【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】


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【長編】ファイアーエムブレム〜双竜の剣〜【小説】

1: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/08/06 11:49 ID:E1USl4sQ
ということで別スレ建てさせてもらいました。
1部の24章までは以下のURLよりご覧いただけます。
http://bbs.2ch2.net/test/read.cgi/emblem/1100605267/7-106

何かご意見がございましたらその都度レスしていただけると幸いです。
まだ書き手としては本当に初心者なので、ご指摘は特にありがたくい頂戴したいと思います。

〜今までのあらすじ〜
ベルン動乱から4年、平和に向かって歩んでいたエレブ大陸で再びベルンが戦争を起こす。
その首謀者は女王ギネヴィア。兄ゼフィールの意志を継ぎ、世界を統合しようと企む。
その過程でロイの恋人シャニーがロイをかばって事実上戦死するが、竜族伝説の聖王ナーガの力によって復活を遂げる。
そしてエレブ大陸とどこかで繋がるという、別世界から来た神竜族クリスによって衝撃の事実を告げられる。
ギネヴィアは『ハーフ』と呼ばれる人間と竜族の混血の種族の一人に体を奪われている、と。その乗り移った目的はエレブ大陸の支配。
彼らは別世界では迫害され、こちらの世界に自分達の国を作ろうと乗り込んできたのであった。
ロイ達は大陸内で唯一ベルンの侵攻のないナバタの里から、エトルリア、イリアへと進軍していくのであった。


101: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/10/30 19:41 ID:E1USl4sQ
お久しぶりです。
もう11月なんですね。執筆しはじめて7ヶ月・・・。時の流れが速いこと速いこと( ´∀`)
そして最終更新から早2週間以上と。モチベーションがががあq2うぇxrctyふじこ;。「@
この頃音楽サイトのオリジナル曲を聴きながら書くことがマイブーム(?)になりつつあります。
そこで、次を書く時は時々(特にボスクラスとの戦闘とかね、「あくまで」FEだし)執筆した時に用いた曲をメル欄に書いてみることにします。
それを聞きながら読めば臨場感もアップ・・・・するかな(-_−;)
この頃は会話以外の背景描写などに力を入れてみようとも思っているけど、それがなかなか難しい・・・。

102: 第九章:未知の地エレブ:05/10/30 21:46 ID:9sML7BIs
「メッセヨ、メッセヨ。」
「嫌だ! 放してよ!」
「ワレニ アダナスモノ、スベテ ソノ チカラヲ モッテ、メッセヨ。」
「嫌だ!私の体から出て行け!」
自分の意思に反して体が動く。剣を持つ手が震え、眼前に見える人達に足が勝手に向かっていく。
そして、やはり自分の意志とは正反対に手が勝手に剣を振り、今まで笑っていた人を斬り殺す。
「やめて!」
その言葉は口から発せられない。口から発せられるものは魔法の詠唱のみ。
「だめ! そんなことしたらみんなが・・・!」
「ワレニ アダナスモノ、スベテ ソノ チカラヲ モッテ、メッセヨ。」
自分が発した魔法が、真っ赤な火の玉になって人々に降り注ぐ。それらは大きな爆発を伴い、人々を塵に変える。
体が向きを変え、今度は自分の家族や知り合いに向かって同じように魔法を詠唱しだす。
「ワレニ アダナスモノ、スベテ ソノ チカラヲ モッテ、メッセヨ。」
「ダメー!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・セレナははっと目が覚めた。またあの夢だ。気付くと汗をびっしょりとかいている。これじゃ寝られない。・・・いや、またあんな夢を見ると思うと寝られない。でも、起きているとなぜか夢を実現しそうで怖い。寝ることも、起きている事も怖かった。
「・・・一体何なんだ。」
涼む為に部屋を出て甲板へ出た。外は星空がきれいで海風が心地よい。セレナは甲板の縁に立ち、涼みながら先ほどの夢を思い出していた。罪も無い人々を無差別に殺していく・・・。今思い出しても寒気がする。しかもそれを実行しているのが自分・・・。心当たりがあるから尚更怖い。
「母さん・・・。母さんも、こんな怖い夢に怯えながら、戦っていたのか・・・? こんな力、私に受け継いで本当に良かったのか・・・? なぁ・・・母さん。」
星空を見ながら、見たこともない母に尋ねていた。悩みなんてなさそうだとよく言われるが、そんなことはない。夢と、それを現実にしてしまいそうな力。それに悩まされていた。
「・・・お前は、その力をどう思っているのだ?」
突然の声にセレナは後ろを振り向いた。そこにはナーティが腕組みをして立っていた。長い銀髪が海風になびき、鋭い目つきと相まって近寄りがたい印象を与えている。
「どうって・・・。 あたしは、こんな力要らないよ。 こんな、破滅に導くような力。」
セレナの言葉を聞き、ナーティは鋭い目つきを更に細め、更に問うた。
「本当にそう思っているのか? その力が無ければ、お前がサンダースに勝つことは出来なかった。」
「そんなのわかってるよ! でも・・・あたしは、皆と同じように生まれたかった。それなのに・・・どうしてあたしだけ・・・。」
「容姿が違う事を気にしているのか?」
「それもそうだけど、それだけじゃない。他の人には無い強力な力とかさ。」
「容姿はお前が神竜だからだ。気にする事ではない。寧ろそのことでお前を咎める者がいるならば、その者こそ、咎められるべき存在だ。」
「咎められた事なんてないけど・・・やっぱ気になるよ。」
「自分に非がないと思うなら、堂々としていれば良い。容姿や生まれ、種族や身分。そういった自分の力ではどうにもならない事で非難する。・・・これは人の醜い部分だ。こういった者がいるから、差別は起こり、悲劇は繰り返される。」
「ナーティ・・・。」
「お前が旅に出たのは何の為だった? そういった悲劇の連鎖を断ち切る為ではなかったのか? 
「そうだよ・・・。あたしは、世界を救うために旅に出たんだ。」
「そのためには力が必要だ。お前が母親から受け継いだその力は、お前の為にあるのではない。力を持たない全ての者の為にあるのだ。それはお前が必要とする、しないという意思は関係ない。必要だからその力は備わっているのだ。力は自分の為ではなく、人々の為に使え。」
「でも、あたしは怖いんだ。いつ、力の暴走と止められなくて、夢が現実になるか・・・。」
セレナはナーティに、この頃見るあの悪夢の内容を話した。あのおぞましい、破壊の悪夢を。
「母さんも、こんな夢を見ながら、世界中を回ったのかな。」
「さぁな・・・。しかしそれは、きっと力を制御できない不安から来るものだろう。サンダースと戦っていた時も、力が暴走しかけていたな?」
「うん。体の中から、いつも以上に力が湧いて来て、頭の中がサンダースを、目の前の敵を斬り殺す事しか考えられなくなっていった。で、気付いたらサンダースは倒れてた。」


103: 手強い名無しさん:05/10/30 21:46 ID:9sML7BIs
「力を正しく使うも、悪に使うもお前次第だ。お前はもっと経験をつんで、その力を、自分の意思でコントロールできるようにならなければならない。」
「うん。」
「だから、悩むな。悩む暇があったら行動しろ。悩んでも何も変わらん。動いて反省する事はあっても・・・悩んで後悔する事だけは・・・するな。」
「あぁ、わかったよ。また、あんたに悩み事を聞いてもらったや。シーナとかにもめったに悩みなんていわないのに、どうしてあんたにはこう簡単に喋っちゃうかなぁ・・・。」
話しているうちに、船は漆黒の夜を抜け、暁の空に向かっていた。遠くには何か大きなものが見える。
「あーあ、結局寝られなかったや。ん・・・あれはなんだろ。」
「あれが・・・本土だ。昼ごろには上陸できるだろう。お前達の旅も、いよいよ本番というわけだ。」
「あれが噂に聞いたエレブ大陸! どんなところだろうなぁ! 早く見てぇ!」
先ほどまでの沈んだ顔はあっと今に消え去り、元の好奇心旺盛な少女の顔に戻っていた。今まで噂でしか聞いたことのなかった本土。その本土を、父さんや母さんが回ったように、自分達も回ることになる。
一体どんなところだろう。そう考えると、不安なんて消し飛んだ。
「ふっ・・・切り替えの早いヤツだ。さて・・・巫女をどう説得するかな・・・。」

皆が起きてきた。クラウドは寝癖でボサボサになった頭を掻きながら歯を磨いている。
「ふぁ〜あ、くそぅ・・・酔って昨日も寝られなかったぜ・・・。でも、このオンボロ海賊船とも今日でオサラバできるんだな。久しぶりに熟睡できそうだぜ・・・。」
そう言った途端、背後からギースが現れ、鼻唄を歌うクラウドの首を腕で締め上げる。
「てめぇ。狭いだのオンボロだの、ぐだぐだ文句ばかり言いやがって! やっぱりここで突き落としてやる!」
「ひゃめて・・・ゆるひて・・・もふいいましぇん・・・ぐえぇぇ・・。」
「クラウド、ギース殿に失礼だぞ。船を出して頂けただけでも感謝しなければ。それに、大陸ではもっと寝られなくなるぞ。」
「げほげほ・・・。えー! どういうことだよ、親父!」
「大陸はベルンが統治している。つまり回りは敵だらけということだ。我々はセレナ達を守らなければならない。だから、夜通しの番が必要だ。当然、番はお前にも手伝ってもらうからな。」
「とほほ・・・。海賊にはのされるし、俺の大切な睡眠時間も奪われるし、俺かわいそう。」
「あぁん? 誰が海賊だ! やっぱりてめぇはこうしてやる!」
「ぐ、ぐぇぇ・・・。」

「本土かぁ、一体どんな敵が待ち受けているんだろう。私達で敵うのかな。」
シーナが髪を結いながら言った。未熟な自分達が、強国相手に単身乗り込んでいく。どんな状況も自分達だけで解決しなければならない。それが果たして出来るのだろうか。
「今の大陸は、ハーフが牛耳っている。我々人間は、傭兵としてでなければまともに旅も出来ない。だから、シーナ。お前の出番は増えるだろう。」
ナーティが同じように濡れた髪を束ねながら寄ってくる。・・・いつの間に風呂に入ったのだろうか。
「どうして?」
「行けば分かる・・・。奴らは同族意識が強い。混血のお前なら、街中でも怪しまれる事はないだろう。」
「そっか。私頑張るよ。ということは、私達って傭兵団として各地を回るって事だね。」
「そう言う事だ。シーナをリーダーということにして、お前達は騎士見習いということにでもしておけば、よほどの事がない限り大丈夫だろう。」
「シーナが団長!? ・・・。」
セレナが横目でシーナを見る。自分やクラウドが見習いで、しかも親父を差し置いて妹が団長なんて・・・。
「な、何よ、姉ちゃん。建前は、でしょ?建前。」
「まったく・・・。自分がリーダーをやりたいというような顔だな。実際のリーダーはお前達だということを忘れるなよ。」
「わ、わかってるよ! あたしだってそこまで子供じゃないもんね!」
「やれやれ、どうだか。」
ナーティにからかわれてセレナが膨れ面をしている。アレンがそれをじっと見ていた。
「親父、どうしたんだよ。」
やっとギースから開放されたクラウドが父親の顔を見て不思議がる。
「ん・・・。いや。セレナ様のあの顔を見ていると、やはりシャニー様にそっくりだな、と。容姿も、性格も・・・。目元はロイ様似か・・・?」
「親父・・・。まだ後悔しているのか?」


104: 手強い名無しさん:05/10/30 21:46 ID:9sML7BIs
「・・・いや。俺は決心したのだ。この戦いで必ず勝利を収め、生きて祖国に帰る。そして姫様方とフェレを復興すると。それが、生き残った俺の果たすべき義務だ。もう後戻りは出来ない。クラウド、お前にも辛い思いをさせるかもしれないが、これがお前の父の生き様だ。・・・容赦してくれ。」
「辛いだなんて!・・・そりゃ、大好きな寝る事が出来なくなったり、色々あるけど・・・。俺は親父のその生き様に憧れて、騎士になることを望んだんだ。その選択に後悔はしてないぜ。」
アレンは息子に、かつての自分の姿を重ね合わせていた。そして、クリスを思い出す・・・。
「・・・そうか。よし、見っとも無い姿を見せていては天国の母さんにも申し訳が立たないだろう。上陸まで槍の稽古だ。さ、早く用意しろ。」
アレンはそういうと走っていってしまった。それを後ろから追うクラウド。
「親父・・・こんな船の上で稽古なんてやったらまた酔っちまうよ・・・。うっ、考えただけで吐き気が・・・。ちくしょう! 今度船に乗るときは豪華な客船がいいぜ・・・。」

船内で服を畳み、上陸の用意をするアリスの元に、シーナが寄ってきた。
「お姉ちゃん、私も手伝うよ。」
「あら、ありがとう。それにしても本土かぁ・・・何年ぶりかしら。」
「そっか。お姉ちゃんはイリアで暮らしていたんだもんね。早く帰りたい?」
「ええ・・・。」
アリスは服を畳む手を止め、何か思いふけるように下を向きながら相槌を打った。
その目は、何か思いつめたような何時もの優しい顔ではなかった。
「どうしたの?」
「うん・・・? いえ、なんでもないわ。もちろん早く帰りたいわね。 苦しんでいる民を救って、私の母や叔母、そしてたくさんの者達が守ろうとした祖国を一刻も早く取り返したい。そして、誰もが差別される事のない住みよい国を再建したい。それが・・・皆の願いだから。」
しかし、アリスの考えている事はそれだけではなかった。シーナには言わなかったがアリスは今でも覚えていた。自分を母様達の生家から叔母が連れ出す際、叔母は涙に濡れていた事を。それが何故か今でも分からなかった。イリアに行けば、それが分かるかもしれない。そう考えていた。
「うんうん。私のお母さんの故郷でもあるんだよね、イリアって。早く行ってみたい。」
「そのためにも、まずエトルリアを何とかしないとね。回りは敵だらけ。気を引き締めていきましょう。」
そんな会話をしていると、セレナが部屋に飛び込んできた。
「ねぇ! そろそろ上陸できるから用意しろってさ・・・ってもう準備してるのか。流石だね。」
「いつまでものんびり昼寝してるのは姉ちゃんだけだよ。はやく顔洗って準備しなよ。涎のあとがついてるぞ。」
「うわ、いけね・・・。気持ちいいとついつい。」
セレナが口元を拭きながら準備を始める。父から貰った家紋入りのマントはしっかり畳んであるが、それ以外はシワだらけだ。
「セレナ、しっかり畳んでおかなければダメよ。・・・よし、私が準備しておいてあげるから、あなた達は甲板に出て大陸を見てくると良いわ。」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
二人とも跳ねる様に出て行った。元気一杯だ。
「ふふ、あの子達は元気ね。・・・母様、父様、それに叔母様。私は必ず祖国に帰ります。そして、皆が目指した真のイリアを創っていきます。だから、私やあの子達を見守っていてください。」
アリスは親子で映った映し絵の入ったペンダントを握りしめながら、天空のかなたにいる自分を大切にしてくれた人々に向かって祈りを捧げた。
甲板に出た双子は目の前に広がる陸を眺めていた。そこはエレブ大陸でもナバタ砂丘と呼ばれる、ナバタ砂漠に続く海岸線だった。
「いよいよだね、姉ちゃん。」
「あぁ、あたし達も、父さんや母さんのように世界を救っていくんだ。これが、最初の一歩なんだ。」
セレナ達はこうして、大きな一歩を踏み出す事になった。ロイ達がベルンの変の後、クリス達に助けられてナバタの里に流れ着き、そして進軍を開始してから18年。今度はその子供達が、自分達と同じ志を胸に再びナバタ砂漠を訪れる。世界を、いや世界を超え、全ての種族が平和に暮らせる秩序を作る為に。


105: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/10/30 21:50 ID:9sML7BIs
ド━━━━━━(゚ロ゚;)━━━━━━ン

私としたことが、設定ミスを二つも犯していることに気が付きましたorz

アリスはキャラ紹介で魔道師となっていますが、プリーストでした。。
二つ目の訂正は、クレインとティトの子は女の子という風なっていたのですが、元の設定では男の子です。ごめんなさいm(_ _)m

106: 第十章:理想郷:05/10/31 15:08 ID:E1USl4sQ
一行を乗せた船が無事に海岸へ到着した。
「よし、着いたぜ。」
「ギース殿、感謝します。必ずこの恩をお返しすべく、我々は世界を救済に回ります。」
アレンがギースに頭を下げる。そして、しっかり握手を交わした。
「礼なんていいってことよ。俺にはこのぐらいしか出来ねぇからな。こっちも嬉しいぜ。」
「しかし、このあと貴殿はどう為されるつもりなのだ?」
「どうって。そりゃまた船で西方に戻るぜ。戻ってエキドナたちを助けないとな。・・・俺も今回の航海で決めた。例えベルンが禁止していようが、俺は商船として航海を続ける。そして、西方の貧しい連中に物資を届けてやるんだ。今まで俺は何をビビッてたんだろうな。正しいと思うなら、堂々としていればいいんだよな。・・・例え法に反しようとも。」
「くー、やっぱ船長はカッコイイな。」
「へ、セレナ。お前の親父への借りは返したぜ。今度はお前が親に恩を返す番だ。」
「わかってる。絶対に世界を救って見せる。だから船長は西方をよろしくね。」
「おう、じゃ、がんばれよ!」
ギースは一行を海岸に残し、再び船で旅立っていった。一行はその姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「行っちゃったね、ギースさん。」
「あぁ、あたしも船長みたいにカッコよくなるぞ。」
双子が改めて気合を入れなおし、歩みだす。
「例え法に反しようとも、正しいと思うなら堂々としていれば良い、か・・・。お前達もそう思っているかもしれないが、それには必要なものがある。何か分かるな?」
ナーティがそんな双子に警告する。何が大切で何を必要とするのか。それを明確にしなければ大義を掲げても骨抜きになってしまう。それではベルンだけではなく、周りのジョウシキを壊していかねばならない、いわゆる異端視される者にとっては目的が曖昧になりかねない。
「ああ。前、あんたに教えられた。あたしたちは、正しい事を主張する為にも、もっと力をつけて強くならなければいけないんだ。」
「うん。そしてその力は腕力だけじゃないんだよね。」
「そうだ。強い心も、大切な“力”だ。真実を見抜く心。どんな事にも動じない心。そして、万が一誤った判断を下した時にそれを認め、改めようとする心。そういった心の強さも、騎士として大切な“力”だ。・・・お前達はわかっているようだな。」
「当たり前だよ。もうあたしは決意したんだ。もう誰も、あたしの浅はかの考えで犠牲になる人を出さないって。犠牲を出さなくても勝てる方法はあるはず。・・・あたしはそれを頑張って考えるよ。」
「ふっ・・・。」
アレンはこの考えに、かつてのロイの言葉を思い出していた。犠牲を出しての勝利は勝利じゃない。だから、犠牲を出さなくて済む方法を考えるのだ、と。・・・やはり姫様方は、ロイ様の娘だ。
「ところで、姉ちゃん。姉ちゃんどこに行くつもりなの? エトルリアって北上しなきゃいけないんでしょ? なんで南下してるの?」
シーナがとうとう不思議がってずんずん前に進む姉に聞いた。エトルリアは、上陸地点からは北上した位置になるはず。なのに姉はどんどん南へ南へ歩いていたのである。
「え? あたしはあんたが歩き出したからそれにそっちが正しいのかと・・・。」
「えー!? 私も姉ちゃんについてきただけだよ??」
慌てる双子、周りは砂、砂、砂。何処を見ても青い空と黄金色の砂ばかり。一回迷えば復帰は難しい。
それでなくても二人はこの大陸に上陸してまだ1時間も経過していない、いわゆる「おのぼりさん」であるのに。
「お父さん、それにナーティさん! どうして教えてくれなかったのよ。」
「え、えっと。シーナ達が自信満々にずんずん進んでいるから予め進路を調べておいたのかと・・・。」
「・・・やれやれ。」
いきなり大ピンチの一行。とりあえず歩む事をやめて地図を確認しながら、進むべき進路を模索する。
「だーっ! 熱い! 熱すぎる! どうしてこんなに熱いんだよ! あぁ・・・焼きセレナになりそう!」
蒸し暑い事には西方育ちで慣れているセレナだが、砂漠の暑さは西方の暑さとは違うものだ。眩し過ぎる太陽の光が、カラカラに乾いた空を経て何の障害もなく大地に降り注ぎ、金色の砂がその光を跳ね返す。こんなところに立っていたら直ぐに体中の水という水が、跳ね返りの熱とともに空気中へ奪われそうだ。焼きセレナというより干しセレナである。
「砂漠なんだから仕方ないよ・・・。早く正しい道を探さないと・・・。」


107: 第十章:理想郷:05/10/31 15:09 ID:E1USl4sQ
「うへぇ、船酔いの次は脱水症状のピンチかよ。俺こんなところで干物になりたくないぞ。」
「あづいー・・・。」
「ウルサイ事言わないの! ・・・あぁ、怒鳴ったらまた熱くなったわ・・・。」
そんな一行とは別に、ナバタの里を目指す二人の大男がいた。
「ねぇ、僕達迷子になったのかな、ラミス。」
「そうかもしれないね、ベリル。」
二人の大男は肩を寄せ合いながら更に話を続ける。二人はナバタ砂漠に住む山賊。力は強いが頭は弱い。今までもナバタ砂漠を渡る旅人を襲っては生計を立ててきた。そして、二人はこの前襲った行商人の持っていた古びた宝の地図をあてに、ナバタの里を目指していた。
「でも、隠れ里にあるという、とっておきのお宝は何としても手に入れたいね。ラミス。」
「だけど、このまま迷子になってミイラになっちゃうのはゴメンだよね、ベリル。」
「でも、お宝は何としても手に入れたいよね。ラミス。」
「ところで、あそこのいる人たちは行商キャラバンかな。ベリル。」
「だけど、みんな武器を持ってるね。ラミス。」
「じゃあ、行商キャラバンじゃなくて傭兵団だね。ベリル。」
「相手のほうが人数は多いし、僕達二人だけじゃ危ないね。ラミス。」
「でもあの人たち、北を指差してるし、きっと隠れ里に行くんだよね。ベリル。」
「あの人たちもお宝を狙ってるんだね、ラミス。」
「先を越されたら、僕達お宝を手に入れられなくなるね。ベリル。」
「じゃあ、あの人たちやっつけちゃおうか、ラミス。」
「でも、相手のほうが人数多いし、強そうな人もいるよ。ベリル。」
「じゃあ、仲間を連れてこようか、ラミス。」
「でも、仲間を連れてきたら、僕達の分け前が少なくなるよね。ベリル。」
「じゃあ、お宝を諦めるかい?ラミス。」
「あの人たちの後ろをついていくというのはどうだろう、ベリル。」
「それは名案だ。ラミス。」
ベリルと呼ばれている大男が、もう片方の男へ更に肩を寄せて言った。
「それで彼らが隠れ里に着いたら、僕達が宝物庫に先回りして、中身をいただいちゃえば良いんだよね。」
「そうさ、行こう。」
二人はセレナ達一行を岩陰に隠れながら尾行していくことに決めた。

「セレナ、地図をしっかり見ながら進むんだ。これ以上迷っていると、水が底をつく。」
アレンがセレナに警告する。遠足気分で好きに歩かれては命を落とす。
「わかってるよ。」
時刻は14時を回り、太陽の光は最高潮にギラギラと輝いている。汗をかいてもすぐに蒸発していってしまう。太陽光と、地面からの跳ね返りの光のダブルパンチで意識がもうろうとしてくる。
だんだんセレナ達も無口になってくる。こう熱くては、口も開くこともできない。
暫く進むと、それに加えて砂嵐まで巻き上がり始めた。
「うわ、目に砂が・・・! うへぇ口の中もじゃりじゃり・・・。」
「口を覆っておけ。・・・そろそろナバタの里が近くなってきた証拠だ。」
ナーティが布で口を押さえながら話す。ナバタの里は、かつて人竜戦役の時人と竜が手を携えて創ったいわば理想郷である。里人は、外部からの侵入を拒む為にナーガ神がこの砂嵐を引き起こしているのだと信じていた。実際、この砂嵐は季節関係なく吹き荒れ、外部の目から差と完全に隔離していた。
前の第一次ベルン動乱でその存在が明らかになって以降は、興味本位で訪れる冒険家が増えたが、それでもやはりこの砂嵐の前に立ち往生をせざるを得なかった。砂嵐の前に現れる幻影に惑わされ、いつの間にか砂漠をぐるぐる回ってしまうのだ。
「ここからは俺が先頭を行こう。」
アレンが先頭に出る。かつてロイと共にナバタの里に来た事があった。うろ覚えではあるが、里への正しい道は知っていた。しばらくすると、木々が見え、その向こうに巨大な建造物が見えてきた。
「ねぇ! あれは何?」
「あれが、ナバタの里だろう。」
里に近づくに連れ自然と砂嵐は収まり、視界がくっきりしてくる。そこには、オアシスや民家が並んでいた。・・・大陸最後の理想郷、ナバタの里である。
一行と二人(?)はその厳かな創りの里に入っていった。



108: 手強い名無しさん:05/11/01 13:02 ID:E1USl4sQ
里に入ったセレナ達は驚いた。こんな砂漠の中に、こんな集落があるとは。いや、それだけではない。
外は砂嵐が吹きすさぶ過酷な環境であったにもかかわらず、中は豊富な水をたたえる美しい光景が広がっていたのである。清浄で、静寂そして神秘的・・・まさに理想郷と呼ばれるに相応しい光景だ。
「す、すげー・・・。」
何時もは騒がしいセレナも、只々見入る事しかできない。しかし、このナバタの里が理想郷といわれる真の理由は、見た目の美しさだけではない。セレナ達はそれを知る事になる。
「・・・さてアレン殿、我々が長老と巫女に会って来よう。 セレナ、お前達は里の様子を見てくるが良い。この里が理想郷と言われる所以を知ることができるだろう。」
アレンとナーティは里の奥へと入っていた。ナバタの里は、外部からの来客をあまり良しとしない。それは、ここが種族を超えた共存の為の最後の砦であったからだった。
「よし、じゃ、見に行こうか。」
セレナ達が集落のほうへ歩いていく。そこにはさまざまな種族のものが住んでいる。人間、竜族、そして・・・ハーフ。しかし、彼らは大陸の他の地域と違い、いがみ合う事も、蔑むこともしていない。それは、彼らは皆キョウダイだからだ。大切な仲間だからであった。
「おや、またお客さんか。20年来誰も来なかったのに。騒がしいもんだな。」
村人の一人がセレナ達を見つけて物珍しそうに話しかける。どうやら自分達の前にも誰か来ていたらしい。
「こんにちは。突然の来訪をお許しください。それにしてもここは・・・皆がすごく仲が良いのですね。」
アリスが挨拶がてら村人に言う。ひどい差別が他の地域では繰り返されているのに。そこには笑顔が溢れ、ゆったりと時が流れていた。
「ああ。ここの人らは皆キョウダイだからな。人間も、竜族も、ハーフもみんな仲間だ。・・・むしろあんた達大陸の民のように、なんで種族が違うというだけでいがみ合うのかが俺には分からないね。」
そこに他の者も加わってきた。そのエーギルの波動は間違いなくハーフのものだ。
「そうだぜ。第一、ハーフっていうのは人間の血も竜族の血も混ざってる。自分と同じ血が半分は流れているのに、どうして差別なんか出来るのかねぇ。俺も同族だと思うと心が痛いよ。」
「あたしもそう思う。みんな大切な存在のはずなのに、どうして優劣が決められなきゃいけないんだ。こう思ってる。だから、世界を変えようと旅に出たんだ。あたしの父さんや母さんもそのために戦って命を落とした。あたし達はその意思を告ぐ。」
その言葉を聴き、村人達がセレナ達の顔をまじまじと覗く。そして言った。
「もしかして、あんたはロイ様の・・・?」
「そうだけど。」
「おお、英雄の再来か・・・? ロイ様には我々の巫女を救っていただいた。今までよそ者扱いしてすまなかった。しっかりおもてなししなければな。」
ロイの子孫と聞いて、村人達はセレナ達を歓迎する。こんな秘境にも、父さんの名は通っている。今更ながらに父さんは偉大な人だと、セレナ達は思った。
「ありがとう! じゃあ、村を一緒に回ってよ。」
セレナ達は村人と一緒に村の様子を見て回る。キレイな水を満々とたたえ、人々からは笑顔と笑い声が溢れていた。そして、そんな幸せな時間がゆったりと、ゆったりと流れる。まるで、他の地域に取り残されたように、そこは他の地域とは全く違う雰囲気を醸し出していた。
「元々この大陸も、ここのような場所で満たされていたんじゃ。皆が手と手を取り合って、嬉しい事も、悲しい事も分かち合う。それが・・・たった200.300年で変わってしまった。種族間でいがみ合い、欲に溺れた者同士による醜い争いが絶えない大陸に・・・。悲しい事じゃ。」
もう何歳になるのだろうか。ヨボヨボで足元も危うい。そんな老人がアレンに支えられながらセレナ達に近寄ってきた。
「じいさん・・・たった200年って・・・。」
「200年なんぞわしらにとっちゃたいしたことはないじゃろ。お姉ちゃんも竜族ならそのぐらいわかるだろうに。」
「あたしは竜石なんか持ってないもん。」
「なんと。・・・まぁ外であまりに長い時間を生きても辛いだけじゃ。時を共有できるものもおらんしの。」
「セレナ、失礼だぞ。このお方はこのナバタの里の長老様なんだ。この里の創設当時から生きていらっしゃる。」
「そうなんだ。ごめんなさい。じゃあ、お願いがあるの。ここに眠っているはずの神将器、それをあたし達に貸して頂きたいの。」


109: 手強い名無しさん:05/11/01 13:02 ID:E1USl4sQ
「フォルブレイズか・・・。あれはアトス様が平和の為に用いた。そなた達は何の為に神将器を?・・・人には過ぎた力。一歩誤れば平和どころか世界を暗転させる力を、そなた達は何に使うつもりなのじゃ?」
セレナ達は自分達の意思を長老に伝える。その理想をも超えた考えを。
「あたしたちは、この大陸を覆っている闇を吹き飛ばす。いや、大陸を超えて真の平和を目指す。種族間の差別とか、ベルンの暴挙。そういったものを止める。」
「私も同じ。・・・私はここを見て確信しました。真の平和って言うのは、一種族の為のものだけじゃない。みんなが笑って生きていける。そんな世界を私達は目指したい。そう思っています。」
双子の瞳をじっと見つめる。このまっすぐ物事を見つめる眼差しは・・・かつてのロイ・・・いやハルトムートそっくりだ。
「そうじゃな。じゃが、そなた達の考えは理想に過ぎん。それを理想止まりでなく、実現する為にはさまざまな壁が存在する事じゃろう。それに絶望したりするこもあるじゃろうて。」
「間違っていると思ったら、例え法に反していても貫く。・・・あたしはそう教えられたんだ。」
「それでも、お前さんがたでは心もとないのぉ。まだまだ弱々しいし。」
「私達は確かにまだ弱いかもしれません。でも、これから各地を回り、色々情報を集めながら、私達はがんばっていくつもりです。もう、これ以上大切な人たちを失いたくないから。もう、これ以上無意味な死を迎える人を増やしたくないから・・・。」
セレナやシーナに、アリスも続けた。
「例え私達一人ひとりの力は小さくても、集まればとても大きな力になります。かつてお母様から言われました。人々を照らす光というものは、たくさん集まってこそ。人もそれは同じ。一人では出来なくても、たくさん集まって協力すれば、できないことはない、と。私達には仲間がいます。まだまだ少ないですが、信頼できる仲間です。世界を回り、私達の考えを解いていけば、きっと共鳴してくれる人はいるはずです。」
長老は目を瞑り、じっとみなの声を聞いていた。身動き一つせず、息をしているかも分からないほどに。
「じいちゃん・・・? 寝てるの?」
「そうか。ではそなた達にフォルブレイズを貸し与えよう。フォルブレイズは水の神殿に・・・。」
そこまで長老が言った時、紫苑のような美しい紫の挑発を揺らし、巫女が走りよってきた。そばにはナーティもいる。
「どうした、ソフィーヤ。お前が走るとは珍しいの。」
「長老様・・・水の神殿に・・・賊が・・・。」
「な、なんだって!? セレナ、急ごう。フォルブレイズが危ない!」
クラウドがセレナより先に声をあげ、走っていった。セレナもそれを追う。
「アレン、ナーティ! 何をやってるんだよ! 急がないと!」
「あぁ、よし、ナーティ殿、急ごうか。あの仕掛けがある限る賊が取り出せるはずないが。」
「そうだな。ソフィーヤ殿、我々が賊を退ける。それまで貴女はここで待っていてくれ。」
「わかり・・・ました・・・。」
アレンに続き、ナーティが走り去ろうとしたところに、ソフィーヤがいつも以上に小さい声で言った。
「・・・さん、・・・ィさん。」
「ん?」
ナーティが立ち止まり、ソフィーヤが彼女に寄って話す。
「私は・・・何が正しくて・・・何が間違っているか・・・よくは・・・わかりません。でも・・・あなたのしていることは・・・正しいとは・・・思えません・・・。」
「・・・。」
ナーティは無言まま目をつぶった。そして首を横に振り、走り去っていった。
「ソフィーヤ、人見知りの激しいお前さんがあんな傭兵にお前から話しかけるとは珍しいの。知り合いか何かの?」
「いえ・・・そんなことは・・・ないです。」
「ふむ・・・。それにしてもあの傭兵、どこかで見た事があるような、ないような・・・。」
「いえ・・・多分・・・気のせいだと・・・思います。私も・・・初めて・・・会った人ですし・・・。」
「ふーむ。この頃ワシも物忘れが激しいからのぉ。そろそろ歳かもしれないわい。死ぬまでに・・・あの娘らが世界を変えてくれると良いが。死ぬ前に、世界中から笑顔が溢れる世界を見てみたいものよ。」
「・・・。」
長老とソフィーヤは走り去っていく一行を見送った。


110: 第十一章:大賢者アトスと「業火の理」:05/11/01 22:01 ID:9sML7BIs
その頃水の神殿では、先ほどの賊二名が、必死にフォルブレイズの入った祭壇の扉をこじ開けようとしていた。
「おかしいね、ラミス。開かないよ。」
「呪文でも言うのかな、ベリル。」
「でも、そんなの知らないよね、ラミス。」
「うん。知らないよ。ベリル。」
「やっぱり、ぶっ壊すしかないのかな。ラミス。」
「手荒な事は嫌いだけど、仕方ないよね、ベリル。」
そう言いながら二人は、手にした巨大な戦斧を扉めがけて渾身の力で振り下ろす。しかし、扉は何か不思議な力に守られてビクともしない。
「お宝が僕達を嫌ってるのかな、ラミス。」
「僕達は閉じ込められてるお宝を助けてあげようと思ってるのに、酷いよね、ベリル。」
「善良な僕達の心を踏み躙るなんて、酷すぎるよね、ラミス。」
そんな会話をしていると、向こうから数名の駆ける足音が聞こえてきた。どうやら自分達が付いてきた傭兵団がこちらに向かっているようだった。焦る二人。
「ねぇねぇ、さっきの人たちがお宝を奪いに来たよ。ベリル。」
「あんな盗賊たちに奪われたら、お宝もかわいそうだよね、ラミス。」
「でも、このままじゃ僕達も危ないよね、ベリル。」
「じゃあ、このままお宝を諦めるかい、ラミス。」
「突然床がなくなったりしてずぶ濡れになったりしたんだ。そんな苦労をした僕達を、お宝が見捨てるわけないよ。戦おう、ベリル。」
「そうだね、正義の味方がやられるわけないもんね。ラミス。」

「おい、あまり急ぐな! ここには特別な仕掛けがあって一定期間ごとに床が・・・。」
アレンが叫んだ時にはもう遅かった。先を突っ走っていたクラウドとセレナの足元の床が突然、まるで水に溶けるかのように消えてしまう。
「うわっ?!」
その直後大きな水しぶきが上がり、クラウドが水面に浮かんできた。
「うへぇ・・・なんでこうなるんだよぉ・・・。」
セレナが空中から水面に降りてくる。セレナは落ちる間一髪に背中の翼を使って飛び上がったので水に落ちなかった。
「兄貴、大丈夫? 何で飛ばなかったのさ。」
「バカヤロウ! こんな鎧してて飛べるか! なぁ、岸まで連れてってくれよ。鎧が邪魔で泳げない。」
セレナが仕方なく兄を岸まで連れて行く。やっとの事で岸に上がったクラウドはすっかり水に濡れて服も鎧も重そうだ。
「まったく、何も考えずに突っ走るからだ。」
「親父に言われたくねぇよ・・・。」
「何か言ったか!? ・・・とにかく、ここはこういう仕掛けがあるから気をつけて進め。」
沈む床に翻弄されながらも、一行はようやく祭壇のある中央部までたどり着く。そこには大柄の男が二人、ハンマー片手に未だに扉をこじ開けようと奮闘していた。
「やっと着いたか・・・。」
「クラウド、一体何回落ちたら気がすむのだ。」
「うるせー! 1回も5回も変わんないだろ!? 親父だって1回落ちたくせに・・・。」
「・・・。」
「親子喧嘩は後にしたらどうだ? それよりあの賊どもを何とかしなければ。」
そういってナーティが前に出る。セレナも双剣を抜いて賊に向かっていく。
「ベリル、盗賊たちが来ちゃったよ!」
「しかたないね、やっつけちゃおうか、ラミス。」
「うん、そうだね。正義は必ず勝つんだもんね。」
「何こいつら・・・。大男同士が肩を寄せ合って・・・気持ち悪い。」
セレナがそう言ってちょっと引く。だが、逆に賊二人組みから攻めてきた。二人は細かい事は考えず、セレナ達を斧で叩き割る事しか考えていない。しかし、その一撃は驚異的で床に穴を開けるほどだ。
武器の相性的にはこちらのほうが優位であるはずなのだが、二人の息のあったコンビネーションの前になかなか決定打を出せずにいる。
「ちくしょう、なんだこいつら・・・。」
「よし、ベリル。僕達の必殺技を見せてやろう。」
「わかったよ、ラミス。」


111: 手強い名無しさん:05/11/01 22:01 ID:9sML7BIs
そういうと二人は巨体をものともせず、高く飛び上がった。
「いくよ! ベリルとラミスのラブラブダイナマイト!」
二人が斧を振り回しながら急降下してくる。それは真っ直ぐセレナを襲う。身軽なセレナならこのぐらい容易にかわせる・・・。セレナも相手の軌道を見て避ける体勢に入る。しかし
「ベリル、右だよ。」
「わかったよ、ラミス。」
二人は息の合った連携を店、セレナの回避を許さない。直撃は免れたが、衝撃でセレナは吹き飛ばされる。
「うわっ」
吹き飛ばされたセレナは何とか空中で態勢を取り戻す。回避したはずが、腕から少し血が出ていた。
「ふむ、あの二人なかなかやるようだな。」
ナーティは何時ものように静観している。アレンは慌てた。
「ナーティ殿! 今回も見ているだけなのですか! 今回は相手も強い。しっかり働いてください。」
ナーティは聞いているのかいないのか、剣は抜いたがまたセレナのほうを見て話しかけた。
「セレナ、これで分かっただろう。お前のように単独行動ばかりしていては強い相手には勝てないと。これからは皆と力を合わせることだな。」
言い終わると、やっと前に出た。そして、剣を構える。
「セレナ、私に続け。シーナ、お前は空中から遊撃するんだ。」
セレナがナーティに続こうとした。しかし、早い! セレナが気付いた時には既にナーティは賊の懐にもぐりこんでいた。そして、一気に斬り上げる。更にもう一人の賊の攻撃をひらりと避け、数発剣撃をお見舞いしている。・・・強い。
セレナも負けじと賊に飛び掛る。そして、シーナが空中から手槍で遊撃し、賊の的を絞らせない。
「この人たち強いよ、ベリル。」
「うーん、よし、じゃあもう一回必殺技だ。」
賊二人組みがまた先ほどの必殺技を繰り出す為に空中へ飛び上がった。
「セレナ、お前達は下がっていろ。」
ナーティがセレナ達を後ろに下げ、賊の落下地点に入る。そして、手を振り上げた。
「ねぇ! あれ何やってるの? あんなところにいたら・・・!」
シーナが慌てた。あんなところにいたら、二人の斧の直撃を受けてしまう。そうなれば一撃で昇天だ。
しかし、次の瞬間、セレナはナーティの周りの水のエーギルがざわめいている事に気づいた。
「出でよ! 蒼冷なる白銀の使徒、フィンブル!」
ナーティから、いや、ナーティの周りの水から発せられた鋭利な氷の槍が凄まじいスピードで賊を襲う。
その威力に、賊二人を為す術もなくその巨体を吹き飛ばされた。
「やっぱりお宝に見放されたのかな・・・、ラミス。」
「そんな・・・。正義の味方がやられるなんて・・・あんまりだよ、ベリル。」
賊がそのまま動かなくなった。セレナはただ驚くばかりであった。
「よし、賊は片付いた。巫女を呼びに行くとするか。」
そういうとナーティは元来た道を歩き出す。それをシーナやクラウドが追いかける。
「すごい! 剣技も魔法も凄い強い! やっぱりナーティさんってカッコイイね。」
「・・・そんなことはない。」
「照れちゃってー。」
懐くシーナを先に行かせ、クラウドがまたナーティに疑惑の目を向ける。
「なぁ、ナーティさんよ。」
「何だ?」
「さっきあんた、魔道書無しに魔法撃ってたよな。熟練の賢者でも難しいことを、傭兵のあんたがそう軽々しくやってのけるなんて。・・・あんた、本当に人間か?」
「ふっ、お前は私を怪しんでいるのか? 怪しいなら監視していればよかろう。案外、ぽろっと尻尾を出すかもしれないぞ。」
「仲間を怪しみたくはねぇけど、あんたはその・・・凄腕過ぎるからよ。」
「・・・ここは八神将の一人が祭られている。エーギルもその分豊富だ。その為だ。」
「・・・。」
「それより早く鼻水を拭け。主を守る騎士がそれでは見っとも無いぞ。」
慌てて鼻水を拭くクラウド。それ見てナーティは笑いながらソフィーヤの元へ向かった。
「・・・ちっ、話し逸らすなっつーの。 ・・・それにしても、さっきの戦い、なんかあいつが将みたいだったな。傭兵がセレナ達を指揮するなんて・・・。セレナ、しっかりしろよまったく。突っ込んでるだけじゃダメだろ・・・。」


112: 手強い名無しさん:05/11/03 12:45 ID:E1USl4sQ
暫くして、シーナたちがソフィーヤを連れて戻ってきた。
「フォルブレイズかぁ・・・一体どんな魔道書なんだろうな! 早くみたい!」
セレナがわくわくしながら言う。
「別名『業火の理』。天まで昇るその灼熱は、竜のブレスをも焦がし、各地の火山を共鳴させたと言う。」
ナーティが続けた。伝説上の話ではあるが、それほどの力を秘めた魔道書であることを示している。
「そうです・・・。では・・・扉を・・・開けます。」
ソフィーヤが扉に手をかざし、ゆっくりと目を閉じる。すると、今まで賊たちが、その自慢の腕力をもってしてもびくともしなかった扉が、ゆっくり音を立てずに水にすべるかのように滑らかに開いていった。
セレナ達はその腕力ではない、不思議な力にただ見ているだけしか出来なかった。
「すげー・・・。なぁ、巫女さん、どうやって開けたの? ねぇねぇ!」
「姉ちゃん、巫女さん困ってるよ。やめてあげなよ。」
「・・・アトス様に・・・話しかけたのです・・・。神将器を・・・必要と・・・している・・・人が・・・いると・・・。」
「へ? アトス様って!・・・誰だっけ。」
お約束とも言えるセレナの言葉に、一同は愕然とする。これから世界を救おうという人間が八神将の名前すら知らないとは。
「姉ちゃん・・・学問所を1年生からやり直したら・・・?」
「アトス様は・・・人竜戦役で・・・人々を光に導いた・・・大賢者様です・・・。」
「人竜戦役なんて1000年以上前の話でしょ? どうしてそんな人と話せるのさ。」
セレナがシーナの耳を引っ張りながらソフィーヤに訊ねた。
「アトス様は・・・生きておられます・・・そう・・・フォルブレイズの魔道書の中に・・・。」
「えぇ?! 閉じ込められちゃってるの!?」
何と言うことだ。アトスはフォルブレイズの魔道書の中に閉じ込められてしまったのだろうか。使い手の魂を封印してしまう、恐ろしい力を持った魔道書・・・。確かに人には過ぎた力かもしれない。
「いいえ・・・。アトス様は・・・精霊として・・・フォルブレイズの魔道書を・・・守っておられるのです・・・。だから・・・アトス様に・・認めてもらえなければ・・・フォルブレイズの・・・魔道書を・・・扱う事は・・・叶いません・・・。」
「なるほど。ところで、ソフィーヤ殿。そのフォルブレイズの書は何処にあるのですか?」
アレンが尋ねた。扉の中には礼拝堂はあるものの、魔道書と思われるものは一切見当たらない。
「はい・・・。フォルブレイズの魔道書は・・・先日こちらにいらした旅の人が・・・持って行かれました・・・。」
「な、なんだって?! じゃあ、もしかしたら今頃盗賊の手に・・・。」
セレナが焦る。自分達より先に来ていたという客人が既にフォルブレイズを持ち出してしまっていたのである。消息は当然分からない。・・・いきなりピンチの連続だ。
「だが、アトス様がお認めになられたほどの人物なら、よほどの事がない限り心配はいらんだろう。問題は今何処にフォルブレイズがあるか、だ。我々には何としてもフォルブレイズが必要なのだ。」
ナーティがセレナを諭す。セレナも落ち着きを取り戻し、ソフィーヤに訊ねる。
「じゃあ、どうやったらアトス様とお話できるの?」
「アトス様が・・・認めてくだされば・・・精霊術師を媒体に・・・対話する事ができます・・・。貴女方が・・・認めていただかなければ・・・いけません。だから・・・私は・・・お手伝いできません。」
アトスに認められ、交信可能な巫女、ソフィーヤに助けてもらっては、自分達が認められたことにはならない。自分達の力で、アトスに求めてもらう必要があった。精霊術師・・・目に見えない力と対話する事のできる不思議な力を持つ者。ソフィーヤが巫女と呼ばれる所以であった。
「あ、そういえば、アリスお姉ちゃんもあの竜騎士に精霊術師って言われてなかったっけ?」
そういえばそうである。西方でアリスたちを襲った謎の集団。そのリーダーと思しき竜騎士がしきりに言っていた。精霊術師を渡せ、と。そして狙っていたのがアリスであった。
「確かに・・・耳を澄まして木とかとお話しすることはあるけど、そんな精霊と放すなんて下事もないし、やり方だってわからないわ。」
「しかし、貴女しかできそうな者はいないのだ。・・・やってもらわねば困る。」
ナーティに言われ、アリスがソフィーヤに話しかけてみる。
「あの、巫女様、どうすれば精霊と対話が出来るのでしょう?」
「特別な事は・・・しなくても良いのです・・・。ただ・・・アトス様を心で見て、心で話しかければ・・・。」
アリスは言われたように祭壇のまで祈りを捧げる。そして、いつも木に話しかけるように、アトスに話しかけてみる。・・・お願い、私達の祈りを聞いて・・・!
暫くすると、アリスは目の前に人が降り立ったように思えた。アリスはそのまま心で祈り続ける。


113: 手強い名無しさん:05/11/03 12:47 ID:E1USl4sQ
「皆さん・・・。アトス様が・・・あの方に降臨なさっております・・・。あのお方に触れて、一緒に心で対話なさってください・・・。」
一行はアリスの周りに寄り添うようにして集まり、一緒に祈りを捧げだす。
そして次第に声が聞こえてきた・・・。
「お前さん達か、このわしを呼ぶのは。」
「あたしはセレナ。フェレ候ロイの娘です。こっちは妹でシーナって言います。」
「フェレ・・・そうかお前達はエリウッドの子孫か。」
「はい、エリウッドはあたし達の祖父に当るそうです。」
「ふむ、ところで、お前達は何の為にわしを呼び出したのじゃ?」
「フォルブレイズの在り処を教えていただきたいのです。あたし達にはそれが必要なんです。」
「この大陸に起きたこと、そして起きようとしている事、わしには皆分かっておるよ。お前さん達がここに来る事も・・・。」
「え!? じゃあ、この先この大陸はどうなってしまうの?」
「ほほほ・・・。人というものは、先が見えない人生を歩むからこそ楽しいもの。全て歩んだ先が分かってしまっては絶望しか残らん。・・・絶望に打ちひしがれ、諦めてしまうだろう。そうなったら生きてはいけんよ。お前さん達は、自分の力で、自分の意志で歩かなきゃならん。希望と言う言葉を考えて見なさい。薄い望み、残りは絶望。希望を信じられるのは、先が見えないからじゃ。」
「わかったよ・・・。じゃあ、フォルブレイズは何処にあるの?」
「ほっほっほ。そう急かすでない。どんなに焦っても、時に流れは一定じゃて。時の流れに背こうともいつかは流れに飲まれてしまうものじゃ。」
「あー! いいから教えてよ!」
セレナの短気がとうとう表に出てくる。アリスが心の中でセレナを拳骨して沈める。
「私達には、何としてもその魔道書が必要なのです。お願いです、どうか在り処をお教えください。」
「ふむ。しかし、お前達は本当に世界を救えるのか? お前達も人だ。いつかは絶望し、諦めてしまうのではないか?」
「そんなことはない! あたし達は決心したんだ。 皆が平和に暮らせる世界を作ろうと。あたしには仲間がいる。みんなと助け合えば、怖いものなんてないよ。」
「ほっほっほ、軽々しく言ってくれるのぉ、セレナよ。お前の母親も、ナーガ様から認められるほど、心のキレイな者じゃった。だが、実際どうじゃ。仲間の裏切り、大切な者との決別・・・さまざまな絶望の前に、とうとうその志を果たせぬまま行方知れずとなってしまった。お前も・・・同じ道を歩むかもしれないぞ?」
「あたしは・・・あたしは母さんとは違う。でも、今の状況が正しいとは思えない。行動を起こさなきゃ、何も変わらないよ。行動して反省する事があっても、何もしないで後悔するのは嫌だ。あたしはあたしの考えを元に行動してる。そしてあたしは決心したんだ。世界を変えてやるって。種族を超えた平和を大陸に取り戻したいって。」
セレナとアトスの対話は続く。自分達の想いを少しでも正確にアトスに伝えたい。そして認めてもらわなければならない。
「だからと言って力に頼るか? 力による平和は、結局何処かで歪みを生み、やがてその歪みが大きな亀裂へと発展していく・・・まさに今の大陸の如く。」
「それは・・・。必要以上に力に頼ることはなしないよ。あたしだって出来れば無駄な戦闘は避けたいし、人を殺したくない。でも、話し合って分かってくれないのなら、それに訴えるしかないよ。」
「・・・変化に犠牲はつき物と? そのための犠牲は致し方ないと?」
「そういう意味じゃないよ。 ベルンによって多くの罪も無い人々が無意味な死を遂げてきた。そして、ベルンを・・・いや、ハーフを憎んで更に種族間の憎しみは増していく。
そんな悪循環を断ち切るには、ベルンを止めなきゃいけないんだ。そのために出る犠牲は計り知れない。その犠牲を最小限に食い止める為にも、早く戦争を終らせなきゃいけないんだ。・・・結局力にとよる事になっちゃうね・・・。」
セレナは次第に、自分の言っている事が矛盾に満ちている事に気付いていった。しかし、自分の言っている事が間違っているとも思えなかった。
「・・・わかった。お前さん達も分かったろう。お前さん達の理想は、多くの矛盾を抱えていると。その矛盾を乗り越えてこそ、真の平和は実現される。矛盾に矛盾を重ねた儚いもの。それがお前さん達の求めるものじゃ。その矛盾に押しつぶされないよう、しっかり心を磨くのじゃぞ。」


114: 手強い名無しさん:05/11/03 12:49 ID:E1USl4sQ
「え、じゃあ!」
「うむ、フォルブレイズの書は、生前の弟子、パントの孫が持っていったわい。彼はエトルリアに戻っておる。
忘れるでないぞ。お前の武器は仲間と強い意志じゃ。物理的な武器は、ただの人殺しの道具でしかないと言う事を肝に銘じておくのじゃ。例えそれが神将器と言えどもな。」
そういい終わると、アトスは消えていき、セレナも意識が遠のいていく。目覚めた時には元の場所にいた。
「よし、進路は決まった。目指すはエトルリアだ。パント様の孫と言う人と何としてもコンタクトをとろう。明日朝一番に出発だ!」
シーナは意志を明確にした姉を見て、何か何時もより凛々しく感じた。今日一晩はナバタの里に泊めさせて貰い、明日からエトルリアへ向け出発する事になった。

その夜、シーナは何か眠れなくて目が覚めた。横では姉と兄が同じような寝相で同じように涎を垂らして寝ていた。
「もう・・・どこまで気が合ってるんだか。見てるこっちが恥ずかしいよ。」
そう言いながら、シーナは宿の外に出て、集落の中央にある噴水のところで水の調べを聴こうと歩き出した。しかし近づくと、誰かがそこにいる事がわかった。
(誰だろう・・・。こんな遅い時間にまだ起きてる人がいるなんて。)
シーナは木の陰に隠れて様子を見る。それはナーティとソフィーヤだった。何か話し込んでいる。シーナはもう少し近づき
何を話しているのか聞くことに決めた。盗み聞きは良くないけど、やっぱり気になる。
「・・・そうなんですか・・・。悲しい事ですね・・・。」
「ふっ・・・。私の力不足が招いた事だ。この責任は取らねばならぬ。」
「しかし・・・。」
「ん?」
「昼にも言いましたが・・・貴女のやろうとしていることが・・・とても正しい事とは・・・。」
「・・・もう何も言わないでくれ。私には・・・いや世界にはもうこの手しか残っていない。どんなに綺麗事を言っても、力で力を支配する限り、悲劇は繰り返される。理想は結局・・・理想でしかない。」
「だからと言って・・・そこまで思いつめた考えをすることは・・・無いと思います・・・。あなたの考えていることに・・・私は・・・賛同できません・・・。世界が・・・正しい方向に向かうとは・・・思えないし・・・貴女もそれでは余りに辛すぎます・・・。」
「私が辛い・・・? ふ、私は大切なものは全て失った。もうこれ以上失うものはない。怖いものなど・・・何もない。」
シーナは二人の会話の意を全く汲み取れず、ただ聞いているしかなかった。しかし、何か重い雰囲気が流れている事は確かだった。
「貴女は・・・まだ・・全てを失ったわけでは・・・ありません・・・。最も大切なものが・・・まだ・・・残っています・・・。」
「ほう、それは何か聞きたいものだな。」
そこまで二人が話を進めた時、シーナが足元の木の枝を踏みつけて音を立ててしまう。二人はすぐに勘付き、ナーティが茂みに剣を突っ込んだ。
「・・・何者だ。」
「い、いやぁ・・・ナーティさん嫌だなぁ・・・ははは。盗み聞きなんてしてないよ?私。あはは・・・。」
喉元に剣を当てられ、流石にシーナも腰が抜けてしまう。
「子供は早く寝ろ。明日からの作戦に支障が出る。」
剣を鞘に収めながらナーティは言った。
「さて、ソフィーヤ殿、我々も解散するとするか。今日は本当に助かった。ありがとう。」
ナーティはシーナを連れて宿に戻っていく。ソフィーヤはその二人の姿をずっと見ていた。
「ねぇねぇ、さっき巫女様と何をお話していたの?」
「ちょっとした世間話だ。お前が気にするほどの事ではない。」
「ふーん。それにしてもナーティさんは憧れちゃうなぁ。」
「私に? ・・・止めておけ。私のようになったらお終いだ。」
「えー。だって、いつも冷静で、剣も魔法も強くて、おまけにいつでも私達を守ってくれるし。私もナーティさんみたいな凄腕の騎士になりたいよ。」
「・・・お前達を守るのはそれが傭兵としての私の務めだから。逆に言えば、私は力でしかものを訴える手段の無い、これからの世界には不必要な人間だ。・・・お前達の理想とする世界には。」
「そんなこと無いよ。ナーティさんは優しい人だよ。西方でも竜騎士を賞金首と知って逃がしたり。それにナーティさんの目、優しそうだもん。」
「私の目が・・・? 希望を捨てた私の目が、優しい?・・・笑わせるな。」


115: 第十二章:いざエトルリアへ:05/11/03 12:50 ID:E1USl4sQ
そういうとナーティは宿とは反対の方向に歩いていってしまった。シーナはその姿を何故か追うことが出来なかった。哀愁に満ちたその背中を。
「ナーティさん・・・。悲しそうで、鋭い目つきだけど、時々しているよ、優しそうな目つき。私はそれが大好きなんだ。だから、そんな悲しい顔しないでよ。・・・一体ナーティさんの過去に何があったんだろう・・・。」
床に戻った後も、シーナはそれが気になって眠れなかった。

翌朝、一行は里を発ち、一路エトルリアを目指し北進を始めた。ナバタ砂漠を抜けて暫くすればすぐエトルリアの領土内に入る。一行は再び灼熱の砂嵐の砂漠を踏破せざるを得なかった。
「うー。熱い・・・。 干物になっちまう・・・。」
皮鎧の上から更に騎士用の厚い鎧を装備する騎士にとっては、砂漠では蒸されるような気分に陥る。まだまだ騎士としての経験の浅いクラウドにはそれが我慢できなかった。
「クラウド、文句が多いぞ。そんなことで根を上げていては騎士は務まらないぞ。 それそろしっかりしてくれ。戦場でお前の世話まではしていられないぞ。」
「な、言ったな! 見てろ、いつか親父を抜いてやるからな!」
クラウドがアレンに挑発され、向きになって歩き出す。アレンはそんな姿を微笑みながら見ていた。 一方の双子はと言うと、疲れ知らずで元気だ。
暫くすると砂嵐は止んだ。地形も砂だけの金色の世界から、草の緑色が少しずつ目立ち始めてきた。
どうやらナバタ砂漠を抜けたようだ。
もう少し歩けば、エトルリアの国境。ここがまず最難関だ。 国境警備隊に見つかれば、たちまち投獄、極刑である。だが、傭兵団を装っているし、ハーフのシーナがうまく言ってくれれば心配は無かった。
「よし、次、検問所に入れ。」
ベルンのエトルリア駐留軍、すなわちリゲル配下の兵達がセレナ達を取り囲んだ。
「お前がこの傭兵団のリーダーか? 随分若いリーダーだな。」
ベルン兵がシーナに話しかける。その話し方は柔らかい。同族同士だからか。
「うん。実際働くのは劣悪種だからね。 私は管理役。」
「はっ、なかなか強かな娘だな。 よし、通れ。道中の安全を祈っている。」
思った以上にすんなり通過できてしまった。警戒レベルは最低といったところか。
「なんだよ。案外うまく行くもんだな。正直期待はずれだぜ。」
「クラウド・・・。お前と言うやつは。 気を抜くなとあれほど言っているだろう。我々は一刻も早くセレス様に合わなければならないのだ。」
「わぁ、親父。怒るなって。」
いつもどおりの家族の様子にセレナは笑ってしまった。しかし、妹の顔色は優れなかった。
「シーナ・・・? どうかしたの?」
「あ、姉ちゃん。 いやさ、演じて放った言葉でもあまりいい気がしないなぁってね。」
「劣悪種云々ってヤツ?」
「うん。 自分の大切な家族を劣悪呼ばわりするのは、何か嫌だよ。」
「気にするなって! あんたはそう思ってないならいいじゃない。 ほら笑いなよ。」
姉が何時もの笑顔で私を抱きしめる。悩みやすい私をいつも励ましてくれる姉。
こういう時だけは、こんな姉を持って幸せだと思えた。そこにナーティやアリスも話しに加わってくる。
「そうよ。考えすぎよ、シーナ。 もう少し気を楽に持って、ね?」
「気になるなら一層、世界を変えるために努力する事だ。 皆がお前と同じように、差別する事に違和感を覚えるようにな。」
同じ励まし方でも、ここまで違うものなのか。セレナは妹の肩を抱きながらそう思っていた。そして、まだ見ぬ自分の従兄妹、セレスの顔を想像していた。
「ねぇ、シーナ。セレスってあたしの名前に似てるよね。どんな顔してるんだろ。カッコイイといいなぁ。」
「従兄妹だから似てるのかな。・・・それより姉ちゃん、何変な事考えてるのよ。ナンパでもする気なの?」
「冗談じゃない。従兄妹だよ? 親族相手にナンパしてどうするのさ。 男はカッコいいほうが良いに決まってるでしょ。」
「姉ちゃんが言うと冗談に聞こえないんだよなぁ・・・。」
「何だと?! もう一回言ってみろよ!」
セレナがシーナのポニーテールを後ろから引っ張る。それをクラウドがずっと見ていた。それにアレンが気付き、話しかける。」
「どうした、クラウド。」
「いやぁ、すぐそばにこんなカッコイイ兄がいるのに、セレナは一度もナンパしに来た事ないなぁって思っただけだよ。」
「やれやれ、お前と言うヤツは。」


116: 手強い名無しさん:05/11/04 17:20 ID:E1USl4sQ
一行はエトルリアの市街地近くの村で山賊退治をし、そのお礼にとその晩止めてもらう事になった。
そして、この先のことについて話し合っていた。
「そのセレスって人に会おうにも、どこにいるのわからないんじゃ探しようが無いよ。」
セレナが困ったと言うような顔で言う。確かにエトルリアはエレブ大陸一の大国。一口にエトルリアと言っても、南はミスル半島から、北はイリアとの国境レーミーと、非常その範囲は広い。セレスがエトルリアにいる、と言われてもその具体的な地方が分からなければ探し出す事は困難を極める。
「セレスはクレイン卿とその妃ティト殿のご子息。つまり、リグレ侯爵家の人間だ。アクレイアにいる可能性が高いと俺は思っている。」
アレンが具体的な進路を説明しながら言った。ティトはアレンにとっては戦友だった。そのティトも前の変で戦死したと言う。そのご子息がエトルリアにいる。自分が守ってやらねばと、何故か妙に気合が入る。
「しかし、いまやアクレイアはハーフの牛耳る商業地域だ。かつての貴族達は没落し、その貴族街には新たにハーフの貴族達が住むという。リグレ侯爵家も当然例に漏れないだろう。」
ナーティが何時ものようにさらっと冷たい現実を言い放つ。静まり返る一同。そこに村人がスープを運んできた。
「今日は賊どもから我々を助けていただき、ありがとうございます。」
「いいよ、そんなの。あたしたちの力は、力を持たない人全ての為にあるんだもの。助けて当然だよ。」
セレナが村人に返す。その言葉に村人は涙を流して喜んだ。
「あぁ・・・神よ、聖女エリミーヌよ。貴女の御慈悲に感謝いたします・・・。 貴女方が英雄ロイ様の姫様がであると言う事に、疑いを持つものは我々にはおりませぬ。どうか我々の出来る事なら何でも仰ってくださいませ・・・。」
このリアクションにはセレナは驚かざるを得なかった。自分は本当のことを言ったまでなのに、どうしてこんなに感動してくれるんだろう。
「そんな、泣かないでよ。当然の事をしたまでだってば。オーバーリアクションだよ。」
「それだけ、ベルンの支配が酷かったという事だろう。」
アレンがセレナを諭す。右も左も、そして上も下も、全てが闇。その中にたった一点、自分達を救ってくれる光。感涙もやむをえない状況だ。
「そうだ。ここはまだ地方だからよいものの、王都の風紀は乱れに乱れている。これもあのリゲルとか言う総督のせいだが。」
それにナーティが付け加えた。リゲルも成り上がり貴族の一人だ。
「リゲル? それに風紀が乱れているって?」
「リゲルはベルン五大牙の一人でエトルリア地方を支配している。風紀がひどいと言うのは、実際行ってみれば分かる。」
流石に傭兵として世界を回っているだけあって、ナーティは各地のことについてよく知っている。知りすぎているような気もするが。
「ところで、セレスという名前の人について心当たりはありませんか?」
アリスが村人に聞いてみる。分からないのなら地元の人の聞く他に情報収集源はない。一か八かで聞いてみる。すると、思わぬ答えが返ってきた。
「おぉ、セレス様ですか。あのお方は今やパーシバル様の右腕として活躍なさっておられます。まだまだお若いのに、ご両親に似てしっかりなさったお方で・・・。我々の期待の星なのです。」
どうもセレスもセレナ達同様、ベルンと敵対しているようだ。そして、その組織はパーシバルを中心にしたあの対抗組織だったのである。同じことを考えるとは、流石自分の母と血を分けた叔母の子だと、セレナは思い、期待した。
「ということは、セレス様もパーシバル様と一緒にアクレイアのおられると言う事ですね?」
「ええ。アクレイアのどこかに組織のアジトを持っておられるはずです。」
そうと決まれば話は早い。明日朝一番にアクレイアへ発てば、夕方ごろには到着できる。アクレイアで情報を収集すれば、そこを拠点としているならばすぐに見つかるだろう。
「かぁー! このスープうめぇ! おばさん、おかわり!」
不安要素が消えて安心したのか、セレナとクラウドは何時ものような明るい顔に戻った。
「こらっ、クラウド。お前はどうしていつもそうなんだ! もう少し落ち着かないとだな・・・!」
「セレナ、お前もだ! 将としての自覚があるのか? おい、聞いているのか!」
アレンとナーティがそれぞれクラウドとセレナの首根っこを捕まえて説教をする。もう見慣れた光景だ。アリスはそんな周りの様子に微笑む。こんな和やかな空気がいつまでも続けばどんなに幸せだろうか。
「いててっ、兄貴が親父に怒られるのは仕方ないとして、どうしてあたしがあんたに怒られなきゃいけないんだよ!」


117: 手強い名無しさん:05/11/04 17:21 ID:E1USl4sQ
一方、ここは王都アクレイア。一人の若者の周りに、古着をまとった大勢の男達が集まっている。
「セレス様。いつまで我々はこんな苦境に立たされていなければならのですか?」
「もう限界です。我々スラム街の人間を集結させ、一気にハーフどもを追い出しましょうよ!」
「そうだ。そうだ。一刻も早く我らのエトルリアを取り戻そうぜ。」
その若者の名はセレス。今は無きリグレ公クレインの息子。皆口々にセレスに向かって叫ぶ。その男達をなだめながら、セレスは言った。
「皆さん、落ち着いてください。僕としても一刻も早く我々のエトルリアを取り戻したい。しかし、戦争をして奪い返すのでは意味がないのです。パーシバル様ともよく話し合い、なんとか和解の道を模索しているところです。」
「セレス様、和解ってできるのか? 相手がその気なら、こちらもそれ相応の手段を用いないと・・・。」
「確かに、話し合いだけでは難しいかもしれません。しかし、ハーフと戦争をするだけでは、後々まで禍根を残しかねません。
大丈夫です。きっとうまく行く方法があるはず。もう少しの辛抱です。がんばりましょう。」
セレスはスラム街の最奥にあるアジトに入っていった。その中にはパーシバルとララム、そして
パントがいた。
「あ、セレスちゃ〜ん。おかえり。」
「おぉ、セレス、遅かったな。」
「爺上、只今戻りました。・・・ララムさん、“ちゃん”は止めてくださいと何度言ったらわかるんです。」
セレスがちょっと拗ねたように言う。いつまでたっても子ども扱いだ。
「だって、可愛いんだもん。ねぇ、パント様。」
ララムももういい年だが性格は相変わらずだ。年相応に落ち着いたとは言え・・・。
「ははは。いいじゃないか、セレス。いい母親代わりがいて。」
「まっ、パント様。私はそこまでまだ年をとっていませんよ! こう見えてもまだピチピチの・・・。」
ララムの声が狭いアジトに響き渡る。アジトの中は洗っていない食器やら書類やらが乱雑に積み上げられている。土壁に土間だけのつくりで中は暗く、そしてホコリ臭い。炊事場はララムが料理でもしたのか、何か焦げた物が不気味に煙を上げていた。
「セレス・・・遅かったな。近況はどうだ?」
今まで沈黙を保っていたパーシバルがとうとう口を開いた。苦労は絶えず、年以上に老けて見える。が、それでも昔のままの面影は残している。かつてのエトルリアの最高指揮官。今では落ち武者とハーフに蔑まれているが、その姿は今でも体も意志も健在だった。
「パーシバル様。遅くなりました。状況は相変わらずです。ハーフ達の傍若無人な行いはますます酷くなっています。特にリゲル総督の女狩りはエスカレートするばかりで・・・。
この頃では旅人の金を巻き上げる為に新たな賭博場も開設したとか。・・・悪化の一方です。」
セレスがアクレイアの状況を淡々と話す。どれも良いものは無く、日に日にその度は増していく。
「そうか・・・。では、同志達はどうだ。」
「はい、皆口々に一揆を企てようと団結しています。・・・皆そろそろ限界のようです。僕だってこれ以上は見ていられない・・・。」
「うむ・・・致し方ないか・・・。ミルディン王子がご覧になられたらいたく悲しまれる事だろう・・・。
これも全て、私に力が無かった為だ。あの時もっと私がベルンの侵攻を抑えることが出来たならば・・・。」
パーシバルのその言葉を聞くや否や、今まで和やかな顔をしていたパントが突然、厳しい口調でパーシバルを叱った。
「パーシバル、過去の事を後悔していても始まらぬ。過去は変えられぬ。だが、この先はお前の行動一つでどんな風にも変えて行ける。生き残った我らがするべきことは、後悔ではない。・・・わかっているのだろう?」
「はい、パント様。心得ております。しかし、単なる殺し合いで勝利しても、それは真の勝利ではないでしょう。互いに手を取り合ってこそ、真の勝利・・・。ミルディン様のお言葉です。」
「そう。だから戦いは虚しい。だが、まずはこの悪循環を断ち切らねばならん。順序をとり間違えてはならぬ。」
「は・・・。」


118: 手強い名無しさん:05/11/04 17:22 ID:E1USl4sQ
パーシバルは再び考え込んでしまう。主の遺言と反する現状。だがそれを打開する為には主の意志と反することをしなければならない。もはや迷わないと誓った自分が・・・情けない。
そんなパーシバルを見て、パンとはいつもどおりの穏やかな顔に戻る。
「そう悩むもんじゃないよ。時が来ればきっとうまくいくよ。」
パントは多くは語らず、また魔道書を覗き始めた。・・・パントには分かっていたのである。セレナ達がここアクレイアの向かっている事が。数日前、寝ているときにアトスが話しかけてきたのであった。
「数日後に、お前達の元に炎の天使たちがやってくる。それまでは平静を装うのじゃ・・・。ワシは精霊。世の中の事に首を突っ込むことは禁忌なのじゃが、どうしても見ておれなくての・・・。パントよ。お前なら信頼できる。若輩者たちをうまく先導してやってくれ。」
確かに警戒レベルが上がっているなら今の戦力で突っ込んでも自滅行為だ。今は情報を収集し、ベルンの動きを探ったほうが得策だと、パーシバルも思った。
「はーいはい。悩んでないで、ね。パーシバル様。ほら、私特製のララムシチューを召し上がれ!」
そういってララムは真っ黒に煤けた鍋を厨房から運んできた。吹き上がる湯気が不気味である。
それを見た途端、パーシバルは別部屋に移っていった。
「ラ、ララムさんの料理!? い、要らないよ。爺上、どうしてララムさんに料理なんかさせたんです!?」
「ん? たまにはいいかなってね。」
「たまにはって・・・無責任な・・・。」
「なーに言ってるの。セレスちゃんも食べないとパーシバル様みたいにかっこよくなれないぞ?」
「・・・ララムさんの料理を食べるぐらいなら死んだほうがマシです。」
「あー、言ったわね!? 可愛くないヤツ! 乙女心を傷つけたらどうなるか教え込んであげるわ!」
そういうとスプーンにたっぷりと白と黒の混ざったシチューを盛り、セレスの口に押し込む。
「うわ・・・!? おえ・・。やめて・・・。」
涙目で懇願するセレス。それを見て更に頭に血が上るララム。それをパントは笑いながら傍観していた。
「ははは、和むねぇ。・・・さて、アトス様。炎の天使とやら、お待ちしておりますよ。我々とてこのまま手をこまねいている訳にも参りません。私も孫達と、アトス様のように、平和の為にこの力を用いて見せます。」
やっとララムから逃れたセレスは別部屋に逃げ込んだ。そこにはパーシバルが外を見ながらコーヒーを飲んでいた。
「ふぅ・・・ララムさんの料理はホント一級品ですよ・・・殺人道具として。」
「ふっ・・・。ところでセレス。お前は何の為にこの組織に与した?」
「え、それはもちろん、現状のハーフが支配する差別と困窮の世界に終止符を打つためです。そのために、僕は爺上から、いえアトス様からフォルブレイズを継承しました。」
「ふむ。では、その力を何に用いるつもりだ? ハーフをその焔で焼き殺し、憎しみを増長させるか?」
「それは・・・。わかっています。僕達の求めるものは、矛盾だらけであると言う事を。でも、世界を変えていくためには、もはやこれしかないのです。種族間の関係を歪めるだけ歪めた人間族が勝手な事を、とハーフの人たちは思っているかもしれません。しかし、その誤解は僕達の考えを知ってもらえれば解けるはずです。」
「お前は・・・両親に似て、考えがしっかりした子だな。」
「パーシバル様がお悩みになられるのは立場上仕方ない事だと思います。しかし、アトス様はこう仰っておられました。“人間は悩み多き生き物。悩む事で後悔もし、成長もする。悩む事は決して悪い事ではない。逃げるのでなければ。」
「・・・。」
「パーシバル様は逃げておられるのではないはずです。だから、悩んででも、最善の方法を考え出してください。僕達はそれに従いますから。」
「そうか、ありがとう。私も私なりの最善の方法を考えてきた。そして行き着いた結論は
やはり、ベルンの総督府を叩き、ハーフの支配を終らせる事だった。まずは現状を変えなければならぬ。それは分かっていた。
しかし、ミルディン王子や、ゼフィール全ベルン国王の言葉を思い出すと、これでいいのか、と悩んでしまうのだ。」
「・・・。」


119: 手強い名無しさん:05/11/04 17:23 ID:E1USl4sQ
「叱られるような事を平気でするからだろう!? まったく、お前は将としての自覚に欠ける。第一・・・」
シーナはそんな姉を見て呆れながらも、こんな性格の正反対な二人がどうしてあんなに気が合うのか不思議でならなかった。
「普通あそこまで性格違ったら離れ離れでいる気がするんだけどなぁ・・・。蓼食う虫も好き好きってやつかなぁ。」

「しかし、やはり順序を取り違えてはいけない。まずは目の前にある問題を解決しなければ。先々の事にとらわれて目先の問題に二の足を踏んでいては、またあの時のようになってしまう・・・。」
「あの時?」
「いや、セレス、お前は知らなくてもよい。よし、武器などの物資を調達してくれ。時を見て反乱を起こす。」
「わかりました。では、早速手配をしてきます。」
セレスはマントを翻しながら走っていった。
ミルディン様・・・ダグラス様・・・セシリア・・・私は今度こそ、やり遂げてみせる。今度こそ皆の死を無駄にはしない・・・。

その頃、エトルリア駐留のベルン総督府では、いつもどおり、リゲルが快楽におぼれていた。
「くっくっく、私に優雅なひと時をもたらしてくれる者はおらんのか?」
リゲルは手にしたレイピアの先を手で曲げながら剣奴隷達のほうを見た。どの剣奴隷も傷だらけで動けなかった。騎士剣を扱わせればベルンでも右に出るものはいないと言う。毎日模擬戦や、遊女を侍らせての賭博などの遊興に明け暮れていた。植民地の統治などは二の次、いや三の次ぐらいの片手間でしか行っていない。風紀は乱れて当然だった。
「流石でございます、リゲル様。ところで、街の風紀回復の件についてはお考えいただけましたでしょうか。」
「風紀? ふっ、分かりきった事を申すな。アクレイアの風紀が乱れている原因は、スラム街の劣悪種共だろう。劣悪種・・・あぁ、美しい私にはその呼び名すら汚らわしい、ゴミ以下の存在。どうしてあんな醜い種族が現存しているのだろう。・・・お前はそう考えた事はないかね?くっくっく・・・。」
「は、はぁ・・・。」
「そうだ・・・いい事を考え付いた。劣悪種などこのアクレイアから一掃してしまえばよいのではないか・・・。私もその血の宴に出陣する。
出撃は三日後の天馬の刻。それまでに出陣の準備をしておけ。・・・くっくっく・・・。久々に優雅なひと時を過ごせそうだ・・・。」


120: 手強い名無しさん:05/11/04 17:23 ID:E1USl4sQ
「了解いたしました。遠距離砲はいかがいたしましょう。」
「あんなもの必要ない。その代わり弓兵部隊を大量に投入しろ。火矢攻めにしてくれる。
劣悪種の鮮血と業火。二つの赤が、私の美しさをこれ以上ないほどに彩ってくれるだろう・・・くっくっく・・・ふはははははっ。」
そう言うとリゲルは遊女を侍らせ、外に出て行く。
「リゲル様。これから出陣と言う時にどこへ行かれるのですか。作戦は・・・。」
「ちょっとバカラ賭博の様子でも見てくる。ふふふ、あそこの収入が我々の貴重な臨時軍用費なのだ・・・。」

「ふー、やっと着いた・・・。」
セレナががっくりとうな垂れながら言う。アクレイアの城門は豪華絢爛なエトルリア文化をふんだんに取り入れた豪華なつくりで、旅人の心を動かす。
しかし、セレナにとってはやっと宿にありつけると言う思いが強く、それどころではなかった。歩兵の行軍は辛いものである。
「やれやれ、お姉ちゃん、情けないね。」
「あんたはペガサスに乗ってるんだからいいわよね! こっちはもうヘトヘトだよ・・・。」
「よかろう、ではもうすぐ日の入りであるし、宿を探すとするか。」
ナーティが座り込むセレナを引き摺りながら城下町に入っていく。アレンは未だに城門を眺めていた。そんな父親にクラウドが声をかける。
「親父・・・? どうしたんだよ。この門すげー豪華なつくりだな。」
「あぁ・・・しかし、俺が昔来た時より・・・なんか絢爛さに欠けると言うか・・・。きっと管理されていないのだろうな。
昔は所々に宝石も散りばめられていたのだが、ものの見事に外されている。きっと生活に困ったスラムの人々が盗って行ったのだろう。」
「許せねー話だな。大切な文化物に手を出すとは・・・。いや、文化物に手を出さないと生きていけない人々を出す今の統治機構がおかしいんだな。」
クラウドが改めてベルンに敵意を燃やす。だが・・・間違えるなよ。ハーフの支配する前にもそういった困窮者はいた。ハーフだからという理由ではないと言う事を・・・。だが、確かに今のハーフの政治は酷い物がある。何としても現行の総督府を倒し、困窮した人たちにも光を・・・。それが我が主ロイ様の願いだった。ロイ様、見ていてください。このアレン、息子のクラウド共々、ロイ様の志を見事に達成して見せます。
アレンは門から目を離し、紅の夕日に沈むアクレイアの街に消えていった。


121: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/11/04 17:37 ID:E1USl4sQ
うお・・・。やってはいけない過ちを・・・。
>>119の上三行は、>>116の最終行に繋げて読んでください。。
ワードから切り取った時に何かミスを犯したようです。。
秋のアレルギーは辛いよ、ママン。

遅れましたがキャラ紹介です。
リゲル(♂:ロードナイト)
はい、敵将にしてロードナイトです。こんな設定もアリかと・・・。
性格は読んでいただければ分かるように、自己中にしてナルシスト。そして危険なほど野心家。
ナーシェンとは違うのだよ! ナーシェンとは!!
ちなみに元ネタは某格ゲーの四天王・・・。

セレス(♂:賢者)
第二部に入ってから気付いた・・・。セレナと名前が似すぎている!
しかし今更ながらに名前も変える事も出来ず、・・・あ、名前を変えちゃったことにすれば・・・あべしっ。
そう考えると悲劇の公子・・・。
性格は親共々生真面目だった為かきわめて真面目。キツイ言葉もさらっと言えてしまう。
見事なツンデレさを醸し出し(?)ます。 セレナやクラウドとは正反対の性格で、きっと二人を見たら説教せずに入られないでしょう。

122: 第十三章:繁栄の光と闇:05/11/07 16:28 ID:E1USl4sQ
宿に入ったセレナやクラウドは、早速ベッドに飛び込む。繁栄を極めるエトルリアだけあって、宿の設備も質が高い。
「わーい。久々にフカフカのベッドで寝られるぞ! こんな乙女が野宿なんて耐えられないよ。」
「うおー、このベッドふかふかじゃん。すげー。」
二人とも大はしゃぎだ。特にさっきまでへたれこんでいたセレナの元気は何処から沸いてくるのやら。
「こらっ、二人とも見っとも無いぞ! ベッドで飛び跳ねるなって母さんにも散々言われてたじゃない!」
そんな二人をシーナがたしなめる。一体どちらが姉なのやら。
そんな三人を呆れつつも元気で何よりとアレンは笑いながら、休む間もなくアクレイアの地図を広げだした。
「この人数ですし、明日からの作戦は人数を分けてやってみましょうか。」
アクレイアは広い。全員でまとまって動くより、分かれたほうが広域の情報を探せるとアレンは考えたのである。

「名案だな。よかろう。では、私はセレナとシーナで総督府を探る。アクレイアは何度も来ているから土地鑑はある。」
「では、俺とクラウド、そしてアリス様で対抗組織について調べて見ます。」
ベッドの上で跳ね回っていたクラウドだが、父親のその言葉を聞いた途端、はしゃぐのをやめて父親に耳打ちした。
「おい、いいのかよ。セレナ達をあの傭兵に任せちゃってよ。」
「うん? ナーティ殿は我々の大切な仲間だ。我々はエトルリアの地理に疎い。土地鑑のある人が居たほうが、総督府を探るにも都合がいいだろう。」
クラウドはまだナーティを怪しんでいた。親父をはじめ、皆あいつを信用しすぎている。絶対裏に何かある。クラウドはそう思っていた。だが、今は詮索していられない。目の前の問題を一個ずつ片付けていかなければならなかった。

翌朝、早速二班に分かれてアクレイアを探索する事になった。アレン達は情報収集のために、商業地域へ足を運んだ。
そこは、人に溢れ、活気に満ちていた。笑い声、威勢のいい客引き・・・そしてそれに勝るとも劣らない物量。
まさに大陸一と呼ぶに相応しいほどの繁栄振りだ。西方と言う辺境しか知らなかったクラウドは、その人の多さに圧倒され、周りをきょろきょろしている。
「うわー・・・、何この人。すげぇ・・。」
「ははは。そんなに周りをきょろきょろして、おのぼりさん候だな。」
息子の様子に、久々にアレンから笑顔がこぼれた。そういえば自分が騎士としてロイ様に仕え、初めてエトルリアに来た時、息子と同じ事をしていたか。それをランスに嘲笑されていたな・・・。
「それにしても、本当に人が多いですね。それにみんな幸せそう・・・。」
アリスも幼いころはイリアに住んでいたが、物心がはっきりつくころには既に西方に移っていた。イリアもその城下町は人が多かったが、やはりエトルリアには敵わない。
それ以上に、ここの人たちは幸せそうだった。大陸中が闇に包まれているはずなのに。
「ここにいる奴らはみんなハーフみたいだぜ、姉貴。俺と同じエーギルの波長をしてる。」
そうである。この商業地域、言ってしまえばエトルリアの「表の世界」の住人は皆ハーフなのである。ハーフの者達にとっては今の世界は闇どころか光なのかもしれない。
クラウドが早速、情報収集のために武器屋に入り、主人に声をかけてみる。
「なぁ、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
「ん、騎士かい。どう? この槍。綺麗な槍だろ? 銀製の良い槍だよ? どう、買わない?」
「おぉ!これが銀の槍かぁ。すげー、カッコイイな! ・・・って違うだろ。話を聞けよ!」
「ははは、血の気の多い兄さんだね。で、何なんだい?」
「総督府にあだなす反乱軍が居るって聞いたんだが、そいつらってどこにいるんだ?」
「お、兄ちゃんも志願兵なのか。だったら尚更良い武器が必要だな! さ、この槍、お安く14000Gでどう?」
「だーかーら! 俺は槍が欲しいわけじゃないの! 居場所が知りたいんだよ! おまけに足元見やがって! 銀の槍の国定価格は1200だろ。」
「あはは、知ってたか。おのぼりさんっぽかったから買ってくれると思ったが・・・。じゃあ、槍を買ってくれたら教えてやるぜ。」


123: 第十三章:繁栄の光と闇:05/11/07 16:28 ID:E1USl4sQ
「誰がおのぼりさんだ!」
クラウドがそう言った途端。主人とアリスがクラウドを指差した。それに釣られてアレンも息子を指差してしまう。
「お前ら・・・。って親父まで! ちくしょう、覚えてろよ・・・。で、どうする。」
「まだ子の子は見習い騎士なので、銀の槍など持たせてはすぐに折ってしまうだろう。そっちの鉄の槍をいただけるかな、ご主人。」
アレンが主人に声をかけた。だが、その反応はクラウド相手のときと全く違うものだった。
「ん、あんた人間か。人間に売るものはないよ。さっさと帰りな。」
やはり人間相手には厳しいものがある。アレンとアリスはクラウドに槍を買って情報を仕入れるよう耳打ちし、店を出て行く。
「いいか、絶対に熱くなってはいけないぞ。我々の目的をしっかり頭に入れておくんだ。」
「わかってるけど・・・やっぱムカつくな。」
クラウドは再び店主の元へ戻り、槍を購入する代わりに情報を聞き出す。
「へへ、毎度あり。で、ゲリラ勢力の居場所だったか? お兄ちゃんが聞きたいのは。」
「ああ、約束どおり槍を買ったんだ。さっさと教えてくれよ。」
「詳しい居場所は知らねぇけどよ。奴らはきっとスラム街をアジトにしてるぜ。ゲリラ集団は人間族の集団だし、アクレイアで人間族が居るのはスラム街だけだ。」
「そうか・・・。わかった。」
「にしてもリゲル総督もなんで居場所が分かってるのに叩かねぇのかねぇ。自治らしい自治を何もしてくれないから、人間共も好き勝手やりやがるのに。」
クラウドは、好き勝手やっているのはそっちだろとでも言ってやりたかったが、父親に釘を刺されていたために我慢して外に出た。外では二人がハーフに絡まれていた。
「おいおいおい、劣悪種が表を出歩くんじゃねーよ。邪気が移っちまう。」
「騎士か・・・。こいつらゲリラ勢力の人間じゃねーか?」
周りにいたハーフ達が集まりだし、アレンたちを囲んでいた。騒ぎを起こせば総督府に捕まってしまう。二人だけではどうすることも出来ない。
「おい、やめろ。そいつらは俺の傭兵団の連れだ。」
間一髪クラウドが間に入り、騒ぎを鎮圧する。
「やれやれ。クラウド、助かった。ありがとう。」
アレンが安堵したように言う。やはり、周りは全て敵であるといっても過言ではないようだ。気をつけなければ。
「親父が謝る事ねぇよ。 それにしても、やっぱりこの世界はどうかしてるな。リゲルとか言う総督・・・ぶっとばしてやる。」
三人は仕入れた情報を元に、スラム街を目指した。

一方、セレナ達三人も繁華街に出ていた。セレナもシーナも、クラウド同様周りをきょろきょろしている。
「お前達・・・。やめてくれ。田舎者候で見ているこっちが恥ずかしい。」
ナーティが呆れたように二人を見る。二人とも物珍しそうに、商店の商品などにくまなく目をやっている。
「だって、こんなに人や物で溢れている場所に来たのなんて初めてなんだもん。流石に大陸一の繁栄地域だけはあるね。」
「ふっ、上辺だけの繁栄だ・・・。その内部を知れば、そんな事は言えなくなるだろう。」
「ナーティさん、それはどういうこと?」
「それを今から調べるのだろう? 自分の目で見れば如何に酷いか分かる。」
それを聞いてセレナが何かひらめいた様に言った。
「あ、それ知ってる! 飛んで火にいる夏のムシってやつでしょ!」
「・・・。」
「はぁ? また姉ちゃんの間違いウンチクか・・・。」
呆れる二人にセレナは得意げに続けた。
「だから、火の熱さを知る為には、実際飛び込んで見ないと分からないって事でしょ? それと同じで、現状の酷さは体験してみないと分からないってことじゃないの?」
シーナは顔を抑えて笑うのを必死になって押さえている。ナーティは最初か呆れて物も言えないといった顔をしていたが、やっと口を開く。
「・・・ふ。 まぁ、あながち間違ってもいないかもしれないな。」


124: 手強い名無しさん:05/11/07 16:29 ID:E1USl4sQ
「え? ナーティさんそれってどういうこと・・・?」
シーナが不思議がって聞いた。姉のことをまた叱るかと思ったが、ナーティの口から出たのは違うものだったからだ。
「ふ。行けば分かる。」
そう言うと、着いて来いといわんばかりに、ナーティは早足で歩き出した。
着いた先は総督府に近い、なにやら大きな建物。人が多く出入りしている。
「ナーティさん、ここは何?」
「ここはいわゆるカフェだ。飲み物や軽い食事を取りながら一服する為の場所。だが・・・それは真の目的を隠す為のカムフラジュ・・・。」
「あー、そういえばお腹すいてきたな。なぁ、ナーティ。軽く一服していこうよ!」
セレナの一言にシーナがまた怒る。セレナはまた妹が怖い顔をするので取り繕おうと必死である。シーナもナーティが姉を叱ってくれるだろうと思っていたが、そうはならなかった。
「そうだな・・・。じゃあ、ケーキでも食べながら一服するか。ここのケーキはおいしいぞ。」
「ちょっと、ナーティさん。いいの? 私達は総督府を調べなきゃいけないのに、そんな油売ってて。」
「腹が減っては戦は出来ぬ、だろう? それに・・・まんざら寄り道と言うわけでもない・・・。」
「え・・・。ナーティさんがそう言うなら私も何も言わないよ。・・・姉ちゃんうるさい!」
「わーい、ケーキだケーキ。」
三人はカフェの中に入っていった。中はやはり人が多い。
三人は奥のほうに座り、コーヒーとケーキでくつろぐ。
「うは、このケーキサイコー。」
セレナが嬉しそうにケーキをほおばる。西方でもこんな焼き菓子はめったに食べた事はなかった。
「お前は食べる時は本当に幸せそうな顔をする奴だな。」
このときばかりは、ナーティも何時もの厳しい顔つきは消え、笑ってしまった。
「でも、こんな風にくつろいでて良いのかな。 お父さん達はきっと今頃必死に情報を探してるのに。」
「大丈夫だ。もう少しすればわかる・・・。」
ナーティがもったいぶって教えてくれない事が、シーナをよけに不安にさせた。この人って凄腕だけど何考えているか分からない時があるのが怖い。・・・姉ちゃんと同じで。
しばらくすると、たくさんの女性親衛隊に囲まれ、煌びやかな軍服をまとった長身の男がカフェの中を通っていった。
「うわー。今の男の人かっこよかったね。ナーティも見とれてるところを見ると・・・タイプなの?ねぇねぇ。」
「あれが・・・このエトルリアを支配する総督府のリーダー。リゲルだ。」
流石にセレナも驚いた。自分達が倒すべき相手が今真横を通って行ったのである。
「うそっ!? でも・・・街中で騒ぎを起こすわけにも行かないし・・・ねぇ、後を追いかけようよ。」
「お前にしては妥当な判断だな。よし、そうすることにしようか。」
ナーティが歩き出す。シーナもそれに続く。セレナはシーナやナーティの食べ残したケーキを口に目一杯つめてその後を追った。
一方リゲルはそのままカフェを素通りし、奥にある扉を抜けていった。一行もそれを追って中に入る。そこはカフェとはまるで雰囲気の違う場所であった。
「うわ、何、ここ。」
シーナが思わず声を上げる。カフェの明るい雰囲気とは正反対に、光を嫌うような暗い雰囲気だ。
「ここは賭博場だ。リゲルは無類のギャンブル好きでな。だが・・・賭博場の本当の狙いはそれではない。」
「ふごふご、ほれ、ごーしゅーほと??」
後ろからやっと追いついてきたセレナが話しかける。口はまだケーキで一杯のようで何を喋っているのか分からない。
「姉ちゃん・・・卑しすぎ。」
「お前というヤツは・・・早く口の周りを拭け! クリームだらけで見っとも無い。」
セレナが口の周りを拭き終わったのを見届けると、ナーティは言った。
「お前達の持ち金全てを私にかけろ。今からリゲルと勝負してくる。」
その言葉に双子は驚いた。
「持ち金全部賭けちゃったら、もし負けたときどうするのさ?!」
「そうだよ。せめて半分は残しておかないと・・・。」
「大丈夫だ。私を信じろ。」
いつも冷静沈着なナーティが言うんだから大丈夫か。そう思い、二人は全額をナーティに賭けた。


125: 手強い名無しさん:05/11/07 16:29 ID:E1USl4sQ
「貴公子殿、次はこの私がお相手いたしましょう。」
ナーティはそう言いながらリゲルに向かって貴族風の挨拶をして見せた。こんなことまで勉強しないといけないのか。セレナはそう思っていた。
「ほう・・・貴様、傭兵風情の割には礼儀を心得ているようだな。面白い、たっぷり可愛がってやろう。くっくっく・・・。」
二人は数人の女性親衛隊と共にバカラ賭博を始めた。セレナ達はルールも分からないのでナーティがかっているのか負けているのか全く分からなかった。
数分後、リゲルはニヤッと不気味な笑顔を見せ、後ろのほうにいたガタイのいい男共に目で合図した。
「ふふふ・・・また私の勝ちか。美しい私には勝利が似合う・・・はっはっは。おい、お前達、後の事は任せた。私は総督府に戻る。」
リゲルは高笑いしながら金色のマントを翻しながら颯爽と去っていった。暫くしてナーティが戻ってきた。
「なぁなぁ、あんた負けちゃったのかよ、どうするんだ。」
「すまない。私としたことが・・・。」
そう言いあっていると先ほどのガタイのいい男達が寄ってきた。
「さて、お前達はここの賭博場に借金が出来ちまったわけだな。さ、追加分の10000Gを払ってもらおうか?」
なんとナーティは、双子の賭け分だけではなく、更に借金をして賭博を行っていたのである。
「そんなお金もうないよ! ナーティ、どうするのさ!」
「すまない・・・。」
そんな様子を見て、男達が笑いながら言った。
「金がないのかぁ・・・だったらその分稼いで貰おうかね!」
男達はセレナ達をつかむと、賭博場の奥から暗い地下道へと連れて行く。そしてその地下通路の先は、何と牢獄だった。三人は牢獄に投じられてしまった。
「おい! 出せよ!」
「暫くしたら出してもらえるぜ。十分リゲル様のために奉仕するんだな。がはは。」
男達はそう言いながらまた地下道に入っていった。どうやら賭けに負けた人間はここに送られる仕組みらしい。
「ねぇ、これって姉ちゃんが言ってたみたいじゃない・・・。飛んで火に入る夏の虫・・・。」
「な? だから言っただろ? あたしの言う事は正しいのだ。」
セレナが得意げ言う。シーナはそんなのんきな姉に怒鳴りつつ、心配そうにナーティに尋ねる。
「何喜んでるのよ! ・・・どうするの、ナーティさん。」
「ふう・・・。演技も疲れるものだな。」
ナーティがやれやれと言った様な素振りを見せながら、牢に投じられた時についたホコリを落としている。
「演技って・・・。 まさか、ナーティさん、わざと負けたの?」
「ああ。これで・・・自由に総督府の中を調べる事ができる。」
「自由? 何言ってんだよ。あたしたち囚われの身じゃないか。」
「ここは・・・総督府の中だ。こうして賭けに負けたものに強制労働をさせるのだ。賭博場での収入に加え、こうして労働力も確保しているというわけだ。」
「なるほど・・・。でも、そんなにうまく行くのかな。」
シーナはやはり慎重だ。確かに囚われの身で総督府の中を自由に歩き回る事などできるものなのだろうか。
「大丈夫だ。リゲルのことだ、女には心を許す傾向がある。うまく事を運べば相手の隙をつくことも容易だ。今回は情報を収集する事だけに集中するのだ。
この少人数だし、リゲルを倒そうとは思ってはいけない。わかった、特にセレナ。」
「何であたしを名指しで言うのさ! 全く信用されてないんだから。」
セレナがまた膨れ面をしてみせる。ナーティにはそれがたまらなく可愛く見えるようだ。
暫くすると、先ほどの男達とは違い、正装をした総督兵が牢の扉を開けた。
「お前達、外に出ろ。リゲル様がお呼びだ。」
そういって総督兵たちがセレナ達を連行する。中は意外と警戒感が無い様で、兵も疎らだ。
「セレナ、シーナ。中のつくりを良く覚えておけ。後で再び侵入した時に迷わない為にな。」


126: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/11/09 00:49 ID:gAExt6/c
こんばんわ。どうも横書きでは読みにくいと言う人は
ttp://nagumo-hij.hp.infoseek.co.jp/novel/mado/mado.html

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今日はそれだけです。。

127: 手強い名無しさん:05/11/11 15:01 ID:E1USl4sQ
三人はひときわ豪華で大きな扉の前まで連れてこられた。
「さぁ、この中にリゲル様はいらっしゃる。しっかり働いて来いよ!」
総督兵がそのまま三人を部屋に押し込む。中には無数の女達と賭博場で見たあの長身の男・・・リゲルが居た。
「リゲル様、先ほどの者どもを連れてまいりました。」
リゲルは周りにまとわりつく女どもから目を放し、セレナ達のほうを見た。
「ご苦労・・・。くっくっく・・・また私のコレクションが増えそうだな。三人とも美しいではないか・・・。」
リゲルはそう言いながらセレナ達に近づき、まじまじと顔を見る。
「な、なんだよ。」
「おう・・・威勢のいい少女だ。劣悪種でなければ・・・私のコレクションでも5本の指に入るところだったのにな。実に惜しい・・・ふっふっふっ。」
そういうとリゲルは、セレナとナーティを部下に命じて部屋から外に出す。その間に、リゲルはシーナの顔に手を伸ばした。
「優良種でありなおかつ美しい・・・。お前は私のコレクションに相応しい!」
その手を払いのけようとするシーナに、すれ違いざまにナーティが耳打ちした。
「いいか、どんな事があってもリゲルを怒らせるな。我々は情報を収集する為に潜入しているのだ。・・・シーナ、お前なら大丈夫だ。がんばってくれ。」
立ち止まるナーティに総督兵が鞭を打ちながら部屋の外に出す。シーナは自分ひとりだけ離されて、リゲルの元に残された事に不安を感じたが、同時に自分に課せられた任務をどうにかうまく遂行しようと考えた。

外に出された二人に、総督兵が何かを持って寄ってきた。
「おい、これに着替えろ。リゲル様の命令だ。それを着てそこら辺を掃除でもしてろ。」
渡されたのは侍女服と雑巾だった。
「げぇ・・・何だよこの服。 あの男、気持ち悪いし趣味も悪いのかよ・・・。」
「腰元か・・・。私の趣味には合わぬ服装だが・・・今回ばかりは止むを得まい。」
仕方なく着替える二人。それを見届けると総督兵たちは去っていった。 一体自分達は何をしにここに来ているのかわからなくなりそうだった。
「シーナ、大丈夫かなぁ・・・。 あいつって意外と気が小さいんだよね。」
「大丈夫だろう。リゲルも気に入っていたようだし。・・・さて、これである程度は自由に館内で身動きが取れるな。奇襲に使えそうな出入り口や、館内のつくりを今のうちに覚えるぞ。」
「うん、こんなところさっさとおさらばしたいしね。」
二人は掃除をする振りをしながら、館のあちこちを探索して回ることにした。

一方、アレン達はアクレイアでもスラブ街と呼ばれる貧困層、つまり人間族が集まる地域に来ていた。先ほどの商業地域とは違いひっそりとしている。
それに下水やゴミ処理施設が整備されていないのか、悪臭が漂っていた。まさに繁栄世界の裏の闇を浮き彫りにしている。
住民達は襤褸切れを羽織り、芋つるを煮て食事を取っていた。しかしその水も何処で汲んできたものだろうか、結構濁っている。衛生状況は最悪だ。
「ここは・・・酷いな。 さっきの場所とえらい違いじゃないか。」
クラウドは目の前の現実に驚きながら、そんな言葉を漏らした。もはやそれしか言う事のできない悲惨な状況だ・・・。
「ああ・・・。俺が昔来たときにも貧困街はあったが、こんなに酷くはなかった。国もある程度貧困者を援助しているようだったし・・・。今のここは・・・まさに地獄を具体化したような場所だ・・・。」
アレンも変わり果ててしまったエトルリアにただ驚くしかなかった。あのころも貧民街は酷いところだと思ったが、そんなレベルとはワケが違った。
「酷い・・・。イリアも・・・こんな事になっているのでしょうか・・・。」
惨状を目の当たりにし、アリスは祖国を考えてしまった。祖国も統治体制が崩壊しているはず。そうなれば弱者救済、ことのほか人間族への救済は皆無のはず・・・。更にイリアはその一年の大半が雪と氷に閉ざされる極寒の国。冬にここのような生活をしていたら・・・。
「わかりません。しかし、エトルリアを救った後、すぐにでもイリアへ向かいましょう! まずは目の前の問題を解決しましょう。」
アレンに励まされ、下を向いていたアリスが前を向く。俯いてはいられない。
しかし、一行は別の不可思議な現象に気づく。・・・女性の姿が見当たらない。何処を見ても男と子供だけしか居ないのである。
不思議に思った一行は、人だかりが出来ているのを見つけ、その真ん中に居る若者に聞く事にした。
「青年、ちょっとお尋ねしたい。」
アレンがその青年に話しかける。青年は少し警戒したのか、一歩距離を置いた。


128: 手強い名無しさん:05/11/11 15:02 ID:E1USl4sQ
「なんでしょうか?」
「何故ここには女性が居ないのですか? 先ほどから全く見かけないのですが。」
その青年はアレンたちを総督兵だと思ったらしい。旅の者と分かった途端、接し方も、回りの視線も変わった。
「女性達は・・・皆リゲルという総督のところに身を売りに言っているのです・・・。 貧困層の人たちは今日食べるパンにも困っているのです。それで仕方なく・・・酷い事です。」
リゲルは女性であれば、人間といっても寛大だった。だから女性達は僅かな現金を得る為に、リゲルの元に身を売りに行っていたのである。リゲルの周りにいた無数の女性の多くは、スラムの女性達だったのだ。
「何ということだ・・・。 しかも、風紀を向上すべき統治者自らがそんなことをしているとは・・・。」
アレンはただ驚くしかなかった。そしてそれと同時に怒りもこみ上げてきた。
「ひでぇヤツだな。そのリゲルってヤツは。 あーっ 余計にぶっ飛ばしたくなってきたぜ!」
「ええ、全くです。ただ、全てを力で解決しようとするのはいただけませんが。」
その青年は熱くなるクラウドを鼻で軽くあしらった。
「なんだよ、お前。むかつくヤツだな。」
「ムカついていただいて結構です。僕達はできるだけ争いによって犠牲が出ないように総督府を倒そうとしているのです。」
「くーっ! ムカツク!」
頭から湯気が出そうなほど熱くなっているクラウドをアリスがなだめながら聞いた。
「え、じゃあ、ベルンに対抗してる秘密組織って言うのは・・・。」
「そうです、僕達の事です。」
それを聞いてアリスは泣きつくクラウドを放り出して更にお願いした。
「お願いです。リーダーのパーシバルという方に会わせてください!」
アリスたちが事情を話すと、青年は快く了承してくれた。
「そうですか、それは僕達にとっても朗報です。さ、リーダーはこの奥におられます。」
一行は青年に案内され、スラム街の一番奥の家についた。中からは黒い煙が上がっている。
「こちらです・・・って! わぁ、またララムさんがなんか作ってるな!」
青年は家の中に走りこんでいった。一行もそれを追う。ララム・・・聞いた覚えがあるな・・・。確かダグラス様の養女様だったか・・・。その方もおられるのか。アレンはそう思いながら家の中に入った。
「遅かったな、セレス。」
「パーシバル様! どうしてララムさんに料理をさせるんです!」
「私は関与していない・・・。パント様が怖いもの見たさに作らせているんだろう・・・。」
その二人の会話を聞いて、アリスはびっくりした。アトス様が仰っていた、パント様の孫・・・セレスが今目の前に居たのである。
「貴方がセレスなのね! あぁ、神に感謝します。」
一行はパーシバルとセレスに事の全てを話した。最初は信じられないと言う様な顔をしていたが、暫くしてパーシバルが口を開いた。
「そうか・・・ロイ様の姫様達が・・・。姫がおられるということは結局あの後二人は結ばれたわけか。今頃天国で仲良くしているだろう・・・。」
「いえ・・・。お二人は、あの戦争が終ったら一緒になろうと約束しておられたようです。それが・・・あんなことになって。結局お二人は結ばれる事もないまま・・・。」
アレンが泣き出しそうになりながら語った。ベルンを後もう一歩というところまで・・・幸せをつかむまであと一歩というところまで迫っていた二人を襲った悲劇。それを救えなかった自分・・・。そう思うとアレンには今でもたまらなく辛かった。
「・・・。しかし、その姫様方ががんばっておられるなら、この大陸もきっと救われるだろう。我々も、貴殿らのお役に立ちたい。」
「感謝いたします。我々で力を合わせ、エトルリアにかつての栄光を取り戻しましょう!」
アレンとパーシバルはがっちりと握手した。パーシバルはこのとき、待っていた時が来た。この時を逃せば、二度はないと自分に言い聞かせていた。その様子を見てパントはいつもどおり穏やかな顔をしていた。
「アトス様・・・。炎の天使の使いが来ました・・・。時は満ちました。今こそ我々は立ち上がります。どうか見守っていてください。」
クラウドとアリスは、奥へ走っていったセレスを追って扉を開けた。するとその途端真っ黒な煙がもうもうと立ち込めた。
「うわっ、なんだ?!」
「おい、閉めろ! 何であけるんだ! ララムさん! もう止めてくださいってば! 普通の料理はこんなに煙は出ませんよ!」


129: 手強い名無しさん:05/11/11 15:03 ID:E1USl4sQ
暫くしてセレスが部屋から出てきた。顔は煤だらけである。
「ははは、お前何だよその顔!」
クラウドがセレスの真っ黒になった顔を見て笑い出す。セレスは怒ったように反論する。
「人の顔を見て笑い出すとは失礼な人ですね。先ほどから荒い人だと思っていましたが、やはり野蛮人でしたか。」
「なっ、何だとこのやろう! くそぅ、さっきから俺の事バカにしやがって! 何処が野蛮なんだよ!」
「全部です。」
「何をぅ!? 姉貴、何とか言ってやってくれよ!」
クラウドがアリスに助け舟を求める。
「セレスさん。無理を承知でお願いがあるのだけれど、フォルブレイズの書を・・・。」
「先ほども言いましたが、これは私がアトス様から直々に継承を許されたものなのです。まだ僕は貴女達を認めたわけではありませんから。」
そういうと外に出て行ってしまった。確かに従兄妹は見当たらないし、いくら盟友といっても出会ったばかりに人間に、はいそうですかと渡せるほどの物ではない。アリスは何とかあの子に信用してもらわなければと思っていた。
「かー、なんだよ。あの石頭! すかした喋り方しやがって! まるでどこかの女傭兵みたいだ!」
クラウドはまだ興奮が収まっていなかった。そこへパントが寄ってきた
「お若いの、どうもうちの孫が悪いね。あの子は不器用なところがあってね、ああ見えてもきっと君のことを親友だと思ったんじゃないかな。知り合い以外には気を許さない子だから。まぁ、仲良くしてやってよ。」
そういわれてやっと興奮の収まるクラウド。親友かぁ・・・西方では同年代の男の親友は少なかったからなぁ・・・。そう思いながら、クラウドは父親の元へ戻った。

そのころセレナは、家政婦姿で怪しまれない事を良い事に、屋敷内を徘徊していた。
「うわー、これすげー。ねぇねぇ、ナーティ。この像全部金で出来てるよ!」
駆け寄って金製と思われる像を触ったり、それに顔を映したりしてみる。
「やれやれ・・・。好奇心旺盛なのはいいがもう少しわきまえてくれよ。私達がここに居る目的を思い出せ。」
ナーティはセレナの首根っこを引っ張って像から降ろす。しかし、あまり威圧感はない。何時も格好ではないからだ。傭兵の服に細い騎士剣・・・ではなく、侍女服にホウキだ。どうも笑えてしまう。
「ぷぷっ。」
セレナは今までは我慢していたが、とうとう堪えられずに声が漏れてしまった。
「なんだ、いきなり。」
「だってさ、ナーティのその格好・・・。意外と似合ってて・・・あははっ。」
「う、うるさい! 私とて趣味で着ているわけではないのだ。言ってくれるな・・・。」
そうやって話を弾ませていると、向こうから怒鳴り声が聞こえた。
「おい! 劣悪種共! しっかり働け! さもないとお前らの連れがどうなっても知らないぞ!」
そうだった。シーナは半人質状態なのだ。行動を慎まないと・・・。ナーティはセレナを連れ、そのまま館の中のつくりや情報を仕入れようと再び動き出した。暫く歩いていくと、城の外に出られる場所を発見した。そこにはずらっと大きな機器が並んでいる。
「うわー・・・これはなんだ・・・?」
「それはアーチ発射台だ。噂には聞いていたが・・・これほどまでに並んでいると壮観だな。」
「アーチ台?」
「そうだ。遠くの敵に対して攻撃の出来る投擲台だ。お前には大きい弓といったほうが分かりやすいだろう。」
「なるほど・・・。」
「外から攻めてくる者はこのアーチの一斉掃射で一気に壊滅へと追い込まれ、そこへ歩兵が突撃されて息の根を止められるのだ。」
「ふーん・・・。だから容易には攻撃を仕掛けられなかったんだね。」
「そうだ。だから中に侵入する経路を予め探しておく必要があったのだ。・・・よし、他の場所も探してみるぞ。」

そんな日が三日ぐらい続いた。今日もセレナ達は雑用、シーナはリゲルの相手である。
リゲルはシーナを気に入ったようで、ずっと傍に置いて放さなかった。いわゆる「コレクション」の仲間入りを果たしたようである。
「くっくっく・・・。お前ほどの美形はそうそうはおらぬ。まだ幼さも残す容姿、雪のように白い肌、そして細く美しい肢体・・・フッフッフッ、私の求めていた美しさをお前は持っている・・・。」


130: 手強い名無しさん:05/11/11 15:04 ID:E1USl4sQ
リゲルがシーナの顔を手で撫でながら言う。シーナは心の中では逃げ出したい気分だったが、何とか情報を手に入れようと抵抗しなかった。
それに・・・周りの女性達から聞いた。この女性達は生計を立てるために嫌な思いをしながらリゲルにつかえているのである。それに比べれば・・・。
「私もリゲル様は最高にお美しいと思います。」
「くっくっくっ、そうだろう。我々は優良種の中でも特に美しいのだ・・・。お前と一緒に来た連中も、表面は美しいが、中に流れる血は劣悪種のもの。内も外も綺麗でなければ美しいとは言わんのだよ。」
「そうですね・・・。」
「ところで、お前は劣悪種をどう思う?」
姉達の事を汚く言うのは本当に心が痛む。・・・しかし、ここでホンネを言ってしまっては今までの苦労が台無しだし、周りの女性達を救うことも出来ない。
「醜くて・・・野蛮で・・・邪魔な存在だと思います。」
「そうだろう、そうだろう。ふふふ・・・お前は姿形だけでなく、考え方も美しいようだ。そうだ、今日の天馬の刻、私は劣悪種を一掃する為、スラムを襲撃する。お前も一緒に見物に来ないか?」
「えっ!?襲撃?!」
「そうだ。アクレイアの風紀が乱れているのは、醜くて野蛮で邪魔な劣悪種のせいだと私は考えた。だから、このアクレイアから根絶やしにすれば、アクレイアはもっと住みよくなる。」
「そうですね! 私もお供させてください!」
「くっくっく・・・お前ならそう言うと思っていたよ。じゃあ、私の美しいコレクションたち、私はその作戦を練るから、今日の宴はお開きとしようか。」
リゲルはソファーから立ち上がると、マントを翻し、隣の作戦室に入っていった。
その夜、牢獄に戻ったシーナはセレナ達に牢獄越しに先ほどリゲルが言っていた事を伝える。セレナ達の牢獄に方には、他の人間の女性も多く囚われていた。・・・スラム街の女性達である。女性達はセレナ達の正体を知っていたから、口々にセレナ達に救いを求める。セレナもこれ以上この人たちの泣き顔は見たくなかった。牢獄に囚われてから三日経つが、牢獄に戻ってくる女性達は皆泣き崩れていた。シーナも泣くまいと堪えていても、姉の顔を見るとやはり泣き出してしまう。セレナは妹を泣かせるリゲルが許せなかった。
「なぁ、ナーティ、情報もある程度収集したし、そろそろ親父たちと合流して一気にリゲルを倒そうよ。」
「そうだな・・・。アレン殿たちはきっとスラムへ出向いているはず。リゲルに狙われる前に対抗組織とコンタクトが取れていればよいが・・・。」
「姉ちゃん、悩んでる暇はないよ。急いで脱出してリゲルの蛮行を止めないと!」
三人の意志は同じだった。一刻も早く脱出して、アレンや対抗組織と合流する。そして総督府を倒す。しかし、その意志を、目の前の鉄格子が阻む。
「くそぅ・・・こいつをどうにかしないと・・・。」
「セレナ、お前のあの必殺魔法、あれと私の魔法で一気に鉄格子を吹き飛ばす。少々手荒だが致し方ない。鉄格子を破ったら一気に地下通路まで走れ。」
「わかった。」
二人は鉄格子めがけて気を集中し、大気中のエーギルを集める。巡回していた総督兵がそのエーギルの異常な流れに気付き寄ってきた。
「おい、お前達何をやっている!」
その総督兵を巻き込んで、二人は溜め込んだエーギルを一気に魔法として放出した。
「ホーリーランス!」
光の槍が無数に二人から放たれる。その槍は一気に鉄格子を突き破り、寄ってきたベルン塀を壁にたたきつけた。砂煙が上がり、視界が開けたときに壁を見ると大きな穴が開いていた。
「よし、総督兵が駆けつける前に一気に脱出するぞ。他の者達はここに残っていてくれ。必ず助けに戻ってくる!」
三人は電光石火の勢いでもと来た地下通路を通り、賭博場からカフェを抜けて一気に外に飛び出した。そして夜の光と闇に紛れてわからなくなった。

同刻、アレン達は着々と反乱の為の準備をしていた。武器に消費物資に・・・色々大変だ。戦は補給が絶たれては勝てない。
だから今のうちに用意する。更に総督府に気付かれないようにする必要もあった。念の入れように過剰という言葉はない。
「ん? パーシバル殿、この剣は・・・?」
「ああ、その剣はドラゴンキラーだ。相手がベルンということもあるし、18年前のように改造竜石を総督府が所有しているという事も考えられる。アレン殿も一本は携帯しておくといい。」


131: 第十四章:歪んだ正義:05/11/11 15:08 ID:E1USl4sQ
そうだ・・・。18年前、エトルリア軍を半壊に追い込んだあの改造竜石。もしあれを使われたら厳しい戦いとなる。いや、街中で使われようものならハーフの者達にだって命の危険が迫る。特効剣で一気に切り崩す事以外に解決法はない。
こんな準備の間にも、アリスはなんとかセレスに心を開いてもらおうと必死だった。
「やっぱりセレスは魔道師なのね。私も光魔法の練習をしているのだけど、なかなかうまくいかなくて。」
「ええ、僕の祖父は伝説の八神将の一人、大賢者アトス様の唯一の弟子でしたから。僕もその祖父を師と仰ぎ、基本的なことから学んできました。」
「そうね、貴方のお爺様はかつて魔道軍将をお勤めになられたほどらしいですしね。」
「はい。そして僕も、とうとう理の神将器を扱う事をアトス様から許されたのです。アリス様はプリーストなのですから、攻撃より味方の援護に徹したほうがよいのでは? 僕も癒しの杖の研究をしていますが、思うように出来なくて・・・。」
そこへクラウドが話しに入ってくる。
「へぇ、お前も杖が使えるのかよ。なぁなぁ、俺さっき怪我しちゃったから使って見せてくれよ!」
セレスにクラウドが腕を見せる。先ほど武具を移動させる際に擦り傷を作ったようで、赤くなっていた。セレスはそれを手ではたいた。
「いってー! 何しやがるこのやろう!」
「まったく、杖も無限に使えるわけじゃないんです。騎士ともあろう人間がそんな擦り傷で騒がないでください。」
「いちいちむかつくヤツだな。・・・ははーん、お前、本当は使えないんだろ?」
「な、何を言うんです。僕は破壊も癒しも扱う賢者なのですよ? 仕方ない、見ててください。」
セレスが自信満々にクラウドの腕にライブの杖をかざす。そして、気を集中し、その気を杖に送った。その瞬間だった。
「!? うぎゃっ。」
クラウドが悲鳴を上げて倒れこんでしまった。・・・どうやら失敗したようだ。
「何!? こんなはずは・・・。」
「いってぇ! 何だよ、やっぱお前使えないんじゃん!」
それにしてもこの二人、面白いように性格が正反対だ。アリスは二人の会話を聞いていると、まるでコンとでも見ているかのような感覚に襲われた。そんな騒ぐ二人の元にパントが寄ってきた。
「やれやれ、セレス。世の中にはお前より腕の立つ魔道師などいくらでも居る。余計な自信は捨てること。自信を持つことは悪くないが、過剰な自信を自信とは言わぬ。それは驕り、慢心というのだ。」
「はい・・・。申し訳ありません。」
「魔法を破壊に使うも、癒しに使うも、それは使い手次第。両立できてこその魔法だ。お前は破壊魔法は一級品だが、癒しはまだまだ素人。精進しなきゃいかんよ。」
「はい。クラウド・・・その・・・すまなかった。」
「へへっ、いいってことよ。それよりさぁ、フォルブレイズって見てみてぇなぁ! なぁなぁ、見せてくれよ!」
「ダメです。これは見世物じゃないんです。まったく、謝ったのがバカらしくなってくる・・・。」
「何だよ、ちぇ、連れないヤツ。」
そんな会話をしていると、なにやら突然あわただしくなってきた。向こうでは爆発するような音もする。一体何が起きたというのか。その方向に向かうと、血まみれの男が寄ってきた。
「皆さん、一体どうしたんです!?」
「ああ、セレス様、大変です! 総督府の奴らがここに攻めてきてやがる!」
「な、なんだって・・・?!」
まだ準備も万端でなく、皆調達などに出かけている為戦力も整っていない。総督兵たちが好き勝手に暴れている。そこにパーシバルが走ってくる。
「セレス、住民を奥に避難させろ。この状態で戦っても勝ち目はない。一旦退くのだ。」
後退する事は悔しかったが、今出て行って犬死しては元も子もない。かつて大国の軍の頂点に居たパーシバルにとっても、後退という選択は身を切る思いだった。
「撃て撃て! 全てを紅に染めつくすのだ! がははっ。」
リゲルは配下に命じて火矢をスラム街に撃ち続けた。簡素なつくりの家々は瞬く間に火に包まれる。逃げ惑う人々。
「くっくっく・・・このアクレイアに醜悪な存在は必要ない・・・。今日この場で全てを焼き払い、アクレイアに平和をもたらす。」
レイピアを鞘から抜き、逃げ惑う人々に向かって馬を走らせていく。その目は狂気に満ちている。しかも、その心に罪悪感はない。これこそが正義と思い込んでいるのだ。



132: 手強い名無しさん:05/11/11 15:08 ID:E1USl4sQ
「はっはっは・・・。何処まで逃げるつもりだね! 今日の私は何時もと違って紳士的ではないのだよ・・・私のコレクションが逃げ出してしまったからね・・・。」
とうとう追いつき、逃げている人の背中にレイピアの鋭い突きをお見舞いする。半裸同然のスラムの人々は為すすべなく倒された。スラム街は血の赤と、火の紅で真っ赤に染まった。繁栄を誇るエトルリア内での流血・・・しかもそれが統治者による住民への攻撃・・・あってはならないことだった。
「はっはっは・・・美しい・・・。この鮮血と業火の赤が、私の勝利を美しく飾る・・・。劣悪で醜いものは地獄に落ちるのだ!」

攻撃は1時間足らずで終った。リゲル達が去った後には、おびただしい血の海と、真っ黒になった町並みが、赤く怨恨の炎をくすぶらせるという、同じエトルリア内とは思えない惨状が残った。
「くそっ、遅かったか!」
その瓦礫の山に、ようやくセレナ達が到着した。総督府から脱出してスラム街を目指したが、アクレイアの中央から一番隅まで歩くには時間がかかりすぎた。火の手が上がったのを見て急いだが、手遅れだった。
「酷い・・・。これみんな、総督府の・・・リゲルの仕業だよね。」
シーナも許せなかった。これが、心の美しいもののすることか、「優良な」種族のやる仕業か。シーナのリゲルに対する怒りは頂点に達していた。
「・・・悔やんでも仕方あるまい。皆が生き残っているか探すしかない。」
三人は瓦礫の山と化した街を歩く。暫くすると人影が見えてきた。どうやら生存者が居るようだ。
「ちくしょう! 俺たちは見てるだけで結局何も出来ないのかよ! 俺たちは何の為に西方を出てエトルリアまで来たんだ! ・・・ちくしょう!」
「クラウド、落ち着いてください。あの状態で戦っても勝ち目はありません。相手は準備万端なのですから。・・・街は失いましたが、殆どの者はうまく逃げ切ったようです。」
「でもよう・・! なぁ、パーシバル将軍、あんたもこのまま手をこまねいて見てるってワケじゃないんだろ?!」
「勿論だ・・・。この借りは必ずや返す・・・!」
アレンは熱くなる息子を押さえながらふと総督府側を見た。すると、なにやら人影が見える。思わず剣に手が行くが、次第にその輪郭が明らかになってくると、アレンは安どの表情を浮かべた。
「セレナ、シーナ、無事だったか!」
「親父! これは一体どう言う事!? ここは街なんでしょ?!」
アレンはセレナ達と互いの情報を交換し合った。そして、反撃を開始する事に決めた。
「そうか・・・姫様方があのロイ様の・・・。」
パーシバルがセレナ達に寄ってきて顔を見る。・・・似ている・・・。顔つきも、後姿も、物事を真っ直ぐ見る眼差しも・・・。
「あなたがパーシバル様?」
「いかにも。これから我々は総督府を倒す為に攻撃を仕掛ける・・・そのお力是非お貸し願いたい。」
「もちろん! あたし達だってもうこれ以上あの総督を許しておけないし、ねぇ、みんな!」
セレナが仲間のほうを見る。皆既に覚悟を決めているようだ。
「おう! リゲルとか言う野郎! ぶっとばしてやる。 なぁ!セレス!?」
「今回ばかりは君と意見が同じようですね。僕もリゲルは許して置けません。」
皆士気は最高潮だ。中央で虐げられ、隅で何とか暮らしていたがそれすら否定され、帰るところも失った。もはやこの上状況を打開する為には総督府を倒すしかない。全てを力で解決するのはあまり好ましい事ではない。しかし、もはやこれしかなかった。
「我々も・・・貴方達に協力します! 私達も・・・ここの住人ですから・・・。」
そこに現れたのは・・・このエーギルの波動は・・・なんとハーフだ。セレナ達は最初は驚いたが、すぐにここの住人である事に気づいた。
結構な人数が居るのである。それは商売に失敗したり、リゲルに捨てられた女性なども含まれていた。
「私達ハーフを・・・人間達を蔑視するハーフを、ここの人たちは受けて入れてくれました。」
「あぁ、俺たちは考え間違いをしていたんだ。今のベルンの思想は間違ってる。同族として恥ずかしいよ・・・。」
「皆思想統制されてるんだ。俺も子供のころから人間は劣悪だと教えれてきた。だが・・・それが間違っている事にようやく気付いた。中に流れてる血なんて関係ない。問題なのは劣悪な心なのだと。」
セレナ達はハーフの中にも現状が間違っていると思っているものが他にも居る事に勇気付けられた。そして、いつかはこの考えが世界に浸透するように願った。そのためにも、自分達は前進あるのみだ。
「ありがとう! よぉーし、一気に進撃してエトルリアに光を取り戻そう!」


133: 手強い名無しさん:05/11/11 15:09 ID:E1USl4sQ
セレナが皆に掛け声をかける。皆は声を張り上げ、最高潮の士気を更に高めあった。進軍の作戦を練る為に一時解散する。その時セレナはセレスに話しかけた。
「よっ、従兄妹!」
「ふむ・・・君がセレナか。元気な子だな。よろしく。」
そこへシーナとナーティも寄ってくる。
「セレスさん、私はセレナの妹のシーナです。よろしくお願いします。」
「よろしく。・・こっちの方はお淑やかだね。」
それを聞いた途端、セレナが怒る。その様子を見てセレスもナーティも笑ってしまった。
「ふっ・・・。私はナーティという傭兵だ。以後お見知りおきを。貴方がティト殿のご子息か・・・。」
「こちらこそよろしく。僕の母上の名は確かにティトですが、貴女は私の母上をご存知なのですか?」
「いや、『疾風の天馬騎士』と謳われた傭兵の鏡だからな。 私の尊敬する人物だ。」
「母上の事をそう言って貰えると光栄です。さ、皆さんも早く奥へ。パーシバル様がお待ちです。」
皆で作戦を練ることになった。しかし、作戦も何も、選択肢は一つしかなかった。街中での本戦を避けて、深夜に総督府へ少数で潜入し、一気に潰す。これしかなかった。その侵入が勘付かれないようにする為にも、街中で騒ぎを起こす必要があった。
そこで、対抗組織の人間がまず街中で反乱を起こし、注意がそっちに向かっている間に、セレナ達が一気に総督府を制圧してしまうという作戦に出ることになった。
しかし、やはり問題はリゲルだった。性格が狂気的な上に、ロードナイトと言うクラスに就いているということはかなりの腕前という事だ。歩兵は分が悪い・・・がこの戦いをものにしなければ、エトルリアは・・・いや世界は終る。セレナ達のとってこの宵が、まず訪れた峠だった。

深夜でも商業地域には静寂という言葉は存在しない。いつでも活気に溢れ、騒がしい。しかし、今日の夜は何か違った。活気によって騒がしいのではなく、怒号と悲鳴によって空が裂けんばかりの騒がしさが商業地域を襲っていた。
「暴動だ! 劣悪種共が暴動を起こしたぞ!」
逃げ惑う商人や、武器を持って反撃するものまで、商業地域は一気に混乱に陥った。その混乱は瞬く間に周辺に広がっていく。とうとう火が放たれる家まで現れる。商人の家に押し入り、小麦の詰まった樽を打ち壊す。それに乗じて火事場泥棒まで現れる。警備をしていた総督兵達だけでは全く収拾がつかない。
そんなときも、リゲルはコレクションたちと戯れていた。まるで他人事のように。
「リ、リゲル様!」
「なんだ、こんな深夜に騒がしい・・・。」
「街中で暴動が起き、収集の着かない状態となっております!」
「何・・・? 劣悪種共は根絶やしにしたはずだろう。それなのに何故だ。」
リゲルは不思議がった。先ほどの戦いでスラム街―劣悪種の巣窟―は叩き潰したはず。それなのに何故だ。
「わかりません・・・暴動は周りへ周りへと徐々に波状しております。どうかご指示を!」
「やむを得ん・・・。総督府の総力を持って鎮圧に当れ。私は遠距離砲の指揮を取る。」
「リゲル様!? 街中に向けてアーチ台をお使いになられるのですか? それだと住民にも被害が出て賛同できま・・・うぐっ。」
ルゲルはその兵に向かって容赦なくレイピアで突いた。レイピアを抜き取り、血を振り払いながら他の兵に言った。
「貴様達は私の僕だ。僕が主人に意見するなど言語道断・・・。お前達は美しい私に従っておればいいのだ、散れ!」
兵達は焦って走り出す。そして、リゲル自身も部屋を出て、大声で叫んだ。
「全軍、戦闘配備に就け! 騎馬隊は暴徒の鎮圧の為に出撃せよ! アーチ部隊はすぐさま主砲の発射準備に取り掛かれ!」
リゲル自身も騎馬兵だが、彼は前線に出ようとはしなかった。前線に出れば遠距離砲の巻き添えを食らう危険性があったからだ。
「フッフッフ・・・。これからの英雄は何も戦場で前に出ている必要はない・・・。安全な作戦室で参謀と作戦を練り、それを部下に伝える・・・これこそが美しい戦い方だ。」

街中では徐々に反乱軍が勢力を広め、総督府に近づきつつあった。
「諸君、私はセレナ殿たちと共に、一気に総督府に侵入する。諸君らは街中で総督兵の勢力を抑えていてくれ。ただし、武器を持たない住民へは絶対に攻撃するな!」


134: 手強い名無しさん:05/11/11 15:09 ID:E1USl4sQ
パーシバルが皆に叫ぶ。そして、次第にあの地下牢へと続くカフェに近づいてきた。セレナ達は一気に地下牢を経て総督府内に侵入するつもりだ。中の構造はバッチリ頭に入っている。警戒レベルも統治レベルも最悪のアクレイアだ。街中で警備していた総督兵だけでは全く歯が立たない。
しばらくして、総督府の騎馬兵隊の第一陣が到着した。反乱軍と壮絶な衝突を引き起こす。こんな密集地帯では安易に魔法は使えない。セレナ達も最前線で一緒に戦う。セレナはナーティもすばやい身のこなしと巧みな剣撃で総督兵を切りきり舞いさせている。シーナは得意の空中遊撃で騎馬兵隊の隊列をうまく乱していく。隊列の乱れた部隊の中で弓兵が弓を構えることなど出来なかった。アレンが渾身の力を槍にこめて一気に突き抜く。その槍は総督兵が構えた槍をへし折り、胸元へと突き刺さった。一撃の元に倒れる総督兵。磨き抜かれた槍術は総督兵のそれとは比べ物にならなかった。
それに負けじとクラウドも総督兵と互角の戦いを見せる。傷は増えてしまうがこれぐらいでギャーギャー言ってられない。そう思っていると後ろからリブローが飛んできた。セレスだ。
「まったく、君だけですよ、ボロボロなのは。しっかりしてくださいよ!」
「うっせ! 俺だってがんばってるんだぜ?!」
二人の会話にはとげがあるように見えた。しかし、それも相手をよく知っての事。一緒になって余り時間は経っていないが、二人はお互いの事をよく理解していた。
戦況は反乱軍有利だった。しかし、相手も数が多い。騎馬兵隊も二陣、三陣とどんどん送り込まれてくる。彼らの武器も、賭博などで住民や旅人から搾り上げた金のおかげで質がよいものばかりだ。しかし、数だけではなかった。こんな密集地域では騎馬兵はうまく機能できないのである。
街中という狭いところでは圧倒的に歩兵が有利だった。
そのまま反乱軍有利で進むかと思われたその時、突然闇夜から真っ赤な火の玉が飛んできた。
「いかん! 下がれ!」
パーシバルの声で一回引く反乱軍。先ほどいた場所に大きな日のついた塊が振ってきて、大きな穴を開けた。
「I? なにこれ!」
セレナが声を上げた。いきなり空からとんでもないものが降ってきたのである。驚くのもワケがない。
「これが・・・アーチだ。まさか市内に向けて撃ってくるとは・・・リゲルは正気か・・・?」
ナーティもこれには流石に驚かずに入られなかった。いくらリゲルでも、同族に被害が出るような戦い方はしないだろうと読んでいたのである。その読みが見事に外れてしまった。
アーチ弾はどんどん放たれてくる。もうこうなっては戦う何処炉ではなかった。無差別に攻撃を仕掛けている・・・というより、アーチにそこまで正確な精度は期待できなかった。総督兵もかなりの数が巻き添えになっている。
「全軍、守りを固めろ! シーナ殿! あなたもあまり上空を飛ばないほうがいい。狙い撃ちにされる。」
パーシバルに指摘され、シーナはペガサスに命じ低空飛行を始める。アーチ弾がまるで流星群の如く降り注ぐ。その火の玉が町を火の海に変えていく。リゲルは平原での戦法をそのまま城下町で行ってしまっていたのである。被害は大きくなるばかりであった。
しかし、暫くしてぴたりとアーチ弾が止んだ。その場に居た全員が、敵味方問わず上空を見上げた。
「しめた、相手はタマ切れだ。次の充填までしばし時間があるだろう。一気に進軍するぞ!」
アーチによる爆撃の少しの合間を縫って進軍し、やっとの事で、反乱軍の最前線がカフェを通過した。
「諸君、では我々は敵将を討伐に向かう。諸君らの善戦を期待する!」
パーシバル率いる精鋭部隊が一気にカフェ何になだれ込む。当然中には人はいない。カフェも奥の賭博場もそのまま騎乗したままで突っ切り、一気に総督府の中に潜入する。
そして、中にいたわずかな総督兵を疾風の如きスピードで沈めながら作戦本部たる遠距離部隊を狙う。
アーチ発射地点では、リゲルが指揮を振るっていた。
「はっはっは! 撃て!撃て! 劣悪種共を見殺しにしろ! 戦いに犠牲はつき物だ!」
その狂気の目がアーチの着弾点に注がれる。そこでは小さな赤い塊が一気に爆発して広がる様があった。
「くっくっく・・・いいぞ!いいぞ! 美しい! 最高だ! はははは!」

そこへ総督兵が血相を変えて走りこんでくる。
「た、大変です! リゲル様!」
その慌てように、リゲルも何かと後ろを振り向いた。
「総督府内に侵入者が・・・がはっ。」
そこまで言うとその総督兵は倒れてしまった。後ろには黒い騎士・・・。
「き、貴様は・・・!」
「覚えていたか、リゲル・・・。今日こそは今までの借りを返させて頂く!」
パーシバルだった。周りにはセレスやシレナ達もいる。


135: 手強い名無しさん:05/11/11 15:09 ID:E1USl4sQ
「お前がリゲルか! この野郎、散々住民を苦しめやがって! 同族として許して置けねぇ!」
「そうよ! それに昨日までの借りをたっぷりと返してあげるわ!」
クラウドとシーナが前に出る。同じ血が流れるものとしてリゲルは許しておけなかった。
「なんだ・・・? 私を裏切った薄汚い豚と、醜い下賎な輩か。貴様たちには用はない、皆のもの、こやつらを討ち果たせ!」
今までアーチ台を操作していた総督兵たちが一斉に弓に持ち替える。
セレナやナーティはその弓兵たちに向かっていく。二人で協力しながら遠距離攻撃をする敵を片付けていく。光速の二刀流でセレナがまた一人、弓兵を斬り倒す。
「へへっ、どんなもんだ!」
そこへ背後から他の弓兵が狙った。剣士であるセレナは、騎士と違いそこまで装甲の厚い鎧は着ていない。身のこなしが遅くなるからだ。しかしそれは防御力は紙であることも意味していた。矢など当ればかなりのダメージを受ける。
「危ない!」
ナーティが駆け寄ってきて、放たれた矢を件で叩き落とす。そして次の矢を番えようとするその弓兵に神速の如きスピードで近づき、一気に斬り倒した。セレナはその闘気に一瞬ヒヤッとした。
「まったく! 気を抜くなといっているだろう! しっかりしろ!」
「ありがとう・・・。また助けられちゃったね。しっかりしないとダメだねあたし。」
「わかったらグズグスするな。」
ナーティはそういうとまた他の敵に向かっていった。あいつ・・・いつもあたしを心配してくれているんだなぁ・・・。あたしが将なのに・・・情けない! がんばらないと!
その間にパーシバルやクラウドにシーナ、それにセレスはリゲルと対決していた。
「貴様ら醜き劣悪種が束になったところで私には敵わん。美しいものは敗北を知らぬのだ!」
リゲルが一気に間合いをつめてクラウドの襲い掛かる。相手はレイピア。レイピアというのは騎士や重騎士に対して特に威力を発揮する突くタイプの細剣で、素早く攻撃することが出来る。クラウドは槍でレイピアの射程に入らないように何とか応戦しているが、なかなか攻撃をあてることも出来ない。
「くっくっく・・・貴様の生兵法では私には勝てぬぞ! 喰らえ!」
とうとうリゲルのレイピアがクラウドのわき腹を貫いた。
「うがっ。」
鎧をしていた為に致命傷には至らなかったが、かなりのダメージを受けてしまう。アリスがすぐさま回復魔法を飛ばす。
クラウドに追撃を入れようとしたリゲルに手槍が飛んできた。リゲルは避けきれずに顔をかすめた。
「兄ちゃん! 大丈夫?!」
シーナだった。重い手槍の扱いにも大分慣れた。今では立派に天馬騎士としてその仕事を果たしている。
「貴様ぁ! この美しい私の顔に傷を着けおって! 許さん! 降りて来い!」
リゲルがシーナに向けて手槍を投げ返そうとした。しかし、その槍を何か光速の風刃が弾いた。エイルカリバーだ。
「僕の従兄妹には指一本触れさせませんよ!」
セレスだ。そのときを見計らい、パーシバルが一気に銀の槍で突っ込む。リゲルは避けきれず直撃を受けてしまう。
「うお・・・っ」
「忘れるな・・・貴様の相手はこの私だ。 エトルリアを蹂躙した罪・・・その身であがなってもらう!」
「くっ・・・ちょこざいな!」
アレンとパーシバルという熟練の騎士二人がリゲルに襲い掛かり、クラウドやシーナ、そしてセレスにアリスがそれを支援する。いくらリゲルがベルン五大牙の一人といえど、歴戦の勇者二人と更に若い力の前に少しずつ押され始める。
とうとうシーナが背中からリゲルを捉えた。それに反撃しようとするリゲルをクラウドが抑える。
「おのれ! 雑魚共めが!」
リゲルがクラウドに向かってレイピアを向ける。この至近距離では避けられない・・・! しかし、次の瞬間、漆黒の剣がリゲルのレイピアを弾き飛ばした。
「!?」
そしてそのまま銀の剣を振り上げ、一気に切り倒した。 パーシバルだ。
「そんな・・・この私が・・・世界で一番強く美しいこの私が・・・こんな劣悪種に・・・!」
パーシバルは静かに剣を鞘に収め、倒れたりゲルに近づく。周りの総督兵を倒し終えたセレナ達も集まってきた。


136: 手強い名無しさん:05/11/11 15:10 ID:E1USl4sQ
「優良か・・・劣悪か・・・。それは流れる血で判断できるものではない・・・。劣悪なるもの、それは悪しき醜い心だ。 お前の心は醜い・・・。」
パーシバルの台詞に、リゲルは逆上した。
「劣悪なものは悪しき心だと!? 私が醜いだと!? ふざけるな! 私の母上を・・・抵抗もしなかった我が母を殺した人間が! 軽々しく語るな!」
「それが・・・お前が人間を恨み蔑む理由か・・・。」
ナーティが訊ねる。そうだった。リゲルは幼いころ、人間によってその母を虐殺されていたのである。弄るだけ弄って最後には殺してしまった。まるで人とは扱わないかのように。その日からリゲルはおかしくなっていた。美しい母様を殺した人間は醜い生き物であると言い聞かせ少年時代を過ごした。その環境が彼を狂気的な人へ変えてしまったのである。
「そうだ! 貴様らこそ醜い心の持ち主だ! 劣悪種と呼ぶに相応しいのだ! お前達は私と道連れにしてくれる!」
そう言うとリゲルは懐から何かを取り出した・・・。
「!? いかん! 皆離れろ!」
ナーティが皆に叫んだ。次の瞬間、凄まじい閃光と衝撃波がリゲルから発せられ、目を開けて散られなくなった。アレンやパーシバルにはわかった。これは・・・改造竜石! 
案の定、目の前には大きな翼竜が現れた。その目は狂気に満ちている。
「な・・・っなにこれ・・・。」
あっけにとられるセレナ達。セレナ達は竜を見るのは始めたの事だった。その大きさに仰天しながらも、なんとか倒す方法を模索する。
「消えろ! 消えろ! 貴様ら劣悪種は滅びる運命にあるのだ!」
翼竜と化したリゲルは空中からブレスを放ってくる。先ほどの衝撃で総督府は天井が吹き飛び、まるで闘技場の如く何もない空間になっていた。
「くそっ、空中に居られたのではドラゴンキラーも役に立たないではないか!」
アレンが歯軋りした。せっかくのドラゴンキラーも空中に相手が居るのでは届かない。
その間にも、容赦なくリゲルはブレスを吐きまくる。狭い足場では避けることもままならない。
セレナとシーナが空中に舞い出た。二人なら空中攻撃をすることが出来る。
当為の二刀流ドラゴンキラーで一気に・・・。セレナはそう考えていた。しかし、相手とは実力が違いすぎた。リゲルに翼で体当たりを喰らい、空中から地面へ叩きつけられてしまった。
「うあっ!?」
「セレナ!」
アレンが走り寄る。体を強く打ったためか、体が動かない。パーシバルも手槍で反撃するが、硬い鱗の前に全くはがたたない。
「そうか! フォルブレイズだ! セレス、フォルブレイズを撃て!」
パーシバルがセレスに叫ぶ。しかし、この狭い足場で絶えずブレスが吹きすさぶのでは、フォルブレイズのような高位で詠唱に時間のかかる魔法など撃てるはずもない。
「劣悪な心を持つ貴様らこそが劣悪種だ! 劣悪種をこの世から排除することの何がおかしい! 貴様らは滅んでしかるべき種族なのだ! フッフッフ・・・燃え尽きろ!」
その圧倒的な力の前に、どんどん消耗していく。このままでは皆が危ない・・・。そんな時、セレナは自分の奥からあの声が聞こえてくるのを感じた・・・まずい!
「・・・? セレナ? どうした?」
セレスを抱いていたアレンがセレナの異変に気付く。・・・何かをつぶやいている。その声は次第に大きくなり、皆に聞こえるほどになってきた。
「ワレニ アダナスモノ、スベテ ソノ チカラヲ モッテ、メッセヨ。」
「! まずい、アレン殿! セレナから離れるんだ!」
ナーティが叫び、アレンをセレナから離れさせる。その途端、セレナが起き上がり、翼を広げたかと思うと一気に空中まで飛び上がった。さっきまで身動きが取れなかったはずなのに。
「セレナ!? 一体どうしたんだ! そんな状態で行ったら危険だ!」
アレンが呼び止める。しかし、本人には全く聞こえていないらしい。光の槍の魔法を放ちながらどんどんリゲルに近寄っていく。
「まずい・・・セレナが力の暴走を起こしている・・・しかも完全に。今のあいつは、意思に反して体が勝手に動いている状態だ。何を言っても通じない・・・。」
「そんな!」
皆はただ見ているしかなかった。性格が豹変している・・・。


137: 手強い名無しさん:05/11/11 15:10 ID:E1USl4sQ
「あはははっ。 私に歯向かう者は皆塵に変えてくれる! 消え失せろ!」
詠唱もせずに魔法を連射する。それに怯んだリゲルに目にも留まらぬスピードで剣撃をお見舞いする。持っているのはただの鉄の剣のはず。鉄の剣で竜相手にダメージを与えられるはずがないのだが、リゲルは反撃はおろか、仰け反ってしまっている。
「ぐわっ、何だ・・・この小娘の力は・・・! 体が・・・動かぬ・・・。 うがっ・・」
リゲルが悲痛なうめき声を上げる。そんなリゲルの反応を楽しむかのように、セレナは攻撃を休めるどころか逆に激化させる。
「ぎゃはははは! もがけ!苦しめ! 全てのものは私の前にひれ伏すのだ! 逆らうものは微塵に砕けろ!」
鉄の剣が、リゲルの硬い鱗を突き破った。一気に崩れ落ちるリゲル。だが、それでも攻撃を止めようとはしない。
「あははははっ!」
見かねたナーティがセレナに近寄る。そして、何とか大人しくさせようとした。
「セレナ、落ち着け!」
セレナはそちらを鋭く睨んだ。シーナはその目を見てゾクっとした。鋭く光る眼光に、血走った目、そしてどこか輝きのない瞳・・・今の姉は自分の知る姉ではなかった。
「私に命令するのか? 面白い。」
セレナが今度はナーティに刃を向けた。ナーティは避けているが攻撃は出来なかった。
「どうしたどうした! ぎゃはははは!」
「やむを得ぬ・・・。」
ナーティは仕方なく剣を抜き、セレナに向かって突撃した。その際、セレナから強烈な一撃を貰ってしまう
「くっ・・・。」
気が薄れそうになるほど強烈な力。こんな小娘の何処からこのような力が沸いてくるのか・・・。そう思いながらも、ナーティはセレナの翼を切りつけ、怯ませた。
「ぎゃああ!」
間髪居れずにみぞおちを殴りつけて気絶させた。・・・やっと静かになる・・・。
「はぁはぁ・・・この・・・手間をかけさせて・・・。」
ナーティも倒れこんでしまった。一堂があっけに取られていると、後ろから何かうごめく音が・・・。リゲルが起き上がったのである。
「ぬおおおぉぉぉっ、死ねん! 貴様らを道連れにしなくては死ねん!」
「今だ!」
セレスが魔道書を広げ、詠唱を始めた。周りのエーギルの流れが一気に変わり、渦巻いた。地響きまでもが起こりだした。
「受けろ! 炎の超魔法! 業火の理! フォルブレイズ!」
リゲルの足元が地響きを起こしなら真っ二つに割れいく。そして、その地割れから、凄まじい勢いで炎とマグマが噴出した。その熱風が、竜化したリゲルを軽々と持ち上げる。そして、その灼熱にどんどん焼かれていった。
「うお・・・・! ・・・私は・・・敗れるのか・・・! 母上・・・。」
地響きと熱風が止むと、リゲルはそのまま力なく倒れこみ、人の姿に戻って行った。
「私は・・・一体何の為に・・・生まれてきたのだ・・・。母上と楽しく過ごしたかった・・・それを・・・人間が・・・!」
リゲルを前にパーシバルが膝を突きながら言った。
「人間にも・・・確かに悪しき心を持つものは居る・・・しかし、それはハーフとて同じこと。お前も元はそうではなかったにしろ、住民の命を顧みない統治を行った心悪しき者だ。一部だけを見て・・・全体憎んではならんのだ・・・。私はハーフだからと言って憎むようなことはしない。騎士の誇りにかけて誓おう。」
それを聞いたリゲルは、何か悟ったように答えた。
「くっくっく・・・私は・・・母の愛が欲しかった・・・。それを人間に奪われた・・・その事実に変わりはないのだよ・・・。だが・・・、貴様のような偽善者が一人ぐらい居ても・・・いいかもしれぬな・・・。」
そういうとリゲルは静かに目を瞑って逝った。ここに、やっとエトルリアの平和は取り戻された。いや、こここそが平和へのスタートラインなのだ。これからやらねばならぬことが山のようにある。感慨を催している暇はない。ミルディン様・・・私は必ずや、王国を再建して見せます。パーシバルの背に何か強いものを、セレスは感じ取っていた。


138: 手強い名無しさん:05/11/14 17:27 ID:E1USl4sQ
エトルリア終了・・・。
長い・・・長すぎる。
書いてて思うにやっとエトルリアかよ! って感じです。

こんな感じですが生暖かく見守ってもらえればと思います。
 

139: 第十五章:種族を超えて:05/11/20 23:45 ID:9sML7BIs
あたしを呼ぶ声がする・・・。この声は・・・母さん? いや・・・母さんはとっくに死んでるんだ。
じゃあ、この声は・・・? 声が次第に近くなってきて、あたしは目が覚めた。
「う・・・ん? ふあぁ〜 よく寝た。」
起きた部屋は見慣れない大きな部屋。しっかりとした石造りに様々な調度品が置かれている。・・・どこかのお城?
「やっと目を覚ましたか。」
その声にあたしは振り向いた。その先にはナーティが居た。シャツにズボンという服装の下に包帯が見える。こういう格好をしてれば、ナーティも案外普通の女性だ。
「あ、ナーティ、おはよ。」
「おはようではないだろう。全く・・・ほとほと手が焼ける主だ。」
ナーティはそういうと窓のほうを向いてしまった。相変わらず無愛想なヤツ・・・。そう思って外を眺めてみると、外には人が一杯居た。
そういえば自分にはリゲルに吹っ飛ばされた後の記憶がない・・・。あの後どうなっちゃったんだろうか・・・そう考えていると親父が飛び込んできた。
「セレナ! あぁ・・・無事でよかった・・・。」
アレンがセレナの包帯を取り替えながら言う。よく見ると全身怪我だらけだ。・・・ってそれを見た途端、体が痛くなってきた・・・。
「いたたたたっ、親父、もっと優しく巻いてよ!」
「無茶をするからこうなるんだ。」
親父はそういいながらきつく包帯を巻く。それにしてもここはどこなんだろう。あの戦いはどうなったんだろう。
「なぁ親父、ここはどこ? リゲルは、総督府はどうなったの?」
「お前は・・・記憶がないのか?」
アレンは驚いたように答えた。あれだけ大暴れして全く記憶がないとは信じられなかった。
「記憶がなくても仕方ないだろう。あの時セレナは完全に力の暴走を起こしていた。そうなればセレナはただの操り人形だ。本人の意志はその力によって封じられていたのだろう。」
「えぇ?! それ、どういうこと?」
セレナが驚いて聞いた。また自分は暴走していたのか・・・自分の知らぬ間に。アレン達はセレナに事の次第をすべて話してやった。
「そんな・・・。」
「信じられないかもしれないが、本当の話だ。でも、セレナとセレス様のおかげで我々はリゲルを倒すことが出来た。それに変わりはない。」
アレンが何とかセレナを励まそうとする。しかし、セレナはショックを受けていた。自分がそんな風になってしまうなんて・・・自分で自分が怖くなってきた。ナーティも続ける。
「そうだな・・・お前は強くなってはいる。しかし、まだまだ力不足だ。もっと努力をしないとな。そのためなら私も協力しよう。」
「うん・・・ありがとう。ところで、ここはどこ?」
「ここは旧エトルリア総督府の中だ。ベルン兵は皆投降した。今は市街戦で難民化した人たちが多く集まってきている。」
そうである。リゲルは市街地に向けて、容赦なくアーチによる遠距離砲を雨のように注いだ。町は当然火の海と化し、難民が続出した。今はパーシバルを中心にして統治機構の再建を目指していた。ハーフとの溝は深いが、反乱軍側に居たハーフなども皆を粘り強く説得していた。
その様子を見ていると、シーナやクラウドが飛び込んできた。
「姉ちゃん! よかった、元に戻ってる。」
「ホントだ。ったく世話の焼ける妹だぜ。あの時のセレナは天使というより悪魔に見えたぜ、マジで。」
兄妹達の言葉にやはり自分が暴走していたんだと改めて思った。天使というより悪魔・・・自分が何をしていたか覚えがないから怖かった。
「そんな顔をするな。自分の未熟さを悔やむなら、しっかり精進しろ。怪我を治してからな。」
そういうとナーティは外に出て行ってしまった。冷たいけど、本当の事だ。もっと強くならなくちゃ・・・剣も心も。そうじゃなきゃ・・・夢みたいに・・・。
「何だよあいつ。相変わらず冷たいヤツ。」
クラウドがナーティを罵った。セレナがこんな辛い思いをしている時ぐらい、もうちょっと温かい声をかけてやってもいいのに。
「そう言うな。ナーティ殿はセレナが眠っている間、食事もろくに取らずに、夜通し看病してくれていたんだ。あれがきっと、精一杯の温かい言葉なんだよ。」


140: 手強い名無しさん:05/11/20 23:45 ID:9sML7BIs
「え!? ・・・あいつが?」
アレンの言葉にセレナは驚いた。あいつが・・・あたしの事をそんなに心配してくれていたなんて思わなかった。厳しくて、冷たくて、いつも突き放すような態度のあいつが・・・。
「よし、もう大丈夫。寝てられないよ。」
そう言ってセレナが起き上がろうとする。みんなが自分を心配してくれている。もうこれ以上余計な心配はかけられない。
「姉ちゃん! ダメだよ、寝てなきゃ。」
無理をする姉をシーナが無理矢理寝かせつける。シーナには分かっていた。姉が無理をしていることが。自分が姉を助けてやると誓ったのに、また暴走させてしまった。シーナも責任を感じていた。そこへ、パーシバルとセレスが入ってきた。
「お目覚めか、姫。」
「あ、将軍。迷惑かけてごめんなさい。」
「何を言う。貴方のおかげで我らは勝利をすることが出来た。こちらこそ貴女に無理な負担をかけさせ、すまないと思っている。」
「あたし、まだまだ未熟なんだ。だから自分の力を制御できない・・・。もっと、もっと強くならないと。」
「そうだな・・・。世界中が、貴女の救いの手を待っている。その全ての声に応えるには、あなたまだまだ幼く、そして未熟だ。」
「うん・・・。あたし・・・自信がなくなってきたよ。」
「しかし、貴女には世界を救うだけの力があることは、今回の事で分かったはず。あとはその力を自由に制御できるように精進すればよろしいのだ。」
パーシバルはセレナを励ました。かつて、セレナの母、シャニーを対してそうしたように。セレスも何とか従兄妹を励まそうとした。
「そうですよ。僕もセレナの力には驚きました。それに・・・セレナには人をひきつける笑顔がある。そんなしょぼくれた顔を誰も期待してはいませんよ?」
皆が見たいのは、セレナの笑顔。セレナの笑顔はどんなに辛い時でも周りを明るくする。太陽のような・・・ひまわりのような、そんな存在だ。
「うん、ありがとう。あたしもっとがんばるよ。らしくなかったかな!」
そういいながらにこっと皆に笑顔を見せた。常に笑顔でいることは早々簡単に出来る事ではない。心の強さも、大切な武器だ。パーシバルは自分にも言い聞かせるように思っていた。
「さて、怪我が癒えたら、すぐにエトルリアを発つのだろう?」
パーシバルがセレナ達に聞く。世界中が救いを求めている。長居はしていられない。
「うん。すぐにでも出発したいけど・・・こんな体じゃ足手まといだよね。アリスの姉貴に治療してもらったら、すぐに出発するよ。」
「アリス様は今我々の手伝いをなさっていただいていてきっと疲れているだろう。あなたもゆっくり怪我を治すといい。」
アリスはパーシバル達と難民への対応をしていた。きっと祖国でも同じ事をすることになるに違いなかったから、ここで経験をつんでおこうと考えたようだ。更にパーシバルが続ける。
「旅に出るなら、セレスも一緒に連れて行ってはもらえないだろうか?」
この言葉にセレスは驚いた。今まで何も知らされていなかったからである。
「え!? しかし、それではパーシバル様が・・・。」
「お前はまだ若い。将来のエトルリアを担う為にも、世界を回って色々なものを見て勉強してくるのだ。それに・・・姫たちはフォルブレイズを必要としている。・・・お前を必要としているのだ。」
「セレスも来てくれるの! わぁ、凄い頼りになりそうだ! よろしくね。」
セレナがセレスに笑顔で声をかけた。セレスはこの笑顔に弱かった。嫌と言えなくなる・・・。
「パーシバル様がそこまで仰るなら仕方ないでしょう。僕も及ばずながら、力になろう。まぁ、そこの見習い騎士よりは活躍してみせるよ。」
セレスがクラウドのほうを見ながら言った。その途端やはり頭に血が上るクラウド。
「なんだとっ! お前こそ見てろ! 吠え面かかせてやる!」
そういうクラウドに拳骨をしながらアレンが言った。
「バカモノ! セレス様はリグレ侯爵家の正当な跡継ぎ様であらせられるぞ。そのような口の聞き方があるか! 申し訳ありません、セレス様。」
「いや、いいんですよ。そいつとは気が合うし、アレンさんも呼び捨てで構いません。僕のほうが年下ですし。」


141: 手強い名無しさん:05/11/20 23:46 ID:9sML7BIs
「しかし・・・。」
「親父、こいつがいいって言ってるんだからいいじゃねーか。俺もこいつに様なんかつけたくねーし。」
「クラウド!」
アレンがもう一発、クラウドに拳骨を食らわす。
「はは、僕もお前に様なんか付けて欲しくなよ。どちらが上か、早速模擬戦でもしようじゃないか。」
「望むところだ!」
二人は部屋を走り去って言った。そんな様子をパーシバルが見届ける。
「ふふ、セレスも同年代の友達がいなかったから寂しかったんですよ。さて、あまりここに長居しては姫の怪我に障る。我々も外に出ておきましょうか。」
一行がセレナを残し、部屋から出て行く。シーナは皆が言ったところを見計らい、姉に言った。
「ごめんね、姉ちゃん。」
「何が? まさかあんたあたしの分のご飯まで食べちゃったの?」
「あのねぇ・・・姉ちゃんじゃあるまいし。・・・戦場でまた姉ちゃんを暴走させちゃってゴメン。私が、双子の妹の私がもっと姉ちゃんを助けてあげれていれば、きっと・・・。」
そこまでシーナが言ったところでセレナはシーナの口を手で塞いだ。
「それは違うよ。あんたはバッチシがんばってたじゃん。これはあたしの問題だよ。どれだけあんたがフォローしてくれても、結局あたし自信が強くならなきゃ意味がない。あんたなんでも自分のせいにしすぎだよ。ほら言うじゃん、泣きっ面に蜂って。」
「はぁ?」
「知らないの? くよくよしてると蜂に刺されて余計にネガティブになるの。だからあんたももう少し肩の荷を降ろして物事考えなよ。ね?」
また姉がにこっと笑った。こうされるとどうも怒るに怒れない。
「間違っているようなあっているような・・・とにかく、私もがんばる。だから姉ちゃんもがんばって。」
「おう! 任せとけ!」
姉のその言葉を聞いて、シーナは安心したような不安なような複雑な気持ちで部屋を出た。
・・・肩の荷を降ろさなきゃいけないのは姉ちゃんだよ・・・。わかってるんだぞ・・無理してるの。本当は泣きたいはずなのに笑って・・・。もっと姉を助けてやらないと・・・。シーナは槍を持ってアレンの所へ駆けて行った。
翌朝、早速パーシバル達にエトルリアを任せ、一行は出発した。その一行に、早速ナーティが言った。
「さて、エトルリアを離れる前に、まだ一つやらねばならんことが残っている。」
「? やらなくちゃいけないこと?」
セレナがねむい目をこすりながら相槌を打つ。
「そうだ。エトルリアはエリミーヌ教団の本拠地があった場所だ。今は思想統制のためにベルンに禁止にされているが、一昔前はエトルリアの国教として有名だった。」
「ふーん、そうなんだ。」
「そうだ。そして、聖母エリミーヌは八神将の一人。そのエリミーヌが陣流戦役で用いた光の超魔法を封じた書が、エトルリアの象徴とも言われたに収められている。」
「至高の光・・・アーリアルですね。」
セレスが答える。かつて聖女エリミーヌが用いた神将器。それを手に入れなければ封印の剣を手に入れることはできない。避けては通れない道だった。
「へぇ、神将器って一種類だけじゃなかったんだね。」
セレナがはじめて知ったというような口調で言ったのを聞いて、セレスとシーナが二人とも反応をした。
「そんなことどこの学問所でも教えられることだろう。 西方の教育レベルはどうなっているんだ・・・。」
「姉ちゃん! 学問所で習ったじゃない。神将器は剣、槍、斧、弓、理、闇、光、それぞれに存在しそれよりさらに強力な力を持つ魔剣こそが封印の剣だって! 西方の教育レベルじゃなくて、姉ちゃんの頭が悪いだけだよ、セレスさん・・・。」
「なんだよ! 二人してうるさいなー! そんなこと知らなくたって生きていけるだろ!?」
「・・・セレナ、知らなければならないことは山ほどありますよ。最低限の知識は必要です。よし、暇を縫って僕がいろいろ教えてあげましょう。」
セレスが従兄妹にそう言ったとたん、セレナがうえッというような顔をした。
「えー、勉強かよぉ・・・。」
そんな会話をアレンが笑いながら聞いていた。そして、荷物を纏めながら行った。
「よし、じゃあそろそろ出発しようか。」


142: 第十六章:聖女エミリーヌと至高の光アーリアル:05/11/20 23:47 ID:9sML7BIs
エトルリアは混乱を極めていたが、パーシバルたちの努力により、その混乱も収束に向かっていた。一行は一路聖女の塔へ向かう。聖女の塔はエトルリアの象徴といわれるだけあって金などの希少鉱石などがふんだんに使われた豪華なつくりで有名だった。しかし、一行が見たものは、荒れ果てた塔だった。時は、無残にもその華やかさを奪ってしまっていたのである。
「・・・・っ、これが聖女の塔・・・? そんな、バカな・・・。」
アレンが走り寄る。荒廃し、草が伸び放題だった。ベルンの支配下では、エリミーヌ教の教えは禁忌だった。迫害され、教会は徹底的に破壊された。それでも、各地に信者が多いという。
セレナ達も初めて見るその塔に、何かとても悲しい気分になった。神が祭られている場所がこんなに閑散とした寂しい場所だなんて・・・。人と交わる事を推奨するエリミーヌ教団の聖地が、が孤独に泣いていた。
「・・・これがベルンのやり方だ。服従には恐怖を、抵抗には死を・・・。 さぁ、感傷にふけっている場合ではないぞ。早くアーリアルを手に入れよう。」
ナーティがそう言いながら先陣を切る。みなもそれに続いた。中には人っ子一人見当たらず、まさに廃墟というにふさわしかった。一気に最上階まで昇りつめ、祭壇を探す。
見つけた祭壇もかなり放置されていたのか、ツルが巻いている。それらを払いのけると、アリスが祈りだす。アーリアルは・・・エリミーヌはまだここにいるのだろうか・・・?
しばらくすると、綺麗でそして透明な声が聞こえてきた・・・聖女エリミーヌだ。
「私に話しかける者、あなたは何者ですか?」
その言葉にアリスが率先して返した。
「私達一行は、現状の歪んだ世界を正すべく、旅をしています。そして、そのために貴女の力が必要なのです。どうか、貴女のお力添えを。」
「貴方たちが、アトスの言っていた炎の天使の一行ですね。話は聞いています。わかりました。では・・・。」
「本当ですか! ありがとうございます。」
一行が安堵の顔を見せた。が、そう簡単には行かなかった。そのままエリミーヌが続ける。
「では、質問をさせてもらいましょう。貴方達は何のために戦っているのですか?」
その質問に、セレナが答えた。
「決まってる。今の差別や迫害が当然とされる世界を変えるため。世界中の人々が、笑って暮らせる世界を作るため。」
「そうですか。私も、アトスやハルトムート等と共に、世界を変えるために戦いました。しかし、その結果ハーフの差別が始まってしまった・・・。これが何を意味しているかわかりますか?」
その質問に、セレナはどう答えればいいかわからなかった。それを悟ったのか、エリミーヌは続けた。
「正義とは、何を持って正義というか・・・。貴方たちも正義のために戦ってるのでしょう。しかし、その正義も、相手に正しくその意志が伝わらなければ悲劇を生みます。人は一人では何もできないのです。人と交わり、考えを広めていくことが大事なのです。そして、広めるだけではまだ足りないのです。どういうことか、分かりますね?」
セレナが今度はエリミーヌの顔を見て、その澄んだ瞳で答えた。
「考えを広めるだけじゃなくて、それを正しく理解してもらう必要があるんだよね。」
「そうです。思想とは、形のない脆いもの。間違って理解されてしまえば例えどんな聖徳でもその場で死んでしまいます。まして貴方達の理想は、今の世界を否定するほどのものです。正しく理解してもらう為には障害が多く、困難を極めるでしょう。精霊となってしまった今では私達に為す術はありません。貴方達の手で世界を住みよい、美しい笑顔で満たされるように変えてください・・・。」
そうエリミーヌが言い終わると、その姿は光に溶けていき、一冊の魔道書になった。これが、至高の光―アーリアル―である。
「エレブに再び光があらんことを・・・。」
どこからかエリミーヌの声が聞こえ、皆は目を開けた。いつの間にかアリスの手にアーリアルが握られていた。
「ふぅ・・・。何か・・・聖女様、凄い悲しそうな目をしていたね。」
シーナが言った。慈悲深く、全てを見通すようなそんな透き通った目をした聖女だった。だが、どこか悲しげであった。特にアリスには直接聖女と対話したのだからその事も、その理由も痛いほど分かった。
「自分達の掲げた理想が・・・後世に正しく伝わっていないからじゃないかしら・・・。」
「私もそう思う。自分達が命をかけてまで成し遂げようとした事が、後世で正しく理解されず、逆に戦乱の火種となれば・・・これほど悲しい事はない。」
ナーティも続けた。このときアリスは思った。そういえば・・・エリミーヌ様のあの目と・・・ナーテ


143: 手強い名無しさん:05/11/20 23:47 ID:9sML7BIs
ィさんの目・・・どっちも悲しそうで・・・どこか似てる・・・。いえ、気のせいよね・・・。
「俺たちも、ロイ様の意志を今一度思い出し、正しく理解できているか確かめなければならないかもしれないな。」
アレンも主の意志を継ぐ思いでこのたびを続けているが、果たして自分は主の意志を正しく受け継げているのか・・・そう考えさせられた。
「さて、長居は無用だ。次の神将器をとりに行くとしようか。」
ナーティが足早に祭壇を後にする。それをアリスが小走りに追い、セレナ達が後に続く。
「ねぇ、ナーティさん。」
追いついたアリスがナーティに話しかける。
「うん? 何だ?」
「その・・・うまく言えないんですけど・・・ナーティさん、結構過去に辛い思いをしているみたいですね。」
「・・・何故そう思う?」
「いえ・・・何となく。エリミーヌ様と同じような悲しそうで透き通った目をなさっていますから・・・。」
「ふっ・・・私が聖女と同じか。面白い事を言うな。過去に何があろうと、私は私だ。」
「そ、そうですね・・・。でも・・・辛い事があったら、なんでも相談してくださいね。私達、仲間なんですから・・・。」
「ありがとう。その気持ちはありがたくいただいておく。」
二人で話しているとセレナ達が追いついてきた。アーリアルに若者達は興味深々だ。
「姉貴ー、独り占めしてないで見せてくれよぉ、おお! これがアーリアルかぁ! 使ったら眩しいんだろうな! なんてったって至高の光だもんな!」
クラウドが興奮気味に話す。セレスも魔道書を手にとってみる。
「バカは放って置いて・・・なるほど・・・凄まじい力を感じますね。僕には扱えそうにないですが・・・。」
「バカとは何だよバカとは!」
「言葉の通りです。」
「なんだとっ」
二人のいつもどおりのコントが始まった・・・。その向こうでは双子がアーリアルを手に取っている。
「へー。これがアーリアルかぁ。使ったら眩しいんだろうね!」
「うんうん。なんたって至高の光だもんね!」
それを聞いてセレスは閉口してしまう。クラウドも笑いながら言ってやる。
「なぁ、あの二人にもバカって言うのか?お前」
「ふ、ふん。お前の騒ぎっぷりがバカというだけの話だ。」
そんな若者達から離れ、ナーティは聖女の塔最上階からエトルリアの景色を望む。綺麗だ。この下で醜い差別が行われていたとは信じられない・・・見せかけの平和か・・・。結局、昔も今も変わらないと言うわけか。それにしても・・・私は私・・・か。ふ、自分の言った言葉ながら腹が立つな・・・。自らを貫き通せなかった私が言える台詞か・・・。
アレンも同じように景色を見ていた。エトルリア・・・クリスに愛を誓った場所だ・・・。戦乱が終ったら幸せにして見せるといった場所。そのクリスを幸せにしてやる事も出来ないまま、結婚も出来ないまま、彼女は死んだ・・・。クリス・・・今でもすまないと思っている。だが、俺は君の遺志を忘れてはいない。君も皆が平和に暮らせる世界を望んだ。俺は今そのために戦っている。俺が君のところに行くのは、俺たちの意志を貫き通した時だ。・・・もう少し待っていてくれ・・・。
「親父? どうしたんだよ。」
いつのまにかクラウドが横にいた。びっくりするアレン。
「うわ、・・・なんだお前か。いや、エトルリアは俺が母さんにプロポーズした場所なんだ。それを思い出していた。」
「へぇ・・・。」
今でも情景が浮かんでくる。あれは・・・シャニーを無理矢理手合わせにつき合わせたときだったか・・・。
「うおっ?!」
「だらしないなぁ・・・。何度やったってアレンじゃあたしにゃ敵わないって。あたしだって一応イリア王宮騎士団の団長で、蒼髪の天使って通り名を貰ってるんだから、やられてちゃ名が廃るよ。」
「俺とてフェレ騎士団の副団長だった男だ。負けたままではおれん! もう一度勝負だ!」
「えー! まだやるの!? もう何十回目だと思ってるのサー、疲れたよ〜。ぶーぶー。」
文句を言うシャニーにまた槍を振り向ける。近づく間もなく魔法で吹き飛ばされる、やっと近づいたかと思えば今度は剣で刻まれる。


144: 手強い名無しさん:05/11/20 23:49 ID:9sML7BIs
「ぬぉぉぉぉおっ、このままでは引き下がれん!」
「はぁ・・・。あたしだってロイとデートしたいのに・・・。」
そこにクリスが来て、シャニーの変わりに手合わせをしていたか・・・。
「まったく、あんたも飽きない男だね。」
二人で武術の稽古もしたし、寝食も共にした。あの戦乱の中で一番心を許した戦友だった。それが恋人に発展し・・・家族も持った・・・これからというところだった・・・。
「感傷に浸っている場合じゃないな。よし、クラウド、今日はこのままエトルリア郊外で野宿だ。そのときはたっぷり絞るから覚悟して置けよ!」
「えー!?」
そういうとアレンは塔を降りるべき歩き出した。俺はたくさんの人の意志を背負っている。その人たちのためにも、セレナ達を助けてフェレを復興する。クリス・・・俺はこの命尽きるまで、お前の分までがんばって見せるぞ。


145: 手強い名無しさん:05/11/20 23:50 ID:9sML7BIs
その夜、アクレイアから南東に位置する郊外で野宿することになった。周りは敵だらけなのだから警戒しなければならなかったが、皆はこの時ばかりは寛いでいた。まだエトルリア領内だからである。ベルン兵は皆投降し、一時的に戦乱は収束していた。
「ちょっと! クラウドとかさぁ、練習ばっかりしてないでご飯作るの手伝ってよ!」
セレナが包丁を握りながら怒鳴る。エプロンに包丁姿の時はやはり女の子に見えるものだなぁと、セレスも感心してしまう。
「姉ちゃん、私も手伝うよ。」
「え!?・・・あんたはいいよ、皿洗いとかお願い。」
妹の申し出をセレナは即座に断った。・・・妹に料理をさせたらこちらが死んでしまう・・・。
「ぶー、やらなきゃうまくならないじゃない! 私も手伝うからね!」
強引に姉から包丁を取り上げ、ニンジンを切ってみせる。・・・危なっかしい。
「あー!危ないって! って、こら!何でそんなに砂糖を入れるのよ!」
双子の元気な声が聞こえてくる。セレスもそれを見て助けてやりたくなった。パーシバルと一緒にいたころは、よく食事を作っていた。・・・ララムに作らせるととんでもない事になるからだ。
「セレナ、シーナ。僕も手伝いますよ。僕も料理はそれなりに経験していますから。」
「お、助かる!」
それ見ていたクラウドは練習をやめて直ぐに飛んできた。
「俺も手伝う!」
さっきまで見向きもしなかったのに、やたら向きになって手伝い始める。
「クラウド、どうしたんだ急に。」
不思議がるセレスにクラウドが顔を近づけていった。
「お前だけにカッコイイ思いはさせん!」
セレスは何となくクラウドの意図を把握したが、結果は正反対だった。
「わぁ、兄貴! そんな汚い手で野菜を触らないでよ!」
「す、すまん。」
セレナに邪険され、シーナもクラウドも追い出されてしまった。
「何だよ、俺がせっかく手伝ってやるって言ってるのに。」
「私だって料理の練習したいのに!」
セレスが妹と笑いながら料理をしている。クラウドには何かそれが許せなかった。許せなかったというより、何か悔しかった。そんな息子の思いを知ってか知らずか、アレンが寄ってきた。
「クラウド、稽古を途中で放り出すとは何事だ。セレナにカッコいいところを見せたければ、戦場で活躍して見せろ。」
そういわれて躍起になったクラウドはシーナもつれて練習に励む。騎乗する動物は違っても、同じ槍使いだ。互いに色々勉強するところはある。戦場でも、突っ込むクラウドをよくシーナは止めたりしていた。
一方料理のほうはアリスやナーティも加わっていた。
アリスはスープを煮込んでいる。孤児院でよくバアトルの手伝いをしていたから味付けに離れていた。イリアでよく食べられる、肉入りの辛味スープだ。
「ほう、なかなかいい包丁さばきだな。」
ナーティがセレナの包丁捌きを見て感心した。セレナも妹に苦手の掃除を任せ、料理を手伝う事が多かった。
「へへ! どんなもんだ。 ナーティは剣の腕は凄いけど、料理はからっきしだったりねー。」
そういってナーティをからかってみせる。料理ならこいつにだって負けないと思ったようだ。
「ふ、私も一人旅をしていたのだぞ? 傭兵で料理をこなせなかったらどう食い繋いでいくんだ。・・・貸してみろ。」
セレナはニヤリとした。包丁を渡し、後ろからエプロンをまきつけてやる。そして、正面からそれを見た。
「うはは! やっぱりナーティも女の人だね!」
セレナは前の侍女服を着ていたとき、意外と似合っていたのを覚えていたのだ。きつい性格だけど意外とこういう家庭的な服装が似合う。
「当たり前だ! それにお前にその台詞を言われたくなかったな。お前こそやはり少女だな。」
ナーティもやけにムキになって言い返した。それ以上に熱くなるセレナ。
「な! どーゆー意味よ!」
セレナがナーティの包丁捌きを見る。かなり手馴れているようだった。
「むー、ナーティもなかなかやるな・・・キャベツの千切りで勝負だ!」


146: 手強い名無しさん:05/11/20 23:51 ID:9sML7BIs
その後、夕飯にはおかずが隠れるほどのキャベツの千切りが皿に盛られることになる。更に、まだあっちのまな板の上にはたんまり千切りが積んであった。
「なぁ・・・今日はやたらキャベツな夕飯だな・・・。」
あのあと、二人ともやたらムキになって競争してしまったらしい。皆無言で山盛りのキャベツを頬張る。
「すまない・・・私としたことが、ついセレナの口車に乗ってしまった。」
「へぇ、ナーティさんが熱くなるなんて珍しいですね。」
アリスもキャベツを食べながら言う。千切りキャベツはかさばり、予想以上に腹が膨れた。
「ナーティって意外と熱くなるよ。シーナみたい。クールを装ってるけど、実は熱血女なのかも!」
セレナが笑いながら言う。・・・誰のせいでこうなったと思ってるんだとシーナは言いたげだった。こんなにキャベツを食べたのは久しぶりだが、もう暫くキャベツは食べたくないと皆は思った。

第十七章:勇者ローランと烈火の剣デュランダル

翌朝、一行は準備を終えると早速次の目的地を目指す。
「さぁて、昨日のキャベツのおかげでお腹もすっきりだ。 次はイリアかな?」
セレナが伸びをしながら次の目的地を模索する。エトルリアに隣接しているのはリキアとイリアである。
しかし、リキアはベルン五大牙の筆頭、グレゴリオ大将軍が駐留していると聞く。いきなりそんな名将を相手には出来ない。まずはイリアを攻略するべきだった。
「次に向かうはイリアだな。だが・・・その前に行くべき所がある。烈火の剣・・・別名デュランダルの眠るオスティア郊外だ。」
アレンはナーティの言葉に驚いた。確かに神将器を得るには最短ルートだが、オスティアはリキア一の都市で、グレゴリオが駐留する本拠地でもある。
「ナーティ殿。それは少々無理があるのでは?」
「無理も何も、神将器がなければ我々に勝ち目はないのだ。選択の余地はないだろう。それに、あそこなら人気も少ないから気付かれないだろう。問題はあそこに賊が巣食っていないかということだ。」
「ふむ・・・確かにあそこはベルン動乱時も賊が巣食っていた覚えがありますね・・・」
そんな二人の会話をセレナは屈伸をしながら聞いていた。
「ごちゃごちゃ言ってないで行こう。神将器が必要ならそれをとりに行くだけさ。邪魔するヤツは倒すのみサ。」
「そうだそうだ。邪魔するヤツはがつーんとやっつけちまおうぜ!」
クラウドもセレナに同調して、二人で歩みだす。性格が似ているためか、いつも二人は同じような考えだった。そんな二人にセレスは呆れながら付いていく。
「やれやれ・・・未開の野蛮人みたいな考えですね・・・。」


147: 手強い名無しさん:05/11/20 23:52 ID:9sML7BIs
「・・・差別を差別で返すのでは・・・何も生まぬ・・・。 差別されたからこそ、その苦しみを他の種族に与えてはならんのじゃ・・・。」
部下は黙って聞いていた。確かに人間族や竜族は憎い。だが、グレゴリオの言う事も否定しがたい事実だった。
「ふぅ・・年をとると愚痴っぽくなって困るわい。 ところで、反乱軍一行はしっかり進軍しておるかの。」
「は、情報によるとフォルブレイズとアーリアルを入手し、エトルリアを発ったようです。」
「ふむ・・・がんばるの。あいつら考え方には好感が持てる・・・。じゃが・・・ワシはメリアレーゼ様に忠誠を誓う騎士。敵には変わらぬ・・・。」
グレゴリオはそんな独り言を漏らしながら一路リキアへの帰路に着いた。

セレナ一行は、山間部からリキア領内に侵入していた。リキアは騎馬兵と重騎士の国。山間部までは深入りできないだろうと考えたのだ。
足元が悪い中、シーナは姉が何か考えながら歩いているのに気付いた。
「姉ちゃん・・・?どうかしたの?」
「え? いやぁちょっとさ・・・うわっ。」
セレナがつるに足を引っ掛けて転んだ。こんな山道で余所見をしながら歩いていれば、転ぶのも当然だ。
「大丈夫か? 全くおっちょこちょいだな。」
アレンが手を取って起き上がらせる。お尻が真っ黒だ。
「あはは、姉ちゃんらしいね。ところで、何を考えていたの?」
シーナが改めて聞きなおす。姉が黙り込んでいるなんて寝ているか考えているかのどちらかしかない。
「いや・・・リゲルのヤツが、母を奪ったって言ってたから・・・。」
「そのことで悩んでいるのか?」
ナーティが会話に入り込んでくる。きっとまた雑念を起こしているに違いない。将にとってそれは致命傷にもなりかねない。心の隙は戦場で露骨に表れる。
「うん・・・。やっぱり、リゲルも差別されて心が歪んじゃった人なのかな、と。」
「リゲルは幼いころ、人間によって母を殺されていたのだ。リゲル自身は至って普通の性格だったらしいが、その事実と、周りの教育によってその性格が豹変したらしい。」
「そんな! じゃあ、リゲルも・・・。」
セレナがやはりと言いたげな表情で返す。しかし、ナーティは冷たく言い放った。
「そうだ、ヤツも差別の被害者だ。だが、差別されからといって差別し返し、人道に反する行為を行ってよいというわけではない。」
「うん・・・。」
「ヤツは非道な圧制者であったことに変わりはなく、我々に同情する余地はない。これは戦争なんだ。そんな甘ったるい考えで世界を変えられると思っているのか!」
ナーティは何故かいつも以上に厳しい口調で叱った。セレナにはその理由が分かっていた。それだけ、世界を変えるという事は、心を鬼にして事実と向き合わねばならないということだった。
「そうだね・・・悪かったよ。リゲルみたいな人をこれ以上増やさない為にも、あたし達はがんばらないとね。」
そのセレナの言葉を聞き、ナーティも何時もの口調に戻った。と、言っても相変わらずだが。
「そうだ、それでいい。お前の考えは、お前だけのものではないのだ。お前の心の隙は、軍全体の隙になる。覚えておけ。」
アレンはどこかで聞いたような言葉だと思ってふと考えてみる。・・・そうだ、シャニー様がディーク殿に散々言われていた言葉だ。やはりセレナ様もシャニー様の子なんだなぁと何か歓心にも似た感情がこみ上げた。
そんな会話をしていると、目の前に大きな洞窟が広がっているのが見えてきた。アレンには見覚えのある場所だった。
「ねぇねぇ、洞窟ってあれの事かな。」
シーナが天馬で上空から見つけたらしい。一行もそれを暫くして見つけた。
「そうだな。あそこがデュランダルの眠る洞窟だ。さぁ、行こうか。」
アレンがそう言い、中に入ろうとしたそのときだった。
「待て!」
その声と同時にアレンの足元に手槍が突き刺さった。
「?! 何奴!」
どこかで聞いた覚えのある声だとセレナ達は思った。しかし、それが誰かを思い出そうとする必要はなかった。その前にその人物が現れたからである。


148: 手強い名無しさん:05/11/20 23:53 ID:9sML7BIs
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。


149: 手強い名無しさん:05/11/20 23:55 ID:9sML7BIs
あれ・・・またコピペミスってしまったようです>>148は、無視してくださいorz


150: 手強い名無しさん:05/11/20 23:56 ID:9sML7BIs
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。
「私こそこの前のようには行かぬ。今度こそ精霊術師をこちらに渡してもらう!」
周りにはミレディのほかにその仲間と思しき連中が結構な数いる。・・・よく見れば囲まれていた。
セレナ達は剣を抜き、応戦態勢をとる。だが、ここは山中。足場は悪く不利な状況だ。
「また来たか。主から見放された哀れな竜騎士よ。」
「黙れ! 私はギネヴィア様の遺志を継いでいる! 世界を悪魔に売るような堕天使に言われたくないわ! 皆の者! 精霊術師は生け捕りにせよ、他のもの生死は問わぬ。かかれ!」
そういい終わるや否や、ミレディは飛竜を操り、一気にセレナ達に接近してくる。しかし、セレナ達も負けてはない。西方で戦った時とは比べ物にならないぐらい皆成長していた。
「こいつはあたしに任せて! 西方での借りをきっちり返してやる!」
セレナがミレディに一騎打ちを挑む。自分は成長した。今度こそ絶対に勝ってみせる。他の者はミレディの配下を相手にする。アレンやナーティが次々と敵をなぎ倒していく。その姿はまさに戦神だった。シーナやクラウドもそれに負けじと二人で協力しながら一人ずつ片付けていく。地上と空中からの鋭い槍撃が相手を襲う。それに逃げ場はないといっても過言ではなった。
「へ、俺を相手にしようなんて10年早いぜ!」
クラウドが調子に乗って一気に突撃する。勢いに乗ったクラウドは確かに強いが、単に調子に乗っているときが一番危なかった。
「兄ちゃん! 後ろ!」
シーナが叫ぶ。後ろから狙われていた。騎士が後ろを取られれば、反撃はなかなか難しい。クラウドは相手の剣撃を受けてしまう。
「うぐっ。」
しかし、直ぐに体勢を整え、シーナと二人で片付ける。剣装備の敵には槍使い二人の攻撃は威力絶大だった。
「クラウド、無茶をしてはだめよ。」
アリスが後ろから回復魔法を飛ばしてくれた。もう少し前に出たいが、自分を相手は狙ってきている。アリスは一番後ろでセレスと共に後衛を守る。
「はは、バカは体力が違うね。戦いってのは頭でやるもんだぜ。いくぞ! フォルブレイズ!」
セレスがシーナやクラウドが捌き切れなくて囲まれ始めたところに、一気にフォルブレイズを放った。
その凄まじい、人知を超えた力に相手は為す術なく吹き飛ばされる。


151: 手強い名無しさん:05/11/20 23:56 ID:9sML7BIs
「うわっ!? おいこら! 俺たちにまで当ったらどうするんだ!」
目の前で起きた凄まじい爆発に、クラウドが慌てて怒鳴る。」
「いくらお前でもその中には突っ込まないだろうと思ったからさ。シーナはしっかり僕が魔法を撃つのを予想してたみたいだしね。」
シーナは上空に一時避難していた。・・・シーナ、俺にも教えてくれよ・・・。
しかし、魔法は詠唱を要する。その間に近づかれては詠唱どころではない。ましてこのような超魔法だ。詠唱は半端になく長い。
それを相手に狙われた。身軽な敵剣士が一気に後衛まで走り寄ってきたのである。前衛と違い、系装備でろくな武装もしてない後衛陣が、剣士相手に無傷でいられるはずがない。
「な、くそっ。」
セレスが必死に魔法を詠唱しようとするも、剣士に攻撃されてそれどころではない。とうとう避けきれず、剣が振り下ろされた。
「?!」
しかし、痛くない。セレスが良く見ると、クラウドが剣を鎧で受けていた。
「へっ、バカに助けられるとは、お前も同類ってことだな!」
「・・・ふん、あんなの避けていたからどうってことないよ。勝手に同類視しないでくれ。」
それを聞いてクラウドはやはり頭に血が上った。
「けっ、素直じゃないヤツ!」
急いで前線に戻るクラウドに、セレスが話しかけた。しかし、その声はクラウドに届いていない。
「・・・助かった、ありがとう。」
「セレスさん、クラウドに聞こえてないわよ。もっと大きな声で言わないと。」
アリスにそういわれ顔を赤くしながらセレスは答えた。
「べ、別に聞こえなくていいんです。あいつは褒めると調子に乗りますから!」
アリスはそんな反応を笑いながら見ていた。

一方セレナはミレディと一騎打ちを続けていた。セレナは繰り出される白銀の槍をかわし、一気に二刀流をお見舞いする。ミレディもそんなセレナの剣を槍で弾きながら距離を開ける。互いに一歩も引かない。
「ほう・・・たったあれだけの期間でこれほどまでに腕を上げるとは、流石と言ったところか。やはり見込み違いではなかったな。」
「あんただって! あたしにとっちゃいいライバルだ! あたしはあれ以来、あんたに勝つためにがんばってきたんだ!」
暫く剣と槍のぶつかる激しい大将戦が繰り広げられていた。ナーティは周りの敵を一掃すると、それを黙ってみていた。
「あいつ・・・なかなかやるではないか。私の教えた事をしっかり吸収している。」
アレンはそんなナーティを見て少し呆れた。何時ものように、セレナを助ける事もせずに傍観しているからである。
「ナーティ殿・・・。貴女は仮にも傭兵なのですから、セレナ様をお助けしていただきたい・・・。」
しかし、ナーティは黙ったままだった。そして、ミレディが槍を弾かれ、少しからだが外に開いた、その瞬間。
「今だ!セレナ。ツバメ返しだ!」
セレナはそのナーティのいきなりの声に慌てたが、直ぐに状況を把握し、ナーティがやっていたツバメ返しを見よう見まねでミレディにぶつけた。
「ぐはっ」
そのツバメ返しは、まだ全然形になっていなかった。だが、バランスを崩していたミレディにとっては十分な威力で彼女は飛竜から叩き落された。その彼女の喉元に、セレナが剣を当てた。
「・・・。私の負けか・・・。やはり、ナーガの化身相手に私一人では、荷が重すぎたか・・・。」
セレナが剣をのど元から離す。
「!? 敵に二度までも情けをかけられるとは・・・騎士として最大の恥だ・・・。」
ミレディが下を向いた。もはや戦意はない。
「なんで・・・世界を救おうとしているあたしたちの邪魔ばかりするのさ。」
しかし、セレナのその言葉を聞いた途端、上を向き、セレナを睨みつけながら逆上して言った。
「世界を救うだと!? ふざけるな! 貴様達が自らの行いを正義というなら、こちらも正義だ。世界を救おうとしているのは我々のほうだ!」
ミレディはすばやくセレナに足払いをすると、一気に飛流に飛び乗り、上空へ舞い上がった。
「いいか! 覚えておけ、自分達だけが正義と思うな! 次こそは必ずや精霊術師を我らが手中に収めてみせる! その時まで死ぬなよ!」
そう言い残すと、ミレディは南の空へ飛び去っていった。他の配下の者も、一人が飛竜になり、他の者がそれに乗って飛び去っていく。どうやら竜族と人間族の混成部隊だったようだ。


152: 手強い名無しさん:05/11/20 23:57 ID:9sML7BIs
「いったー・・・。へん、首を洗って待ってるぜ!」
セレナが起き上がりながら、空のかなたのミレディに叫ぶ。
「姉ちゃん・・・。首を洗って待っててどうするのよ・・・。」
「え? なんかあたし間違った事言った? あれでしょ、雨降って地固めればいいんでしょ?」
「??」
困惑するシーナ。姉の言うことはどこか間違っているような正しいような難しい言い方をするので困る時があった。
「だから! 雨降らしの神様が、地面をドロドロにして人々を困らそうと雨を降らした。それなのに逆に地面は固まっちゃった。
それと同じで、何かしようとしても返り討ちにあうって事じゃん。あたしたちもあいつらが邪魔しに来ても返り討ちにすればいいのさ。だから雨降って地固める。そんな事も知らないの?」
「おー、すげー。セレナ、お前頭いいな!」
それにクラウドも同調してしまう。クラウドに褒められたセレナは照れるといった表情をして得意がる。
シーナはどう反応すればいいか分からなくなった。しかし、セレスは黙ってはいない。
「用法、解釈、どちらとも誤りがありますね。今日の夜みっちり僕と勉強しましょうか、セレナ。それにクラウド!」
「何でお前俺に対してはそんな怒り口調なんだよ!」
そんな会話を割って、アレンが行った。
「・・・バカな事を言っていないで早く神将器をとりに行くぞ。クラウド、お前ももう少し勉強しなさい。」
アレンがクラウドに説教しながら洞窟に入っていく。クラウドは何とか父親を振りほどくと、ナーティの方に寄って言った。
「なぁ、また一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「あんた、さっきあの竜騎士に堕天使とか言われてたよな? どう言う事だ?」
その質問に、ナーティは暫く黙していたが、やがて目を瞑って答えた。
「・・・私は傭兵だ。どこかでそのような通り名をつけられたのだろう。見れば分かるだろう? 人情味のない、冷たい人間だという事が。そういうことではないか?」
クラウドはイマイチ納得できないというような表情をしている。もっと突っ込んだ話をし言うとした時、誰かに後ろから首根っこを鷲掴みにされた。
「いてててっ。」
「まったく、お前というヤツは! 父親の話もろくに聞けんのか!」
アレンだった。アレンはクラウドをそのまま引っ張っていく。ナーティはちょっとほっとしたような表情をしながらぽつりと独り言を言った。
「・・・クラウド・・・。 それにしても堕天使か。ふっ、私には相応しいかもしれないな。」
そんな独り言をセレナ達が聞いていたらしい。ナーティの傍に寄って行っていろいろ話しながら洞窟に入っていった。
「なんなんだ?」
クラウドが真っ先に声を上げる。中には大勢人が倒れていたのである。交戦したあとが残っている。
よく見るとこれは賊のようだ。
「こいつらは・・・我々が気にしていた、ここを根城にする盗賊団ではないだろうか?」
アレンが言う。ベルン動乱の時も、ここには盗賊団が巣食い、ロイ達の行く手を阻んだ。その生き残りが、またここを根城にしていたようだ。
「でも、誰がこんなことを。」
セレスが不思議がる。自分達の妨害をするあの竜騎士の連中が、自分達の助けになるようなことをするだろうか。
「多分先ほどの連中だろう。奴らの言っていたことを思い出せ。自分達も正義を貫いていると、奴らは言っていた。力の無い民を狙う盗賊団を、奴らは生かしてい置けなかったのだろう。ミレディ殿ならやりかねない事だ・・・。」
ナーティが言った。ナーティはやたらミレディについては詳しかった。クラウドがその理由を尋ねたところ、昔ベルンに傭兵としていたころ、話したことがあったそうだ。
セレナは、ナーティはもっといろいろ知っているのではないかと思っていた。しかし、クラウドと違い、怪しむことはしなかった。自分にとっては剣に師匠であり、よき人生の先輩だったからだ。冷たいけど信頼の置ける人物・・・姉貴だと、セレナは思っていた。


153: 手強い名無しさん:05/11/20 23:57 ID:9sML7BIs
何時ものように一行は祭壇を探す。しかし、アレンはふと思い出した。デュランダルの取り出し方は、オスティア候直系の者しか分からないはず・・・。一抹の不安を胸に、一行は祭壇までたどり着く。
「じゃあ、いつもどおりやるわよ。みんなもお祈りして。」
アリスが祈り始める。それを見た他の者も同じように祈る。この場にいる精霊にアリスが話しかけてみる。すると、何処からか声が聞こえてきた。
「オレを・・・オレを呼ぶのは誰だ・・・?」
ローランだった。次第に声は大きくなり、皆の心の中に、実態としてその姿を現した。勇者ローラン・・・大剣デュランダルを扱ったにしてはかなり小柄な人物だ。
「私はアリス。私達は、世界をあるべき姿に戻す為に、貴方の力を必要としています。どうか、その力をお貸しいただけませんか?」
アリスが早速交渉を開始する。デュランダルは、かつて自分の祖父も使ったことのある伝説の剣。その力を天まで届き、大地の理を正すほどだったという。今、その伝説の剣を扱った、伝説の勇者と対話しているのだ。
「お前達が・・・オレの子孫だな・・・。わかるぞ、半世紀前に来た男と同じような真っ直ぐな目をしているな。」
半世紀前に来た男・・・エリウッド爺様の事だ。そう、セレナもシーナも思った。両親の顔すら覚えのない双子にとって、祖父はもう全く分からない存在であった。
「あたし達は、今、世界中に笑顔が溢れるような、皆が幸せに生きていける世界を目指して旅をしてる。そのために、貴方の力が必要なんだ。お願い、デュランダルを扱う事をあたし達に許して。」
セレナがアリスに続き交渉する。自分にも、このローランの血が少なからず流れている。自分の遠い祖先と対話する事は、何か不思議な気分だった。
「・・・時とは無常なものだな。時は人を傲慢にする。最初は謙虚だった人々の世界を、欲と嫉妬に満ち、争いあう世界へと変えてしまう。無垢で穢れない子供の心を、そういった欲まみれの汚い大人の心へと変えてしまう・・・。」
セレナ達はそれを黙って聞いていた。ベルン動乱で両親が神将器を用い、世界を正して四半世紀も経たない内に、また争いは起こり、両親は倒れた。ローランは続けた。
「オレもこの小柄な体格を散々バカにされたこともあった。時は人を傲慢に変え、その傲慢になった人々の目は、自分と容を異なるものに向けられる。自分と異なるものを認められなくなるのだ。それは次第に差別へと進行し、埋められない溝へと発展する。」
自分と異なるものを恐怖し、認められなくなる。人間族がハーフを毛嫌いした理由はなんだろうか・・・。それは今の一行には分からなかった。だが、とにかく傲慢になった人間が、自分達と異なるハーフや竜族を認められなくなった時、戦争の火種がくすぶり始めたのだろう。そして、実際に竜族との確執は人竜戦役という形で、ハーフとのそれは今まさに現在進行形で行われていた。
「わかるか? 人間の心に卑しき心がある限り、それは時が増長させ争いに発展する。例えお前達が正したところで、また時が経てば同じような問題が発生する。」
「でも、間違っていると思うことは、今からでも改めればいい。皆に間違っている事を理解してもらえるように努力する。間違えたら・・・やり直せばいいと思う。」
シーナがローランに答えた。間違っていると知りつつも、それを見て見ぬ振りをしていては、歪はますます酷くなるばかり。そしてその歪は、ある時突然、大きな災いに姿を変える。・・・そうなってしまってからでは遅い。
「間違えたらやり直せばいい、か・・・。簡単に言ってくれるな。世界一般の認識を変えていくことは、並大抵の努力では為しえない事。・・・それでも、やるのか?」
「やるったらやるの! やるしか世界を正す方法はないんだから! 現にエトルリアは、人間とハーフが手を取り合う国に変わりつつある。あれだって、あたし達・・・皆でがんばった成果だと思ってる。」
セレナがローランに返す。そうだ、やるしかないのだ。例えどんな困難が立ちふさがっても、仲間と一緒に乗り越えていく。間違えたらそれを認めて正し、また歩む。これが大切だった。傲慢になった人間には、自らの過ちも、自らと異なるものも認められなかった。これが大きな災いを生む原因だった。
「そうか・・・わかった。では、お前達が本当にその遺志を達成できるほどの力があるか試してやろう。・・・剣を取れ。」
目を閉じて祈っていた一行が、風を感じた。気になって目を開けてみると・・・そこにはなんとローランがいるではないか! その手には大剣・・・デュランダルが握られている。
「うそっ!? 神将と戦えって言うわけ?!」
「いくぞっ、何かを達成しようとすれば、それにはそれに相応しい力が必要だ。お前達にそれがあるか試させてもらう!」


154: 手強い名無しさん:05/11/21 09:18 ID:gAExt6/c
おはようございます。。
見直してみたところ>>147-148の当りのつながりがおかしくなっていますね・・・
整理して>>155-156に再度うpします。。
分かりづらくなって申し訳ありませぬorz

155: 147:05/11/21 09:20 ID:gAExt6/c
そのころ、セレナ達が警戒していた相手、グレゴリオ大将軍は本国に帰還し、報告を行っていた。
「メリアレーゼ様・・・エトルリアのリゲルも討伐された模様です。」
「そうですか・・・。 五大牙も大したことはありませんね。」
グレゴリオの報告に淡々と返すメリアレーゼ。その落ち着き方はどこか不気味さすら感じる。二人は水晶を使ってアクレイア内を投影してみる。
「ご覧ください・・・人々のこの嬉しそうな笑顔を・・・。人間もハーフも協力して、町の復興に当っている・・・。ここはある意味差別を克服しました。メリアレーゼ様がかつての理想とした形ができあがりつつあるのです。」
「・・・グレゴリオ、お前は何が言いたいのですか?」
「は、出すぎたことを申すようですが、やはり我々は、差別のない世界というものの真の意味を考え直す必要があるのではないかと・・・。」
「お前は私が幼少、いや私の親の代から仕えてくれている重鎮だ。それならばわかるだろう、これが見せかけの、一過性の平和に過ぎないということが。」
「しかし、あれを復活させてしまえば、差別はなくなるのでしょうか。それ以前に平和が保たれるかどうかすら疑問です。」
「平和になるでしょう・・・。圧倒的な力の元に皆平等になる。種族というつまらない壁が取り払われるのですよ。圧倒的な力の前では皆大人しくなる、戦争もなくなる。それが、私の理想だ。」
「・・・。」
グレゴリオはたびたびメリアレーゼに考えを改めてもらえるように説得をしていた。聡明な賢者であったメリアレーゼならきっと一考してくれるに違いない。しかし・・・今はもうその面影はない。狂気に満ちた憤怒の女帝であった。
「ワシは平和になるとはとても思えませぬ。確かに戦争はなくなるかもしれませぬ。じゃが、平和というのは人の笑顔があってこそ・・・。それでは平和というより奴隷です・・・。」
「仕方ないだろう。人とはそんな生き物だ。強い者の前では跪き、弱い者を殴る。人は奴隷のように服従するのみでしか、統制は取れないのだ・・・。」
メリアレーゼにこれ以上説得しても意味がないと悟ったグレゴリオは、メリアレーゼの元を離れる。そして、部下に言った。
「・・・差別を差別で返すのでは・・・何も生まぬ・・・。 差別されたからこそ、その苦しみを他の種族に与えてはならんのじゃ・・・。」
部下は黙って聞いていた。確かに人間族や竜族は憎い。だが、グレゴリオの言う事も否定しがたい事実だった。
「ふぅ・・年をとると愚痴っぽくなって困るわい。 ところで、反乱軍一行はしっかり進軍しておるかの。」
「は、情報によるとフォルブレイズとアーリアルを入手し、エトルリアを発ったようです。」
「ふむ・・・がんばるの。あいつら考え方には好感が持てる・・・。じゃが・・・ワシはメリアレーゼ様に忠誠を誓う騎士。敵には変わらぬ・・・。」
グレゴリオはそんな独り言を漏らしながら一路リキアへの帰路に着いた。


156: 148:05/11/21 09:22 ID:gAExt6/c
セレナ一行は、山間部からリキア領内に侵入していた。リキアは騎馬兵と重騎士の国。山間部までは深入りできないだろうと考えたのだ。
足元が悪い中、シーナは姉が何か考えながら歩いているのに気付いた。
「姉ちゃん・・・?どうかしたの?」
「え? いやぁちょっとさ・・・うわっ。」
セレナがつるに足を引っ掛けて転んだ。こんな山道で余所見をしながら歩いていれば、転ぶのも当然だ。
「大丈夫か? 全くおっちょこちょいだな。」
アレンが手を取って起き上がらせる。お尻が真っ黒だ。
「あはは、姉ちゃんらしいね。ところで、何を考えていたの?」
シーナが改めて聞きなおす。姉が黙り込んでいるなんて寝ているか考えているかのどちらかしかない。
「いや・・・リゲルのヤツが、母を奪ったって言ってたから・・・。」
「そのことで悩んでいるのか?」
ナーティが会話に入り込んでくる。きっとまた雑念を起こしているに違いない。将にとってそれは致命傷にもなりかねない。心の隙は戦場で露骨に表れる。
「うん・・・。やっぱり、リゲルも差別されて心が歪んじゃった人なのかな、と。」
「リゲルは幼いころ、人間によって母を殺されていたのだ。リゲル自身は至って普通の性格だったらしいが、その事実と、周りの教育によってその性格が豹変したらしい。」
「そんな! じゃあ、リゲルも・・・。」
セレナがやはりと言いたげな表情で返す。しかし、ナーティは冷たく言い放った。
「そうだ、ヤツも差別の被害者だ。だが、差別されからといって差別し返し、人道に反する行為を行ってよいというわけではない。」
「うん・・・。」
「ヤツは非道な圧制者であったことに変わりはなく、我々に同情する余地はない。これは戦争なんだ。そんな甘ったるい考えで世界を変えられると思っているのか!」
ナーティは何故かいつも以上に厳しい口調で叱った。セレナにはその理由が分かっていた。それだけ、世界を変えるという事は、心を鬼にして事実と向き合わねばならないということだった。
「そうだね・・・悪かったよ。リゲルみたいな人をこれ以上増やさない為にも、あたし達はがんばらないとね。」
そのセレナの言葉を聞き、ナーティも何時もの口調に戻った。と、言っても相変わらずだが。
「そうだ、それでいい。お前の考えは、お前だけのものではないのだ。お前の心の隙は、軍全体の隙になる。覚えておけ。」
アレンはどこかで聞いたような言葉だと思ってふと考えてみる。・・・そうだ、シャニー様がディーク殿に散々言われていた言葉だ。やはりセレナ様もシャニー様の子なんだなぁと何か歓心にも似た感情がこみ上げた。
そんな会話をしていると、目の前に大きな洞窟が広がっているのが見えてきた。アレンには見覚えのある場所だった。
「ねぇねぇ、洞窟ってあれの事かな。」
シーナが天馬で上空から見つけたらしい。一行もそれを暫くして見つけた。
「そうだな。あそこがデュランダルの眠る洞窟だ。さぁ、行こうか。」
アレンがそう言い、中に入ろうとしたそのときだった。
「待て!」
その声と同時にアレンの足元に手槍が突き刺さった。
「?! 何奴!」
どこかで聞いた覚えのある声だとセレナ達は思った。しかし、それが誰かを思い出そうとする必要はなかった。その前にその人物が現れたからである。
「あー! お前は西方で姉貴を狙った悪党! また狙いに来たな! 今度は前みたいにはいかないぞ!」
その人物とはミレディだった。彼女は飛竜を颯爽と操り、セレナ達の前に立ちはだかった。
「私こそこの前のようには行かぬ。今度こそ精霊術師をこちらに渡してもらう!」
周りにはミレディのほかにその仲間と思しき連中が結構な数いる。・・・よく見れば囲まれていた。
セレナ達は剣を抜き、応戦態勢をとる。だが、ここは山中。足場は悪く不利な状況だ。


157: 149:05/11/21 09:23 ID:gAExt6/c
「また来たか。主から見放された哀れな竜騎士よ。」
「黙れ! 私はギネヴィア様の遺志を継いでいる! 世界を悪魔に売るような堕天使に言われたくないわ! 皆の者! 精霊術師は生け捕りにせよ、他のもの生死は問わぬ。かかれ!」
そういい終わるや否や、ミレディは飛竜を操り、一気にセレナ達に接近してくる。しかし、セレナ達も負けてはない。西方で戦った時とは比べ物にならないぐらい皆成長していた。
「こいつはあたしに任せて! 西方での借りをきっちり返してやる!」
セレナがミレディに一騎打ちを挑む。自分は成長した。今度こそ絶対に勝ってみせる。他の者はミレディの配下を相手にする。アレンやナーティが次々と敵をなぎ倒していく。その姿はまさに戦神だった。シーナやクラウドもそれに負けじと二人で協力しながら一人ずつ片付けていく。地上と空中からの鋭い槍撃が相手を襲う。それに逃げ場はないといっても過言ではなった。
「へ、俺を相手にしようなんて10年早いぜ!」
クラウドが調子に乗って一気に突撃する。勢いに乗ったクラウドは確かに強いが、単に調子に乗っているときが一番危なかった。
「兄ちゃん! 後ろ!」
シーナが叫ぶ。後ろから狙われていた。騎士が後ろを取られれば、反撃はなかなか難しい。クラウドは相手の剣撃を受けてしまう。
「うぐっ。」
しかし、直ぐに体勢を整え、シーナと二人で片付ける。剣装備の敵には槍使い二人の攻撃は威力絶大だった。
「クラウド、無茶をしてはだめよ。」
アリスが後ろから回復魔法を飛ばしてくれた。もう少し前に出たいが、自分を相手は狙ってきている。アリスは一番後ろでセレスと共に後衛を守る。
「はは、バカは体力が違うね。戦いってのは頭でやるもんだぜ。いくぞ! フォルブレイズ!」
セレスがシーナやクラウドが捌き切れなくて囲まれ始めたところに、一気にフォルブレイズを放った。
その凄まじい、人知を超えた力に相手は為す術なく吹き飛ばされる。
「うわっ!? おいこら! 俺たちにまで当ったらどうするんだ!」
目の前で起きた凄まじい爆発に、クラウドが慌てて怒鳴る。」
「いくらお前でもその中には突っ込まないだろうと思ったからさ。シーナはしっかり僕が魔法を撃つのを予想してたみたいだしね。」
シーナは上空に一時避難していた。・・・シーナ、俺にも教えてくれよ・・・。
しかし、魔法は詠唱を要する。その間に近づかれては詠唱どころではない。ましてこのような超魔法だ。詠唱は半端になく長い。
それを相手に狙われた。身軽な敵剣士が一気に後衛まで走り寄ってきたのである。前衛と違い、系装備でろくな武装もしてない後衛陣が、剣士相手に無傷でいられるはずがない。
「な、くそっ。」
セレスが必死に魔法を詠唱しようとするも、剣士に攻撃されてそれどころではない。とうとう避けきれず、剣が振り下ろされた。
「?!」
しかし、痛くない。セレスが良く見ると、クラウドが剣を鎧で受けていた。
「へっ、バカに助けられるとは、お前も同類ってことだな!」
「・・・ふん、あんなの避けていたからどうってことないよ。勝手に同類視しないでくれ。」
それを聞いてクラウドはやはり頭に血が上った。
「けっ、素直じゃないヤツ!」
急いで前線に戻るクラウドに、セレスが話しかけた。しかし、その声はクラウドに届いていない。
「・・・助かった、ありがとう。」
「セレスさん、クラウドに聞こえてないわよ。もっと大きな声で言わないと。」
アリスにそういわれ顔を赤くしながらセレスは答えた。
「べ、別に聞こえなくていいんです。あいつは褒めると調子に乗りますから!」
アリスはそんな反応を笑いながら見ていた。


158: 150:05/11/21 09:25 ID:gAExt6/c
一方セレナはミレディと一騎打ちを続けていた。セレナは繰り出される白銀の槍をかわし、一気に二刀流をお見舞いする。ミレディもそんなセレナの剣を槍で弾きながら距離を開ける。互いに一歩も引かない。
「ほう・・・たったあれだけの期間でこれほどまでに腕を上げるとは、流石と言ったところか。やはり見込み違いではなかったな。」
「あんただって! あたしにとっちゃいいライバルだ! あたしはあれ以来、あんたに勝つためにがんばってきたんだ!」
暫く剣と槍のぶつかる激しい大将戦が繰り広げられていた。ナーティは周りの敵を一掃すると、それを黙ってみていた。
「あいつ・・・なかなかやるではないか。私の教えた事をしっかり吸収している。」
アレンはそんなナーティを見て少し呆れた。何時ものように、セレナを助ける事もせずに傍観しているからである。
「ナーティ殿・・・。貴女は仮にも傭兵なのですから、セレナ様をお助けしていただきたい・・・。」
しかし、ナーティは黙ったままだった。そして、ミレディが槍を弾かれ、少しからだが外に開いた、その瞬間。
「今だ!セレナ。ツバメ返しだ!」
セレナはそのナーティのいきなりの声に慌てたが、直ぐに状況を把握し、ナーティがやっていたツバメ返しを見よう見まねでミレディにぶつけた。
「ぐはっ」
そのツバメ返しは、まだ全然形になっていなかった。だが、バランスを崩していたミレディにとっては十分な威力で彼女は飛竜から叩き落された。その彼女の喉元に、セレナが剣を当てた。
「・・・。私の負けか・・・。やはり、ナーガの化身相手に私一人では、荷が重すぎたか・・・。」
セレナが剣をのど元から離す。
「!? 敵に二度までも情けをかけられるとは・・・騎士として最大の恥だ・・・。」
ミレディが下を向いた。もはや戦意はない。
「なんで・・・世界を救おうとしているあたしたちの邪魔ばかりするのさ。」
しかし、セレナのその言葉を聞いた途端、上を向き、セレナを睨みつけながら逆上して言った。
「世界を救うだと!? ふざけるな! 貴様達が自らの行いを正義というなら、こちらも正義だ。世界を救おうとしているのは我々のほうだ!」
ミレディはすばやくセレナに足払いをすると、一気に飛流に飛び乗り、上空へ舞い上がった。
「いいか! 覚えておけ、自分達だけが正義と思うな! 次こそは必ずや精霊術師を我らが手中に収めてみせる! その時まで死ぬなよ!」
そう言い残すと、ミレディは南の空へ飛び去っていった。他の配下の者も、一人が飛竜になり、他の者がそれに乗って飛び去っていく。どうやら竜族と人間族の混成部隊だったようだ。
「いったー・・・。へん、首を洗って待ってるぜ!」
セレナが起き上がりながら、空のかなたのミレディに叫ぶ。
「姉ちゃん・・・。首を洗って待っててどうするのよ・・・。」
「え? なんかあたし間違った事言った? あれでしょ、雨降って地固めればいいんでしょ?」
「??」
困惑するシーナ。姉の言うことはどこか間違っているような正しいような難しい言い方をするので困る時があった。
「だから! 雨降らしの神様が、地面をドロドロにして人々を困らそうと雨を降らした。それなのに逆に地面は固まっちゃった。
それと同じで、何かしようとしても返り討ちにあうって事じゃん。あたしたちもあいつらが邪魔しに来ても返り討ちにすればいいのさ。だから雨降って地固める。そんな事も知らないの?」
「おー、すげー。セレナ、お前頭いいな!」
それにクラウドも同調してしまう。クラウドに褒められたセレナは照れるといった表情をして得意がる。
シーナはどう反応すればいいか分からなくなった。しかし、セレスは黙ってはいない。
「用法、解釈、どちらとも誤りがありますね。今日の夜みっちり僕と勉強しましょうか、セレナ。それにクラウド!」
「何でお前俺に対してはそんな怒り口調なんだよ!」
そんな会話を割って、アレンが行った。
「・・・バカな事を言っていないで早く神将器をとりに行くぞ。クラウド、お前ももう少し勉強しなさい。」
アレンがクラウドに説教しながら洞窟に入っていく。クラウドは何とか父親を振りほどくと、ナーティの方に寄って言った。
「なぁ、また一つ聞いていいか?」


159: 151:05/11/21 09:26 ID:gAExt6/c
「なんだ?」
「あんた、さっきあの竜騎士に堕天使とか言われてたよな? どう言う事だ?」
その質問に、ナーティは暫く黙していたが、やがて目を瞑って答えた。
「・・・私は傭兵だ。どこかでそのような通り名をつけられたのだろう。見れば分かるだろう? 人情味のない、冷たい人間だという事が。そういうことではないか?」
クラウドはイマイチ納得できないというような表情をしている。もっと突っ込んだ話をし言うとした時、誰かに後ろから首根っこを鷲掴みにされた。
「いてててっ。」
「まったく、お前というヤツは! 父親の話もろくに聞けんのか!」
アレンだった。アレンはクラウドをそのまま引っ張っていく。ナーティはちょっとほっとしたような表情をしながらぽつりと独り言を言った。
「・・・クラウド・・・。 それにしても堕天使か。ふっ、私には相応しいかもしれないな。」
そんな独り言をセレナ達が聞いていたらしい。ナーティの傍に寄って行っていろいろ話しながら洞窟に入っていった。
「なんなんだ?」
クラウドが真っ先に声を上げる。中には大勢人が倒れていたのである。交戦したあとが残っている。
よく見るとこれは賊のようだ。
「こいつらは・・・我々が気にしていた、ここを根城にする盗賊団ではないだろうか?」
アレンが言う。ベルン動乱の時も、ここには盗賊団が巣食い、ロイ達の行く手を阻んだ。その生き残りが、またここを根城にしていたようだ。
「でも、誰がこんなことを。」
セレスが不思議がる。自分達の妨害をするあの竜騎士の連中が、自分達の助けになるようなことをするだろうか。
「多分先ほどの連中だろう。奴らの言っていたことを思い出せ。自分達も正義を貫いていると、奴らは言っていた。力の無い民を狙う盗賊団を、奴らは生かしてい置けなかったのだろう。ミレディ殿ならやりかねない事だ・・・。」
ナーティが言った。ナーティはやたらミレディについては詳しかった。クラウドがその理由を尋ねたところ、昔ベルンに傭兵としていたころ、話したことがあったそうだ。
セレナは、ナーティはもっといろいろ知っているのではないかと思っていた。しかし、クラウドと違い、怪しむことはしなかった。自分にとっては剣に師匠であり、よき人生の先輩だったからだ。冷たいけど信頼の置ける人物・・・姉貴だと、セレナは思っていた。
何時ものように一行は祭壇を探す。しかし、アレンはふと思い出した。デュランダルの取り出し方は、オスティア候直系の者しか分からないはず・・・。一抹の不安を胸に、一行は祭壇までたどり着く。
「じゃあ、いつもどおりやるわよ。みんなもお祈りして。」
アリスが祈り始める。それを見た他の者も同じように祈る。この場にいる精霊にアリスが話しかけてみる。すると、何処からか声が聞こえてきた。
「オレを・・・オレを呼ぶのは誰だ・・・?」
ローランだった。次第に声は大きくなり、皆の心の中に、実態としてその姿を現した。勇者ローラン・・・大剣デュランダルを扱ったにしてはかなり小柄な人物だ。
「私はアリス。私達は、世界をあるべき姿に戻す為に、貴方の力を必要としています。どうか、その力をお貸しいただけませんか?」
アリスが早速交渉を開始する。デュランダルは、かつて自分の祖父も使ったことのある伝説の剣。その力を天まで届き、大地の理を正すほどだったという。今、その伝説の剣を扱った、伝説の勇者と対話しているのだ。
「お前達が・・・オレの子孫だな・・・。わかるぞ、半世紀前に来た男と同じような真っ直ぐな目をしているな。」
半世紀前に来た男・・・エリウッド爺様の事だ。そう、セレナもシーナも思った。両親の顔すら覚えのない双子にとって、祖父はもう全く分からない存在であった。
「あたし達は、今、世界中に笑顔が溢れるような、皆が幸せに生きていける世界を目指して旅をしてる。そのために、貴方の力が必要なんだ。お願い、デュランダルを扱う事をあたし達に許して。」
セレナがアリスに続き交渉する。自分にも、このローランの血が少なからず流れている。自分の遠い祖先と対話する事は、何か不思議な気分だった。
「・・・時とは無常なものだな。時は人を傲慢にする。最初は謙虚だった人々の世界を、欲と嫉妬に満ち、争いあう世界へと変えてしまう。無垢で穢れない子供の心を、そういった欲まみれの汚い大人の心へと変えてしまう・・・。」
セレナ達はそれを黙って聞いていた。ベルン動乱で両親が神将器を用い、世界を正して四半世紀も経たない内に、また争いは起こり、両親は倒れた。ローランは続けた。


160: 152:05/11/21 09:27 ID:gAExt6/c
「オレもこの小柄な体格を散々バカにされたこともあった。時は人を傲慢に変え、その傲慢になった人々の目は、自分と容を異なるものに向けられる。自分と異なるものを認められなくなるのだ。それは次第に差別へと進行し、埋められない溝へと発展する。」
自分と異なるものを恐怖し、認められなくなる。人間族がハーフを毛嫌いした理由はなんだろうか・・・。それは今の一行には分からなかった。だが、とにかく傲慢になった人間が、自分達と異なるハーフや竜族を認められなくなった時、戦争の火種がくすぶり始めたのだろう。そして、実際に竜族との確執は人竜戦役という形で、ハーフとのそれは今まさに現在進行形で行われていた。
「わかるか? 人間の心に卑しき心がある限り、それは時が増長させ争いに発展する。例えお前達が正したところで、また時が経てば同じような問題が発生する。」
「でも、間違っていると思うことは、今からでも改めればいい。皆に間違っている事を理解してもらえるように努力する。間違えたら・・・やり直せばいいと思う。」
シーナがローランに答えた。間違っていると知りつつも、それを見て見ぬ振りをしていては、歪はますます酷くなるばかり。そしてその歪は、ある時突然、大きな災いに姿を変える。・・・そうなってしまってからでは遅い。
「間違えたらやり直せばいい、か・・・。簡単に言ってくれるな。世界一般の認識を変えていくことは、並大抵の努力では為しえない事。・・・それでも、やるのか?」
「やるったらやるの! やるしか世界を正す方法はないんだから! 現にエトルリアは、人間とハーフが手を取り合う国に変わりつつある。あれだって、あたし達・・・皆でがんばった成果だと思ってる。」
セレナがローランに返す。そうだ、やるしかないのだ。例えどんな困難が立ちふさがっても、仲間と一緒に乗り越えていく。間違えたらそれを認めて正し、また歩む。これが大切だった。傲慢になった人間には、自らの過ちも、自らと異なるものも認められなかった。これが大きな災いを生む原因だった。
「そうか・・・わかった。では、お前達が本当にその遺志を達成できるほどの力があるか試してやろう。・・・剣を取れ。」
目を閉じて祈っていた一行が、風を感じた。気になって目を開けてみると・・・そこにはなんとローランがいるではないか! その手には大剣・・・デュランダルが握られている。
「うそっ!? 神将と戦えって言うわけ?!」
「いくぞっ、何かを達成しようとすれば、それにはそれに相応しい力が必要だ。お前達にそれがあるか試させてもらう!」


161: 153,160の続きでし:05/11/21 09:29 ID:gAExt6/c
ローランが大剣を軽々と持ち上げ、セレナ達に迫ってくる。早い! あの小柄な体格で大剣を持っているとはとても思えないスピードだ。
「セレナ! 何をぐずぐずしている! 早く剣を抜け!」
ナーティがローランに走り寄りながらセレナに怒鳴った。ナーティもまさかローランが挑んでくるとか予想外だった様だ。
セレナは剣を抜いたが、ナーティとローランの攻防にしばし見とれてしまう。ナーティがローランの鋭く、重い一撃を避け、光速の剣撃を叩き込む。それをローランが軽くデュランダルで受け止める。お互い早くて目が付いていかない。二人の剣神がまさに牙を向き合っているという状況だった。
「セレナ! 何をボーっとしている! 認められなければならいのは、お前達なのだぞ! 私のような傭兵に任せてどうする!」
もう一度ナーティに怒鳴られてセレナはようやく我に返る。しかし、その際隙が出来たのか、とうとうナーティにローランの一撃が直撃する。
「ちっ・・・。」
大剣の前に軽々ナーティが吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられる。アリスが慌ててナーティに回復魔法を飛ばす。まさかナーティがやられてしまうなんて。
セレナ達が今度はローランに挑みかかる。しかし、まだ間合いが広かったそのときだった。
「いくぞ! うりゃぁ!」
ローランが大剣を地面に力任せに突き刺した。その途端、その場所から音を立ててセレナ達のほうへ向けて衝撃波を伴った地割れが迫ってきた。
「うわっ?!」
シーナ空中にいたから無事だった。セレナも焦ったが、何とか空中に逃げた。セレナのいた場所を凄まじいスピードで駆け抜けた地割れは、そのまま洞窟の壁に当たり、大きな音を立てて止まった。
「うひゃぁ・・・。」
セレナは後ろに出来た大きな穴を見ながら思わず声を上げた。しかし、ローランがそれを黙って見ている訳がない。脅威の跳躍力で一気に空中のセレナに飛び掛り、重い一撃を与える。
「うぎゃ!」
華奢なセレナは軽々と壁まですっ飛ばされ、叩きつけられる。・・・めちゃくちゃ強いぞこの人。
セレスがやっと詠唱の終ったフォルブレイズをローランに向けて放った。神将器ならきっとダメージを与える事ができるはず・・・。
しかし、よく見れば、ローランは結界を張って凌いでいるではないか! 魔法すら通用しないとは・・・。
「どうした、お前達の力はその程度か! その程度で世界を正すなどといっているのか。笑わせるな!」
ローランがまた突っ込んでくる。とりあえずこの突進を防がなければ。
「セレナ! シーナ! 我々三人で一気に決めるぞ。チャンスは一度きりだ! この前教えたあの技で一気に止めを刺すんだ。」
ナーティがセレナ達に指示を出した。これ以上戦いが長引けばこちらが持たない。短期決戦で一気に相手の動きを止めるしか術はない。
「わかった。クラウド、親父、それにセレスに姉貴。援護を頼むよ!」
セレナも丁度あの技を試してみたかった。それにそれしか方法がないというピンチでもあったから、セレナは直ぐにナーティの指示にうなずいた。自分が将とか、そんなの関係ない。良い案なら誰のものでも受け入れる。
クラウドやアレンがセレナの指示を受け、ローランに向かっていく。手槍で牽制しつつ、ローランの気を引く。そして、セレスもエイルカリバーなどで相手の動きを止める事に専念した。そして、彼らの攻撃に耐えかね、ローランがあの衝撃波で彼らを吹き飛ばそうと剣を突き刺した、その瞬間だった。
「シーナ! ナーティ! いっくよー!」
セレナが二人に合図をかけ、一気に飛び込んだ。
「トライアングルアターーーック!!!」
二人で交差するように放たれた無数の突きが十文字を形成し、トドメに三人同時にローランに強力な突きをお見舞いした。剣を地面に突き刺し、防御手段を失ったローランは、これの直撃を受けてしまった。流石の剣神も、この一撃の前に倒れてしまい、それと同時にその姿は消えた。その場には刺さったデュランダルだけが残った。ローランは・・・幻影だったのである。
「見事だ・・・。お前達はオレに勝った。俺はお前達の力を認める。その剣を持っていけ。世界を頼む・・・。俺たちが達成し得なかった事を実現させてくれ・・・。」
ローランの声が聞こえなくなると、洞窟にそれまでの静寂が戻った。セレナがデュランダルに近づき、それを地面から引き抜いてみる。


162: 手強い名無しさん:05/11/21 09:30 ID:gAExt6/c
「うわっ!? なんだこれ! すごく・・・重たい・・・・うがぁ〜。」
セレナがデュランダルのあまりの重さに倒れてしまった。剣が体の上に圧し掛かりジタバタもがいている。こんな剣をローランは振り回していたのか。
「ふぅ・・・ローランか・・・言い伝えのままの凄まじい力を持った勇者だったな・・・。」
ナーティもこの時ばかりは胸を撫で下ろしたような台詞をもらした。シーナはこのナーティの反応に改めて、危険な戦闘だった事を感じ取った。でも、自分達はそれに打ち勝った。しかも自分達の力で!
「すげー、さっきの技、何だよ。なぁなぁ、セレナ!」
クラウドがセレナを起き上がらせながら先ほどの三位一体攻撃について聞いていた。
「さっきの? あれね、あたしの母さんが使ってた必殺技なんだって。ナーティのヤツ、それを何かの文献で知ったらしくて、試したかったみたい。」
トライアングルアタック・・・代々天馬騎士の家系に受け継がれていた三位一体の空中殺法。その息の合った攻撃を繰り出すには、並大抵の技術では達成し得ない。だが、その技が達成された時、その攻撃から逃れる術はないという。必殺技の中の必殺技だった。
アレンはまさか、またこの華麗でかつ恐ろしい攻撃方法を見ることが出来るとは夢にも思っていなかった。それにしても文献で見て、それを一度で成功させるとは・・・アレンは再度ナーティの腕前に感心した。更に、それをこなして見せた双子にも、やはり成長を見た。ロイ様・・・我々はデュランダルをも手に入れました。今度はイリアに進軍して参ります。どうか、我々にご加護をおあたえください・・・。
「さて、手に入れるものは手に入れた。このままリキア内に留まるのはよくない。早速出発して、今度はイリアへ向かおう。」
アレンが先陣を切る。ここはリキア内。まだベルン五大牙の筆頭、グレゴリオ大将軍と戦うには状況が悪すぎる。それ以前に神将器は手に入れたのだからもう無理にリキアに攻め込む必要も無い。あくまで封印の剣を手に入れることが先決だ。まずはイリアを取り返してからその後の事を考える事になった。

一行はリキアを発って数日後、グレゴリオがベルンから帰還した。その元に兵士が慌てて飛び込んできた。
「大将軍! ご報告いたします!」
「なんじゃ、いきなり騒々しい。落ち着かんか。」
「はっ。 先日、オスティア郊外の神将器の眠る洞窟で、戦闘が起こった模様。どうも反乱軍とアルカディアの連中が戦闘を行ったようです。」
「なんじゃと! ・・・で、神将器は無事か?」
「いえ・・・その戦闘後から神将器の波動が消えました・・・。」
「そうか・・・。奴ら・・・精霊術師を狙っておるのか。」
「大将軍! 反乱軍の追跡はいかがいたしましょう。」
「・・・反乱軍は放っておけ。それより、アルカディアをしっかりマークせよ。反乱軍はリキアに攻め込まないようにしっかり守りを固めておくのじゃ。」
グレゴリオはそういい残すと、自分の部屋に戻っていった。そして、椅子に腰掛けると、その上にあった数個の石を手にとって眺めた。
「色々な形をしておるのぉ・・・。丸いもの、尖ったもの・・・人も同じじゃ。色々な考えを持った奴がいるから面白い。・・・今のように思想統制してはいかんのじゃ・・・。 さて、反乱軍・・・いや解放軍といったほうが良いかの。お前さん達の活躍を期待しておるぞ。ワシもお前さん達の手伝いをしてやるわい・・・。正義と思ってしている事が、全く逆の結果になるとは夢にも思っておらんじゃろう。まずはその過ちに自らで気づいてもらわねばな・・・。」
そのころセレナ達は、そんなグレゴリオの思惑など知る由も無く。エトルリアとリキアの国境沿いを、イリアに向けて歩んでいた。山々を抜ければ、そこは極寒と天馬の国イリアである。自分の故郷でもあるその国がどんな様子か、セレナは思いをはせていた。
それ以上にアリスは複雑な心境だった。自分の祖国にして自分が統治すべきだった国。今更帰って言ってみなが受け入れてくれるだろうか。それ以前に国がどうなっているのか・・・心配でならなかった。
そんな不安と気体が入り混じった複雑な心境を胸に、一行は針葉樹林を目指し、ひたすら歩んでいった。


163: 忠明:05/11/21 12:09 ID:gezKSf1Y
出会い系でさぁーメグリアイってとこ有名だけどやってみたらサクラばっか
だしまったく会えないんですけど・・・時間の無駄だった・・・
唯一今までちゃんと会えてアド交換とか電話できたのはここだけだった。みなさん
におすすめなので教えます。正直穴場でした。全て無料でしたので安心でした。アクセスの手順です。comの前の空白を詰めれば入れます。
http://www.koisonadx. com/?ko2u40-s2s11c
メグリアイなんてするもんじゃないですよ


164: 手強い名無しさん:05/11/22 12:31 ID:E1USl4sQ
どうでしょう。楽しんでいただけてますでしょうか?
なにぶん書き込みが自分だけなので、一人だけでがんばっているのか静観してくださっているのか不安でして。。
いろいろ手違いなど含め読みづらいところもありますがこれからもよろしくお願いします。

さて、一行はいよいよシャニーの故郷イリアへ向かうわけですが
実はまだ新しく登場するキャラの名前が思いついておりませぬ・・・。
ストーリーより名前を考えるのに時間がかかっている気がするほどです。

165: 手強い名無しさん:05/11/26 03:12 ID:JYzcc6/s
ぼちぼち読んでます
ゆっくりと書き続けてください

166: 手強い名無しさん:05/12/12 23:42 ID:hytvtGgw
更新マダー

167: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/15 14:11 ID:E1USl4sQ
すいませぬorz
ただいま師走事&入社前研修で結構忙しかったりします
それでも現在イリア編を誠意執筆中ですので、もう暫くお待ちくださいませm(_ _)m

168: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/20 10:39 ID:E1USl4sQ
なんか見ないうちに結構宣伝で荒らされてますね。
管理人に報告っと((φ(..。)カキカキ
現在イリア編の終盤を執筆中。年内にはアップできるかな?
どーせクリスマスも単騎突撃余裕ですし('A`)

169: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/24 21:05 ID:9sML7BIs
大変長らくお待たせしました。
クリスマス・イヴを半日以上費やして、ようやくイリア編完結までこぎつけました。
後は文書校正のみですので、あと少しだけお待ちください。

°・:,。\(^-^ )♪メリー・クリスマス♪( ^-^)/,。・:・°





結局ソロなんですけどね('A`)

170: 第十八章:天空の黒騎士:05/12/25 10:49 ID:E1USl4sQ
「うーん。」
エトルリアからイリアへ続く山々を抜ける一行。その道中、またセレナが小難しい顔をして何か考え込んでいた。
「どうしたんだよ、セレナ。頭でも痛いのか?」
クラウドが馬上からセレナを見下ろした。上から見ると頭を抱え込んでいるように見えた。
「違うよ! 兄貴は男だから分からないのかもね。」
「?? あぁ、わかった。お前、今日アレだろ?」
「アレ??」
セレナが殴る準備をしながら兄に返す。どうせ兄の事だ。分けのわからないことを言うに決まってる。
「そう、アレ。あれだ、一ヶ月に一度の女の日だろ?」
やっぱりか、と言わんばかりにセレナは飛び上がり、兄の頭に拳骨を食らわした。
「ワケの分からないこと言うと殴るよ!・・・まったく、デリカシーに欠けるんだから。」
「いってー! 殴ってから言うなよ! じゃあ何をそんな唸ってるんだよ。」
クラウドが頭をさすりながら聞いた。昔からセレナにはよく殴られる。別に変な事を言ってるつもりはないんだけど、何故かセレナは怒る。なんでかなー。
「この前のミレディって奴。あいつの言葉が妙に引っかかってさ・・・。ほら、あたし達が正義と言うなら、こっちだって正義だって言ってたじゃん。」
「あぁ。そりゃお前、自分から俺は悪人だと言うやつなんて早々いないだろ。皆自分が正しいと思っているからその行動に出るわけだしよ。」
「うん、それはそうなんだけど・・・。逆に言えば、あたし達のやってることも、他の人から見たら間違っているかもしれないって事になるよね。」
その言葉に、クラウドは珍しく真顔になって反論した。
「そんなことあるもんか! お前や俺たちがこんなに苦労しながら、苦しんでいる人たちを助けて回っているのに、それを間違ってると言える奴なんているもんか。」
「そうかなぁ・・・。」
「へぇ、クラウドにしちゃあまともな事言うじゃないか。」
セレスがからかい混じりにクラウドを褒める。当のクラウドはそれを真に受けて照れている。
その会話に、他の者も混じってくる。自分達のやっていることがもし間違っているとすれば・・・それは悲しい事だ。良かれと思ってやっているだけに。
「セレナ、正義と言うものは一つじゃない。幾通りにも方法はあるはず。だけど、最終的に求めているものは、皆同じではないのかな?」
アレンが何時ものように諭す。ロイ様も度々言っていた事で、今度はその姫様が悩んでいる。ここは自分がその悩みから解き放ってやらなければとアレンは思っていた。
「セレナ、悩んでも仕方ないわよ。私達は、私達が正しいと思うことを精一杯やればいいじゃない。」
「そうだよ。それで間違えたら、やり直せばいいじゃない。姉ちゃんだってそう言ってたじゃん。」
皆セレナを励ました。何が正しくて、何が間違っているのか。それは主観で判断せざるを得ない。だから人によって正義と言うものは変わってくる。自分が正しいと思った道を信じて貫くことこそ大事だ。
「そうだね・・・。なぁ、ナーティ、あんたはどう思う?」
「ん・・・? あぁ・・・すまない、聞いていなかった・・・。」
セレナが同じ質問をナーティにぶつけてみる。だが、どうも今日のナーティは何時もの精彩に欠ける気がした。
「・・・と言うわけで悩んでいるの。・・・って! ちょっと聞いてるの!?」
「ん・・・? すまない・・・ちょっと一人にしてもらえるか?」
何か山の方をぼうっと見ながら歩いていた。そして、終いには一行と少し距離を開けて、後ろから一人で歩き始めた。どうも変だ。
「ナーティさん、どうしたんだろうね。」
シーナが不思議そうに言った。あんな様子のナーティは今まで見たことがなかったからである。
「あれじゃないのか? ナーティこそ、一ヶ月に一度の・・・うぎゃ!」
クラウドはそこまで言った時、今度はセレナだけでなく、シーナからも拳骨を貰ってしまった。
「全く・・・わが息子として情けない・・・。とにかくセレナ。正義なんていうものは早々簡単に決め付けられる事じゃない。ナーティ殿も言っていただろう? 何が善で何が悪なのか、それを決める事は容易なことではないと。」
「うん。」


171: 手強い名無しさん:05/12/25 10:51 ID:E1USl4sQ
「だけど、気をつけるべきことは、大勢の意見が善とは限らないと言う事。今のハーフを見れば分かるだろう?」
「うん・・・そうだね。わかった。それを判断できるようにあたしはもっとがんばるよ。」
そんな会話をしながら山々を抜けていく。周りの景色が広葉樹から針葉樹へと徐々に変わっていき、空気もどこか冷たくなっていくのが分かった。
イリアは、元々は騎士団が混在し、その騎士団一つ一つが小国のように領地を持っていた。それが前のベルン動乱で荒廃したり、没落した事を機に、連合国家という形で一つの国へとまとまったのであった。
その中心人物は、イリアの聖騎士と誉れ高かったエデッサのゼロットと、その妻で伝説の天馬騎士とすら言われたユーノであった。彼らは国の基盤を作り、
辺境の弱小国、金のために人を殺しまくる民族、という色眼鏡を何とか払拭しようと努力していた。そして、ユーノの実妹に当るシャニーがその国の騎士団のリーダーとして王都を警備していた。
イリアの人々は、ゼロットやユーノを聖王と崇め、気さくで明るいシャニーの人柄を慕い、その将来を嘱望していた。
だが、三人とも、前のベルンの変で戦死し、国もハーフに乗っ取られてしまった。騎士団も散り散りになった。処刑されたもの、騎士の身分を剥奪されたものなど様々だった。
この地を収めるのは、ベルン五大牙唯一の女性騎士、ロイ達を苦しめたあのマチルダだった。マチルダのやり方は徹底しており、
王都でのハーフ以外の種族の立ち入りを禁じていた。そして、もし王都にハーフ以外がいることが知れれば、その理由に関係なく極刑を下すと言う過酷なものだ。

イリアは騎士団が領土と勝手に決めていただけだったので、元々国境の線引きがあいまいであった。だが、足元に雪が見え始めたところからしても、どうやらイリア領内に入ったようである。雪はイリアの象徴であり、悩みでもあった。
「うー、寒い! はっくしょん!」
厚着をする騎士ですら、イリアの空気の冷たさは鎧を貫いて直接肌に突き刺さる。クラウドはその寒さに思わずくしゃみをした。
この地に慣れない者にとって、最大の敵は雪と寒さであった。雪で視界を奪われ、寒さで体の自由を奪われる。そんな五里「雪」中の状況で、突然空中から天馬騎士の襲撃を受けるのである。セレナ達もその恐怖を直ぐに味わうことになる。
「確かに寒いね・・・ぶるぶる・・・あぁ・・・ここではズボン穿かないと死にそうだ・・・。」
セレナも震える。いくら母親が雪国の人間だったからと言って、自分が寒さに強いとは思えない。オーバーニーのロングブーツとショートズボンでは寒さが身にしみる・・・。
同じように軽装備のナーティも、このときばかりは震えているだろうと思ってセレナがナーティを見る。しかし当の本人は、どうも気が抜けたように空ばかり見ていた。
「ナーティ、あんたは寒くないの?」
セレナが外套を羽織ながら、ナーティのところへ駆け寄る。
「ん・・・? いや、別に・・・。」
「うそー。こんな寒いのに寒くないだなんて・・・やせ我慢しなくってもいいんだよ!」
そう言いながらナーティの背に外套をかけてやる。それでもナーティは相変わらずだ。一体空に何があるのやらと思い、セレナが空を見上げてみる。
空は灰色の雲で覆われ、今にも吹雪そうな寒空だった。一刻も早く宿を見つけないと。そう思っていた矢先だった。
その灰色一色の空に・・・黒色の飛行物体・・・それが・・・高速でこちらに接近してくる!
「ねぇ!ちょっと、アレ何?!」
セレナが声を上げる。その声にナーティもはっと我に返った。そして、直ぐに今度は意識を持って空を見上げた。
「! 多分敵だ。 武器を構えろ!」
その黒色の物体がすぐに自分達の上空に降りてきた。黒色の飛竜だ。このイリアに飛竜・・・間違いなくベルン兵だ。
「お前達、旅の者にしてはいささか武装が過ぎてはいないか?」
竜上の男が、一行に声をかける。どうやらまだ敵意はないらしい。
「私達は、傭兵として世界を回っているんです。突然空からあなたが飛来したもので、つい・・・。」
「そうか。俺はこのイリアを支配するマチルダ将軍の実子でレオンと言う者。イリア騎士団を纏めている。今も何か事件が起こっていないか警備中だったのだが、失礼した。しかしこの頃各地で物騒な事件が起きている。お前達も気をつけることだな。」
そう言い残すと、そのレオンと名乗る男は飛竜を駆り、あっという間に寒空に消えた。


172: 第19章:The Dark Knight:05/12/26 07:57 ID:gAExt6/c
「ねぇ! 今聞いた!? 敵の大将の息子だって!」
シーナが慌てる。一歩間違えば交戦していたかも知れなかった。まだ自分達の素性は知られてはいないのだろうか。
「見た見た! あの人超かっこよかったね! あー惚れちゃいそう!」
「・・・姉ちゃん・・・!」
姉の緊張感のない発言に怒るシーナ。妹が自分以外の男に現を抜かすことに何か悔しさを感じるクラウドと、それを見て呆れるアレン。反応は様々だったが一人、違う反応を示す者がいた。ナーティである。
「あの槍・・・・あれは・・・。」
「どうしました? ナーティ殿?」
アレンがそれに気付き、話しかけるがナーティは何もなかったように返した。
「いや・・・なんでもない。それより、宿を探すべきだな。この寒さの中で野宿は体に障る。」
「そうですね。確か後半日も歩けば、シャニー様の生家のある村に着くはずです。そこに泊めて貰いましょう。」
自分達の本当の母親の生まれ故郷・・・。そこにもうすぐ行く事ができる。セレナもシーナも感動に似た感情に襲われる。だがそれと同時に、本当に自分がイリア皇族の末裔であるかどうかも確かめる事になる。何か怖い気もした。
「あの村に行くのか・・・。致し方ないか。」
ナーティがまたポツリと独り言をもらす。そんなナーティとは対照的に、双子の足取りは今までより心持早くなった気がした。

そして、日没も近い夕暮れ時に、ようやくその村にたどり着く。いつもはへばって情けない声を上げるセレナも、今回ばかりはそうはいかなかった。
「ここが・・・あたしの母さんの故郷・・・。」
その村は未だ17年前の惨事を形に残していた。瓦礫と化した家々は残してあったのだ。
一行は村人に案内してもらい、村長の家に招かれた。今日は温かいベッドで休息を取ることが出来る。誰もがそう思った。だが、事実はその予想を大きく裏切るものだった。
「何!? 貴様達はあのシャニーの娘達だと言うのか!」
「そうだよ。あたし達はロイとシャニーの間の・・・。」
「出て行け! あいつはこの村から追放された人間だ。 むろんその一族も同罪だ! さっさとこの村から出て行け! 我々にこれ以上災いをもたらすな!」
村人から石を投げつけられ、一行は村から追い出されてしまう。一体何があったというのか。セレナ達は自分達が受け入れられない理由が全く分からなかった。
「やはり・・・こうなってしまったか。」
ナーティがため息混じりに頭を抱えながら言った。
「なぁ! ナーティ、あんた何か知ってるんだろ? 教えてくれよ!」
セレナがナーティに走り寄りながら強い口調で訊ねる。暫くナーティは黙っていたが、やっと重い口を開いた。
「・・・お前の母親は、この村で、自らの姉を殺したのだ。」
「えぇ!? そんな、何でそんなことを!」
「私にそんなことを聞いても分かるはずがなかろう。だが、ここの人々がお前の母親を禁忌の存在とする真の理由は・・・。」
「理由は?」
「・・・。」
「言えよ!」
セレナが沈黙するナーティの胸倉を掴んで怒鳴った。セレナは半泣き状態である。
「お前の母親をおびき出すために、ベルン軍がこの村を焼き払ったのだ。その際かなりの犠牲者が出たらしい。」
「そんな!」
「それだけではない。その人々の目の前で、お前の母親は翼の生えた姿をあらわにした。その姿が人々には、災いをもたらす、呪われた力を持った堕天使に映ったそうだ。」
「そんな・・・母さんは何も悪くないじゃないか!」
「そうだよ! 村人を守る為にがんばったのに、それで追放にされただなんて、お母さんが可愛そう過ぎる!」


173: 第19章:The Dark Knight:05/12/26 07:57 ID:gAExt6/c
先ほどまで黙って話を聞いていたシーナも、とうとう我慢できずにナーティに当ってしまった。
「・・・私に当っても仕方ないだろう。それに、同情で事実に対し盲目になってはいけない。」
「どう言う事?」
シーナが少し落ち着きを取り戻しながら聞いた。
「お前の母親は、民を守るべき立場であったにもかかわらず、逆に民に大きな犠牲を出した。その事実に何ら変わりはない。その理由が例えどんなものであろうと。」
「それは・・・そうだけど・・・。」
「冷たい事を言うようだが、どれだけ本人が頑張ろうと結果が全てだ。結果的に民に犠牲を出したのであれば、人々に忌み嫌われても仕方ないだろう。」
「でも! でもそれじゃあまりにもやるせなさすぎるよ!」
シーナが珍しく熱くなって言う。それほど、理不尽な事がまかり通っていたのである。
「そう思うなら、お前達がベルンを倒し、人々を闇から救ってやれば良いではないか。結果を出した者だけが、英雄と呼ばれる。お前達が結果を出せば、相対的に母を救うことにもなろう。」
ナーティの言葉に、アレンも続けた。
「セレナ、シーナ。シャニー様は蒼髪の天使という呼び名で、広くイリアで愛されていた人だ。ここのように嫌っている人間は決して多くない。それも、心の隅に置いておいて欲しい。」
それを聞いて、双子は一層決心を新たにする。
「あたし達が頑張って母さんの無念を晴らして上げなきゃね。がんばろう、ね!シーナ。」
「うん! 私、ベルンを倒す明確な理由がもう一つ出来たよ!」

野宿の準備を終えた一行に、ナーティが突然話を切り出した。
「皆、ちょっと聞いてもらいたい事がある。」
「どうしたんだよ。」
セレナ達が集まってくる。ナーティがこんな風に皆を呼び集める時は、何か事柄を伝える時しかない。しかもかなり重要な。
「お前達も、昼に見たあの漆黒の竜騎士を覚えていると思う。」
「あぁ! あのカッコイイ人ね。」
セレナの反応を鼻であしらいながらナーティが続けた。
「ふ・・・。そうだ、あの竜騎士だ。だが、問題はその竜騎士本人より持っていた槍だ。」
「槍? ・・・なんかそう言えば・・・凄く強そうな槍だったね。」
シーナが頭にあの時の情景を浮かべて思い出しながら言う。アレンがやはりと言うような口調でセレナ達に説明してやる。
「ナーティ殿も気付いておられましたか。セレナ、シーナ、あれはマルテと言う槍だ。別名を氷雪の槍と言い、かつて人竜戦役で騎士バリガンが用いた神将器だ。」
「マルテですって!? ベルン軍が所持しているのか・・・厄介ですね。」
セレスがあごに手を添えながら考え込むように言った。ただでさえマチルダ将軍という強敵が立ちはだかっているのに、更に神将器まで敵の手中にある。
「そう言う事だ。真っ向から戦って勝てる相手ではない。まずは町で情報収集をしたいところなのだが・・・。」
ナーティはそこまで言うと、腕組みしたまま黙り込んでしまう。
「そうだね。じゃあ、明日から早速・・・。」
そこまでセレナが言ったところで、セレスが止めた。
「それが、ダメなんですよ。王都にはハーフ以外は進入禁止なんです。もし中にハーフ以外のものがいることが知れれば、その場で斬首です。」
「ひぇ〜、おっかねぇなぁ。」
クラウドがぎょっとしたような表情を浮かべる。昔からマチルダは、冷血な智将として有名だった。
「じゃあ、私とクラウド兄ちゃんで王都の様子を探ってくれば良いんだね?」
シーナがクラウドの目を見ながら皆に言った。シーナとクラウドなら、同族には甘いハーフ相手に気付かれる事もなく、王都の詮索が出来る。
「そうだな・・・。危険な賭けだがやむを得まい。シーナとクラウドが王都を探っている間に、我々は人間たちの住む北のほうを当ってみよう。」
ナーティが、よく言ってくれたと言わんばかりに、シーナの顔を見ながら言った。アレンは、姫を自分の元から離れさせる事は極力避けたかったが、こうするより他は無かった。クラウドだけではなにをするかわからない。
「クラウド、シーナの言う事をよく聞いて、敵に気付かれないように行動するんだぞ?」


174: 手強い名無しさん:05/12/27 08:18 ID:gAExt6/c
アレンが息子に警告する。自分も若いころ、直情径行でよく突撃していた。だからこそ、息子の性格もよく分かっていた。今でもそうだと言われればそれまでだが。
「なんだよそれ! 俺のほうが年上なんだぞ?」
クラウドが怒ったように父親へ反論する。アレンの言葉を知らない人が聞いたら、きっとシーナが姉なのだと思うだろう。
「はははっ、兄貴よりシーナのほうが落ち着いて見えるもんね〜。」
セレナが笑いながら茶化す。お前にだけは言われたくなかったぜ・・・。クラウドは心の中でそう思った。
「でも、私達を人々は受け入れてくれるでしょうか・・・。 昼間のようになったら情報収集どころではないわ。」
アリスが心配そうに言った。自分はイリア王国の王女。イリアを統べていかねばならない立場だ。だが、自分達は必ずしも歓迎されるとは限らなかった。助けようと思っているのにその想いが伝わらず、一方的に拒否される・・・これほど悲しい事もない。
「イリアの民はゼロット王を聖王と崇めていた。アリスは亡きゼロット王の嫡子。お前が皆の前に姿を現せば、人々はきっと歓迎してくれるだろう。」
ナーティだけでなく、アレンも続けた。昔、ロイ達がイリアに駐留していたときの思い出を・・・。
「大丈夫。きっと、人々は助けを求めているはず。昼間の人々は特殊なんだ。英雄ロイ様と蒼髪の天使シャニー様の間の子と知れば、人々はきっと歓喜するだろう。昔は炎の天使と言って、皆がセレナ達の誕生に歓喜したものだ。」
・・・あの時の事が、アレンには昨日のように思い出された。
「よーし、じゃあ決定! 明日から二手に分かれて情報収集だ! 兄貴、シーナ、頼んだよ。」
セレナの掛け声に、ハーフ二人組みが手を上げて答える。
「おう! 任せとけ!」
「姉ちゃんもヘマしないでよ!」
イリアの寒空に、焚き火の赤と、一同の笑い声が響いていた。

一方、ここはイリアの王都エデッサ。あの漆黒の竜騎士レオンが、警備を終え、王城に帰還した。
「母上。レオン、只今帰還いたしました。」
レオンが兜を外しながら母親マチルダに帰還の報告をする。
「ご苦労様、レオン。劣悪種の様子はどうでしたか?」
「はい、ますます貧困にあえぎ、苦しんでいます。特に幼子を持った母親は栄養状態が悪い為か乳の出が悪く、死んでいく赤ん坊も多いと教会の神父から聞いています。」
「そうですか。では反乱を起こす力も残っていないようね。じゃあ、王都周辺の同族の暮らしはどうでしたか?」
マチルダは人間達の状況は軽く聞いただけだったようで、同族の暮らしのほうが気になるらしかった。
「・・・。同族たちは母上の統治のおかげで今年の冬もそのまま乗り越えられそうです。衣食住、全てに欠いている様子は見られません。」
その言葉を聞き、マチルダは笑顔を見せた。
「そうですか。それはよかった。この頃世間では物騒な事件が多くおきていますからね。西方のサンダースも、エトルリアのリゲルも、取るに足らない将ではありましたが・・・。ベルン五大牙が二人も倒されるとは・・・。」
母親のその様子に、レオンが怒ったような口調で進言した。
「母上。出すぎたことを申すようですが、もっと人間達の生活を保障してあげるべきではないでしょうか?」
それを聞いた途端、マチルダの笑顔は消えた。そして、レオンに近づきながら言った。
「それは、どう言う事ですか?」
「はい。我々の生活が成り立っているのも、人間達から搾取を繰り返しているからに他なりません。小麦にしろ、土地にしろ、絹糸にしろ・・・。このままではいずれ歪が限界に来ます。もっと共存できるシステムを・・・。」
そこまでレオンが言ったところで、マチルダはレオンの頬をぶった。
「劣悪種と共存ですって?! 貴方にはハーフとしての誇りというものがないのですか! 劣悪種は優良種のために存在しているのです。貴方はペットの犬と同じ穴倉に住み、同じ残飯を食べて生きろと言うのですか、それと同じです!」
マチルダが厳しい口調で息子を叱咤する。レオンは母親の人間への待遇がどうしても納得できなかった。
「しかし! 我々にも半分は人間の血が流れているのに、どうして同じ血の流れるものを虐げなければならないのですか!」


175: 手強い名無しさん:05/12/27 08:20 ID:gAExt6/c
「我々は血は同じでも、全くの別物。だから劣悪というのです。それに彼らは野蛮です。野心に溢れ、嫉妬し、憎しみ合い、そして殺しあう。そんな野蛮な種族は滅ぶべきなのです。」
「ですが! 他の種族を虐げてまで自分達が豊かになろうと言う考えが正しいとは、俺には思えない!」
「・・・何が言いたいのですか?」
「母上、考え直してください! このままでは我々は単なる圧政者です。人間だってイリアを形成する大事な臣民。その臣民から憎まれては、国は生きていけません!」
マチルダはとうとう息子の喉下に、腰に刺していたレイピアを突き当てた。
「人間は臣民などではない! 犬同然だ! ・・・まだこれでも寛大なほうですよ? 実験に使う以外には手を出していないのですから。本当なら! 人間など根絶やしにしてやりたいものなのに!」
マチルダは何時もの冷静さを欠いたように、怒鳴りながら息子に説教をする。
「貴方にも教えたでしょう! 我々がどんなに差別されてきたかを! それでもそのようなことがいえますか!?」
レオンは喉もとのレイピアを払いのけ、距離をとって母親に言い返した。
「俺は母上の考えは理解できない! 差別されからって仕返していたら、何もならないじゃないか!」
息子の逆上の仕方に、仕方なくマチルダもこの場は自分の感情を抑えた。
「・・・全く、聞き分けのない子。自分の息子だとは思えないわ・・・。レオン、貴方は私の命令に従えばいよいのです。息子とは言え、貴方と私は主従関係にある。口には気をつけなさい。」
レオンも何時もの冷静さを欠いていた事に気づき、下を向いてしまう。
「は・・・。申し訳ありません、母上。」
「少しは貴方の考えも頭に入れておきましょう。今日は下がっていいですよ。」
「はい・・・。」
レオンが軽く一礼し、部屋から出て行った。それを見て胸を撫で下ろすマチルダ。マチルダも心の底では怖かった。あちこちで反乱が起きている。このイリア内でも、その火種がないというわけではない。しかも、事もあろうにそれが自分の直属の部下であり・・・息子である。
「それにしても・・・血は争えませんね・・・。まさかあそこまで気が強い男だったとは・・・。あの父親も騎士道精神に溢れた強い騎士だった・・・。劣悪種に生まれていた事が惜しいくらいに・・・。」
翌朝、王都とその周辺から情報を収集するために、早速セレナ達は二手に分かれて出発した。
「兄貴大丈夫かなぁ。シーナが付いてるから大丈夫だとは思うんだけど・・・。」
セレナが兄を心配する。直情径行が激しく、思ったことは言わずにはいられない兄だ。王都でもし変な事を言えば、たちまちベルンに囚われてしまう。
「ふ、人の事より自分の心配したらどうだ? お前も十分危なっかしいぞ。」
「全く同感ですね。」
ナーティとセレスが、二人してセレナのほうを見る。セレナはばつが悪いと言った表情で言い返した。
「何だよ二人がかりで! ・・・ちぇ、とことん信用されてなくてあたし可愛そう。」
いじけるセレナをアリスが慰めながら撫でてやる。
「大丈夫よ。貴女は今までもしっかり頑張ってきたじゃない。今回も同じように頑張ればいいの。シーナもクラウドもきっとうまくやるわ。私達は、私達の使命をしっかり全うしましょ。」
「アリス様の仰るとおり。我々はこのまま東進してカルラエを目指しましょう。そこが人間の最大の居住区のようですし。」
アレンが馬を駆り、先陣を切る。雪がちらつく早朝。東の空は暗い。吹雪き出す前にカルラエに到着しなければ危ない。アリスにとってもセレナにとっても、そしてセレスにとってもイリアは第二の故郷。その故郷を救いたいと言う気持ちは素直に歩調に現れていた。
その日の夕刻、セレナ達はカルラエに到着する。かつて四半世紀前には天馬騎士団の本拠地があった地で、今でも天馬の産地として有名である。人々はやせた土地で小麦を栽培し、それを王都に重い年貢として納めながら、自らは雑穀を食べて生きていた。天馬は唯一の収入源で、軍用馬として調教しては、王都に納めていた。
セレナ達が見た光景は一面の小麦畑と、天馬の放牧場だった。とてものんびりした光景だったが、その裏では過酷な暮らしを余儀なくされていたのである。
「へぇ・・・思ったより酷そうじゃないね。」
セレナが一面の小麦畑を見ながら言う。人々は寒空の下、ひたすら麦を踏み、天馬を調教していた。何処にでもある田舎の風景に見えた。
「見た目には分からないかもしれないな。だが、それが落とし穴だ。見た目はキレイに見せているのだ。だが、その内側は・・・。」


176: 第二十章:新芽の如く:05/12/28 09:59 ID:gAExt6/c
ナーティがセレナに説く。表面を見ただけで酷いと分かるなら、人々もきっと反乱を起こすだろう。だが、ここには見せかけの平和が流れている。年貢さえ納めれば迫害はされなかった。だが、それは「殺されないで済む」だけであり、「希望を持って生きる」と言う人間としての生き様とは程遠いものだった。
ナーティの言葉に更に誰かが続けて言った。
「左様。見た目にはワシらが日々死と隣りあわせだと言う事は分からんじゃろう・・・。」
一同がその声に振り向く。そこには老人が立っていた。
「ゼロット様やユーノ様、それにシャニー団長がおった頃は、ここも活気に溢れておった。じゃが、前のベルンの変で皆倒れて以来、わしらはただ生かされておるだけの存在となった。」
一行はその話を黙って聞いていた。その間に雪が次第に激しくなってきていた。
「おぉ・・・寒いわい。旅の人たちも宿を探しておるのじゃろ? わしの家に来るといい。さ、こっちじゃ。」
その老人はセレナ達を温かく迎えてくれた。その老人はどうやらこの村の長老らしかった。
「ゼロット様はまさに聖王と呼ぶに相応しいお方じゃった・・・。」
長老は昔の事を思い出すように言う。そして、その言葉には、その聖王の再来を願う気持ちもこもっていることが伝わってくる。
「父のことをそこまで良く仰っていただけて光栄です。私も出来る限り努力いたします。」
アリスが父を思い出しながら、長老に礼を言った。仕事が忙しくてあまり一緒にいてくれなかった父だが、優しくて一緒にいるときは常に抱いてくれていた事を、アリスは覚えていた。
「! 今何と言った?! 父!? と言う事はお前さんは聖ゼロット王の・・・?!」
長老がさぞ驚いたような口調でアリスの顔を見る。そして、顔に触ってみる。
「おぉ・・・言われて見れば・・・そなたはユーノ后妃そっくりじゃ・・・。」
「はい。私は確かにゼロット王とユーノ后妃の間の子、アリスです。」
「ベルンの変で亡くなられたと思っておったが・・・神はわしらを見捨てたわけではなかったか・・・。」
長老は涙を流して天に拝んだ。その様子が、ベルンの支配の酷さを物語る。アリスは続いて、セレナも長老に紹介した。長老は更に驚いた。
「おお! そなたが・・・。この村、いや、イリアの民は例外なくロイ様とシャニー様を慕っていた。・・・そなたが“炎の天使”か・・・。似ている・・・シャニー様に瓜二つじゃな・・・。まるでシャニー様が目の前にいるようじゃ・・・。」
「貴方達は、母さんの事忌んでないの?」
セレナは長老の感涙を流す姿に驚いた。昨日の村とは対応が180度違ったからである。
「誰が忌むものか・・・。 あの子はわしらにとって天使の様な存在だった。戦争が終って荒廃したイリアを再建するときも、彼女の笑顔でどれだけ救われた者がいることか・・・。忌むべきは今のベルンじゃ。」
「そうですね。長老、我々はベルンを倒すべく、イリアまで来たのです。どうか、ここの人たちにも協力をお願いできないでしょうか?」
アレンが長老に協力を要請する。この人たちならきっと力になってくれる。アレンは確信していた。イリア民族は元々団結力の強い民族だ。普段は雪のようにしんしんと静かに暮らしているが、その団結力は雪崩の如く強い力を持っている。
「我々を導いてくださった恩人の子孫が頑張っているのに、それを見ているだけと言うわけには行きませぬ。勿論わしらも協力します。この村には騎士の身分を剥奪されたものも多く住んでおる。それにしても・・・シャニーの子が生きていたとなれば、ルシャナも喜ぶじゃろう。」
長老がそういった途端、今まで黙っていたナーティが突然声を上げた。
「何? 長老、ルシャナは生きているのか?」
「おぉ。お前さん、知り合いか?」
「いや・・・別に。シャニーのあとのイリア騎士団長だと聞いたことがあったから知っていただけだ。」
そういうとまたナーティは窓の外見ながらだんまりを決め込んでしまった。
「さて、今日の宿は確保できた事じゃし、皆に顔を見せに回ってはくれぬか? 皆光の無い闇の中で生きてきたゆえ、希望を失っておる。そなた達が行ってやれば歓喜する事じゃろう。」
長老は村人達を村の教会に集めた。そして、村人達にセレナ達を紹介する。最初は疑心暗鬼にどよめいていた。しかし、アリスやセレナがその親にそっくりな事が分かると、そのどよめきは一気に歓声に変わった。皆英雄の再来を心待ちにしていたのである。ある者にとっては、自分達の生活を豊かにしてくれた聖王ゼロットの子と、世界の英雄ロイの子。またある者にとっては、伝説のイリアの聖母の子と、イリアの心に春をもたらす熾天使の子・・・。その姿に重ね映す像は人それぞれ違っても、自分達を救ってくれる救世主が表れたという歓喜の気持ちに変わりはなかった。


177: 手強い名無しさん:05/12/28 10:00 ID:E1USl4sQ
「皆、あたし達もがんばる。だから皆もあたしたちに力を貸して!」
セレナのその声に、民衆が怒号にも似た大きな声で合点し返した。雪が深深と降り、冷えた教会が人々の熱気で沸きあがった。
ナーティは教会の外で、教会に巡回のベルン兵が近づかないか見張りをしていた。頭にも肩にも雪がしっかり積もっている。・・・寒くはないのだろうか。
そのナーティにも、教会の中の歓声は耳が痛くなるほど聞こえていた。
「・・・この歓喜のし様・・・やはりマチルダのやり方は酷いものがあるようだな・・・。」
ナーティは気付かないうちに、震えるほど握った拳に力が入っていた。その言葉に何者かが続けた。
「そうさ・・・。あいつの元では私らは生きていけない。・・・でも、私達では守れなかった。大事な・・・大事な祖国なのに・・・っ。」
ナーティは焦って振り向いた。自分とした事がボーっとしてしまっていた。振り向いた先にいたのは・・・赤毛の女性だった。
「貴女は・・・ルシャナか?」
ナーティが記憶をたどるようにしてその女性に問うた。
「あぁ・・・そうだけど。何であんた私の名を?」
「・・・書物を読んで知っていたからだ。イリア王国最後の騎士団長と・・・。」
その言葉を聞き、ルシャナはふうっと目を瞑りながら軽く笑った。そして、そのまま答えた。
「そうさ。私がイリア王国最後の騎士団長だった。・・・私がもっとしっかりしていればそうならずに済んだかもしれないけどね・・・。」
「そんな風に自分ばかりを責めても仕方なかろう。」
「でも事実さ・・・。ロイ様が倒されて、国内の士気が急激に下がった。私はそれを食い止める事ができなかった。・・・そしてあの夜を迎えた・・・。」
「エデッサ城の・・・陥落か?」
「あぁ・・・マチルダと他にもう一人、羽根の生えたやつが来て、そいつの放った魔法で微塵に砕け散ったさ・・・。あの夜の事は、いまだに忘れらない・・・。」
ルシャナは16年前の話をまるで昨日の事のように鮮明に話す。その顔には、苦労シワが多く刻まれていた。ナーティもそれに返す。
「・・・その後皆はどうなったのだ?」
「私みたいに騎士の身分を永遠に剥奪されて、帯剣禁止になった者も多いし、私の夫みたいに見せしめに処刑された者もいたよ・・・。」
「・・・ラルク騎馬隊総司令か?」
「ああ。よく知ってるね、あんた。その際マルテもベルン軍に没収された。それに・・・。」
「それに?」
「私は子供も奪われた。ラルクの子だから危険だって言ってね・・・。もうこの世にはいないだろうね。」
「・・・。」
沈黙するナーティに、積もった雪を手で払いのけながらルシャナは立ち上がり、最後に言った。
「でも、こうやってゼロット様やロイ様の子が世界を救おうと頑張ってるんだ。私もベルンに一矢報いたいし、協力するかな!」
「・・・ありがとう、感謝する。」
「ううん、いいんだよ。それに・・・私は親友と約束したんだ。生きてる限り、イリアを良くする為に頑張るってね。もうあいつもこの世にはないけどさ・・・。さて、寒いし私も教会に行くよ。」
そういいながらルシャナは教会の中に入っていた。その背からは、絶望に虐げられながらも、何か強いものが込みあがるのが分かるような気がした。
「・・・。しかし、まさか・・・あいつは・・・?」
ナーティが降りしきる雪の中、ポツリと独り言をもらした。


178: 手強い名無しさん:05/12/28 11:47 ID:OL1ZbSRA
乙です。
完結するまで感想は保留した方が良いのだろうか…
話の畳み方によっては物語が破綻する気がする。

179: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 12:31 ID:E1USl4sQ
いえいえ、どうぞ。
むしろ書き込んでいただいたほうが今後の課題解決に繋がるかもしれませんし。
物語が破綻するというのはこちらとしてもどういうことかちょっと興味がありますし。。

180: 手強い名無しさん:05/12/28 13:05 ID:OL1ZbSRA
疑問点(違和感かも)
セレナの目指している(と思われる)、「ハーフも人間も共存できる世界の実現」の必要性が全く感じられない。
@エレブ人に作中の「異世界からやってきたハーフ」を差別してきた歴史があるのかどうか(恨むのは筋違い)。
A生物学的に寿命、身体能力が人間より確実に「優良」であるハーフが人間社会で対等に共存できるのか。
 (更に、一方的な被害者であるエレブの人々が悪党集団のハーフを受け入れる理由が思いつかない)
Bハーフが暴虐の限りを尽くせば尽くすほど、同族である主人公達の作中における立場も悪くなりはしないのか。
(主人公側の「綺麗さ」を描こうとしてハーフを殊更悪辣に描いていないか。(完全懲悪モノなら問題は無いけどセレナの理想とのギャップ)。)
C十七年?も虐げられてきたエトルリアの人々がハーフとの差別?を簡単に「ある意味克服」できてしまう理由。
 (妻や恋人を不当に奪われ、家族を殺され奴隷にまでされた人類と加害者であるハーフの溝って)
D「私達ハーフはあちらの世界で人間に差別されています。セレナさん、悪い人間をやっつけてください」
 と言われたらセレナはハーフに味方するのか。人類と敵対できるのか。
 生まれも育った環境も恵まれたセレナの行動原理は純粋な正義感、貴族的な使命感のみ。
 一部の終わり方から推測して、主人公側の、仇とか遺志を継ぐとかの悲壮感は読むにあたって除外してる。

181: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 14:16 ID:E1USl4sQ
@
ハーフも人間と同じように何者からも迫害されずに生きたいという気持ちに変わりは無いはずです。
ハーフが乗り込んできた理由は、もう一つの大陸で迫害され生きる場所を失った為です。
何処の大陸であろうと、人間族は憎い。「人間族」と一括りにしてしまっているのです。
人間族もハーフも、自由に生きたいという考えが一致している以上、皆が(種族にかかわらず)共存できることが一番とセレナは考えたわけです。

A
それは大陸に住む人々の心の問題です。
ハーフは寿命が長い故に生殖能力が低いと言う竜族の特徴も持っていると言う設定です。
この小説で核になっている「心」の部分をどうやってこれから書いていくかは私の手腕が問われることになりそうですが。
補足部分については、もう一つの大陸が物語上で語られる様になると分かるかもしれません。

B
セレナ側でハーフなのは、シーナとクラウドの二人。
大抵の魔力の無い人間には、ハーフや竜族には分かる「エーギルの流れ」と言うものがわかりません。
ハーフからは種族の断定が出来ても、人間からはわからないのです。見た目は同じ容をしていますから。(ちょっと都合がいい気もしますけど。。)
>主人公側の「綺麗さ」を描こうとしてハーフを殊更悪辣に描いていないか
これは若干あるかもしれません。ところで、優良種、劣悪種を言うのは、ベルンのトップによるある種の思想統制のようなものです。
ハーフたちは、ベルンのトップ(メリアレーゼ)こそが、自分達を救ってくれる神だと信じて疑わないのです。
信仰は、時として人を盲目に変えます。これは現実でも何度か人間が体験している事です。
また、セレナ達が軍ではなく、あくまで傭兵団として行動をとっていることもいい意味で隠れ蓑になっているかもしれません。

C
これはエトルリアの雄、パーシバル将軍の統率力に期待するところでしょう。
すぐさまお互いの誤解を解くことは難しいことです。少しずつ、互いの距離を縮めて行く事になります。
まずはそれを妨げていたリゲル率いるベルン総督府を倒したことが、大きな大一歩に変わりはありません。
その後の発展を促す為にも、パーシバルのような周りを見る力を持ったリーダーが、皆を統べて行く必要があるのです。
それにはセレナ達がまず諸悪の根源を潰さなければなりません。
しかし、ここで潰すだけでは、迫害対象が人間→ハーフになるだけに終ってしまいます。ここをどうするかが彼らに課せられた使命ともいえます。

D
セレナはまだ、もう一つの大陸における悲惨な状況を知りません。
もし、それを知った時、彼女がどう思い、そして行動をとっていくのか。
そして、自らの理想を数々の矛盾を乗り越え達成できるのか・・・これはまさに物語の核とも言えます。
セレナの行動原理は、「種族が違うだけで差別されるのはおかしい」という気持ちと
両親が達成できなかった(ハーフを追い出すだけでなく、何とか分かり合おうとする)
志を継ごうとする気持ちです。
もし、セレナが大陸で迫害を受けていたら、使命感だけでなく、明らかな憎しみで戦うことになります。
両親を殺した憎い相手には変わりませんが・・・。
強力な憎悪感は正常な思考を麻痺させます。それはハーフの暴挙を見てもお分かりになると思います。
セレナは熱血漢・・・じゃなくて女ですから、自分が信じたものをひたすら貫こうとします。
ロイもそうでしたが、平和の為に犠牲が出ることはセレナにとってはタブーなのです。
だから、今はまだ世界をハーフの支配から開放する、という考えのみですが
彼女がもう一つの大陸の惨状を知った時、そのまま
こっち(エレブ)から追い出しちゃえばそれでいいじゃん、と言う考えには絶対至らないと言う事です。
ハーフもまた、犠牲者なのですから。
問題は、自分達の大陸で住む場所がなくなったから、他の大陸で元から住んでいる人々を追い出してまで
自分達の国を作ってしまおうとしたその考えです。
憎悪感に押しつぶされそうになりながらも、今の状況がおかしいと思っているものが、敵の中にもいます。
彼らのその激しい憎悪感を埋めるには・・・さて、どうしましょうか。

物語的には、まだ新大陸の名も出てきていないし、ミレディのいる謎の集団の黒幕も登場していません。
これからが盛り上がっていく・・・様にしたいです。個人的に。

だらだらと長くなってしまいましたが、違和感をある程度取り除くことが出来たなら幸いです。





182: 手強い名無しさん:05/12/28 15:07 ID:OL1ZbSRA
回答有難うございます。
自分が「破綻しそう」と思ったのはガンダムSEEDシリーズとあらゆる点で似てる気がしたからです。
主人公=キラ+ラクス&アークエンジェル
ハーフ=コーディネーター+ブルーコスモス的思想

あと、二次創作におけるメアリ・スー度がかなり高い気がしたので。

183: 見習い筆騎士('-'*) 56J2s4XA:05/12/28 16:38 ID:E1USl4sQ
そうなんですか・・。
ガンダム系はよく知らないので、知り合いのガンダムファンに聞いてみることにします。

184: 第二十一章:天空の黒騎士弐:05/12/29 10:27 ID:E1USl4sQ
セレナ達が村人達と打ち解けあっているころ、クラウドとシーナは吹雪の中、ようやくエデッサに到着する。馬と天馬を用いても、イリアの奥地まではこれだけの時間を要する。
「うー、さぶっ。シーナ、お前よくこんな中を天馬で飛んでいられるな。」
「さ、寒くなんか、な、ないもん。 兄ちゃんが・・・弱いだ、だけだよ」
シーナが空中から下降してきて言う。唇は紫色だし、体中が震えている。やせ我慢をしている事は誰が見たって分かる。
「我慢するなよ。まったく、降りて来いよ。」
シーナは兄に言われるままに降りてきた。すると、クラウドがシーナを抱いた。それにシーナが反発する。
「うわっ、何するのよ!」
払いのけられたクラウドのほうが驚いた。
「何で嫌がるんだよ。寒いんだからくっついたほうがいいじゃねーか。」
「いいの! 私は別に寒くなんかないもんね!」
やたら元気に見せるようにして王都内を歩き出す。兄だと分かっていてもやっぱり異性。どうしても意識してしまう。当のクラウドのほうは、全くそういうものはないようだが。
「俺は寒いんだよー。あー、セレナがいれば押し競饅頭でもするのにさぁ・・・。」
「ホンット、兄ちゃんってデリカシーに欠けるよね! 早く宿探そうよ。」
吹雪いて来たためか、町の中に人影はちらほらとしか見えない。だが、その見る人はどの人も、温かそうな毛皮のコートにブーツを着込んでいる。この前追い出しを喰らった村の人間達より、かなり裕福そうである事が、見た目からも分かる。
「おい、そんな格好で寒くないのか? 若いって良いよなぁ。・・・ガクガク。」
見張りの巡回兵が、シーナたちを見つけて話しかけてくる。やはり同族には直ぐに心を許すようである。
「それがさぁ、俺たち傭兵として各地を回ってて・・・まさかこれほどまでに寒いとは。」
クラウドがまるで親友感覚で返す。見知らぬ人と話す際にはちょっと警戒してしまうシーナとは対照的に、クラウドは誰とでも友達感覚だった。
「ここの寒さは格別だからな。早く宿探さないと凍え死ぬぞ?」
巡回兵はそういい残して去っていった。シーナの震えが先ほどより一層酷くなる。吹雪の中、天馬で飛んでいた為に、冷えはクラウドより酷かった。
「おいおい、大丈夫かよ。・・・無理するなって。」
クラウドがもう一回シーナを包んで歩き出す。もう今度は抵抗できなかった。寒くて体が動かなかっただけでだと、シーナは自分に言い聞かせた。しかし、実際は違った。何となく、いつまでもこうしていたいと言う気持ちが、心の奥底にはあった。
「・・・デリカシーにかけるんだから。」
二人はようやく宿を見つけ出し、その中に入る。中は暖炉で火が赤々と燃え上がり、温かく保たれていた。まるで地獄から天国に上ったような感覚が二人を襲う。
そんな束の間の幸せもシーナの声で一気に吹き飛ぶ。
「えー!? 満席でシングルしか空いてない!?」
イリアは農作物が取れず、他の地域との取引が多い。宿も多くの商人が利用する。殊の外冬は、それら商人がもたらす食料によって、イリアは何とか生き延びる。そのため、宿は商人でいっぱいらしかった。
「・・・仕方ねぇよ。外で凍え死ぬよりはマシだ。」
クラウドがそのまま料金を支払い、部屋に入っていく。シーナも仕方なくその後を追う。
「今日は吹雪いてるし、もう遅いから情報収集は明日からにしようぜ。」
クラウドは外套を脱ぎ、それに付いた雪を払いながらシーナに言った。シーナもロングブーツを脱ぎ捨て、ベッドの上に寝転がっている。
「言っとくけど、ベッドは私のものだからね!」
「へいへい。お前さ、そうやって俺と二人きりでいるときみたいに振舞ってたほうが可愛いぜ? 外にいるとやたら堅苦しそうに振舞ってるけどよ。」
兄のその言葉にシーナはドキッとしてしまう。特にそれが、意識した相手だと尚更だ。
「やっぱりさっき抱きついてたのも下心があったんだな! 兄ちゃんてやっぱサイテー!」
「??」
クラウドは何故妹にサイテー呼ばわりされるのか分からなかった。思ったことを言ったまでなのに。・・・シーナは可愛いと言われるのが嫌いなのか?
「あー、わかった。悪かったよ。」
「・・・。」


185: 手強い名無しさん:05/12/29 10:27 ID:E1USl4sQ
「お前は可愛いんじゃないな。キレイなんだ。」
「!!・・・っ」
ベッドから飛び起きると、シーナは珍しくクラウドに拳骨を食らわした。
「バカ!」
シーナはそう言うとベッドに潜りこんでしまった。クラウドは何故拳骨までされるのかやはり理解できていないようだった。・・・俺なんか変な事言ったかなぁ。可愛い妹に可愛いって言って何が可笑しいのだろう・・・。
暫くそんな沈黙が続いた。クラウドはシーナに話しかけられず、ベッドも占領されて、仕方なく窓辺で暖炉の火に当たりながら外を見ていた。
セレナ達、しっかりやってるかなぁ・・・。まぁ親父達もいるし心配する事でもないか。きっと相手もおんなじこと考えてるだろうな。俺がヘマしてないかって・・・。俺って何でそう信用されてないんだろうなぁ・・・シーナにも殴られるし。はぁ・・・。
だが、俺だって親父に負けないぐらいの騎士になると誓ったんだ。そして、お袋の仇を取るんだ。ここの将軍が俺のお袋の両親・・・つまり俺のじいさんばあさんを殺したんだったな・・・。その仇、絶対にとってやるぜ。
暫く一人で色々考えていると、ふと声が聞こえてくることに気付いた。
「・・・兄ちゃん。」
シーナだった。まだ起きていたのか・・・?
「うん?」
「そんなところにいて寒くないの?」
「寒くないのって・・・。お前がベッド占領してるからここしか居場所ないじゃんか。なぁに、暖炉の前にいるから寒くはねぇよ。」
「・・・久しぶりに一緒に寝る?」
シーナのその言葉にクラウドは驚いた。何時もは寝相が悪いといって絶対に隣に寝させてくれないのに。
「お、いいのか? サンキュー。」
待ってましたと言わんばかりにベッドに飛び込んでくるクラウド。兄といい、姉といい、どうして二人とも遠慮がないのか。そう思いながらもシーナは話した。
「さっきはごめんね。」
「? 何が?」
「グーで殴ったでしょ?」
「あぁ、気にしてねぇよ。セレナのおかげで殴られ慣れてるよ。」
兄は優しかった。絶対に怒らないし。シーナはそんなクラウドが大好きだった。言葉には言いあらわせられないけど。いつもセレナには反抗するが、クラウドにはあまり反抗しなかった。やっぱり好きだから?でも、姉の事が嫌いと言う訳でもないし・・・むしろ姉の事も好きだった。
「ねぇねぇ。」
「うん?」
シーナのねぇねぇにいつもクラウドは、うん?で返していた。
「兄ちゃんは、好きな人とかいるの?」
「一杯いるぜ。セレナもお前も、アリスの姉貴も・・・西方の皆も好きだぜ。」
「・・・。そうじゃなくて! その・・・好きな女の人とか居るの?」
シーナはここまで聞いておきたかった。こんなこと、姉とか他の人がいるところで聞いたら茶化されてしまう。
「好きな女の子? うーん・・・。」
クラウドは暫く考えてみたが、該当する者はいなかった。というか、そんなこと今まで考えた事すらなかった。
シーナは自分と言って欲しくてたまらなかったが、やはり相手にその気はないようだった。でも、自分の気持ちも伝えておきたかった。身近な人であるだけに。
「私は・・・その・・・兄ちゃんの事好きだよ?」
シーナは勇気を振り絞っていってみた。シーナにとってクラウドは大好きな兄・・・いや大好きな人だった。さっき吹雪の中で抱かれたときのあの気持ちは、“兄に”抱かれたからではない・・・。そう思った。
「へ? そりゃ、俺だってお前の事大好きだぜ、可愛いもんな!」
クラウドはそのシーナの言葉を深読みせずに直ぐに笑顔で返した。クラウドにとって、シーナは妹だった。だから、その妹に好きだと言われる事も、あまり違和感がなかった。可愛いと言いながら頭を撫でてやる。


186: 手強い名無しさん:06/01/04 08:42 ID:gAExt6/c
しかし、その行動が逆にシーナを落胆させた。・・・やっぱりわかってもらえなかったか・・・。
異性として兄を見る自分と、妹として自分を見る兄。意識の差は大きかった。
「はぁ・・・やっぱり兄ちゃんは兄ちゃんだよ。」
「?? 何言ってんだ? シーナ、お前風に当りすぎて風邪でも引いたのか?」
そういいながら真剣な目で、シーナの額に手をやるクラウド。その真顔に、兄なりの優しさを汲み取ったが、やはりその、何というか期待と斜め上の方向の行動を取る兄に、呆れてしまう。
「そうみたい・・・。明日も早いし、もう寝るね。」
そう言うと、シーナは反対側を向いて頭から毛布を被ってしまった。・・・やっぱり兄ちゃんなんか嫌いだ。・・・兄ちゃんのバカ!

翌日から、二人は王都での情報収集をスタートした。
二人はまず王都の様子を観察してみる。北国だけあって氷雪で覆われているが、皆しっかりとした防寒具を羽織り、どの家もガッチリとしたレンガ造りであった。王都の生活水準はかなり高いようだ。それが、周りにある人間たちの村落との格差から余計に高く見える。
「こいつら良い生活していやがるな。」
クラウドがポツリと漏らす。この豊かさは、周りから搾取したものによって成り立っている。しかも封建領主と違い、彼らはただ奪うだけ。そして迫害までする。自分たちの生活が何によって成り立っているか考えもせずに。同族の蛮行に、クラウドはイライラがたまっていく。
「兄ちゃん、落ち着いてよ。そんなにカッカしても仕方ないよ。」
シーナが兄を嗜める。自分たちの目的はあくまで情報収集。どんな理由でアレ、ここで騒ぎを起こすわけには行かない。直情径行の激しい兄だ。綱で繋いででも見張っていなければと、兄を注意して見ていた。
しばらく町の様子を観察すると、今度は城の様子を見に行く。いくら同族には優しいといっても、そう簡単に近づけそうにはなかった。
「さぁ、どうしたものか・・・。」
「私の天馬で空中から観察しようよ。そうすればきっとうまく行くよ。」
シーナが天馬に跨りながら、兄に言った。確かに地上からでは警備が厳しいが、空中から眺めるのであれば、そこまで難しくないだろう。クラウドもそう思い、シーナの天馬に跨ろうとする。天馬はご主人以外で、しかも男のクラウドを乗せることを嫌がって暴れる。
太古の昔から、天馬乗りは女性だった。それは天馬が主人に恋をするからと言われていた。
「こらっ、セフィ、暴れないの! 私の兄ちゃんなんだから乗せてあげて!」
シーナの言葉に仕方なく羽を下ろす天馬。その目はクラウドのほうをじっと見ていた。まるで、“ご主人の命令だから仕方なく乗せてやるんだからな”と、言わんばかりに。
二人を乗せて天馬が宙に舞い上がる。クラウドにとっては初めての空中散歩だった。だから物珍しい、快適な空の旅になるはずだった。だが・・・ここはイリアの冬空だという事を忘れていた。
「ぶぇっくしゅん! うぅ・・・寒い!」
クラウドはあまりの寒さにくしゃみをしてしまう。ただでさえ上空の空気は冷たいのに、天馬はその風を切って空を飛ぶ。風に身を切られるような感覚に陥った。
「文句言わないの! 天馬騎士はいつもこんな風な寒空を飛ぶのよ。兄ちゃんも弱音を吐かないの!」
クラウドはようやく、昨日妹があんなに震えていた理由が分かった。そして、あんなになるまでずっと黙っていた妹の強さもその身で味わった。
しばらく飛んでいくと、城が見えてきた。中の様子を見ると、しっかり警備が行き届いている。兵がいたるところに配置されていたのである。
地上だけではなく、空中にも天馬騎士が飛び回り、死角が無い。これでは忍び込めそうに無い事は言うまでも無い。しかし、それではせっかく王都に忍び込んだ意味が無い。
二人は必死に忍び込めそうな外堀や警備の薄い場所を探す。そのことに夢中になっていたためか、二人は高速で近づいてくる物体に気づかなかった。接近してくる飛行兵への反応が遅れることは、飛行兵にとっては死を意味するといっても過言ではない。背後を取られれば挽回することは難しいのだ。
「おい、お前たち、ここで何をしている!?」
その声に二人は慌ててそちらを向く。そこにいたのは・・・。
「あー、お前はこの前の竜騎士!」
そこにいたのはレオンだった。レオンはクラウドの言い草に、二人を思い出した。
「何だ、あの時の傭兵か・・・。それがこんなところで何をしている? 返答によっては容赦せんぞ。」


187: 手強い名無しさん:06/01/04 08:42 ID:gAExt6/c
「私達、今エデッサに宿とって仕事探しているの。その合間にお城でも見物しようかと思って・・・。」
シーナが慌ててその場を取り繕う。その様子を見て、レオンは呆れた様に言った。
「やれやれ・・・傭兵がこんなご時世に観光気取りか。まったくおかしい世の中になったものだ。」
「そうだよな。俺もおかしいと思うぜ。」
クラウドのその言葉に、レオンが少し睨みながら訊ねた。
「・・・何がだ?」
シーナは慌てて兄の口を押さえようとしたが遅かった。彼は睨まれても動じることなく言い返した。
「こんな、差別と迫害が許される世界が、だよ。ここの統治者も何やってんだか。」
シーナはヒヤッとした。とうとう恐れていたことがおきてしまったのだ。相手はその統治者、マチルダの実子なのである。こんな発言が許されるわけがない。シーナは兄を殴った。
「いってー! 何するんだよ、シーナ。」
「バカね、劣悪種を差別して何が悪いのよ。おかしいのは兄ちゃんの頭よ! 竜騎士様。どうかお願いです。しっかり説教しておくので今回ばかりは・・・。」
「?? シーナ?」
シーナは何とかその場を取り繕うと必死だ。このままでは捕まってしまう。しかし、レオンから帰ってきた言葉は、シーナが予想していたものとは違った。
「・・・そうだな。俺もおかしいと思う。少しは骨のあるヤツもいるものだな。この頃は、保身を考えて傭兵と言う身分にすがっているだけのヤツが多いからな。」
「そう思っているのに、何でこんな酷い事をし続けているんだよ!」
クラウドが続けてレオンに言った。レオンは暫く目を瞑り考え込んでいたが、目を開けるとクラウドに言い返した。
「・・・俺だって変えたいと思っている。・・・だが・・・。」
レオンはまた目を瞑った。そして、横にいた部下に声をかけ、何か指図している。それが終ると、また二人に話しかけてきた。
「知り合いのよしみで案内人をつけてやる。王都の観光には都合がいいだろう。早く行け。ここにいると、不審な目で見られるぞ。」
そう言い残すと、レオンは漆黒の飛竜を駆り、城の方へと戻っていった。それを見届けると、案内人に抜擢された天馬騎士が愚痴るように言った。
「まったく・・・劣悪種の分際で私に指図だなんて・・・マチルダ様も何を考えていらっしゃるのかしら。」
その言葉にクラウドは何か引っかかるものを感じた。・・・劣悪種? あいつは人間?
「なぁ、姉ちゃん。あのレオンってヤツは人間なのかよ?」
「えぇ、そうよ。前の戦争での遺児らしいわ。どうやらマルテを扱う事のできる、選ばれた人間らしいわ。だけど、だからって劣悪種を自分の子として育てるなんて・・・。忠誠を誓うマチルダ様相手でも信じられないわ。私なら即殺してるわ。」
「へぇ・・・。 遺児を育てるなんて、実は根は優しい人なのか?・・・いや、でも俺の祖父母を殺したヤツだしな・・・。」
そんなクラウドに呆れながらシーナが教えてやる。
「兄ちゃんってホント人を良い様にしか見ないわね。神将器の力を使いたかったからに決まってるでしょ? つまり利用されてるだけ。」
「正解。あなたは少しは頭が切れるようね。まぁ、レオンはマチルダ様の事を本当の母親と信じ込んで、それ故に言いなりだけどね。劣悪種が優良種だと思い込んで同士を殺すなんて。あはは・・・流石劣悪種ね!」
その天馬騎士の言葉にクラウドは頭に血が上りそうになったが、何とか堪えて、その天馬騎士に言ってやった。
「俺らだって勝手に優良種だと思い込んで、勝手に劣悪種と決め込んだ相手を殺してるんだから変わりないぜ。」
「何?! それはメリアレーゼ様を侮辱しているのか!?」
シーナはまた雲行きが怪しくなってきたと思った。もう得るべき情報も得たし、これ以上王都に留まっていても危険が増すだけだ。・・・兄という危険要素と一緒に居る限り・・・。
「あ、急用を思い出しました。案内していただけるようでしたが残念です。それじゃあ!」
そう言うとシーナは天馬を全速力で飛ばした。相手は出だしに遅れて追いつけそうに無いと悟ったのか、途中まで追いかけてやめてしまった。スピードの乗った天馬に追いつくことは困難を極める事だ。



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