはリキア内。まだベルン五大牙の筆頭、グレゴリオ大将軍と戦うには状況が悪すぎる。それ以前に神将器は手に入れたのだからもう無理にリキアに攻め込む必要も無い。あくまで封印の剣を手に入れることが先決だ。まずはイリアを取り返してからその後の事を考える事になった。

一行はリキアを発って数日後、グレゴリオがベルンから帰還した。その元に兵士が慌てて飛び込んできた。
「大将軍! ご報告いたします!」
「なんじゃ、いきなり騒々しい。落ち着かんか。」
「はっ。 先日、オスティア郊外の神将器の眠る洞窟で、戦闘が起こった模様。どうも反乱軍とアルカディアの連中が戦闘を行ったようです。」
「なんじゃと! ・・・で、神将器は無事か?」
「いえ・・・その戦闘後から神将器の波動が消えました・・・。」
「そうか・・・。奴ら・・・精霊術師を狙っておるのか。」
「大将軍! 反乱軍の追跡はいかがいたしましょう。」
「・・・反乱軍は放っておけ。それより、アルカディアをしっかりマークせよ。反乱軍はリキアに攻め込まないようにしっかり守りを固めておくのじゃ。」
グレゴリオはそういい残すと、自分の部屋に戻っていった。そして、椅子に腰掛けると、その上にあった数個の石を手にとって眺めた。
「色々な形をしておるのぉ・・・。丸いもの、尖ったもの・・・人も同じじゃ。色々な考えを持った奴がいるから面白い。・・・今のように思想統制してはいかんのじゃ・・・。 さて、反乱軍・・・いや解放軍といったほうが良いかの。お前さん達の活躍を期待しておるぞ。ワシもお前さん達の手伝いをしてやるわい・・・。正義と思ってしている事が、全く逆の結果になるとは夢にも思っておらんじゃろう。まずはその過ちに自らで気づいてもらわねばな・・・。」
そのころセレナ達は、そんなグレゴリオの思惑など知る由も無く。エトルリアとリキアの国境沿いを、イリアに向けて歩んでいた。山々を抜ければ、そこは極寒と天馬の国イリアである。自分の故郷でもあるその国がどんな様子か、セレナは思いをはせていた。
それ以上にアリスは複雑な心境だった。自分の祖国にして自分が統治すべきだった国。今更帰って言ってみなが受け入れてくれるだろうか。それ以前に国がどうなっているのか・・・心配でならなかった。
そんな不安と気体が入り混じった複雑な心境を胸に、一行は針葉樹林を目指し、ひたすら歩んでいった。


163: 忠明:05/11/21 12:09 ID:gezKSf1Y
出会い系でさぁーメグリアイってとこ有名だけどやってみたらサクラばっか
だしまったく会えないんですけど・・・時間の無駄だった・・・
唯一今までちゃんと会えてアド交換とか電話できたのはここだけだった。みなさん
におすすめなので教えます。正直穴場でした。全て無料でしたので安心でした。アクセスの手順です。comの前の空白を詰めれば入れます。
http://www.koisonadx. com/?ko2u40-s2s11c
メグリアイなんてするもんじゃないですよ


164: 手強い名無しさん:05/11/22 12:31 ID:E1USl4sQ
どうでしょう。楽しんでいただけてますでしょうか?
なにぶん書き込みが自分だけなので、一人だけでがんばっているのか静観してくださっているのか不安でして。。
いろいろ手違いなど含め読みづらいところもありますがこれからもよろしくお願いします。

さて、一行はいよいよシャニーの故郷イリアへ向かうわけですが
実はまだ新しく登場するキャラの名前が思いついておりませぬ・・・。
ストーリーより名前を考えるのに時間がかかっている気がするほどです。

165: 手強い名無しさん:05/11/26 03:12 ID:JYzcc6/s
ぼちぼち読んでます
ゆっくりと書き続けてください

166: 手強い名無しさん:05/12/12 23:42 ID:hytvtGgw
更新マダー

167: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/15 14:11 ID:E1USl4sQ
すいませぬorz
ただいま師走事&入社前研修で結構忙しかったりします
それでも現在イリア編を誠意執筆中ですので、もう暫くお待ちくださいませm(_ _)m

168: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/20 10:39 ID:E1USl4sQ
なんか見ないうちに結構宣伝で荒らされてますね。
管理人に報告っと((φ(..。)カキカキ
現在イリア編の終盤を執筆中。年内にはアップできるかな?
どーせクリスマスも単騎突撃余裕ですし('A`)

169: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/24 21:05 ID:9sML7BIs
大変長らくお待たせしました。
クリスマス・イヴを半日以上費やして、ようやくイリア編完結までこぎつけました。
後は文書校正のみですので、あと少しだけお待ちください。

°・:,。\(^-^ )♪メリー・クリスマス♪( ^-^)/,。・:・°





結局ソロなんですけどね('A`)

170: 第十八章:天空の黒騎士:05/12/25 10:49 ID:E1USl4sQ
「うーん。」
エトルリアからイリアへ続く山々を抜ける一行。その道中、またセレナが小難しい顔をして何か考え込んでいた。
「どうしたんだよ、セレナ。頭でも痛いのか?」
クラウドが馬上からセレナを見下ろした。上から見ると頭を抱え込んでいるように見えた。
「違うよ! 兄貴は男だから分からないのかもね。」
「?? あぁ、わかった。お前、今日アレだろ?」
「アレ??」
セレナが殴る準備をしながら兄に返す。どうせ兄の事だ。分けのわからないことを言うに決まってる。
「そう、アレ。あれだ、一ヶ月に一度の女の日だろ?」
やっぱりか、と言わんばかりにセレナは飛び上がり、兄の頭に拳骨を食らわした。
「ワケの分からないこと言うと殴るよ!・・・まったく、デリカシーに欠けるんだから。」
「いってー! 殴ってから言うなよ! じゃあ何をそんな唸ってるんだよ。」
クラウドが頭をさすりながら聞いた。昔からセレナにはよく殴られる。別に変な事を言ってるつもりはないんだけど、何故かセレナは怒る。なんでかなー。
「この前のミレディって奴。あいつの言葉が妙に引っかかってさ・・・。ほら、あたし達が正義と言うなら、こっちだって正義だって言ってたじゃん。」
「あぁ。そりゃお前、自分から俺は悪人だと言うやつなんて早々いないだろ。皆自分が正しいと思っているからその行動に出るわけだしよ。」
「うん、それはそうなんだけど・・・。逆に言えば、あたし達のやってることも、他の人から見たら間違っているかもしれないって事になるよね。」
その言葉に、クラウドは珍しく真顔になって反論した。
「そんなことあるもんか! お前や俺たちがこんなに苦労しながら、苦しんでいる人たちを助けて回っているのに、それを間違ってると言える奴なんているもんか。」
「そうかなぁ・・・。」
「へぇ、クラウドにしちゃあまともな事言うじゃないか。」
セレスがからかい混じりにクラウドを褒める。当のクラウドはそれを真に受けて照れている。
その会話に、他の者も混じってくる。自分達のやっていることがもし間違っているとすれば・・・それは悲しい事だ。良かれと思ってやっているだけに。
「セレナ、正義と言うものは一つじゃない。幾通りにも方法はあるはず。だけど、最終的に求めているものは、皆同じではないのかな?」
アレンが何時ものように諭す。ロイ様も度々言っていた事で、今度はその姫様が悩んでいる。ここは自分がその悩みから解き放ってやらなければとアレンは思っていた。
「セレナ、悩んでも仕方ないわよ。私達は、私達が正しいと思うことを精一杯やればいいじゃない。」
「そうだよ。それで間違えたら、やり直せばいいじゃない。姉ちゃんだってそう言ってたじゃん。」
皆セレナを励ました。何が正しくて、何が間違っているのか。それは主観で判断せざるを得ない。だから人によって正義と言うものは変わってくる。自分が正しいと思った道を信じて貫くことこそ大事だ。
「そうだね・・・。なぁ、ナーティ、あんたはどう思う?」
「ん・・・? あぁ・・・すまない、聞いていなかった・・・。」
セレナが同じ質問をナーティにぶつけてみる。だが、どうも今日のナーティは何時もの精彩に欠ける気がした。
「・・・と言うわけで悩んでいるの。・・・って! ちょっと聞いてるの!?」
「ん・・・? すまない・・・ちょっと一人にしてもらえるか?」
何か山の方をぼうっと見ながら歩いていた。そして、終いには一行と少し距離を開けて、後ろから一人で歩き始めた。どうも変だ。
「ナーティさん、どうしたんだろうね。」
シーナが不思議そうに言った。あんな様子のナーティは今まで見たことがなかったからである。
「あれじゃないのか? ナーティこそ、一ヶ月に一度の・・・うぎゃ!」
クラウドはそこまで言った時、今度はセレナだけでなく、シーナからも拳骨を貰ってしまった。
「全く・・・わが息子として情けない・・・。とにかくセレナ。正義なんていうものは早々簡単に決め付けられる事じゃない。ナーティ殿も言っていただろう? 何が善で何が悪なのか、それを決める事は容易なことではないと。」
「うん。」


171: 手強い名無しさん:05/12/25 10:51 ID:E1USl4sQ
「だけど、気をつけるべきことは、大勢の意見が善とは限らないと言う事。今のハーフを見れば分かるだろう?」
「うん・・・そうだね。わかった。それを判断できるようにあたしはもっとがんばるよ。」
そんな会話をしながら山々を抜けていく。周りの景色が広葉樹から針葉樹へと徐々に変わっていき、空気もどこか冷たくなっていくのが分かった。
イリアは、元々は騎士団が混在し、その騎士団一つ一つが小国のように領地を持っていた。それが前のベルン動乱で荒廃したり、没落した事を機に、連合国家という形で一つの国へとまとまったのであった。
その中心人物は、イリアの聖騎士と誉れ高かったエデッサのゼロットと、その妻で伝説の天馬騎士とすら言われたユーノであった。彼らは国の基盤を作り、
辺境の弱小国、金のために人を殺しまくる民族、という色眼鏡を何とか払拭しようと努力していた。そして、ユーノの実妹に当るシャニーがその国の騎士団のリーダーとして王都を警備していた。
イリアの人々は、ゼロットやユーノを聖王と崇め、気さくで明るいシャニーの人柄を慕い、その将来を嘱望していた。
だが、三人とも、前のベルンの変で戦死し、国もハーフに乗っ取られてしまった。騎士団も散り散りになった。処刑されたもの、騎士の身分を剥奪されたものなど様々だった。
この地を収めるのは、ベルン五大牙唯一の女性騎士、ロイ達を苦しめたあのマチルダだった。マチルダのやり方は徹底しており、
王都でのハーフ以外の種族の立ち入りを禁じていた。そして、もし王都にハーフ以外がいることが知れれば、その理由に関係なく極刑を下すと言う過酷なものだ。

イリアは騎士団が領土と勝手に決めていただけだったので、元々国境の線引きがあいまいであった。だが、足元に雪が見え始めたところからしても、どうやらイリア領内に入ったようである。雪はイリアの象徴であり、悩みでもあった。
「うー、寒い! はっくしょん!」
厚着をする騎士ですら、イリアの空気の冷たさは鎧を貫いて直接肌に突き刺さる。クラウドはその寒さに思わずくしゃみをした。
この地に慣れない者にとって、最大の敵は雪と寒さであった。雪で視界を奪われ、寒さで体の自由を奪われる。そんな五里「雪」中の状況で、突然空中から天馬騎士の襲撃を受けるのである。セレナ達もその恐怖を直ぐに味わうことになる。
「確かに寒いね・・・ぶるぶる・・・あぁ・・・ここではズボン穿かないと死にそうだ・・・。」
セレナも震える。いくら母親が雪国の人間だったからと言って、自分が寒さに強いとは思えない。オーバーニーのロングブーツとショートズボンでは寒さが身にしみる・・・。
同じように軽装備のナーティも、このときばかりは震えているだろうと思ってセレナがナーティを見る。しかし当の本人は、どうも気が抜けたように空ばかり見ていた。
「ナーティ、あんたは寒くないの?」
セレナが外套を羽織ながら、ナーティのところへ駆け寄る。
「ん・・・? いや、別に・・・。」
「うそー。こんな寒いのに寒くないだなんて・・・やせ我慢しなくってもいいんだよ!」
そう言いながらナーティの背に外套をかけてやる。それでもナーティは相変わらずだ。一体空に何があるのやらと思い、セレナが空を見上げてみる。
空は灰色の雲で覆われ、今にも吹雪そうな寒空だった。一刻も早く宿を見つけないと。そう思っていた矢先だった。
その灰色一色の空に・・・黒色の飛行物体・・・それが・・・高速でこちらに接近してくる!
「ねぇ!ちょっと、アレ何?!」
セレナが声を上げる。その声にナーティもはっと我に返った。そして、直ぐに今度は意識を持って空を見上げた。
「! 多分敵だ。 武器を構えろ!」
その黒色の物体がすぐに自分達の上空に降りてきた。黒色の飛竜だ。このイリアに飛竜・・・間違いなくベルン兵だ。
「お前達、旅の者にしてはいささか武装が過ぎてはいないか?」
竜上の男が、一行に声をかける。どうやらまだ敵意はないらしい。
「私達は、傭兵として世界を回っているんです。突然空からあなたが飛来したもので、つい・・・。」
「そうか。俺はこのイリアを支配するマチルダ将軍の実子でレオンと言う者。イリア騎士団を纏めている。今も何か事件が起こっていないか警備中だったのだが、失礼した。しかしこの頃各地で物騒な事件が起きている。お前達も気をつけることだな。」
そう言い残すと、そのレオンと名乗る男は飛竜を駆り、あっという間に寒空に消えた。


172: 第19章:The Dark Knight:05/12/26 07:57 ID:gAExt6/c
「ねぇ! 今聞いた!? 敵の大将の息子だって!」
シーナが慌てる。一歩間違えば交戦していたかも知れなかった。まだ自分達の素性は知られてはいないのだろうか。
「見た見た! あの人超かっこよかったね! あー惚れちゃいそう!」
「・・・姉ちゃん・・・!」
姉の緊張感のない発言に怒るシーナ。妹が自分以外の男に現を抜かすことに何か悔しさを感じるクラウドと、それを見て呆れるアレン。反応は様々だったが一人、違う反応を示す者がいた。ナーティである。
「あの槍・・・・あれは・・・。」
「どうしました? ナーティ殿?」
アレンがそれに気付き、話しかけるがナーティは何もなかったように返した。
「いや・・・なんでもない。それより、宿を探すべきだな。この寒さの中で野宿は体に障る。」
「そうですね。確か後半日も歩けば、シャニー様の生家のある村に着くはずです。そこに泊めて貰いましょう。」
自分達の本当の母親の生まれ故郷・・・。そこにもうすぐ行く事ができる。セレナもシーナも感動に似た感情に襲われる。だがそれと同時に、本当に自分がイリア皇族の末裔であるかどうかも確かめる事になる。何か怖い気もした。
「あの村に行くのか・・・。致し方ないか。」
ナーティがまたポツリと独り言をもらす。そんなナーティとは対照的に、双子の足取りは今までより心持早くなった気がした。

そして、日没も近い夕暮れ時に、ようやくその村にたどり着く。いつもはへばって情けない声を上げるセレナも、今回ばかりはそうはいかなかった。
「ここが・・・あたしの母さんの故郷・・・。」
その村は未だ17年前の惨事を形に残していた。瓦礫と化した家々は残してあったのだ。
一行は村人に案内してもらい、村長の家に招かれた。今日は温かいベッドで休息を取ることが出来る。誰もがそう思った。だが、事実はその予想を大きく裏切るものだった。
「何!? 貴様達はあのシャニーの娘達だと言うのか!」
「そうだよ。あたし達はロイとシャニーの間の・・・。」
「出て行け! あいつはこの村から追放された人間だ。 むろんその一族も同罪だ! さっさとこの村から出て行け! 我々にこれ以上災いをもたらすな!」
村人から石を投げつけられ、一行は村から追い出されてしまう。一体何があったというのか。セレナ達は自分達が受け入れられない理由が全く分からなかった。
「やはり・・・こうなってしまったか。」
ナーティがため息混じりに頭を抱えながら言った。
「なぁ! ナーティ、あんた何か知ってるんだろ? 教えてくれよ!」
セレナがナーティに走り寄りながら強い口調で訊ねる。暫くナーティは黙っていたが、やっと重い口を開いた。
「・・・お前の母親は、この村で、自らの姉を殺したのだ。」
「えぇ!? そんな、何でそんなことを!」
「私にそんなことを聞いても分かるはずがなかろう。だが、ここの人々がお前の母親を禁忌の存在とする真の理由は・・・。」
「理由は?」
「・・・。」
「言えよ!」
セレナが沈黙するナーティの胸倉を掴んで怒鳴った。セレナは半泣き状態である。
「お前の母親をおびき出すために、ベルン軍がこの村を焼き払ったのだ。その際かなりの犠牲者が出たらしい。」
「そんな!」
「それだけではない。その人々の目の前で、お前の母親は翼の生えた姿をあらわにした。その姿が人々には、災いをもたらす、呪われた力を持った堕天使に映ったそうだ。」
「そんな・・・母さんは何も悪くないじゃないか!」
「そうだよ! 村人を守る為にがんばったのに、それで追放にされただなんて、お母さんが可愛そう過ぎる!」


173: 第19章:The Dark Knight:05/12/26 07:57 ID:gAExt6/c
先ほどまで黙って話を聞いていたシーナも、とうとう我慢できずにナーティに当ってしまった。
「・・・私に当っても仕方ないだろう。それに、同情で事実に対し盲目になってはいけない。」
「どう言う事?」
シーナが少し落ち着きを取り戻しながら聞いた。
「お前の母親は、民を守るべき立場であったにもかかわらず、逆に民に大きな犠牲を出した。その事実に何ら変わりはない。その理由が例えどんなものであろうと。」
「それは・・・そうだけど・・・。」
「冷たい事を言うようだが、どれだけ本人が頑張ろうと結果が全てだ。結果的に民に犠牲を出したのであれば、人々に忌み嫌われても仕方ないだろう。」
「でも! でもそれじゃあまりにもやるせなさすぎるよ!」
シーナが珍しく熱くなって言う。それほど、理不尽な事がまかり通っていたのである。
「そう思うなら、お前達がベルンを倒し、人々を闇から救ってやれば良いではないか。結果を出した者だけが、英雄と呼ばれる。お前達が結果を出せば、相対的に母を救うことにもなろう。」
ナーティの言葉に、アレンも続けた。
「セレナ、シーナ。シャニー様は蒼髪の天使という呼び名で、広くイリアで愛されていた人だ。ここのように嫌っている人間は決して多くない。それも、心の隅に置いておいて欲しい。」
それを聞いて、双子は一層決心を新たにする。
「あたし達が頑張って母さんの無念を晴らして上げなきゃね。がんばろう、ね!シーナ。」
「うん! 私、ベルンを倒す明確な理由がもう一つ出来たよ!」

野宿の準備を終えた一行に、ナーティが突然話を切り出した。
「皆、ちょっと聞いてもらいたい事がある。」
「どうしたんだよ。」
セレナ達が集まってくる。ナーティがこんな風に皆を呼び集める時は、何か事柄を伝える時しかない。しかもかなり重要な。
「お前達も、昼に見たあの漆黒の竜騎士を覚えていると思う。」
「あぁ! あのカッコイイ人ね。」
セレナの反応を鼻であしらいながらナーティが続けた。
「ふ・・・。そうだ、あの竜騎士だ。だが、問題はその竜騎士本人より持っていた槍だ。」
「槍? ・・・なんかそう言えば・・・凄く強そうな槍だったね。」
シーナが頭にあの時の情景を浮かべて思い出しながら言う。アレンがやはりと言うような口調でセレナ達に説明してやる。
「ナーティ殿も気付いておられましたか。セレナ、シーナ、あれはマルテと言う槍だ。別名を氷雪の槍と言い、かつて人竜戦役で騎士バリガンが用いた神将器だ。」
「マルテですって!? ベルン軍が所持しているのか・・・厄介ですね。」
セレスがあごに手を添えながら考え込むように言った。ただでさえマチルダ将軍という強敵が立ちはだかっているのに、更に神将器まで敵の手中にある。
「そう言う事だ。真っ向から戦って勝てる相手ではない。まずは町で情報収集をしたいところなのだが・・・。」
ナーティはそこまで言うと、腕組みしたまま黙り込んでしまう。
「そうだね。じゃあ、明日から早速・・・。」
そこまでセレナが言ったところで、セレスが止めた。
「それが、ダメなんですよ。王都にはハーフ以外は進入禁止なんです。もし中にハーフ以外のものがいることが知れれば、その場で斬首です。」
「ひぇ〜、おっかねぇなぁ。」
クラウドがぎょっとしたような表情を浮かべる。昔からマチルダは、冷血な智将として有名だった。
「じゃあ、私とクラウド兄ちゃんで王都の様子を探ってくれば良いんだね?」
シーナがクラウドの目を見ながら皆に言った。シーナとクラウドなら、同族には甘いハーフ相手に気付かれる事もなく、王都の詮索が出来る。
「そうだな・・・。危険な賭けだがやむを得まい。シーナとクラウドが王都を探っている間に、我々は人間たちの住む北のほうを当ってみよう。」
ナーティが、よく言ってくれたと言わんばかりに、シーナの顔を見ながら言った。アレンは、姫を自分の元から離れさせる事は極力避けたかったが、こうするより他は無かった。クラウドだけではなにをするかわからない。
「クラウド、シーナの言う事をよく聞いて、敵に気付かれないように行動するんだぞ?」


174: 手強い名無しさん:05/12/27 08:18 ID:gAExt6/c
アレンが息子に警告する。自分も若いころ、直情径行でよく突撃していた。だからこそ、息子の性格もよく分かっていた。今でもそうだと言われればそれまでだが。
「なんだよそれ! 俺のほうが年上なんだぞ?」
クラウドが怒ったように父親へ反論する。アレンの言葉を知らない人が聞いたら、きっとシーナが姉なのだと思うだろう。
「はははっ、兄貴よりシーナのほうが落ち着いて見えるもんね〜。」
セレナが笑いながら茶化す。お前にだけは言われたくなかったぜ・・・。クラウドは心の中でそう思った。
「でも、私達を人々は受け入れてくれるでしょうか・・・。 昼間のようになったら情報収集どころではないわ。」
アリスが心配そうに言った。自分はイリア王国の王女。イリアを統べていかねばならない立場だ。だが、自分達は必ずしも歓迎されるとは限らなかった。助けようと思っているのにその想いが伝わらず、一方的に拒否される・・・これほど悲しい事もない。
「イリアの民はゼロット王を聖王と崇めていた。アリスは亡きゼロット王の嫡子。お前が皆の前に姿を現せば、人々はきっと歓迎してくれるだろう。」
ナーティだけでなく、アレンも続けた。昔、ロイ達がイリアに駐留していたときの思い出を・・・。
「大丈夫。きっと、人々は助けを求めているはず。昼間の人々は特殊なんだ。英雄ロイ様と蒼髪の天使シャニー様の間の子と知れば、人々はきっと歓喜するだろう。昔は炎の天使と言って、皆がセレナ達の誕生に歓喜したものだ。」
・・・あの時の事が、アレンには昨日のように思い出された。
「よーし、じゃあ決定! 明日から二手に分かれて情報収集だ! 兄貴、シーナ、頼んだよ。」
セレナの掛け声に、ハーフ二人組みが手を上げて答える。
「おう! 任せとけ!」
「姉ちゃんもヘマしないでよ!」
イリアの寒空に、焚き火の赤と、一同の笑い声が響いていた。

一方、ここはイリアの王都エデッサ。あの漆黒の竜騎士レオンが、警備を終え、王城に帰還した。
「母上。レオン、只今帰還いたしました。」
レオンが兜を外しながら母親マチルダに帰還の報告をする。
「ご苦労様、レオン。劣悪種の様子はどうでしたか?」
「はい、ますます貧困にあえぎ、苦しんでいます。特に幼子を持った母親は栄養状態が悪い為か乳の出が悪く、死んでいく赤ん坊も多いと教会の神父から聞いています。」
「そうですか。では反乱を起こす力も残っていないようね。じゃあ、王都周辺の同族の暮らしはどうでしたか?」
マチルダは人間達の状況は軽く聞いただけだったようで、同族の暮らしのほうが気になるらしかった。
「・・・。同族たちは母上の統治のおかげで今年の冬もそのまま乗り越えられそうです。衣食住、全てに欠いている様子は見られません。」
その言葉を聞き、マチルダは笑顔を見せた。
「そうですか。それはよかった。この頃世間では物騒な事件が多くおきていますからね。西方のサンダースも、エトルリアのリゲルも、取るに足らない将ではありましたが・・・。ベルン五大牙が二人も倒されるとは・・・。」
母親のその様子に、レオンが怒ったような口調で進言した。
「母上。出すぎたことを申すようですが、もっと人間達の生活を保障してあげるべきではないでしょうか?」
それを聞いた途端、マチルダの笑顔は消えた。そして、レオンに近づきながら言った。
「それは、どう言う事ですか?」
「はい。我々の生活が成り立っているのも、人間達から搾取を繰り返しているからに他なりません。小麦にしろ、土地にしろ、絹糸にしろ・・・。このままではいずれ歪が限界に来ます。もっと共存できるシステムを・・・。」
そこまでレオンが言ったところで、マチルダはレオンの頬をぶった。
「劣悪種と共存ですって?! 貴方にはハーフとしての誇りというものがないのですか! 劣悪種は優良種のために存在しているのです。貴方はペットの犬と同じ穴倉に住み、同じ残飯を食べて生きろと言うのですか、それと同じです!」
マチルダが厳しい口調で息子を叱咤する。レオンは母親の人間への待遇がどうしても納得できなかった。
「しかし! 我々にも半分は人間の血が流れているのに、どうして同じ血の流れるものを虐げなければならないのですか!」


175: 手強い名無しさん:05/12/27 08:20 ID:gAExt6/c
「我々は血は同じでも、全くの別物。だから劣悪というのです。それに彼らは野蛮です。野心に溢れ、嫉妬し、憎しみ合い、そして殺しあう。そんな野蛮な種族は滅ぶべきなのです。」
「ですが! 他の種族を虐げてまで自分達が豊かになろうと言う考えが正しいとは、俺には思えない!」
「・・・何が言いたいのですか?」
「母上、考え直してください! このままでは我々は単なる圧政者です。人間だってイリアを形成する大事な臣民。その臣民から憎まれては、国は生きていけません!」
マチルダはとうとう息子の喉下に、腰に刺していたレイピアを突き当てた。
「人間は臣民などではない! 犬同然だ! ・・・まだこれでも寛大なほうですよ? 実験に使う以外には手を出していないのですから。本当なら! 人間など根絶やしにしてやりたいものなのに!」
マチルダは何時もの冷静さを欠いたように、怒鳴りながら息子に説教をする。
「貴方にも教えたでしょう! 我々がどんなに差別されてきたかを! それでもそのようなことがいえますか!?」
レオンは喉もとのレイピアを払いのけ、距離をとって母親に言い返した。
「俺は母上の考えは理解できない! 差別されからって仕返していたら、何もならないじゃないか!」
息子の逆上の仕方に、仕方なくマチルダもこの場は自分の感情を抑えた。
「・・・全く、聞き分けのない子。自分の息子だとは思えないわ・・・。レオン、貴方は私の命令に従えばいよいのです。息子とは言え、貴方と私は主従関係にある。口には気をつけなさい。」
レオンも何時もの冷静さを欠いていた事に気づき、下を向いてしまう。
「は・・・。申し訳ありません、母上。」
「少しは貴方の考えも頭に入れておきましょう。今日は下がっていいですよ。」
「はい・・・。」
レオンが軽く一礼し、部屋から出て行った。それを見て胸を撫で下ろすマチルダ。マチルダも心の底では怖かった。あちこちで反乱が起きている。このイリア内でも、その火種がないというわけではない。しかも、事もあろうにそれが自分の直属の部下であり・・・息子である。
「それにしても・・・血は争えませんね・・・。まさかあそこまで気が強い男だったとは・・・。あの父親も騎士道精神に溢れた強い騎士だった・・・。劣悪種に生まれていた事が惜しいくらいに・・・。」
翌朝、王都とその周辺から情報を収集するために、早速セレナ達は二手に分かれて出発した。
「兄貴大丈夫かなぁ。シーナが付いてるから大丈夫だとは思うんだけど・・・。」
セレナが兄を心配する。直情径行が激しく、思ったことは言わずにはいられない兄だ。王都でもし変な事を言えば、たちまちベルンに囚われてしまう。
「ふ、人の事より自分の心配したらどうだ? お前も十分危なっかしいぞ。」
「全く同感ですね。」
ナーティとセレスが、二人してセレナのほうを見る。セレナはばつが悪いと言った表情で言い返した。
「何だよ二人がかりで! ・・・ちぇ、とことん信用されてなくてあたし可愛そう。」
いじけるセレナをアリスが慰めながら撫でてやる。
「大丈夫よ。貴女は今までもしっかり頑張ってきたじゃない。今回も同じように頑張ればいいの。シーナもクラウドもきっとうまくやるわ。私達は、私達の使命をしっかり全うしましょ。」
「アリス様の仰るとおり。我々はこのまま東進してカルラエを目指しましょう。そこが人間の最大の居住区のようですし。」
アレンが馬を駆り、先陣を切る。雪がちらつく早朝。東の空は暗い。吹雪き出す前にカルラエに到着しなければ危ない。アリスにとってもセレナにとっても、そしてセレスにとってもイリアは第二の故郷。その故郷を救いたいと言う気持ちは素直に歩調に現れていた。
その日の夕刻、セレナ達はカルラエに到着する。かつて四半世紀前には天馬騎士団の本拠地があった地で、今でも天馬の産地として有名である。人々はやせた土地で小麦を栽培し、それを王都に重い年貢として納めながら、自らは雑穀を食べて生きていた。天馬は唯一の収入源で、軍用馬として調教しては、王都に納めていた。
セレナ達が見た光景は一面の小麦畑と、天馬の放牧場だった。とてものんびりした光景だったが、その裏では過酷な暮らしを余儀なくされていたのである。
「へぇ・・・思ったより酷そうじゃないね。」
セレナが一面の小麦畑を見ながら言う。人々は寒空の下、ひたすら麦を踏み、天馬を調教していた。何処にでもある田舎の風景に見えた。
「見た目には分からないかもしれないな。だが、それが落とし穴だ。見た目はキレイに見せているのだ。だが、その内側は・・・。」


176: 第二十章:新芽の如く:05/12/28 09:59 ID:gAExt6/c
ナーティがセレナに説く。表面を見ただけで酷いと分かるなら、人々もきっと反乱を起こすだろう。だが、ここには見せかけの平和が流れている。年貢さえ納めれば迫害はされなかった。だが、それは「殺されないで済む」だけであり、「希望を持って生きる」と言う人間としての生き様とは程遠いものだった。
ナーティの言葉に更に誰かが続けて言った。
「左様。見た目にはワシらが日々死と隣りあわせだと言う事は分からんじゃろう・・・。」
一同がその声に振り向く。そこには老人が立っていた。
「ゼロット様やユーノ様、それにシャニー団長がおった頃は、ここも活気に溢れておった。じゃが、前のベルンの変で皆倒れて以来、わしらはただ生かされておるだけの存在となった。」
一行はその話を黙って聞いていた。その間に雪が次第に激しくなってきていた。
「おぉ・・・寒いわい。旅の人たちも宿を探しておるのじゃろ? わしの家に来るといい。さ、こっちじゃ。」
その老人はセレナ達を温かく迎えてくれた。その老人はどうやらこの村の長老らしかった。
「ゼロット様はまさに聖王と呼ぶに相応しいお方じゃった・・・。」
長老は昔の事を思い出すように言う。そして、その言葉には、その聖王の再来を願う気持ちもこもっていることが伝わってくる。
「父のことをそこまで良く仰っていただけて光栄です。私も出来る限り努力いたします。」
アリスが父を思い出しながら、長老に礼を言った。仕事が忙しくてあまり一緒にいてくれなかった父だが、優しくて一緒にいるときは常に抱いてくれていた事を、アリスは覚えていた。
「! 今何と言った?! 父!? と言う事はお前さんは聖ゼロット王の・・・?!」
長老がさぞ驚いたような口調でアリスの顔を見る。そして、顔に触ってみる。
「おぉ・・・言われて見れば・・・そなたはユーノ后妃そっくりじゃ・・・。」
「はい。私は確かにゼロット王とユーノ后妃の間の子、アリスです。」
「ベルンの変で亡くなられたと思っておったが・・・神はわしらを見捨てたわけではなかったか・・・。」
長老は涙を流して天に拝んだ。その様子が、ベルンの支配の酷さを物語る。アリスは続いて、セレナも長老に紹介した。長老は更に驚いた。
「おお! そなたが・・・。この村、いや、イリアの民は例外なくロイ様とシャニー様を慕っていた。・・・そなたが“炎の天使”か・・・。似ている・・・シャニー様に瓜二つじゃな・・・。まるでシャニー様が目の前にいるようじゃ・・・。」
「貴方達は、母さんの事忌んでないの?」
セレナは長老の感涙を流す姿に驚いた。昨日の村とは対応が180度違ったからである。
「誰が忌むものか・・・。 あの子はわしらにとって天使の様な存在だった。戦争が終って荒廃したイリアを再建するときも、彼女の笑顔でどれだけ救われた者がいることか・・・。忌むべきは今のベルンじゃ。」
「そうですね。長老、我々はベルンを倒すべく、イリアまで来たのです。どうか、ここの人たちにも協力をお願いできないでしょうか?」
アレンが長老に協力を要請する。この人たちならきっと力になってくれる。アレンは確信していた。イリア民族は元々団結力の強い民族だ。普段は雪のようにしんしんと静かに暮らしているが、その団結力は雪崩の如く強い力を持っている。
「我々を導いてくださった恩人の子孫が頑張っているのに、それを見ているだけと言うわけには行きませぬ。勿論わしらも協力します。この村には騎士の身分を剥奪されたものも多く住んでおる。それにしても・・・シャニーの子が生きていたとなれば、ルシャナも喜ぶじゃろう。」
長老がそういった途端、今まで黙っていたナーティが突然声を上げた。
「何? 長老、ルシャナは生きているのか?」
「おぉ。お前さん、知り合いか?」
「いや・・・別に。シャニーのあとのイリア騎士団長だと聞いたことがあったから知っていただけだ。」
そういうとまたナーティは窓の外見ながらだんまりを決め込んでしまった。
「さて、今日の宿は確保できた事じゃし、皆に顔を見せに回ってはくれぬか? 皆光の無い闇の中で生きてきたゆえ、希望を失っておる。そなた達が行ってやれば歓喜する事じゃろう。」
長老は村人達を村の教会に集めた。そして、村人達にセレナ達を紹介する。最初は疑心暗鬼にどよめいていた。しかし、アリスやセレナがその親にそっくりな事が分かると、そのどよめきは一気に歓声に変わった。皆英雄の再来を心待ちにしていたのである。ある者にとっては、自分達の生活を豊かにしてくれた聖王ゼロットの子と、世界の英雄ロイの子。またある者にとっては、伝説のイリアの聖母の子と、イリアの心に春をもたらす熾天使の子・・・。その姿に重ね映す像は人それぞれ違っても、自分達を救ってくれる救世主が表れたという歓喜の気持ちに変わりはなかった。


177: 手強い名無しさん:05/12/28 10:00 ID:E1USl4sQ
「皆、あたし達もがんばる。だから皆もあたしたちに力を貸して!」
セレナのその声に、民衆が怒号にも似た大きな声で合点し返した。雪が深深と降り、冷えた教会が人々の熱気で沸きあがった。
ナーティは教会の外で、教会に巡回のベルン兵が近づかないか見張りをしていた。頭にも肩にも雪がしっかり積もっている。・・・寒くはないのだろうか。
そのナーティにも、教会の中の歓声は耳が痛くなるほど聞こえていた。
「・・・この歓喜のし様・・・やはりマチルダのやり方は酷いものがあるようだな・・・。」
ナーティは気付かないうちに、震えるほど握った拳に力が入っていた。その言葉に何者かが続けた。
「そうさ・・・。あいつの元では私らは生きていけない。・・・でも、私達では守れなかった。大事な・・・大事な祖国なのに・・・っ。」
ナーティは焦って振り向いた。自分とした事がボーっとしてしまっていた。振り向いた先にいたのは・・・赤毛の女性だった。
「貴女は・・・ルシャナか?」
ナーティが記憶をたどるようにしてその女性に問うた。
「あぁ・・・そうだけど。何であんた私の名を?」
「・・・書物を読んで知っていたからだ。イリア王国最後の騎士団長と・・・。」
その言葉を聞き、ルシャナはふうっと目を瞑りながら軽く笑った。そして、そのまま答えた。
「そうさ。私がイリア王国最後の騎士団長だった。・・・私がもっとしっかりしていればそうならずに済んだかもしれないけどね・・・。」
「そんな風に自分ばかりを責めても仕方なかろう。」
「でも事実さ・・・。ロイ様が倒されて、国内の士気が急激に下がった。私はそれを食い止める事ができなかった。・・・そしてあの夜を迎えた・・・。」
「エデッサ城の・・・陥落か?」
「あぁ・・・マチルダと他にもう一人、羽根の生えたやつが来て、そいつの放った魔法で微塵に砕け散ったさ・・・。あの夜の事は、いまだに忘れらない・・・。」
ルシャナは16年前の話をまるで昨日の事のように鮮明に話す。その顔には、苦労シワが多く刻まれていた。ナーティもそれに返す。
「・・・その後皆はどうなったのだ?」
「私みたいに騎士の身分を永遠に剥奪されて、帯剣禁止になった者も多いし、私の夫みたいに見せしめに処刑された者もいたよ・・・。」
「・・・ラルク騎馬隊総司令か?」
「ああ。よく知ってるね、あんた。その際マルテもベルン軍に没収された。それに・・・。」
「それに?」
「私は子供も奪われた。ラルクの子だから危険だって言ってね・・・。もうこの世にはいないだろうね。」
「・・・。」
沈黙するナーティに、積もった雪を手で払いのけながらルシャナは立ち上がり、最後に言った。
「でも、こうやってゼロット様やロイ様の子が世界を救おうと頑張ってるんだ。私もベルンに一矢報いたいし、協力するかな!」
「・・・ありがとう、感謝する。」
「ううん、いいんだよ。それに・・・私は親友と約束したんだ。生きてる限り、イリアを良くする為に頑張るってね。もうあいつもこの世にはないけどさ・・・。さて、寒いし私も教会に行くよ。」
そういいながらルシャナは教会の中に入っていた。その背からは、絶望に虐げられながらも、何か強いものが込みあがるのが分かるような気がした。
「・・・。しかし、まさか・・・あいつは・・・?」
ナーティが降りしきる雪の中、ポツリと独り言をもらした。


178: 手強い名無しさん:05/12/28 11:47 ID:OL1ZbSRA
乙です。
完結するまで感想は保留した方が良いのだろうか…
話の畳み方によっては物語が破綻する気がする。

179: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 12:31 ID:E1USl4sQ
いえいえ、どうぞ。
むしろ書き込んでいただいたほうが今後の課題解決に繋がるかもしれませんし。
物語が破綻するというのはこちらとしてもどういうことかちょっと興味がありますし。。

180: 手強い名無しさん:05/12/28 13:05 ID:OL1ZbSRA
疑問点(違和感かも)
セレナの目指している(と思われる)、「ハーフも人間も共存できる世界の実現」の必要性が全く感じられない。
@エレブ人に作中の「異世界からやってきたハーフ」を差別してきた歴史があるのかどうか(恨むのは筋違い)。
A生物学的に寿命、身体能力が人間より確実に「優良」であるハーフが人間社会で対等に共存できるのか。
 (更に、一方的な被害者であるエレブの人々が悪党集団のハーフを受け入れる理由が思いつかない)
Bハーフが暴虐の限りを尽くせば尽くすほど、同族である主人公達の作中における立場も悪くなりはしないのか。
(主人公側の「綺麗さ」を描こうとしてハーフを殊更悪辣に描いていないか。(完全懲悪モノなら問題は無いけどセレナの理想とのギャップ)。)
C十七年?も虐げられてきたエトルリアの人々がハーフとの差別?を簡単に「ある意味克服」できてしまう理由。
 (妻や恋人を不当に奪われ、家族を殺され奴隷にまでされた人類と加害者であるハーフの溝って)
D「私達ハーフはあちらの世界で人間に差別されています。セレナさん、悪い人間をやっつけてください」
 と言われたらセレナはハーフに味方するのか。人類と敵対できるのか。
 生まれも育った環境も恵まれたセレナの行動原理は純粋な正義感、貴族的な使命感のみ。
 一部の終わり方から推測して、主人公側の、仇とか遺志を継ぐとかの悲壮感は読むにあたって除外してる。

181: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 14:16 ID:E1USl4sQ
@
ハーフも人間と同じように何者からも迫害されずに生きたいという気持ちに変わりは無いはずです。
ハーフが乗り込んできた理由は、もう一つの大陸で迫害され生きる場所を失った為です。
何処の大陸であろうと、人間族は憎い。「人間族」と一括りにしてしまっているのです。
人間族もハーフも、自由に生きたいという考えが一致している以上、皆が(種族にかかわらず)共存できることが一番とセレナは考えたわけです。

A
それは大陸に住む人々の心の問題です。
ハーフは寿命が長い故に生殖能力が低いと言う竜族の特徴も持っていると言う設定です。
この小説で核になっている「心」の部分をどうやってこれから書いていくかは私の手腕が問われることになりそうですが。
補足部分については、もう一つの大陸が物語上で語られる様になると分かるかもしれません。

B
セレナ側でハーフなのは、シーナとクラウドの二人。
大抵の魔力の無い人間には、ハーフや竜族には分かる「エーギルの流れ」と言うものがわかりません。
ハーフからは種族の断定が出来ても、人間からはわからないのです。見た目は同じ容をしていますから。(ちょっと都合がいい気もしますけど。。)
>主人公側の「綺麗さ」を描こうとしてハーフを殊更悪辣に描いていないか
これは若干あるかもしれません。ところで、優良種、劣悪種を言うのは、ベルンのトップによるある種の思想統制のようなものです。
ハーフたちは、ベルンのトップ(メリアレーゼ)こそが、自分達を救ってくれる神だと信じて疑わないのです。
信仰は、時として人を盲目に変えます。これは現実でも何度か人間が体験している事です。
また、セレナ達が軍ではなく、あくまで傭兵団として行動をとっていることもいい意味で隠れ蓑になっているかもしれません。

C
これはエトルリアの雄、パーシバル将軍の統率力に期待するところでしょう。
すぐさまお互いの誤解を解くことは難しいことです。少しずつ、互いの距離を縮めて行く事になります。
まずはそれを妨げていたリゲル率いるベルン総督府を倒したことが、大きな大一歩に変わりはありません。
その後の発展を促す為にも、パーシバルのような周りを見る力を持ったリーダーが、皆を統べて行く必要があるのです。
それにはセレナ達がまず諸悪の根源を潰さなければなりません。
しかし、ここで潰すだけでは、迫害対象が人間→ハーフになるだけに終ってしまいます。ここをどうするかが彼らに課せられた使命ともいえます。

D
セレナはまだ、もう一つの大陸における悲惨な状況を知りません。
もし、それを知った時、彼女がどう思い、そして行動をとっていくのか。
そして、自らの理想を数々の矛盾を乗り越え達成できるのか・・・これはまさに物語の核とも言えます。
セレナの行動原理は、「種族が違うだけで差別されるのはおかしい」という気持ちと
両親が達成できなかった(ハーフを追い出すだけでなく、何とか分かり合おうとする)
志を継ごうとする気持ちです。
もし、セレナが大陸で迫害を受けていたら、使命感だけでなく、明らかな憎しみで戦うことになります。
両親を殺した憎い相手には変わりませんが・・・。
強力な憎悪感は正常な思考を麻痺させます。それはハーフの暴挙を見てもお分かりになると思います。
セレナは熱血漢・・・じゃなくて女ですから、自分が信じたものをひたすら貫こうとします。
ロイもそうでしたが、平和の為に犠牲が出ることはセレナにとってはタブーなのです。
だから、今はまだ世界をハーフの支配から開放する、という考えのみですが
彼女がもう一つの大陸の惨状を知った時、そのまま
こっち(エレブ)から追い出しちゃえばそれでいいじゃん、と言う考えには絶対至らないと言う事です。
ハーフもまた、犠牲者なのですから。
問題は、自分達の大陸で住む場所がなくなったから、他の大陸で元から住んでいる人々を追い出してまで
自分達の国を作ってしまおうとしたその考えです。
憎悪感に押しつぶされそうになりながらも、今の状況がおかしいと思っているものが、敵の中にもいます。
彼らのその激しい憎悪感を埋めるには・・・さて、どうしましょうか。

物語的には、まだ新大陸の名も出てきていないし、ミレディのいる謎の集団の黒幕も登場していません。
これからが盛り上がっていく・・・様にしたいです。個人的に。

だらだらと長くなってしまいましたが、違和感をある程度取り除くことが出来たなら幸いです。





182: 手強い名無しさん:05/12/28 15:07 ID:OL1ZbSRA
回答有難うございます。
自分が「破綻しそう」と思ったのはガンダムSEEDシリーズとあらゆる点で似てる気がしたからです。
主人公=キラ+ラクス&アークエンジェル
ハーフ=コーディネーター+ブルーコスモス的思想

あと、二次創作におけるメアリ・スー度がかなり高い気がしたので。

183: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 16:38 ID:E1USl4sQ
そうなんですか・・。
ガンダム系はよく知らないので、知り合いのガンダムファンに聞いてみることにします。

184: 第二十一章:天空の黒騎士弐:05/12/29 10:27 ID:E1USl4sQ
セレナ達が村人達と打ち解けあっているころ、クラウドとシーナは吹雪の中、ようやくエデッサに到着する。馬と天馬を用いても、イリアの奥地まではこれだけの時間を要する。
「うー、さぶっ。シーナ、お前よくこんな中を天馬で飛んでいられるな。」
「さ、寒くなんか、な、ないもん。 兄ちゃんが・・・弱いだ、だけだよ」
シーナが空中から下降してきて言う。唇は紫色だし、体中が震えている。やせ我慢をしている事は誰が見たって分かる。
「我慢するなよ。まったく、降りて来いよ。」
シーナは兄に言われるままに降りてきた。すると、クラウドがシーナを抱いた。それにシーナが反発する。
「うわっ、何するのよ!」
払いのけられたクラウドのほうが驚いた。
「何で嫌がるんだよ。寒いんだからくっついたほうがいいじゃねーか。」
「いいの! 私は別に寒くなんかないもんね!」
やたら元気に見せるようにして王都内を歩き出す。兄だと分かっていてもやっぱり異性。どうしても意識してしまう。当のクラウドのほうは、全くそういうものはないようだが。
「俺は寒いんだよー。あー、セレナがいれば押し競饅頭でもするのにさぁ・・・。」
「ホンット、兄ちゃんってデリカシーに欠けるよね! 早く宿探そうよ。」
吹雪いて来たためか、町の中に人影はちらほらとしか見えない。だが、その見る人はどの人も、温かそうな毛皮のコートにブーツを着込んでいる。この前追い出しを喰らった村の人間達より、かなり裕福そうである事が、見た目からも分かる。
「おい、そんな格好で寒くないのか? 若いって良いよなぁ。・・・ガクガク。」
見張りの巡回兵が、シーナたちを見つけて話しかけてくる。やはり同族には直ぐに心を許すようである。
「それがさぁ、俺たち傭兵として各地を回ってて・・・まさかこれほどまでに寒いとは。」
クラウドがまるで親友感覚で返す。見知らぬ人と話す際にはちょっと警戒してしまうシーナとは対照的に、クラウドは誰とでも友達感覚だった。
「ここの寒さは格別だからな。早く宿探さないと凍え死ぬぞ?」
巡回兵はそういい残して去っていった。シーナの震えが先ほどより一層酷くなる。吹雪の中、天馬で飛んでいた為に、冷えはクラウドより酷かった。
「おいおい、大丈夫かよ。・・・無理するなって。」
クラウドがもう一回シーナを包んで歩き出す。もう今度は抵抗できなかった。寒くて体が動かなかっただけでだと、シーナは自分に言い聞かせた。しかし、実際は違った。何となく、いつまでもこうしていたいと言う気持ちが、心の奥底にはあった。
「・・・デリカシーにかけるんだから。」
二人はようやく宿を見つけ出し、その中に入る。中は暖炉で火が赤々と燃え上がり、温かく保たれていた。まるで地獄から天国に上ったような感覚が二人を襲う。
そんな束の間の幸せもシーナの声で一気に吹き飛ぶ。
「えー!? 満席でシングルしか空いてない!?」
イリアは農作物が取れず、他の地域との取引が多い。宿も多くの商人が利用する。殊の外冬は、それら商人がもたらす食料によって、イリアは何とか生き延びる。そのため、宿は商人でいっぱいらしかった。
「・・・仕方ねぇよ。外で凍え死ぬよりはマシだ。」
クラウドがそのまま料金を支払い、部屋に入っていく。シーナも仕方なくその後を追う。
「今日は吹雪いてるし、もう遅いから情報収集は明日からにしようぜ。」
クラウドは外套を脱ぎ、それに付いた雪を払いながらシーナに言った。シーナもロングブーツを脱ぎ捨て、ベッドの上に寝転がっている。
「言っとくけど、ベッドは私のものだからね!」
「へいへい。お前さ、そうやって俺と二人きりでいるときみたいに振舞ってたほうが可愛いぜ? 外にいるとやたら堅苦しそうに振舞ってるけどよ。」
兄のその言葉にシーナはドキッとしてしまう。特にそれが、意識した相手だと尚更だ。
「やっぱりさっき抱きついてたのも下心があったんだな! 兄ちゃんてやっぱサイテー!」
「??」
クラウドは何故妹にサイテー呼ばわりされるのか分からなかった。思ったことを言ったまでなのに。・・・シーナは可愛いと言われるのが嫌いなのか?
「あー、わかった。悪かったよ。」
「・・・。」


185: 手強い名無しさん:05/12/29 10:27 ID:E1USl4sQ
「お前は可愛いんじゃないな。キレイなんだ。」
「!!・・・っ」
ベッドから飛び起きると、シーナは珍しくクラウドに拳骨を食らわした。
「バカ!」
シーナはそう言うとベッドに潜りこんでしまった。クラウドは何故拳骨までされるのかやはり理解できていないようだった。・・・俺なんか変な事言ったかなぁ。可愛い妹に可愛いって言って何が可笑しいのだろう・・・。
暫くそんな沈黙が続いた。クラウドはシーナに話しかけられず、ベッドも占領されて、仕方なく窓辺で暖炉の火に当たりながら外を見ていた。
セレナ達、しっかりやってるかなぁ・・・。まぁ親父達もいるし心配する事でもないか。きっと相手もおんなじこと考えてるだろうな。俺がヘマしてないかって・・・。俺って何でそう信用されてないんだろうなぁ・・・シーナにも殴られるし。はぁ・・・。
だが、俺だって親父に負けないぐらいの騎士になると誓ったんだ。そして、お袋の仇を取るんだ。ここの将軍が俺のお袋の両親・・・つまり俺のじいさんばあさんを殺したんだったな・・・。その仇、絶対にとってやるぜ。
暫く一人で色々考えていると、ふと声が聞こえてくることに気付いた。
「・・・兄ちゃん。」
シーナだった。まだ起きていたのか・・・?
「うん?」
「そんなところにいて寒くないの?」
「寒くないのって・・・。お前がベッド占領してるからここしか居場所ないじゃんか。なぁに、暖炉の前にいるから寒くはねぇよ。」
「・・・久しぶりに一緒に寝る?」
シーナのその言葉にクラウドは驚いた。何時もは寝相が悪いといって絶対に隣に寝させてくれないのに。
「お、いいのか? サンキュー。」
待ってましたと言わんばかりにベッドに飛び込んでくるクラウド。兄といい、姉といい、どうして二人とも遠慮がないのか。そう思いながらもシーナは話した。
「さっきはごめんね。」
「? 何が?」
「グーで殴ったでしょ?」
「あぁ、気にしてねぇよ。セレナのおかげで殴られ慣れてるよ。」
兄は優しかった。絶対に怒らないし。シーナはそんなクラウドが大好きだった。言葉には言いあらわせられないけど。いつもセレナには反抗するが、クラウドにはあまり反抗しなかった。やっぱり好きだから?でも、姉の事が嫌いと言う訳でもないし・・・むしろ姉の事も好きだった。
「ねぇねぇ。」
「うん?」
シーナのねぇねぇにいつもクラウドは、うん?で返していた。
「兄ちゃんは、好きな人とかいるの?」
「一杯いるぜ。セレナもお前も、アリスの姉貴も・・・西方の皆も好きだぜ。」
「・・・。そうじゃなくて! その・・・好きな女の人とか居るの?」
シーナはここまで聞いておきたかった。こんなこと、姉とか他の人がいるところで聞いたら茶化されてしまう。
「好きな女の子? うーん・・・。」
クラウドは暫く考えてみたが、該当する者はいなかった。というか、そんなこと今まで考えた事すらなかった。
シーナは自分と言って欲しくてたまらなかったが、やはり相手にその気はないようだった。でも、自分の気持ちも伝えておきたかった。身近な人であるだけに。
「私は・・・その・・・兄ちゃんの事好きだよ?」
シーナは勇気を振り絞っていってみた。シーナにとってクラウドは大好きな兄・・・いや大好きな人だった。さっき吹雪の中で抱かれたときのあの気持ちは、“兄に”抱かれたからではない・・・。そう思った。
「へ? そりゃ、俺だってお前の事大好きだぜ、可愛いもんな!」
クラウドはそのシーナの言葉を深読みせずに直ぐに笑顔で返した。クラウドにとって、シーナは妹だった。だから、その妹に好きだと言われる事も、あまり違和感がなかった。可愛いと言いながら頭を撫でてやる。


186: 手強い名無しさん:06/01/04 08:42 ID:gAExt6/c
しかし、その行動が逆にシーナを落胆させた。・・・やっぱりわかってもらえなかったか・・・。
異性として兄を見る自分と、妹として自分を見る兄。意識の差は大きかった。
「はぁ・・・やっぱり兄ちゃんは兄ちゃんだよ。」
「?? 何言ってんだ? シーナ、お前風に当りすぎて風邪でも引いたのか?」
そういいながら真剣な目で、シーナの額に手をやるクラウド。その真顔に、兄なりの優しさを汲み取ったが、やはりその、何というか期待と斜め上の方向の行動を取る兄に、呆れてしまう。
「そうみたい・・・。明日も早いし、もう寝るね。」
そう言うと、シーナは反対側を向いて頭から毛布を被ってしまった。・・・やっぱり兄ちゃんなんか嫌いだ。・・・兄ちゃんのバカ!

翌日から、二人は王都での情報収集をスタートした。
二人はまず王都の様子を観察してみる。北国だけあって氷雪で覆われているが、皆しっかりとした防寒具を羽織り、どの家もガッチリとしたレンガ造りであった。王都の生活水準はかなり高いようだ。それが、周りにある人間たちの村落との格差から余計に高く見える。
「こいつら良い生活していやがるな。」
クラウドがポツリと漏らす。この豊かさは、周りから搾取したものによって成り立っている。しかも封建領主と違い、彼らはただ奪うだけ。そして迫害までする。自分たちの生活が何によって成り立っているか考えもせずに。同族の蛮行に、クラウドはイライラがたまっていく。
「兄ちゃん、落ち着いてよ。そんなにカッカしても仕方ないよ。」
シーナが兄を嗜める。自分たちの目的はあくまで情報収集。どんな理由でアレ、ここで騒ぎを起こすわけには行かない。直情径行の激しい兄だ。綱で繋いででも見張っていなければと、兄を注意して見ていた。
しばらく町の様子を観察すると、今度は城の様子を見に行く。いくら同族には優しいといっても、そう簡単に近づけそうにはなかった。
「さぁ、どうしたものか・・・。」
「私の天馬で空中から観察しようよ。そうすればきっとうまく行くよ。」
シーナが天馬に跨りながら、兄に言った。確かに地上からでは警備が厳しいが、空中から眺めるのであれば、そこまで難しくないだろう。クラウドもそう思い、シーナの天馬に跨ろうとする。天馬はご主人以外で、しかも男のクラウドを乗せることを嫌がって暴れる。
太古の昔から、天馬乗りは女性だった。それは天馬が主人に恋をするからと言われていた。
「こらっ、セフィ、暴れないの! 私の兄ちゃんなんだから乗せてあげて!」
シーナの言葉に仕方なく羽を下ろす天馬。その目はクラウドのほうをじっと見ていた。まるで、“ご主人の命令だから仕方なく乗せてやるんだからな”と、言わんばかりに。
二人を乗せて天馬が宙に舞い上がる。クラウドにとっては初めての空中散歩だった。だから物珍しい、快適な空の旅になるはずだった。だが・・・ここはイリアの冬空だという事を忘れていた。
「ぶぇっくしゅん! うぅ・・・寒い!」
クラウドはあまりの寒さにくしゃみをしてしまう。ただでさえ上空の空気は冷たいのに、天馬はその風を切って空を飛ぶ。風に身を切られるような感覚に陥った。
「文句言わないの! 天馬騎士はいつもこんな風な寒空を飛ぶのよ。兄ちゃんも弱音を吐かないの!」
クラウドはようやく、昨日妹があんなに震えていた理由が分かった。そして、あんなになるまでずっと黙っていた妹の強さもその身で味わった。
しばらく飛んでいくと、城が見えてきた。中の様子を見ると、しっかり警備が行き届いている。兵がいたるところに配置されていたのである。
地上だけではなく、空中にも天馬騎士が飛び回り、死角が無い。これでは忍び込めそうに無い事は言うまでも無い。しかし、それではせっかく王都に忍び込んだ意味が無い。
二人は必死に忍び込めそうな外堀や警備の薄い場所を探す。そのことに夢中になっていたためか、二人は高速で近づいてくる物体に気づかなかった。接近してくる飛行兵への反応が遅れることは、飛行兵にとっては死を意味するといっても過言ではない。背後を取られれば挽回することは難しいのだ。
「おい、お前たち、ここで何をしている!?」
その声に二人は慌ててそちらを向く。そこにいたのは・・・。
「あー、お前はこの前の竜騎士!」
そこにいたのはレオンだった。レオンはクラウドの言い草に、二人を思い出した。
「何だ、あの時の傭兵か・・・。それがこんなところで何をしている? 返答によっては容赦せんぞ。」


187: 手強い名無しさん:06/01/04 08:42 ID:gAExt6/c
「私達、今エデッサに宿とって仕事探しているの。その合間にお城でも見物しようかと思って・・・。」
シーナが慌ててその場を取り繕う。その様子を見て、レオンは呆れた様に言った。
「やれやれ・・・傭兵がこんなご時世に観光気取りか。まったくおかしい世の中になったものだ。」
「そうだよな。俺もおかしいと思うぜ。」
クラウドのその言葉に、レオンが少し睨みながら訊ねた。
「・・・何がだ?」
シーナは慌てて兄の口を押さえようとしたが遅かった。彼は睨まれても動じることなく言い返した。
「こんな、差別と迫害が許される世界が、だよ。ここの統治者も何やってんだか。」
シーナはヒヤッとした。とうとう恐れていたことがおきてしまったのだ。相手はその統治者、マチルダの実子なのである。こんな発言が許されるわけがない。シーナは兄を殴った。
「いってー! 何するんだよ、シーナ。」
「バカね、劣悪種を差別して何が悪いのよ。おかしいのは兄ちゃんの頭よ! 竜騎士様。どうかお願いです。しっかり説教しておくので今回ばかりは・・・。」
「?? シーナ?」
シーナは何とかその場を取り繕うと必死だ。このままでは捕まってしまう。しかし、レオンから帰ってきた言葉は、シーナが予想していたものとは違った。
「・・・そうだな。俺もおかしいと思う。少しは骨のあるヤツもいるものだな。この頃は、保身を考えて傭兵と言う身分にすがっているだけのヤツが多いからな。」
「そう思っているのに、何でこんな酷い事をし続けているんだよ!」
クラウドが続けてレオンに言った。レオンは暫く目を瞑り考え込んでいたが、目を開けるとクラウドに言い返した。
「・・・俺だって変えたいと思っている。・・・だが・・・。」
レオンはまた目を瞑った。そして、横にいた部下に声をかけ、何か指図している。それが終ると、また二人に話しかけてきた。
「知り合いのよしみで案内人をつけてやる。王都の観光には都合がいいだろう。早く行け。ここにいると、不審な目で見られるぞ。」
そう言い残すと、レオンは漆黒の飛竜を駆り、城の方へと戻っていった。それを見届けると、案内人に抜擢された天馬騎士が愚痴るように言った。
「まったく・・・劣悪種の分際で私に指図だなんて・・・マチルダ様も何を考えていらっしゃるのかしら。」
その言葉にクラウドは何か引っかかるものを感じた。・・・劣悪種? あいつは人間?
「なぁ、姉ちゃん。あのレオンってヤツは人間なのかよ?」
「えぇ、そうよ。前の戦争での遺児らしいわ。どうやらマルテを扱う事のできる、選ばれた人間らしいわ。だけど、だからって劣悪種を自分の子として育てるなんて・・・。忠誠を誓うマチルダ様相手でも信じられないわ。私なら即殺してるわ。」
「へぇ・・・。 遺児を育てるなんて、実は根は優しい人なのか?・・・いや、でも俺の祖父母を殺したヤツだしな・・・。」
そんなクラウドに呆れながらシーナが教えてやる。
「兄ちゃんってホント人を良い様にしか見ないわね。神将器の力を使いたかったからに決まってるでしょ? つまり利用されてるだけ。」
「正解。あなたは少しは頭が切れるようね。まぁ、レオンはマチルダ様の事を本当の母親と信じ込んで、それ故に言いなりだけどね。劣悪種が優良種だと思い込んで同士を殺すなんて。あはは・・・流石劣悪種ね!」
その天馬騎士の言葉にクラウドは頭に血が上りそうになったが、何とか堪えて、その天馬騎士に言ってやった。
「俺らだって勝手に優良種だと思い込んで、勝手に劣悪種と決め込んだ相手を殺してるんだから変わりないぜ。」
「何?! それはメリアレーゼ様を侮辱しているのか!?」
シーナはまた雲行きが怪しくなってきたと思った。もう得るべき情報も得たし、これ以上王都に留まっていても危険が増すだけだ。・・・兄という危険要素と一緒に居る限り・・・。
「あ、急用を思い出しました。案内していただけるようでしたが残念です。それじゃあ!」
そう言うとシーナは天馬を全速力で飛ばした。相手は出だしに遅れて追いつけそうに無いと悟ったのか、途中まで追いかけてやめてしまった。スピードの乗った天馬に追いつくことは困難を極める事だ。



続きを読む
掲示板に戻る 全部次100 最新50
名前: E-mail(省略可): ID非表示